ダクネス「で、どうするんだ、カズマ」カズマ「うーん……アイリスの披露宴かぁ」 (10)

我が名はダスティネス・フォード・ララティーナ。名門ダスティネス家の一人娘であり、近頃腰を悪くして領地に篭りがちになった父の名代として領主の仕事の真似事をするようになった。

王都での仕事を終えて、馬車で紅魔の里へと向かい、テレポートでアクセルの街まで戻るのが、私の日常だ。

「そこのご婦人! お待ちなさい!」
「この先は我々が通さないぞ!!」

駆け出し冒険者の街、アクセルで一番大きな屋敷の前で、奇妙な2人組に出会した。

「またお前たちか……」
「またお前たちかと言われたら!」
「答えてあげるが世の情け!」

毎回口上が違っているが、名前も顔もよく知っており、屋敷で一緒に暮らす家族だ。

「世界の破壊を防ぐため!」
「世界の平和を守るため!」
「愛と真実の爆裂道を突き進む!」
「ラブリーチャーミーな敵役!!」

ラブリーチャーミーってなんだ。
明らかにこの世界の言語と違うのは、きっとカズマの仕業だろう。あとで説教してやる。

「かずみん!」
「めぐま!!」

この世界の言語感覚であっても嘘みたいな名前だが、これがこの2人の本名である。

「アクセルを駆ける2人には!」
「ほ、ほわ……なんだっけお姉ちゃん!?」
「ほわいとほーむ!」
「あ、そうだそうだ! ありがと! ホワイトホーム! 白い明日が待ってるぜい!」
「カァーット!!」

途中口上を忘れた弟に姉が助け舟を出すシーンが見られたがどうやら2人共間違っていたらしく、庭の茂みから屋敷の家主が現れた。

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「違うだろ! ホワイトホールだ! ホワイトホームじゃかっこ悪いだろうが!?」
「だ、だってお姉ちゃんが……」
「めぐまが間違えたのが悪いんですよ」
「カズマカズマ! 私の出番はまだですか?」

娘2人に説教を始めるカズマと、所在なさげに茂みから顔を覗かせた妻のめぐみん。
嘆息したカズマはめぐみんに指示を出す。

「はあ……もういいからぶっ放せ」
「いきます! エクスプロージョン!!」

ドーン! と、夕陽が落ちかけた夜空を照らす特大の爆裂魔法。めぐみんの得意技である。

「毎度毎度よくやるな、お前たち」
「おかえりなさい、ララママ!」
「早く帰ってご飯を食べましょう!」

疲れた身体が余計に疲れる演出だが、この子たちなりに私を労ってくれているのだと察して、ひとまず2人を抱っこして家に向かう。

「カズマ、リリとルルの様子はどうだ?」
「お前の帰りを待ちきれず寝ちまったよ」
「あ、今の爆裂魔法で起きたみたいです」

家に入ると娘たちの鳴き声に出迎えられた。
アクアが2つ並んだ小さな寝台の間を行ったり来たりしながら赤ん坊をあやしている。

「あーもう泣かないで! あなたたちが泣いていると私まで悲しくなるの! 私まで泣いちゃうからもう泣かないで! うわぁーん!!」

赤子に混じって泣き喚くアクアに呆れながら、この騒がしさに包まれるのは思いの方、心地よいと私は感じてしまう。帰ってきた。

「カズマ、たまには王都に顔を出せ」
「嫌だ。面倒くさい」

赤子を寝かしつけて夕食を食べている最中、私が小言を口にするとカズマは不貞腐れた。

「なんだ、まだアイリス様が隣国の王子と婚約されたことを根に持っているのか?」
「ち、違うっての!」

わかりやすい奴だ。呆れつつも優しく諭す、

「お前は王女殿下に義理の兄のように慕われていたからな。気持ちはわかるつもりだ」
「ふん。わかってたまるかよ……」
「だが、兄ならば兄らしく、妹の幸せを祝ってやるべきではないか? どうだ、カズマ」

カズマはしばらく考えから、きっぱりと。

「よし、わかった。めぐみん、ちょっと隣国の王宮を爆裂魔法で吹き飛ばしてこい」
「えっ!? いいんですか!?」
「おう。やれやれ。盛大にやっちまえ」
「腕が鳴りますね!」
「いいわけないだろ! やめろ2人とも!!」

リーダーとして間違った命令を下したカズマと悪ノリするめぐみん。最悪の夫婦である。
仕方なく私は中立のアクアに助けを求めた。

「アクア、お前からもなんとか言ってくれ」
「そうね。どうせやるなら徹底的に破壊し尽くしてその領地をぶんどって、"神聖・アクシズ公国"を建国するってのはどうかしら?」
「お前に助けを求めた私が馬鹿だった!!」

この家にはまともな人間が1人もいなかった。

「姫さま、なんか言ってたか?」
「久しぶりにお前に会いたいと仰っていた」
「ふぅん」

物騒な話を終え、食事を片付けるカズマを手伝っていると、全然気にしていない風を装ってカズマがアイリス様について尋ねてきた。

「綺麗になってるんだろうなぁ」
「それはもう、とてもお美しくなられた」

王都でお会いした際、披露宴のためにあつらえたドレスを見せてくださり、きっととてもよく似合うだろうと私は確信していた。

「お前も一応世界を救った英雄ならば、たまにはその義務を果たしたらどうだ?」
「英雄、ねえ」

魔王を倒したカズマはこの国の英雄だ。
しかし、その事実を知る者は少ない。
対外的にはミツルギとかいう冒険者が魔王を倒したことになっており、外交上勇者として様々な国へと出向き、威光を示している。

「柄じゃないだろ」

気恥ずかしそうに頬を?く、カズマ。
てっきりこいつは祭り上げられるのが好きだと思っていたのだが、変なところで謙虚だ。

「敵を作りたくない、だったか?」
「1番の理由は面倒くさいからだ」
「ふふっ。お前らしいな」

私がこの男のどこに惹かれたかと言えば、きっとこの怠惰で無気力なところなのだろう。
好きだ。私はカズマが好きだ。愛している。

「なにを2人で内緒話してるのですか?」
「め、めぐみん! いつの間に……」
「そろそろもう1人産ませようかと思ってな」
「カ、カズマ! いきなり何を言っている!」

割り込んできためぐみんにカズマが下品な顔と口調で嘘をつくと、本気にしたらしく。

「次は私の番と決めたではないですか!?」
「でもダクネスがどうしてもって……」
「言ってない! 私は何も言ってない!!」

火に油を注ぐカズマの口を塞いで黙らせる。
怒っためぐみんが私の胸を鷲掴んできた。
そうやって騒いでいると、アクアが怒鳴る。

「ちょっと! また起きちゃうでしょ!?」

注意した筈が、逆にアクアの大声でリリとルルが起きてしまった。また騒がしくなる。
そしてやはりこの騒がしさが心地良かった。

「で、どうするんだ、カズマ」
「うーん……アイリスの披露宴かぁ」

なんとか再び双子の赤ん坊を寝かしつけて、私は寝る前にカズマに再び意向を尋ねた。

「盛大に爆裂魔法でお祝いしましょう!」
「間違いなく暴動が起きるからやめとけ」

カズマを挟んで反対隣に寝るめぐみんがまたもや物騒なことを口にしたが、頭が冷えたらしいカズマが冷静に止めてくれた。

「やっぱり複雑か?」
「そりゃあな。あんなに懐いてくれてたし」
「それならお嫁さんにしましょうよ!」

またしてもとんでもない発言をするめぐみんだったが、カズマはきっぱりと否定した。

「アイリスは妹みたいなもんだから無理」

一国の王女を妹みたいなもん呼ばわりするのはどうかと思うが、カズマはあくまで兄としてアイリス様を気遣っているのだろう。

「アイリスは本当に幸せそうか?」
「改めて聞かれると……少し困る」
「なんだそりゃ。どういう意味だ?」
「アイリス様は王女であらせられる。だからその……婚姻には様々な側面があってだな」

恋愛結婚では決してない。国益の為の婚姻。

「しかし、そうして国益を守ることこそが王家に生まれた者の務めであって……」
「んなこと知るか」
「カ、カズマ……?」
「妹の明日を守れなくて何が英雄だ」

この男は常日頃怠けていて自堕落な生活を送っているのに、たまに本気になるから怖い。
そして本気のカズマは、すごく素敵なのだ。

「めぐみん、魔力は溜まったか?」
「いつでもいけます」
「よし、なら今夜仕掛けるぞ」

寝巻き姿のまま、寝台を降りるカズマ。
めぐみんも枕元から杖を取り出して持つ。
私は止めない。止められない。妻だから。

「カズマ……武運を」
「バカ。お前も行くんだよ」
「でも、誰が子供たちの面倒を……」
「ウィズとバニルが居るだろ。ほれ」

妻らしく夫の無事を家で待とうと思ったら愛用の鎧を放り投げられて、慌てて受け取る。

「アクア、用意は出来てるか?」
「ええ。いよいよ神聖アクシズ公国が……」
「そんな国、3日で滅ぶに決まってんだろ」

リビングでアークプリーストの装備に身を包んだアクアと合流して寝巻きの勇者は手ぶらで戦いに赴く。と、その背中に声がかかる。

「パパ、どこに行くの?」
「また魔王が現れたのですか?」

めぐみんとカズマを足して2で割ったような子供たちに向かって、歴戦を思わせるマントを羽織ながら父親はクールに告げた。

「ちょっと妹の明日を、助けてくる」

決まったと誰もが思ったが、子供は残酷だ。

「でもパパ、マントにリリとルルのうんちがくっついてるよ」
「アクア様が拭いてるところ見ました!」
「なぬっ!?」

ああ、道理で臭うわけだ。糞まみれだった。

「アクア! ひとのマントで赤ん坊の尻を拭くなっていつも言ってるだろ!?」
「仮にも父親なんだから実の娘のうんちでごちゃごちゃ言わないでよ!!」
「言うわ! 言うに決まってんだろ!?」

肝心なところでいつも抜けているカズマ。
しかし、何故だろう。だから安心出来る。
今回赴く戦いも、くだらないものになる。

「拭くならお前の羽衣で拭け!」
「女神の羽衣をなんだと思ってるのよ!?」
「フワフワして尻拭くのに丁度いいだろ!」
「大罰当たり! そんなことしたら痔になるんだからね! 痛くて座れないんだから!!」
「いいからさっさとその羽衣をよこせ! 出発前に捻り出して尻を拭いてやる!!」
「いーやー! カズマのうんち塗れの羽衣を首の周りにフワフワさせるのは嫌なの!!」

カズマのうんち塗れの羽衣を首の周りにフワフワ漂わせるアクアを想像して堪えきれず。

「フハッ!」

私とめぐみんは嗤う。腹を抱えて絶倒した。

「フハハハハハハハハハハハッ!!!!」

騒がしい家族とそして漂う、うんちの匂い。
この先、隣国と戦争が勃発するかもしれない瀬戸際で、私たちは平和を満喫し哄笑する。

たとえ。そう、たとえカズマが新しい魔王としてこの国と敵対しようともついていこう。

「カズマと結婚して良かったです」
「ああ……私も心から、そう思う」

糞塗れの英雄の背中が愛しくて私は好きだ。


【この素晴らしい英雄に祝福(?)を!】


FIN

一応、補足です。
カズマとめぐみんの子供がかずみんとめぐま。
カズマとダクネスの子供がリリティーナとルルティーナです。
ちなみにカズマとアクアには子供はいません。

アクア様は恐らく歳を取らないと思うので、子供達が成長したらパーティーを組んで冒険に出かけるかも知れませんね。

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