『マフティーのやりかた、正しくないよ』
ギギ・アンダルシアの指摘が突き刺さる。
ハサウェイはその意味をずっと考えていた。
1年戦争、そしてシャアの反乱におけるアムロ・レイとシャア・アズナブルの主張の違い。
その中でハサウェイは得るべきものを得て、喪うべきものを喪った。
クェス・パラヤ。
奔放なギギ・アンダルシアの言動は、かつてハサウェイの目の前で死んだ彼女のことを彷彿とさせる。未だにその死に囚われていた。
しかしその経験は、ハサウェイを強くした。
もう二度と喪失しないよう、ハサウェイは慎重になり、用心深くなっていた。
それはある種、臆病にも思えるかもしれないが、成長とはそうした一面もあるのだ。
ハサウェイはもうあの頃とは違う。
女の尻を追っかけて、無許可でモビルスーツを駆り、そして目の前で凄惨な場面に遭遇するという愚行は犯さない。
ギギ・アンダルシアは危険だ。
彼女と接しているとハサウェイはあの頃の自分に戻りそうで怖かった。しかし良い女だ。
だが、良い女とは総じて異性を惹きつけるもので、ハサウェイにとって敵であるケネス・スレッグがすでに彼女の手に落ちた。
「僕はあの2人とは違うんだ……!」
アムロ・レイとシャア・アズナブル。
2人の確執の元となったララァ・スン。
男と男が戦う理由はいつの世も女なのだ。
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「ギギ、少し席を外すよ」
政府高官専用往復便、ハウンゼンのハイジャックの騒動の後、聴取のためにホテルへの滞在を余儀なくされたハサウェイはギギ・アンダルシアと同じ部屋で生活していた。
主人公特有のラッキー・スケベを発動したハサウェイはギギの生着替えを目撃してしまい、その際にやれやれ系主人公を気取ったところ反感を買ってしまった。やれやれだぜ。
怒ったギギが部屋に閉じこもり、気まずさに耐えきれなくなったハサウェイは戦略的撤退を決断し、ついでにテロリスト仲間との連絡を取ろうと外出するつもりだった。しかし。
「どこにいくの?」
どうぞお好きにと言われるかと思ったが、意外にもギギは反応を示して、少しだけ扉を開けてハサウェイを見つめてきた。かわいい。
「散歩だよ」
「マフティーとして?」
ギギは妙に勘が鋭く、ハサウェイの正体がマフティー本人であると早々に気付いていた。
もちろんそうだよとは言えずに否定をする。
「まさか。逆にマフティーがどんな散歩をするのか聞いてみたいところだね」
「マフティーならきっと、地球で暮らす人々の様子をその目で見たい筈よ。いくらスペースノイドに支持されたところで肝心の地球で暮らす市民の支持が得られなければただの道化だもの」
やれやれ。本当に勘が鋭い女は苦手だな。
「へえ、スペースノイドとアースノイドの価値観の違いか。でもそれば別にマフティーじゃくたって気になるだろう」
「住む世界が違えば、常識も違う。人は空間的な生き物だから、宇宙で暮らす人と地球で暮らす人は根底では分かり合えない」
達観したギギの物言いにハサウェイは苦笑しつつ、その主張に彼の顔を思い浮かべた。
「まるでシャア・アズナブルみたいなことを言うんだね」
「シャアは嫌い?」
シャアについて立ち話をする気にはなれず、適当にはぐらかそうかとも思ったが、またへそを曲げられても困るので少し話すことに。
「君がシャアにどんな憧れを抱いているのかは知らないけど、彼はとても脆い人だよ」
「あら、だから惹かれるんじゃない」
そうなのかもな。きっとそうなんだろうな。
「彼は強い言葉を掲げた。しかしそれはきっと脆さの裏返しなんだ。そのことをアムロ・レイは知っていて結果的にシャアは敗れた」
彼はジオン・ズム・ダイクンの後継者であって、独裁者たるザビ家の継承者ではないのだ。
「ギギ、君は言ったね。マフティーは『絶対に間違えない独裁政治』をするべきだと」
「ええ、それが何か?」
「アムロとシャアを知る僕にはそれが正しいとは思えない。たぶんマフティーもそう考えているんじゃないかな」
「そう……複雑なのね」
そう結論付けるとやや不満そうではあるもののギギは納得したらしい。男は複雑なのだ。
「というわけで、少し席を外すよ」
「私を置いていくの?」
話を切り上げて改めて外出しようとすると引き留められてしまった。大丈夫。手はある。
「仮に僕がマフティーだとしても、女性を連れて行けない場所はある」
「それはどんなところ?」
「たとえばトイレの中とか」
これはきっとスペースノイドとアースノイドの共通認識だろう。男性用トイレに女性は連れていけない。しかし、ギギはあっさりと。
「そこのプールでしたら?」
「ギギ!? なんてことを言うんだ!」
ハサウェイはみっともなく取り乱した。
それがあまりにも常識外れの提案だったからである。ついついおったまげてしまった。
「ハサウェイ、プールでしたことないの?」
まるで試すような物言い。挑発的である。
「あいにく、宇宙では水が貴重でね」
「そう。気持ちいいのに」
そう言って、ギギは部屋から出て羽織っていたバスローブを脱ぐと、水着姿となった。
透き通るような白い肌と金色の髪が眩しい。
そのまま部屋のベランダに備え付けられたプールへと向かって、腰まで水に浸かった。
水面に漂う金髪が陽光を反射して、キラキラとしたミノフスキー粒子が散布されている。
やがて、ブルリと身体を震わせたギギは。
「んっ……気持ち良かった」
恍惚な笑みを浮かべる彼女に正直、奮えた。
「ハサウェイもおいでよ」
手招きされると、無意識に身体が動いた。
ふらふらと夢遊病患者のような足取りでプールへと向かい、服を着たまま水に浸かった。
「服、濡れちゃったね」
「うん……そうだね」
「これじゃあ仲間と会えないね」
もしかして全てわかった上でやってるのか。
見透かしたようなギギに疑念を抱きながらも、ハサウェイはさほど警戒していない。
自分では用心深くなったつもりでも、良い女というのはそういう男にこそ強いのだ。
ハサウェイはそれを知りまた大人になった。
「君は本当に厄介な人だね」
「むーギギって呼んで」
「ギギ、僕を困らせないで」
「だって困った顔を見るのが好き」
そうか。それなら仕方ないな。困った人だ。
「僕もギギを困らせていいかい?」
「あら、マフティーに誘ってくれるの?」
昔のハサウェイなら。しかし、今は違う。
「今から脱糞してもいいかな」
「えっ……?」
ああ、ギギ。君はやはり、最高に良い女だ。
「ハサウェイ……?」
「話しかけないでくれるか。気が散る」
急に顔つきが変わったハサウェイ。それは戦闘空域にうっかり侵入してしまったブライト・ノヴァの如く、即座に指揮官の顔に切り替わっていた。左舷の弾幕が薄すぎるのだ。
「ハサウェイ、ここはプールで……」
「それが?」
「なんなら、私は先に上がってるから……」
「自分勝手な女は嫌いだな」
見るからに隠キャの癖にやたら強気なハサウェイを気圧されて、ギギは脱出の機運を失った。戦場では一瞬の判断ミスが命取りだ。
「ギギ、手を」
「え、ええ……これでいい?」
戸惑うギギの手を取り、落ち着かせる。
人と人がわかり合うのはたしかに難しい。
だからこそこうして互いに手を取り合い、相手の目を見つめて、言葉にならない思いを感じ取ることが大切なのだとハサウェイはアムロとシャアから教わった。
「ハサウェイ、本気なの?」
「他にやりかたがあるなら教えてくれ」
この間違いだらけの世界の中で、たったひとつの真実を見抜く困難から、解放されたい。
その一心でハサウェイは''穿肛''を決意した。
「ギギ、マフティーは間違っているかい?」
改めて、尋ねると彼女は静かに首を振り。
「ハサウェイが正しいと思うことをしたら」
ようやく答えを得た彼はしかし、躊躇する。
12年前なら即座に脱糞していただろう。
しかし、今は違う。ハサウェイは成長した。
彼は用心深く、そして臆病になった。
アムロ・レイ。シャア・アズナブル。
ミレイ・ノヴァ。ブライト・ノヴァ。
そして、クェス・パラヤ。
その人たちにどう顔向けすれば良いのか。
あなたたちが育てた若者は糞漏らしになりましたなど、笑えない。しかし彼女は嗤った。
「やっぱり男の人の困った顔が好き」
やれやれ。本当に困った女だ。だがしかし。
「それでも! 好きだと言ってくれるなら!」
歯を食いしばってでも、成し遂げてみせる。
男ならば。そこに女という理由があるなら。
その時、ハサウェイ・ノヴァは声を聞いた。
『身構えている時はなかなか出ないものだ』
アムロ・レイの声に思わず目頭が熱くなる。
「言われなくても!!」
手のかかる子供のままだと思われないよう。
それが、生き残った者の務めだと信じて。
ハサウェイ・ノヴァは、尻穴を''穿肛"した。
ぶりゅっ!
「フハッ!」
声が聞こえた。
耳朶を打つのは愉悦。
ギギ・アンダルシアの声だろうか。
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
いや、違う。これはシャアの声か。
あのロリコン。いい加減成仏してくれ。
大佐連中はロリコンが多くて困る。
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!
気づくと、ハサウェイも嗤っていた。
サイコミュで増幅された思念は地球圏を飛び出し、宇宙まで到達し、虹を作った。
このまま自らの推進力によってΞガンダムを素手で確保出来るのではないかと思えた。
ガンダムさえあればハサウェイは無敵だ。
あれさえ手に入れば、連邦の新型のペロペロガンダムなど敵ではない。舐めプ可能だ。
ペロペロガンダムをペロペロ舐めプしよう。
おっと、いけない。
戦場で過信は禁物だ。
危うく小説版のようになるとこだった。
「ふぅ……おや、これは……?」
我を取り戻したハサウェイは水面にぷかぷか浮かぶ自分の糞を発見した。汚いな、もう。
しかしその汚さも彼が大人になった証拠であり、きっとアムロ・レイやシャア・アズナブルも戦闘時に何度も漏らしていて、帰投後はオムツがパンパンになっていたに違いない。
「ギギ、これが僕のやりかただよ」
水面に浮かぶ糞を避けつつ、キリッとした顔でそう締め括るハサウェイは正直かなり残念だったが、アムロとシャアに影響を受けたブライトと思えばまあ仕方ないかなとギギは思った。
「自信を持ってよ。あなたにはニュータイプになれる星があるわ」
そんなギギの言葉にハサウェイは笑った。
ニュータイプなんて、幻想に過ぎない。
しかし、彼らが起こした奇跡は知っている。
「ニュータイプになれる星……か」
その素質が自分にないことは知っている。
しかしだからこそ、出来ることもある。
アムロやシャアとは違う、ハサウェイにしか出来ないやりかたで、彼は戦い続ける。
【穿肛のハサウェイ】
FIN
傑作と呼べる作品を観るとつい書きたくなってしまいまして。
閃光のハサウェイは素晴らしい出来栄えで鑑賞の価値ある作品だと思いますので、是非劇場でお楽しみください。
最後までお読みくださりありがとうございました!
すみません
ハサウェイの家名はノヴァではなくノアでした
ブライト・ノア、ミライ・ノア、ハサウェイ・ノアです
何故かノヴァになっていたので謹んで訂正します
ミライさんに至っては名前まで間違っておりました
確認不足で申し訳ありませんでした
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