怜「ふなっきゅーやで」(33)
ほのぼの千里山を目指していきます(たまにシリアス)
怜「あー、暇やなぁ……」
怜「テレビでも見るか」ピッ
テレビ『では、ふなっしーの登場でーす!』
キャアアアアアア
怜「ん?」
ふなっしー『ふなっしーだなっしー!洗濯はまだなっしー!梨汁ブシャー!』
怜「なんやあれ……」
怜「………………」ジトーッ
数日後 千里山
泉「くっくっく……ツモ!2000、4000です!」
浩子「へぇ。泉、最近調子上げてきたやん。部内ランキングでも江口先輩を猛追してるし……」
泉「わかります?いやー、とうとうウチの中に眠る麻雀の才能が開花したというか、なんというか!あははは!」
浩子「……」
竜華「それより怜は大丈夫かなぁ。ウチ心配や……」
浩子「そういえば園城寺先輩の姿を見ませんね」
浩子「いつもなら清水谷部長と仲良く登場するのに」
竜華「うん……」
浩子「また病院ですか?」
竜華「いや、今日は定期検診の日やないし、怜も用事すませたらすぐ部室向かうって言ってたから……」
浩子「用事ねぇ……」
ガチャッ
浩子「ん?」
「おーっす。みんな待たせたな」
竜華「この声は……怜!?まったく、あんまり遅いから心配してたんやで――」
「やあ」
振り向くとそこにはフナQ(上半身だけ)の姿をした不気味ななにかが竜華に手を振っていた
竜華「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」
竜華「ば、化物や、浩子が化物になってしもーたあああああああああ!!
浩子「いや、私ここにいますから」
竜華「えっ、えっ?じゃあ、あれは一体……?」
「浩子やないでー。私や、園城寺怜ちゃんやでー」
竜華「と、怜ィ!?」
竜華「な、何で怜があんな化物になってしまったんや……」
「化物ちゃうわ!これはふなっきゅーや!!」
竜華「ひぃっ!」
浩子(そろそろツッコミ入れたほうがええんかな……)
ふなっきゅー「おい泉」
泉「な、何ですか?」
ふなっきゅー「ちょっと背中にあるファスナー下ろしてくれへん?」
ふなっきゅー「私一人じゃ、ちょっとここから出られそうにないわ」
泉「はあ」
ジジーッ
怜「ぷはぁ、やっぱシャバの空気が一番やな」
浩子「娑婆って……」
怜「それよりこれどうや?なかなかの力作やろ?」
泉「なんでしたっけ……それ」
怜「ふなっきゅーや、ふなっきゅー!これくらい一回で覚えんと社会に出た時に苦労するで!まったく……」
泉「す、すみません」
浩子「どうしてまたこんなものを作ろうと思ったんですかね……理解に苦しみます」
浩子「それに見たところ、モチーフはウチっぽいし……はっきりいって不気味以外のなんでもないですわ」
怜「おっと、ふなっきゅーの悪口はそこまでや!」
怜「これはな。私が部活から帰ってきて、寝る間を惜しみながら毎日コツコツと作り上げた努力の結晶なんやで」
怜「どや!」
竜華「す、すごいやん!怜にもこんな隠れた才能があったんやな!」
怜「えっへんっ!」
浩子(……よく見るとちょっと薄汚れとるし、パーツも不自然に取り付けられ取る。お世辞にも上手いとは言えないわ……)
泉「……」ジーッ
怜「ほら、泉もこのふなっきゅーの出来栄えの良さに惚れ惚れしとるで!」
泉「いや、これ……ふなっしーのパクリじゃないですか?」
泉「名前はもちろん、ちょっと雑に出来てるところとかまるでふなっしーそのものですやん!」
竜華「ねえ、浩子。ふなっしーって何?」
浩子「今流行りのゆるキャラですよ、ゆるキャラ」
竜華「ゆるキャラ?」
浩子「はい。落書きがそのまま飛び出したような雑でゆるいデザインと、」
浩子「ゆるキャラらしくない俊敏で不気味な動きが特徴の船橋市非公認キャラクターです」
竜華「へー」
浩子「You Tubeとかで動画も上げているみたいですね。見てみます?」
竜華「うん、見たい!」
浩子「ちょっと待って下さい……はい、これです」
竜華「えっと……あはは、なんやこれ。かわいいやん!」
泉「うん、やっぱりこれふなっしーのパクリですわ」
泉「ふなっしーに船久保先輩のパーツを取り付けただけのパチモノですよ!」
怜「うるさいわい!」
怜「こんなのパクリでもなんでもええんじゃ!」
怜「別に私はこれでお金を稼ぐわけじゃないし、ただの自己満足なんじゃ!」
泉「そ、そうですか。それなら別にいいんですが……」
怜「それよりセーラはどこや?」
怜「セーラならこういうの好きそうやから、気に入ってくれると思ったのに」
竜華「セーラなら体調不良で今日は部活休みやで」
怜「えっ」
帰り道
ふなっきゅー「……」
ふなっきゅー「…………はぁ」
泉「園城寺先輩、あれからふなっきゅーに籠ったままですね……」
浩子「おそらく江口先輩にふなっきゅーを見せびらかすためだけに、」
浩子「警察に通報されるリスクを冒してまでわざわざ部室にやってきたのに、」
浩子「その相手がその日たまたま不在で、」
浩子「数日かけて作った自信作を自慢できないと知ったらショックを隠しきれなかったんでしょう」
泉「たしかによく通報されませんでしたよね」
泉「今でさえすれ違う通行人は私達を不審な目で見ていくというのに……」
浩子「ホントはふなっきゅーを部室で保管出来ればいいんですけど、千里山はそういうとこ厳しいからなぁ……」
泉「園城寺先輩、ちょっとかわいそうですね……」
竜華「怜……」
ふなっきゅー「あう」ガツン
浩子「あ、段差に躓いた」
ふなっきゅー「いたたた……」
ゴロゴロゴロゴロ
浩子「ってやばい!園城寺先輩が車道に飛び出した!」
泉「あ、危ない!!逃げて下さい!!」
プップー!
ふなっきゅー「あ、あれ?前が見えへん……」オロオロ
竜華「アカン!!」
ダッ
浩子「清水谷部長!?」
竜華「怜!伏せて!!」
ふなっきゅー「えっ」
キキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
ドンガラガッシャーン!!
竜華「………………」
ふなっきゅー「………………」
泉「せ、先輩……?」
浩子「くそ!誰か、救急車!救急車を呼んで下さい!!」
浩子「大丈夫ですか?しっかりして下さい!」
浩子「清水谷部長!園城寺先輩!!」
竜華「………………」
ふなっきゅー「………………」
泉「い、いや……こんなんいやや……」
泉「いやああああああああああああああああああああああああ!!」
……………………
…………
……
ここまで
病院
浩子「……」
泉「……」
タタタッ
憩「はぁはぁ……ふ、二人とも、病室来て!」
憩「園城寺さん…園城寺さんの意識がもどったで!!」
浩子「!!」
泉「ホ、ホンマですか!?」
憩「うん!ほら、ウチについてきて!」
泉「は、はい!」
怜「……」ボーッ
ガラッ
泉「先輩!」
浩子「大丈夫ですか!園城寺先輩!」
怜「……浩子」
怜「それに泉……」
泉「うっ、ううう……うわあああああああああああん!!」
泉「せんぱいせんぱいせんぱああああああああああい!!」
泉「ぐすっ……よかった……無事で本当によかった……!」
浩子「い、いきなり喋っても大丈夫なんですか?安静にしてたほうがいいんじゃ……」
憩「そうやね。さっきまで意識不明やったし」
憩「極力大声を出さないようにして、脳を刺激させないようお願いします」
泉「あっ、スミマセン……」バッ
怜「……」
憩「えーゴホン。園城寺さん、大丈夫ですかー?大丈夫なら自分の名前を言ってもらってもよろしいですかー?」」
怜「……園城寺怜やけど…アンタは……?」
憩(うん、大丈夫そうやね)
憩「ウチ、ここの病院で働いてる荒川憩っていいますー」
憩「さっき交通事故があってね」
憩「園城寺さん、この病院まで運ばれてきたんやけど……そのことについて憶えてますか?」
怜「…………」
怜(……病院……事故……車……?)
怜「そや…ウチ、車に轢かれて……」
憩「そうです。でもあなた達も運がいいですねー」
憩「減速していたとはいえ、あの速度の車と衝突すれば、」
憩「骨折の一つや二つくらいしててもおかしくないのに……」
憩「おそらくあの変な着ぐるみがクッションの役割を果たしたからやと思うんやけど」
怜「…………」
怜(あなた……たち……?)
怜(あなたたち……私と、もう一人……りゅう…か……?)
怜「!!」
怜「せ、せや!竜華は!?竜華はどこいったんや!?」ガバッ
憩「お、落ち着いて下さい!急に暴れちゃ――」
怜「落ち着いてられるか!ウチのせいで竜華は、竜華は――うぐっ」ズキッ
憩「ほら、言わんこっちゃない……」
憩「いくら着ぐるみで衝撃を和らげたとはいえ、全身をコンクリートに打ちつけられたんやからそんな激しく動いちゃ……」
怜「う、うるさいわ……それで…それで竜華は……」
憩「安心してください。清水谷さんならあなたより軽傷ですよ」
怜「軽…傷……?」
憩「はい。清水谷さんも搬送されてからはなかなか意識が回復しなかったんですが、」
憩「園城寺さんが目覚める1時間くらい前にケロっと復活して、今は別室で大人しくしています」
憩「二人が緊急搬送された時、目立った外傷はなかったんやけど、」
憩「いつまで経っても意識が戻らないからウチらも心配してたんですよ」
憩「でもよかったですねー。無事二人とも意識回復したようやし、あとはもう一度精密検査をして異常がなければ無事退院です!」
怜「そ、そっか……」
泉「よかったですね、園城寺先輩」
憩「あ、でも園城寺さんはもう少し様子見た方がいいかも」
憩「さっきも言いましたが、全身打ち身しているので痛みが引くまで安静にしてないといけませんし」
怜「……」
憩「いやー、でもその着ぐるみには感謝しないとやね!」
憩「それなかったら、たぶん今より悲惨な事になってましたよ」
憩「清水谷さんが軽傷だったのも、園城寺さんが彼女の下敷きになってくれた――やなくて受け止めてくれたからやし」
浩子(その着ぐるみが原因で車と衝突したんやけどな)
泉「そういえばふなっきゅーの出来栄えはイマイチやったけど、外側はしっかりした作りになってたし、内側も緩衝材が敷き詰められてましたもんね」
泉「不幸中の幸い……になるんですか、これ?」
浩子「……まあ、二人とも無事で安心しましたわ」
怜「心配掛けてゴメンな。浩子、泉」
浩子「ホンマですわ!もう2度とあんな事件起こさんといて下さいよ!」
怜「ハイ……反省してます……」
憩「何やようわからんけど、今日はこれでおしまいにしときましょう!」
憩「園城寺さんも意識が戻ったとはいえ、まだ何が起こるかわかりませんから……」
浩子「……そうですね。外も真っ暗ですし」
浩子「私と泉は清水谷部長に園城寺先輩の意識が回復したと伝えてから帰るとしますわ」
泉「園城寺先輩、早く退院できるといいですね!」
怜「……うん」
浩子「では」
ガラッ
憩「お友達行っちゃいましたね」
怜「……」
憩「じゃあウチも一度ナースステーションに戻るんで、何かありましたらコールボタン押して呼んで下さい」
怜「あっ、ちょっと待って」
憩「?」
怜「……竜華に会いたい」
憩「だーめーでーす!今日はもう遅いんで大人しくしててください」
怜「でも私、竜華のことが心配で心配で……」
憩「はいはい。明日ゆっくりお話できる時間をとってあげますから、それまで我慢して下さい」
怜「うぅ……」
憩(これだけ元気があれば大丈夫そうやね)
怜「……はぁ」ポフッ
怜(そっか。竜華は無事やったんか……)
怜「…………」
怜(私は…私は、竜華に会いたいって言ったけど)
怜(竜華はどう思っとるんやろ……)
怜(私のせいで竜華を巻き込んだわけやし……)
怜(やっぱり怨んどるんかな……)
怜(ゴメン…ゴメンな、竜華……)
怜(ホントは今すぐ会いに行って、竜華に謝らんといかんのに……)
怜「…………」
怜「……………………」
怜「………………………………」
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