“大きな瞳が 泣きそうな声が
今も僕の胸を 締めつける
すれ違う人の中で 君を追いかけた”
変わらないもの -【奥華子】
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「俺と付き合わね?」
何度目とも知れない台詞。相変わらず軽い。
いい加減うんざりして、ため息を吐きそう。
ならば、断ってしまえばいいのに。だけど。
「付き合うって、どこに?」
「は?」
私は『今回』もはぐらかす。けれど千昭は。
「……便所」
「え?」
思いもよらぬ行き先に耳を疑う。肩を叩く。
「停めて」
「なんだよ」
「いいから停めてっ!」
キキッと音を立てブレーキ。自転車が停車。
「なに? 今の」
「はあ? なんのこと……」
「とぼけんじゃない!」
「チッ……うっせーな」
「人としてあり得ない。最低」
「んな怒んなよ……」
怒るに決まってる。言うに事欠いてこの男。
「便所ってなによ!?」
「ははっ! なんだよ聞こえてんじゃねーか」
間宮千昭。私に告白した癖に。好きな癖に。
「あんた、なに考えてんの?」
「さて、なんでしょう?」
「からかわないで」
夕暮れの河川敷。見飽きた光景。気分最悪。
「もういい……歩いて帰る」
「待てよ、真琴」
「ついてこないでよ!」
ついてくるなって言ったのに。ついてくる。
「なあ、真琴」
「……うるさいなあ」
「俺、知ってんだぞ」
「……なにが」
「お前が今、漏れそうなこと」
「っ!?」
思わず振り返る。怒った顔をしたつもりで。
「んな顔すんなって」
「なにそれ……どんな顔してたってのよ」
「そんな今にも漏れそうな顔すんなって」
してない。そんな顔してない。千昭だって。
「あんたこそ、今にも漏れそうな顔じゃん」
「はははっ!そりゃ奇遇だな」
「……バカ千昭」
「いいから乗れって。俺も漏れそうだしさ」
そんなわけない。合わせてくれてるだけだ。
「ほら、先入れよ」
「ん……って、ちょっと待って」
「なんだよ、さっさとしちまおーぜ」
「いや、なんで私があんたと一緒に……!」
「はあ? 今更なに言ってんだよ」
なに言ってんだはこっちの台詞。頭が痛い。
「ここまで来たからには腹括れよ」
「腹なんて括ったら出ちゃうじゃん」
「調子出てきたじゃねーか。ほら、行くぞ」
手を引かれて、公衆トイレに連れ込まれる。
「へー案外キレイなもんだな」
「……千昭」
「あん?」
「手……離して」
「あ、ああ……悪い」
恥ずかしかった。何故かドキドキしている。
「真琴、顔真っ赤」
「千昭だって……」
茹でダコみたいな顔が鏡なんて恥ずかしい。
「ありがとな」
「突然なによ……」
「俺と……付き合ってくれて」
私はトイレに付き合っただけ。なのに何故。
「ほら、さっさと個室入れよ」
「ちょっ……押さないでよ!?」
「早くしないと漏れちまうぞー」
泣きそうな顔をした千昭が個室に押し込む。
「千昭ー?」
「なんだよ」
「千昭、いる……?」
「いるよ。だから、さっさと済ませちまえ」
薄い扉で隔たれた向こう。存在が気になる。
「千昭……?」
「いるってば。なんだよ、真琴……さては」
「な、なによ……?」
「恥ずかしくて出るものも出ないってか?」
この男。言い返せない。だって図星だから。
「ねえ、千昭」
「なんだよ、怒んなって」
「怒ってない。怒ってないから一緒に……」
「悪い、真琴。それは出来ない」
勇気を振り絞ったのに。千昭に拒絶される。
「なんで……?」
「そういうルールだから」
わからない。意味がわからない。私は訊く。
「誰が決めたの?」
「さあな」
「千昭はそれでいいの?」
「俺の意思は関係ない」
「じゃあ、私の意思は……?」
私のこの思い。千昭への想いはどうするの?
「泣くなよ、真琴」
「だって、千昭が……」
「いつか……いつか、俺がきっと」
「千昭……?」
「そういう未来で、お前を待ってる」
なにそれ。未来ってなに? それなら私は。
「すぐいく……走っていく」
「真っ直ぐ前を見てな」
「うん……絶対千昭と一緒にうんちする!」
「フハッ!」
扉ごしの千昭の愉悦。思わず私もにやける。
「もう嗤いが止まりませんよガッハッハ!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
一緒に脱糞出来る未来に向かって私は飛ぶ。
【糞を出せる少年少女】
FIN
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