真姫「おかしな世界」 (93)

穂乃果「いや~パンがうまい」

海未「太りますよ?」

穂乃果「大丈夫だって~。ね?ことりちゃん」

ことり「えっと…あはは」

絵里「ほら、いつまでも遊んでないで早く帰るわよ」

凛「かよちん。帰りにラーメン食べて帰ろ?」

花陽「うん。いいよ」

希「あっ、ウチも行こうかな~」

穂乃果「私も!」

凛「じゃあ、皆んなで行こうよ!」

絵里「そうね。皆んな大丈夫?」

にこ「大丈夫だけど。ラーメンじゃなくて他の」

凛「ラーメンは決定だもん。真姫ちゃんもラーメンがいいよね?」

真姫「え?」

にこ「真姫がラーメンなんて」

凛「こないだ一緒に行ったもんね?」

にこ「え?そうなん?」

希「ウチも呼んでくれれば良かったのに~」

真姫「ふふっ、楽しいな」ボソッ

にこ「え?何か言った?」

真姫「別に…」

にこ「あっそ」

穂乃果「さあ!それじゃあ早く行こう!」

絵里「分かったから早く着替えて」

μ'sの皆んなと出会ってから毎日が楽しい。
こんな毎日が続けばいいな。






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ちゅん ちゅん

ん…んん…もう朝?なんだか頭がぼーっとする。

真姫「……へ?」

ここは…どこ?知らない部屋。

プルルルル

電話?知らない人からだ。

真姫「もしもし…」

『西木野か?体調はどうだ?』

真姫「体調?」

『仕事の方はしばらく矢澤一人で頑張って貰うから』

矢澤?にこちゃんの事?仕事って?

『今はじっくり休め。それじゃあな』




ダメだ。頭がぼーっとして働かない。何も考えられない。

ピンポーン

真姫「え?」

その時気がついた。この部屋はいわゆる賃貸物件で今呼び鈴を鳴らしたのは私の来客だと言う事。

ガチャ

「まさかとは思ったけど。鍵くらい閉めなさい」

この声…聞いた事がある。

真姫「絵里?」

絵里「あっ、ごめん。勝手に入っちゃった」

01

真姫「今お茶淹れるから」

絵里「あっ、大丈夫よ。お構いなく」

真姫「今日はどうしたの?学校は…」

絵里「学校?」

あれ?私何か変な事言った?

絵里「学校って。もしかしてまだ寝ぼけてる?もう大学卒業して3年経つのに」

真姫「は?大学?」

絵里「な、なによ?どうしたの?」

真姫「大学って?」

絵里「いや…大学は大学だけど。まあ、真姫は大学行ってないから学校って言うと」

真姫「え?私、大学に行ってないの?」

絵里「へ?だ、大丈夫?あれだけ親御さんの反対を押し切ったのに」

あっ…そうだ。私は音ノ木坂学院を卒業して両親の反対を押し切って大学に行かずアイドルになったんだ。私は高校を卒業したんだ。

真姫「え?私仕事は?」

絵里「いや…体調悪いからしばらく休むんでしょ?だから心配でこうして私が来てるんじゃない」

真姫「そっか、そうだった。って言うか…絵里、仕事は?」


絵里「有給消化。平日に休んでもやる事もないしね」

真姫「ああ…そうなの。わざわざありがとう」

絵里「でも、まあ。思ったより元気そうで良かったわ。ちょっと様子が変だけど。これならすぐに仕事も復帰出来そうね」

仕事か、てっきり私は自分がお医者さんになるとばかり思ってたけど。まさかアイドルなんて。何これ?まるで他人事みたいに。

絵里「真姫?」

何か変。確かに私は高校を卒業した。卒業式も覚えてる。元生徒会長として答辞も読んだ。けど、何か記憶をとってつけた様な。

絵里「夢を見た?」

真姫「うん。高校の時の夢を見たの。練習が終わって部室で着替えながらたわいもない会話して。凛の行きつけのラーメン屋さんでラーメンを食べて」

絵里「真姫?」

真姫「まるで昨日の事の様に鮮明で。そのせいか記憶の混乱が酷くて」

絵里「μ'sの…」

真姫「うん」

絵里「そっか。それでさっきから様子がおかしいのか。疲れてるのね」

そうかもしれない。でも、それだけじゃ説明出来ない。まるで心だけが高校生の頃にタイムスリップしてしまったかの様。

絵里「真姫?」

真姫「え?何?」

絵里「出掛けましょうか?」

え?出掛ける?どこへ?

絵里「真姫はずっと多忙だったし。皆んなとも十分に会えなかったでしょ?だから…」

だから?

絵里「皆んなの所へ!」

02

真姫「ちょっと待ってよ…急に。皆んなの所って?」

絵里「皆んなは皆んなよ。忙しくてしばらく会ってないでしょ?」

真姫「だって…心の準備がまだ…」

絵里「心の準備?必要?」

必要よ。だって…今の皆んながどんな風になっているのかも私は分からないし。

絵里「大丈夫よ。会えばすぐに昔の様に戻れるわ」

そう言って絵里は私の腕を引っ張った。

真姫「ここは…」

立派な門構え。一目で道場だと分かるここは海未の家だ。

絵里「連絡したら稽古の合間なら少しは時間があるって言うから」

「待ってましたよ」

真姫「え?」

絵里が今にもインターホンを押そうとしてた所だから急に横から話しかけられてビックリした。

絵里「海未!」

海未「二人が来るのが遅かったので飲み物を買いにちょっと出ていました」

絵里「ごめんね。出るのが少し遅くなっちゃって」

海未「真姫、久しぶりですね。半年ぶりくらいですか?体調を崩したと聞いていたので心配してたのですが思ったよりも元気そうでなによりです」

真姫「うん。久しぶり…」

元から大人びた容姿の絵里に比べて海未はかなり大人っぽくなっていてとても綺麗でびっくりした。

海未「さあ、立ち話もなんですから。上がって下さい」

私達は道場の中へと通させれた。



コトンと鹿威しの音が鳴り響く。

海未「すいません。父に来客中でこんな所にしか通せず」

絵里「気にしないで。急に連絡したんだもん。それに縁側でお茶ってなんか風情があって良いわね。こんなお家憧れちゃう」

そう言えば海未の家に来たのって初めてかもしれない。海未とは曲作りの打ち合わせだったり勉強を一緒にしたりと二人で会う事も多かったけどいつも図書室でだったり音楽室だったから。

海未「それで?今日はどうしたのです?」

絵里「ん~?いやね、偶然真姫と休みが合ったから皆んな元気かなぁって」

海未「まさか、これから皆んなの所を回るのですか?」

絵里「そのまさか」

海未「そうですか」

真姫「あの…海未は…えっと、今何してるの?」

海未「え?それはどう言う」

真姫「いや…だから…今現在…」

海未「相変わらず道場を継ぐ為に日々奮闘中です」

真姫「そうなの」

海未「はい。道のりはまだまだ厳しそうですね」

言われてみればそうだった。私は海未の現在をしっているはずだった。

絵里「所で…海未はステキな出会いは会った?」

海未は俯き黙った。

絵里「モテない訳ではないんだろうし。そろそろその気になっても良いんじゃないの?」

海未「私は…まだ修行の身ですし。私にはまだ早いです」

絵里「早いって…。もう、20代も後半に差し掛かるのよ?一度くらい…」

海未「それは…絵里だって今は特にないのでしょ?」

絵里「まあ…それを言われると痛いけど。はあ…花陽やことりは既に母親だって言うのにね」

へ~そうなんだ。花陽とことりが……。

真姫「えーーーーーーーっ!!!!!?」

絵里「ど、どうしたの?」

真姫「は、花陽とことり…子供いるの?」

海未「な、何を言っているのですか?真姫だって会った事あるじゃないですか」

真姫「え?…そう言えば…」

海未「大丈夫ですか?」

絵里「さっきからずっとこの調子なのよ。昔の夢をみたらしくって記憶が混乱してるって」

海未「それ平気なんですか?」

絵里「相当疲れてるのかなって思って。それで気分転換に皆んなの顔でも見て回ろうかって」

海未「なるほど」

その後、しばらく静寂が続いて海未が口を開いた。

海未「真姫は…」

真姫「何?」

海未「いえ。なんでもないです」

そう言った後何かを呟いて海未は話すのをやめた。

コトン。

海未「穂乃果には会いましたか?」

絵里「ううん。まだ、海未の所だけよ」

海未「そうですか。ぜひ会いに行ってあげて下さい。毎日暇だって愚痴っていましたから」

絵里「うん、そうね」

海未「ところで…この後は?」

絵里「取り敢えず…忙しい花陽に会いに行って、その後ことりと穂乃果。凛は会えるかな?」

そのプラン初耳なんだけど。

海未「そうですか…。そうですね、花陽は忙しいみたいですから。それがいいかもしれません」

それから、少したわいもない話を3人でして。海未や絵里は懐かしそうにしていたけどやっぱり私には昨日からの続きの様に感じていた。

絵里「それじゃあ、そろそろ行くわね」

海未「もうですか?」

絵里「うん。海未もお稽古があるでしょうし花陽も待ってるから」

海未「そうですか」

絵里「うん」

海未「真姫、今日は会えて良かったです」

真姫「うん、私も」

海未「また…いつか…9人で会えたら」

力なく海未は言った。大人になって皆んな忙しく中々集まれないからそう言ったのだと私は思った。

真姫「うん、また9人で」

私は海未に合わせてそう言葉を返した。

海未は何故だか少し涙ぐんでいた様に思えた。

03

真姫「お邪魔します」

花陽「ごめんね。散らかってるけど」

花陽の家には何度かお泊りに来た事があったけど、ここは私の知っている花陽の家ではなかった。

花陽「ほら、挨拶して」

「おばちゃ。こんちゃ」

絵里「はい、こんにちは。大っきくなったわね。何歳になったのかな?」

「にー」

花陽「3歳でしょ?」

絵里「そっかぁ。3歳になったのね。お姉ちゃんの事覚えてるかなぁ?」

「うん!」

絵里「そう。花陽は…会うのっていつ以来だっけ?」

さりげなく、おばちゃんと言う呼び名を訂正して絵里は進めた。

花陽「え~っと…いつかな?一年以上かな?」

絵里「そんなに経つのね」

花陽「多分。まだこの子が歩き始めたくらいだったと思うから」

花陽は本当にお母さんなんだ。会うまで信じられなかったけど…え?ちょっと待って?私って今いくつ?

真姫「あ、あの?」

花陽「どうしたの?」

真姫「私達って今いくつ?」

花陽「24歳の年だけど。私は一月生まれだからまだだけど…どうして?」

真姫「花陽って学生結婚?」

花陽「え?違うよ?」

真姫「でも、計算が…」

絵里「花陽は専門学校に通ってたでしょ?」

真姫「専門学校?」

花陽「結局、卒業してすぐに結婚しちゃったから」

真姫「そうなんだ…」

花陽「うん…あの時真姫ちゃんも泣いてお祝いしてくれたよね?」

真姫「え?……あっ、うん。そうね」

そっか。そうだったんだ。ん?でも…卒業してすぐに結婚したとしても…ん?今3歳でしょ?

絵里「さっき海未の所に行ってきた所だったの」

花陽「そうだったんだ。海未ちゃん元気だった?」

絵里「ええ。相変わらずお稽古で忙しいみたいだけど」

花陽「後継だもんね。海未ちゃんの所に行って私の所に来て、皆んなの所に回ってるの?」

絵里「うん。久し振りにね」

花陽「もう、ずっと集まってないもんね。最後に9人集まったのって…もうずっと前だった様な気がするね」

花陽は私の目を見てそう言った。

真姫「ねえ?」

プルルルル

その時、電話の音が私の声を遮った。今時固定電話に掛けてくるなんて珍しいなと思っていたら

花陽「ごめん、多分…おかあさんだと思う。ちょっと出て来るね」

絵里「ええ」

そう話してる間にも電話が切れてしまうんじゃないかって思ったけど多分それはワザとだった。

花陽「はい…はい…はい…」

花陽の顔が段々と曇っていくのが目に見えて分かったからだ。
電話の相手はお母さんではなくお義母さんだった。


絵里「お姑さんが厳しい人みたいでね。大変みたい」

真姫「そうなの」

何も聞いていないのに絵里は私にそう説明した。

花陽「はい、はい、分かりました」

大変そう。そう、大変なんだと思う。ただ、ガムシャラに夢を追いかけていたあの頃と違って色々と複雑で。私も同じだけの時間を生きてきたはずなのにそんな実感もない。やっぱり、今日の私は何がおかしいんだ。

花陽「ごめんね」

絵里「大丈夫?」

花陽「あの…今からお義母さんが来てお料理を教えてくれるみたいで…その…」

絵里「そうなの?じゃあ、そろそろ」

花陽「ごめんね…。良いお義母さんなの。良いお嫁さんになれる様にって色々教えてくれるし子供の面倒だってみてくれるんだもん。…感謝しなきゃ」

何も聞いてもいないのに花陽はそう言った。まるで自分に言い聞かせるみたいだった。

なんて返事をすれば良いのか、そもそも何か言葉を返した方が良いのかも分からなかった。

絵里「じゃあ、もう行くわ」

花陽「本当にごめんね。わざわざ来てくれたのに」

絵里「ううん。ありがとうね、花陽」

花陽「うん。真姫ちゃん」

真姫「何?」

花陽「また来てね」

真姫「うん」

花陽「絶対にだよ」

04

凛「真姫ちゃんは何を飲む?」

真姫「じゃあ、エスプレッソを」

絵里「私も同じのにしようかな」

花陽の家を出て穂乃果の家に行くつもりだったのらしいけど道中で凛から連絡があったので先に会う事になった。

凛「それで?急に連絡貰ってビックリしたけど今日はどうしたの?」

絵里「うん。たまたま、真姫と休みが合ってね。たまには昔の仲間の元を訪ねてみようかなって」

凛「ああ…μ'sの?」

絵里「うん」



凛「μ'sか…。私はまだ整理が出来てないんだよね。もう何年も前の事なのにね」

真姫「整理?」

凛「逃げる様に陸上をまた始めてさ。オリンピックを目指すなんか息巻いてそれも結局ダメで。忙しいなんて言い訳してロクに集まりにも顔を出さないで。今日だって…」

絵里「凛…私はそんな話をする為に会いに来たんじゃないわ」

凛「ごめん、そうだよね。いつまでも引きずってたって仕方ないしね。前に進まなきゃだもんね」

凛が何の話をしてるのか私には分からなかったけど過去に何かあってそれを私も知っているていで話は進んでいる。
きっと知っている筈なんだろうけど今日の私は何だかんだおかしい。聞く事全てが初耳に感じる。

凛「あの…皆んな…元気なの?」

真姫「誰とも…会ってないの?」

凛「かよちんとは会ったりしてるよ。絵里ちゃんもこうやってたまに連絡をくれるから。他の皆んなは…真姫ちゃんも会うのは久しぶりだもんね。でも、テレビでは見かけてたから久し振りって感じは余りしないけどね」

私は別の意味で久し振りには感じなかったけど。

絵里「皆んなそれなりに元気よ」

凛「穂乃果ちゃんとは会ったりしてるの?」

絵里「うん。相変わらず元気が有り余って仕方ないみたい。凛にも会いたいってよく言ってるわ」

凛「そっか、良かった。…穂乃果ちゃんが元気で良かったよ」

一瞬間があいて凛は続けた

凛「たまに夢を見るんだ」

絵里「夢?」

凛「うん、高校の時の夢。μ'sの夢。ラブライブで優勝を目指していた時の夢を。あの屋上で皆んなで練習をしてる。海未ちゃんと絵里ちゃんが指揮を取ってさ。穂乃果ちゃんも踊ってて」

絵里「うん」

凛「それで目が覚めて夢だって自覚するんだ」

そう。目が覚めたら自覚するものなのに。

凛「きっと、本当は昔の様にまた…」

絵里「ねえ?この後、穂乃果にも会いに行くの」

凛「穂乃果ちゃんに?」


絵里「凛が来てくれれば穂乃果もきっと喜ぶわ。ねえ?」

凛「そうかな?」

絵里「もちろんよ」

凛「でも、ごめん。今日は…」

絵里「そう…」

凛「必ず会いに行くよ。今日は無理でも必ず」

絵里「うん」

凛「今日は会えて良かったよ、真姫ちゃん」

真姫「私?私は何もしてない」

凛「ううん。そんな事ないよ。真姫ちゃんが会いに来てくれたのが嬉しかった。だから…うん。真姫ちゃんも…」

私も?

05

05

真姫「もう来るの?」

絵里「ええ。今保育園を出たって言うから」

真姫「そう」

保育園をか。花陽と言いいつの間に。

なんて言っていたらお店の入り口の方から見覚えのある髪型が目に入った。

ことり「お待たせ」

随分大人びた見た目に落ち着いた声。まるでことりのお母さんである音ノ木坂学院の理事長を見ているよう。

ことり「ごめんね。随分待ったよね」

絵里「大丈夫よ。ツバメちゃんは?」

ことり「お母さんに預けて来たの」

ツバメちゃん?って思ったけどことりの子供だろう。私はことりが出産した際に駆けつけている。記憶の中にはある。けど、何故か初めて聞いた様な気がしてしまう。と言うよりも聞くまで全く思い出せなかった。

ことり「元気だった?」

真姫「うん。ことりは?」

ことり「私の方はだいぶ落ち着いたよ」

落ち着いた?

真姫「落ち着いたって?仕事?」

ことり「うん、仕事もね。派遣だけど理解もしてくれるし。とは言っても両親にも甘えっぱなしなんだけどね。なんとかやっていけてるよ」

真姫「デザイナーの仕事は?」

ことり「うん。働きながら少しずつ勉強していこうかな思ってたけどね。そんなに甘くないよね。今はあの子の為に生きていくって決めたから」

真姫「そう…なんだ」

ことり「二人は?真姫ちゃんはテレビでよく見かけるけど。その…」

真姫「え?」

ことり「ううん」



ことりは何かを聞きたかったらしいけど何故か躊躇してやめた。

絵里「私は相変わらずよ。仕事して帰って来て一人で食事して…みたいな?」

すかさず、そして自然に絵里が話をし始めてしばらくその話が続いた。

ことり「凛ちゃんにも会って来たんだ」

絵里「うん。ことりに会う前にね」

ことり「元気だった?」

絵里「元気だった。今度、穂乃果にも会いに行くって言ってたわ」

ことり「そっか。良かった…良かったよ」

絵里「ずっと気にしてたものね」

ことり「当時は私も子供だったし、どうすれば良いかも分からなかった。何も出来なかったし。見当違いに恨んだ事もあったし悩んだりもしたけど」

ことりは胸につかえていた物を吐き出す様に喋り続けた。

ことり「ごめんね。久し振りに会ったのにこんな話ばかりで」

絵里「ううん。ことりがずっと悩んでいた事も知っていたから」



絵里の言葉にことりは静かに頷いた。そして、私の目を見て口を開いた。

ことり「時間が解決してくれる事ってあるし私の場合もそれも大きかったのかなって思う所もあるんだ。でもね、真姫ちゃん。それに頼ってばっかりじゃ…ダメなんだろうね。きっと、気が付いたらおばあちゃんになってるかも」

私?

ことり「元々は二人共μ'sの…私達の為に立ち上がってくれたんだもん。そんな二人なんだもん…絶対に…」


ことりの言葉に私は困惑を隠せず、絵里が私を訝しげに見て来た。

06

穂乃果の家に向かう途中の道で街のショーウィンドウに映る女が目に入った。一瞬、ママの様に見えたけどそれは確かに私だった。

真姫「ねえ…絵里?私達って…定期的に集まったりしてたのよね?」

絵里「ええ…そうね。どうして?」

過去に私達の間になにかあったのは確かでそれは今現在にも影を落としている。皆んなの元を訪ねている時に絵里だけが明るく振る舞う姿が時々痛々しく見える事さえあった。
絵里はずっと必死でμ'sの絆を繋ぎとめようと必死だったのだと感じた。

真姫「ねえ…私達の間に何があったの?」

絵里「何がって…」

真姫「教えて」

絵里「直にわかるわよ」

真姫「そう」

私はまたショーウィンドウの中の私を見つめる。

真姫「え?」

一瞬、いつもの私と何かが映った様な気がした。


07

穂乃果の家に着いた。

真姫「穂むら…そうよね」

絵里「真姫は久しぶり?それとも…」

久しぶりなのだろうか?こないだ来た様に思えるのはまだ今朝の夢のせいか。何故、絵里はそんな事を聞くのだろう。

なんて思っていると道の向こう側から声を掛けられた。

「あれ?絵里さん?」

絵里「あら!」

どこかで見た事のある女性と…

「絵里ちゃん、それに…真姫ちゃん!!!会いに来てくれたんだ!」

私は言葉が出てこなかった。







髪が伸びて長くなっていた。少女の様なあどけなさは影を潜め大人っぽくなった。落ち着きのない喋り方は変わらないけど声が低くなった様な気がする。

穂乃果「会いたかったよ、真姫ちゃん。いつもテレビの前で応援しているよ」

真姫「穂乃果…」

穂乃果「ん?どうしたの?」

何がどうなってるの?怪我をしている様子もないのに。

穂乃果「雪穂、後はもう大丈夫。自分で出来るから」

雪穂「そう。じゃあ、絵里さん、真姫さん。ごゆっくり」

そんな…どうして…どうして、穂乃果が車椅子姿に…。

私達は家の中に通された。一部バリアフリーになっている事からも穂乃果の現在が伺える。

穂乃果「いや~、夕方のお散歩の時間だったんだよ。店番ばっかりしてると息が詰まっちゃうしさ。外に出ればステキな出会いがあるかもしれないし」

真姫「そうなの…」

穂乃果「どう?真姫ちゃんは彼氏出来た?」

真姫「へ?いや…」

穂乃果「あはは、アイドルは恋愛禁止だもんね」

私は返す言葉が出てこない。彼氏がいるかどうかも正直分からない。

絵里「さっきね、凛の所に行って来たわ」

穂乃果「凛ちゃんの?本当に!」


穂乃果の目が見開いた。

絵里「今度、穂乃果に会いに来るって」

穂乃果「ずっと会えてなかったから…ふふっ、嬉しい。もしかして、私の事でずっと気にしてるのかなって。こうなったのは私がドジなのがいけないのに」

真姫「待って」

穂乃果「ん?」

真姫「ごめん。私、何がなんだか…」

穂乃果「私の足がこうなった事で、凛ちゃんが自分の事を責めてるんじゃないかって」

真姫「凛が?」

思わず聞き返した私に絵里が口を開く。

絵里「第2回ラブライブの最終予選でパフォーマンス中に凛が足を滑らせて、それに気を取られた穂乃果まで足を滑らせて舞台から転落して…」

穂乃果「あの日は雪が降ってたし、凛ちゃんのせいじゃないのに」

真姫「それから、凛に会ってないの?」

穂乃果「ううん。お見舞いにだって来てくれたし学校でも会ってたけど。でも、ずっと元気はないし。…高校卒業してからは…」

そんな事が…。

穂乃果「だからね…凛ちゃんがそうやって言ってくれるって、本当にさ…」

真姫「穂乃果は…その後どうしてたの?」

穂乃果「どうしてたって?怪我をしてから?」

真姫「うん」

穂乃果「真姫ちゃんの知ってる通りだよ。皆んなのお陰で学校にも復学出来てさ」

真姫「μ'sは?」

穂乃果「この足じゃスクールアイドルは無理だしラブライブ自体も無くなっちゃったからね。それでも…私抜きでもμ'sは続けて欲しかったけど」

気が付いたら私は泣いていた。

穂乃果「真姫ちゃん?ど、どうしたの?」

ショックだった。

真姫「だって…あんまりじゃない。学校が大好きで歌う事が大好きで踊るのが大好きで…スクールアイドルが…μ'sが大好きなのに。なのに…なのに…あんまりじゃない。こんなのないよ」

穂乃果「泣かないで。もう昔の事だよ」

真姫「昔じゃない。昨日まで…昨日まで確かに…」

穂乃果「え?」

絵里「もう…行きましょうか。ごめん、穂乃果。また来るわ。今日はもう帰るわね」

穂乃果「うん…ありがとう」






絵里「さあ、立って」

自分が座り込んで泣いている事にも気づかなかった私は絵里に支えられながら立ち上がった。

絵里「それじゃあ」

穂乃果「真姫ちゃん」

穂乃果が私の背中に話しかける。

穂乃果「私は嬉しかったよ。真姫ちゃんとにこちゃんがμ'sの為にって立ち上がってくれた時」

私とにこちゃんが?

穂乃果「私は歩けなくなったけど…けど、私歌えるよ」

外はすっかり暗くなっていた。日中の暖かさが嘘の様に肌寒く今が冬に差し掛かる途中なのだと理解した。

絵里「ショックだった?」

歩くのをやめ絵里が口を開いた。

絵里「穂乃果の事。ショックだった?」

真姫「うん」

絵里「そうよね。私も当時はショックだったわ。さっきのあなたと同じよ」

絵里が何を言いたいのか私は直ぐに理解が出来た。私の一連の行動がその場に相応しくない物だったと絵里は言いたいのだと思う。

絵里「真姫。私も思う所があるんだけど。まだ、確信ではないの。だから…もしかしたら辛い思いをするかも知れないけど」

絵里は再び歩き始めた。

08

絵里「はい、コーヒー。真姫はブラックで良かったわよね?」

真姫「ありがと」

絵里「いいえ。もしかしたら結構待つ事になるかもしれないから」

真姫「ここは…?誰を待ってるの?」

絵里は何も答えなかった。私達は少し古めのビルの前に居る。どうやら、誰かを待っているらしい。なんて、分からない様な言い方をしたけど本当は何となく検討は付いていた。

絵里「冷えるわね。すっかり日が暮れるのも早くなったし。早いものね、一年が過ぎるのも」

沈黙を埋める様に絵里がたわいも無い話を始める。

私は適当に絵里の言葉に相槌を打ち続ける。

絵里「それで…あっ!?」

絵里が何かに気が付いた。

「急に連絡なんかしてきて」

やっぱり、私の予想は当たっていた。

「何か様な訳?」

にこちゃんだった。

絵里「悪いわね、にこ。忙しいのに」

にこ「本当よ。しかも…」

にこちゃんは私を一瞥して、その後の言葉の続きは何も言わなかった。

にこ「それで?何なのよ?」

絵里「真姫」

真姫「え?」

私?

にこ「はっ…何よ?騙した訳?」

絵里「騙したなんて。積もる話もあるでしょ?」

にこ「そんなの何もないわよ。嫌でも毎週の様に合うんだし」

絵里の口振りから良い予感はしてなかった。

にこ「何もないなら帰るから。明日も早いのよ。そいつだって話したい事もないみたいだし」

そいつ?そいつって私の事?

にこ「…何よ?何か言いたい事でもある訳?」

にこちゃんは素直じゃないし口が悪い部分もあった。けど、友達の事をそいつなんて呼ぶ事は一度もなかった。

にこ「はあ…。もういい、帰る」

絵里「にこ!待って!」

にこ「何なのよ?」

にこちゃんは心底ウンザリした様に言う。

真姫「あの…にこちゃん」

私が名前を呼んだ時、にこちゃんの表情が変わった。

にこ「今さら…今さらそんな呼び方しないで」

真姫「え?」

にこ「虫酸が走るわ」

絵里「真姫!」

私はその場から走り出していた。

どれだけ走っただろう

真姫「はあ…はあ…うぐっ…ううっ…」

気持ち悪い。色々な感情と共に胃から何かが込み上げて来そう。汗や涙や鼻水やらで顔もぐちゃぐちゃになってる。

絵里「真姫!待って!」

真姫「うっ…ううっ…」

絵里が私に近づき背中をさすってくれた。

絵里「ごめんね。立て続きに辛い思いをさせてしまって」

真姫「はあ…はあ…はあ…」

絵里「今、水を買って来るから。ここで待ってて」

絵里が近くの自販機で水を買って来てくれた。

絵里「落ち着いた?」

真姫「うん」

絵里「キッカケと呼べるものは無かったのかもしれない。同じ夢を追う仲間から仕事の相棒になって。仕事に対する姿勢や考え方にズレが生じて気が付いた時には険悪な仲になってたって」

真姫「私とにこちゃんの話?」

絵里「うん。にこがね前に言ってたの。子供の頃、友達と一緒に仕事してずっと一緒に居れたらきっと毎日楽しんだろうなって思ったって」

真姫「にこちゃんが?」

絵里「私はにことも会っていたから。もし、別の他の道があったなら自分と真姫は友達のままでいられたのかなって」






絵里の話を聞いている最中、また何かが込み上げて来そうだった。

絵里「皮肉よね。あなた達が二人でアイドルになったのはμ'sを思っての事だったのに」

真姫「μ'sの?」

絵里「穂乃果があんな事になってμ'sも解散して。海未も花陽もことりもずっと悩んでたし凛も離れていって。それでも、二人はμ'sをなかった事にしたくないって。皆んなの為にも穂乃果の為にも嫌な思い出にしたくないって。スクールアイドルを続けて卒業してもプロのアイドルとして歌い続けて。なのにね…」





なのに?なのになんなの?

絵里「友達思いの二人がどうしてこんな事になるんだろうって。本当に皮肉だわ」

真姫「嘘よ。嘘に決まってわよ。私とにこちゃんが険悪になるなんて。あり得ない、あり得ない。そんなのあり得ないわよ」

絵里「事実なの」

真姫「だいたい…何もかもおかしいわ。私は昨日までいつも通り…」

絵里「事実なのよ、真姫。この世界ではこれが事実なの」

真姫「この…世界では?」

どう言う事よ?絵里は何が言いたいの?

絵里「私も実際の所は半信半疑なんだけど。でも、真姫の様子を見て有り得ない事ではないのかなって思ってる」

真姫「なんの話?」

絵里「多分…信じられないかもしれないけどね」

「なんや?こんな所におったんや。待ち合わせ場所と随分違うやん」

真姫「え?希?」

なんの前触れもなく希が現れた。関西弁が上手くなっている様な気がした。

09

希の登場で問題は一気に解決していく。納得も理解も出来ないけど。

希「要するに真姫ちゃんはこの世界の住人じゃないんやな」

真姫「この世界の住人?」

希「そう。妖怪の仕業やね」

真姫「妖怪?」

絵里「ね?にわかには信じ難いでしょう?」

信じ難いなんて物じゃない。妖怪って…。

希「妖怪なんてって思ったやろ?」

真姫「そりゃあ…」

希「ウチはな…実は大学院の研究所でオカルトの研究をしてるんよ」

実はって言う程意外でもないけど。




希「まっ、色々割愛するけど。そこの教授がすんごい変わり者で、ウチはそこで妖怪や幽霊、あと正しい関西弁を教わったって訳や」

変に割愛するから結局全然分からない。

希「で、本題に入るけど。真姫ちゃんに憑いている妖怪はウチの見立てやと枕返しかな?」

真姫「枕返し?」

絵里「話を聞いただけで分かるのね」

希「散々聞かされてるからなぁ」

真姫「それは一体どう言う」

希「枕返しが現れたのは江戸時代だって言われてるんや。当時の日本では夢を見ている間は魂が肉体から抜け出ている状態だと言われていてね。その時に枕を返すと帰る肉体が見つからなくなってしまうって言われてたんよ」

えっと…どう言う事?

希「つまり、枕返しって言うのはその伝承から生まれた妖怪って事や」

真姫「生まれた?」

希「うん。妖怪や神様って言うのは信仰する人ありきの物やからね。ある種の言霊やね」

全然言っている事が分からない。

絵里「つまり、真姫は元の世界に戻るにはどうすればいいの?」

希「それは簡単。真姫ちゃんに憑いている枕返しを見つければええんよ」

真姫「見つける?そんな簡単に行くの?」

希「鏡ある?」

絵里「ええ。持ってるけど。何に使うの?」

希「鏡って言うのは時に目には見えない物も写すからね」

そう言って希は私の体を鏡越しに見回した。

希「見つけた!」

鏡の中の私の肩に鬼の様なモノが乗っかっていた。

真姫「い、いやぁ」

絵里「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」

怖くて悲鳴を上げそうになったけど絵里が余りにも大きな悲鳴をあげるものだから私の悲鳴は引っ込んでしまった。

希「姿が見えればこっちのもんや!」



10

枕返しは希が払ってくれた。そこにいる事さえ分かれば念仏を唱えて払う事が出来るとの事だった。

絵里「ねえ?仮に妖怪を払う事が出来たとして…真姫はそのままじゃない」

希「そりゃあね、元凶を払っただけやから」

確かにその通りだ。

絵里「じゃあ、真姫はどうやって元の世界に戻ればいいの?」

希「そんなの簡単やん。真姫ちゃんが寝ている時に枕を返せばええんよ」

そう言う訳で私は今家のベッドに入って寝ようとしている。

真姫「見られてると…寝にくい」

希「そっか。じゃあ、寝る前に一つだけええかな?」

真姫「何?」

希「どうして枕返しに憑かれたと思う?」

真姫「さあ?」

希「枕返しが付け入る隙があったんやない?」

心当たりはあった。μ'sの皆んなといる時間がとても楽しくてずっと続けば良いと思ってた。それが、いつかバラバラになってしまう日が来るのではないかと言う不安も生んでいた。

希「それやな。そこに付け入って真姫ちゃんが困惑している様子を楽しんでたんやろ。悪趣味な妖怪やな」

真姫「そうね」

希「それじゃあ、もうそろそろ」

絵里「そうね」

真姫「ねえ…」

絵里「どうしたの?まだ何かある?」

真姫「凛や穂乃果…にこちゃんの事」

希「真姫ちゃん?さっき、真姫ちゃんはいつかみんなバラバラになってしまう日が来るかもしれないって。それが不安だったって言ってたやろ?」

真姫「うん」

希「でもな、未来がまだ決まってないって事は不安かもしれないけど。それは希望でもあるって事だとウチは思うんよ」

真姫「希望?」

希「そう。だから、まだやり直せるとウチは思ってるよ。だから、後の事はウチ等に任せて真姫ちゃんは真姫ちゃんの世界で悔いのない様に過ごすんや」

真姫「うん」

絵里「真姫、元気でね。あと…ラブライブ頑張ってね」

真姫「うん」

数分後私は深い眠りについた。

11

ちゅん ちゅん

ん…んん…朝?なんだか頭がぼーっとする。なんだか長い夢を見ている様だった。

階段を下りて顔を洗って歯を磨き制服に着替える。

真姫「行ってきます」

朝練があるので登校時間よりも随分と早く家を出て歩いている。

学校に到着し部室で着替えて屋上の扉を開けた。

凛「あっ!やっと来たにゃ!」

希「おはよう、真姫ちゃん!」

花陽「遅かったね。何かあったの?」

穂乃果「もしかして、寝坊?」

海未「まさか、穂乃果じゃないのですから」

穂乃果「今日ちゃんと起きたじゃん!ね?」

ことり「うん。穂乃果ちゃん偉い」

絵里「さあ、真姫も来た事だしペアになって。準備体操するわよ」

にこ「なにぼけっとしてんのよ?ほら、体操するわよ?」

真姫「にこちゃん…」

にこ「な、何よ?」

真姫「ううん。何でもない」




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