愛「あたしにできること」 (38)

学校

友「ねー、愛。ふと思ったんだけど……」

愛「ん? なーに?」

友「愛からアイドル取り上げたら何が残るの?」

愛「」

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876プロ事務所

愛「」ウナダレ

石川「私の椅子に体育座りして項垂れてるあれは何事?」

絵理「昨日友達に「愛からアイドル取り上げたら何が残るの?」って言われて傷ついてる愛ちゃんです……」

石川「なんでそんなことに……」

涼「唐突に言われたそうです」

石川「愛、午後から仕事が入っているのよ? シャキッとしなさい!」

愛「はぁーい……」

石川「涼、絵理。私はまた出かけてくるから、愛に水やりしておいて」

絵理・涼「はい」

涼「……水やりって、励ませってことだよね?」

絵理「どう励ませばいいかは丸投げ?」

愛「」ウナダレ

絵理「……」

 グールグール

涼「絵理ちゃん、なんで椅子を回してるの?」

絵理「自動的に、椅子の上の愛ちゃんも回るから。きっと童心に帰って元気を取り戻してくれる……信じてる」

 ぐ~るぐ~る

愛「」ウナダレ

絵理「……」

 ぐるぐる ぐるぐる

愛「」ウナダレ

絵理「……」

 ピタッ

絵理「私が楽しいだけだった」

涼「愛ちゃん、目を回してなきゃいいけど」

愛「」ウナダレ

涼「ここはやっぱり、言われたことについて否定してあげるのが一番だと思うよ」

絵理「うん。愛ちゃんはアイドルを取り上げられても魅力的……」

愛「アイドルになれたのに取り上げられちゃうんですね……」ウナダレ

絵理「取り上げたりしないから、落ち込まないで?」

愛「ごめんなさい……」ウナダレ

絵理(こういう時の愛ちゃんって、とにかく泣いてスッキリできるはずなのに……)


涼「愛ちゃん、取り上げられるって考えないで。アイドル以外に愛ちゃんの得意な事とか、好きな事を考えてみようよ」

愛「アイドル以外に得意な事……好きな事……」ウナダレ

絵理「愛ちゃんには、突撃豆タンクって言われるほどの元気がある? それは、アイドルじゃなくてもちゃんと愛ちゃんが持ってるもの」

愛「元気……そうだ、そうですね! 何よりもまず元気! 元気がなきゃあたし――」

愛「……結局空元気でしかないですね。うぅ」ウナダレ

絵理「う~ん、これはちょっと難しい……」

涼「今日は落ち込み方が凄いなぁ……」


絵理「発想を変えてみる。愛ちゃんは泣けばスッキリして、自分で立ち上がれる子」

涼「そうだね。自分の力で立ってもらおう」

絵理「だけど、今は泣く前にどんどん落ち込んでいってる状態」

涼「アイドルじゃなきゃ自分には何も残らないって勘違いしちゃってるんだね、きっと……」

絵理「ここは逆に追い詰めて、早めにどん底に行ってもらう」

涼「ちょ、それ大丈夫なの?」

絵理「危険だけど……愛ちゃんを、信じてる。必ず這い上がってきてくれるって」

涼「絵理ちゃん……僕も信じてるよ。愛ちゃんも、絵理ちゃんも!」


絵理「愛ちゃん、確かに愛ちゃんにはアイドル以外何もない。アイドルバカ?」

涼「日高舞の娘が残るよ、愛ちゃん!」

絵理「猪突猛進な勢いの良さを除けば、あの有名なアイドル級の無個性?」

涼「アイドルじゃなきゃ意外とダメだね!」


愛「」DOWN!

涼「どうして……どうしてこうなることを予測できなかったんだろう……」orz

絵理「お、尾崎さんに助けても、もら、もら……」orz

涼「……そうだ、確かプロフィールに趣味の欄があったはず。愛ちゃんのは――」

絵理「……金魚すくいとバーゲンの一点買い?」

涼「……これで励ませるかな?」

絵理「多分、無理」


愛「」DOWN!

涼「午後までに愛ちゃんを復活させられなかったらどうなるかな?」

絵理「理不尽だけど、怒られる? 愛ちゃんには頑張って復活してもらわなきゃ」

涼「だけど、どうやって……」

絵理「愛ちゃんに、自分がとっても魅力的だって自覚してもらわなきゃ。結局、褒めちぎるのが一番だけど……」

涼「マイナス方面に曲解しちゃうだろうね」


絵理「……そうだ、妹」

涼「妹?」

絵理「愛ちゃんには妹属性がある。765プロの萩原雪歩さんや天海春香さんをお姉さんにする程度には、妹」

涼「それは、単に愛ちゃんが年下っていうだけじゃ?」

絵理「あっ……いや、待って涼さん。やよいさんと比べてみる?」

涼「やよいさんと?」

絵理「どちらも元気なイメージで、年代も同じ。だけど、やよいさんは姉属性。愛ちゃんは妹属性」

涼「そ、そっか! よくわからないけど、そうだね!」

絵理「つまり、愛ちゃんはたとえアイドルを取り上げられても――」

涼「妹属性が残る!」


涼「――なんて言われても、ね」

絵理「うん。妹とか言われても、励ましにも慰めにもなってない……」

涼「どうしよう……」

絵理「……ここは、助っ人を呼ぶしかない」

涼「助っ人?」

絵理「助っ人」

愛「」DOWN!

ここで中断します
またこんど

乙しよーーーーっと!!!!


春香「こんにちはー。遊びに来たよー」

涼「春香さんかー……」

絵理「こういう時は定番が一番」

春香「何の話? お呼ばれしたから来てみたんだけど……」

愛「」DOWN!

春香「どうして愛ちゃんは床の上で横になってるの? 仮眠室かどこかに運んであげなきゃ」

涼「いえ、そういう問題じゃないんですよ」

絵理「実は――」


春香「そんなことがあったんだ。ふむふむ、なるほど」

絵理「ここは、愛ちゃんの憧れである春香さんに……」

涼「なんとか慰めてもらおうと」

春香「うーん……愛ちゃんからアイドルを取り上げて何が残るか、かぁ……」

絵理「何かあります?」

春香「やっぱり、元気のよさだよね! 思い出すなぁ、愛ちゃんがオーディションに来た時の事……」

涼「それはもうやりました」

春香「え!?」


春香「それじゃあ……そもそも、アイドルは取り上げられない!」

絵理「そういう問題じゃ、ない?」

涼「アイドル以外に、愛ちゃんにできることとか得意なこととか……とにかく、そういうものってないでしょうか?」

春香「う~ん……同じ876プロの絵理ちゃん涼君がお手上げだと、もうどうにもならないかなぁ」

絵理「万事休す……?」

涼「……そうだ! 愛ちゃん、お母さんは何か言ってなかった!?」

愛「何が残るのかしらねーって言ってました。あとは覚えてません」ションボリ

春香「舞さん……」


絵理「……あっ」

涼「絵理ちゃん、どうしたの?」

絵理「いや、けど、これは……」

涼「もうこの際、思いついたことは言ってみよう」

絵理「うん……愛ちゃん」

愛「はい」ションボリ

絵理「愛ちゃんには、その身体が残る?」

涼・春香「え?」


絵理「愛ちゃんは自覚ないかもしれないけど、全体的にスタイルがいい。小柄で子供っぽく見えがちだけど、理想的な成長をしてる」

愛「!?」アセアセ

春香「そういえば……」

涼「これ僕は聞いてていいの?」

春香「愛ちゃん! スタイル良しだよ、スタイル良し!」

愛「///」

絵理「だけど、これはしっかり育てた舞さんの功績?」

愛「」

涼「け、けどちゃんと残るものだよ!」

愛「」ションボリ


春香「えっと……それじゃあ……それじゃあ……」

春香「……」

春香「ごめんダメだった」

絵理「やっぱり、元気の良さを愛ちゃんが否定してたら意味がない?」

涼「元気のいい子が残る、でいいと思うよ、愛ちゃん」

愛「」ションボリ


涼「ほら、頑張って、午後の仕事に備えよう? ね?」

愛「はい……」

春香「愛ちゃん午後から仕事なんだ。……あれ? 絵理ちゃんと涼君もこの後すぐ入ってない? ホワイトボードに予定書かれてるけど?」

絵理「あっ、そろそろ時間なんだ……」

涼「弱ったなぁ……。あの、春香さん」

春香「大丈夫、愛ちゃんは任せて!」

絵理「それじゃあ、行ってきます」

涼「愛ちゃん、あまり気にしないで、早く元気になってね」

愛「行ってらっしゃーい……」手フリフリ

春香「行ってらっしゃーい」


春香「さて、と」

愛「」ションボリ

春香「愛ちゃん、どうして友達に言われちゃったんだろうね」

愛「」ションボリ

春香「愛ちゃんからアイドル取り上げたとしても、ちゃんと可愛い子が残るのに。失礼な友達だよね」

愛「あっ……悪く言わないでください。いい子なんです」

春香「今日やっと目を合わせられたね」

愛「はい……」


春香「……やっぱり、懐かしいなぁ」

愛「え?」

春香「フフッ……ちょっと換気するね」ガラガラ

愛「あの、何が懐かしいんですか?」

春香「公園のこと、愛ちゃんは覚えているかな?」

愛「初めて会った日のことですね? 覚えてます」

春香「今の愛ちゃんは、あの時みたいだよ?」


愛「あの時……もう、アイドルにはなれないって思ってました」ションボリ

春香「今回も、もしアイドルじゃなくなったら、って考えちゃったんだね」

愛「……はい」

春香「その時、自分がどうなるか、どうすればいいか不安なんだ」

愛「……春香さん、あたしって、アイドルじゃなきゃ何もないダメダメな人間ですか?」

春香「そんなことないよ! そういうこと言っちゃダメ! はーんせい!」

愛「わわっ! ごめんなさい!」


春香「愛ちゃん、誰かに言われなかった? 自分の事を頑張ってないとか、ダメとか言っちゃダメって」

愛「……言われました」

春香「それって、大切なことだよ」

愛「だけど……」

春香「愛ちゃん、アイドルは好き?」

愛「好きです! だけど、取り上げられちゃったら……」

春香「じゃあ、取り上げられなきゃいいんだよ」


春香「今の愛ちゃんに、他のものが見つからないなら、胸を張って言えばいいんだよ。アイドルしかない、アイドルだって」

愛「そ、それでいいんですか?」

春香「いつか他のものが見つかるかもしれない。それまでは、それでいいんだよ。大好きなアイドルを、胸張って、しっかり持っていて」

愛「……そっか、そうですよね。ずっとなりたかったんだし」

春香「私たち、今はアイドルバカでいいんじゃないかな?」

愛「……はい!」


春香「声の大きさ、戻ってきたね。お祝いに……時間なかったから、近くで買ってきたものだけど、シュガーパイ!」

愛「わー! 春香さん、ありがとうございます!」

春香「絵理ちゃんや涼君にも、ちゃんとお礼を言うんだよ?」

愛「勿論です!!」


後日 学校

友「で、結局愛には何が残るわけ?」

愛「まだその話引っ張るの?」

友「ほれほれ、答えてみ」

愛「何も残らないよ」

友「あれま」

愛「今あたしにできることはアイドルしかないから、アイドルだけだもん!」


おわり

難しい年頃の愛ちゃんが悩む姿が大好きです

⋂( >ヮ<)q乙しよーーーーー!!!


⋂( >ヮ<)q乙したよーーーーー!!!

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