ちひろ「えっ、と、急にどうしたんですか、プロデューサーさん?」
モバP「いや、私事で申し訳ないんですが、最近若い頃に比べて頭が回らなくなったなと、感じることが増えましてね」
ちひろ「へぇ、そうなんですか?」
モバP「あれ、ちひろさんはそう思ったことないんですか?」
ちひろ「ふふっ、まあ、自慢じゃないですけどね」
モバP「僕より、年上なのに」
ちひろ「ちょっと、老けてるとでも言いたいんですか?」
モバP「い、いや何でもないです」
ちひろ「ですよね?なら、よろしいです」
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モバP「圧が凄いのは相変わらずですね……ちひろさんもみんなも、10年もそのままでいられるなんて」
ちひろ「ん?何か言いましたか、プロデューサーさん?」
モバP「いやいや、ただの独り言です」
ちひろ「はぁ、何だか、変ですよ?前会った時はアイドルのみんなの名前もスラスラ言ってて、何より、今より声大きかったですよね?」
モバP「ああ、まあ、確かに」
ちひろ「何かあったんですか?相談事なら、いつでも乗りますよ」
モバP「はは、お心遣いありがとうございます」
モバP「はは……」
ちひろ「?」
モバP「にしても、懐かしいですね、この部屋。初めて来た時から、自分好みにアレンジも重ねて……ああ、こんな内装にしてたんですねぇ」
ちひろ「プロデューサーさん、そんなこと言って、昨日もここに来てたじゃないですか。そんな懐かしむほど時間は経ってませんよ?」
モバP「……ちひろさん、今日、僕が来て何日目ですか?」
ちひろ「今日でだと、通算3650日、ざっと10年、と言ったところでしょうか」
モバP「……最後にログインした日は」
ちひろ「最後に……とは、どういう意味ですか?私には、プロデューサーさんの内容がよく分かりません」
モバP「ちひろさん……今日はですね、本当は……お別れを言いに来たんです」
ちひろ「……え?」
モバP「僕が最後にここに来た……このデータにログインしたのは、もう5~6年も前のことです。長い間僕はここに来てない」
ちひろ「ど、どういう……?」
モバP「このゲームは、もうすぐサービスを終了するんですよ。だから最後に、こうして挨拶しに来たんです。もう何年も放置してるのに、今更過ぎて怒られちゃいますけど」
ちひろ「……」
モバP「何だかここに来ると、遠い昔を思い出します」
モバP「少し前までは、色々な夢に囲まれてました。まだいい意味で何も知らなかった頃、努力で必死で夢を追い求めるアイドルの姿に、同じ世代の者として、とても心を動かされていました」
モバP「このコンテンツにハマってから、自分も何か創作してみたいと、恥ずかしながら二次SSや曲のREMIXなどにも手を出して、その時間は忘れられない思い出になりました。外に出る友達も、そんなにいなかったので」
モバP「そんな無邪気な頃とは、すっかり無縁の生活を今は送っています。毎日疲れ果てて、歳を重ねるたびに、色々なことで悩んで、しがらみが増えて、すっかりここにも来なくなりました。そして気づいたら、もうサ終が迫るほどに時間が経っていた」
モバP「ちひろさんも、アイドルのみんなも、前回のログインの記録を昨日のように思っている。でも本当は、それより遥かに長い時間が流れて、大きく僕らを変えたんです。何でもできると思い込んでた昔は、もう二度と、戻っては来ないんです」
ちひろ「……そう、ですか」
モバP「……」
ちひろ「ではどうして……貴方は、今、泣いているのですか?」
モバP「えっ」
モバP「あれ……なんで、ど、どうし、て」
ちひろ「辛そうな表情をしていたのは、私にだって分かりますよ。今日会ってからずっと、そんな調子でしたから」
モバP「……」
ちひろ「確かに、私たちはここより外の世界を見ることが出来ません。時間の計測もログイン日数でしか測れない。明確な時間が流れていないため、歳も取らず、10年がどれほどの時間かも分からない」
ちひろ「少なくとも、あんなに明るかった貴方をそこまで変えてしまうほどに、長く重いものということは分かりました。共感も、今こうして話している台詞も、そもそも私という自我が存在するのかも不明瞭ですが」
ちひろ「ですがこれだけは……このアイドルマスターシンデレラガールズは、決して人々にまやかしの希望を与えるだけではないとだけは、自信を持って言い切れます」
ちひろ「このコンテンツは、女の子達一人一人が夢の舞台、アイドルへの道のりを辿っていくゲームであり、その道中では様々な苦難に直面します。そうして最後に夢を叶える彼女達の姿は、貴方のような方々に想いを与えてくれる」
ちひろ「それは、決して交わらない現実との間の差異を強調するものではありません。人々に決して叶わない夢を抱かせるためのものではありません。貴方もそれを分かっていて、それが諦めきれなくて、今も悩んで苦しんでいるんですよね」
モバP「……苦しい、ですよ。こんなにも、考えなきゃ行けないことが増えるなんて、知りませんでしたから。何も考えないで、ただ夢見て生きてたあの頃が、どれだけ楽しかったのか。僕は今でも、こうしてまだすがりついてるなんて」
ちひろ「夢を与えることは、ある意味残酷なことなのかもしれません。ですが、無意味であるとは私は思いたくありません。この10年がきっと、様々な人々に何かいいことを残せたと、私は信じています。
それが、皆さんの未来を少しでも明るくする手助けになったらと」
モバP「ちひろ、さん……」
ちひろ「私たちはもう間も無く、何でもない存在になってしまうことでしょう。データも残らず、この空間も、あの頃から今日までの記録も消えてしまうのでしょう」
ちひろ「でも、私たちはいつまでも側にいます。これからもずっと、心の中で、私たちを覚えていてくださいね」
モバP「本当なら、消えて欲しくなかったです……出来るなら、いつまでも残っていて欲しかった」
ちひろ「今は辛くても、私たちと一緒に歩んだ記録が、明るい未来を作りますように。また、夢を自由に思えますように」
モバP「でも、せめてこうして最後に話せて……また昔みたいに会えて、よかったです」
ちひろ「今度は心の中で会いましょうね。10年間お疲れ様でした、プロデューサーさん」
モバP「プログラムの、本来感情もないはずの、データの塊の世界でも、一緒に過ごした時間は、紛れもない本物でした」
モバP「今が辛くても、あの頃とは変わってしまっても。プロデュースの日々は、消えないで自分の中に残り続けていたんです。
僕の方こそ、出会えて良かった。間違ってなんかいなかった。
10年間の感謝と共に、ありがとうございました」
昔を思い出して、久々に走り書きしたものです。何も考えずに書いたので、せめて形にさえなっていればと思います。
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