【スクスタSS】あなた「灯台守」 (156)

前作
あなた「空の女王」109レス目より派生
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606638949

*留意事項:前作の時点でそうでしたが、エースコンバット7スカイズ・アンノウンのネタが多数にぶっこまれております。
*Liella!メンバーが結構出てきますが口調とか割と想像で書いてるのは見逃して
*アニガサキにおるやんけっぽい人がいてもスクスタ時空なのです

1/火の消えた灯台

歩夢「届いて…届いてよ…!」

かすみ「先輩……聞こえますか…先輩…」

しずく「こっちを見てください! 先輩…!」

愛「ダメだよ、帰ってきて……ダメだよぉ……」

果林「もう離さないからっ…お願い、お姉さんの方へ…ね?」

栞子「もう、あなたを一人にはしませんっ…だから……!」

せつ菜「聞こえてますか…この声が…届いて…」

エマ「あなたはそこにいていい人じゃない、そこにいては…!」

璃奈「諦めないよ、何度だって呼びかける…だから届いて…!」

彼方「それは自分が生み出した幻だよ、存在しないもの、だから…!」

ランジュ「私の事をずっと嫌いだって思ってても構わない、だけど、あなたは皆に必要な人なの! だから!」

歩夢「そんな…なんで…」

歩夢「う…うわぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」

せつ菜(彼女は、自ら生み出してしまった悪意の海に飲み込まれて、そしてそのまま沈んでいった。私たちの呼びかけも空しく、光を失った瞳しか残らなかった)

せつ菜(泣き崩れながら彼女を抱きしめる歩夢さんにも、彼女の光を無くした瞳は動くことなく、彼女は、人を壊そうとしたもので自らの心を壊してしまったのだ)

せつ菜(愛さんやかすみさんのように歩夢さん同様に泣き崩れるもの)

せつ菜(果林さんや彼方さんのように俯いて必死に涙をこらえるもの)

せつ菜(エマさんやしずくさん、璃奈さんのようにそれでもあきらめずに彼女に呼びかけ続けるもの)

せつ菜(言葉を失い、放心するしかなかった栞子さんやランジュさん)

せつ菜(そして私はどうしたのか覚えていなかった、だけどこの日)

せつ菜(私たちは、大切な人の心を、失ってしまった)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1609557574


音ノ木坂学院 部室

穂乃果「話して、くれるよね?」

せつ菜(その次の日の放課後。音ノ木坂学院に来るように言われた私たちに、μ’sとAqoursメンバーの視線が突き刺さった。私たちは、どう説明するかも、思いついていなかった)

かすみ「はい…」

せつ菜(かすみさんは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した)

せつ菜(彼女による虹ヶ咲学園救済計画と、それに手を貸した事。そしてそれがうまくいくはずもない事に気づいていた事、彼女の手によってランジュが改心していたから、それ以上何かをする必要性がなくなっていた事、合同ライブを彼女が押していた理由はランジュを壊す事にあったこと)

せつ菜(その、全てを話した。そして、その末路についても)

にこ「…そう」

にこ「とんだ、大バカだわ」

せつ菜(にこさんは顔を覆い、そしてそれ以上口を開こうとしなかった)

せつ菜(怒鳴る事もせず、ただ無言で、手で顔を覆ったまま部長の席に力なく座りこんだ。その手の隙間から雫が漏れていても、嗚咽を挙げる事だけはしなかったのは、彼女の精一杯のプライドだったのだろう)

せつ菜(にこさんにとって、彼女はいわば盟友だと思っていた存在だった。そんな彼女がもう少しで自分たちのステージをも壊そうとしていた狂気に墜ちてしまった。その最悪の事態こそ避けられたが、その代償の大きさは堪えたのだろう)

せつ菜(だが……私たちは、突き付けられた)

穂乃果「……そうなんだ…それで」

せつ菜(穂乃果さんが口を開いたのはそんな時だった。ぞっとするほど、冷たい声で)

海未「穂乃果?」

穂乃果「あの子の悪い気持ちもろとも自分自身を壊してしまいました、めでたしめでたし。冗談じゃない!!!」

穂乃果「かすみちゃんが止めていれば気づけた、彼方ちゃんが一声挟んでいれば気づけた、愛ちゃんや果林ちゃんがもっと踏み込んでいれば止められた、何より! 誰かが! もう少しでも踏み込んでいれば!」

穂乃果「私たちの友達は……自分の心を焼き尽くすまでに壊れちゃう事なんてなかった!」

穂乃果「君たちのせいだよ!? わかってるの!?」

せつ菜(涙をこぼしながら怒りに震える穂乃果さんは、私たちを恨みを込めた眼で見ていた)


音ノ木坂学院 部室

穂乃果「話して、くれるよね?」

せつ菜(その次の日の放課後。音ノ木坂学院に来るように言われた私たちに、μ’sとAqoursメンバーの視線が突き刺さった。私たちは、どう説明するかも、思いついていなかった)

かすみ「はい…」

せつ菜(かすみさんは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した)

せつ菜(彼女による虹ヶ咲学園救済計画と、それに手を貸した事。そしてそれがうまくいくはずもない事に気づいていた事、彼女の手によってランジュが改心していたから、それ以上何かをする必要性がなくなっていた事、合同ライブを彼女が押していた理由はランジュを壊す事にあったこと)

せつ菜(その、全てを話した。そして、その末路についても)

にこ「…そう」

にこ「とんだ、大バカだわ」

せつ菜(にこさんは顔を覆い、そしてそれ以上口を開こうとしなかった)

せつ菜(怒鳴る事もせず、ただ無言で、手で顔を覆ったまま部長の席に力なく座りこんだ。その手の隙間から雫が漏れていても、嗚咽を挙げる事だけはしなかったのは、彼女の精一杯のプライドだったのだろう)

せつ菜(にこさんにとって、彼女はいわば盟友だと思っていた存在だった。そんな彼女がもう少しで自分たちのステージをも壊そうとしていた狂気に墜ちてしまった。その最悪の事態こそ避けられたが、その代償の大きさは堪えたのだろう)

せつ菜(だが……私たちは、突き付けられた)

穂乃果「……そうなんだ…それで」

せつ菜(穂乃果さんが口を開いたのはそんな時だった。ぞっとするほど、冷たい声で)

海未「穂乃果?」

穂乃果「あの子の悪い気持ちもろとも自分自身を壊してしまいました、めでたしめでたし。冗談じゃない!!!」

穂乃果「かすみちゃんが止めていれば気づけた、彼方ちゃんが一声挟んでいれば気づけた、愛ちゃんや果林ちゃんがもっと踏み込んでいれば止められた、何より! 誰かが! もう少しでも踏み込んでいれば!」

穂乃果「私たちの友達は……自分の心を焼き尽くすまでに壊れちゃう事なんてなかった!」

穂乃果「君たちのせいだよ!? わかってるの!?」

せつ菜(涙をこぼしながら怒りに震える穂乃果さんは、私たちを恨みを込めた眼で見ていた)

花陽「…かすみちゃん」

花陽「心の奥底から、かすみちゃんを軽蔑するよ」

せつ菜(次は、花陽さんの静かな怒りが、部屋を支配した)

花陽「間違っていると分かっていても、止められなかった。確かに、かすみちゃん一人なら。でも」

花陽「だけどその時に、話を終えたら電話をかける事も出来たんじゃないかなぁ?」

花陽「璃奈ちゃんとか」

花陽「エマさんでも」

花陽「絵里ちゃんでも」

花陽「千歌さんでもいいね。誰にでも、電話の一つでもLINEでも良かったね。『先輩がこんな事言ってます、かすみん手を貸すように頼まれましたけどどうしましょう?』ってね」

かすみ「……」

千歌「花陽ちゃん…」

梨子「千歌ちゃん」

せつ菜(何かを言いかけた千歌さんを梨子さんが止めて、花陽さんは続ける)

花陽「それでもかすみちゃんはそうしなかった。手を貸した。それぐらい、ランジュさんの事を怒ってた。でもその為にしずくちゃんや栞子ちゃんを傷つけた。梨子さんだって心配させた。その挙句、自分の良心に耐え切れないからあの子を止めようとして、で、御覧の有様」

花陽「本っっっっっっ当に、心の奥底から軽蔑するよ。もしかしたら、かすみちゃんが何もしなければ。こんな事にはならなかったんじゃない? 最悪の事態は避けられたね、だけど」

花陽「ランジュさんにスクールアイドルじゃないなんて言える資格、ないよ? かすみちゃん。ただの、カスでしかないよ」

かすみ「…………」俯き

花陽「彼方さんも」

花陽「卑怯だよね、とっても。見てただけ。最初から知ってた。あの子に向き合えないなら、なんでかすみちゃんに声をかけなかったの? そうすればかすみちゃんだって一人じゃなかったのにね」

花陽「それでいて、皆に言われて初めて『怖くて見てるだけしかなかった』だけど止めよう。そしてこの有様。あーあ、あの子は彼方さんも含めて、皆が大切で」

花陽「苦しい辛い悲しいって、散々に追い詰められて、それであんな事に手を染めたら。怖くて向き合えないなんて距離を置かれちゃった。いっちばん卑怯だよ。当事者意識ってものが何も感じられないよね、信じられない」

花陽「そんな人がどうこう言える? そんなに眺めていたいんなら、観客席に永遠に座ってればいいよ。そうしてれば目の前の悲劇に怯えて怖がってればいいんだけだもんね」

花陽「あの子が可哀相だよ。間違ってるって思ってても、後輩は止めてくれない。先輩はぼんやり眺めてるだけ。傍にいる同級生は助けを求めてるから弱音を吐けない」

花陽「彼方さん、恥ってものあるの?」

せつ菜(だが…それだけではなかった)

バシィッ!

ランジュ「……」俯き

鞠莉「……人を壊した気分はどう?」

せつ菜(鞠莉さんが、冷たい声を出していた。だが、その中で穂乃果さん同様の怒りを見せていた)

鞠莉「どうって聞いてるの!」

果南「鞠莉」

鞠莉「…ごめん。けど、正直。それぐらい怒ってる。あの子は…」

鞠莉「虹ヶ咲学園だけじゃない、色んな人にとって大切な…スクールアイドルフェスティバルだって…」

鞠莉「果林、愛、栞子、しずくも」

鞠莉「あなた達が軽率な事をしなければ、もう少しマシだったかも知れない。けど、後の祭り」

鞠莉「かすみが手を貸さなかったら、彼方が傍観しなかったら、せつ菜も、璃奈も、エマも…歩夢も。もう少しあの子に寄り添う事が出来れば」

鞠莉「こんなことにはならなかった。にこっちの言う通り、あの子に頼り過ぎてた。だからこうなったのよ。お陰で…お陰で…」

鞠莉「私たちにとっても…大事な人を失ったのよ…!」

鞠莉「返してよ……!」ガシッ

果南「鞠莉!」

鞠莉「返してよ! 返してよぉ……!」

鞠莉「あの子は……大事な人なのよぉっ……なんでこんな事に…!!!」

鞠莉「あんなひどい事をしようとしていた? 違う、そんな事を決意させるまで傷つけてしまった、傷つけられてしまった! 狂い果ててしまった! そうしたのはあなた達でしょう!? なんでなのよぉ…どうしてぇ…どうしてぇっ!」

果南「もうやめて、鞠莉!」

千歌「鞠莉さん、落ち着いて!」

曜「鞠莉さん!」

鞠莉「なんで…なんでぇ……」ボロボロ

栞子「……すみません」

せつ菜(絞りだすように、鞠莉さんの前で頭を下げた三船さん)

栞子「私が…頼り過ぎてしまったんです…私が、ランジュの事で、部長に甘えて…それで、こんな事に…」

栞子「本当に……」

せつ菜(その時だった)

バシャァッ

栞子「あ……」ビチャビチャ

海未「ことり!」

ことり「今更甘えてましたごめんなさいって言われてもねぇ」空ペットボトル握り潰し

ことり「だって栞子ちゃんは、あの子が留学から帰ってくる前から真っ先に部に行ったでしょ?」

ことり「同好会に加わってから本当に大した時間もない間に、ね?」

ことり「散々あれだけ甘えて甘えてぜーんぶぜんぶあの子に背負わせちゃって。そもそも同好会に来る前からもそうしてたし」

栞子「……はい」

ことり「自分で卑怯だって思わないの?」

ことり「いくら先輩だから、いくら部長だから」

ことり「二か月だよ。二か月の時間だよ。きっとそれだけの時間を栞子ちゃんも含めた皆の為に色々色々色々頑張って頑張って頑張って」

ことり「それでやっと会えたらこの有様で、そんなあの子に対して何とかしてほしいって泣きついて」

ことり「それでいて自分は自分でランジュさんを注意する事もしない、部に来た他の子たちにも何も言わない」

ことり「花陽ちゃんには悪いけど、かすみちゃんはかすみちゃんなりに問題に向き合ってたよ?」

ことり「彼方さんはかすみちゃんに声をかけるのが良かったんじゃないかな。けどね、栞子ちゃんもだけど他の皆も」

ことり「ずいぶんずいぶんずーいぶん虫の良い事を考えててお陰でこれだもんねぇ」

ことり「そりゃあ穂乃果ちゃんも怒るよ。鞠莉さんだって悲しいよ」

ことり「少なくともことりは皆にものすっっっっっごく腹立ってるよ」

栞子「申し訳…」

果南「悪いけど、黙ってくれないかな」

栞子「……」俯き

果南「……今、拳を抑えるのに大変なんだよね」

果南「年下も含めて手を上げるなんて最低だって解ってるけど…」

果南「今すぐあなた達全員殴り倒したくて堪らないんだよ…!」

果南「……それとさ」

果南「なんでかすみ以外誰もしゃべらないの? 栞子以外頭下げた人いないの?」

せつ菜(怒りを必死に抑えるように、途切れ途切れながらも、果南さんはしっかりと私たちを見ていた)

果南「あの子が悪い事をしようとしていたのは認めるよ。それを企んだあの子が悪い、それは否定しない」

果南「だけどさ、そうなった原因君たち皆じゃん」

果南「…それなのにさ…なんで皆それぞれ、自分がこう悪かったとかも言わないのさ」

果南「栞子だけが頭下げてて、かすみだけが私たちに説明して」

果南「μ’sの皆にはすぐに相談して散々お世話になっておきながらさ、挙句これだよ? 部長が悪い事企んでのを見つけました、止めます。できませんでした。部長は廃人になりました」

果南「……ふざけてんの!? あんた達!?」

果南「あの子があんた達の為にどれだけ駆けずり回ったのさ!? それどころじゃない、μ’sや私たちの事も心配して、色々やってくれて、それでパワーアップの為に二か月留学してくるって言って」

果南「あの子をお帰りなさいって迎えるまでもなく同好会はバラバラでした、お願いしますって泣きついたらそりゃおかしくなるよ! 仮に私でもそうだ!!!」

果南「そうだよ、確かに、そんな悪い事企んだのはあの子自身だよ。だけど、そうなったのはあなた達に頼れなかったからだよ。私たちを巻き込んだのも、それだけ追い詰められておかしくなってたからそんな事もやろうとしたんだよ。正気だったら間違いなくそんな事しない!」

果南「あなた達、頼りなかったんだよ。色々ぶつけられるほど、強くないって思われてた」

果南「それでよく、あの子の仲間を名乗れるもんだよ」

果南「他の誰が言おうと」

果南「あの子は私たちの友達だって言える。でも、あなた達はそうなの? 今、そうだって言える? 胸張って言える?」

果南「…そうだね、言える人がいなくていいよ」

果南「いたら全力で殴り倒してるよ…!」

せつ菜(それ以上に、怖かったのは)

ルビィ「……なんで、そんな顔してるの」

せつ菜(嗚咽を漏らす鞠莉さんの隣で、冷たい目線をこちらに向け続けていた、ルビィさんだ)

ルビィ「歩夢さん」

せつ菜(ルビィさんの問いかけに、歩夢さんは答えない)

ルビィ「なんでも知ってるんじゃなかったの?」

ルビィ「果南さんが聞いた時に、なんで名乗り出なかったの? あなたはそうするべき人じゃないの?」

ダイヤ「ルビィ…やめなさい」

ルビィ「もっと踏み込めば、もっと早く気付けるはずじゃなかった? 最悪の事態は避けられた、そうだね。ルビィや穂乃果さんたちのステージが滅茶苦茶にならずに済んだよ」

ルビィ「でも、先輩の心は引き裂けた。引き裂いちゃった。自分の手でバーラバラ。ううん。そこまでにしちゃったのってだぁれ?」

ダイヤ「ルビィ! やめなさい!」

ルビィ「やだよ! 歩夢さん達が悪いんだよ、頼り切ったせいで―――――」

ダイヤ「ルビィ!」

ルビィ「っ……!」

ダイヤ「それ以上はやめなさい…!」

せつ菜(肩で息をして歯を食いしばりながら怒りを隠そうとしないルビィさんを強い口調で止めたダイヤさんだが、続いたその声は震えていた)

穂乃果「……そうだよ、ルビィちゃんの言う通りだよ……」

穂乃果「わかってるの……あの子をそんな風にしたのは、君たちだよ」

愛「………うん」

せつ菜(沈黙を破ったのは、愛さんだった)

愛「穂乃果も……心配して、くれてた…けど」

穂乃果「けどもクソもない」

愛「……ごめん。でも、部長さ――――――――」

穂乃果「愛ちゃんも愛ちゃんだよ」

穂乃果「肝心な時に傍に寄り添えないで、結局遠巻きにして見てた皆と一緒だよ! まだかすみちゃんの方が理解しようとしてたよ! まだ彼方ちゃんの方がわかってたよ!?」

穂乃果「それであの子の事を何がわかるっていうのさ、愛ちゃん!」

愛「……ごめん…」

穂乃果「同好会の皆を心配して穂乃果と話したかったのは分かる、けどさ。結局それでいて何もできてないじゃない」

海未「え……穂乃果、愛とその事を――――――」

千歌「穂乃果ちゃん…」

穂乃果「にこちゃんが正しかったよ。簡単に信じた穂乃果がバカだった。こっちにまで火の粉が飛んでいい迷惑だよ!」

穂乃果「愛ちゃんは人の事を心配する振りだけしてれば自分は楽しめばいいもんね。いいよねぇ、何も背負わなくていいって。だってそういうのをあの子が全部代わりにしてくれたんだもんさぁ? 少しは千歌ちゃんを見習ったらどうかな? ごめん、千歌ちゃんに迷惑だね」

穂乃果「愛ちゃんみたいなサイテーなのと一緒にしたら失礼だったよ」

海未「穂乃果……言葉が過ぎます。ルビィも…」

穂乃果「もう君たちの顔も見たくない」

海未「穂乃果!」

ガンッ!!!

穂乃果「聞こえなかったの!? 顔も見たくないって言ったよ!」

せつ菜(拳を机に叩きつけた、穂乃果さんの言葉に追われるように、私たちは部室を出るしかなかった)

せつ菜(閉じられた扉の向こうから、ルビィさんが堰を切ったように泣き始め、そしてその他にも何人か分の声が聞こえた。だけど、それが誰かまでは、私たちにはわからなかった)


穂乃果「……っ!」ドカッ

穂乃果「なんで……こんな事に…あんな子たちだなんて思わなかった…!」

ルビィ「ひっく…ひっく…」

穂乃果「ルビィちゃん…」

千歌「……」

千歌「……昨日。曜ちゃんと善子ちゃんは、東京に行くべきだって言った」

曜「!」

善子「千歌…」

千歌「鞠莉さんはダメだって言った。確かに、虹ヶ咲学園で起こった事。それに、下手に飛び火したら浦の星女学院が大変になる……だから、千歌は。浦の星を守る為に、距離を置いた」

海未「千歌、それは間違っていません。もちろん、曜や善子が間違ってるとも言えません」

海未「誰が間違ってるだなんて、とても…」

千歌「学校を守る為に、友達を見捨てた」

海未「そんな事…!」

穂乃果「…何が言いたいの、千歌ちゃん」

千歌「……穂乃果ちゃんは、昨日、愛ちゃんから電話を掛けられた。穂乃果ちゃんが」

絵里「た、確かにそうね。同好会の子たちも部に行った子と連絡は殆ど取ってないのに、穂乃果は、なんで愛と?」

千歌「それも何度も話してたはずだよね、あの様子だと。なんで、絵里さんがそれを知らなかったの?」

穂乃果「にこちゃんが怒るからだよ」

千歌「海未ちゃんも知らなかったのに?」

穂乃果「……」

ルビィ「虹ヶ咲学園の子たちが悪いんだよ、不用意に部に行ったりして、みーんな頼りっぱなしで…!」

花丸「そうずらか?」

花丸「人を呪わば、穴二つ。ランジュさん自身は先輩を恨む事はなかった。けど、先輩はそうじゃなかった。だから呪いが跳ね返ってきた。自業自得ずら」

ガンっ!

ルビィ「花丸ちゃん…今、なんて?」

ルビィ「幾ら花丸ちゃんでも、聞き捨てならないよ…?」

花陽「ずいぶん上から目線だねぇ、花丸ちゃん? もう一回言ってくれない?」

花丸「おら達は先輩が合同ライブの事をひたすら押して、それに巻き込まれただけ。お世話になった義理があるから、曜ちゃんや善子ちゃんが虹ヶ咲に助けに行きたいというのも理解できる。けど、千歌ちゃんや鞠莉さんがいうように、こっちにも守るべきものはあるずら」

ルビィ「花丸ちゃんには血も涙もないの!?」

花陽「そ、そうだよ! 凛ちゃん、何か言ってやってよ!」

凛「……かよちん。悪いけど、凛は千歌さんが正しいって思うかにゃ」

凛「凛ちゃん達は手を貸すことも手を貸さない事も、どっちの選択肢もあった。だから、虹ヶ咲の皆を責めることなんて凛ちゃん達には出来ない。友達として慰める事は出来てもね」

花陽「凛ちゃんっ! 私たちやルビィちゃん達のステージが滅茶苦茶になる所だったんだよ!?」

凛「でもそうならなかった。虹ヶ咲学園の皆のお陰でね」

穂乃果「だけど、あの子の心は壊された」

千歌「穂乃果ちゃん。虹ヶ咲学園の皆を糾弾できるの? 穂乃果ちゃんも、色々皆に喋るべきことがあったんじゃないの」

穂乃果「…うるさい」

千歌「穂乃果ちゃん」

穂乃果「うるさいって言ってるの! 離れてる千歌ちゃんや花丸ちゃんはいいよねぇ! 好きに言えるんだからさぁ!」

海未「ほ、穂乃果!」

千歌「…穂乃果ちゃん。失望したよ」

穂乃果「――――――――――!」

ルビィ「花丸ちゃん、もう一度言ってみてよ! 先輩が自分で壊しちゃったのは、どう転んでも!」

にこ「やめて…」

曜(驚くほど力のない、だがよく響く声が部屋の隅から響いた)

にこ「やめて…!」

曜(手で顔を覆ったまま、必死に溢れる感情を押し殺そうとしたにこさんの懸命の制止)

穂乃果・花陽・千歌・ルビィ・花丸「「「「「……!」」」」」

ダンッ

絵里「やめなさいって言ってるでしょ!?」

海未(絵里の怒声が響いた直後、にこが椅子から立ち上がりました)

にこ「……外の空気、吸ってくる…」

スタスタ

にこ「千歌、ごめん」ボソッ

ガチャリ

千歌「……千歌も、ちょっと出てくる」

バタン

海未(それを切っ掛けに、他からも花を摘みに行く、喉が渇いた、等の理由で部室から離れて)

海未(気が付けば、穂乃果と、私と、ダイヤ、そしてまだ嗚咽を漏らす鞠莉と、それを落ち着かせようとしている果南が残っていました)

ダイヤ「……すみません。ルビィが、取り乱して…」

穂乃果「……いいよ、ルビィちゃん、あの子の事、信じてたものね」

ダイヤ「実は言うと、私も……歩夢さん達にとても怒ってます。しかし……」

ダイヤ「凛さんの言うように、寄り添うべきだったのかも知れません」

海未「……ダイヤ」

海未「本来は虹ヶ咲の皆が寄り添うべきでした、当事者ですから。しかし、練習場所の件で絡んでしまった以上、私たちも当事者です」

海未「ですのでダイヤ、そこまで」

穂乃果「海未ちゃん」

海未「……穂乃果。千歌も言っていましたが、なぜ黙ってたのです」

穂乃果「にこちゃんが怒るからだよ。けど」

穂乃果「そうしてた穂乃果がバカだったよ」

海未(そう吐き捨てるように呟いた穂乃果は、まだ震えていた)

PiPiPi

鞠莉「私だわ…」

果南「鞠莉、出れる?」

鞠莉「大丈夫…」

鞠莉「Hi……え?」

鞠莉「……わかったわ。目くらましはすぐに用意する」

鞠莉「けど、それだとやはり調べられる。本当に安全な所に隠さないと…」

鞠莉「ええ、そうする。ひとまずこっちで隠しておく。チャオ」

鞠莉「…Fuck」

鞠莉「Fuck! Fuck! Fuck…Fuck!」

海未「どうしたのですか…」

鞠莉「汚い連中があの子にもう手出しをしようとしてやがった…! ごめん、私はすぐに戻るわ」

海未「なっ…!」

果南「鞠莉」

鞠莉「大丈夫。あの子は」

鞠莉「あんな事をしようとしても、あの子だけは私たちの大切な友達なのよ」

自販機前

善子「………ホットミルクティーで、いいのよね? 絵里…」

絵里「え、ええ…スパシーバ、善子」

善子「まさか四回連続当たりが出るとは……」

凛「ごちそう様にゃ」

曜「だね…」

善子「こんな時だけ、運が良いってのも不幸なのかしらね」

梨子「善子ちゃんだからね……」

梨子「凛ちゃん」

凛「……なにかにゃ?」

梨子「ありがとう、あの時。千歌ちゃんが正しいって言ってくれて。昨日、私本当は曜ちゃんや善子ちゃんの言うように、東京に行くべきだって思ってた」

凛「千歌さんは悪くないんだよ。曜さんや善子ちゃんもね」

凛「問題はあの子たち自身が抱えた事。花丸ちゃんの言うように、確かにこっちにまで飛び火した事ではあるけれど、それでも凛たちも、曜さんたちも、虹ヶ咲の皆の友達。最悪の事態は避けられた、だからこそ、友達として寄り添う事は出来ても、糾弾なんて出来ないよ」

曜「……距離もある私たちと違って、μ’sの皆は練習場所とかで、助けてあげてた。私たちに、出来る事なんて」

絵里「そう思ってもらえるだけで十分よ。けど……」

絵里「穂乃果……なんであんな事を」

善子「にこがランジュの事で怒ってたんでしょ? だから穂乃果も穂乃果で大きくしたくなかったんだと思う」

絵里「合同ライブの事、穂乃果も穂乃果でポジティブに賛成してたから…けど」

梨子「そのまま私たちが賛成してたらきっと……本当に」

絵里「ええ……」

凛「だから、虹ヶ咲の皆がそれだけは止めてくれた」

曜「……虹ヶ咲の皆、どうなるんだろう。あんなに責められちゃ…」

善子「だけどもう一度、飛んでもらうしかない」

善子「その背中に十字架を背負ってでも」

善子「そうでなきゃ、本当に花陽の言う通り。スクールアイドルだなんて名乗る資格はないわ」

音ノ木坂学院 屋上

千歌「……にこさん」

にこ「今…昨日のにこをすごく殴りたい気分」

にこ「曜や善子の言うように、昨日駆け付ければ良かったって」

千歌「にこさん……でも」

にこ「内浦からはだいぶ離れてても、音ノ木坂からならすぐに行けた。それに、にこは感情だけで『止められなければ絶交だ』なんて言ったわ。でも、千歌は…苦しんで、その決断をした」

にこ「そんな決断を、千歌にさせてしまった」

千歌「にこさん、千歌も……昨日の千歌にバカチカって言うべきだよ」

にこ「でも、花丸の言う通りよ。友情を選ぶのも大事だけど、学校を守る必要もあった。だから、間違ってたのはにこよ。鞠莉にそういうのを任せて、にこが行けばよかった」

にこ「穂乃果の事だってそうよ。愛の事、黙ってたのはにこがランジュの事で感情のままに怒鳴ったせいだった」

千歌「けど、μ’sの皆は虹ヶ咲の皆と練習する形で、助けた」

千歌「それでも昨日、私たちは見捨ててしまった……だから、凛ちゃんの言う通り。責める事なんて出来ないよ」

にこ「…そうよ、責める事なんて…できない…」

にこ「……にこは、お姉さんで、部長なんだから…」じわっ

千歌「千歌は末っ子だけど、部長なのだ。だから…にこさん」

千歌「私の背中で、好きなだけ泣いていいですよ…千歌も、泣いてる顔、見られたくないから」

にこ「…ごめん」ぎゅっ

にこ「うっ……うぅっ……うわああああああああああああああああぁぁぁぁん!!!!!」

にこ「どうしてあんなバカな事をぉっ…なんで言わなかったのよ、せめて…せめて弱音の一つでも…うぅあああああ…!」

千歌「っ…っくぅっ…!」ポロポロ

にこ「バカぁっ……大バカぁっ…! うわああ……!」

千歌(私の背中で泣きじゃくるにこさんのように、私の頬も濡れていった)

千歌(彼女が紡いだ私たちの絆、だが彼女自身が切っ掛けで、それは滅茶苦茶になった)

千歌(どちらの選択肢もあったのは事実だ、だが、その選択肢を間違えてしまったのは)

千歌(千歌たちも、だ――――)

穂乃果『愛ちゃんは人の事を心配する振りだけしてれば自分は楽しめばいいもんね』

穂乃果『いいよねぇ、何も背負わなくていいって。だってそういうのをあの子が全部代わりにしてくれたんだもんさぁ?』

果南『あなた達、頼りなかったんだよ。色々ぶつけられるほど、強くないって思われてた』

果南『あの子は私たちの友達だって言える。でも、あなた達はそうなの? 今、そうだって言える? 胸張って言える?』

ルビィ『でも、先輩の心は引き裂けた。引き裂いちゃった。自分の手でバーラバラ。ううん。そこまでにしちゃったのってだぁれ?』

愛「……言ってくれなかった…」

愛「部長さん…だって、愛さん達にも……穂乃果たちにだって……」

愛「ううん、違うんだ……」

愛「愛さん達のせいだよ……突き落としちゃったんだよ…そんなになるまで…」

愛(自室のベッドで、顔に枕を突っ込んでも。その言葉が消えない)

愛(かすみんだけに、全てをしゃべらせてしまった。しおってぃーだけに、罪悪感を押し付ける形だった)

愛「穂乃果だって、あんなに心配してくれたのに」

愛「裏切っちゃった……私たち、が」

愛「ごめんね……ごめんね……」

愛「部長さん…なんで、あんな事しちゃったの……?」

愛「私たちが悪かったよ、幾らでもごめんっていうから…」

愛「会いたいよ…また声を聴きたいよ…!」

愛「色々話して、色々笑ってほしくて……」

愛「うぁぁぁぁぁ……!」ボロボロ

愛(何度後悔しても、きっと何度眠っても)

愛(もう元に戻る事はない、そうして)

愛(私の世界から、色は枯れ果て、総てが灰色になった)

愛(楽しいの天才?)

愛(バカじゃないか、私は―――――――破壊のトリガーを引いただけじゃないか)

愛(踏みとどまっていた部長さんを、空の王国から突き落とした、張本人だ)

せつ菜(学園は変わった)

せつ菜(彼女はランジュを何とかする為に色々な工作をしていたが、そのうちの一つが裏目に出た、いや、きっと彼女もこうなるとは気づいていなかったのだろう)

せつ菜(別の資本に買収され、理事長であったランジュの母親は理事長を解任されて上層部が変わると、学園の空気もまるっと変わった)

せつ菜(勉学も部活も、それ以外の課外活動も成果が求められる成果至上主義―――伸びしろも、聖かもないものには見向きもされなくなった。虹ヶ咲学園の、自主性は摘み取られた)

せつ菜(虹が架かる王国はその色彩を失い、鳥たちは灰が降る大地から飛び立つことも出来ず、死を待つばかりになった)

せつ菜(追いかける灯し火を失った鳥たちは、空を飛ぶことができない。ただ、灯し火を待って灰に覆われていくだけ)

せつ菜(スクールアイドル同好会も、成果が求められた)

せつ菜(だが、導を失った私たちは何もできなかった。それに、ランジュの母親の息がかかっているとして栞子さんは生徒会長を更迭された。かすみさんの暴動騒ぎもあった為か、私が再任された)

せつ菜(私の精一杯の抵抗、それは生徒会役員を自分で選ぶ事で、ランジュさんを役員に入れる事だった。それからでも、日々生徒から上がる声は絶望的なものだった)

せつ菜(彼女はやり過ぎた。やりすぎたのだ)

せつ菜(そして、スクールアイドル同好会のみならず、彼女は虹ヶ咲学園の中でもあまりに大きな存在になってしまっていたのだ)

せつ菜(栞子さんやランジュさんの事は、学校中の部活を既に巻き込んでいたし、何より買収した企業群の子女であるBIG4の人たちもランジュさんの行為を苦々しく思っていたせいだった。そこを汚い大人である彼女たちの親に付け込まれたのだ。彼女たちも今やすっかり小さくなってしまった)

せつ菜(スクールアイドル同好会の部室には、エマさんと璃奈さん、しずくさんぐらいしか顔を出さない)

せつ菜(歩夢さんが不登校になったのをクラスメイトから聞いた。愛さんも顔を出さない、と璃奈さんからも聞いた)

せつ菜(果林さんも彼方さんもまた、すっかり塞ぎこんでいて、私たちも生徒会の仕事という言葉で、部室にも近寄りづらくなった)

せつ菜(頼り過ぎたツケ、とにこさんは言っていた。それはあまりに大きく、私たちは)

せつ菜(この灰が降る王国で、灯し火を待ち続けている)

スクールアイドル同好会 部室

しずく(部室の机の上に置かれた、二枚の退部届)

しずく(かすみさんと、栞子さんのもの)

しずく(もうステージに立てない、と悲しげに言っていたかすみさん。そしてランジュさんの事でことりさんに言われた事は、栞子さんにとってもショックだったに違いない)

しずく(それを見た瞬間、エマさんは膝から崩れ落ちて、声をあげて泣きじゃくった)

しずく(私も、涙が溢れそうだった。だけど…)

しずく(散々、泣いてきたんだ。もう、泣くもんか)

璃奈「しずくさん」

しずく「うん……続けよう」

しずく「皆が、帰ってこられるように。そして、先輩を迎えに行く為に」

璃奈「うん」

璃奈「歩夢さん言ってた。部長の、本当の願いは」

エマ「……うん」ずびっ

しずく・璃奈・エマ「「「仲良く、スクールアイドルが見たい」」」

璃奈(椅子の残りは、綺麗に十脚。でも、全部席は決まっている)

エマ(長く、一人で部室を守り続け来たかすみちゃんも、今はいない。だけど)

エマ(その代わりに、私たちが守り続けるのだ。この灯りを)

しずく(灰が降る王国。あの人たちも言っていた、スクールアイドルである私たちは、虹ヶ咲学園にとって大きな存在なのだ)

しずく(その為にも、この灯りを守らなくては)

璃奈(これは、小さな灯り。だけど、それでも…この灯りが誰かを勇気づけられるなら)

璃奈(その為に、私たちはいる)

しずく・璃奈・エマ(私たちは、スクールアイドルだ)


1/了

2/灰が降る王国にて


結ヶ丘女子 部室棟

かのん「もう二か月弱…」

かのん「どうしてまだアップされてないのよ! Liella!の雄姿は世界中に映るのよ! それなら結ヶ丘女子dのアピールにもなるのに!」

恋「いや、観客のエキストラじゃないですか…スペシャルサンクスに書かれるかも怪しいレベルですよ」

千砂都「1:予算が足りなかった」

千砂都「2:フィルムを回し過ぎてまだ編集が終わらない」

千砂都「3:かのんちゃんの完成予測が大外れ」

かのん「ぐぬぬ…千砂都の言い分も間違いじゃないように聞こえるけど」

可可「デスガ、この二ヶ月弱、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の活動の痕跡はなし。週一レベルであっぷサレテイタ動画、八週連続ナシ!」

すみれ「4:そもそも映画なんて撮ってなくてPVの撮影の口実に使われた」

恋「それは流石にないでしょうに」

すみれ「しかし、遅延しているとそう思いたくもなりますわ」

千砂都「5:実はどんな演技をするかのテストを頼まれていた」

かのん「だったら6:実は詐欺のサクラをやらされていた、でもつけよう!」

可可「アハハ、ソレハナイデショウ」

千砂都「だよねー」

かのん「待てよ、遥ちゃんは確か虹ヶ咲学園にお姉ちゃんがいた筈」

すみれ「そういえばそんな話を耳にしましたわね」

可可「一日一善、デス!」

恋「…善は急げ、もしくは思い立ったら吉日ですよ」

可可「へ? オモイタッタラ天下大吉? 黄巾賊デモ由来ナノデスカ?」

かのん「いや、吉しか合ってない」

PiPiPi

かのん「もしもし? 強敵と書いて」

遥『戦友と読む。どうしたの? かのんちゃん?』

かのん「実は少し話したい事があって……あの、虹ヶ咲学園のスクールアイドルを題材にした映画について、続報聞いてない?」

遥『そういえば私も聞いてない…お姉ちゃんに聞いてみるよ』

すみれ「遥さん、いいかしら?」

遥『すみれちゃん? どうしたのさ、横から』

すみれ「……この二か月弱というもの、虹ヶ咲学園のスクールアイドルは特に活動が見られてないようですの。何か妙では?」

遥『確かに…』

遥『私もお姉ちゃんからライブの話を全然聞かない』

遥『……ねぇ。今からいけない?』

かのん「…行こうか」

遥『行こう!』

恋(なんでしょう…妙な胸騒ぎが…)

虹ヶ咲学園 校門

かすみ(空が、遠い)

かすみ(授業が終わって、ほどなく帰路につく筈なのに、もう太陽は西に傾いている。陽が短くなってきていたのだ)

かすみ(一か月以上の時間が流れても、私に圧し掛かってきた罪は、薄れる気配はない)

かすみ(かよ子に言われた言葉が毎日のように突き刺さる。私は、スクールアイドルであるべきだったからこそ、あんな提案に乗るべきじゃなかった)

かすみ(どの口が愛先輩を裏切者だなんて言えるんだろう、冗談じゃない)

かすみ(皆を裏切っていたのは、狂う先輩の背中を味方になると押してしまい、空の王国から突き落としてしまった私だ)

かすみ(せつ菜先輩にクソザコナメクジなパンチだなんて言える立場でもなかった)

かすみ(ただ増え続ける未読のLINEメッセージ、いっそ辞めてしまおうかと思っても辞める勇気もわかず、ただ読まないでいるだけで溜まり続ける)

かすみ(いっそこのメッセージが重みをもつなら私を押しつぶして殺してくれたっていいのに)

かすみ(地獄の底までお供をするだなんて言って、結局私は地獄に落ちずに、この灰が降る王国の辺獄に一人立ち尽くして、後悔をするだけだ)

かすみ(ここに灯し火はない。導なんかない)

かすみ(ただ一人、立ち尽くし続けるだけだ)

かすみ「……ん?」

警備員「だから、目的をだな…」

「そうは言っても、親族が訪ねてきただけで…」

警備員「理由にならん、他校の生徒が勝手に入ってくる理由には」

遥「そんなのっ…!」

かのん「ちょっと話をしたいだけよ!」

かすみ「……あれは……Liella!の子たち……」

かすみ(思わず息を止めた。だが、同時に)

花陽『かすみちゃん。ただの、カスでしかないよ』

鞠莉『あんなひどい事をしようとしていた? 違う、そんな事を決意させるまで傷つけてしまった、傷つけられてしまった! 狂い果ててしまった! そうしたのはあなた達でしょう!?』

ルビィ『でも、先輩の心は引き裂けた。引き裂いちゃった。自分の手でバーラバラ。ううん。そこまでにしちゃったのってだぁれ?』

穂乃果『聞こえなかったの!? 顔も見たくないって言ったよ!』

かすみ(あの夜に言われた無数の言葉が、脳裏をよぎった)

かすみ(この学校はあの夜以来、灰が降る王国に変わり果ててしまった)

かすみ(この罪を背負う為にも、私は)

かすみ「私を訪ねてきたんだよ」

遥「かすみちゃん…!」

かすみ「…場所を、変えて話そうか…」


エントランス

かのん「えーと……」

かすみ「あ……」

かのん(お互いに何かを言いかけてしまい、戸惑った。だけど)

かのん(あの時も少し顔色が悪いなと思っていた。だが、今のかすみちゃんは更にひどい顔をしていた)

かのん(その目の中にも光は殆どなくて、何よりも頬もこけている。とても、スクールアイドルだとは思えない)

かのん(その沈黙を破ったのは、遥ちゃんだ)

遥「……かすみちゃん。なにがあったの? お姉ちゃんから、ランジュさんの事を、少し聞いてたけれど、それから何も教えてくれなくなった」

可可「ン? ランジュ……ランジュ…」

かすみ「ああ、そうだよ…ランジュさんの事、なんだよね」

かすみ「……全部話すよ…私は」

かすみ「遥ちゃんや、Liella!の皆を、ペテンにかけた」

かすみ「私を訪ねてきたんだよ」

遥「かすみちゃん…!」

かすみ「…場所を、変えて話そうか…」


エントランス

かのん「えーと……」

かすみ「あ……」

かのん(お互いに何かを言いかけてしまい、戸惑った。だけど)

かのん(あの時も少し顔色が悪いなと思っていた。だが、今のかすみちゃんは更にひどい顔をしていた)

かのん(その目の中にも光は殆どなくて、何よりも頬もこけている。とても、スクールアイドルだとは思えない)

かのん(その沈黙を破ったのは、遥ちゃんだ)

遥「……かすみちゃん。なにがあったの? お姉ちゃんから、ランジュさんの事を、少し聞いてたけれど、それから何も教えてくれなくなった」

可可「ン? ランジュ……ランジュ…」

かすみ「ああ、そうだよ…ランジュさんの事、なんだよね」

かすみ「……全部話すよ…私は」

かすみ「遥ちゃんや、Liella!の皆を、ペテンにかけた」

しずく「飲み物の補充とかも自分たちでやらないといけないのは」

璃奈「仕方がない」

エマ「…あ」

せつ菜「…エマさんたち」

ランジュ「あ……」

エマ「こ、この前の申請だけど…」

せつ菜「不許可、でした……また」

せつ菜「理由は不明で。副会長が何回も何回も問いただしていましたが…」

エマ「そっか……」

エマ「学生寮の、留学生たちのとりまとめ役の子たちがね。すごく怒ってた」

エマ「締め付けすぎるって。けど……」

エマ「あの子を、怖がってるんだよ。上の人たち」

ランジュ「そうよね……私とママを何とかする為に学校の中であっという間に一枚岩、大人たち相手も平気で糾合して勢力をわずかな期間で作り上げた。その牙が自分たちに向いてきたら、恐怖そのものよ」

せつ菜「だから二度と出ないようにその芽を摘んでおく…。短絡的だけど効果的」

せつ菜「あの子がいなくなって、一番うれしいのは今学校を支配してる人たちでしょうね。自分たちがすることのお膳立てしていなくなってしまった」

ランジュ「…………」

しずく「ランジュさん、せつ菜さん」

しずく「お二人が、来てくれたら。とても心強いです」

ランジュ「せつ菜は分かるけれど、私は…」

エマ「こんな時、だからだよ」

エマ「あの日、ランジュちゃんはあの子がランジュちゃんと仲良くなる事でランジュちゃんを傷付ける為って言っても、ランジュちゃんはあの子を友達になってくれる人だって言ってた。それだけで充分」

しずく「歩夢さんも言ってました。本当はランジュさんもスクールアイドルだって認めたいんだって。それが出来なくて…」

ランジュ「…二人とも。私は…」

バシィッ

しずく・璃奈・エマ・せつ菜・ランジュ「「「「「!?」」」」」

璃奈「そっちの角から聞こえた…」

かすみ「……」

かのん「……とんだ、茶番に巻き込まれたんだね、私たち」

かすみ「うん…わかってる。本当に…ごめん…」

かのん「冗談じゃない」グッ

かのん「私は、あなたたち程弱くなんかない」

かのん「あなたみたいなクソザコナメクジに勝手に同情されるのも! 憐憫されるのもごめんだよ!」

かのん「私の気持ちを勝手に決めないで! 勝手に後悔して勝手に哀れまれても、そんなの…!」

恋「かのんさん! 乱暴は…」

かのん「………!!!」ギリギリ

かすみ「………私は…それだけの事をしてきたんだよ…かのんちゃん」

遥「じゃあ」

遥「かすみちゃんは、今何をしているの?」

かすみ「……私はもう、ステージには立てない」

遥「…かのんちゃん、放してあげて」

かのん「………」ばっ

遥「このぉっ!」

ブンっ バギィッ ドサッ

しずく「かすみさん!」

せつ菜「なっ…! は、遥さん!? なんで…」

エマ「かすみちゃん、大丈夫?」

遥「……どうして黙ってるの」

遥「これだけされてさ」

かのん「……うん、どうして黙ってるの。悔しくないの? クソザコナメクジ呼ばわりされて! こうして殴られて! そんな大好きな先輩が追いかけた夢にだって目をそらして!」

かのん「『地獄の底までお供をするべきだった』んじゃない!」

かのん「地獄に変えないようにお供をするべきだったんじゃないの…そして、虹ヶ咲学園が今…」

かのん「こんな地獄になってるなら、変えるんじゃないの!? 大好きな先輩だって、それは望んでない筈だよ!」

かのん「それだったらその時からなんら変わってない、先輩が打ち上げてた灯し火を待ってぴーちくぱーちく鳴いてるだけでしかない、何の成長もしてない!」

かのん「立ってよ」

かのん「あなたは、悪意の海になんか飲み込まれてなくて。灰が降る空を見てるだけだよ」

かのん「だから、まだ、歩いて行ける。そうでしょ?」

かすみ「………」

しずく「かすみさん……」

かすみ「…一人に、して…」

スタスタ

しずく「あ……」

遥「……すいません、あの……」

可可「…ヤハリ」

可可「あのランジュさん、デスネ」

ランジュ「あなた、確か…」

可可「ハイ。去年、日本語学校のオンライン授業でよく話しマシタ。唐可可デス」

ランジュ「上海校の…そうだ、あの時もスクールアイドルの…」

可可「ランジュさんは興味深ク聞イてくれてイタノデ」

ランジュ「……私は、本当になんてことを…」

しずく「遥さん、もしかしてこの子たち…」

遥「うん」

しずく「…………どこまで、かすみさんからは?」

遥「かすみちゃんからの、視点で。多くは」

遥「……μ’sやAqoursの人たちも巻き込みかけた事も。だから、お姉ちゃんが何も教えてくれなくなったんだね……」

千砂都「でも、だったら猶更立たなきゃダメな気がする」

千砂都「μ’sやAqoursの人たちから、許してもらえるかも分らないけれど、それでも」

恋「ええ……」

恋「見ればわかります。この学校には、生気を感じられません」

恋「生き生きと根付く、その気配が、空気が、ないんです」

エマ「……うん」

璃奈「灯し火はまだある。けど、打ち上げられてない」

璃奈「……私たちの、力不足なんだ……どうにも……」

しずく「だけど、諦めないでいたい。かすみさんが、大手を振ってまた戻ってこられるように」

かのん「……遥ちゃん、ごめん。先に行ってるね」

ポツポツ

千砂都「雨……」

エマ(降り出した雨は、まるで全てを覆い隠すような冷たくて強い雨)

エマ(その間に、幾らかの話をした)

璃奈(開校一年目でこれから発展していく学校の為に出来たLiella!のこと)

しずく(新人スクールアイドル同士という事で、遥ちゃんと仲良くなり、その事で虹ヶ咲学園の事も知ったこと)

エマ(知らぬ間に巻き込まれていた、あの時のことも。可可ちゃんは、ランジュちゃんと話したいと少し離れていた)



可可「大好きだったから、デスネ」

ランジュ「……ええ」

可可「デモ人は間違エル。中国でも、日本デモソレハ同じ」

可可「ランジュさん」

ランジュ「……?」

可可「上海校でも、他の学校デモ。ランジュさんは有名デシタ。美人で、お金持ち。ソレダケジャナイ、頼メバ色々ト世話を焼く。頼マナクテモ、首を突っ込む。オセッカイ。ダケド、悪気ガナイ」

可可「ダカラ、ショウガナイ。その癖、自他に割とキビシイからニクメナイヨネってイウ人、ヤマほど」

ランジュ「……香港にいた頃、私は、どこか寂しかった。ママもパパも、愛してはくれてる。けど、時間が合わなくて…」

ランジュ「いつしかお金とかモノとか愛情の表現に変わってて、それだけを押し付ける形だった」

ランジュ「栞子は、知ってたのね……それでも、私は…」

可可「ダケド、ランジュさんは愛される部分もアリマシタ。ウウン、ソレダケジャナイ」

可可「キット、日本語学校の仲間たちが、今のランジュさんを見たらすごく驚きマス。『とても優しくて、皆の事を本当の意味で愛したいと思ってる』ッテ」

可可「ランジュさん」

ランジュ「…可可。ありがとう…けど」

ランジュ「今すぐに、とは言えないわ…私…まだ、時間が必要なの……」

ランジュ「あの子に、本当にごめんなさいを伝えなきゃってずっと…」

可可「ランジュさん……頑張って」

ランジュ「…ありがとう」ゴシゴシ

虹ヶ咲学園 図書室

栞子(雨が降ってきていた)

栞子(生徒会長を解任され、スクールアイドルでもなくなった私は、図書室で過ごす事が多くなった)

栞子(だが、何かを読む事もなく、何かをする事でもなく、ただ下校時間まで、ひたすらに窓の外を眺め続けるだけの日々)

栞子(空虚で、何もない。私は学園生活を彩るすべてを、失ってしまった)

栞子(自分自身の過ちのせいで)

栞子(姉さんにも顔向けできない――――――それどころか、他の皆にも。それほどまでに)

栞子(何故私は、あんなに甘えた事を言ってしまったのだろうか。追い込まれてしまった部長が、その選択肢を選んでしまったのは私のせいなのだ)

「あれ、三船さん」

栞子「………この声は…」

栞子(くるりと、振り向いた。そこにいたのは)

副会長「雨が酷いですよ。窓は閉めてください。雨が吹き込ますから……三船さんも、だいぶ濡れてますね」

栞子「あ……」

栞子(生徒会副会長。菜々さんの時も副会長で、私が生徒会長だった時も副会長。そして、私が解任された時もあっさりと頷いて、菜々さんの再任の時も副会長として残っていた)

栞子(いわば、ずっと副会長であり続けている人)

副会長「スクールアイドル同好会のライブの申請書が来て、認可して上に提出するんです」

栞子(窓を閉めていると、副会長が唐突に口を開いた)

副会長「毎回不許可なんです。主に上の人たちから不許可で戻ってきます」

副会長「この一月ほどというもの」

栞子「………そう、ですか」

栞子(もうスクールアイドルで無くなった、いや。南さんが言ったように、卑怯な私にステージで輝く機会など、もう―――――)

副会長「……」

副会長「だから私は、あなたの事が大嫌いなんですよ」

栞子「……そう、でしたか」

副会長「中川さんは自分なりにけじめをつける人でしたから。今、こうして、本来はやるべき必要なんてない筈の、生徒会長に戻ってきて、仕事をしてます」

副会長「毎日のように、絶望的な声を聴きながらも」

副会長「三船さんの昔馴染みのランジュさん、確かに混乱をもたらしましたね。あなたがそれを許して。部活動も滅茶苦茶、同好会のステージを奪われたって、暴動寸前の騒ぎまでありました。でも、その事を後悔して生徒会の仕事に取り組んでますね」

副会長「あなたが生徒会長だった時もそう。何故かスクールアイドル同好会だけをひたすら敵視して、挙句色んな所の反発を招いて、説明会がひどい事になりましたね。その時はどうしたんでしたっけ?」

栞子「………同好会の、部長さんの力を借りて…」

副会長「私は彼女とほとんど話した事はありませんけど、それでもその人となりは聞いています」

副会長「その背中についていけば大丈夫、英雄的な人だって。でも」

副会長「三船さんは、そんな彼女に容赦なく泥を塗り続けた。彼女が休学しているのは、それが理由なんじゃないですか?」

栞子「…はい……私が、悪かったんです……」

副会長「では、同好会の皆には?」

栞子「申し訳ないって思ってます…けど、もう会わせる顔が…」

副会長「そんな事思ってるから、私はあなたがつくづく大嫌いなんですよ」

副会長「同好会に入ったのは、部長さんがあなたを誘ったという話も聞きました」

副会長「彼女のもう一つの噂。スクールアイドルが大好きで、それを応援するのが好き。だから」

副会長「その為なら全ての障害を叩き落して見せる、最強だって」

副会長「そんな彼女が認めたあなたは、こうして嘆きながら腐り堕ちてるだけ―――――――他の仲間たちが嘆き悲しんでいるのを、安全な所で黙ってみてるだけ」

副会長「生徒会長もスクールアイドルも、中途半端な所で勝手に折れて逃げ出して。中川さんの事をどうこう言える資格どころか、あなたは自分でそれ以下だと証明してしまった」

副会長「詫びなさい、三船栞子」

副会長「同好会の人たちだけじゃない―――――――今、この学校で苦しむ人たちに」

栞子「わたし、は……」

副会長「輝く光が、今、ここにない。けど、必要とされている。その為にも」

副会長「もし、この機会を逃したなら、私は三船さんを永遠に軽蔑するでしょう」

副会長「でも、全てを失ったあなただからこそ、出来る事はあるんじゃないですかって思います。今、この惨劇を見ていると」

副会長「それが…あなたの彼女への贖罪なんじゃないですか?」

栞子(副会長が差し出した一枚の紙)

栞子(その重みを、私は痛く噛み締める)

栞子「……」

副会長「答えを出すのは、自由ですよ」

副会長「優木せつ菜のステージが、また見られれば私はそれでよいので」

栞子(去っていく副会長の背中を見ながら、私は紙を鞄に入れた)

栞子(どうにも勇気がわかず、一人になりたかった)

虹ヶ咲学園 屋上

かすみ(気が付いたら、ここに来ていた。あの夜、先輩が心を壊した場所)

かすみ(冷たい雨が降り出した。顔に当たる、雨。だが、同時にリフレインするのは)

かのん『立ってよ』

かすみ(どうしてこんなに胸が張り裂けるぐらい悔しいんだろう)

かすみ(もう、かすみんにはステージに立つ資格なんてない筈。それなのに、なんで…いや)

かすみ(エマ先輩、しず子も、りな子も。いや、せつ菜先輩たちだって)

かすみ(こんな灰が降る王国でも、まだ希望を打ち上げようとして、その為にそれぞれ)

かのん『あなたは、悪意の海になんか飲み込まれてなくて。灰が降る空を見てるだけだよ』

かのん『だから、まだ、歩いて行ける。そうでしょ?』

かすみ(私の背負う罪は重い。押しつぶされそうだ)

かすみ(だけど、私はまだ…立ちたいんだ。ステージに)

かすみ「先輩……もう、一人で歩いて行けって事ですか」

かのん「雨が酷い…」

かすみ「…かのんちゃん」

かのん「この場所、なの?」

かすみ「うん。あの夜、ここで終わった」

かのん「……私、さ。遥ちゃんから、虹ヶ咲学園の皆の事を紹介された時。純粋に嫉妬した」

かのん「正直、滅茶苦茶妬みもした」

かのん「一人一人が仲間であり、ライバル。だからそこまで高め合えるし、凄く絆に溢れてた。学年も、学科もばらばらで、目指す方向性だって違うって言ってても、それでも、動画を見る度に、圧倒された」

かのん「一年生だけで、頼れる先輩もいない。スクールアイドルをするのだって、見た事のある知識はあってもノウハウも何もない、手探りだらけで、何度もつまずいた。それでも、同じ一年生で、サポートがあるとはいえ、一人でステージに立てるってのが、すごくカッコよかったし、眩しかった」

かすみ「……!」

かのん「同い年なのにどうしてこんなに差があるんだろう、どうしてこんなに出来る事が多いんだろう、観客をあんなに沸かせて、私たちには同じ事が出来ないのかって散々思って」

かのん「でも純粋に、スクールアイドルとして憧れた。動画がアップされないのが寂しかった」

かのん「ライブだって絶対に見に行くって決めたのに、行われなくなってしまった」

かのん「遥ちゃんの誘いで、映画のエキストラとはいえ生でステージを見れるって思って、そのステージの手伝いが出来ると思うと興奮した。あなたにとっては茶番でも、私にとってはすごく嬉しかった」

かすみ「あの日、あなたと話した後に…内臓がまるごと溶鉱炉にぶち込まれたみたいだった」

かのん「うん。その重みに耐えきれなかった。だけど、その事を話してくれた。罵倒される事を覚悟して、μ’sやAqoursの人たちのように、私たちが批難してくる事を覚悟して」

かのん「きっと私があなたなら、私はあなたのように話せていなかったと思う。だから余計に、思うんだ。かすみちゃんは、本当に強い人なんだって」

かのん「私の中では、あなた達は輝いていた」

かすみ「今はそうじゃない。私は、Liella!の皆が、輝いて見える」

かすみ「灰に覆われた王国で、嘆いてる私からすれば。でも」

かすみ「今から……そうじゃない。先輩は、自分の本当の願いも分からなくなって悪意の海に沈んでった。あの人は」

かすみ「純粋にスクールアイドルが好きで、スクールアイドルが輝くのを見るのが好きで、それを応援するのが大好きで、その為なら」

かすみ「奇跡だって災厄だって起こして見せちゃう。だから道を間違えてしまった」

かすみ「一人一人が仲間で、ライバルだからこそ、私たちはその全員の味方である先輩の味方にもならなきゃいけなかった。先輩はかすみんの味方だなんて言ってるんじゃなかった」

かすみ「μ’sやAqoursの皆からも愛想を尽かされるのも、自業自得だ」

かすみ「私は道を間違えまくって、今ここにいる」

かのん「だけど、まだ終点じゃない」

かすみ「うん…止まってるだけだ」

かのん「今降る雨は冷たいけれど。この雨雲の先に、星は輝いてる。空には、見えなくたって星がある」

かすみ「うん……今、決めたよ。迷ったら、空の向こうにある宇宙の、星を探せばいい」

かすみ「こんにちは、未来の私。そして次は私があなたの未来になる。最初そうだったように」

かのん「追いついて来てよ、過去の私。追い越せるものならね。案外差が出来ちゃうかもよ?」

かすみ「やってみなければ、分からないよ」

かすみ「この学園の未来だって、照らして見せる」

かのん「星を追いかけて、その先の明日を手に入れる」

かすみ(大雨の中)

かのん(私たちは拳をお互いに打ち付けた)

かすみ(それは誓いのグータッチ)

かのん(止まない雨はない。だからこそ、この灰の王国から、空の王国へと彼女たちが戻ってこれるように)

かすみ(その先にある星が輝く空へと飛び出す為の約束でもある)

かすみ・かのん(私たちの―――――あしたの為の、フィスト・バンプ)

駅員「お客さん…終点ですよ」

栞子「え…あ、はい」

栞子(雨の降る窓を眺めていたら、普段乗る駅を何駅も乗り過ごして、終点だった)

栞子(ここがどこの駅で、最寄り駅までどれぐらいかかるかも解らなかった。ひとまず、精算機で超過料金を払った)

栞子(酷い雨はまだ降り続いている。傘もなく、私はただぼんやりと駅の入り口に立ち尽くしていた)

栞子(鞄の中に入れた、あの紙を取り出した)

栞子(入部届。部活の名前と氏名を入れれば、虹ヶ咲学園のどんな部活にも使えるもの)

栞子(だけど、これを渡した副会長は、部活の名前を既に入れていた)

栞子(『スクールアイドル同好会』と)

副会長『答えを出すのは、自由ですよ』

栞子「………」

「栞子?」

栞子「!」

栞子「姉さん…」

薫子「私の家の、最寄り駅でどうしたの?」

栞子(姉さんは、仕事帰りだったのだろう)

栞子「……乗り過ごして、しまって」

薫子「交通費ぐらいは出すよ。姉だからね」

栞子「…………姉さん」

薫子「なんだい?」

栞子「私は……生徒会も、スクールアイドルも、中途半端なまま…過ちを犯してしまいました」

薫子「………」

栞子「あんなに、あんなにお世話になった部長さんに……」

薫子「だからか」

栞子「え…」

薫子「場所を変えて話そう。こっちだ」

栞子(姉さんに連れられて、着いた場所は駅の目と鼻の先にあるマンション。姉さんの自宅だった)

栞子(椅子に座るなり、姉さんは言葉を紡いだ)

薫子「少し前の事でね。とある場所から別の場所に人を移動させるから手伝ってくれという仕事がきた」

薫子「しかも内密に、迅速に、目立たないようにって。深夜に移動。おまけにダミーの車まで用意して。特殊部隊の作戦かよって思う位にね。オペレーターの護衛まで混じってるなんてただ事じゃない」

薫子「運転技術をそれだけ信頼されての事だろうけど、いったいどんな人を運ぶのか」

薫子「慎重に運ぶべきだって言われたので、後部座席に誰が運ばれたのかを見た」

薫子「………あの生き生きと顔を輝かせていたあの子が。死体同然だった。いや、生きてる。けど、あれじゃ生きる屍だ」

薫子「そんな状態で、命まで狙われてるような状況だったんだ。現に、出発してから少し後に、元居た場所に賊が侵入したからルートを変えろとかいう指示まで来たしね」

薫子「クライアントに、知り合いだから声をかけてもいいかと許可を取ってから、あの子に声をかけた。返事がなかった。クライアントからは、意識そのものはあっても、何にも反応できない。眠る事も殆どしないから定期的に薬で無理に眠らせるだけ。身動き一つしないから、点滴で生き永らえてる。酷い時には脈拍も弱り切って、心停止して除細動器の世話になりもしたらしい」

栞子「そんな……部長はどこに…」

薫子「それは教えられない。守秘義務もあるからね」

薫子「なにがあった?」

栞子「……私、は」

栞子(ランジュの事、その事で部長に全部押し付ける形で泣きついた事、自分以外にも部に来たメンバーに何も言わなかった事、かすみさんからの批難)

栞子(そして壊れてしまった部長の事、心を閉ざしてしまった私を置いて進んでいった周囲、ランジュ自身は部長を信頼してそこからランジュは反省して過ちに気づいた事)

栞子(部長の企み――――――それがわかった、あの夜に起こった出来事。そして、μ’sやAqoursの皆からも愛想を尽かされた事)

栞子(そして同好会を辞め、生徒会もクビになり、全てを失った私に、声をかけた副会長の事)

栞子(姉さんは黙って聞いてくれた。そして、話し終えた私に)

薫子「栞子」

栞子「…はい」

薫子「今の自分を、どう思う」

栞子「最低です…他の誰よりも。私は…」

薫子「今、虹ヶ咲学園はひどい状態だよ。それだけあの子が大きかった。今はいない」

薫子「自分も関わった過ちのせいで、壊れていく学校をひたすら眺め続ける自分はどうだ?」

栞子「………私が……」

薫子「生徒会長ならそうは行かないとでも言えるだろう。でも今は、生徒会すらもクビになった。でも」

薫子「まだ選択肢が、一つだけある。彼女は、そう言いたかったんだと思うよ」

薫子「今、栞子が握ってるそれにね」

栞子「……姉さん、私……!」

薫子「今は最低だって解ってるなら。這い上がるしかない」

薫子「あのランジュがあの子のお陰で変われたんだから、栞子も出来る」

栞子「……っ」ゴシゴシ

薫子「さあ、行けっ! 虹の王国を、その手で取り戻してくるんだ!」

栞子(姉さんは、私の背中を思いっきり叩いた。だけど、その痛みは背中を押すための痛み)

栞子(やってみよう)

朝 スクールアイドル同好会部室

エマ「部室のカギを開けておかないと」

璃奈「こうして一日が始まる」

しずく「昨日の雨が嘘みたいですね」

しずく「……あれは、栞子さん?」

栞子「あ……」

栞子「皆さんに、伝えたい事があります…」

エマ「うん」

栞子「逃げ出して、すみませんでした。私は、全部中途半端なまま、放り出してしまいました。何もかも、全部を」

璃奈「……確かにね。でも、こうして謝りに来てくれた」

栞子「生徒会長ですらない、ただの三船栞子になった私ですが、今、こんな状況で…どこまで出来るかわかりません、しかし」

栞子「こんな私の背中を押してくれる人がいました」

栞子「こんな私でも出来る事があると言ってくれる人がいました」

栞子「部長は…先輩は、今……ひどい状態です。でも…救いあげるためにも、必要なスクールアイドルがあります」

栞子「私をっ、スクールアイドル同好会に入部させてください!」

栞子「ここに、虹の王国を取り戻すために!」

しずく・璃奈「「エマさん」」

エマ「うん―――――――部長代理として許可します。お帰り、栞子ちゃん」

栞子「はいっ…!」

しずく(栞子さんを部室に迎え入れて、すぐだった)

コンコン

しずく「はい」

ガチャリ

かすみ「……」すっ

しずく「かすみさん…」

かすみ「まずは…」土下座

エマ「えっ!? ちょっとかすみちゃん!?」

栞子「かすみさん、顔を上げて下さい。い、いきなり」

かすみ「かすみん、ずっと逃げてた。自分で背負った罪に押しつぶされそうで、皆がつらいって時に」

かすみ「先輩が間違っている事をまったく止められなくて、事態の悪化を招いた」

かすみ「あげく他のスクールアイドル達にまで迷惑をかけた」

かすみ「こんな私だけど…また、ステージに立たなきゃ……そこで出来る事を、しなくちゃいけない事があるから」

かすみ「ゴールじゃない、道はまだ続いている。だから―――――――こんなかすみを、もう一度スクールアイドルとしてステージに立たせてほしい!」

かすみ「普通科一年、中須かすみ。スクールアイドル同好会への入部を希望します!」

しずく「……」抱きっ

しずく「おかえりなさい、かすみさん…!」

かすみ「しず子…ありがとう……」

エマ「良かった…本当に、良かった……」ポロポロ

璃奈「璃奈ちゃんボード『やった』」

栞子「おかえりなさいって私が言うのも妙ですが、かすみさん…おかえりなさい」

かすみ「ただいま、しお子」

かすみ「…放課後に、行きたい所があるんだけど、いいかな?」

璃奈「復活祝いでマウンテンパンケーキでも食べにいくの?」

かすみ「じゃなくて、もっと違う場所」

放課後 結ヶ丘女子 部室棟

かのん「風邪ひいたかな…」

千砂都「駅に戻ったら一人だけずぶ濡れだったからね」

すみれ「スクールアイドルというもの、体調管理は…びゃーくしょい!」

恋「すみれさんが一番ダメダメじゃないですか」

すみれ「あんなに気温が下がるとは…サウナに入り過ぎたのかも知れませんわ」

可可「ソモソモ冬に成りつつナノデ、寒いデス」

コンコン

かのん「どうぞー」

かすみ「頼もう!」バーン

恋「あ…虹ヶ咲学園の…」

栞子「は、初めまして。あの、かすみさん、こちらの皆様は…」

かのん「何しに来たの?」

かすみ「宣戦布告」

すみれ「あら、甘く見られ…」

かのん「受けて立つ」

恋「え、えぇー!?」

栞子「話がついていけません…」

かのん(生き生きと輝いた顔で腕を組むかすみちゃんは)

かのん(ひどくカッコ良かった。だからこそ、負けたくない)

かすみ(かのんちゃんの顔は嬉しさと、負けないという自信がある悪戯っぽい笑顔で)

かすみ(とても可愛かった。でも、可愛さなら負けてない)

かすみ・かのん(私たちは、スクールアイドルだ)


2/了

3/あしたの為の叛乱者

会議室

副会長「生徒をなんだと思っているのですか!?」

菜々(職員や理事も混じる会議室で、副会長が怒声を挙げたのはある日の夕方だった)

現・理事長「口を慎みたまえ、生徒会副会長君」

現・理事長「諸君らにも思う事があるだろうが、これは君たち生徒の更なる成長、更なる発展を期待しての事だ」

副会長「しかし…!」

現・理事長「発言を許可した覚えはないぞ、副会長君。生徒会長の中川君を見習いたまえ。会計の鍾君は更にわきまえているようだ。結構な事だ」

現・理事長「自身の過ちを反省しているのはこういう事だ。覚えておくと良い」

菜々「……」

菜々(だけど私もランジュさんも、怒りを隠しきれない)

菜々(理事会から宣告された事、それは部室棟の移動。主に小さな部活などを対象に、学校の外れにして、文字通り海に飛び出した立地にある新館へ移動するというもの。だが)

菜々(そこは新館とは名ばかりだ。もともとランジュさんの母親が理事長だった時に、東京湾にとてつもなく近い虹ヶ咲学園を高潮などから守る為の防波堤として買収した区域を埋め立てた。今の理事長はそこに建物を建て、それが新館だという。だが)

菜々(こんな短い期間で建てられたものは生徒たちからはただのプレハブとしか思われてない上に、何よりその新館があるのは防波堤の外側。よく東京都が許可したなと思うレベルだ)

菜々(そんな立地なので、完成直後に視察した生徒からは『電源が圧倒的に足りない』『そもそも強風が吹くと揺れる』『地面もしょっちゅう海水が沸く』『トイレが仮設そのままで臭い』『校舎から新館へ移動する通路が狭い上に屋根がない部分もある』、などなど)

菜々(防災倉庫として使うにもそもそも防波堤の外だから意味がなく、改修は必須で、不可能なら移転を、という案をあげた。その返事がこれだ)

菜々(それを、部室棟として使うだなんて……)

菜々「移動する部活のリストを、見せてください」

現・理事長「そこにある」

菜々(その中の筆頭に書かれた、スクールアイドル同好会の文字)

ランジュ「……なによ…これ……」ブルブル

ランジュ「殆どの部活じゃない…!」

菜々(それだけではない。本当に色々な部活がリストに載っている。乗っていないのはせいぜい大規模で有名どころのスポーツや吹奏楽部ぐらい。それ以外の大半の部活がリストに載せられていたのだ)

現・理事長「この通達は理事会を満場一致で可決し、職員会議でも不満は出なかった」

菜々(握りつぶしたの間違いだろう)

現・理事長「よって、翌日より直ちに実行される。変更はない。以上だ!」

ドイツ企業の偉い人「マッキンゼイ理事長、予算の件で…」

現・理事長「ああ、わかっています。もう少しなんとか…」

フランス企業の偉い人「例のスペースですが…」

翌日 放課後

かすみ「ド畜生」

しずく「島流しですね…」

璃奈「璃奈ちゃんボード『マッキンゼイ撃墜RTA定期』」

栞子「地面が土そのものな上に…海水がしみ出してますね、これ…」

エマ「まるでザップランドだね…」

かすみ「どこですか、ザップランドって」

しずく「マティアス・トーレス艦長の元ネタといいますか…あれ」

『虹ヶ咲学園新館部室棟』←白いペンキで横に三本線で塗り潰されている

栞子「設置物汚損って問題では…」

しずく「洒落てる人、結構いるみたいですね」

かすみ「とりあえず部屋に行こうか…うわっ、建物の中が寒い!」

璃奈「エアコン、エアコン…」

エマ「あ、スクールアイドル同好会…ここだね」

璃奈「エアコン、どこ…凍る…」

かすみ「…いや、ない。この新館マジでエアコンそのものがない!」

璃奈「璃奈ちゃんボード『100%殺意』」

しずく「そもそもドアの立て付けが悪いですよね」

栞子「備品も足りない…椅子だけは持ってこれましたが」

エマ「机は一つしかないね…ロッカーも無い」

かすみ「ぐぬぬぬ…」

栞子「実績の少ない部活動が対象とのことですが」

栞子「その実績を出せなくしてるのは、決めた人たちなのに」

エマ「うん……」

しずく「こうなったら」

しずく「許可なんか知るか、ですね」

かすみ「ゲリラライブだね…枠の外に放り出されたんだ、アウトローに行くのが筋ってもんだね」

璃奈「かすみちゃん、何か案がある?」

かすみ「こういう時は誰かの力を借りる」

カフェテリア前

かすみ「かすみんボックス!」

しずく「かすみんボックス…」

しずく「…それで、このダンボーのパチモンみたいなポストをカフェテリア前に置いておいて大丈夫でしょうか?」

かすみ「誰がダンボーのパチモンだしず子ぉ~! まあ、それは元より」

かすみ「これぞ我らがスクールアイドル同好会反撃の第一歩!」

しずく「開けた時に空だったらどうしようもないけど」

かすみ「不吉な事言わないでよ、しず子…いや、正直そうなる可能性の方が高いけどさ」

かすみ「ま、あんまり期待はしないでおくかな…とりあえず戻ってまた考えよう、しず子」

しずく「そうですね、かすみさん」

スタスタ

テクテク

副会長「あれ?」

副会長「スクールアイドル同好会、お便り募集…ふむ」

副会長「設置認可、生徒会っと」書き書き

副会長「これでよし」むふー

スタスタ

女子生徒1「なんだろ、これ…」

女子生徒1「スクールアイドル同好会…ふむ」

女子生徒1「よーし…」

スタスタ

女子生徒2「およ? なんだなんだ~?」

女子生徒2「へぇ~…ほうほう…なるほどね~」

女子生徒2「へっへへー♪」

演劇部 控室

演劇部部長「講堂の使用許可を三日間申請したらどんな割合だったと思う?」

演劇部部員1「どうしたんです?」

演劇部部長「三日目が四十五分だったんだよね」

演劇部部員2「通し稽古も出来やしない」

演劇部部長「まったくだね」

しずく「酷い……」

演劇部部長「なんとも、色んな部活で頭が痛いものさ」

演劇部部長「映画研究会とかも撮影許可が校内で出ないとかで、愚痴ってたよ」

演劇部部長「生徒会長も辛そうだ。何にも悪くないのにね」

しずく「……ええ」

演劇部部長「明るいニュースでもあれば良いさ…桜坂、何か噂話とかないかな?」

しずく「あまり良いニュースはないですね…上の方がライブの申請を却下し続けるとしか。生徒会副会長が何度かかけあってくれてると…」

演劇部部員3「ああ……あの子、優木せつ菜の大ファンだから…」

演劇部部員2「だよね。あの子も疲れてる、またステージが見れれば…」

演劇部部長「部長さんは、まだ入院してるのかい?」

しずく「はい」

演劇部部長「それは残念だ。彼女の考える脚本はド派手でヒロイック、時として破滅的。短絡的だけど効果的なものが多くてね、すごく心が躍った」

演劇部部長「出来る事ならまた彼女の脚本で動くのも面白い。飽きるまで天使とダンスが出来そうだ」

しずく「………四十五分、ですか」

演劇部部長「そうなんだよ。これじゃ照明担当の練習とかしか出来やしないね」

演劇部部員1「そういえば映画研究会も撮影許可が出なくて映像が撮れないからって、部活動の撮影で練習してる始末ですよ」

演劇部部員2「ねぇ、しずく。こんな噂話知ってる?」

演劇部部員2「放送委員が放送機材を使う機会がないって愚痴ってる。検閲され過ぎて」

演劇部部員3「酷いね」

しずく「いつから、何日まででしたっけ?」

演劇部部長「この三日間だね。照明担当の練習をする為にステージで動いてくれる人が見つかればよいんだけど…どうやら見つかったようだ」

しずく(部長をはじめ、演劇部の皆はこの時に笑顔を見せてくれた。私は、それを見て涙が溢れそうだった)

しずく(灯し火を待つ人たちは、ここにもたくさんいる)

彼方(屋上のベンチに横になっていると、ひどく背中が冷たい。冷え込んでいる)

彼方(それでも定期的にこの場に来てしまうのは、この眠りたくはなくても横になりたい衝動を、冷たさで抑える為)

彼方(水色の三本爪の缶を傾けるとひどい味がして、また眠気はどっかに連れていかれた)

彼方(それがまた何か癖になる味だった。彼女は、こんな味が好みだったんだろうか。μ’sやAqoursと会議をしていた日も、そしてあの日、この屋上でも直前に飲んでいたのか、空き缶があった)

彼方(この缶を飲み干すとどうにも胃が妙になるのは、こいつのせいか。だけど、何故か依存してしまうような、頼りにしたい感が、彼女みたいで)

彼方(いつの間にかこいつを気に入っている私がいた)

彼方(既に暗い空を、ぼんやりと見上げていると、足音が聞こえた)

「近江さん…見つけました」

彼方「………誰?」

彼方(ちらり、と顔だけ横に動かしてその姿を見た)

彼方(かつて監視委員会で元生徒会役員だった、あの双子の右だが左だが区別がつかない生徒だ)

彼方(彼女の事を思うとタテだかヨコだかわからんビフテキの存在を思い出してしまう)

彼方(一度でいいから、食べてみたいしそれぐらいの贅沢をしてみたいものだ)

左月「どうも」

彼方「…何か用? 確か、もう生徒会の人でもなくなったんだよね…」

左月「ええ。おかげさまで、解任されました」

左月「内申点、無くなりました。特待生も取り消されました」

彼方「……」

左月「こんな噂、知ってますか?」

左月「特待生の基準が変わるのもそうですが、スクールアイドル同好会の部長に親しい人への制裁が来るそうですよ」

左月「特待生でなきゃ学費払えませんよね? 近江彼方さん」

彼方「…!」

左月「けど、スクールアイドル同好会を力で潰すのはまずいんですよね。反対勢力が一斉蜂起してしまうらしいですよ」

左月「だから、中から切り崩すしかないんですよね」

左月「協力してくれませんか? 反スクールアイドル運動に」

左月「そうしてくれたら、学校の上の方が彼方さんによくしてくれますよ。学費免除どころか、大学の推薦とかもくれるかも知れませんね」

左月「虹ヶ咲学園って、学費かかりますからね。いいですよね~、実現すれば」

彼方「裏切れと?」

彼方「彼方ちゃんに? これ以上、皆を?」

左月「さあ、どうでしょうかね」

左月「スクールアイドルいえども、顔とか大事ですからね。中須かすみさんとか、暴動騒ぎの主犯ですし、恨みを買ってるんじゃないんですか?」

左月「顔を傷つけられる怪我とか、負うかも知れませんねぇ」

彼方「………」がしっ

彼方「そんなこと、させない…手を出してみろ…」

彼方「お前の首を◯み千切っても良いんだぞ!?」

左月「いいですよ、今はその判断で」

左月「今は、ですけど。上の方にはきちんと取りなしておきますから」

スタスタ

彼方「反、スクールアイドル…運動…」

彼方「部長…ごめんね…ごめんね……こんな事になっちゃって…」

彼方(喉から手が出る程、涎を垂らしそうな学費免除や大学推薦の話)

彼方(だが、それに頷いてしまったら)

花陽『彼方さん、恥ってものあるの?』

彼方(きっと彼方ちゃんは、二度と皆に顔向けできなくなる)

彼方「…伝えなきゃ…」

彼方(空き缶を手に、生徒会室へ、向かう)

彼方(途中で空き缶をゴミ箱に捨てて、自販機で同じ缶を買っていると)

菜々「彼方さん…」

ランジュ「彼方」

副会長「確か、ライフデザイン学科でスクールアイドル同好会の…」

彼方「せつ菜ちゃん、大変だよ…元生徒会役員の」

副会長「え? せつ菜さんですか!? どこに!?」

彼方「あ…」

彼方(うっかりしていた。今は中川菜々だった。つい、せつ菜ちゃんと声をかけてしまった)

彼方(気まずい沈黙が流れた時だった)

菜々「あの、元監視委員会だった二人、ですか?」

彼方「うん……反スクールアイドル運動なんてのを始めたらしい」

ランジュ「…いわば、色んな人に振り回された。そう、私にも…」

彼方「うん……」

副会長「せつ菜さんは、いませんね…近江さん、誰と…」

菜々「ううん、違うの」

せつ菜「私は、今まで黙っていたことがあります」

副会長「え…?」

せつ菜「優木せつ菜は、スクールアイドルとしての名前です。本名は別にあります」

せつ菜「中川菜々、という名前が」

せつ菜「私が…優木せつ菜です」

副会長「………!」

せつ菜(今までずっと黙っていた事。そう、この秘密はスクールアイドル同好会だけが知っている秘密)

副会長「今、休学している同好会の部長さんは」

副会長「病で、と聞きました。本当、なんですか?」

せつ菜「……生徒会室に戻りましょう。そこで、話します」

せつ菜「彼方さんも」

せつ菜(生徒会室に戻り、私の口からすべてを話した)

せつ菜(ランジュさんの事は、副会長にとっても気がかりだったようだ。それも聞いて)

せつ菜(副会長は、話しが終わると、眼鏡をはずして手で顔を覆った)

副会長「………」

副会長「今、スクールアイドル同好会どころか。虹ヶ咲学園が苦境に立たされています」

副会長「その原因が、皆さんだったんですね」

副会長「恨まない、というと嘘になります。けど……スクールアイドル同好会の、部長さんの気持ちも痛い程解ります」

副会長「会長は…その贖罪も含めて、ランジュさんを生徒会に入れて。ランジュさんも、その事を後悔しているから、こうしていてくれる」

副会長「……あの噂は、本当だったんですね」

彼方「噂?」

副会長「虹ヶ咲学園の空に君臨する女王がいる」

副会長「立ちふさがる障害を全て叩き落としていく。その為に手段を選ばない。時に短絡的だけど効果的に行う。だから破滅した、そして女王が去った虹ヶ咲学園からは、色が消えた」

せつ菜「………確かに」

副会長「しかし、希望はまだあります。あなた達も知っている筈」

せつ菜「それは……」

ランジュ「エマたちの、事?」

副会長「昨日、カフェテリアに、面白いものがあったんですよ」

彼方「?」

副会長「かすみんボックス!」

せつ菜「かすみんボックス…」

副会長「あ、設置許可は私が独断で出しときました。申請書も作ったので無問題ラ、です」

ランジュ「それでいいのかしら生徒会…」

彼方「かすみちゃん、やっぱり出してなかったか…」

副会長「そういうのはばれなきゃ良いのです」キリッ

カフェテリア前

せつ菜「こういうのは実際に見るのが…!」

副会長「なっ……これは…!」

ランジュ「ひどい……」

彼方「……」

せつ菜(カフェテリアの前には、かすみんボックスであったものが散らばっていた)

せつ菜(ポストであった頭部分は胴体から引き千切られ、何度も蹴られたのかあちこちに足跡がつき、大穴がとどめを刺している。既に入れられていたお便りにも足跡がつけられていた)

せつ菜(そして腕の一本は頭の近くに転がり、異様な匂いを発する赤い液体がかけられている)

せつ菜(残りの胴体はというと、近くの壁から伸びた紐に片足を結び付けられて逆さづり、まるで処刑された人のように)

せつ菜(そしてその胴体にも赤い異様な匂いの液体がかけられていて、それに、パソコンで作られた紙が一枚。赤い文字で書かれている)

せつ菜(『スクールアイドル、次はお前だ』)

せつ菜(そしてその下に『スクールアイドルのファンも私たちは許さない』と、書かれている)

副会長「……」ワナワナ

彼方「かすみちゃん……」

せつ菜「後片付けを、します。彼方さん、皆さんに…」

彼方「うん…部室、変わったんだっけ」

ランジュ「部室棟とも呼べない、酷い場所よ」

彼方「わかった…行ってくる…」

副会長「許せない…こんな事、許せない…!」

副会長「なんでこんな事に…!」

せつ菜「……」

副会長「……中川さん…後はもう、どうすれば良いのでしょう…」

せつ菜「私、は……」

せつ菜(惨状を見て、ますます心が折れそうになった。こんな状態で、果たして希望として、もう一度優木せつ菜として立てるのか)

せつ菜(私は、灰の海に飲まれそうだった)

俗称ザップランド部室棟 スクールアイドル同好会部室

しずく「エアコンもない」

かすみ「ストーブもない」

璃奈「おらこんな部屋嫌だ~」

栞子「でもそんなの関係ねぇ!」

エマ「はい、おっぱっぴー……って無理やりすぎるよ…」

しずく「…ダメですね、身体を動かしてもやっぱり寒い。部室の中でもコート手袋必須って」

かすみ「他の部室も軒並み似たようなありさまだもんね。毎日毎日、くしゃみだけが響く」

璃奈「璃奈ちゃんボード『今日はここをキャンプ地とする』」

栞子「ここで寝たら死にますよ」

エマ「寮からストーブでも持ってこようかな…」

栞子「しかしコンセントが廊下にしかないとは…延長コードが必要です」

栞子「延長コードと電源タップを経費で申請しましょう。この際ブレーカーを吹き飛ばせば電源不足だって言えますよ」

かすみ「電源壊すなって怒られる未来に5000ガバス」

バーン!!!

しずく「え? なにっ…」プツッ

エマ「わっ!? 停電!?」

かすみ「ひえっ!?」

栞子「まさか本当に電源が吹き飛んだんじゃ…」

しずく「おそらく…」

璃奈「誰か、電源見てくる?」

「誰か電源見てきて、電源」

「わかったー」

しずく「他の部活の人が見にいくみたいですね」

ドタドタ

彼方「エマちゃん! しずくちゃん! 璃奈ちゃん! いる?」

しずく「彼方さん? どこにいるんですか?」

彼方「部室から出ちゃダメ、鍵を閉めたままで!」

しずく「ど、どうしたんです?」

かすみ「彼方先輩、停電ですし先輩廊下にいるなら……」

彼方「とにかく電気が戻るまで……誰!」

ぶんっ

ガシャーン

彼方「っ!?」

べちゃあっ!

エマ「彼方ちゃん!」

璃奈「あった、ライト!」

パッ

栞子「彼方さん……」

かすみ「彼方先輩!? 大丈夫…」

彼方「大丈夫…かすみちゃんは?」ボタボタ

彼方(何者かはおそらく停電を意図的に起こして、その間に同好会の部室を襲撃するつもりだったのだろうか。だが)

彼方(璃奈ちゃんが持つライトに照らされたのは割れた瓶と、私からも滴る赤い液体。ひどい匂いがするこれは、生き物の血か何かだろう…)

エマ「彼方ちゃん…す、すぐにシャワー室に行こう、ね?」

彼方「うん…あの、鍵をきちんと閉めて。移動しよう。移動しながら、話すね…」

しずく「何が…」

彼方「監視委員会だったあの二人も、栞子ちゃんみたいに生徒会を更迭された」

栞子「はい……そう、聞きました」

彼方「特待生が取り消されて、内申点も吹き飛んだって。それで、さっき、彼方ちゃんに声をかけにきた」

栞子「なにがあったんですか?」

彼方「反スクールアイドル運動を手伝ったら、学費とか推薦とか…」

彼方「つっぱねたよ。でも…喉から手が出そうだったよ……」

彼方「つっぱねたらさ、何て言ったと思う?」

彼方「かすみちゃんは恨みを買ってるから怪我するかもとか脅してきてさ、それで怖くて…せつ菜ちゃんの所に行った」

彼方「生徒会の副会長が」

彼方「かすみんボックスが置いてある、まだ希望はあるって言って。それで…見に行った。そしたら」

彼方「…そしたら…滅茶苦茶に、されてて、それで…脅迫文なんかも、置かれてて…」

彼方「今の彼方ちゃんみたいに…なんかの血までぶちまけられてて…!」

彼方「怖いよ…」

エマ「彼方ちゃん…」

彼方「彼方ちゃん、怖いよ…! ここはいつからこんなになっちゃったの…皆がさっきみたいになにかされるって思うと怖いよ…!」

かすみ「彼方先輩…」

彼方「かすみちゃん……ずっと、色々任せっきりで、それで……」

かすみ「迷ったら、空にある星を探せばいい」

かすみ「未来の私と、そう約束しました」

彼方「なにされるかもわからないんだよ…?」

かすみ「そうかも。でも、負けませんよ。明日を掴むって。背中を、押してくれる人がいた」

かすみ「彼方先輩にも、いますよ。だから、大丈夫」

彼方「……うぅっ……」

栞子(二人の事を思い出した。私が生徒会長だった頃は私に振り回され、ランジュが来てランジュに無理やり監視委員会に任命されて振り回され、それで理事長が変わって生徒会はクビになり、内申点もゼロ、特待生待遇も取り消し)

栞子(ある意味二人も被害者だった―――――――私たちの過ちの。だが)

栞子(あの日、間違っている事を止めようとして起きた罪の為にも、彼女たちも救わなければいけないのだ)

カフェテリア

かすみ「すみませんでした、副会長! 本当に…」

副会長「いえ、とんでもない。それよりも部室にまでそんな事が…」

かすみ「はい…」

副会長「許せない…」ギリギリ

かすみ「……彼方先輩から、聞きました。私たちのせいでもあるんです、こうなってしまった事。なかでも」

副会長「中須さん」

副会長「だからこうして、あなたは頭を下げてくれてる。ですから、それで良いのです」

副会長「そんな事が起こるぐらいに、今のこの学校はおかしい」

副会長「ライブの申請書に、落ち度はどこにもないのです。それなのに許可を出さない方がおかしい」

かすみ「……ありがとうございます」

副会長「新館部室棟の電源についてはすぐに対処します」

副会長「……連中は狡猾です。表立って訴えても、シラを切ってくる」

かすみ「そう、ですね」

かすみ「先輩が見たら…すごいショックを受けそうだ」

副会長「ないものねだりをしても、仕方がないです」

かすみ「はい……あ、あの。この日、なんですけど」

副会長「はい」

かすみ「……講堂で、演劇部が照明の練習するそうです」

副会長「確かに、その日だけは許可時間が短かったですからね」

副会長「……面白そうですね。見学フリーですか」

かすみ「ええ。見学OKだって、演劇部の部長さんが言ってました」

副会長「それなら講堂の舞台と照明以外は空いてますね。どっか別のグループに許可でも出しておきますか」

副会長「流しそうめん同好会がにゅうめん会でもやりたいとか言っていたので、許可を出す事にしましょう」眼鏡キラッ

副会長「椅子がたくさん必要なんですよ」

何日かした 講堂

演劇部部長「さて、照明の諸君。練習の手伝いをしてくれる人たちに失礼のないように。彼女たちの動きはすごいぞ、ちゃんと追いつくんだ」

演劇部照明係「承知」

放送委員「マイクテスト、マイクテスト。これから音楽の試験はじめまーす」

流しそうめん同好会部長「にゅうめん会と言ったね」

流しそうめん同好会部長「問題はコンロと鍋忘れちゃったー。ストーブと椅子しか持ってきてない!」

映画研究会部長「講堂の風景撮影開始ー。カメラ回す練習しないとねー」

演劇部部長「よし、そろそろだな…」

放送委員「あと5秒…」

映画研究会部長「いい映像を全力で撮るためには、最高のパフォーマンスが必要だよ」

流しそうめん同好会部長「頼むね…」

エマ(久しぶりのステージ)

しずく(許可も何もないゲリラライブ)

璃奈(だけどもう、私たちは迷わない)

かすみ(ここから前に進んでいく、灯し火を失った虹ヶ咲学園。私たちが追いかける灯し火は、空から消えた)

栞子(だから、私たちが灯し火になる――――――未来の為に)

エマ「虹ヶ咲学園、スクールアイドル同好会です!」

しずく「久しぶりのステージですけれど、楽しんでいってくださいね?」

璃奈「お待たせして、ごめんね」

かすみ「張り切っていきますよっと」

栞子「ええ、今日も全力で!」

わあああああああああああああああああああああああっ!!!!

放送委員「おおっと、ここはミュージックが必要だね。OK、流すよー?」

演劇部部長「さあ、来るぞ。きちんと照らすんだ」

流しそうめん同好会部員「虹ヶ咲学園に…」

観客「スクールアイドルが、帰ってきた!」

おかえり皆ー! 待ってたよー! 璃奈ちゃーん!

ワイワイガヤガヤ

虹ヶ咲学園 屋上

彼方「………騒がしい」空き缶握りー

陸上部員1「ねぇ聞いた!? 講堂で、スクールアイドル同好会がライブしてるって!」

陸上部員2「え? 活動休止してるんじゃなかったの? 愛ちゃんは?」

陸上部員3「高跳びやってる場合じゃねぇ! とにかく行ってくる!」

水泳部部長「こらーっ! 気持ちは分かるけど身体を拭け、そもそも水着で行くなー! 風邪ひくぞー!」

水泳部員1「うおおおおおおっ! あゆぴょんのステージが私を呼んでいるぅぅぅぅ!」

バスケ部員1「いや、フルメンバーじゃなくて一部しかいないみたい。一年生は皆いるらしいけど」

水泳部員2「しずくちゃんのステージが見れるなら問題ない!」

水泳部員1「あゆぴょんは?」

バスケ部員2「いないって。一年生四人とエマちゃんって聞いた」

水泳部員1「ずこーっ!」

水泳部部長「あれ、近江さんも出てないのか…」

バスケ部員2「みたい。でも、久しぶりのライブだよ、見に行こう!」

ワイワイ

彼方「みんな……」


生徒会室

副会長「……」スック

副会長「……」だだだっ

ランジュ「…すごい勢いのアスリート走りね…」

せつ菜「追いかけましょう、私たちも。十傑集走りで」

ランジュ「普通に走りなさいよ…」

たたたっ

再び講堂

せつ菜「よっと……」

ランジュ「すごい熱気…どんどん人が増えてる」

せつ菜「ええ……皆さん」

ランジュ「やっぱり、ライトも足りない、サウンドだって、もっといい機材がある筈」

ランジュ「でも…とても、心に響く。手作りで、全力で、心に、凄く届く」

せつ菜「……」

ランジュ「可可はこれを、届けたかった。だからあれだけ熱心に言ってくれて、あれだけ伝えようとして、そして自分自身もステージに立った」

ランジュ「私は、その事をわかってなかった。ただ、表面的に見ているだけで。高度なパフォーマンス、訓練された歌声、デザイナーの衣装」

ランジュ「それがあればアイドルになれる。でもそれは、スクールアイドルじゃない」

ランジュ「私はそれが出来ればハイレベルになれると思ってた…ただの押し付け」

ランジュ「スクールアイドルというものを誤解し続けた、私の過ち。それをあの子は知っていたから、同好会の皆に手を出すなって私に怒った」

ランジュ「可可だって、きっとあの時の私を見たら失望する」

ランジュ「そしてその過ちが、全部滅茶苦茶にして、終いにはこの学校から輝きを奪った」

ランジュ「栞子にだって、いっぱいいっぱい迷惑をかけた」

ランジュ「…でも、今、そんな栞子が」

せつ菜「ええ……」

せつ菜「……あのかすみんボックスの惨状を見た時」

せつ菜「私は、灰の海に飲まれそうでした。もうスクールアイドルを辞めようかと思いました」

せつ菜「かすみさんが自分の罪に押しつぶされそうになったように。三船さんが責任を取る為のように」

ランジュ「……!」

せつ菜「だけど今、こうして見ていると。私はあの時から…変わってなかったんです」

せつ菜「あの日。部長の企みが分かった時に。かすみさんから、情けないって言われた時から。私は、私は勇気がなくなっていた……部長の事に寄り添う事が出来なかった、生徒会長に再任したという理由で苦しむ皆の傍にもいてやれなかった、希望を無くした皆に…」

せつ菜「私の大好きを届けることも出来ずに、ただただ目をそらしていただけでした…!」

せつ菜「……今でも、生徒会長としても、力になれてない」

せつ菜「この灰が降る王国に必要な灯し火を、あの子が戻ってくる事だとずっと信じて、だから何もしないでいた…甘えていました」

ランジュ「…聞いてる。あの子の背中についていけば大丈夫、そしていつも背中を、あの子が押してくれる」

せつ菜「だから、あの日まで走ってこれた」

せつ菜「おかしなものですね、虹ヶ咲学園のスクールアイドルといえば私だったのに」

せつ菜「中川菜々というペルソナ、優木せつ菜というシャドウ…一つになった筈なのに、また、別れてしまったのはあの時から」

せつ菜「だけどもう一度、一つにしたいと思う私がいます。ペルソナとシャドウを融合させる事で、大好きを生徒会長としても、スクールアイドルとしても、広げたい、私が」

せつ菜「道を間違える不安はあります。道に迷ってしまう不安も。背中を押してくれるあの子がいないと、本当に不安になる。だからまた二つに分かれた」

せつ菜「中川菜々というペルソナであり続ける事でこの学校を少しでもと考えた。でも、こうして」

せつ菜「皆を眺めていると…私は」

せつ菜「私は、スクールアイドルなんだって、思い出します」

ランジュ「せつ菜……」

せつ菜「だけど、あの子たちはそれでも立っている。こうして、この灰が降る王国に、灯し火をあげた」

せつ菜「小さな火です。でも、それを守らなければ―――――彼女が本当に守りたかったのは、この学園の灯し火。皆が目指す、灯り」

せつ菜「ランジュさん」

ランジュ「うん」

副会長「二人とも…」

せつ菜「ゲリラライブとはいえ、セトリはあるので」

ランジュ「うん、今混じったら、崩れちゃう」

せつ菜「だから、今だけは、観客でいましょう」

ランジュ「だけど、次こそは」

せつ菜「ステージに」

副会長「そういう時こそ」

副会長「応援しないと。ペンライトの残りはまだまあだありますので」

せつ菜「…そう言って翡翠色を全力で振ってるのが、あなたらしいですよ」

副会長「そうですか? 私はスカーレットが大好きです」キリッ

ランジュ「ふふっ、見て。あのダンス、しずくが考えてたのよ」

せつ菜「おお、いいダンスですね…皆と息がぴったり」

ランジュ「やっぱりあの子たちには、適わない」

せつ菜「そうですか? 入ってみたら案外出来るかも知れませんよ?」

ランジュ「どんな曲を歌いたいか、どんな風に伝えたいかをもう考えてる、自分がいる」

せつ菜「奇遇ですね」

せつ菜「気が合いますよ、私たち。だから、部長も。あなたに好感が湧いたんですよ、きっと」

副会長「皆さん、素敵ですよー!」ペンライトフリフリ

せつ菜(帰ってきた同好会のゲリラライブ。今はまだ、五人だけ。だけど……)

せつ菜(これからまた、皆でやっていくんだ。もう、私たちは前に進むしかない。灯し火は打ち上げた、それを追いかけていこう)

会議室

現・理事長「無許可であるというのは解っているのか!?」

演劇部部長「いえ、講堂の舞台を使う事に関しては許可を取っていますが」しれっ

演劇部部長「照明チームの練習をしていたら、たまたま映ったんです。演劇部としましては照明チームの練習を手伝っていただけたので感謝してます」しれっ

映画研究会部長「私たちは演劇部の皆さんに照明チームの練習の為の撮影を頼まれていたので、カメラを回していました」しれっ

流しそうめん同好会部長「私たちはにゅうめん会を開いてましたし、その許可は御覧の通りあります。他の生徒が自由に参加してもいいってお知らせも出してたので、そのお客さんが集まってただけです」しれっ

放送委員「演劇部の音声係の練習に付き合って器具を使用してました。もちろん、その許可ありますよ」しれっ

栞子「……何か問題でも?」

現・理事長「ぐぬぬ……」

現・理事長「いいだろう、お前たちは不問だ。だが!」

現・理事長「普通科一年、三船栞子、中須かすみ! 国際交流学科一年、桜坂しずく! 情報処理学科一年、天王寺璃奈!」

現・理事長「以上、四名! 明日より停学三日間だ! 異論は認めん! 全員、退出せよ!」

ゾロゾロ

エマ「皆さん…まずはなんと御礼を言ったらいいか」

演劇部部長「いいんだよ。時間は有効活用だ」

映画研究会部長「久々に心躍る映像が撮れたよ! さあ、映像をアップして、世界中の皆にも見てもらおう」

流しそうめん同好会部長「虹ヶ咲学園に、スクールアイドルが帰ってきた。きっと皆の勇気になる」

放送委員「まだまだ皆には色々ある。だけど、やっぱり学校を盛り上げる役がいないと、学園生活つまんないって!」

ドッ アハハハ

演劇部部長「しかしまだまだ先行き多難だ…一年生組まるっと停学もそうだが」

演劇部部長「ここだけの話、反スクールアイドル運動ってのが、元監視委員会の間で出来てるとネットワークで来てね」

流しそうめん同好会「質の悪い事に、特待生とかを脅してるみたい。学費の事で、ね」

エマ「…彼方ちゃんも、脅されたって聞いた」

映画研究会部長「元ランジュファンクラブの方に情報は任せよう。荒事になったら、元コッペパン解放戦線が動く準備はしておくよ」

放送委員「元サンドイッチ革命軍にも伝えないといけないね」

かすみ「部長が残してくれたもので一番でかい気がしますよ」

栞子「本当に、皆様、なんと御礼を申し上げればいいか…」

演劇部部長「しかし彼女が一番そういうのに長けていたのもあるね。空の女王は、色々な魔法を使うのが大得意だったからな」

映画研究部部員「部長。映像です」

映画研究部部長「ありがとう。さあ」

しずく「…はい!」

演劇部部長「それと…お客さんのようだから、私たちは失礼するよ」

璃奈「あ……」

スタスタ

副会長「素敵なライブでした」

副会長「やはり、虹ヶ咲学園には、スクールアイドルがいないとしまらないですよね。栞子さん」

栞子「はい」

副会長「スクールアイドルとしてのあなたは、私、好きですよ」

栞子「……ありがとうございます!」

副会長「それと、一つお願いがあって来ました。二人、部員を受け入れて欲しいのです」

せつ菜「皆さん…」

エマ「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「私は、三回も逃げてしまいました。三回も、です」

せつ菜「私の大好きが空回りしてしまった時、二度目はランジュさんの事で部長に頼り切ってしまった時、三度目は今、こうして皆が苦しんでいた時に、生徒会を口実に逃げてしまいました」

エマ「そんな事ない、せつ菜さんは生徒会役員として動いてくれていた…」

しずく「学校中から上がる絶望の声を、受け止めながら」

璃奈「うん、せつ菜さん、頑張った。ランジュさんと、一緒に」

せつ菜「私は…もう逃げません。隠れる事もしません。私は中川菜々であり、優木せつ菜というスクールアイドルです。こんな私を、もう一度――――――――」

かすみ「仲間と認めないなんて事はないですよ? だって、かすみんやしお子が帰ってきたんですから」

せつ菜「こういうのは最後まで言わせて欲しいのですが」

しずく「残念ながら灰にまみれた王国に墜ちた私たちは」

璃奈「璃奈ちゃんボード『アウトロー』」

エマ「うん、だから、ね? ランジュちゃんも」

ランジュ「……い、いいの。その」

エマ「二人って、副会長さん言ってた。だからもう、わかってたよ」

しずく「ランジュさん、私がスクールアイドル部にいった時、待ってたって言ってくれたじゃないですか」

しずく「今度は私が言う番ですね♪」

ランジュ「……最初から皆には完敗してたわ。でも」

せつ菜「ええ、これからですよ」キリッ

かすみ「なのでしばらくエマ先輩と部室お願いしますね、せつ菜先輩、ランジュ先輩」

璃奈「実は璃奈ちゃん達一年生一同、明日から停学三日」

せつ菜「は?」

栞子「後をよろしくお願いします先輩方…ひとまず今日のライブ映像をアップしなくては」

俗称ザップランド部室棟 スクールアイドル同好会部室

ランジュ「寒い! 狭い! 暗い! 臭い!」

せつ菜「どうあがいても絶望!」

かすみ「壁薄いんでお静かに」しーっ

璃奈「やはり七人もいるとめちゃ狭い」

エマ「少しはあったかくなるよね」

しずく「まあ、そうですけどロッカーすらないですからね…机も一つじゃ鞄置きも足りないですね」

ランジュ「こういう時こそブラックカードでも投入してやりたい気分だわ」

せつ菜「おお、ブラックカード。まずはストーブは必要」

ランジュ「電源もいるわね。あ、後は音源機材…」

ランジュ「ミアがいれば……」落ち込み

かすみ「そういえば、ミア子どうしたんです?」

ランジュ「……あの日以来、音信不通。完全に愛想尽かされた……」じわぁ

かすみ「あちゃー……」

璃奈「璃奈ちゃんボード『チッ、使えねーな』」

ランジュ「うぐっ!?」メンタルダメージ

せつ菜「こら、璃奈さん」

エマ「あ……見て、動画にコメントが!」

コメント1『虹ヶ咲学園にスクールアイドルが帰ってきた!』

コメント2『久々にライブ用璃奈ちゃんボード見た、やっぱサイコー』

ギャラクシーカリスマ『久しぶりに姿を見ましたが、五人ではやはり寂しい…と申し上げたいのですが、私たちと同じ人数でも圧倒されました。お見事です、またお会いしましょう』

かすみ「ふふっ、Liella!の皆よ、残念だ。もう七人ですよっと」

ピコン

しずく「あ…」

ラブアローシューター『やはり心躍るステージは色々な形があります。もう一度あなた達は立ち上がれた。だから、前に進むだけです』

スターリースカイキャット『あなた達を、応援してる人は』

わしわしMAXおうどんさん『ここにおるで!』

スターリースカイキャット『だから、大丈夫。いつでも、応援してるよ。友達だからにゃ』

しずく「あ、ああ……!」ポロポロ

栞子「はい…」ポロポロ

ピコン

キャプテンヨーソロー『あなた達はまた、灯し火を打ち上げた。だから、大丈夫。内浦から、応援してるね』

沼津の堕天使『十字架を背負っても、飛ばなければいけない時がある。あなた達の空の王国での活躍の、背中を押し続けるわ』

桜百合ピアニスト『そう、手を差し伸べる友達が、ここにいる。だから、安心して羽ばたいて、虹が架かる空へ!』

かすみ「…うぅっ…」ポロポロ

璃奈「ふぇぇっ…ありがとう…ありがとう…!」ポロポロ

エマ(私たちは、孤独じゃない)

エマ(狭い部室の中で、応援してくれる声を見ながら、思わず泣いてしまった。悲しい涙じゃないから)

エマ(泣いていいよね)

3/了

3.5/それがぼくのひかり


千歌(あの日の夜、友達を見捨ててしまった罰なのだろうか、と今でも思う事がある)

千歌(その翌日のあの日から、穂乃果ちゃんからは何の連絡もなく、私もその連絡を入れる事が出来なかった)

千歌(そして、愛ちゃんにメッセージを送ろうにも、当たり障りもないLINEしか送れなくて、愛ちゃんもまたそれに既読をつけるペースは、とても遅くて、返事はない)

千歌(虹ヶ咲学園で起こった事、遠い、東京の学校で起こった事。にこさんは私の背中で涙ながらに私に背負わせる重みじゃなかった、と泣いて、海未ちゃんも私に「あなたも曜たちも間違ってない」と言ってくれた)

千歌(だが、それでも。あの日私は、行くべきだったのだ。廃浦の星女学院に影響が及ぶかも知れない、火の粉が飛ぶかも知れない、学校を守る必要がある、という鞠莉さんの正論を理解しても、それでも、友達として駆け付けるべきだった)

千歌(内浦から遠く離れたお台場に住む彼女が、私たちが出会ってから一年も経たないうちに何度沼津に足を運んで、どれだけの手を貸してくれただろうか?)

千歌(それはスクールアイドルというものが心から大好きになっていたから、せつ菜ちゃんの言葉を借りるならばそうだろう)

千歌(そんな彼女が、私たちのステージまでまとめて滅茶苦茶にしてでも、壊してしまいたい程の憎悪と狂気を抱いてしまうまでに、なるなんて、誰が思ったか)

千歌(誰も思えないだろう、そんな事―――――――冷たい風が吹く、暗い海を見つめながら、そう思っていた)

千歌(悪意の海に、沈んでいった彼女は、今、どうしているのだろう。鞠莉ちゃんが言うには、命を狙われてしまい、隠す場所を転々としている有様だという。腰を落ち着ける事も、出来ないのか)

千歌(それだけ、彼女が私たちという絆を繋いでいた事か。彼女と知り合う前から、紡ぎ出していたμ’sとAqoursの絆にすらもそれが届いていたのだ。果南ちゃんは、それでも私たちは彼女たちの友達だと言った。けど、花丸ちゃんは確かに答えている)

花丸『おら達は巻き込まれただけずら』

千歌(そう割り切る事は出来る、だけど、それでも…)

千歌(私はあの日、友達を見捨てた結果、いくつもの何かを失った気がする)

千歌(穂乃果ちゃんとの友情か、あの子の心か、或いは仲間たちの団結、もしくは…)

千歌(頭がグルグル回りそうだった)

千歌「あ…」

千歌(スマホを弄り回し続けていたせいか、間違ってLINE電話のボタンを押した相手は)

千歌「り、凛ちゃん…」

凛『千歌さん?』

千歌「ご、ごめんね…急に、間違って」

凛『うん、いいんだよ』

千歌(凛ちゃんの、こういう所が優しくて、胸にしみる)

千歌「凛ちゃん、あの、さ…穂乃果ちゃん、どうしてるかな……」

凛『…元気がないかな。あの子の事でね。でも……』

凛『やっぱり虹ヶ咲の皆に、怒ってるんだと思うかにゃ』

千歌「そっか…」

千歌「あのね」

凛『うん』

千歌「私は、凛ちゃんみたいに優しくなりきれなかった」

千歌「あの時も、今も…虹ヶ咲の皆に寄り添えなかった。だから、あんな選択肢をしてしまったし、穂乃果ちゃんも傷付けちゃった」

凛『うん……穂乃果ちゃんも、頑固だから。にこちゃんに怒られたくなくて、愛ちゃんの事黙ってたんだと思う』

千歌「だよ、ね……」

凛『……あの子、今どうしてるかな?』

千歌「鞠莉ちゃんからは、色んな場所を転々としてるとしか…私も、知らないんだ」

凛『そっか。また、会えるといいね…』

千歌「うん……」

千歌「じゃあ、またね」

凛『うん、またね。千歌さん』

浦女 生徒会室

千歌(凛ちゃんと電話した次の日、その日は色々な理由があってか練習も休み。仕事がたまりつつあったダイヤさんの手伝いをしていた)

千歌(なんてことはない、どこか私は練習をしない理由を探していたのかも知れない。凛ちゃんと話しても、どこか霧は晴れない。凪のように、風が吹かないがら吹き飛ばない)

ダイヤ「少し、休憩しましょうか」

千歌「そう、だね……ダイヤさん」

ダイヤ「風、強いですね」

千歌「そうだね……」

ダイヤ「東京の方は、荒れるかも知れませんね」

ダイヤ「…………」

ダイヤ「千歌さん……虹ヶ咲の人たちとは」

千歌「……特に、今は、何も。ああいや…愛ちゃんに…当たり障りのない、文面しか。でも…既読がつくペースも、遅くて」

ダイヤ「……」

千歌「昨日…μ’sの、凛ちゃんに、間違って電話をかけて。それで、少し」

ダイヤ「そう、ですか」

千歌「あの日……鞠莉ちゃんの言葉が正しいって解ってても、行くべきだったって…今でも、思う。それなら、あの子も、皆も…いや、せめて皆に寄り添う事が出来れば……」

ダイヤ「音ノ木坂に行った夜……鞠莉さんや果南さんみたいに、私も怒鳴り散らしたかったのです。あんな事に手を貸してしまったかすみさんに、黙って眺めていた彼方さんに、原因であったランジュさんに鞠莉さんのようにビンタの一つでもかましてやりたかったですし、栞子さんに言い訳をしているだけだと果南さん同様に責めてやりたかったです、でも……」

ダイヤ「凛さんの言うように……最悪の事態だけは、彼女たちは防いでくれた。だから、責めるべきではなかった、とも考えてしまいます」

ダイヤ「もう、起こってしまったことですが…」

千歌「ダイヤさん……」

ダイヤ「あの子が、何回沼津に来てくれたかしら。果南さんの為、時にはルビィの為、或いは私たちの為にも…」

ダイヤ「それだけ動くあの子だったからこそ、あんな酷い事をしようとしてしまったのも知れません」

ダイヤ「けど…それは……本当の理由は、あの子にしか分からない」

千歌「選択を間違えてしまったのは、千歌たちもだって、思ってる…本当に」

ダイヤ「……ええ」

ダイヤ「あの子がせめて、目覚めてくれれば…何かを聞けるかも知れない。そうすれば、穂乃果さんにだって」

千歌(そういえば、ダイヤさんや果南ちゃんだけは鞠莉ちゃんに教えてもらったと聞く。今の彼女が、どうなっているだろうか――――――凛ちゃんの為にも、聞くべきか迷った)

ダイヤ「そういえば……善子さんが、あの子が使っていたという催眠術?に関するホームページを調べているそうですわよ」

千歌「善子ちゃんが…」

ダイヤ「ええ。ただ、あまりに得体の知れない情報やおぞましいものも多くて芳しくはない、と嘆いておりましたが。梨子さんや曜さんも手助けをしているようで」

千歌「そっか…だから、最近、梨子ちゃん沼津の町に…」

ダイヤ「ああ、もうこんな時間……そろそろ、帰らないと」

千歌「そうですね…太陽が出てないと、時間がわかりづらいや…」

ミア(ランジュを見限ったその日は、新しいボクの始まりになる日だった)

ミア(音楽がボクを見捨てる事なんかないよ、と言って笑いかけてくれた彼女が、姿を消したその日。ボクの光は、また消え去った)

ミア(その時に、世界から音楽が消えてしまった――――――――彼女が隣で声をかけてくれない、彼女が隣でボクを見ていてくれない、そんな世界は、壊れてしまった世界だ)

ミア(そして今彼女の世界が壊れてしまった原因の中に、ボクがいた)

ミア(その事に気付いてしまった夜はステーキナイフを喉元に突き付けて力を込めて押そうとしても)

ミア(ステーキナイフは1インチも喉に刺さる事はなくて、後から後から涙と鳴き声だけが溢れて。ただただ寂しさと悲しさと壊れてしまった世界のむなしさ、そして大切にしたかった人の世界を壊してしまった一人に自分がいるという罪悪感に押し潰されそうになって)

ミア(睡眠導入剤のお世話になって無理やり眠ったボクは、しばらくこの場所にとどまる事にした)

ミア(ランジュの我が儘に付き合う必要はない、だからニューヨークの家に帰っても良かったけれど、それは出来なかった。ボクから音楽が消えてしまったから。なら、その音楽をもう一度奏でるしかない)

ミア(彼女の為だけに奏でる事が出来れば、きっと戻る。だから探す事にした)

ミア(二週間ほど経って、色々なコネを使い、彼女が入院している場所らしき闇病院に向かった)

ミア(だがそこはもぬけの殻どころか、他にもお客さんがいた。コネを持つ人たちがいなければ危なかったが、お客さんたちはどうやら彼女を守る為にいたらしい。どうにか金やら話やらで宥めすかしても行き先を彼らも知らなかった)

ミア(だが、代わりに大事な事を教えてくれた。彼女が転々としているのは狙われているから――――――それは、ランジュの母親を香港に送り返し、虹ヶ咲学園に我が物顔で押し入ってきた奴らの手先)

ミア(それを聞いた時に、思わずボクははっとした)

ミア(彼女が大好きな場所、それこそがあの学園だった。あの学園を守る為にランジュと戦う決意をして、その為にボクを誘おうとした。でも―――――――あの心の奥底からボクを天才だと認めながらも、その才能を潰しちゃだめだと労わる気持ちそのものは、他の何者でもない、ボクだけにかけてくれたもの)

ミア(その時にボクは決意した。休学届を叩き付けて、彼女を探す事だけに集中した。愛や果林といったかけがえのない、彼女の友人たちの為にも)

ミア「ここ、か」

ミア(そして探し始めて一月以上経って、ようやく追いついた)

ミア(東京からさらにローカルな場所に向かい、そこにある古い研究所。本来は感染症などの研究所らしいが、医療施設を備えているからコネでねじ込んだのだろう)

ミア(施設が施設なだけに、警備はきちんとある。だが、今回はちゃんと話をつけておいた)

ミア「入るよ」

ミア(受付を済ませて、中へ進む。そして、実験施設の更に奥にある部屋へ向かう―――冬場は雪が降るニューヨークの街よりも、今のこの世界この場所は冷え切っていた)

ミア(そして、ようやく目星であろう部屋を見つけた時だった)

『待ちなさい』

鞠莉『貴方…たしか、ランジュの』

ミア『ランジュは横暴だ。彼女を悲しませ、こんな事になってしまった。あんな奴、もう友達でも何でもない。いい加減、我が儘には振り回されたくないんだ』

鞠莉『……』

果南「鞠莉、侵入者?」

ダイヤ「あら、あなたは確か……」

ダイヤ「作曲家の、ミア・テイラーですわね」

ミア「うん…」

ミア「彼女を、探しに来た」

鞠莉「なにをしに?」

ミア「……虹ヶ咲学園の、彼女にとってのかけがえのない仲間たちの元に返してやるために。たとえそこにボクが含まれなくても、彼女はボクの光」

ミア(彼女の世界を壊したボクが、望んだ未来を奪われて、自問自答を重ねて出した答え)

ミア「ボクが彼女の隣にいなくたって、彼女さえ元気でいてくれて、世界のどこかでボクの音楽を聴いてくれればそれでいい…!」

ミア(彼女の笑顔が、どこかにあればそれでいい。それでまた、世界は動き出す。音楽が帰ってくる)

鞠莉「…ダメよ」

ミア「どうして!」

果南「あの子たちが、そうじゃない」

ミア「そんなの…!」

果南「今、彼女がああなってるのだって。あの子たちのせいだよ」

ミア「それはランジュやボクの…!」

果南「それもあっても、あんた達を好きなようにさせ過ぎたあの子たちのせいで、あの子は…」

ミア(その時、耳を切り裂くようなアラームが鳴り響いた)

鞠莉「ドクター!」

医者1「ええ!」

医者2「くそ、三度目か!」

ミア(廊下を走ってくる医者、部屋に飛び込んでいく。近くの強化ガラスごしに)

ミア(無数の管や機械に繋がれた彼女。テレビで見た事のある、生命維持の為のハートビートを計測するものが)

ミア(赤くアラームを鳴らして、その数値は三十を下回る。医師たちが手を施す)

ミア「あ…ぁぁ……!」

ミア(あれほど優しい掌で、ボクを見てくれた彼女の身体は、骨と皮ばかりで弱弱しく、光のない瞳が虚空を彷徨っていて、死の淵にある)

ミア(その数字が、0を示した)

医者1「除細動器!」

医者2「3、2、1…今!」

ミア(電気ショックで大きく跳ねた身体。数字が0から一桁へ変わる)

医者2「強心剤!」

医者1「戻れ!」ぶすり

医者2「…どうだ?」

医者1「戻った…」

ミア「……よ、良かった…」

ミア(足から力をなくしてへたれこんだボクを横目に、医師たちが三人の元へと出てきた)

医者1「三度目です」

鞠莉「ええ……」

医者2「催眠が深すぎる。生きるという意志を、どこかに置かなければ、また、繰り返します」

ダイヤ「……善子さん達は芳しくないと」

果南「それに、ここもかぎつけられるかも知れない」

鞠莉「わかってる。けど、安全な場所ってのも…」

ミア「……あの」

鞠莉「何?」

ミア「追い回してる連中は、虹ヶ咲学園に我が物顔で押し入ってきた奴らの手先だ」

ミア「けど、そいつらが手出しできない場所なら、伝手はある」

果南「あんたのいう事なんて…」

ダイヤ「果南さん」

ダイヤ「……具体的には?」

ミア「ボクはニューヨークから来た」

ダイヤ「……なるほど。鞠莉さん」

鞠莉「こっちの監視もつけるけど、それでもいいなら」

ミア「いいよ。その方が、受ける人たちも困らないと思う」

ミア「彼女がいなければ、ボクの世界に光はない。ボクの世界に、音楽は戻らない」

ミア「それが、彼女の世界を壊してしまった一人である、ボクの責任だ」

ミア(彼女はまだ、落ちていった海底から戻らない。だけど)

ミア(必ず、戻す。その為ならば、なんだってやろう)

3.5/了

4/Highcard


あなた「必ずパワーアップして帰ってくるから」

果林(笑顔で言った彼女を引き留める言葉が、紡げない。喉から、出ない)

あなた「果林さんは心配性だなぁ、顔が真っ青だよ」

果林(そうじゃない、違う、あなたが帰ってきた時に―――――その事を言えない)

果林(そうこうしている内に、あの子は扉を開ける。その先は海だ、海が広がっている。黒く、陰鬱で、世界の悪意を全て混ぜ込んだ海が)

果林「待って! そっちに行っちゃダメ! そっちに…」

果林(それでもあの子は振り向かない、そして海へと足を踏み入れる。沈んでいく、海に。絶望の中へ)

果林「ダメよ! こっちを向いて…手を!」

果林(そのまま足を踏み出そうとした時、背後から捕まれて、動けない)

果林「放して! 放してっ! あの子が…!」

鞠莉「あなたがそれを言うの、果林?」

果林(鞠莉の声に、足を止めて、言葉を失った。そうだ、だって)

ダイヤ「あなたの軽率さが、あの子を突き落とした」

果南「あの子の仲間だって、あの時、果林は言わなかったよね?」

果林「嫌…私…わたし…!」

果林(鞠莉たちの言葉の間にも、沈んでいく彼女、もう頭しか見えない、海面に、手が伸ばせない)

絵里「あの子に頼り切って、それで使えなければ裏切る。上を目指すストイックさと引き換えに人としての誇りってものを投げ捨ててるのかしらね?」

希「それでもあの子はあんたらが大好きだから、あんな事したんやで。あんたらを責めもせず、な」

にこ「生涯、果林を軽蔑するし、一生かかっても許さない」

果林「ぅ…ぁ………!」

果林「ぁぁっ!?」ガバッ

果林「夢……また…」

果林(あの日以来、何度も何度も夢に見る事――――――彼女が海に沈んでいく夢。その手を取れなかった後悔だけが、押し寄せてくる)

果林(こんな悪夢もあってか、学校も休みがちになっていたし、何よりもこんな精神状態では何事もうまくいく筈もなかった)

果林(昨日とうとう、読者モデルの契約解除の連絡が来たせいだろう。そんな気持ちでベッドに入って悪夢を見るなんて)

果林(こんな時に弱音でも吐ければいいのに。だけど、それは出来なかった。あの子は、あの日以来、消息不明。同好会の仲間たちにも、とても言えない。μ’sやAqoursにはどんな顔でこんな弱音を吐けるのか)

果林(軽率、軽率だったのだろう。あの子がパワーアップして帰ってくるなら、それまでにパワーアップしようと思っていた。だからランジュのバックダンサーとして使われると分かっていても、ランジュが用意した環境が魅力だった)

果林(レベルアップしてると実感が出来たから、余計に気持ちよかった。戻ってきてから、しっかり自分の意思を伝えれば理解してくれる、応援だってちゃんとしてくれる、と甘えていた)

果林(結果、ろくに話しもしないまま彼女の方から避けられてしまった。ランジュが信頼している事を聞いたのはランジュ経由で、一度だけ顔を合わせた時もあの子はさっさと話を切り上げてしまった)

果林(かすみのあの行為について、無理にでも話していれば良かった。ランジュから聞いたライブの事だって、エマにでも話しかければよかった)

果林(だけど、全てはもう過ぎ去った事。この痛みだけが私を蝕み、今を少しずつ破壊していく)

果林「もうすぐ…朝…」

果林(もう眠らない方が良いかも知れない。ベッド脇に置かれた目覚まし時計は、夜明けより少し前の時間を指している)

果林「寒いわ…」

果林(もう冬になりつつある、この時期はひどく冷える。この学校もまた、冷え切っている)

果林(世界を変えられる子であったからこそ、世界を壊す事も出来る。彼女はそういう存在だった。それでも私は、あの子の傍にいるべきだった。せめて帰ってくるまで待つべきだった。活動出来なくされてしまったというのもあるが、それでも環境に目が眩んだ)

果林(あの日に時間が戻ればいいのに、目を閉じて目を開けたらあの日に戻ってるんだと思い込もうとすればするほど、苦しみが増していく)

朝 カフェテリア前

果林(遅刻しないで済むのは良いけど、やはり眠った感じがしない…)

ざわざわ

果林(何の騒ぎかしら…?)

ワンダーフォーゲル部部長「昨日の報復か…二代目かすみんボックスを破壊していくとは!」

欧風カレー愛好会部員「しかも死骸まで放り込むとかこれは酷い…」

果林(ちらり、と見るとそこにはかすみを象った段ボールであったものが無残な姿になっていた)

果林(赤いペンキを上からかけられた上に、ゴキブリとネズミの死体が大きく穴の開いた胴体に詰め込まれていた)

果林(両腕と両足らしきものは一度引き千切られて手足を入れ替えた位置につけられている)

果林(見ていると、ひどく気分が悪い。すると、その隣にある掲示板に目が行った)

通達『以下の処分を通達する。
    一週間活動停止:スクールアイドル同好会
    停学五日間:普通科一年 三船栞子
    停学四日間:普通科一年 中須かすみ
             国際交流学科一年 桜坂しずく
             情報処理学科一年 天王寺璃奈』

果林「……え」

情報処理学科生徒1「うわ、昨日のライブの報復か…どんだけ横暴なんだ、理事長殿」

情報処理学科生徒2「露骨だもんね。他のイベントに紛れてゲリラライブをしたらピンポイントに、だよ」

水泳部部員1「あれ、エマ先輩もライブに出てたのになんでだろ?」

バスケ部部員1「理事長もヨーロッパの国から来てるから、下手に手出しできないんじゃない、エマ先輩は」

水泳部部員1「久しぶりのスクールアイドル同好会のライブだったのに」

果林「………なん…です…って……」

果林(顔から血の気が引いていった。ライブをして、栞子たちに、こんな処分。ゲリラライブをしただなんて)

果林(あの子もいない。汚い大人たちはいろんな手段を使ってくるだろう。このかすみを象った段ボールに対する行為もきっとそれの一環だ)

果林(何より学園全体が今、締め付けが強くなっている。そんな時期に露骨な反発をかましてしまえば、こうなることなんて目に見えてるのに。エマは、なんでそんな短絡的な事を。それでしずく達まで巻き込んで)

菜々「これはひどい……」

ランジュ「更にエスカレートしてるわね…」

菜々「とにかく、片付けましょうか」

ランジュ「ええ!」

ランジュ「…果林?」

果林「あ…ランジュ……」

果林「エマ…見てない、かしら…」

菜々「今朝、部室の鍵を開けに行こうとしてダメだったようですので……おそらく、教室に」

果林「ありがとう、菜々」

ランジュ「果林…、顔色、悪いわよ」

果林「そうね…ランジュ」

果林「私、今、あなたにどんな顔をすればいいか解らないの……」

ランジュ「……」

果林「ごめんなさい、嫌な事を言っちゃって……」

エマ「やっぱり、まだまだだ…」

エマ(久しぶりのライブ。だが、新曲もないし、メンバーも揃ってない。時間だってギリギリだし、ダンスもやはり結構なまっていた気がする)

エマ(練習をしないと離れていくものは多いし、新曲やダンスも大事だ、と強く痛感させられる。今、そういった面をサポートしてくれたあの子がいない。それに対して、何が出来るだろうか)

エマ(作詞か? 作曲か? それとも新しいダンス?)

エマ(果林ちゃんがスクールアイドル部に行った気持ちが、今理解できた気がする。練習をする必要性を強く理解していたのだ。果林ちゃんだから、理解していた)

エマ(私は、同好会という殻に閉じこもり過ぎていたのかも知れない)

エマ(あの子が、それを望んでいたからか――――――あの夜、みんなが手を離れていくのが怖いと言っていた、あの子の)

エマ(それが居心地よくて、甘えていたのだ。ストイックさ、前進する気持ち、それも大事なのだ)

果林「エマ…!」

エマ「…果林ちゃん」

エマ(久しぶりに顔を会わせた気がする。何から話そう、とそう思った時)

果林「昨日、ライブをしていたそうね」

エマ「うん…久しぶりに、ね。色んな人たちの協力があって―――――――」

果林「なんでそんな軽率な事を…!」

果林「今の学校がどうなってるかわかってるの!? それなのに、かすみ達を…」

エマ「こんな状況、だからだよ」

果林「エマ…」

エマ(果林ちゃんは不安で押しつぶされそうな顔をしていた。あの頃の私は、きっと同じ顔であの子に頼ってしまったのだろう。そしてあの子は不安を出す事も出来ずに、追い詰められて)

エマ「学校からは自由の芽を摘み取られて、皆不満が溜まってる」

エマ「ライブの申請だって許可されない。色んな部活も勉学も、ただただ成果だけが求められて、自由にする何かを、夢中になる何かを」

エマ「大好きって言える何かに夢中になる事も出来ない。だけど」

エマ「スクールアイドルは学校をPRするだけじゃなくて、学校にいる人を勇気づけるためにもある」

エマ「だからだよ」

エマ「だけどやっぱり大変だよね…新曲を作る事とか、いざ実際やろうとすると必要な事はいくらでもあるよ」

果林「エマ…」

エマ「果林ちゃん。お願いがあるんだけど…ミアちゃんって、今どうしてるんだろう? ランジュちゃんはすっかり愛想を尽かされちゃったって、昨日…でも、せつ菜ちゃんとも話して曲を―――――――」

果林「エマ……なんでなの…」

エマ「果林ちゃん…?」

果林「カフェテリア前にあった、かすみの段ボール…ひどい壊され方だった」

果林「心配してくれたランジュに、嫌な事を言ってしまった」

果林「何度も何度も、あの日の事を夢に見て、あの子が救えなくて目が覚める」

果林「あの子の事を思うと、心が押し潰されそうで…今はとても、考えられないの…」

エマ(そう言って、泣き崩れた果林ちゃんは――――――ひどく弱弱しく見えた)

エマ「果林ちゃん…私ね」

エマ「練習できない辛さが、痛い程解るの」

エマ「果林ちゃんがスクールアイドル部に行った気持ち、今ならわかる。それに、あの子も…そういった環境でレベルアップできるから、そういう選択肢もありだって、言ってくれてた」

果林「エマ…」

エマ「あの子は、果林ちゃんの選択を、尊重してた。確かに、愛ちゃんの言うように、愛ちゃん達が好きにやってるのを怒れないなら、しずくちゃんや栞子ちゃんを何で傷つけたのかっていうのはある、それはあの子の過ちだと思う」

エマ「だけど……部に行った事そのものには、怒ってない」

エマ「きっと今も、あの子は一人で戦ってるのかも知れない。そうしてしまったのは私たちの責任。その為にも、あの子が帰ってくる場所を、あの子がわかるように、灯し火を打ち上げなきゃ」

エマ「この学校を照らす火を、私たちが打ち上げる。あの子が私たちを照らす灯台だった。次は私たちが、この学校を照らす灯台にならなきゃ。その為の、ライブだよ」

エマ「私、今できる事をやろうと思う。残った手札は少なくても、残りを全部betする。Highcardがなくても、残りのカードで何とかして見せる」

果林「エマ…わたし、あなたが解らないわ…解らないの…」

エマ(私の言葉にも、果林ちゃんは泣き崩れたままだった)


放課後 ザップランド部室棟 庭

エマ(とはいったものの、一週間活動停止は大きいし、栞子ちゃんに至っては実質来週まで戻ってこれない訳だし)

エマ(歩夢ちゃんと愛ちゃんは登校してきてないし、せつ菜ちゃんとランジュちゃんは生徒会で動けない)

エマ(むむむ……)

「エマ」

エマ「あ……」

エマ(部室棟の庭で声をかけてきたのは、留学生たちのまとめ役として、虹ヶ咲学園を陰で支えていたBIG4の四人。しかし、今や彼女たちも親にその影の権力を取り上げられ、この学校の現状に心を痛め、反抗期状態という訳だ。すっかり肩身の狭くなった彼女たちを非難する声がたまにある、とランジュちゃんが言っていたが)

エマ(あの時あの子の味方をしてくれたのと同時に、同好会のファンであることから、私個人としては好感を持っている)

エマ「こんにちは…視察かな?」

留学生・ドイツ「半分視察で、残り半分は引っ越し、かな。こんな寒い時期に、自分たちだけぬくぬくストーブのある場所っていうのも、ね」

留学生・イギリス「とはいっても、この部室棟は狭いから殆ど荷物も置けないわ」

留学生・フランス「本当に電源が少なすぎよ…廊下にしかコンセントがないなんて」

留学生・イタリア「通達、見たよ」

エマ「うん」

留学生・イタリア「一年生の子たちだけ停学だなんて、露骨な事を…」

留学生・フランス「ええ、まったく。昨日のライブ、久しぶり過ぎてついついペンライトを間違えちゃって」

留学生・ドイツ「この子ったら、ずっとピンクを振ってたのよ」

エマ「あはは、そう言えば見えたよ。でも、スカーレット振ってる子もいたから」

留学生・フランス「ふふっ、ありがとう」

留学生・イタリア「今度イベントか何かを開ければそれにかこつけてライブを招くのは良いかも」

エマ「そうしてくれると嬉しいな。ただ…それまでに、新曲なんかも考えておきたい」

留学生・ドイツ「それは楽しみ……なにかあったら、遠慮なく言って」

エマ「ありがとう」

エマ(割り当てられた部室に戻っていく四人を見送って、いろいろと考えていると、庭の炭で焚火をしている生徒たちがいた)

コッペパン同好会部員「焼き芋まだかなぁ…」

手芸部部員「火が通るまでまだかかるよ」

科学部部員「スクールアイドル同好会のライブ、新曲なかったわね」

コッペパン同好会部員「皆揃ってもなかったしね。でも、しょうがないんじゃない? 長く、活動休止してたみたいだし」

科学部部員「それに、スクールアイドル部に変わってた筈の三船さんとしずくちゃんが同好会のライブに出てたのも珍しいわ」

占い研究部部員「当たらせてもらっても、いいかな?」

手芸部部員「おおー、入りなよ、入りなよ」

占い研究部部員「スクールアイドル部、廃部になったからね。また同好会に戻ったからだよ」

科学部部員「なるほど…ただ、スクールアイドル部としてのしずくちゃんは、そこまで嫌いではなかったのですか」

科学部部員「同好会とは違う側面、というのが見れたので」

コッペパン同好会部員「確かに。新たな音楽、新しい側面、進歩には必要だよね」

占い研究部部員「……そうだね。新曲とか、出来ればいいよね」

エマ「………」

占い研究部部員「あ…」

コッペパン同好部員「ヴェルデ先輩も、当たってく?」

エマ「うん、お言葉に甘えて…」

エマ「新曲に、悩んではいるよ…」

エマ(スクールアイドル部だから出来た事もある。だが、その機会はもうない。どうすればいいか、と今の私は自問自答する。その時だった)

バゴン

エマ「!?」

右月「お、覚えてなさーい!」ダダだッ

「けっ! 忘れてやんよ、てめーらなんざ」

エマ(そんな荒っぽい声の後、部室棟の陰から一人の女子生徒が顔を出した)

エマ(いわゆる日本の漫画でスケバンとか不良とかそういうのに乗ってそうなタイプの、女子生徒。とげとげしい金髪と、きつめなメイク。八重歯はかなり鋭く、ブレザーを着崩している)

女子生徒「いた。スクールアイドル同好会の、ヴェルデ先輩?」

エマ「うん…」

女子生徒「…頼みがあってきたんだけどさ、少しついてきてくれね?」

エマ(彼女についていくと、そこは部室棟の一室。まだ空き部屋であろう部屋だった)

エマ(そこには、五人の女子生徒。それぞれ、自己紹介をしてくれた)

エマ(私を連れてきた不良っぽい女子生徒はパンクロック同好会唯一の部員で、ギター担当)

エマ(制服の上から派手な羽織を着ているこれまたパンクな頭の女子生徒が和楽器愛好部の琵琶担当)

エマ(その隣にいたロシア帽とダッフルコートを着てバラライカを持っているのがロシア史研究会の部員)

エマ(この当たりから怪しくなってきたが、窓際で一人、バンカラスタイルな黒マントで三味線を弾いている眼鏡の女子生徒は悪魔学研究会の生徒)

エマ(そして最後に残ったのは、どこかファンタジーな吟遊詩人スタイルだが比較的言動は常識人の生徒は、大航海時代研究部の部員。担当楽器はリュートである)

エマ(ついでに五人とも一年生であり、リュート担当は国際交流学科、三味線担当が情報処理学科、琵琶担当がライフデザイン学科で、バラライカ担当が音楽科で、ギター担当は普通科だそうである)

エマ(弦楽器ばかりで部活も学科もばらばらな集団がなぜスクールアイドル同好会を探していたかは理由がある)

琵琶担当「反骨の相」

エマ「はんこつの、そう?」

リュート担当「ゲリラライブとはいえ、それだけで処分を下すなんて重すぎる。この学校はもっと自由だったはず。だから……ぼくたちも皆さんを見習って、この学校に自由の風を吹かせたい」

バラライカ担当「そしてゆくゆくは赤化の風を吹かせ、虹ヶ咲学園ソビエト化計画の橋頭保とする!」

ギター担当「黙ってサワークリーム舐めてろ、ロシア野郎」

バラライカ担当「なんだと! 北欧かぶれは黙ってろ!」

三味線担当「醜い争いはやめ、やめ。和が大事、さ。和は環。全ては、輪だ」

リュート担当「こうして部活を越えた出会いがあっていい。その筈ですが、その為には、それだけの元気を届けないといけません。なので、一つお願いがあるんです。弦楽器ですから、振り付けも少しは混ぜられます。その為の、振り付けの手伝いをして欲しいんです。厚かましいお願いだとは…」

エマ「いいの?」

エマ「私たち、で」

琵琶担当「スクールアイドル、この檻の中で牙を剥いた者。上等、我らもそれに続くため。それに習う」

ギター担当「ステージに立ってる経験は、アンタらが一番だ、先輩」

ギター担当「ゲリラライブ、最高にクールだった」

バラライカ担当「いかなる荒波にも負けない、スクールアイドル同好会の雄姿! 学園中の同志諸君を動かす為に、私たちも続くまで!」

エマ(この一年生たちの力強い言葉に、動かされる。そうだ、それならばやってみよう。新しい音楽、新しいやり方、新しいものを、少しでも見つけるのだ)

エマ(力強いロック。スクールアイドルの曲とは少し違うが、それでも力強い曲は勇気を出す気持ちになれる)

エマ「うーん……」

エマ(全員弦楽器であるからこそ、下半身の自由が利く。奏でるだけではない、いわばステップ。それはスクールアイドルのライブにも通ずる。だが)

エマ(こういう時に彼女の力を借りられたらいいのに、と思うが今、ここにいるのは私だけだ)

エマ「統一感を出す、にはばらばら過ぎる。だけど、大好きを伝えるには―――――――みんな、好きな言葉ってある?」

ギター担当「一撃、だな」

琵琶担当「意志」

バラライカ担当「革命だ!」

三味線担当「円環、だね」

リュート担当「浪漫かな」

エマ「それぞれをキーワードに、どんな動きをしたいかな?」

琵琶担当「やってみせよう、鮮烈に」

ギター担当「ついてこれっかよ、お祭り野郎」

バラライカ担当「同志諸君、ここは偉大なるヴェルデ先輩同志に従ってだね…」

エマ「赤化禁止!」

バラライカ担当「そんな!」

三味線担当「円環を動くようなステップかな…見本を持ってきた」

ギター担当「漫画で見た事あるな、錬成陣っての?」

リュート担当「漫画の読みすぎだよ」

エマ「それ、魔法陣だよね? あなた、確か悪魔学研究会所属って言ってたけどまさか…」

三味線担当「ああ、時々降魔術会やってるんだ、うちの部室」

エマ「もしもしせつ菜ちゃん!? 学園の部活の基準大丈夫!?」

エマ(まあ、それは元より、彼女たちは見事にばらばらだ。だが、そのバラバラさでも、ケンカしていない。いい具合に、まとまりつつあるというか、誰かがうまくまとめようとしている)

エマ(その仲良しの心地よさが、どこか懐かしく感じられた)

エマ(いや……違う。それだけでは、同じままだ。調律、調和、或いは並列。その殻を、破る。新しい音、新しいもの)

エマ(なんだ、私の中の何ができる? 今の手札で――――――Highcardなんかない)

エマ(私にとって強く考えさせられる事だった)

エマ(二日が過ぎた。彼女たちが選んでくれた曲を、寮の部屋でメドレーしている夕方)

エマ(ロック、民族音楽、民謡、ブラックメタル、クラシック、カントリーミュージック、EDM)

エマ(あの子ならこんな所がいいとか、こんなイメージがあるとか、出てきそうだけど私はそうではない。だけど。だが、どうしたものか)

エマ「うむむ…」

エマ(ベッドに寝転がりながら考えていると、ふとLINEメッセージが届いてるのが見えた)

希『久しぶり』

エマ(μ’sの希ちゃんからだった。嬉しさに思わずベッドで姿勢を正して、メッセージを打ち込む)

エマ『うん、久しぶり。この前は、コメントありがとう。とても、嬉しかった』

希『彼方ちゃんから聞いたんやけど、一年生の子たち、停学になったそうやね』

エマ『うん……ばっさりやってきたよ。ライブの許可が下りないから、色んな人たちに協力してもらって、ゲリラライブを開いたんだけど。その人たちは幸い処分は下りなかった』

希『彼方ちゃんも結構憔悴してたみたいやで』

エマ『果林ちゃんもなんだ……ライブの翌日に、ね。少し、怒られちゃった。なんでそんな軽率な事をって』

エマ『でも…虹ヶ咲学園に元気がない、そんな時、だからやるべきだと思ったし、しずくちゃん達もそうだった。でも、ライブとしてはまだまだだよ。新曲もないし』

希『せやな。けど、好意的なコメントもたくさんや。どんまい』

エマ『うん…あのね。同好会も少し活動停止になってるんだけど、私たちのライブを見て、皆を元気づける音楽をしたいって子たちがいたの。その子たちの手伝いをしてるんだけど…』

エマ『なかなか、上手くいかなくて。こうしてみると、客観的に見るのって難しいと思うの』

希『せやな。言っちゃなんやけど、そういう役割を全部あの子が担ってた』

希『今、あの子なしでやらなければならない。けど、あの子がいないからこそ、やれるだけをやればいいと思う。その子たちらしさを、出していく。それを、どう見極めるか』

エマ(あの子たちらしさ。このバラバラでアンバランスに見える調律。その奥にあるもの)

エマ『ありがとう、一つ閃いたものがある』

希『頑張ってな』

エマ「よし……」

エマ「えーと、メール、メール…」

エマ『私から五人に課題を出します』

エマ『私が踊るイメージが浮かぶ曲を、どんな風に作る?』

エマ(それから二日が過ぎて、土曜日になった。その日はスタジオを借りて練習するのでぜひ見学に来てほしいと誘われたので、せっかくだから私もアンプの準備などで手伝いをしていた時である)

バラライカ担当「ヴェルデ先輩、あまり聞きたくない事ではあるけれど」

エマ(せっかくだからこの赤の扉を、という訳には行かないが赤い一年生がそう口を開いた)

エマ「どうしたの?」

バラライカ担当「スクールアイドル同好会の部長が前の理事長を辞めさせて、それが学校をどん底に突き落としたって話。特待生を取り消された生徒たちが触れ回ってて」

エマ「ああ……」

ギター担当「…あの部長さん、そんな人じゃねーだろ」

エマ(私の呟きに、ギター担当の彼女が助け舟を出してくれた、だが。ここで、言わないといけない)

エマ「同好会の部長は音楽科所属だった。音楽科には、夏季を利用しての短期留学があるの。二学期になって、スクールアイドル部が設立された」

三味線担当「ああ、確かあの先輩。前の理事長さんの娘か何かで、贔屓されちゃいけないからっていう理由で虹ヶ咲学園には当初入学しなかったけど、やりたい事が出来たとかで。二学期の始業式で理事長先生言ってたね」

エマ「……スクールアイドル同好会は、部の存在を理由に活動停止になった。そんな中に彼女が帰ってきた」

エマ「私はその時に、何を言えばよかったんだろう?」

エマ「今でも思うの。部長はさっそく動き出した。でも、すぐに取り戻せないと解った時に、そして部長にとっては私たちが夢中になれる大好きで大切にしたいものだった。それを奪われたら、人ってどうすると思う?」

琵琶担当「意志の根源。それが彼女にとっては同好会とその仲間だった、という訳か」

エマ「そう。だから、部長は、間違ってしまった」

バラライカ担当「間違った…?」

エマ「ランジュちゃんを壊そうとした。たったそれだけの為に学校中まで巻き込む壮大な計画まで立てて動き出させてしまった」

リュート担当「……まさか、あれもなのかな」

三味線担当「どうした?」

リュート担当「いや、生徒会長の抗議運動やるから手伝って言われて立て看板被ってサンドイッチマンになりながらカフェテリアに行ったんだけどね。まさか向こうからも同じ看板持った別グループが来て…そこへ前生徒会長が来て「解散しなさい!」って一喝」

エマ「その騒ぎがあったから、栞子ちゃんも生徒会長を辞めさせられた…それらも含めて、それで、前の理事長を苦々しく思ってた人たちに、部長はわざわざお膳立てした。それが最悪の間違い」

三味線担当「汚い大人相手に一介の学生が手立てを用意してしまった、そこを付け込まれた、という訳か」

エマ「うん……」

エマ「あの子は間違ってしまった。でも、それ以上に、あの子がそうなってしまった原因は、私にもある。同好会の、他の仲間たちにも」

エマ「だから学校がこうなってしまった。その責任をどう取るか、ずっとずっと考えた―――――――でも。私はスクールアイドルだ」

エマ「なら、示すしかない。この学校に、灯し火はある。皆が追いかける灯りは、未来を目指すための光があるって」

エマ(その為に、ずっと出来る事を探し続けた―――――――ゲリラライブをするのだって、今だって、彼女たちから新しいものを持ち帰る為に。ここで折れる訳には行かない)

ギター担当「部長さんには、今どう思ってるんです?」

エマ「もしも会えたら、なんでこんなバカな事したのってすごく怒って、一人ぼっちであんなことを企んでしまうまでに追い込んでごめんねって謝りたい。今、この時もどこかで、一人で戦ってるかも知れない。あの日、心を壊してしまったあの子に」

エマ(それに、また何もしないで待っていたら、あの時と同じ。彼女はきっと今度こそ学園の今に絶望してしまう)

バラライカ担当「ヴェルデ先輩、進化を叫ぶのはどうだい?」

バラライカ担当「先輩のテーマは、進化!」

エマ「大好きを伝えるための言葉、かな?」

エマ(この前、私自身が出した課題。それがまさかそのまま帰ってくるとは。だが)

エマ「いいね…、それ。そうだね、やってみよう」

エマ(一撃と意志、革命、円環、浪漫、そして進化)

エマ(私の殻を破る進化、それは…ダンスか? いいや)

「「「「「歌」」」」

エマ「あ……」

エマ(五人の後輩たちは笑いながら、こっちを見ていた)

リュート担当「曲には、歌が必要でしょう」

琵琶担当「鮮烈なものを届けるには、必須」

三味線担当「私たちの全力に、先輩が歌いたい全力をぶつければいいさ。円環になる、先輩たちが私たちに届けてくれた希望を、私たちが先輩たちにも届ければ」

ギター担当「クソったれな大人に、一撃だ」

バラライカ担当「それが、次の革命につながる。心の革命にさ!」

エマ(私はキーワードを書き残す。今、歌いたい何かを生み出すために)

エマ(その先にあるのは、新しい自分。誰かが求めた自分。そして――――――――スクールアイドルとして、更に進む自分)

エマ(栞子ちゃんが虹の王国を取り戻すために、と言った。その言葉を、真実にしないといけない。それは私たちの責任であると同時に、未来へ進むための手)

エマ(今ある手札を、全部叩き付けて、掴みに行くんだ)

琵琶担当「鮮烈に、意志を貫く」

エマ(月曜日の放課後。空は凄まじくどんよりで、冬に近づきつつある今の時期には珍しすぎる)

ラジオ『大型で強い台風二十六号「イネッサ」は、一時間後には首都圏を強風域に収め、数時間後に関東に上陸するものと見て、気象庁では―――』

リュート担当「ついてないね。せっかく、このザップランドの庭にステージを用意したってのにさ」

バラライカ担当「冬将軍より寒くなければ問題ないさ、同志諸君。ナポレオンやヒトラーよりも」

三味線担当「いいねぇ、それらよりも強大だ」

ギター「奏でてやろうぜ、派手に」

琵琶担当「上等」

エマ(揃いも揃って、そんなものに負けてたまるかと、俗称ザップランド部室棟の庭部分に、五人だ。せつ菜ちゃんとランジュちゃんはライブの許可をどうにかもぎ取る為に色々誤魔化したのだろう。結果的に庭になってしまったのは仕方がない事だ)

エマ(この五人も五人で思い思いだ。ギター担当は愛ちゃんのステージ衣装顔負けなギリギリのパンクファッション、琵琶担当はほぼ着流し、バラライカ担当は相変わらずコートにロシア帽で、三味線担当は女学生風矢絣の上から黒マント、リュート担当も一人だけファンタジー世界な吟遊詩人そのまんま。絶対雨を吸ったら重い)

エマ(放送委員会の子が、部室棟の窓から手を振って準備OKの合図。カメラも回り出すだろう。さあ、頃合いだ。この子たちの全力に乗って、私の全賭けが始まる)

リュート担当「ライブ配信を見ている人たちいるかなー? 皆、こんにちはー!」

ギター担当「訳あって外は最悪のコンディションだけどよ、ちょいと見てくれる分には問題ねーだろ」

リュート担当「ここにいるぼくたち五人、ご覧の通り、楽器もバラバラ。ついでに学科も全員バラバラでね。敢えていうなら、今年出会った仲間たちなんだ」

三味線担当「しかし、それでも一つの輪さ。輪という絆を結んでる」

リュート担当「そんなぼく達、今の学校で出来る事がある。それぞれ好きな音楽を奏でて、元気を届けたいんだ」

琵琶担当「灰が降る空に、貫く一筋の光、それに習う我らもまた、新たな光。そこへ新たな光が続くだろう」

リュート担当「そういう事。ぼく達、一年生で難しいのは苦手でね。がむしゃらに色んなお願いをしたんだ」

バラライカ担当「様々な同志たちの協力で、今日がある。一同、揃って全ての同志たちに御礼を申し上げるよ」

リュート担当「さて、楽器が五人。音楽を届けるにしても、音楽を結ぶ歌が必要だ」

リュート担当「だから今回、ある人にゲストに来てもらったよ。ご紹介します、国際交流学科三年のエマ・ヴェルデ先輩です」

エマ「皆さん、こんにちは。まずは、今日を迎えられて、本当に嬉しい。見ている人にも、手伝ってくれた人たちにも、そして招いてくれたこの子たちにも、まずは御礼を言わせてほしい。本当に、ありがとう」

エマ「この子たちに負けないように、今の全力で歌わせてもらうね」

ギター担当「先輩、裸足なんてロックですね」

エマ「裸足の方が気合が入るからね」

エマ(ギター、琵琶、バラライカ、三味線、リュート。五つの音色。その全てに渡り合うもの)

エマ(進化する意思を持って円環を繋ぐために浪漫溢れる一撃で、革命へと繋げる!)

エマ(この灰が降る王国を、虹の王国へ取り戻すための進化を!)

ギター担当「1、2」

エマ(前奏が始まった。力強い音源、嵐にも負けない重いロック)

エマ(Highcardもない、限られた手札。one pair? two pair? どちらにもなりきれない)

エマ(それでも勝てば手に入る、今ある手札でも勝てれば次のcardだ。正解はどこだ?)

エマ(三味線と琵琶が暴れ出す)

エマ(見た事ない場所で出会った、新しいもの。一つ一つで作り上げた手札。ボロボロで、叩かれて、真っ逆さまにもなる。闇が道を奪っていく)

エマ(叩き付けた手札で切り開く、1ターンでも構わない、次へ繋ぐ事が出来ればいい)

エマ(次に引ける運命のcardだ、狙うはone shot kill。覆う闇を全部引き裂ける程の)

エマ(やってきたのはバラライカ。そろそろ風が強くなる、雨まで降りだして、土砂降りの雨が顔に突き刺さる)

エマ(ここで下りない、次も全額betだ―――――やってあげる、ありったけの手札を使いきれ!)

ギター担当「Woh!」

エマ(サムズアップを返しながら、まだまだサビは続く。五人とも、乗ってる。リュート担当だって、穏やかな言動はどこへやら、ヘッドバンキングまで始めてる)

エマ(もう逃げない、目を逸らさない、明日の為の一撃!)

エマ(居心地のいい揺りかごから飛び出して、嵐が迫る空でも、その翼で飛んでいく為に――)

エマ(手札を投げて、嵐の空でも飛んでいけ、高く。その軌跡が飛んでいく先は浪漫溢れる世界、円環を描いて)

エマ(明日を変える革命の意志を持って、灯し火をあげる)

エマ(もう一回サビだよ、準備はいいかな?)

琵琶担当(上等――――牧歌的ではない、攻撃的。だが、不思議と息は合っている)

バラライカ担当(来るがいいさ、暴風! 同志の意志は、そんなんじゃ折れないぞ? 生半可な覚悟じゃないんだ、冬将軍だって跳ね返せる永世中立国スイスの先輩同志だぞ!)

三味線担当(結ぶんだ、円環を。行け、行け、行け空へ! 浪漫だ!)

ギター担当(燃え尽きるんじゃねぇ、止まるんじゃねぇぞ、このまま行くんだこのまま!)

リュート担当(やっぱりスクールアイドル、凄すぎる。こんな力強いヴェルデ先輩、見た事ない!)

六人「「「「「ありったけの、手札を使いきれ!」」」」」」

ギター担当「Woh!」

エマ「もう逃げない、目を逸らさない、手札を叩き付けて放つ明日への!」

バラライカ担当「革命への!」

エマ「一撃! 嵐が迫る空でも、その翼で飛んでいく!」

リュート担当「高く!」

エマ「浪漫溢れる世界」

琵琶担当「結べ円環、叫べ意志!」

エマ「明日を変える」

三味線担当「灯し火をあげる!」

エマ「革命の意思を持って、Highcardなんかなくても、今ある手札全てで戦うんだ」

エマ「八方塞がり? 四面楚歌? 上等! 今あるすべてがHighcard!」

エマ(東京で一番高い塔に雷が落ちるのが見えた)

エマ(その瞬間に曲は終わる。嵐が迫り、荒れ狂う空。それでも)

エマ(この灯し火だけは、消させない)

放送委員「OK!」

ギター担当「やったぜ!」

放送委員「まさかあの嵐でも演奏続行するとは…ライブ映像がすごい事になりそう」

バラライカ担当「いや、この衣装でも寒いや、やっぱり」

ギター担当「部室棟の中でも暖房ねーけどよ」

リュート担当「でも、楽しかった」

琵琶担当「ああ。ライブ、最高」

三味線担当「もちろん。先輩、本当に…なんと御礼を言ったらいいか」

エマ「ううん。私こそ、皆にお礼を言わせて欲しい。ありがとう」

エマ「皆が誘ってくれたからこそ、見えてきたもの、解ってきたものがある。きっと、スクールアイドル同好会の活動だけじゃ、それは解らなかった」

ギター担当「先輩…」

エマ(こんなに攻撃的、だけど進むべき意志を持つ曲。今まで、私は歌った事がなかった)

エマ(きっとスクールアイドルのエマ・ヴェルデだけでは、たどり着けなかった。彼女たちの、お陰だ)

エマ「もう一度言うね。ありがとう。次は…私たちの番だよ」

エマ(そう言うと、五人はもう一度いい笑顔でサムズアップを返してくれた、そして)

ギター担当「……一つ、いいかな、先輩?」

エマ「なにかな?」

ギター担当「愛さん、どうしてます」

エマ「……あの日以降、学校にもほとんど来てないみたい。愛ちゃんも、酷いショックを受けてた」

ギター担当「部に行ってますからね。かすみは教室でもその事で苛立ってたし」

エマ「あれ? 普通科、だよね」

ギター担当「かすみと同じクラスです。だからその…当初、かすみに声を掛けようと。けど、かすみ停学になっちゃったし…それで」

リュート担当「確かあのゲリラライブにはもう一人いた筈って思い出して、それで先輩を」

三味線担当「ギターの彼女が、ゲリラライブ見てセッションしよう、あわよくばゲストに歌ってもらおうって」

ギター担当「ちょっ!?」

エマ「そうなんだ…本当に、ありがとう」

ギター担当「……私」

ギター担当「中学の頃、すごい根暗で。ゲーム好きで。ゲームセンターに通い詰めしてた」

ギター担当「特に音楽ゲームが好きで。そしたら、ある日『君上手いねー、教えてくれない?』って」

ギター担当「それが、愛さん」

ギター担当「こんな私にも声をかけてくれて、一年も満たない間にすごくよくしてくれて、友達になってくれた。けど、親が急遽転勤になって引っ越さなくちゃいけなくなって。それを話したら、送別会開いてくれて」

ギター担当「高校を虹ヶ咲受けるって話を聞いて…無理言って高校入学を機に一人暮らしを…そんな愛さんにも、少しでも力になれたらって」

エマ「……」

ギター担当「それに、かすみだって、教室でも普段明るくて、なんかいっつも笑わせてくれる、何事も一生懸命。そんな姿が、とても眩しいけれど、でも、自分でもできんじゃないかって思えた」

ギター担当「そしたら、こんなに仲間が出来た」

エマ「……うん! 一年にも満たない時間でも、絆を結ぶのは充分だよ」

エマ「たとえ日本から遠く離れた、スイスにいた私でも、ね」

リュート担当「うん!」

琵琶担当「確かに」

三味線担当「だね」

バラライカ担当「もちろんさ、同志たち」

Prrrrrrrrrr

エマ「あれ…?」

せつ菜『エマさん! 見ましたよ! 驚きました、あれほどに力強い歌声…!』

ランジュ『あれ凄かった! でも、風邪ひかない? 大丈夫?』

エマ「せつ菜ちゃん、ランジュちゃん…うん、それは大丈夫。注意する」

エマ「それと、許可を取ってくれてありがとう。向こうも庭なら大丈夫だと思ったんだろうけど」

せつ菜『素晴らしきオンライン配信、ですね…放送委員の方たちにも御礼を』

エマ「うん、もちろん」

エマ「スクールアイドル同好会以外の事だからこそ、解ったことや見えてきたこともある」

エマ「次は、私たちだよ」


生徒会室

副会長「素敵な音色ですね。それに勇気が湧いてくる」

ランジュ「うん……楽器は、色んな組み合わせがあるのね…なんて言ったらミアに怒られるわ…」

せつ菜「エマさんが果林さんにミアさんの行方を聞いたようですが、やはり…」

ランジュ「日本に来るの、嫌がってたから…」

副会長「休学届けは出てるので、籍はまだこちらに」

せつ菜「休学届、ですか? 退学届けではなく?」

副会長「ええ」

副会長「きっと、何らかの愛着がわいて…え?」

せつ菜「どうしたのです?」

副会長「……」ブルブル

副会長「こ、これ……」

せつ菜「転校希望、ですか……無理もありません、今の学校では…」

副会長「名前を…」

せつ菜「え?」

『転校希望届 普通科二年 上原歩夢』

ランジュ「嘘でしょ…!」

せつ菜(だが、その字は確かに歩夢さんの字で)

せつ菜(新しい道が開けた私たちの元に、別の暗雲がやってきていた)

4/了

5/セイレーンの歌


ある日の夜

梨子「もしもし、海未ちゃん?」

海未『夜分遅くにすみません、梨子』

梨子「ううん…それより、どうしたの?」

海未『この前、凛が千歌から電話をもらったという話を聞いたので…どうかと思って、つい』

梨子「そうだね…千歌ちゃん、やっぱりあの日の事、後悔してる。まだね」

海未『…でしょうね。私も、そう思います。虹ヶ咲の子たちだけではなく、μ’sとAqoursの絆も…』

梨子「うん……」

梨子「ねぇ、海未ちゃん。貰った電話でなんだけど」

梨子「私たちで、なにかしない?」

海未『……私たちで、ですか?』

梨子「うん…鞠莉さん達は、まだあの子の行き先については教えてくれない。でも、もしあの子が帰ってきたら、今の私たちにも本当に絶望してしまう」

海未『そうですね……』

梨子「……だからさ、せめてμ’sの海未ちゃんと、Aqoursの私で出来る事を…」

海未『ありますね』

海未『私たち二人で、曲を作りましょう』

梨子「誰が歌うかは、まだ解らないけれど。私たちで歌うのも悪くないね」

ゲリラライブ後 虹ヶ咲学園屋上

彼方(エマちゃんと一年生の皆のライブ。何か月ぶりになるかも覚えてない、スクールアイドル同好会のチャンネルの新しい動画は早くも視聴回数が伸びていた)

彼方(見ていると、色々な感情が沸き上がって来そうだった)

彼方(なんで私はこの中にいなかったんだろう、なんで皆に駆け寄らなかったんだろうと思えば)

彼方(あの日花陽ちゃんに言われた卑怯だよという言葉が冷たくのしかかる)

彼方(花陽ちゃんのあの日の怒りを思い出すと、私は足が震えてきてしまう)

彼方(なんであんな選択をしたのか。そうだ、怖かった。それは結局)

彼方(罪の全てをかすみちゃんに押し付けてしまった。せめて盗み聞きしたと名乗り出れば、いや、手を染めた方が私はまだマシだった)

彼方(卑怯な私にもう、ステージで輝く資格はない。エマちゃんが涙ながらに話してくれた、かすみちゃんと栞子ちゃんのように、大人しく退部届を出せばよかったんだ)

彼方(でも、今日あの二人は戻ってきていた。あの日のゲリラライブで最後までたち続けたかすみちゃんのように、もう一度戻ってきた)

彼方(冷たくなった風が、私をどこか苛む。もう帰ろう)

彼方(手の中にある水色の爪痕の缶を握りつぶして立ち上がる。こいつはいつも、眠気をどこかに連れてってくれる)


彼方(駅に向かって歩いている間に、コンビニの前を通りがかった時だった)

かすみ「彼方先輩?」

彼方「かすみちゃん…」

彼方「……お疲れ様。皆、盛り上がってたかな」

かすみ「はい!」

かすみ「ただ……やっぱり新曲とかもなかったですし、課題は山積みです。それに」

かすみ「かすみんとしず子とりな子としお子、まとめて停学食らっちゃました」

彼方「え」

かすみ「露骨ですよ、上の悪い人ってのは。まったくクソ理事長め。まあ、でもエマ先輩にはせつ菜先輩とランジュ先輩が合流したから大丈夫だと信じる事にします」

彼方「そんな……」

彼方(停学、だなんて。それは大きすぎる。私の顔を見て心配になったのか、かすみちゃんは慌てて言葉を続ける)

かすみ「大丈夫ですよ、彼方先輩。まだまだ、これからですって!」

彼方「かすみちゃん…」

彼方(かすみちゃんはどうして、耐えられる? その罪の重さに。これから降りかかる困難を前に)

彼方「かすみちゃん…私は…ずっと、謝りたかった事がある」

かすみ「え」

彼方「花陽ちゃんがあの日言ったように、私はものすごく卑怯だった。一人で一歩引いて傍観して、知っていながら何もしなくて。罪を背負うかすみちゃんの苦しみにも寄り添えなかった」

彼方「果南さんが、あの子の仲間だって言えるかって問うた時も名乗り出なかった。かすみちゃんと栞子ちゃんに全てを押し付けてしまった」

かすみ「彼方先輩」

かすみ「彼方先輩が手を出してしまったら、遥ちゃんも傷つけていました」

かすみ「遥ちゃんをも傷つけなければいけない事に手を染める罪を背負うのは、かすみんだけでいい」

彼方「かすみちゃん…」

かすみ「……Liella!の皆と遥ちゃん、訪ねてきたんです。だからその時に、全部話しました。もちろん、すごく怒られて、殴られました。でも」

かすみ「μ’sやAqoursとは違って、立ち上がれって言ってくれました。未来の私と、その時に約束した。もう逃げないって」

かすみ「彼方先輩が手を出さなくてよかった。それに、何もしなかった訳じゃない。知っています。ヨハ子にメールを送ってくれた。あれが、ヨハ子に真実を知らせてくれた」

かすみ「それでも、充分です」

彼方「かすみちゃん…!」

彼方「私は…私は…」

かすみ「彼方先輩」

かすみ「大丈夫です。先輩、言ってくれたじゃないですか。反スクールアイドル運動の事、教えてくれた。だから、大丈夫です。私たちは、まだ立てる」

かすみ「先輩の為にも」

彼方(その真っ直ぐさが、私にはないもの)

かすみ「彼方先輩…今、出来る事をやりましょう」

かすみ「私たちは、先輩に頼り切っていました。そして先輩も、それを背負過ぎてしまいました。だから間違ってしまって、それを止められなかった。でも、まだ全部終わったわけじゃない」

かすみ「今、出来る事を歩いていけばいい。そうすれば、いつか…」

彼方(かすみちゃんの言葉に、私は、涙を流す事でしか答えられなかった)

夜 近江家

彼方「遥ちゃん。話が、あるの」

遥「うん」

彼方「……かすみちゃんが、遥ちゃん達をだましてしまった事」

遥「ああ、その事」

遥「かすみちゃんが、話してくれた。それで、謝ってくれた」

彼方「私は、そのかすみちゃんの罪も傍観していた。そうして、壊れていった部長の事も、黙ってみてた」

遥「……」

彼方「μ’sからも、卑怯だって言われた。Aqoursからも、胸を張ってあの子の友達だって言えるかって聞かれて、答えられなかった」

遥「だからだね」

遥「このライブに、お姉ちゃんはいない」

彼方「うん」

遥「お姉ちゃん」

遥「今のお姉ちゃんが、一番卑怯だよ」

彼方(遥ちゃんの言葉に、手が震えた)

遥「部長さんの事を怖がって、それでいて一人だけ共犯者になってしまったかすみちゃんの事を知っていながら、傍に寄り添えなくて。そうしてこうなってしまった後、卑怯だって言われてたから皆からまた距離を置いてる。同好会の皆に手を貸す事もなく」

遥「なにも、変わってない。そこから歩き出す事も、してない」

彼方「…!」

彼方「でも、私にもうステージに立つ資格なんて」

遥「お姉ちゃん!」

遥「同好会の部長さんが、誰にも頼れなくて間違った方向に全力で突き進んでしまって、それで心まで壊しちゃったのは何のため!?」

遥「ステージを奪われたお姉ちゃんたちが、もう一度ステージに立てるために。バラバラになった同好会を一つにする為に。しずくちゃんや栞子ちゃんを傷付けて、かすみちゃんに重罪を背負わせて、それでもやろうとしていたのは、間違った方法、間違った行き先とはいえ、お姉ちゃんたちの為だよ!」

遥「お姉ちゃんたちの為に、必死に一人で戦い続けてたんだよ――――――μ’sやAqoursの人たちが怒るのだってわかるよ。私たちやLiella!の皆だって。でも」

遥「かすみちゃんはその責任を取って一度は同好会を辞めた。問いただした私たちに、批難されて軽蔑されると解っていても、全部喋って、謝ってくれた。そして、先輩の為、学校の為に、立ち上がってる」

彼方「遥、ちゃん……彼方ちゃん…」

彼方「もう何日も練習もしてないよ…それに、かすみちゃんたちだって、今日のライブで停学になっちゃって…」

遥「出来る事ならあるよ。次のライブの為に、何かできる事が」

遥「部長さんがいない今だからこそ、出来る事、あるよ。お姉ちゃんにも」

彼方「私、に」

遥「………」

遥「一つ、思いついた事あるよ。明日の放課後。待ち合わせ場所を、教えるから来て」



彼方(翌日。遥ちゃんに連れられて向かったのは、青山と原宿と表参道の中間点というか)

彼方(とにかく、普段は来ない場所でよくわからない場所だったが、そこには少しレトロな校門にモダンな外壁――――――校門の看板だけが真新しい)

遥「結ヶ丘女子高等学校。今年開校した学校で、時々スクールアイドルの集まりで顔を合わせたりして、仲良くなったの」

彼方「そうなんだ…」

彼方(遥ちゃんの通う東雲学院のグループにも、私たちにとってかつてμ’sやAqoursがそうだったように仲の良いグループがあるのだ)

彼方(それを大切にしないと、と遥ちゃんに言おうかと迷っていると)

すみれ「良いですか? 虹ヶ咲学園の皆さんを再度越えなくては…それは、新曲! 既存の曲だけのライブとはいえ、このパフォーマンス!」

かのん「それは解ってるけど、曲を作るにしても一朝一夕じゃいかないって」

可可「私タチニハ、いんすぴれーしょんガ不作デス」

恋「…不足です」

千砂都「まあ、確かにね。今まで作ってきた曲と、がらりと変わるものを一つ…或いは視野を広げるかってのはいい考えだと思うけどなー」

かのん「千砂都のダンスに合わせるのにも、少し派手めな曲が必要だよね…」

遥「やっほー。強敵と書いて」

かのん「戦友と読む。遥ちゃん!」

遥「やっぱり、皆も見てたね」

かのん「もちろん。やっぱり、かすみちゃんは凄いよ…とてもしばらく辞めてたとは思えない」

千砂都「かのんちゃんはかすみちゃんのライバルからライバル(自称)にまた格下げだね」

かのん「ちゃんとかすみちゃんもそうだって言ってるから!」

彼方「……そっか、あなた達が…」

遥「うん。Liella!の皆」

かのん「は、遥ちゃんのお姉さん!?」

可可「オオっ! ナント!」

恋「はじめまして。しかし、どうして突然?」

遥「ある意味、図々しい話だって解ってるけど」

遥「虹ヶ咲学園の皆に勝ちたいなら、その事を知る人に特訓の手伝いをしてもらうのが早い。つまり、お姉ちゃんを臨時コーチにしてもらおうかと」

彼方「!?」

すみれ「ファッ!?」

可可「大歓迎デス」キラキラ

かのん「え、いいの!?」キラキラ

遥「という事でお姉ちゃん」

遥「しばらく、頑張って」

彼方(同好会の皆を、ライバルとして見てくれる子たちがいる。その子たちの成長を促す為、というのが表向きの理由。もう一つ、それはサポーターの存在)

彼方(今はまだステージに立つ勇気がなくても、サポーターとして皆を支える。その為に、私も彼女たちの特訓を通じて持ち帰る必要があるのだろう)

彼方「ひとまず…練習を見てみたいかな」

にこ(あの日の出来事は、今から見ても悪夢でしかないが、どうあがいても現実でしかなかった)

にこ(スクールアイドル同好会の活動を禁止するなんて許せない、そんな風に怒鳴り散らしたし、スクールアイドル部に行ったメンバーにもそれぞれ理由があるだろうに、その事を聞かずに罵りもした)

にこ(そして全ての過ちは、あの日私が叫んだ一言)

にこ「止められなかったら、絶交」

にこ(彼女の企みは、確かに止められた。彼女の心という代償を払って。彼女自身の精神を破壊することで悪だくみは止まった。私たちやAqoursのステージが滅茶苦茶になるという最悪の事態を避けられた)

にこ(そう、最悪の事態だけは避けられた。だからあの日、私は虹ヶ咲学園の皆には、彼女をこれからどうすれば救えるかを話せばいい、ただそれだけだったのに)

にこ(溢れ出る彼女への悲しみと涙が喉を塞いで、その涙を見られたくなくて、空いてしまった合間に。まず穂乃果が爆発した。次に花陽が、虹ヶ咲学園の皆を散々に糾弾した)

にこ(かすみがその罪の意識に悩んでないわけはないのに。彼方がその過ちを理解していないわけなどないのに。栞子もそうで、その事を後悔していない筈ないのに)

にこ(鞠莉は怒鳴り散らし、ことりの静かな怒りに加えて、果南の問い掛けにも、彼女たちは答えられなかった。あんな状態で答えられる筈はない、止めてと止めるべきだったのに動けず、声にもできず)

にこ(凛の言うように、虹ヶ咲学園の皆のお陰で最悪の事態は避けられた。友達として、慰める言葉をかける、それが最善の選択肢でそれをするべきだった。私が言葉を紡ぐより先に穂乃果の爆発で、どうしようもなくなっていた)

にこ(信じられないのだ。誰よりもスクールアイドルを愛する彼女がそこまでの狂気に陥るなんて、誰が想像していたのだろう。果南の言うように、そこまで追い詰められ、そんな事を考えてしまう程におかしくなってしまった)

にこ(しかし時すでに遅く、もう虹ヶ咲学園の皆は、あの日穂乃果に追い立てられて部室を出て行ってから、誰とも話す事も出来ていなかった)

にこ(彼女たちがステージへ帰ってくる機会を、私の意地と小さな怒りが、奪ってしまった)

にこ(あの日、電話で善子に叫んでおけばよかった。「今からこっちが虹ヶ咲学園に向かう。あなた達は自分たちの心配をしなさい」と)

にこ(にこが安易に止められなかったら絶交だ、と言ったがゆえに虹ヶ咲学園の皆は自分で何とかするしかなかった。確かに、こっちは巻き込まれただけ、それもある。だから鞠莉同様に、突き放すのも選択肢。だが、友達であった以上、それを選ばない選択肢もきちんとある)

にこ(にこがああ言って、鞠莉は突き放した。しかし、千歌は悩んだ。曜や善子のように、行くべきだろうと思って、それでも行かないことを選んだ。だが、その結果、千歌には「友達を見捨てた」という罪を背負わせてしまった)

にこ(私の選択が間違えていた。千歌はそんな私に「選択を間違えたのは千歌もだ」と言っていた。だが、一番過っていたのは、私だ。千歌じゃない。千歌に、そんな思いを背負わせてしまったのだ)

にこ(そんな心から逃れたくて、練習しているより部室で参考書を広げることが多くなった。だけど)

にこ(絵里と希は、誤魔化しきれなかった。その日は練習が休み、という理由で、早めに帰る途中に)

絵里「にこ」

希「にこっち」

絵里・希「「いい加減、吐きなさい(吐くんやで)」」

にこ(ファーストフード店でボックス席に座るなり、これである)

にこ「あ~! もう! 虎太郎があんた達をまだバックダンサーだと信じてるだけよ」

絵里「んな訳ないでしょ。その場合にこは『こころとここあには違うって言ったけど実はにこは毎回センターなのよ』って言ってるに違いないわ」

にこ「ぬわんでよっ!」

にこ「………そうね。絵里、希。私に対して、失望しない?」

絵里「どうしたのよ?」

希「にこっち、どうしたの」

にこ「…虹ヶ咲学園の、子たちの事よ」

絵里「穂乃果と花陽は口に出したくもないみたい。ことりも、まだ怒ってるみたい」

にこ「真姫は?」

絵里「……前ににこがいない時に、私と真姫だけの時に聞いてみたわ。『花丸の意見に賛成よ。私たちまで火の粉が飛んできて。あの子の自業自得』って…」

にこ「そう」

希「にこっち、あの子たちが気になるの?」

にこ「ええ。後悔してることがあるの」

にこ(あの日私は、穂乃果たちを止めるべきだった。虹ヶ咲学園の皆に、あの子を今後どうやって取り戻すか、話すべきだった。だが、出来なかった。そうして、飛べなくなった彼女たちの事。そして今のμ’sとAqoursについて、千歌に背負わせてしまった重みも)

にこ(全部、話した。希も、絵里も。それについて怒りもしなかった。それが、とても嬉しかった)

にこ(あの日、ルビィを制止したダイヤ。ダイヤが止めた理由はルビィがこれ以上責めれば自分も爆発しそうで、そうなればそれこそ収拾がつかなくなっていたからだ。だが、それほどまでにダイヤもまた、虹ヶ咲学園の皆に怒りを抱いていたのだから)

絵里「そう、なの……それをずっと……」

にこ「あの日の私に、大バカって言うべきよ」

絵里「確かにね…けど。穂乃果に至っては、Aqoursの事でも相当よ。凛が、千歌から電話が来たって話を、海未にしてたわ。鞠莉たちは千歌にもあの子の行き先を教えられないって。それでも穂乃果はだいぶ不機嫌だったから」

にこ(しばらく練習に顔を出していないとそんなになっていたのか、と私は思わず青くなる)

希「…えりちは、虹ヶ咲の皆についてはどう思ってるの?」

絵里「そうね…あの子たちにも、悪いところはあったわ。あの子に相談もしないで部に行った果林たちもそうだし、栞子にことりが怒ったのももっともだと思う。けど……企みは明らかになった。それであの子たちが必死に、最悪の事態だけは止めてくれた。だからこれ以上、責めるつもりもないわ」

希「……」

絵里「希は、どうなの?」

希「見て欲しいものがあるんやけど」

にこ(希がスマホを操作して、私と絵里の前に突き出した。そこには)

絵里「一年生の子たちと…エマだわ…。そっか、あの子たち」

にこ「あの子たち、もう一度…」

希「せや。あの子たち、もう一度立ち上がった」

にこ「海未、凛…それに…曜に善子、梨子も……」

絵里「希…もう。黙ってるなんて」

にこ「まあまあ、絵里。今度…この子たちとも、話しましょう。また、前みたいに戻れるように」

絵里「ええ。あの子の為にも」



彼方(スクールアイドル同好会では、練習する皆を見るという経験は殆どなくて、彼女が観察してトレーナーとして色々こなしていく、その助言をもとにどう表現したいかをすり合わせていく)

彼方(だから、サポーターとして彼女たちを見るのは初めてだった。故に、解ったことは幾つかある。私たちと違い、Liella!はグループだ。故に、グループとしてのまとまりを持つ必要があった)

彼方(例えば千砂都ちゃんはダンスが好きなだけあってか、ダンスは一人だけ群を抜いている。だが、逆にそうであるが故に、他のメンバーを置き去りにしかける部分もある。良くも悪くも乗りの良い曲の方が性に合うのだろうが、Liella!にはそういった曲の土壌がまだないらしい)

彼方(かのんちゃんも歌の面でそういった乗りの良い曲などが性に合いそうなのか、歌声に力が入り過ぎている部分がある。それでいてかわいいを押し出すかすみちゃんとライバルだというのだから、意外なものである。しかし、このひたむきさはかすみちゃんにも似ていた)

彼方(問題はこのLiella!の子たちに最適な助言と解決策を、彼方ちゃんが持っていないという事だ。あの子に頼れば「こうすればいいと思うよ、それよりLiella!の皆を見たいな!」なんて答えでぱぱっと問題解決、正体不明で神出鬼没なウサギより素早いがそんなあの子は今いない)

彼方(どうすればいいか、と思いつつ帰路について、それを考えながら進んでいたら)

彼方「なんで秋葉原に来てるんだろ…」

彼方(果林ちゃんよろしく、盛大に順路を間違えたせいか。とりあえず駅を出て、適当なベンチに腰掛けた)

彼方(もう太陽は西に沈んでいる。あの子たちに何が出来て、それで同好会に何を持って帰れるだろう)

にこ「…彼方?」

彼方「!?」

絵里「ここにいるなんて、珍しいわね」

希「彼方ちゃん……」

彼方「あ…」

彼方(なんて声をかければよいのか、解らなかった。Liella!の事を考え続けていたのもそうだったが、μ’sの皆に今どうやって顔向けできるかも解らなかった)

希「にこっち」

にこ「久しぶりね、彼方。話したい、事があるわ」

にこ「ごめん。ずっと、謝りたかった」

彼方「え…」

にこ「あの時…最悪の事態だけは、あなた達が止めてくれた。ごめん。穂乃果たちを、止められなかった」

彼方「…にこちゃん」

彼方「私達こそ…あの子を。救えなくて…ごめん」

希「それでも、虹ヶ咲の皆は、きちんと立ってくれた」

彼方「ライブの、事だね?」

絵里「ええ」

彼方「ただ……実は今…」

彼方「かすみちゃん達、一年生の皆が停学になった。虹ヶ咲学園は今…」

彼方(ランジュちゃんのお母さんが理事長を解任され、別資本に買収された結果の虹ヶ咲学園を話すと、三人はすっかり青くなった)

希「そんな…!」

絵里「ひどい、なんてことを…」

にこ「あの子が、間違ったことをしたいせいね」

彼方「うん…けど。私は、部長を責められない。部長をそれに駆り立てたのは、私たちだよ」

にこ「彼方…」

彼方(意を決して、話そう)

彼方「実は…」

彼方(かすみちゃんの話と、Liella!の事を話すと、にこちゃんは早くも食いついてくれた)

にこ「なるほど…」

彼方「厚かましい願いだって解ってる。恥も承知だよ。だけど…」

彼方「Liella!の子たちの、練習を手伝ってほしい。サポーターだった部長がいない今、ステージに立つ勇気もない私には、それを学んで持ち帰る事しかない。だけど、私一人じゃできない」

彼方「にこちゃん…絵里ちゃん、希ちゃん。お願い、します」

にこ「わかったわ。明日連れてきて」

絵里「…にこ」

にこ「虹ヶ咲の皆の為にも、確かにそういう目線は必要よ。任せときなさい」

希「せやな。うちもその子たちの事、もっと知りたい」

絵里「…そうね。私たちもその子たちから学べる事はある。大丈夫よ」

翌日 音ノ木坂学院

かのん「ここが…音ノ木坂学院」

恋「歴史を感じさせますね、すごく…綺麗な場所」

可可「アノμ’sに会えるトハ…!」

彼方「落ち着こうか、可可ちゃん」

彼方(あの日の花陽ちゃんの事を思い出してしまう)

花陽「彼方さん…?」

彼方(噂をすれば影、だった)

凛「彼方さん。お久しぶり~」

花陽「凛ちゃん…あれ?」

花陽「結ヶ丘女子の、Liella!の子たちだよね?」

すみれ「な、なんと! まさかμ’sの花陽ちゃんが私たちの事を知っていたなんて…!」

花陽「もちろん。ギャラクシーカリスマ、平安名すみれちゃんもね」

すみれ「!!!」感激のフリーズ

花陽「……そんなLiella!の子たちを、彼方さん、なんで」

「彼方」

彼方「海未ちゃん…」

海未「そして、初めまして、Liella!の皆さん。私は、園田海未。よろしくお願いしますね?」

海未「にこから聞きました」

花陽「あ、あの。海未ちゃん?」

海未「実はですね、花陽。これには事情がありまして…まあ、そんな事より!」

海未「皆さん! 虹ヶ咲の皆に勝ちたいですかー!?」

かのん・千砂都・可可・すみれ「「「おおー!」」」」

恋「お、おー?」

海未「皆さん! どんな特訓をしても、Aqoursの皆を越えたいですかー!?」

かのん・千砂都・可可・すみれ「「「「おおー!!!」」」」

恋「おー!!」←ヤケクソ気味

海未「罰ゲームは怖くないですかー!?」

かのん・千砂都・可可「「「おーっ!!!!!」」」

恋「おーっ!!!!!!!」←楽しくなってきた

すみれ「怖いですわ」

凛「海未ちゃんだからしょうがないにゃ」

海未「それでは、特訓です! 行きますよー!」キラキラ

ぞろぞろ

彼方「花陽ちゃん、彼方ちゃんは…花陽ちゃんが言うように、卑怯だった」

彼方「一昨日のライブにだって、手伝いも、参加してなかった」

彼方「だけど、立ち上がらなきゃ。少しでも、同好会の皆の為に、あの子の為に、どうするか。考えた」

彼方「そこで、Liella!の子たちの、練習を手伝う事になった。サポーターとしての、視点とか、役割とか、あの子がいない今だからこそ、同好会の皆に必要だって思って、それで」

花陽「……彼方さん」

花陽「海未ちゃん達に置いてかれちゃう。行かないと」

彼方「あ、うん」

花陽「でもまだ、虹ヶ咲の皆を許したわけじゃない。勘違いしないで」


音ノ木坂学院 屋上

海未「まずは、柔軟体操をしっかりと。それから少し練習を見せてもらいましょう」

凛「大丈夫。大船に乗ったつもりで任せるにゃ」

にこ「ところで、彼方。まず、彼方が気付いたLiella!の子たちについて教えてもらおうかしら」

彼方「そうだね、まず」

彼方「千砂都ちゃんはダンスが上手い。だけど、時々他の四人を置いて先出ししてる。すみれちゃんがそれに合わせちゃうと他三人とはズレる」

彼方「かのんちゃんは、歌が好き。だけど、それで力が入り過ぎてる時がある。Liella!の曲は静かな曲が多いから、余計にそう思える。すみれちゃんがそれに対抗しちゃうとバランスが悪くなるかな」

彼方「そして二人に似合いそうなノリの良い曲が、まだ少ない。かといって、無作為に増やすというのもどうかと思う。可可ちゃんと、恋ちゃんは千砂都ちゃんとかのんちゃんと比較すると遅れてるように見えるけど、この二人はしっかり合ってる」

彼方「すみれちゃんはかのんちゃんと千砂都ちゃんが先走ると対抗し出すし、そうでなくても自分アピールを入れがち。にこちゃんみたい」

にこ「そこは黙っておきなさいよ…」

彼方「可可ちゃんと恋ちゃんは静かな曲なら息があってる。他の三人より、悪目立ちしないというより調和がある」

にこ「なるほど……」

にこ「ふむふむ……」

かのん(にこさんが真剣に見てる。気合を入れないと)

希「かのんちゃん。少し肩の力抜こうか」

かのん「え? あ、は、はい」

希「いつもやってるように、やればええんやで。あくまでも今は練習や」

かのん「はい!」

可可「ヨイショット…バランスバランス…」

花陽「I字バランス!? 可可ちゃん、すごい…」

可可「こ、今年一年でナントカ」

凛「おおー、しかもその態勢でなかなか…可可ちゃん、後で耐久勝負してみる?」

可可「モウ無理デス~」へなへな

恋「すごい…絵里先輩、もっとコツを!」

絵里「これぐらい、あなたでも出来るわ。まずはこういうイメージで…」

ワイワイ

彼方「……」

彼方(生き生きとしている、Liella!の子たち。この子たちはステージに立って、結ヶ丘女子の名を広めるという目標を持っている)

彼方(今の色を失った虹ヶ咲学園。停学になった、かすみちゃん達)

彼方(私は…本当にサポーターとしてうまくいけるのか?)

彼方(その間にステップの一つも踏まないで、学んでくるという名目で、ただ見学しているだけじゃないか?)

海未「……」

海未「…もしもし、梨子。実はですね…」

海未「例の話です。見つかりました」



かのん「力強い曲に、挑戦したいんです」

海未「なるほど」

かのん「可愛さも大事だけど、歌で勝負したいって思いがあります。そうでなきゃ、かすみちゃんは勝てない気がして」

花陽「かすみちゃんに…?」

かのん「うん。私にとって、かすみちゃんが目標で、ライバルだから」

恋「かのんさん、かすみさんの事を本当に尊敬してますからね」

かのん「それはまあ、そうだけど……あの真っ直ぐなひたむきさは、見習わないとって思ってる。虹ヶ咲学園の人たちに憧れたけど、その中でもかすみちゃんが、一番憧れた」

海未「曲を作っているのは、恋でしたね?」

恋「はい」

海未「作詞は?」

恋「それも私です」

海未「…かのん。そういう時は恋とどんな曲がしてみたいか、を合わせていくのです。かのん自身も、どんな音でどんな言葉につなげるかを聞いて、イメージして、紡いでいくのが大事ですよ」

かのん「は、はい!」

海未「私もよく真姫と曲について話しますし、Aqoursでも千歌と梨子は曲について話しています。そういうものです」

にこ「大丈夫よ、あなた達なら出来るわ」

すみれ「頑張ります! ギャラクシー!」

にこ・花陽「「ギャラクシー!」」

すみれ「…ありがとうございます」顔真っ赤

可可「実は、いんすぴれーしょんガ不作デス」

海未「なるほど…そういう時は他の方の曲を聴くというのも良いでしょう」

海未「普段聞かない曲や、時にはスクールアイドルとかけ離れた曲を聴くのもアリですね。私は、ミア・テイラーの曲とか、わりと」

彼方「!」

海未「どうしました?」

彼方「ミアは…最近姿は見かけない…」

海未「え?」

彼方「部長は、ミアの曲が好きだって言ってて、ミアの事を高く買ってた。ミアも、そんな部長に心を開いて。それで…いや。ミアが部長の役に立ちたいって思いで、した事が。他の皆が気付いたきっかけだった」

花陽「どういうこと?」

彼方「部長は、ランジュちゃんを壊すために、それまでの曲からの声や音楽を繋ぎ合わせて、それに作り物の映像を被せたMVを作った。その完成度を高めるためにミアに渡した」

凛「そんなMV作って、どうするの?」

にこ「……ランジュは簡単に作れる。あの子はそういった形で、ランジュをコケにしたのね」

にこ「優れた設備、プロの作曲家、一流の振付師、最高のボイストレーナー。そしてマーケティング。アイドルなら喉から手が出る程欲しいわ。アイドルなら」

にこ「そうして作られたのはスクールアイドルじゃない。ランジュにスクールアイドルじゃないって事を思い知らせるためだけに」

彼方「…そうだよ。でも、それは部長が意図しないタイミングで、ミアが勝手にランジュちゃん達に見せてしまった。そうして、ランジュちゃん達は歩夢ちゃんに頼み込んだ。謝りたいって。それで、歩夢ちゃんはそれだけで理解したんだよ。あの子が、暴走してるって」

にこ「今、ランジュはどんな曲を歌うのかしら。でも、想像は出来る。スクールアイドル、鍾嵐珠の曲を、私は聞いてみたいわ」

可可「私モデス!」

彼方「………ミアから見限られたランジュちゃんがもう一度ステージに立てるかは、解らないけど」

可可「立てます。私、シンジテマス」

彼方「……」

可可「ランジュさんと同じ系列の日本語学校ニイマシタ。上海デモ、香港校ノランジュさんは有名デシタ。でも、悪い人ジャナイって事ダケハ誰もがシッテル。栞子さんダッテ…」

可可「スク~ルアイドルにツイテ、誤解シテタ。それは否定デキマセン」

彼方「でも。あの子は気づけた…」

可可「ハイ! スク~ルアイドル、ランジュさんガ私の当面の目標デス!」

海未「彼方…明日は、結ヶ丘女子で練習をしようかと。お邪魔しても、よろしいでしょうか?」

かのん「もちろんです! ありがとうございます!」

恋「はい! 宜しくお願いします!」

にこ「明日もよろしくね」

翌日 虹ヶ咲学園 生徒会室

彼方「…という事があって」

せつ菜「……遥さん…それに、μ’sの皆さんも…」

ランジュ「うん…」

彼方「それで、二人も結ヶ丘女子に来て欲しい。今、出来る事を私もやろうと思う。だけど、私一人じゃ無理だ。可可ちゃんの事でも、ランジュちゃんに協力して欲しい」

ランジュ「…わかった。やってみる」

ドタドタ

副会長「大変です!」

せつ菜「どうしたの?」

副会長「理事会が、たった今…『全ての特待生について再審査を行う』との事で…全員、特待生を一度は取り消し扱いになります。返答は明日ですが…」

彼方「―――――――――」

彼方(やられた。連中は汚い。それを、使ってきた)

せつ菜「そんな…彼方さんは」

ランジュ「酷い……そうだ! お金なら、私…」

せつ菜「いや、敵は汚い。ランジュさんのお母さんの事を言って、その手段も…」

ランジュ「くっ…!」

彼方「もう、時間だ…とにかく、行かないと」

彼方「行こう…結ヶ丘女子に」



せつ菜「歴史ある風情ですね」

ランジュ「ええ。とても綺麗」

彼方「おじゃまします」

恋「彼方先輩。それに…虹ヶ咲の皆さんも。ご足労いただき、ありがとうございます」

可可「ランジュさん!」ピコん

ランジュ「こんにちは、可可」

恋「さっき、矢澤先輩と園田先輩と、花陽さんが来ましたよ」

彼方「わかった。ありがとう」

恋「…彼方先輩、どうしたのです?」

彼方「ん? 少し、ね」

海未「おや、せつ菜に……」

ランジュ「こうして、真剣に挨拶するのは初めてね」

ランジュ「鍾嵐珠。はじめまして」

海未「同じく、初めまして。私は、園田海未」

海未「優れた実力だと、聞いていますよ」

ランジュ「…どうなのかしら。私は、スクールアイドルというものを理解していなかった」

海未「そうですね、かつては」

海未「今は違う。そう言える。だから、可可の目標でもあるのです」

彼方(ふと、目についたものがあった。廊下に貼ってあるのは奨学金の張り紙でそれに目をやっていると)

かのん「彼方先輩、どうしたんですか?」

彼方(やはり、かのんちゃんは鋭い)

彼方「……汚い大人が、色々ね」

海未「…どうしたのです」

彼方「特待生を取り消されるのが確定しちゃってね…正直、困ってる」

にこ「…は? それで彼方、もしかして…」

彼方「虹ヶ咲学園を退学しなきゃいけなくなるかも。けど……」

彼方「今、諦めたくない。同好会の皆は完全には集まってないし、部長さんだってまだ行方知らず。でも、あんな学園を見てると、そんな時だから、立たなきゃいけないってのが、わかる。いや」

彼方「エマちゃん達は、立ち上がった。彼方ちゃんも、しないと」

可可「ナントカシナイトとはオモイマスガ…」

にこ「ランジュ、あんたチャイナマネーで何とかできないかしら」

ランジュ「それは考えたけど、連中はママを更迭した。その事を言ってきそうだわ。お金だけはあっても…」

海未「そんな無茶苦茶な…」

恋「あのー……」

恋「関連性がない奨学金からもらうというのはどうでしょう?」

彼方「けど、今からって…」

海未「いえ…今、恋はいい事を言いましたよ。関連性がない奨学金が、あれば良いのです」

恋「ランジュさん、資金はあるって」

ランジュ「ええ…お金だけはあるのよね、お金だけは」

恋「私のお母さまは結ヶ丘女子の創設者で、教育に貢献したいと結ヶ丘女子を開校したんです」

海未「それです。そんな人が資金を募って、奨学金を作るとなれば」

彼方「新しい奨学金を作っちゃうの!? けど、そういうのにしても…」

恋「大丈夫です」

恋「必ず説得します。やります。彼方先輩も、他の先輩たちも私たちの為にこうして足を運んでくださりました。その恩返しを、少しでもできれば」

彼方「恋ちゃん…みんな……」

せつ菜「で、ですが。そういうのを作るにしても、運営の為の事務局とかも…」

海未「それは心当たりが一つありますね」ピポパ

海未「ご無沙汰しています、おばさま。実は相談したい事が…」

彼方(その後、あれよあれよという間に事は進んでいった)

彼方(翌日、確かに特待生取り消しの通知が来た。そして直後に、ことりちゃんのお母さんから私のお母さんに電話が入り、新設の奨学金を受け取れることになった)

彼方(そう、新設の奨学金だ。ランジュちゃんがお母さんから貰ってきたポケットマネーが恋ちゃんのお母さんに贈与され、それを元手に奨学金が設立、である。外部の奨学金なので虹ヶ咲学園が関わってない以上、学園の上層部はそれを拒否なんて出来ない)

彼方(恋ちゃんのお母さんに御礼を言いに行くと、Liella!の皆を気にかけてくれたことを感謝された)

彼方(そして土曜日になって、再び音ノ木坂にてLiella!の皆の練習を手伝うという事から、私たちは音ノ木坂に再度足を踏み入れた。せつ菜ちゃんとランジュちゃんには断りを入れて、理事長室に御礼を言いにいった)

彼方「本当に…なんと御礼を言ったらいいか…」

ことりママ「いいのよ、気にしないで……海未ちゃんから、聞いたわ。ことりが最近、少し塞ぎこんでいるのも、そういう理由だったのね」

彼方「…はい。私たちの」

彼方(頭を下げた時、ことりちゃんのお母さんがそれを遮った)

ことりママ「いえ…虹ヶ咲学園の買収話、私もね。あの子から持ち掛けられたのよ」

ことりママ「そんな事をしていいのかしらという意味を込めて、あの子には認めないと言ったわ」

ことりママ「それが余計に焦らせてしまったのかも。それに」

ことりママ「もっと鞠莉ちゃんのお父様とも話して、せめてことり達にその話をしておくべきだったかも知れないわ。汚い大人の話でもあるから、引っ込めてたのが裏目に出た」

彼方「それでも、あの子の暴走を知っていて、止められなかった私の責任も大きいです」

ことりママ「そうね。でもこうして、その過ちを認めて、前に進もうとしてる」

ことりママ「前に進もうとする子供の、背中を押すのも大人の仕事よ」

彼方「はい…! ありがとうございます…!」

ことりママ「さあ、あの子たちの所に行ってあげて。先輩として、導くことも大事よ」

彼方「私が…はい」

ガチャリ

音ノ木坂 講堂

彼方「ごめん、お待たせ」

海未「ああ、来ましたね、彼方」

梨子「お久しぶり」

彼方「…梨子ちゃんも…久しぶり」

梨子「うん」

にこ「彼方も来たことだし、海未。話って何かしら? いつまでもLiella!の子たちを待たせてられないわ」

すみれ「そ、そんな事は…海未先輩も考えがあっての事ですし」

海未「あの日の夜以来、私たちはバラバラになってしまいました」

梨子「せめて私たちだけでも、と思っていた時に。虹ヶ咲の皆はまた立ち上がった」

海未「そして、そんな背中を目標にしてくれる子たちが、ここにいます」

梨子「何ができるかを考えた…それで…私と海未ちゃんで、曲を作った。その歌い手を探してた」

海未「ええ。見つかりました」

海未「彼方。Liella!の子たちの臨時コーチになる以上、一つは見本を見せないと」

彼方「海未ちゃんと、梨子ちゃんが作った曲を、私が…?」

せつ菜「それって……!」

梨子「……うん。もう一度、取り戻さないと。あの子が一度は紡いでくれた絆は、あの子が切っ掛けでばらばらになってしまった。だけど」

海未「もう一度立ち上がった皆の為にも、もう一度紡ぎましょう」

海未「そして、新たに出来た絆の為にも、ね」

彼方「…皆…」

彼方「……わかった。歌って、いいかな」

海未「もちろん」

梨子「うん」

彼方(海未ちゃんが作詞して、梨子ちゃんが作曲して、私が歌う)

彼方(前を向いた。にこちゃん、希ちゃん、絵里ちゃんも大きく頷いていて、凛ちゃんも笑顔で、そしてせつ菜ちゃんもランジュちゃんも、Liella!の皆だって)

彼方(反対に目を向けると、真姫ちゃんは少しだけ微笑んでいて、花陽ちゃんだけは少し驚いた顔だったけど)

花陽「スクールアイドルは、ステージで見せないと」

彼方(それを聞いて、頷いた。衣装もない、ライトもついてない、制服で立つ、音ノ木坂の講堂。私たち以外誰もいない)

彼方(静かな曲が始まる、暗く冷たい海を進もうとする、一つの船。そこへ響く歌声)

彼方(その歌声は、時として惑わせる。だが、それは暗い海の中でも一つの導)

彼方(だから過ちもある、苦しみも、荒波の中、暗い悪意の海を越えていかなくちゃ)

彼方(勇気を振り絞って、その歌声を導に海を征け)

彼方(今、高らかに―――――――――このセイレーンの歌を、歌おう)

かのん(彼方さんの歌声が、静かに、だが力強く響いた)

すみれ(虹ヶ咲学園の人たちは、やはり、すごい。とてもブランクがあるとは思えなかった)

すみれ(いいや、違う。惑いを振り切り、勇気を振り絞って悪意の海を越え行く。その為の歌だ)

可可(これが、スクールアイドル)

ランジュ(これが、スクールアイドル)

恋(たった一人の、一曲だけのステージ。それでも、これほどまでに心を震わせる歌が、ここにある)

千砂都(私たちもいつかこうなれるだろうか、いいや、なるんだ。なってやるんだ)

かのん(迷ったら、星を追いかければいい、と彼方さんも歌う)

にこ「彼方……」

絵里「ええ……とても、歌ってなかったとは思えないわ」

希「せやな、なんだか…久しぶりに、いい歌を聞いたよ」

凛「…かよちん」

花陽「うん」

花陽「彼方さんは、きちんと自分が悪いって向き合ってた。その中で、何ができるかを、必死に考えた。そうしてLiella!の子たちを導こうとして、それで自分たちにも向けようと思ってる」

花陽「しっかり、向き合ってる」

花陽「エマさん達も、そう。自分が今できる事を、してる」

花陽「……おかえり、虹ヶ咲学園の皆。もう一度」

花陽「私に、皆を友達って呼ばせてほしい」

せつ菜「………ありがとう、花陽さん」

花陽「今は、彼方さんの」

花陽「歌に、注目しなきゃ」

梨子「奨学金の広告動画に?」

海未「なるほど、この曲を使いたい、ですか」

恋「は、はい…無理に、とは言いませんが、母は宣伝も作らないとと言っていたので…」

彼方「なるほど……」

梨子「海未ちゃんは、どう?」

海未「……実は言うと、反対する理由は…ないですね」

梨子「同じく。彼方さんは?」

彼方「ないよ、恋ちゃん。お願い出来るかな?」

恋「ありがとうございます」

彼方(恋ちゃんにも、御礼をいくら言っても足りない位だ。わざわざ新しい奨学金設立に関わってくれた、恋ちゃんのお母さんにも感謝だ)

花陽「海未ちゃん」

海未「おや、花陽。どうしました?」

花陽「にこちゃんとも話したけれど…次のライブ」

花陽「Liella!の皆に、ゲストとして立って欲しいと思う。穂乃果ちゃんとことりちゃんも、嫌とは言わない筈」

海未「それは名案ですね。彼女たちのステージを、見てみたいですし」

花陽「それで、話し合わないと」

海未「……花陽。それだけではないですね?」

花陽「うん…海未ちゃんや梨子ちゃんも言ってた」

花陽「絆を、もう一度つなぎ合わせて、新しい絆の為にも」

梨子(そう言った花陽ちゃんの瞳には、確かな意思が宿っていた)

5/了

5.5/臨界点

せつ菜(スクールアイドル同好会の、活動停止が解除された)

せつ菜(月曜日の台風のせいで部室棟は雨漏りがひどい上に傾きかけた場所があったが、修復工事は今日明日には終わりそうだ。エマさんがその事を元BIG4の留学生四人組に話したお陰か、彼女たちは理事会が動く前に業者の手配を済ませてくれたのであった)

せつ菜(なので明後日からはまたあの酷い部室棟とはいえ、集まれる。そして、活動停止解除と共に彼方さんが戻ってくる。だが、私の気持ちは晴れない)

せつ菜(歩夢さんの事だ。長らく登校もしていないようだが…どうすればいい)

せつ菜(せめて、少しでも話したい。部長は行方知れず。同好会の活動には圧力がかかっている。反スクールアイドル運動なんてのもあり、彼方さんは特待生取り消しの学費免除撤回だ)

せつ菜(パソコンを立ち上げる。新しい奨学金の広報動画が今日から公開だ。日曜日に結ヶ丘女子で検めて撮影した動画。海未さんと梨子さんが作った曲を歌う、彼方さん)

彼方『夢に進む道を、諦めないでいてよ』

せつ菜(続いては、月曜日に歌っていたエマさん。台風に負けず、力強く歌うエマさん)

せつ菜(とりあえず、練習しているであろう屋上に向かうとしよう)


虹ヶ咲学園 屋上

かすみ「カスが一番取る下克上! 中須かすみ!」ワインレッドスーツ&アフロ装備

しずく「レッツパーリィ! 奥州筆頭、独眼竜王! 桜坂しずく!」眼帯&甲冑装備+六爪流

璃奈「心配いらない、無限バンダナ。天王寺璃奈」スニーキングスーツ&バンダナ装備

栞子「冥府からこの地を守る為、甦りし冥人。三船栞子」冥人の鎧装備

彼方「ベイカー家から寒村まで踏破する人間B.O.W、近江彼方」アルバート-01モデルガン装備

エマ「怪人、赤の王にして赤毛の冒険家! エマ・ヴェルデ!」詰襟赤マント装備

ランジュ「へへ、燃えたろ? これが草薙の拳よ! 鍾嵐珠!」学ラン&バンダナ+指ぬきグローブ装備

七人「「「「「「「…」」」」」」」

しずく「…やっぱり違いますね」

璃奈「ゲーム系スクールアイドル、やはり何か違う」

エマ「いい発想だと思ったんだけどなぁ…」

ランジュ「何事もそうそう上手くはいかない、曹操もそう言っていた、なんて」

かすみ「ランジュ先輩が愛先輩に微妙な影響を受けていた」

ガチャリ

せつ菜「おや、皆さん…なかなかカッコイイ感じに!」キラキラ

栞子「そ、そうですか? こういうのには疎いのですが」

せつ菜「三船さんもそうですが、彼方さんも良いですね…。まさかのイーサン・ウィンターズと来ましたか」キラキラ

彼方「彼方ちゃんは槍一本の真田幸村とかもやってみたかったけど」

エマ「意外と似合いそうだね」

ランジュ「部室棟の修理工事は、明日で終わりそう?」

せつ菜「幸い、終わりそうです」

せつ菜「………」

せつ菜(愛さんも果林さんも、学校に殆ど顔を出さなくなった…エマさんが言うには、果林さんはゲリラライブの翌日からずっと休んでるらしい)

せつ菜(それで歩夢さんは、転校を考えている)

せつ菜(今、この話をするべきかどうか、酷く迷っている。皆にするべきか、否か。いや、私が黙っていてもランジュさんが話すだろうか)

しずく「せつ菜さん…どうしたんですか?」

せつ菜(いや…話さないと。今、こうなってるのだって、部長が話してくれなかったからだと、愛さんも言っていた)

せつ菜「……月曜日に」

せつ菜「生徒会室で…転校希望の届け出を、見ました。歩夢さんの」

せつ菜(ランジュさんが俯いたのと同時に、全員の時が止まった)

エマ「…どういう、事…?」低音

せつ菜「詳しくは、聞かない事には…」

しずく「でも、突然…なんで」

かすみ「先輩の事、だとは思う。それ以外は……」

「皆…ここにいたんだ」

せつ菜「歩夢さん…」

せつ菜(こうして顔を合わせるのは、殆ど一月ぐらいぶりだった。それぐらい、歩夢さんは学校に足を運んでこなかった)

せつ菜(目の隈はひどいけれど、かすみさんや栞子さんのように頬がこけてる事はない。睡眠不足気味だが、食べられてはいるようで、少し安心した)

歩夢「……せつ菜ちゃんは、もう知ってるって顔してるね。その事を、話しに来た」

せつ菜「え、ええ…。今…すみません、皆にも」

歩夢「そっか」

エマ「歩夢ちゃん…どういう事…」

歩夢「音ノ木坂から帰った後に、考えた。一生懸命、考えた」

歩夢「ルビィちゃんが言うように、私はあの子に寄り添えてなかった。だけど、あの子があの日に言っていたことを、考えたの」

歩夢「『手を離れて飛んでいくのが、すごく怖くて怖くて怖くてたまらなかった』って」

せつ菜(あの日、部長が言っていた事。果林さんや愛さんが部に言ったことを怒れない、と告げた後、愛さんから間違っていると問い詰められた時、震えながら漏らした、部長の本当の言葉)

歩夢「にこさんは、私たちがあの子に頼り切っていた。だからこうなったと。でも、あの子も私たちが一人で立つのを恐れていたんだと思う。だから、あんな事をした」

歩夢「でも、あの子の行き先は解らない。そして、虹ヶ咲学園は今、こんな有様…きっと今、あの子が見たら絶望してしまう。でも」

歩夢「だからと言って、何もしない訳じゃない。だから私は」

歩夢「あの子から、独り立ちしなきゃいけないって思った」

栞子「歩夢さん……」

歩夢「卑怯なのは解ってる…こんな状態から、離れていくなんて。だけど」

歩夢「あの子を待ち続けて、灰の王国で無理に飛び上がろうとして落ちるよりも、未知なる空で、飛んでいる姿をあの子に見せる私でいたい!」

歩夢「……怒ってくれてもいい。軽蔑してくれてもいい。でも」

歩夢「私は、あの子と別の道を選ぶことで、あの子に伝えたいの」

せつ菜(残酷にも思える選択、だけど。それは歩夢さんだからこそ出た答えだったのだろう)

かすみ「……そんなの」

かすみ「…反対、出来る筈もないですよ…歩夢先輩…!」

せつ菜(かすみさんが絞りだすように呟く。他の皆も、今にも泣きそうだ。だが)

彼方「……寂しく、なるね」

歩夢「うん……急で、ごめんね。けど…あの子の両親も、だいぶ参ってるの。それで、お父さんとお母さんも、二人に寄り添う事に決めたみたい」

彼方「行き先は…決まってるの?」

歩夢「……親戚がね、三島の方で、幾つか家を持ってるから…そっちに」

ランジュ「…三島…どの当たりかしら」

栞子「沼津の、隣ですね」

歩夢「そうだね……Aqoursの皆と、近いから。会っちゃうかも。少し、顔を合わせづらいかな…」

彼方「大丈夫だよ」

歩夢「え…?」

彼方「大丈夫。きっとね」

せつ菜(なんて声をかけたらいいか解らなかった。歩夢さんに)

せつ菜「歩夢さん…」

歩夢「せつ菜ちゃん」

せつ菜「私は……なんと声をかけたらいいか解りません。あの子を、連れてきてくれた歩夢さんが」

せつ菜「こうしてあの子がいない間に離れていくのを…私は、なんて送ればいいのか」

歩夢「そんなの、一つだよ。私は知ってる」

歩夢「スクールアイドル、優木せつ菜が、上原歩夢を認めてくれてるって事は。だから…」

歩夢「久しぶりの、せつ菜ちゃんのステージが、見たい」

せつ菜(歩夢ちゃんの言葉に、はっとする。だが、今ゲリラライブをやっていいのだろうか)

栞子「…出来ますよ」

せつ菜(私の言葉を見抜いたように、三船さんが口を開いた)

栞子「生徒名簿に優木せつ菜という名前はどこにもありませんから」

せつ菜「……良いのですか、私で」

ランジュ「いいのよ、あなただから」

ランジュ「私がスクールアイドルを名乗ってライブをするには…まだ準備が足りないわ」

ランジュ「曲を作ってみたいの。自分の手で、自分が歌いたいものを…でも」

ランジュ「まだ、出来ない」

せつ菜「ランジュさん…」

歩夢「…それを聞いてみたかったけど、それには時間が足りないかな。ランジュちゃん」

歩夢「もしもあの子にまた会えたら、きっとあなたはもう、あの子の友達。大丈夫だよ」

ランジュ「歩夢っ…! ありがとう…! 必ず、そうするわ」

せつ菜(歩夢さんが、最後に登校するのは明後日だという。ならば)

せつ菜(その日を、盛大に、送ってやろう。スクールアイドル、優木せつ菜の復帰ステージ。そして)

せつ菜(上原歩夢の、虹ヶ咲学園での卒業ライブを)



せつ菜(生徒会室に行き、その事を副会長に話すと、彼女は悲し気に項垂れた)

副会長「辛いものですね…同級生との、突然の別れなんて」

せつ菜「ええ…それで、明後日。一つ、ゲリラライブでもしようかと思いまして」

副会長「そうですね…空いているところ…アトリウムが、一番目立ちますね。特に何のイベントもない日ですし」

副会長「優木せつ菜の復活ステージと言えば、皆集まる筈です」

せつ菜「……ありがとう」

副会長「私も、同好会のファンの一人ですから」

せつ菜(そう言ってくれるのが、とても、嬉しい)

副会長「ああ、そうだ。例の元生徒会役員の二人についてですが…特待生取り消しで、学費免除撤回の事で、少し妙な話がありまして」

せつ菜「妙な話?」

副会長「入試の成績がトップクラスで入学金免除もあるほど…ですが、その……取り消しになった後。両親はそのまま払ってきたんだそうです」

せつ菜「…払ってきた? それって、金銭的には」

副会長「困ってないって事に…なりますね。で…調べた人は更に調べを進めたところ」

副会長「なんと父親は三船財閥の役員クラスで、子会社をいくつか任せられてる程。母親は世界有数のアパレルブランドのデザイナー」

せつ菜「……なんだか怖くなってきましたね」

副会長「金銭的な事情はないのに、そこまで恨みを抱いてしまうなんて」

副会長「何の事情があったのでしょう?」

せつ菜「知ってるのは本人たちのみ、か」

副会長「ああ、そうだ。出入り許可証、ようやく調達出来ましたよ。五人分!」

せつ菜「え?」

副会長「これから、きっと必要な筈です。あの子たちの為にも、ね」

せつ菜(副会長が差し出したのは虹ヶ咲学園のビジターカード。そこに振られた名前は、Liella!の五人」

副会長「いい子達ですね、ファンになっちゃいました」

せつ菜(まったく、副会長も好きになったものだ。だけど、それが凄くうれしい)

せつ菜(門出は、祝福であれ。この灰が舞い降りる王国に、一つ花火でも打ち上げるんだ。遠くからでも見える、灯火たる花火を!)



しずく「カメラ、よしです」

ランジュ「音源、おっけー。かすみ、そっちは?」

かすみ「マイク大丈夫ですよ。エマ先輩、彼方先輩、映像は?」

エマ「よーく見えてるよ」

彼方「こっちも平気。璃奈ちゃん」

璃奈「大丈夫。今から、繋げるね」

璃奈「せつ菜ちゃん、歩夢ちゃん」

璃奈「準備が、出来た」

歩夢「久しぶりに衣装を着ると、身が引き締まるね」

せつ菜「ええ……確かに。歩夢さん」

歩夢「うん、せつ菜ちゃん」

せつ菜・歩夢「「スクールアイドル同好会のゲリラライブにようこそ!」」

せつ菜「皆さん、お久しぶりです! 優木せつ菜が、皆さんの前に帰ってきましたよっ!」

副会長「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」スカーレットブレードフリフリ

歩夢「本当にお久しぶり! このステージに立てて、私は今、とっても嬉しいよ!」

水泳部員1「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」競泳水着ダッシュでアトリウム着

水泳部部長「気持ちはわかるが身体を拭いて服を着なさい服を!」

水泳部員1「あゆぴょんが帰ってきたんだ! こんなに嬉しい事はない…!」

歩夢「…」じわっ

歩夢「すごく嬉しい声が聞こえたよ」

せつ菜「ええ。でも泣くのは、あとあと。今は」

歩夢「本気で大好きを伝えよう、せつ菜ちゃん!」

せつ菜「はい! 二人の本気で!」


音ノ木坂学院 生徒会室

穂乃果「……寝てた、のか…最近、生徒会の仕事ばっかりだからかな…」

穂乃果(年末が近くなってきたことだし、生徒会の仕事も立て込む。その間、部活の事は他の皆に任せきりだった。ここ数日は生徒会にかかりきりで、部活に顔を出せもしていない。なにやら海未ちゃんがやたらご機嫌だったのはわかるが)

穂乃果(それにしても、最悪な目覚めだ。あの日の言葉ばかりが妙に耳に残る)

千歌『穂乃果ちゃん。失望したよ』

穂乃果(誰よりも、何よりも、その言葉が、私の心に深い影を落とした)

穂乃果(虹ヶ咲学園の彼女の喪失が、まさか虹ヶ咲学園のみならず、本当に全てに燃え盛るとは思ってもいなかった。千歌ちゃんからあの日言われた事に酷くイラつく)

穂乃果(だけど同時に、それが酷く胸を締め付けた。残酷だ、じゃあなにをすれば良かったんだ、何も知らない癖にとでも怒鳴ればよかったのだろうか)

穂乃果(彼女の生死も解っていない。そして、虹ヶ咲学園の子たちももう、二度とステージに立てるとは思えもしない。いや……それでいいんだ)

穂乃果(花陽ちゃんの言うように、あの子たちが卑怯で臆病で、果南ちゃんが言うように頼れなかったから、こんな事になった。いい迷惑だ)

穂乃果(眠気覚ましに音楽でも流そうとした、動画サイトにつないだ時だった)

穂乃果「…ん?」

穂乃果(新着のライブ映像がありますのPOP。そのチャンネル名は)

穂乃果(虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)

穂乃果(何故か思わず凍り付いた。なんだ、何が起こっている? 私の知らない所で)

穂乃果(慌ててその動画を開いた)

穂乃果「せつ菜ちゃんと、歩夢ちゃん」

穂乃果(二人の、ステージ。優木せつ菜ちゃんの力強さ、歩夢ちゃんの一歩一歩進むやさしさのイメージが、背景も何もない、殆ど虹ヶ咲学園の片隅とも言える場所で、それでも出来ている)

穂乃果(たった二人だけなのに、圧倒される。どうして、ここまで)

穂乃果(顔も見たくない筈じゃなかったのか? そうだ、それほどまでに裏切られる出来事だった)

穂乃果(いや……)

穂乃果(私だけが、あの日のまま、取り残されているのか?)

ガチャリ

海未「…戻りました、おや、穂乃果?」

ことり「穂乃果ちゃん、どうしたの?」

穂乃果「………」

ことり「これは…せつ菜ちゃんに、歩夢ちゃん? 二人のライブってのも、珍しいね」

海未「………」

穂乃果「……海未ちゃん。二人に、何かいう事はないの?」

海未「穂乃果はどうなのですか?」

穂乃果「質問に質問で返さないでくれる、海未ちゃん」

海未「今度は、二人の番なのですね。と言います」

穂乃果「……どういう事?」

海未「今はまだ、穂乃果とことりには言えません」

海未「それと…部活の事で、話したい事があります」

穂乃果「………なに」

海未「合同ライブを開きたいのです。素敵で、ひたむきな子たちがいます。私たちと同じステージに立つにふさわしい子達です。今度、打ち合わせに呼びますね」

ことり「……私はかまわないけど」

穂乃果「……わかった」

海未(穂乃果の瞳は、まだ動画に向けられたままだ。どこか、冷たくも、切なげな目が、ひどく記憶に残る)


せつ菜「名残惜しいですが…あまり長い時間、出来ないのが残念です。次に会う時には、新曲を届けたいのですが」

がんばれー! 大丈夫! 歩夢ちゃーん!

歩夢「うん……皆、ここまで応援してくれて、ありがとう。本当に、ありがとう!」

歩夢「きっと…また会えるから、また、会えるからね! またね!」

あゆぴょーん! 次のライブを待ってるー!

そういえば上原さん、今度転校するって…? え、なにそれ初めて聞いた

歩夢「うん、またね…、また、会えるからね! またね!」

せつ菜(手を振りながら、ステージから降りていく歩夢さんの、瞳には涙が溜まっていた)

せつ菜(それでも涙を流さないのは、まだステージから見えるから。それが、歩夢さんの強さだった)

せつ菜(だけど、歩夢さんがこの王国を離れるのは、未知なる空で飛ぶための一歩)

せつ菜(その門出を、どうして邪魔することが出来ようか)

せつ菜「歩夢さん!」

せつ菜「また、同じステージに立ちましょう! 必ずですよ!」

歩夢「…うん。せつ菜ちゃん、またね!」

せつ菜(そう言って向けられた手は、しっかりと。空に向いている)

5.5/了

5.8/ぼくだけはみすてない

ミア(彼女は転々とする生活を、終えた)

ミア(頼み込みに次ぐ頼み込みだった。だけど、彼女の為なら辛くは無かった。医療スタッフは百人を超えているし、この国からもバックアップは出ている。それでも)

ミア(彼女は、まったく変わる事なく、四回目の心停止と蘇生を迎えた)

ミア(三人の彼女の友人が話し合う中でも、ボクはどうする事も出来なかった。彼女たちほど彼女を知っていなかったから)

ミア(もう彼女に対して、ボクが打てる術はなかった)

ミア(その手を握って、すがりついて、泣きついても、枕もとでキーボードを鳴らしても)

ミア(彼女の空虚な瞳に、光が映る事はなかった。だから、また、ボクに似てない彼女について泣いた)

ミア(その悲しさに耐え切れなくて、その場から去って夜の街へ飛び出した)

ミア(ネオンに溢れる街で、一人ぼっち。こんなにも世界は鮮やかなのに、空虚な世界。そこに光が見えない、見いだせない)

ミア(数十年前のこの国で、いつの日か、大空駆け巡ると歌った曲があるけれど、彼女こそがいつの日かそうなる筈だったのに。夢を追いかけて、走り続けてきたんだ)

ミア(それを壊してしまったのはボク達なんだ)

ミア(無理やり連れてこられたローカルな場所、そんな思いはとっくに捨てている。あの日、捨て去った)

ミア(名門テイラー家に生まれたプレッシャー。音楽の才能を求められ続けた。ステージで歌う事は好きだったけれど、それが叶わなくなった時にステージから逃げて)

ミア(そんなボクの、逃げ道であったはずの作曲を、彼女は純粋に好きだと言ってくれた。大好きだと。それに心を輝かせて、それに憧れていてくれた)

ミア(純粋なファン、純粋なる好意、いや、大好きだって言える、その気持ちこそ。ボクがずっと求めていたものだった)

ミア(名誉も名声も何も要らない、彼女の傍にいれるなら、この場所も天国になる筈だった。いや、新しい楽園を、彼女とその大切な仲間たちを、邪魔できる筈も無いんだ)

ミア(それでもボクを覚えて欲しかったのに)

ミア「どこだ、ここ……」

ミア(気が付けば、わからない場所に来ていた。地理もよく覚えてないし)

ミア「しまった…鞄、置きっぱなし…」

ミア(あの場所に鞄を置きっぱなしで、財布もスマホも無い)

ミア(戻ろうにも、戻れない。どうしよう)

ミア「あ…」ぐぅ

ミア(こんな時でも、腹は減る)

璃奈「…ん?」

ミア「…君は…確か…同好会の…」

璃奈「スクールアイドル部の…」

ミア「あっ…」フラッ

璃奈「だいじょう、ぶ?」

ミア「鞄、置いてきて…財布も、スマホも…」

璃奈「来て」

璃奈「家、近いから」

ミア「ありがとう…い、いいの? 家族とか」

璃奈「いい。仕事、忙しくて…なかなか帰ってこれない」

りなりー自宅

ミア「…ありがとう。シャワーに、晩御飯まで」

璃奈「いい」

ミア「彼女にとって、君たちが大事な人だったのが、すごくわかる」

璃奈「…先輩の、事?」

ミア「うん……」

璃奈「どこにいる? 無事なの?」

ミア「約束があって、場所は言えない。でも、安全な所にはいる。これまで各地を転々としてたんだ、どうにか一か所に落ち着きはしたけど……まだ、目覚めない」

璃奈「そう、なんだ」

璃奈「各地を、転々としてた、というけど…」

ミア「探すのに、それで時間がかかったんだ…ランジュの母親を追い出した後に、虹ヶ咲学園に我が物顔で入ってきた奴らの手先が。彼女が二度と目覚めないようにすれば、安心できる」

ミア「そんなことは絶対にさせない。彼女は……絶対に目覚めさせる。そして、君たちの所に返すんだ」

ミア「鞠莉や果南は君たちが彼女を迎えられないと言っていたけど、そうじゃない。彼女の居場所は、君たちの隣で、君たちを…」

璃奈「ミアさんは、そこにいるの?」

ミア「……いいや」

ミア「ボクも、彼女の世界を壊してしまった一人だ。彼女はボクの曲を大好きだと言ってくれて、目を輝かせてくれて、応援してくれる。背中を押してくれる。ボクもそんな彼女が大事だ。でも、隣にいるべきじゃない。彼女の為にも…ボクは」

璃奈「ミアさん」

璃奈「私も、あなたの曲、好きだよ」

ミア「……!」

ミア(その顔を見た時、その顔に表情は無いように見える――――――でも、言葉と目に映る感情だけは、わかった)

ミア「……ボクの?」

璃奈「うん」

ミア「…作曲は当初、逃げ道みたいなものだった」

ミア「音楽の名門テイラー家の家名は、ボクにとっては重いものだったよ。作曲で家名を保つことは出来たけれども、それでも……それが本当に歌いたいものかというと別だ。本当に好きかどうかも、わからない曲も少なくない」

ミア「それでも彼女は好きだと言ってくれたし、何よりも……作りたい曲、歌いたい曲、それでいいんだって言ってくれたんだ」

ミア「…璃奈のように」

ミア「ボクにとってあの子が大切なのは、応援してくれる人だからだと思う。そして、ボク以外にも応援する人はたくさんいるし、そうして引っ張ってきたんだ」

璃奈「わかるよ」

ミア「なんで、璃奈は。ボクもそこに加わるべきだって…思うの?」

璃奈「簡単」

璃奈「先輩なら、そう言う。ミアさんも、いて欲しいって。むしろ、その曲が好きだから、もっと皆のレベルアップに繋がる、輝けるって」

璃奈「……先輩は、ランジュさんの、スクールアイドルへの熱心さも、認めてた。本当は、スクールアイドルとして認めたかった。だけど、それに気付くまでに壊れていった」

ミア「そこまでしてしまったのは、ボク達の責任だ」

璃奈「……その事を、こうして話して、謝ろうとしてくれてる」

ミア「……」

ミア「……璃奈。彼女たちに、ボクの口から、謝らせてほしい」

ミア「彼女の居場所については言えない。きっと鞠莉たちが怒る…だけど、気持ちを宥める方法を考えることは出来る」

璃奈「うん」

ミア「ランジュ、どうしてる?」

璃奈「同好会の、仲間」

璃奈「……自分で、曲を作ろうとしてる。歌いたい、踊りたい、見せたい、曲を」

ミア「………」

ミア「ランジュについて、今もまだ、怒ってるのが正直だよ」

ミア「でも………話さないと、いけないや」

璃奈「ミアさんは、大人だね」

ミア「…ううん。小さいころから、周りは大人ばかりの世界だったから」

ミア「だから彼女の事は、よほど大切で、眩しくて、彼女に好意を向けられるのが嬉しかった」

ミア「皆にも…必ず取り戻さないと」

翌日 ザップランド部室棟 スクールアイドル同好会部室

璃奈「お客さんを、連れてきた」

かすみ「お客さん?」

せつ菜「おや、どなたでしょうか」

エマ「誰かな?」

がちゃり

ミア「えと…」

ランジュ「ミア…!」

ミア「まず……皆に、謝らせてほしい」頭下げる

ミア「部長の事。ボクにも、責任はある。彼女の世界を壊した一人が、ボクだ」

ランジュ「………」

ミア「ごめんなさい」

エマ「……ミアちゃん、顔上げて」

彼方「部長は、あなたの事を一切悪く言ってなかったよ」

ミア「うん…だから、余計に甘えてしまった。ランジュのあのMVの事も、ほいほい言われるがままに作ってしまった」

かすみ「言われるがままに罪を犯してしまったのは、他にもいる。ミア子、大丈夫」

ミア「………ランジュ」

ミア「まだ正直、気持ちの整理はついてない…けど」

ミア「ランジュに誘われた事だからね…まだ、付き合わせて欲しい」

ミア「やる事が出来たんだ」

しずく「やる事?」

ミア「彼女を、皆の隣に返す事。その為にも……目覚めさせる事、そして……」

ミア「鞠莉たちを、皆が彼女を迎えられる状態だと納得させる事」

かすみ「待って」

エマ「それって…!」

ミア「鞠莉たちとの約束で、場所は言えない…けど。彼女は安全な場所にいる」

ランジュ「本当!?」

ミア「色んな伝手を使った。だから、保護されてる。命を狙われる心配はもう無い。けど……」

栞子「そう、ですか…良かった」

ミア「催眠の影響が大きい。殆ど死の淵ギリギリなのに変わりはない」

エマ「鞠莉ちゃん達との約束って…」

ミア「病院に搬送された後、彼女は鞠莉と果南とダイヤが保護していたんだ。でも、虹ヶ咲学園に入ってきた連中の手先に命を狙われて、各地を転々としてた」

栞子「ええ。それは聞いた事があります」

ミア「その足跡をたどって、どうにか追いついた。そこで三人に保護する場所を提供するって取引したのさ。ただ、その際に…まだ、皆があの子を迎えられないって、言っていた」

しずく「無理もありません…」

せつ菜「ええ……そう、思われるのも、仕方のない事です」

ミア「でも、ボクは諦めない」

ミア「……彼女が戻ってきた時に、安心して迎えられるように」

ミア「お願いがある。ボクを、同好会のメンバーにして欲しい。協力できることを、させて欲しい」

璃奈「ミアさん」

璃奈「大歓迎」

せつ菜「ええ! ようこそ! ミアさん!」

ミア(両手を取って、他の皆は迎え入れてくれた)

ミア(だからその手を握り返して、最後は璃奈とも)

ミア(大丈夫、大丈夫。君というファンが、ここにいる)

5.8/了

6/長い一日


虹ヶ咲学園 ザップランド部室棟 スクールアイドル同好会 部室

かすみ「μ’sとLiella!の合同ライブ打ち合わせ?」

海未「ええ、そうです。かすみ」

しずく(ミアさんが同好会のメンバーにして欲しいと言ってくれたその日。歓迎会を開こうとしていたら突如海未さんが訪ねてきて、かすみちゃんにそう告げた)

せつ菜「海未さん、警備員どうしたのです? やかましいでしょう」

海未「おや、私は穂乃果の幼馴染ですよ。あの程度、振り切りました」

海未「手土産のほむまんですが…なるほど、私の分をミアに譲ればちょうどよいですね。はい、どうぞ」

ミア「あ、ありがとう」

かすみ「ありがとうございます…で、海未先輩。なんでその話を…」

海未「簡単な話です」

海未「合同ライブに、あなた達も参加して欲しい。あの時約束したのは、遅れましたが、やれるのです。Liella!という新たなメンバーたちも迎えて」

かすみ「………!」

せつ菜「し、しかし……穂乃果さんは」

海未「せつ菜と歩夢のゲリラライブの動画を、穂乃果が見ていました」

海未「………いえ、実は…この前は黙っていたのですが」

海未「あの日。穂乃果があなた達を部室から追い出した後、残った私たちの間でも諍いが幾らか起こってしまったのです」

栞子「え…」

彼方「…だから、この前梨子ちゃんと海未ちゃんは…」

海未「ええ……あの夜、私たちの絆はバラバラになってしまった。ですが……再び、結ばなければ。こんな私たちにも憧れて背中を追おうとしている、そう」

かすみ「Liella!の皆にも、きちんと誇らしくスクールアイドルだって言えるように」

海未「そういう事です」

エマ「……穂乃果ちゃん、私たちの事…」

海未「正直、まだ怒っているでしょう。ですが、やらなければ。そうでなければ……」

海未「そういえば、歩夢の姿が見えませんが…この前のライブの動画にはいたのですが、今日は休みですか?」

せつ菜「じ、実は…歩夢さんは転校してしまって…」

海未「へ?」

翌日放課後 善子自宅

善子「終わらない……解読が……翻訳サイト、古い言い回し資料、ブラックジョーク集…なにをどこから解読すれば終わるのよこれ…」

千歌(曜ちゃんと梨子ちゃんが善子ちゃんによるアングラサイトの解読手伝いをしているというので、善子ちゃんを訪ねたら、この有様である)

曜「なんでも、脳波に干渉する人体実験史料が冷戦時代のもので厄介なんだって」

善子「読むだけでSAN値ピンチになる文書が死ぬほど、原語で……」

梨子「なんとなく解る。原語、大変だよね」

善子「日本語以外は日本人にとって難しいのよ…」

千歌「解せるのだ。はい、エナジードリンク」

善子「ああ~ありがとう千歌…ヨハネはレッドブルもモンスターもどっちも……って、水色モンスターなのね」カシュ

善子「生き返る…」ごくごく

梨子「それ、彼方さんが最近飲みまくってたみたい」

善子「あの子も相当飲んでたらしいけど…がぶ飲みするものじゃないわよ、本来」

善子「外から干渉する方法があるみたい。そうすれば、催眠も解ける」

千歌「ほんと?」

善子「問題はその史料の解読が面倒なのよ。きっとそれこそ流出した情報だし、真偽も怪しい。おまけに、その手の資料がもろ冷戦時代のものだから…」

曜「だから?」

善子「干渉する方法の中に解除する方法が載ってる保証はない」

千歌「それは…」

善子「だけどこうなりゃ意地でも見つけてやるわ」

曜「やるんだね」

善子「ええ、あのアンポンタンにガツンと言ってやらなきゃ気が済まないわ。同好会の子たちにきちんとごめんなさいしろって言わないと」

千歌「善子ちゃんらしいよ」

善子「ヨハネよ」

音ノ木坂学院

かのん(にこさんから届いた一通のメール。それは、μ’sとLiella!で合同ライブをしたいというものだった)

かのん(その為に、話し合いをするので来て欲しいという誘い――――――――――そしてまったく同時刻に、にこさんからスマホの方に送られてきたメール)

にこ『すぐに虹ヶ咲のメンバーに連絡を取る事』

かのん(そしてかすみちゃんと話して、理解した。あの日、彼方さんが歌った歌のように――――――彼女たちが再び絆を結ぶために、私たちの力を借りたいというもの。ぴったりだった)

かのん(Liella!の名には、結ぶ・繋ぐという意味も込められているのだから)

かのん(それには、懸念材料がある。穂乃果さんの事だ。海未さんもそれを不安に思っているというし、私もそれは気にしている。実際に可可ちゃんや恋ちゃんもその話を聞いて不安げな顔をしていた。でも)

かのん(やらなければいけない。紡いだ絆を、更に深める為にも)

千砂都「かのんちゃん」

かのん「うん…行こう」

アイドル研究部 部室

かのん「失礼します」

海未「ああ。こんにちは、かのん」

かのん「今日は、お招きありがとうございます」

可可「ハイ!」

すみれ「お邪魔します」

恋「失礼します」

千砂都「こんにちはっ!」

穂乃果(そんな風にやってきた結ヶ丘女子のスクールアイドルたち。元気な声と、自信を持って歩く姿はとても好感を持てた。新設の学校で一年生だけというけれど、とてもそうとは思えないしっかりさだ)

穂乃果(自分がμ’sを始めた時はどうだったか、と思ってしまう位に)

穂乃果「ううん、こっちこそ来てくれてありがとう。μ’sの高坂穂乃果だよ。皆は…もう一度顔合わせた事があるって聞いたけど」

穂乃果(聞くところによると、どうやら私とことりちゃん以外全員一度顔を合わせていたらしい。海未ちゃんが探してきてくれたらしいが、私が最近生徒会の仕事ばかりしていたせいか)

穂乃果(ことりちゃんの方も知らなかったのが気がかりだが、まあそれはいい)

恋「ど、どうでしょう?」

穂乃果(聞かせてもらった曲は、とても魅力的だった)

穂乃果「素敵な曲だね、とてもいいな」

穂乃果(会場の候補、時間、リハーサルをどうするか、などなどを挙げていく)

穂乃果(彼女たちは積極的に声をあげてきた。初々しさだけではない、スクールアイドルとしての情熱とそれにかける思いが、そうさせる)

にこ「穂乃果。時間の割り振り、仮で出来たわよ」

穂乃果「ありがとう、にこちゃん」

穂乃果「………にこちゃん?」

にこ「なにかしら?」

穂乃果「なんで空欄がこんなに多いの。余り過ぎだよ。絵里ちゃん、横にいるんだからそういうのは」

絵里「間違ってないわよ」

穂乃果「いや、だって明らかに半分は残ってるよ! その間お客さんほったらか―――――」

海未「いいえ。それはないです」

海未「そこは……他のスクールアイドルの時間ですから」

穂乃果「μ’sとLiella!の合同ライブでしょ?」

海未「穂乃果。合同ライブです」

穂乃果「いや、海未ちゃん。言ってる意味が…Liella!の皆にだって失礼だよ、こんな事」

かのん「いいえ、そんな事ありません。聞いてました」

穂乃果(Liella!の子たちは聞いていた。ここでふと)

穂乃果(この前の動画を、ふと思い出した。せつ菜ちゃんと歩夢ちゃんの動画。ことりちゃんのお母さんが新しい奨学金の設立に関わったというニュースを最近聞いて、生徒会から音ノ木坂の生徒に告知をしておいてという話も聞いて、違和感がなんとなくあった)

穂乃果「!?」

穂乃果(スマホを取り出して、奨学金のホームページに飛ぶ―――――――そこには彼方さんが映っており、PR動画のリンクがあった。PR動画の下にあるコピーライト)

『作曲:桜内梨子(Aqours) 作詞:園田海未(μ’s) 歌唱:近江彼方(虹ヶ咲学園三年)』

穂乃果「…………」

穂乃果「かのんちゃん。君が一番、ステージで競い合いたいスクールアイドルって、誰?」

かのん「中須かすみちゃんです。私の憧れで、ライバル。過去のわたしであって、また未来のわたしになったスクールアイドル」

にこ「穂乃果。気持ちはわかるわ。でも…にこの話を――――――――」

ことり「穂乃果ちゃん?」

穂乃果(気が付けば、駆け出していた――――――――沸き上がったのは怒りなのか悲しみなのか、或いはいたたまれなさなのか懐かしさなのか)

穂乃果(わからなくなっていた)


ことり「…海未ちゃん。他の皆も知ってるみたいだけど、どういうことかなぁ?」

ことり「私が虹ヶ咲の皆にすごーく怒ってるの、知らない筈はないよね?」

海未「ええ、ですがことり…にこの話をよく聞いて欲しいのです」

ことり「?」

にこ「ことり」

にこ「あの日、私が間違ってたわ」

ことり「あの夜の事? でも、にこちゃんだってショックを―――――――」

にこ「いいえ、その前日。当日よ。あの日、にこはそっちでなんとかしろと言うべきじゃなかった。Aqoursの皆には自分たちの事を考えるように言って、私たちもあの日、彼女の元へ行くべきだった」

ことり「そこまで―――――――」

海未「そこまで、必要だったのです、ことり」

海未「彼女に頼り過ぎていた、と果南は虹ヶ咲の子たちを批難しましたが…それは私たちも、です」

海未「あの日をきっかけに、私たちの絆はバラバラになってしまった。にこはその事を悔いています。千歌も、学校の為に友達を見捨てたという思いを抱いてしまった。それでも、虹ヶ咲の彼女たちは立ち上がって、そして新しい絆も結ぼうとしている」

海未「私たちが今、やらずとしてどうするのです」

ことり「……Liella!の子たちに聞くね」

ことり「虹ヶ咲の皆は、あなたたちが信じるに値するかな?」

かのん・千砂都・可可・すみれ・恋「「「「「はい(ハイ)!」」」」」

すみれ「私たちがあなた方を信じるのと同じぐらいに、信じてますわ」

ことり「それなら、ことりからは何かを言う理由はないよ。あるとすれば、穂乃果ちゃんかな」

かのん「追いかけて、きます」

ことり「よろしくね。私からの課題だよ」

海未「あ…」

にこ(ことりは、かのんに穂乃果を説得させることを課題としたのだ。それができなければ、説得力も無いよと言いたいのか)

かのん「はい!」


音ノ木坂学院 屋上

穂乃果(屋上で、夕日を眺めていると、後ろの方から足音がした)

かのん「ああ、やっといました…」

穂乃果「かのんちゃん、だっけ」

かのん「隣、失礼します」

穂乃果「かのんちゃんは、なんでかすみちゃんの事をライバルだって思うの?」

かのん「憧れるぐらいに、眩しくて、カッコよくて…未来のわたし。そう思って、背中を追いかけるに値するスクールアイドルだから」

穂乃果「あの子の話は、聞いた? 虹ヶ咲学園の」

かのん「聞きました。かすみちゃんの口からです。その…」

かのん「私たちLiella!も、あの時ある意味巻き込まれていました」

穂乃果「…!」

かのん「同好会の部長がでっち上げた、スクールアイドルを題材にした映画の撮影。そのエキストラ役として、私たちも声をかけられたんです」

かのん「同好会の人たちの動画を見て、一人一人が仲間でありライバル。だから、お互いに競い合えるし、絆にも溢れてた。そして、ソロであるからこそ、サポートがあっても一人でステージに立って、そうして自分らしさを見せる。すごくうらやましくて、どうしておんなじ一年生なのに同じように出来ないんだろうって、滅茶苦茶妬むぐらいでした」

穂乃果「………」

かのん「そんな人が、私たちをペテンに巻き込んだって言って…μ’sやAqoursのように批難してくる事、軽蔑してくる事を覚悟で、全部話して、頭を下げて、それで、責任を取る為にスクールアイドルを辞めた事も、話してくれました。だけど」

かのん「私は彼女にステージで勝ちたかったし、何よりもそんな姿を目標として。そして虹ヶ咲学園は今、肺が降る王国になってる。希望を打ち上げる為のスクールアイドルであったから、立って欲しかった」

かのん「そして立ち上がった」

穂乃果「本当に? それが本気に値する子たちだと、かのんちゃんは思う?」

かのん「私が、そう信じています。だから」

かのん「私を信じて下さい。虹ヶ咲学園の皆も、Aqoursの人たちも、μ’sと同じスクールアイドルとして、肩を並べる存在である事、それは」

かのん「私だけじゃない、Liella!の皆も、色んなファンの人たちだって、解ってる」

穂乃果「………」

穂乃果「その本気を、どう信じろと?」

かのん(その問い掛けに対して、私はふとどう返せばよいか、と自問する。でも)

かのん(ことりさんはそれが私への課題だと言った。私の言葉だけでは説得できない、なら行動で示せ。でも、どんな行動で?)

かのん(一つだ)

かのん(スマホを開く。屋上から校門の陰になっている部分に視線を送る。そこに、いた。スクールアイドル同好会の人たち。そこには私も見た事のない顔も加わっている)

かのん「…講堂を借りても良いですか?」

穂乃果「わかった…なんとかするよ」

かのん「ありがとうございます」

音ノ木坂学院 講堂裏

かすみ「穂乃果さんを説得するために、かすみんとかのんちゃんで?」

かのん「うん。二人で」

かのん(あの日、この講堂で一人歌った彼方さんに圧倒された。だが、それだけではダメだろう。海未さんと梨子さんの曲を二人で歌うというのは出来ない。あれは彼方さんが歌うから価値がある)

かのん(それならば、かすみちゃんと二人でステージをやる。私が認める、目指すかすみちゃんならば、出来る筈。問題は何を歌うかもまだ決めてないが)

かすみ「なるほど」

かすみ「……よし。それならいい曲が一つだけ、思いついたよ。一言、断りは入れるけど」

かのん「大丈夫?」

かすみ「大丈夫。かのんちゃんも…知ってる筈の曲だよ」

かのん「うん」

講堂内

絵里「あら、かすみとかのん来たわね…」

花陽「かすみちゃん、スマホを…」

エマ「…かすみちゃん」

可可「緊張デス、かのんちゃん」

ランジュ「大丈夫、あの二人よ」

ミア「…ふむ」

かすみ「さて、と…」

PRRRRRR

かすみ「答えてくれるかな…」

『はい』

かすみ「千歌先輩。ご無沙汰、しています。見えますか?」

千歌『うん…見えてるよ。隣りにいるのは…』

かすみ「この子は結ヶ丘女子のスクールアイドル、Liella!のメンバー、澁谷かのんちゃんです」

かのん「はじめまして、千歌さん。澁谷かのんといいます」

千歌『初めまして、よろしく』

かのん(テレビ通話の向こうで、千歌さんは微笑んだ)

かすみ「今、音ノ木坂学院に来てます」

梨子『やあ、かすみちゃん。かのんちゃんもこんにちは』

かのん「梨子さん、この前はありがとうございました」

曜『それで、何の用かな?』

かすみ「音ノ木坂学院のステージで、二人でやりたい曲があるんです」

千歌『うん』

かすみ「Aqoursの曲なんです。お借りしても、いいですか?」

千歌『…私たちにも見て欲しくて、テレビ通話にしたんだね?』

かすみ「はい」

千歌『…わかった。いいよ。楽しみにする』

かすみ「しず子」

かすみ「私たちを映して」

しずく「うん…」

かのん「えーと…音源は、これでいいかな?」

かすみ「大丈夫」

にこ「かのん、穂乃果の前だからって、緊張しないように」

かのん「はい!」

かすみ「かのんちゃん」

かのん「うん……」

かすみ「かのんちゃん、全力で、ありったけで、行けばいい。大丈夫だよ、かすみんがついていく」

かすみ「かのんちゃんが太陽なら、かすみんは月だ」

かのん「かすみちゃんが太陽なら、私が月だね。どっちも、この空にある星だよ」

かすみ「よし、やろう!」

かのん「うん!」

千砂都(二人は約束し合っていたかのように、ステージに立ってまずはグータッチ)

穂乃果(かのんちゃんの様子を見れば、もうμ’sの皆はLiella!ともなんかあったみたいだね)

穂乃果「…にこちゃん、Liella!の皆とは」

にこ「彼方が、あの子たちの臨時コーチを頼まれたのよ。それで、協力を頼まれた。だから手を貸す事にした。すごい子たちよ。飲み込みも早いし。負けてられないわ」

穂乃果「なるほど」

にこ「さあ、何の曲かしら」

~♪

海未「おや」

絵里「…あら、この曲…」

花陽「…わあ」

曜『この曲って』

梨子『間違いないね』

千歌『うん、これは』

穂乃果「Aqoursの…『君のこころは輝いてるかい?』…?」

しずく(かすみさんが選んだ曲、Aqoursの君のこころは輝いてるかい?)

しずく(μ’sのいる音ノ木坂学院の講堂で、Aqoursの楽曲を、虹ヶ咲のかすみさんと、Liella!のかのんさんが歌う)

エマ(ダブルセンターの曲だから、二人だけのステージであるが故に、二人が全てを歌う)

彼方(歌に自身のあるかのんちゃんが前面に出れば普段は前面に可愛いを見せるかすみちゃんがサポートに回る。逆にかすみちゃんが前に出ればかのんちゃんがそれを支える)

穂乃果(二人が今日初めて歌う、初めて合わせて歌うとは思えない程、息がぴったりだった)

かすみ(未来を変えるために、全力で行くんだ。今できる精一杯、今見せられる本気を。すぐ隣りにいるかのんちゃんの歌は圧倒的だ、せつ菜先輩と比べても見劣りしない、かすみんはついていけるかと不安になる。だけど、それでも隣りで感じている)

かのん(ともすれば走りがちになりそうな私に、息を合わせてぴったりと合わせて、決してブレない。これが中須かすみの凄さなのか、と検めて思う。何度も何度も折れそうになる度に、その背中に憧れて立ち上がってきたんだ。それを、隣りで感じてる)

かすみ・かのん((隣りにいる、目指すべき未来の私))

かのん(これがスクールアイドル、中須かすみの本気―――――――すごく可愛くて、それは虹の花弁をつけた花のように綺麗で)

かすみ(これがスクールアイドル、澁谷かのんの本気―――――――すごくカッコよくて、それは光を放つ星のように綺麗で)

かすみ・かのん((それでこそ、越えるべき明日の私))

かすみ(一番終わったよ、準備は出来てる?)

かのん(一番が終わった、ギアを挙げてくよ)

かすみ(それでこそ、かのんちゃん)

かのん(それでこそ、かすみちゃん)

千歌(食い入るように、見とれてしまう。それほどまでに、この二人は全力で、精一杯を見せている)

千砂都(ダンスなら皆には負けないけれど、かのんちゃんと長い付き合いでも、ここまでかのんちゃんと息を合わせられる人がいただろうか、いいや、いない)

千砂都(それがスクールアイドル、中須かすみなのだ。そしてそんなかすみちゃんを尊敬し、未来の自分としてライバル視してその背中を追いかけるかのんちゃん。同時にかすみちゃんも、自分の前にかのんちゃんを見ている。だから、これほどまでに、出来る)

穂乃果(とても、胸を打つ。Aqoursの楽曲を、全力で見せる二人)

かすみ(届けるんだ、全力で。かのんちゃんが太陽なら、かすみんは月で)

かのん(掲げるんだ、全力で。かすみちゃんが太陽なら、わたしは月で)

かすみ(かのんちゃん、最後のサビだ。決め場面だよ、ついていく)

かのん(かすみちゃん、最後のサビ。二人で、今ある全力で行く)

穂乃果(打ちのめされて、折れたかすみ、それでも立ち上がった。かのんが呼びかけて。山のような困難も、そうして何度も何度も立ち上がってきたのは、皆がいたから)

穂乃果(この出会いが、皆を変える。あの子との出会いは、まさにそうだった)

穂乃果(それは砕け散った。だけど、それでもまた、新たな出会いの意味こそ解らないけれど、ひどく眩しいんだ)

穂乃果(私は…)

海未「穂乃果…」

曜『おお~…』

ミア「すごい…衣装も、演出も、ない筈なのに…」

璃奈「これが、スクールアイドル」

かすみ(曲が終わり、荒い息をつく中で、私とかのんちゃんは)

かのん(まったく同じタイミングで、拳を出してのグータッチ)

穂乃果「………」

海未「穂乃果」

穂乃果「……ごめん。まだ。決められない」

璃奈「穂乃果さん」

穂乃果「璃奈ちゃん…」

穂乃果(どうして私の口からそんな答えが出たかもわからないほどに、穂乃果の頭の中はもうグルグルだった。どうしたいのか、或いはどうして欲しかったのか、何の言葉が欲しかったのかも)

穂乃果(もしくは二人がひどく眩しかったから、か)

璃奈「これを」

穂乃果「…これは」

穂乃果(璃奈ちゃんが渡してくれたのは、一つのSDカード)

璃奈「…ずっと、捨てられずにいた。あの日の、記録。私達の、あの夜の、やり取り)

穂乃果「…わかった。ただ…」

穂乃果「まだ、同じステージに立つには、足りないよ。人が」

せつ菜「!」

スタスタ

かのん(穂乃果さんの後ろ姿を見て、ダメだったのかと思った。だが、かすみちゃんは)

かすみ「大丈夫」

かのん「え?」

可可「け、ケド…」

かすみ「本当にダメなら、りな子の呼びかけに応じなかったよ」

ことり「そうだね、穂乃果ちゃんなら、そうしてたよ」

ことり「Liella!の皆」

ことり「課題、満点」ニッコリ

千歌『二人とも、聞こえるかな?』

かすみ「千歌先輩」

千歌『すごかった』

千歌『…ありがとう、二人とも、ね』

曜『うん。私たちの曲を、そこで歌ってくれたこと。すごく、嬉しかった』

梨子『だね』

善子『……そうか、頼ればよかったのね』

梨子『善子ちゃん、どうしたの?』

善子『璃奈。後でデータを送るわ。ちょっと後で確認して欲しいのがあるんだけど』

璃奈「なに、善子ちゃん」

善子『脳波に干渉する装置についてよ。原語と言い回しと専門用語が多くて、完全な解読はまだ出来てない。だけど、璃奈は多少そういう部分に明るいから…助けて欲しい』

璃奈「脳波に干渉する? それって」

善子『ええ…同好会の部長を拾い上げる為のものよ。部長が見たっていうアングラサイト、結構ガチな所だったらしいわ。おまけに海外モノ』

善子『読むだけで苦労するわ、SAN値がガリガリよ。だけど…今は、それしかない』

璃奈「わかった、やってみる」

にこ「まあ、確かに…皆揃ってないんじゃ、ね」

璃奈「……愛さんについては、一つ、思いついた事がある」

しずく「ああ…」

エマ「確かに…璃奈ちゃんらしい、やり方かも」

璃奈「うん」

にこ「果林と、歩夢は?」

エマ「果林ちゃんにも、もう少し話さないと」

希「……歩夢ちゃんは…」

せつ菜「じ、実は……」

梨子『どうしたの?』

せつ菜「歩夢さんは、転校しました…理由は……」

せつ菜(色々と話すと、μ’sの皆と千歌さん、梨子さん、曜さん、善子さんは考え込んだ)

曜『確かに隣りではあるけど……』

千歌『そこでスクールアイドルを続けるのかな?』

梨子『一から始めるのかも知れないね』

にこ「それでも、また同じステージに立って欲しいものね…」


三島 市街地

歩夢(三島に、着いて二日目)

歩夢(転校先の試験を受けるまでまだ数日あるのもあり、昨日今日で荷物も片付いた私は、気分転換も兼ねて周囲を散歩する事にした)

歩夢(新幹線が止まる駅がある街でもある為か、比較的賑やかに感じる。隣接の沼津市やその周辺自治体と共に沼津都市圏を形成しているのだ。賑やかな筈だ)

歩夢(夕暮れの空に、冷たい風。東京はもっと寒いだろう)

歩夢「…皆、どうしてるだろう」

歩夢(三島駅近くのマンション、そこが新しい住まい。散歩をしていると)

『沼津市』

歩夢「あ…」

歩夢(三島駅は意外と市と市の境にあるのか、と思う。どうにも、近寄りがたかった)

歩夢(でも同じ都市圏だし、生活圏も被るだろう。たしか善子ちゃんの家からもそう何キロも離れてない)

歩夢(近くのコンビニの品揃えでも見て気分を紛らわそう、そうした時だった)

コンビニ店員「ありがとうございましたー」

ルビィ「こんな日は熱いお茶が……」

歩夢「あ……」

歩夢(近くのコンビニから出てきたのは、ルビィちゃんだった)

歩夢(そしてルビィちゃんも私に気付いた)

ルビィ「歩夢さん…?」

歩夢「うん……こんばんはって、言えば、いいかな」

ルビィ「そうかもね…どうしてここに?」

歩夢「引っ越しだよ…あの子の両親の事も含めての、都合で。だから、昨日、三島の方に引っ越してきた」

ルビィ「……部長さんの行方も分からないのに?」

歩夢「そうなるね…でも、あの子の両親も参ってる。私のお父さんとお母さんも―――――――」

ルビィ「他の皆は?」

ルビィ「他の皆はどうしたの?」

歩夢「…話した。家族の事も、それと…私自身の――――――――」

ルビィ「それで納得してるの? 皆。それをいつ決めたの? 誰と話して、決めた?」

歩夢「それは…」

歩夢(ルビィちゃんは、Aqoursの中でも、とにかく芯が強い。ダイヤさんの妹なのだ、そうなる。いや、下手をしたらダイヤさんよりも頑固だ、と善子ちゃんが前にからかい混じりに言っていたほどに)

ルビィ「歩夢さんだけで決めたんじゃない?」

ルビィ「逃げてるだけじゃない。結局。ルビィも聞いたよ。今、虹ヶ咲学園が大変だってね。善子ちゃんが教えてくれたよ」

ルビィ「卑怯者」

ルビィ「私は歩夢ちゃんの事、尊敬してたよ。スクールアイドルとしても、料理の事も、他にも衣裳とか色々。だけどさ」

ルビィ「本当に、幻滅させるんだね。そこまで卑怯で臆病だなんて思わなかっ――――――」

「やめなさい」

歩夢「!?」

ルビィ「おかあさん……」

歩夢「ダイヤさんとルビィちゃんの…あ、あの初めまして。私――――――」

黒澤ママ「伺っております。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。ダイヤとルビィの母です」

黒澤ママ「ルビィ。歩夢さんの話も聞かず、批難をする権利など貴方にありません。詫びなさい」

ルビィ「っ…」

黒澤ママ「ルビィ! 詫びなさい!」

ルビィ「……言葉が過ぎました。ごめんなさい」

黒澤ママ「歩夢さん、申し訳ございません」

歩夢「いえ…」

ルビィ「………会合の後の、用事。終わったの?」

黒澤ママ「ええ…」

ルビィ「先に行くね」スタスタ

黒澤ママ「……」

黒澤ママ「歩夢さん。具体的な場所は申せませんが、彼女は無事です」

歩夢「…え」

黒澤ママ「当初は、小原グループと当家で保護をしておりましたが。今はそれよりも、安全な所に。その話を、たった今、あなたと彼女の保護者の方たちに説明を」

歩夢「そう、ですか…良かった」

歩夢「あの……ありがとうございました。あの子を、保護してくれていて…私」

黒澤ママ「気負い過ぎないでください。どうか、心を強く」

歩夢「はい……それとルビィちゃんが怒るのも、無理はない事でした。でも」

歩夢「必ず…向き合います」

歩夢(ダイヤさんとルビィちゃんのお母さんはそれを聞いて、優しく微笑んでくれた)

夜 虹ヶ咲学園寮

エマ「ごめんね、彼方ちゃん…わざわざ来てもらっちゃって」

彼方「ううん、気にしないで…それより、果林ちゃんの部屋だけど」

エマ「この先…」

ドシーン

エマ・彼方「「!?」」

エマ「果林ちゃんの部屋から…」

エマ「果林ちゃん! 果林ちゃん!」

ガチャリ

果林「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」ブツブツガタガタ

エマ「果林ちゃん…」

彼方「大丈夫?」

果林「わたしのせいで、わたしのせいで…」ガタガタ

バシッ

エマ「果林ちゃん…」手ヒリヒリ

エマ(果林ちゃんは怯え切っていた。先ほどまで寝ていたのかも知れない。だが、毛布をかぶって怯えてしまっている)

果林「あっ…え、エマ……」

果林「ご、ごめん……私……私…」

彼方「…悪夢?」

果林「……え、ええ……そうね。悪夢、だわ」

エマ(やつれた顔の果林ちゃんはようやく落ち着いたようだったが、それでも暗い顔は消えない)

果林「二人とも…どうして、ここに」

エマ「果林ちゃんと話に来たの」

彼方「うん、いいかな?」

果林「え、ええ……」

果林「私は、最低だわ」

果林「あの子に頼り切りでいられなかったから、スクールアイドル部に入って変わろうと…でも、それが最大の間違いだった」

果林「お陰でこの有様よ。あの子は行方知れず、μ’sやAqoursにも迷惑をかけて…反スクールアイドル運動の話まで持ち上がってる始末。この前なんて特待生の」

彼方「うん。あったね。でも、乗り越えられたんだよ。彼方ちゃん」

彼方「皆が助けてくれた。μ’sやAqoursも含めた、色んな皆が」

果林「嘘よ…あの子たちはまだ怒ってるわ。それであの子の事で夜な夜な私に」

エマ「嘘じゃないよ!」

エマ「果林ちゃん、落ち着いて聞いて…私がかすみちゃん達とゲリラライブをした時。海未ちゃんと凛ちゃんと希ちゃんはコメントで応援してくれてた! 曜ちゃんと梨子ちゃんと善子ちゃんだって!」

彼方「にこちゃん、彼方ちゃんに言ってくれた。あの日、最悪の事態だけは防いでくれてたって」

果林「わたし…わだじっ……!」ボロボロ

エマ「果林ちゃん…」

エマ(果林ちゃんには、届かない。私たちの言葉が、届かない)

彼方(あの日の出来事に囚われるがあまり、幻の闇に引きずり込まれつつある。それは)

彼方(自分自身に呪いが跳ね返ってきてしまい、悪意の海に沈んだ部長のようだった)

6/了


6/長い一日


虹ヶ咲学園 ザップランド部室棟 スクールアイドル同好会 部室

かすみ「μ’sとLiella!の合同ライブ打ち合わせ?」

海未「ええ、そうです。かすみ」

しずく(ミアさんが同好会のメンバーにして欲しいと言ってくれたその日。歓迎会を開こうとしていたら突如海未さんが訪ねてきて、かすみちゃんにそう告げた)

せつ菜「海未さん、警備員どうしたのです? やかましいでしょう」

海未「おや、私は穂乃果の幼馴染ですよ。あの程度、振り切りました」

海未「手土産のほむまんですが…なるほど、私の分をミアに譲ればちょうどよいですね。はい、どうぞ」

ミア「あ、ありがとう」

かすみ「ありがとうございます…で、海未先輩。なんでその話を…」

海未「簡単な話です」

海未「合同ライブに、あなた達も参加して欲しい。あの時約束したのは、遅れましたが、やれるのです。Liella!という新たなメンバーたちも迎えて」

かすみ「………!」

せつ菜「し、しかし……穂乃果さんは」

海未「せつ菜と歩夢のゲリラライブの動画を、穂乃果が見ていました」

海未「………いえ、実は…この前は黙っていたのですが」

海未「あの日。穂乃果があなた達を部室から追い出した後、残った私たちの間でも諍いが幾らか起こってしまったのです」

栞子「え…」

彼方「…だから、この前梨子ちゃんと海未ちゃんは…」

海未「ええ……あの夜、私たちの絆はバラバラになってしまった。ですが……再び、結ばなければ。こんな私たちにも憧れて背中を追おうとしている、そう」

かすみ「Liella!の皆にも、きちんと誇らしくスクールアイドルだって言えるように」

海未「そういう事です」

エマ「……穂乃果ちゃん、私たちの事…」

海未「正直、まだ怒っているでしょう。ですが、やらなければ。そうでなければ……」

海未「そういえば、歩夢の姿が見えませんが…この前のライブの動画にはいたのですが、今日は休みですか?」

せつ菜「じ、実は…歩夢さんは転校してしまって…」

海未「へ?」

いけね、>>134に6話を貼ってしまった…

7/空の灯し火


夜 穂乃果自室

穂乃果(目を閉じると、かすみちゃんとかのんちゃんが、瞼の裏にチラついた)

穂乃果(あの夜、全てを白状したかすみちゃんとは違って)

穂乃果(眩しかった。そしてその横のかのんちゃん)

穂乃果(私は、何をしている?)

穂乃果(あの夜、千歌ちゃんから『失望した』と言われた後から、私はどこかおかしくなっていた)

穂乃果(練習も殆どしてない。生徒会の仕事が忙しいと称して動いてた。だけど、実際はどうだ。奨学金のあの話も、まるで気付いていなかった)

穂乃果(皆がどうしたいかも、わかっていなかった)

穂乃果(壊れた絆、彼女が壊れてしまった夜から、バラバラになった全てを、彼女がいない今、新たなピースもつなげようと、色んな子が動いている)

穂乃果「……」

穂乃果(ベッドから起きて、パソコンにSDカードを接続して、中の音声ファイルを見る)

穂乃果(再生のボタンをクリックするのが、ひどく躊躇われる。だけど、璃奈ちゃんが渡してくれたそれは、あの夜、虹ヶ咲学園で何が起こったかを語る唯一のもの)

穂乃果(私に欠けたカケラを埋めるものか、或いは虹が咲く空の王国から墜ちていった彼女の叫びか)

穂乃果(もしくは、虹ヶ咲の皆の咎そのものなのかも、まだ解らない。これを紐解かなければ)

穂乃果(私が友達と呼べる一人が起こそうとした事、或いは起こってしまった事を)

穂乃果(知る勇気を、持つんだ。そうでなければ)

穂乃果(澁谷かのんちゃんの眩しさを直視できないのかも知れない)

同時刻 千歌自室

千歌「……おお、彼方ちゃん……」

梨子「うん。私と海未ちゃんで作った曲を…こうして、歌ってくれた。それを、Liella!の恋ちゃんが、更にこうして繋げてくれた」

千歌「梨子ちゃんも、海未ちゃんも……変えようと、してくれてたんだね。今を」

千歌(膝を抱えていた私とは、違って)

梨子「…千歌ちゃん。今日のかすみちゃんとかのんちゃん、どう思った?」

千歌「うん…」

千歌「すごく、嬉しかった。音ノ木坂で、私たちの曲を、虹ヶ咲のかすみちゃんと、Liella!のかのんちゃんが歌う事。それって、皆の絆をもう一度つなごうとしてる事」

千歌「私、本当にバカチカだよ」

千歌「あの日、友達を見捨ててしまった事を引きずって、穂乃果ちゃんの気持ちも知らないで穂乃果ちゃんを責めて、自分で絆をまた壊しちゃった」

梨子「千歌ちゃん…」

千歌「……虹ヶ咲の皆と、μ’sの皆に、ごめんねって言わなきゃ」

千歌「そう、しっかり話し合わないと…」

愛(もう何日、登校してないんだろう)

愛(最初のうちはおばあちゃんも声をかけてくれてた。だけど、ここ数日は何もない。トイレとお風呂以外は、殆ど部屋にいて、たまに置かれてるご飯を食べるぐらい)

愛(目を閉じると、あの夜の事、そして部長さんの事を思い出してしまう。そうして、余計に眠れず)

愛(鏡を見る度にやつれた自分の顔を見たくなくなるんだ)

コンコン

「愛ちゃん? お客さんだよー」

「友達がきたよ。届けものって」

愛(おばあちゃんの声がする)

愛(こんな私に、友達だとまだ言ってくれる人がいるなんて)

愛(何故か、足を運んでいた)

ガチャリ

愛「…誰?」

ギター担当「愛さん」

ギター担当「久しぶり…私も、虹ヶ咲学園に入学したんだ。へへ」

愛「…その声」

愛(かつて、中学生の頃。ゲームセンターで音楽ゲームが上手な子に声をかけた。少し暗めで、愛さんのノリにはどこか悪いタイプだったけど、引っ越す時に送別会を開いたら、すごく嬉しがってくれたのを思い出した)

愛「引っ越した、筈じゃ」

ギター担当「愛さんに会いたくて、虹ヶ咲学園を受験して、受かったんです」

ギター担当「……言いますね」

ギター担当「かすみちゃんと、同じクラスなんです。それで…一つ、見せたいものがあります」

愛「え…」

愛(中学の頃は根暗な彼女が、ばりばりのパンクファッションで見せたのは、激しいロック調の音楽が流れる嵐の中で)

愛(歌う、エマっち)

愛「これ…」

ギター担当「エマさん、私らに負けない歌を歌ってくれた」

ギター担当「スクールアイドル、本当に、ロックで、カッコよくて、今の学校を変えてくれるって、思ってます」

ギター担当「……そんな人たちが、頭を下げて頼んできたんです」

ギター担当「断れる訳ない。愛さんは、私に色々教えてくれた。その恩を、返しに来ました」

愛「……」

ギター担当「璃奈ちゃんから、お届け物です。確かに届けました」

愛「う、うん…」

ギター担当「いつか、私がバックバンドで、愛さんのステージやりますから! 必ず! 必ずですよ!」

愛「…ありが、とう…」


愛(りなりーから…なんだろう)

愛(梱包をほどく、すると。中から出てきたのは)

愛「ゲーム機と…ソフト?」

璃奈『ミッション13まで進んだらSPミッションというのをやること。それを終えたらミッション14から』

璃奈『これを渡しておこう。辛い時に使うがいい』

璃奈『つノーマル操作』

璃奈『つCASUAL -EASY-』

愛「エースコンバット7…スカイズ・アンノウンって読むのかな…これ」

愛(なんでゲームなんか、と思いながらも)

愛(何故か、りなりーの言うことだからか、素直にそのゲーム機をコードにつないで、起動した)

愛「空、綺麗だなー……」

愛(本当に綺麗で、まるで空の中を本当に飛んでいるかのようだった)

愛「えと、これで攻撃…あ、当たった」

愛「…え」

愛「あの人……なにがあったの……」

愛「空では…人が、簡単に…死んじゃうんだ……」

愛「これは難しそうだ…」

愛「おお…」

愛「待って! ダメだよ、そっちに行っちゃ…」

愛「あ…」

愛「違う…違うよ! この人…!」

愛「撃ってない…撃ってないよ…!」

愛「…………」

愛「…続き、やろう……」

愛「スペア…囚人番号、か……」

愛「……ひどい事言ってる…人が、死んじゃうのに…」

愛「罪の重さ…罪線……爪痕」

愛「空の、爪痕。ねぇ…」

愛「私につけるとしたら、何本になるのかな」

愛(時々失敗しながらも、ゲームは進む)

愛「こんな事を、賭け事にするもんじゃないよ…」

愛「厳しい事言うなぁ…でも…認められてる、のかな」

愛「また……」

愛「ひっ!? か、雷……?」

愛「…こ、こんな中飛んでくの…?」

愛(雷の中でも、それでも進むしかない。それが最短ルートだ、そうでなきゃ間に合わない)

愛(落雷。それは画面越しでもわかる轟音と光、そして風が流していく)

愛(何でだろう。さっき見た動画のエマっちは、そんな嵐の中でも力強く)

愛(ゲームの中でも、同じように飛ぶ―――――――)

愛「認めてくれてる、のかな」

愛「……!」

愛(ぞわりとした。音楽が変わった。何か来る)

愛「この声…」

愛「怖い…怖い…!」

愛「なんなの…追い詰めてる? ううん、違う…迫ってきてる…」

愛「また後ろに」

愛「汗が…止まらない…」

愛「また雷雲に突っ込むしかない! 怖いよ…いや、でも…」

愛「はぁっ…お、終わったの…?」

愛(空の王。天空を支配するもの……それは怖いもの。破壊と死をもたらし、痛みを残し、恐怖を刻む。でもその願いは?)

愛(少しだけ、重なる線。空に鎮座する王と、部長さん)

愛(『理解したいのだよ』。この言葉をキーワードに、少しの休憩をしながら、またコントローラーを握る)

愛「あんなに燃えたら、鳥や魚たちはどうなるんだろう…」

愛「空から確かに、線なんてないよね……線…くくるもの、しばるもの」

愛「スクールアイドル同好会でも、スクールアイドル部でも…スクールアイドルであっても、そこに線は…あった。あの時まで、ずっと。あった。あってしまった」

愛「この人のいう事を、部長さんはどう聞いてたんだろう…」

愛「生き残れる……そうか…ついていけば生き残れる、その背中に。その背中についていけば、大丈夫」

愛「………部長さん…」

愛「何かしなければならなかった」

愛「……一つ…その先頭に立つものとして…背中についていけば大丈夫って」

愛「部長さんを信じる私たち、私たちが信じてる事を知っている部長さん……」

愛「好き放題言ってるなぁ」

愛「……!」

愛「この動き…いや、でもそれよりも更に…」

愛「…行ける…やろう」

愛「そうして、道を切り開いてきたんだ…今までを……この空で」

愛「残された空の爪痕、踏み締めていく者に残った傷跡」

愛「あれと戦うんだ…」

愛「あんなに綺麗なのに……もたらすのは破壊。怪物」

愛「人が生み出してしまったから、怪物にもなる。本当は、宇宙へ向かう自由の為の鳥だったのに」

愛「これが…英雄の姿……そう」

愛「あの子はいつからか、そうなっていたんだ」

愛(気が付けば夜を過ぎて、明け方近くだった。一度シャワーを浴びてから、少し眠る事にした)

愛(夢を見る)

愛(青空と、天空へ伸びる灯台を背にする、彼女の姿を。屈託のない笑み)

愛(いつから、それが遠くなったんだろう)

愛(目を覚まして、またコントローラーを握った)

愛「これは、目が覚めるなぁ……ちょっと、ワクワクするかも」

愛「おっと、危ない危ない…こっちはダミーか」

愛「えっ…ま、まだ?」

愛「ふぅ……あ、これが13か…てことは…りなりーが言うには」

愛「警告が出てる…キャンペーンクリア後に…って言うけど」

愛「………りなりーのいう事を信じよう」

愛「SPミッション、と」

愛「……今の声…なに…狂気…?」

愛(あの戦闘機の主とは、また違う質の恐怖。それは。あの夜の部長に似ていた)

愛「ついていけば、生き残れる。その背中を追えば、大丈夫」

愛「多いよ、もう……だけど…それでも皆、ついてきてる。勇気を振り絞って」

愛「ついてきてくれてるんだ、だから背負わなきゃ。先頭で、切り開いてく…」

愛「愛さんも到着を待ってたよ!」

愛「怖がってるんだ、向こうも……それだけ、怖いから。それは…」

愛「……なんだろう、この人……」

愛「撃つのは、人………ランジュさんを壊したかった、部長さん。そうすれば、虹ヶ咲学園を…」

愛「怒りと、叫び」

愛「鎮魂と生贄…?」

愛「1000万人と、100万人」

愛「全校生徒と、ひとり」

愛「………」

愛「部長さんは、背負っていたから、救わなくてはいけなくなった。せっつーや、歩夢ちゃんも言ってた」

愛「みんなと、一緒に。行きたかった、だからこそ、前に導こうとして…救わなきゃって…」

愛「100%でなければ、失敗。怖い言葉だよね…」

愛「大盤振る舞い? 愛さんはもんじゃを大盤振る舞いするのがいいなぁ」

愛「またはお笑いのほう」

愛「これは…すごいや。暴れん坊がすごい」

愛「また、来たけれど、あっちも人、なんだよね…」

愛「…!」

愛「そんな…必要だなんて…死んじゃうんだよ…? 大勢…」

愛「ここまで、怖いなんて」

愛「また、怒りと叫び」

愛「あの夜、押し込められていたもの」

愛「その感情を押し込めてよいものじゃなかった、だけど…そこまで取り付かれてしまう」

愛「”絶対に止めなくてはいけない敵”」

愛「あの夜、歩夢は、そう言ってたね…あの子の事を」

愛「これが………この人が……」

愛「どうしてそこまでこの人を引き付けるの、それは酷い事だって、解る筈なのに」

愛「…違う、そうじゃない。逆なんだ」

愛「この人もまた、英雄であった」

愛「英雄であるから、英雄として救済しなきゃいけない。その為に人は”ついていく”。それが間違ってると分かっていても。そして、その人達もまた、それが”間違いではない”と信じていた。だって」

愛「この人ついていけば大丈夫、だから…」

愛「それが…この人と…今、コントローラーで動かしてるプレイヤーの違い……」

愛「だけど、現実はゲームじゃない」

愛「だからかすみんは疑問を持った。だからカナちゃんも背筋が凍った」

愛「手段と目的が入れ替わってしまったから」

愛「空の爪痕。それが狂気。虹ヶ咲学園を救うために一人を壊す! 一人を壊す為になり果てた!」

愛「何が違うか、いいや、違うよ」

愛「自ら進んで、空の道を照らす、灯し火を掲げる。そう、翼を広げた大天使。私たちを導き続けた」

愛「だけどそれは容易く、全てを破滅に追いやる悪魔にもなりうる。進むべき道を誤ってしまえば…」

愛「灯りを掲げて進む英雄的な人だった。だけど、それが気負い過ぎてしまえば、救済のための破壊に取り付かれてしまった」

愛「それを正すべき人たちが、いた。そう、コントローラーで動かしてる、プレイヤーには、こうして色んな人たちが、ついてきてるけど、同時に間違わないように、教えてくれるんだ」

愛「そう、それを正すべき人が…それを怠ってしまったから、間違ってしまった…」

愛「部の事だって、部長さんにも他の皆にもろくに相談もしないままだった」

愛「部長さん言ってくれなかった…確かにね。でも、言わなかったのは、愛さん達もなんだ」

愛「それでも尊重しようとしてくれてた。他の皆がどういう選択肢を選ぶかって事も…皆には怒れなかった。許せないと思っていても、それでも怒る事が出来なかった。導かなきゃいけないから」

愛「…部長さん…ごめんね…今、少しずつ解ってきたよ…」

愛「…お腹空いた…少し休もう。ハンバーガーにしようかな」

愛(朝から、もう昼過ぎになっていた。お腹もすいていたし)

愛(久しぶりに食べると美味しい)

愛「ジェットコースターだね」

愛(再開していく)

愛「遺書なんて、使わない方がいいよね」

愛「あ…また」

愛「……なんで、空を飛び続けるんだろう…」

愛「空にしか、いれないから?」

愛「空の王国……部長さんにとって、虹が架かる空の王国こそが」

愛「居場所だったんだ」

愛「首都……私たちで言うなら、東京…あの子と私の故郷」

愛「この場所は、昔も戦場だったんだ…」

愛「え…」

愛「なにこれ……壊れたビル、空から堕ちてきた星の爪痕…」

愛「こんな状況でも、戦ってたの…?」

愛「ここが、終わりの地…?」

愛「ううん、終わりであっちゃダメなんだ……」

愛「立ち上がらなきゃ……立ち上がる為にも、灯火が必要なんだ…」

愛「それって…」

愛「スクールアイドルの姿にも、似てる……」

愛「わたし…わたし…」

愛「…!」

愛「来たね…天空の王!」

愛「強い…だけど」

愛「この空をこれ以上傷つけさせたくない、だから負けないよ…!」

愛「だめだ、逃げて! 逃げて!」

愛「………何人も、奪ってきた…だけど、空しかないんだ、この人は…!」

愛「くそおっ!」

愛「え…」

愛「こんな事…あるんだ……」

愛「……希望、か」

愛「敵か、味方かもわからないなんて……いや…線引きが、見えないんだ…」

愛「同じ国を背負う人たちでも…道は分かれる…」

愛「それでも…相手を思いやることは出来るよ…間違っていても」

愛「その時傍にいなかった。寄り添う事を、話し合う事を、怠った…それが間違いなんだ」

愛「意志を離れて、暴走していく。人でなくても、そう。人なら…」

愛「これは…」

愛「空の、爪痕…空の罪線はやがて、恐怖の象徴になる」

愛「本当に、どうしてそうなったんだろうね…」

愛「あ……あああ!!!」ガタガタ

愛「……ひどい…なんで…」

愛(いたたまれず、少しだけ目を閉じて休んだ。あの水没した町が目に浮かんだ。空から堕ちてきた星の災厄、一度立ち上がり、一度踏み抜かれて、また立ち上がって、またも踏み抜かれて、また廃墟が重なる)

愛(同じ血を流す人が住んでる場所で、同じ血を流していく。もう立ち上がれないって、嘆く人がいるかも知れない)

愛(もう立ち上がれない…それって)

愛(ああ、そうだ)

愛(”私”だ。そう、思ってしまってたんだ…)

愛(もう一度、続きだ。まだ、終わってない)

愛「………ひどい」

愛「そんな事が……あ」

愛「ここも、なんだね……やるしかない」

愛「っこんな事まで…!!!」

愛「…戦いなんだ、孤独な……そうだよ…あの子も…」

愛「救うべき人がいたから、本当の意味で”味方”がいなくて、一人で戦うしかなかった…」

愛「その為なら手段も選ぶ事が出来なかった…!」

愛「しずく、言ってたじゃない…『どうしてそんなに痛そうな顔をしてるんですか? どうしてお腹を抱えて吐いてしまってるんですか?』って……」

愛「それがおかしいって既に気付いてたから…かすみんだって、彼方ちゃんだって…」

愛「!」

愛「…必ず」

愛「守る為の、戦い。かたや、生きる為の、戦い」

愛「この声…確か天空の王の…」

愛「…来る…天空の王…」

愛「地獄の炎、そう…天空の王は地獄の炎で、焼き尽くし続けてきた。そうして空に鎮座し続けた。空こそが王国で、彼はそこの王だったから」

愛「似ているようで、違う。灯火を掲げる人じゃない。だから、人はついてきても、導くことはできない」

愛「あなたは解ってるの? 一人孤独に戦う理由はない筈だって、気付いてる」

愛「一人じゃない、一人じゃない筈だったのに。私たちがいなかった」

愛「言ってた。『自分の居場所を奪われたくなかった! 私の世界を壊されたくなかった! それでも世界は砕かれて粉々だ! 私の場所を返せ!』って悲しく叫んでた」

愛「言ってた。『私は一人じゃ何もできない! ”みんな”がいなきゃダメなんだ!』って…」

愛「だから重なった」

愛「あの艦長も、天空の王も…そしてそれらを知っていたからこそ…」

愛「空にしか居場所がない…空にしかいれない。孫だっている人なのに、それでも空を飛ぶ事だけが全てでしかなかった、天空の王」

愛「そしてその罪も…理解してたんだね…それでも、自在に飛んでいきたかったんだ…」

愛「この空を…」

愛「……自分の国を…」

愛「空から見れば、線なんてものはない。だけど、それでも、線引きしなきゃいけないものが、この人たちに残ってたんだ…」

愛「……この人も、この人なりに目指すものを持ってたんだ…」

愛「希望の為の、灯台も……混乱の源になってしまった」

愛「その灯台を、守るべきはずだった正義の名を持つ白い怪物も」

愛「空から線は見えない、そこに線はない…この戦いを止める為に」

愛「こんな綺麗な青空と、宇宙へ伸びる灯台」

愛「少し前まで恐怖の象徴、それでも…その爪痕が、希望にもなりうる」

愛「あの人も…ここにいるんだね…」

愛「この線が無い光景…悲しくても、理想でもあるのかもね」

愛「笑った人たちの笑顔は、皆同じ笑顔なのと一緒だよ」

愛「んなっ…とんだ怪物だよ……絶望をもたらす…怪物」

愛「……どうするの?」

愛「え? なにか出来るの…どうするの?」

愛「どういう、事…? あ…!」

愛「そういう事、か! あはは、こりゃすごいや!」

愛「勝てる…あんな怪物にだって。希望を失わずに…!」

愛「そうだよ、だからあの子のお陰で、私たちはあの夜まで走り続けれたんだ…」

愛「希望さえあれば、意志は死なない。願いは消えない、未来は失われない」

愛「その背中についてきたんだ。今度は、私たちの背中を見て欲しい…!」

愛「え…」

愛「危ない、危ないよ!」

愛「あ…あああ! ここまで来て、ここまで来たのに…!」

愛「…倒そう、この怪物を……この線の無い場所で……」

愛「よしっ…」

愛「……やはり、まだ終わりじゃないんだね…」

愛(もう一度だけ休憩した。ふと、久しぶりにスマホを眺めると、千歌っちから、色んなメッセージが来ていた)

愛(他愛もない話ばかり。だけど、それでも嬉しかった。時々眺めていたけれど)

愛(ふと、話したくなった)

愛『色々、ごめんね。話したいよ』

愛(すると、既読がついた)

千歌『うん。私も、話したい事がある』

愛『電話大丈夫かな?』

千歌『いや、これは直接話したい』

千歌『明日、会えるかな』

愛『いいよ、明日だね』

愛(ふと、時計を見るともう夕方を過ぎて夜になりつつあった)

愛(大詰めだ。私は再びコントローラーを握った)

愛「この背中を灯火に、皆がついてくる。だからその道を誤ってはいけない。間違えないように、皆が手を差し伸べるべきだった」

愛「天空の王が生み出した怪物」

愛「本当に、怖いね…」

愛「だけど、それでも負けないのがこの人なんだ。希望を失わずに、空で戦い続けるんだ。あの子は、そういう人だったからこそ…あの子の為の灯火が、必要だったんだ」

愛「また、一人…この空から…」

愛「空の王国の自由を守る為の灯火…それがいつしか地獄の炎に変わり、羽根の色は闇色になってしまった。そうして虹の王国を守ろうとして、壊してしまった。でもその願いだけは、変わらなかった。痛みと恐怖をまき散らして。そこに救いは…」

愛「ある筈だったのに、なかったのは、私たちの過ち。でも、希望を捨てずにいれば…!」

愛「あの嵐の歌の、エマっちだよ…!」

愛「これで、終わり…」

愛「……ん?」

愛「えええ……?」

愛「そんな無茶……ううん。無茶じゃないね。私だってさ。そんな無茶、あの子。大好きだよね」

愛「だからついてくれば大丈夫」

愛「大丈夫!?」

愛「…危ない、危ない…」

愛「……いた!」

愛「……どうしよ。え、あるの?」

愛「そこ!?」

愛「空へ、ダークブルーの空へ…」

愛「そこに虹が架かる事を望んでた…あの子は…」

愛「………そうだよ、待ってる」

愛「皆が、待ってる。今度こそ、あなたが道を間違えないように」

愛(この暗くても、美しいダークブルーの空で)

愛(ここに、虹が架かる空の王国があった。彼女はその空の灯火である女王。番人)

愛(今はない。だけど、まだ希望はある。その空を照らすんだ)

愛(スクールアイドルによって)

愛「………あ」

千歌『明日の昼に、穂むらの前で』

愛『わかった』

愛(もう、夜になっていた。いい加減眠らないと)

愛(夢を見た)

愛(夕陽に照らされた、隕石が落ちた後。戦火で一度焼かれて、立ち上がって、また焼かれた後)

愛(泣いてる人たちの風景の中で、ダジャレを披露してみたら、笑顔が広がった)

愛(元気を出して、また立ち上がろうとする人達の顔を見た)

愛(楽しいの天才なんて言葉は、本当じゃなかったのかも知れない。だけど楽しいって感情も、元気を出す事も、国籍も人種も関係ない、この星のどこにでも、どんな人にでもあるもの)

愛(私が目指すべきものって―――――――――――)



昼頃 穂むら前

雪穂「お姉ちゃん。お客さん」

穂乃果「ん……あ」

雪穂「千歌さん…。ご無沙汰してます」

千歌「う、うん……雪穂ちゃんも、久しぶり」

雪穂「こっちに来るなら、連絡ぐらい…」

千歌「穂乃果ちゃん」

穂乃果「……」

千歌「話せる、かな。その…」

愛「…千歌っち…」

千歌「愛ちゃんと、三人で、ね」

穂乃果「……ああ、そうだね」

穂乃果「雪穂。店番お願い」

穂乃果「少し場所変えよっか……部屋片付けてないんだ」

愛(無言で、三人で歩いていた。穂乃果がどこで足を止めるかもわからなくて)

千歌(穂乃果ちゃんも話したい事の整理が出来てないのだろう。無理もない、私もだ)

穂乃果(何度も何度も再生した、あの夜の記録。そしてその翌日の記憶。気が付けば歩いていて)

穂乃果(神田川を歩き通して、隅田川との合流地点――――私はここでようやく、適当なベンチに座って、頬杖をついて川を見た)

愛(穂乃果の座ったベンチの隣、だけど何故か同じ方角を向けずに、180度逆にい、膝小僧を抱えて座ってしまった)

千歌(穂乃果ちゃんが座ったベンチの隣り、昨日よく眠れずにいたのもあってか、ベンチの残ったスペースに寝転がる形で、空を眺めた)

愛(どれぐらい、三人同じベンチでバラバラに座ってたかも分からない時になって、穂乃果が口を開いた)

穂乃果「愛ちゃん。璃奈ちゃんから、あの夜、虹ヶ咲学園で何が起こったかの、録音データを貰った」

愛「…りなりー」

穂乃果「愛ちゃん…言ってたよ……愛ちゃんは、あの子に、言うべき事を、ちゃんと言ってたんだよ、あの時」

愛「けど…」

穂乃果「うん…。あの子もその苦しみを誰かに言うべきだった。私や、千歌ちゃんとかに。しずくちゃんや栞子ちゃんを傷つける必要もなかった」

愛「かすみんと、カナちゃんも、間違ってるって解ってて、それで危ない時になって……」

千歌「うん…だけどあの子たちは、立ち上がった」

穂乃果「そうだね」

愛「………あの夜、私、部長さんに『部長さん言ってくれなかった』って言った。でも、そうであるなら。私たちも部長さんに言うべきだった。部の事だって」

愛「何の相談もせずに、帰ってきてから話せばいい、わかってくれる筈。そう思ってた」

愛「実際、その事を尊重してくれた。少なくとも、私や果林に、恨み言を言わなかった。いや、言えずにいたのかも知れない」

愛「その背中についていけば大丈夫って、誰もが思ってたから」

穂乃果「わかるよ」

千歌「そうだね……この空で輝くために、その道筋を追いかけていけばいい。背中だって押してくれる」

愛「でも本当は、そこで道を誤らないように、私たちもまた寄り添うべきだった」

愛「あの子が私たちを大切に見てるように、私だって…! でも、ずっと甘えてしまった」

穂乃果「果南ちゃんがものすごく怒るぐらいには、ね」

穂乃果「……愛ちゃん」

穂乃果「ごめん」

穂乃果「あの日、酷い事を言ってた。あの夜、千歌ちゃんがああ言ってた理由が、やっと分かった」

穂乃果「にこちゃんが怒るからって言って、話を聞くだけ聞いてなにもして無かった。だから千歌ちゃんは愛ちゃんを責められるのかって言ってた…全部、愛ちゃんに押し付けちゃった」

愛「……穂乃果…」

穂乃果「愛ちゃんも、穂乃果に聞いてほしくて相談してたのに…私も何もしてなかったよ」

穂乃果「合同ライブの話が出た時、せつ菜ちゃんがかすみちゃんの話をしてた」

穂乃果「その時に善子ちゃんも梨子ちゃんも、かすみちゃんの暴動騒ぎの事を心配してた。穂乃果はその話を愛ちゃんから聞いてたけど、せつ菜ちゃんと善子ちゃんが話題にするまで話もしてなかった」

穂乃果「それどころか、それを心配する千歌ちゃん達まで宥めてた…逆効果だ」

千歌「あの時、もう知っていたんだね」

穂乃果「千歌ちゃんも、本当にごめん」

穂乃果「穂乃果が、大バカだった」

千歌「その時に誰か怪しんでいれば、こうはならなかったのかもね」

愛「うん……皆、間違えちゃってた。皆で、ごめんなさいだね」

千歌「穂乃果ちゃん。穂乃果ちゃんが、感情的になってる時に、気持ちも考えずに、あんな事言って、ごめんね。私もムキになってたんだよ、きっと…友達を見捨ててしまったって思いで」

穂乃果「……うん」

愛「あの子の事…ごめんね。皆にとっても、大事な人だった…」

千歌「鞠莉ちゃん達は、まだ行き先を話してくれない」

穂乃果「まだ目覚めてないのかもね」

千歌「たぶん」

愛「そう、なんだ……」

愛「……考えたんだ。どうしたいかを」

愛「今度は、あの子を導く灯火にならないと。もう、間違えないように。それで」

愛「……虹ヶ咲学園、今は…」

千歌「大変な事になってる。梨子ちゃんが教えてくれたよ」

愛「うん……でも、立たないと。笑顔に、国籍も人種も関係ない。空から見れば国境が見えないのと同じようにね」

愛「だから…この空に、灯火を持って飛んでいかないと。そこに差なんてないんだって」

穂乃果「愛ちゃん……」

愛「ねぇ」

愛「……二人とも、また友達って呼ばせてよ…」

千歌「…あの夜、友達を見捨てたのは私なんだよ?」

愛「そんなことない。私だって、あの夜の前から、道を間違えちゃった」

穂乃果「…穂乃果もだよ」

穂乃果(いつからか)

千歌(涙が溢れていた)

愛(オレンジ色の夕陽に照らされながら、泣いていた)

愛(遊歩道の花壇に植えられてた薔薇が、同じ色に照らされているのを覚えてる)

ザップランド部室棟 スクールアイドル同好会部室

璃奈「……ん? 電話…」

ミア「璃奈、電話かい?」

璃奈「……穂乃果さん、から…」

璃奈「はい」

穂乃果『璃奈ちゃん。この前は…ごめん。あの、音声データなんだけど』

璃奈「うん」

穂乃果『Aqoursに送っても、いいかな?』

璃奈「大丈夫」

穂乃果『ありがとう。それと…一つお願いがある。今から、そっちに向かいたいんだけど。部室、移ったの? 前の部室、倉庫とか書かれてるんだけど』

璃奈「移転した。場所は…」

璃奈「ふぅ…」

ミア「前の部室も居心地悪くはなさそうだったんだけどなぁ」

璃奈「確かに」

ミア「彼女の曲からもう少し整理しない事には…新曲、確かに求められる。彼女無しではない、彼女が残したものからマッシュアップで出来れば…クソ、ダメだ! これじゃだめだ!」

璃奈「璃奈ちゃんボード『落ち着け』」

コンコン

愛「……りなりー、それに…ミア」

璃奈「愛さん」

ミア「やあ、愛。久しぶり」

愛「……うん。あのさ、他の、皆は?」

璃奈「外で、練習中。この狭さ、だから。でも、すぐに呼び戻す」

穂乃果「うわ、本当に狭いね…」

千歌「うちの部室の半分もないのだ…」

ぞろぞろ

せつ菜「璃奈さん、急にすぐに戻ってきて欲しいとは…」

エマ「なにかあったかな」

栞子「まあ、それはともあれ」

千歌「そりゃ狭いね」

穂乃果「これは狭い。ここに九人はねぇ…」

愛「あ…」

かすみ「愛先輩…それに、穂乃果先輩と千歌先輩も…」

愛「えと……」

愛「皆、まずは本当にごめん! 色々逃げちゃって…」

愛「でも、りなりーが届けてくれたゲームやって、あの時の事とか、どうしたいかとか、ずっと色々考えて」

愛「………立たなきゃって思った。あの子の背中を追いかけてれば大丈夫。だけど、その道を誤らないように、私たちが、支える必要があった。それを怠ってた」

愛「だから、こうなっちゃった……間違ってたんだよ、愛さん…」

愛「それで今、学校はこんな状況だよ……」

愛「笑顔に、国境はない。空から見れば、線が見えないのと同じように。だから愛さんもまた、灯し火にならなきゃ。導くために。そして、あの子が二度と道を誤らないように」

璃奈「…愛さん」

璃奈「おかえりなさい」

愛「りなりー……り、りなりーっ、あり、ありがと、ありがとぅっ…」ボロボロ

かすみ「あ、愛先輩。ほら、ハンカチハンカチ」

しずく「なんだかこうして、皆が帰ってくるたびに泣いちゃってる気がしますね」

エマ「かすみちゃんは部室に入ってくるなり土下座だったよね」

かすみ「そ、それは…」

穂乃果「ああ、そういえばかのんちゃん…かすみちゃん一度責任取ってスクールアイドル辞めたとか言ってたね…」

愛「えっ、愛さんいない間にそんな事になってたの!?」

しずく「実は栞子さんもやめてました。かすみさんと同じ日に帰ってきてくれましたけど」

栞子「お恥ずかしながら、ただの三船栞子として出来る事をしようかと…」

千歌「おおー、でも良かったよかった」

穂乃果「だね…」

穂乃果「かすみちゃん」

かすみ「…はい」

穂乃果「あの日の記録も聞いた」

穂乃果「……正直言って、聞いてて辛かった…それに対して、何も考えないで色々言い放題してて…ごめん」

穂乃果「合同ライブの事。かのんちゃんがいない時に話すのもなんだけど……条件を付けたい」

かすみ「…はい」

穂乃果「虹ヶ咲の子たちだけへの、条件だよ。Liella!の皆と同じステージに立つことは、私もしたい」

穂乃果「ひとつは…あの子が関わってる新曲を一曲でも入れる事」

穂乃果「もうひとつは、ステージに立つ子は、誰も欠けない事」

穂乃果「これが約束出来るなら、出る。逆を言えば、出来れなければ無い」

かすみ(穂乃果先輩の言葉に、皆は沈黙する)

かすみ「やります」

穂乃果(かすみちゃんは、しっかりと頷いて答えた)

穂乃果「楽しみにしてる」

千歌「あ、そうだ。璃奈ちゃん」

千歌「例の音声データなんだけど…」

璃奈「うん。今、用意する」

千歌「それと千歌、ここに来るまでに少し考えたんだけどね…」

千歌「あの子は、ランジュちゃんに使おうとした催眠が自分に跳ね返ってきた。で、その催眠に関しての元ネタのアングラサイトを善子ちゃんが解読してるんだけど」

穂乃果「そんな事してたんだ、善子ちゃん」

千歌「難航してる」

璃奈「みたい。脳波に干渉する機器の設計図や使い方のデータも来たけど、まだこっちも解読してる」

千歌「で、話を戻すんだけど…」

千歌「催眠そのものはランジュちゃんに何度かかけてるみたいだね」

かすみ「え、ええ。そう言ってました。サンプルを作るぐらいには…あと、色々刷り込みしたとかも」

ランジュ「かすみに言われるとすごい生々しいわね」

かすみ「というより明らかにマインドコントロールしてましたね部長…」

千歌「善子ちゃんもそう言ってたね」

ランジュ「い、今はあの子をちゃんと友達と思いたいわ! 信じたいの!」

栞子「しかしマインドコントロールってランジュみたいな子でも引っかかるのでしょうか」

千歌「善子ちゃんが言うには、自信家とかでも普通にかかるらしいのだ」

千歌「と、ともかく。その催眠について辿れば、少しは解析に繋がるんじゃないかって事」

璃奈「なるほど」

璃奈「わかった、善子ちゃんと連絡を取ってやってみる」

かすみ(少しだけ、希望が見えてきた)

愛(夕陽に照らされる、東京湾――――――天に伸びる灯台が見えた気がした)

愛(境のない、空)

7/了

仮にこのSSみて始めようとする人がいたらこれを渡しておこう。

つノーマル操作

つCASUAL -EASY-

シリーズ経験者でもEASYがきつめの難易度なので、恥ずかしくない。
ちなみに前スレでも出てきたトーレス艦長はDLCのSP MISSIONに出てくるよ(有料です)

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