【シャニマス】マッチ売りのにちか (13)

寒い冬の夜、にちかという1人の女の子が歩いていました。
どこかを目指してるというわけではないのです。
持っているマッチが1つも売れず、途方に暮れているだけなのですから。

にちか「靴を、買わないと……!」

アイドルになるにはいろんなものが必要です。
見た目や才能なら諦めがつくかもしれませんが、そうじゃなくてお金で手に入るものというのは、頑張れば自分のものにできるかもしれないと思えてしまうから残酷で。

にちか「あれ、この建物……283プロ……?」

それは聞いたことのある名前でした。
気づけばにちかは、アイドルの事務所の前に着いていたのです。
しかし、彼女が中に入ることは許されません。
なぜって、部外者なのですから。

にちか「……はぁ。っ、さぶ……」

厳しい寒さに思わず縮こまるにちか。
すると、手元にあるマッチが目に留まりました。
そうだ! 
どうせ売れないのなら、このマッチで暖をとってしまおう。
にちかは、箱から1本のマッチを取り出して、建物の壁で擦って火をつけました。
マッチはメラメラと燃え始めます。
明るくてあたたかい……本当に不思議な火です。
まるで、事務所の中にいるような、そんな感じ。
いえ、本当にそうなのです。
暖房の効いた部屋の中で、優しいプロデューサーさんや仲間たちに囲まれているのです。
手を差し伸べてくれます。
にちかが捕まろうと手を伸ばしたその時、マッチの火は風に吹き消されて、部屋も仲間たちもいなくなったしまいました。
残ったのは、手の中の燃え滓と、煙かため息か区別のつかない白いなにかです。

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にちか「……っっ、ははっ! よーし、もう1本……」

にちかは、別のマッチを、やはり壁で擦りました。
火は勢い良く燃えて、眩しく光ります。
するとどうでしょう。
にちかがいつの間にかステージの上にいるではありませんか。
その光はスポットライトだったのです。
横を見れば綺麗な女性の相方が凛々しく立っています。
前を向けば大勢の観客もいます。
唐突に音楽が流れたかと思うと、観客たちは一斉にサイリウムを降り始め、相方の美女は華麗なステップでにちかの近くにやってきました。
その時、またマッチが消えてしまいました。よく見ると、にちかの前には、にちかに興味を示さない通行人の群れしかいませんでした。

にちか「……っっ、ははっ! よーし、もう1本……」

にちかは、別のマッチを、やはり壁で擦りました。
火は勢い良く燃えて、眩しく光ります。
するとどうでしょう。
にちかがいつの間にかステージの上にいるではありませんか。
その光はスポットライトだったのです。
横を見れば綺麗な女性の相方が凛々しく立っています。
前を向けば大勢の観客もいます。
唐突に音楽が流れたかと思うと、観客たちは一斉にサイリウムを降り始め、相方の美女は華麗なステップでにちかの近くにやってきました。
その時、またマッチが消えてしまいました。よく見ると、にちかの前には、にちかに興味を示さない通行人の群れしかいませんでした。

失礼しました。

>>2>>3は同じ内容です(ミスによる連投)。

にちか「まだ、まだ……!」

にちかはまたマッチを擦って火をつけます。
今度は太陽の光でした。
足元には砂、目の前には海、手には見たことのない綺麗な飲み物……これはビーチというやつなのでしょう。
自分の身体を見ると、にちかは来たこともないような水着を身に纏っていることに気がつきました。
すると、にちかを呼ぶ声が聞こえます。
声のほうを向くと、優しそうな青年がこちらに話しかけているのが見えます。
長くはない言葉で会話をする二人。
青年は相変わらず優しいのですが、にちかはなぜか素直になれませんでした。
でも、楽しかったし嬉しかった。
いえ、そんな記憶は、このにちかにはありません。
ない、はず、です。

にちか「……。……っ」

寒いと痛い。
でも、さらにその先というのは、言うなれば『無』です。
にちかは感覚がなくなってきた手で、またマッチを擦って火をつけました。
光がにちかを包んでいきます。
前を向けば、そこにはお父さんがいるではありませんか。

にちか「お父さん!!」

にちかは大きな声を出しました。
本当に声が出てたかなんて知りません。
でも、にちかにとってはそうしていたのです。

にちか「これからは……一緒にいてくれる……? ううん、無理だよね。また、消えちゃう……いなくなっちゃうんだ」

お父さんは何も言わずに、どこか申し訳なさそうな苦笑の表情を浮かべていました。

にちか「マッチ……まだまだあるんだよ、ほら。だから……」

にちかは残りのすべてのマッチの束を取り出して火をつけました。
お父さんがいなくならないように。あたたかいままで、いられるように。
マッチの光は真昼の太陽のそれよりも明るくなりました。
より明るくなると、お父さんはにちかを優しく抱きしめました。
お父さんは胸に顔を埋めるにちかに何かを囁きます。

にちか「……そうなの?」

二人とも笑顔です。
寒さも悩みも苦しみも、そこにはありませんでした。

朝になると、皺だらけになった服を着た女の子が、燃え滓に囲まれながら動かなくなっていました。
もう動きません。もう動けません。
でも、それだから、女の子の笑顔も二度と崩れることはないのです。

女の子の前をやや年のいった男性が通りがかりました。
通り過ぎることはなく、踏み止まるように女の子の方を向いてしゃがみます。
そして、静かに両手を合わせました。

男「私の事務所の前、か。間に合えば暖を取らせてやることもできたが……」

女の子が握りしめている燃え滓の束を見て、男性はマッチのようなもので暖まろうとしながらもこときれてしまったのだと悟りました。

男「む、これは」

女の子の足元には焦げた小銭入れが落ちていました。
きっと、売れたらここにお金を入れるつもりだったのでしょう。

男「三途の川の渡し賃だ。これで豪華客船にでも乗せてもらうといい」

男性は小銭入れには似つかわしくないお札を入れてあげました。
だからというわけでもありませんが、女の子はやはり笑顔です。
もしかしたら、船は普通のを選んで、残ったお金で靴や衣装を買うのかもしれませんね。
そうすれば、マッチの火の中に見たあの光景が、ひょっとしたら実現するかもしれないのですから。

おしまい。

思いつきで書いてみたSSです(進行についてはhttps://www.aozora.gr.jp/cards/000019/files/194_23024.htmlも参考にしました)。

もとは5ちゃんねるに書き込んだものなのですが、こちらに書いたほうがよいと考えたので、そうしました。

以上です。失礼しました。

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