「転ぶのを恐れたらもっと転んじゃうものなんだよ。もっと堂々と、胸を張って立つの」
そう言って抱き起こしてくれたママが囁く。
「大丈夫だよ……ママを信じて」
星野アイ。私のママの瞳には星が宿る。
私は所謂転生者であり前世の記憶を持つ。
その記憶によると私はアイを推していた。
顔よし、スタイルよしで、歌も上手い!
そんな完璧で究極なアイドルの彼女がママ。
前世では病気により12才で命を落とした。
病室でただ死を待つだけの無意味な人生。
あまりに不条理で神や仏の存在を疑った。
そんな私はテレビの画面ごしに見つけた。
アイというアイドルは、私の神様だった。
同い年の彼女は私の憧れを全て備えてる。
自分もこうありたいという願望を実現してくれるアイの存在は、希望であり理想だった。
そんなアイに対し嫉妬は一切覚えなかった。
当時、12才で死が間近にあった私はわかる。
世の中、そう簡単ではないと。確信してる。
アイにだって悩みや不得手があるのだろう。
それでも彼女はその不遇を跳ね除けている。
「私もママみたいになりたい!」
「じゃあ、もう泣かないこと。わかった?」
「うん!」
そんなアイみたいになりたいと素直に思う。
前世では残念ながら無理だったが今世では。
なにせ憧れの人が母親で育ててくれるのだ。
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「ママはどうして泣かないの?」
「んー?」
ママとダンスを練習しながら訊ねてみると。
「泣いたって……何も変わらないからね」
ママの涙を見たことがない。達観している。
「ママが泣いてたらよしよしするよ?」
「あはは。ありがとー。ああ、そっか」
私の頭を撫でながらママは気づいたように。
「ママにはよしよししてくれる人いなかったから、だからこれまで泣かなかったんだよ」
やはりアイも不遇だったのだと確信を持つ。
「これからは泣いてもいいよ」
「うん。ありがとう。嬉しい」
本当に嬉しそうに微笑むママに訊ねてみる。
「ママはどうして怒らないの?」
「んー?」
今度はダンスをやめて、アイは悩んでいた。
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