高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「新年のカフェで」 (43)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「ハッピーニューイヤー」

高森藍子「あけましておめでとう、加蓮ちゃんっ♪」

加蓮「今年もバッチリまとわりついてあげる。よろしくねー」

藍子「……またいきなりですね」

加蓮「じゃないと誰かさんがすぐ逃げようとするし」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1546766108

――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第63話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「今日までのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「似ているカフェと、黄昏色の帰り道で」
・高森藍子「北条加蓮ちゃんと」北条加蓮「向かい合う日のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「とてもとても寒い日のカフェテラスで」

謹賀新年。今年もよろしくお願い致します。

加蓮「いや、私だってほら、なんだかんだ人生経験ある方だしさ。アイドルになってからはビックリすることばっかりで、もう何が来ても動じない! って思ってはいたけどさー……」

藍子「……」アセダラダラ

加蓮「さすがの私も、まさか合同自主レッスン当日に逃げられるとは思わなかったわよ。これアレだよね、ドタキャンってヤツだよね」

藍子「…………」アセダラダラ

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……ごめんなさい」

加蓮「はいはい。まぁ結局、追っかけ回してたら私がダウンしたからレッスンなんてなかったことになったけどね」

藍子「未央ちゃんたちにも、ご迷惑を――」

加蓮「あの野次馬共はもう何があっても楽しそうだからどうでもいいでしょ。チャンスを見つけては私に藍子を返せだのご飯を食べろだの。騒ぎたいだけなんだから放っておきなさい」

藍子「ええぇ……」

加蓮「逆に言うとさ。野次馬共が野次馬しかしないから、元凶の私がこうして藍子と向かい合わないといけなくなるんだけどね」

加蓮「……一応あれでも気を遣ってるつもりだとか奏が言ってたけど、あそこまでこっちのこと考えてません、楽しんでます、って顔じゃもう怒る気にもなれないよ」

藍子「あ、あははははは……」

加蓮「で、まだ駄目なの?」

藍子「…………」コクン

加蓮「そっか」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……あ、店員さん。サンドイッチありがとー」

藍子「ありがとうございますっ」

加蓮「ん? 何? ……ねぇ藍子、あの店員がさ、"またお前か"って顔して去ってったんだけど。私が悪いのこれ?」

藍子「もう、どう謝ったらいいのか分からなくなってきちゃいました……」

加蓮「どうしたらいいのか分からないのはお互い様でしょ。サンドイッチでも食べて気分替えよ? ほらほら、今年最初のサンドイッチだよー?」

藍子「……そうしますねっ」

加蓮「いただきます」パン

藍子「いただきますっ」パン

加蓮「あむっ」

藍子「もぐ、もぐ……」

加蓮「ふうっ。よかった。ちゃんと美味しい」

藍子「?」

加蓮「ほら、最近藍子のせいで調子狂いまくってるし。なんかカフェの空気まで変わってきた気がしてさ。これでサンドイッチの味まで落ちてたらやだなーって」

藍子「……私も、サンドイッチみたいに早く元に戻らなきゃっ」

加蓮「あむあむ……。思ったけど、早くしろ早くしろって文句を言ってばっかりっていうのもアレだよね」

藍子「?」

加蓮「じゃあ、そうだねー……。藍子がまた前みたいに楽しくレッスンをできるようになったら」

藍子「できるようになったら?」

加蓮「加蓮ちゃんがサンドイッチを作ってあげるー」

藍子「!?」

加蓮「……えっ、ちょっと。何そのマジかって感じの反応」

藍子「加蓮ちゃんが!? サンドイッチってことは、加蓮ちゃんが台所に立つってことですか!?!?」

加蓮「気持ちは分かるけど私を何だと思ってるのよ!」

藍子「む、無理しなくていいですよ? ほら、指とか怪我しちゃったら、ネイルが塗れなくなってしまいますし」

加蓮「きゅうりとかレタスを切る程度でしょうがそれくらいで怪我なんてしないわよ!」

藍子「トマトだって切るんですよ!?」

加蓮「だから何!?!?」

……。

…………。

加蓮「ごちそうさまでした」

藍子「ごちそうさまでしたっ」

加蓮「さてと。藍子!」スワリナオシ

藍子「は、はいっ」スワリナオシ

加蓮「ちょっと考えて来たんだけどさ。藍子に足りないのって、危機感だと思うのよ」

藍子「ききかん?」

加蓮「例えば、このオーディションで落ちたらもうアイドルを続けられないとか、このステージは2度と訪れない、だから全力以上の全力を出さなきゃ! とか」

藍子「確かに、あまりそういうことを思ったことはないような……?」

加蓮「でしょ? アンタいつものほほんってしてるもんね。ミスっても次あるしー、みたいな」

藍子「さ、さすがにそこまでは……」

加蓮「トチっても誰か助けてくれるし? 藍子ならいい顔してれば手を差し伸べてくれるだろうし」

藍子「……あの、加蓮ちゃん。その……悪いのは、私ですけれど、でも、できればもうちょっとだけ優しい言葉で言ってほしいです……」

加蓮「あ。……ごめん、ついヒートアップしちゃった」

藍子「それなら、少し落ち着くために食後のコーヒーはどうですか?」

加蓮「いいねー。すみませーんっ。コーヒーと、藍子は?」

藍子「ココアでっ」

加蓮「お願いねー。さては藍子、また一口欲しがってるでしょ」

藍子「バレちゃいましたっ」

加蓮「藍子のココアは……。いいや。この前飲んだ時とかすごく甘かったし」

藍子「加蓮ちゃんが注文したら、きっと加蓮ちゃんの好みの味で出して頂けますよ」

加蓮「って言ってもココア飲みたい気分じゃないし」

藍子「ふふ、そうでしたね」

加蓮「……注文しといて何だけど、コーヒーってノリじゃあなかったかも」

藍子「今から取り替えてもらいますか?」

加蓮「ううん、いい。なんかそこまでって感じじゃないし。あとさー、飲みたくないんじゃなくて……こう、新しいことしてみたい感じ?」

藍子「ふんふん」

加蓮「コーヒーとメロンソーダはもう飲みまくったもんね。今ならイメージだけで生み出せそう」

藍子「カフェで使える魔法ですねっ」

加蓮「なんたって魔法使いだからね、私」

藍子「年末はお疲れ様でした。東京を救ってくれてありがとうございます、加蓮ちゃん♪」

加蓮「いや宇宙を救ったアンタほどじゃないわよ」

藍子「でも、今こうしてのんびりしていられるのも、加蓮ちゃんのお陰だって考えると――」

加蓮「なら今日は藍子の奢りね」

藍子「そ、それとこれとは別ですっ」

加蓮「えー。せっかく助けたのに。救世主だよ? 私がいなかったら藍子だってどうなっていたことか」

藍子「加蓮ちゃんなら、やってくれるって信じていましたから」

加蓮「それにさー、ほら、お正月だったでしょ。お年玉あるでしょ。ねー? 藍子ちゃん?」

藍子「こ、このお金はダメです。このお金は大切なことに使う予定がっ」ギュー

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……はいはい。鞄を抱きしめなくても盗ったりしないってば。割り勘でいいわよ割り勘で」

藍子「ほっ」

加蓮「っと、店員さんありがとねー」

藍子「ありがとうございますっ」

加蓮「……」ズズ

藍子「……♪」ゴクゴク

加蓮「……じゃなくて」

藍子「?」

加蓮「危機感の話でしょ」コト

藍子「そういえば、そんなお話でしたね」

加蓮「ごほん。いい? 藍子には危機感が足りないの。アイドルとしての危機感」

藍子「それは――」

加蓮「それは?」

藍子「……ど、どうすればいいですかっ、加蓮せんせ――は、ダメだから……じゃあ、加蓮さんっ!」

加蓮「ふむふむ。まずはコーヒーでも飲んで落ち着くが良いぞ」スッ

藍子「……誰かの物真似ですか?」

加蓮「……忘れて」

藍子「コーヒー、いただいてもいいですか?」

加蓮「どーぞ。にしても、どうしたらいい、かー。うーん……」

藍子「……」ゴクゴク

加蓮「方法はいくらでもあるんだけどさ。なんていうかな」

藍子「ふうっ。……はい、加蓮ちゃん。コーヒー、ありがとうっ」

加蓮「んー。一応さ、これでも具体的に提案しようって思って来たんだよね」

藍子「でも?」

加蓮「……やっぱ駄目だなぁ、私。藍子を見てると甘くなるっていうか――」

藍子「……?」

加蓮「……アンタが悪いのよっ」

藍子「なんで!? 何がっ!?」

加蓮「とにかく悪いのっ。アンタが悪い! そう、全部悪い!」

藍子「わ、私だって悪いところはあるかもしれませんけどそこまで言わなくてもいいじゃないですか!」

加蓮「だいたいさ、いつまでめそめそしてんのよ。落ち込むのは分かるけど長引きすぎでしょ!」

藍子「だってっ……」

加蓮「そもそも――」

藍子「だって……」グスッ

加蓮「っと……。ごめん、また熱くなっちゃった。こんなの私のキャラじゃないのにね」

藍子「……コーヒー、飲んで落ち着きますか?」グス

加蓮「ん……」ズズ

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……とにかく! やっぱり待ち続けるなんて私のキャラじゃないし、色々やってみよう、藍子」

藍子「……はいっ」

加蓮「という訳で。加蓮ちゃんからの提案です。"先輩アイドルをやってみよう"!」

藍子「お~っ」

藍子「あれ? 加蓮ちゃんじゃなくて、私が先輩になるんですね」

加蓮「そう、藍子が。私が先輩になってどーすんの」

藍子「例えば、私に色んなことを教えてくれるとか」

加蓮「んー。……しょうがないなー。藍子ちゃんが知らないこと、いっぱい教えちゃおっかなー」

藍子「ふふ。よろしくお願いします、加蓮ちゃんっ」

加蓮「……」

藍子「……?」

加蓮「……アンタほんっと危機感ないよね、色んな意味で……」

藍子「???」

加蓮「とにかく。私じゃなくて、藍子がね? ほら、この前さ、新人が来たじゃん。新人アイドル。それに、もう何人か増える予定なんでしょ?」

藍子「本当にすごく久しぶりですよね。モバP(以下「P」)さんからお話があった時、思わず大きな声をあげちゃいました」

加蓮「いきなりだったもんね。まぁでも? 私はすぐに冷静になれたけどね。Pさんがスカウト魔だったなんて今さらでしょ?」

藍子「……くすっ」

加蓮「……何」

藍子「Pさんから聞きましたよ。加蓮ちゃん、Pさんに『うわきものーっ』って何度も言って、加蓮ちゃんの機嫌を取るのが大変だったって――」

加蓮「げっ……。いや。いーやいや。いやそれ私じゃない。それは私じゃないからね」

藍子「では、誰なんですか?」

加蓮「……、誰だろ?」

藍子「だから加蓮ちゃんですっ」

加蓮「待って。もっとよく考えてみよ? 今のはちょっと思いつかなかっただけだよ?」

加蓮「ほら、顔に出さないフリしてるけどホントはこう、なんとも言えない気持ちがあったり、でも後輩ができることや仲間が増えることはちょっと嬉しいから強くは怒れなくて、とりあえず浮気者って言ってみた子」

藍子「なるほど~。その時の加蓮ちゃんは、そういう気持ちだったんですね」

加蓮「……………………藍子といるとほんっと調子狂う……!」アタマカカエ

藍子「♪」

加蓮「いやいや。いや、それ私じゃないから。私そんなこと言わないし」

藍子「ってまだ言い張るんですか!?」

加蓮「ほら、もっとよく考えて。きっといる筈だよ。私以外にも」

藍子「加蓮ちゃん以外って言ってる時点で、加蓮ちゃんも含まれてるんじゃ……。それなら……う~ん。凛ちゃんとか?」

加蓮「ないでしょー。顔に出さないって時点で違う気がする。それなら奈緒の方があるよ」

藍子「他には、未央ちゃんとかっ」

加蓮「それはありそう。でも実はそんなに怒ってなかったり、すぐ慣れたりするタイプだよね」

藍子「歌鈴ちゃんなんてどうですか?」

加蓮「うーん……。歌鈴は浮気者とか言わなさそうだよね。ひたすらばかーっばかーって言いそうか、それかずっと涙目でこっち見てくるタイプ?」

藍子「意外なところで、茜ちゃん!」

加蓮「分かるー。普段そういうの興味ないフリして、とか?」

藍子「こうして考えると、加蓮ちゃん以外にもPさんに詰め寄っちゃいそうな子が結構いそうですね」

加蓮「いやだから私も違うから。詰め寄ったりしてないから」

藍子「なんだかこうしてお話していると、Pさんが何か悪いことをしてしまったような……?」

加蓮「よく考えてみたら、プロデューサーがアイドルの候補生をスカウトするって普通のことだもん。詰め寄ってどうすんの、って話かも」

藍子「それに、スカウトじゃないのかもしれませんよ。オーディションとかっ」

加蓮「するー? こんだけアイドルいて? 私達だけじゃ足りないっていうの?」

藍子「満足しちゃったら、成長できないって言いますから。それに、心機一転っ、って感じかもしれませんよ」

加蓮「まあねー。ずっと同じところで同じ人と会ってもしょうが――」

藍子「?」

加蓮「……私、ずっとここでずっとアンタと会ってるんだけど?」

藍子「あはは……。……飽きちゃいました?」

加蓮「全然」

藍子「よかった」ホッ

藍子「次に来る新人アイドルは、どんな人かなぁ……」

加蓮「きっとすごいのがやってくるよ。宇宙からやってきた子とか、絵本の世界から飛び出てきた人とか、いきなり外国の聞いたこともないような国からやってきた――」

加蓮「…………ごめん、みんないるね……。しかも前2つは同じ人だし……」

藍子「いますね……」アハハ

加蓮「ホント、どんな人が来るんだろうね」

藍子「想像できませんよね」

加蓮「こっそり会わせてくれないかなぁ。みんなに紹介する前っていうか、正式にアイドルになる前とかに」

藍子「難しいかも……? でも、加蓮ちゃんのお願いならもしかしてっ」

加蓮「ま、Pさんのスカウト魔が久々になのかオーディションなのかはどっちでもいいし、どんなヤバイのが来たとしてもさ。やっぱり先輩として後輩には厳しくいきたいよね」

藍子「えーっ。きっと、不安でいっぱいだと思いますよ? だから先輩の私たちは、優しくしてあげなきゃ」

加蓮「甘い甘い。私はココアよりコーヒー派だからね。しかもブラックコーヒー派」

藍子「ココア、飲んでみますか?」スッ

加蓮「無理」

藍子「じゃあ、私がココア派になっちゃいますね」モドス

加蓮「後輩が来るなんてさ、それこそちょっと前までそんなに珍しくもなかったけど……。あの時私ってどういう風にやってたんだろ」

藍子「なんだか、遠い昔のことみたい……」

加蓮「知ってる? アイドル的には奏って私の後輩なんだ。後輩の奏。想像できないでしょー」

藍子「確かにっ。その時はどうしていたんですか?」

加蓮「あー……。マジな話私と奏がユニット組んだの奏が来てだいぶ経った頃だったからねー。先輩も後輩もなかった感じ」

藍子「なるほど……」

加蓮「そもそも、奏以外でも昔は先輩も後輩もなかったけどね。あんまり人と関わりたくなかったっていうか……。ほら、昔の私ってアレだったし……」

藍子「だからこそ、今やりましょうっ。昔の加蓮ちゃんが、できなかったことを!」

加蓮「よし。こうなったら徹底的に後輩を弄って弄って弄り倒してやるっ」

藍子「優しくしてあげて~っ」

加蓮「冷静に考えてみなさいよ。優しい私とかさー、頭打ったか、演技か、ゆるふわ空間に呑まれたかでしょ」

藍子「最後のは何ですか……」

加蓮「っていうか! そもそも私の話じゃなくて、アンタの話っ」ビシ!

藍子「私の?」

加蓮「レッスンとか仕事とか相変わらず上手くいってないのどこの誰よ。そろそろPさんが深刻そうな顔し始めたんだけど?」

藍子「……うぅ」シュン

加蓮「ホントいい加減にしなさいよ。茜なんてボンバーすら言って来なくなったわよ。顔を合わせるなり無言で私をじーっと見つめて来るのよ。あの茜がだよ? 想像してみてよ、もう軽くホラーだから」

藍子「あ、あはははは……」

加蓮「奏め、余計なことを教えて……。だからさっさと復活しなさい。そうしないと――」

藍子「そ、そうしないと?」

加蓮「そうしないと……」

藍子「……」

加蓮「……」

加蓮「……と、とにかく。先輩アイドルとして、後輩を指導するっていい機会でしょ? 嫌でも自分がアイドルだって自覚しなきゃいけなくなるし」

藍子「確かに……」

加蓮「だから今日の提案は、藍子が如何にして先輩として立ち回れるかってことなの。ビシバシいくから覚悟しなさいよ、藍子!」

藍子「はいっ。よろしくお願いします、加蓮ちゃん先輩っ♪」

加蓮「だからアンタが先輩だっての!」ベシ

藍子「いたいっ」

加蓮「"先輩、私初めてのアイドル活動で不安なんです。だから色々教えてくださいっ"」

藍子「……………………」

加蓮「……何言ってんのコイツって顔しないでよ……。演技っていうかシミュレーション的な」

藍子「あぁ、びっくりしちゃいました。でも加蓮ちゃん……」

加蓮「何」

藍子「……とことん似合わないです」

加蓮「うっさいっ。私だってこういう時期くらい……」

加蓮「……」

加蓮「こういう時期くらい………………」

藍子「なかったんですね……」

加蓮「……無かったことにしよう」

藍子「忘れちゃいましょうっ」

加蓮「私も明日から新人アイドルになっていい?」

藍子「こんなすごい新人アイドルがいたら、他の新人のみなさんがビックリしてしまいますっ」

加蓮「ならもうアンタいっそ新人アイドルの中に混ざったら?」

藍子「私が?」

加蓮「結果の出せないアイドルなんて新人と同じよ。私が徹底的に指導してやるから後輩になりなさいっ」

藍子「……、……」

加蓮「ふふっ。今一瞬でもそれは嫌って思ったでしょ?」

藍子「っ、それは――」

加蓮「ね? アンタの中にも、"今までアイドルを続けてきた"っていうプライドはちゃんとあるの」

藍子「……」

加蓮「……っていうか、むしろあってよかった。私の方が安心したかな……」

藍子「え……。加蓮ちゃんが?」

加蓮「藍子が迷わないで、やってみる、とか言い出したらさ。最悪しばらく一緒にレッスンもお仕事もできない、ここで会うことすらキツくなるかもしれないじゃん。スケジュールとかで」

加蓮「それに……」

加蓮「やっぱり、藍子が私と全然違う場所に立ってるって思い知らされるのってさ……」

加蓮「アンタだけじゃなくて私も色々とキツイの! だから早く復活してよっ……」

藍子「……っ」

藍子「……」コクン

加蓮「よし。じゃ、復活する為に先輩アイドルを目指そう!」

藍子「お~っ」

藍子「でも、先輩アイドルって、具体的に何をすればいいんでしょうか? レッスンを教えてあげる……のは、トレーナーさんがやりますよね」

加蓮「言われてみれば……。っていうか、先輩って全体的に何するっけ?」

藍子「学校の先輩とか?」

加蓮「そうそう。ちなみに私は学校に先輩の仲良しがいないので分かんない。藍子は?」

藍子「私もあまり……。応援してます、ってお手紙を頂けることがたまにあるくらいで。部活にも入っていませんし……」

加蓮「だよねー……」

藍子「……」ゴクゴク

加蓮「……」ズズ

藍子「! 今こそあれをやるべきですっ」

加蓮「アレって?」

藍子「加蓮ちゃんの相談室!」

加蓮「相談室……? 今こそ、ってそんな話したっけ?」

藍子「前にちょっぴりお話しただけですよ。でも、加蓮ちゃんが悩みを聞いてあげれば、きっと不安がなくなる人もいっぱいいると思うんです」

藍子「ほら、加蓮ちゃんって、アドバイスがすごく的確で……。16歳だけど、すごく大人びていて」

藍子「それに、暗いことや悲しいことがあったり、言い辛いようなお話になったとしても、逃げたりしないで、ちゃんと向かい合ってくれるじゃないですか」

藍子「辛い時には……加蓮ちゃんだって傷つくのに、一緒にいてくれて……。きっと、困っている人にとって、すごく頼りになると思います」

加蓮「……」

藍子「……? 加蓮ちゃん? なんでカバンの方を向いて……? スマートフォンですか?」

加蓮「……」ゲシッ

藍子「いたいっ。どうして蹴るんですかっ」

加蓮「いきなり正面から褒められまくったら蹴りたくもなるわよ……」

加蓮「っていうか、今言ったことってさ。アレ藍子だからやってることだからね?」

藍子「へっ?」

加蓮「多分この前のこととか……。そういうの言ってんだと思うけど、私だって誰にでも怒鳴り合ったりする訳じゃないし」

加蓮「っていうか向かい合ってくれるって言うならアンタの方がそうでしょ。藍子がいてくれるのが――」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……いてくれるのが?」

加蓮「なんでもなーい」

藍子「いてくれるのが、何ですか?」

加蓮「なんでもないっ。っていうかだから私の話じゃなくて藍子の話! 私が相談室をやってどうすんのよ」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「やりたいならアンタがゆるふわ空間にでも呑み込んでしまえばいい――」

藍子「加蓮ちゃん。さっきの続きっ」

加蓮「しつこいなぁ!?」

藍子「続き~っ」

加蓮「店員さーん! コーヒーお代わりー! あとサンドイッチもお代わりー!」

藍子「あ、ずるいっ」

……。

…………。

加蓮「お手本を見せるとかはどうだろ」モグモグ

藍子「もぐもぐ……ごくん。おてほん?」

加蓮「うん。歌もダンスもさ、コツとかやり方って説明はできるけど結局はやって覚える的なところあるし、お手本見せたら先輩っぽいかなーって」

藍子「なるほど~。口で説明してもらうより、実際に練習してみた方が分かりやすい時ってありますよね」

加蓮「藍子もそう思うよね? うんうんっ。ということで、喉の調子を整えるのと、のど飴の準備、あとは水分補給も欠かさずにしつつ」

藍子「ボーカルレッスンですね。加蓮ちゃんっぽい――」

加蓮「藍子が書いてるカフェコラムの朗読会をやりましょう」

藍子「朗読会!? 私のカフェのコラムの朗読会!?」

加蓮「えー。なんで嫌そうな顔するのー」

藍子「どうして私のコラムの朗読会になるんですかっ! イヤです!」

加蓮「どうせ読んでもらう為に書いてるじゃん」

藍子「読んでもらうのと目の前で声に出して読まれるのは別ですっ」

加蓮「でもさ、よく考えてみてよ藍子。確かにアイドルって歌ったり踊ったりってイメージあるよね」

藍子「……そうですけれど、それと私のコラムとに何の――」

加蓮「まーまー。最後まで聞いて?」

加蓮「で、そういうイメージあるけど、っていうか私も実際そうだったっていうか、え、こんなにバラエティしてんの? って思ったくらいだもん。藍子ってそういうとこない?」

藍子「確かに、私もそうだったかもしれませんけれど……」

加蓮「そう考えるとさ。新人ちゃんが最初にやるべきことって、そういうギャップ的なのに"慣れる"ことだと思う。ここまではいい?」

藍子「はい」

加蓮「アイドルは歌や踊りだけじゃない。っていうか、歌って踊れるなんて当たり前のことなの」

加蓮「その上で、自分には何ができるのか。それを見つけたり、あるいは生み出したり。歌以外のことに"慣れる"って大切だと思うのよ」

藍子「急に非日常のことが続くと、できることや得意なことも、できなくなっちゃうことがありますよね。それで調子が狂っちゃって――」

加蓮「そうそう。絶対ペース狂うよね」

藍子「地方から来た人にとっては、今までとは違う生活っていうのもあります」

加蓮「最初はそれも楽しいかもしれないけどさ。本格的にアイドルデビューしたら、そういうのがずっと続くんだよ」

加蓮「忙しくなってから、慣れてません、こういう感じとは思わなかった、とか言っても……ねぇ?」

藍子「こうして考えると、慣れることってすごく大事なことだったんですね……」

加蓮「なので慣れる為に藍子ちゃんのカフェコラムの朗読会をやりましょう」

藍子「でも結論がおかしいです!」

加蓮「えー」

藍子「結局それがやりたいだけなんですよね加蓮ちゃんは!!」

加蓮「何言ってんの。当たり前でしょ?」

藍子「途中まですごく説得力があったのに、最後で台無しですっ」

加蓮「そもそも最後の以外ぜんぶでっち上げだもん。最初にやるべきことが"慣れる"こと? そんな訳ないじゃん。まず笑顔歌って踊れるようにならないと」

藍子「ウソだったんですか!? そもそも!?」

加蓮「うーん……。マジな話どうなんだろ。100%嘘ではないかも」

藍子「……どっちなんですか」

加蓮「私はただ藍子のカフェコラムの朗読会をしたいだけで――」

藍子「他の方法を考えましょうっ。それに、それだったら加蓮ちゃんのファッションコラムでもいいじゃないですか?」

加蓮「じゃあ両方いっとこっか。ファッション&カフェコラム朗読会!」

藍子「わ~~~~っ!?」

加蓮「ん? ファッション&カフェってなんかオシャレ系のカフェっぽくない? ねぇ藍子、そういうカフェとかってないの?」

藍子「知りませんっ」

加蓮「あれあれ、どしたのカフェマスター。オススメのカフェを聞かれたのに答えられないとかアリなの? これはとうとうー? 私が二代目カフェマスターを襲名する時がー?」

藍子「……知ってても、今の加蓮ちゃんには教えませんっ」プクー

加蓮「あはは、膨れちゃった。じゃー何したら教えてくれるー?」

藍子「…………」チラ

加蓮「んー?」

藍子「……」

藍子「……」

藍子「…………朗読会は、もうちょっとだけ後でいいですか?」

加蓮「ん。……絶対やらないとは言わないんだね、藍子」

藍子「はい。せっかくのお誘いですし……新しいことをやってみるのは、興味ありますから――」

藍子「で、でもっ、自分の書いたコラムの朗読はさすがに恥ずかしすぎますっ。それに私、自信ありませんし……」

加蓮「オッケー。藍子が立ち直ったらやりたいことリストに1つ追加っと。それならいいでしょ?」

藍子「……参考までに、そのリストにはどんなことがあるんですか?」

加蓮「ふふっ。知りたければさっさと本調子に戻りなさい」

藍子「はぁい……」

加蓮「でも、そっか。興味あるんだ……。ふーん……?」

藍子「……?」

加蓮「んーん、なんでもない。サンドイッチうまー♪」


おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom