「お兄ちゃんへのチョコなんか、桃子が軽々と手作りしてあげるんだから!」
そう言ったのはわずか一週間前
でも
目の前にあるのは、ゴチャゴチャになった食器に調理器具の類に
失敗したチョコの山……
なんでかなぁ……
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ミリマス桃子の簡単で短い話です
最初はいきなり豪華なのを作ろうとして
「あ、チョコの中にナッツが入ってるのがいいな」
「ビターな味にすれば桃子のこと、子ども扱いなんかしないよね」
「あれ?チョコの容器の大きさにナッツが入らない……」
「砕くと何が入ってるかわからないし……」
「ま、まだまだプランはあるんだから」
次はタルトを作ろうとして……
「ビスケットを砕いて型に入れるだけだよね」
「これを冷やして……」
「えぇーっ!なんでこんなにぼろぼろになっちゃってるの?!」
「コレじゃあ、開ける前にぽろぽろと零れてチョコだけになっちゃうよ!」
市販のタルトやスポンジも結局失敗して……
「うぅ……クリームを入れ過ぎたのか固まらないよ」
「こんなドロドロじゃあ、お兄ちゃんに見せられないよ……」
最後は……
「残った分だけでも溶かして、型を整えれば」
ガッ
「痛っ!」
そう、既にぐちゃぐちゃだったテーブルに湯せんしたチョコを置いたら傾いちゃって……
……床に全部こぼれちゃったんだよね
「うぅぅ……」
「うわぁぁぁぁんっ!!」
あまりのことに思わず泣いちゃったな
どうしようもなかったけど、嘘をつきたくなかったから最初に失敗したナッツ入りのを包んで
「せめて……想いは届いてほしいから」
ピッ
一番お気に入りのシールを張ってラッピングした
バレンタイン当日
誰かに見つかるとイヤだから、真っ先に事務所に入って……
お兄ちゃんの机は
「あ」
思わず口に出るぐらい驚いた
既に二、三個ほどチョコが置かれていたからだ
(一番乗りじゃないんだ……)
でも
コソッ
何か後ろめたい気分だったけど、チョコを後にして直ぐにその場から消えた
その日はバレンタイン当日だったので、市販のチョコに私たちのサインをつけた手渡しがあったぐらい……
昔から、こういうのって馬鹿みたいって思うし、貰う方だってわかってるはずなのになんでウキウキしながら来るんだろうって思ってた
でも
今年はなんとなくわかる
お腹の中がむずむずするぐらいに……
お昼に茜さんがカレーに、手渡し会で余ったチョコを入れてお兄ちゃんに渡していた
あんなのを億劫なく行動できるのって羨ましくて……ずるいと思った
このまま帰ってしまったら、あのチョコは誰からなのか気がつかれないままで終わって……
そう思っても動き出さない自分……
それがやるせなかった
私の本心を苦しめているモノから、早く解放されたかった……
(ホントに……言わなくちゃダメかな)
急に臆病になってくる
多分、いったらチョコを渡す。それだけでは終わらないはず……
勝手に気が付かれないのを怒って、謝らせて何か約束させて……
そして後で、自己嫌悪するんだろうな
そう考えていたらいつの間にか、最後のミーティングまで終わっていた
(まずい……)
朝は気が動転していたけど、それでも何とか大丈夫だろうと思った
でも、私の心がこんなにも脆かった
(なんで……こんな……)
(たかがチョコのために……)
タンタンタン
階段を駆け上がる
バタン
私の事など意に介さず、そのチョコはまだそこにあった
「はぁはぁ……んっ……ァ……」
ただし
「よぉ、お疲れ。桃子」
一番会いたいけど会いたくない人物と一緒……というか、それを手に持っていた
「どうして……どうしてお兄ちゃんがいるの……?」
私はわけのわからない振りをして聞き出す
まるで心理戦だった
「どうして……ってこのチョコの持ち主に会いに……な」
そう言って、チョコの箱を持ち上げる
「ふ……ふーん。お仕事もせずに暇なんだね」
……大丈夫。まだ気付いてないはず
「ははっ、これも仕事だからね」
「ここにあった、他のチョコはみんなから名前付きでもらっているのに」
へ……
今……
なんて……?
「これだけ名前がなかったからね」
「誰がくれたかわかる目印はついていたのに」
そう言って、シールを見せる
目の前がくらくらする
まるで幕府方の御紋が入った印籠を目にした、下級役人みたいになった気分だった
「そう……よ」
「それは桃子が作ったチョコだよ!!」
「でも、失敗しちゃったの!」
「あれだけ偉そうに言ってこんなのしかできなかったなんて言えないじゃない!」
「だから……隠していたのに……」
「どうしたいの……みんなに…見せびらかしたい……の?」グスッ
「ウチの桃子は普段あんなこと言ってるけど、こんな……チョコしかできないって……」グスッ
最後の方はもう涙声だった
「桃子っ」
急にお兄ちゃんは抱き付いてきた
「すまない。桃子がそんな思いをしていたなんて全然気がつかなかった」
「てっきり、桃子が名無しでも自分の手作りって気付いて欲しいって言うと思って、ずっと黙っていた」
「だから桃子が来たときようやく……」
「うるさいよ、お兄ちゃん」
チュッ
私は自然と口付けをしていた
初めてのキスはチョコの味がした
「桃子……」
「うるさいって言ってるから……」
チュッ
再びキスする
「本命なんだから」
「う、うん……でも」
「まだ口応えをするんだ……んっ」
チュッ
完全に日が暮れるまで、10回以上はキスをしていた
………………
…………
……
桃子「はぁ、いくらキスのあと興奮したからって、えっちまでしちゃう?」
ミリP(以下P)「いやぁ、桃子が愛らしくて」
桃子「も、もう!」
P「さて、そろそろご飯が食べたいな」
桃子「はいはい……今、温め直すから待っててね」
「あなた」
P「で、このチョコは……」
桃子「あら?可愛い奥さんからのチョコはお気に召しませんでした?」
桃子「何しろ旦那様はプロデューサー様ですから、さぜかし……」
P「いや」
P「初めて桃子とキスしたときを思い出してな」
桃子「」
P「桃子……?」
桃子「~!~!(///)」
P「うわー!怒った怒った(棒)」
桃子「ま、まったく(///)」
桃子「あの時、どれだけヤキモキしたやら……」
P「そんな桃子と付き合って結婚して、子供が生まれて……」
P「幸せだよ。そして、残りの人生も幸せにしてみせるよ」
桃子「嬉しい……でも私も幸せにしてあげたいから」
P「桃子ぉぉ!」ガバッ
桃子「きゃっ!さっき、したばかり……やァ……だメェ……」
桃子「せめて……ベッドの中で……」
P「おけ」
おしまい
はい、以上になります
最初はチョコを作って来て、渡そうと思ったら他のアイドルがPに告白してOKを出しフラれた話を作ろうとしたのは内緒
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