【艦これ】艦娘落語「手紙ずい筆(平の加賀)」 (13)

黒潮「黒潮や、どうもよろしゅう」

黒潮「今回谷風はお休みで、関西の落語『上方落語』から一席弁じさしてもらいます」

黒潮「え? 関西弁が特徴の軽空母の方が適役とちゃうかって?」

黒潮「いやいやあんな、あの人ああ見えてメイドイン横須賀・リブイン広島で大阪にはかすりもしてへんねんで」

黒潮「なんなら近畿圏の立地そこまでよう知らんこともあるからな」


時津風「そういえばさ、甲子園って大阪にあるんじゃないらしいよ」

龍驤「なんやそんなんも知らんのかいな、常識や常識」

涼風「えー? じゃあどこにあんのさー?」

龍驤「そらアレやん、大阪よりもっと重要な所にあるんが自然やろ?」

龍驤「まあ、ほら、えー……舞鶴や」

熊野「……あ゙?」

龍驤「ヒッ」


黒潮「まあ、言葉は自由にしたかて、知ったかぶりは大概にせんとその内痛い目見るっちゅう話で」


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黒潮「さて、ある鎮守府の五航戦瑞鶴はんと一航戦加賀はん、この二人はまあ普段から下らんことで喧嘩が絶えへん」

黒潮「やれ自分の飯まで食われただの、やれ長風呂が過ぎるだの、やれ先輩風を吹かすな、やれ後輩の癖に生意気ぬかすな……」

黒潮「そうは言うてもやっぱり他にはわからん信頼関係があるんやろな、困ったことがあった時に瑞鶴が最後に頼るんは加賀はんなわけや」


瑞鶴「加賀さん、加賀さん! まだいるんでしょ!」

加賀「全く騒々しいわね、少しは落ち着いて行動できないのかしら」

瑞鶴「それはいいから、これ見てよ」

加賀「……これは、ひょっとすると手紙のようね」

瑞鶴「そんなのは見ればわかるわよ、どこから来た手紙かわからなくて困ってるの」

加賀「どこから……おそらく郵便局でしょうね」

瑞鶴「そうじゃなくて、誰が出した手紙か聞いてるんだってば」

加賀「驚いたわ、あなた文字が読めなかったのね」

瑞鶴「読めるわよ!……日本語なら」


黒潮「話によると瑞鶴はん、届いた手紙が外国語やったさかい全く読めんで、途方に暮れて加賀はんに相談しに来たんやと」


瑞鶴「加賀さんはうちの艦隊でも一番物知りだって皆言ってるし、頼るのは悔しいけど読んでもらおうと思って」

加賀「まあ、他でもない後輩の頼みですもの、読んであげましょう」

加賀「……」

加賀「……なるほど」

加賀「……」

加賀「読んだわ」

瑞鶴「いやいやいや、勝手に納得されても。誰から来た手紙か教えてもらわないと」

加賀「あのね五航戦。これから先いつも私が助けてあげられるとは限らないんだから、全部頼り切りじゃ却ってあなたの為にならないわ」

加賀「まずは頭を使いなさい。外国語の手紙を出す人に心当たりはないかしら?」

瑞鶴「うーん……ああ、そういえば、コマちゃんはフランス語しか書けないって言ってたかも」

加賀「……コマちゃん?」


黒潮「なんでも水上機母艦のコマンダン・テスト、名前が長いと覚えるんが難儀やろと皆には『コマちゃん』と呼んでええと言うとるようで」


加賀「私にはそんなこと言ってくれなかった……」

瑞鶴「それはいいから、どうなの?」

加賀「……ええ、そうね。確かに書いてあるわ、『五航戦瑞鶴へ、コマちゃんより』」

瑞鶴「自分のこと手紙で『コマちゃん』って言ってるの? 私は呼び捨てで?」

加賀「フランスではそういう文化なのよ、気にしないであげましょう」

瑞鶴「……それで、要件はなんて?」

加賀「まあ待ちなさい……これは驚きね、一面文章がびっしり、しかもフランス語」

瑞鶴「手紙なんだから文章しか書いてないのは当たり前でしょ、いいから中身を読んでよ」

加賀「『マルキューサンマル。おはようございます!』『現在当鎮守府では、次回大規模作戦に備え戦力増強の準備を――』……どっちの方がいいかしら」

瑞鶴「どっちって、書いてある通りに読んでもらえればそれでいいわよ」

加賀「だったら、前の方で行きましょうか」

瑞鶴「だったら、って……」

加賀「『しばらくご無沙汰しておりますが、そちらはいかがお過ごしでしょうか――』」

瑞鶴「……おかしいわね、コマちゃんとはつい三日前に会ったばかりなんだけど」

加賀「……ああそうね、続けて書いてあったわ。『しばらくご無沙汰していると思っていましたが勘違いで、つい三日前にお会いしましたが、お元気ですか』」

瑞鶴「なんだか違和感のある文章だけど……その先は?」

加賀「『その時は大したおもてなしもできず――』」

瑞鶴「リシュリューさんと一緒にフランス料理をご馳走になったんだけど」

加賀「『おもてなしといえば精々、リシュリューさんと一緒にフランス料理をご馳走してあげたぐらいでしたが、さぞ美味しかったろうと存じます。草々』」


黒潮「手紙を読み終えた加賀はん、しかし瑞鶴はんはどうにも納得がいかん」


瑞鶴「……それだけ? もっと大事なことは書いてないの?」

瑞鶴「三日前に会った時に、次の作戦で熟練見張員が必要になるって聞いてたのよ」

瑞鶴「今はちょうど全員が日向さんに配備されてるから、こっちに回してもらう人数分の手配を後でお願いするって言ってたんだけど」

加賀「……いいかしら五航戦。そういうことは早く言ってもらわないと、こっちにも読みようというものがあるのよ」

加賀「確かに書いてあるわ。『そういえば失念しておりましたが、次の作戦で必要な熟練見張員の件、……人の手配をお願い申し上げます』」

瑞鶴「……今、何人って言ったの?」

加賀「だから、『……人』よ」

瑞鶴「聞こえないってば」

加賀「もう一度しか言わないわよ、『ンァッ――フ人の手配をお願い申し上げます』」

瑞鶴「百人!? そんなに必要なの!?」

瑞鶴「大変だわ、急いで準備しないと……!」

加賀「『それではこれにて失礼いたします、かしこ』……これで終わりね」

瑞鶴「待って、次の作戦は水上偵察が要だから、瑞雲も同じだけ必要になるって聞いてたんだけど」

加賀「五航戦、あなたね、全部先に申告しなさいと言ったでしょう」

瑞鶴「そこに手紙があるんだから、そのまま読めばいいじゃない」

加賀「うるさいわね、書いてあるわよ」

瑞鶴「私が言うと書いてあるのね」

加賀「『追伸、水上偵察を要とする作戦への参加のため、見張員と同数の瑞雲も手配をお願いいたします。今度こそ本当の本当に終わり』」

瑞鶴「……ちょっと待ってよ加賀さん、本当はフランス語なんて読めないから、適当に言ってるだけじゃないの?」

加賀「そんなわけないでしょう。現にちゃんと読んで見せたのだし」

瑞鶴「肝心なところは私が言ったことしか読まなかったじゃない」

加賀「言われたことしか書いてなかったからよ」

瑞鶴「ならどうして瑞雲のことを最初から読まなかったのよ」


黒潮「詰め寄る瑞鶴はんに加賀はんが答えるには、」


加賀「見張員が出払っていたものだから、水上機を書いたくだりは捜索に失敗したのよ」


黒潮「とっぴんぱらりの、ぷう」


                            (原典:落語「手紙無筆」「平(ひら)の陰」)

以上です。
関東では「手紙無筆」、関西では「平の陰」という題で演じられることが多く、
サゲも異なる場合があるようです。
元は読み書きのできない人が多かった時代の噺なので、現代に合わせて英語の手紙が届いたやりとりに翻案した噺をする落語家の方もいらっしゃるという話を聞いて、
今回はそれと設定の近い話に組み立ててみました。
途中のやりとりにもバリエーションの多い噺なので、興味があれば是非原典に触れてください。

書き忘れましたが、実は谷風は大阪生まれ・呉育ちだったりします。
江戸っ子とは(哲学)

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