男「朝起きると巨大なクマになっていた」 (54)

『洗面所』



鏡「お前、クマになっとるやんけ」

ヒグマ「ぎゃあああああぁぁぁぁっっ!!!」



妹「ひぎゃああああああぁぁぁぁ!!!」



父親「何だ、朝っぱらからうるさ……うぎゃあああああぁぁぁぁ!!!」

母親「ク、クマぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

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【テレビ中継】


アナウンサー「えー、たった今、緊急速報が入りました。民家にクマが押し入り、住人を襲っているとの情報です」

アナウンサー「新たな情報が入り次第……いえ、中継が繋がるようです。現場から中継が入ります。現場の佐藤さん、聞こえますかー?」



リポーター「えー、はい、佐藤です。えー、クマが現れたのはですね、今映っている、見えますでしょうか? あの白いマンションの一室です」

リポーター「警察からの呼びかけにより、マンションの住人の方は既に避難を完了しておりますし、付近の方の避難も既に終わっているようです」

リポーター「先ほど、避難された方に取材する事が出来まして。それで色々とお話を聞けたのですが、現れたクマの大きさはかなり大きくて、恐らくヒグマではないかと」


〈違うんだよ!! 俺は人間なんだーっ!!


リポーター「このように、クマ自身はベランダから乗り出して、それをずっと否定してはいるんですが、呼ばれた猟友会の皆さんの話を聞くと、間違いなくヒグマだということでして」


アナウンサー「……? ちょ、ちょっと待って下さい、今なんて言いました、佐藤さん? 佐藤さーん?」

【殺意が高い猟友会】


ヒグマ「だから、俺は人間だって言ってんだろうがよぉ!!! わかんだろ、言葉喋ってるんだから!!」ガオォ!!


猟師「黙れっ!! クマの分際で人間様の言葉を喋んじゃねえ!!」ジャキッ


ヒグマ「おかしいだろ!! それと銃口こっち向けんなっ!! 俺は両手上げてんだろうがっ!!」


猟師「うるせぇ!! クマは喋ろうが無抵抗だろうが絶対殺すっ!! それが俺の復讐! 殺されたポチの仇だっ!!!」ブルブル


ヒグマ「それは、ポチを殺したクマを殺せよっ!! 俺は無関係だろうがっ!!!」


猟師「よくさえずるクマだな!! それがお前の最期の言葉かっ!!」ブルブル


ヒグマ「誰だよ、こんなジイさん連れてきたのはよぉぉぉ!!! 頼むから助けてくれぇぇ!!!」

【救世主】


警察官「待ってくれ、伊藤さん。このクマ確かに人間の言葉を喋っている。それに会話もしっかり出来ている」

役人「つまりだ。君はクマではなく人間で、何故か理由は分からないが、朝起きたら巨大なクマの姿になっていたと、そう主張するんだな」


ヒグマ「そうだよっ!! マジでそうなんだよっ!! だから殺さないでくれっ!! 助けてくれっ!!」


猟師「うるせえっっっ!!! 賢いクマはみんなそう言うんだよ!!!! 素人ならともかく、この俺が騙されると思うかっ!!!」ジャキッ


ヒグマ「ひぎゃあああああっ!!!」


警察官「待った待った! 伊藤さん、落ち着いて!」

役人「参ったな、これ、どうしようか……。とりあえず、殺すのだけはまずいよなあ……。って事は生け捕りか……?」


ヒグマ「そうしてっ!! 是非、そうしてっ!!! お願いしますっ!!」

【数カ月後】


生物学者「という事でDNA鑑定が行われた結果、彼の持つ遺伝子は92%がクマだという結論に至ったのですが……」

検察官「という事は法律的にはクマという扱いになるのでは? 遺伝子操作されたクマだという事に」

医者「とはいえ、レントゲンやMRIで見た彼の脳は人間そのものです。知性もあるし、会話も出来るし、人間社会における常識もある。体以外はごく普通の人間と考えるのが妥当かと」

警察官「それと、彼の家族も証言しています。現在行方不明になっている兄しか知らないような事を例のクマは知っていたと。家族の記憶とクマの記憶も一致しますし、話し方や癖とかも全て消えた兄と一致するそうです」

弁護士「という事は、状況的に例のクマがその行方不明の兄で間違いないのでは? 速やかに彼の人権を認め、軟禁状態から解放すべきかと思いますが」

検察官「とはいえ、法律上はあくまでクマなんですよ、体がクマですから。それも飼い主がいないから野生という事になる。鳥獣保護管理法により野生動物の飼育は禁止されていますから、つまり……」

弁護士「彼をどこかの山に放り出して、野生に返すと? 人間ですよ、彼は。それは有り得ない」

検察官「あくまで、法律の話ではそうなるという事です。大体、彼が人間だという明確な証拠が現時点では存在していないのだからそれも仕方がない話でしょう。研究機関で引き取るという話の方が余程妥当では?」

弁護士「ですが、それでは人間ではなく動物と同様の扱いです。人権が考慮されていない」

生物学者「……そもそも、何故彼はクマの姿になったんでしょうか? そんな病気はもちろん存在しないでしょう?」

医者「少なくとも、私は今まで聞いた事はないですね……。いや、可能性がゼロとまでは断言できませんが……。これまでそういう病気があったが、その事に誰も気付かなかったという可能性もなくはないですし……」

生物学者「ふむ……。しかし、私達からすればクマが高い知性と人間同様の声帯を手に入れたとする方が余程合理的で可能性が高い訳なんですがね……。突然変異で一夜にしてDNAのほとんどが変わるなんてのはあまりに信じ難い」

弁護士「何にしろ、彼を野生に返したり、実験動物にしたりとかは有り得ない。それは流石に世論も許さないでしょう。彼が人間なのではないかと、大々的なニュースにもなっているのだし」


役人「…………」

役人「……つまり、彼がクマの姿をした人間なのか、それともクマが人間の知性を持ち会話出来るようになったのか、その結論は現時点では出ないと」

役人「ただ、普通の人間として扱うのも普通のクマとして扱うのも、どちらも困難ではないかと、そういう考えで宜しいでしょうか?」


一同「……そういう事になりますね」


役人「となると、最後は政治の判断ですか。政府がどう判断するかで決まると……」


国会議員「…………」

【痛恨の一撃】


女「それで、私が呼ばれたんですか」

役人「そういう事です。政府は彼を人間だと認め、特例で解放する事にしました。条件付きで、ですが」

女「社会に大きな影響を与えない範囲内で、保護監督責任者の管理の下、という一文を付けて解放……ですか。まあ、私は今回の政府の判断についてあーだこーだ言うつもりはありませんが……」


女「だけど、何で両親じゃなくて、赤の他人の私が保護監督責任者に? そこはおかしくありません?」


役人「すみません……。なにせ彼の家族が断固拒否したものですから……。クマの面倒なんかみれるか、あんなの家族じゃないと言い張って……」

女「お、おう……」

【差別】


女「で、あれが彼に与えられた家という訳ですか。……ヒグマだけあって流石に大きい家なんですね」

役人「え、ええ、まあ……。受け入れてくれる自治体がなかなか見つからず、家を手配するだけでも結構な苦労をしましたが。どこの町でも、彼には住んでほしくないという反対派が多くて……」

女「……まあ、気持ちはわかりますけどね。クマがうろつく町! なんて住んでる人からしたら嫌でしょうから。ノシノシ歩いてたら普通に怖いですし」

役人「あ、あの、すみません、女さん。差別的発言は今後しないようお願いします。彼はクマではなく人間なので……」

女「え? あ、ああ、ごめんなさい。そうですね、確かに彼が聞いたら傷つきますよね。すみません」

役人「はい。なので、ヒグマではなく、ヒグマの姿をした人間。クマがうろつく町ではなく、クマの姿をした人間がうろつく町、と、そういう風に言ってください」

女「わかりました」

役人「すみません、お願いします」


女「…………」

役人「…………」


女「そっちも十分差別的じゃないですか?」

役人「事実は事実なので」

【殺意】


警備員「あ、お疲れ様です」ペコッ

役人「お疲れ様です。彼は?」

警備員「当然、中にいますよ。家の外には出ていません」

役人「了解です。では、これから彼と接見するので鍵を……」

警備員「どうぞ」スッ

役人「ああ、ありがとう」


女「……警備員はいるんですね」

役人「まだ彼一人での外出は出来ませんからね。今のところは軟禁状態です。可哀想ですが」

役人「しかし、それもあなたが来た事で変わります。あなたの同意と市の許可が下りれば外出も出来るようになるでしょう」

女「私の責任付きで、ですよね?」

役人「そうです。何かあればあなたに責任がいきます」

女「一生、外出しない人生も決して捨てたものではないと私個人は思いますが」

役人「……要は、この仕事が嫌なんですね?」

女「はい。ほぼ強制的に押し付けられた仕事なので」

役人「クマったクマったですね」ハハハ

女「殴りたいこの笑顔」

【おまいう】


役人「それでは、今からチャイムを鳴らして鍵を開けますが……」

女「ええ、どうぞ」

役人「その前に一つ。先程も話したように、彼に対して決して差別的発言はしないよう気を付けて下さい。そうでなくても、ここ数カ月の軟禁で、彼は相当ナイーブになっているので……」

女「でしょうねえ……。わかりました。注意します」

役人「特にクマ扱いだけは絶対にしないようお願いします。見た目はクマ、頭脳は人間です。宜しくお願いします」

女(コナン……?)

役人「あ、あとお土産のハチミツも用意してと」ゴソゴソ

女「おい、コラ」

【ニュース】


アナウンサー「本日、与野党連名で国会に提出されたHBS法案により、今年四月に東京目黒区に突如現れたヒグマ、通称目黒ヒグマの人権が認められる見通しとなりました」

アナウンサー「この目黒ヒグマは複数の専門家による入念な調査の結果、当時、目黒ヒグマが現れたマンションに住んでいた男性が変化した姿である可能性が非常に高いという報告が警察や調査機関によって既に提出されており、それを受けての今回の法案提出となります」

アナウンサー「この法案が国会で通れば目黒ヒグマはヒグマではなく人間として扱われる事となりますが、法案の内容には結婚や異性との生殖行為に関する部分が抜け落ちていて不十分だという指摘もあり、また倫理的な面で目黒ヒグマと人間との生殖活動は禁止すべきだとの声もある事から、今後も国会で議論が……」


ポチッ


『今話題の目黒ヒグマの人権問題。街の声は?』


若者「えー、いいんじゃない? 見た目がクマってだけで人間なんでしょ? それは人間扱いでいいんじゃない?」


お年寄り「人間だっていうなら、それでいいけどさ。ただ、街とか普通にクマが歩いてたら流石に怖いよ。街中を歩いたりするのは正直やめてほしいねえ。心臓麻痺を起こしちゃいそう」


中年「クマになった人には同情するけど、体がクマなら、やっぱりクマ扱いすべきだと俺は思いますけどね。少なくとも人権を渡すのは良くないですよ。もしもクマと人が結婚してクマの子供が生まれたらどうするのって話でしょ」


母親「やっぱり街中とかを歩かれたら嫌ですね。子供がいますから、もしも襲われたらどうしようって絶対心配になりますし。殺処分しろとまでは言いませんけど、どこかの研究機関とかに預けてそこで暮らしていくのが一番いいんじゃないですか?」


大学生「私は賛成ですね。人なのにクマとして扱われたらその人が可哀想ですよ。人として扱うのが当たり前だと思いますよ」


ポチッ



ヒグマ「…………」

ヒグマ「うがぁぁぁぁぁ!!! 俺だってなあ、俺だってなあ!!」

ヒグマ「好きでこんな体になったんじゃねえぇぇぇぇぇっっ!!!!」ガオォ!!

【初対面】


ヒグマ「…………」ハァ……

ヒグマ「もうヤダ……。死にたい……。みんながみんな俺をクマ扱いしやがって……」ズーン……


女「で、部屋の隅でいじけてる彼が……」

役人「そうです。例の彼です。最近はずっとあんな感じでして……」


女「…………」

女「今、話しかけても大丈夫ですか?」

役人「ええ、どうぞ」



女「」テクテク

女「こんにちは」


ヒグマ「」ビクッ!!


女「初めまして。話は聞いていると思いますが、貴方の保護監督責任者となった女です。これから宜しくお願いします」ペコッ


ヒグマ「あ、はい……。初めまして。通称、目黒ヒグマでお馴染みの小熊です。ヒグマなのに本名、小熊ってね」ペコッ


女「……今、彼、自分でヒグマって言ってますけど?」

役人「自虐ネタだそうです。研究所にいた美人の子にウケて、それからお気に入りだそうで」

女「まだ余裕ありそうだなあ、おい」

【前途多難】


ヒグマ「……それで、あなたが俺の人権を守ってくれる人なんですか? 一人で外出したりとか出来るよう、取り計らってくれる人だと聞いていますが、弁護士の先生なんですか?」

女「いいえ。弁護士じゃなくて、特例付きの保護監督責任者です。あなたが危険でないという事を保証する人ですね」

ヒグマ「??」

女「ざっくり言うと、あなたが危険な動物……つまりクマではありませんよ、だからクマとして何かあった場合には私が責任を取りますって事」

女「まあ、最終的には国が責任取るから、そうならないようしっかり歯止めをしろっていうのが私の役割なんだけど」

ヒグマ「つまり、お目付け役……って事ですか?」

女「そうですね。例えば、あなたが池の鯉を勝手に取って食べたり、牛を襲って食べたりしないようにするのが私の役目です」

ヒグマ「だから、俺はクマじゃねえって言ってんだろぉぉ!! 人間なんだよぉぉぉぉ!!」ガオォ!!

役人「落ち着いて!! 誰もクマだなんて言ってないじゃないですかっ!!!」

女(これ、本物のクマの方がまだ扱いやすそうだなぁ……)

【お静かに】


女「とにかく、あなたの見た目がクマなのは間違いなく事実なんだから」

女「その姿で普通に外出したら、クマが出たって大騒ぎになるでしょう。違う?」

女「そうならないよう。言い換えれば、あなたが人間らしい生活を送れるよう、私がそれを監視・監督して保証するって事」

女「これは、今のあなたにとってはメリットしかない話でしょ?」

女「時間はかかるかもしれないけど、いつかは一人で外食したりとか、一人で買い物に行ったりとか、そういう人間らしい生活を送れるようになれるかもしれないんだから」

女「あなただってそういう生活を望んでいるでしょう? そうはなりたくないの?」

女「だから、不満に思う事はあるだろうけどそこは我慢して、妥協してちょうだい。これはあなたにとって必要な措置なんだから」

女「わかってくれる?」


ヒグマ「…………」

ヒグマ「そんなの差別だっ!! 俺はクマじゃなくて人間なのにっ!!! そんな当たり前の事もさせてもらえないなんてっ!!!」ガオォ!!

ヒグマ「こんな差別に溢れた世界なんて滅んじまえばいいんだよぉ!!! うがぁぁぁ!!!」ガオォ!!


女「うるせぇ、もう黙れ」

【超有能】


役人「あの、小熊さん。一応補足しておくとですね」

ヒグマ「?」

役人「彼女、弁護士ではないですけど、弁護士の資格は持っているんですよ」

ヒグマ「え」

役人「ですので、あなたが何か困った時には助けてくれます。誹謗中傷とか差別問題においても」

ヒグマ「…………」

女「わかった? 私が保護監督責任者に選ばれた意味?」

ヒグマ「あ、はい……」


役人「あと、医師免許もお持ちでして、あなたのカウンセリングも仕事の対象に含まれているんですよ」

ヒグマ「!!??」

役人「ついでに言えば、チェスの日本チャンピオンで、小説家でもあるんですが」

ヒグマ「この人、人生、何周目なの!?」


女「やかましい。めっちゃ努力したんだよ」


役人「まあ、そういう理由で、彼女以外適任者はいないと抜擢されてこちらに来ているんですよ。信頼に足る人です。なので……」

ヒグマ「そうなんすか……。なんか色々すみませんでした……。そんな凄い人だとは知らなくて、俺……」

女「ちなみに、空手三段、弓道四段、薙刀は免許皆伝」

ヒグマ「いや、絶対おかしいよ、この人!! なんか怪しげな薬物とか絶対注入されてるって!!」

女「おいコラ、あまり私を怒らせるなよ。体がクマだろうがやる時はやるぞ、私は」

ヒグマ「発言が弁護士でも医者でもないしっ!! この人、ヤバいって、絶対にっ!!!」

【また明日】


女「まあ、そういう訳だから、これから宜しく」

ヒグマ「……わかりました。こちらこそ宜しくお願いします」

女「一応、君の人権を守る為に私も努力するつもりだけど、出来れば何もしたくないから、決して頼りにはしないでね」

女「何か質問はある?」


ヒグマ「疑問しかない」


役人「それでは顔合わせも円満に済んだ事ですし、今日のところは私達はこれで」ソソクサ

女「また明日来るから。とりあえず今日はテレビでも見て過ごしてて。退屈だろうけど」

ヒグマ「あ……いやもう、退屈には慣れっこなんで、大丈夫っすよ……。狭いケージにずっと入れられてた最初の頃を思えばもうね……」ハハ……


女「……ごめん、なさい」

役人「申し訳ない……」


ヒグマ「いえ、もういいんすよ。今はこうして普通に家で生活出来ますし……」ハハッ……


女「…………」

役人「…………それでは、失礼しました」ペコッ

女「……また明日ね」


ヒグマ「……しゃっす」ペコッ

ここまで

【翌日】


女「おはようございます、小熊さん」ペコッ

ヒグマ「おはようござ……なんすか、それ……?」


女「これ? 護身用携帯グッズ。見た事ない?」ジャジャン

薙刀「よう。切れ味抜群なんでヨロシク」

ヒグマ「それはグッズじゃなくて凶器では」


女「昨日、ようやく許可が降りてね。この家への持ち込みが許されたんだ」

薙刀「銃刀法違反にはなんねえぜ、ハッハー」

ヒグマ「おかしいでしょ!! 何でそうなるんっ!?」


女「いや、ほら、万が一私に何かあったら困るじゃない?」

ヒグマ「俺に何かあったらの間違いじゃないの!?」

【認識のズレ】


女「いい? 言っとくけど、私はうら若き乙女なんだからね。若い男と密室で二人とか普通に怖いでしょ。だから、護身用グッズは必要なんだよ」

ヒグマ「薙刀持った段持ちの女性と密室で二人とか、俺の方が遥かに怖いんですが!?」


女「ほう……君は私が怖いと?」

ヒグマ「はい」

女「そして、私は君を怖がらないと?」

ヒグマ「まあ、俺は素人の一般人なんで。女さんが怖がる理由がないっすね」


女「…………」

ヒグマ「…………」


女「参考までに聞くけど、君、今の身長は何センチ?」

ヒグマ「3メートルっす」

女「私は162センチなんだが?」

ヒグマ「あ、結構、背が高いんすね」

女「言う事はそれだけか、おい?」

ヒグマ「何で俺、キレられてるんすか!?」

【対等】


女「いい? 女の子が護身用に痴漢撃退スプレーだとかを持つのは、一般的に女が男より力も弱くて体格も小さいからなんだよ。それはわかるよね?」

ヒグマ「はい」

女「つまり、女の子はスタンガンやグレネードを持って、初めて男と同等の力関係になれるんだよ。それもわかるよね?」

ヒグマ「グレネードがおかしい事以外は」

女「だから、私と君の力関係を同一にするには、薙刀を私が持つ必要があるの。それもわかるよね?」

ヒグマ「わかりません」

女「まあ、わからなくても結局持つんだけどね」ヒョイッ、シュパッ!!

ヒグマ「ひいっ!!」ビクッ

女「私を襲う時は死ぬ覚悟で来な。こちらも殺す覚悟で迎え撃つから」

ヒグマ「俺が死ぬ未来しか見えない!!」

【殺意、再び】


女「まあ、それはさておき」

ヒグマ「おかないで」

女「君、今日の体調とかはどう? 元気? 昨日、ショックな事があっただろうから少し心配しててね」

ヒグマ「あ……ありがとうございます。まあ……体調の方はあまり良いとは言えないんすけどね……。あの日からずっと楽しくない事ばかりなんで……」

女「……まあ、そうだよね。ごめんね。精神が弱ると体も弱っていくもんね……」

ヒグマ「昨日もね、テレビ見てたんすけど、ワイドショーとか俺の事ばっかりやってて……なんかもうね」

女「丁度、法案が提出されたタイミングだからねぇ……」

ヒグマ「見てたら絶対嫌な気分になるってのは自分でもわかってるんすけどね……。ただ、どうしても気になるから、やっぱり色々見ちゃって……」ハァ……

女「そうだよね、自分の事だもんね……」

ヒグマ「それで、昨日もろくに眠れなくて睡眠不足です。最近はずっと……」

女「うん……」

ヒグマ「ほら、見て下さいよ。おかげで目の下にクマが」ハハッ……


女「…………」


ヒグマ「クマジョーク」

女「…………」

【ホロコースト(絶滅政策・大量虐殺)】


第二次世界大戦中、ナチスが支配していたドイツではユダヤ人の大量虐殺が行われていた。

彼らはユダヤ人だという理由だけで収容所に送られ、そこで強制労働を課せられた。これは過酷な労働による『ユダヤ人絶滅』がその目的である。

毎日11時間の過酷な労働、理不尽な暴力、食事は一日にパン一片と具のほとんどない薄いスープ一杯。

働けない、働くのに適してないと判断された人間は次々と殺されていった。

餓え、病気、虐待、拷問、銃殺、ガス室、人体実験等で、少なくとも600万人以上が犠牲となったと言われている。

そんな壮絶な収容所で生き残った人達の特徴について、こう記述している人がいる。

神に祈りを捧げたり、歌を歌ったり、どんな時でもユーモアを持っていたりと、未来に希望を持てる人が多かったと……。




女「つまり、あれか。君はその話を聞いてクソつまんないジョークを言うようにしていると、そう言いたいのか」

ヒグマ「なんでそんな弾圧口調なんすか……」

【伝わらない】


ヒグマ「いや、だって、ユーモア精神は大事だって、前にカウンセラーの人が言ってたんすよ。笑うってのは、精神的な自己防衛になるって」

女「それは確かにそうなんだけどさ。間違ってはいないんだけどさ」

ヒグマ「なら、何が問題だって言うんですか」

女「センス」

ヒグマ「センス」

女「ユーモアセンス」

ヒグマ「ユーモアセンス」


女「…………」

ヒグマ「…………」


女「…………」

ヒグマ「……?」




女「わっ!!」

ヒグマ「うおいっ!!」


女「もういい。本題に入るよ」プンッ

ヒグマ「はいっ!? え、ちょ、今の一体」

女「うるさい! 話が始まらないだろ! 黙れっ!」プンスコ

ヒグマ「ええええ」

【本題】


女「今日は、あなたの要望を聞きにきたの」

ヒグマ「要望っすか?」

女「そう。今のままじゃ流石に人間としてあれだからね。家から一歩も出ずに食べて寝てゴロゴロしてるだけじゃ、人間らしいとは言えないでしょ。まるで家畜かペットじゃない」

ヒグマ「何故か心にぐっさり刺さる言葉」

女「だから、人間らしい生活を送る為の要望、もしくは今の生活への不満だね。それを聞かせてちょうだい。私の力で改善出来るところはしていくから」

ヒグマ「んー……」

女「ないなら帰るけど」

ヒグマ「まだ考え中ですって!! 判断が早いんですよ!!」

【現代社会の必需品】


ヒグマ「えと、今のところ4つあって」

女「4つね。1つ目は?」


ヒグマ「スマホが欲しいっす」

女「流石、現代っ子」


ヒグマ「いや、俺のスマホ、警察に証拠品とかで押収されたらしくて」

女「そうだね。君、行方不明って事になってたからね」

ヒグマ「それでまだ返ってきてないんで、とりあえずスマホが欲しいっす。返すように警察に言ってもらえませんか」

女「もっともだね。1つ目の要望はわかった」

【ストレスの主な原因】


女「それで、2つ目は?」

ヒグマ「牛丼とか焼き肉が食いたいっす」

女「あー……食の問題ね」


ヒグマ「そうなんすよ……。もう生のサツマイモとかタケノコたか飽きたんすわ……。たまに魚が出ても、全部生サーモンだし……」

女「今まではクマの食事だからねえ。そうなっちゃうよねえ」

ヒグマ「唐揚げとかハンバーグが食べたい! カツ丼とか天ぷらが食べたいんすよっ!!」ガオォォ

女「食事は大切な息抜き要素だからね。そりゃストレスも溜まるよね、わかるよ」

【こちらも必需品】


女「それで3つ目は?」

ヒグマ「パソコン下さい」

女「あー、はいはい。なるほど」


ヒグマ「俺の家からパソコン取ってきてもらえませんか? ユーチューブとか見たいし、あと俺、絵師なんで。パソコンは必需品なんすよ」

女「え? 絵師なの? それ、初耳なんだけど」

ヒグマ「副業っす。本業はウーバーイーツなんで」

女「それも副業なんじゃ? いや、別にいいんだけどさ」

【方向性の違い】


女「それで、最後の4つ目は?」

ヒグマ「買い物に行きたいっす」

女「そうかぁ、やっぱそれもあるよねぇ」


ヒグマ「別にスマホがあればアマゾンとかでもいいんすけど……。でもやっぱりアマゾンとかじゃ売ってない物もあるんで。普通に買い物に行きたいっす」

女「私も服とか小物とか現物を見て買いたい派だから、外に買い物行きたいって気持ちはすごくわかるよ」

ヒグマ「あと、アマゾンとかだと、売ってても高過ぎて困る時もあるんで」

女「?」

ヒグマ「転売ヤーとかよくいるんすよ。あいつらマジで在庫抱えすぎて破産すればいいのに、クソがよぉ、ホントに」

女「それはちょっとよくわからないけど」

【結論】


ヒグマ「て、事で以上の4つです。ホントはもっと沢山あるんすけど、一度に言ってもアレなんで、とりあえずこの4つで」

女「他の事は我慢してくれたんだねえ、ありがとう」

ヒグマ「あまり多く言うと女さんが困るでしょうから……。ただ、代わりにこの4つだけは出来るだけ早く叶えて欲しいっす。お願いします」

女「うんうん。それで、その4つの要望についてなんだけど」

ヒグマ「はい」

女「全部無理」

ヒグマ「何でだよっ!!! ふざけんな、クマの姿をしたやつには文明や文化がいらねぇとかそう言うのかよ!! 差別だろうがぁぁぁ!!!」ガォォォ!!

女「いや、ホントごめん。でも、無理は無理なんよ。無理な理由があるんだよ。ごめんて」

ここまで

【衝撃の事実】


女「落ち着いて。一から理由を説明していくから」

ヒグマ「」グルルルッ

女「威嚇しない。落ち着いて。でないと私の薙刀が血を吸うぞ」

薙刀「やんのか、コラ。喧嘩上等だぞ、こっちは」


ヒグマ「」フシュー……


女「まず、君のスマホなんだけどさ」

ヒグマ「……はい。なんすか?」

女「実は警察からもう返還されてるの。君がその事を知らないだけで」

ヒグマ「え? じゃあ今どこにあるんですか?」

女「君の家族のとこ」

ヒグマ「あー……家に」

女「で、もう解約されて捨てられてる」

ヒグマ「え、ちょ、すちゃられなんじぇおかしゃうええええええ!?」

女「気持ちはわかる」

【家族からのメッセージ動画】


父親「あー、ただのヒグマへ。お前がなんと言おうと、俺達は無関係で家族じゃないからな。二度と俺の事を父親とか言うなよ」

母親「私はお前なんか産んでないからね! いい加減にしてよ! こっちは大迷惑してるんだから!」

妹「……お兄。バイバイ。もう二度と会う事はないだろうけど」

父親「おい。お兄じゃない。あれはただのヒグマだ。間違えるな」

妹「……そうだね。間違えた。バイバイ、ただのクマ」

母親「あんたさえ……あんたさえ、産まれて来なければ……!」ウウッ

父親「おい! だから母さんはあんな奴なんか産んでないだろ! いい加減にしろっ!!」


ブツッ



女「…………」

女「これが……彼の家族から届いた最後のメッセージですか……?」

役人「……そうです。ただ、これを彼に見せるのはどうかと思いまして……。私の一存で今まで止めていたんですが……」

女「…………」

役人「……どうでしょうか? あなたならこれを彼に見せますか?」

女「……しばらく考えさせて下さい。今はまだ難しいと思いますので」

役人「……わかりました。ではもうしばらく私が預かっておきます」

女「……はい。お願いします」

【スマホ、大事、絶対】


ヒグマ「俺のナイスネイチャは!? 俺のキングヘイローは!?」グオオオオッ!!

女「何の呪文?」

ヒグマ「8万!! 8万も課金したのに!?」

女「君、課金勢か。だからデータに金を使うのはよせとあれほど」

ヒグマ「言ってない!! 聞いてないし!!」グオオオオッ!!

女「うん。確かに。それはごめん」

ヒグマ「連絡先とかも全部消えたし!! 番号なんて覚えてないし!!」

女「普通はそれが真っ先に来るとおもうんだけど……」

ヒグマ「電子マネーが!! まだ4千円ぐらい残ってたはずなのに!!」

女「それは多分復旧出来ると思うよ?」

ヒグマ「ああああっ!! 動画とか音楽とかも全部消えた!! うあああっ!!」ゴロゴロッ

女「ちょ、危なっ!!」

【糖分】


女「……少しは落ち着いた?」

ヒグマ「ぁぅ……」ズーン……


女「……お土産でもらったハチミツ食べる? 甘い物は心を落ち着かせてくれるよ?」

ヒグマ「……もらいます」コクッ


女「ちなみにクマが蜂の巣を襲うのは、ハチミツもそうだけど、蜂の子が目当てらしいね、はい」スッ

ヒグマ「へぇ……」


ヒグマ「」ペロペロッ


女(両手で器用に掴むなあ)


ヒグマ「」ンマーイ

女(あ、満足そう)

【ラーメンのスープまで飲み干したい人生だった】


女「それで、次に食事の事なんだけど」

ヒグマ「はい」

女「君の体のほとんどがクマだってのは聞いてるよね? 違うのは脳と声帯ぐらいだって」

ヒグマ「……まあ、はい」

女「となると、人間と同じ食事はアウトなんだよ。クマは雑食ではあるけど、食べるのは7割植物だから」

ヒグマ「!?」

女「人間と同じものを食べると塩分や脂肪分の摂り過ぎで色々と体に悪いからって事で、禁止」

ヒグマ「何でぇっ!!」

女「あと、君、運動不足で太り過ぎてるって担当医から注意を受けてるから、尚更無理」

ヒグマ「運動不足になったのは俺のせいじゃねぇ!!! ずっと閉じ込められてたんだぞっ!!!」ガォォォ!!

女「わかるけど。ホントにごめんってば。でも、健康の為に駄目だって言われてるんだよ」

ヒグマ「うがぁぁぁ!!! 好きなものぐらい好きに食わせてくれぇ!!! 俺の体なんだから好きにさせろよぉぉ!!!」ガォォォ!!!

女「中年のオッサンみたいな事を言わない。我慢して」

【犯罪行為】


女「それで、次はパソコンだっけ?」

ヒグマ「そう! パソコン! まさかこれも捨てられたって言うんじゃ!!」

女「ううん。これは無事。こっちも警察に押収されてはいるんだけど、無傷で残ってる」

ヒグマ「あ、お、良かったぁ」ホッ

女「ただまあ、こっちはねぇ……。私の口からはちょっと言いにくいんだけど……」

ヒグマ「?」

女「君のパソコンから違法ダウンロードやリッピングの証拠が続々と出てきててねぇ」

ヒグマ「!!??」ビクッ

女「特にアレだね。何のとは言わないけどさ、無修正な動画が色々と見つかったらしく」

ヒグマ「あちょいやあのそれはちがっ」

女「その中に、17歳の高校生が映っている動画もあったとかで」

ヒグマ「ちょちがあれはあの」

女「児童ポルノ法違反という事で、今は余罪を追求されている真っ最中らしいんだけど……」

ヒグマ「ふえっ!?」ビクッ

女「何か心当たりでも?」

ヒグマ「…………」フルフル

女「おいどうした喋れよ、冤罪だと口でハッキリ否定したらどうだ?」

ヒグマ「スミマセン……ホントスミマセン……」

【将棋で言うと十七手詰めぐらい】


ヒグマ「あ、あの……それで、俺、どうなるんすか……?」ビクビク

女「…………」

ヒグマ「逮捕ですか!? マジで!? 何で!? 俺は動画がネットで落ちてたから拾っただけなのに!! それだけで!?」

女「うるせえ、立派な犯罪に決まってんだろが」


ヒグマ「」


女「あのねぇ、本来ならこれだけ証拠が揃ってるから逮捕でもおかしくはないんだけど」

ヒグマ「は、はい……」

女「ただ、今の君、法律上はまだクマになってるんだよね。国会で法案がまだ通ってないからさ」

ヒグマ「!?」

女「つまり、クマが違法ダウンロードや児童ポルノ法違反で逮捕される事はない。それは当然でしょ?」

ヒグマ「……って事は」

女「君は無罪」

ヒグマ「」パァァァァ


女「ただ、法案が通って君の人権が認められたら、即逮捕。有罪」

ヒグマ「あがぁぁぁぁ!!! 詰んでんじゃねえかあ!!!」ゴロゴロッ

女「チェックメイト寸前ってとこかな」

【誰の為に】


女「ただまあ、抜け穴がなくはないんだけど……」

ヒグマ「え!?」

女「要は、君がクマの内に証拠を消してしまえばいいんだよ。そうすれば人権が認められた後でも君が逮捕される事はない。決め手となる証拠が消えてるからね」

ヒグマ「……なるほど? つまり?」

女「今の内に君のパソコンを破壊する」

ヒグマ「ほげええっ!!??」

女「余罪の捜査はもうすぐ終わるらしいから、そうすればパソコンが返ってくる。返ってきた時にドリルで破壊する。これで証拠は消えて君は無罪。OK?」

ヒグマ「いやでもあれには大事な」

女「大事な? 何だ? 大事なポルノ動画があるとでも言うつもりかオイ?」

ヒグマ「ち、ちが、でも、買ったゲームやインストしたアプリが。大体、あのパソコン20万ぐらいしたのに」

女「なるほど。それは君が犯罪者になるより大切なものか? よく考えて返答しろよ。私は気が短い方だぞ」

ヒグマ「ア、ハイ……サーセン。コワシテクダサイ……」

女「よし。同意は取ったからね。後はこちらで処理しておくから。一応、念の為に聞いておくけど……」

女「何か異存や不満は?」

ヒグマ「アリマセン……。スイマセン……」

女「この事は当然黙っている。誰にも言わない。わかってるよね? 言えば、君も私もマズイ立場になる。そうでしょ?」

ヒグマ「ハイッス……。ワカッテマス……」

女「あのね、一応言っとくけど、私は君の為にやってるんだからね。お願いだから、そんな悲しい声出さないでよ」

ヒグマ「……ハイッス。スンマセンシタッ……」

女「ああもう!!」

【昨日】


女「……という事は、彼を無罪にする為にパソコンはもう破壊した後だと?」

警察官「そういう事です。パソコンの証拠を消すには物理破壊が一番ですから。表向きは返却済で処理してありますが」

女「…………」

警察官「多分、政治家のセンセイから指示があったんでしょう。児童ポルノ法違反となれば世論がうるさい。これが表に出たら、いざ法案を通そうという時に大反対される可能性がある。今のうちに揉み消せるなら揉み消した方が良い、そういう事ですよ」

女「そうですか……。政治の理由で罪を曲げますか。私の弁護士バッジが泣きますね。こんな事ばかりだと」

警察官「あなたは正義の味方ではなく、彼の味方だと伺ってますが?」

女「そうです。わかっています。私はとことん弁護士に向いてないんです。検察官の方が遥かに向いているでしょう。だから、弁護士にはならなかったんですが」

警察官「何にしろ、上手く彼を言いくるめて下さい。パソコンを破壊されたと言われて裁判沙汰にされたらマズイので。あと、固く口止めもしておいて下さい」

女「」ハァ…

女「気が進まない仕事ばかりですね。だから引き受けたくなかったのに」

警察官「私達も好きで証拠を隠蔽している訳ではないですよ。出来る事なら週刊誌に売ってやりたい気分です」

女「お互い様ですか……。わかりました、努力してみます。それではこれで……」ペコッ

【失言】


女「それで……最後に買い物だっけ? まだそのダメな理由を聞きたいの、違法エロ動画君?」ハァ

ヒグマ「マジ……モウユルシテクダサイ……」


女「まあ、私も子供じゃないんだから、もういいんだけどさ」ハァ

ヒグマ「ア、ハイ……」

女「これも単純な理由だよ。さっきも言ったけど、君の身分がまだクマのままだからって事。国会で法案が通って、君の人権が認められてからじゃないと厳しいかな。君を殺そうとしてる過激派もいて危険だし」

ヒグマ「!!??」

女「つまり、法案が通るまでは、君は外出が出来ない。法案が通ってからなら何とかしてみるつもりだけど、関係省庁や役所や警察との連携も必要だし、それにはもう少し時間が」

ヒグマ「ま、待って! その前に! 俺を殺そうとしてる過激派って何!!??」

女「あ」

ヒグマ「何そのしまったって表情!? どういう事!?」

女「いや、その別に……。私、そんな事言ったっけ?」

ヒグマ「言った!! 間違いなく言った!!」

女「あーあ……だから、私、弁護士にも医者にも向いてないんだよね、ホント」ハァ…

女「悪いけど、今日はもう帰るよ。ショックを受けてるし」スタスタ

ヒグマ「いやいやいやいや、待って待って、逃げないで!!」

【世界が君を受け入れても】


女「言うと不安にさせると思って黙ってたんだけど……それでも聞きたい?」

ヒグマ「いや、もう言わないと逆に不安になるんで」

女「……じゃあ言うけど、一部、過激派がいてね。君の命を狙っているという情報が警察から来てるんだよ」

ヒグマ「俺、何で殺されようとしてるんすか!? 理由がないでしょ!?」

女「それが理由はあるんだよ、彼らにとっては」

ヒグマ「一体、どんな理由で!?」

女「神の敵だと」

ヒグマ「お、おおう……宗教上の理由っすか……」

女「一部のキリスト教徒から」

ヒグマ「世界の三大宗教の一つなんですけど!?」

【畜生以下】



旧約聖書では、言葉を喋るヘビがイブを騙した事により、アダム達は禁断の果実を食べて、楽園から追放されたと書かれている。

このヘビとは『悪魔』がヘビに化けた姿である。




女「つまり、君は本当は悪魔で、クマに化けているってそう思われているらしい」

ヒグマ「だから、人間だって何度も何度もっ!!!」ガォォォ!!

女「それはわかってるんだけど、とはいえ、人間っていうのは異質や異端を簡単に受け入れたりはしないんだよ。そういう生き物なんだ」

ヒグマ「おかしいだろっ!! 犬や猫なんて全然大きさや格好が違ってもお互い仲良くしてるのに!! 人間は犬や猫以下の生き物なのかよぉぉっ!!」ガォォォ!!

女「君、たまに鋭い事を言うね。なるほど」

ヒグマ「感心してないで!! 同調して!!」

【可愛いは正義】


女「一応言っておくけど、キリスト教徒の中でもごく一部だからね。君を悪魔だと考えているのは」

ヒグマ「そうでなきゃ、ヨーロッパやアメリカ大陸の大半が俺の敵って事になるんじゃないんすか?」

女「でも、クマの姿でまだ良かったよ。これがブタの姿だったら、イスラム教徒全員を敵に回すところだったからね。下手すりゃ戦争に発展する可能性まであったし」

ヒグマ「待って、怖すぎるんだけど」

女「牛の姿だったらヒンドゥー教には神の使いとして崇められていた可能性も」

ヒグマ「それはそれで嫌です」

女「もしも猫の姿だったら全世界に許されてたはず」

ヒグマ「ヒグマ差別だろぉぉ!!! 人を外見で判断すんなよぉ!!!」ガォォォ!!

女「猫は全て許される。だって可愛いから」

【性癖】


女「と、まあ、そういう訳で君を暗殺しようと企んでいる過激派がどうやらいるらしいんだよね。宗教以外の理由でもチラホラとさ。クマが人の心を持つのは倫理的に許されないとか言って」

ヒグマ「ガチで怖いんですが。理由が矛盾だらけなのも怖すぎる」

女「君に人権があればね。君を殺すのは殺人罪に問えるから抑止力にもなるんだけど、人権がない今だと罪に問うのはなかなか難しいからねえ……。君、今、野生動物扱いになってるし」

ヒグマ「!?」

女「誰かのペット扱いなら器物破損の罪で立件も出来るんだけど、野生動物でオマケにクマとなると殺しても無罪になる可能性が高いから、過激派にとっては今が絶好のチャンスで」

ヒグマ「ま、待って! 俺、野生動物なんすか!?」

女「え? そうだよ。便宜上、公舎に勝手に住み着いたクマ扱い」

ヒグマ「勝手に!? 同意なしに連れて来られたんすけど!?」

女「いや、そうしないと法律上問題だらけで色々と複雑になるんだよ。ペットとして私が飼ってますって風に出来たかもだけど、それは君も嫌でしょ? だからそんな手続きをとったと思うんだけどさ」

ヒグマ「そりゃペットは嫌ですけど……でも」

女「でも?」

ヒグマ「可愛い女子高生になら飼われたいと思うんですよ、俺は」

女「ごめん、ただの変態なのか、君は? おい」

ここまで

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