【ウマ娘】頭文字U (46)

<トレセン学園・理事長室>

コンコン

たづな「失礼致します」

やよい「む、たづなか。どうした?」

たづな「理事長にお客様がお見えですよ」

やよい「来客? 誰だ?」


「お久しぶりです、理事長」


やよい「おお、君は!」

キング「キングヘイロー、ただいま異邦の地より戻って参りました」

やよい「歓迎ッ! 帰ってくるとは聞いていたが、わざわざ顔を出してくれたのか!」

キング「ええ。理事長とこの学園には今でもお世話になっていますもの」

たづな「懐かしいですね……キングさんがトゥインクルシリーズを走っていた頃のことは、まだ昨日のことのように思い出せます」

やよい「回顧っ! 黄金世代の一角として様々なレースに出場し、最後には新設されたばかりのURAファイナルズ短距離で優勝したんだったな」

たづな「本当に感動しました、私!」

キング「ま、まあまだ引退から数年しか経っていないですし、そんな昔のことのように言わなくても……」

やよい「そして引退後は、母君と同じ道を歩んでみようと、わざわざ私に報告してくれたな」

たづな「キングさんが手掛けた勝負服は、うちの生徒たちからも好評の声が聞こえてますよ。お仕事は順調なようで何よりです」

キング「ええ……まだまだデザイナーとしては未熟ですけど、いずれお母様をも超えてこの世界の頂点に立ってみせますわ!」

たづな「はい、がんばってくださいね♪」

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たづな「……ところで理事長、キングさんといえば、確かお渡しするものがあったはずではありませんか?」

やよい「渡すもの?」

たづな「ほら、以前学園に来たあの方が置いていかれた手紙……」

やよい「おお、あれか! 不覚ーっ! 今の今まで忘れていた!」

キング「手紙?」

やよい「君に宛てた手紙を預かっていたのだ。君が海外へ発って居場所を知らせないものだから送れなかったのだろう。『いつかこの学園に帰ってくるだろうから』と、私に預けていったのだ」

キング「……どちら様から?」

やよい「閲読。まずは読んでみろ」

キング「……」ぴらっ


キング「なっ……! す、スカイさん……!?」

やよい「いかにも。これを置いていったウマ娘は、君と同じ黄金世代の一角、セイウンスカイ」

キング「スカイさんの、これは……住所? が書いてあるみたいですけど」

たづな「住所と、あとは何が書いてありました?」

キング「これ……住所しか書いてないわ!」

たづな「えっ?」

やよい「奇態っ。ほかには何もないのか?」


はらり


たづな「あら? 何か落ちましたけど。これは……写真?」


たづな「あっ、この子は……!」

やよい「おお!」

キング「なっ!?」


「「うっ……ウララさん!?」」

ーーーーーー
ーーーー
ーー


がたんごとん……


キング「……」

『次は〜八木原〜、八木原です……』

キング(都内から電車に揺られて約2時間……こんな町、来たことないわね)



キング「これは一体どういうことなの!? スカイさんからの手紙に、ウララさんの写真が……!」

たづな「しかもこの写真、学園にいた頃のものじゃありませんね……ほんのわずかですけど、大人っぽいような……?」

やよい「記載の住所は何処を指している?」

キング「ええと、群マ県の……榛名湖? というところになってますけど」

やよい「ほう、群マ県か……」

たづな「東京と同じ関東に属する県ですけど、ウマ娘のレース場はないところですよね?」

キング「私も訪れたことは一度も……ウマ娘には縁遠い場所だと思いますけど」

やよい「それはどうかな?」ニヤリ

キング「?」

たづな「どういうことです?」

やよい「視察っ! 気になるなら、とにかくまずは書かれている住所に行ってみてはどうだろう」

たづな「そうですね、スカイさんがこの手紙を残していった意味がわかるかもしれません!」

キング(群マ県……とりあえず行ってみようかしら)



キング「ええと、榛名湖へ行くには……この渋川って駅で降りればいいのね」

ぷしゅー

キング「なによここ、ど田舎じゃないの!」

「ちょいとお嬢さん、ど田舎とは言ってくれるね」

キング「ひっ!」びくっ

市民「ここは群マじゃまだ比較的人も多い町だよ。ここからさらに山の方に近づくほど人も少なく、景色も田んぼや畑ばっかりになっていくからね」

キング「そ、そうなのね、おーっほっほっほ……///」


キング(一流のウマ娘である私にはまったくふさわしくない場所ね……本当にこんなところにスカイさんがいるのかしら)

キング「そこのタクシー、乗るわ」

運転手「おや、お客さんですか?」

キング「榛名湖というところへ行きたいのだけれど」

運転手「かしこまりました」

キング(駅からはそう遠くはないはず……)ばたむ

運転手「お客さん、ここへは観光に?」

キング「いえ、ある人に呼ばれたの」

運転手「そういうことですか。今の時期はレジャーも特に賑わってませんから、湖に行っても寂しいもんなんですよ。それにもう夕方ですしね」

キング「ふぅん……」

運転手「榛名湖に登っていく途中にあるのが、この伊香保温泉街。聞いたことありませんか?」

キング「伊香保温泉……耳にしたことはあるわ。そういえば群マは草津温泉なんかもあったわね」

運転手「ええ、ほかにも四万温泉、水上温泉、磯部温泉……群マは温泉大国です」

キング「いつかしっかり休みを取って、温泉巡りの旅行をしてみたいものね」



キング(だいぶ山道に入ってきたわね……道もカーブの斜面ばかり。時間も遅くなってきたから薄暗いわ)

キング「ん? あれは……えっ!?」

キング「ちょっ、運転手さん、どういうこと!? あっちこっちの道端に人がいるけど! ウマ娘もいるわ!」

運転手「ああ……今夜はギャラリーが出てるみたいですね」

キング「ギャラリーって……」

運転手「そりゃもちろんレースですよ。ウマ娘たちの野良レース。榛名湖からふもとまでのこの峠は、よく野良レースのコースになっているんです」

キング「野良レース……!? こんな山道で!?」

運転手「東京の方にはあんまり馴染みありませんかね。ターフのレース場がない群マじゃこっちの方がメジャーなんですよ。峠を舞台にした『走り屋ウマ娘』同士の個人間レースがね……」

キング「走り屋ウマ娘……! そんな存在、今の今まで知らなかったわ……」

運転手「レースが始まったら、例え一般車が走っていてもその隣をウマ娘たちが猛スピードで駆けていくんです。まだ夜になったばかりだから、もう少し交通量が減るまでレースは始まらないだろうけど。私もお客さんを降ろしたら早めに山を下りるとしますよ」

キング「危ないレースなのね……というか何らかの法律に違反してるんじゃない? どうして警察に捕まらないのかしら」

運転手「意外にも一般車との事故はそんなに起きてないんですよ。山奥だからギャラリーの歓声も騒音問題にならない。ウマ娘の法定速度は超えてますけど……取り締まろうにも、パトカーの方がウマ娘に追いつけないんです。警察にとっちゃ、野良レースの取り締まりなんて割りに合わない仕事なんでしょう」

キング(こんな場所で……スカイさんは一体何をしているというの……?)

運転手「さ、そろそろ指定の住所に着きますよお客さん」



キング「ええと……この家かしら」

キング(思いっきり表札に『セイウンスカイ』って書いてあるわ……)


ぴんぽーん


キング「……」

キング「……あのー、スカイさん? いらっしゃるかしら?」


しーん……


キング(こ、こんなところまで来て留守だったら最悪よ……!? もうタクシーも返してしまったし……!)


「ばあ」


キング「うっひゃああああぁぁぁぁ!!///」

「あはははっ、びっくりしすぎ〜」

キング「なっ……す、スカイさん!?」

スカイ「お久しぶりだね〜キング、何年ぶり〜?」

キング「何年ぶりじゃないわよ! なんで背後からいきなり脅かすの!? というかなんで外にいたの!?」

スカイ「だって湖で夜釣りしてたんだもん。それにお客さんが訪ねてきてるなんて知らなかったし」

キング「ああもうっ、数年ぶりの再会だって言うのに……! とにかく話したいことが多すぎるんだけど!?」

スカイ「話したいこと? 話せばいいじゃん」

キング「こんな玄関先じゃなくてーっ! いいから家にあげなさいよ! 普通そうするでしょう!」

スカイ「冗談冗談。わかってるって」



<スカイ宅>

キング(こ、ここがスカイさんのお家なのね……案外普通だわ)

スカイ「はいこれ、お茶とー……さっき釣ってきた魚、食べる〜?」

キング「いらないわよそんなの。それより、聞きたいことがあるの」

スカイ「手紙のこと?」

キング「そうよ! ……っていうか、これそもそも手紙とは言わなくない!? ただ住所書いてあるだけじゃない!」ぴらっ

スカイ「それで伝わるかと思って〜」

キング「伝わるわけないでしょう!」

スカイ「……それに、手紙だけじゃなかったでしょ。入ってたの」

キング「そ、そうよそう! どういうことなの!? ウララさんの写真が入っていたのは!」

スカイ「まあまあ、お茶でも飲んで落ち着いて」

キング「別に焦ってるわけじゃないけど……」ずずず

スカイ「……あー、キングが今飲んでるそれ、ウララの湯呑みなんだよね〜」

キング「ぶっ! ……はっ!? えっ!?///」

スカイ「うらら、って書いてあるでしょ?」

キング「あっ! うららって書いてある!!」

スカイ「いや〜実はさー、私ウララと……」

キング(え……)

スカイ「けっ……」

キング(け、けっ……!?///)



スカイ「…………一緒に住んでるんだよね〜」

キング「『けっ』は何なのよ『けっ』は!! 結婚してるって打ち明ける流れじゃないの!?///」

スカイ「あははっ、するわけないでしょ結婚なんて面倒なこと〜。ほんとキングは昔っから早とちりなんだからー」

キング「そんなことないわよ! っていうか一緒に住んでるってどういうこと!? 充分衝撃的なんだけど!?」

スカイ「いやー、実は私、トレセン学園を出てから何をしようかなーって考えて、どこか釣りでもしながらのんびり暮らせるとこないかなーって探してさ……それで今はここでにんじん農家をやりながらつつましく暮らしてるんだよね〜」

キング「にんじん農家……全然知らなかったわ」

スカイ「でも一人で農家やるって大変でさー、誰か手伝ってくれる人いないかなーって声かけたら、ウララが来てくれたんだ」

キング「……人が悪いわね。ウララさんなんて何にでも首を突っ込みたがる性格なんだから、あなたにそう言われたら手伝っちゃうに決まってるじゃない。もっとウララさんの意思を尊重しなきゃ」

スカイ「あははっ、相変わらずウララのお母さんみたいなこと言うんだねぇ」

キング「そうじゃなくて!」

スカイ「もちろん私も、手伝ってくれるのは最初のうちだけでいいって話してたよ。でもウララ自身もここでの暮らしが気に入ったみたいなんだ。毎日私より一生懸命仕事してくれてるし、友達もたくさんできたしね」

キング「……そう、ならいいけど」

スカイ「まっ、そんな感じで毎日ウララと過ごしてる私が羨ましくて仕方ないんじゃないかなーと思って、キングに手紙出したってわけ」

キング「…………えっ、自慢!?///」

スカイ「自慢」

キング「至極どうっっっでもいいんだけど!? べつに羨ましいなんて思わないわよ! せっかく仕事も忙しい中来たってのに何なのあなたは!///」

スカイ「あらら〜、キング仕事忙しいの?」

キング「当然よっ。まだまだデザイナーとしては駆け出しなんだから……もっと修行を積まないといけないんだけど、最近行き詰まりを感じるようになったから日本に戻ってきたの」

スカイ「ふ〜ん」


キング「……ところで、ウララさんはどこに行ってるの? 姿が見えないけど」

スカイ「あー、たぶん友達と遊びに行ってる」

キング「こんな時間に? トレセン学園だったらとっくに門限過ぎてる頃ね。 というかあの子こんな時間まで起きていられるの?」

スカイ「もーいつまで学生気分なのさ。ウララだって大人になったんだよ? 門限なんて決めてないし、まだ少しは起きてられるよ」

キング「そうかもしれないけど……」

スカイ(……)


スカイ「よし、じゃあウララがどうしてるか見に行こうか」

キング「へっ?」

スカイ「居場所の検討はつくから。ここからちょっと離れたところにいるはず。着いてきて?」

キング「え、ええ……」



<スタート地点・駐車場>

ざわざわ……

キング「ちょ、ちょっとちょっと……すごい人の量ね。もう夜もすっかり更けてるのに」

スカイ「キングは知ってる? ここで何が行われてるか」

キング「タクシーの運転手に聞いたわ。峠道を走る野良レースって言ってたけど……」

スカイ「そう。レース場のない群マ県が、それでも『走りの聖地』と呼ばれる理由のひとつがこれ。ここみたいな峠が各地にあって、夜な夜なウマ娘同士による個人間レースが行われてるんだ。普通のレースより面白いってファンもいて、ギャラリーも多いんだよね」

キング「なるほどね……で、ウララさんは本当にこんなところにいるの?」

スカイ「たぶんね……あっ、いたいた。おーい!」

「ややっ!? これはこれは!」

キング「えっ」

フクキタル「スカイさんがこちらに顔を出すのも珍しいというのに、そちらにいらっしゃるのはキングさんではありませんか!?」

ライス「わぁ、本当だ……!」

キング「なあっ、フクキタルさんにライスさん!? どうしてこんなところに!」

スカイ「二人ともこのあたりで暮らしてるんだよ。今日はレースを見に?」

フクキタル「もちろんですっ。我がキャロッツの命運をかけた重要な一戦! 見逃すわけにはいきませんからっ」

キング「キャロッツ……って」

スカイ「ほら、トレセン学園にいた頃にアオハル杯を走ったチームだよ。覚えてない?」

キング「ああ、確かウララさんも所属していた……」


キング「……ってことは、まさか……!」

「ハウディー! スカーイ!」ぎゅっ

スカイ「おわっ」

タイキ「もしかしてワタシの応援に来てくれたんデスか!? 優しいフレンドをいっぱい持って、ワタシとってもハッピーデース!」

キング「……って、タイキシャトルさんじゃない!」

タイキ「ん? アナタはたしか……」


タイキ「……」


タイキ「ウェ〜ル……」

キング「完全に忘れてるじゃないの! キングよキング! キングヘイロー!!」

タイキ「オウッ、そうデシタ! まさかこんなところで会えるナンテ思ってもみなかったデース♪」

キング「もう、一緒のレースで競ったこともある人を忘れるなんて……ってそんなことより、『ワタシの応援』って一体どういうこと?」

タイキ「もっちろんレースデース! 今日はチーム・キャロッツの代表としてワタシが走りマース!」

キング「あなたまさか、まだ現役で走ってるの!?」

タイキ「オフコース! トゥインクル・シリーズではターフもダートも走り抜いたワタシデスから、 “ストリート” の舞台でも負けられマセン! 今日のダウンヒルはソーホット! とっても熱くなること間違いなしデース!」

スカイ「応援してるよ~。ところで、ウララは今日はどこに?」

タイキ「オウ、ソーリー。ウララは今日はふもとの方にいますヨ。ワタシのことをゴールで待ってくれてマース」

スカイ「なるほど。それじゃゴールしたら伝えておいてくれる? キングがウチに来てるよって」

タイキ「お任せくだサイ!」

『それじゃ、そろそろ始めるよ~!』

タイキ「オゥケーイ! 行きまショー!」

スカイ「頑張ってねっ、タイキさん……!」

フクキタル「シラオキ様、勝利の女神様っ! どうか今夜はタイキさんに微笑んでください~!」

スカイ「それじゃ、スタートするとこ見ていこうか」

キング「え、ええ……」


キング(この活気……ギャラリーとの距離が近いせいか、レース場とも遜色ないものに感じるわね。なんだか久しぶりの感覚……)


『レディ~……』


『ゴー!!』


だっ


フクキタル「行け~~! タイキさ~ん!!」ぶんぶん

スカイ「おお~、相変わらずスタートダッシュ上手いねぇ」

キング「あっ、あんなスピードでアスファルトの坂道を下るの!? 危ないじゃない!」

スカイ「そう。しかもダウンヒルはずっと坂道だから、意識しなくてもスピードが出ちゃうんだよ。ちゃんとスピードをコントロールできなきゃコーナーに突っ込んで、谷底に真っ逆さまってことに……」

キング「なんてこと……危険すぎるわよ……」

スカイ「だからこそ、ターフでのレースとは違う魅力に惹かれる人がいるんだよ。ここで求められる技術はターフには通用しないかもしれない。でもターフで勝つための技術も、ここでは役に立たない」

キング「……」

スカイ「走り方からして違うでしょ? 坂道では大きなストライドは厳禁。ピッチ走法に似てるけど、やや前傾姿勢で小刻みに足を運んでスピードを調節するんだ」

タイキ「このコーナーは身体を傾けてハングオンしないと曲がり切れマセンよ~!!」だだだっ

ワーワー……


スカイ「あらら、あっという間に見えなくなっちゃった」

フクキタル「さっすが速いですね~♪ まさに電光石火のごとく!」

キング「あの靴……普通の靴じゃないわね。グリップがすごい効いてるわ」

スカイ「ストリートを走るための、特殊なゴム製の蹄鉄があるんだよ。アスファルトを普通の靴で走るのは危ないし、負担もかかるからね。足への負担を軽減するとともにグリップ力も上げてるの」

キング「……あなたさっきからやけに詳しいわね」

スカイ「あはは、この辺に住んでれば嫌でも詳しくなるんだって。それじゃ家に戻ろうか」

フクキタル「ありゃりゃ、もう帰ってしまうんですか?」

スカイ「んー、もともとウララを探しにきただけだからさ。まあ心配せずとも、あのぶんなら今日はタイキが勝つと思うよ」

ライス「ウララちゃん帰ってきたら、ライスたちで送っていきますねっ」

スカイ「はーい、ありがと〜」

キング「……」



<榛名山・中腹>

ザワザワ……

「ね、ねえ、あの二人って……」

「ほ、本物だよねきっと……!」

「レースを見に来たのかな……」


ブライアン「……」

ハヤヒデ「……ここにいたか、ブライアン」

ブライアン「姉貴か……この峠で走ったことはないが、見るならここだと思ってな」

ハヤヒデ「ふむ、いい目の付け所だ。具体的な理由を聞かせてもらえないか?」

ブライアン「……姉貴みたいに理論立てて説明はできない。だがもし私が走っているとするなら、ここで勝負を決めに行くだろう。そう思っただけだ」

ハヤヒデ「それも峠センスのひとつというものだろう。ここは私たちのホームコースである赤城に比べて道幅は狭く、急角度のコーナー……いわゆるヘアピンカーブが多い。ここをどう攻略するかがポイントになる」


「来たぞー!」

「タイキシャトルが先頭だ!」


ハヤヒデ「ん、来たようだぞ」

ブライアン「……」じっ


タイキ「この勝負、負けマセンっ!!」だだだっ


ワーワー…

ブライアン「……タイキか、懐かしいな」ふっ

ハヤヒデ「この榛名をメインに走っているというのは本当だったようだな。そこそこ走り慣れていそうだ」

ブライアン「……だが、トゥインクル・シリーズを走っていたころのキレは見当たらない」

ハヤヒデ「彼女は身体も大きいしパワーもある。だがその強みは榛名のダウンヒルでは活かしづらい。ヒルクライムではいい走りをするだろう」

ブライアン「無理だ。あいつはもともと短距離専門。登りを走り切るスタミナはない」

ハヤヒデ「……だとは思ったが」


ブライアン「……さて、見るものは見ただろ。帰るぞ」

ハヤヒデ「待てブライアン。私は今度のレースについて、ここの代表チームと上で話をつけてくる。お前も来るんだ」

ブライアン「……そういうのは姉貴に任せると言ってるだろう」

ハヤヒデ「交渉をしろと言っているわけではない。ダウンヒルを一度走っておけ」

ブライアン「ダウンヒルを?」

ハヤヒデ「ただ見るのと実際に走るのとではわけが違うからな。7〜8割程度の力で走って、路面の状態やうねり具合、コーナーを曲がり切れる最高速度などをチェックしておくんだ」

ブライアン「やれやれ、相変わらず心配性だな。私が今のタイキに勝てないと?」

ハヤヒデ「そういうわけじゃない。コースを知らずに飛び込みで勝ち続けていくには限界があるという話だ。コースの熟練度は実力を覆す……それがストリートの世界。少しでもコース攻略に対する意識というものを養っておいた方がいい。今後のためにもな」

ブライアン「……わかったよ」

ハヤヒデ「それに、戦う相手は彼女とは限らないかもしれない……」ぼそっ

ブライアン「?」

ハヤヒデ「……なんにせよ、私たちのプロジェクトはまだまだ始まったばかりだ。こんなところで土を付けるわけにはいかない」すちゃ



<スカイ宅>


「ただいまー!」がちゃ

スカイ「あはっ、来た来た」


どたどたどた…

ばん!


ウララ「ねーねーセイちゃん! キングちゃんが遊びに来てるってほんとー!?」


ウララ「あっ」

キング「……ウララさん……!」

ウララ「うわ〜〜〜〜〜!! ほんとにキングちゃんだーーーー!!///」ぎゅっ

キング「ちょ、ちょっと!」

スカイ「あーあー、ウララがこんなに嬉しそうなの初めて見たかも」

ウララ「ねーねー今まで何してたの!? もうごはん食べた!? 今日はおうちに泊まってくのー!?」

キング「落ち着きなさい! ゆっくり話す時間くらいはあるんだから……!」

スカイ「そうそう。お茶入れとくから、早く着替えておいで」

ウララ「わかったー!」ぴゅーん

キング「……もう、変わってなさすぎて逆に驚くわね」

スカイ「でしょ〜」

キング「あなたもあなたで、すっかりお母さん役が板についてるようだけど!?」

スカイ「あはは、やっぱウララと一緒に暮らしてると自然とこうなっていっちゃうみたいだね〜。まあ学園にいた頃のキングには及ばないけど」

キング「私はお母さん役なんかなった覚えないわよ!///」



ウララ「嬉しいな〜、今日は久しぶりにキングちゃんと一緒に寝られるんだね〜♪」

キング「帰る手段がないから仕方なく泊まるだけよ。っていうかベッドは別々に決まってるでしょう!」

ウララ「心配しなくても大丈夫だよ。わたしのベッド、2人くらいなら並んで寝られるからっ」

キング「だからそういう問題じゃなくて……!///」

スカイ(この2人、ずっと見てられるなぁ……)ずずず


キング「……まったく、ウララさんは相変わらずね。元気してたようで安心したけど」

ウララ「うんっ、わたしはずっと元気だよー! 今日もいっぱいにんじん運んだの!」

キング「にんじん……? ああ、スカイさんのお手伝いね」

スカイ「毎日とれたてのにんじんをふもとの牧場とかまで届けてもらってるんだ」

ウララ「あのねあのねっ、伊香保グリーン牧場は本当に楽しいとこなんだよ〜! タイキちゃんがいっぱい動物さんのお世話してるの!今度一緒に遊びにいこうね♪」

キング「あの人牧場で働いてたのね。そういえばさっきのレースはどうなったのかしら?」

ウララ「もっちろん、タイキちゃんの勝ち! いっぱい差をつけて、ばびゅーんってゴールしたの!」

スカイ「チームキャロッツは一応、この榛名山の代表チームだからね〜」

キング「もしかして、ウララさんもレースに出てるの?」

ウララ「ううんっ、わたしはキャロッツのおーえんだんちょーだから。いまはタイキちゃんの応援とか頑張ってるんだ〜」

キング「……ま、そうよね。あんな危ないレース、ウララさんには走らせられないわ」ほっ

スカイ(……)



ウララ「……でね、フクキタルちゃんは牧場でおみやげ屋さんをしてて、ライスちゃんはお花屋さんをしてて……」

キング「学園の卒業生がこんな片田舎に集結してるなんて、思いもしなかったわね」

ウララ「うん……それでね、ヤギさんとヒツジさんがね……zzz」すぅ

スカイ「あらら、寝落ちしちゃった」

キング「……ま、ウララさんにしては頑張ったほうでしょ。学園にいた頃はもっと早く限界が来てたわ」

スカイ「ウララ〜、眠いならちゃんとベッド行きな?」

ウララ「……ん、うん……もうねるね……」

スカイ「キング、部屋までついてってあげてよ」

キング「もう、仕方ないんだから」



ウララ「ごめんねキングちゃん……もっとおはなし、したいんらけど……」ぽわぽわ

キング「無理することないわ。夜更かしは美容の大敵って昔教えたでしょ」

ウララ「えへへぇ、そうだったぁ……」

キング「それじゃ、おやすみやさい」

ウララ「うん、おやすみー……」

キング「……」


ウララ「……いち、に……いち、に……」うにょーん

キング「……何してるの?」

ウララ「ストレッチ……いつも寝る前に必ずしてるんだよ〜……」むにゃむにゃ

キング「どうしてそんなことを? 眠いならさっさと寝なさいな」

ウララ「え〜……? だって、寝る前には毎日ストレッチしなさいって言ったの、キングちゃんだよ……?」

キング「……ああ、そういえばそんなこと言ったわね! でもあれはトレセン学園にいたときでしょう!? もうあなたはレースなんか走らないんだから、ストレッチなんてしなくていいのよ!」

ウララ「ん〜……でももう癖になっちゃったんだぁ。これしないと眠れないの……」

キング「絶対そんなことないわよ……さっきからずっと目閉じてるじゃない」

ウララ「……ろく、しち、はちっ。よーし、これで心おきなく寝れる〜……」ぱたん

キング「やっと寝たわね。まったく手間かけさせるんだから」


キング(……って、まさか学園を卒業してからも毎日ストレッチしてるんじゃないでしょうね!?)


キング(さっきの前屈……学園にいた頃より遥かに柔軟性は増しているように見えたけど……気のせいかしら?)

ウララ「zzz……」すぴー



スカイ「ウララ寝た?」

キング「ええ。ストレッチし終わったらすぐに倒れて静かになったわ」

スカイ「あー、あのストレッチね〜。キングの言いつけを今でもずーっと守ってるんだよ、ウララは」

キング「……本当なのそれ? もう必要ないんだから、あなたからもやめるよう言ってくれればいいのに」

スカイ「まあまあ、身体が柔らかくて損することはないでしょ。ウマ娘に一番大切なのはケガをしないことだよ」

キング「そうじゃなくて、もうレースしないんだからケガなんてしようがないって話を……!」


ぴりりりり!


スカイ「ん、電話だ。もしもし?」

『モシモシ!? スカイですカ!?』

スカイ「なんだタイキか。どうしたのこんな時間に」

タイキ『エマージェンシー! 緊急事態デース! さっきのレースが終わった後に、またもや新たなバトルの誘いを受けてしまいマシタ!』

スカイ「次のバトルの約束? それのどこが緊急事態なの?」


タイキ『何と相手は……赤城の最強姉妹、ビワハヤヒデとナリタブライアンなんデスヨ!!』

スカイ「!」

キング「ビワハヤヒデ先輩に……ナリタブライアン先輩!? あの人たちもまだレースしてるの!?」

スカイ「……トレセン学園を卒業後、戦いの舞台をストリートに移して、走り屋ウマ娘として群マにやってきたんだ。持ち前の実力で最近メキメキ頭角を表してて、各地で連戦連勝って聞いたことがあるよ」

タイキ『イェース。この榛名にもついに試合を申し込みに来マシタ! しかも条件付きデース……!』

スカイ「条件?」


タイキ『キャロッツのメンバーじゃ誰が走ってもすぐにちぎられるだろうカラ、せめて勝負として成立させたいナラ…… 榛名の下り最速と呼バレタ “にんじん屋” を勝負の場に出せ、ッテ……』
 
スカイ「っ!」

キング「下り最速のにんじん屋……?」

タイキ『ワタシもウワサで何度かその名前を聞いてマシタけど、これってスカイのことなんデスヨネ? ワタシたちチームキャロッツが榛名をホームコースに走るようになる前、ココで伝説を打ち立てた幻の走り屋ウマ娘……それがスカイなんデスヨネ!?』

キング「そんな! スカイさん……あなたもストリートで走ってたの!?」

スカイ「……いやいや、昔の話だよ。私ももうトシだからさ〜、さすがに今でも榛名最速だなんて思ってないって」

タイキ『ケンソンは無用デース! ってゆーかトシは理由にならないデスヨ!? みんな大体同年代なんデスから!』


キング「どうするのよ……走るの?」

スカイ「んー……」

タイキ『ヘルプミースカイっ。今のワタシじゃブライアンたちに勝つノハ難しいってわかってマス……でも榛名のウマ娘のレベルが低いって思われるのもシャクなんデース!』

スカイ「……」


タイキ『オゥ……ソーリー、ライスに代わりマスネ』

ライス『……あっ、もしもし……スカイさん?』

スカイ「お〜、ライス」

ライス『あのねっ、タイキさんはこう言ってるけど……ライスは無理しなくていいと思うの。ブライアンさんたちはきっとすごく速いし……スカイさんはブランクもあるでしょ?』

スカイ「……まあね」

ライス『地元の意地とか、そういうのもわかるけど……スカイさんに無理はさせられない。今回の誘いはライスたちキャロッツのメンバーで何とかするから』

キング「ライスさん……」

ライス『えへへ、ボロボロに負けちゃうかもしれないけどね……仕方ないよね……///』

スカイ「……レースはいつなの?」

ライス『いつでもいいって。早ければ明日の夜にでも。時間決まったらこっちから連絡するの』

スカイ「そっか……じゃあちょっと早いけど、明日の夜8時にしよう」

ライス『えっ!?』

タイキ『Wow! 走ってくれるんデスカ!?』

スカイ「榛名のにんじん屋さん、出動と行こうか♪」

キング「ちょっ、本気なのスカイさん!? 相手はあのブライアン先輩とビワハヤヒデ先輩よ!?」

スカイ「まあまあ、確かにターフじゃ勝てそうになかった相手だけど……ストリートでなら、こっちに分があるかもしれないよ?」

タイキ『センキュ〜〜〜!! スカイならきっと勝てマース!』

ライス『そ、それじゃ明日の夜8時開始で連絡するねっ?』

スカイ「んー。しちゃってしちゃって」

タイキ『待ってますヨ、スカイ! ちゃんと時間までに走り込んで身体作っておけば、ブランクもある程度は解消されるはずデース!』


ぴっ


スカイ「……は〜、なんか凄いことになっちゃったね」

キング「まさか、こんな山奥で菊花賞ウマ娘同士のビッグレースが開催されることになるなんてね……でも大丈夫なの?」

スカイ「なにが?」

キング「あなた、山でもそこそこ速かったようだけど……最近は走ってないみたいじゃない。タイキさんはああ言ってたけど、明日の夜までにブランクを取り切れるかどうか……もっと勝負を遅らせてもらった方が良かったと思うわよ?」

スカイ「延ばしたら延ばしたで、今度はギャラリーが凄いことになりそうだからね〜。それに、ブランクとか関係ないから」

キング「えっ?」

スカイ「ま、明日になればわかるよ。ふぁ〜ぁ……それじゃ、そろそろおやすみー」

キング(スカイさん、すごい自信ね……一体どれだけ速いのかしら……)


キング「……ってちょっと、私はどこで寝ればいいのっ!?」

スカイ「あー、この家ゲスト用の布団とかないから、ウララのベッドで一緒に寝てあげて」

キング「……結局そうなるのね」



<朝>

スカイ「……」かーんかーん

ウララ「どしたのセイちゃん? 今日はやけに念入りに準備してるね」

スカイ「そう? ま、山道の下りを走るウマ娘にとって、蹄鉄は命綱みたいなものでもあるからね〜。ウララがケガしないように、メンテナンスはしっかりしなきゃ……はい、できたよ」

ウララ「ありがとー!」

スカイ「そういえばキングは? まだ寝てる?」

ウララ「そうみたい。あのねあのね、わたし久しぶりにトレセン学園にいた頃を思い出しちゃった! キングちゃんあの頃と一緒だったの! ふわふわでぽかぽかだった〜♪」

スカイ「そか。遊びに来てくれてよかったね」

ウララ「うんっ!」

スカイ「さて……準備運動できた? ストレッチは?」

ウララ「ばっちり! それじゃ、おいしいにんじん届けてくるね〜!」ばびゅーん

スカイ「おー、行っといでー」



キング「んー……」むにゃむにゃ

スカイ「あれ、起きてきた」

キング「朝からカンカンやかましいわね……どうしたっていうの?」

スカイ「仕事だよ仕事。農家は朝早いんだよ〜?」

キング「そういえばそうね……ウララさんは?」

スカイ「ちょうど今配達に行ったところ。にんじん配って、グリーン牧場で遊んで、お昼くらいには帰ってくるんじゃないかな」

キング「ふうん……」

スカイ「さーて、仕事もひと段落したし……私は湖に釣りにでも行こうかなーっと」

キング「ちょっとちょっと、トレーニングは!? あなた今夜レースがあるんでしょ!?」

スカイ「あ〜、いいのいいのそんなの」

キング「そんな……タイキさんやライスさんはあなたのこと頼りにしてるっていうのに……」

スカイ「それよりキングはいつまでここにいられるの? 仕事とか大丈夫?」

キング「え……ま、まあそれくらいは大丈夫よ。せめて今日のレースがどうなるかくらい見届けてから帰るわ」

スカイ「ふーん。それじゃ一緒に釣りしない? 上手く行けば朝ごはん釣れるぞ〜」

キング「釣らないと朝ごはんは無いの!?」



スカイ「……」ちゃぽん

キング(何というか……ほんとのどかなところね、群マって)

スカイ「キングさー、どうして来てくれたの?」

キング「えっ」

スカイ「こんなへんぴな田舎にさ。手紙を出した時は、来てくれたら嬉しいなって気持ちもあったけど、ただ私たちが元気にしてるって伝わればそれでもいいかなって思ってたんだよね〜」

キング「来ることにした理由なんて……特になかったわよ。ウララさんがどうしてるか気になって、それだけでここまで来ちゃったの。ほとんど衝動的にね」

スカイ「そんなにウララのこと心配だった?」

キング「まあそうね……正直、あの子もいつか私と同じように大人になるんだーなんて、学園にいた頃はずっと信じられなかったのよ……」

スカイ「確かにね〜。まあ今も昔とそこまで変わってないけど」


キング「……それとは別に、私最近仕事に行き詰まりを感じてたの」

スカイ「ああ、昨日もそんなことちょっと言ってたね」

キング「ええ……」


キング「ウマ娘の勝負服って、そのウマ娘の人となりや方向性、性格、信念、生き様とか、全部に影響するものだと思ってるの」


キング「自分の人生を懸けた大舞台を戦い抜くための、たったひとつの鎧。なりたい自分、憧れの自分になるための変身道具。そして自分というウマ娘を形作るもの……ターフで走っていた頃の私にとってはそんな感じだった」


キング「でもデザインの技術や流行りを勉強して、自分で勝負服を作るようになって、今では実際に私が作った服でレースに出てる子もいるわけだけど……『本当にこの服でよかったのか』って思いがいつまでも消えないの。心から納得のいく作品を作れたことがないのよ……」

スカイ「……めちゃくちゃ真剣な悩みだね」

キング「だけどデビューの時期はどの子も決まってるし、納品を送らせることはできない。結局最後まで自問自答し続けて仕方なく出しちゃって、その勝負服を着たウマ娘が大舞台で負けてるのを見ちゃったとき……私もう、やりきれなくなっちゃって。一旦仕事をストップしたの」

スカイ「……」

キング「たぶん私は、学園を卒業してしばらく経ったせいで……レースに対する情熱、走りに対する情熱みたいなものを忘れちゃってるのかも。だから一度原点に立ち返ってみようと思って、日本に帰って来たのよ」

スカイ「なるほどね〜……私は自分の勝負服を普通に気に入って着てたけど、作ってる人の思いをそこまで考えたこと、確かになかったなぁ」

キング「私は現役時代、たくさんのレースに出たわ。でも勝ったのは数えられる程度だった。大好きな勝負服を勝たせてあげられなくて、何度も何度も悔しい思いをした。あの頃の情熱を思い出せばいいはずなのに……難しいものね」

スカイ「……勝たせて、あげたかったよね」ぼそっ

キング「ええ……って、スカイさんはクラシック二冠をとったじゃない」

スカイ「ううん、私じゃないんだ……まっ、それじゃ今夜のレースで何か思い出せたらいいね」

キング「?」

スカイ「……さて! そろそろご飯にしようかなーっと」



<榛名山・スタート地点>

ざわざわ……

タイキ「ホワッツ!? まだ夕方ナノニ、もうこんなにギャラリーが集まってるんデスカ!?」

フクキタル「今はウマッターとかですぐレースの情報が広まってしまいますし、大変ですねぇ……」

ライス「それにしても、昨日の夜決まったばかりの話なのにね……もしかして、ハヤヒデさん側の誰かが広めてるのかも……」

タイキ「ホワイ? どうしてそんなコトを?」

フクキタル「たくさんのギャラリーがいる前で勝てば、それだけ自分たちの名声が上がると思ってるんじゃないでしょうか?」

ライス「ハヤヒデさんたちにとって、あくまで榛名は通過点なのかも……もっと強い相手に出会うための……」

ウララ「ほへぇ〜……」

タイキ「ウララっ、スカイはブライアンに勝てそうデスカ!?」

ウララ「ん〜、全然わかんない! だってセイちゃんがおやまでレースしてるところ、見たことないもん……本当にセイちゃんが走るって言ったの?」

タイキ「言いマシタ! “榛名のにんじん屋さん” が出動するッテ!」

フクキタル「スカイさんが走り屋だったころの映像がネットに落っこちてたので見てみたんですが、確かにものすごく速そうでしたよ?」

タイキ「ん〜……信じるしかなさそうデスネ」

ライス「これだけお客さんがいる前でいい勝負できなかったら……キャロッツはもう、応援してもらえなくなっちゃうのかなぁ……」

フクキタル「うぅぅ……」

タイキ「あああ〜〜〜っ! もうこの雰囲気に耐えられマセン! ウララっ、とりあえずスカイのところに行きマショウ!」

ウララ「うんっ!」



<スカイ宅>

タイキ「ヘイ、スカ〜〜〜〜イ!!」ばーん

スカイ「うわっ、なになになに。みんなしてゾロゾロやってきて」

キング「相変わらず騒々しいわね」

ウララ「あーっ! キングちゃんたちずるい! おまんじゅう食べてる!」

キング「ああ、さっきちょこっとスカイさんと一緒に伊香保温泉に行ってきたのよ。食べる? 温泉まんじゅう」

ウララ「わーい! 食べる食べる〜♪」


タイキ「……って、チガーーーーウ! ナニのんびりお茶してるんデスカ!?」

スカイ「いや、温泉の後の一服だよ」

フクキタル「ちょっとー!? 状況わかってるんですかスカイさんっ!?」

キング「状況?」

ライス「あのねっ、もうスタート地点のところに今日のレースを見るためのギャラリーがいっぱい集まってるの。それでライスたち、スカイさんは本当にハヤヒデさんたちといい勝負できるのかなって心配になっちゃって……」

スカイ「なんだそんなことか……」

キング「私もそれは気になってたけど……この人、さっきから準備運動のひとつもしてないわよ? ずっと釣りしてお茶して温泉入って、のんびりしてるだけよ」

タイキ「コラコラ〜っ! 昨日あんなこと言ってオイテ、ドタキャンするつもりデスカ!?」

フクキタル「うぎゃーっ!! こんな直前で試合放棄なんてっ、榛名の走り屋ウマ娘みんなの名声を地に失墜させるも同然ですよー!?」

スカイ「おっ、落ち着いてよ〜。みんな勘違いしてるって」

ライス「勘違い……?」


スカイ「私今日走んないよ?」

タイキ「え」

フクキタル「えっ」

キング「……えっ!?」

ウララ「……?」もぐもぐ

タイキ「は、走らないってどういうことデスカ!? 昨日電話したトキは走ってくれるッテ……!」


スカイ「今日走るのは私じゃない。ウララが走るの」

ライス「えっ!?」

キング「なっ……!?」

フクキタル「え……」

タイキ「ええぇぇえぇぇええええーーー!!?///」

ウララ「わっ、わたしがっ?」


フクキタル「なっ、ななななに言ってるんですかスカイさん!? 話が違うじゃないですかー!」

スカイ「いやいや、ちゃんと伝えたと思うけどな。 “榛名のにんじん屋さん” が走るって」

ライス「それってスカイさんのことじゃなかったの!?」

スカイ「うん。ウララも立派なにんじん屋さんでしょ? 今日のレースは、ウララに走らせてみようと思って」

キング「あ、あなたって人は……!」

タイキ「ノォーーーーウ!! ムリムリ駄目に決まってマース! ウララがブライアンたちと戦って、勝てるわけないじゃないデスカー!!」

スカイ「……なんで?」

タイキ「だってソンナノ! ……ウララはまだストリートのレースをしたこと無いデショウ!?」

スカイ「んー……確かに、誰かとこの峠で競争したことはないか」

ウララ「うん、まだないよ〜」

フクキタル「そりゃそーですよ! ウララさんは今はキャロッツの応援団長なんですから! 走る担当じゃないんです!」

スカイ「でも、この中で一番榛名を走り込んでるのは間違いなくウララだよ」

ライス「えっ!?」

キング「……ど、どういうこと?」

タイキ「ウララが山で走ってるトコなんて、見たことアリマセーン!」

スカイ「そりゃそうでしょ。みんなとは走る時間帯が違うからね」

スカイ「ウララ、毎朝にんじんの配達してくれてるよね?」

ウララ「うんっ、してるよー!」

スカイ「毎朝走って、榛名の山を駆け降りてるよね?」

ウララ「うんっ、だってセイちゃんとわたしで作った新鮮なにんじん、みんなに早く届けたいから! 今朝も走ったよ!」

スカイ「配達をお休みしたことあったっけ?」

ウララ「んー……風邪を引いたときくらい? でもでもっ、それ以外は毎日わたしが配達してるよ! 雨の日も風の日も!」


スカイ「……はい、わかったでしょ。今日のレースはウララが走りまーす」

ライス「……」

タイキ「……」

フクキタル「……本気、みたいですねぇ」

キング「勝算は……あるの?」

スカイ「んー、勝負はやってみなきゃわかんないけどね。ブライアンたちの実力も私は詳しく知らないし……でも、今のウララはどんなウマ娘が相手でも勝てると思うよ」

ライス「ウララちゃん……本当?」

ウララ「ん、んー……わたしも誰かとおやまで競争したことはないから、よくわかんない……」

スカイ「大丈夫だよウララ。いつも通りの走りをすれば負けっこないから」

ウララ「ほんとっ?」

スカイ「うん。勝ったらスカイランドパークに連れてったげるよ~」

ウララ「えーっ! じゃあやるやる~♪」

キング「スカイランド……?」

フクキタル「渋川スカイランドパーク。このあたりにある遊園地ですよ」

タイキ「ウララ……」

ウララ「タイキちゃんっ、わたしもキャロッツの一員だから……走ってみても、いい?」

タイキ「……こうなったら、仕方アリマセンネ」

ウララ「!」ぱあっ

タイキ「トラストユー。今日はウララを信じマス。毎日ウチの牧場ににんじんを届けてくれた、ウララを信じマース!」


スカイ「よーし、それじゃ準備しよっか」

ウララ「わかったー!」

スカイ「キング、そっちにウララの勝負服がかかってるからとってあげて」

キング「ふふ……懐かしいわね。ウララさんの勝負服姿がもう一度見られるなんて」

ウララ「あれっセイちゃん、にんじんは? 今日の分のにんじんがないよ?」

スカイ「あはははっ、何言ってんの。これは配達じゃないんだから、何も持たなくていいんだよ?」

ウララ「あっそっかー! えへへ、こんなの初めて!」



<スタート地点・駐車場>

「な、なんだと!?」

ブライアン「どうした、姉貴」

ハヤヒデ「……先方が、今日の相手について話してくれたんだが……」

ブライアン「例のにんじん屋は来ないのか? だとしたら相手はタイキか……燃えんな」

ハヤヒデ「いや、タイキ君でもなく……」


ウララ「あっ、今日はよろしくねー♪」ぶんぶん

ブライアン「っ!?///」

ハヤヒデ「……ハルウララ君が走るそうだ」


ブライアン「……なんてこった。まさかこんだけギャラリーもいる前で勝負を放棄するとは」

ハヤヒデ「ハナから勝ちの見えている相手に勝っても意味はない。そのためタイキ君よりも強いウマ娘を出してもらうよう、頼んだつもりだったんだがな……」

ブライアン「どうする? これじゃ勝ってもタイキ以上に意味のないバトルになるぞ」

「それはどうかなー?」ざっ

ブライアン「お、お前は!」

ハヤヒデ「……セイウンスカイ! 来ていたのか」

スカイ「にゃははー、どうもどうも先輩方。お久しぶりでーす」

ブライアン「説明しろ。なぜお前が走らないんだ」

スカイ「簡単なことですよ。私よりあの子の方がふさわしいからです」

ハヤヒデ「……納得できないな。確かにウララ君は、ゴールまで走りきるだけで褒められそうなウマ娘ではあるが……」

スカイ(……見ただけじゃ気づけない、か……赤城の最強姉妹とやらもその程度なんだね……)ふっ

ハヤヒデ「?」


スカイ「まあまあ、とにかく走ってみてくださいよ。もしウララが負けちゃったら、そのときは正式に私がお相手してあげますから」

ブライアン「チッ……なんだってんだ」

ハヤヒデ(……)

ブライアン「良いだろう、だったら正面から叩き潰してやるまでだ。そのあとでセイウンスカイを私が倒す。それでいいな、姉貴?」

ハヤヒデ「あ、ああ……」


ハヤヒデ(なんだ……? 急に胸騒ぎが……)


ライス「8時……そろそろ時間だねっ」

タイキ「それじゃっ、スタート位置に着いてくだサーイ!!」


「お、おいアレ見ろ……!」ざわっ

「あの子……ハルウララじゃない!?」

「どういうことだ!? 伝説の走り屋が来るんじゃなかったのか!?」

「勝負を投げたのかよー!」

「勝てるわけないだろ……ナリタブライアンに!!」


ブライアン「……」ざっ

ウララ「う、うわ〜……!」

ブライアン「……なんだ、何を見てる」

ウララ「すっごーい! まさかブライアンさんと競争できる日が来るなんて〜……!」

ブライアン「チッ……! これじゃガキのかけっこに大人が乱入するようなもんだ……」

ウララ「あのねあのねっ、このレースに勝ったらね、セイちゃんがスカイランドパークに連れてってくれるんだって! だからわたし、がんばるよ~!」

ブライアン「……勘弁してくれ……」はぁ

フクキタル「は、始まってしまいますね〜……っ」

キング「まさかこんな山奥で、ウララさんとブライアン先輩が戦う日が来るなんて……」

スカイ「あはははっ、あの2人が並んでるとこなんて、学園でも見たことなかったかも〜。写真撮っちゃおー」ぱしゃぱしゃ

キング「まったく呑気なものね! 本当にウララさんが勝てると思ってるの!?」

スカイ「だから何度も言ったでしょ。勝てると思ったから送り出したんだって」


タイキ『スタート10秒前〜!!』


スカイ「……私はね、あの子に勝たせてあげたいんだ。勝つ喜びってものを知ってほしい」

キング「!」はっ

スカイ「ターフじゃそれは叶わなかった……でもここなら違う。あの子は毎日努力し続けた。その成果を……今日みんなにお披露目するんだよ、ウララ」


タイキ『5!……4!……3!』

ウララ「ハルウララ、いっきまーす!」

ブライアン「チッ、やるしかないか……!」


タイキ『2!……1!……GOーーッ!!』


だっ!

フクキタル「ウララさーーんっ! いけ〜〜〜!」

ライス「頑張って〜〜〜!!///」

ハヤヒデ「……!」


「見ろ! スタートダッシュはナリタブライアンが圧倒的に優位だ!」

「当たり前だろ! 三冠ウマ娘との直線勝負に、ハルウララなんかが勝てるわけない!」


ブライアン(やはり何も変わってない、か……面倒だ、さっさと終わらせる……ッ)だだだっ

ウララ「……!」だだだだ


キング「は、速い……」

フクキタル「うう、やっぱりブライアンさんは恐ろしく速いですね〜……」

キング「そうじゃない……あの子、速くなってる」

ライス「えっ?」

タイキ「ウララがデスカっ?」

キング「ターフにいた頃のあの子の走りをまともに見てた人なんて少ないでしょうけど……ウララさん、間違いなくあの頃より速くなってるわ……!」

スカイ「……まっ、平坦な直線でブライアンに勝てるほどではないけどね。それでも思ったより引き離されてないな……これはもしかするといけるかもよ〜?」

ライス「ほ、本当っ?」

ハヤヒデ「……」


ハヤヒデ(スタートダッシュはブライアンが圧倒的に速い……だがウララ君がトレセンにいた頃より早くなっているというのは本当のようだ……!)


ハヤヒデ(微かな記憶だが、走り方も変わっている……前傾姿勢の角度から見て、身体の柔軟性はかなり高い。もともとの身体の小ささもあって、とにかく空気抵抗を受けない走りになっている……)


ハヤヒデ(もしかして本当に……相手は勝つつもりであの子を出したというのか……?)


ハヤヒデ「……油断するなよ、ブライアン……」


ブライアン「このまま……ぶっちぎってやる!!」だっ

ウララ「……っ!」だだだっ



フクキタル「最初のコーナーに突入っ……見えなくなりましたね」

ライス「……4、5、6……うん、6秒くらいかな。今のところついてる差は」

タイキ「6秒なんて……もうほとんど負けデース。ゴールする頃には何秒の差がついてるかわかりマセン……」

スカイ「さーて、それはどうかな~」

キング「……ちょっと、ウララさんたちが今どうなってるか知る術はないの?」

ウララ「あのねっ、コースのあちこちにいるタイキさんのお友達が実況してくれるし、リアルタイムで動画配信してる人もいるから少しは見れるよっ」



キャー!

ヒューヒュー!

「やっぱ速ぇ~! ナリタブライアン!」

「みてよ、ハルウララがあんなに後ろにいる……」


ウララ「……」だだだっ


「……あれ? でも結構速くない? ウララちゃんも」

「ん……気のせいかな、今のブライアンとあんまり変わらない速さの気が……」


ウララ(ブライアンさん、やっぱりすっごく速い……)


ウララ(追いつけるかなぁ……でも、追いつかなきゃねっ)


ウララ(みんなが見てるんだもんっ。セイちゃんに、キングちゃんに、キャロッツのみんなが……!)


ウララ「よーし、いっくよ~~~!」だだだっ


ワーワー……



スカイ「もともとね、あの子が峠を走るようになったのは……自分からなの」

キング「ウララさんが自分から……?」

スカイ「配達をお願いしたのは私だけど、自転車とかでもいいよって最初は言ってた。でもウララは自分の足で走るのが好きなんだって。だからしばらく好きにさせてた」


スカイ「危ないから私の蹄鉄を履かせてたんだけど、毎日メンテナンスしてるうちに気付いたんだ。ウララは結構なスピードでダウンヒルを走ってるってことに」

ライス「蹄鉄を見ただけでわかるの? そんなことが……」

スカイ「まあね~。一回だけこっそり車でウララの後をつけたことがあったんだけど、あの子はすごく速く走ってた。峠を走ってた私から見ても、光るものを感じたんだ」

フクキタル「でもいつの間にそんな速さを身につけたのでしょう? 学園にいたころから?」

スカイ「実はね、ウマ娘自身が出せるスピードって、ことダウンヒルに限ってはそこまで重要じゃないんだよ。下りだから勝手にスピードが出るし、あっという間にトップスピードに達しちゃう。大事なのはいかにそのスピードを維持しながらコーナーを曲がり切れるかなんだ」

タイキ「確カニ、コーナーとコーナーの間の直線でスピードを出すしかアリマセンけど、そんな直線はこの榛名にはあんまりナイですからネ……」

スカイ「坂道では前傾姿勢と細かく刻むような走法、コーナーでは大胆なハングオンが大切。自分の足のふんばりをどこまで信じられるか。それを支えてるのが身体のしなやかさ、柔らかさなんだ」


スカイ「……その柔軟性は、キングがもたらしてくれた」

キング「!」

スカイ「学園にいたころ、ルームメイトだったキングがウララに言いつけた、毎日のストレッチ。私も信じられなかったけど、あの子は卒業してからもなぜか毎日続けてた。たぶん今のあの子は、現役時代の私たちよりもはるかに柔軟性に富んでるよ」

キング「……私はただ、あの子にケガをしてほしくなかっただけよ。あの子、大きなレースは出たことなかったけど、小さい地方レースにはとんでもない回数出てたみたいだから……」
 
スカイ「あの子はこうも言ってた……『飛んでるみたいに速くなれるから、下りを走るのが大好き』って」

キング「!」

スカイ「ターフにいたころには感じられなかった、速く走る気持ちよさ。それがウララを走らせてる一番の原動力なんだ」


スカイ「あの子はトレセン学園にいた頃、まったくレースに勝てなかった……でも心から走ることを愛してるんだよ。この榛名の峠が、あの子にその機会を与えてくれた」


スカイ「ウララは……峠を走ることを、誰よりも楽しんでいるんだ!」



だだだだ……


ウララ(……カーブだとブライアンさんの背中が近づく。だけどまっすぐに戻るとまた離されちゃう……)


ウララ(でもちょっとずつ、ちょっとずつ差は詰まってるのかな……)


ウララ「……負けたくないっ」


ウララ「負けたくないよ、セイちゃん……!」きっ


ウララ(雨の日も風の日も、毎日走った榛名のおやま……ここでは、誰にも負けたくない!)


ウララ「ハルウララっ、本気でいくよ~~~!!」


ががががんっ!


「なっ!?」

「おい見たか、今のっ!」

「なんだあの走りはァ!?」


ライス「みっ、みんなライブ映像を見て! ウララちゃんが……!」

フクキタル「ええええええ~~~っ!?」

キング「ガードレールの側面を……走ってる!?」

スカイ(……これか。見るのは私も初めてだ……///)ぞくっ


スカイ「たまーにね、蹄鉄が真っ白になって帰ってくることがあるんだ。そういうときのウララは、決まって楽しそうな顔で戻ってくる。なんとなく予想はついてたけど……あの子はガードレールの側面をバンク代わりにして走れるんだ!」

タイキ「Wow~!! まるでニンジャみたいデース!」

スカイ「トップスピードを殺さないようにしてコーナーを曲がり、その速さを次の直線に生かす、あの子なりの方法……身体の軽いあの子にしかできない芸当だよ」

キング「ちょっと、危ないんじゃないのあんなことして!? もしガードレールが壊れたら……!」

スカイ「丈夫なガードレールとそうでないところくらい、あの子は把握してる。なんたって毎日この峠を走ってるんだから。その点に関しては、私よりもあの子の方が詳しいはず。今日は配達するにんじんも持ってないしね」


ハヤヒデ「……くっ」


ハヤヒデ(誤算……だったか……)

「いいぞーーウララーー!!」

「いっけーー! ブライアンに勝ってくれー!!」


ブライアン(くそっ、どういうことだ!?)だだだっ


ブライアン(最初のコーナーを曲がったときには、かなりの差をつけていたはず……だがコーナーをひとつ曲がるたびに、着実に背中に近づいている……あいつの蹄鉄がアスファルトを蹴る音が、もうすぐそこまで聞こえる!!)


ブライアン(認めたくないが……私の方があいつより、コーナーを曲がるのが遅いということか……!)


ががががんっ!


ブライアン(それになんなんだ、この金属がぶつかり合うような音は!? 一体何をしている……!?)


ブライアン(くそっ、こんなに後ろが気になることは、今までなかったっ……!!)


ライス「い、いけるっ!」

フクキタル「行けますよこれは~~っ!!」

タイキ「ゴーゴー! ウララ~~!!」


キング(……行け……)


キング(行きなさい……走りなさい……っ!)ぐっ


キング「勝つのよ……! ウララさん!!」

スカイ「行けっ……ウララ!!」

ウララ「はぁぁぁあああああっっ!!」だっ

ブライアン「なっ!? こいつ……ッ! いつの間に横に!?」


ブライアン(しかもヘアピンなのに減速しない……!? 何を考えているっ!? 谷底へ真っ逆さまだぞ!!)


ウララ「絶対に……勝ーーーーつ!!」ががががんっ


ブライアン「!?」


ブライアン(そ、そんな……っ!!)



ライス「あっ!」

フクキタル「い……行った!!」

キング「抜いた!!」

タイキ「行け行け~~!! そのままーー!!」


「ウララが前に出た!!」

「ナリタブライアンが抜かれたぞ!!」


ハヤヒデ「くっ……」


ハヤヒデ(この先もコーナーが続く……今のブライアンが抜き返すチャンスは……もうない……)


ハヤヒデ(私たちの……負けだ……っ)

「勝ったのはウララだ! 榛名のウララだ~~っ!!」

「うおおおお!! ハルウララがナリタブライアンに勝っちまった!!」

「しかもとんでもねぇコースレコードだぞ!!」

「こんなことが起こるから峠はやめられねぇー!」


ワーワー……!


ウララ「か、勝った……?」


ウララ「私……本当に勝っちゃったの?」

ブライアン「……くっ」


ライス「や……やったぁぁ~~~!!」

フクキタル「うぎゃーー!! 本当に勝っちゃいましたよウララさんが~~!!」

タイキ「信じられマセーン!! はやく迎えに行ってあげまショー!!」


キング「勝った……ようやく勝ったのね、ウララさん……っ///」

スカイ「あははっ、キング泣いてる~」

キング「だって、だってぇ……っ」


スカイ(……よく頑張ったね、ウララ……///)

――――――
――――
――

ハヤヒデ「……これまでの非礼を詫びよう。すまなかった」ぺこっ

ブライアン「……ああ」

ライス「ええっ、そんな……」

フクキタル「ひぇぇ、あのお二人が謝るなんて……!」

ハヤヒデ「我々の完敗だ。ウララ君……いや、 “榛名のウララ” は、本当に速かった」

ウララ「えへへ……でしょ~?」

ハヤヒデ「だが、決して勝てないとは思っていない」

スカイ「?」

ハヤヒデ「今回のレースで、君のデータはとれた。勝つためのシミュレーションを組み立て、いつかまたこの榛名にリベンジにこよう。そのときはこの私…… “赤城の白い彗星” と走ってくれるか?」

ウララ「うんっ、いいよー!」

キング「ちょっとウララさん……本当にいいの?」

ウララ「うんっ。だって誰かと一緒に走るの、楽しいもん! 今日もね、ブライアンさんと一緒に走るの、すっごーく楽しかったー!」

ブライアン「はぁ……本当にかなわんな……」

ハヤヒデ「ふふっ、許してやってくれ。ブライアンはヘコんでいるんだ」

タイキ「ところで……バトルが終わったら、一緒に食事をして親睦を深めるのがキャロッツ流デース! ブライアンっ、明日あたり一緒にごはんどうデスカっ?」

ブライアン「断る」

ウララ「え~っ!?」

ブライアン「そんな気分じゃないんだ。今は一刻も早く自分を鍛え直したい……」

タイキ「ウェ~ル……仕方ありまセンネ、“あおぞら” で奢ってあげようと思ってたノニ……」

ブライアン「なにっ?」

タイキ「極上のタンにロースにカルビ……一緒に食べたかったですケド、しょうがないデスネ~……」

ブライアン「待て。あおぞらなら行く」

キング(なに? あおぞらって)ひそひそ

フクキタル「このあたりでチェーン展開してる、おいしい焼肉屋さんですよっ」


ウララ「わーいっ! それじゃ明日はみんなでスカイランドパークに行って、そのあとあおぞらだねー♪」

ブライアン「おい、私はそんなところ行かんぞ! あおぞらで待つ」

タイキ「カタいこと言いっこなしデスよ~ブライアン~」

ライス「楽しみだねっ、遊園地」

ウララ「うんっ! キングちゃんも行くよね?」

キング「えっ!? わ、私はそろそろ帰らないとだから……」

スカイ「え~。ウララの勝利を泣いて喜んでたのに、お祝いしてくれないのー?」

キング「なっ、泣いてなんかないわよ!///」


~fin~

APEX/CRカップ2次会
『やる。』
ボードゲーム/スカル

雪山人狼(プロジェクトウィンター)

コードネーム(オンライン)

PUBG

(加藤純一×スタヌ×天月×釈迦×ボドカ
×アルファアズール×かせん×にじさんじ・イブラヒム)
(22:49~放送)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 03:13:11   ID: S:WGpdCR

今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl

2 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 23:29:53   ID: S:EwR2t3

今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl

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