モバP「恋人は占い娘」 (12)
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藤居朋(19歳。占い好きのもさもさポニテ)
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小さな食器棚の小さな引き出しを開けると、未使用の割り箸が二十ほど入っている。
CGプロ所属の、私の担当するアイドルであり恋人でもある朋が、コンビニの弁当についてくるそれを集めたものだ。
彼女は私と二人でコンビニ弁当を食べる際、割り箸を使わず箸立てに刺さっている自分の箸を使う。
愛らしい薄桃色の、桜の模様で飾られた箸だ。
曰く、エコの為。
はぐらかしている感は否めない。
私と二人で、とわざわざ説明に入れたのには理由がある。
どうにも朋は、一人の時にはマイ箸ではなく割り箸で弁当を食べるらしいのだ。
何故かと問うと、あんたがいなかったから別にいいかと思って、という答えが返ってきた。
私がいないと何故いいのか、という問いははぐらかされてしまった。
朋が答えをはぐらかすのは、それを口にするのが躊躇われたり恥ずかしかったりする時だ。
私の平凡な発想力では一人で食事を摂る際の恥ずべき割り箸事情など何も思い浮かばず、疑問は増えるばかりである。
ある日、仕事で遅くなり日付が変わる頃家に帰ると、狭いリビングでテーブルに突っ伏し、朋が眠っていた。
私の帰宅に気付き、おかえり、いま何時、と顔を上げた彼女の頬には、服のしわがそのまま跡となって残っている。
十二時くらい、と答えながら私は、朋のボリュームのあるもさもさポニーテールをもさもさ触る。
大きなリボンが可愛らしく、もさもさしていて心地よい。
頭を振って遊ぶ手を払い、朋が立ち上がった。
冷蔵庫から弁当を二つ取り出し、買っといた、温めて食べましょ、とまだ少し眠そうな顔で言う。
「アイドルなのにコンビニで二人分の弁当買ったりして、店員さんに勘繰られるぞ」
冗談として茶化しながら言ってみる。
「そのアイドルと恋人関係にあってしかも半同棲状態のプロデューサーが、今更なに言うのよ」
はい、すみません。
温まったハンバーグ弁当を割り箸でつつきながら、今日一日のことについて朋に話を振ってみる。
今日の彼女はレッスンを休んで、渋谷の方にある占い好きの間では有名だというよく当たるらしい占い師を訪ねる予定だったはずだ。
何ヶ月も前から予約を入れていて、今朝早くにどきどきした様子で出掛けて行ったのをよく覚えている。
占いの内容は私も関心のあるところだ。
恋人の占い結果はやはり良いものであってほしいし、ここで仕事運などについて明るい結果が出ていれば、朋のやる気も大幅アップのはずだからである。
加えて、良いことを言われたとにこにこしながら自慢してくる朋はとても可愛い、ので、それが見たい。
しかし、わくわくしている私とは対照的に、朋の反応はあまり芳しくなかった。
ああ、うん、行ってきた、占い、と何やら歯切れ悪くそれだけ言って、薄桃色の箸でサラダを食べる作業に戻ってしまう。
どうなの、どうだったの、何て言われたの、仕事増えるって? と追求する勢いで先を促す。
仕事は、と朋がぽつりぽつり口を開く。
これから少し忙しくなるかもって。
そうか、じゃあ二人で頑張ろうな。
うん、頑張る。
で、他には?
他って?
恋愛とか、金運とか、そういうのはどうだった。
んー、そういうのは、まあ、いいじゃない。
はぐらかされた感じだ。
恥ずかしがっているようには見えないので、何か言い難い結果が出たのだろう。
ベッドに横になり天井を見上げ、翌日の仕事についてなどをぼんやりと考えていると、髪を乾かし終えた朋が静かに寝室へと入ってきた。
布団をめくり隣に身体を横たえ、同じように天井を見上げている。
もう寝る? と朋からの問いがあったので、まだ寝ない、と返す。
寝るか否かのやり取りは、情事に及ぶ際のサインである。
明日も仕事なので、本音を言えばゆったりと眠りたかった。
しかし、遅くまでリビングで私を待っていたことや夕飯時の様子を考えると、もしかしたら少しケアが必要かもしれないと思えたので、多少の頑張りを見せるつもりだ。
華奢な身体を抱き、唇を重ね肌を擦り合わせることで、徐々に素直な状態の朋を引き出すことができる。
普段なら引っ叩かれかねない性的な質問にも躊躇いなく答えるようになるし、いつもは恥ずかしがって流されてしまう愛の言葉にも、囁くように応えてくれる。
可愛い、愛おしい、と二つの言葉が頭に浮かんだ。
挿入時の少し苦しそうな表情も、シーツを掴んで快感に耐える姿も、短い単語を繰り返す艶やかな声も、こみ上げてきた頂きの感覚に顔を隠そうとする仕草も、全て愛おしい。
朋は可愛い。私は幸せ者だ。
行為が済んでからも暫くは、素直な朋ちゃん状態が持続する。
ここがケアのタイミングと私は、ハンバーグを食べながらした占いの話を蒸し返す。
リボンを解かれふわふわになった髪を撫でながら、良くないことを言われたのかと問う。
朋は少しだけ沈黙してから、私の胸に顔を埋めたまま、うん、と答えた。
訥々と語られる占いの館での出来事を、小さく相槌を打ちながら聞く。
内容をまとめるとどうにも、いま恋をしている相手が朋に不幸をもたらす可能性がある、というような事を言われたらしい。
それに対し、占いを生きる上での指針として頼ってきたこの少女は、かなりのショックを受けたようだ。
お高い壷とかを買わせる商法じゃないのか、とも思ったが、そういったアイテムは何も出てこなかったとのこと。
なんと言ったものかと迷ったので、とりあえず抱く腕の力を少しだけ強くしてみた。
んー、と朋がくすぐったそうな声を上げた。
話すことで多少は心が軽くなったのか、密着していた身体を離しこちらを見詰める彼女の表情に、悲壮のようなものは浮かんでいなかった。
何かを待っているように見えたので、細い肩を再び引き寄せ短く口づけを交わす。
「不幸になっても、好きだから」
縋りつくように私の首に腕を回し、朋が言った。
ここで、何が何でも幸せにしてやる、なんて気障な台詞を吐く奴は格好をつけ過ぎだと断言できる。
何故ならば朋からの、それはカッコつけ過ぎ、という困ったような、照れたようなコメントがあったからである。
しばらくして。割り箸のストックが三十に達した頃、中々に大きな仕事が舞い込んできた。
これから少し忙しくなる、という例の占いを現実のものとするべく頑張ってきた、朋の努力の賜物である。
その日の夜、ささやかながらお祝いとして、弁当と一緒に二つ入りのショートケーキと、少量のアルコールの類を購入し家に帰った。
本格的なお祝いは、その仕事が成功してからのご褒美としてとっておくらしい。
コンビニの袋には、割り箸が二膳入れられていた。
お箸のご利用はなどと聞かれた場合には一膳で良いと答えるようにしているが、何もコンタクトがなかったときは、わざわざ申し出るのも億劫なのでそのまま二膳もらっている。
コンビニから家まで少々距離を歩くこともあり、温めてもらっていはいない。
温めるのは家に帰ってからの私の仕事だ。
帰宅しスーツから動きやすい服装に着替え、手を洗い簡単に顔も洗いと色々している間に、朋がお手軽なサラダを用意してくれる。
台所に立つ朋のもさもさポニーテールをひとしきりもさもさしてから、さあ弁当を温めようと意気込む。
電子レンジに弁当を入れ、時間を設定しスタートボタン。
くるくると回る弁当を凝視していても眼力で素早く温まるなんてことはあり得ないため、待つ間、サラダをつまみ代わりに買った酒を飲むことにした。
グラスを二つ用意して氷とリキュールを入れ、炭酸水を注ぐ。
朋はまだ十九歳なので、彼女の分は世間様にばれないようこっそり作る。
サラダを持ってきた朋を隣に座らせ、お酒入ってるけど内緒だぞと注意を入れてから、乾杯、とグラスを合わせて鳴らす。
アルコールを摂取すると朋は、事の後ほどではないが、少しだけ素直な朋ちゃん状態になる。
まだ飲みはじめで既に酔いが回ったという事はないだろうが、酒の持つ雰囲気に中てられたのか、あたしね、と口を開いた。
朋が小学生の頃の友達に、やはり占い好きの子がいたらしい。
その子は割り箸を使うたびに、割り箸占いなるものを実行していたとのこと。
割り箸が綺麗に割れたらその日はいい日、綺麗に割れなかったら悪い日、という単純な占いだ。
その子とは中学で別れそれ以来会っていないらしいが、朋はその割り箸占いを教えてもらってから今日に至るまでずっと、割り箸を使う時はささやかな願いを込めて割ってきたのだと言う。
笑えるでしょ、と朋が言うので、ははは笑える、と返したら脇腹を肘で小突かれた。
何故攻撃された、と疑問を浮かべていたところに、電子レンジからの呼び出しがかかる。
まず先に温まった自分のハンバーグ弁当を取り出し、入れ代わりに朋のそぼろ弁当をレンジの中へ。
ハンバーグ弁当を手にテーブルへ戻り話の続きを促すが、割り箸についてはそれで終わりらしかった。
それが何故二人のときはマイ箸という事になるのか分からなかったので質問してみると、朋は少しだけ俯いた。
しばしの沈黙。またはぐらかすかなと思った頃、朋が恥ずかしそうに、だって、と言った。
「折角あんたと二人でいるのに、割り箸が上手く割れなかった、なんて理由でもやもやしながらご飯食べたくないじゃない」
朋の顔が赤みを帯びる。
朋は可愛いなぁ、抱き締めてあげたい。
好きにしたらとの事だったので、では失礼してと断ってからぎゅっとする。
電子レンジがぴろぴろと呼んでいたので、いちゃいちゃするのは中断し、そぼろ弁当を迎えにいく。
二人分の弁当を揃え、ビニールの包装を破り蓋を外し、割り箸を手に取る。
ねえ、と朋が声を上げた。
「今までありがとね。スカウトしてくれたのも、アイドルに育ててくれたのも。今度のステージに上がれるのだって、あんたがいたからレッスン頑張ってこれたんだもの」
全部朋の努力の成果だ、と返す。
うん、ありがと、と朋がはにかむ。
割り箸を袋から取り出すと、朋がまた、ねえ、と言った。
「これから何があっても、あんたがあたしを幸せにしてくれるんだよね?」
「そのつもりだけど」
そっか、じゃあ、と言って朋は、もう一膳あった割り箸を手に取る。
ついに使うのか、と見ている間に、彼女は袋から出した割り箸を両手で持ち、ぱきっ、と音を立てて割った。
綺麗には割れず片方が槍のように尖ってしまったが、朋はあははと笑っていた。
見てろよこうやるんだ、と私も自分の割り箸を割る。
中程で折れ倍も長さの違う箸とは言い難い箸が誕生し、全然だめじゃない、と朋がまた笑った。
以上です。
お誕生日なので朋ちゃんでした。お誕生日過ぎてるけどね。
折角のお誕生日なので妄想をぱんぱんに膨らませてみました。お誕生日昨日だけど。
何はともあれおめでとう朋ちゃん。過ぎてるけど。
読んで下さった方、ありがとうございました。
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