【安価・コンマ中心】元奴隷の転生建国記 (92)

このスレは、未来の世界に転生した元奴隷の少年が国を造る、ファンタジーなスレッドとなります。
(やる気が残っていれば)再編集して、小説家になろうへも投稿する予定です。

重要になりそう、今後も頻出しそうな設定を纏めていますので、先にそちらから投稿していきます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1622378554

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・テラ(Terra)

我らが住む地球と似た風土を持つ惑星。
超常現象を司る物質「マナ」が存在する以外は、概ね地球と変わらない。
が、マナが存在することによって、気候や植生、生態系に大きな違いがある。


・人暦(H.C)

現在用いられている年号。
H.C001以前は神暦(G.C)が用いられていた。
本編開始時点ではH.C691。


・崩界(ワールズ・エンド)

世界を統治していた神々と、神々に反旗を翻した人類の戦争。
これによって古代文明ゴエティアは滅亡し、生き残った人類が神々に代わり世界を統治することになる。


・ゴエティア

崩界によって滅亡した古代文明及び超大国。
現代文明を遥かに凌駕した魔導技術が普及していたが、崩界の影響で全てが失われた。
人類に酷似したゴーレムを創造出来るほどの技術は今なお学者たちを魅了しているが、その領域に到達するにはまだまだ時間が掛かるようだ。

・ソロモン

ゴエティアを統治していた魔導王。
全国民から絶対的な信頼を得るほどのカリスマと驚異的な魔導技術を確立させた叡智を併せ持つ天才。
神離れ、人離れをさせるべく崩界を発生させた咎人であり、自身の命を以って、崩界を終結させた英雄である。
彼の魂は、安寧の中で眠っている。


・冥卿(ゴエティア・ロード)

別称「ソロモン72爵」。
崩界以前にテラを支配していたソロモン王から、地方の統治権を与えられていた72人の英雄のこと。
崩界の中で命を落としたが、その功績は語り継がれ、神格化され、魂は墓標の中で勇士の来訪を待つようになった。
彼らに認められた時、強大な力を得ることが出来る。


・聖遺物(アーティファクト)

ゴエティア時代の武器や機械、建造物の総称。
現代技術ではメカニズムすら解明出来ないので、なぜ動くかを知らないまま恩恵に与ることしか出来ない。
聖遺物の中でも特に、人を模したゴーレムのことをマキナと呼び、ゴエティアの遺構には無数のマキナが埋没している。


・死徒(ノスフェラトゥ)

瘴気に侵された生命体、死体の成れの果て。
光を極度に恐れ闇を異常に好む彼らは、夜や暗闇にのみ顕現する。
知性を有しているようで、個体の増殖のために動物や子供を拐う事件が頻発している。
共通する特徴は、黒い鉱物のような体表と、人の顔を彷彿させる腫瘍。
極稀に明確な自我を持った個体が出没するが、その個体の実力は通常の死徒よりも桁違いに大きく、異名を冠して指名手配されることが多い。

・人間(Human)

現在テラで最も繁栄している人種。
他種族に見られるような外見的、魔法的な特徴を持たず、人によって得意な魔法や身体能力などが全く異なる。
寿命は80年ほどで、20歳前後で成人、60歳付近で老齢期になる。
が、極一部の人間はマナの作用によるものなのか数百年と生きる場合がある。
どの種族にも言えることだが、異種族間の交配で誕生する子供の種族は、母親の種族に依存する。
そのため、自身の種の存続のために女性比率が高い。


・準人(Nearhuman)

通称「ニア」で、人間に動物の耳や尻尾を付け足したような姿が特徴的。
身体能力は筋力や瞬発力が発達しているため攻撃面では優秀だが、代わりに防御面での心配がやや見受けられる。
寿命は人間と全く変わらない。
母親が準人であれば、子供は一律準人となるが、どのような外見となるかは父親が誰かによって全く異なる、特殊な遺伝性を持つ。
そのため、準人の異父兄弟で外見が大きく違う、等ということは世界各地で散見されている。


・エルフ(Elf)

長く尖った耳と、ほぼ全員が美形に生まれるという特徴を持つ、非常に長命な人種。
森林深部でコミュニティを形成して生活する場合が多いので、協調性を重視する性格の人が多い。
自然、薬学に関する知識が豊富で、弓、風魔法が得意な傾向にある。
また、他種族に比べてマナの感知能力が高い。
寿命は300年ほどで、50歳前後で成人、250歳付近で老齢期になる。

・ドワーフ(Dwarf)

鉱山や洞窟といった場所に好んで居住する、小さな体躯が特徴的な人種。
鍛冶、採掘に関係する技術では他の追随を許さず、身体能力が高い。
大剣や斧、槌や大盾といった巨大な獲物を難なく扱う豪快な戦い方と大地魔法が得意な傾向にある。
寿命は50年ほどで、15歳前後で成人、40歳付近で老齢期とやや短命。


・アンゲルス(Angelus)

通称「天使」で、背中から生えた翼と、ヘイローと呼ばれる頭上の光輪が特徴的な人種。
穏やかな性格の人が多く、光魔法、支援魔法を得意とする傾向にある。
寿命は130年ほどで、20歳前後で成人になり、90歳付近で老齢期になる。


・イヴリース(Evelis)

通称「魔族」で、伝承に出てくる悪魔や世界各地に生息する魔物に近しい身体的特徴を持つ人種。
外見から残虐性を持つと誤解されがちだが、実際にはそこまで野蛮ではない。
しかし、その姿が偏見を生んでしまい、迫害を受けることがしばしばある。
闇魔法、妨害魔法を得意とする傾向にあり、寿命は200年ほど。
30歳前後で成人になり、180付近で老齢期になる、とかなり最盛期が長い種族。

・アルヴァ(Alva)

災害により天涯孤独となった少年。
何の力も持たない子供が生きるには、過酷な道を進むしかなかった。
誰にも存在することを望まれなかった少年は、遠い未来で何を想う。


・イレフテ(Elefte)

アルヴァが住む街。
ソロモン72爵「第八刃」バルバトスが統治している。
気候は温暖で雨が多く、農産物の栽培が盛んなため畜産も並行して行われている素朴な街だった。


・ヴォルフリア(Volflier)

H.C083に建国され、現代に至るまでに多数の国々を支配してきた国家。
世界を手中に収めるべく活動しており、現在は世界の半分ほどを支配下に置いている。
帝国主義ではあるが割と内部は平和であり、「協会」もしくは「ギルド」と呼ばれる冒険者組織も、ヴォルフリアを起点として世界各地に形成され、際限なく発生する問題の解決をしている。

設定テンプレートは以上。
面倒くさい方は、>>5-6だけ見ておけばとりあえずは大丈夫だと思います。
また、何度かこのサイトが長期停止しているみたいなので、もしもの時は創作発表板に移行する予定です。

そしてこちらがキャラ募集する際のテンプレートです。
自由に変形していただいて構いません。


【名前】どのような名前なのか。
【性別】男女どちらかなのか。
【人種】どのような種族か。
【年齢】何歳か。
【魔法】どんな魔法を得意とするか。
【得意武器】どんな武器を扱うか。
【説明】どのような人物なのか。

プロローグは大体が完成しておりますので、最後の仕上げとして安価を三点募集します。

1:主人公の(転生後の)名前
転生後でも同じ名前を使えるとは限りませんので、募集です。
一応貴族ポジションへの転生となりますので、ファーストネーム、ファミリーネーム両方が必要となります。

2:バルバトスについて
>>7のイレフテの統治者であるバルバトスは、今後も登場が決まっております。
色々なキャラクターをこちらで設定してしまうと多様性が無くなってしまうかも、と思ったので募集となります。
詳しくは下のテンプレートを参照。

【名前】バルバトス・なんちゃら、という名前限定
【性別】性別指定なし。
【人種】人種指定なし。
【年齢】最低16歳以上。
【魔法】魔法指定なし。
【得意武器】武器指定なし。
【説明】来歴は設定済みなので、外見や性格面のみ。

3:主人公をサポートしてくれるメイドor執事
貴族ポジションなので、一人は付いていた方が良いと思ったので。
詳しくは下のテンプレートを参照。
こちらは例外的に、双子だったり兄弟だったりなら一レスに複数キャラがいても大丈夫ですが、二人までです。

【名前】ファミリーネームの有無は指定なし。
【性別】性別指定なし。
【人種】人種指定なし。
【年齢】最低14歳以上。
【魔法】魔法指定なし。
【得意武器】武器指定なし。
【説明】来歴は設定済みなので、外見や性格面のみ。

募集範囲はここから3レスまで。
それまでに質問等があった場合はその分下に範囲がずれ込みます。
名前は最大コンマを採用で、バルバトスとメイド執事は後ほどコンマ判定を行います。
もちろん、荒らしと思しき安価は全て無効となりますので、ご了承をお願いします。

1.アルフレッド・アイギス

2
【名前】バルバトス・エネス・ガーディウス
【性別】男
【人種】準人
【年齢】21
【魔法】土魔法(大地を割る、岩石で貫くなどパワフルな方面に特化)
【得意武器】槍と大楯
【説明】銀髪赤目、褐色肌の筋骨隆々な偉丈夫、狼の尻尾と耳を持つ。
竹を割ったような豪胆な性格で細かい事は気にしない兄貴肌

3【名前】フィリス
【性別】女
【人種】エルフ
【年齢】14歳
【魔法】風魔法
【得意武器】短剣、弓
【説明】金髪碧眼で色白、貧乳だが美尻美脚
落ち着ているがどこか抜けている天然クール

1 ロードミラ・アルラウス

2
【名前】バルバトス・ラーバン
【性別】男
【人種】準人
【年齢】30
【魔法】炎魔法
【得意武器】斧
【説明】赤い長髪の髭面で筋肉質狼の耳と尻尾、豪快な親分肌だが、冷静な部分もある

3メイド
【名前】ヘカテルミナ
【性別】女性
【人種】人間
【年齢】15
【魔法】植物魔法
【得意武器】弓
【説明】緑色の髪を三つ編みにした小柄で華奢な少女 気弱で引っ込み思案な性格だがいざというときの芯は強い

1.ユリス・ファーレンハイト

3
【名前】キリカ(姉)/キリエ(妹)
【性別】女
【人種】アンゲルス
【年齢】17
【魔法】姉妹ともに回復・加護系の補助魔法が得意
戦闘用の光魔法も会得しており、姉のキリカは魔法で生成した剣を使った近接戦闘を、妹のキリエは光弾魔法で遠距離からサポートを得意とする
【得意武器】光魔法で生成した光輝く剣(キリカ)、特になし(キリエ)
【説明】主人公に仕える双子のメイド。基本的に純白のメイド服を着用。
鮮やかな金髪をポニーテールにしてやや厳しめの表情をして眼鏡をかけているのが姉のキリカ、腰まで届く長めのツインテールで穏やかな表情をしているのが姉のキリエ
厳しくも主想いで有事には体を張って主人を守り抜く意思の強さを持つ姉と、優しく主人をどこまでも甘やかしたいタイプの楽天家な妹
性格は正反対だが姉妹仲は良好だ

安価埋まっちゃいそうだったので返答を待たず1.3だけ書いちゃいました

>>16さん
大丈夫ですよ。
その際は、他の方の投稿を待ちます。

ですので、後はバルバトスの投稿を受けて締切となります。

2
【名前】バルバトス・ランド
【性別】女
【人種】ドワーフ
【年齢】16
【魔法】鉄魔法
【得意武器】大鉄槌
【説明】茶髪碧眼で120cm程の小柄な体躯の美少女
一見華奢に見えるが他のドワーフより力が強く、身の丈の倍以上ある鉄槌を軽々と振り回す
普段は穏健だが怒らせると異名の如く残酷に敵を殲滅する

ご協力ありがとうございます。
進めやすくするためにも、締切のタイミングを予め決めておいた方が良さそうですね。

では、判定で決めていきます。

↓1 バルバトス

1~3:>>13
4~6:>>14
7~9:>>18
0:十の位で再判定。00だったら追加で判定を行います。

↓2 メイドor執事

1~3:>>14
4~6:>>15
7~9:>>13
0:十の位で再判定。00だったら全員使います。

1:アルフレッド・アイギス

2:バルバトス・ランド(>>18)

3:キリカ(姉)/キリエ(妹)(>>15)

に決定いたしました。
安価に合わせて文章を調節しますが、夜遅いので20分以内に投稿が無ければ、夜に再開すると思ってください。

豊富、あるいは特殊なマナを持っていて平均より長生きすることがあるのってヒューマンだけですか?
直接本編には関係なさそうだけど、作るキャラに影響ありそうなのでよかったら教えてください

>>23さん
仰る通り、人間のみが該当します。
基本、不老不死状態になってる人間は魔法がとんでもないくらいに強いです。
ソロモン王はこの能力を持っていたので、外見年齢20代後半、実年齢200余年のお爺ちゃんでした。

お待たせいたしました。
本編スタートです。

また、設定に記載した寿命の0.9~1.1倍が、健康な人の内95%の人が死亡する確率となります。
もちろん、事故なり病気なりが原因だと、この範囲に収まらない年齢で死亡します。

G.C254 イレフテ 教会前


黒煙が上り、炎が踊る。爆発に地面が揺れ、空では無数の光芒が交差する。

のに。

(何も、聞こえ、ない)

耳を塞ぎたくなるほどの轟音が鳴っているのに、何も聞こえない。

身体も力が抜けていて、まるで深い海に溺れているようだ。

どくどくと脇腹から、生暖かい液体が流れている。生命がそこから、止め処なく溢れているように感じる。

(死ぬ、のか。俺は)

まだ死ねない。そう言葉を紡ぎつつ、少年は走馬灯を眺めていた。

G.C247 名もなき町


俺は、生まれることを誰にも望まれなかった存在だ。

母親に何があって生まれたのか、俺は知らない。なぜ、この町にいるのかも知らない。

だが、憎まれていたのは知っている。毎日のように、お前さえ産まれなければ、と言われていた。

俺は、ずっと一人だった。

朝起きた時には、母親は家にいない。夜にふらりと帰ってきたと思ったら、粗末な布団にそのまま潜り込んでいた。

その間、俺は町を練り歩き、残飯を漁っていた。罪悪感なんて無い。そうしなければ、生きられないから。

道を歩けば、徒党を組んだ近所の子供に石を投げられ、突き飛ばされた。少しすれば、どこかに行くが。

何をされても文句を言わない俺に、誰も関わろうとはしなくなった。

ここは、無価値な物の集まる町。万物の終着駅。価値なき物には、名前すら無い。

故に、俺にも価値は無かった。

故に、俺にも名前は無かった。

G.C247 名もなき町


ある日、近くの火山が噴火した。その規模は相当なもので、火砕流が周囲の村々を呑み込んだ。

それはこの町も例外ではなく。噴火からきっかり二十分。たったそれだけの時間で、町は死の熱風に包まれた。

噴火したことを知った母は、俺を連れて地下に逃げ込む。そこには、災害用のカプセルが一つだけあった。

その大きさを見て、俺を見て、自分を見て。母は血が出るほどに、唇を噛み締める。

自分の価値を、向けられる憎しみを知っている俺は、部屋を出ようとした。

その直後、俺はカプセルに押し込まれ、ハッチがロックされた。

最後に見た母の顔は、後悔に塗れていた。

なぜ、憎んで、憎んで、憎みきっていた俺を助けたのかは解らない。

もしかしたら、腹を痛めて産んだ子供に対して、ほんのちょっとだけ情を持っていたのかもしれない。

だが、俺にそれを知る手段は無かった。

災害の後に生きていたのはたった数人。

俺は、一つの十字架を背負わされた。それは、今までに持ったどの荷物よりも、重く感じた。

災害の生存者は、皆身寄りのない子供だった。そんな彼らを引き取ったのは、他の街の富者だった。

ある少女は男性に連れられ。ある少年は同年代の男に引きずられる。

俺は、不健康な太り方をした中年の男性に、連れて行かれた。

別に、奴隷として買われたことに恨みはなかった。遊びや教育と称して暴力を受けるのも、既に慣れていたから苦痛ではなかった。

ただ、ずっと気になっていた。

なぜ、俺は生きているのか。

なぜ、俺は救われたのか。

生まれて初めて、自身の価値に疑問を感じた。恨まれていた母に救われたなら、この命にも何か意味があるのではないか、と考えるようになった。

その意味を知るまで、死ねなくなった。

G.C252 イレフテ 屋敷併設ガレージ


商品の識別のために、と名前を戴いて五年。日常的な暴力を受け、業務であるマキナの整備をしていた。

ここからが始まりだと、そういう願望を込め、アルヴァと名付けた。何時間も辞書と睨めっこをして決めた名前だからか、不思議と愛着を持っていた。

「これでよし」

合成皮膚の裏側に隠された装甲を取り付け、マキナの肩を叩く。動かしてみろ、という意思表示だ。

腕を上下し、手を動かし、内蔵火器を露出させる。問題が解決したことを確認したマキナは頷いた。

「稼働良好。感謝します」

「ん」

マキナに心は無い。プログラムに従った行動だから、適当な相槌で返す。

マキナの整備に携わって二年だが、気分は悪くなかった。意外と、こういった地味な作業が身に合っているようだ。

工場での整備を観て目で盗み、話を聴いて耳で学び、実際に試して身体で覚える。その単純作業が心地良かった。

それに、前は一切読めなかった本を読むことが出来る。

読むだけの知識を得た、という意味でもあるし、それを手に入れられる環境にもなった、という意味でもある。

知らないことを知れる、パズルのピースを嵌め込んでいくようなことが何よりも新鮮だった。

(これからも、こんな生活が出来たらな)

いつしか、そんな淡い希望を抱いていた。

G.C252 イレフテ 屋敷内図書室


雇い主が避暑に興じている間、アルヴァたちは実質休暇と言ってもよい時間を過ごしていた。

各々の過ごし方は様々だが、皆暴力に苛まされないこのひとときを満喫し、心身を癒している。

その中で唯一、アルヴァのみが勉学に勤しんでいた。とは言っても、機械や魔導兵器の整備、つまりは仕事に関わるものについて、だが。

「…ふむ」

机の上で、分厚い参考書が山のように連なる。ほぼ丸一日、寝る間や食事に費やす時間も惜しんで本を読むアルヴァに、他の人は閉口していた。

「前、失礼いたします」

「どうぞ」

文面に目が釘付けなアルヴァは、聞こえた声に返事をする。その声の主に、意識は一切向けなかった。

が、気になった。こんな声の人は、この屋敷にはいないはずだからだ。

本を傾け、視線を目の前に移す。

「………」

そこでは、イレフテの支配者、ソロモン72爵の「第八刃」、ソロモン王より「天喰狼」の二つ名を戴いた才女である「バルバトス・ランド」が鉱物図鑑を読み耽っていた。

「えっと、その」

他の有力者と会った際の礼儀作法を多少なりとも叩き込まれてはいるが、まさかこの街のトップがこんな場所に、守衛すら付けずに来るとは思わなんだ。

適切な対応が分からなくなったアルヴァは、口をモゴモゴ、とさせながら視線を本に戻す。

それを見たバルバトスはクスリ、と微笑んだ。

「そう畏まる必要はありません。好きになさってくださいな」

そんな言葉で宥め、ページを捲る。彼女の顔は本に隠れて見えないが、機嫌を悪くはしていないようだ。

「なぜ、ここに?」

「ガルードの元に加わった人の顔を、この目で見ようと思いまして。漸く公務に一区切りが付きましたから」

恐る恐る訊ねると、バルバトスは目を動かしながら答えた。

その穏やかな声色は、不安を和らげ心を落ち着かせる。先程まで萎縮していたのが嘘のようだ。

緊張が解れ、また一つ参考書を読了したアルヴァは、本を置いた。

「………」

その時には既に、バルバトスが真横にいた。いつからいたのか、どうやって音を立てずに移動したのか、解らない。

人種によるものなのだろう。座ったままのアルヴァと、背筋を伸ばして立っているバルバトスの背丈は然程変わらない。

やや仰け反っているのを考慮すれば、立ってもなおバルバトスの方が小さく感じられる。

バルバトスは顔を近づけ、アルヴァの眼を見つめる。

エメラルドのような碧眼に、吃驚したアルヴァの顔が映っている。

「ふふ。なるほど。貴方と他の方の違いが解りましたわ」

「では、私はこれにて。今回のことは気にせずどうぞごゆっくり~」

満足したような顔のバルバトスは、そんな言葉を残して図書室を出て行った。

「…何がしたかったんだ?」

意図が理解出来ないアルヴァは、首を傾げて新しい本を開いた。

G.C254 イレフテ 教会前


数ヶ月前に勃発した神人間の戦争が、ついにイレフテまで巻き込んだ。

神々の眷属が世に放たれ、空を、大地を覆う。人ならざる獣が、命を貪っていた。

アルヴァらは車を使って移動していたが、同じ思考の人は大勢いるので当然、渋滞に巻き込まれる。

そして、足踏みしている民間人を狙って、眷属が襲い掛かった。

前方の車が爆散し、女性が龍に咥えられて空へと消えていった。害獣迎撃用の対空砲がマナの弾丸を連射するが、それは夜空へと溶けていく。

「ご主人様、いかがなさいますか?」

緊急事態でも、アルヴァは冷静に指示を待つ。

尤も、ここまで冷静なのは、過去の経験と教育の賜物なのだが。

与えられた指示の中では自発的に動くのが望ましいが、指示が無ければ一切行動しないのが、雇い主にとって都合の良い道具だったから。

余計なことをせず、意のままに操れる傀儡。それが、アルヴァたち。

だから、彼の行動は教育に従った正しいことだが、今回は間違いだったようだ。

「…申し訳ありません」

頬を打たれたアルヴァは、膝をついて首を垂れる。

「そんなこと言う暇があるなら逃げ道を確保しろ!マキナを全機起動するなり、お前たちが特攻するなり手段があるだろう!」

アルヴァの謝罪を聞いた雇い主は、矢継ぎ早にまくし立てた。

その答えは、今も最前線で、俺たちイレフテ市民を逃がすべく奮闘している、バルバトスを見捨てるものだった。

逃走行為自体は一概には間違いと言えないが、その動機が腐っている。

バルバトスの意志に応えるためではなく、自身の保身だけを考えているのだ。彼は、バルバトスの恩恵を何度も受けているというのに。

アルヴァには、この雇い主が嘗ての母に劣る畜生にしか見えなかった。

「承知いたしました」

だが、彼の命令は絶対。アルヴァたちは、それに応えるしかなかった。

車を乗り捨て、渋滞の間を縫う。雇い主ガルードの運搬は他の奴隷に任せて、アルヴァはハンドガンを片手に先導する。

教会内には、要人専用の地下通路があったはずだ、と記憶を頼りに進むが。

「buhtfrutfjhhqv」

「………っ!?」

ドアから溶け出るように、人の形をした影が姿を現した。その顔面、目に当たる部分からは赤い光が漏れ出ている。

「ruydkwklt」

「ご主人様!!」

ヒトガタが指でガルードを指し示す。その行為に危険を察知したアルヴァは間に立ちはだかり。

「づ…っぅ…!!!!」

ナニカに脇腹を抉られた。痛みを感じる前に撃鉄を引いていたが、ヒトガタには効果が無かったようだ。

「htht…htfkfkfkfkfk!!!!!」

まるで悪戯が成功した子供の笑い声のような音を響かせ、夜闇に溶けた。

「う…ぐぅ……」

出血の止まらない脇腹を押さえ、壁にもたれかかる。アルヴァは助けを求めようとしたが。

「化け物が消えた今がチャンスだ!道を開けっ!!!」

「ご主人…ざま…!?」

負傷したアルヴァを一瞥すらせず、ガルードたちは教会になだれ込んだ。

そしてその直後、断末魔の叫びが重なり、音が止んだ。

(皆、死んだ。あの時と同じだ)

護衛対象を喪ったアルヴァは、背中を壁に預け、地面へと崩れ落ちる。

神が奏でる狂騒曲(カプリチオ)は最高潮に達し、それに比例して街の破壊が加速する。

もう、生存など望めない。

それでも。

(俺は、生きたい。まだ、死ねない)

(生きてる理由を、俺は知りたい)

生にしがみ付き、執着していたアルヴァは、命を意地だけで繋ぎ止めていた。

爆音の発生源が少し離れてから一分。視界がぼやけて、眼前に何があるかさえ分からないまでに意識が朦朧としていた。

走馬灯の鑑賞を終えたアルヴァは、迫り来る死を必死に拒絶する。

だが、少しずつ、着実に、それは近づいていた。

べちゃり。

べちゃり。

べちゃり。

アルヴァは認識出来ていないが、水音が近づいている。

それは、死よりも早く、アルヴァの元に駆け寄っていた。

「…まだ、生きていますか?生きているなら、指を握って」

強い眼差しの碧眼が、目の前の少年を見つめる。もう死体にしか見えないが、まだ生きている。

だって、ほら。

「…頑張り屋さんですね。あの時見たのと、変わらない」

指を握ってくれた。まだ、命が鼓動を続けている。

血の滴る義手を、少年の肩に置く。右手のネックレスは、少年の手に握らせる。

少女は目を閉じ、立ち上がった。血を流しながら、一歩一歩、先に進む。

その姿が米粒のように小さくなった時、少年は念じた。

(死を拒む我は、何処へ行く(クオ・ヴァディス))

(明日を望む我は、光へ行こう(アドルチェム・ヴァディス))

言葉が終わると、世界が黒に包まれ、消えた。

H.C685 アニカ 別荘


木漏れ日の中で眠っていると、そよ風が頬を撫でる。風に踊る草の音が、爽やかで心地よい。

ゆっくりと目を開けたアルフレッドは、隣で寝ているキリエの肩を叩いた。

「んぅ…?」

「そろそろシャルスに帰る時間だ。起きろ」

「ふぁぁ~…。あたしが起こしたかったですぅ…」

キリエは寝惚け眼を擦り、大欠伸と背伸びをする。アルフレッドはそれを見て、言葉を返す。

「いつもは俺がやられる側だからな。仕返しだ」

土を払い、家族が待つ馬車に向かうアルフレッドを、小走りでキリエが追う。

「時間までに戻るって言ったのは誰ですか!?十分オーバーしてますよ!?」

そして、時間超過の件で二人仲良く、キリカに怒られた。

H.C685 シャルス 自室


不思議な気分だった。

つい先日、というか昼寝前までの記憶があるのに、数年単位で眠っていたようだ。

アルヴァ、イレフテ。聞き覚えのない名前なのに、懐かしく感じる。

どちらの記憶をすり合わせても、齟齬だらけなのに欠けたピースがぴったり嵌ったような感覚ばかり感じる。

(まるで、俺がアルヴァなのが確定事項のようだな。…予め言われてなければ、気が狂ってるよ)

あの時、直接脳に流れ込んだバルバトスの言葉を思い出す。

(「貴方の生への執着に惹かれた」。「だから、遠い未来へ貴方を魂を託す」)

(「違う自分がいても、怯えないで」。「それは、貴方が目醒めるまで、護ってくれていたもう一人の貴方だから)

「…はは。俄には信じがたいが、本当に俺は、生きてるのか」

「名前も、声も、変わっちまったが…」

カレンダーの年号を見ると、そこには「H.C685」と書かれている。

あの日は確か、「G.C254、3月9日」だった。

年号の相違等から考えると、700年ほど未来に飛ばされたようだ。

「…あの時、俺なんかを助けてくれて、ありがとうございます。バルバトス様」

「そして、ありがとう。アルフレッド。お前がいたから、俺は今、ここにいる」

独白に応えるように、机のペンが落ちた。

H.C688 シャルス アイギス家屋敷 居間


「アカデミー卒業後は、ゴエティア学を専攻したい、か」

「はい」

アルフレッドは、今後の進路について父「アルデム」と対談をしていた。

アイギス家は、アニカ王国首都「シャルス」に居を構える、中枢貴族の一家門だ。

父アルデムと母「エリシア」、二人で人材派遣会社を経営し、国内のインフラ整備に貢献している。

また、慈善家としても著名であり、私財を投げ打って奴隷を迎え入れ、制度上身分の変更は出来ないが、福利厚生で手厚いサポートを行い、社会活動を行えるよう尽力している。

その行いが、他の貴族の不満の原因だと気づいていないのは、優しさによるものか愚かさによるものか。

閑話休題。

アルフレッドが望むのは、古代文明「ゴエティア」の専攻だ。

嘗ての知識を利用するための手段にしたいがためだが、そこは敢えて伝えていない。

未だにほぼ全てが未解明の状態だから、その間に他者より優位に立ちたい、というのが本音なのだが、言えるわけがない。

「ふむ。…まぁ、君はゴエティアに関する本をよく買っていたからな。成績も申し分ない。いいだろう」

「ありがとうございます」

現代では然程重視されていないから、もっと現実的なものを学べ、と突っぱねられると思っていたが、どうやら日頃の行いが良かったようだ。

心底アルデムに感謝しながら、部屋を出た。

「いかがでしたか?」

「許可が降りた。これで、堂々とゴエティアの研究が出来る」

「おめでとうございますぅ!」

アルフレッドの報告を聞いたキリエは、アルフレッドの頭をよしよし、と撫でる。

呆れたような表情のアルフレッドは、キリカが文句を言いながらそれを止める光景を眺めていた。

「アルデム様なら首を横に振らないと思っていましたが、いざ話が通ったとなると、こみ上げてくるものがありますね」

「ご主人様はいっつも言ってましたもんね~。ゴエティアについて学びたいって」

「やがて、役に立つ時が来るからな」

どんな知識だって、役に立つ時が必ず来る。

それを知っているなら、尚更学ぶ必要がある。

あの時、アルヴァが目醒めた時から定めた目的のために。一歩ずつ、進まなければならない。

(奴隷の苦しみは、何百年経っても終わっていない)

(世界を変えるのは無理でも、俺の手が届く範囲であれば、きっと)

その手の届く範囲を広げるためなら、努力は一切惜しまない。

H.C691 3/14 シャルス アイギス家屋敷


ゴエティア専攻科を主席で卒業したアルフレッドは、両親が出張から戻ってくるのを待っていた。

年々年老いていく両親のことを考え、家督相続についての話を進める必要があるからだ。

しかし、その話が進むことはなかった。

「二人が、亡くなった?」

「はい…」

国防軍の連絡兵が告げる、突然の訃報。寝耳に水とはこのことか。

「シャルスに帰還中、土砂崩れに巻き込まれ…。遺体も発見されましたが、あまりにも惨たらしいお姿だったため…」

「…もう、いいです。言わなくても解ります」

「遺骨だけいただければそれで。あとはこちらで葬儀を執り行います」

「承知しました…」

申し訳なさそうな連絡兵を見送り、アルフレッドはため息を吐く。

正直、この事態を予想出来なかったわけではないが。まさか、本当に実行してくるとは。

「連中も形振り構ってられない、か」

アルフレッドは、あの時感じなかった悲しみを、感じていた。

「アルデム様とエリシア様が…!?」

「ああ。土砂崩れで亡くなったと言っていたが、ありゃ嘘だ。…嘘の暴きようがないけどな」

そも、二人が出張した場所とシャルスの距離は、片道四日を要する。

二人が出張先を発つのが3月13日。今日は3月14日。

普通に考えれば、まだ災害の情報等が来るはずもないし、遺体の確認が出来るはずもない。

貴族連中にとって、アイギス家は目の上のたんこぶだ。

酷使すれば更に利益を得られる奴隷を丁重に扱い、世論操作の妨げとなっている。その状態が何年も続けば、嫌になるだろう。

彼らにとって、今が千載一遇の好機だったのだ。

家督相続の話は進んでおらず、都合よく当主とその妻が首都から離れた場所に赴く。

ここで二人を始末してしまえば、当主のいない家門の資産差押え等は何とでもなる。

自分たちが狙われる可能性を考えていなかった両親にも問題があるが、あの優しさを考えれば仕方のないことだ。

悲しみに暮れる暇はない、とアルフレッドは貴族を出し抜くべく、思案を始めた。

「奴らが書状とかを準備する期間を考慮すれば…前々から準備していたと仮定すれば、明日にはここに来るか」

「会社はどうしますか?急いで家督相続をすれば、間に合うかもしれません」

「いや、会社は棄てる。最終的な運営権利がアニカ王国に帰属している以上、対処は無理だ」

「屋敷内の資産とアイギス家が個人所有している奴隷を連れて逃げる。家柄にしがみ付いて全て奪われたら、元も子もない」

「逃げるって、どこにですか!?」

声を荒らげるキリカに、アルフレッドは地図のある一点を指差す。

そこは、ヴォルフリア国境付近の山麓に広がる森林地帯だった。

H.C691 3/19 森林内仮説拠点


アイギス家が経営していた人材派遣会社には、多数の従業員を派遣するための物資と移動手段が存在している。

アルフレッドはそれを急ピッチで「拝借」し、奴隷たちと共にアニカを亡命した。

当然、奴隷も最初はアルフレッドに反発していた。

が、今後の貴族から受ける扱いと、アイギス家の子息であるアルフレッドから受ける扱いを天秤にかけ、まだまともな扱いを受ける可能性が高いアルフレッドを選んだ。

奴隷らが今までの活動で得たノウハウをフル活用し、凄まじいスピードでアニカ領土を離脱。

まだ人の手が及んでいない、大自然の中へと逃げ切ったのだった。

「さて、どうする」

「何も考えてないんですかご主人様!?????」

「いや、やることが多いからな。どれから手をつけようかと悩んでる」

この森林を開拓して安全を確保するのが、現時点での目標だ。

アルフレッドの本来の目的は、シャルスで資産や人材等を充分に確保してから、適当な場所で建国をし、奴隷制を廃すつもりだったのだが。

貴族連中が想像以上にやり手だったため、準備も終わってない状態で逃げ出すしかなかった。

「まあ、あのままシャルスにいたら全員碌な目に遭ってなかっただろうがな」

紆余曲折あって始まった自給自足の生活。

それを乗り越え、理想を実現させるために、古の人間が動き出す。

その先に、彼が望む未来があるのか。

それは、誰にも分からない。

以上がプロローグです。
本スレの終了条件はシステムは下に記載します。

終了条件:拠点の施設レベル合計が20を突破

衛生:どれだけ清潔な環境か。インフラ整備もここに入る。
防衛:死徒や盗賊、軍隊等にどれだけ対抗出来るか。つまりは戦力。
資金力:どれだけ金を生み出せるか。金は天下の回りものってね。
生産力:どれだけ物資を生産出来るか。資金力に影響を及ぼす。
貿易:どれだけ貿易が盛んか。良い物資を獲得するためだったり、他国との交流や交通の便も関係する。

おつ
地図とかあるん?

H.C691 3/26 森林内仮設拠点


ひとまず、必要最低限の施設の設立が完了した。

何よりも重要な、住居となるテント200棟、食事を配給するための炊事場。

そして、原始的な共用トイレ。

政策を執り行う役場や病気の治療に関わる病院等、足りない施設は山ほどある。

しかし、その問題を解決するには資金も物資も人材も何もかもが足りない。

資金の調達方法としては、変わらず人材派遣が利用出来るがそれも僅かな賃金しか貰えない。

運営が軌道に乗るまでは、地道に進むしかなさそうだ。

「あとは、遺構の発掘やダンジョンの調査が出来ればな」

ゴエティアの聖遺物さえ発掘出来れば、資金源として大いに利用出来るはずだ。

尤も、遺構もダンジョンも安全性は一切合切保証出来ない危険な場所だが。

「最悪は回避出来たが、未だに絶望的だよな。これ」

「ヴォルフリアの支援を受ける手段もありますから、諦めないでください」

「ヴォルフリアを利用するのは、まだまだ後だ」

国を建国するには、大国の力が必要だ。それまで、あまり力を借りたくない。

最悪を避けるためならば、背に腹は変えられないが。

>>47さん
ありません(小声)。
それっぽい大陸を描こうとしても全然駄目なんですよね。
絵描きさんは本当神さまみたいな存在です。

現時点での拠点情報はこちら


名無し拠点 資金:1000 人口:250

資金消費量:250


衛生:Lv.0(0/30)
防衛:Lv.0 (0/30)
資金力:Lv.0 (0/30) 資金+100
生産力:Lv.0 (0/30) 資金補正なし
貿易:Lv.0 (0/30)

今回はここまでとなります。
次回から本格的に安価を利用していきます。

次始めやすくするために、行動安価を出しておきます。

↓2 行動内容

1:建築(建物を建築し、設備を充実させます(要資金))
2:派遣(人員を派遣し、資金を得ます)
3:探索(遺構やダンジョンを探索し、成果を得ます(危険))
4:支援要請(他国の要人に支援を要請します(要拠点レベル))
5:交流(キャラクターと交流します)
6:エクストラ(上記に含まれない行動を行います)

追記:もし奴隷キャラ等を合間に投稿していただけたら、どこかのタイミングで出すかもしれません。
踏んでいたら安価下。

拠点内の休憩所に足を運び、貯水タンクの水をコップに移す。

それを机に置き、三人で卓を囲んだ。

「それで、話ってなんですか?」

きちっとした座り方で、こちらを真っ直ぐ見つめるキリカ。キリエは机に突っ伏し、顔だけをこちらに向けている。

「俺は指導者として未熟だろう?だから、至らない点をどう補っていくか、助言が欲しくてな」

その道をずっと進んできた両親と比べるのは失礼だが、二人と比べたら今の自分は未熟なことこの上ない。

未熟なのに数百人を一度に率いようとするのが、指示もままならない一因だとは思うが、他人の意見で解決することもあるはずだ。

しかし、返ってきた答えは、アルフレッドの意に反するものだった。

「ご主人様はまだ、家督相続の話すら受けてなかったんです。出来ないからと気に病む必要はありませんよ」

「貴方を支えるために、私たちがいるんです。それが、私たちの存在意義なんです」

「出来る限りはご自身でしていただきますが、一人では無理なことは遠慮なく、私たちに言ってください」

「あたしは、何でもしてあげますよぉ」

「キリエ。それだとご主人様のためにならないわ。…とにかく、貴方は一人ではないんです。存分に頼ってください」

「先代だって、二人で支え合いながら事を為していたのですから」

アルフレッドが望んでいたのは、苛烈なまでの叱咤激励だ。自分に足りないものが多すぎることを理解しているが故に、求めていた。

だが、それははっきりと否定された。

(一人じゃない、か)

アルヴァはずっと孤独だった。故に、何でも一人でやろうとしていた。

アルフレッドは孤独ではなかった。故に、頼れる人がいる。

(初めてかもな。他人に頼ってもいい、なんて思うのは)

そうか、と返事をしつつ、アルフレッドは自己の認識を見つめ直した。

指示を出していなくても、奴隷さんが自動で建設を頑張ってくれます。
そのため、各行動後に判定が発生します。

↓1から4まで 進捗が一桁コンマ×2分追加

数が多いので連投OKです。
踏んだコンマ判定は下ずらし。

コンマを反映した結果はこちらになります。

衛生:Lv.0(2/30)
防衛:Lv.0 (1/30)
生産:Lv.0 (4/30) 資金+100
貿易:Lv.0 (3/30)

また、ゾロ目時のボーナスは資金コスト踏み倒し&ターン経過無視の追加行動です(この時に限り、ターン経過時の資金減少や建築時の資金消費が起 発生しない)。

↓2まで 追加行動の内容 一レスにつき一つ

判定の補正を間違えてたので再掲。

衛生:Lv.0(4/30)
防衛:Lv.0 (2/30)
生産:Lv.0 (8/30) 資金+100
貿易:Lv.0 (6/30)

どのような施設を建築するかを募集します。
参考までにいくつか載せておきますが、それに該当しない施設ももちろん歓迎です。
その場合は、どのパラメータが上がるかこちらで判断します。

↓2まで 建築する施設 一レスにつき一つ



診療所:衛生強化
専門の人がいないため気休めにしかならないが、それでもあるだけマシ。

見張り塔:防衛強化
遠方より接近するものを素早く見つけられる。落下死注意。

畑:生産強化
野菜に穀物、果物と育てられるものは何でも育てて、腹の足しにしよう。

道路整備:貿易強化
付近の公道に繋がる粗末な道を作る。これで、少しは反応する人が出てくるはずだ。

部下を見送ったアルフレッドは、財布を片手に馬車を降りる。

未熟な自分が、こういった空き時間を無為に過ごすのはよくない筈だ。

時間とは、有限のリソースである。限りある時の中で研鑽を積む人は、いつでも大成したものだ。

それに、努力は外聞というものにも影響してくる。今は従う人も、ダラダラと自堕落な生活をする人が上にいれば、見限る時が来る。

そうならないように、努力を重ねることは重要だ。努力の積み重ねは、取引をする際にも良い方向に作用してくれる。

(ならば、今俺がするべきは)

そう脳内で結論付けたアルフレッドは、キリカたちに話を付ける。

「俺は少し買い物をしてくる。二人は好きにするといい」

「お供します」

「…こう言い換えよう。少しの間、一人にさせてくれ」

「私たちが居ては、都合が悪いと?」

「ただ本を買いに行くだけなのに、護衛されては気が休まらないよ。誘拐だとか襲撃だとかを警戒しているのなら、心配は要らない」

「俺の魔法が逃げに特化していること、二人は知っているだろう?」

「…まあ、仰る通りですが…」

「十分も有れば戻ってくる。何なら、キリカたちも少し息抜きをしてくるといい。根を詰め過ぎるのも良くないからな」

「ですが…」

アルフレッドの提案に逡巡するキリカ。だが、その提案に乗らざるを得なくなる。

「お姉ちゃん、行こ」

後ろからキリエが抱きつき、マーケットへ連れて行こうとしたのだ。

「キリエ?」

「ご主人様を困らせるのは良くないよぉ。ね、ご主人様?」

「ん?ああ」

別に困ってなどいないが、ここは素直に肯定した方が円滑に進みそうだ。

そう考えたアルフレッドは、キリエの言葉を首肯する。

「む…。…分かりました。分かったから抱きつくのをやめて、キリエ」

「はぁい」

ニコッ、と笑ったキリエは、キリカを解放した後に手を繋ぐ。苦笑しつつも、キリカはそれを受け入れた。

それを尻目に、アルフレッドは姿を消した。

H.C691 3/30 ガネート駅周辺マーケット 書店


午後一時。世間はほんの少し遅めの昼食に興じている時間帯。故に、人々がランチを求めてマーケットの人通りは多くなる。

その中で、がらんと空いた店が一つ。そこで腹が膨れることはないので、それが当たり前なのだろうが。

チリンチリン、と鈴の鳴る音が聞こえる。扉に備え付けてある防犯ベルの鳴った音だ。

「ふむ」

書店に入ったアルフレッドは、店内を一望する。

学問、分野別に本を納めた本棚が、人一人がやっとのことで通れる程の間隔で並んでいる。

会計エリアには、本日発刊された新聞が売り出されていた。その表紙には、都市の陥落を伝える速報がデカデカと書かれている。

「『カーナ』の陥落、か。ヴォルフリアの軍勢は、相も変わらず勇ましいものだな…」

アニカ王国に居た際に拝読した資料には、魔族(イヴリース)と天使(アンゲルス)が共存する、独立都市にして独立国家と記載されていた。

カーナという都市そのものが国家であり、それ以外の領地を持たず。不可侵にして不干渉の、完全に孤立していた国の筈だ。

(アヴフィ(反ヴォルフリア連盟(Anti-Volflier FEderation)にも参画していない珍しい国だったから覚えていたが。まさか…いや、だからこそ、か…)

ヴォルフリアと敵対する国のほぼ全てが、アヴフィに加盟している。我々がいたアニカも、その一つだ。

加盟していないのは、極東の小国『緋桜郷』とアニカ南西部に面した内陸国『トニトルス』くらいか。

トニトルスは数年前にアヴフィを脱退したのだが、それはまた別のお話。

(アヴフィに加盟していない以上、どこからの支援も受けることが出来ないんだ。そりゃ、陥とすに決まっているか)

ヴォルフリアはこれで領地を増やせたし、アヴフィはその脅威を喧伝して結束を固められる他、トニトルスを再度勧誘することが出来る。

それに、アルフレッドたちにも一応のメリットがある。

それは、カーナから逃散した難民を受け入れることで、労働力を増やせることだ。

尤も、同じ考えを持つ人は大勢いるので、諸外国から奴隷商人やら民兵組織やら隊商(キャラバン)が押し寄せているだろうが。

(それよりも、だ。俺は急いで知識を得なければ。時間は待っちゃくれない…)

目的の達成に意識を移し、アルフレッドは簡単な経済学の参考書を買い集めた。

一冊の参考書を読み終えたところで、キリカたちが戻ってくる。購入した物は麻袋に詰めているようだ。

「おかえり」

「只今戻りました」

「お土産ですよぉ」

キリエが何かを投擲したので、アルフレッドはそれを受け取る。

「これは、万年筆か」

特別な装飾は一切ない、シンプルで無骨なデザインのものだ。特にこだわりがないアルフレッドに配慮して、キリカたちが選んだようだ。

「消耗品は幾らあっても困らないからな。助かるよ」

「えへへ」

受け取って万年筆をポケットに収納し、感謝を述べる。それを聴いたキリエはにへら、と破顔した。

予定時刻を間近に控えたアルフレッドらは、馬車を牽引して待ち合わせ場所に向かう。

指定された場所には、待ってました、と言わんばかりの笑顔を浮かべた、ニアの少女たちがいた。

「約束の物資を手配いたしました、ディルシー商会のカンナですっ。ご贔屓にしていただきありがとうございますっ!」

にぱっ、と明るい笑顔を見せたカンナは、他の人に指示を出し、物資の積載をさせる。

アルフレッドと部下たちもそれを手伝い、手早く作業を終わらせた。

これは、その間に行われた二人の会話だ。

「脱脂粉乳に干し肉、それに大量の瓶詰め…。保存食ばかりだと、皆さんのやる気が下がりますよ?」

「冷蔵庫があるなら、生鮮食品も購入しますけどね。生憎、まだそこまでの余裕が無いんです」

「まだインフラ整備も出来ていないのに、魔導製品なんて買えませんよ」

「まぁ、冷却用のスフィアはちょっとお高いですしねぇ~」

木箱を抱え、二人は横並びに歩く。カンナは相槌を打ちうんうん、と頷くが、対するアルフレッドは表情を変えない。

「保存食ばかりでも、周りは森林です。木の実や果物、動物は沢山採れますから、味はまだマシですよ」

「ですねっ。ボクも、皆さんの活動を応援しますよっ!」

「それは有難い」

木箱を馬車に積み、カンナはサムズアップをする。

それに応えるように天気が変わり、大粒の雨が降り始めた。

「………」

「わーお」

「…どうするんですかご主人様。この雨じゃ馬は出せませんよ」

「凄い雨…。シャルスじゃここまでのは見たことないなぁ」

軒下で立ち往生するアルフレッドらは、女神の号泣が如き雨を眺め、動けずにいる。

雨は女神の慈悲であり、女神が齎す恵みである。だが、過剰投与された薬が身体を蝕むように、度を超えた降雨は、人々に害を成す。

彼らは、雨によって拠点に帰還する手段を失った。

せめてもの救いは、今が雨季でないため、それが長続きしないことだ。

「元々、一週間程度の猶予を設けて補給に来てるから、皆の食事自体は問題ない」

「だが、こうも土砂降りだとな。連絡を入れておきたいが、この雨では龍だろうと飛べまいよ」

空は黒に染まり、白い稲光がコントラストとなる。

ざあざあ、という雨の音と雷の爆音が、オーケストラのようにも感じる。それほど聴き心地の良い音ではないが。

「…仕方ない。雨が止むまで、宿屋に泊まるとするか」

現在取れる最善策を考え、馬車を厩舎に預ける。

そして、奴隷たちと共に安宿へ向かった。

H.C691 3/30 ガネート駅周辺マーケット


『大人数宿泊歓迎!』との謳い文句を掲げる安宿を見つけ、中に入る。良心的な価格設定を反映したような、少々寂れた内装の受付が目に入った。

「すみません、23人の宿泊は可能ですか?」

新聞を読んでいた受付の老人は、ああ、と答えて書類を見遣る。

「23人、だったか。今空いてる部屋の定員は、合計22名だからな…。一応、一つの部屋に詰めればどうにかなるとは思うが」

「そうしても、値段は変わらない。利便性が悪くなるが、構わないかな?」

ふむ、とアルフレッドは黙考する。アルフレッド自身、窮屈な思いをするのは前世のことで慣れているので、気にする必要もない事項だ。

問題は、同室にされる人たちだ。現在の男女比は当時よりも更に偏り、4:1ほどと圧倒的に女性が多くなっている。

ここまで偏れば、女尊男卑の世の中になりそうなものだが、そういった国家がある、とは聞いていない。

おそらく、『どちらかを優遇しても、種の存続には繋がらない』と、無意識のうちに理解しているのだろう。

どちらも存在しなければ、次代に託すことは出来ない。だからこそ、お互いに譲歩し、納得出来る条件を設ける。

数百年という長い時間を掛け、戦乱の時代を経て、漸く到達した今の均衡は、誰も崩そうと思わない筈だ。

そうすれば、今までの人類の努力や尽力が、水泡に帰すから。

閑話休題。

兎に角、異性である自分が、ましてや目上の立場で内心鬱陶しい存在であろう自分が同室にいるのは、彼女らにとって耐え難い苦痛となるだろう。

ならば。

「宿泊するのは22人でいいです。俺は適当に外を歩いて、暇を潰しますよ」

これが、一番良い選択の筈だ。自身に掛かる負荷は幾らでも耐えられるが、他の人はそうはいかない。

自分の忍耐力が異常なことは、自分自身が一番よく解っている。キリカも呆れていたから、尚更だ。

他の人全員が宿泊し、アルフレッドは一人で時間を潰す。その話で纏めようとしたその時、エトランゼが割り込んだ。

「それなら、ボクの家に泊まればいいじゃないですか。アルさんなら、変なことをする心配はないでしょうし」

「…いつからいたんですか?カンナさん」

「ついさっきです。ニアの耳、嘗めないでくださいっ」

カンナはぴこぴこ、と獣耳を動かし、聴覚の良さをアピールする。

彼女の提案は渡りに船だが、都合が良すぎて躊躇してしまう。

何せ、彼女にメリットが何一つ無いのだ。多少の金品を要求するくらいは出来るだろうが、そんなことをして心証を悪くしてしまえば、会社の損失になりかねない。

否、そういった思考をするのであれば、メリットはある。心証を良くすることで、財布の口を緩めることが出来るのだ。

押し売りであろうと、恩があればそこから利益を生み出すことが出来る。そう考えれば、彼女の考えは強かで、賢しい。

「…なーんか変に思ってません?ボクは別に、打算とかで動いてないですよ?」

ぷう、と口を膨らませるカンナは、怒ってますと言わんばかりのポーズを取る。

「まぁ、どう思うかもどうするかも、アルさんの自由です。このままじゃ皆風邪を引いちゃうので、早く決めてくださいっ」

「…いや。皆は絶対に宿泊出来るんだから、風邪は引かないでしょうに」

そんな返答をしつつ、思いもよらない提案にアルフレッドは頭を悩ませることになった。

↓1 行動内容(22:30以降のレスで判定)

1:お言葉に甘え、カンナの家に宿泊する。
2:キリカ&キリエ姉妹の部屋に宿泊する。
3:他の奴隷の部屋に宿泊する(非推奨)。
4:やっぱり一人で時間を潰す。
5:上記に該当しない案があれば。

経済のお勉強をしたため、拠点帰還後から資金の獲得に5%の補正が掛かります。

また、以前行った追加建築の成果を↓2(こちらは時間指定なし)までのコンマで判定します。
生産、衛生の順番です。

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