儒烏風亭らでん「寿限無(ホロライブ)」 (33)
らでん「どうぞ、しばらくの間、お付き合いお願い申し上げますが」
らでん「この世の中には色々と『迷い事』というものがございまして」
らでん「例えば、買い物ですね。服屋に入り、色々と見て回り、気に入った服をようやく見つけたと思ったら、お値段がなーんと思ってたよりも二倍は高い。そんな経験、一度はした事がございませんか?」
らでん「さて、どうしたものか、とですねえ。財布と相談致しまして。頭の中で計算を巡らしまして。特に意味もなく他の服を見ながら店内をウロウロ致しまして。悩みに悩む訳でございます」
らでん「本当なら、もう少しお財布に余裕がある時に買いたいとは思うのです。ですが、お気に入りの物との出会いは、往々にして一期一会になる時が多いのもまた事実」
らでん「次に買い物に来た時には、なくなっている可能性があるのですよ。そして今生の別れとばかりに二度と巡り合う事がない」
らでん「いやいや、そうなってはたまらないと、遂に決断を下しまして。その服を持ってレジへと一直線」
らでん「この時、周りなどは一切見ておりません。頭の中はもうその服の事だけで満杯になってますから」
らでん「高鳴る鼓動を胸にですねえ、レジ待ちの客を、あっちにポーイッ、こっちにポーイッと投げ飛ばして、どけまして」
らでん「財布の中にある札という札を、ていっ、持ってけ泥棒! とばかりに、レジの上に桜吹雪のようにばら撒いて」
らでん「そうして買った服を堂々と引っ提げ、さながら英雄の凱旋の様に家へと帰る訳でございます。今日は実に良い買い物をしたと」
らでん「それからしばらく経った後、何気なく見たAmazonで遥かに安く売っていた事に気付くまでがワンセットでございます」
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らでん「この様にですねえ、日常の中でさえ、迷い事というものは沢山ございます。数え上げればキリがございません」
らでん「どんな話をしようか、どこの美術館に行こうか、いつ先輩方をコラボに誘おうか、誰の配信を見ようか、何のお酒を飲もうか、どうやったら破天荒枠でいられるのか」
らでん「らでんも、常々悩んでいます。この可愛い可愛い声を生かして、遅まきながらキャラ変してしまおうかなーなんつって」アハハハハ
らでん「もちろん、冗談ですよ。皆様方、ここ、笑うところですからね。笑ってくれないと困るまでありますからね。冗談と受け止めてもらえないと洒落にならないので、遠慮せず笑って下さいよ」
らでん「…………えー」
らでん「まあまあ、そこそこ笑いは取れたでしょう、多分、恐らく。というか、取れてないと、らでんが恥ずかし過ぎるので、あえて何も見ませんし聞こえない様に致しますが」
らでん「では、さっさと本題へと入りましょう。もうさっさとね。テンポ良く。参りましょう、参りましょう」
らでん「さてさて、この数ある悩み事ですが。これが決断力のある人であれば、そんなに困る事はないはずです」
らでん「仮に悩んだとしてもですね、ええい気にするなー、どうせなるようにしかならんとよ、とビシバシ決断を致しまして」
らでん「まるで高層ビルをなぎ倒して進む某映画の怪獣のようにですね、迷う事なく真っ直ぐ突き進んでいくのですが、しかし優柔不断な人はそうもいきません」
らでん「そんなに悩む必要のない事であっても、どうするべきかー、どの選択がベストなんだー、ってアレコレ考えてしまってね、一向に決断出来ない」
らでん「これはそんな男の話でございます」
らでん「時は令和五年の事です。とあるところに『八五郎』という名の男がおりまして」
らでん「令和の時代では多分珍しい名前だと思いますが、これが落語だとかなり聞く名前ですね。『八五郎』と『熊五郎』、そして『与太郎』は落語界では全然珍しくありません。一般的まである名前です」
らでん「ちなみに、馬鹿げた話や出鱈目な話の事を『与太話』なんて言いますが、これは落語の『与太郎』からきています。与太郎のする話が出鱈目だったり適当だったりするんで、与太話という言葉が生まれたんですね」
らでん「えー、話が逸れてしまいましたので戻しましょう。この八五郎には奥さんがいまして、今回は名前を『お富』と致します」
らでん「本来の寿限無ですと、『八五郎の女房』みたいな感じで名前が出てこなかったりしますが、でも、今回の寿限無は令和のホロライブ版ですので、名前を御用意致しました。古典落語そのままではないものですから、時代に合わせる為に他にも色々と改変しております。御承知下さい」
らでん「というのもですねえ、そもそもの話をしますと、寿限無って、滅茶苦茶長い名前を子供につけた事で起こる笑い話じゃないですか。でもあれ、令和の時代だと、多分子供にその名前をつけられないんですよ」
らでん「名前の長さは良いんです、大丈夫なんです。日本の法律では名前に文字数制限とかないものですから。パブロ・ピカソの本名みたいに、どれだけ長い名前をつけても良いんですけど、ただあまりにとんでもない名前をつけるとお役所の方が拒否する場合がありまして」
らでん「子供の将来に悪影響を及ぼす可能性がある、っていう理由から断るケースがあるんですよ。恐らく寿限無で出てくる名前も届け出を拒否されると思います」
らでん「親はその名前で良くても、付けられる子供の方は良くないでしょうから。もちろん正当な理由があれば後から名前を変更する事も出来ますが、これがなかなか大変なので」
らでん「あー、なんかまた話が逸れましたね、すみません。雑談しに来た訳じゃないのに、落語しとるいうのに。本題から逸れてばかりで申し訳ない」
らでん「えーと、えーと、確か八五郎夫婦のところまで話しましたよね。うん、そう。そこまで話したはず。間違いありません」
らでん「では、続けます。この夫婦なんですが、二人揃って大の猫好きでして。でも、これまで住んでいた家がペット禁止のマンションだったので、猫を飼う事が出来ず歯がゆい思いをしてたんです。YouTubeで猫動画を見るだけに留めていたんですよ」
らでん「ですが、この年、八五郎夫婦はとうとう念願の一軒家を買いまして」
らでん「しかも、お富の友人が飼っている猫に子供が七匹も産まれ、貰い手を探しているとの情報が入っていたんです」
らでん「こんな好機を見逃すはずもなく、八五郎夫婦は即座にお富の友人と連絡を取りまして」
らでん「めでたくも、仔猫を一匹、貰い受ける事となったのでございます。嬉しいですよね。わーい、わーい」
らでん「とはいえ、この八五郎。最初に言った通り、優柔不断な男ですから」
らでん「他の事は良いんです。仕事も熱心ですし、きっぷも良く、人情にも溢れている」
らでん「なのに、決断力は皆無でして。いわゆる玉に瑕というやつでございます」
らでん「猫を飼うために必要なもの一式は即座に購入したのですが、肝心の仔猫の名前が決まらない。命名というのは難しいものでございます。八五郎は悩みに悩みまして」
らでん「お富とも相談はしました。しかし、お富は八五郎が猫好きなのを十分承知しております。ここは出来る女の本領発揮」
らでん「いつも私が色々と決めてるから、今回はアンタが決めなよ、良い名前を頼むね、と八五郎に一任したのでございます」
らでん「ですが、この一言が更にプレッシャーとなり、困りに困り果てた八五郎。何か良い名前はないかと、近くのアパートに住んでいた物知りで有名な御隠居の元へと相談に向かったのでございます」
八五郎「御隠居、御隠居、実は教えて頂きたい事がありまして」
御隠居「おお、なんじゃ、八五郎。一体、どうした。何を教えてほしいんじゃ?」
八五郎「はい、御隠居。おいらに何か縁起の良い言葉を教えて頂けないでしょうか。御利益のありそうな言葉を」
御隠居「御利益のありそうな言葉だと?」
八五郎「へい。おいらも自分で色々と調べてみたんですがね。それがどうにもピンとこなくて」
御隠居「ほう。例えば、どんな言葉だ?」
八五郎「寿限無寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助、とかですね」
御隠居「八五郎や、お前、よくそんな長い言葉を覚えたもんだな。いや、たまげた」
八五郎「いやあ、おいらも自分で驚いてます。ですが、不思議とすんなり頭の中に入ってきましてね。日本人の六割はこの言葉を覚えている説とかありますかね?」
御隠居「さて、それはどうかわからんが」
御隠居「しかし、八五郎。お前がさっき言った言葉は確かに縁起の良い言葉ばかりだな。どれも長生きに関係する言葉だが」
八五郎「そう、そこなんですよ、御隠居。いくら縁起が良かろうと、御利益があろうとも、長生きばかりでは良くないでしょう」
八五郎「なにせ、今は多様性とスピードが求められる時代ですからね。もちろん、長生きも良い事ですけど、そればかりってのは令和の時代にそぐわないとおいらは思うんですよ」
御隠居「なるほど。一理あるかもしれないな。確かに昔は平均寿命が短かった。だから誰もが長生きを願った。そういう時代だったが、今はそうではないか」
八五郎「そうですとも、御隠居。だから、長生き以外の有り難い言葉というのをおいらに教えて頂けないでしょうか。どうかお願いします。この通りです」
らでん「八五郎は深く頭を下げて、藁をも掴むような必死さで頼み込みます。事情はよくわかりませんが、御隠居も断る訳にはいかず、何か良い言葉はないかと、しばらくの間、考え込みました」
御隠居「ふうむ……御利益のある言葉か……。そうだな……。これなど良いかもしれぬな」
八五郎「おお! 何かありましたか!?」
御隠居「うむ。『ラミィ』という言葉はどうだ」
らでん「この御隠居に頼ったのが間違いの始まりでした」
八五郎「『ラミィ』ですか。初めて聞く言葉ですが、一体、それは何ですか?」
らでん「ホロライブを知らない者からしたら当然の疑問です。御隠居がそれに答えます」
御隠居「うむ。ラミィというのはだな、天女の名だ」
らでん「またも適当な事を言います」
御隠居「この天女は、二百十二歳でな。とても長生きをしているのだが、それだけではない」
御隠居「若いおなごの様に、肌に艶があり、皺など一つもない。いつまでも若い絶世の美女だ」
御隠居「また、愛が強い事から、浮気阻止の象徴などとも呼ばれ、チベットでは各家庭に一体、必ずラミィ像が置かれ祀られているとか」
御隠居「非常に有り難い天女様の名前だ。必ずや御利益があろう」
らでん「そんな事はございません。年齢と容姿以外は全くの出鱈目でございます」
らでん「しかし、それを言ったのが他ならぬ物知りで有名な御隠居ですから。素直な八五郎は疑う事なくさらりと信じ込んでしまいまして」
八五郎「へえ、そうなんですか。長寿に加えて、美容に浮気封じの御利益まであるとは。そりゃ凄い天女様ですねえ。ありがてえこってす」
らでん「ちなみに、こんな風に雪花先輩をネタとしていじっておりますので、後日お叱りを受けないかと、らでんは今、戦々恐々としております」
八五郎「それで、御隠居。他にも何か御利益のある言葉はありますか?」
御隠居「無論、あるとも」
らでん「自信満々な顔で頷きまして」
御隠居「『スバルの絶叫』という言葉がある。これも御利益がある」
らでん「このらでん、今日は全方位に喧嘩を売っていくスタイルでございます。狂人としては正しいのですが、心が、心がキツいです! 胃がキリキリします! やめておけば良かったと今更ながら後悔もしています!」
御隠居「これは昔な、ハピエン村という場所にスバルという明るく元気な女性がいたんじゃが」
御隠居「このスバル、非常に驚きやすいおなごでな。何かある度にすぐ悲鳴を上げる」
御隠居「その叫び声は、鶏の鳴き声よりも大きく、虚空を貫いて遙か十里先のお城にまで届いたとか」
御隠居「じゃが、そのあまりに大きな叫び声がしょっちゅう聞こえるおかげで、魑魅魍魎はこの地を恐れ、決してハピエン村には近寄ろうとはしなかった」
御隠居「つまり、『スバルの絶叫』とは、魔を退け、邪を祓う力を表した言葉だ。魔除けの効果がある。覚えておくが良い」
らでん「実際、大空先輩ならあるかもしれないです。先に言っておきますが、らでんは先輩方をとても尊敬してますからね。はぶらでんだけは勘弁して下さいね、お願いします!」
八五郎「なるほど。世の中にはまだまだおいらの知らない有り難い言葉があるもんですねえ。勉強になります」
らでん「まあ、らでんが言うのもアレですが、勉強にはなりません。諺や故事成語とは違って、一般社会では全く通用しない言葉ですから」
らでん「とはいえ御隠居の方はそう言われて悪い気はしなかったのでしょう。得意気に」
御隠居「まだまだあるぞ。『どす恋いろは』というのも御利益のある言葉だ」
らでん「まこと、止まらないホロライブでございます。らでんもここまで来たら止まりたくても止まれません」
八五郎「その『どす恋いろは』というのは、どういった意味があるんですかい?」
御隠居「これは、豊満で包容力のある女性を褒め称える時に使う言葉だ。ただ、優しいだけではなく、全てを受け止め包み込んでくれそうな、そんな女性に贈る言葉だな」
御隠居「どす恋は良いぞ。母の愛を感じられる。我が子を身を挺して守る母のような、深い愛の御利益があるだろう」
八五郎「なるほど、なるほど」
らでん「趣味嗜好というのは人それぞれでございますから。というか、らでんはこれ以上、あまり喋りたくありません。何を言っても地雷を踏みそうで怖いです」
八五郎「御隠居、他にもまだ何かありますか?」
御隠居「あるとも。『アーモンド、アーモンド』という運気上昇の言葉がある」
八五郎「アーモンド、ですかい?」
御隠居「違う。アーモンドだけでは駄目だ。アーモンド、アーモンドと繰り返さなければならん。二回言う事で初めて御利益が出るのだ」
八五郎「ははあ、なるほど。確かにアーモンドだけなら、アーモンド農家は幸運だらけという事になりますからねえ」
御隠居「その通り。これは神話に出てくる幸運兎の逸話だな。挨拶の度にアーモンドアーモンドと繰り返した事で、この兎はとても運気が良くなり、神様から月に住む事を特別に許されたのだ」
八五郎「では、月で餅をついている兎というのは、その幸運兎の事ですか」
御隠居「そうだ。最近は餅つきではなく、鳥肉を冷やしているとも言われておるがな」
八五郎「へえ、そうだったんですか。おいら、全く知りませんでした」
八五郎「他にまだありますか、御隠居」
御隠居「あるとも。『まつりんちょ』という言葉だな」
八五郎「何ですか、それは?」
御隠居「これは早さを表した単語だ。一まつりんちょで十八秒だな。それだけ早く仕事が終わるという事で、今の若者にも人気の言葉だ」
八五郎「たったそれだけで仕事が終わるんですか」
御隠居「そうだ。まつりんちょは早かった。あまりにも早すぎた。気が付けば終わっていた」
八五郎「何でちょっと悲しそうなんですか、御隠居?」
御隠居「他にも『食う寝るダーリン働くフレア』という言葉がある」
八五郎「それは、どういった意味で?」
御隠居「これは『忍耐』を表した言葉だ。その昔、とある牧場に、全く働かず蹴鞠ばかりをしている夫がいてな。今度の蹴鞠大会で優勝して選手になると言っては、牧場の仕事を放ったらかしにしていた」
御隠居「普通ならば怒るか呆れるかして、離縁するところであろう。しかし、フレアという女性は違った。一人で牧場の仕事をし、夫には毎日五百円のお小遣いを渡していた」
御隠居「夫を責める訳でもなく、働けという訳でもない。熊が出てきても夫に迷惑をかけまいと無言で猟銃で仕留め、丸太を一人で担いでは牧場を走り回っていた。非常に忍耐強い女性だ」
御隠居「この故事が元になり、出来た言葉が『食う寝るダーリン働くフレア』だ。この言葉を唱えれば、きっと忍耐強さを得る事が出来るだろう」
八五郎「ははあ、なるほど。確かに凄い嫁さんですね。いやあ、そんな嫁さんはそうそういるもんじゃねえですよ」
八五郎「この他にもありますか、御隠居?」
御隠居「あるとも。『マグマまみれのみこハウス』という言葉だ」
八五郎「何ですかい、それは?」
御隠居「これは、その昔、電脳神社というところに立派な巫女がおってな。人々から大層慕われておったのじゃが、その事を妬む輩がいてな」
御隠居「そやつらの陰謀により、誰がやったのか、自宅と神社の両方にマグマをぶちまかれ大火事となったのだ」
御隠居「しかし、その巫女は卑劣な嫌がらせや妨害工作には屈しなかった。諦めない心で自宅も神社も見事に建て直したのだ」
御隠居「その故事から『マグマまみれのみこハウス』という言葉が生まれた。これは不屈の精神を表した良い言葉だぞ」
八五郎「なるほど、なるほど。困難に立ち向かう強さが手に入りそうですね」
八五郎「御隠居、まだありますか? 流石にもうないですかね?」
御隠居「いや、ある。『マリン』という言葉だ」
八五郎「マリン、ですか?」
御隠居「そうだ。マリンは漢字にすると『真麟』となり、これは中国の伝説に出てくる聖獣の名前だな。人の煩悩を吸うとされ、修行僧たちはみな、この真麟に会おうと海へと漕ぎ出したのだ」
八五郎「邪念を消し去ってくれる聖獣という訳ですかい?」
御隠居「そうだ。今でも、この名前を呟きながら、修行している僧は多いぞ」
八五郎「はあー、なるほど」
御隠居「それと共に『マリンのセンシンティブ』というのも縁起の良い言葉として伝わっておる」
八五郎「何ですか、それは?」
御隠居「滅多に見られない大変貴重な光景の事だ。このマリンのセンシンティブを見た者は寿命が十年伸びると言われておる」
八五郎「十年もですかい」
御隠居「そうだ。そして、これと似たようなものに『センシンティブの癒月ちょこ』というのもある。こちらは見ただけで寿命が二十年は伸びると言われておるな」
八五郎「今度は二十年も」
御隠居「そうだ。どちらも有り難いものだ。わしがこうして長生き出来とるのも、この二つを見た事があるからじゃな。はー、有難や、有難や」
八五郎「へえー、御隠居の長生きにはそんな秘密が」
八五郎「御隠居、ひょっとして、まだあったりしますか?」
御隠居「あるとも。『ハローボーのハゲーボー』という言葉だ」
八五郎「今度は一体、何でしょうか? どんな意味が?」
御隠居「これは、インドの高貴な出自の者にハローボーという名の人物がいてな。その娘の名前がハゲーボーだ」
御隠居「ハゲーボーは若く美しい女性であったが、世界の平和を願い、若くして出家し尼となったのだ」
御隠居「そして、このハゲーボーが祈っていた間は、戦争も起きず、平和で豊かな時代が続いたとされておる」
御隠居「『ハローボーのハゲーボー』というのは、平和の象徴だな。今でもインドの学校では、ハゲーボーの肖像画が必ず額縁に飾られて祀られておるらしい」
八五郎「聖人みたいな御方って事ですか。おいらもその絵が一枚欲しいですねえ。きっと神々しいお姿をしてるんでしょうなあ」
八五郎「しかし、御隠居。これだけ出たら流石にもうないですよね」
御隠居「いや、まだ最後に一つある。『ウーパールーパーのかなた』という言葉だ」
八五郎「ウーパールーパーって、あのウーパールーパーですか? 生き物の?」
御隠居「そうじゃ。『かなた』というのは平安時代の商人の名でな。その当時はウーパールーパーを飼うのが貴族の間で大流行していた時期だ。その時、ウーパールーパーを輸入し、それを大量に飼育して大儲けをしたのが、このかなただ」
御隠居「それ以来、かなたという名はシンドバットと並んで大商人の伝説的な名前となっておる。金運の御利益があると有難がられておるのじゃぞ。覚えておくと良い」
八五郎「へえ、そうなんですか。この八五郎、また一つ賢くなっちまいましたよ」
らでん「えー……」
らでん「…………」
らでん「お、怒られるのはもう覚悟しましょう。ここまで言っといて、流石にそれは仕方ないけん、足掻くのはもうやめましょう」
らでん「と、とにかくですねえ。八五郎は御隠居にお礼を言いまして。それで、流石に全部は覚え切れないものですから、紙に書いてもらったんですよ」
らでん「そして、お家に帰りまして、その紙とずーっとにらめっこです。この中のどれにしようかとまた悩む訳でございます」
らでん「やっぱり長寿の御利益があるこの名前の方がいいか、いやいや、幸運の御利益があるこっちの名前の方が、だけど待て待て、こっちの方がと、これまた全く決まらない。最初に戻ってしまいましたねえ」
らでん「そしてとうとう、教えてもらった全部の名前をつけよう、そうすれば全部縁起が良いー、やったー、なんて事を思いつきまして。大は小を兼ねる的な結論に至った訳です」
八五郎「お富、遅くなったが仔猫の名前を決めたぞ」
お富「おや、やっと決まったんだね。で、なんて名だい?」
八五郎「ラミィラミィ、スバルの絶叫、どす恋いろはのアーモンド、アーモンド、まつりんちょ、食う寝るダーリン働くフレア、マグマまみれのみこハウス、マリンマリン、マリンのセンシンティブ、センシンティブの癒月ちょこ、癒月ちょこのハローボーのハゲーボーのウーパールーパーのかなた、だ」
お富「……ごめん、お前さん。何だって?」
八五郎「だから、ラミィラミィ、スバルの絶叫、どす恋いろはのアーモンド、アーモンド、まつりんちょ、食う寝るダーリン働くフレア、マグマまみれのみこハウス、マリンマリン、マリンのセンシンティブ、センシンティブの癒月ちょこ、癒月ちょこのハローボーのハゲーボーのウーパールーパーのかなた、だ」
お富「……アンタ、頭は正気かい? もしかして何か大きなストレスでも抱えてたりしてないかい?」
らでん「まあ、そうなりますよねー。これが普通の反応ではないかと思います」
お富「冗談じゃないよ。そんな、ラミィラミィ、スバルの絶叫、どす恋いろはのアーモンド、アーモンド、まつりんちょ、食う寝るダーリン働くフレア、マグマまみれのみこハウス、マリンマリン、マリンのセンシンティブ、センシンティブの癒月ちょこ、癒月ちょこのハローボーのハゲーボーのウーパールーパーのかなた、なんて長い名前、覚えきれる訳ないでしょうが」
八五郎「いや、覚えてるじゃねえか。凄いな、お富」
お富「そんな事はどうだっていいんだよ。とにかくアンタ、仔猫にそんな、ラミィラミィ、スバルの絶叫、どす恋いろはのアーモンド、アーモンド、まつりんちょ、食う寝るダーリン働くフレア、マグマまみれのみこハウス、マリンマリン、マリンのセンシンティブ、センシンティブの癒月ちょこ、癒月ちょこのハローボーのハゲーボーのウーパールーパーのかなた、なんて長い名前をつけさせる訳にはいかないからね。仔猫の方だって自分の名前を呼ばれてるなんてわかりゃしないよ。いい加減におし」
八五郎「でもよ、お富。この、ラミィラミィ、スバルの絶叫、どす恋いろはのアーモンド、アーモンド、まつりんちょ、食う寝るダーリン働くフレア、マグマまみれのみこハウス、マリンマリン、マリンのセンシンティブ、センシンティブの癒月ちょこ、癒月ちょこのハローボーのハゲーボーのウーパールーパーのかなた、は御隠居から聞いたとても縁起の良い言葉ばかりで」
お富「うるさいよ。つべこべ言ってないで、別の名前にして。アタシは絶対に認めないからね」プンッ
八五郎「お、お富、そんな……」
らでん「嗚呼、可哀想な八五郎。まあでもそんな可哀想でもないですか。それだけ長い名前をつけられる仔猫の方が可哀想ですからね。流石に」
らでん「と、そんなこんながあったものですから、八五郎は再び御隠居の元へ相談に向かいました。そして、御隠居に斯斯然然、事の次第を伝えますと」
御隠居「なんとまあ、呆れた奴じゃな、お前は」
らでん「どの口が言うのでしょうかねえ」
御隠居「仔猫の名前をつけると言うのなら、何故、初めからそう言わない。だいいち、そんな長い名前をつければお富もそりゃ怒るだろう。当たり前の事じゃないか」
八五郎「ですが、御隠居。おいら、どうにも名前を決められなくて……」
御隠居「そんな優柔不断では駄目だ。八五郎、そこに正座して、今からわしが言う事を良く聞きなさい」
らでん「などど、説教を始める始末です」
御隠居「良いか。名前というのはだな、親から子供に与える初めての贈り物なのだぞ。本当に子供の事を考えるなら、親が好き勝手に名前をつけて良いというものではない。自分が良いと思う名ではなく、子供自身が一番喜ぶと思うであろう名をつけねばならん。少なくとも、わしはそう思っている。わかるか?」
八五郎「はい……御隠居」
御隠居「もちろん、今回は子供ではなく仔猫だ。だが、例えそれが我が子であろうと、仔猫であろうと、変わりはないだろう。わしはそう思うが、どうだ? お前さんはそうは思わないのか?」
八五郎「……いえ、そうですね。御隠居の言う通りです。おいらが間違っていました」
御隠居「うむ。分かれば良いのだ」
八五郎「家に帰って、お富ともう一回よく相談して決めます。必ず仔猫が喜びそうな名前をつけますから。御隠居、どうもありがとうございました」
御隠居「うむうむ」
らでん「こうしてまた八五郎は家へと蜻蛉帰り致します」
らでん「さて、これでいよいよ残すは結末だけとあいなりますが、気になるこの続きはウェブで公開中でございます。乞うご期待。あ、ここもウェブだったー」アハハハハ
らでん「えー、そんな小粋なジョークを挟みつつ、最後の締めでございます」
らでん「八五郎が家に帰りますと、お富が嬉しそうな顔で出迎えて、開口一番こう言うのです」
お富「アンタ、ついさっき思いついたんだけど、『まよ』って名前はどうだい?」
八五郎「まよ?」
お富「そう。アンタがそんだけ迷って考えてたから、『まよ』。あと、魔除けの意味も込めてね。可愛いし、いい名前だと思わないかい?」
八五郎「なるほど。それで『まよ』って訳か」
八五郎「いや、確かにそれは良い名前だな。だがよ、問題は仔猫の方がその名前を気に入ってくれるかどうかだ。もしも気に入ってくれたら、お前の言う通り、まよにしよう」
らでん「そして、後日。実際に仔猫が家にやってきまして。その仔猫がよく鳴くんですよ。ミャーオ、ミャーオと」
らでん「その鳴き声がこの二人には、『マーヨ、マーヨ』と鳴いているように聞こえまして。これが我が子が可愛く見えるという親の心理でございましょうか」
お富「アンタ、今の声、聞いたかい?」
八五郎「ああ、この子も『まよ』って名前が気に入ったんだ。間違いねえ」
らでん「とまあ、こうして、この仔猫は『まよ』と名付けられ、大事に大事に育てられているとか」
らでん「ハピエン村の方々もにっこりの結末ではないかと思います」
らでん「さてさて、途中で脱線など致しまして、多少、予定の時間よりも長くなりましたが、私の話はこれにて仕舞いでございます」
らでん「皆様、最後までお付き合い頂きまして、誠にありがとうございます」
らでん「噺手はわたくし、前座見習いをどうにかこうにか卒業致しました儒烏風亭らでん」
らでん「演目は『マリオカートでコースアウトした時に拾って助けてくれるやつー(ジュゲム)』でございました」
らでん「それではこれにて、さよならでーん! バイバーイ!!」
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