男「行きつけのハンバーガー屋がハンバーガーの数を間違えるようになったんだが……」 (20)

俺はしがないフリーター。
バイト後にこのハンバーガー屋に寄って、ハンバーガーを買って帰るのが日課である。
小さいながら、大手チェーンよりも俺好みのハンバーガーを提供してくれる店なのだ。



ウイーン…

店員「いらっしゃいませー!」

男「ハンバーガー二つください。テイクアウトで」

店員「かしこまりました」

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店長「おいっ!」

店員「なんですか?」

店長「ポテトはもっとサッと揚げなきゃダメだろ、ボケ! なにやってんだ!」

店員「す、すみません」



男(いつも怒鳴られてるよなぁ……可哀想に)

男(よほど店長がキレやすいのか、店員が無能なのか、どっちだろう)

店員「ハンバーガー二つ、お待たせいたしました」

男「いつも大変だね」

店員「いえいえ」



などという会話を挟みつつ、俺は自分のアパートに戻った。

アパートに戻ると、俺はさっそくハンバーガーを食べる。



男「……」モグモグ

男(もう一つは冷蔵庫に入れておいて、後で温めて食べよう)

男(今日は彼女が遊びに来るからな。そうだ、部屋を軽く片付けておくか)



俺は散らばってる雑誌や漫画本の整理を始めた。

次の日、俺は昨日と同じくハンバーガー屋に来ていた。



男(あー……今日はヤケ食いしたい気分だ)

店員「いらっしゃいませ……」

男「ん? なんだか顔が青ざめてない?」

店員「え!? いえいえ、そんなことないですよ! ご注文は?」

男「ハンバーガー三つ。テイクアウトね」



ハンバーガーの入った袋が差し出される。俺は確認することなく店を出た。

アパートに戻り、袋を開ける。



男「あれ?」

男(ハンバーガーが……四つ入ってる)

男(レシートを見ても、三つしか買ってないことになってる。料金も三つ分しか払ってない)

男(こういう場合、本来は正直に戻しに行くべきなんだろうけど……めんどくせえ)

男(それと……今日のハンバーガー屋はなんか違和感あったような……なんだろ)



少ないのなら絶対クレームだが、多い分には儲けもの。
間違えた方が悪いのだと、俺はハンバーガーを四つとも平らげた。
三つ食べて残り一つは冷蔵庫パターンでもよかったが、今日はそれをする気にはならなかった。

次の日、ハンバーガー屋に寄る。



店員「ご注文は?」

男「ハンバーガー一つ」



昨日四つも食べたので、今日は一つでいいやという判断だった。

ところが、アパートに戻って袋を開けると、



男「……あれ?」

男(また一つ多い。一つしか頼んでないのに、二つ入ってる)

男「……」モグモグ

男(味もいつもに比べて劣ってるような……昨日もそうだったけど)



それとこの時、俺はハンバーガー屋で抱いていた違和感の正体に気づいた。

店長の怒鳴り声がなかったのだ――

翌日、ハンバーガー屋に寄る。



男「ポテトください」



ポテトしか頼んでない。頼んでないはずなのに――



男「ハンバーガーが一つ入ってる! どうなってんだ、これ……」

次の日、ハンバーガー屋に寄る。



男「ハンバーガー一つ」

店員「かしこまりました」



いつもなら、俺はろくに確認もせず、このまま袋を持って帰る。
だが、今日はその場で確認することにした。



男(やっぱり今日も……!)

男「あの……ハンバーガーが二つ入ってるんですけど。俺一つしか頼んでないですよね」

男「このところずっとこうだけど……なんで?」

店員「えぇと、これは……サービスです!」

男「サービス?」

店員「はい、サービス期間中でして!」

男「ドリンクサービスなら分かるけど、ハンバーガー一個サービスなんて、ずいぶん太っ腹なんだね」

店員「日頃の感謝の印ですよ~、アハハ」

男「ふうん……まぁいいけど。ところで、最近店長さん見ないね」

店員「店長ですか!? ええ、まあ、ここんとこ体調崩してて……おかげで大変ですよ……」

男「そうなんだ……」



深くは追及せず、俺は店を出た。

アパートに戻り、俺は二つのハンバーガーを見つめる。

この日、俺はハンバーガーを食べる気にはなれなかった。
なぜなら、俺の中で一連の出来事について、ある仮説――推理が完成しつつあったからだ。



男(あの店員はいつも店長に怒鳴られてた……。パワハラっていっていいぐらいに……)

男(ある日を境にハンバーガーをオマケしてくれるようになった……)

男(それと時を同じくして、消えた店長……)

男(オマケしてくれるようになってから、ハンバーグの味が変わった……)

男(オマケする理由……考えられるのは早く材料を使い切りたいから……)

男(間違いない……!)



推理が完成する。
俺は明日、この推理について直接あの店員と話すことに決めたのだった。

しかし、俺が再びあの店員と会うことはなかった――

次の日、朝のニュース番組にあのハンバーガー屋が映し出されていた。

見慣れた店舗の画像の横で、キャスターが淡々とニュースを読み上げる。



TV『ハンバーガーショップに勤めていたアルバイト店員が、とんだ騒動を起こしました』

男「え……」

TV『こちらのハンバーガーショップでは、冷凍された肉を冷凍庫に保管し、解凍して使うシステムになっているのですが――』

ニュースの内容は、次のようなものだった。

あのハンバーガー屋では、ハンバーガーに使う肉が冷凍保管されており、都度解凍して使う仕組みになっている。
使ってる冷凍庫はかなりの高性能で、冷凍してる限り肉の劣化はないそうだ。

しかし、店員は冷凍庫のコンセントを誤って引っこ抜いてしまい、しかもそれに長時間気付かなかった。
この結果、中の肉は全て解凍状態になってしまったのだ。

当然、こうなれば再冷凍したところで新鮮さは損なわれるし、味も落ちる。
店員はすみやかにミスを報告し、肉を全て廃棄すべきだった。

だがミスが明るみになり怒られるのを恐れた店員は、店長がちょうど体調不良で休むのをいいことに、
「鬼の居ぬ間になんとか全部使い切ってしまおう」としたのだった。

そこであのオマケである。
ハンバーガーを余分に客に渡し、とっとと肉を使いきってしまう作戦に出たのだ。

ところが、企みはあっけなくバレた。

俺以外にも味に違和感を抱いた客がおり、その客の指摘がきっかけで、店員のやらかしが判明したのだ。

よほど店長がキレやすいのか、店員が無能なのか、どっちだろう。
後者だったんだな、と俺は思った。

この結末は俺にとって本当に残念であった。

男(あーあ、彼が俺の推理通りのことをやってれば……)

男(“店長を殺してしまい、その肉をハンバーガーにして売る”ということをやっていたら……)

男(彼にこの推理を突きつけ、“これ”の処理もお願いしようと思ってたのに……)



俺はため息をつきながら、冷蔵庫を開ける。

そこにはこの部屋で俺に別れ話を切り出し、俺に殺された彼女の死体が、恨めしそうに眠っていた。





―終―

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