スザ子「ギアスを使えば僕は女の子になれる」ルル子「何を馬鹿なことを……」 (9)

「ルルーシュ。僕はこう思うんだ」
「なんだスザク、改まって」

その日、ルルーシュの自宅マンションを訪れた枢木スザクは、ベッドに横になりながら自分の考えを吐露した。

「僕が女の子だったら良かったのにって」
「スザク……お前」

ルルーシュは哀しい目をした。親友のスザクの頭が、とうとうおかしくなってしまった。
無理もない。アッシュフォード学園を卒業してからスザクは苦難の連続だった。「僕はロックで世界を変えるんだ!」と宣言して"ナイトオブラウンズ"を結成するも音楽性の違いからわずか半年で解散。スザクは指抜きグローブを脱ぎ捨て、ガソスタでバイト暮らしだ。

「ルルーシュ、君もそう思わないかい?」
「性別なんてどちらでも大差ないだろう」
「わかってないな。大差で女子の勝ちさ」

悟ったようなことを言うスザクに反論する。

「しかし、女は女で大変だろう」
「もちろん大変だと思うよ。でもそれを差し引いても僕は女の子になりたいんだ」

重症だと思った。もう手遅れかも知れない。

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「そんな可哀想な人を見るような目をしないでよ、ルルーシュ。これを手に入れたんだ」
「ん? なんだ、それは?」

憐憫の眼差しから逃れるようにベッドから身を起こしたスザクはポケットの中から何やら白い球体を取り出した。目玉のようだった。

「これはギアスキャンセラーだよ」
「ギアスキャンセラー?」
「ギアスを無効化する装置さ。ガソスタで水抜き剤をサービスしたらお返しにオレンジのお客さんがくれたんだ」

ギアスとは人の思考に干渉する光学兵器だ。
ルルーシュも所有しており、彼のギアスは"絶対遵守"。人の認識を塗り替えて思い通りに操ることが出来る。便利な能力だか使えるのは1人に1度だけ。このギアスを用いてルルーシュは世界いちのYouTuberになって父親であるブリタニア帝国皇帝、シャルルを打ち負かして妹のナナリーと末永く共に暮らそうと思っていたのだが、運営にギアス使用がバレてアカウントをBANされその夢は潰えてしまった。

「ルルーシュのギアスは絶対遵守だろう?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「ギアスを使えば僕は女の子になれる」
「何を馬鹿なことを……」

先述した通りギアスはあくまでも人の思考や認識に干渉するものであり、人体の仕組みを変化させることは不可能。しかしスザクは。

「自分自身にギアスをかけるのさ」
「ん? どういう意味だ?」
「君自身に僕を女の子だと認識させるんだ」
「ふむ。それならいけるか……?」

なるほど。その手があったか。早速実験だ。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……枢木スザクを女子と認識しろ!!」

鏡を見ながら己にギアスをかけるとあら不思議。スザクが可愛い女子になった。すごい。

「どうだい、ルルーシュ?」
「これはすごい。大発見だぞ、スザ子!」
「あはは。ザコみたいに呼ばないでよぅ」

ルルーシュのあんまりなネーミングセンスに呆れつつも満更でもないスザ子。かわいい。

「じゃあ、僕にもギアスかけてよ」
「え? 身も心も女になるつもりか?」
「違うよ。僕がルルーシュのことを女の子だって認識するようにギアスをかけるんだ」
「それに何の意味があるんだ?」
「たぶん、世界が平和になるよ」

そんなまさかと思いつつ一応確かめてみる。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……俺を女子だと認識しろ!!」

キュインッとギアス発動。スザクは震えた。

「ああ……ようやく逢えたね、ルル子」
「ルル子、だと……?」
「ルル子は本当にかわいいね」
「お、お前のほうがかわいいぞ」

なんだこれ。だけどたしかに世界は平和だ。

「何をやってるんだ、お前たちは」
「なっ!? C.C.! お前、いつの間に!?」

ルル子とスザ子がうっとり見つめあっているとまるで汚物を見るような目をしたC.C.が部屋に乱入してきた。平和が脆くも崩れ去る。

「童貞を拗らせると大変だな、ルルーシュ」
「おのれ……乙女の部屋にズケズケと……!」
「ルルーシュ、ひとまずキャンセルしよう」
「くっ……覚えていろよ、C.C.!!」

ギアスキャンセラーでギアスを解除。かわいいスザクとルルーシュはもうどこにも居ない。世界がほんの少し暗くなった気がした。

「私が与えた力で遊ぶんじゃない」
「お前に何がわかるッ!? ええっ!?」
「ルルーシュ、落ちついて。今度はC.C.の姿を誤認しよう。きっと世界が良くなるから」
「おい、お前たち何を……」
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……C.C.のことをショタだと認識しろ!」

キュインッとギアス完了。世界に光が戻る。

「ルルーシュ。ショタは大正解だったね」
「うむ。やはり俺の目に狂いはなかった」
「楽しいか?」
「ああ! 素晴らしく愛らしいぞ、C.C.!」
「翠髪のショタは希少種だから尊いなあ」

見る目が変わったことにC.C.は身震いした。

「でも困ったね、ルルーシュ」
「ん? どうしたんだ、スザク」
「C.C.をショタだと認識すると僕たちは女の子になれない。世界はとても残酷だよね」
「くそっ!! どうしたらいいんだ!?」
「もうどうにでもなればいい」

この世の無常を嘆く若人に呆れ果てたショタC.C.がショートパンツ姿てルルーシュのベッドに寝転んで生足をパタパタした。ルルーシュは太ももの内側にむしゃぶりつきたくなる衝動を鋼の精神力で堪えて血の涙を流しながらギアスキャンセラーを発動。そしてこう命じた。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……俺たちの眼に優しい世界を映せ!!」

その瞬間。世界は、確かに生まれ変わった。

「ルル子……君ならやれると思っていたよ」
「スザ子……俺は世界を壊しそして創った」
「はいはい」

再会したルル子とスザ子。つれない態度のC.C.もショタだから気にならない。これが望んだ世界。誰も悲しむ事のない優しい世界。

「まるで奇跡みたいだね」
「ああ。人は理屈よりも、奇跡に弱い」

このまま眠ってしまおうかと思った、矢先。

「お兄様!?」
「ンヌァナァリィー!?」

待ったをかけたナナリー。妹は泣いていた。

「お兄様、お兄様ぁ!?」
「ど、どうしたんだ、ナナリー」
「わたし怖い夢を見て……お兄様の頭がおかしくなって遠くにいってしまうんじゃないかと不安で居ても立っても居られなくて……」

泣きじゃくるナナリーを抱きしめながらルルーシュは己の愚かさ呪った。何が奇跡。何が優しい世界。たとえどれだけ居心地が良かろうともそこにナナリーが居なければ無意味。

「すまない。俺が……間違っていた」
「ルルーシュ、戻ってこい! 僕と一緒に百合百合しながらショタを愛でよう!」
「ええいっ! 黙れスザァァアアアクッ!!」

何が百合百合だ。危うく騙されるところだった。性別は変わらない。しかし、それでも。

「男同士でも……俺とお前は親友だろ」
「ルルーシュ……僕が、間違っていた」
「いいさ。全てを赦そう、枢木スザク」
「お兄様……スザクさん。わたし嬉しい」
「はいはい」

感動の親友と妹の抱擁にも翠髪の魔女はクールぶっていて食えないまま。ある意味、C.C.だけがこの狂った世界の良心かも知れない。

「ちょっと、C.C.さん! いくらなんでもその冷たい反応あんまりじゃないですか!?」
「よせ、ナナリー」
「お兄様はC.C.さんに甘すぎます!」

まさしく小姑のナナリーを宥めるルルーシュ。ピザ屋の店先でC.C.と出会い、餌付けするとギアスをくれた。糞の役にも立たない能力だったが以来、彼女は居候となったのだ。

「ふん。口うるさい妹だな」
「なんですか、彼女面して」
「そういうお前は妹の癖に嫁気取りだな」
「お嫁さん志望で何が悪いんですか!?」

悪いに決まっている。C.C.は鼻で嘲笑って。

「ふっ……棒切れみたいな身体の癖に」
「こ、このっ……お兄様どう思います!?」

どうと言われても困る。たしかにナナリーは肉付きが悪い。しかし、それはたいした問題ではない。ルルーシュは己の持論を語った。

「ナナリーはかわいいよ」
「お兄様!」
「たとえ小さくても魅力的だ」
「お兄様……?」
「そう。お尻の大きさに貴賎はないんだよ」
「お兄様っ!?」
「ふふっ。それでこそ、私の共犯者だ」
「フハッ!」

女だろうと男だろうとショタだろうと妹だろうと、皆等しく平等にお尻はある。正義だ。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「お兄様……お可哀想に」
「ナナリー、気をたしかに」
「わたしに触らないで」

哄笑する兄の変わり果てた姿に慎ましい胸を痛めるナナリーだが、寄り添う枢木スザクが肩に回した手を払い除ける元気はまだある。

「全部C.C.さんのせいですよ!」
「あいつは元からあんなものだよ」
「わたしのお兄様を返して!!」

駄々を捏ねる小娘に、魔女は助言を囁いた。

「頭からおしっこでもかけてみるといい」
「え? おしっこを……?」
「待つんだナナリー! いくらなんでも……!」
「枢木卿。第12皇女が命じます」
「はっ……ナナリー第12皇女殿下」

ひれ伏すスザク。皇女殿下は偉いのである。

「お兄様をこちらへ」
「くっ……ごめん、ルルーシュ!」
「フハハハハハハハハハッ……ふげっ!?」

命令に従い、高笑いをしていたルルーシュをナナリーの足元に転がした。すかさず跨る。

「ナ、ナナリー……?」
「わたしはお兄様さえ居ればいい」

ちょろんっ!

「フハッ!」
「お兄様ぁっ!?」

ちょろろろろろろろろろろろろろろろんっ!

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「王の力はお前を孤独にする……ふっ。少しだけ違っていたかな……なあ、ルルーシュ」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「ルルーシュ、君って奴は。それでも僕は」

変わり果てたルルーシュはそれでも孤独ではなかった。ギアスなど使わなくてもほんの少しだけ、世界は良くなったような気がした。


【コードギアス 男娼 ー モザイクの塊 ー】


FIN

クリスマスイブですね
初心に返ってギアスSSを書きました
良いクリスマスをお過ごしください

最後までお読みくださりありがとうございました!

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