キョン「で? へライザー統領ってのはなんだ」涼宮ハルヒ「……これ」 (7)

「つまり私はこう思うのよ。この世界で自己を保つためには外部からの情報を完全にシャットダウンするか自分自身が世界の敵になるしかないってね」

急にこいつは何を言い出すのかと疑問に思い振り返ると後ろの席の『無敵の人』こと、涼宮ハルヒは目が覚めるようなピンク色のウィッグを被って片手をあげて「ヘライザー」と呟いた。なんなんだよ、へライザーって。

「キョン、あんたもどうして私みたいなハイスペック超人が学校で孤立しているのか疑問に思ってるでしょ? その理由がこれ。そう、何を隠そうこの私こそが悪の秘密ぼっち……へライザー統領ってこと」

ハイスペック超人というよりもハイスペック狂人な涼宮ハルヒが天に向けて手のひらを翳して斜め上を見上げて台詞を締めくくった瞬間、俺の中で理性が崩壊した。くそうぜぇ。

「おい、ハルヒ」
「何よ。私のことはへライザー統領と……」
「ぼっちならぼっちらしく黙ってろ」

我ながら痛烈な罵倒だった。流石に罪悪感が募る。なにせあのハルヒがみるみるうちに涙目になっていくのだから。しかしそこはへライザー統領。奥歯を噛み締めて減らず口を。

「ふ、ふん。キョンの癖に怒るなんて。何様なわけ? だいたいあんたみたいなモブ代表みたいな存在がこのへライザー統領麾下の戦闘員1号を名乗れるのはそもそも誰のおかげだと思ってるのよ。その有り難みを理解出来ないほど低脳だとしたらなんて、かわいちょ」
「かわいちょなのはお前だ」

戯言に一切取り合わず吐き捨てると、ハルヒは涙目で「かわいちょくないもん……」と呟き、唇を噛んだ。不謹慎かも知れないがその様はなかなか、可愛かった。

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「で? へライザー統領ってのはなんだ」
「……これ」

あまりにも惨めなハルヒに奇行の理由を問うと渋々といった感じでスマホを取り出しへライザー統領を名乗るYouTuberの動画を流す。

「なるほどな。こいつに影響を受けたのか」
「べ、別に影響を受けたわけじゃ……」
「悪の秘密ぼっちって肩書きは、たしかに語呂が良くて響きが魅力的だな」
「でしょ!? なんだあんたもわかって……」
「でもよ、ハルヒ」

たとえ相手が奇人変人狂人だとしても、同調した上で突き放す論法はよく効くものだ。

「お前はSOS団の団長で団員を抱えている身分なんだから悪の秘密ぼっちにはなれない」
「ふわふわ……もこもこ……まっしろ」

正論を口にすると、ハルヒは口を尖らせて。

「……団員と戦闘員がどう違うってのよ」
「似たようなもんだ。そもそもこのへライザー統領閣下も、戦闘員という名の信者に支えられている。ぼっちなんてのは建前なのさ」

そう諭すと納得したらしくウィッグを外し。

「このウィッグ有希に似合うと思わない?」
「案外長門みたいな奴がネット上では雄弁だったりするのかもな」
「じゃあ、あんたは大便てこと?」
「フハッ!」

戦闘員1号たるこの俺が世界に先陣を切ろう。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「うぇっ。かわいちょ」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

感じたままに世界を敵に回すと確かに自己を保てた。ってことにしておこう。やほほー。


【涼宮へライザーの覚醒】


FIN

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