"たとえ僕らは 遠く離れてしまっても
いつもこの場所で 繋がっている
切なくて ロマンチックだね
まだ知らない 明日”
彩音 - 【いつもこの場所で】
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「何を呆けている、変態」
誰も存在しない音もない虚無の世界の中で。
それはもしかしたら、他の世界線の記憶を保持している岡部が、記憶の濁流から自分の心を守ろうとしているのかも知れないけれど。
そう考えると、ここは岡部にとって避難所のような、安息の地なのかも知れないけれど。
それでも彼は私の声に反応して顔を上げた。
「お前、どうしてここに……?」
虚ろな視線を向ける岡部。やっと、逢えた。
「私が来たんじゃない。あんたが戻ろうとしているのよ。この世界から、シュタインズゲート世界線へ」
岡部だけが私の存在証明することが出来る。
「思い出して」
そのためには岡部自身の思いが大切なのだ。
「あんたが世界線を彷徨っている時、いつでも私が一緒だったこと」
何度も相談して。ようやく世界を変革した。
「それは……お便所でもか?」
「は?」
それなのに。どうしてそんなことを言うの?
「いつでも一緒だったのだろう?」
「いや、さすがにトイレは……」
「なに……? 俺がトイレの最中に消えてしまったら一体どうするつもりなのだ?」
「消えてくれ……頼むから」
思わずそう吐き捨てると、岡部は自嘲して。
「お前が観測してくれないのなら、俺は消えて無くなるのだろうな」
その顔が悲しくて。切なくて。泣きそうだ。
「……卑怯よ」
「助手よ」
「……助手じゃない」
「クリスティーナよ」
「……ティーナでもない」
「紅莉栖」
「……なによ」
初めて見る真剣な表情で岡部は私を諭した。
「無理をする必要はないのだぞ」
「……それは、どういう意味?」
「俺がお前の世界から消えて無くなろうと、世界は存続し続ける。むしろ、他の世界線の記憶を保持する能力を身につけている人間など、存在自体が世界の危機みたいなものだ」
頭に来た。科学的じゃないし、支離滅裂だ。
「あんた如きが世界の危機を名乗るなんて、思い上がりもいいとこ」
何にもわかっていない。だから言語化する。
「……私はあんたのことを忘れられない」
みっともなく泣いて縋り付いても構わない。
「あんたが存在しない世界線なんて、私には耐えられない。私は科学者だから、観測する対象が存在しなければ研究なんて出来ない」
そんなの考えられない。死んだほうがマシ。
「やれやれ……お前もすっかりマッド・サイエンティストの仲間入りだな」
「誰があんたの仲間になんか……」
「では改めて、我が助手クリスティーナよ。そろそろ答えを聞かせて貰おうか。いや……お前の『選択』を世界に示して貰おうか」
「知りたいのか……?」
「別に知りたくはないが、尻は見たいな」
「……私のお尻が見たいのか?」
「当然だ。俺は未来ガジェット研究所の所長として、助手の臀部の蒙古斑に改善が見られるかを目視確認する義務があるのだからな」
「はいはい。要するにただの変態でしょ?」
茶化されたので白ける。すると岡部は突然。
「俺はお前をひとりの女性として愛してる」
「なっ!?」
「お前はどうなんだ?」
「と、申しますと!?」
なんなのよこいつ! 鎮まれ、私の心臓……!
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