くーちゃん「しょくぶつさんとおはなししてたらびょういんにつれていかれました」 (425)

TRACK1 トンネル

えと、どこから喋りましょかね。悩ましいです。とても悩ましいです。
 
喋りたいこと、山ほどあるです。

ハナちゃんとの大冒険の話、いきなり初めるのもよいのですが、

喋りたいことを、ただただ並べるだけだと、何か違う気します。

くーちゃんはお話を上手に伝えるの、苦手です。言葉、人より足りないときがあります。

でも、せっかくの場です。喋りたいことたくさんあります。だから、喋ります。


決めました。

こんな時は時系列に沿って、初めからお話するのが一番よいです。

となると、くーちゃんがとてもとても小さかったころから、お話することになります。

そこからお話しないと、多分うまく伝わらないです。

だいじょぶ、でしょか? ありがとございます。では、お話します。


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幼稚園

女児1「せんせい」

先生「どうしたの?」

女児「あまのさん、なんかへん」

先生「へん?

中庭

女児1「ね? へんでしょ?」

女児2「チーリップの横に寝そべったまま、動かないの」

女児3「しかもね、せんせい」

先生「…あまのさーん、どうかした?」

くーちゃん「・・・・・・・」

くーちゃん「ぎゃあふぁんfぱおあにgkrぱ ♪ ♪あrげんrgpqmpらかあcjら@rけおあ」

女児1「…ね、へんでしょ」

先生「あまのさん! あまのさん!!」

くーちゃん「……はっ!」

女児2「あ、おきた」

先生「…あまのさん、今のは、なに?」

くーちゃん「あ、え、あ」

女児1「…こわい…」

くーちゃん「うた、ってました」

先生「…うた?」

くーちゃん「とんねるのなかから、きこえてきたです」

くーちゃん「しょくぶつさんの、ちかくに、よって、目、とじると」

くーちゃん「とんねるにいけるんです。きっと、しょくぶつさんのせかいなんです」

くーちゃん「ふしぎなにおいと、ふしぎなおとと、いろんなきもちがながれこんできて」

くーちゃん「それで、うたもきこえるんです」

くーちゃん「だから、今日のチューリップさんは、こんなうた、うたってました」

くーちゃん「ありpがjr:えぴじぇkmぽかをkヴぉkりあえg♪♪♪」

女児1「…」

女児2「…きもちわるい」

女児3「…こわっ」

先生「…いい? みなさん」

先生「あまのさんには、あまのさんの時間があるの」

先生「それぞれ、楽しい時間の過ごし方は、ばらばらなものなの」

先生「だからみなさん、あまのさんを否定しちゃ、だめですよ」

女児1・2・3「はーい」

くーちゃん(…うれしいです、わかってくれたです)

くーちゃん(せんせい、いいひとです)

くーちゃん「せんせい、わかってくれたですか」

先生「あまのさん」

くーちゃん「はい!」

先生「あまのさん、ともだちがいなくて、さみしいのね」

くーちゃん「」

メンタルクリニック

お母さん「そういうことがありまして…」

お母さん「この子は、大丈夫なんですか?」

医師「…いろいろな、検査をさせていただきました」

医師「あまのそらちゃんは」

くーちゃん「くーちゃんです」

医師「ああ、ごめんね、くーちゃん」

くーちゃん「きにしなくてよいです。かんじには、いろいろな読み方、ありますから」

医師「それで、くーちゃんのことなのですが」

医師「知能には特別問題はありません。やや、いろいろな項目にばらつきはありますが」

医師「いわゆる、個性の範囲内でしょう」

お母さん「…じゃあ、この子は、普通なんですね?」

医師「ええ、普通の子です」

医師「空想が、好きな、普通の子です」

くーちゃん「…………」

くーちゃん「くうそう?」

くーちゃん「おいしゃさん、くうそうとは、なんですか?」

医師「そうだね、現実にはない、くーちゃんの頭の中での」

くーちゃん「うそ、とゆうことですか?」

医師「え、いや、その」

くーちゃん「うそ、ちがいます」

くーちゃん「うそじゃないです」

くーちゃん「うそじゃないです」

くーちゃん「うそじゃないですうそじゃないですうそじゃないです」

くーちゃん「うそじゃないです!!!!! しょくぶつさんのトンネル! ほんとうにあるんです!」

くーちゃん「チューリップさんのうた! ほんとうにきこえたんです!!!」

くーちゃん「みんながくれるみずが、おいしいって、言ってたんです!!!」

くーちゃん「うそじゃないです! うそじゃないです! うそじゃないです!!!!!」

バタンバタン!!

ガシャン!!

お母さん「くーちゃん! やめて!!」

医師「ちょ、看護師さん! おさえて! おさえて!!」

看護師「はい!!!!」

その日の夜

くーちゃん(……いつのまにかえったんでしょうか)

くーちゃん(ずいぶん、つかれました)

くーちゃん(…そうでした、けっこう、あばれたんでした…)

くーちゃん(…いま、なんじでしょうか…)

くーちゃん(あれ、リビング、でんき、ついてます)

リビング

ソッ

くーちゃん「おかあさ…」

お母さん「…本当…あの子、なんなの…」

くーちゃん(…だれかとでんわしてます)

お母さん「…ほんと、あの子、むりかも…)

お母さん「…もっと、あの子がもっと…」

お母さん「…ふつうだったら、くらせたのに…」

くーちゃん「」

くーちゃん(…しょくぶつさんのトンネルを、かんじて)

くーちゃん(しょくぶつさんのトンネルできこえたうたをうたうの)

くーちゃん(すごく、だいすきな、大切な時間だったんですけど)

くーちゃん(しょくぶつさんのトンネルに、入るの)

くーちゃん(ふつうのことじゃ、なかったんですね)

くーちゃん(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

くーちゃん「きめました」

翌朝

くーちゃん「おはようございます。おかあさん」

お母さん「あら、くーちゃん。おはよう」

お母さん「昨日は色々あって、疲れちゃってたのね」

くーちゃん「おかあさん」

お母さん「なに? くーちゃん」

くーちゃん「くーちゃん、ふつうになります」

幼稚園

くーちゃん「あの」

女児1「…なに?」

くーちゃん「いっしょに、あそびませんか?」

女児2「…きょうは、しょくぶつの、トンネル、いかなくていいの?」

くーちゃん「……いいです」

くーちゃん「みんなとあそぶのが、ふつうのことですから」

しょくぶつさんが、こっちをみます

なんできょうはあそんでくれないのと、いってきます

ごめんなさい。ごめんなさい。

たいせつなともだちを

くーちゃんは、その日、うしないました。

今日はここまで。

また明日ノシ

病院

医師「で、最近はそのいわゆるトンネルに入るのをやめて」

医師「お友達と普通に遊んでいる、と」

お母さん「ええ、ほんと。よかったです」

医師「まあ、IQ自体は高かったですからね」

くーちゃん「IQ…」

くーちゃん「くーちゃんは、てんさいてきな、ずのうをもってるとゆうことですか?」

お母さん「…ちょっと、幼くないですか?」

医師「…まあ、個性でしょう」

幼稚園

園児1「セーラームーンごっこしよ!」

園児2「しよしよ!」

くーちゃん「……えっと」

くーちゃん「や、やります」

くーちゃん「つ、つきにかわってー」

くーちゃん(なにがたのしいか、わかりません)

くーちゃん(なんで、くーちゃんはくーちゃんなのに)

くーちゃん(じぶんいがいのものに、なるんですかね)

くーちゃん(まるで、みずのなかにいるみたいです)

夜。布団の中

くーちゃん(…つかれました)

くーちゃん(…うたいたいです)

くーちゃん(あのときの、しょくぶつさんの、とんねるできいた、歌)

くーちゃん(うたいたいです)

くーちゃん(ずっとおはなししてないです)

くーちゃん(ちょっとくらいは、いいはずです)

「歌うな」

くーちゃん「」

くーちゃん(なんで、だれもいないのに)

くーちゃん(こえが、きこえるですか)

「歌うな」

「悲しませるぞ」

「お母さんを苦しめるのか」

「普通じゃない」

「病気だ、病気だ」

「お前は変だ」

「変なお前は」

「「「「「お母さんを、苦しめるぞ」」」」」」

くーちゃん(・・・・・・・・・・・)

くーちゃん(こわいです)

翌朝

お母さん「どうしたの、くーちゃん」

お母さん「目の下のクマ、ひどいけど」

くーちゃん「…なんでもないです」

くーちゃん「ちょっと、うるさかっただけです」

お母さん「うるさかった?」

くーちゃん「なんでもないです」

くーちゃん(とても大きな声でした)

くーちゃん(テレビの音を間違ってあげすぎた時の何倍も何倍も、大きかったです)

くーちゃん(うたうのやめたら、とまったとゆうことは)

くーちゃん(きっと、神様か何かに、くーちゃんは歌っちゃいけないって言われてるんです)

くーちゃん(……しょくぶつさんのうた、うたわないのが)

くーちゃん(ふつうなくらし、なんですね)

くーちゃん(なれるしか、ないですね)

TRACK2 校長先生

小学校の校門

くーちゃん(…今日も一日、おわりました)

くーちゃん(…まるで、みずのなかにいるみたいです)

くーちゃん(まえより、苦しいのはましですけど)

くーちゃん(みずのなかにいるの、慣れただけですね)

ソヨソヨ

くーちゃん「あ」

くーちゃん「タンポポさん」

きょろきょろ

くーちゃん(だれも、いません)

くーちゃん(こっそり、手とか、ふってもよいでしょうか)

くーちゃん(あ、でも)

くーちゃん(タンポポさん、へんにおもわないでしょうか)

くーちゃん(手なんかふったら)

くーちゃん(今までお話してなかったの、なんだったのって)

くーちゃん(タンポポさん、怒りますかね…)

手を、あげようとして、またおろす。

それをくりかえしてる、ときでした。

校長先生「おや」

校長先生「天野さんじゃないですか」

くーちゃん(どうしましょう)

くーちゃん(どうしましょうどうしましょうどうしましょう)

くーちゃん(ふつうじゃないって、おもわれます。へんっておもわれます)

くーちゃん(はしってにげましょうか、いやでも)

くーちゃん(はしってにげたら、よけいへんでしょうか)

校長先生「天野さん」

バクバクバクバクバクバク

くーちゃん(しんぞう、いたいです)

くーちゃん(どうか、このままどこか行ってください)

くーちゃん(くーちゃんの変なところを見ないでください。聞かないでください)

校長先生「お花、好きですか?」

くーちゃん「…え?」

柔らかくて、優しい口調でした。

くーちゃんに対して、ああしてやろうとか、こうしてやろうとか

そういう気持ちは感じなかったです。

くーちゃん(…おちついて、きました)

くーちゃん(しんぞう、ゆっくりになりました)

くーちゃん「す、すき、です」
 
校長先生「そうですか、それはいい」

くーちゃん(いい)

くーちゃん(くーちゃんの、すきな言葉です)

くーちゃん(大きくて、温かくて、優しい感じがしました)


校長先生「よかったら、これ、いっしょに運んでくれますか?」

くーちゃん「あ!!!!!」

くーちゃん「いっぱいです! いっぱい、お花さん!」

くーちゃん(ひさしぶりに、ほんとうのこと、言いました)

校長先生「一人じゃ持ちきれないんですよ」

くーちゃん「もちます、てつだいます」

くーちゃん「どこ、まではこぶ、ですか?」

校長先生「校長先生の秘密の場所ですよ」

体育館裏

くーちゃん(たくさん、苔さんとか、雑草さんとか、生えてます)

くーちゃん(森の奥に向かってるみたいです)

くーちゃん「あ」

くーちゃん「きりかぶ、です」

校長先生「ええ、そうです。切り株です」

くーちゃん「おおきいです」

くーちゃん「学校にあるいす、倍以上大きくしたくらいあります)

校長先生「ええ、その通り」

校長先生「とても、大きな木でした」

校長先生「つい、昨日切りました。ずいぶんと、伸びてましたからね」

校長先生「では、天野さん」

校長先生「このあたりに、花壇を作りたいので」

校長先生「一緒に植えるのを…」

くーちゃん「」

校長先生「天野さん?」


くーちゃん「もう、いないんですね」

くーちゃん「切っちゃったんですね」

校長先生「ええ、切ってしまいました」

くーちゃん(なんだか)

くーちゃん(とても大切なお友達と、お別れした気分です)

両手に持っていたお花を地面に置いて

くーちゃんは切り株さんのところへ行きました。

ソッ

ナデナデ

くーちゃん(つるつるしてます、氷みたいです)

ピタッ

くーちゃんは、切り株さんの切り口に、顔をくっつけました。

とても近い距離で、鼻の中に木の優しい香りが入ってきます。

くーちゃん「スーッ・・・・・・・はーっ・・・・・・・」

くーちゃん(トンネルにいくの、もうしないってきめてたんですけどね)

「やめろ」

くーちゃん(またきこえてきました)

「きもちわるい」

「ふつうじゃない」

「こっちのせかいに、いくんじゃない」

「人の世界に、戻れないぞ」

くーちゃん(…やっぱり、うるさいです…)

くーちゃん(でも、この切り株さんのせかい、感じたいです)

校長先生「天野さん?」

くーちゃん「・・・・・・・・・・」

くーちゃん(静かになりました)

 

くーちゃん(今なら、むかしみたいに)

くーちゃん(あのトンネル、感じられます)

目を閉じて、切られてしまった切り株さんの奥に、

くーちゃんは沈んでゆきます。

とても、暗くて、静かな場所です。

ずいぶんと久しぶりのトンネルでした。

くーちゃん(…なんだか声が、聞こえます)

くーちゃん(でも、小さいです。消えてしまいそうです)

くーちゃん(よく、きいてみます)

声「あははっ! あははっ!」

くーちゃん(……これは)

くーちゃん(子どもたちの、声ですね)

くーちゃん(たくさんの笑い声です)

くーちゃん(けんかする声も、聞こえます)

くーちゃん(…あ)

くーちゃん(悲しんでいる声も、きこえますね)

ビデオの早回しみたいに、声はどんどん過ぎ去っていきます。

暗くて静かな不思議な世界に、微かに温もりの名残があったんです。

それは、きっと、この切られてしまった

木の温もりだと思いました。



くーちゃん(でも、この方はもういないんですね)

くーちゃん(切られてしまったんですね)

くーちゃん(温かいんですけど)

くーちゃん(生きている植物さんが伝えてくれる)

くーちゃん(音や息吹が、ないです)

校長先生「……天野さん、大丈夫ですか?」

くーちゃん「・・・・・・・おはなししたかったです」

校長先生「…お話?」

どういうことなのか説明するより前に

トンネルにいるくーちゃんの胸の奥に、

すごくすごく、熱い何かが流れ込んできます。

でも、嫌な熱さじゃなかったです。

まるで、ありがとう、ありがとうって、言われてるみたいでした。

くーちゃん「校長先生」

校長先生「はい」

くーちゃん「しゃべりたいことがあります」

校長先生「どうぞ」

くーちゃん「もしかして、おともだちだったですか?」

校長先生「お友達?」

くーちゃん「おともだち、だったんじゃ、ないですか?」

くーちゃん「この、切られた木と、校長先生は」

くーちゃん「おともだちだった、気がしました」

校長先生「…どうして、そう思ったんですか?」

くーちゃん「別に、りゆうは、ないです」

くーちゃん「この切り株さんが、校長先生との思い出を、人間の言葉で、言ってたわけじゃ、ないので」

くーちゃん「でも」

くーちゃん「この切り株さんは」

くーちゃん「何年も、何十年も、ずっとずっと」

くーちゃん「この学校の、子どもたちを見守っていて、大好きだったって」

くーちゃん「そんな気が、したんです」

校長先生「友達…そうかも、しれません」

校長先生「……私の、一方的な思いかもしれませんが」

校長先生「私は、この木を大切な友達だと、思っていました」

校長先生「子どものころから生えていた木は、私の、大切な友達でした」

くーちゃん「……ごめんなさい」

校長先生「なぜ、あやまるのですか?」

くーちゃん「ごめんなさい、ごめんなさい」

くーちゃん「切られる前に、この方と出会えたら」

くーちゃん「おともだちになれたかもしれないのに」

くーちゃん「くーちゃんはしょくぶつさんとのお話をやめてたんです」

くーちゃん「耳をふさいで、目を閉じて、『ふつうの子』を目指してたんです」

くーちゃん「ごめんなさい、ごめんなさい」

くーちゃん「ずっと無視して、ごめんなさい」

くーちゃん「くーちゃんは、くーちゃんは、ふつうじゃないと、だめなんだって、思ってたです」

くーちゃん「でも、むりです」

くーちゃん「聞こえないふりするの『ふつうの子』なら」

くーちゃん「くーちゃんは、『ふつうの子』じゃなくて、いいです」

♪♪♪♪♪

くーちゃん「あ」

くーちゃん「きこえて、きました」

 

くーちゃんが意識をトンネルにゆだねてると、たくさんの、音が飛び込んできました。

他の植物さんとも、つながりができたのかもしれません。

その音は、歌みたいでした。

きっと、切り株さんへ、植えられたお花さんたちが歌ってくれたのかもしれません。
 
変だと思われてもよかったです。お花さんたちが歌っているんだから。

くーちゃんだって歌ってもよいと、思いました。

だから、歌いました。

夕方

校長先生「…ありがとう、天野さん」

校長先生「素敵な歌でした」

くーちゃん「え」

くーちゃん「よいですか? くーちゃん、うたっても、よいですか?」

校長先生「ええ、もちろん」

校長先生「天野さんにしか歌えない、才能です。植物と、対話ができるのですから」

校長先生「その才能を、絶対に私は、いや。この学校は無駄にしません。約束します」

くーちゃん「……」

くーちゃん「ありがとうございます」

その約束が

くーちゃんの未来を、大きく変えてしまいました。



全校集会

校長先生「えー、生徒の皆さん。今日は校長先生が体験した」

校長先生「素晴らしいお話をしましょう」

校長先生「この学校には、植物とお話ができる」

校長先生「すごい、生徒がいたんです」

くーちゃん「」

すいません長くなりました。

また明日ノシ

明日書きます

病院

医師「それで、校長先生に、くーちゃんのトンネルを感じられる話や」

医師「そのトンネルで植物さんの思いを知れる話を晒された、と」

くーちゃん「…はい」

医師「で、生徒たちから」

くーちゃん「はい」

くーちゃん「絶賛されました」

医師「」

学校

生徒1「天野さん! 植物と話せるの!」

生徒2「すごいすごい!」

生徒3「神様みたい!」

くーちゃん「…そう、ですかね…」

くーちゃん(幼稚園の頃は、へんだとか気持ち悪いとか、言われてたはずなんですけど)

くーちゃん(校長先生みたいな、すごい人が言ったら)

くーちゃん(みんな信じるんですね)

くーちゃん(よくわからないです、人間って)

生徒1「ねえねえ! やってみせてよ!」

生徒2「この間育てたアサガオとか!」

生徒3「それに、アサガオの歌とか聞いて歌えるんでしょ!」

生徒4「聴きたい聴きたい!!」

くーちゃん「……」

くーちゃん(でも期待されるの、悪い気分じゃないですね)

くーちゃん「やりましょか」

校庭

生徒1「で、どうやるの?」

くーちゃん「えと」

くーちゃん「こんなかんじで、頬、植物さんのとこにくっつけて」

ペタ

くーちゃん「目、とじます」

くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん(暗くて、青白くて、でも優しい光のあるトンネルです)

くーちゃん(きれいなとこです)

くーちゃん(あ、みえます)

くーちゃん(みんなで種を植えて、大きくなれって、いってます)

くーちゃん(アサガオさん、喜んでます)

くーちゃん(水、おいしいって、いってます)

くーちゃん(アサガオさん、わくわくしてます)

くーちゃん(わくわくが、コップに水を注ぐみたいに)

くーちゃん(とぽとぽたまっていきます)

くーちゃん(あ、きこえました)

くーちゃん(うたです)

くーちゃん「あwwふぃhrvじwwkごえこgぽpらwwgrじwwkろqf」

くーちゃん「Bぺqkv炉アk添えkfq@でわふぇfrsfvbGMあえtpくぇ」

くーちゃん「vれあじょいじおsgkヴぉえqこえくぇこえgk@ふぇq!」

くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・ふう」

生徒たち「」

くーちゃん「あ・・・・・・・・」

くーちゃん「えと」

くーちゃん「その」

生徒1「天野さん」

生徒1「何今の! すごいすごい!」

生徒2「神様の歌みたい!」

生徒3「神秘的というか、かっこいい!」

くーちゃん「」

くーちゃん(これが手のひら返しというやつですか)

病院

医師「なるほど…なんか、不思議な話だね」

くーちゃん「とゆうわけで、くーちゃんのトンネルはくうそうじゃないとゆうことです」

医師「まあ、そういうことかな。なんにせよよかったじゃないか」

くーちゃん「それだけじゃないんです」

くーちゃん「くーちゃん、最近すごく忙しくなりました」

医師「忙しく?」

自宅

プルルルル

ガチャ

母「はい、もしもし。ええ、空は、うちの娘ですけど…」

母「え? そちらの神社の御神木の声を、聴いてほしい?」

母「すいません、言ってる意味が…」

母「あ、校長先生から、話を聞いた…なるほど…」

くーちゃん「どうしたですか、お母さん」

母「なんかくーちゃん」

母「…すごいことになってない?」

病院

くーちゃん「とゆうわけで、どんどんいそがしくなりました」

くーちゃん「いろんな神社とか、お寺とか、山や森に生えてる」

くーちゃん「長く長く生きた植物さんの声を、聴きに行って」

くーちゃん「歌にしてほしいって、言われるようになりました」

医師「…いや、いくらなんでも、そんなに話が大きくなるなんて…」

くーちゃん「くーちゃんもびっくりしました」

くーちゃん「でも、校長先生が、いろんな神社とかの関係者と、お友達だったみたいで」

くーちゃん「くーちゃんのこと、たくさんたくさん話したんです」

くーちゃん「いつの間にか、雑誌のインタビューまで受けることになっちゃいました」

ドサ

くーちゃん「この本、全部くーちゃんがしゃべったこと、のってます」

医師「なるほど…」

医師「不思議なこともあるもんだね」

くーちゃん「お金も払ってくれますからね」

くーちゃん「くーちゃんの家、おとうさんいないので」

くーちゃん「生活には、たすかってるみたいです」

くーちゃん「いくらかは、大人になったくーちゃんのために」

くーちゃん「貯金、してくれてるみたいですけど」

医師「そんなお年玉みたいに…」

その日の夜

母「くーちゃん、また電話があったわよ」

母「今度は隣の町の神社で、声を聴いてほしいんだって」

くーちゃん「わかりました」

くーちゃん「でもお母さん」

くーちゃん「よいんですか? この暮らし、ふつうじゃないですよ」

母「…そうね」

母「くーちゃんの、不思議な力が、誰かのためになってるなら、いいんじゃない?」

母「みんながすごいって言うなら、きっとくーちゃんはすごいのよ」

くーちゃん「…そうですか」

くーちゃん(ほんとと、うそが、いりまじった、変な感じがします)

母「どうかした?」

くーちゃん「なんでもないです」

数か月後。

病院

医師「ずいぶん疲れてるね」

くーちゃん「はい、疲れました」

医師「最近はよくテレビにも出てるもんね。植物と話せる巫女さんって」

くーちゃん「はい…植物さんの世界かもしれない、不思議なトンネルのお話とか、音の話もしました」

くーちゃん「でも、難しい質問をたくさんされることもあって」

くーちゃん「たくさん、わからないですと、ゆってしまいます」

医師「別にいいことだろう。わからないことは、わからないで」

くーちゃん「でも、わからないって、時々、すごく大きな解釈、されちゃうんです」

くーちゃん「くーちゃんがしゃべったこと、たくさんのえらい人、どんどん広げていくんです」

くーちゃん「広げて、広げて、どんどん形もかわっていって」

くーちゃん「最後には、別の言葉になっちゃうんです」

くーちゃん「だから、気持ち悪くて、くーちゃんはテレビも本も、見てません」

医師「…ミステリアスさは、時として神秘性を帯びる…か…」

くーちゃん「どういうことですか?」

医師「わかりにくいものは、魅力的に見えるんだよ。みんなね」

週末。とある神社

神主「さあ! どうかよろしくお願いいたします!」

くーちゃん「…はい」

くーちゃん(…すごく、この人、わくわくしてます)

くーちゃん(木が、いつだって、いいことばかり、言ってるわけじゃ、ないのに)

観衆たち「わくわく」

くーちゃん(やるしかなさそうです)

ゴロン

ペタッ


くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

神主「どうですか⁉ どうですか⁉」

くーちゃん(・・・・・・・・・・きこえないです)

くーちゃん(たまにあるんです。長く生きてる木だと、もう人間に)

くーちゃん(何の感情も、抱いてない時が)

男1「…何も歌わないな」

女1「ねえ、彼女、結構不思議なことばかり言ってるけど」

女1「本当に、巫女なの?」

くーちゃん「」

くーちゃん(…あ、もどってきちゃいました。トンネルから)

くーちゃん(もう、土の感じしかしません)

くーちゃん(目覚まし時計で起こされた気分です)

くーちゃん(最悪な気分です)

くーちゃん(さけんでやりたいです。やめてください!って、叫びたいです)

神主「…いかが、されましたか?」

くーちゃん(…でも、だめです)

くーちゃん(たくさんの大人、くーちゃんに期待してます)

くーちゃん(植物さんが、人間に対してどれだけ慈悲深く、素敵な気持ちを抱いているか)

くーちゃん(みんな、くーちゃんが教えてくれること、期待してるんです)

くーちゃん「…」

くーちゃん(むかつきます)

くーちゃん(人間だって、みんながみんな、お友達にはなれないですよ)

くーちゃん(植物さんだって同じです)

くーちゃん(いつだって心地いい音や気持ちを、人間に感じているわけじゃないんです)

くーちゃん(でも、納得してもらうには)

くーちゃん(こうするしか、ありません)


 

TRACK3 巫女もどき


あの日切り株さんに、くーちゃんが無視したこと、謝りました。

聞こえているのに、聴こえていない嘘、ついてたこと、謝りました。

でも、今度は逆のことを、してしまったんです。
 
聞こえていないのに、聞こえているフリをしてしまいました。
 
こんな動き、こんな音があれば、きっとみんな納得するんじゃないか。

♪♪♪♪♪♪


パチパチパチ

男1「すごいすごい!」

女1「本物なのね…涙が出てきた…」

神主「彼女こそ…巫女、いや…」

神主「神、そのものかもしれない」

神主「ありがとう…ありがとう…」

ギュッ

くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん(きもちわるいです)

くーちゃん(みんなみんな、いい加減です)



病院

くーちゃん「みんあ、くーちゃんの嘘、ほめてくれました」

くーちゃん「帰ってから、ずっとずっと泣いていました」

くーちゃん「みんな、本当のことが知りたかったわけじゃないんです」

くーちゃん「自分にとって、都合のよいことなら。神秘的で、美しく見えたら。なんでもよかったんです」

医師「…もう、やめたらいいんじゃないかな」

くーちゃん「…そう簡単には行きません」

くーちゃん「おうちのお金に、なってますから」


 

医師「…ねえ、空ちゃん」

医師「お友達は、いるかい?」

くーちゃん「いません。いりません」

くーちゃん「くーちゃんは、人間が、好きじゃなくなりました」

医師「…そうか」

帰り道

女1「あ! あの子! 巫女さんの天野さんじゃない!」

女2「ほんとだ! すごい! かわいい!」

女3「植物の声、聞こえるなんてすごいわn」

女1「握手してもらっても

くーちゃん「うるさいです」

女1「え」

くーちゃん(くーちゃんの嘘にまみれた対話もどきを褒められても、何もうれしくないです)

くーちゃん「うるさいです、来ないでください。うるさいです」

話しかけられないほうが楽でした。
 
嫌われているほうが楽でした。
 
くーちゃんの嘘が神聖視されるより、ずっとずっとマシでした。


学校行事も、休み時間も、全部全部嫌いになりました。

でも学校に行かないと、お母さんが心配するのは目に見えたので

渋々舌打ちしながら、小石を蹴って、学校に通い続けて。

なんとかくーちゃんは小学校という一つの山を終えることができました。
 

まあそのあと中学校もあるのか思うと、憂鬱なのは変わりませんが。


卒業式

くーちゃん(ようやく終わりました)

くーちゃん(中学校を卒業したら、山にこもって、草でもかじりながら、一生過ごすのもありかもです)

くーちゃん(お母さんのために、頑張っては来ましたけど)

くーちゃん(中学を卒業すれば、もういい年です)

くーちゃん(お母さんの顔色を窺わなくてもよいでしょう)

母「くーちゃん」

くーちゃん「はい、なんでしょう」

母「みんなと写真、撮らなくていいの?」

くーちゃん「いいでs」

?「天野さん」

くーちゃん「あ」

くーちゃん「校長先生」

校長先生「よかったら、一緒に写真でも、撮りませんか?」

くーちゃん「・・・・・・・」

くーちゃん「校長先生なら、よいです」

パシャッ

校長先生「天野さん、笑ってくれてもいいんですよ」

くーちゃん「くーちゃんはうそがきらいです。笑いたくないのに笑えません」

校長先生「なるほど」

校長先生「天野さん。少しお話をしませんか?」

くーちゃん「おはなし?」

校長先生「喋りたいことがあります」

体育館裏

くーちゃん(久しぶりに来ました。あの日、以来です)

校長先生「ずいぶんと、お花、増えたでしょう」

くーちゃん「すごいです。きれいです」

くーちゃん「赤、青、黄色のパンジー、にタンポポまであります。たくさんです。たくさん」

くーちゃん「まるでお花のじゅうたんです」

優しいお花さんたちの声が聞こえてきそうで、

くーちゃんはいつものように土の上に寝そべって、

トンネルを感じることにしました。

温かくて甘い香りで満たされたトンネル。

中には、あの時の切り株さんみたいに、子どもたちの笑い声がたくさんたくさんしみ込んでました。

くーちゃんに友達はいませんが、

いろんな子たちにとって、学校生活は、充実した時間になってたみたいです。

そんな子どもたちに踏みしめられながら生きてたお花たちは、子どもたちのことが大好きでした。

誰にも邪魔されない。本物の対話です。

巫女もどきのお仕事より、ずっと幸せでした。

校長先生「天野さん。校長先生は」

くーちゃん「ごめんなさいは、いりません」

校長先生「……」

校長先生「……天野さん、それでもあなたの望んでいたことは、きっとこんなことでは」

校長先生「だから、せめて…」

くーちゃん「いりません」

くーちゃん「校長先生は、くーちゃんのこと、思ってやってくれたです」

くーちゃん「だからごめんなさいは、いりません」

くーちゃん「校長先生は頑固ですが、やさしい人です」

くーちゃん「それが少し大きくなりすぎて、違う形になってしまっただけです」

くーちゃん「だから、気にしてません」

くーちゃん「少なくとも、変な視線を向けてくる人より、校長先生はすきです」

くーちゃん「くーちゃんは人間が嫌いですけど、校長先生のことはすきです」

くーちゃん「くーちゃんのこと、わかってくれて、うれしかったです」
 
くーちゃん「くーちゃんは、謝られるのが、好きじゃありません」

くーちゃん「謝られても、くーちゃんにできることは何もないですし、過去は変わらないので」

くーちゃん「だから、大丈夫です」

校長先生「……天野さん、ありがとう」

校長先生「何かあったら、何でも相談してください。校長先生は、天野さんの味方です」
 
くーちゃん「なるほど」

くーちゃん「じゃあ、一つだけ」


くーちゃん「「天野さんじゃないです。くーちゃんです」


校長先生「・・・・・・・ふふっ」

校長先生「わかりました。くーちゃん」

くーちゃんはくーちゃんという名前が大好きなんです。

だから、大切な人には呼んでほしいです。

皆さんも、いつでもくーちゃんと気楽に呼んでください。
 
何はともあれ、くーちゃんの小学校のお話は終わりです。長すぎましたね。

ですが、まだ大事な人、出てきてません。

安心してください。ここからちゃんと出てきます。

また明日ノシ

TRACK4 ハナちゃん

病院

医師「早いね、空ちゃんももう中学生か」

くーちゃん「はい、まあでも、やることそんなに変わりません」

くーちゃん「嘘ばかりの奉納。嘘ばかりの歌。嘘ばかりの踊り。嘘ばかりの言葉」

くーちゃん「頭、おかしくなりそうです」

医師「やめたらいいのに」

くーちゃん「そういうわけにもいかないのです」

くーちゃん「くらしの、お母さんのためですから」

くーちゃん「まあでも、昔より、クラスメイトに巫女もどきの話をされることも減りました」

医師「さすがにそうだよね」

医師「友達はできた?」

くーちゃん「いえ、くーちゃん、もう誰かに温かい態度、とるのしんどかったので」

くーちゃん「くーちゃんは、冷たい態度をとる人間として評判なのです」

医師「嫌な評判だね」

くーちゃん「おかげで話しかけられなくて助かるのです」

とある10月の月曜日

先生「転校生を紹介します」

先生「ほら、自己紹介を」

転校生「・・・・・・・・・・・・・・・」

先生「・・・・・・・・・・・・え、あの、自己紹介を」

転校生「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん(すごく、長い髪です。いつから切ってないのでしょう)

くーちゃん(丸いメガネが、かわいいです)

それが、転校生、ハナちゃんとの出会いでした。


先生「えっと、その……」

先生「浜辺ハナさんは、その、××県からやってきてて」

先生「すごい、穏やかな海が、綺麗な場所、なんだよね」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

先生「絵が、好きなんだっけ…」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

先生「あの、なんかせめて頷くとか…」

くーちゃん(…おしゃべりな人、無口な人、いろいろいますけど)

くーちゃん(何もしゃべらないのは、めずらしいです)

くーちゃん(安心します)

くーちゃん(嘘を沢山つく人たちより)

くーちゃん(ずっと、ふつうのひとです)

生徒1「え、あの子大丈夫…?」

生徒2「おとなしいだけ、じゃないのかな…」

生徒3「でも自己紹介くらい…」

生徒4「なんかこわい」

くーちゃん(…わからないから、こわいんですね)

くーちゃん(おばけがこわいのと、おなじです)

授業中

先生「では、浜辺さん」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

先生「…浜辺さん?」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

先生「浜辺さん!!」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

プルプルプル

生徒1「…ねえ、多分あれだよね、転校してきたのって」

生徒2「絶対親の事情とかじゃないよね」

生徒3「ねえ、ああいうのって、どうしたらいいの?」

生徒4「知らないよ…下手なこと言って地雷踏んだらめんどくさそうじゃん」

くーちゃん「…」

くーちゃん(いいですね)

休み時間

生徒1「ハマベさん、またどこか行ってるね」

生徒2「保健室とか?」

生徒3「保健室この間休んだけど、いなかったよ」

生徒4「えー、なんかこわっ」

くーちゃん(まるでおばけみたいに言われてます)

くーちゃん(でも、みんなの方が、他人を勝手に判断してて)

くーちゃん(おばけよりこわいです)

ガラッ

ハナ「…」

生徒1「あ、戻ってきた」

ハナ「……」チラッ

くーちゃん「…?」

くーちゃん(きれいな目で、くーちゃんのこと、見てきました)

くーちゃん(…何か、言いたいのでしょうか)

ハナ「・・・・・・・・」

くーちゃん(まだ、話す準備ができてないようですので)

くーちゃん(待ちましょう)

翌朝

くーちゃん「…今日は金曜日です」

くーちゃん「明日、またお仕事ありますね」

コンコン

母「くーちゃん、入るわよ」

ガチャッ

ゴトッ

くーちゃん「なんですか、この箱」

母「これね」

母「いつもくーちゃんが奉納とかするとき」

母「私服なのがあまりよくないんじゃないかって言ってて」

パカッ

母「これ、巫女服」

くーちゃん「」

母「ね、このヒラヒラとかきれいで」

ダッ

母「え、ちょ、くーちゃん?」

くーちゃん(わかってくれない人だけど、母親だから気を使ってましたが)

くーちゃん(もういいです)

くーちゃん(ここまでわからない人だとは、思わなかったです)

タッタッタッタッ

くーちゃん(あ、くつ、履き忘れました)

くーちゃん(まあ、学校行けば、うわばきありますし、はだしはすきです。地面、感じられます)

くーちゃん(巫女服の嫌な感じ、地面の石の感触で忘れられるかもしれません)

くーちゃん(飛び出てしまいましたけど、まあよいです)

くーちゃん(お母さんのためだけに生きるの、つかれました)

くーちゃん(でも、このままどこいきましょう)

くーちゃん(山でもいって、本当に草でもかじって生きていきましょうか)

くーちゃん(巫女もどきの仕事続けるより、数億倍ましです)

空地

?「・・・・・・・・・・・・・・・・」

カキカキ

くーちゃん「?」

くーちゃん「あ、あれは」

くーちゃん「ハナちゃんです」

ハナちゃん「♪♪♪♪」

カキカキ、サラサラ

くーちゃん(何か、スケッチに描いてます)

くーちゃん(初めてハナちゃん見たとき、夜の底みたいな目でしたのに)

くーちゃん(すごくたのしそうです。きらきらしてます)

くーちゃん(流れ星みたいな目です)

くーちゃん(いったい、何の絵を描いてるのでしょうか)

ソッ

くーちゃん「」

くーちゃん「えっ…」

ハナ「!!」

くーちゃん「ハナ、ちゃん」

くーちゃん「なんで、しってるですか」

くーちゃん「なんで、くーちゃんしか知らないトンネルの絵」

くーちゃん「しってるですか」


ハナ「!!」

くーちゃん「ハナ、ちゃん」

くーちゃん「なんで、しってるですか」

くーちゃん「なんで、くーちゃんしか知らないトンネルの絵」

くーちゃん「しってるですか」


ミスです。連投失礼



ハナ「あ、えあ、えあ」

くーちゃん「知ってるん、ですね?」

ハナ「・・・・・・・」

コクリ

くーちゃん「ハナちゃん」

くーちゃん「もっと、ありますか?」

学校。屋上につながるドアの前にあるスペース

くーちゃん「ハナちゃん、どして、こんなとこに」

くーちゃん「もしかして、休み時間、ここで絵、描いてたですか?」

ハナ「」にやっ

こくり

くーちゃん(…かわいいですね、ハナちゃん)

くーちゃん(今すぐにでも抱きしめたくなるほどですが)

くーちゃん(人間同士のスキンシップはよくわからないので、やめときましょう)


その屋上の入り口前には、使われていない勉強机が乱雑に置かれていて、そこには、何冊か大きなスケッチブックが入ってました。ハナちゃんは、机から一冊のスケッチブックを取り出して、開きました。そこには、黒やら灰色やら、少し緑の入り混じった不思議な絵が描かれていたんです。

くーちゃん「ハナちゃん、これは、なんですか?」

ハナちゃんはスケッチブックからその絵を切り離して、床の上に置きました。

そして、また一枚、また一枚と、別のページに描いていた絵を切り離して、

並べていきます。

やがてそれは、大きな絵になりました。

くーちゃん(今まで、見たことないトンネルの世界です)

くーちゃん(ずっと大きく深く、静かな、世界です)

ゴロン

くーちゃんは、ハナちゃんの並べた絵の上に、トンネルの時間を思い出しながら寝そべります。

くーちゃん(ふしぎです。絵は植物さんとちがって、生きてないのに)

くーちゃん(冷たくて、優しい感じ、します)

くーちゃん(あ)

くーちゃん(何か、聞こえます)




 きてほしい。

くーちゃん(…誰でしょう、なぜ、呼ぶのでしょう)

くーちゃん(すごく、つよい、思いです)

くーちゃん(絵なのに、トンネルを感じられるなんて、ふしぎです)

くーちゃん(でも、この感じ、きっと本物です)

くーちゃん「ハナちゃん」

くーちゃん「このトンネル、どこに、つながってますか?」

ハナ「」ブンブン

くーちゃん「わからないのですね」

くーちゃん「ハナちゃん」

くーちゃん「くーちゃん、ここ、行きたいです」
 
ハナ「・・・・・・・・・・・・・え」

ハナ「い、いきたい?」


くーちゃん(ハナちゃんの声、はじめてききます)

くーちゃん(かすれた喉の奥から絞り出すような音ですけど)

くーちゃん(とてもやさしい音です)

くーちゃん「はい。行きたいです。呼んでます」

くーちゃん「くーちゃんが、このトンネルの向こうのだれかから、必要とされてます」

くーちゃん「だから、行きたいです」
 
くーちゃん「嘘っぱちのくーちゃんじゃなくて、本当のくーちゃんを必要としてくれるこの方のために」

くーちゃん「くーちゃんは、自分を使いたいんです」


ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ハナ「ん」

 言葉なのかどうか、よくわからない音を出して、ハナちゃんは頷きます。

くーちゃん「ハナちゃん」

 寝そべりながら、くーちゃんは、ハナちゃんに言いました。

くーちゃん「くーちゃんと、一緒に、この絵のトンネル、探しませんか?」

また明日ノシ

病院

くーちゃん「というわけで、くーちゃんは」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん「このハナちゃんと旅に出ることにしたので、今日が最後の診察です」

医師「いやいやいやいやいや」

医師「話が急ピッチ過ぎてついていけないよ」

くーちゃん「安心してください」

くーちゃん「旅のプランは考えてます」

医師「いやそういう問題じゃないから」

くーちゃん「くーちゃん、天才的な頭脳で考えたのです」

くーちゃん「トンネルを探す計画」

医師「…では、一応聞こうか」

くーちゃん「トンネルは、植物さんのところからいけます」

くーちゃん「つまり」

くーちゃん「日本中の森とか山をしらみつぶしに探せば」

くーちゃん「ハナちゃんの絵のトンネルにたどり着けると考えました」

医師「それ計画?」

くーちゃん「はい、天才的な計画です」

くーちゃん「でも見てください、ハナちゃんのこのトンネルの絵」

バサッ

くーちゃん「すごいとおもいませんか?」

医師「いやすごいけど、折り目やばいよ」

医師「いいの、ハナちゃんは」

ハナ「」こくり

医師「いいのかよ」

医師「ただ、このハナちゃんが描いたトンネルなんだよね」

医師「もっと、なんでこの絵を描いたのかとか、聞いたらいいんじゃないかな」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん「こんな感じなのでむずかしいのです」

医師「なるほど…」

くーちゃん「とゆうわけで、お世話になりました」

くーちゃん「先生は、校長先生と、ハナちゃんの次に」

くーちゃん「すきなにんげんでした」

医師「…どうもありがとうね」



くーちゃん「ではハナちゃん、荷造りをして夕方に公園前で集合です」

くーちゃん「今日は半日授業だったので、これはチャンスなのです」

くーちゃん「やるなら、今日しかありません」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ハナ「」こくり


くーちゃん「さすがです、ハナちゃん」

くーちゃん「では、また後程」

自宅前

くーちゃん(あ、今日お母さん、仕事休みでした)

くーちゃん(堂々と旅の準備なんかしたらばれますよね)

くーちゃん(となると、こっそりやるしかないです)

くーちゃん(裏庭に回って、くーちゃんの部屋の窓から出入りすれば、ばれません)

くーちゃん(くーちゃんのおうちが、平屋でよかったです)

ガチャガチャ

くーちゃん「カギ閉めてました」

くーちゃん「仕方ありません」

パリン!

くーちゃん「聞いたことがあります。窓の修理費より鍵の修理費の方が高いと」

くーちゃん「窓の修理費は、見逃してもらいましょう」

母「…まじでなにしてるのあなた」

くーちゃん「」

くーちゃん「…鍵、わすれたので」

母「ピンポンおしなさいよ、わたしいるんだから」

くーちゃん「…そういうわけにはいかないので」

母「旅に出るから?」

くーちゃん「なんでしってるのですか」

母「病院から連絡あったからよ」

母「あんな話したら私に連絡行くのわかるでしょう」

くーちゃん「先生は、口が軽いです」

くーちゃん「許せません」

母「逆恨みしないで」

母「いつからそんな不良娘になったの」

くーちゃん「思春期ですお母さん。思春期に少年から大人に変わってるです」

母「大人は鍵が開かないからって窓を割ったりしないのよ」

くーちゃん「お母さんの顔、見たくないので」

母「走って出ていったと思ったら、ずいぶんと言うじゃない」

くーちゃん「くーちゃんは嘘が嫌いですので」

母「……とりあえず、ちゃんと説明してもらいたいところなんだけど」

くーちゃん「あの巫女服を、平気な顔してもってきたお母さんに、なにかを説明したい気分にはなれません」

くーちゃん「説明したら、わかってくれるんですか?」

母「あれは、悪気があったわけじゃ」

くーちゃん「悪気がなかったらなにしてもよいわけじゃないです」

くーちゃん「そういうところが嫌なんです」


くーちゃん「もういいです。貯めてたお小遣い、机に入れてるので」

くーちゃん「それだけ回収します。移動費に使います」

ゴソゴソ

ガシッ

くーちゃん「放してください」

母「いやよ」

母「もうだれにも」

母「いなくなってほしくないの」

くーちゃん(…意味が分かりません)

くーちゃん(あ、そういえば)

くーちゃん(くーちゃんと、お母さんと)

くーちゃん(今はもういない、もう一人のことでしょうか)

その人が、どうしてもういないのか。お母さんは言ってくれません。

それに今この場で話すことでもありません。きっと、楽しい話ではないので。

くーちゃんも、現実の世界に見切りをつけ、旅に出ようとしてます。

お母さんを、本当の本当に一人にすることになりえる片道切符だと思います。
 
そして、お母さんも、そのことをきっと察してたんです。
 

ぶんっ!!

力いっぱいお母さんの腕を振りほどきます。

ギギッ

くーちゃん(お母さんの爪の痕、残りました)

くーちゃん(でもいいです。だって)

くーちゃん「くーちゃん、やらなきゃいけないこと、あります!!!!!!!」

ダッ

公園

ハナ「・・・・・・・・・・・・・」

「はあ…はあ…はあ…」

ハナ「…?」

くーちゃん「ハ、ハ、ハナちゃん…!」

くーちゃん「ちょっとめんどくさいことになったので! 旅! いそぎます!」

ハナ「…?」

くーちゃん「信頼できる人のところ、いきます!」

くーちゃん「きて、くれますね!?」

ハナ「・・・・・・・」こくり

 その旅は片道切符かもしれません。

トンネルの向こう側に行けば、人間のいるこっち側に戻ってこられないかもしれません。

でも、そんなのくーちゃんにとって、どうでもよかったですし、

くーちゃんの知っている世界を理解してくれてるハナちゃんとなら、一緒に行けるような気がしたんです。

小学校

?「…お久しぶりですね」

校長先生「天野さん」

くーちゃん「くーちゃんです」

校長先生「それで、相談ってなんですか?」

くーちゃん「トンネルを探す旅、手伝ってください」

また明日ノシ

校長室

校長先生「トンネル…以前から天野さんから聞いてはいましたが」

ハナ「」カチコチ

くーちゃん「ハナちゃん、そんなに固まらなくてだいじょぶです」

くーちゃん「自分の家だと思ってリラックスしてください」ゴロゴロ

校長先生「だからといって転がるのはやめてください」

校長先生「あとそれは校長先生のセリフです」

くーちゃん「ハナちゃん、このリュックに絵、ありますね?」

ハナ「」

くーちゃん「」

ごそごそ

校長先生「何も言ってないのに人の荷物をあさるのはやめましょう」

校長先生「それにしてもずいぶん大荷物ですね、そのハナさんは」

校長先生「天野さんは手ぶらですか」

くーちゃん「現金が数十万円ポケットにつっこんでいます」

校長先生「それはそれで不気味です」

くーちゃん「ありました」

バサッ

くーちゃん「この絵です。この絵のトンネルに、行きたいんです」

校長先生「なるほど…これは、すごい」

校長先生「たしかに、天野さんからずっと聴いていたトンネルの描写と一致します」

校長先生「で、そのハナさんは、なぜこの絵を描けたか、言葉にしにくい、といったところですか」

くーちゃん「そのとおりです。さすがです」

校長先生「この絵からは、確かにエネルギーのようなものを感じますが」

校長先生「その一方で」

校長先生「どこか、さみしく、冷たい印象も受けます」

くーちゃん「そうなんです。だからきっとこのトンネルの植物さん、さみしがってます」

くーちゃん「とても、とても、長い間」

くーちゃん「だから、すごい植物さんがいるところだと思うのです」

くーちゃん「校長先生は、心当たりないでしょか」

校長先生「天野さんは、今の段階ではどう考えてますか?」

くーちゃん「ジャングルとかですかね、となると海外…」

くーちゃん「不法入国の罪、重いのでしょうか。パスポート、もってないです」

校長先生「ええ、重いです。さすがの校長先生でもそれは止めます」

校長先生「それに、ジャングルとは限らないでしょう」

校長先生「どことなく、和風の感じもしますし、日本の可能性の方が高いのでは?」

くーちゃん「うむむ、たしかに」

校長先生「となると、シンプルに、日本の山、でしょうか」

くーちゃん「やはりしらみつぶし作戦が最強そうですね」

校長先生「しらみつぶし作戦?」

くーちゃん「日本中の森とか山をしらみつぶしに探していく作戦です」

校長先生「恐ろしい計画ですね」

くーちゃん「ありがとうございます」

校長先生「褒めてないです」

TRACK6 山

バス停

くーちゃん「とりあえず、この町で一番大きな山があるところまで、バスで行きましょう」

ハナ「」ジッ

くーちゃん「どしたですか、ハナちゃん」

ハナ「」スッ

くーちゃん「あ、パトカーですね」

くーちゃん「…まずいかもです」

くーちゃん「どうしましょう」

ハナ「」ごそごそ

スッ

くーちゃん「メガネですね」

ハナ「」こくり

くーちゃん「…たしかにこれなら、お母さんが通報してても」

くーちゃん「顔写真とは違う印象になるかもです」

くーちゃん「あ、でも髪型が」

ハナ「」ごそごそ

スッ

くーちゃん「…え」

ハナ「」

チャキンチャキン

くーちゃん「まさかのハサミとは」

くーちゃん「なんでくーちゃんより用意周到なんですかハナちゃん」

ハナ「」てれてれ

くーちゃん「でもさすがです、ハナちゃん」

くーちゃん「このハサミなら眉毛、鼻毛の手入れもできますね」

ハナ「」ぶんぶん

くーちゃん「あ、普通に髪を切るだけでしたか」

ハナ「」こくり


くーちゃん「じゃあ、カットおねがいします」

くーちゃん「あ、でも先にハナちゃん切った方がよいかもです」

くーちゃん「ハナちゃんもご両親に捜索願だされてるかもしれません」

ハナ「」こくり

ジョキン

くーちゃん「」

くーちゃん「結構思い切り切るんですね」

ハナ「」テレテレ

くーちゃん「ほめてないです」

くーちゃん「じゃあ、くーちゃんもおねがいします」

ハナ「」ソーッ…

ハナ「」

くーちゃん「どうしたですか? ハナちゃん」

ハナ「」ジッ

くーちゃん「くーちゃんの腕のあざですか?」

くーちゃん「気にしなくてよいです」

くーちゃん「事故みたいなものです」

ハナ「」ぺこり

ブーン

くーちゃん「パトカーも無事に通り過ぎてくれました」

くーちゃん「ハナちゃん、切るのうまいですね」

ハナ「」テレテレ

ブーン

くーちゃん「バスも来たので乗りましょう」

くーちゃん「終点に、その山、たどりつけます」

くーちゃん「だいぶ田舎のバス停なので、きっと一目にはつきません」

ハナ「」こくり

バス内

くーちゃん「貸し切りですね。だれもいません」

くーちゃん「経営が続いてるの、ふしぎなくらいです」

ハナ「」カキカキ

くーちゃん「ハナちゃん、お絵かきですか?」

くーちゃん「また、トンネルの絵ですか?」

ハナ「」スッ

くーちゃん「これは…」

ハナ「」ジッ

くーちゃん「窓の外の空、ですか?」

ハナ「」こくり

くーちゃん「すごいです」

くーちゃん「あおいろ、いっこもつかってません」

ハナ「」テレテレ

くーちゃん、絵のこと、からっきしなんですけど、

絵が描かれる過程、見るの大好きなんです。

今生きてる世界と違う世界、作られてるみたいで、旅行してる気分になります。

特にハナちゃんの絵は素敵でした。

見えてる世界より、たくさんの色を使って、形も変わってたりするです。

すっかりくーちゃんは、ハナちゃんのファンになってしまいました。

また明日ノシ

終点

運転手「どちらへ?」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、あ」

くーちゃん「行きたいところがあるので」

運転手「そうですか」

運転手「だいぶ日も暮れてきましたので、気を付けて」

くーちゃん(こういう時、親戚のおばさんの家へ行きますとか言っておけばよいのかもですが)

くーちゃん(くーちゃんは、正直なのが、もっとーなのです)
 

田舎の夜道。

くーちゃん「街灯、ほとんどないですね」

ハナ「…ん」

くーちゃん「目を閉じても開けてもほとんど変わらないほど暗いです」

くーちゃん「今が現実なのか、夢の中なのか、わからなくなりそうですね」

くーちゃん「でも、目を閉じるとそれだけで音や匂い、よくわかります」

くーちゃん「草、土、雨の匂いが混じった、素敵な香りです」

くーちゃん「体に巡ってゆくんです」

ピカッ

くーちゃん「…まぶしいです」

ハナ「」にこっ

くーちゃん「懐中電灯、忘れてました」

くーちゃん「用意周到ですね、ハナちゃん」



くーちゃん「この山なら、トンネルにつながる木、ある可能性」

くーちゃん「ゼロじゃないかもです」

ハナ「」よろっ、よろっ

くーちゃん「ついてきてますかー」

ハナ「え、あ、う、ん」

くーちゃん「ハナちゃん、運動苦手ですか?」

ハナ「」こくり

くーちゃん「がんばりましょう」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」こくり
 しばらく歩いた後、くーちゃんは、山の中で空を見上げました。木はあまり生えてない、開けた場所です。吸い込まれそうな夜空が、どこまでも広がってました。お月様が浮かんでて、ハナちゃんの懐中電灯が、いらないほど明るかったです。

山中

くーちゃん「ここでよいんではないでしょか」

ハナ「はあ……はあ……はっあ……う……ん」

くーちゃん「…返事、でいいんですよね」

ゴロン

くーちゃん(ハナちゃんは寝転がらないのですね)

くーちゃん(まあ、過ごし方は人それぞれです)

くーちゃん「すーっ、はーっ」

息を吸って、吐きました。

全身が土に溶けてゆくような感じでした。

山から漂う、温かさ、優しさ、冷たさ。そんなものが混じりあったトンネルに、

くーちゃんはいつのまにかいたんです。

くーちゃん(このトンネルは悪い感じ、しません)

くーちゃん(広くて大きくて安心します)

くーちゃん(でも、くーちゃんのことを呼んでません)

くーちゃん(それに、ハナちゃんの描いていたトンネルと、違う色な気がします)

くーちゃん(あの絵で感じた、さみしさも、感じません)

くーちゃん(それに)

くーちゃん(別の何かの気配がします)

パチクリ

ハナ「?」

くーちゃん「ここ、違います」

ハナ「?」

くーちゃん「この山、違います。くーちゃん、呼ばれてません」

くーちゃん「きっと、別の誰かの場所です」

くーちゃん「ほかの山です。ハナちゃん、地図帳とか、もってますか?」

ハナ「」こくり

バサッ

くーちゃん「さすがです、ハナちゃん。ここからちゃんと、それっぽい山を選んで…」

くーちゃん「あ」

ハナ「?」

くーちゃん「ハナちゃん、くーちゃん、気づいてませんでした」

くーちゃん「日本には、山が多すぎます」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ハナ「」こくり

くーちゃん「困りました。なんでこんなに山、多いですか!」

くーちゃん「ハナちゃん! どうゆうことですか!」

ハナ「」

くーちゃん「ごめんなさい、八つ当たりでしたね」

ハナ「」こくり

くーちゃん「とにかく、もうおそいです」

くーちゃん「とりあえず、きょうはここで夜、明かしましょう

ハナ「」こくり

バサッ

くーちゃん「なるほど、寝袋、もってきてたですね」

くーちゃん「さすがです」

くーちゃん「とりあえずくーちゃん、お布団にできそうな落ち葉、拾ってきます」

ハナ「」

くーちゃん「あの、もしかして、くーちゃん、何か変なことしてますか?」

ハナ「」こくり

くーちゃん「まあ、たしかに、風邪、ひくかもですね」

くーちゃん「植物さんの、トンネルの向こうへ行くにしても、健康が一番です」

くーちゃん「ですが、着替えも寝る道具も忘れました」

くーちゃん「ハナちゃん、地図帳かしてください。おふとんにします」

ハナ「」

ハナ「」スッ

くーちゃん「ハナちゃん、もしかして寝袋、ゆずってくれてますか?」

ハナ「」こくり

くーちゃん「ハナちゃんがそれだと風邪ひきます、だめです」

ハナ「」ぶんぶん

くーちゃん「うーむ、なら」

くーちゃん「二人で、入りましょう」

くーちゃん「つめれば、きっと入ります」

ぎゅうぎゅう

くーちゃん「ちょっとせまいですね」

くーちゃん「まあでも、なんとかなりそうです」

ハナちゃんの汗の香りが好きで、心は落ち着きました。

目を閉じると、昔、とても大切な人と行った場所を思い出します。

波の音や潮の香り。おひさまが、きらきら反射してた海です。

とても、懐かしい気持ちになりました。

幼稚園にいた時より、もっともっと昔の思い出です。

くーちゃん(どんな顔の人と行ったでしょうか)

くーちゃん(思い出せませんね)

くーちゃん(そういえば、海の向こうには)

くーちゃん(たしか…)

くーちゃん「あ!!!!!」

ハナ「!!!!」ビクッ

くーちゃん「島です!!!!!!!」

くーちゃん「山じゃないです!!!!!! 島です!!!!!!!」

ガサ

ガサ

ガサ

?「どこだ…どこだ…」

?「この子の…母親は…」

?「どこに、いる…?」

また明日ノシ

くーちゃん「ハナちゃん! 地図です! 地図見せてください!」

ハナ「」スッ

くーちゃん「やっぱりです」

くーちゃん「島の方が!!」

くーちゃん「山より数が! 少ないです!」

ハナ「」

くーちゃん「それに、島の方が、ハナちゃんの描いていたトンネルに、近い感じします」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」こくり

くーちゃん「やっぱりです!」

くーちゃん「となると、ハナちゃん、たしか、海沿いの町に住んでたと、言ってましたね」

ハナ「」こくり

くーちゃん「どこですか?」

ハナ「」すっ

くーちゃん「やはりです。この町」

くーちゃん「島、いくつかありますね」

くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん「あ」

くーちゃん「これです」

ハナ「?」

くーちゃん「この島です」

くーちゃん「この島、名前がありません」

くーちゃん「名前がない、孤独な島」

くーちゃん「あのトンネルの感じと、近い気がしました」


くーちゃん「それにしてもハナちゃん、ずいぶん遠くからおひっこししてきたですね」

くーちゃん「この町に行くなら、大移動となります」

くーちゃん「ただ、旅です。旅はこれくらいじゃないと、面白くありません」

くーちゃん「さあ、ハナちゃん! 行きましょう!」

ハナ「」ブンブン

くーちゃん「あ」

くーちゃん「…せめて夜が明けてからにしますか」



くーちゃん(結局一睡もできませんでした)

くーちゃん(ぽかぽかおひさま、いい気持ちです)

くーちゃん「ハナちゃん! 朝です! 行きましょう!」

ハナ「…ん」もぞもぞ

くーちゃん「…朝、弱いんですね」

くーちゃん「近くに、川あるので、顔洗ってきます」

ぱちゃん

くーちゃん(つめたくて気持ちよいです)

ザブン

ついでにくーちゃんは水の中に頭を突っ込んで、目を閉じてみました。

昨日、土に顔をうずめたときより、ずっとずっと山に近づけた感じがしました。

?「くる、しくない?」

ザブン

くーちゃん「!」

くーちゃん「ハナちゃん!!」

くーちゃん「すごい! ちゃんと初めて単語聞きました!」

ハナ「」テレテレ
 ハナちゃんは、一緒に夜を明かしたからかわかりませんが、少しだけお話してくれるようになりました。

「はい。だいじょぶです」

 くーちゃんは、顔をあげてそう言いました。

 ハナちゃんも、くーちゃんの感じていたトンネルを描けたとゆうことは、もしかしたらハナちゃんも、不思議なトンネルに心をゆだねることができるのかと思いました。直接確かめてもよかったんですけど、ハナちゃんも川に、顔をばちゃんとつけたので、尋ねるタイミングを失ってしまいました。くーちゃんはしばらく息を止められたのですが、ハナちゃんは、長く息を止めれなかったようで、すぐに顔を出しました。

ザブン!

ハナ「はーっ…はーっ! き、きもち、いいね」

 あんまり顔的に、気持ちよさそうには思えなかったですけど

 気持ちいいと言っていたから、多分気持ちよかったんだと思います。

後で確かめてみますね。もうずいぶん前のことですから、本人、忘れちゃってるかもしれませんけど。

 

朝ごはんタイム

ハナ「」パキッ

くーちゃん「ハナちゃんは板チョコですか」

ハナ「」スッ

くーちゃん「あ、そういえば、くーちゃん、手ぶらでした」

くーちゃん「だいじょぶです」

くーちゃん「なんかおなかの中、ずっしりと重たいもの、乗ってる感じするので」

くーちゃん「今、いらないんだと思います」

くーちゃん「ともかく、島に行くには、ハナちゃんの住んでた町へ向かう必要あります」

くーちゃん「ただ歩くには、ちょっと遠すぎます」

くーちゃん「また、バスですかね」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ハナ「よくない、かも」

くーちゃん「よくない?」

ハナ「私たち、行方不明」

くーちゃん「…言われてみればそうです」

くーちゃん「お母さんもですけど、ハナちゃんのご両親も、そろそろ通報しててもおかしくありません」

くーちゃん「変装をしてますが、年まではごまかせません」

くーちゃん「声を掛けられる可能性、ありますし」

くーちゃん「くーちゃんは嘘が苦手です。きっとばれてしまいます」

くーちゃん「完全に失念してました」

くーちゃん「ハナちゃんは、頭の回転がコンピューター並みに速いです。

くーちゃん「「スーパーコンピューター、ハナちゃんですね」

ハナ「……そ、そうかな」

くーちゃん「そうです。くーちゃんも頭脳、天才的ではあるのですが、ハナちゃんもすごく頭、よいです」

くーちゃん「となると、移動手段です」

くーちゃん「お金、あるにはあります。きっと電車だろうと飛行機だろうと大丈夫です」

くーちゃん「スペースシャトルには乗れないかもしれませんが」

くーちゃん「ですが、公共のやつは、見つかってしまいます。となると」

くーちゃん「信用できる人に助けてもらうしか、ありませんね」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん「そんな心配そうな顔しないでください」

くーちゃん「心当たりがあります」

くーちゃん「この山です」

ハナ「え、」

くーちゃん「トンネルで感じました」

くーちゃん「この山には、くーちゃんたち以外の人、溶け込んでます」

くーちゃん「きっと、います。この山と共に生きてる、優しい人が」

くーちゃん「だから、その人を探しましょう。優しい人なら、きっと助けてくれるはずです」

ハナ「」こくり

くーちゃん(ハナちゃんの頷き方、大好きです)

くーちゃん(しっかり考えて、なにか決めてくれたのが伝わるので)

くーちゃん(それがハナちゃんのよいとこなんです)

山道

ハナ「…ど、どこ、いるの?」

くーちゃん「宛はなんとなくあります」

くーちゃん「トンネルで感じられた匂い、山を歩いてると漂ってきます」

くーちゃん「自然の匂いと少し違います」

くーちゃん「まるで体育の後の体操服みたいな、そんな汗のにおいです」

ハナ「」

くーちゃん「くーちゃんの好きなにおいです」

ガサッ


?「駄目だなあ、これじゃあねえんだよなあ」

ハナ「ヒイッ!!!!!」

声の方には、髪の長い男の人がいました。

その髪は、肩よりさらに伸びてて、まるで女の人みたいでした。

あ、男の人でも髪伸ばす人はいますよね。失礼しました。

くーちゃん「大丈夫です。きっとあの人です」

くーちゃん「この山に受け入れられているような人です」

くーちゃん「きっと悪い人、ちがいます」

ハナ「…」コクリ

男「違うなあ、違うなあ」

男の人はくーちゃんたちに目もくれません。

その代わり、地面に落ちてる枝や棒を手にとっては、地面に捨てることをくりかえしてました。

ハナ「鹿さん!」

ダッ!

くーちゃん「ハナちゃん⁉ どうしました⁉」

くーちゃん「…あ…」

ハナちゃんの向かった先には、落ちている枝や葉っぱで作られた

鹿の大きな置物がありました。

しかも一頭じゃないです。たくさん、います。

数を数えるの、くーちゃんは苦手だったので、何頭か覚えてません。

ごめんなさい。でも、とても器用に組まれてて、

まるで最初からその形で、山から生えてるみたいでした。

男「なんだあんたら」

くーちゃん「旅の者です」

男「その年で旅か」

ハナ「……美しい……」

くーちゃん(ハナちゃん、ずっと鹿さん見てますね…)

男「なんだ、俺の作品が気に入ったか」

ハナ「」カアア

ハナ「」コクリ

男「ここの部分はこだわったんだよ。まず説明するとだな、この足なんだが」

くーちゃん「すいません! 喋りたいことがあります!」

男「なんだ! 俺の作品解説の邪魔をするのか!」

くーちゃん(いい人と思ってましたが、すこしめんどくさい人かもです)

TRACK7 お兄さん

くーちゃん「いえ! くーちゃんも素敵と思います! かわいいです!」

男「かわいいだと! 美しいの間違いだろう!」

くーちゃん「すいません! 美しいです!」

男「それでいい!」

くーちゃん「ありがとうございます!」

男「だがなあ! だがなあ!!」

ゴロンゴロンゴロン!!!

男「だめなんだああああ! 見つからないんだあああああ!」

くーちゃん(…トンネルで感じた人、この人なのでしょうか…)

男「みつからないいいい! みつからないいいい!!」ボリボリガリガリ

くーちゃん(顔、めちゃくちゃ掻いてます)

くーちゃん(お風呂に入らなさすぎると、ああなってしまうのですね)

男「こいつの、こいつの…」

ハナ「母…おや…?」

男「!!!!」

男「そう! 母親だよ! お前話がわかるな!」

男「だけどなあ…そこなんだよなあ…だからこそ困ってるんだよなあ」

くーちゃん「何に困っているですか?」

男「母親の体だよ! さっき言っただろうが!」

めんどくさい人です。

悪い人じゃないと思ったのは、見込み違いだったかもしれません。

すいません、嘘です。そんな顔しないでください。

誰だって見当はずれのことを言ったら、声を荒げたくもなりますよね。

くーちゃんも経験あるのでよくわかります。

男「すまん。取り乱した。まあとにかくだ」

男「あんたら、もしよかったら、一緒にこいつの母親の体の心当たりとか」

くーちゃん「きっと海に、あります!」

男「……は?」

くーちゃん(唐突なことを言われたら、人は戸惑います)

くーちゃん(大人たちを納得させるインタビューを、何度か受けてたくーちゃんからすれば)

くーちゃん(これくらい、どうってことないです)

くーちゃん(嘘は苦手ですけど、大げさに言うことは得意なんです)

くーちゃん(人生、多少大げさなくらいがちょうどよいんです)

くーちゃん「くーちゃんたちも探し物してます」

くーちゃん「そして、それは海にあると思ってます」

くーちゃん「もしかしたら、あなたが探してるのも、海にあるんじゃないですか?」

くーちゃん(別に嘘は吐いてません)

くーちゃん(同じとこを探し続けて見つからなければ、場所を変えるのは鉄則です)

男「海、海、海……なるほど、海、海かあ」

男「海、海。海…」

ぐるぐる

男の人は、鹿の置物に手を添えて、目を閉じました。

くーちゃんがトンネルの中でやってる、植物さんとの時間に、少しだけ似てました。

男「海、母なる海」

男「そうか、こいつは、きっと、離れ離れに、なっちまったんだな。海はすべての始まりだ」

男「そうだ。海だ、海しかねえ。今すぐ出発だ。今すぐだ‼」

くーちゃん「おお! そうですそうです! 出発です!」

くーちゃん「くーちゃんたちもいっしょに連れてってくれますか!」

男「断る!」

くーちゃん(まじめんどくさいですねこいつ)

くーちゃん「なぜでしょうか!」

男「あんたらにはあんたらの道があるだろう!」

男「俺には俺の道がある! それを交えるのはナンセンスだと思わんか!」

くーちゃん「一理あります! けれど、くーちゃんたちの目的地!」

くーちゃん「女子中学生二人じゃ大変です!」

男「知らねえよそんなこと!!」

くーちゃん「では」

くーちゃん「40万ほどお支払いします!」

くーちゃん「これで一緒に連れて行ってください」

男「誰が断るって言った!!」

くーちゃん「あなたです!」

交渉は成立しました

また明日ノシ

TRACK8 軽トラ

くーちゃん「断られたと思いました!」

男「誰が断るか! あんたらみたいな若い子を導くのが、俺の役目さ!」

男「さあ来い! ふもとにある軽トラに乗せてやろう!」

くーちゃん「ありがとうございますおじさん!」

男「お兄さんだ!!!」

ふもと

くーちゃん「散らかりすぎです。座れません」

くーちゃん「工具に枝、薪だらけじゃないですかおじさん」

男「だからお兄さんだ。まだ俺は二十歳にもなっていない」

くーちゃん(不潔さを極めると、人は老けて見えるのですね)

男「荷台なら開いてるな。そこでもいいか?」

ハナ「」サーッ…

くーちゃん「ハナちゃんが青くなってます」

くーちゃん「こわいですか?」

ハナ「…ん」

くーちゃん「でも背に腹は代えられません」

くーちゃん「徒歩で海まで行っている間に、二人とも力尽きてしまったら無駄死にです」

くーちゃん「現世に未練はありませんが、そんな終わり方は嫌です」

ハナ「…わか、た」

くーちゃん「ところで、なんで、鹿、作ってるですか? おじさん」

男「お兄さんだ」

 同じ失敗を繰り返すのは、よくないとわかるのですが。

習慣を変えるのは、結構大変なので、また間違えてしまいました。

反省してます。

お願いですから、そんな目でみないでください。照れてしまいます。

男「必要だからだよ。俺にはこれが必要なんだ」

くーちゃん「「ひつよう、ですか」
 
くーちゃん(どう必要なのでしょか)

男「ふふふっ」

くーちゃん(愛おしそうに木材を見つめています)

くーちゃん(まあよいでしょう。言葉にうまくできないこともあるのです)

道中

ブルルルル

くーちゃん「こわくないですか? ハナちゃん」

ハナ「…ん、きもちいい」

くーちゃん「そうですね、秋の風、きもちよいです」

ハナ「」ごそごぞ

ハナ「」さらさら

くーちゃん(また絵です)

くーちゃん(…生き物でしょか。腕が四本生えてて、赤や青や緑色。色の大洪水です)

くーちゃん「きれいですね」

ハナ「」

くーちゃん「あ、言ってしまいました」

くーちゃん「ごめんなさい。ハナちゃんの時間、じゃましたくなかったですけど」

くーちゃん「最高においしすぎる料理を食べたとき」

くーちゃん「シェフを呼んで、おいしかったと言いたくなるものじゃないですか?」

くーちゃん「くーちゃんは大人になっても、シェフを呼んで、おいしかったと言います」

ハナ「ふふっ」

くーちゃん「笑わないでください」

くーちゃん「ところで、この生き物は…一体」

ハナ「」すっ

くーちゃん「くーちゃん、指さしてます?」

くーちゃん「……くーちゃんが、どうかしましたか?」
 
ハナ「」サラサラ

くーちゃん「もしかして、くーちゃんを、描いてくれたですか?」


ハナ「」ピタッ


ハナ「・・・・・・・・・・・・・」

ハナ「ごめんなさい」

くーちゃん「なんであやまるですか?」

くーちゃん「くーちゃんは、ハナちゃんに、こんな風に見えてるですね」

くーちゃん「びっくりです。すてきです」

ハナ「///」

もしかしたら、ハナちゃんの見てる世界は、くーちゃんの見てる世界と、違うのかもしれません。
 
つまり、何が言いたいかとゆうと、

くーちゃんは後にも先にも、ハナちゃんみたいな絵を描く人に出会ったことはありませんし、

今でもハナちゃんはくーちゃんにとって世界一の絵描きさんです。

休憩中

くーちゃん「うんてんお疲れ様です」

くーちゃん「うんてん、大変ですか?」

男「免許とるのが大変だったけど、あとは楽勝よ」

男「ん? お前さん、それもしかして!」

男「俺の鹿! 描いてねえか!?」

ハナ「」ビクッ

男「すげえええええええええええええ!」

男「天才だ! こいつは天才だ!」

くーちゃん「くーちゃんのが先にハナちゃんのファンなりました」

くーちゃん「簡単に天才だなんて言葉使わないでほしいです」

男「天才は天才だろう! 後も先もない!」

男「お前みたいな古参ぶっているファンが、新規のファンを遠ざけるんだよ!」

ハナ「ふふふっ」

くーちゃん「ハナちゃん、笑った顔かわいいですね」

ハナ「///」

パラパラパラ

男「こんなにたくさん、すげえ絵が描けるのか」

男「ハナちゃんよ、あんたはすげえ」

男「ここからは俺の想像だ。もし違ってたら、謝らせてくれ」

男「もしかして、あんたはみんなと見えてる世界や色が違うんじゃねえか?」

男「それが怖くて、嫌で、悲しいこともあったんじゃねえか?」

くーちゃん(…その予想は、きっと当たってます)

くーちゃん(むしろ、くーちゃんが、勘違いしてたかもしれません)

くーちゃん(ハナちゃんの夜の底みたいな目には)

くーちゃん(恐れじゃなくて、悲しさが宿っていたのかもしれません)

男「でもな! それでいいんだ!」

男「あんたは違うから最高なんだ! そのことをわかってくれ!」

男「あんたは最高だ!」

ハナ「!!!!」コクコクコク

くーちゃん(きっと、誰かに言ってもらいたかった言葉なのかもしれません)

くーちゃん(誰だって、言ってほしい言葉があるものです)

お兄さんとの旅は、とても楽しかったです。

途中で見つけた駄菓子屋さんでおかしをまとめて買ってくれたり、

河原を見つけて、そこで水切りもやりました。

途中で調子に乗って崖から落ちそうになったり、

飛び去る鳥さんを追いかけて、転んでしまったり、

お兄さんが「眠い」と言い始めて、そのまま何時間もいびきをかきながらお昼寝したり。

まるで子どもみたいでした。

校長先生ほどではないですが、お兄さんのことをくーちゃんとハナちゃんは信頼していました。

格好つける大人より、格好悪いくらいの方が、くーちゃんにはちょうどいいんです。



男「完成だ! 鹿の次男! ミニチュアバージョン!!」

ハナ「」キラキラキラ

くーちゃん「…なんか、いいですね。物が作れるって」

くーちゃん「…くーちゃんには、できません」

男「お前さんにしかできないこともあるんだろ?」

くーちゃん「お前さんじゃないです、くーちゃんです」

男「どっちでもいい。まあとにかくだ」

男「明日の昼過ぎくらいには、きっと海につく」

少しだけさみしそうに、お兄さんは言いました。

お気楽なお兄さんがくーちゃんにとって、見慣れた姿だったので、

少しだけ変な気分でした。

男「くーちゃん、ハナちゃんよ」

男「俺はあんたらを応援してるぜ」
 
くーちゃん(そういえば、くーちゃんたち、お兄さんにトンネルの話をし忘れてました)

くーちゃん(まあよいでしょう。お兄さんはそんなことを説明しなくても、気にする人じゃないです)

くーちゃん(それにお兄さんも、自分の話をあまりしたがりません)

くーちゃん(きっと同じようにお兄さんも、なにかを抱えてたのでしょう)

だから、くーちゃんは言いました。

くーちゃん「とても楽しかったです」
 

素直に感じたこと、そのまま伝えました。

男「俺もだよ。だからさ、あんたらさ」

 そう言ってお兄さんは、くーちゃんとハナちゃんの頭にポンと触れます。

土で汚れた手でしたが、とても温かかったです。

くーちゃんも、たぶんハナちゃんも、お兄さんの手が好きでした。

運転する手、お菓子、食べる手、頭、撫でる手。

とても、優しい手です。

男「続けろよ」

くーちゃんとハナちゃんは頷きました。星と月がきれいな夜でした。

そして、お兄さんとの、最後の車中泊は終わりました。

また明日ノシ



くーちゃん「うみの香りしてきました」

くーちゃん「お魚さんがくさったような、少し生臭い感じですね」

くーちゃん「この匂い、すきです」

くーちゃん「ハナちゃんは海、好きですか?」

ハナ「……うん」

くーちゃん「よいとこです。ここで、ハナちゃん、生まれ育ったですね」

ハナ「……うん」

男「すまねえな! だいぶ時間かかっちまった!」

くーちゃん「だいじょうぶです! 目立たない道ばかり走ってくれたので」

くーちゃん(それに、トンネルはきっと逃げません)

男「まあ長旅も疲れただろ。まとめ買いした駄菓子でも食って元気出せ!」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・」ジーッ

くーちゃん「ハナちゃん、どしたですか?」

くーちゃん「ハナちゃん、気にせず食べるとよいです」

くーちゃん「くーちゃん、おなかへってないです」

砂浜

くーちゃん「つきましたね。ちょっとさむいです」

男「おお…海だ。母なる海。ここだ、ここなら、きっと」

男「うおおおおおおお!」ダッ

くーちゃん「走って行ってしまいました」

ハナ「…うん」

くーちゃん「まあ、さいごのあいさつ、昨日の夜にすませたので、べつによいでしょう」

くーちゃん「ここでさよならでも、お兄さんとくーちゃんたちらしくないですか?」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

タッ

くーちゃん「ハナちゃん?」

くーちゃん「どこいくですか」

男「よし! ここの木材なら、母親の足に…」

ギュッ

男「ん?」

ハナ「…はあ…はあ…」

男「…どした?」

男「運転荒かったか? そのクレームか?」

ハナ「」ブンブン

くーちゃん(どしたのでしょう、ハナちゃん)

くーちゃん(…ハナちゃん、たしかにあのトンネルの絵、描いてました)

くーちゃん(くーちゃんの世界、きっと理解してます)

くーちゃん(だから、一緒にトンネルを探してほしかったです)

くーちゃん(でも、お兄さんとの時間が楽しかったのなら)

くーちゃん(お兄さんのところに行ってくれても、よいかもしれません)

ハナ「あ…え…あ…」

ポン

男「ありがとうな」

「ありがとうな」

ハナちゃんが何か言おうとする前に、お兄さんは言いました。

ハナちゃんの、何かを伝えたい気持ちは、くーちゃんの胸の奥に流れ込んでくる時があります。

トンネルでいるときの感覚に、少しだけ似てました。

お兄さんも、ハナちゃんの思いを。大きくて、温かくて、優しい何かを、受け取ったのかもしれません。


ハナちゃんも深く頷きます。時間が止まったみたいでした。

くーちゃん「お兄さん、今度こそいってしまいましたね」

くーちゃん「よかったですか? ここでさよならして」

ハナ「うん」コクリ

ハナ「続けるって、言ったから」

くーちゃん(ハナちゃんのことば、ゆっくりで、とても小さいです)

くーちゃん(でも、しっかりとくーちゃんの耳まで届きました)

くーちゃん(ハナちゃんなしの旅も覚悟してたのですが)

くーちゃん(やはり旅には頼もしいなかまが必要です)

くーちゃん「まあ、さみしくもなりましたが、センチメンタルになってばかりもいけません」

くーちゃん「くーちゃんたちの旅は、全然終わってないですから」

くーちゃん「さて、島は…多分地図だと…」

ハナ「あ」

くーちゃん「あ!!!!!!!」

くーちゃん「あれです! 名前のない島! 絶対あれです!!」

くーちゃん「あの大きさなら、きっと人もいないか、ほとんど住んでいないかのどちらかです」

くーちゃん「通報される心配もないでしょう。心置きなく、トンネルの向こう側が目指せます」

くーちゃん「ついにです」

くーちゃん「きっとハナちゃんが描いてくれたトンネルがあるのは、あの島なんです」

ハナ「」キョロキョロ

くーちゃん「どうしたですか、ハナちゃん。トイレですか?」

ハナ「ト、トイレも、だけど、それ、より」

ハナ「いきかた、ない、あの島…」

くーちゃん「…たしかに、近くにフェリー乗り場らしきもの、ないですね」

くーちゃん「まあ、名前が地図にのってないんですから、当然かもしれませんが」

くーちゃん「でも、フェリーを選んでしまえば」

くーちゃん「お風呂に数日入ってないぼろぼろの女子中学生客が乗ることになるので」

くーちゃん「確実に通報案件です」

ハナ「…たしかに」

くーちゃん「なので、ちょうどよかったかもしれません」

くーちゃん「くーちゃんたち、この旅を始めてからよいことづくめです」

くーちゃん「となると、ぷらんBですね…なにかいい方法は…」キョロキョロ

くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」

ハナ「?」

くーちゃん「ハナちゃん、くーちゃんの天才的な頭脳に、降りてきました。ひらめきが」

ハナ「…?」

くーちゃん「あそこに」

くーちゃん「ちょうどよい流木があります」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ハナ「え?」

海上

ハナ「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

ハナ「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

ザパーン! ザパーン!

また明日ノシ

TRACK9 海の男

ハナ「いやああああああああ! ぎゃあああああああ!」

くーちゃん「だいじょぶですハナちゃん! 流木ちゃんと! 浮いてくれます!」

ハナ「ぎゃあああああああ!」

くーちゃん「だいじょぶです、ハナちゃん!」

バチャバチャ

くーちゃん「バタ足すれば! 少し早くなります!」

ハナ「いやああああああああああ!」

そんな、くーちゃんとハナちゃんが、たのしい海の旅をしている時でした

ブロロロロ

くーちゃん(…なんでしょう、なつかしい音です)

くーちゃん(たしか、これは)

?「おいなにしてんだお前ら!!」

?「はやくあがってこい!」

くーちゃん(ふねのおとです)

赤い船の上

ハナ「はあ…はあ…」

?「なにしてんだお前ら」

くーちゃん「お前らじゃないです、くーちゃんとハナちゃんです」

くーちゃん「おじさんはだれですか?」

?「…まあ、そうだな」」

?「俺は海の男だよ」

海の男「で、説明してもらおうか。なんであんなことしてたんだ?」

くーちゃん「あの島にいきたいのです」

くーちゃん「そのために、ハナちゃんのリュックもあったので」

くーちゃん「流木につかまったままなら、リュックを背負ってでもいけると考えました」

くーちゃん「くーちゃんの頭脳は天才的なのです」

海の男「溺れ死にてえのか」

くーちゃん「…いけると、おもったです」

海の男「無理に決まってるだろ」

くーちゃん「若さゆえの過ちです」

海の男「でだ、お前さんたちはどうしてあの島に」

くーちゃん「なんで船にギターおいてるですか? 弾くんですか?」

海の男「今それ関係ねえだろ」

カーカー

くーちゃん「カラスさんいるです! かわいいです!!」

海の男「聞けよ」

くーちゃん「あの島に、なまえがなかったので、いくのです」

くーちゃん「ハナちゃんのふるさと近くの島、探したです」

くーちゃん「そしたら、一つだけ、名前なかったからです。それが理由です。だから一つ目、あの島です」

海の男「一つ目?」

くーちゃん「はい。一つ目です。トンネル探すためです。呼ばれたので、向かってるです」

海の男「トンネル……ねえ」ジーッ

くーちゃん「わからなくてだいじょうぶです。とにかくあの島までくーちゃんたちは」

海の男「正解だ」

くーちゃん「?」

くーちゃん「なにがですか? くーちゃんたち、いつのまにクイズしてたのですか?」

海の男「クイズじゃねえよ」

海の男「トンネルだなんだっていうのは、俺にはわからねえが」

海の男「嬢ちゃんたちのゴールはあの島で正解だってことだよ」

くーちゃん「おじょうちゃんじゃないです。くーちゃんです」

くーちゃん「それに、なんでわかるですか?」

海の男「俺が海の男だからだ」

くーちゃん「いみわからないです」

海の男「とにかくだ」

海の男「嬢ちゃん、どこかで見たことあると思ったら」

海の男「植物と話ができる巫女さんじゃねえか」

くーちゃん「」

海の男「ずいぶんと髪を切ったんだな。テレビや雑誌にも取り上げられてただろ」

くーちゃん(いやな情報、もりだくさんです)

くーちゃん(それに、くーちゃんの変装、あっさりばれてるとゆうことです)

くーちゃん(ですが、海の男とここで敵対してしまっても、よいことはありません)

海の男「「そんでだ。なんでそのトンネルを目指しているのか、詳しく聞かせてくれ」

くーちゃん「海の男でもわからないですか?」

海の男「なんでもわかっちまえば、宝くじの当選番号や、競馬の勝つ馬がどれかなんてのもわかるだろ?」

海の男「つまり海の男にも限界があるんだよ。教えてくれ」
 
海の男とゆう言葉、あまり便利じゃなさそうです。

買いかぶりすぎてました。

そんな怖い顔しないでください。余計老けて見えますよ。


くーちゃん「ことばどおりです。トンネル探してるです」

くーちゃん「くーちゃんは、ハナちゃんが絵にかいた、トンネルに続いてる」

くーちゃん「植物さんの世界、行きたいです」

くーちゃん「呼ばれてるです。必要とされてるです」

くーちゃん「だからさがしてるです」

海の男「・・・・・・・ほう」ジー

ハナ「」ビクッ

くーちゃん「なんでハナちゃんのことみてるですか」

海の男「……どこかで見たことあると思えば」

海の男「お前さん、あいつの娘か」

ハナ「」

ハナ「かはっ、は、はあ…」

くーちゃん「海の男、ハナちゃんを、知ってるですか?」

海の男「知り合いの娘だ。何回かこの船にも乗せてたんだがな」

海の男「ずいぶんとでかくなったもんだ」

ハナ「」ガタガタ
 
くーちゃん「ハナちゃん、怖いですか? 寒いですか?」

ハナ「」

くーちゃん(…どっちにしろ楽しくお話できる状況ではなさそうですね)

海の男「で、こいつが描いたトンネルの絵とやらは、どんな絵なんだ。みせてみろ」

くーちゃん「こいつちがいます。ハナちゃんです」

くーちゃん「知り合いなら名前、呼んであげてください」

海の男「お前さんは初対面の人間に対して、ずいぶんと言うんだな」

くーちゃん「おたがい様です。あとお前ちがいます。くーちゃんです」

くーちゃん「とにかく、ハナちゃんの絵、すてきな絵です」

海の男「全然わからん」

くーちゃん「海の男でもわからないですか?」

海の男「言っただろ。同じことを何度も言わさないでくれ」

海の男「海の男もな、見たことがないものはわからねえんだよ」

ハナ「…はあ…はあ…」ごそごそ

くーちゃん「ハナちゃん、もうだいじょぶですか?」

ハナ「」バサッ

海の男「なるほど、こいつか」

くーちゃん(リュックの防水性、すばらしくてよかったです)

海の男「ふむ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん(ずいぶん考え込んでます(

くーちゃん(てっきり、絵についてわからないこと、ハナちゃんに尋ねると思ったのですが)

くーちゃん(もしかしたら海の男、ハナちゃんが気持ちを言葉にするの)

くーちゃん(苦手なこと、知ってたのかもです)

くーちゃん(海の男はそれくらいのはいりょ、できるということでしょう)

海の男「お嬢ちゃん」

くーちゃん「くーちゃんです」

くーちゃん「くーちゃん、おじょうちゃんなんて呼ばれるの、好きじゃありません」

くーちゃん「くーちゃんにはくーちゃんとゆう、かわいい名前があるですから」

海の男「さっきからいやにその名前にこだわるな」

くーちゃん「大切な名前です。だからちゃんと、くーちゃん、呼んでください」

海の男「クウ……クウ、か……ふむ」

海の男「もしかして、空のクウか?」

くーちゃん「なんでわかるですか?」

海の男「俺は海の男だからな」

くーちゃん「わかる範囲とわからない範囲がわからないです」

海の男「なあ、一つききたい」

くーちゃん「はい、なんですか?」

海の男「本気で行くのか?」

くーちゃん「……どういう意味ですか?」

海の男「この絵はすごい絵だ」

海の男「このトンネルの奥深さ。ハナの描いた世界を、俺は素直に尊敬する」

海の男「美しい」

海の男「だが、俺には荷が重い」

海の男「俺には、耐えられない」

くーちゃん「海の男でもですか?」

海の男「ああ、俺が海の男でもだ」

海の男「海の男にも、耐えがたいものだ」

くーちゃん「なんですか、それは。なにが、重たいですか?」


海の男「孤独だよ」

くーちゃん「こどく」

くーちゃん「くーちゃんはこのトンネルに少しだけ、つめたさ、かんじてました」

くーちゃん「けれども、感情より、居心地の良さがあったです」

海の男「あの島に行けば、きっとわかる」

海の男「ハナには、あの島のこと、伝えたことはないはずなんだがな。どこで知ったんだか…」

海の男「まあとにかくだ、それは俺が言葉でこうだって言ったところでわかるもんじゃねえし」

海の男「わかってもらいたいとも思わない」

くーちゃん「なるほど。よいことと思います」

海の男「なんだ。じれったいとか思わねえのか」

くーちゃん「いわないことば、大切な思いだったりします」

くーちゃん「大切なもの、しまっておくの、変なことじゃないです」

海の男「わかってくれて何よりだよ」

海の男「お前さんのことはむかつくガキだと思ってたが、案外筋は通ってるんだな」

くーちゃん「どもです」

海の男「だがな、お前さんの旅には、一つだけ大きな問題がある」

くーちゃん「問題、ですか?」

海の男「この旅は、ここいらで潮時ってことだよ」

海の男はお尻のポケットから、くしゃくしゃになった紙を取り出して、広げました。

そこには、行方不明の中学生、探してますと書かれてて

写真がプリントされていました。

そして、そこに写ってたのは、どうみてもくーちゃんとハナちゃんでした。

また明日ノシ

くーちゃん「…ずっと、気づいてたですか」

海の男「ご丁寧に経緯まで説明してくれたしな。もう自白も同然だ。誤魔化せねえだろ?」

海の男「なあクウ。そしてハナ」

くーちゃん「ちゃんをつけてください。くーちゃんの名前、ちゃん、つけてなんぼです」

くーちゃん「ちゃんがないの、かわいくないです」

海の男「海の男はな、ちゃんをつけて人を呼ばないんだよ」

くーちゃん「それなら海の男、やめて、ふつうの男になってください」

くーちゃん「くーちゃんはくーちゃんです」

海の男「海の男はそれほど簡単に辞められねえんだよ」

海の男「ま、とにかくお前らの旅は、もうやめるべきだ」

海の男「ハナ、お前の親から連絡が入ってたんだよ」

海の男「だいぶ前に会ったきりで、お前さんは覚えてないかもしれねえが」

海の男「海の男の目は誤魔化せねえ」

海の男「まあとにかく、奇妙な偶然もあるもんだな…いや、必然か?」

海の男「子どものためなら、ここまでするのが親だわな」

くーちゃん(…さすがのハナちゃんも、遠く離れた地元に)

くーちゃん(手配書が配られてるなんて思わなかったのでしょう)

くーちゃん(ハナちゃんを責めるわけにはいきません)

くーちゃん(なんにせよこの旅は、そんな簡単にまとめられていいものじゃありません)

くーちゃん(こんなところで戻れるわけがないんです)

くーちゃん(となると、くーちゃんの必殺奥義しかありません)

くーちゃん「このお金で、みのがしてください。100万円くらいあるとおもいます」

くしゃくしゃ

海の男「くしゃくしゃじゃねえか」

くーちゃん「海に入ったので許してください。乾けば使えます」

海の男「いや、中学生に買収されるような、馬鹿な大人だと思ったか?」

くーちゃん「買収させてくれたおじさん、いました」 

失敬、お兄さんでした。ですがこの時訂正してくる本人はいなかったので、許してください。

くーちゃんは嘘、苦手なんです。


海の男「そいつはたぶん馬鹿な大人だ」

怒らないでください。くーちゃんはお兄さんを馬鹿だと、思ったことありません。

だってくーちゃんたちを助けてくれたじゃないですか。

海の男「ふう」カチッ フーッ

くーちゃん「タバコ、からだにわるいです」

海の男「…喫煙者にしかわからない魅力があるんだよ」

海の男「俺は海の男だ」

海の男「だけど、一人の大人でもある」

海の男「大人ってのは、子どもを守るのが仕事なんだよ」

くーちゃん「なら守ってください」

くーちゃん「くーちゃんを守るなら、島、連れてってください」

海の男「そういうわけにはいかないんだよ」

海の男「クウ。そしてハナ。お前さんたちは」

くーちゃん「ちゃん、つけてください」

海の男「お前さんたちは楽しいかもしれない」

くーちゃん「むししないでください」

海の男「大人っていうのは、お前さんたちが想像している以上に」

海の男「お前さんたちを大切に思っているもんなんだ」

海の男「まあ、もちろん例外はあるが」

海の男「少なくとも、お前さんたちは大切に育てられているんじゃないか?」

くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで」

くーちゃん「なんで、そんなことわかるですか」

くーちゃん「もちろん、ハナちゃんのご両親から連絡受けて」

くーちゃん「どれだけ心配しているか、聞いてたんでしょう」

くーちゃん「でも、くーちゃんのことも、ハナちゃんのことも」

くーちゃん「海の男は、何も知らないです」

海の男「わかるさ」

くーちゃん「なんでですか」

海の男「俺が海の男だからだよ」

くーちゃん「おわれないんです!!!!!!!!!!!!!!!!!」

くーちゃん「くーちゃん、嘘、嫌いです!!」

くーちゃん「嘘だらけの毎日なんです!! ずっとずっとそんなまいにちでした!!」

くーちゃん「海の男に何がわかるですか!!!!!」

くーちゃん「くーちゃんの生き地獄を! なにもしらないのに!!」

くーちゃん「勝手なこと! いわないでください!」


海の男「勝手はどっちだこのクソガキ!」

くーちゃん「クソガキじゃないです! くーちゃんです!!」

くーちゃん(もうよいです)

くーちゃん(今すぐ海に飛び込んで、バタ足で島まで行ってしまえば…)

ドン!

くーちゃん「え」

ハナ「」

海の男「ぬわあああああああああああああああああああああああああああああ!」

ザパーン!!!!

くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・ハナちゃん?」

ハナ「…はあ…はあ…はあ…」

くーちゃん「…ないすきっく、です」

海の男「おいこら! 何考えてる!!」バチャバチャ

くーちゃん「ハナちゃん、たしかにくーちゃんたちは逃亡の身です」

くーちゃん「なので軽犯罪の一つや二つ、重ねたところで特にくーちゃんは何も思いません」

くーちゃん「正しいことだけが人生のすべてじゃないですから」

くーちゃん「でも、どうやって島までいくですか?」

ブロロロロロ

ハナ「」

くーちゃん「…ハナちゃん」

くーちゃん「…うんてん、できるのですね」

ハナ「」こくり

また明日ノシ

ブロロロロロ

くーちゃん「…うまいですね、うんてん」

ハナ「えへへ」

海の男「まてえええええ!」ばちゃばちゃばちゃ

くーちゃん「ハナちゃん、なんで運転できるですか?」

ハナ「…おぼえてた、から」

ハナ「あの人の、運転」

くーちゃん「すごすぎます、ハナちゃん」

ハナちゃんは、真剣な顔で船の舵を切って、前進してゆきます。

行き先の島までぐんぐん近づいていました。

途中、飛んでるカモメさんや、海を泳ぐ魚さんたちは、

まるでくーちゃんとハナちゃんを応援しているみたいでした。

縦にぐわんぐわん揺れる船は、空を飛んでるみたいでした。

くーちゃんは、船の先端部へ、好奇心で向かってみました。

揺れているので少し動きにくかったですが、島の方をよく見たかったので、足を止めませんでした。
 
不安定で、まっすぐ立つのは難しかったのですが、

勇気を出して、体を起こして、両手を思い切り広げました。
 
最高に気持ちのいい海風が、くーちゃんの体を吹き抜けていきました。

冷たかったですけど、それがくーちゃんの火照った体を優しく包んでくれたんです。

抱きしめられてるみたいでした。

くーちゃん「ハナちゃん! 最高です! 最高です! すごいですハナちゃん‼」

ハナ「///」

TRACK10 島

くーちゃん「ハナちゃん、島、みえてきましたけど」

くーちゃん「どこにとめるですか?」

ハナ「………砂」

くーちゃん「…すな?」

ザザザザザザザザーーーーーー!!

くーちゃん「…すな、はままで言ってください」

くーちゃん「さすがのくーちゃんでもおどろきました」

ハナ「ごめん」

くーちゃん「なにはともあれ、つきました」

くーちゃん「ここであってるのでしょか」

なんとなく、島とゆうのは、一つの生き物に近い感じがして、

どこからでもトンネルにつながってるような気がしたんです。

じゃりっとした、一粒一粒砂が、くーちゃんのほっぺにふれます。

生臭さや、お日さまの香りが混じった匂いでした。
 

くーちゃんの想像は当たりました。

目を閉じてると、トンネルを感じられました。

暗くて、深くて、風が遠くへ吸い込まれてるような暗いトンネルです。

ですが、ハナちゃんの描いたようなトンネルと、少し、違います。

とゆうより、まだ距離が空いているような、そんな感じです。

けれど、違うトンネルとも言いきれません。

砂浜から感じたトンネルの奥。

底の底から、微かに香りました。

ハナちゃんの絵から感じた少ししょっぱくて、冷たくも、

なにかを求めてるような、来てほしい、という

言葉に近い何かが。

くーちゃん「海の男の、言ってた通りです。ここです。この島です」

くーちゃんは目を開きます。

いつの間にか船から降りていたハナちゃんが、トンネルの絵を畳んで、手に持ったまま隣に立ってました。

くーちゃんは体を起こします。

ほっぺについていた砂が、ぱらぱらと落ちましたが、まだ何粒かくっついたままです。

でもかまいません。

ほっぺにいくら砂がついてようと、くーちゃんの目的に関係ありませんから。

そして、その小さな島の全貌を確認します。

驚きました。

島の中央から、大きな幹と葉が見えたんです。

枝葉は、島全体を覆うほど広がってました。

くーちゃん「きっとあります」

くーちゃん「この島の中央に、とても大きな木が」

くーちゃん「そこが、ごーるです」

くーちゃん「ハナちゃん、ききたいこと、あります」

くーちゃん「その絵、どうして描いたですか?」

くーちゃん「どうして、描けたですか?」

ハナ「・・・・・・・・・・・」

くーちゃん「大丈夫です。変なこと、ちがいます」

くーちゃん「ハナちゃん、にんげんじゃない存在の気持ち、わかる人なんですね」

くーちゃん「だからハナちゃん、この木の思い、受け取ったです」

くーちゃん「この島、見える町で住んでて」

くーちゃん「海の男の船に乗って、あの島、見て、受け取ったんじゃないですか?」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん「ごめんなさいハナちゃん」

くーちゃん「無理に言葉、しなくて大丈夫です」

ハナ「」ぶんぶん

くーちゃん「じゃあ」

くーちゃん「行きましょう」

島の中

くーちゃん「しょくぶつ、ずいぶんのびてますね」

ペタペタ

くーちゃん「虫さんもたくさんです」

くーちゃん「秋にこれなら、夏はもっとすごそうです」

くーちゃん「…ハナちゃん?」

ハナ「はあ…はあ…」

くーちゃん(運転でくたくたになってしまったでしょか)

くーちゃん(さすがにペース、おそめです)

くーちゃん「ハナちゃん、だいじょぶですか!」

ハナ「…大丈夫、おい、つく」

くーちゃん(…ハナちゃんも、必死です)

くーちゃん(きっとハナちゃんも、くーちゃんと同じように、トンネルの呼び声に応えたいのでしょう)

くーちゃん(あの絵を描いて、ここまでついてきてくれたです)

くーちゃん(きっとこの旅の終着に、ハナちゃんは必要なのです)

くーちゃんはそう信じて、ハナちゃんに手を伸ばしました。

くーちゃん「行きましょう! 一緒に!」

ハナ「」プルプル

ガシッ

ハナちゃんを引っぱりながら、くーちゃんはずんずん、島の中を進んでゆきます。

途中でぼろぼろになった木造のお家や、昔使われた階段のようなものがありました。

もしかしたらこの島も、昔、人でにぎわってたのかもしれません。

小さなお墓みたいなものも、たくさん埋められてました。

くーちゃんもこの島で生まれて、生きて見たかったです。

そしたら、もっと早く、大きな植物さんの気持ちに、気づけたかもしれないのに。

一歩一歩、踏みしめてると、森の香りが強くなってきます。

時折、くーちゃんは地面にまた顔をすりつけ、トンネルの片鱗を感じました。

くーちゃん「もう、ちょっとです」

長い長い階段を登って、今度は下りに差し掛かりました。

階段を一段、一段と降りてると、違和感がありました。

あんなににぎわっていた植物さんたちの気配が、一気に消えてしまったんです。

まるで、人ごみから抜け出したような感覚で、とても心細くなりました。

ハナ「あ、あれ、?」

ハナちゃんが久しぶりに声をだして、指をさしました。その方向にそれはありました。

 
大きな木でした。ただ、大きいだけじゃありません

見上げると首が痛くなるほど、とても、とてもとてもとても

高く、静かに、そびえたっていました。

くーちゃん「…ハナちゃん、しゃべりたいこと、あります」

ハナ「」コクリ

くーちゃん「今までくーちゃんはいろいろな御神木さんで感じたことを、歌や舞にしてました」

くーちゃん「ですが、この木は、今までの御神木さんとは全く違います」

くーちゃん「楠だと思います。大きな楠なので、大楠さんです」

くーちゃん「この、方です。きっと、この方です」

くーちゃんは走って近づきました。

とても太い幹は、蜘蛛の足みたいに枝分かれしてます。

柔らかい地面には、深く深く、長い根っこが伸びていることでしょう。

大楠さんの伸びてしまった枝を支えるため、古びた鳥居が何個か作られています。

くーちゃん「…大楠さんだけで、体、支える、たいへんです」

くーちゃん「骨が弱くなったおじいちゃんやおばあちゃんが、杖や車いすを使うのと同じです。

土の奥から匂いがしました。

木の匂いです。大楠さんと似てますが、

少し違います。それに、たくさんです。

たくさんの木の香りがするんです。

もしかしたら、土の中には、大楠さん以外の誰か、まだいるのかもしれません。

ゴロゴロ

ポツンポツン

くーちゃん「…あめ、ですね」

くーちゃん「別にもう関係ありません」

くーちゃん「くーちゃんの目的に、天気なんてどうでもよいです」

くーちゃん「トンネルの中に、雨も晴れもありません。

くーちゃんは、幹を手で触れながら、ゆっくりとお腹を。頭を。ほっぺをぺたりと、くっつけます。

全身で、大楠さんの息吹を感じました。

大楠さんが、やさしいのか、さみしいのか、それもわかりません

目を閉じてくーちゃんは、いつものように、トンネルの中へ入ってゆきました。

じんわり、じんわり、暗闇だらけの瞼の裏に、うっすらと世界が広がってゆきます。

トンネル独特の風の音。土の香り。

トンネルの中のくーちゃんは、トンネルを見るために、ゆっくりと目を開きました。

そこは、ハナちゃんが描いていた世界に、とても似てました。

少しだけ違いはありますが、匂いや温度は、とても近いです。

そして、そこで感じたのは

確かな孤独でした。

くーちゃん「何千年も、大楠さんは見てきたんですね」

くーちゃん「たくさんの植物さんとの出会いと別れ」

くーちゃん「土砂崩れで埋まってしまった、たくさんのお友達。

くーちゃん「そして」

くーちゃん「大楠さんを、切る、切らないかの人の争いです」

くーちゃん「くーちゃん、かみさまなんてしんじてません。でも」

くーちゃん「大楠さんは、神様にさせられてしまったのですね」


くーちゃん「ながくいきてたから、勝手にされたんです」

くーちゃん「とても、とても長い時間です」

くーちゃん「それは、きっとくーちゃんたち人間には、想像できないほど」

くーちゃん「くるしかったですよね。神様、しんどいです」

くーちゃん「いつも、勝手に期待されます。願い事なんて叶えられないのに、勝手に願われます」

くーちゃん「すごく、すごくわかります」

くーちゃん「くーちゃんたちは、よくにています」

くーちゃんは、トンネルにいる意識の中

いつもならそこにとどまって、そのトンネルを全身に感じてました。

でも、同じ場所にとどまってては、大楠さんの芯に触れられません。

今まで知らなかったトンネルの深淵へ向かって、くーちゃんは進むことにしました。

足に力を入れてみました。

ぐっと、右足が踏み出せました。

続けて、左足も、踏み出します。

歩けば歩くほど、曖昧な体の感覚が、確かなものに変わってゆきました。

孤独の風のようなもの、トンネルを進むくーちゃんを包んでゆきます。

とても苦しくて、辛くて、頭が割れそうになりました。

でも、どこか帰ってきた感覚もあるんです。

居心地が悪いわけじゃないんです。

まるで、ずいぶん昔からのお友達と、再会した気分でした。

くーちゃん「誰にも、わかってもらえないですね」

くーちゃん「人間に、あなたの言葉、聴こえませんもん」

くーちゃん「くーちゃんにも、大楠さんの言葉、わかりませんけど」

トンネルの奥まで、くーちゃんは進むことにしました。

一歩一歩、重たくて、苦しくて、その場で何度もうずくまりたくなりました。

くーちゃん「あの、大楠さん、もしかして」

くーちゃん「きてほしい、とゆうきもちと」

くーちゃん「誰もきてほしくないとゆう、二つのきもち、あるですか?」

くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

くーちゃん「そですよね。こたえられませんよね」

キラッ

ポチャ、ポチャッ

くーちゃん「なにかみえます」

くーちゃん「水たまり。でしょか」

くーちゃん「」ソッ

ピチャ

ドロッ

ズブッ

くーちゃん(冷たくて、どろりとしていて、指が奥まで沈んでしまいそうです)

くーちゃん「これは、水たまりでなく」

くーちゃん「沼、ですね」

くーちゃんは、沼に濡れた指先を見つめながら、顔を上げました。

その沼の中に、一本の木が生えています。

茶色くすすけてて、幹からいくつも、皮が剥がれています。

他には、茶色だったり緑色だったり、様々な葉っぱも、幹に張り付いてます。

胸の奥が切なくなるような、どことなく焦げた香りもしました。

くーちゃんはこの木が、あの大楠さんと、同じなんだと、直感しました。

どうなんでしょうね。トンネルの奥の奥まで入ったのは、初めてだったので。

少なくとも、くーちゃんは

今すぐ、大楠さんを抱きしめたくなりました。

くーちゃん「大楠さん」

くーちゃん「くーちゃん、旅に出るとき、感じてました」

くーちゃん「この旅は片道切符です」

くーちゃん「この沼に入ったら、もう戻れません」

くーちゃん「でも、それでよいです」

くーちゃん「一緒に沼に入れる人間がくーちゃんだけなら」

くーちゃん「あなたにくーちゃんのすべてをささげましょう」

 くーちゃんは、沼に、一歩足を踏み入れます。

冷たく、ぬめっとした感触が伝わり、今にも全身が飲み込まれてしまいそうです。

足もずぶずぶと、深く沈んでゆきます。

きっと、両足を突っ込んでしまえば、しばらくしないうちに、完全にくーちゃんは沈んでしまうでしょう。

一歩、一歩、歩きます。

大楠さんを抱きしめられるところにたどり着けるまで、沈み切るわけにはいきません。

十歩ほど、進んだところで

くーちゃんは思い切り沼を蹴るように前方へと体を放り出し

目の前の大楠さんにガバッと、抱き着きました。

森の香りと、焦げた香りと、海の香りがしました。

くーちゃん「大楠さん。これで、さみしくないです」

ずぶずぶ

くーちゃん「…ちから、ぬけてきました」

くーちゃん「あ、大楠さんも沈んでますね」

くーちゃん「そですよねっと、沼から体を浮かし続けるのは、難しいですよね」

くーちゃん「あ」

くーちゃん「そうです。大楠さん、大切なこと、忘れてました」

くーちゃん「おともだち、しょうかいします」

くーちゃん「ハナちゃんです」

くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」

くーちゃん「ハナちゃん?」

くーちゃん(そういえば、トンネルに入ってから)

くーちゃん(一度もハナちゃんの声、聴いてないです」

くーちゃん「ハナちゃん」

くーちゃん「ほったらかしてごめんなさい」

くーちゃん「一緒に沼の底、行きましょう」

クルッ

くーちゃん「あ」

くーちゃん「…ついてきてると思ったんですけど」

くーちゃん「あ、そうです」

くーちゃん「ハナちゃん、トンネルの絵、かいてましたけど」

くーちゃん「いっしょに、トンネルに行けるって」

くーちゃん「一度も言ってませんでしたね」

くーちゃん(…ずいぶん、ハナちゃん、振り回してしまいました)

くーちゃん(もうしわけないです)

くーちゃん「大楠さん。しゃべりたいこと、あります」

くーちゃん「くーちゃん、ここまで来るのに、いろいろな人、助けてくれました」

くーちゃん「くーちゃんのこと、最初にわかってくれた校長先生だったり」

くーちゃん「木で鹿さん、作る変わったお兄さんだったり」

くーちゃん「海の男、自称してる変わった人だったり」

くーちゃん「そんな人たちの力、なかったら、大楠さんに出会えなかったと思います」

くーちゃん「でも、ずっとずっと一緒に来てくれたハナちゃんとゆう友達、いるです」

くーちゃん「ハナちゃんは、あなたの思い、聴いてくれてた思ったんです」

くーちゃん「だからくーちゃん、ここまで来れたです」

くーちゃん「でも、くーちゃんだけでも、よいですよね」

くーちゃん「もう一人いたほうが、にぎやかだったかもしれませんが」

くーちゃん「沼に沈めるの、くーちゃんだけみたいですし」

気が付けば体はずぶずぶと沈んでて、沼の水はあごまで迫ってました。

どうせならハナちゃんも一緒がよかったですけど、だいぶ振り回してしまいましたからね。

くーちゃんの勘違いが悪いんです。

何も言わないことが、イエスとは限らないんです。

いつだってくーちゃんは、早とちりなんですよ。

くーちゃん「それに、ハナちゃんは元の世界に残った方がよいです」

くーちゃん「大楠さん、ハナちゃんは、とても絵が上手です」

くーちゃん「きっと、世界中に絵を見てもらったほうがよいです」

くーちゃん「あと、ハナちゃん、めちゃくちゃかわいいんです」

くーちゃん「きっと素敵な人と出会って、愛し合うこともあるかもしれません」

くーちゃん「あ、でもくーちゃんには、愛とか恋はよくわかりません」

くーちゃん「ですが、愛し合う二人は幸せだと、聞いたことあります」

くーちゃん「もちろん、ハナちゃんと沈めたら幸せですけど」

くーちゃん「それよりもっともっと、すごい幸せになる権利が、ハナちゃんにもあります」

くーちゃん「ハナちゃんの幸せの方が、ずっとずっとたいせつです」

だってくーちゃん、ハナちゃんのこと、大好きなんですから。

だから、沼に一人で沈む決心がつきました。

気が付けば頭の先まで沼に沈んでて、

目の前はどんどん茶色く染まってゆきます。

体のどこもいたくなかったです。苦しかったはずの冷たさは、心地よさにかわってました。



この沼で永遠の時、刻んだりして、
いつしか人間だったこと、忘れて、
自分の
手とか
足とか
体とか
頭とか
血液とか
骨とか
神経とか
心臓とか
脳みそとか
爪とか
鼻とか
目とか
口とか
そういうくーちゃん構成するすべて、曖昧な世界、溶けてって、
そうしたら、このたった一人で何千年も、孤独な時間に耐え続けてた大楠さん
幸せなんじゃないかとか、そういうこと考えてたりして
そして、そして、そして、そしてそしてそしてそしてそしてそしてそしてそしてそしてそしてそしてそして
くーちゃんは、くーちゃんはくーちゃんはくーちゃんはくーちゃんはくーちゃんはくーちゃんはくーちゃんはくーちゃんはくーちゃんは
、、、、、、えっと、、、、

あ             
れ、

   、なん 、、、、
                、、でしたっけ。




また明日ノシ

ムグ



むぐ



じわあ…



?????


あれそうだ、、
そうだ、、、
そうだ。。。。

ひろがってきたです

じんわり、じんわり

あたまのなかやら

からだやらが、すべてふわふわでどろどろ、なりつつあったとき、

くちのなか、なにかが、ひろがったです

すごくすごく、すっっっごく

あまかったです。

なつかしいです。

あのおかし、えっと、そです

あれです

TRACK12 チョコレート

むぐむぐ

くーちゃん(チョコレートです、おいしいです)

ポタ、ポタ

くーちゃん(なんか、おちてきてます)

くーちゃん(あめ、ですかね)

くーちゃん(たしか、げんじつで、あめ、ふってました)

くーちゃん(あれ、でも)

くーちゃん(しょっぱいです)

くーちゃん(うみ、でしょか)

くーちゃん(もしかしてくーちゃんしらないうちに)

くーちゃん(くーちゃん、ぬまの、そこのそこまでしずんでて)

くーちゃん(そこがうみとつながってて)

くーちゃん(くーちゃんも、おおくすさんも)

くーちゃん(うみのいちぶに)

くーちゃん(なったのですかね)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さん」

くーちゃん「?」

「・・・・・・・・・・・・・・・ま、さん」

「・・の・・・・・・・・・・・・・・・ん」

くーちゃん(きこえます)

くーちゃん(すごく、かわいいこえ)



「あまのさん!!!!!!!!!!!!!!!!」

しょっぱかったの、雨でも海でもなかったです。

ハナちゃんが泣いてるだけでした。

くーちゃんの口にお菓子、詰め込まれてるだけでした。

チョコレートです。それがチョコレートだったです。

おいしかった。

おいしかった。

おいしい。

おいしい。

ああ、そうです。

くーちゃんはそのとき、人間の世界に戻ってこれたんです。

ハナ「だめ! だめ!」

ハナ「だめなの! だめなの!」

くーちゃん(なにが、だめですか?)

くーちゃん(あ、くち、うごきません)

くーちゃん(そういえば、くーちゃん)

くーちゃん(このたびで、ずっと、おみず、のんでません)

くーちゃん(たべものも、なにもです)

くーちゃん(おにいさんのくれただがしも、すぐに吐いてました)

くーちゃん(わすれてました、くーちゃん)

くーちゃん(そだちざかりでした)

くーちゃん(くーちゃんは、もう、ガソリン切れでしたか)

実際、大楠さんのトンネルにいたくーちゃんの呼吸は、

止まってたとハナちゃんが後から教えてくれました。

くーちゃんの肌に

ぽろぽろとハナちゃんの涙が伝います。

とてもしょっぱくて、チョコで甘くなった口の中には

ちょうどよかったです。

だからハナちゃんが泣いてるのは、全然悪い気分じゃなかったですよ。大丈夫です。

そこから、ハナちゃんはこんなことを言ってくれました。

今でもよく覚えてます。

ハナ「天野さん、天野さん、ごめんなさい」
   トンネルなんてわからないの。
   トンネルなんてよくわかんなかったし、
   どういうことなのか全然わかんないの! 
   植物の声も聞こえてないし、聞き届けたわけでもないの。
   描いちゃったの。
   描きたかったの。
   描いたら、近づけると思ったの。
   天野さんはね、すごく素敵なの。
   天野さんのインタビュー、全部読んだ。
   テレビの録画も全部見た。
   本当に本当に、すごくかっこよかった! 
   私の知らない世界。感じられない世界。
   
   私はふつうの人だから。天野さんみたいにすごくないから!
   
    学校に行けなくなって、それでも天野さんみたいな素敵な人がいるなら
    学校行けそうだって思って、
            それで天野さんの学校に転校したの! 



   天野さんと同じ学校なら、生きていけそうだって思ったの! 


               天野さんの世界を絵にして、
 
                              そしたら天野さんに

少しでも近づけるんじゃないかって、




ずっと描いてた! 


天野さんが見てるトンネルってこんなのかなって、

  きっと天野さん気に入ってくれるって! 

 でも見せる勇気なくて。いつか見てもらえるんじゃないかって
 
、ずっとずっと描いてて、
                  そしたら、たまたま見てくれて、

  すごくうれしくて。まさか一緒に旅までしてくれるなんて思ってなかった!


 すごくうれしかったの! 



世界で一番幸せだった! 



私も、天野さんと一緒に、トンネルの向こう側に行きたかった。



もっともっと面白い世界が見れて、わたしだってすごい素敵な人間になれるんじゃないかって。

みんなとうまくやれない私でも、



幸せになれるって思った! 

それで死ねるんなら、それでよかった!

 でも、だめ! だめ! だめなの! 

えっと、
   えっと、
       えっと

 だって、
         だって、

                  ここまで、わたし、



                         わたし、」

そこからハナちゃん、ずっと泣いてました。

なにがどう、だめなのか、それをくーちゃんは聞きたかったですけど、

きっとハナちゃんには泣く時間が必要でしたし、

くーちゃんもいつの間にか泣いてたので、

二人ともそういう気分だったんです。

くーちゃんたち、ふたりとも泣き虫ですね。

くーちゃん(けっきょく、げんじつのせかいです)

くーちゃん(ゴール、ちかかったんですけどね)

くーちゃん(このまま目、閉じれば、きっと戻れます)

くーちゃん(くーちゃんの、いきたかった、ゴールです)

くーちゃん(げんじつなんかより、おおくすさんとの沼、よいなと思ってたんですけど)

くーちゃん(でも、なんだか)

くーちゃん(ハナちゃんとの時間が終わるの、さみしいですね)

お母さんの顔が浮かびました。

あんなに必死でくーちゃんが行くのを止めてて。

きっと、くーちゃんにとってのハナちゃんみたいに、

ほんとにくーちゃんを大切にしてくれてたんだなと、今更ながら思いました。

校長先生の顔が浮かびました。

くーちゃんの大切にしてたことを、一番最初にわかってくれて。

誰かに分かってもらえることの幸せを知りました。

おいしゃさんの顔もうかびました。

なんだかんだ、ずっと話を聞いてくれました。

お仕事とはいえ、すごいこととおもいます。

鹿のお兄さんの顔が浮かびました。

自信をもって何かを続けること

それが何につながるか、そんな大層なことを考えるのは横に置いておいて

ただ続けること。

きっとそれが大切だって、伝えてくれました。

ほんとに、素敵な人です。

海の男の顔が浮かびました。

くーちゃんも誰かに大切にされてることを、思い出させてくれました。

あのときくーちゃん、反発したですけど、今なら、なんとなくわかります。

海の男も、くーちゃんを大切にしてくれてただけだったです。

そして、誰かの手の温もりを思い出しました。

くーちゃん(あれ、さいごの、だれのことでしょう)

くーちゃん(顔も思い出せません)

くーちゃん(でも、そのぬくもりがあったから)

くーちゃん(くーちゃんは、くーちゃんな気がします)

くーちゃん(沼の底にいったら、おわかれです)

くーちゃん(みんなと、おわかれです。もうあえなくなります)

くーちゃん(大楠さんの孤独、癒したいと思ってたんですけどね)

くーちゃん(もしかしたら、くーちゃん)

くーちゃん(とても、はくじょうな人間かもです)

くーちゃん(ごめんなさい、大楠さん)

くーちゃん(大楠さんのいた沼より)

くーちゃん(ハナちゃんの涙で溺れてしまう方が、気持ちよさそうです)

くーちゃん「ハナちゃん」

ハナ「……天野さん?」

くーちゃん「ちがいます」

くーちゃん「くーちゃんです。ハナちゃん」

くーちゃん「それが、くーちゃんの名前です」

くーちゃん「くーちゃんの世界一かわいい名前です。

ハナ「くーちゃん、くーちゃん」

何度も何かを確かめるように、ハナちゃんはくーちゃんの名前を呼びました。

呼ぶたびに、ハナちゃんの両腕が、くーちゃんを強く、強く、

ぎゅうううっと、抱きしめてくれます。

くーちゃんはハナちゃんが大好きでしたが、

どうやらハナちゃんもくーちゃんのこと、好きだったみたいです。誰かにこんなにも好かれるなんて思ってませんでした。嘘ばかりついて、くーちゃんは自分のことを嫌いになりそうだったですけど。どうやらハナちゃんだけは何があってもくーちゃんのこと、嫌いにならなさそうです。

くーちゃんという変な人間も、そんなに捨てたもんじゃないなって、思えました。

それに






大好きな子に名前を呼んでもらえるの、最高の気分です。

また明日ノシ

だいぶ冒険も終盤です。

みなさんしばらくお付き合いください。

海の男「なに寝転んでんだクソガキども」

くーちゃん「あ」

くーちゃん「びちょびちょですね」

海の男「そりゃ、泳いできたからな」

くーちゃん「さすがです、海の男」

海の男「まず謝れクソガキ」

ハナ「…ごめんなさい」

くーちゃん「たしかに、この件の過失はハナちゃんです」

海の男「ちょっとはお前も悪びれろ」

海の男「で、トンネルは見つかったのか?」

パンパン

くーちゃん(大楠さんに、合掌してます)

くーちゃん(てっきりさっさと連れ戻されるかと思いました)

くーちゃん「はい、みつかりました」

くーちゃん「この島の、大楠さんのトンネルです」

くーちゃん「海の男の言う通りでした」

くーちゃん「とても長い間、さみしがってました」

くーちゃん「ただ、そこに生えてただけなのに、いろいろ勘違いされて」

くーちゃん「持ち上げられて、勝手に絶望されて、もううんざりしてる感じがしました」

海の男「お前のトンネルに入る力ってのは、眉唾じゃねえみたいだな」

海の男「お前の言う通りだよ」

海の男「大昔は、この島にも人がいた」

海の男「この大楠も、御神木として崇められた」

海の男「たくさんの人が崇拝したよ。だけどな」

海の男「土砂崩れで、木の半分や、島民の家やらが埋まっちまった」

海の男「言われちまったよ。大楠の祟りだってな」

くーちゃん「そんなのありえません」

くーちゃん「祟りなんて、起こせるものじゃないです」

海の男「神様ってのは祟りを起こすらしいぞ」

くーちゃん「そんなの神様じゃありません」

海の男「ああ」

海の男「俺もそう思うよ」

海の男「で、だ」

海の男「満足したか?」

くーちゃん「微妙です」

くーちゃん「もう1回いってきます」

海の男「」

ハナ「いやいやいやいやいや!」

ハナ「く、くーちゃんだめ! まじで死んじゃう!」

ハナ「呼吸とまってたんだよ!」

海の男「どこまでもやべえやつだなお前」

くーちゃん「だいじょうぶです」

くーちゃん「ちゃんと戻ってきますから」

くーちゃん「あとハナちゃん」

くーちゃん「ちょっと雰囲気変わりましたね」

ハナ「え、そう?」

くーちゃん「では」

くーちゃん「いってきます」

くーちゃんはそう言うと、大楠さんの幹に再び近寄り、目を閉じます。

現実の世界の音と空気が遠くなり、またさみしい風と冷たい香りが漂い始めます。

くーちゃんは、さっきまでいたトンネルに降りてゆきました。

くーちゃん(…しずかですね)

くーちゃん(あ、でも、そんなにさむくないです)

くーちゃん(あったかいです)

くーちゃん(沼も、こんなに近くなかったです)

くーちゃん(それに)

くーちゃん(ずいぶんと小さくなりました)

くーちゃん「大楠さん。呼んでくれてうれしかったです」

くーちゃん「でもくーちゃん、もう少しあっち側、います」

大楠さんは何も言いません

引き留めても来ませんし、応援もしてません。

でもそれでよいんです。

くーちゃん「でも、約束します」

くーちゃん「また来ます」

このトンネルでは、何も聞こえません。

他のトンネルなら、不思議な音がたくさん響いてて、メロディになってることが多いんです。

トンネルの植物さんが歌いたいから、きっとそんな音が流れてたんです。

だからきっと大楠さんは、歌いたい気分じゃなかったんでしょう。

でもくーちゃんは、歌いたくてたまりませんでした。

歌わないと、頭の中の何かがはじけ飛びそうだったので。

だから歌いました。

くーちゃんの感じた音を、言葉を、口にして。

大楠さんは、相変わらず何も言いません。

でも、それでよいんじゃないかって思いました。

気が付けばくーちゃんは、トンネルから現実に戻ってました。

沼の香り、さみしい風は、もうありません。

お日さまの光、気持ちよかったです。

そして、歌の続きを寝そべったまま歌います。

空に溶けてくみたいに、歌は、高く高く響き渡ります。

それがくーちゃんの耳から全身に広がっていって、とても気持ちよかったです。

嘘の歌は嫌いでしたが、誰かのための歌なら、好きになれそうだなって。そう思いました。

ハナちゃんも海の男もそんなくーちゃんの歌を、じっくり聴いてくれました。

すると、ハナちゃんは、地面に落ちている枝を、突然手に持ちました。

そして、湿った土を、絵具みたいにつけて、

地面に置かれたトンネルの絵に、枝をふれさせて、

そのまま何かを描き始めました。

丸、三角、不思議に枝分かれした線、ぐるぐるうずまき、

何、描いてるのか、今一つピンときません。

それはくーちゃんだったのでしょうか。

それとも大楠さんだったのでしょうか。

それとも、ハナちゃん自身だったのでしょうか。

きっと、ハナちゃんにしかわかりませんし、言葉にするのは何か違うから、絵にしたんでしょう。

ずっとずっと見てたくなりました。

別に本人に確認したわけじゃないですけど、

ハナちゃんは、最高の絵描きさんになる。

そう思いました。

海の男「ほら、お前らロクなもん食ってねえんだろ」

海の男「これでも食え」ごそごそ

くーちゃん「おにぎり」

くーちゃん「手作りですか?」

海の男「ああ、海の男特性おにぎりだ」

むぐむぐ

くーちゃん「ちょっと塩が多いです」

海の男「文句言うんじゃねえよクソガキ」

ハナ「」にこにこ もぐもぐ

くーちゃん「ハナちゃん、ほっぺたついてるです」

ハナ「えへへ」

海の男「…お気楽な奴らだ」



海の男「ったく、砂浜にこんな雑に乗り上げやがって…」

海の男「運転できるんなら上陸の仕方も勉強しとけ」

ズザザザザ

ハナ「ごめんなさい…操縦してるとこしか、見たことなくて」

カーカー

海の男「だまれクソガラス!」

くーちゃん「海の男、カラスさんのことば、わかるですか?」

海の男「ああ、海の男だからな」

くーちゃん「いみわかりません」

海の男「おまえさんのトンネルの力とおなじだよ」

海上

くーちゃん(…さすがに、ちょっとつかれましたね)

ハナ「眠いの? くーちゃん」

くーちゃん「かもしれません」

くーちゃん「くーちゃん、食べてないだけじゃなかったです。夜、眠ってなかったです」

ハナ「ちゃんと寝なきゃだめだよ」

くーちゃん(大楠さんの前で、たくさん喋ってから)

くーちゃん(ハナちゃん、別人みたいに、喋ってます)

くーちゃん(でも、明日には無口なハナちゃんに戻ってしまう可能性、ありますね)

くーちゃん「ハナちゃん」

ハナ「なに? くーちゃん」

くーちゃん「しゃべりたいこと、あります」

ハナ「なに?」

くーちゃん「ハナちゃん、素敵な人です」

ハナ「…え?」

ハナ「ど、どうしたの、急に」

くーちゃん「無口なハナちゃん、素敵です。絵を描くハナちゃん、素敵です」

ハナ「えへへ、ありがとう」

くーちゃん「だから、学校に行けなくなるほど、ハナちゃん、つらい思いをしてたのだとしたら」

くーちゃん「なんだか、くーちゃん、悲しくなりました」

くーちゃん「くーちゃんには友達がいません」

くーちゃん「普通のフリをしてるとき、遊んでくれる人はいました」

くーちゃん「でも、それは友達じゃなかったです」

くーちゃん「だって、その時のくーちゃんを、くーちゃんは好きじゃなかったですから。

くーちゃん「くーちゃん、学校、嫌いです」

くーちゃん「みんな、楽しいと思えるお話、遠足、修学旅行」

くーちゃん「お休みに遊ぶ、全部全部、くーちゃん、楽しめません」

くーちゃん「楽しいフリする、うんざりする時間でした」

ハナ「うん」

ハナちゃんは、そっとくーちゃんの手を握ってくれました。

とても暖かかったです。

ほんのりチョコレートの香りがしました。

くーちゃん「学校に行けなくなったハナちゃん、きっと間違ってないです」

くーちゃん「何があったのか知りませんけど、ハナちゃんがそうしたの、きっと間違ってないです」

ハナ「うん」

くーちゃん「えっと、だから、なんだって、話なんですけど」

くーちゃん「くーちゃんと、巻き込まれたハナちゃん」

くーちゃん「警察とか、先生とか、家族に、とても怒られます」

くーちゃん「学校、また通うことなります」

くーちゃん「それはくーちゃんにとっても、ハナちゃんにとっても」

くーちゃん「あまり楽しい時間じゃないとか、思ったですけど」

くーちゃん「でも、くーちゃんは」

ハナ「私ね」

ハナ「私、くーちゃんとなら」

ハナ「一緒に遠足とか、修学旅行とか、文化祭とか、お休みの日に、一緒に遊んだりとか」

ハナ「すっごく、楽しい気がする」

船のエンジンの音、カラスの鳴き声、海のばしゃばしゃとゆう音が混じります。

とてもきれいな音でした。

もしかしたらハナちゃんには、その音に色がついて見えるのでしょうか。

とてもキラキラした目で、空や海を見つめてました。

そのハナちゃんの笑顔が眩しくて、まるで太陽みたいでした。

くーちゃん「ハナちゃん、くーちゃんのこと」


くーちゃん「素敵とか、すごいとか言ってましたけど」

くーちゃん「少なくとも、ハナちゃん、くーちゃんの何倍も素敵と思います」

くーちゃんがそう言うと、ハナちゃんはいつもみたいに顔を赤くして、うつむきました。

やっぱりハナちゃんは、こうでなくっちゃです。

TRACK13 旅の終わり

また明日ノシ



くーちゃん「結構警察来てますね…」

海の男「まあ、それだけのことしたんだからな」

ハナ「…あ」

ハナ「おかあさん」

くーちゃん「くーちゃんのお母さんも来てます」

くーちゃん(ハナちゃん、もうおかあさんのところ走っていきました)

くーちゃん(海の男とも何か話してますね)

くーちゃん(やさしそうな、家族です)

ガバッ

くーちゃん「…おかあさん、くるしいです」

お母さん「…ねえ、くーちゃん」

お母さん「…痛かった? 腕」

くーちゃん「だいじょぶです、お母さん。もう全然いたくないです」

くーちゃん「腕のことより、くーちゃんは喋りたいこと、あります」

くーちゃん「大げさかもしれませんが、くーちゃん、人生で最高の旅、しました」

ぎゅっ

くーちゃん(汗の香りがします。海みたいです)

くーちゃん(くーちゃんの好きな香りです)

くーちゃん「それで、思ったです」

くーちゃん「いろいろ嫌なこともありましたけど、やっぱりくーちゃん、お母さん大好きです」

くーちゃん「お母さん、心配かけたくなくて、色々頑張ってました」

くーちゃん「でも、くーちゃん、もう嘘、嫌です」

お母さん「…そう」

お母さん「…わかったわ」

くーちゃん「しんぱいかけて、ごめんなさい。おかあさん」

お母さん「心配かけたのは、わたしだけじゃないわよ」

くーちゃん「誰ですか?」

?「心当たりは、ありませんか?」

くーちゃん「あ」

くーちゃん「校長先生」

校長先生「山に行くとは聞いていましたが、大冒険に出るとは聞いていませんでしたよ」

校長先生「まあ、なにはともあれ、長旅お疲れさまでした」

くーちゃん「おこらないですか?」

校長先生「それは別の人の仕事です」

校長先生「あとでたっぷり、怒られてください」

くーちゃん「わかりました」

くーちゃん「ところで校長先生」

校長先生「はい、なんでしょう」

くーちゃん「しゃべりたいこと、あります」

校長先生「はい、どうぞ」

くーちゃん「ハナちゃんは、島にある大楠さんの言葉、聴こえたわけじゃありません」

くーちゃん「でも、島の大楠さんのトンネル、ハナちゃんの絵、そっくりでした」

くーちゃん「呼んでいることも、伝わってきたです。なぜでしょう」

校長先生「ふむ」

校長先生「校長先生の意見よりも」

校長先生「この旅を続けたあなたの方が、いい答えをもってそうです」

校長先生「先に、あなたのお話を聞かせてもらえませんか? くーちゃん」

くーちゃん(くーちゃんとよんでくれました)

くーちゃん(うれしいです)

くーちゃん「多分なんですけど、たまたま、同じだったから、呼ばれたと感じただけだと思います」

校長先生「同じ?」

くーちゃん「ハナちゃんも、大楠さんも。くーちゃんも」

くーちゃん「みんなつぶされそうで、誰かに来てほしかったのかもしれません」

校長先生「なるほど。続けてください」

くーちゃん「きっと、くーちゃん、ハナちゃん、大楠さん、似た者同士です」

くーちゃん「似た者同士、集まるんです」

くーちゃん「類は友を呼んだ。ただそれだけの話じゃないでしょか」

校長先生「ふふふ」

校長先生「素敵な答えですね、くーちゃん」

くーちゃん「あたりまえです。くーちゃんの頭脳は、天才的なのです」

お母さん「くーちゃん、そろそろ行くわよ」

お母さん「警察の人が、お話をしましょうだって」

くーちゃん「楽しくはなさそうですね」

お母さん「あたりまえでしょうが」

海の男「まあ、そう言ってやんな」

お母さん「あ…」

海の男「よう」

海の男「久しぶりだな」

海の男「でかくなったじゃねえか、この子も」

お母さん「…そうですね、おかげさまで」

海の男「なんの心配することはねえよ」

海の男「ふつうの、いい子だよ」

お母さん「………」

お母さん「ありがとうございます」

くーちゃん(…知り合い、だったのでしょうか)

くーちゃん(まあよいです)

くーちゃん(海の男にも、お母さんにも)

くーちゃん(それぞれ、物語があるだけです)

5年後、病院

くーちゃん「といった感じです」

医師「…ハードすぎるね、いろいろと」

くーちゃん「ありがとうございます」

医師「褒めてないよ」

医師「戻ってからは、どんな感じ?」

くーちゃん「まあ、普通の毎日です」

くーちゃん「でも植物さんとの時間は、堂々と過ごすようになりました」

くーちゃん「道端の植物さんにもくーちゃんは挨拶します」

くーちゃん「素敵なお花さんがいたら、トンネルを感じたいので寝そべります」

くーちゃん「周りの人も、くーちゃんがそんなことをするの」

くーちゃん「当たり前のこととわかってくれてるので、注目されることもありません」

医師「…そっか。仕事にはせず、自分の時間として、過ごすようにしたんだね」

くーちゃん「正直助かりました。おかしいも、日常になれば普通なんです」

医師「ハナちゃんの方は、どうなったの?」

くーちゃん「無口ですね」

医師「…なるほど」

くーちゃん「あ、でも、たまに笑うよになりました」

くーちゃん「あと、堂々と絵を教室で描くようになりました」

医師「周りからはどんなリアクション?」

くーちゃん「ハナちゃんの絵、すごいので」

くーちゃん「注目浴びること、ありましたけど、ハナちゃんはあまり気にしていません」

医師「…彼女も変わったんだね」

くーちゃん「しいて言えば」

くーちゃん「一度だけ、「変な絵」って言ってきたクラスメイトに」

くーちゃん「思い切り回し蹴りを喰らわせてました」

医師「バイオレンスすぎない?」

くーちゃん「さすがくーちゃんの大好きなハナちゃんです」

医師「でも、たしかに彼女の絵は、評価されてたみたいだね」

医師「17歳にて、多くの賞を取っている」

くーちゃん「そうなんです。なんだかすごいコンテストで、なんだかすごい賞、とってました」

くーちゃん「くーちゃんもその展示会に行きました」

くーちゃん「色んな人、ハナちゃんの絵を見て、感動してました」

くーちゃん「新参者がなに安っぽい涙を流してるんだと思いました」

医師「新規のファンに厳しすぎるよ」

くーちゃん「あれですよ。好きなミュージシャンが、売れ始めてから急に熱が冷めるあれです」

くーちゃん「それ言ったら、ハナちゃん、また照れくさそうにうつむくだけでした」

くーちゃん「肝心な時に何も言わないんです。それがハナちゃんのよいところです」

医師「なるほどね」

医師「他にはまだあるかい?」

くーちゃん「はい、まだまだあります」

くーちゃん「ハナちゃんとの学校生活、とても楽しかったです」

くーちゃん「はい、あの船でお話した通り、たくさんの思い出、作りました」

くーちゃん「遠足だって、休み時間だって、お休みの日だって、修学旅行だって、全部楽しかったです」

くーちゃん「でも、くーちゃんが修学旅行先の沖縄で海を見て」

くーちゃん「また丸太に乗ろうとすると全力で止めてきました」

医師「そりゃ止めるよ」

くーちゃん「ハナちゃんは心配性なんです」

医師「僕でも止めるよ」

くーちゃん「まあでも、そろそろゆきます」

くーちゃん「最後になりますので、今度こそ」

くーちゃん「ハナちゃんと、やくそくしてます」

医師「やくそく?」

くーちゃん「くーちゃん、そろそろお引越しするので」



ハナ「小型船舶の免許って、難しかった?」

くーちゃん「まあ、ぼちぼちです」

ハナ「でも、上手だね、くーちゃんの操縦」

ハナ「ダンさんよりうまいかも」

くーちゃん「ダンさん?」

ハナ「海のおじさん」

ハナ「海野男って、書いて、ウミノダンさん」

くーちゃん「本当に海の男だったんですね」

くーちゃん「ただの変なおじさんだと思ってました」

ハナ「くーちゃんに言われたくないと思うよ」

ハナ「運転免許は?」

くーちゃん「落ちました」

ハナ「なんかごめん」

くーちゃん「12かいおちたので、やめました」

ハナ「わざわざ言わなくていいよ、大丈夫だから」

くーちゃん「くーちゃんは陸より海の方が向いてるようです」

くーちゃん「それに自動車免許、引っ掛け問題が多すぎます」

くーちゃん「なんですか、夜は気を付けて運転をしなければいけないとゆう問題で」

くーちゃん「答えがバツだなんて。ふざけてます」

くーちゃん「昼も夜も気を付けて運転しなければいけないなんて」

くーちゃん「くーちゃんは一休さんじゃありません」

ハナ「その問題は私も理不尽だと思う」

ハナ「くーちゃんは、本当に、島で、暮らすの?」

くーちゃん「はい。大楠さんとの約束です」

くーちゃん「畑とか、漁については、色々準備をしています」

くーちゃん「自給自足とゆうのは、結構大変らしいので」

ハナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか」

くーちゃん「ハナちゃんは、卒業してどうするか、決めたですか?」

ハナ「…そうだな…」














ハナ「私も、島、行こうかな」

くーちゃん「だめです」

ハナ「え、だ、だめ?」

くーちゃん「全然だめです。一緒に島なんて、ありえません」

ハナ「ど、どうして? 一緒に、旅だって、したし」

くーちゃん「一緒に旅、したからです」

くーちゃん「くーちゃんは大楠さんとの約束、交わせました」

くーちゃん「くーちゃんは、自分の人生、決めたんです」

くーちゃん「ハナちゃんも、ちゃんと自分で決められるはずです」

くーちゃん「ハナちゃんの喋る量、少しだけ増えました」

くーちゃん「でも、言葉にしない情報の方が、ハナちゃんのことがわかります」

くーちゃん「苦しそうな顔の人と、島で一緒に暮らすことはできません」

くーちゃん「ハナちゃん。本当にやりたいこと、ないですか?」

 ちゃぷん



                    ちゃぷん


          ちゃぷん

ハナ「くーちゃん」

くーちゃん「はい、なんでしょう」

ハナ「喋りたいことがあるの」

ハナ「旅に出たいの」

くーちゃん「…とてもすてきです」

くーちゃん「くーちゃんは、ハナちゃんの旅を応援してます」

ハナちゃんの旅の目的は、特に尋ねませんでした。

もちろん興味はありました。

でも、ここで深堀して、言葉にさせてしまうと

せっかくのハナちゃんの持ち味が台無しになるって思ったんです。

言葉にする大切さがあれば、言葉にしない大切さを知ってるハナちゃんには、よい配慮と思いませんか?

誰だって喋りたいことを喋ればよいんです。

喋りたくないことなんて、喋らなくてよいんですよ。

くーちゃん「反対されても気にしなくてよいです」

くーちゃん「だって、海の男、突き落として」

くーちゃん「船、ジャックしたです」

くーちゃん「ハナちゃん、なんだってできますよ」

ハナ「それ言うのやめてくれない⁉」

そう言ってハナちゃんとくーちゃんは、笑いあいました。

そして、卒業してからくーちゃんとハナちゃんは

離れ離れになりました。

また明日ノシ

TRACK14 沼の底

くーちゃんとハナちゃんは、それからずっと、長い間会うことはありませんでした。

お互いその頃携帯電話は持ってませんでしたし、手紙を書く習慣もなかったので

繋がる手段が、なかったんです。 

くーちゃんは島での暮らしを始めました。

慣れない畑作業や、海の男の漁の手伝いをしながら

くーちゃんは毎日、大楠さんのところへ行ってました。

そして、くーちゃんは大楠さんに抱き着いて、あのトンネルの世界の奥へ進んでいました。

相変わらず暗くて大きくて、さみしくて、でもどこか居心地のよい、不思議な場所でした。

くーちゃん「…沼、もっと大きかったはずなんですけど」

くーちゃん「小さな水たまりになってますね」

ぴちょん

くーちゃん「沈むほど、深かったはずですけど」

くーちゃん「においも、なくなりました」

くーちゃん「でも」

くーちゃん「あなたは変わらずいるのですね、大楠さん」


くーちゃん「ねてるのですか? おきてるのですか?」

くーちゃん「前みたいに、何かを求める感じでもないですね」

くーちゃん「どうしてでしょう。なにもわかりません」

くーちゃん「ただそこにいるだけって感じですね」

くーちゃん「…あの、よかったら」

くーちゃん「歌でも、歌いましょうか?」

くーちゃん「これから、毎日うたいます」

くーちゃん「毎日、違う歌です」

くーちゃん「くーちゃん、きっと大楠さんより早く死んでしまいます」

くーちゃん「大楠さん、これからも、とても長く長く、生きてゆくことでしょう」

くーちゃん「だから、毎日、たくさん歌を届ければ」

くーちゃん「大楠さん、当分の間、退屈しないでしょ?」

くーちゃん「それくらいなら、くーちゃんでもできそうです」

くーちゃん「大げさかもしれませんが、くーちゃんのトンネルを感じられる力」

くーちゃん「このためにあったんですね」

毎日毎日

そんなことを続けていたのです。

たまに海の男の漁、手伝って

食料やお金をもらったり、畑の作業、しながらですけど。

それでも、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、
毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、
毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、
何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も
何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も
何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も何か月も

ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと







くーちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ」














くーちゃん「なんか」

くーちゃん「トンネルの外、出るの、めんどくさくなりましたね」

くーちゃん「大楠さん、しゃべりたいことあります」

くーちゃん「くーちゃんが島で暮らし始めたのは、あなたに歌を届けるためでした」

くーちゃん「とゆうことは、このトンネルから出ても」

くーちゃん「よいことはありません」

くーちゃん「もともとくーちゃんの、あの旅は」

くーちゃん「あなたの呼び声にこたえて、現実に見切りをつけるのが目的でした」

くーちゃん「でも、ハナちゃんの言葉や、チョコレートで」

くーちゃん「沼に沈むのはやめて」

くーちゃん「現実であと少し、生きようと思ったんです」

くーちゃん「でも、今、ハナちゃんいません、どこにいるのか知りません」

くーちゃん「きっと、ハナちゃん、くーちゃんのことなんかすっかり忘れて」

くーちゃん「幸せな人生、歩んでます」

くーちゃん「そこに、くーちゃん、もういらないのです」

くーちゃん「離れ離れになった時、思いました」

くーちゃん「心のどこかは、離れてても、つながってるって」

くーちゃん「でも、わからないのです」

くーちゃん「植物さんのトンネルだと、いろいろと感じられるので、ほっとするのですが」

くーちゃん「人間にはトンネルがないのです」

くーちゃん「心、見えないんです」

くーちゃん「お話をして、顔を見ないと、感じられないんです」

くーちゃん「だから、くーちゃんはにんげんがこわいのです」

くーちゃん「きらいとゆうより、こわかったんです」

 

くーちゃん「それに、現実に戻らず、ここにずっといたほうが、大楠さんもうれしいはずです」

くーちゃん「ずっとここにいれば、あなたに毎日、思いついた時に、いつだって歌を歌えます」

くーちゃん「別に、沼の底に沈むなんて大げさな話じゃありません」

くーちゃん「ようするに、このトンネルで、ずっとずっといれば」

くーちゃん「現実のこと、全部全部忘れて」

くーちゃん「あなたのことだけ考えられます」

くーちゃん「大楠さん、二転三転しましたが」

くーちゃん「こういうのはどうでしょう」

くーちゃん「一緒に沈まないと言いましたが」

くーちゃん「くーちゃん、ここにずっと、いても、差支えないでしょうか?」

水たまりから生えてる大楠さんに、くーちゃんは抱き着きました。

湿った木の空気が、くーちゃんの乾いた肺を満たしてゆきます。

あの時の、沼の底の懐かしいにおいが、漂ってきました。

気が付けば抱き着いているくーちゃんの体を、ぬめぬめした液体が沈めてゆきます。


くーちゃん「…あ」

それは、あの時の沼でした。

もう沈むことはないと思っていた沼に、くーちゃんはまた沈み始めてたんです。

あの旅の果てで、くーちゃんは沼の底を望んでいました。

あの時選ばなかった、沼の底への道をたどる。

理想の世界の扉を開けられる。

ああ


素晴らしい人生です。
































くー





















あっ

















あと2回

また明日

ノシ

くー

「くーちゃん」

くーちゃん(…だれのこえでしょう)

くーちゃん(おとこのひとです。とても、なつかしい、もうきこえない)

くーちゃん(たいせつな、こえです)


 くー

「ほら、くーちゃんだ」

くーちゃん(…くーちゃん)

くーちゃん(すごく、かわいいなまえです)

「こんなに小さいのに、自分で自分の名前をつけられるなんて」

「天才的な頭脳だ」

?「大げさね、お腹が鳴っただけじゃない」

「いいんだよ」

「人生大げさなくらいがちょうどいいんだよ」

くーちゃん(…そうでした)

くーちゃん(だからくーちゃんは)

くーちゃん(このなまえが、だいすきだったんです)

くー

パチ

くーちゃん「…あ」

くーちゃん「…ここは」

くーちゃん「…現実です」

くー

くーちゃん「…おなか」

くーちゃん「…すきましたね」

TRACK15 おにぎり

海の男の家

海の男「…ずいぶんひさしぶりだな」

海の男「漁も畑も手伝わねえで、なにしたんだお前さん」

くーちゃん「お前さん違います。くーちゃんです」

海の男「おまえもう30も半ばだろ。いい年してまだくーちゃんか」

くーちゃん「くーちゃんは、この名前が大好きなんです」

くーちゃん「誰かにこの名前を呼ばれるのも大好きなんです」

くーちゃん「だから、何歳になってもくーちゃんです。後期高齢者になっても同じ感じでゆきます」

海の男「相変わらずいい性格してるな」

くーちゃん「ありがとです」

くーちゃん「それより海の男」

くーちゃん「くーちゃんとおにぎり食べませんか?」

海の男「おにぎり?」

くーちゃん「お米はもってきました」

海の男「炊いてないじゃねえか。うちには飯盒しかねえぞ」

くーちゃん「知ってます。貸してください」

くーちゃん「くーちゃんはおなかがへりました」

小一時間後

くーちゃん「我ながらきれいににぎれました」

海の男「ふん、うまいじゃねえか」むぐむぐ

海の男「てっきり、お前さんのことだから、トンネルの向こうの沼から」

海の男「行ったきり、もう戻ってこねえんじゃないかって思ったぜ」

くーちゃん「沼の底でも、腹は減るんです」

くーちゃん「おなか、減って死んでしまえば、歌、届けられません」

くーちゃん「会いたい人、会えなくなってしまいます」

くーちゃん「くーちゃん、それは嫌だなって、思っただけです。それだけの話です」

海の男「お前さん、大楠さんはいいのか?」

海の男「大楠さんがさみしがるだとか、そんなこと言ってなかったか?」

くーちゃん「だいじょぶです。大楠さん、くーちゃんと一緒にいたいわけじゃないのです」

海の男「来てほしいって言われたんじゃねえのか」

くーちゃん「しょくぶつのトンネルで、ことばはきこえないんです」

くーちゃん「だからあれは」

くーちゃん「くーちゃんのこえだったんです」

くーちゃん「多分、一緒に沈みたかったの、大楠さんじゃなくて」

くーちゃん「くーちゃんだけだったんです」

くーちゃん「だから、くーちゃんが現実に見切りをつけたとき」

くーちゃん「沼に沈みだしたのは、くーちゃんの意志とゆうことです」

海の男「…そうか」

海の男「なあ」

くーちゃん「なんですか?」

海の男「今度、飯作ってやるよ」

くーちゃん「どしたんですか、急に」

海の男「お礼だよ」

くーちゃん「おにぎりのですか?」

海の男「ちげえよ」

くーちゃん「じゃあなんですか」

海の男「秘密だ」

くーちゃん「海の男なのに、隠し事して、よいですか?」

海の男「言わない大切さもあるんだよ」

いつも屁理屈ばかりの海の男ですが、たまには筋の通ったことを言うものです。

睨まないでください。冗談ですよ。

いつもありがとうございます。

海の男「ついでにギターも教えてやろう」

海の男「お前さんの歌もいいが、楽器があると、より引き立つ」

くーちゃん「船に積まれてたギター、あれ飾りじゃなかったですか」

海の男「自分で言うのもなんだが、そこそこ弾けるんだぞ」

ハナちゃんはたしか高校時代、音楽の授業をとってたので

ギターが少し弾けたことを思い出しました。

海の男「そうだ。お前さんに会ったら渡しておくもんがあったんだ」

海の男「ったく、お前さんの荷物、いい加減お前さんの家に届くようにしろよ」ごそごそ

くーちゃん「あの島の家より、海の男の家の方が、郵便屋さん、とどけやすいです」

海の男「変なところ気遣ってんな…あったあった」

海の男「こいつだ」

海の男が持ってきたのは、大きな茶封筒でした。

中は少しだけ膨らんでます。

触ってみると、本のような角ばった感触がしました。

くーちゃん「だれからですか?」

海の男「それが送り元が空欄でな」

くーちゃん「ふむ」びりっ

くーちゃん「あ」

くーちゃん「えほんです」

くーちゃん「タイトルは…」

くーちゃん「しかの、かぞく」

くーちゃん「とても、かわいい題名です」

くーちゃん「表紙の絵も、とても素敵です」

その独特な色使い。忘れるはずありません。

 

内容を簡単にゆうと、こんなお話です。

木でできた鹿さんたちが、離れ離れになった自分の家族と出会う、とゆうものです。

そのお話は、くーちゃんのとても大切なお友達の絵で描かれてました。

たくさんの花や植物に囲まれてる、鹿さんの家族には、何十色も、見たことのない色が使われてます。

ところどころ、グルグルしてたり、びよんびよん伸びてたり、

たくさんの小さい丸や大きい丸があったりして、

まるで踊ってるみたいな絵です。

その絵はきっと、最高の笑顔で描かれたのでしょう。

きっとそうだと思います。海の男じゃなくても、

くーちゃんにはわかります

くーちゃん「これが、やりたいことだったですね」

パタン

くーちゃん「あ」

くーちゃん「海の男、お願いあります」

海の男「なんだ?」

くーちゃん「電話、貸してもらえないですか?」

 絵本の裏に、たくさんの色を使って描かれてたのは、電話番号でした。

海の男の携帯電話を借りて、番号を入力しました。

今の時代は便利です。くーちゃんもこれをきっかけに、携帯を契約しようと思ったほどです。

来週くらいにしようと思います。

毎回海の男に貸してくださいと言うのも、めんどくさいので。

そろそろ電話代を要求されそうな気がします。

話を戻しましょう。

三回ほど、プルルルルと、音が鳴ったあと、ハナちゃんは出てくれました。

久しぶりに聞いたハナちゃんの声は少しだけ大人っぽくなってたですけど、

いつもみたいに、優しい声で、チョコレートの味を思い出しました。

それはもう、最高に最高に、ぜんぶぜんぶうれしくて

、胸はずっと、ドキドキしてました。

いろいろなお話をしました。

天気の話、海の男の話、くーちゃんの暮らしの話、大楠さんのトンネルの話、とかです。

あ、でも、ハナちゃんがあれからどんな旅をしてたのかとゆう話が最初でしたね。

絵本の鹿でピンと来た人もいるでしょうが、ハナちゃんは、あの鹿のお兄さんを探してたんです。

しかも探し方がすごいんです。

日本中の山を探してたんです。

無謀すぎます。ハナちゃん、もう少し考えてから動いたほうがよいです。本当に。

冗談です。くーちゃんにだけは言われたくないですよね。

ただ、それなら絵本を直接島に届けに来てくれたらよいものを、と思いますよね。

なんでこんなまどろっこしいこと、したのかとゆうと、

どうやらハナちゃんは、くーちゃんの顔を見るのが少しだけ気まずかったみたいなんです。

あれほどくーちゃんのことを大好きだったハナちゃんが

くーちゃん以外に夢中になってしまうものを見つけて

それに没頭してしまったら

くーちゃんを、裏切ってしまった気持ちになったんですって。

ハナちゃんはずいぶんとつまらないことを気にしてたものです。

好きなものがたくさんあるのは、悪いことじゃありません。

それに、ハナちゃんがくーちゃんのことを大好きなのは、ちゃんと伝わってますから、

何も心配いりません。

お互いがお互いの道を進んだのは

きっと悪いことじゃなかったと思います。

すいません。強がりを言いました。

くーちゃんはずいぶんと偉そうなこと、言いましたが

くーちゃんは、ハナちゃんが近くにいないのはさみしかったので。

そのことを素直にハナちゃんに電話で言うと、大きな声で笑われてしまいました。

それから、しばらくしてハナちゃんと、鹿のお兄さんが、島に遊びに来てくれました。

大楠さんの前で一緒にのんびり過ごしました。

どんな遊びをして、どんなことをお話したか、今回は割愛します。

別に、他愛のないことばかりなので。

強いて言えば、それからもたまにハナちゃんは、遊びに来てくれるようになりました。

お兄さんと一緒の時もあれば

一人で来て、一緒にお酒を飲みながら大楠さんの前でのんびりと星空を見上げたりします。

すっかりくーちゃんたちは大人になってました。

いろいろと変わってしまったものもあります。でも、それでよいんです。

変わってゆくこと、きっと人生では大切なことなんです。

・・・・・・・・・・・ふう

こんな感じでよいでしょうか

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

多分、ちゃんと録れてるはずです。

では、みなさん。

続きは会場でお話しますね。

ありがとうございました。




…プツッ

次回、最終回

ノシ

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