【ミリマスSS】みんなと迎える新しい年 (16)
アイドルマスターミリオンライブ!のSSです。
ひなた、ジュリア、紬が同じ家に住んでいるというオリジナル設定があります。
言い出しっぺは奈緒です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1609505655
大晦日。二十一時。
リモートイベントの終わりに三十分くらい個別に配信して、今年最後のイベントはお開きとなった。
えーっと、と亜利沙さんからもらったマニュアルとパソコンの画面を見比べながら配信終了のボタンを探す。
その様子も配信されていることに気付いて、「あ、えへへ。したっけねぇ」と誤魔化しながらウィンドウを閉じる。
劇場で控えているらしいプロデューサーさんと亜利沙さんに連絡を入れて、確認してもらう。
OKが出たので、社内用のチャット欄に「お疲れ様です。良いお年を」と書き込んで、簡単に挨拶を済ます。
本当は直接伝えたかったけど、流石に忙しいだろうから、年明けに改めて伺おう。
ピコン。とメッセージアプリの通知が鳴る。
紬さんからだ。
『終わりました』と簡素な連絡。
『こっちも終わったよぉ。ジュリアさんはどうだい?』
『終わった。十時でいいか?』
『畏まりました』
『分かったよぉ』
ノートパソコンをぱたんと閉じて一旦伸びをする。
交代で参加していたので自分の出ている時間は全体の中では少ないが、他のアイドルのコーナーも見ていると中々の長丁場だ。
寒いので湯船に浸かりたいところだけど、時間の関係でシャワーだけで済ませる。
メイク落としも浴室で。莉緒さん曰く、正しい手順ではないとのことだが、未だに急いでいる時はやってしまう。
パパッと簡単に髪をタオルで巻いて、スキンケアをしているといつの間にか三十分が過ぎていた。
ジュリアさんの言葉からして、十時以降であればいつでも良いのだろうと思うけど、なんとなく指定された時間に行きたくなってしまう。
タオルを取って、いつもより忙しなくドライヤー動かして髪を乾かす。
実家に居た時なら、みんなでテレビを見ながら順にゆっくりお風呂に浸かっている時間かな。
年末に限らず、こんな時間に慌てて髪を乾かすことなんて無いので、何故だか朝の慌ただしさを思い出してしまう。
『準備できたよぉ。行って良いかい?』
『おう』
玄関に置いておいた段ボールを抱えて、ちょっとだらしないけど足で扉を開く。
歩いて六歩だけ、すぐ向かいの扉の前に到着する。
少しだけ考えて、左手とお腹でバランスを取りながら右手で扉をコンコンと叩く。
「ヒナか」
「お邪魔しまぁす」
「どうぞ。……おっ」
「みかんだよ。友達と年越しするんだぁって伝えたらまた送られて来ちゃって」
「前のも美味かったからなぁ。さんきゅ」
端に靴を寄せて上がらせてもらうと、ジュリアさんの部屋は前に来た時から何も変わっていなかった。
せめて布団くらい夏用と冬用のもので変えれば良いのに。
「寝巻で調整するから良いんだよ」と宣うジュリアさん。
厚手のスウェットは確かに暖かそうだけど、下を見ると素足が覗いている。こんど毛糸の靴下でも編んであげるかねぇ。
「スープとお菓子も入ってるから、後で開けようねぇ」
「お菓子……?」
「それは松前漬けだべさ」
「まぁ座ってくれ。お茶しか無いけど」
「悪いねぇ」
髪の長さはあたしとさほど変わらないけど、ジュリアさんの髪の毛はしっかり乾いていた。
メイクも落として髪も整えていないジュリアさんは意外と童顔で、翼ちゃんや志保ちゃんと同い年くらいに見える。
外で見る機会のないジュリアさん。
もちろんアイドルのジュリアさんもとってもかっこよくて可愛らしいけど、この親しみやすいジュリアさんも、もっと色んな人に知ってもらいたい。
「失礼致します」
居間で荷物を広げつつ、ミカンの皮を入れる箱を用意していると、玄関から綺麗な声が聞こえた。
「うおっ、ムギか」
「なんですかその反応は」
「ヒナはちゃんとノックしてから入ったぞ」
「そうですか。お邪魔します」
特に気にする様子も無い足取りがこちらに近づいて、居間の扉が静かに開く。
綺麗に整った顔の上に大きな白い球が乗っかっていた。
「木下さん。お疲れ様です」
「紬さんもお疲れ様だべさ。ミカン食べるかい?」
「頂きます」
「くつろぐまでのラグが短いなぁオイ」
愚痴を言いながらペットボトルのお茶とコップを持ってくるジュリアさん。
一気に持ってくるのは難しかったのか、コップを一つだけテーブルの上に置くとジュリアさんはまたパタパタと台所に戻っていった。
「ムギが最初にウチに来た時には化粧も髪飾りもして来たのになぁ~」
わざとらしく良く響く声が聞こえてきた。
紬さんはミカンの皮を剥くのに夢中だ。
長く綺麗な髪を纏めたタオルをぽむぽむと叩くと、まだ湿った感触が残っていた。
「横山さんが着くころには一度戻って乾かしてきます」
そっかぁ。紬さんの髪がちゃんと乾くまで待っていたらかなり後になっちゃうもんね。
「お蕎麦はいつ茹でれば良いでしょうか」
紬さんの手には美味しそうな生蕎麦。なんでも金沢の実家から送られてきたらしい。
パッケージのようなものが付けられていないあたり、市販されているものではないのだろうか。
「年が明けたらで良いだろ。言っとくけどうちの鍋小さいから四人分一気に茹でれないからな」
ジュリアさんが戻ってきた。
「ネギとそばつゆはうちにあるから後で取りに行くねぇ」
「あ、ミカン美味しいです。木下さん、いつもありがとうございます」
「お婆ちゃんに伝えておくよぉ」
「さっき奈緒から連絡があって、もうすぐ着くって」
「どうして言ってくれないのですか! 先に髪を乾かしてきます!」
「ウチらは良くて奈緒はダメなのかよ」
「それは、そうですね」
けらけらと笑ってしまう。
紬さんは今も昔も礼儀正しいけど、初めて会った時はもっとこう、距離感があった。
言わば近寄りがたいほどの美人のこうした一面を見れるのは同じ屋根の下に住んでいる特権であると実感してなんだか笑顔になってしまう。
「奈緒さん、早いねぇ」
「ウチで風呂も入るって言うんだよアイツ。多分配信終わって五分後には家出てるぜ」
「あれぇそれならそろそろ着くハズなんだけどねぇ」
「コンビニでも寄ってるんだろ」
もそもそとミカンを剥きながらテレビの番組表を弄るジュリアさん。
今日はみんなで紅白歌合戦を見ようと話していたはずだけど、つい癖で番組表を開いてしまうらしい。
年末年始のテレビの扱いひとつで実家とは違いが感じられて、なんだか面白い。
「ジュリアさんも今年は実家に戻れなくて残念だねぇ」
「あー、アタシは元々戻ろうか悩んでたからなぁ。中学の時も年越しでライブとか練習とかしてたし」
「そうなんだぁ。あたしは実家以外で過ごすの初めてだからなんか変な感じだべさ」
「あー、ヒナはそんな感じするなぁ」
馬鹿にするわけでもなく、同情するでもない。
そんな空気を心地良いと感じた。
演歌をBGMにしてお喋りをしていると、玄関からコンコンと音が聞こえた。
「どうぞー」
「失礼します。先ほどはノックしろと言ったのに」
「立つのが面倒だったんだよ」
サラサラになった髪を携えて、紬さんが戻ってきた。
「あれ、横山さんは」
「さっき連絡来た。大きいおたふくソースがコンビニに無かったからスーパー寄るって」
「なんなん?」
実家以外で過ごす年越しは寂しいと思っていた。
でもこちらはこちらで、温かい。
おわり
終わりです。
今年は上京組が生まれて初めて実家で過ごさない年越しなのかなぁと思うと感慨深いものがありますね。
HTML依頼出してきます。
おたふくソースは重要
乙です
木下ひなた(14) Vi/An
http://i.imgur.com/PtpcFlX.jpg
http://i.imgur.com/KGldnPF.jpg
ジュリア(16) Vo/Fa
http://i.imgur.com/hTynsLF.png
http://i.imgur.com/G09quRI.png
白石紬(17) Fa
http://i.imgur.com/AC10XEb.png
http://i.imgur.com/02WjX7S.png
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