FF零式「開戦運命の三時間」 (13)

FF零式の公式ムービーを書き起こしたものです。懐かしい気持ちで、作品を知っている方は見ていってやってください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1642513047

午前十時五十一分。
戦争で巻き荒れた砂塵渦巻く街の中を、一人の若い朱雀兵が歩いていた。
白虎兵、朱雀兵。
彼の前には白や赤といった色を基調とした兵装を纏った死体が、いくつも転がっている。そしてまた、幾ばくも無いままに、彼も死体のうちの一つになることは、想像に難くない。

息も絶え絶えといった様子で、彼は上空を見上げる。見上げれば、巨大な白虎軍の空挺がいくつも浮かんでいる。
戦況は不利。すでに朱雀の領土のほとんどには、虎のマークの旗が鎮座していた。

「ポイントは……まだ先か」

彼は一人ふらふらと歩き続ける。眩暈をこらえながら、彼は重要な任務のために歩き続けた。

途中、何人か赤の兵が密集している場所を見つける。

「みんな……無事か?」

流れ込む安堵感が、彼を確かに弱くする。
こわばっていた両足からは力が抜け、彼は無様にその場に倒れこんだ。
目の前にいる朱雀の女兵と目が合う。
二人とも、力という力を失ったようなありさまだった。

「赤いマントの……若い兵を、みなかったか?」
「見てない」

吐き捨てるように、彼女はそう言った。

「そうか……」
「あんたはなに――」


突如、二人の間に爆発が起こる。
彼は吹き飛ばされ、戦渦で裸になった街の地面に投げ出された。

「いたぞ!」

――白虎兵が、集まってくる。

先ほどの爆発で、何人かの朱雀兵が火だるまになっている。

「殺せ!」

無慈悲な白虎兵たちは、そんな彼らをも残酷に殺していった。
傷ついた朱雀兵が傷に痛み、苦しむ声も、一瞬で聞こえなくなっていった。

彼は喉奥から搾り出すような悲鳴を上げながら、情けなく地面を這いつくばって逃走を試みる。
助かりたい一心で。
生き延びたい一心で。

しかし、二人の白虎兵が目ざとく彼を見つけた。
這って進む彼の傍に銃弾が着弾する。地面を抉る死の音を傍らに、彼は必死に進むも、二組の白虎兵は死神のようにゆっくりと彼に近づいてきた。

「ひっひっ。うっ。うう」

彼の目と鼻の先まで白虎兵は迫っている。
彼の眼には、銃のトリガーに指をかけた、死神達の姿がよく見えた。

――クェー!

つんざく獣の咆哮。


「なんだ?」と白虎兵。

次の瞬間、当の本人は宙に投げ飛ばされていた。
鎧を纏い、くちばしが赤く染めあがったチョコボが雄たけびを上げている。
素早くもう一人の白虎兵がチョコボに銃を向ける。

鋭い緊迫感の流れる中、若い朱雀兵は必死で地面に落ちている剣を拾い、咄嗟に白虎兵に突き出した。

「うああああ!」

必死だった。

もんどりうって倒れる白虎兵。それに跨り、トドメの一撃をくれてやる若い朱雀兵。
命のやり取りは、一瞬にして終わった。

――生き延びたのか。

彼は深く目を瞑り、疲れ果てたように後ろに倒れる。声にも似つかない声のようなものが喉奥から漏れ、ただ呻いた。

荒く荒く、彼は息を吐く。

そんな彼の様子を、鎧を纏ったチョコボは彼を心配そうに見下ろした。
いつもそうするように、チョコボは頭を彼の首元に近づける。

「チチリ」


彼は自分の戦友であるチョコボの名を呼ぶ。
弱り切った彼の腕は、チチリの顎を愛おしそうに撫であげ、「くぇくぇ」とチチリは嬉しそうに鳴いた。

彼はもう一度目を瞑る。

――俺は……立ち上がらなくてはならない。

体も心も疲弊して、おまけに今大勢の仲間が死んだ。
けれど、新しく仲間が来てくれた。ずっと一緒にいた、頼りになる相棒が。

だから彼は立ち上がる。
奥歯を噛みしめながら、チチリの体を支えに、彼はなんとか立ち上がった。

「よし――まだだ。エースに、これを」

彼はチチリに跨り、戦場を駆け出した。


タン、タン、タン、タン。

チョコボのチチリの駆ける音が、規則正しく耳に聞こえてくる。
上下に揺れる視界は、戦渦でボロボロになった街並みを映し出す。

今、この瞬間にもどこかからする爆発音が聞こえてくる。行く手にも、いくつもの黒い煙が、亡者の手のように伸びている。

体中が痛い。

視界の揺れは、チチリの背にいる振動なのか、それとも自分がどうにかしてしまっているのか。
わけがわからない状況に陥りながらも、彼は必死に手綱を握りしめる。

タン、タン、タン、タン。


視界が揺れる。戦渦でボロボロになった街並み。
ずっと同じ光景を見ている気がする。一歩も進めていない気がする。

「うっ……あ……目が……」

彼は、滑り落ちるようにしてチチリから落馬した。
チチリの背から投げ出された彼は、何度も地面を転がる。
限界だった体が、増々に痛んだ。


「あいつは……エースは」

目の前が暗くなっていく。
彼がぼやける視界で最後に見たのは、懇願するように見つめる、チチリの大きな目だった。



午前十一時三十七分。

――銃声。

「クィー」

真っ暗な視界の中、チチリの悲鳴が、彼の耳に届いた。

「チチリ」

彼はすぐに目を覚ます。
四つん這いになりながら、彼は愛チョコボに駆け寄った。


自分の背後では、足音が二つ聞こえる。兵隊の足音だ。

「チチリ!」

――足音が近づいてくる。

「――はっ」

彼はチチリに向けて、回復魔法を使った。
淡い光は眩く彼の手のひらを包み込み……集まった光は力なく消滅した。

クリスタルジャマー。

今、朱雀兵は誰も魔法が使えない。
白虎の協定違反の兵器によって、朱雀は一方的に白虎に追い詰められているのだ。

「く……そお!」

彼はそのことをわかっていても、何度も何度もチチリに回復魔法を使おうとする。
最後の力を振り絞って。ただ、必死に。

「くそ、チチリ、チチリ、頼む……」

背後から白虎兵共の足音が近づいてくる。
見なくても彼はわかった。
自分は、ここで――。

「エース……」

カシャン、と銃が二組構えられる音。

「エース……!」

カチリ、と引き金に指のかかる音。

「エースーーーーー!」


だれか自分を見つけてくれ。
その一心で放った、泣き声のような雄たけびは、魔法の炎によって迎えられた。

瞬く間に広がる炎は、白虎兵のみを綺麗に焼き払う。
焼死していく白虎兵達を背景に、彼は確かに、【エース】の姿を見た。

特別な意味のある赤いマント。戦場にあって僅かに煤のついた白い肌。魔法のような明るい金髪に、意志の強い翡翠色の瞳。

「ここだ!」

エースは彼をしかと見つめる。

「僕は、ここだ」

彼は全身から力が抜けていくのを感じていた。
若い朱雀の兵――ただの一般兵である彼は、ここに任務を全うしたのだ。

うめき声をあげながら、彼はチチリの翼に頭を乗せる。息が苦しい。体中が痛む。
おまけにもう、なにも見えやしない。

彼は最後の力を振り絞って、エースに拳を向けた。
エースはすぐさま彼に駆け寄り、その拳を両手で包み込む。

「……イザナ」


エースは彼に回復魔法を使った。
彼のものとは違い、魔法は途中で消滅せずに彼の体を包み込む。しかし、傷つきすぎた彼の体には、もはや効果はなかった。

エースの横を生真面目そうな眼付きの強い女が通り過ぎる。彼女もまた、赤いマントを羽織っていた。

「もう、無理ですね」
「わかってる」

悔しさを滲ませながら、エースは答えた。
エースはゆっくりと立ち上がる。

そうして、赤いマントの特待生は、次の戦場へと向かった。

若い朱雀兵は、薄れゆく視界の中、一組の男女を見つめる。
あとに残されたのは、若い朱雀兵と、彼の愛するチョコボ――チチリだけだった。

「来てくれて、ありがとな……チチリ」
「くえ」

チチリは彼の声に鳴き声で答える。銃弾に倒れ伏したチチリの鳴き声は、とてもか細く、小さかった。

「少し……休もう」

ぱちぱちと街の燃える音が聞こえる。
彼はあたたかなチチリの羽毛を感じながら、喋り始めた。

「お前の名前、さ」

彼は喋る、喋る。油断すると、泣き声のような声が混じってしまう。
それを抑えて、彼は笑いながらチチリに語り掛ける。

「やっぱり、変だよ、チチリ。ははっ」

弱り切った様子のチチリは、それでも愛情の籠った「くえ」という相槌返す。
彼はまた笑った。


「マキナの名づけは、わかんないなあ」



午前十一時三十九分。

血だらけになったチョコボと、若い朱雀兵が一緒になって倒れ伏していた。
彼らを中心に、ゆっくりと血の池が広がっていく。

「俺もお前も、死ぬのかなあ」

彼は誰にともなく、呟く。
彼がしているのは、独白だった。
死ぬ前の清算だった。

彼は甘えるようにチチリの翼に頭を埋め、納得したようにいった。

「マキナ、元気でな」
「レム、もう一度、会いたいな」
「チチリ、お前が一緒でよかった」


彼は清算を続ける。今までの自分の人生。してきたこと。大切な人たち。
思い出をぐるりぐるりと頭の中で回す。その滑車を回せば回すほど、自分が幸せになれると盲信しようとし続ける。

「うっ」

鋭い痛みが自分の体を駆け巡る。
信じられないほどの苦痛だった。

甘い思い出の逃避は、鋭い痛みによって引き戻される。
彼が再び目を開けば、ぼやけた視界に、清算な戦争の光景が映った。

「いやだあ」

――街が燃えている。

「こわい」

死体の焼ける臭いが鼻を衝く。

「嫌だ。死にたくない」

途切れ途切れに放たれる彼の声は、嗚咽交じりのものだった。
いやだいやだ、と彼は泣く。まだ死にたくないと、誰にも届かぬ懇願をする。

彼は耐えきれなくて泣き始めた。
プライドや、残してきた人のことや、その他のことなどはなにも頭になかった。
怖い、怖い。彼の頭の中にあるのは、ただ死への恐怖一色。それだけだった。

情けなく泣き続ける彼の声を聴いて、チチリが頭を持ち上げる。
そして彼の泣き声に共鳴するかのようにいなないた。

おしまい

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 17:50:12   ID: S:MJiMPf

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2 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 00:40:57   ID: S:hLy7Be

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