QB「風来のホムラ」 (29)
「……」スタスタ
「……」トコトコ
「………」テクテク
「………」ガサガサ
「…………そこ、木の根に気をつけて」ヒョィッ
「……ギュぶッ!?」ビターン
「もう、せっかく教えてあげたのに」
「うぅ……」グスッ
「ほら、さっさと立ちなさい。置いてっちゃうわよ?」
「僕はもう駄目だよ…。これ以上一歩も歩けない……」
「嘘おっしゃい。そんな口が聞けるってことはまだ元気な証拠よ」
「そんなこと言ったって、お腹が空いてもう動けないよ……」グゥー
「同情を誘おうったって無駄よ。私だってあなたと同じぐらい何日も何も食べてないんだから」クゥー
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「はぁ……、こんなひもじい思いをするんだったら、一昨日拾ったおにぎり、君に見つかる前に食べておくべきだったなぁ…」
「馬鹿なこと言うもんじゃないわよ。あんな腐ったおにぎり、いくらあなたでも食べられるわけ無いでしょう?」
「ふんだ、僕の鉄の胃袋を甘く見ないでもらいたいね。あのぐらい僕はへっちゃらだって言ったのに、君が勝手に捨てちゃってさ!」キュップイ
「はいはい。いつだったか私が捨てたおにぎりをこっそり食べて、その後ヒーヒー呻いていたのはどこの誰だったかしらね?」
「う……。そ、そんなこともあったけどさ、それでも飢え死にするよりはマシだろう?」
「お腹を壊して動けなくなってしまったら、それこそ本末転倒よ」
「………」
「―――……それに」
「―――? なんだいホムラ?」
「見なさいキュゥべえ。あそこになにか見えないかしら?」
「何言ってんだい、ホムラ。君、お腹が空き過ぎてとうとう幻覚でも見え始めてきたんじゃないのかい? どっちを向いても見渡す限り木ばっかりじゃ―――……うん? なんだい、アレは?」
「―――あそこに登ってる白い煙。私には、人家か何かから出てるように思えるんだけど、どうかしら?」
『―――とある砂漠の魔城で邪神の復活をなんとか食い止めたあと、僕と相棒はまた新たな冒険を求めて旅を続けていた』
『相棒というのは、彼女―――不思議や謎を求めて世界中を旅して回る、風来人のホムラのことだ』
『人形のように端整な顔立ち、長く艶やかな黒髪、そして常にクールな立ち振る舞いを崩さない彼女の姿は、身なりさえ整えればどこかの良家のご令嬢と間違われてもおかしくないだろう』
『尤も、付き合いの長い僕に言わせれば、古ぼけた三度笠と縞合羽を身に纏い、魔物相手に臆することなく剣を振るう今の姿の方がよっぽど似合っていると思うけどね』
『そして僕はといえば、そんな彼女の頼れる相棒、語りイタチのキュゥべえさ』
『……え? 全然イタチには見えないって? おかしなことを言うんだなぁ。雪のように白い毛皮と炎のように真っ赤な瞳、どこからどう見てもイタチそのものじゃないか』
『潜った修羅場は数知れず、救った人は星の数。そんな僕のこれまでの活躍についても軽く触れておきたいんだけど、それこそ語り始めたら日が暮れても終わらなそうだから、また次の機会にしておくよ』
『ん? 何だい、その疑いの眼差しは。――え? 胡散臭い? まったく、人の話にケチをつけるなんて、失敬だなぁ君たちは……』
『まあ、いいさ。信じるも信じないも、結局君たち次第だ。それに、少なくとも僕がいなかったら、ホムラが今日まで旅を続けられなかったことは確かだろうしね』キュップイ
『さて、話を戻そうか。そんなこんなでもう何年も一緒に旅を続けている僕たち二人(正確には一人と一匹だけど)は、ある日、人里離れた山の中で道に迷い、その末に小さな村に辿り着いた』
『そこで、僕たちはその村に言い伝えられている?ある伝説?と、それに自らの命を賭してでも挑もうとする?一人の若者?と出会ったんだ』
『……そう。これから話すのは、神によって定められた運命を拒み、自らの望む未来を掴み取ろうと必死に抗い立ち向かう―――』
『―――とある少女たちの物語さ』
風来のホムラ フォーチュンタワーと運命のダイス
―――イノリの里
QB「よ、ようやくたどり着いた……」ゼーハー
ホムラ「思ったよりも遠かったわね。流石に私も疲れたわ」ファサッ
QB「もう、なに他人事みたいにさらりと言ってるんだい! そもそも道に迷ったのは君のせいじゃないか、ホムラ!」
ホムラ「私の? そうだったかしら?」
QB「そうさ! 分かれ道の時に君が、『この杖が倒れた方向に行ってみましょう』だなんて適当なことを言ったのが原因だろう!?」
ホムラ「ああ……。でも、あれはしょうがないじゃない。何しろ看板がボッキリ折れてて、どちらが正しい道なのか全然分からなかったんだから」
QB「これが一度や二度の話じゃないから困ってるんじゃないか。まったく、風来人のくせに方向音痴だなんて、一体どういうことなんだい?」プンプン
ホムラ「……あなた、なんだかんだでまだ元気有り余ってるじゃない」
ホムラ「けど、こればっかりは生まれついてのものなんだから、私にもどうしようもないわよ。今までだってそうして旅を続けてきたわけだし……。そうでしょ、キュゥべぇ?」
QB「それにしたって限度ってものがあるよ! いったい何日森の中を彷徨ったことか……僕は今度こそ本当に死を覚悟したよ」
ホムラ「過ぎたことをグチグチとうるさい奴ね。結果的に人里まで辿り着けたんだからいいじゃないの」
QB「いーや、いい機会だから言わせてもらうけどね、ホムラ。そもそも最近の君には風来人としての自覚が足りてないよ! この前だって砂漠で行き倒れかけるわ、怪しげな像のせいで酷い目に合わせられるわ、散々な目に遭ったんだから……」クドクド
ホムラ(あれはそもそも私のせいじゃないっていうか、元はといえば……)
ホムラ「まあ、いいわ。お説教ならあとでいくらでも聞いてあげるから、まずはご飯が食べられそうな場所を探しましょう。もう私お腹ペコペコよ」スタスタ
QB「あ、ちょっと待っておくれよホムラ! 僕もご飯!」キュップイ
QB「」ガツガツムシャムシャバクバクモグモグ
ホムラ「ちょっとキュゥべえ、貴方がっつきすぎよ。少しは遠慮って言葉を知らないの?」
QB「誰のせいで何日もまともなご飯にありつけなかったと思ってるんだい!? それに、ここのご飯が美味しすぎるのがいけないのさ!」キュップイ
ホムラ「ご飯粒飛ばさないでったら。まったく、語りイタチってのはみんな貴方みたいに大食らいなのかしらね?」ハァ…
おばさん「あれま、お嬢ちゃんの連れはいい食いっぷりだねぇ。そんなに美味しそうに食べて貰えりゃこっちもつくり甲斐があるよ。はい、きんぴらとお芋の煮っ転がしだよ」コト
QB「うわあ、これも美味しそう! いただきまーす!」ハムッハフハフハフッ
ホムラ「こいつはホントに……。すみません、突然お邪魔してしまって、そのうえご飯まで頂いて……」
おばさん「なーに、気にしなさんな。こんな山奥の小さな村じゃあ、飯屋なんて洒落たのはなくってね。大したもんは用意できなかったけど、ゆっくりしてきなさいな」
ホムラ「そんな……。おかげさまで本当に助かりました」
おばさん「いいんだよ、このくらい。聞けばずいぶん遠いところから来たみたいだし……まだ若いのに風来人だなんて大変だねぇ」
ホムラ「いえ、私はこの生き方しか知りませんし、あちこち旅をするのも性にあっていますから」
おばさん「へぇ?、そんなもんなのかねぇ……」
QB「モグモグ……ゴクン! おばちゃん、おかわり!!」サッ
おばさん「はいはい、ちょっと待ってな。ほれ、お嬢ちゃんも遠慮せずにどんどんお食べ。せっかくの別嬪さんなんだから、しっかり食べて元気つけなきゃ。おかわりいるかい?」
ほむら「――……それじゃあ、多めでお願いします」
―――――
―――
―
QB「うー……、お腹いっぱい。もう何にも入らないや」ゲップィ
ホムラ「あれだけ食べれば当然よ。まったく、こっちの気も知らないでバクバクと……。おかげで顔から火が吹き出るかと思ったわ」
QB「ドラゴン草の節約になっていいことじゃないか。大体、ホムラだってちゃっかり三杯もおかわりしてたくせに」
ホムラ「六杯も食べていたあなたに比べれば可愛いものでしょ。というか、あなたの場合は量じゃなくて食べ方に問題があるのよ」
QB「あ?もう、うるさいなあ、全く。細かいというかなんというか……。いいかい、ホムラ。僕たちは何だい?」
ホムラ「問いかけが抽象的すぎて、返す言葉が絞りきれないのだけれど」
QB「さっき自分で言ってたじゃないか。風来人でしょ、ふ・う・ら・い・に・ん!」
ホムラ「それが何なのよ?」
QB「本当に何にも分かってないんだなぁ……」
QB「いいかい? 風の吹くまま気の向くまま、そして何よりも自由を愛するのが風来人の生き様ってものじゃないか。それを、何だい君は? やれ食べ過ぎだのご飯粒を飛ばすなだのって、細かいことをグチグチと……。もう少し物事を大きな物差しで測ったほうがいいんじゃないかな?」
ホムラ「あなた、さっきと言ってることが180度反転してるわよ。まったく、自覚が足りないのはどっちなんだか……」
おばさん「おや、すっかり元気になったみたいだね」
QB「あ、おばちゃん!」
ホムラ「こら! 失礼でしょ、キュウベぇ」
おばさん「なぁに、構いやしないさ。それより、おばちゃんの作ったご飯の味はどうだったかい?」
QB「こんなに美味しいご飯を食べたのは久しぶりだよ! 何せ、ホムラってば風来人のくせに料理の腕前がちっとも上がらないんだもの」
ホムラ「……、随分なことを言ってくれるわね」
QB「だって、ホムラの作る料理って串焼きとかごった煮鍋とか、大味なものばかりじゃないか」
ホムラ「あなたってホントに注文の多いヤツよね。いいじゃない、料理なんて火を通せば大抵の物は食べられるんだから」フン
QB「異議あり! 今の発言はおばちゃんの作ったごはんに対する冒涜だよ! あんなに美味しそうに食べてたくせに、ホムラはおばちゃんに申し訳ないと思わないのかい!?」
ホムラ「ぐっ……。そ、そういうことは一度でも自分で料理を作ってから言いなさいよ。誰がいつもあなたの分まで用意してると思って……」
おばさん「あっはっは! とにかく喜んでもらえたようでおばちゃんも嬉しいよ」ニコニコ
おばさん「おっと、忘れないうちにこれを渡しとこうかね」
QB「何だい、この包は? 中から美味しそうな匂いがするけど」
ホムラ「あの、これは……?」
おばさん「おばちゃん特製の五目おにぎりだよ。たあんと握ったから、お昼ご飯に持っていくといいよ」
QB「やった! 僕五目ご飯大好きなんだ!」キュップイ
ホムラ「……いいんですか? 見ず知らずの私たちに、こんなに良くして頂いて」
おばさん「なーに、人間身体が一番だからね。あたしにはよく分かんないけど、風来人てのは大変なんだろう?」
ホムラ「…………」
おばさん「だったら、遠慮なんかせずに、よく食べよく寝て、しっかり精をつけなきゃあね?」
ホムラ「……何から何まで、本当にありがとうございます」ペコッ
おばさん「あ、そうそう。その代わりと言っちゃあ何なんだけど、一つ頼み事をお願いしてもいいかい?」
ホムラ「ええ、勿論です。私たちに出来ることなら構いませんが……」
おばさん「そう難しいことじゃないさ。この漬物を村はずれの一軒家に届けて欲しいんだよ」ヒョイ
QB「あ、この漬物ってさっき僕たちが食べたやつかな?」
おばさん「ああ、そのとおりだよ。おばちゃんが漬けた特製の御新香さ。――実は、そこに住んでる子、昔からあんまり体が丈夫じゃなくてねぇ。最近は床に臥せることも多いみたいで……。それで、少しでも元気になってほしくて、おばちゃんが一生懸命漬けたやつなんだよ」
ホムラ「………」
QB「……ううぅ、どおりでこのお漬物、美味しかったわけだよ……」グスン
おばさん「やだねぇ、この子ったら。何も泣くことないじゃないか」ハハハ
QB「ぐすっ……、ホムラっ!!」
ホムラ「言われるまでもないわ。これだけ色々良くしてくれたんですもの、そのぐらい、お安い御用です」
おばさん「そう言ってもらえると助かるよ。本当はおばちゃんが自分で行くのが一番いいんだけど、生憎これから畑仕事に行かなくちゃなんなくてねぇ」
QB「大丈夫だよ、おばちゃん! こんなに美味しいお漬物だもん、その子だってきっと身体の具合がよくなるさ!!」
おばさん「……ふふっ。そう言ってもらえると、丹精込めて漬けた甲斐があったってもんさ」
QB「よし! それじゃあホムラ、善は急げだ。すぐにでもその子にこの美味しいお漬物を届けてあげようよ!」
ホムラ「ええ、そうね。こういうことは早いほうがいいだろうし」
おばさん「悪いねぇ。表の道を左にまっすぐ進めば、その家に着くからね」
ホムラ「分かりました。必ず届けてきます」
QB「ホムラー、モタモタしてると置いていっちゃうよー?」ピョコンピョコン
ホムラ「もう、キュウベぇったら少しは落ち着きなさいよ……。それじゃあ行ってきますね」
おばさん「よろしく頼んだよ〜」
ネェネェ、ホムラ ニモツオモクナイカイ? オニギリノツツミ ボクガモトウカ?
おばさん「まったく、元気な子達だねぇ。見てるこっちが嬉しくなるよ」
ケッコウヨ ドウセナラ ツボノヒトツモ モッテホシイワ……
おばさん「……本当、こんなことで少しでも元気になってくれれば、おばちゃんいくらでも漬けるんだけどねぇ……」
風来人らしいこと全くしてませんが、明日早いんで、今日はこの辺で。
続きは…いつになるかなぁ。
とりあえずストック書き溜めては少しずつ投下して行こうと思いますので、ゆるゆると見守っていただけると幸いです。
では、お目汚し失礼。
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