真希波・マリ・イラストリアス「それにしてもこれで何度目の浮気?」 (9)

"Love fed fat soon turns to boredom."
(満ち足りた愛はすぐ退屈になってしまう)

プーブリウス・オウィディウス・ナーソー

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満ち足りた愛じゃなくて恋でしたね
確認不足で申し訳ありません
それでは以下、本編です

「式波。僕、帰るから……」

乱れたシーツを直してから手早く服を着て、真っ暗な部屋を出るために手探りでドアノブを見つけ、アスカの背中に別れを告げた。

「チッ……アスカって呼べ」

アスカの舌打ちを背中を浴びて扉を閉めた。
アスカのアパートから自宅までは徒歩5分。
ポケットから取り出した携帯に着信が1件。

『もうすぐ帰るよん、ワンコくん』

2時間前に届いていたメッセージに返事をする間もなく自宅に到着。既にマリさんは帰宅していて、鍵が開いていた。恐る恐る帰宅。

「お。なんだ、もう帰ってきたのかにゃ?」
「ただいま、マリさん」

マリさんはだらしなくソファに横になっていた。2人で選んだ家具。億劫そうに起きて。

「てっきり今夜は姫のとこにお泊まりかと」

キラリと光る眼鏡の奥から浮気を見透かす。

「……どうして、そう思ったの?」
「だってキミ、姫の匂いが染み付いてるよ」

思わず袖口を嗅ぐとマリさんはにやついて。

「やっぱり姫と会ってたんじゃん」
「……マリさんには敵わないな」
「にゃはは。ほら、おいで」

降参するとソファの隣を叩く。お座りした。

「それにしてもこれで何度目の浮気?」
「……ごめんなさい」
「いや、謝って欲しいわけじゃなくてさ。ああ、もちろん浮気の回数の問題でもなくて」

マリさんはガリガリ頭を掻きつつ肩を抱き。

「なんか私に不満でもあるの?」

上目遣い。裸眼でじっと見つめられて困る。

「ないよ。マリさんに不満なんて、ない」
「ふうん。なるほど嘘じゃないときたか」

素直に、正直に目を見て答えると吟味して。

「じゃあ、私は君に試されてるわけか」
「試すって、何を?」
「どこまで許してあげられるのかって」

そうなのか。マリさんが言うなら、たぶん。

「試して、ごめん」
「だから謝って欲しいわけじゃなくて私が知りたいのは許すのが正解なのか、はたまた不正解なのかってことでそこが悩み所にゃん」

マリさんを悩ませて申し訳ない。いや違う。

「へえ。悩んでる私を見て嬉しいんだ?」

その通り。それが望みで目的なんて最低だ。

「ワンコくんが想像してるよりもずっとずっと、私は君のことを想って、考えてるよ」

肩に頭を乗せてマリさんが囁く。良い匂い。

「だから安心しなよ」
「……うん」
「私は君をちゃんと理解してる」
「……うん」
「今日の浮気だって姫に誘われたんでしょ」
「それは……」
「来なかったら死んでやるって言われた?」

答えられない。結局行ったのは自分の意思。

「自分を責めなくていいよ」
「マリさんは」
「ん? なに?」

こんな質問する資格ないのに、僕は訊ねる。

「マリさんは……行って欲しくなかった?」

後悔が襲ってくる。最低だ。僕は、最低だ。

「行って欲しくないって言って欲しいの?」
「……うん」
「ごめんね。期待には応えられない。だって帰って来てくれたことのほうが嬉しいから」
「っ……ごめん。ごめん、なさい」

泣いた。みっともなく、優しさに包まれて。

「よしよし。大丈夫。怒ってないよ」
「少しくらい、怒ってくれても……」
「甘えない。それが君の罪の罰だよ」

マリさんは優しくて厳しい。だから好きだ。

「落ち着いたかにゃ?」
「うん……ありがとう」

泣いたらすっきりする勝手な自分が嫌いだ。

「ねえ、マリさん」
「んー? なんだい」
「マリさんも泣く?」

疑問を口にすると、そうだねと頷きながら。

「待ってる間はそりゃ寂しいよ」
「……ごめん」
「でもま。その時間こそ愛しいっていうか、恋してるって感じがして、嫌いじゃないよ」

嘘だ。マリさんは平然と、優しい嘘を吐く。

「本音は?」
「姫の家に殴り込みに向かう寸前だった」

冗談めかしておっかない。それがマリさん。

「でもさ、そんなの格好悪いじゃん」
「そうかな」
「もしもワンコくんならどうする?」

もしもマリさんが浮気したなら僕はきっと。

「その時は、初号機で出撃するよ」
「あはは。バチカン条約違反じゃんか」

バチカン条約も何もエヴァは存在してない。

「でも嬉しいにゃん」

独占欲が嬉しい。その共通認識が心地良い。

「にゃろー。満足そうな顔しちゃってさ」
「ご、ごめん」
「悪い子のワンコくんを躾け直してあげる」

嗜虐的な眼差しに興奮した。ご褒美の時間。

「姫に何をされたか正直に答えな」
「上に乗られて、それで……その」
「おしっこをかけられたと」
「……はい」
「ははーん。道理で臭うわけだ」

侮蔑の眼差しが堪らない。浮気の醍醐味だ。

「ちなみに場所は?」
「か、下腹部あたりに……」
「オーケー。じゃあ、横になって」
「な、なにするの……?」
「If you’re not doing some things that are crazy, then you’re doing the wrong things.ってね」

言うが早いか僕はマリさんに押し倒された。

「試してみっか。人を捨てたエヴァの力」
「マ、マリさん……?」
「裏コード、ザ・ビースト!」
「うぷっ!?」

人を捨てたビーストマリさんが顔面に座る。

「んっ……じっとしてなよ」

息が出来ない。苦しい。早く楽になりたい。

「私がどれだけ寂しくて、不安で、心配で、悲しくて、愛しくて、嫉妬したか思い知れ」

ゼロ距離ならば。ATフィールドを破壊して。

「シンジくんは私のものだぁ!!」

ちょろんっ!

「フハッ!」

開いた口から口腔内に侵入した"使徒"ならぬ"おしっこ"は間違いなく侵食型でたやすく僕の心の内側へと這入り込む。受け入れた。
しょっぱいけど、マリさんのなら、飲める。

ちゅろろろろろろろろろろろろろろろんっ!

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「ガフの扉が開いてる!?」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

開きっ放しのガフの部屋が満たされていく。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

世界がどうなってもいい。マリさん大好き。

「あちゃー。こりゃあ、あじゃぱーね」
「ふぅ……危うくパーになるとこだよ」

パーになる寸前で正気に戻って見つめ合い。

「良い匂い。大人の香りってやつ?」
「僕が大好きなマリさんの匂いだよ」
「Normality is a paved road: it’s comfortable to walk but no flowers grow. ……そろそろお花を摘もうかにゃ」

おしっこ塗れで燃えるようなキスをする。


【おしっこ、侵入】


FIN

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