マーティ・マクフライ「えっ? ドク、糞を漏らしたのかい?」 (41)

「ドク! 開けてくれ、ドク!」

マーティ・マクフライは焦っていた。
ひょんなことから、タイムスリップをして。
30年前のこの時代へと、迷い込んでしまった。
それに伴って、様々な出来事が彼を襲った。

「頼むよ、ドク! ドアを開けてくれ!」

若かりし日の両親と出会い、父親を追跡して。
父親の代わりに車に轢かれ母親に介抱された。
しかし、そんなことはこの際、どうでもいい。
母親にカルバン・クラインの下着を見られた。
それが藤色だったことすらどうでも良かった。

「開けてくれないと、僕は酷いことになる!」

何度も扉を叩きながら、マーティは懇願する。
今にも泣きそうな声で、開けてくれと叫んだ。
ダウンベストを着ていることもあり、まるで海で遭難して流れ着いた、漂流者のような有様。
しかし、彼が今現在、直面している問題は、大海原を漂うよりも辛く、切実な難題だった。

「頼むから……トイレを貸してくれ!」

一際大きな波が押し寄せる。極めてヘビーだ。
このままでは漏れてしまう。もちろん大の方。
もうダメだとマーティが諦めかけた、その時。

「君は沿岸警備隊の隊員だな?」

ドクター・エメット・ブラウンが扉を開けた。

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「ふぅ……助かったよ、ドク」
「君は私に寄付を求めているな? 他を当たれ」

トイレを借りた後、おかしなことを言われた。
エメット・ブラウン博士は勘違いをしている。
マーティを沿岸警備隊員だと、誤解していた。
こめかみに絆創膏を貼る彼は、科学者であり。
どうやら人の思考を読む装置を開発中らしい。
それが失敗作であることは、言うまでもない。

「僕は未来から来たんだよ、ドク」
「なんと……君に、その意味がわかるか?」

正体を告げると、ドクはわなわなと震えて。

「つまり、この発明は失敗作ということだ!」

開発中の思考を読む装置を、尻から引き抜く。
ドクの尻から生えたそれは、ヘビーだった。
ヘビーなデザインに、呆気に取られていると。

「おやすみ、未来人くん! 良い夢を!」

ドクは納屋みたいな建物の中に引きこもった。
どうやら失敗したことがショックだった様子。
しかしマーティはドクの大発明を知っている。
それに乗って、この時代へとやってきたのだ。

「待ってよ、ドク! 話を聞いてくれよ!」

返事はない。彼は悩み、そして、思い出した。

「その、おでこの傷のこと、知ってるよ!」

タイムスリップ直前に聞いた話題を持ち出す。

「トイレの電球を取り替えようとして、滑って転んだんだ! そして閃いたんだ! 次元転移装置のアイデアを、その時、閃いたんだろう!?」

ドクに聞こえているかは、わからない。
それでも、この時代で頼れるのは彼だけだ。
マーティだけでは、トイレすらままならない。
再び便意に苛まれた際、彼が居なければ困る。
だからマーティは藁にもすがる思いで頼った。

「今、なんと言った……?」

納屋の扉が小さく開き、ドクが顔を覗かせた。
どうやら、興味を惹くことに成功したらしい。
当たり前だ。彼にとっては、今日の出来事だ。
マーティは、ここぞとばかりに、勝負に出た。

「百聞は一見にしかずって、よく言うだろ?」

実際に、タイムマシンを、見せることにした。

「これが、【フハックス・キャパシター】さ」

デロリアンのアクセサリーをONにすると。
タイムマシンの心臓部に、電気が通った。
この装置によって、次元転移が可能となる。

「……な、なんと! 実現するとは……!」

まるで、雷にでも打たれたように震えるドク。
その手には、次元転移装置の設計図があった。
今日の閃きが、形となって、実体化したのだ。
彼は驚愕と歓喜と達成感に満ち溢れた表情で。

「私は今日、トイレの電球を交換しようとして滑って転び、額を便座にしたたかに打ち付け、その衝撃で糞を漏らした際に、見えたのだ!」
「えっ? ドク、糞を漏らしたのかい?」
「ハッキリと見えた! この装置の仕組みが!」

糞を漏らしたことは、知らなかったけれども。

「私はついに、機能する物を発明したのだ!」
「大発明だよ、ドク」
「こうしちゃいられん! 君を未来に帰さねば」

悲願の達成を喜ぶ暇など、彼らにはなかった。

「1.21 クソワット!?」

What? と、思われるかも知れない。
クソワットなどという単位は存在しない。
エメット・ブラウン博士独自の単位である。

「1.21 クソワットだと!?」
「クソワットってどういう意味!?」
「あわわわわわ……!」

デロリアンを見せた後。
場面はドクの自宅へと戻って。
タイムトラベルの仕組みをドクに説明した。
とはいえマーティは素人なので要領を得ない。
よってビデオの録画を用いて解説したのだが。
時間移動に必要な莫大なエネルギーによって。
ドクのやる気は、大いに削がれたらしい。

「そんな電力など夢のまた夢だ!」
「プルトニウムが少しあればいいんだよ!」
「この時代ではそんなものは手に入らん!」

未来だってそうそう入手出来る代物ではない。
テロリストと危ない交渉をして、手に入れた。
結果ドクはテロリストの前で、いや、よそう。
その悲惨な結末の光景は、ひとまず、置いて。
悲嘆に暮れるドクと建設的な議論を模索する。

「なんとかならないのかい?」
「よりにもよって、1.21 クソワットとは……」
「どうにかしてくれないと困るよ!」
「だが、それだけの莫大なエネルギーとなると、もはや落雷くらいしかありえんのだよ」

落雷。その単語に、ピンときた。確認をする。

「落雷を利用すれば、僕は帰れるんだね?」
「しかし、落雷はいつどこで発生するかわからん。残念ながら、我々に打つ手はないのだ」
「それが、わかるとしたら?」

未来の情報が記されたビラを、ドクに見せた。

「これだ!」

即座にドクは理解し、理論を組み立て始めた。

「このビラによると、一週間後、街の時計台で落雷が発生する。そのエネルギーを利用して」

導き出された未来に向かってドクは断言した。

「君を未来に、帰してやる!」
「オーケー、ドク! そうこなくっちゃ!」

帰れるとわかり、マーティは浮かれた調子で。

「一週間、のんびり過去を満喫出来るね!」
「いかん! この部屋から出てはならん!」
「なんでさ?」
「未来に重大な影響を及ぼす恐れがある!」

なにそれ。初耳だ。なんか怖くなってきたぞ。

「私以外に誰かと接触していないだろうな?」
「いや、まあ……両親と、ちょっと」
「なんということだ……家族の写真はあるか?」
「ちょっと待って……あれ? おかしいな」

兄弟で撮ったスナップを見て、異変に気づく。

「兄さんの顔が……糞塗れだ」
「存在が、危うくなっておるのだ」

このままでは、未来は、糞塗れになるらしい。

「学校綺麗になったな! ピッカピカだ!」

翌日マーティとドクはハイスクールを訪れた。
30年前の新築の校舎に、マーティは感動した。
如何にも不審なドクは、それどころではない。

「君の親父さんはどれだ?」
「えっと……あー……たぶん、あれだ」

躊躇いつつ、マーティが指差す向こうには。
『私を蹴って』という張り紙を背中に貼られ。
しこたまに蹴られている、父親の姿があった。

「信じられん」
「同じく」
「よくあれで君が生まれたものだ」
「同じく」

しかし、あんな情けない奴でも父親だ。
マーティはその未来を守るべく、行動した。
父であるジョージ・マクフライに声を掛ける。

「ヘイ、ジョージ」
「あ、君は……」
「今からちょっと時間あるか?」
「な、何の用だい……?」
「君に紹介したい女の子がいるんだよ」

そう言って母親であるロレインの元へ向かう。

「よう、ロレイン」
「カルバン!」
「紹介するよ、親友のジョージだ」
「カルバン、昨日頭を打ったところは平気?」

ジョージを紹介するつもりだったのに。
ロレインは、マーティに釘付けだった。
カルバンとは彼女にとってのマーティだ。
すっかりジョージは蚊帳の外である。
それでも、ジョージは、勇気を出して。

「やあ、ロレイン」
「まだタンコブになってるわ……大丈夫?」
「だ、大丈夫だって!」

イチャつくマーティとロレインを見て。
完全に存在を忘れられたジョージは、悟った。
このヒロインと自分が結ばれる未来はないと。

「ロレイン! 授業に遅れるわよ!」
「あ、ちょっと、待って……」
「早く行かないと怒られるわ!」
「ねぇ、彼って素敵よね?」

女友達に引っ張られて、ロレインは去った。
そしてジョージまで姿を消していると気づく。
一部始終を目撃したドクは、こう結論付けた。

「あれはナイチンゲール症候群だな」
「なんだよ、それ」
「看護婦が患者と恋に落ちるあれだ」
「はあっ!? ど、どうしてそうなったのさ!」
「君は、父親の代わりに車に轢かれ、それを介抱した際に、君の母親は君に恋をしたのだ」
「母さんが実の息子の僕にって……ヘビーだな」
「未来ではこの時代と重さが異なるのかね?」

複雑すぎる現状に、とても、気が重くなった。

「よう! ジョージ!」
「ど、どうして僕を付き纏うんですか!?」

将来、糞塗れになるのは御免だからだ。
マーティは諦めずに、何度もトライした。
しかし、ジョージは、頑なに拒絶する。

「もう僕のことは放っておいてください!」
「そんなこと言わず、ダンスに誘ってみろよ」
「ダンスパーティには出ません!」

現在、試みているのは両親の馴れ初めの再現。
ダンスパーティで、2人は初めてキスをする。
そこでロレインは、生涯を夫に捧げると誓う。
だからこそロレインを誘って貰いたいのだが。

「その日は、テレビでSF劇場があるんです!」
「SF劇場?」
「テレビ番組です! 僕はそれをどうしても観たいので、ダンスパーティには行けません!」

SF好きのジョージは、観たいテレビがあった。
マーティは、彼のその趣味を逆手に取って。
夜中に放射線防護服を着て、ジョージの家に忍びこみ、異星人のふりをして、脅しをかけた。

『我が名は、ダース・ベイダー! バルタン惑星よりやって来た、異星人である! 尻穴を溶かされたくなければ、ロレインをダンスに誘え!』

これが功を奏しジョージは助けを求めてきた。

「マーティ! 助けてくれ!」
「どうしたんだ、ジョージ」
「昨日、異星人がうちにやって来て……」
「オーケーわかった。頭のおかしい奴だと思われたくなかったら、今の話は秘密にしておけ」
「わ、わかったよ」

マーティは言葉巧みにジョージを丸め込み。
ロレインの居る、喫茶店へと向かった。
その際に、口説き文句をレクチャーしてやる。

「ロレイン、これは運命だ。僕たちはお互い、結ばれる定めなんだって、言えばいいのさ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
「なにしてんだ?」
「良い言葉だったから、メモを取ってる」

生真面目すぎるジョージに苦笑しつつ。
乱れた髪を整えてやって、送り出した。
ジョージはカウンターでミルクチョコレートを注文して、それを一口飲んでから、突撃した。

「ロ、ロレイン……これは、ウン命だ」
「は?」
「あ、いや……つまり、定めで……」
「あなた、どこかであったわよね?」
「あ、はい! 僕、ジョージ! ジョージ・マクフライです! それで、僕らは、ウン命で……」

色々間違えつつも上手くいきそうだったのに。

「おい、ジョージ!」

せっかくの頑張りを無に帰す、怒声が響いた。

「お前、もうここには来んなって言ったよな」

いじめっ子、ビフ・タネンの登場だ。
こいつは未来でも、ジョージをいじめている。
ビフのせいで、車が一台、廃車になった。
マーティはそのことに、憤慨していた。
彼女であるジェニファーと湖でデートする筈の予定が、パーになってしまったからである。
今思い出しても腹が立って、足を引っ掛けた。

「どぉあっ!?」

盛大に転んだビフ。彼はすぐに立ち上がって。
こちらを睨み、背筋を伸ばすと、まるで巨人。
まともに戦っては勝ち目はないと、判断して。

「あ、なんだあれ!?」
「えっ?」
「うりゃっ!」
「ぐあっ!?」

注意を逸らしてから、不意打ち。そして逃走。

「待てコラァ!」

追いかけてくるビフ一味を、振り切るために。

「坊や、ちょっと借りるぜ」

子供から、スケボーを借りて、街を疾走した。

「なにあの子!」
「どこの誰なの!?」
「彼は、カルバン・クラインよ!」

マーティへの黄色い声援が其処彼処であがる。
ロレインは得意げに彼が身につけていた藤色の下着のブランド名を言うが、事実誤認である。
マーティは、下着に記名をする習性などない。

「すぐに追いついてやる!」

通りかかった車に掴まって、逃げるマーティ。
愛車のフォードに飛び乗ったビフが迫り来る。
盛大に煽り、マーティを、挟み潰そうとした。

「あらよっと!」
「何ッ!?」

華麗に回避して、フォードに飛び移り。
そのまま座席を縦断して、飛び降りる。
呆気に取られたビフは、前方不注意で。

「うわぁあぁあああああっ!?!!」

思いっきり、ドガッシャーン! と。
前に留まっていたトラックに、突っ込んだ。
その積載物を目にした後の市長が驚愕する。
そこに、満載されていたのは、堆肥だった。

ゴールディ・ウィルソン市長は、決意した。

このヒルバレーを、堆肥塗れにはさせないと。

「今帰ったよ、ドク」

帰宅しあマーティはすこぶる満足していた。
本当に、胸がすく思いだった。ざまあみろ。
あの憎っくきビフにひと泡吹かせてやった。
そのことをドクに報告しようとしたのだけど。

『逃げろマーティ!』

ドクは、ビデオの最後を、繰り返し観ていた。

「……ドク」
「あ、ああ! おかえり、マーティ」

ようやくこちらに気づいて、動揺を隠すドク。

「このビデオという発明は素晴らしいな!」
「あのさ、ドク……」
「何も言うな!」

何度も、その後の話をしようとした。
しかし、ドクは頑なに、それを拒んだ。
未来を知ることは、危険を伴うのだ。
仮に、過去と未来で矛盾が生じた場合。
タイム・パラドックスが発生する。
時空の繋がりが解けて、宇宙が崩壊する。
その可能性を否定出来ない以上、話せない。

「君は未来に帰ることだけを考えろ!」
「……わかったよ」
「では、落雷当日をシミュレートするぞ!」

話を切り上げ、模型を用いて、解説された。

「君はスタート位置につく」

おもちゃの自動車を、デロリアンに見立てて。

「そして私が雷を発生させる」

電極のマイナスをセット。プラスを用意して。

「よし! 車を走らせろ!」

ゼンマイを巻いたおもちゃの車を、スタート。

「落雷発生!」

バチッ! と、電線が短絡し、火花が生じる。

「あら!?」

あら、じゃない。おもちゃの自動車は燃えた。

「なんと!」

燃えたまま、走り、ゴミ箱に引火。大惨事だ。

「なんか、不安になっちゃうなぁ」
「案ずるな! 為せばなる!」

為した結果、黒こげになんてなりたくはない。

「ん?」

その時、ノックの音が響き、ドクが見に行く。

「君のお袋さんだ!」
「ママが!? どうして!?」
「後をつけて来たんだろう!」
「ワオ……ヘビーだな」
「いいから早くタイムマシンを隠せ!」

慌てて、タイムマシンを隠すのと、同時に。

「ハイ……カルバン」
「ママ……いや、ロレイン! いらっしゃい!」

母親であるロレインは、モジモジしながら。

「突然ごめんなさい。実は、頼みがあって」
「僕に頼み? なんだい?」
「ダンスパーティに誘って欲しいの」

予想外だ。唖然としてドクと顔を見合わせる。

「えっと……ジョージに誘われなかったの?」
「ジョージって、どなた?」
「ジョージ・マクフライだよ!」
「ああ、彼はキュートだけど……やっぱり、男は強くないと。大事な人を守る為に。違う?」

ロレインのその発言で今後の方針が決まった。

「やっぱり、わからないな」
「わからないって、何がさ?」
「彼女は君と行きたがっているんだろう?」

次の日、マーティはジョージの家に向かった。
庭で洗濯物を干していた彼を焚きつけるべく。
あることないことを父親に吹き込んだ。

「彼女はジョージと行きたがってるんだよ!」
「ほんとに?」
「ああ! 自分ではまだ気づいてないだけさ!」

意味不明だ。自分の発言がおかしいとは思う。
しかし、2人には結婚して貰わないと困る。
じゃないと、未来は糞に塗れてしまうから。

「さあ、計画をおさらいしよう!」
「あ、ああ、わかったよ」
「ダンスパーティ当日、僕はロレインを車に乗せて現れる。その時、君はどこに居る?」
「駐車場で君が来るのを待つ」
「そうだ。しばらくすると、彼女が暴れだす」
「どうして暴れるんだい?」
「男がいきなり尻を出したらパニクるだろ?」
「ああ……なるほど。つまり、君は……」
「ジョージ! これはお芝居だ! 気にするな!」

マーティとて、母親の前で尻を出したくない。
しかし全ては未来の為。その身を犠牲にする。
その決意を汲み取り、ジョージは、納得した。

「君は車に近づき、ドアを開けて、怒鳴る!」

一番大切な場面なのに、ジョージは上の空だ。

「ジョージ、君の台詞だよ」
「あ、ああ……お、おい! そこの、汚い尻をとっとと仕舞いやがれ、この変態野郎っ!!」
「そこまで言えとは言ってない」
「あ、ごめん。もっと上品に言おうか?」
「いや、いいさ。それでいこう」

少し言い過ぎなくらいが彼には丁度良い筈だ。

「それで僕に腹パンしてめでたしめでたしさ」
「君は簡単そうに言うけど、僕には難しいよ」
「大丈夫。いいか、ジョージ、よく聞け」

ドクの言葉を借りて、ジョージに諭した。

「為せばなる」
「どういう意味だい?」
「やる気になれば、なんだって出来るのさ」

若かりし父親には、夢があったらしい。
SF小説を書いて、作家になること。
息子であるマーティにも、夢がある。
ミュージシャンとして、ビッグになること。

しかし、才能がないと言われるのは、怖い。

似た者親子は、共に同じ弱さを抱えていた。

「拝啓、エメット・ブラウン様……」

ダンスパーティ当日。落雷の予定日の夜。
マーティはドクへ宛てた手紙を認めていた。
内容は、彼の未来に関する、警告である。

「あなたは、テロリストに取り囲まれ……」

あの日の記憶が蘇り、震えながら結末を書く。

「銃口を向けられた恐怖で、漏らすのです」

嫌な思い出だ。あんなドクは見たくなかった。

「その未来を回避する為に、あらゆる手段を講じて、脱糞に備えてください。マーティより」

これでよし。やるべきことは終わった。
封筒には30年後に開封するよう注意書きした。
あとは、無事に、未来へ戻るだけである。

「準備出来たよ、ドク」
「そうか……君が居なくなると寂しくなるな」

柄にもなく、ドクは別れを寂しいと表現した。

「30年後にまた会えるじゃないか」
「君には、大切なことを教えて貰った」
「たとえば?」
「諦めないことの大切さだ」

その言葉は、マーティの胸に深く染み渡った。

「私はこれから30年、ひたすら研究を続ける」
「……うん」
「そして、それは無駄ではないことを知った」
「うん……そうだね」
「それを教えてくれた君が去るのは、寂しい」

独りで30年間、研究し続けるドクは、孤独だ。
その間、一切、人から認められることはない。
奇人変人と蔑まれ、家や土地、私財を売って。
あらゆるものを犠牲に、タイムマシンを作る。

それを想像すると涙が出てきて、抱きしめた。

「元気でね……ドク」
「ああ、未来で会おう」
「糞塗れになってなければね」
「案ずるな! さあ、ダンスパーティの時間だ」

抱擁を解く間際、手紙をドクの上着に入れた。

「どうしたの、急にソワソワして」

ドクから借りたロールスロイスを運転して。
マーティは、ハイスクールの駐車場に到着。
助手席に座るロレインを横目でチラ見する。
挙動不審な彼を訝しむ彼女に、説明をした。

「あのさ、ロレイン」
「なに?」
「どうしても、やるべきことがあるんだけど」
「やるべきこと?」
「たとえば、君の目の前で、尻を出す、とか」

実の母親に何を言っているんだろうね、僕は。
マーティは、顔から火が出そうだった。
そんな彼の羞恥心を見抜いたロレインは笑い。

「初めてのデートでお尻を出すつもり?」
「や、やっぱり、おかしいと思うかい?」
「いいえ。心配せずに、お尻を見せて!」
「えっ? ああっ!? ちょっと待って!」

半ば強引に、マーティは、尻をひん剥かれた。

「……あら、変ね」
「ど、どうしたんだい?」
「あなたのお尻を見てると、弟のおしめを取り替えている時のことを思い出しちゃって……」
「いや、それは当然だよ」

やはり、ロレインは母親なのだ。
血の繋がりは、理屈ではないのだ。
ともあれ、これで大義名分は出来た。

ドアが開き、ジョージが現れた、と思いきや。

「てめぇ、こんなところに居やがったのか」

現れたのはいじめっ子のビフ・タネンだった。

「この前の落とし前をつけてやる!」
「ぐあっ!?」

車から引きずり降ろされ、腹を殴られた。

「これは車の修理代の分だ!」
「ぐへっ!?」

堆肥塗れの車の修理代は、高かったらしい。

「なんだ、そのへっぴり腰は」
「うぐっ……!」
「この、腰抜け野郎!」
「ッ!?」

腰抜け野郎とは、英訳すると、チキン野郎。

鳥類は、頭と尻で身体のバランスを取る。
だから、常に腰が引けている状態になる。
みっともない姿を連想させるその表現は。

マーティにとって、最大の禁句だ。許せない。

「誰にも、腰抜けなんて……!」
「てめぇら、そいつをさっさと片付けろ」
「へい!」
「あっ! ちょ、待っ……離せっ!?」

否定を遮られて、マーティは手下に攫われた。

「へへっ……これで邪魔者は消えたな」
「キャアッ!?」
「おおっと! 逃げんなよ、楽しもうぜ!」
「だ、誰か! 誰か助けて!」

マーティはビフの手下に連れ去られ。
バンドマンの車のトランクに監禁された。
取り残されたロレインにビフの魔の手が迫る。

「あの車だな……よし!」

そこに現れたのは、今度こそジョージだった。
彼はうっかり遅刻して、遅れてやってきた。
打ち合わせ通り、車のドアを開き、怒鳴った。

「おいっ! そこの! 汚い尻をとっとと仕舞いやがれ、この変態野郎っ!!って……あれ?」
「ジョージ……てめぇ、車を間違えてんぞ」
「ひぇっ」

乗っていたのは、何故かビフ。びっくりした。

「回れ右して、さっさと失せやがれ」
「ジョージ! 助けて!」
「うるせえ! 黙ってろ!」

ロレインが助けを求めてきた。見過ごせない。

「か、彼女を離してやれ」
「あ? てめぇには関係ないだろ」
「いいや、関係ある。彼女を解放しろ」

為せばなる。ジョージはその言葉に、従った。

「ジョージ……後悔しても知らねぇぞ?」

車から降りて来たビフを、ジョージは殴った。

「えいっ!」
「遅えっ!」
「んあっ!」

難なく拳を受け止められ、関節を決められた。

「もしもし、頭の中はお留守ですか~?」
「あがっ!?」
「ビフ、やめて! 腕が折れちゃうっ!!」
「うるせえって、言ってんだろうがぁ!!」
「キャッ!」

ビフに押され尻餅をつくロレイン。悪は笑う。

「うぇっへっへっへっへっへっへっへっ!」

その邪悪な笑い声が耳障りで、頭に血が上り。

「彼女に……酷いことを、するなっ!」
「ぐぺっ!?」

ジョージの右ストレートがビフの尻穴に炸裂。
あまりの激痛に、白目を剥いて気絶するビフ。
ジョージは自らの力で悪を倒し未来を掴んだ。

「はぁ……はぁ……! 君、大丈夫……?」

尻穴にめり込んだ右手を、彼女に差し伸べる。
ロレインはその手を取り、互いに見つめ合う。
ジョージがエスコートする形で会場へ向かう。

「よっしゃあ!」

トランクから解放されたマーティは。
一部始終を目撃して、ガッツポーズ。
これで、男らしさを見せることが出来た。
あとはダンスをして、キスするだけなのだが。

「早く演奏を再開してくれよ!」
「無理だって。こいつの手を見ろ。大怪我だ」

バンドマンのトランクに閉じ込められた際。
運悪く、彼らの車のキーも閉じ込められた。
ドライバーを使いなんとかこじ開けた結果。

ギタリストが、手に大怪我をしてしまった。

「それじゃあ、困るんだよ!」
「そんなことを言われても無理だ」
「演奏がなければダンスが出来ない! ダンスが出来なければキスもしない! キスしなければ僕の未来は糞塗れになる! だから、頼むよ!」
「諦めろ、坊や。無理なものは無理なんだ」
「そんな……」

万事休す。絶望するマーティにバンドマンが。

「ギターを弾ける奴が居れば話は別だけどな」

なんとも簡単な、解決策を、提案してくれた。

「それでは、皆様。どうぞお楽しみください」

しっとりとした演奏が始まり。
ダンスパーティは再開された。
ギタリストの代わりはマーティが務めた。
しかし、彼に残された時間は少ない。

「ジョージ……頼む」

だんだん、マーティから異臭が漂い始めた。
家族写真に、糞塗れとなる自分の姿が写る。
どうして、何故、糞塗れになってしまうのか。
ドク曰く、両親がキスをしていない未来では。
新生児の代わりに、大便が、産まれるらしい。
キスをすれば、元気な赤ん坊が誕生するのだ。

だからこそ、ジョージには、頑張って欲しい。

「頼むから、勇気を出してくれ……ジョージ」

もはや、立って居られない。大便が染み出す。

「おい、坊や。大丈夫か?」
「もう、限界だ……」

ロレインが他の男に奪われた。もう、ダメだ。

「ジョージ!」

ロレインがジョージを呼ぶ。僕も父親を呼ぶ。

「ジョージ……」

意識が遠のく。
マーティの存在が大便に置き換わる。
その、間際。

「失礼」

ジョージがロレインを取り戻し、キスをした。

「よくやった、ジョージ!」

存在を取り戻し、九死に一生を得た。奇跡だ。

「よくやった、坊や!」
「えっ?」
「良い演奏だった! もう一曲やろう!」
「えっ? えっ?」

あとは未来に帰るだけと、思いきや。
思いがけないアンコールが待っていた。
マーティの夢は、ミュージシャン。
ハイスクールのステージは、魅力的だった。

「えっと……じゃあ、これは古いんだけど」

往年の名曲を演奏しようとして、付け足す。

「僕のところじゃ古いんだけど……まあいいや」

西暦何年にリリースされたか、わからない。
たぶん、この時代にとっては、最新だろう。
そう思い、まだ世に出ていない曲を演奏した。

「ジョニー・B.グッド!」

ロックンロールの始まり。最古のロックだ。
それは、未来人によって、もたらされた。
たまたま、怪我をしたギタリストの従兄弟が。
受話器越しにその演奏を聴いて、着想を得た。

そんな風に、歴史は勝手に、修正された。

「すごく個性的な演奏だったわ、マーティ」
「たぶん、君らの子供にはウケると思うよ」

演奏の後、ロレインはドン引きしていた。
マーティは、ほんの少しだけ、やりすぎた。
いくらなんでも背面奏法は、早すぎたのだ。
気を取り直して、ジョージが感謝を述べた。

「良い忠告をありがとう、マーティ」
「気にしなくていいさ、ジョージ」

為せばなる。それは互いのための言葉だった。

「帰りはジョージが送ってくれるって……」
「そうか、それは良かった!」
「ありがとう、マーティ」

ロレインからも感謝され、照れ隠しに、彼は。

「ああ、そうだ。もしも君たちの間に子供が産まれたとして、その子がうっかり居間の絨毯に火をつけたとしても、あんまり叱るなよ?」
「ああ、わかったよ」

自分の不始末を叱らないように頼んでおいた。

「それじゃあ、また」
「近いうちにまた会えるかしら?」
「それは、約束するよ」

再会を確約してから、両親に別れを告げた。

「おまたせ、ドク!」
「マーティ、遅刻だぞ!」
「すぐにスタート地点に向かうよ!」

盛大に遅刻したマーティはドクに叱られて。
未来の服に着替えてデロリアンに乗り込み。
急いで、スタート地点へと、車を走らせた。

「まったく……おや?」

時間にルーズなマーティに、嘆息しながら。
ドクは落雷に備えて、ケーブルをチェック。
すると、端子部分が気になり、外してみた。

「なんと太いプラグだ……ゴクリ」

立派なプラグに劣情を抱いてしまった。
彼は科学者なので、仕方ないことだった。
プラグに欲情することなど、日常茶飯事。
まだ5分以上、時間的猶予はある。
手早く済ませれば、充分間に合うだろう。

「これは……たまらんな」

風が強くなってきた。嵐がやってくる。
乱気流によって、上空の暗雲は帯電しており。
今にも落雷しそうなスリルを、尻で味わった。

「ドク、素直に手紙を読んでくれるかな?」

スタート位置について、時を待つマーティ。
不安なのはドクが忠告を受け入れるかどうか。
生粋の科学者であるエメット・ブラウン博士。
彼は未来を変えることを決断するだろうか。

「そうだ! ちょっと早めに時間を設定しよう」

なにせ、タイムマシンがある。
未来に戻って、説得する猶予を設けよう。
そう考えて、到着時刻を変更していると。

「あれ?」

突然、デロリアンが、エンストした。

「嘘だろ……? 冗談はやめてくれ」

セルモーターの虚しい音だけが響き渡った。
マーティのこめかみに冷や汗が流れる。
見ての通り、彼はとても、焦っていた。
しかし、外見だけではわからないこともある。

「こんな時に、お腹が痛くなるなんて……!」

ぐりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ~! と。

マーティの腹から、嘆きの音が、響き渡った。

「ふぅ……素晴らしいエクスタシーだった」

一方その頃、ドクは賢者タイムの真っ最中。
極太のプラグを尻から引き抜いて、満足げ。
落雷まであと3分だが、慌てる必要はない。

「さて、あとは元通りに繋ぎ直せば……ん?」

プラグのオスをメスに繋ごうとして、気づく。

「あら?」

あら、ではない。わかりきっていたことだ。
ドクが散々弄んだプラグのオスは、糞塗れ。
このままでは、通電に支障が出る恐れがある。

「なんたることだ……この私としたことが!」

これが、エメット・ブラウン博士の欠点だ。
肝心なところで、いつもうっかりしてしまう。
そもそも、うっかり、帰りの分のプルトニウムをデロリアンに積むのを忘れていなければ、マーティの時間旅行に問題はなかったのである。

「あと2分……時間がないっ!?」

今回もまた、うっかり窮地に陥ってしまった。

「かかれ、かかれ……かかってくれよっ!」

同時刻、マーティは何度もセルを回した。
しかし、デロリアンの原動機は沈黙したまま。
これだからアメ車は信憑性に欠けるのだ。

ジリリリリリリリリンッ!!!!

「っ!?」

スタートの合図を告げるベルが鳴り響いた。
もはや一刻の猶予もない。走り出さないと。
このままでは、過去に取り残されてしまう。
そして、車内で彼は糞塗れとなってしまう。

「どうすればいいんだ……ん? これは……?」

助手席に何やら置いてある。ドクの発明品だ。

「お土産にしては、センスがなさすぎるよ」

それは、ドクが発明した、思考を読む装置。
ヘビーなデザインをしている尻専用の機械。
もちろん、失敗作だ。しかし、改良してある。
装置からケーブルが伸びて、車に接続済み。

「わかったよ、ドク……為せばなる、だろ?」

どのみち、このままではどうしようもない。
マーティはそう判断して、尻に挿れてみた。
その瞬間、デロリアンが、息を吹き返した。
同時にクソワットの意味を完全に理解した。

「フハッ!」

愉悦を漏らし、思いっきりアクセルを踏んだ。

「何か、紙のようなものは……おや?」

マーティが発進した、その時。
糞を拭き取るべく、ドクはそれを見つけた。
いつの間にか上着に入っていた一通の手紙。
差出人の名前を確認することなく、破いた。

「よし! これで、すぐに綺麗にしてやるぞ!」

よく手で揉んでから、プラグを拭き拭き。
金属光沢が出るまで、丹念に磨いた。
手紙は糞塗れになってしまったが、仕方ない。

「これで、実験の準備は、全て整った!」

バリバリッ……ドドンッ!

整ったと同時に、時計台に落雷が発生して。

「どぉあっ!?」

ケーブルに通電した衝撃で吹っ飛ぶドク。
そして、通りを駆け抜けるデロリアン。
時空を越える衝撃波の後に残されたのは。

時を駆け抜けた証である、炎上するタイヤ痕。

「ドクッ!?」

場面は、ほんの僅か、時を遡る。
落雷が発生する直前、マーティは見た。
懸命にプラグを繋ぎ直すドク。その彼の手に。
無残にも破かれ、糞塗れになった、手紙が。

「なんで破いた上に糞塗れにしてるんだ!?」

あれではもはや、読むことは叶わない。
憤りつつも、マーティはわかっていた。
エメット・ブラウン博士の選択は、正しい。
万が一にも、矛盾を生じさせない為に。
自らの身を犠牲にして、宇宙を守ったのだ。

「だったら僕が絶対にドクを救ってみせる!」

到着時刻を早めに設定しておいて良かった。
未来に戻ったら、とりあえず、トイレをして。
ドクが、糞塗れになる前に、助けに行こう。

「飛べよぉぉおおおおおぉおおおッ!!!!」

時間通りに、落雷が発生した。
フロントガラスで絶縁破壊が発生する。
青白い電流が視界を覆い尽くして。

マーティは腹に便意を抱えたまま時を駆けた。

それはまさに、『時をかける便意』である。

「ふぅ……すっきりした」

未来に戻ったマーティは爽快感に浸っていた。
無事、タイムスリップを終えてから、すぐに。
デロリアンと共にダイナミック入店した店で。
うんちを出して、すっきりすることが出来た。

「まだ時間には余裕あるけど早めに向かおう」

到着時間を早めていた甲斐があった。
うんちをしても、時間はたっぷり残っている。
のんびりドライブしても、問題ないだろう。

「あれ?」

そう思っていた矢先、再び、エンストした。
本当に、これだから、アメ車は困る。
悪態を吐きながら、セルを回していると。

「あの車は……もしかして!」

通りかかったバンは、間違いなく。
テロリストが乗っていた、車だった。
またしても、一刻の猶予もなくなって。
今度は尻に装置をぶち込む暇すらなかった。

「ドク! 今行くから! 無事で居てくれっ!」

マーティは車を捨て、自分の足で走り出した。
そして、ようやくたどり着いた先で、彼は。
再び、ドクの結末を、目の当たりにする。

「やめろぉぉおおおおっ!!!!」

深夜の駐車場に響き渡る、悲痛な叫び。
それは間違いなく、自分のものであり。
全てが終わったことを、意味していた。

「ガキを追えっ!」

テロリストがマーティを追いかける。
そのまま、デロリアンは加速して。
30年前の過去へと、飛び去った。

「ドク!」

マーティは仰向けに倒れたドクに駆け寄る。
テロリストは屋台に突っ込んだので問題ない。
死んだように動かないドクをうつ伏せにする。

「ああっ……ドクッ!?」

漂う臭いで、彼が糞を漏らしたことを悟った。

「間に合わなかった……うぅっ……あれ?」

悔し泣きしながら、気づく。尻が綺麗だった。

「ドク、もしかして……?」
「色々考えたが……オムツを穿くことにしたよ」

訝しむと、照れ臭そうに、ドクは白状した。
彼の手には、糞塗れの手紙が握られていた。
かろうじて『脱糞』の2文字が読み取れた。
それを読んで、オムツを穿いたのだろう。
何が宇宙の危機だ。それでも、ほっとした。
オムツを穿いてもドクは糞を漏らしたのだ。
それならタイム・パラドックスは生じない。

ドクの尊厳と共に、宇宙は救われたのだった。

「パパ……ママ」
「あら寝坊助さん、おはよう」
「マーティ、寝る時はちゃんと着替えなさい」

翌朝、起床したマーティは、両親と遭遇した。

「何が始まるの……?」
「今、終わったところよ。ねぇ、あなた?」
「ああ、母さんの尻穴は今でも最高だ」
「もう、子供の前でやめてよ」

トイレから2人揃って出てきた両親。
信じられないくらい、イチャついている。
トイレの中で一体何をしていたのか。
それを問いただす暇なく、ビフが来訪した。

「マクフライさん、お届けものですよ!」
「ありがとう、ビフ」

やけに腰の低いビフが、小包を父親に届けた。

「これはお前へのプレゼントだ」
「僕に?」
「ああ、包みを開けてみなさい」

そう促されて、受け取った包みを開封すると。

「これって、もしかして……?」
「いつも言ってるだろう? 為せばなる、と」

その中には、SF小説が入っていた。
著者は、ジョージ・マクフライ。
彼は、若かりし頃の夢を、叶えたのだ。

「ああ、マーティ。これは車のキーです」

感動も束の間、ビフから鍵を手渡され、困惑。

「車のキー?」
「今夜のデートに備えて、ワックスも完璧」

胡散臭い笑顔を浮かべるビフを不審に思って。
何を企んでいるのか確認する為に外に出ると。
家の前に停まっていたトラックの中に新車が。

「ふぉおおおっ!?」

マーティは感激していた。
それは、彼が欲しかった四輪駆動車。
しかも、トヨタのハイラックスである。
両親がサプライズで買ってくれたらしい。

「ドライブでもどう?」
「ああっ……ジェニファー! 会いたかった!」

ふらりと現れたのは彼女のジェニファーだ。
一週間ぶりに会う恋人に駆け寄るマーティ。
ジェニファーは、そんな彼を見て首を傾げ。

「どうしたの? 一週間も会わなかった顔して」
「まさに、その通りだよ!」
「ふふっ……変なの」
「もう、何もかも、最高っ!」

とにかく、再会を祝ってキスをしようとして。

「マーティ! 大変だ! 一緒に来てくれ!」
「ドクッ!? 突然どうしたのさ!?」
「未来へ戻る!」

イかれた科学者に拉致され、未来へ向かった。

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

場面は再び、落雷が発生した直後へと戻る。
人気のない通りに、ドクの哄笑が響き渡る。
実験は成功して、マーティは未来へ戻った。
一抹の寂しさはあるけれど実に愉快だった。
ひとしきり悦に浸り、撤収しようとしたら。

「ドク! ドクッ!」
「うひゃあっ!?」
「僕だよ! マーティだよ!」

振り返ると、何故かマーティが、そこに居た。

「そんな馬鹿な! 君はさっき未来に……」
「未来から戻って来たんだよ!」

せっかくあれだけ苦労して未来へ送ったのに。
マーティは、再び過去に、戻って来たらしい。
その間の紆余曲折は、ドクには知る由もない。

「なんで……? どうして……あっ」

困惑したドクは、意識を手放し、脱糞した。

「なに漏らしてんのさ!? ほんと困ったなぁ」

未来に戻っても過去に戻っても、結果は同じ。
エメット・ブラウン博士は脱糞するウン命だ。
マーティは、呆れながらも、尻を拭いてやる。

彼らを待ち受ける次の舞台は西部開拓時代だ。


TO BE CONTINUED.


【フハック・トゥ・ザ・フューチャー】


FIN

なにぶん、記憶のみを頼りに書き上げた作品なので、細かな勘違いや、解釈の違いは随所に見受けられるかと思いますが、時代を越えても色褪せぬ、映画史に残る名作であるBTTFの雰囲気を、少しでも感じて頂けたら、幸いです。
最後となりましたが、この作品がBTTFを観直すきっかけとなってくれればと願っております。

ご読了、ありがとうございました!

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