「カ、カズマ……?」
「ん? どうしたんだよ、ダクネス」
ここは駆け出し冒険者の街、アクセル。
その郊外に建つ大きなお屋敷で、我々パーティメンバーは共同生活を送っていた。
「いや、その、手が……」
「手? ああ。おい、アクア。俺の手を離せ」
「カズマさんから繋いできたんじゃないの」
夕飯の片付け当番だった私がリビングに戻ると、暖炉の前のソファにカズマとアクアが横並びに座っていて、なんと手を繋いでいた。
「お、お前たちはどういう関係なんだ?」
「どういう関係も何もアクアはアクアだろ」
「それを言うなら、カズマもカズマよね」
つまり、カズマにとってアクアは寛いでいる時に自然と手を繋ぎたくなる相手で、アクアにとってもそうらしい。となると、つまり。
「こ、交際しているのか……?」
「はあ? 何言ってんだよ、ダクネス」
「そんなわけないじゃないの」
「で、でも、そんなに仲良しなら……」
「手くらい、めぐみんとも繋げるぞ。おーい、めぐみん。ちょっとこっちに来てくれ」
カズマが呼ぶと、丁度お風呂から上がってホカホカのめぐみんが首を傾げながら訊ねた。
「はい、なんですか?」
「手」
「手がどうかしました?」
「ん」
カズマがめぐみんの手を取ると、キョトンとしつつも何故か嬉しそうにニヤリと笑って。
「なんですかカズマ。甘えたいのですか?」
「ま、そんなところだ」
「仕方ないですね。まあ、ちょうど私も甘えたかったので特別に甘えさせてあげましょう」
「ええっ!? それで済まされるのか!?」
私は自分の常識とかけ離れた現実に驚いた。
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「カズマは甘えん坊さんですね」
「ほんと、カズマさんってば甘ったれよね」
「甘ったれって言うな」
両隣に女を侍らせて、それでいてあくまで自然体なカズマの気が知れない。状況的には私好みのクズ男を体現しているのだが、そこに自分が含まれないことに、なんだか、こう。
「あ、あの、カズマ……私も、その……」
「なんだよダクネス。はっきり言えよ」
「わ、私も、手を……」
近頃秋めいてきたこともあり食器を洗う際に冷えた手を温めて欲しい。しかしカズマは。
「でも手を繋いだら交際なんだろ? もしかしてお前、俺と付き合いたいのか? んん?」
「ち、ちがっ……!?」
「ならダクネスとは手を繋げないな」
酷い男だ。私好みのクズだ。手を繋ぎたい。
「カズマ。意地悪はやめましょうよ」
「そもそもダクネスには効かないわよ」
「わ、私は別に感じてなんか……!」
「たしかに喜んでやがるな。仕方ない」
身体を捩らせて快楽に悶える私を手招いて。
「ダクネス、お前は座椅子になれ」
「ざ、座椅子、だと……?」
「わかったらさっさと俺の後ろに座れ」
「こ、これでいいか……?」
言われるがまま、ソファに座ると叱られた。
「違うだろ! 普通に座ってどうすんだ! 大股広げて俺が座るスペース確保しろよ!」
「お、大股広げて……?」
「あくしろよ」
急かされて大股を広げると空いたスペースにカズマが腰掛けて、そしてもたれてきた。
「おお。こりゃ思ったよりも快適だな」
「カ、カズマ、後頭部でグリグリするな!」
「座椅子は黙ってろ。ほれほれ」
「うひぃっ!?」
後頭部で胸を攪拌されて私は情けない嬌声をあげてしまった。屈辱的な体勢と仕打ち。
この男はどこまで私の性癖を刺激するんだ。
「カズマしゃん……私、眠くなってきたわ」
「こら、俺の膝で寝るな。めぐみん、アクアを部屋まで運んでやってくれ。このままだと俺の膝がよだれでべちゃべちゃになる」
「私もこのまま寝たいのですが……くぅ」
「寝るな! 動けなくなるだろ、おい!?」
懸命の説得も虚しく、カズマの両膝を枕にして、アクアとめぐみんは寝入ってしまった。
起こそうにも、両手をしっかりと握られていて離してくれないらしい。自業自得である。
「まったく、こいつらは本当に……」
「ふふっ」
「なんだよ、ダクネス」
「なんだかんだ言っても嬉しいのだろう?」
嘆息するカズマを揶揄うと、ため息を吐き。
「まあ、寝ている時だけはかわいいな」
「まるで手のかかる姉妹に見えるな」
「そうだな。困ったもんだ」
そう言ってカズマは笑う。優しい。
私も釣られて笑った。幸せだった。
背中から私はカズマを抱きしめた。
「そろそろ水も冷たくなったろ」
「ああ。だけど、もう温まった」
指先だけでなく心まで温かい。ホカホカだ。
「アクアたちが眠くなる気持ちもわかる」
「そうだな。俺も眠くなってきた」
この大きな屋敷でひとつのソファに座って固まっている我々はかなり仲が良いと思う。
冒険者のパーティはメンバー同士の諍いが絶えないと聞く。互いの命を預けるのだから、仲が良いに越したことはないのだが、現実は報酬の取り分で揉めたり男女間の痴話喧嘩で解散するパーティも多い。そう考えると。
「カズマが自堕落なおかげだな」
「なんだそりゃ、褒めてんのか?」
「そうだな。私はお前に感謝している」
カズマたちに出会うまで、攻撃が当たらないクルセイダーの私には居場所がなかった。
領主の娘の私は箱入り娘であり、世俗に疎いこともあってなかなか馴染めなかった。
そんな私が団欒を得たのは、ひとえに。
「カズマ。お前のおかげで私は幸せだ」
「ダクネス……」
「なかなかクエストで貢献することは難しいがその恩を返せるように精進するつもりだ」
カズマは今、どんな顔をしているだろう。
呆れているのか、もしや照れているのか。
気になるところだが、その顔は見れない。
「何を馬鹿なことを言ってんだよ」
「カズマ……」
「アクアやめぐみんが寝ちまっても、お前は起きて見守ってくれてる。それがクルセイダーの貢献じゃなくていったいなんなんだよ」
だからさダクネスと。カズマは背中で語る。
「頼りにしてんだから、もっと自信持てよ」
どうしよう……普通にときめいてしまった。
「カズマ……私は、少しおかしい」
「奇遇だな。俺も実は平常じゃない」
私の性癖は一般的なそれとは大きくかけ離れていてクズ男にしかときめかない筈なのに。
それなのにどうしてこんなにドキドキする。
「カズマ」
「なんだよ」
「お前はずるい奴だ」
「はあ?」
常日頃暴言ばかり吐いている癖にたまに優しくなるのは卑怯だ。狙っているのだろうか。
しかし、当の本人は心当たりがないらしく。
「そんなことよりアクアとめぐみんをどうにかしてくれよ。このままだと非常にまずい」
「何がまずいんだ?」
「ダクネス、お前は平気なのか?」
平気かと言われると困る。ドキドキしてる。
「そうだな……私も平気ではないな」
「だろ? だからアクアとめぐみんを起こせ」
「いや、もう少しこのまま……」
睦言を続けたいとせがむとカズマは呆れて。
「そうだった。お前はそういう奴だった」
「だ、誰だってそう思う筈だ」
「んなことないだろ。現に俺は一刻も早く自由の身になりたい。そろそろ我慢の限界だ」
我慢の限界とはなんたる言い草。許せない。
「わ、私と話すのはそんなに嫌なのか?」
「はあ? 誰がんなこと言ったんだよ」
「ち、違うのか……? だったら何故……?」
「だから、さっきから漏れそうなんだよ」
「は?」
なんだろう。今、おかしな言葉が。変だな。
「すまない、カズマ。今なんと言った?」
「漏れそうだと言った」
こ、この男。やはりカズマはカスマだった。
「おい、カスマ」
「カスマって言うな」
「うるさい! お前という奴は何故そんなにデリカシーがないんだ! 少しは我慢しろ!!」
「我慢の限界なんだよ! わかるだろ!?」
わかってたまるか。絶対許せん。覚悟しろ。
「ん? おや、ダクネスさん……?」
「どうかしたか?」
「心なしかさっきより強く抱きしめられている気がするんだが……気のせいだよな?」
「もちろん気のせいだ」
徐々に抱きしめる力を増す。圧迫していく。
「ちょっ……やめろよ! 出ちまうだろ!?」
「んー?何が出るんだ? 言ってみろ」
「言わせんな、恥ずかしい!」
なんだろう、すごく楽しい。いや、愉しい。
「ほらほらカズマ。何が出るんだ?」
「くっ……覚えてやがれよ!」
「無論、一生忘れないとも」
私がカズマを揶揄う機会はあまり多くない。
なので、貴重な時間を存分に味わうために。
いつもよりちょっと大胆にカズマを攻める。
「ところでカズマ」
「な、なんだよ……」
「目の前に美味そうな耳たぶがあるんだが、もしもこれを咥えたらどうなるのだろう?」
そう囁くとカズマは冷や汗を流して震えた。
「じょ、冗談はよせよ……」
「私は本気なのだが?」
「んなことしたら大変なことになるぞ!」
「どうなるんだ? ん? 聞かせてみろ」
「これだから変態は……!」
ああ、愉しい。たまには攻めるのもいいな。
「ふぅー」
「や、やめろよ! 息吹きかけんな!?」
かわいい。どうしよう。もっと揶揄いたい。
「どうだ? 少しは反省したか?」
「反省でもなんでもするからトイレに行かせてくださいお願いしますもうマジでやばい」
まあ仕方ない。この辺りで勘弁してやろう。
「ほら、アクア、めぐみん、起きろ」
「うう……あと少しで素晴らしい爆裂が……」
「起きないと俺が爆裂するっての!!」
めぐみんの寝言にカズマがツッコミを入れたその時、アクアが拳を握りしめて叫んだ。
「ゴッド・ブロォオオオオオオッ!!!!」
「おうふっ」
ぶりゅっ!
「女神の眠りを妨げるのは万事に値するわ」
「むにゃ……凄いですカズマ。100点、です」
捨て台詞を吐いて、アクアは二度寝したと夢の中でカズマの偉業を賞賛するめぐみん。
「くそったれぇえええええええっ!!!!」
ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ~っ!
寝ぼけたアクアに腹パンされて岬から船を出したカズマの尻が糞で膨らむ。彼は今、糞を漏らし、オムツの大切さを知り、股を汚す。
「フハッ!」
そんな彼を見て、私もまた、股を濡らした。
「あ、ああ、ああああああああっ!!!!」
ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ~っ!
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
カズマは丘に立ち、尻穴を広げて、風を待ち、羽ばたいた。そうして彼は今、糞を漏らし、大空を渡る一羽の汚い鳥となったのだ。
「ううっ……畜生、畜生」
「よしよし、もう大丈夫だぞ」
「……ママ」
誰がママだ。まあ、今だけは赦してやろう。
「泣くな。男だろう?」
「うん……」
「大丈夫だ。汚れた下着は私が洗濯をしてやるから。だから、そう落ち込むな、カズマ」
生きていれば辛いこともある。でも私たちはひとりではない。仲間だから。南から急に吹いた風で雨が降っても、それは春の兆しだ。
「んじゃ、洗濯は頼んだぞ、ダクネスママ」
「あっ!」
嘘泣きをやめたカズマが憎たらしく笑った。
「いやー助かった。これからも任せるわ」
「また漏らすつもりかお前は!?」
かわいくない。だからこそ、私好みだった。
【この素晴らしいダクネスママに祝福を!】
FIN
このすばの1期のOPとEDが大好きです。
特にEDの『ちいさな冒険者』が好きです。
ダクネスの歌声がとても胸に沁みます。
ところで以前、とらドラ!のSSを書いた際に『恋は双子で割り切れない』というラノベに触れましたが近頃は『転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子だと思って一緒に遊んだ幼馴染だった件』という長いタイトルの作品に性癖をえぐられております。素晴らしいです。
興味のある方は、是非読んでみてください。
というわけで、最後までお読みくださりありがとうございました!
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