風都探偵ss Wの称号/風の導き (83)
風都探偵のssです。
アニメの影響を受けて書いてみました。
物語の時期は大体原作110話直後だと思ってください。それではどうぞ…
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風都。その名の通りこの街にはいつも透き通った心地の良い風が吹いている。
街の中心に位置する巨大な風車を催した風都タワー、そこから流れる風は街に住む住人ならば誰もがその恩恵を受けるだろう。
そして俺こと左翔太郎もそのうちの一人だ。
愛用の帽子を深く被りながら今日もこの街に流れる風を心地よく感じて…
「翔太郎!そっち行ったよ!早く捕まえて!?」
そんな黄昏る俺を余所に喧しい声が…
助手のときめだ。せっかくハードボイルドに決めていたのに邪魔してくれるぜ。
ちなみにこれでも仕事中だ。迷子になった猫を捕まえるべくときめと二人で追いかけている真っ最中。
え?お前サボッてないで働けだと?いやいやサボっていたわけじゃない。
こうして風の流れを感じて猫が何処へ行くのか探っていたんだよ。
まあそうこうしているうちになんとか猫を路地裏まで追い詰めた。
「さあ、観念しな。もう逃げ場はないぜ。」
あとは捕まえるだけだ。そう思って猫に近づこうとした。
「ダメ!そっちは危ないよ!」
思わずときめが叫んだがなんと猫は捕まるのを嫌がり俺たちの隙をついてスルッと抜け出し道路へと飛び出た。
やべっ!なんと道路にはトラックが現れた。
すぐに俺は駆け足で走り出して猫を捕まえた。だが遅かった。
猫を掴んだと同時にトラックが俺の目の前まで迫ってきた。
このままだと轢かれる。そう思った俺はなんとか猫だけは守ろうと背中で庇おうとした。
………おかしい。なんともないぞ。
ひょっとしてトラックの運転手が咄嗟にブレーキを踏んで止まってくれたのだろうか。
だとしたらありがたい。俺はすぐに運転手にお詫びとそれにお礼を言おうと振り向いたがそこには驚くべき光景があった。
「よう、無事かい。」
なんと俺の前に見知らぬ男が立っていた。
しかもその男はなんと片手でトラックを受け止めていたのだ。
10トンはある大型トラックだぞ。それをこの男は片手で平然と受け止めている。
これは…一体どういうことだ…?
「翔太郎!猫ちゃんは!それに…」
「ああ、俺は…猫も無事だ。けど…アンタ…大丈夫か…?」
すぐにときめが駆け寄ってきてくれたが俺はまだ呆然としたままだ。
だってそうだろう。目の前にいる男がトラックを受け止めているんだぜ。
こんなの仮面ライダーでもなければ無理に…待てよ…まさかこの人は…
「驚かせて悪かったな。けど無事でよかった。」
「いや、こっちこそ助けてくれてありがとう。
それにしてもこの力…アンタ…ひょっとして仮面ライダーなのか?」
助けてくれた命の恩人に思わずそんな質問をしてしまった。
不躾かもしれないが仕方がない。目の前でこんな事態が起きたんだから警戒してしまうのは当然だ。
「そういえば…素顔で会うのは初めてだったな。」
「素顔で会うのは?まるで以前に会ったことがある言い方だな。」
「ああ、これまでも何度か会っているぞ左翔太郎。」
オイオイ、まさか俺の名前までご存知とは…
けど何度もと言われても俺にはこの人と会った記憶がない。
これでも探偵をやっている身だ。職業上出会った人間の顔はそう簡単には忘れない。
だからこそ疑問だ。本当にこの男は何者だ?
「悪いが俺はアンタと会った記憶が本当にないんだが…」
「そうだろうな。こうして面と向かって話をすることすら初めてだからな。
それじゃあ自己紹介させてもらうよ。俺の名は一文字隼人。またの名を仮面ライダー2号だ。
改めてよろしくな左翔太郎。いや、仮面ライダーW。」
そう言いながら彼は俺に挨拶がてら自己紹介してくれた。
え?一文字?仮面ライダー2号?えぇ――――――ッ!?
「フィリップ大変だー!話を聞いてくれ!なんと偶然スゲー人と会ったんだ!?」
一文字さんと出会った直後、俺は急いでかもめビリーヤードの二階ある鳴海事務所へと戻った。
まさか単なる迷い猫の捜索中に伝説の男一文字隼人が現れたんだ。
これぞまさにビッグニュース。そう思い血相変えて事務所に戻ってきた。
だが事務所に戻ると相棒のフィリップは確かに居るがもう一人見知らぬ男がいた。
見た目大柄で渋そうなライダーズジャケットを着込み見るからに厳つい男だ。
まさか依頼人か?そう思ったが…しかし男は事務所の台所でなんと珈琲を淹れていた。
しかも事務所にある珈琲豆を勝手に使ってる!それはこの街で一番美味い鈴鳴珈琲店で仕入れた豆なんだぞ!?
そう動揺する俺に対して男は淹れてくれた珈琲をカップに注いでそれを俺とフィリップ、それに依頼人に猫を返して遅れて帰ってきたときめに渡してくれた。
まあせっかくなんだしひと口飲んでみた。
「美味…」
思わず言ってしまったが本当に美味い。これは最高だ。
「誰とは心外だな。以前に会っているはずだぞ。」
男がそう言ってきたが…そういえばどこかで会った気が…あ!
「どうやらようやく気づいたようだね翔太郎。そう、彼の名は本郷猛。仮面ライダー1号だよ。」
隣でフィリップが呆れながらに彼のことを紹介してくれたが…
同時に俺もようやく思い出した。そういえば会っていた。
そう、仮面ライダー1号こと本郷猛。俺たちの大先輩だ。
「いや~美味いな珈琲!まさに立花のおやっさん直伝だな。」
「そうだな。けど豆がよかったのもあるぞ。本当にいい豆を使っているな。」
それから先程出会った一文字さんも合流して客人の本郷さんに一文字さん、それと俺たち鳴海探偵事務所の面々と和気藹々(?)としたお茶会となった。
それにしても目の前に信じられない光景がある。
なんせうちの事務所にあの伝説の男たちが珈琲片手にくっちゃべっているんだ。
こんな光景滅多に見れるもんじゃないぞ。
「ねえ、いい加減説明してよ。この人たち一体何者なの?」
そんな緊張する俺の隣に相槌するようにときめがこの人たちが何者なのかと説明を求めてきた。
まあ事情を知らないときめには一応説明しなきゃならないんだが…
「悪い…実は俺もよく知らないんだ…」
「え?嘘?だって何度か会ってるんでしょ。」
まあ確かに何度か会ってはいるのは事実だ。
けど思えばいつも他のライダーたちとの集まりだったり戦闘の真っ最中だったりでまともに話かけたことがなかった。
そんな二人について改めてどう説明すればいいのかなんてむしろ俺の方がしてほしいくらいだ。
「…仕方ない。ここは僕の出番のようだね。」
すると本郷さんの淹れた珈琲を飲み終えた相棒のフィリップが席から立ち上がると瞑想をするような動作を取った。
どうやら相棒は地球の本棚に入ったようだ。
俺の相棒ことフィリップはこの地球の凡ゆる記憶が保存された地球の本棚を閲覧する力がある。
俺には見えないが、いまフィリイプの目の前にはこの地球の記憶が保存された大量の本棚がある。
これを一冊ずつ読み解くのはかなりの手間が掛かるだろう。
だがフィリップはそんな手間を省くためある言葉を口にした。
「キーワードは[仮面ライダー]」
そう一言呟くとフィリップの前にあった大量の本棚は一瞬で殆どが消え去り一冊の本が残された。
本に記されたタイトルは[仮面ライダー]
フィリップがキーワードで検索して得た知識だ。
「かつてこの世界に悪の組織があった。その名はショッカー。」
「ショッカーは才能ある人間を洗脳して改造人間を尖兵にして世界征服を企んだ。」
「本郷猛と一文字隼人。彼らはショッカーによって改造された改造人間だった。」
その昔、俺たちが生まれる前から暗躍していた悪の組織ショッカー。
悪逆非道の限りを尽くして人々の平和を脅かした非道な集団だ。
そんなショッカーに本郷さんと一文字さんは改造手術を受けて改造人間にされた。
「だが彼らは洗脳される直前に組織を脱走した。」
「そして人類の平和と自由のために戦う戦士、仮面ライダーとして戦うことを決意した。」
「仮面ライダー1号、仮面ライダー2号、数多の脅威を退けた彼らに人々は称賛するかのようにこう呼んだ。」
「栄光のダブルライダーとね。」
そう、仮面ライダーの始まりは彼らにあった。
本郷さんがショッカーを脱走して仮面ライダーとして戦わなければ今頃この世界はショッカーによって世界征服されていたかもしれない。
今日まで平和が保たれているのは彼ら先輩ライダーたちのおかげだと俺は思っている。
「え? 1号と2号でダブルライダー?仮面ライダーって翔太郎とフィリップに…それと所長の旦那さんのことじゃないの?」
「いや、仮面ライダーの称号は僕たちだけのものじゃない。他にも大勢いるんだよ。」
本郷さんに次いで新たに仮面ライダー2号となった一文字さん。
それ以降も仮面ライダーの系譜は続いた。
仮面ライダーV3、ライダーマン、仮面ライダーX、仮面ライダーアマゾン、仮面ライダーストロンガーと…昭和の時代だけでも10人以上もの仮面ライダーが存在している。
平成では…聞いた話だと1万人を越したというがそれだけのライダーがいたら村が出来そうな人数だな。
まあそんなわけで今や仮面ライダーも大所帯と化していた。
「へえ、てっきり仮面ライダーはダブルとアクセルだけかと思ったけど他にも居たんだ。
あれ?ということは翔太郎たちって本郷さんたちの許可なく仮面ライダーの称号を今まで勝手に使っていたということなの?」
オイやめろ。その件についてはあまり触れないでくれ。
俺たちは先代のおやっさんの意思を継いで仮面ライダーとなった。
つまりこの件を辿るとそもそもおやっさんが勝手に仮面ライダーを名乗ってたことから始まって…
だからこの問題は本当にややこしいんだよ。
「ハハハ、ライダーの称号なんて勝手に使ってくれて構わないよ。
お互いライダーになった経緯は異なるだろうがそれでもキミたちは人を守るために立ち上がった。
その想いがあれば十分だ。」
「その通りだ。なんせ浅倉なんて凶悪犯がライダーを名乗っているくらいだ。
それを思えばこの街を守るためにライダーを名乗るキミたちは余程立派だよ。」
…そういえば居たよな…浅倉なんてやばいのが…NEVERの傭兵たちもライダー名乗ってたし…
まあそれはともかくとしてこうして俺たちは今まで曖昧で済まされていた仮面ライダーの称号に関して本家ダブルライダーから許可を得られた。
けどこの件に関しては雑談にしか過ぎないのだろう。恐らく本題はこれからだ。
「ところで本郷、お前どうしてこの街を訪れた?ちなみに俺はカメラマンの仕事で訪れたわけだが…」
「うむ、それに関してだがまずは俺の方から風都の探偵諸君に聞きたいことがある。先日キミたちが解決した死仮面連続殺人事件についてだ。」
この件に触れられて俺とフィリップは思わず苦い顔になった。
まずは事件の概要を説明しよう。事件は古代民族文化の東堂幸三教授の死から始まった。
その死に顔はいま思い出しても余りにも不気味なものだった。
引きつったような激しい笑顔の死体。それが事件の始まりだった。
俺たち事件の調査を進めていく中でこの事件がかつてこの街でガイアメモリをバラ撒いて暗躍していた組織ミュージアムの長である園崎琉兵衛が絡んでいることを突き止めた。
園崎琉兵衛はロンドバレル島の遺跡を発掘するに辺り死んだ東堂の他に三人の協力者がいた。
電子工学と生物学のルーク・ランカスター、発掘学の調査技師の吾妻仁、遺伝子学の咲夜栄介。
彼らのイニシャルを肖ったL・A・S・Tのメンバーたちの連続殺人。
狂気の殺人鬼により次々に襲われるL・A・S・Tのメンバーたち…その犯人の正体は…
まあ、この事件に関しては最後まで語らなくてもいいだろう。どうしても知りたければ本誌を読んでくれ。
とにかく俺は本郷さんに事件の詳細を明かした。
けれど本郷さんは事件についてよりもある点について興味を示していた。
それから少し思い悩んだ意味深な表情を浮かべながら考え事に耽っていた。
「やはり…そういうことだったか…」
「オイオイ、自分だけ納得するなよ。みんなわけがわからなくてサッパリだぞ。」
「すまん一文字、俺もまだ半信半疑なんだ。
それでだ。もうひとつ諸君に頼みたいことがある。俺たちを園崎邸に案内してくれないか。」
その言葉に俺は思わず飲んでいた珈琲を吹いてしまった。
ときめが汚いと叫んでいるがぶっちゃけそれどころじゃない。
この人は自分が何を言っているのかわかっているのか?
「本郷さんいくらアンタの頼みでもそれは聞けないぜ。あそこはかつてミュージアムの本拠地だったんだぞ!?」
かつて園崎低の主である園崎琉兵衛とその一家が住んでいた屋敷だ。
それに園崎は…
「本郷さん、あなたが園崎邸に行く目的は一体何なんだ。それを教えてほしい。」
隣に座る相棒のフィリップが冷静にそれで淡々とそう尋ねた。
俺がこの件に触れられたくない理由はフィリップにある。
何故ならフィリップは園崎琉兵衛の実の息子だ。
既にミュージアムが崩壊して数年が経過しても家族の縁はそう簡単に切れるものじゃない。
だから触れてほしくない。おまけに…
「いまこの街には裏風都の住人たちが暗躍している。園崎邸に近づけば彼らを刺激する可能性がある。」
フィリップは本郷さんにこの街の現在の状況を説明した。
確かにフィリップにしてみれば園崎家の問題には触れてほしくないだろうがそれだけの私的な事情ばかりじゃない。
園崎邸にはアレがある。だから下手に近づけば裏風都の連中を刺激する可能性は高い。
「わかっている。だが俺もどうしても確かめたいことがある。無理な頼み事だとは重々承知しているが頼む。」
それでも本郷さんは頑なだった。
まあ1号ライダーにこうまで頼まれたが断ることなど出来ない。
それにこの人たちなら妙なことにはならないはずだ。
こうして俺はまず風都署のジンさんに建物に入る許可を取りたいと連絡を入れた。
現在あそこは風都署の…それも超常犯罪捜査課の管理下に置かれている。
ちなみにだが本来こういった件はジンさんの上司であり俺たちと同じ仮面ライダーこと照井竜に相談するのが筋だ。
けどあいつは留守中。うちの所長で奥さんの亜希子を連れて親戚への挨拶がてら大阪に行っている。
あいつら結婚して暫く経つのにまだ親戚への挨拶回りを済ませていなかったらしい。
そんなわけで新婚旅行を兼ねて大阪まで羽を伸ばしているそうだ。
まったく復讐に燃えていた男も今となっては形無しだな。まあそんなわけでジンさんからアポは取れた。
こうして俺たちはさっそく園崎邸に向かうためそれぞれのバイクに乗って出発しようとするが…
「…何だ…?」
一瞬の出来事だった。バイクに乗り込む瞬間に妙な風が吹いた。
そのことに俺以外誰も気づく素振りはなかったが…
けど嫌な感じだった。こう何か胸騒ぎがするような…
とにかく考えても仕方ない。俺は一足先に発進したみんなの後を追って愛車のハードボイルダーのアクセルを吹かした。
こうして園崎邸へと向かうわけだが…けれどこの時この胸騒ぎの予兆を確信すべきだった。
何故ならこれこそがこれから起こる事件の前触れだったのだから。
とりあえずここまで、大雑把な導入部でした。
ちなみに翔太郎たち風都のライダーが仮面ライダーの称号を使っていることに関してこれは私の独自解釈に過ぎません。
なので本気になさらず
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