千歌「猥談と百合」 (120)
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果南「千歌ってオナニーしたことある?」
千歌「は、はあ!?」
ある日の放課後、果南ちゃんと二人っきりの部室にて
いきなりそんなことを言い出した果南ちゃんに、私は自分の耳を疑った
果南「どうした千歌?そんな大声あげて」
千歌「いや、だって果南ちゃんが!」
変なこと言うから!って言おうと思ったけど
いやいや、落ち着け高海千歌
果南ちゃんの口からそんなオ、オナ……なんて言葉が出ると思う?
ううん、果南ちゃんはそんなこと言わない!
なんだー、聞き間違いかー、びっくりしたなあもう
千歌「あはは。ごめん、なんでもない。それで、なんだっけ?」
果南「千歌ってオナニー好き?」
千歌「何言ってんの!?」
だよね、知ってた!
だってはっきり聞こえたもん、オナニーって!
てかさっきと微妙に違うし!
千歌「なんでそんなこと聞くの!?」
果南「なんでって、ただの雑談だよ」
なんでそんな何でもない風な顔ができるんだろう
自分が何を言ってるのか理解できてないのかもしれない
私はなるべく冷静をを装って果南ちゃんに聞き返す
千歌「果南ちゃん。オ、オナニーってどういう意味か分かって言ってる?」
果南「自慰、一人エッチ、マスターベーション」
ああ、駄目だ
きっと果南ちゃんは頭がおかしくなってしまったんだ
ごめんね果南ちゃん、そんなになるまで気づいてあげられなくて
私は心の中で涙した
果南「ん?どうかした?」
千歌「いや……」
果南「っていうか千歌、顔が真っ赤になってるよ」
千歌「それは……果南ちゃんがおかしなこと言うからじゃん……」
果南「照れちゃって、可愛いな千歌は」
果南ちゃんの言う通り、多分今私の顔は真っ赤になっていると思う
だってこんな話、恥ずかしくて死にそうだよ
果南「そんな恥ずかしがらなくても、今時の女子高生ならこんな話普通だよ」
千歌「えー、嘘だよ」
果南「ホントホント。きっと梨子ちゃんも東京ではオナニーの話ばっかりしてたと思うよ?」
千歌「ま、まさかー……」
だけど言われてみれば、確かに梨子ちゃんってそういうの好きそうな感じあるかもしれない
やっぱり東京の人ってここみたいな田舎よりみんな進んでるのかなあ
なんだか、ちょっとだけ梨子ちゃんを遠くに感じるよ
果南「それで、千歌はオナニーするの?」
千歌「う……。教えないそんなの」
でもだからって、そんなに急に大人になんてなれないわけで
こういう話を恥ずかしげもなく出来るほどの大人じゃない私は、果南ちゃんの質問に答えることなくはぐらかす
果南「ふーん、してるんだ」
千歌「し、してるなんて言ってないし!」
果南「教えないっていうのはしてるって言ってるのと同じことだよ」
千歌「うっ……」
図星をつかれ、私は何も言えなくなってしまう
果南「へえー。千歌ってそういう事に興味なさそうに見えるのに、意外とエロいんだ」
千歌「エロくないし!た、たまにだけだから!そんなにしないから!」
果南「たまにってどれくらい?」
千歌「もう、なんでそんなこと果南ちゃんに言わなくちゃいけないの!?」
果南「だって私は千歌のお姉さんみたいなものだからね。姉として妹のそういう事はしっかり把握しておかないと」
意味がわからない
だったらダイヤさんはルビィちゃんのオナニー頻度を把握してるとでもいうんだろうか
……してるかもしれないなあ、ダイヤさんだったら
千歌「た、たまにはたまにだよ。つ、月一回とか、そのくらい……」
果南「え、それだけ?」
千歌「それだけだよ……」
果南「少ないんだね」
少ないのかな、よくわかんない
だってそんなの他の人と比較したことなんてないし
ああ、何言ってんだろう私
果南ちゃんのペースに乗せられて、もう頭がどうにかなってしまいそうだ
千歌「そ、そういう果南ちゃんはどうなの!?」
果南「私?」
千歌「そうだよ!人にばっか言わせて、そういう果南ちゃんはどんだけオナニーしてるのさ!?」
私はキレ気味に果南ちゃんに聞き返す
もうこうなったら、果南ちゃんだって恥ずかしいこと言ってもらうよ
私だけ言わされるなんて、そんなの納得できないからね
でも果南ちゃんは、私の言葉に意地悪そうな笑顔を見せる
果南「へー。千歌ってば何だかんだ言って私のオナニーが気になるんだ?」
千歌「はあ!?」
果南「やらしー。馬鹿千歌じゃなくて、エロ千歌だ」
違うから!
べつに果南ちゃんが何回オナニーしてようがそんなの全然興味ないし!
ああ言えばこう言って、もうホントになんなの!?
千歌「もう知らない!果南ちゃんなんか嫌い!」
悔しいような、恥ずかしいような、自分でもよく分からない感情が爆発して、私は果南ちゃんからそっぽを向いた
少し胸が痛むけど、私をからかって遊んだ果南ちゃんが悪いんだから
果南「千歌?ちーか」
私を呼ぶ声を無視する
果南ちゃんも少しは反省すればいいんだよ
果南「こら、無視するなってば」
千歌「ぐえっ」
そう言いながら果南ちゃんは後ろから私の首に手を回し、私の背中にもたれるように抱きついてきた
千歌「重い!離れてー!」
果南「いーや」
千歌「私怒ってるんだからね!」
果南「うんうん、ごめんごめん」
分かってるんだか分かってないんだか、そんな適当な返事で私の怒りは収まらないんだよ
そう言って振り返ろうとしたんだけど、果南ちゃんが私のことを強く抱きしめるから、うまく振り返ることが出来なくて
果南「だから、嫌いだなんて言わないでよ」
そう言った果南ちゃんがどんな表情をしてたのか、それを見ることは出来なかった
千歌「……もう」
そんな、不安そうな声出さないでよ
私が果南ちゃんのこと、本気で嫌いになれるわけないじゃんか
千歌「もういいよ。私も嫌いなんて言ってごめん」
果南「うん、じゃあこれで仲直りだね」
そう言った果南ちゃんは私の前に回り、両手を前に広げてみせた
果南「はい、仲直りのハグ」
千歌「ん……」
促されるままに、私は果南ちゃんにハグをした
果南ちゃんの大きな胸から伝わる、わずかな鼓動
それが少し早く感じたのは、私の気のせいだっただろうか
家に帰って風呂から上がり、私は自分の部屋に戻る
なんか、今日は疲れたな
果南ちゃんが変なこと言うから、あれから練習もあんまり集中出来なくてダイヤさんに怒られちゃったじゃん
だってあんな話、今まで誰とだってしたことなんてなかったし
ホントに今の女子高生ってあんな話をするのが普通なの?
私たちが田舎者だから知らないだけなのかな
っていうか今まで考えたことなかったけど、他のみんなも家ではオナニーとかするのかな
ちっちゃい頃からずっと一緒の曜ちゃんや、真面目な生徒会長のダイヤさんんとかも?
そんな姿を想像すると、見てはいけないものを見ちゃったようで、なんだか変な気分になってくる
そういえば私、最後にしたのっていつだっただろう
最近は練習が大変で、そんな事しようなんて気に全然ならなかったからなあ
……なんか、久しぶりにしよっかな、なんて
別に果南ちゃんに乗せられた訳じゃないけど……
ずっとしてなかったんだもん、たまにはいいよね
私はゆっくりと、自分の胸に手を伸ばす
なんでだろ、なんだかいつも以上にドキドキしてる
まだ手が胸に触れただけなのに、この先への期待感で息が苦しくなりそうだ
逸る気持ちを抑えて、私は胸に当てた手を優しく動かす
千歌「ん…… 」
梨子「千歌ちゃーん、いるー?」
千歌「うわあああああ!!!!!」
突如聞こえた梨子ちゃんの声に、私は驚きすぐに行為を中断した
てか窓!開けっ放し!
あっぶない!あのまま続けてたら公開オナニーになる所だったよ!
私は乱れかけたパジャマを整えて、急いでベランダまで向かった
千歌「り、梨子ちゃん!?なに!?」
梨子「いや、ちょっとお話ししたいなと思って……。どうかしたの?なにか悲鳴が聞こえたけど」
千歌「な、何でもないの!今のは、そう!ちょっと部屋にゴキブリがね!」
梨子「えっ、大丈夫なの?」
千歌「ああ、うん!もう大丈夫!やっつけたから!」
梨子「それならいいけど」
よかった、バレなくて
オナニーしてたなんて友達に知られたら、恥ずかしすぎて死んじゃうよ
梨子「そういえば千歌ちゃん、今日の練習はなんだか身が入ってなかったわね」
千歌「あー、うん。ごめんね」
梨子「まあ、誰にだってそういう事もあるとは思うけど。何かあった?」
千歌「まあ、ちょっとね」
梨子ちゃんの質問を私は誤魔化す
えっちな話のせいで集中出来ませんでしたーなんて、そんな事言えるわけないからね
梨子「もしかして、私何かしちゃったかな?」
千歌「へ?なんで?」
梨子「だって千歌ちゃん、今日やたらと私の事見てたじゃない」
あ、気づかれてたんだ……
うん、まあ梨子ちゃんが気になってたってのもあるんだよね
だって、ねえ?
千歌(梨子ちゃん、ホントは今もオナニーの話がしたくてたまらないのかも)
オナニーが大好きな梨子ちゃんのことだから、きっといつもオナニーの事を考えてるんだよね
だけど私たちが子供だから、仕方なく私たちに合わせてそういう話は我慢してくれてるんだ
なんだか申し訳ないけど、私にはやっぱりそう言う話はまだ早くって
ごめんね、梨子ちゃん
梨子「またじっと見て。なんなの?」
千歌「んーん、なんでもない。ただ梨子ちゃんは大人だなーって話」
梨子「どういう事よ……」
それから少し雑談をして、話も一段落したところで二人とも部屋に戻ることにした
梨子「じゃあ、おやすみなさい」
千歌「おやすみー。あ、梨子ちゃん!」
梨子「なに?」
千歌「私、ちゃんと窓閉めとくから!」
梨子「はい?」
千歌「ちょっとくらいなら声聞こえないから!大丈夫だよ!」
梨子「???。まあ、戸締りはしっかりしなきゃだめよ」
そう言って、梨子ちゃんは自分の部屋に戻っていった
私も部屋に戻り、宣言通りしっかりと鍵をかける
うん、これなら梨子ちゃんも安心だよね
これからは、梨子ちゃんのために戸締りはしっかりしていこう
さてさっきの続きを、なんて気分じゃなくなった私は、部屋の電気を消し布団に潜って目を瞑る
疲れていた私は、そのまますぐ眠りに落ちた
その晩、私は夢を見た
その夢では、私はあの人と一緒だった
一緒にいるとすごく嬉しくて、楽しくて、すごく安心出来るような、そんな人
手を繋ぎながら海沿いの道を歩き、時間を忘れるくらいにお喋りをして
そしてその人は、私のことをそっと抱きしめて、そして……
そこで、私は目を覚ました
眩いほどの光が部屋を照らし、私の意識を暗闇の底から引っ張り上げる
寝ぼけ眼を擦りながら、朧げな頭で考える
なんだか、久しぶりだなこの感じ
もうとっくに忘れたつもりだったのに、今更こんな夢を見るなんて
私は自分の胸に手を当てる
夢の余韻が、少しこの胸に残っている
この感覚を私は知っている
それは、私が昔にあの人に抱いていた、恋の感情に似ていた
「2」
果南「私はね、思うんだよ千歌」
何か、嫌な予感がする
果南ちゃんがまたくだらないことを言い出しそうな、そんな予感
果南「なんでHな話をするのを恥ずかしがらなきゃいけないんだろうって」
ほらね
っていうかこいつ、この前のことを何にも反省してないな
千歌「いきなり何言ってるの?」
果南「まあまあ、聞きなよ千歌」
いやだ、聞きたくない
って言っても絶対、そんなこと構わずに話し出すんだろうなあ
私はなかば諦めたようにため息をついて、目だけで話の続きを促した
果南「千歌はさ、人間の三大欲求って知ってる?」
あー、なんだっけそれ
どこかで聞いたことあるような気がするけど、確か……
千歌「えーっと。食欲、睡眠欲。それから……」
果南「そう、性欲だよね」
千歌「あー……」
果南「つまり、性欲っていうのは食欲や睡眠欲と同じで人間にとってなくてはならないものなんだよ」
果南ちゃんが良いこと言ったみたいな感じで力説しているのを、私は若干引き気味で聞く
果南「昨日何食べたーとか何時間寝たーとか、そういう話を友達としたりするでしょ?それなのにHな話をしないのは、おかしいことだと思わない?」
千歌「おかしいのは果南ちゃんの頭だよ」
ついつい本音が漏れてしまった
千歌「人には恥じらいって感情があるんだよ、果南ちゃんと違ってね」
果南「だからー、恥ずかしいって思うことが間違ってるんだって。千歌は食事や睡眠を恥ずかしいって思う?」
千歌「うっ……」
それは、思わないけど……
果南「ほらね。オナニーだってそれと変わらない、人として当たり前の行為なんだから」
絶対に何かが間違っているような気がする
でも、それをちゃんと言葉にして反論することができなかった
そんな私の様子を見て、果南ちゃんは勝ち誇ったような笑顔を見せる
く、悔しい……
果南「それはそうとさ」
千歌「な、なに?」
果南「千歌はオナニーするとき何をオカズにしてる?」
出たよ、果南ちゃんのセクハラ発言
ホントどうしちゃったの果南ちゃん
千歌「そんなの教えるわけないじゃん」
果南「えー、いいじゃん。私はやっぱり想像ですることが多いかな。AVもいいけど、自分で妄想した方が好きなシチュエーションで楽しめるしね」
知らないよそんなの
そんなの聞かされたらしたくもない想像しちゃうじゃんか
果南「ねえ、千歌は?私も言ったんだからさ」
勝手に言っただけなのに、果南ちゃんがすごく期待するような目で私を見てくる
千歌「ええ……。言わなきゃダメなのそれ……」
なんかもういいかな
感覚が麻痺してきているというか、果南ちゃんと話してると変に恥ずかしがるほうが馬鹿らしく感じてくるや
千歌「私は、その、ネットで検索した動画見ながらとか」
果南「へー、千歌はAV派なんだ」
千歌「そういう訳じゃないけど……」
別に、そんな動画ばっかり見てるわけじゃないし
たまにだよ、ホントにたまに
ネットで突然出てくるエッチな広告とか、そういうのが目に入ったりとか
そういうふとしたきっかけでちょっとそういう気分になることだって、きっと誰にだってあることだよね
果南「ちなみに、千歌はどんなジャンルが好きなの?」
千歌「好きとかないけど。別に、普通のだよ」
果南「普通って、男優と女優が普通にセックスしてるようなやつ?」
セ、セックスって……。まあもういいけど
千歌「そう。っていうかAVって他になくない?」
果南「そんなことないでしょ。私はレズ物が好きだし」
千歌「レ、レズ!?」
果南ちゃんが恥ずかしげもなく言う
あ、やばいかも
なんだか、胸の奥がぐるぐるする
果南「千歌は見たことない?」
千歌「ないよ。ねえ果南ちゃん、この話やめよ?」
果南「まあまあ。千歌も見てみなよ?案外いいって思うかも」
千歌「やめてってば!」
私の突然の大声に、その場が一瞬静まり返る
千歌「果南ちゃん、私はそういうの見ないから」
果南「……そういうのって?」
千歌「だから……レズとか、そういうのだよ」
果南「なんで?」
千歌「なんでって……。だってそんなの、普通じゃないじゃん……」
そういう事って、普通男の人と女の人でする事でしょ
女の子同士でそんなことしたってそんなの……
意味なんてないじゃんか……
果南「普通じゃない?レズは異常だってこと?」
私はすぐに自分の発言を後悔した
だけど、一度口をついて出た言葉を取り消す事なんて出来なくて
千歌「違っ!そんなこと言ってないじゃん!」
果南「言ったじゃん今。ふーん、千歌は私のことそういう風に思ってたんだ」
千歌「思ってないよ!なんでそんな言い方するの!?」
お互いに熱くなっていっているのが分かる
売り言葉に買い言葉で、言いたくもないことを言ってしまいそうになる
果南「まあそうだよね。だって千歌はもう普通になったんだもんね」
果南ちゃんの言葉が、私の胸に突き刺さる
千歌「そういう果南ちゃんもいい加減普通になった方がいいと思うよ!」
違う、違うの果南ちゃん
こんなこと、本当は言いたいわけじゃないんだよ
頭では分かっているのに、私の口は止まってくれそうになくて
このまま続いたら、もう
千歌「だいたい果南ちゃんはっ!」
鞠莉「ハーイ、今日も練習ガンバリマショー!」
そんな重苦しい空気の中に、突然響く明るい声
振り向くと今まさに部室の入り口から鞠莉ちゃんが入ってきたところだった
鞠莉「……Oh」
笑顔の鞠莉ちゃんだったけど、流石に部室の空気に気付いたのか、すぐに笑顔が引きつったものに変わる
鞠莉「なになに、ケンカ?」
果南「……別に。なんでもないよ」
千歌「あー、うん」
鞠莉「そうは見えないけどねえ」
果南「それより。そろそろみんな来るだろし、先に屋上行こ」
鞠莉「ちょ、果南!引っ張らないで!」
果南ちゃんは鞠莉ちゃんを引き連れて部室を出て行った
結局その日はそれ以降、果南ちゃんと二人で話せる機会はもうなくて
私は果南ちゃんに何も言えないまま、その日の部活は終了した
家に帰った私は部屋でスマホを握りしめ、果南ちゃんとのトーク画面を見つめていた
謝ろう、謝らなくちゃ
そう思うのに、私の指は動いてくれない
果南『まあそうだよね。だって千歌はもう普通になったんだもんね』
……あれは、結構こたえたな
果南ちゃんは、やっぱりまだ……
そうだとしたら、そんな私が果南ちゃんに何を言えばいいんだろう
そんなことを考えていると、私のスマホが通知を告げるために短く鳴った
確認すると、それは鞠莉ちゃんからのラインだった
鞠莉『ハーイ、ちかっち』
千歌『鞠莉ちゃん、どうかした?』
鞠莉『ちょっとね。ちかっちと果南がケンカしてるみたいだったから』
そりゃ分かるよね
鞠莉ちゃんにまで心配かけて、なんだか申し訳なくなってくる
鞠莉『あれでしょ?どうせ果南がちかっちに変なこと言って怒らせちゃったんでしょ?』
千歌『いや、そういうわけじゃ……』
鞠莉『いいの、わかってる。果南って本当デリカシーないっていうか、腹立つ時あるわよね、分かるわちかっち』
鞠莉『でもね』
鞠莉『出来れば果南と、仲直りしてあげてほしい』
鞠莉『果南だって、ちかっちと喧嘩なんてしたくないって思ってるはずなの』
鞠莉『だって果南ってば、ちかっちの事本当に大好きなんだから』
鞠莉『知ってる?果南っていつもちかっちの話ばかりしてるのよ?ちょっとジェラシー感じちゃうくらいに』
鞠莉『だから、お願い。ね?』
ラインの内容から、鞠莉ちゃんが果南ちゃんの心配をしているのははっきりと伝わってくる
鞠莉『はい、用件はそれだけデース。ではまた明日、学校で会いまショーウ。グッナイ』
私が返事を返す間も無く、言いたい事だけ言ってそこで鞠莉ちゃんから通知は途絶えた
鞠莉ちゃんからのラインをしばらく見つめて
そして自然と、私は果南ちゃんにメッセージを送っていた
千歌『今日はごめん。私、本当に果南ちゃんのことおかしいだなんて思ってないから』
私だって、果南ちゃんが大好きだ
こんなケンカなんてしたくない
そんな当たり前のことを気づかせてくれた鞠莉ちゃんに、私は心から感謝した
送った瞬間につく既読
もしかしたら、果南ちゃんも私との画面を開いていたのかな、なんて考える
そこから1分、2分
まるで恋人からの返信を待つような、永遠にも思えるそわそわとした時間
そこからさらに2分、3分
既読スルーされた?と不安に思いだした時、ようやく果南ちゃんからの返事が届く
果南『私もごめん。千歌がそんなこと思ってないって分かってるのに、なんだかムキになっちゃって』
続けて届く、ワカメが倒れているようなスタンプ
以前に聞いた話では、これはワカメが土下座をしている図らしい
なんだそりゃ
相変わらず果南ちゃんのセンスはよく分からない
ただ、とりあえず許してくれたみたいだ
私はほっと胸を撫で下ろす
果南『私も嫌味みたいなこと言っちゃったね。あの時のことは、千歌は何にも悪くないのにさ』
昔のことを思い出す
毎日が楽しくて嬉しくて、幸せだったあの日々を
千歌『ねえ、果南ちゃんはあの時のこと、怒ってる?』
聞かずにはいられなかった
果南ちゃんが、本当はどう思っているのかを
果南『怒ってないよ。さっきも言ったけど、あれは千歌は悪くない』
そう言ってくれるのを、私は期待していたのかもしれない
果南ちゃんの言葉で、私は少し救われた気分になった
千歌『ありがとう』
そしてごめんね
果南ちゃんの優しさに甘えてしまう私を、どうか許してください
果南『それじゃ、私はそろそろ寝るね』
千歌『はーい。果南ちゃん朝早いもんね』
果南『まあね。千歌も寝る前にオナニーするなら志満姉とかに聞かれないように気をつけな』
その後に続く、マッチョな男性がポーズを決めながらおやすみと書いてあるスタンプ
絵と文字のマッチしてなさがすごくて、私は少し笑った
千歌『バーカ。セクハラ親父』
私も負けずと送ったのは、みかんに大安売りと書いてあるスタンプ
大安売りのみかん
おおやすうりみかん
おやすみかん
うん、これは我ながらナイスなスタンプだ
制作者がこういう意図で作ったのかは知らないけれど、見た瞬間にビビッと閃いた私のお気に入り
曜ちゃんとかには不評なんだけど、なんでだろうね
スマホを机の上に置き、私はベッドに横になる
このまま寝るかと思ったけど、まだあんまり眠たくなくて
ふと思い立ち、私は自分のPCの前に座った
少し躊躇ったけど、私はネットを開き検索ボックスに文字を入力していく
レズ AV
すると画面いっぱいに、肌色の女性たちが絡み合っているような画像があらわれる
私は顔が熱くなるのを感じながら、その中の一つを適当に開いた
そして始まる女性同士の秘め事
恋人同士なのであろう2人の女性が、笑いながらキスをして、肌に触れ、体を重ね合わせる
もちろん、これが女優さんの演技だってことは分かっているんだけど
それでもこの二人の姿が、私にはとても幸せそうに見えて
いつの間にか、私の瞳からは涙がこぼれだしていた
千歌「あれ……?なんで……」
ぬぐってもぬぐっても、溢れるそれを止めることはできなくて
千歌「なんなの、もう……」
そのまましばらくの間、私は声を抑えて泣き続けた
流れる涙の理由には、気づかないふりをして
「3」
曜「みんな、おはヨーソロー!」
教室に入ってきた曜ちゃんが、開口一番大きな声で挨拶をした
クラスのみんなにおはようと返されながら、真っ直ぐにこっちに向かってくる
曜「千歌ちゃん、梨子ちゃん、おはよう!」
梨子「おはよう、曜ちゃん」
いつもなら、もちろん私も元気に挨拶を返すところなんだけど
あいにく今の私には、ちょっとそんな元気はなくて
机に突っ伏したまま、くぐもった声を出すのが精一杯だった
千歌「おはよう、曜ちゃん……」
曜「ありゃ、どうしたの千歌ちゃん?」
梨子「なんか眠いんだって」
曜「へー。夜更かしでもしたの?」
梨子「昨日宿題多かったし、そのせいなのかも」
曜「まさか。千歌ちゃんに限ってそれはないよ」
頭の上で、何か失礼な事を言っているのが聞こえる
言い返してやりたいけど、まあ実際宿題のことはすっかり忘れていたから何も言えない
私は大きく伸びをして、寝ていた体を無理矢理起こした
千歌「ああー、眠い……」
曜「何やってたの?」
千歌「んー?ちょっとね」
まさかレズAVを見ていて寝不足だなんて事を言えるはずもなく、私は曖昧に誤魔化した
まあ梨子ちゃんなら分かってくれるかもしれないけどさ
梨子「そんな調子で、今日の練習大丈夫なの?」
千歌「だいじょぶだいじょぶ。授業中にちゃんと寝とくから」
梨子「それ大丈夫じゃないから!」
曜「あはは、さすが千歌ちゃん」
そんなやりとりをしていると、すぐに先生が来て朝のホームルームが始まった
ボーッとした頭でなんとか先生の話を聞こうと頑張ったけど、案の定というか、結局睡魔には勝てずに私は意識を手放しちゃって
目が覚めた時、私の前には鬼のような形相をした先生が立っているのだった
昼休みも半分を過ぎた頃、私はようやく先生のお説教から解放された
しかも先生ってば、ついでにって図書室に届け物なんてお願いしてくるし
そんなの自分で持ってってよって思うけど、怒られてた手前そんな事も言えなくて
早くしないとお昼食べる時間もなくなっちゃうし、仕方なく私は図書室までの道を急ぐ
図書室の扉を開けて中には入ると、花丸ちゃんが受付に座って本を読んでいた
千歌「あ、花丸ちゃん。何やってるの?」
花丸「千歌ちゃん。おら今日は図書委員の当番ずら」
千歌「そうなんだ、大変だねー」
花丸「どうせ人も来ないし、本読んでるだけだからそうでもないよ。千歌ちゃんはどうしたずらか?」
千歌「これ、先生に頼まれて持ってきた」
花丸「ああ、頼んでた資料の。ありがとう千歌ちゃん。でもなんで千歌ちゃんが?」
千歌「えへへ。ちょっとお説教されてて、その流れで」
花丸「またずらか」
またってなんだ
そんないっつも説教されてないから
千歌「花丸ちゃんは何読んでんの?」
花丸「これ?最近話題になってる恋愛小説ずら」
千歌「へー、どれどれ」
私は花丸ちゃんの背後に回って、読んでる本を覗き込む
うわ、当たり前だけど文字ばっかり
花丸ちゃんこんなのよく読めるなーと感心する
どんな内容なのかなーと少し文字を追ってみた
曜介は梨生の閉じた菊門に、自分の一物をあてがう
そして梨生のあそこもこれからされる事を想像し、まるで期待するかのように硬く大きくなっていた
曜介「本当にいいんだよね、梨生」
梨生「うん、来て。曜介君……」
曜介「梨生……!」
そしてついに曜介は、ゆっくりと腰を梨生の奥に押し進めて……って!!
千歌「これエロいやつじゃん!!」
花丸「図書室では静かにするずら」
いやいやいや、学校の図書室で何読んでんの!?
花丸「別にこんなの普通ずら」
千歌「ふ、普通?これが?」
花丸「恋愛小説なら、こういう濡れ場なんてよくある事ずら。こんなのでいちいち顔赤くしてたら本なんて読めないよ」
そ、そうなの?
小説なんて普段全然読まないから今まで全然知らなかったけど、恋愛小説ってこんなエッチなのばっかなのか……
千歌「ち、ちなみにそれなんてタイトルの本?」
花丸「これ?『ラブ愛撫?愛欲に塗れた男達の放課後?』ずら」
それ本当に普通のやつなのかなあ!?
そう突っ込みたかったけど、なんか怖かったからやめといた
千歌「そういうの学校で読んで大丈夫なの?」
花丸「別に先生に怒られたことはないずら」
千歌「そうじゃなくって……」
変な気分になったりとか、ないのかな?
まあこの様子だと、全然大丈夫そうだけど
花丸「……興味あるずら?」
千歌「へ?」
花丸「こういうの(本)」
千歌「ええ!?そういうの(行為)って!!いや、そんなの全然!!」
花丸「全然?」
千歌「な、なくはないけど……」
私がそう言うと、花丸ちゃんは満面の笑みを浮かべる
花丸「嬉しいずら!まさか千歌ちゃんが興味持ってくれるなんて。同じ趣味の仲間は多い方が楽しいずら!」
千歌「趣味なんだ……」
花丸ちゃん、私より年下なのにすごいな……
千歌「も、もしかして、誰か相手がいたりするの?」
花丸「?。いや、基本1人の時しか(読書は)しないずら」
だ、だよね、びっくりした!
ほら、私達一応アイドルだし?まだ高校生だし!
そういうのはね、まだ早いと思うんだ、私は
花丸「千歌ちゃんにも何か貸してあげるずら」
貸すって……もしかして所謂大人のおもちゃってやつだろうか?
そんなの使ったことないから、少し怖いけど
でも、やっぱりちょっとだけ気になる……かも
花丸「どんなのがいいずら?」
千歌「その、初心者向けのでお願いします……」
花丸「んー、どれがいいかな」
そういうと、花丸ちゃんはおもむろに自分のカバンの中をゴソゴソと探り始めた
え、何?もしかして今その中に入ってるの?
マジか花丸ちゃん
果南ちゃんだって学校ではしてないよ、多分
っていうかそんないきなり渡されても、私全然心の準備とか出来てないんだけど!
花丸「うん、これがいいずら」
そう言って花丸ちゃんは、鞄の中から何かを取り出す
私はそれを、緊張しながら見つめていた
花丸「はい、どうぞ」
そうして、花丸ちゃんが私に手渡してきたのは
ブックカバーのされた、ただの小さめの本だった
千歌「へ?」
花丸「これなら、初心者の千歌ちゃんでも読みやすいと思うずら」
想像していた物とのあまりの違いに、私は言葉も出せずに固まってしまう
花丸「……もしかして、気に入らなかったずらか?」
千歌「あ、いや、そうじゃなくって」
これは、つまり……
千歌「これをオカズにするってこと?」
花丸「は?」
千歌「え?」
私の言葉に、今度は逆に花丸ちゃんが固まってしまった
な、なんだろうこの感じ
なんだか話が噛み合っていないというか
私はこれまでの会話の流れを思い出す
そして思い当たった
やばい、もしかして私はすごい恥ずかしい勘違いをしていたのかもしれない……
花丸ちゃんが気づく前になんとか誤魔化さないと……
そう思って、恐る恐る花丸ちゃんの様子をうかがうと……
花丸ちゃんは、それはもうすっごいジト目で私のことを見つめていた
花丸「千歌ちゃん」
千歌「な、なに?」
花丸「……スケベ」
千歌「ち、違うんだってばー!!」
その後、私は花丸ちゃんの誤解?を解くために必死に弁解を続け、なんとか分かってもらうことには成功したけど
でもその結果、無情にも昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り、結局私はお昼を食べることが出来ませんでしたとさ
千歌「で、結局借りちゃった」
あの後、流れというか花丸ちゃんの強い勧めで、今私の手の中には一冊の文庫本があった
千歌「どうしよこれ」
正直、あんまり興味ない
そもそもこんな文字ばっかりの本を、最後まで読める自信がまるでなかった
自慢じゃないけど、私は小説というものを最後まで読破したことが一度もない
漫画だったら好きなんだけどなあ
でも借りてしまった手前、読まずに返すなんてことも出来ないし
仕方なく、カバーのされたそれの最初のページを開いた
千歌「えーっと、タイトルは……。『イケない堕天使?幼馴染は方言彼氏?』か」
あらすじ
天界より追放され、人間界にて普通の人間に擬態して暮らしている堕天使の島津善男
ある時善男は、幼馴染の天使である村木田華丸と再会する
突然の再開に驚く善男に、再開を喜ぶ華丸
華丸の積極的な押しに、戸惑う善男も実は満更でもなく
男と男、天使と堕天使
決して許されない2人の恋が、今始まる
なんか、うん
正直昼間見た時から予感してたというか、あえて触れなかったんだけど
花丸ちゃん、こういうの好きなのかー
別に人の趣味に色々言うつもりはないけどさ
意外というか、やっぱりそうでもないというか
とにかく、ただでさえ低かった私のモチベーションがさらに下がるのを感じた
やっぱりこれは無理だ
花丸ちゃんには悪いけど、さらっと冒頭だけ読んで私には合わなかったって言って返そう
そうして私は、気乗りしない心を必死に奮い立たせ、なんとかその小説を読み始めるのだった
そして次の日
千歌「花丸ちゃーん」
昼休み、私は今日も図書室にやってきていた
花丸「あれ、今日も来たずらか?」
千歌「うん、昨日借りた本返そうと思って。ごめん花丸ちゃん、私にはちょっと合わなかったや」
花丸「そうずらか、それは残念。って千歌ちゃん、よく見たらすごい隈ずら」
千歌「えっ!?あ、あはは……。まあちょっと」
そう、実は昨日に引き続き今日もちょっと寝不足気味の私
2日連続のことで梨子ちゃんにも朝から呆れられちゃうし、また先生に怒られるしでもう散々だったけど
でもこれは仕方ない
だって昨日の徹夜には、海より深い理由があったりなかったりしたんだから
花丸「ははーん……」
ニヤニヤとした笑顔を浮かべる花丸ちゃんから、私は慌てて目をそらす
花丸「面白かったずらか、イケだて」
千歌「ぜ、全然!全然そんなことなかったけど」
花丸「おらあのシーンが好きずら。ほら、天界から天使長サファイアが来て善男が攻められる所」
千歌「分かる!!サファイアに無理矢理犯されて、心では華丸の事を思ってるのに体は感じちゃって悔しくて泣いちゃうシーン!すっごくドキドキした!……あっ」
花丸ちゃんの言葉に、私はつい我慢できなくなってしまった
だって花丸ちゃんの言ったところが、まさに私もお気に入りのシーンだったから
花丸「楽しんでくれたようでなによりずら」
千歌「うう……。はい、面白かったです……」
まさか、こんなに面白いと感じるとは思わなかった
少しだけ読むつもりだったのに、どんどん熱中して気付いたら朝になるまで読んでしまっていた
花丸「別に隠すことないのに」
千歌「だって……」
そんな事、言えるわけがない
普通のはずの私が、まさかBLにハマってしまっただなんて
花丸「まあ、千歌ちゃんの気持ちもわかるずら。BL好きなんて言ったら普通は引かれるから」
千歌「や、やっぱり?」
花丸「ずら。善子ちゃんにはキモいって言われるし、ルビィちゃんはあの日以来、おらと読書の話はしてくれなくなったずら」
遠い目をしながらそう話す花丸ちゃん
い、いったい過去にルビィちゃんと何が……
花丸「でも、別に気にしないずら」
千歌「え?」
花丸「キモいって思われても、普通じゃなくっても。周りになんて言われたって、自分が好きならそれでいいずら」
千歌「普通じゃなくても……」
すごいな、花丸ちゃんは
私だったらそんな風に考えられるかな
ううん、きっと無理
周りの言うことを気にして、自分の本当に好きなものだって好きでいられなくなってしまうと思う
そう、あの時だって……
花丸「それで千歌ちゃんはどうするずら?」
千歌「私?」
花丸「おらは、千歌ちゃんの本当の気持ちが知りたいずら」
千歌「私は……」
私は、自分が普通怪獣なんだと思っていた
どこにでもいる、ただの普通の女の子
普通じゃない私になりたくて、憧れて
でも本当は、普通からはみ出ることが怖かった
普通でいないと、人から迫害されて、嫌われると思っていたから
だけど、自分の好きなことに正直な花丸ちゃんを見ていたら
私も、そんな風になりたいと思ったんだ
千歌「花丸ちゃん!花丸ちゃんのおススメの本、もっとたくさん貸して!」
花丸「ふふふ。ようこそ、『男の世界』へ、ずら」
この日、私は腐女子への道を一歩踏み出した
何かが間違っている気がするが、面白いものは面白いんだから仕方ないのだ
「4」
千歌「相談?ルビィちゃんが私に?」
ルビィ「うん」
いつもの昼休み
私たちの教室にやってきたルビィちゃんは、曜ちゃんと梨子ちゃんとお昼を食べていた私にそう告げた
その真剣な表情に、私は動かしていた箸を止めてルビィちゃんと向き合う
曜「あー……。私たちは席を外そうか?」
ルビィ「あ、いえ。いいんです。むしろ2人にも聞いてもらいたいというか」
梨子「そ、そう?ならいいんだけど」
きっとルビィちゃんは本当に悩んでて、それでこうやってわざわざ私たちのところまで来たんだよね
少し不謹慎かもしれないけど、そんな真剣な悩みを私に相談してくれたのが嬉しくて
そんな大切な後輩の悩み事を、絶対に解決してあげたいって思った
千歌「聞かせて、ルビィちゃん。私たちに出来る事なら、なんだってするから」
ルビィ「ありがとう、千歌ちゃん!実は……」
その場の空気が張り詰める
私たち3人は、緊張した面持ちでルビィちゃんの言葉を待った
ルビィ「お姉ちゃんのオナニーの声が大きいのをなんとかしてほしいんです」
千歌「ごめん、私には荷が重いから他をあたって」
ルビィ「な、なんで!?なんでもしてくれるって言ったのに……」
千歌「限度があるよ!私の真剣な表情を返して!」
ルビィ「ルビィだって真剣に悩んでるの!」
梨子「ちょ、ちょっと2人とも、落ち着いて!」
曜「ここ教室だから!周りに人いるから!」
ルビィ「ぴぎっ!!」
私たちの大騒ぎに、いつの間にか周囲の視線が集まっていた
それに気付いたルビィちゃんは、顔を真っ赤にして私の後ろに隠れてしまう
曜「と、とりあえず部室行こ。ね?」
曜ちゃんの提案で、私たちはそそくさと逃げるように教室を後にした
部室に着いた私たちは、改めてルビィちゃんと向き合った
曜「えーっと、それで何だっけ?」
ルビィ「お姉ちゃんのオナニーの声をなんとかしてください」
梨子「オナニーって……」
顔を赤くして照れる梨子ちゃん
ちなみに梨子ちゃんがオナニーマスターだっていうのは誤解だったらしい
この間そんな話をしたら、梨子ちゃんにめっちゃキレられた
千歌「そもそも、なんでそんなこと私に頼むの?」
曜「ち、千歌ちゃん、冷静だね」
千歌「えっ!?そ、そう?」
最近この手の話を聞きすぎているせいかもしれない
いつの間にかこういう話に慣れてきてしまっている自分がいた
自分からどんどん純情さが失われているようで、私は心の中で果南ちゃんを恨む
ルビィ「それは花丸ちゃんが」
花丸『そういう相談はきっと千歌ちゃんが得意ずら』
ルビィ「って」
曜「そうなの!?」
千歌「違う!」
ああもう花丸ちゃん全然誤解解けてないじゃん!
そんな変なことあんま人に言わないでくれないかなあ
ルビィ「お願い!こんなことお願い出来るの千歌ちゃんだけなの!」
千歌「ええ……。嫌だよ、自分で言いなよそんなの」
ルビィ「うゅ……。だって同じ家に住んでるのに、そんなこと言ったら気まずくなっちゃうし……」
それだったら私だって同じ部活だよ
って言うかこの話聞いただけで私的には既に若干ダイヤさんに気まずさ感じてるからね、どうしてくれんのさ
千歌「もうルビィちゃんが我慢すればいいんじゃない?」
ルビィ「無理!それにルビィだけじゃなくて、お母さんたちもどうにかしてほしいって言ってて……」
親にも聞かれてんの!?
それもう言ったら本気で死にたくなるやつじゃん、余計言えないよ
梨子「そ、そんなに大きいの?その……声って」
ルビィ「うん、この世のものとは思えないくらい」
曜「そんな大袈裟な」
ルビィ「じゃあ、聞く?」
千歌「へ?」
そう言ってルビィちゃんは、ポケットからスマホを取り出す
いやいや、そんな、嘘でしょルビィちゃん……
まさかと思うけど、そのスマホの中に……?
ルビィ「聞いたらルビィの気持ちも分かってもらえると思う」
千歌「いいから聞かせなくて!」
実の姉のオナニー声を録音し、それを平然と友達に聞かせようとしてくるなんて
怖っ!私はルビィちゃんが怖いよ!
ルビィ「じゃあ再生するね」
千歌「いや、だからいいって……!」
私の拒否する言葉も聞かず、ルビィちゃんはスマホの再生ボタンをタッチした
それから先のことは、正直もう思い出したくない
それでも私は、あの静かな部室に響き渡る喘ぎ声をこの先忘れることは出来ないのだろう
まるで地獄のような時間を体験し、結局私は今こうして生徒会室の前に立っていた
千歌「なんで私がこんなことを……」
梨子「頑張って、千歌ちゃん」
曜「私達もドアの前にいるから」
千歌「一緒に来てよー……」
まあ、仕方ない
私は覚悟を決めて、目の前の扉をノックする
ダイヤ「どうぞ」
千歌「失礼します」
返事を待ってから私は扉を開ける
生徒会室の中には、想定通りダイヤさんが一人で座って仕事をしていた
っていうか、見たことないけど他に生徒会のメンバーっていないんだろうか?
ダイヤ「あら千歌さん、何か御用ですの?」
千歌「用っていうか、なんて言うか……」
なんて言って切り出せばいいんだろう
私が迷っていると、私より先にダイヤさんが口を開いた
ダイヤ「でもちょうど良かったですわ。実は私も千歌さんに話があったんですの」
千歌「話ですか?」
ダイヤ「まあ、とりあえず座ってくださいな」
言われるままに私は椅子に腰をおろした
話ってなんだろう
なんか怒らせるようなことしちゃったかな
ダイヤ「実はですね」
ダイヤさんが真面目そうな顔で口を開く
しかしその瞬間、私の頭にさっきのダイヤさんの喘ぎ声がリフレインされた
千歌「ふふっ」
ダイヤ「はい?何を笑っているんですの?」
千歌「いえ、何でもないです!」
危なかった……
おもわず吹き出してしまうところだった
っていうかこれはまずいよ
この先ダイヤさんがどんな話をしていても、「でもオナニーの声は大きいんだよね」っていう考えが頭をよぎるようになってしまいそうだ
そうなったら、もう無理じゃん
真面目に話なんて聞けそうにないよ
いけないいけない、ちゃんと頭を切り替えないと
私はさっきのことを必死に頭から切り離し、真剣に話を聞くことにした
ダイヤ「まあいいです。それで、話というのは果南さんのことですわ」
千歌「果南ちゃん?」
ダイヤ「ええ。千歌さんは果南さんが卒業後どうするかご存知ですか?」
千歌「えっと、確か海外にダイビングのインストラクターの資格を取りに行くって聞いてますけど」
ダイヤ「その後は?」
千歌「その後?いえ、分からないです」
ダイヤ「そうですか」
なんなんだろう
何を言いたいのかが分からず私は困惑する
ダイヤ「本当なら、あなた達のことに私が口を出すつもりはなかったのですが」
そう前置きをしてから、ダイヤさんは言った
ダイヤ「果南さんは卒業後、日本に帰ってきたら結婚をするつもりですわ」
千歌「……はい?」
ダイヤさんが何を言ったのかが理解できずに、私は聞き返してまう
だって聞こえてきた言葉は、あまりにも現実感のないものだったから
ダイヤ「聞こえませんでしたか?果南さんが結婚すると言ったのです」
千歌「……ははは。ダイヤさんもそういう冗談言うんですね」
ダイヤ「冗談を言っているように聞こえますか?」
千歌「いや……だってあり得ないですよ。果南ちゃんが結婚なんて」
ダイヤ「何故ですの?果南さんだってとっくに結婚の出来る年齢になっていますわ」
千歌「そういう問題じゃないです……!そもそも果南ちゃんにそんな相手がいるはずありません!」
ダイヤ「酷い言いようですが……。そんなことが千歌さんに分かるんですの?」
千歌「分かります!」
だって果南ちゃんは「違う」から
結婚だなんて、そんなことあるわけがない
ダイヤ「まあ確かに千歌さんの言う通り、現在果南さんに恋人はいらっしゃらないようですが」
千歌「ほら。だったら」
ダイヤ「私が紹介いたしますわ」
千歌「ど、どういうことですか?」
ダイヤ「正確には黒澤家がですが。私の家なら、条件の良い立派な男性を紹介することが出来ますわ」
千歌「……意味が分かりません。なんでダイヤさんがそんなこと」
ダイヤ「果南さんに頼まれたのですわ。お見合い相手を紹介してほしいと」
千歌「果南ちゃんがそんなこと言うわけない!」
私は思わず声を荒げてしまった
ダイヤさんはそんなことを気にする様子もなく、淡々と話を続ける
ダイヤ「果南さんは言っていましたわ。私も変わらなくちゃいけない、千歌さんのことは諦めると」
ダイヤさんはそこで、私をじっと見つめた
ダイヤ「千歌さんなら、果南さんの言っている意味が分かるでしょう?」
千歌「ダイヤさん……。もしかして知ってるんですか?」
ダイヤ「ええ、知っていますわ。果南さんのことも、お二人の昔のことも」
千歌「っ!だったら……だったらダイヤさんにだって分かるじゃないですか!果南ちゃんが本気でそんなことしたいはずがないって!」
ダイヤ「果南さんは叶わない恋を諦め、前に進もうとしているのです。私はそんな果南さんの気持ちを尊重してあげたいと思っているのですわ」
千歌「そんな、だからっていきなり結婚だなんて……。そんなの勝手すぎるよ……」
ダイヤ「勝手?勝手なのは千歌さんの方ではないですか?」
ダイヤさんが、少し強い口調で私に言う
ダイヤ「さっきから聞いていれば、あなたは果南さんのなんなんですの?果南さんがどうしようがあなたに関係ありますか?」
千歌「それは……」
ダイヤ「そもそも、こうなったのだってもともとはあなたが果南さんを」
曜「ダイヤさん!」
ダイヤさんの言葉を遮るように、生徒会室の扉が勢いよく開かれる
扉を開けた曜ちゃんは、怒ったような表情でダイヤさんに詰め寄った
曜「謝ってください」
梨子「曜ちゃん、ちょっと落ち着いて!」
梨子ちゃんが宥めようとするのを無視して、曜ちゃんはさらに言葉を続ける
曜「千歌ちゃんに謝って!千歌ちゃんがどんな気持ちだったのか、ダイヤさんは何にも知らないくせに!」
千歌「曜ちゃん、いいから」
曜「でもっ!」
千歌「私は大丈夫だから。ね?」
曜「っ……」
私の言葉に、曜ちゃんは口を噤んだ
ダイヤ「……すみません、私も言いすぎましたわ」
千歌「いえ……」
ダイヤ「とにかく、話は以上ですわ。一応、千歌さんには伝えておいた方がいいと思ったもので」
千歌「はい、ありがとうございました。それじゃあ」
そう言って、私は二人と一緒に部屋を出る
ダイヤ「千歌さん」
部屋を出る直前に、背後からダイヤさんに声をかけられる
ダイヤ「果南さんにとって何が一番幸せなのか、あなたもよく考えてみてください」
千歌「……失礼します」
私はダイヤさんに振り向くことなく、そのまま生徒会室を後にした
教室までの道のりを、私たちは無言で歩く
梨子ちゃんと曜ちゃんの心配そうな視線を感じるけれど、今はそれに応えるだけの余裕はなかった
ルビィ「あっ、千歌ちゃん。お姉ちゃんにちゃんと言ってくれた?」
私を待っていたのか、途中でルビィちゃんに声をかけられる
ああ、そういえばダイヤさんに話があって生徒会室まで行ったんだった
ダイヤさんの話を聞いて、そんなことはすっかり忘れてしまっていた
千歌「ごめんルビィちゃん。話出来なかったや」
ルビィ「うゅ……。そうなんだ……」
曜「ホントごめんね、また今度話すから」
ルビィ「ううん、それはいいけど。……あの、千歌ちゃん何かあったの?」
千歌「……ううん、なんにも!じゃあまたね、ルビィちゃん!」
ルビィ「あ、うん。また放課後にね」
そうやってルビィちゃんと別れる
ああ、私ちゃんと笑えてたかな?
心の中がぐちゃぐちゃで、あのまま話し続けたらルビィちゃんにまで心配をかけてしまいそうで
私はほんの少し歩みを早める
今だけは、誰にも私の顔を見せたくなかった
ダイヤ「……はあ」
鞠莉「コンコン。失礼しマース」
ダイヤ「鞠莉さん。一体なんの用ですの?」
鞠莉「べっつにー。暇だったから」
ダイヤ「暇なら仕事をしてくださいな。悪いですけど、今は鞠莉さんの相手をする気分じゃありませんの」
鞠莉「オーウ、ベリークール。気にしてるの?さっきちかっちに言ったこと」
ダイヤ「……聞いていたんですの?まったく曜さんといい鞠莉さんといい、あまりいい趣味とは言えませんわ」
鞠莉「何もあんな風に言うことなかったんじゃない?」
ダイヤ「……分かっていますわ」
鞠莉「ホント、ダイヤってば不器用なんだから」
ダイヤ「私は、ただ……」
鞠莉「分かってる、ダイヤが果南のことを真剣に考えてるのは」
ダイヤ「……千歌さんに偉そうなことを言っておきながら、私にも分からないのです。どうするのが果南さんにとって一番いいことなのか」
鞠莉「そうね」
ダイヤ「個人的な考えを言えば、やはり千歌さんと果南さんのことを応援はできませんわ。果南さんには普通に幸せになってもらいたいのです。ですが……」
鞠莉「後悔する選択をしてほしくもない。果南にもちかっちにも」
ダイヤ「当然ですわ。千歌さんだって私の大切なお友達なのですから」
鞠莉「だからちかっちに考えるように言ったんでしょ?言い方はへったくそだったけどね」
ダイヤ「嫌われてしまったでしょうか」
鞠莉「そんな子じゃないわよ」
ダイヤ「だといいのですが」
鞠莉「さて、ちかっちはどうするのかしらね」
曜「ダイヤさん酷くない?正直見損なった」
放課後、曜ちゃんと梨子ちゃんは私の家に遊びに来ていた
梨子「曜ちゃん、あんまりそんなこと言っちゃ駄目よ」
ダイヤさんの悪口を言う曜ちゃんを梨子ちゃんが止める
曜「だって、千歌ちゃんにあんなこと」
千歌「ううん、あれは私が悪かったんだよ」
曜「千歌ちゃん……」
千歌「きっとダイヤさんは、果南ちゃんのことを本気で考えてくれてるからあんなことを言ったんだと思う。だから曜ちゃんも、ダイヤさんのことを悪く思わないであげて」
曜「千歌ちゃんがそう言うなら……」
千歌「っていうか、私も馬鹿だよね。ダイヤさんの言う通り私には関係ないことなのに、なに熱くなってたんだろ」
曜「関係なくないじゃん!だって千歌ちゃん……」
千歌「ううん、関係ないよ。もう昔の話だし」
曜「でもっ!」
梨子「あの……」
梨子ちゃんがおずおずと手をあげた
梨子「私が聞いていいのか分からないんだけど。その、あの時ダイヤさんが言ってたことって……」
ああ、そうか
そう言えば梨子ちゃんは知らないんだった
そりゃ当然か、今年引っ越してきたばっかりなんだから
曜ちゃんがチラリと私を見る
まあ、別にいいか
梨子ちゃんに隠し事なんてしたくないしね
千歌「昔ね、私と果南ちゃんは付き合ってたんだよ」
一瞬、私の部屋がシーンと静まり返る
そして次の瞬間
梨子「ええええええええ!!!!」
梨子ちゃんの叫びが家中に響き渡った
曜「ちょ、梨子ちゃん声大きい!」
梨子「ご、ごめんなさい……。でも、え?付き合ってたって……」
千歌「そ。恋人だったってこと」
梨子「だ、だって果南さんは女の子じゃない!」
千歌「女の子同士で、恋人同士だったんだよ」
梨子「ええええ……」
梨子ちゃんは驚いて声も出ない様子だった
まあ、そういう反応も当然だよね
きっと逆の立場なら、私だって似たようなものだったんだろうと思う
千歌「引いた?」
梨子「そ、そんなわけないじゃない!なにがあったって千歌ちゃんは千歌ちゃんよ!」
千歌「ありがとう、梨子ちゃん」
梨子「でも、千歌ちゃん前に恋愛経験ないって言ってたのに」
千歌「あの時は梨子ちゃんと出会ってから日も浅かったし、それにそんなに人に言えるような話じゃないからね」
梨子「千歌ちゃん、私たちより全然大人だったのね……」
曜「え、それ私も含まれてるの?」
千歌「ううん、違うよ。私はね、子供だったんだよ。女の子同士で付き合うことがどういうことかなんてまるで分かってない、無知な子供」
梨子「……何があったのか、聞いてもいい?」
千歌「うん、梨子ちゃんには聞いてほしい。私と果南ちゃんの、昔の話」
私と曜ちゃんと果南ちゃんは、小さい頃からの幼馴染なんだ
親が友達同士だっていうこともあって、年の近い私たちはよく一緒に遊んでた
果南ちゃんは私たちより一つ年上で、って言っても実は曜ちゃんとは2ヶ月くらいしか違わないんだけど
それでも私たちは新しいお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しくて、いつも果南ちゃんの後をついてまわってた
果南ちゃんはすごくかっこよくて、頼りになって
おとなしかった私はよく近所の男の子にからかわれてたんだけど、そしたら果南ちゃんが飛んできで私を守ってくれたんだ
果南『こら、またちかをいじめてるな!』
千歌『かなんちゃん!』
男子1『げ、ゴリラがきたぞ!』
果南『だれがゴリラだ!おまえたちぶっとばしてやるからな!』
男子2『やばい、逃げろ!』
果南『にがすか!』
そうしていつも逆に男の子を泣かせてた
果南『ちか、だいじょうぶ?』
千歌『うん、ありがとうかなんちゃん!』
果南『ちかのことはわたしがまもるから。いつでもわたしをよぶんだよ』
そう言って、生傷だらけの顔で私に笑うの
そんな果南ちゃんをお母さんたちは心配してたけど、だけど私はそんな果南ちゃんのことが大好きだった
ある時、果南ちゃんが言ったんだ
果南『ちか、ちゅーしよう』
千歌『ちゅー?』
果南『そう。すきなひとと、くちとくちをあわせるの』
千歌『なんで?』
果南『なんで……。なんでだろ?わかんないけど、すきなひとどうしはそうするんだって』
千歌『ふーん』
果南『ちか、わたしのことすき?』
千歌『うん、かなんちゃんだいすき!』
果南『じゃあ、しよう』
千歌『わかった!』
果南『はい、ちゅー』
千歌『ちゅー』
それが果南ちゃんとの初めてのキスだった
まあその時は、キスの意味なんて全然分かってなかったんだけど
千歌『ようちゃんともしてくる!』
果南『え、だめだめ!だめだよそれは』
千歌『なんで?ちかようちゃんのこともすき!』
果南『ちゅーは、いちばんすきなひととしかしちゃいけないの。ちかがいちばんすきなのはだれ?』
千歌『ママ!』
果南「ママいがいで」
千歌『えー?』
果南『わたしでしょ?』
千歌『うーん……』
果南『ね?ちかはわたしいがいとはちゅーしちゃだめなんだよ』
千歌『そうなの?』
果南『そうなの』
千歌『わかった!ちかほかのひととはちゅーしない!』
果南『うん、いいこだよちか。じゃあもういっかいちゅーして』
千歌『うん!』
まあ、その次の日には曜ちゃんともキスしちゃったんだけどね
梨子「ええっ!?」
曜「千歌ちゃん!?それは言わなくてもいいから!」
千歌「だって曜ちゃん、私が果南ちゃんとチューしたって言ったら私にもしてってすごい泣き出しちゃって」
梨子「曜ちゃんってば、可愛い」
曜「こ、子供の時の話だから!ああもう恥ずかしいなあ……」
千歌「あはは」
まあそんな感じで、私と果南ちゃんは時々キスをするようになったんだけど
私たちが成長するにつれて、当然私にもキスをすることの意味が分かってきて
果南『おはよう、千歌』
千歌『果南ちゃん……』
果南『ん?どうした、元気ないぞ?』
千歌『ねえ、果南ちゃんはなんで私にキスするの?』
果南『……なんでだと思う?』
千歌『分かんないよ、そんなの……』
果南『本当に?千歌なら分かると思うけど』
千歌『……』
果南『まあいいや。私はね、千歌が好き。好きだからキスもしたいし、付き合いたいって思ってる』
千歌『でも、おかしくない?果南ちゃんも私も女の子じゃん』
果南『おかしいのかな?よく分かんないや。私は初めて会った時から千歌が好きで、男子を好きになったことはないから』
千歌『そ、そうなんだ』
果南『千歌は?私の事どう思う?』
千歌『分かんない……。けど果南ちゃんとキスするのは、ちょっとドキドキする、かも』
果南『じゃあ、試してる?』
千歌『う、うん』
そして私達はキスをして
果南『どう?』
千歌『やっぱり、すごくドキドキしてる』
果南『実は私も』
千歌『果南ちゃんも?』
果南『ハグっ。ほら、聞こえる?』
千歌『……ほんとだ』
果南『ねえ千歌、私たち付き合おっか』
千歌『……うん』
こうして、私と果南ちゃんは恋人同士になったんだ
だけどそんな幸せな時間は長くは続かなかったのです
あれは、中学に入ってすぐくらいのことだったかな
女子1『高海さん』
千歌『なーに?』
女子1『高海さんって松浦先輩と仲良いよね』
千歌『果南ちゃん?うん、仲良いよ』
女子2『果南ちゃんだって』
女子3『ね?やっぱりマジなんだって』
この時の彼女たちの反応に、私は違和感を覚えていた
ニヤニヤと笑いながら、まるで馬鹿にするような目つきで私のことを見ていたから
千歌『え、なに?』
女子1『ねえ、松浦先輩と付き合ってるって本当?』
千歌『へ?』
女子2『この子が二人が外で手を繋いで歩いてるの見たんだって』
女子3『なんかすごい親密そうな感じだったじゃん。高海さんってそっち系の人?』
女子1『女同士でキスとかしてんの?』
女子2『ヤバっ。ウケんねそれ』
私はこの時、初めて知ったんだ
果南ちゃんと付き合っていることが、周りからどういう風に見られるのかを
心臓がバクバクと鼓動を早め、体が震える
怖い
この人達の悪意に満ちた目が私の中をジロジロと覗き込んでいるようで、それが怖くて仕方がなかった
女子1『ねえ、聞いてんだけど。教えてよ』
千歌『え、あ……』
曜『別に手くらい繋ぐよ。私だってよく千歌ちゃんと繋ぐし』
千歌『よ、曜ちゃん』
曜『私達小さい時からの幼馴染だから仲良いんだ。ねっ、千歌ちゃん』
千歌『う、うん』
女子3『渡辺には聞いてないんだけど』
曜『まあいいじゃん。ほら、もうチャイム鳴ってるよ。先生に怒られるから早く席に戻った方がいいよ』
女子2『ちっ、うざ』
女子1『まあいいや、行こ』
そうして、とりあえずその場はその子たちは去っていった
曜『千歌ちゃん、あんまり気にしちゃ駄目だよ』
千歌『うん、ありがとう』
曜ちゃんはそう言ってくれたけど、あの時のあの子たちの目が頭から離れなくて
果南『やっ。それじゃ帰ろっか』
千歌『うん。あ、果南ちゃん。これからはさ、あんまり外で手を繋ぐのとかやめよっか』
果南『えっ、どうして?』
千歌『ほら、やっぱり人に見られたりしたら照れちゃうから』
果南『私は千歌が照れてる顔も見たいけどなあ』
千歌『もう、果南ちゃん!』
果南『あはは、冗談。まあ千歌が嫌だって言うなら無理にとは言わないけどさ。その代わり、今日うちに来なよ。そこでならいくらでもイチャイチャ出来るでしょ?』
うんと返事をしようとして、またさっきの光景が頭をよぎる
千歌『あー……。ごめん、今日はちょっと用事が……』
果南『そっか……。まあ用事なら仕方ないね』
そう言って残念そうに笑う果南ちゃんに、私は胸が痛くなった
そしてその日は、なんだか少しだけ気まずい空気で私達は家に帰った
その日から、周りの私を見る目が少しずつ変わっていった
多分あの子達が言いふらしたんだろう、私の方をみてコソコソと何かを話しているような光景を見るようになった
中には直接聞いてくる人もいて、私はその度になんとか果南ちゃんとの関係をごまかす
そんなことを続けているうちに、私は自分の気持ちにどんどんと自信がもてなくなっていったんだ
そしてある朝、私が教室に入るとみんなが黒板の前に集まっていた
みんな私を見るやいなや、そそくさと自分の席に戻っていく
黒板に書かれている文字を見て、私は絶句した
高海千歌はレズ
変態
気持ち悪い
そんなような悪口が、でかでかと黒板いっぱいに書かれていた
曜『酷い……』
後ろから、クスクスと笑うような声が聞こえる
私は急いでその文字を消していく
その間、私は涙が出そうになるのを必死になって堪えていた
友達1『私達も手伝うよ』
曜ちゃんやクラスの他の友達も何人か手伝ってくれた
曜ちゃん以外にもこんな私を手伝ってくれる人がいたことが、その時の私は嬉しかった
友達1『千歌ちゃん、先生に言った方がいいよ』
千歌『ううん、いいの』
これ以上、私は騒ぎを大きくしたくなかった
そうなったら、きっともっと多くの人の耳にこのことが入ってしまうから
友達2『これ、絶対女子1さん達だよね』
友達3『だよね、最悪』
友達1『知ってる?女子1さんこの前男子にフラれたんだって。なんかそいつが千歌ちゃんのことが好きだったらしいよ』
千歌『え、ええ!?』
友達3『何それ、ただのやっかみじゃん』
友達2『千歌ちゃんは何も悪くないのにさ』
私のために怒ってくれる友人達に私は感謝した
世の中には、こんな風に私のことを分かってくれる人だっているんだって、そう思った
次の言葉を聞くまでは
友達1『こんなデマを振りまくなんてさ、ホント酷いよね』
千歌『えっ?』
友達2『ね。千歌ちゃんが松浦先輩と付き合ってるとか、そんなこと有り得ないでしょ』
友達3『ちょっと手を繋いでただけでレズとかさ、いくらなんでもそれはないよ』
ああ、そうか
この人達は、私を信じているんだ
私が、黒板に書かれているようなレズなんかであるわけがないと
みんなと同じ、普通の人間なんだと思ってくれているんだ
苦しくなる
本当の私を知ったら、この子達もみんなと同じ反応をするようになるんだろうか
千歌『あ、あはは。ほんと参っちゃうよね。私が果南ちゃんを好きとか、そんなのあるわけないのに』
曜『千歌ちゃん……』
笑いながら、私は果南ちゃんとの関係を否定する
これからずっと、私はこんなことを続けなきゃいけないのかな
なんだか、もう疲れちゃったよ
果南『曜に聞いたよ。千歌がいじめられてるって』
千歌『……言わないでって言ったのに』
果南『曜は千歌のことを心配してた。なんで私に言わないのさ』
千歌『果南ちゃんに心配させたくなくて』
果南『そんなのいいから!昔にも言ったじゃん、千歌のことは私が守るって』
千歌『……』
果南『誰にやられたの?私が文句言ってきてあげるから』
千歌『やめてよ!今果南ちゃんが出ていったら余計酷く言われるに決まってるじゃん!』
果南『……千歌』
もう、限界だった
千歌『ねえ果南ちゃん。なんでこんな目に合うんだろ。私が果南ちゃんを好きな気持ちって、こんなことされなきゃいけないくらい悪いことなのかな?』
果南『そんなことないって!千歌、私はっ!』
千歌『ごめん、果南ちゃん……』
果南『えっ?』
千歌『本当にごめん……。だけど私、もう無理だ……。ごめん……』
千歌『別れよう、果南ちゃん』
そうして、私は普通の女の子になったのでした
千歌「とまあ、そんな感じかな」
私が話し終えた時、梨子ちゃんは涙を流していた
梨子「酷い……。千歌ちゃんが可哀想よ……」
千歌「ああ、泣かないで梨子ちゃん。もう昔の話だし、私は全然気にしてないから」
梨子「そんなはずないじゃない!だって千歌ちゃん、果南さんのこと好きだったんでしょ?それなのに……」
千歌「うん。でもね、きっとこれで良かったんだって今は思うんだ。そもそも女の子同士だし、初めから上手くいきっこなかったんだから」
梨子「そんなこと……」
千歌「だからね、果南ちゃんがお見合いするって決めたなら、私も応援しようと思う。って言っても、いい人と出会えるように祈るくらいしか出来ないけどね」
そう言って私は笑った
梨子「千歌ちゃん……」
曜「千歌ちゃんは本当にそれでいいの?」
千歌「えっ?」
曜ちゃんが、真剣な顔で私にそう問いかける
曜「千歌ちゃんが何もしなかったら、果南ちゃんは本当にお見合いして、そのまま結婚しちゃうかもしれないんだよ?もしそうなっても、千歌ちゃんは絶対に後悔しないって言える?」
千歌「それは……」
曜「私はね、千歌ちゃんのことが大好き。だけどそれと同じくらい、果南ちゃんのことも大切なの。だから私は、二人ともに幸せになってほしいんだ」
曜「もし千歌ちゃんが、これが二人にとって一番いい選択なんだっていうなら、私はもう何も言わないけど。でも、ちゃんと考えて決めてほしい。千歌ちゃんのためにも、果南ちゃんのためにも」
千歌「曜ちゃん……」
梨子「そうよ。私は曜ちゃんほど千歌ちゃんと付き合いが長いわけじゃないけど、それでも今の千歌ちゃんが無理をしてることくらいは分かるわよ」
千歌「梨子ちゃん……」
ああ、かなわないなあ
一応隠してたつもりだったのに、私の気持ちなんて二人にはバレバレみたいだ
こんなにも私のことを考え、心配してくれる人がいる
私は、本当にいい友達を持ったと思う
千歌「わかった。ちゃんと考えてみるね」
あの日からずっと考えないようにしてたこと
私の気持ち、果南ちゃんとの関係
これまで目を背けてきたことに、向き合わなければいけない時が来たのかもしれない
二人が帰った後、私は本棚の中から古いアルバムを取り出した
久しぶりに見たそれに懐かしさを覚えつつ、開いて中を確認する
そこには、赤ちゃんの頃からの私の写真がたくさん貼られていた
これは、私が家族に大切にされて育ってきたんだという証だ
途中から、私の横に果南ちゃんと曜ちゃんが写っている写真が増えて来る
こうしてみると改めて思う、果南ちゃんとはこんなに昔から一緒にいたんだって
もう家族も同然な、私の大切な人
でもその人は、中学以降の写真からパタリと消えた
果南ちゃんと別れて、なんだか少し気まずくなって
曜ちゃんが私達の仲を取り持ってくれるまで、私達はほとんど会うこともなくなった
私が高校に入る直前くらいかな、私達がまた友達のように話せるようになったのは
そう、戻れたのは友達まで
私達が恋人に戻るなんてことは、もうないことだと思っていたけど
今日のダイヤさんの話を聞いて、想像以上にショックを受けてる私がいて
否が応でも私は自分の本当の気持ちに気づかされる
私は、果南ちゃんが好きだ
その気持ちは、昔からずっと変わることはなかった
出来ることなら今だって、果南ちゃんとデートをして、ロマンチックな場所でキスをして、そしていつかその先に進んでいくような、そんな普通の恋人になりたいと思う
でもそれは無理なんだって、あの時の私は思い知った
私達は女の子同士だから
たったそれだけの理由で、周りから後ろ指を指され続けることになる
だから果南ちゃんが男の人と結婚したいというのなら、その方がきっと果南ちゃんも幸せになって、私も応援しなくちゃいけないのに
曜ちゃんが言ってたことを思い出す
それで私は後悔しないのかって
そんなの、後悔するに決まってる
だって苦しいんだよ、辛いんだよ
果南ちゃんが他の誰かと一緒に幸せになってる姿を想像すると、胸の奥が痛くなるんだよ
だけど、もう周りからあんな風に見られるのも怖くって、でも果南ちゃんが他の人と一緒になるのは嫌で
そんなのただのワガママじゃん
最悪だ、私って
本当にどうすればいいんだろう
私は開いていたアルバムを閉じて、自分のベッドに倒れこむ
ふと枕元に置いてあるものが目に入った
それは、私がこの間初めて買ったBL小説
花丸ちゃんにオススメされた、腐女子界隈では有名な名作らしい
私も読み終えたけど、面白くって結構夢中になって読み進めてしまった
なんとなく適当にページをめくってみる
そしてたまたま目に付いたのが、主人公の千佳彦が幼馴染の果奈人に告白するシーン
両親や周りの人間みんなに反対されながら、それでも千佳彦が果奈人への気持ちを貫き通す名シーンだ
すごいなと、私はこのシーンを読みながら思っていた
誰も認めてくれない、祝ってなんてくれない
それなのに、どうして千佳彦はそんなに勇気を持つことが出来るんだろうって
なんて、フィクションの物語にそんなことを思ってもしょうがないかもしれないけどさ
そういえば、花丸ちゃんも言ってたよね
花丸『いいずらか、千歌ちゃん。BLはファンタジーずら。現実とごっちゃにすると痛い目見るずら』
花丸『おらも昔、道行く男の人がみんなホモに見えて、勝手に脳内でカップル認定して応援してたりした時期もあったずら』
花丸『それだけならまだしも、つい暴走してあんなことをしてしまって……』
花丸『千歌ちゃんには、まると同じ目にあってほしくないずら』
そんなことをこれまた遠い目をして言ってたっけ
BLはファンタジー
そりゃそうだよね
現実はBL小説みたいにハッピーエンドばっかりなんて訳にはいかない
私達みたいに、きっとどこかで辛い思いをしている人達だってたくさんいるはずだ
小説を真に受けて、私達も幸せになれるなんて思うのは間違ってるのかもしれない
分かってる、そんなことは分かってるけど
それでも憧れてしまったんだ
私も、この主人公達みたいにハッピーエンドになれたらなって
私がBLにハマったのも、登場人物に自分を重ね合わせて見ていたからなのかもしれない
逆境の中で、どんな酷い目にあったとしても
それでも、勇気を持って恋人との幸せを掴みとる
そんな主人公みたいに私もなりたかったんだ
ねえ、私もなれるのかな
貴方達みたいに、誰にも流されず、好きな人に好きと言えるような、そんな主人公に
難しいかもしれない、大変なことばかりかもしれない
怖い、すっごく怖いけど
それでもやっぱり、私は果南ちゃんが大好きなんだよ
ずっと押し込めてたけど、それが私の本当の気持ちなんだ
私も、果南ちゃんと幸せになりたい
そのためには、千佳彦みたいに立ち向かわなきゃいけないんだ
そうじゃないと、きっと何も変わらないと思うから
だったら、私は
私は勢いよく立ち上がる
でも、実際どうしよう
いくらこうして決意してみても、果南ちゃんがどう思うかは分からない
今更何を言ってるんだって思われるかもしれない
半端な気持ちでは、きっと果南ちゃんには届かない
私は、覚悟を示さないといけないと思う
私の本気を、果南ちゃんに分かってもらいたいから
考えて、そして思いつく
これが正しいかは分からないけど、それでももう私は後には退きたくないから
私はスマホを取り出して、ある人物に電話をかける
千歌「もしもし、善子ちゃん?うん、私。あのね、突然で悪いんだけど、善子ちゃんにお願いがあるんだ。いいかな?」
「5」
それは、突然だった
aqoursのグループラインに、善子ちゃんからのとあるメッセージが書き込まれたのは
善子『感じます。今宵満月が空に登る時、漆黒の力がこの地上に満ちるのを』
果南『?』
花丸『まただてんしがな』
梨子『というか、今日は満月じゃないし』
善子『それにより、魔なる者が降臨し、人々を恐怖に陥れるサバトが開かれるでしょう』
曜『サバトって何?』
花丸『んかいってるず』
善子『私のリトルデーモンの諸君、世界の終焉をその目に焼き付けたくば、今夜19時からのヨハネの放送をチェックしなさい』
花丸『ら』
善子『このヨハネの魔眼を通して、あなた達は新たなる歴史の目撃者となるのです』
ルビィ『善子ちゃんの生放送?見る見るー!』
善子『ヨハネ!』
ダイヤ『興味ありませんわ』
善子『うっさい!いいから見なさい!特に果南!』
果南『え、私?』
鞠莉『面白そうね!それで、どんな内容なの?』
善子『ふっふっふ、それはまだ内緒。でもそうね』
善子『世界に混沌が訪れる、とだけ言っておくわ』
善子ちゃんがそんなラインを送ってきたのが今日の昼ごろのこと
相変わらずの善子ちゃん節で、私には正直何を言ってるのかよく分からなかったけど
とにかく、今日の善子ちゃんの配信を見てほしいってことみたい
しかも私は特にって、なんで?
こう言うのもなんだけど、私と善子ちゃんって特に接点ないっていうか、あんまり絡むことも少ないんだよね
そんな私に、いったい何を見てほしいんだろう
うーん……
鞠莉「果南?かーなーん!何ボーッとしてるの、そろそろ始まるわよ!」
果南「え?ああ、ごめんごめん」
ダイヤ「本当に見るのですか?あんまり気が進まないのですが」
鞠莉「イエース!だって面白そうじゃない!今日は何を見せてくれるのかしらねあの堕天使ちゃんは」
ルビィ「善子ちゃんの生配信、楽しみ!」
花丸「どうせろくでもないことずら」
というわけで、私達は今みんなでダイヤの家に集まっている
鞠莉がみんなで見ようって言い出して、賛成多数で決定した
ダイヤは嫌がっていたけど、それでもなんだかんだ付き合いはいいんだよね
だけど……
曜「梨子ちゃん、千歌ちゃんと連絡ついた?」
梨子「ダメ、スマホの電源を切ってるみたい」
曜「そっか。どうしたんだろ千歌ちゃん」
そう、善子ちゃんを除いてただ1人、千歌だけがこの場にいなかった
そういえばあの時のグループラインでも、千歌だけが話に参加していなかった
いつもなら真っ先に入ってきそうなものなのに、何か用事でもあったんだろうか
少し、心配だな
千歌……
鞠莉「あ、ほら。そろそろ始まるみたい」
19時になり、パソコンの画面が切り替わる
蝋燭に灯った炎が、風に吹かれてゆらゆらと揺れている
そしてその奥から、堕天使衣装に身を包んだ善子ちゃんが現れた
善子「ふっふっふ。ようこそ、私の可愛いリトルデーモン達。今宵もこの堕天使ヨハネが、あなた達に堕天の力を授けましょう」
善子「さて、前回黒の予言書の予言にあった通り、今回はこのヨハネのとびきりの堕天エピソードをあなた達に聞いてもらう……予定だったのですが」
善子「急遽予定を変更し、緊急特別堕天生放送とさせていただきます」
善子「今日これを見ているあなた達はとても運がいい。なにせ天界をも揺るがす大事件を、このヨハネと一緒に見ることが出来るのですから」
善子「これは永久保存版。みなさん録画の準備は出来ましたか?出来たのなら●RECと書き込みなさい」
善子「……分かりました。みなさん準備は万端のようですね」
善子「それでは、特別ゲストを紹介しましょう。今宵ヴァルプルギスの夜、そのサバトの主演!」
善子「私のリトルデーモン1号、その名も!堕天使チカエル!」
そうして善子ちゃんに紹介されて現れたのは
これまた堕天使の姿をした、私のよく知るAqoursのリーダー高海千歌だった
果南「千歌!?」
曜「ホントだ、千歌ちゃんじゃん!」
梨子「何やってるのよ……」
いや本当に何やってるの千歌
そんな変な格好までしちゃってさ
まあ、似合ってるか似合ってないかで言ったら、そういう格好も新鮮で可愛いんだけど
って、だからそんな場合じゃなくて
千歌「善子ちゃん、これもう映ってるの?」
善子「善子言うな!映ってるわよ、画面見れるでしょ」
千歌「あ、本当だ。えー、皆さん初めまして。私はAqoursの高海千歌っていいます」
千歌「あ、Aqoursっていうのは私達がやっているスクールアイドルの名前で、そこの善子ちゃんも一緒に活動しています」
善子「ヨハネ!」
千歌「他にもメンバーがいるんですけど……。え、あ、はい、本物です、はい。か、可愛いってそんな、いやあ」
善子「いちいちコメント拾わなくていいから!早く話しなさい!」
千歌「あ、うん。えー、今日私がここにいるのは、ある人に伝えたいことがあるからです」
千歌「それはとてもプライベートなことなんですけど、出来れば皆さんにも聞いてほしくて、善……ヨハネちゃんにお願いしました」
千歌「少しの時間、私の話を聞いてくれると嬉しいです」
千歌はそこで目を閉じて、自分を落ち着けるように深く深呼吸をした
そして目を開けると、しっかりとカメラの方を見つめ、はっきりとした声で話し始める
千歌「私には、好きな人がいました。小学生から中学1年の時まで、ずっと付き合っていた人が」
その瞬間、流れているコメントが一気にざわつき始めたのが分かった
何が始まるのかと楽しみにしていた感じだったのが、今では困惑の声が画面に広がっている
ダイヤ「な、何を言っているのですかあのおバカは!」
ルビィ「お、お姉ちゃん、これ……」
ダイヤ「ええ、こんなの前代未聞ですわ」
花丸「そ、そんなにまずいずらか?」
ダイヤ「当たり前ですわ。私達はスクールアイドル。いくら学生だからと言って恋愛は御法度。そんなことが知られたら大問題になりますわ」
ルビィ「過去にも恋人がいることがバレて、人気が落ちたスクールアイドルはたくさんいるんだ」
曜「千歌ちゃん、まさか……」
ダイヤ「とにかく、まだ間に合います!今すぐ中断するように善子さんに電話を」
鞠莉「待って!」
ダイヤ「鞠莉さん?」
鞠莉「もう少しだけ、様子を見ましょう」
ダイヤ「そんな悠長なことを言っている場合では!」
鞠莉「お願い、あと少しだけだから。ね、果南?」
果南「えっ?う、うん」
善子ちゃんが私に放送を見るように言った理由が分かった
千歌は、私に何かを伝えようとしているんだ
それがなんなのか、私は最後まで千歌の話を聞きたかった
果南「千歌……」
千歌「その人とは、子供の頃からずっと一緒でした。歳は一つ上なんですけど、大切な友達で、私が泣いたり困ったりしてきた時はいつも助けに来てくれました」
千歌「いつからその人のことが好きだったのか、それは分かりません。一緒にいることが当たり前で、大好きで。その人に告白された時も、私は自然とそれを受け入れました」
千歌が喋るたび、コメントの荒れ具合がどんどん大きくなっていく
「悲報、千歌ちゃん非処女だった」
「なんだよ中古かよ、萎えたわ」
「なんか裏切られた気分」
そんな、下品で勝手な感想が次々と書き込まれていった
私は怒りでどうにかなりそうなのを、拳を強く握りしめて必死に抑える
今、千歌は精一杯話してる
私は、それをちゃんと聞いてあげないといけないんだから
千歌「それからしばらくは特に問題もなく、私とその人は仲良く付き合っていったんですけど」
千歌「だけど私達が大きくなるにつれて、私達の前に厳しい現実が立ちはだかるようになったんです」
昔のことを思い出したのか、辛そうな表情をする千歌
それでも千歌は、覚悟を決めた表情でその続きを口にする
千歌「実はその人は、私の大好きな恋人は。私と同じ女の子だったんです」
その言葉で、コメントの荒れ具合は最高潮に達していた
たくさんのコメントが画面を覆い尽くし、千歌の姿が見えなくなってしまいそうなくらいだ
ダイヤ「鞠莉さん!」
鞠莉「……」
果南「ねえこれ邪魔!コメント消すからね!」
千歌「大人の人は、あまりに仲の良すぎる私たちに不安げな表情を向けました。一部の友達やクラスメイトは、私達の事を気持ち悪い、普通じゃないと罵りました」
千歌「その人は、そんな周りの言うことなんて全然気にしていないようでした。むしろ、悪口を言ってくる人たちから私のことを守ろうとしてくれました」
千歌「だけど弱い私は、どうしても周りの視線に耐えることが出来ませんでした。そして守ってくれていたその人に酷いことを言って、傷つけて、私達の関係は終わりました」
千歌「そうして、私は普通の女の子になりました」
千歌「クラスメイトからのイジメもなくなって、これでよかったんだって、これが普通なんだって、そう自分に言い聞かせて今まで過ごしてきました」
千歌「でも本当は、ずっとずっと後悔してたんです。自分の気持ちを心の奥に隠して、普通なふりをしていただけだったんです」
千歌「私は今日、それを謝りたい。そして、私の本当の気持ちを伝えたい。その人に、果南ちゃんに!」
花丸、ルビィ「ええ!?」
2人が驚いて私を見たが、私は画面から目が離せなかった
千歌が私の名前を呼ぶ
それだけで、私は胸が熱くなるのを感じる
千歌「果南ちゃん。この配信見てくれてる?私の声、ちゃんと届いてる?」
うん、見てる
千歌の声、ちゃんと届いてるよ
千歌「果南ちゃん、あの時はごめん!私、本当はっ!」
そこで、千歌の言葉が止まる
唇を震わせ、目を大きく見開いて
そしてその瞳は、ある一点を見つめていた
果南「千歌?」
ダイヤ「きっと見てしまったんですわ」
ダイヤが、こちらも唇を震わせながら、絞り出すように声を出す
ダイヤ「おそらく、今までは話すのに夢中で気が付いていなかったのです。ですが、とうとうそれが目に入ってしまった。千歌さんがこうなってしまうのも無理ありませんわ」
果南「な、何が?ねえ、なんのこと!?」
ダイヤ「これですわ!」
そういってダイヤは乱暴な手つきでパソコンを操作して
ダイヤ「あなたがさっき消した、このコメントの山のことです!」
動画のボタンをクリックすると、さっきまでなかったコメントが大量に表示され始めた
「気持ち悪い」
私の目に真っ先に飛び込んできたのがそれだった
その他にも、失望したとか引くだとかと千歌を罵倒したり、この状況を面白がって笑っているようなコメントもある
果南「なに、これ……。なんなのこいつら!」
千歌のことなんて何にも知らないくせに、どうしてお前達がそんなことを言えるんだ!
画面の中の千歌を見る
千歌「か、果南ちゃん……。私、本当は……」
千歌は、こんな状況でも必死に言葉を紡ごうとしていた
だけどその声はどんどんと小さくなって、ついに千歌は俯いてしまう
表情は見えないけど、その体は小刻みに震えていて
私は、もう我慢の限界だった
ダイヤ「鞠莉さん。今すぐ配信を止めるよう、善子さんに連絡します。……もう、手遅れかもしれませんが」
鞠莉「……ええ、そうね」
果南「ねえ鞠莉。このコメントしてる人達の住所とか、小原家の力でなんとか割り出せない?」
鞠莉「ホワイ!?何するつもりよ!」
果南「何って?そんなの決まってる。こいつら全員私がぶん殴って」
その時だった
千歌「ああああもう!!!うるさーーーーい!」
千歌が、キレた
千歌「うるさいうるさい!なんなのさっきから好き放題言ってくれてさ!普通じゃない?気持ち悪い?」
千歌「それがどうしたああああ!!!」
突然の千歌の大声に動揺したのか、流れ続けていたコメントが一瞬止まる
それは、私たちも一緒だった
さっきまでの怒りを忘れ、千歌の奇行にその場の全員が目を奪われる
千歌「普通じゃなかったらなんなのさ!そのことで、私があなた達に迷惑かけた!?無関係な人達に、そんなこと言われる筋合いなんてないんだよ!」
千歌「それと!言っとくけどね、普通じゃないのは私だけじゃないから!Aqoursはみんな、大概どこか変な人の集まりなんだよ!」
ダイヤ「ちょっと、千歌さんは何を!?」
千歌「まず曜ちゃん!」
曜「わ、私!?」
千歌「曜ちゃんはすっごいコスチュームフェチで、衣装の話になると止まらないし、正直時々ついていけない!あと少しファザコン入ってるのもどうかと思うよ!」
曜「え、えー!?」
千歌「次、梨子ちゃん!」
梨子「嘘、私も!?」
千歌「梨子ちゃんはねえ、壁クイオタク!あのね、壁クイってなんだー!!もう全然理解出来ない!」
梨子「お、オタクじゃないから!」
千歌「花丸ちゃんは腐女子だし!」
花丸「ずら!?」
千歌「善子ちゃんは中二病堕天使だし!」
善子「ふふ、それは私への最大の賛辞!」
千歌「ルビィちゃんは若干腹黒いとこあるし!」
ルビィ「ぴぎぃ!?」
千歌「鞠莉ちゃんの外人みたいなキャラ付け変だし!」
鞠莉「オーウ、言ってくれるじゃない」
千歌「ダイヤさんはオナニーの声が大きすぎだし!」
ダイヤ「ちょおおおおおお!!?!??!?」
千歌「果南ちゃんはレズ!」
果南「うん」
千歌「みんなみーんな!私の周りは変な人ばっかりで、なんだこいつって思う時もあるけど!」
千歌「でも、でも!それでいいんだよ!普通じゃなくたって、気持ち悪くったって、私はAqoursのみんなのことが大好きだから」
千歌「みんなだって、きっと私のことそう思ってくれてるはずだから!」
鞠莉「……ふふ、アッハッハ。さいっこう!面白いじゃないちかっち!」
ダイヤ「何を笑っているのですか鞠莉さん!ルビィ、今すぐ善子さんに電話しなさい、早く!」
ルビィ「ぴぎぃ!わ、分かった!」
善子「ふっふっふ、それでいいのですチカエル。あなたの内に秘めたる感情を、全て吐き出しなさい!」
善子「っと、誰よこんな時に電話なんて。はいもしもし」
ルビィ「あ、善子ちゃん!?」
善子「あら、その声はリトルデーモンルビィ。どうです?今宵のサバト、楽しんでもらえているかしら」
ルビィ「善子ちゃん、さすがにまずいよぉ。お姉ちゃんもカンカンに怒ってるし。配信止めた方がいいよ!」
善子「何言ってんのよ、今がいいところじゃない。このまま最後までやるに決まってるでしょ」
ダイヤ「ルビィ、貸しなさい。善子さん、自分たちが何をしているのか分かっているのですか!?」
善子「げっ、ダイヤ」
ダイヤ「げっ、とはなんですの。いいから今すぐ配信をやめなさい!」
善子「嫌よ!見てみなさいよこの再生数とコメント数!こんなに動画がバズってるのなんて初めてなんだから!」
ダイヤ「これはバズっているのではなく炎上していると言うのですわ!」
善子「うっさい!とにかく絶対やめないから。千歌の気が済むまではね」
ダイヤ「どうしてそこまで……。あなただって分かるでしょう、このままではどうなるか!」
善子「Aqoursは終わりかもね」
ダイヤ「だったら!」
善子「別にいいじゃない。ラブライブはもう終わったし、あんた達は卒業するし。人気が地に落ちたって、また0から始めればいいのよ」
ダイヤ「本気で言ってますの?」
善子「まあね。それじゃ、もう切るから」
ダイヤ「ちょっと、まだ話はっ!」
善子「ふう。相変わらずダイヤは頭硬いんだから」
千歌「私だってレズだー!それに最近は腐女子にもなりかけてるし!それがどうしたー!」
善子「そう!もっと、もっとです!今こそ普通という殻を破り、本当の自分を解き放つのです!」
善子「……私がこうして堕天使ヨハネでいられるのも、あんたの言葉のおかげなんだから」
千歌『ステージの上で、自分の好きを迷わずに見せることなんだよ』
千歌『お客さんにどう思われるかとか、人気がどうとかじゃない。自分が一番好きな姿を、輝いてる姿を見せることなんだよ』
千歌『だから善子ちゃんは捨てちゃ駄目なんだよ!自分が堕天使を好きな限り!』
善子「自分の言ったこと、忘れるんじゃないわよ。バカ千歌」
善子ちゃんにかけた電話はどうやら無理矢理切られてしまったらしい
画面の中の千歌は相も変わらず、今も思いの丈を世界中の人達に向かって叫び続けている
普通から外れることに怯えていた、あの千歌が
千歌「っていうか、私は果南ちゃんにだって怒ってるんだからね!」
千歌「ねえ、結婚って何!?私そんな話聞いてない!」
千歌「そりゃ果南ちゃんのことフったのは私だし、それで果南ちゃんが他の人を選んだって私に文句なんて言う資格ないのかもしれないけどさ!」
千歌「でも私、嫌だからね!果南ちゃんが結婚するのなんて!呼ばれたって結婚式なんて出席してしてあげないし、子供が出来たって会いになんて行かない!」
千歌「だって、だって!」
千歌「好きだから!果南ちゃんのこと、大好きだから!」
千歌の言葉が、気持ちが、私の心に響いていく
なにさ、私の気持ちも知らないで、自分勝手に色々言ってくれちゃって
そんなの、そんなの聞かされちゃったら
私……
鞠莉「果南!」
果南「鞠莉……」
鞠莉「どうするの?このままちかっちに言われっぱなしにするつもり?」
果南「えっ?」
鞠莉「車、外に用意してあるわよ」
果南「っ!ありがと!」
鞠莉「さあ、みんなも乗って!私たちの大好きなおバカさんに会いに行くわよ!」
「「「「「おー!!!」」」」」
ダイヤ「あ、安全運転で頼みますわよ!」
果南「でも、超特急でね」
鞠莉「オッケー、任せて。それじゃあ、レッツゴー!」
ダイヤ「だから安全にって言って……ピ、ピギャァァァァ!!」
千歌、待っててね
今すぐ、会いに行くから
千歌「好きだから!果南ちゃんのこと、大好きだから!」
ああ、ついに言っちゃった
いつも私の心の中にあったのに、目を背け続けていた気持ち
千歌「本当は、ずっと好きだったんだよ!果南ちゃんと別れた後だって、一瞬だって果南ちゃんのことを忘れたことなんてなかったんだよ!」
私は、全然普通になんてなれていなかった
友達と恋愛話をする時だって、口ではカッコいい人がいいなんて言ってても、頭では果南ちゃんのことを考えていた
千歌「問題がたくさんあることだって分かってる。ダイヤさんにも言われたよ。果南ちゃんの1番の幸せを考えろって」
千歌「確かに果南ちゃんにとって、普通に結婚した方が幸せなのかもしれない。女の私と付き合ったって、大変なことばっかりかもしれない」
千歌「私だって、本当は怖いよ。今も足が震えてる。全国の人の前でこんなカミングアウトして、この先どうなるかを考えたらすごく怖い」
千歌「私が覚悟を決めたって、そんなの周りの人には関係ない。私たちのことを、指をさして笑うかもしれない。馬鹿にするかも。結婚することも、子供を作ることも出来ないし、両親だって悲しませちゃうかもしれない」
千歌「だけどそれ以上に、私は果南ちゃんが他の人と幸せになることの方が嫌なんだよ!」
千歌「私が勝手なことを言ってるのは分かってる、ごめん。だけど、私はもう逃げないから!誰に何を言われても、それでも果南ちゃんとずっと一緒にいたいって思うから!」
千歌「果南ちゃんはどうなの!?果南ちゃんだってレズのくせに男の人と結婚って、それが果南ちゃんの本当の気持ち!?果南ちゃんにとっての幸せなの!?」
千歌「違うでしょ!逃げないでよ!私に何も言わないで、そんな事勝手に決めないでよ!」
千歌「結婚だなんて、そんなありふれた幸せを掴もうとしないでよ!」
千歌「私と一緒に、辛くて大変な現実と立ち向かってよ!」
千歌「BL小説みたいにうまくなんていかなくっても、それでも私たちなりのハッピーエンドを目指そうよ!」
千歌「だから!つまり!」
千歌「私と付き合えー!馬鹿野郎ー!!!」
静かな部屋に、私の荒い呼吸だけが残る
言った、全部言ってやった
途中からなんてもうめちゃくちゃで、全然まとまってないし何を言ったかもはっきり覚えていないけど
でも、私が思ってること、ホントの本音、全部全部吐き出してやった
あーあ、またコメントで何か言われてるかな?でも知らない、もう見ない
どうでもいい、誰に何を言われようが知ったことか
どうだ、これが私だ
普通なんかじゃない、これが本当の高海千歌なんだ
果南「千歌!」
静寂を破り、善子ちゃんの部屋のドアが勢いよく開かれる
果南ちゃん、そしてAqoursのみんながそこにはいた
千歌「果南ちゃん……」
果南「千歌……」
ダイヤ「千歌さん!あなたは本当に何を!」
曜「ダ、ダイヤさん空気読んで!」
鞠莉「はーい、ダイヤは引っ込みましょうねえ」
梨子「善子ちゃん」
善子「堕天使奥義、堕天龍鳳凰縛!」
ダイヤ「ピギャァァァァ!」
花丸「哀れずら」
果南ちゃんが、私の目の前にいる
私の気持ち、聞いてくれたかな
聞いてくれたよね、だからここに来てくれたんだよね
心臓がドキドキとなっている
緊張と興奮、そして不安
他にも言葉に出来ないたくさんの感情が、私の中に溢れて止まらなくって
私は熱い眼差しを向けながら、果南ちゃんからの言葉を待った
果南「千歌ってさ、やっぱり馬鹿でしょ」
そんな果南ちゃんの口からまず飛び出たのは、私への罵倒だった
千歌「は、はあ!?」
果南「後先のことなんて何も考えてないし。なんでこんなことしたの?」
千歌「こ、これは私の決意の表明っていうか……。こうでもしなきゃ私の本気が伝わらないかなって思って」
果南「そんなの私は求めてない。言いたいことがあるなら直接言ってくれるだけでよかったのに」
千歌「うっ……」
厳しい口調で果南ちゃんは言う
そりゃあ、冷静になったらちょっとやりすぎたかも、なんて思わなくもないけど
でもこれでも一応、私なりに考えての行動だったんだよ
だから、そんな全否定するようなこと言わないでよ
果南「どうするの?ネットの配信であんなこと言っちゃって。これから先、全国の人は千歌のことをそういう目で見るんだよ」
千歌「そ、そんなの気にしないし!」
果南「私が気にするの!」
果南ちゃんの大声に、ビクッと肩が竦む
果南ちゃんは怒っていた
そりゃそうか
私は自分のことだけじゃなくて、果南ちゃんのこともレズだなんて暴露しちゃって
怒るのも当然のことだった
それなのに、私は何を一人で勝手に期待していたんだろう
千歌「ご、ごめんなさい……」
やばい、泣きそうだ
こんなことをして、その結果果南ちゃんを怒らせて
私、かっこ悪すぎ
馬鹿みたいだ
千歌「本当にごめん……。果南ちゃんやAqoursのみんなのこともいろいろ言っちゃって……」
果南「はぁ?そんなのどうでもいい」
千歌「えっ?」
果南「私が言ってるのはそんなことじゃない。私は千歌の心配をしてるんだよ」
千歌「私の……?」
果南「だって千歌、中学の時すごい辛そうだったよ。酷いこと言われて、いじめられて、泣きそうなの必死に堪えてたじゃんか。あんな千歌、もう見たくないよ」
果南ちゃんが、とても辛そうな顔をする
果南「ねえ、本当に大丈夫?もし無理してるなら、やっぱり……」
千歌「ううん、無理なんてしてない。ほんとだよ。果南ちゃんと一緒なら、それだけで私は平気だから」
果南「……そっか。なら、いい」
そう言って、果南ちゃんは両手を広げる
果南「おいで、千歌」
千歌「果南ちゃん……!」
私は、迷わず果南ちゃんの胸に飛び込んだ
果南「千歌、あの時はごめん。千歌のことちゃんと守ってあげられなくて」
千歌「違うよ。果南ちゃんは私のことをちゃんと守ってくれた。あれは、私が弱かったのがいけなかったんだよ」
果南「それでもごめん。今度こそ、千歌は私が守るから」
千歌「えっ?それって……」
果南「私も千歌が好き。こんなことやらかして、バカ千歌って怒鳴ってやりたいけど、でも本当はすっごく嬉しかった」
千歌「本当に?嘘じゃないよね?」
果南「本当に」
千歌「じゃあオナニーとどっちが好き?」
果南「え!?うーん……」
千歌「ちょっと!?なんでそこで悩むの!?」
果南「ははは、冗談だってば。そんなの千歌に決まってるよ」
千歌「もー!……だけど、嬉しい。私も、果南ちゃんが好き」
果南「うん」
千歌「でもね、果南ちゃんがさっき言ってたことは違うよ」
果南「えっ?」
千歌「私はもう、果南ちゃんに守られるだけの私じゃない。これからは、どんなに大変なことも二人で乗り越えていくんだよ」
果南「……うん、そうだね。じゃあこれからは、お互いに助け合いながら生きていこうか」
千歌「うん!あ、そういえば果南ちゃん」
果南「ん、何?」
千歌「結婚、しないんだよね?そういうことでいいんだよね?」
果南「ああ、あれ?うん、しない。結婚なんてしないよ」
千歌「果南ちゃん……!」
果南「だって結婚するって話、あれ嘘だから」
…………は?
ダイヤ「はああああああ!?」
私より先に、ダイヤさんが驚きの声をあげる
え、何、どうなってるの?
ダイヤ「果南さん!嘘ってどういうことですの!?あなた、私にお見合い相手を紹介してほしいって言いましたわよね!?」
果南「まあ、うん。言ったんだけどさ。別に本気で結婚するつもりはなかったっていうか、どんな人でも断るつもりだったんだよね」
果南「そもそも、千歌の言う通り私レズだし。男の人と結婚とか、ないない」
千歌「な、なにそれ!?じゃあなんでそんなこと言ったの!?」
果南「いや、それは……」
私が問い詰めると、果南ちゃんは顔を少し赤くして私から目を背ける
果南「結婚するって言ったら、千歌が嫉妬してくれるかなって」
千歌「ええっ!?」
ダイヤ「そんなことのために!?」
果南「そんなことじゃないよ!私にとっては大問題!」
果南ちゃんは、開き直ったかのように力強くそう言った
果南「だって千歌ってば、私が積極的にアピールしてるのになんかイマイチ反応悪いし。卒業する前に違う手をうっておきたいなって思って」
千歌「待ってよ!アピールってなに?私なんかされてた?」
果南「ええ?してたじゃん、下ネタ言ったりとか」
千歌「あれが!?果南ちゃんの頭がおかしくなったとしか思わなかったよ!」
果南「でも鞠莉が、千歌は初心そうだからそういうこと言い続ければ私のこと意識してくれるって」
鞠莉「ちょ、果南!?」
ダイヤ「またあなたですの!?」
鞠莉「いや、ジョークのつもりだったんだけど……。まさか本気にするとは思わないじゃない」
果南「なにそれ!?私結構恥ずかしかったんだけど!」
千歌「でも果南ちゃん、全然恥ずかしくないみたいなこと言ってなかった?」
果南「そんなの嘘に決まってるじゃん。そう家えば千歌も話してくれるかなって思っただけだよ」
果南ちゃんも恥ずかしかったんだ
ごめん果南ちゃん、私は果南ちゃんには羞恥心なんて感情はないんだと思ってたよ
果南「はあ……。まあもういいけどさ。これまで色々あったけど、こうやって千歌と付き合えたわけだし、結果オーライだもんね」
千歌「結果オーライだもんね、じゃなーい!!」
果南「ち、千歌?」
千歌「嘘ってなに!?私がそのことでどれだけ悩んだと思ってんの!?」
果南「だ、だからそれはごめんって」
千歌「果南ちゃんなんてもう知らない!バーカ!」
果南「千歌ー、許してってば。ほら、ハグしよ?」
千歌「しない!」
ダイヤ「はあ、まったく果南さんは。人騒がせにも程かありますわ」
鞠莉「まあまあ。それより、ダイヤはこれでよかったの?果南とちかっちが付き合うこと、反対だったんでしょ?」
ダイヤ「……確かに反対ですが。お二人がそう決めたのなら、それに口を出すようなことはしませんわ」
鞠莉「……ふふ、そうね。この先果南達がハッピーになれるのかどうか。それは、これから2人で決めていくことだわ」
曜「まあ、なんとか丸く収まってよかったね」
梨子「ええ?なんか喧嘩してるけど、ほっといていいの?」
花丸「あんなのじゃれてるだけずら」
善子「そうそう、ほっとけばいいのよ」
ルビィ「……ねえ善子ちゃん。さっきから気になってたんだけど」
善子「だからヨハネ!何よ」
ルビィ「配信、止めなくていいの?今もずっと流れっぱなしだけど」
善子「あっ……」
千歌「絶対許さないから!果南ちゃんとはもう別れる!」
果南「ええ!?さっき大変なことは二人で乗り越えていこうって言ったばっかでしょ」
千歌「もう無理!」
果南「そんなあ……。ちかぁ……」
千歌「ふーんだ!」
「6」
ダイヤ「それで、何かこの世に言い残すことはありまして?」
千歌「はい……」
ダイヤ「はいじゃありませんわ」
後日、私と善子ちゃんはダイヤさんの前で正座をさせられていた
ダイヤ「なにちょっといい感じで終わろうとしてるんですの。あなた達には言いたいことが山ほどありますわ」
果南「まあまあ。もう終わったことだしさ」
ダイヤ「お黙らっしゃい!いいですか千歌さん、善子さん!あなた達のせいで私達がどれだけ迷惑を被ったと思っていますの!?」
善子「なによ、あれくらいのことで」
ダイヤ「ああん!?」
善子「ひっ……」
千歌「はい、返す言葉もございません……」
鞠莉「まあ、実際大変だったわよ。もう毎日いろんな所からのテレフォンが鳴り止まなくって」
ダイヤ「停学三日で済んだことを鞠莉さんに感謝するのですわね」
千歌「はい、ありがとうございます……」
ダイヤ「まあ、今更言っても仕方ありませんが。あの件以来、きっとAqoursの人気も下がってしまったでしょうし」
ルビィ「あの、そのことなんだけど」
花丸「どうかしたずら?」
ルビィ「あれからちょっとネットで調べてみたんだけど、なんか思ったよりも人気は落ちてないみたい」
千歌「本当!?」
ルビィ「うん。もちろんいなくなっちゃったファンも多いんだけど、千歌ちゃんの本気の告白に心打たれたって人も多いみたいで」
梨子「新しいファンも増えたってこと?」
ルビィ「そうみたいです」
千歌「それじゃあ、あれはセーフってことだよね!よっしゃー!」
ダイヤ「全然セーフじゃありませんわ!」
善子「まだなんか文句があるっての?」
ダイヤ「ありますわ!ありまくりですわ!千歌さん、あなた自分が何を言ったか覚えてまして!?」
千歌「えーっと。あの時は熱くなってたから完全には…….」
ダイヤ「なら思い出させてあげますわ!あろうことかあなたは、全国の人が見るネット配信で私のことを、オ、オ……」
曜「オナニーの声が大きいって言ったんだよ」
ダイヤ「いやあああああああああ!!」
ダイヤさんは叫びながらその場に蹲ってしまった
ああ、そう言えばそんなこと言ったかも
ダイヤ「もう外を歩けませんわあああ!」
梨子「お、落ち着いてください」
ダイヤ「というかあなた達も恥ずかしい秘密をバラされたのですよ!?よくそんな平気でいられますわね!?」
曜「まあ、もちろん少しは恥ずかしいけど」
花丸「それでもダイヤさんに比べたら」
梨子「ねぇ?」
ダイヤ「そもそも、なんで千歌さんがそんなことを知っているんですの!?」
千歌「それはルビィちゃんが」
ダイヤ「ルビィィィィイ!」
ルビィ「ぴぎゃ!!」
鞠莉「カームダーン。大丈夫、そんな悲観することでもないわよ」
ダイヤ「鞠莉さん……」
鞠莉「知ってる?あれ以降ダイヤの人気も急上昇してるみたいよ」
ダイヤ「マジですの!?」
善子「そうよ、見てみなさい。こんなにダイヤファンのレスが増えてるのよ」
「オナニーの声大きいとかギャップが最高すぎる」
「ダイヤさんのオナニー声毎日聞けるルビィちゃん羨ましい」
「隣の部屋でダイヤさんのオナニー声を聞きながら俺もオナニーしたい」
ダイヤ「あぁ……」
ルビィ「お姉ちゃんが倒れた!」
梨子「何やってるのよもう!」
曜「あれ、そういえば千歌ちゃんと果南ちゃんは?」
花丸「言われてみればいないずらね」
果南「いいの?黙って抜け出してきちゃって」
千歌「いいのいいの」
果南ちゃんの手を引きながら、私たちは二人で学校の廊下を歩いている
ダイヤさんが騒いでいる隙に、こっそりと部室から抜け出してきてしまった
果南「後でダイヤに怒られても知らないよ」
千歌「その時は果南ちゃんも同罪だもん」
笑って話をしながら、行く当てもなく校内をふらふらと彷徨う
もうすぐなくなってしまうこの学校との思い出を懐かしむように
途中すれ違った人たちが、少しだけ私たちに目を向けた
別に、ただそれだけだ
ひそひそと話す声やクスクスと笑う声が聞こえてきたわけじゃない
ただ、ちらっと少し見られただけ
それでも私は無意識に、繋いだ手に力を込める
そしてそれに応えるように、果南ちゃんも私の手を強く握った
千歌「あれからちょっとゴタゴタしてたから、こうやって二人きりになるのは久しぶりだね」
果南「って言っても、まだ一週間も経ってないけどね」
千歌「むぅ。私の気持ち的には久しぶりなの!」
果南「ははは、ごめんごめん」
私も寂しかったよ、と果南ちゃんは言う
たったそれだけでこんなに嬉しい気持ちになってしまう私はなんて単純なんだろう
まあ、別に単純でもいいや
好きな人と同じ気持ちなんだと分かったら、誰だって嬉しいものだろう
こうやってただ歩いているだけで、手と手が触れ合っているだけで、こんなにも幸せな気持ちになるなんて
知らなかった、ううん、もうずっと長い間忘れていたことだった
失ってしまった時間は帰ってはこないけど、これからその分を取り返すくらい、ずっと一緒にいたいって思う
果南「千歌、ごめん。せっかくまた付き合い始めたのに、すぐに海外だなんて」
千歌「ううん、仕方ないよ。果南ちゃんが決めたことだもん」
果南「出来るだけ急いで戻ってくるからね」
千歌「うん、待ってる。あ、そうだ」
私は果南ちゃんの耳元に口を寄せて、誰にも聞こえないように小声で言う
千歌「その間は、果南ちゃんのことを想ってオナニーするね」
果南「こ、こら!私をからかわないの!」
千歌「なんで照れてるの?変な果南ちゃん」
顔を真っ赤にする果南ちゃんの反応に私は笑った
セクハラ親父の正体は、案外普通の女の子だったんだ
それなのに、私の気を引く為に無理して頑張ってたんだと思うと、この一つ年上のお姉さんのことがすごく可愛く見えてくる
まあ、やってたことはバカだなーって思うけど
果南「そ、それより!千歌、あの後大丈夫だった?」
千歌「ああ、うん。めちゃくちゃ怒られた」
果南「まあ、そりゃそうだよね」
あの後家に帰った私を待っていたのは、これまで見たことも無いような顔で怒るお母さんからの説教だった
話が広がるのは早いもので、すぐに学校から家に電話があったらしい
ホント、あんなに怒られたのはいつぶりだろう
千歌「でね、美渡姉ってば私が怒られてるのを見ながら笑ってるの。酷くない!?」
果南「あはは、美渡姉っぽい」
千歌「もうホント最悪!……でもね」
果南「ん?」
千歌「美渡姉だけだった。果南ちゃんとのこと、反対しないでくれたのは」
果南「……そっか」
お母さんには、予想通り反対された
お父さんは何も言わなかった
ショックだったのは、志満姉にも反対されたことだった
優しい志満姉なら、私の味方になってくれると思ってたのに
果南「ねえ千歌。おばさんも志満姉も、別に千歌の事が嫌いだから反対してるんじゃないんだと思う。それだけは分かってあげな」
千歌「……うん」
分かってる
ちゃんと分かってるよ
お母さんも志満姉も美渡姉だって、私の事を大切に思ってくれてる
だから味方にもなってくれるし、間違ってると思うことは反対してくれる
私が本当に幸せになれる道を真剣に考えてくれている
分かっているから、辛い
果南ちゃんとの事を認めてもらえないことが
そして私を想ってくれる大切な家族の気持ちに応えられないことが、すごく辛いんだ
千歌「果南ちゃんの方はどう?やっぱり反対された?」
果南「うちは全然。そもそも私がレズなの知ってたからね。千歌のこともよく知ってるし、むしろ喜んでるくらいだよ」
千歌「そっか、良かった」
果南「うん。まあ表向きは、だけどね」
千歌「えっ?」
果南「昔ね、私がレズだって知られてない頃、父さんが言ってたことがあるんだ。いつか自分に孫が出来て大きくなったら、一緒に海に潜るのが自分の最後の夢なんだって」
果南ちゃんはそう言って、少し悲しそうな顔をする
果南「ほら、私は一人っ子だからさ。父さんのその夢を叶えてあげることが出来ないから、本当はどう思ってるのかなって考えちゃう時はあるよ」
千歌「……うん」
そのまま少しの間、私たちは無言で歩く
気付いたら、私達は自然と学校の屋上についていた
いつも練習で使っていた、私たちにとって思い出深い場所
私たちはそこの壁を背にして地面に腰を落とした
果南「引き返すなら、多分今が最後だと思う」
果南ちゃんが、私の目を見てそう問いかける
果南「私は大丈夫。だけど千歌がもしやっぱりやめたいって思うなら、私は……」
千歌「やめないよ」
果南ちゃんの問いに、私ははっきりとそう答える
千歌「絶対にやめたりしない。果南ちゃんと付き合うことも、果南ちゃんを好きでいることも、もう二度と」
誰に何を思われたとしても
たとえ私たち以外の全ての人が私たちを否定したとしても
果南が一緒にいてくれるなら、私はそれだけで十分だから
果南「千歌……」
少しの間、私たちは見つめ合う
そしてどちらからともなく、私たちは口付けた
軽く、触れ合わせるだけのキス
久しぶりの果南ちゃんとのそれは、とても幸せで、少し切ない味がした
果南「今度、ちゃんと千歌の家に挨拶に行くよ」
体を寄せ合いながら余韻に浸っていると、果南ちゃんがそう言った
千歌「え?でもそんな今更」
果南「そりゃ千歌の家族とは付き合いも長いし、お互いよく知ってる間柄だけどさ。次は千歌の恋人として、改めてちゃんと挨拶したいんだ」
果南ちゃんの気持ちがとても嬉しかった
お父さんお母さん、親不孝な娘でごめんなさい
それでも私は、やっぱり果南ちゃんと一緒に生きていきたいから
だからいつか、ちゃんと分かってもらえる日がきたらいいなって思う
千歌「果南ちゃん」
果南「んー、なに?」
千歌「好き」
果南「うん、私も千歌が好き」
千歌「ずっと一緒にいようね」
果南「うん、ずっと一緒にいよう」
私達はもう一度キスをする
交わした約束を忘れることのないように
果南「さてと、そろそろ戻ろうか」
千歌「えー、もう?」
果南「ほら、ダイヤからライン来てる」
千歌「げ、ほんとだ」
気付いたら、私のスマホにダイヤさんからの鬼のようなラインが何通も来ていた
私はため息をついて、果南ちゃんと一緒に立ち上がる
千歌「はあ……憂鬱だ」
果南「ほら、文句言わない。私も一緒に怒られるからさ」
そう言って、果南ちゃんは私に向かって手を差し出した
果南「行こ、千歌」
千歌「うん!」
私はその手をしっかりと握る
この先何があったとしても、もう二度とこの手を離さない
どんな大変なことも、二人一緒なら大丈夫
私達は向き合い、そして同時に笑い合う
それじゃまずは手始めに、部室で待つ最初の困難に立ち向かいに行くとしよう
そうして私達は二人並んで、未来に向かって歩き出すのだった
これで終わりです
ありがとうございました
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