キャル「原因不明の口癖感染騒動」 (20)

キャル「コロ助のヤツ、何してるのかしら? もう待ち合わせの時間過ぎちゃってるわよ? 待ち合わせ場所はギルドハウスで合ってるのよね?」

ペコリーヌ「そのはずですけど……コッコロさまが遅刻なんて珍しいですね。いつも時間10分前には来てるのに」

キャル「……ん? 『さま』?」

ペコリーヌ「彼がまた迷子にでもなっちゃったのかもしれません。どうしましょう? お迎えに行った方がいいでしょうか?」

キャル「え、ええ、そうね。このまま、ぼうっと待ってても仕方ないし──」

コッコロ「大変でございます……! キャルさま、ペコリーヌさま……!」

ペコリーヌ「あっ、コッコロさま! 心配したんですよ? ……って、そんなに慌ててどうしたんですか?」

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コッコロ「はぁ、はぁ……。遅刻の謝罪は後ほどいたしますので、ともかく今はわたくしの話を聞いてください。ぶっ殺しますよ」

キャル「ちょ、ちょっと!? あんた今、『ぶっ殺す』って言わなかった!?」

ペコリーヌ「コッコロさまがグレちゃった!?」

コッコロ「も、申し訳ありません……。実は、その……ランドソル中で異常な現象が発生しているようなのです」

コッコロ「おかげで町は大混乱……。ここに来る途中でわたくしにも異変が起こり、取り乱したため時間に遅れてしまいまして……」

ペコリーヌ「えぇっ!? だ、大丈夫なんですか!? コッコロさまたちに、もしものことがあったらと思うと……いてもたってもいられませんっ!」

キャル「『異常な現象』って……。ねぇコロ助。もしかして、ペコリーヌが『コッコロさま~』とか言ってるのと関係あったりするの?」

ペコリーヌ「えっ? わたし、コッコロさまのこと、コッコロさまなんて呼んでました?」

コッコロ「呼んでいらっしゃいますね……。今も当然のように『コッコロさま』と。ぶっ殺しますよ」

キャル「……あんたのそれも?」

コッコロ「あぁ……申し訳ございません……。今説明いたしますので、どうか誤解なさらないでください……ぶっ殺しますよ」

ペコリーヌ「まるでキャルさまみたいでやばいですね☆ 思わず抱きしめたくなっちゃいます♪」

キャル「キャルさま……。ん? 言われてみれば、ペコリーヌのやつもなんとなくコロ助みたいね?」

コッコロ「はい。そう感じてしまうのも無理ないかと」

コッコロ「どうやら異変に巻き込まれた人間は……身近な人の『強く印象に残っている口癖』を、無意識のうちに口にしてしまうようなのです」

キャル「はぁ? なによそれ。じゃあ、なに? コロ助にはあたしの口癖が感染っちゃったってこと?」

コッコロ「そういうことになりますね。ぶっ殺しますよ」

ペコリーヌ「キャルさまのその口癖、コッコロさまにはちょっと刺激が強過ぎちゃったんですね……」

キャル「ぐっ……ちゃんとコロ助には言わないようにしてたのに……。つうか口癖って……そんなに何度も言ってないじゃない……」

コッコロ「ペコリーヌさまには、おそらくわたくしの口癖が感染ってしまったのでしょう」

ペコリーヌ「これも口癖なんでしょうか? コッコロちゃんが言ってると、かわいくて大好きですけど」

コッコロ「『さま』という呼び方が印象に残った……というのも不思議な話ですが」

キャル「お子様のくせに堅っ苦しいのよ、あんたのそれ。そういうところも大好きだけど」

コッコロ「……」

ペコリーヌ「……」

キャル「ん? なに? あたし、何かおかしなこと言った?」

コッコロ「……ペコリーヌさま。これはいったい……?」

ペコリーヌ「わ、わたしに聞かれても~……」

ペコリーヌ「なんとな~く、わたしの決め台詞……『やばいですね☆』なんかが感染っちゃうと思ったんですけど」

キャル「ちょっと! コソコソ内緒話してないで、言いたいことがあるなら直接言いなさいよ!」

コッコロ「慎重にならざるを得ないと言いますか……。ともかく一度落ち着いてくださいまし。ぶっ殺しますよ」

キャル「あぁっ……! 純粋なあんたに言われると傷つくからやめて! うぅ……コロ助のこと大好きなのに……」

ペコリーヌ「……『大好き』って言われるの、そんなに印象が強かったんでしょうか?」

コッコロ「と、ともあれ。落ち着いて意識しながら喋っていれば、自分があり得ない言葉を口にしてしまったことには気がつけるはずです」

ペコリーヌ「わたしのは誤解されちゃうような実害はありませんけど……」

キャル「意識しようにも、あたしが何を口走ってるのかわからないんじゃどうしようもなくない?」

コッコロ「えぇと……。落ち着いて聞いていただけますか? そうでないとぶっ殺しますよ」

キャル「別に怒ったりなんてしないわよ。あんたたちのこと、大好きなんだし。変に傷つけたりしないかの方が心配っていうか……」

ペコリーヌ「わたしもキャルさまのこと大好きですよ♪ えへへ♪」

キャル「は? 突然何言い出してんの?」

コッコロ「そのぅ……キャルさまはですね……。たいへんお伝えしづらいのですが……『大好き』と……」

キャル「大好き? 何が?」

コッコロ「ですから……わたくしやペコリーヌさまのことを、『大好き』だと……」

コッコロ「先程からわたくしたちに、熱烈に気持ちを伝えてくださっていて……」

キャル「……」

ペコリーヌ「すんごくかわいいです♪ やばいですね☆」

キャル「マジでやばいわよっ!!!」

キャル「あ、あたし……大好きって……? いやいやいや、なんでっ!? だって、印象に残った言葉って──」

コッコロ「わーっ……! わーっ……!」

キャル「……」

キャル「~~~~ッ……!」

ペコリーヌ「んもう、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか♪」

ペコリーヌ「全然知らない人に言っちゃうならともかく、わたしたちとキャルさまとの仲なんですから!」

コッコロ「……はい。その通りでございます。これはただの異常現象……心にもないことであっても、容易く口を突いて出てしまいます」

キャル「それは……まぁ、そうだけど……。コロ助がペコリーヌに『殺す』なんて言うはずないもの。……あたしにはともかく」

コッコロ「キャルさまにだって、そのような言葉は浴びせません。ぶっ殺しますよ。……あわわ」

キャル「な、なんか複雑な気分ね……」

コッコロ「意地悪なところもたしかにありますが、わたくしはキャルさまのことが大好きですから」

キャル「あたしだって大好きよ。……って、違う違う! 嫌いじゃない! 嫌いじゃないってだけ!」

ペコリーヌ「ふふ。呑気なことを言ってる場合じゃないのかもしれませんけど……もう少しこのままでいたいですね♪」

キャル「……もう喋らない」

コッコロ「当面の対処としてはそれが一番でしょう。お喋りをしているとどうしても口にしてしまいますし。ついぶっ殺してしまいます」

ペコリーヌ「わたしたちでなんとかできないんでしょうか?」

コッコロ「ここへ来る途中、外出を控えろと通告されていました。【王宮騎士団(NIGHTMARE)】が事態の収拾に当たっているようです」

ペコリーヌ「他人任せっていうのも気が引けますけど……情報も何もありませんからね。せめて町の様子が落ち着くまでは大人しくしていましょうか」

コッコロ「キャルさまもそれでよろしいでしょうか? ぶっ殺しますよ」

キャル「……」

ペコリーヌ「……キャ~ル~さまっ♪ ぎゅ~っ☆」

キャル「……!?」

コッコロ「あぁ、ペコリーヌさま……キャルさまに抱きついてはいけません……! ぶっ殺しますよ……!」

ペコリーヌ「キャルさまはわたしに抱きしめられるの、嫌ですか?」

キャル「それはその……だ、大好きだけど……。大好きだけど離れなさい! くっついてくんなっ!」

ペコリーヌ「えへへ……♪ いつもとは違うツンデレですね☆ なんだかほんとは嫌われちゃってるみたいです。やばいですね!」

キャル「チッ。ペコリーヌのやつ、楽しんでるわね……?」

コッコロ「じ~……」

キャル「……見るな」

コッコロ「あの……」

キャル「話しかけんな!」

コッコロ「わたくしも、その……抱っこ……」

キャル「こっち来んなぁっ!」

ペコリーヌ「コッコロさまもおいでおいで~☆ 一緒にキャルさまを抱きしめちゃいましょう♪」

キャル「馬鹿言ってんじゃないわよ! やめろっつってんのが聞こえないの!?」

キャル「いくらあんたたちのことが大好きだからって、あたしがそんなこと許すわけないでしょ!? ……あっ」

コッコロ「……ぎゅ」

キャル「はぁ~……」

コッコロ「キャルさま……♪ ぶっ殺しますよ♪」

キャル「出てるっつうの。ったく……大好きよ、コロ助」

ペコリーヌ「む~……」

キャル「……ふんっ」

ペコリーヌ「コッコロちゃんばっかりずるいです! わたしにも大好きって言ってください!」

コッコロ「えへへ……」

キャル「あんたは鬱陶しいだけだし。大好きだけど」

ペコリーヌ「うわぁい♪ キャルちゃん大好きっ♪」

キャル「ちょっ、バカ、力が強いっ……! 苦しいってばぁ……!」

コッコロ「ふふ。仮に本心ではなかったとしても、好意を素直に伝えてもらえるのは嬉しいものですね」

コッコロ「抱きしめる力にも、つい力が入るというもの。わたくしも……ぎゅーっ」

キャル「あぁもうっ! ウザいったらないわね!」

キャル「……あたしばっかりイジられてさ。つまんない」

ペコリーヌ「あれ? いつもは大好き~って言うとご機嫌ナナメになっちゃうのに!」

ペコリーヌ「えへへっ、大好きですよキャルちゃん♪」

コッコロ「片思いよりも両思い、でございますね。わたくしも、大好きでございますよ……♪」

キャル「はぁ~、アホくさ。あたしはおかしくなってるだけだってのに」

ペコリーヌ「またまた~。キャルちゃんは普段、恥ずかしがって言えないだけですよね~?」

ペコリーヌ「キャルちゃんだって心の中では大好きって思ってくれてるくせに♪ 照れ屋さんなんですからぁ、このこの~☆」

キャル「そ、そんなんじゃないわよ……! あんたたちのことなんて、別に……」

キャル「……大好き、だけど」

コッコロ「ふふ♪ お顔が真っ赤になってしまいましたね」

キャル「うっさい!」

ペコリーヌ「ところでコッコロちゃん。さっきからあんまりぶっ殺してませんね?」

キャル「そういやそうね。言わないようにするコツでも見つけたのかしら?」

コッコロ「はて? 言われてみれば、たしかに……?」

コッコロ「思えば、ペコリーヌさまも同様に『さま』ではなく『ちゃん』に戻っている様子」

ペコリーヌ「ほんとですか? えー、こほんこほん!」

ペコリーヌ「キャルちゃん♪ コッコロちゃん♪ ……おぉ~☆ ちゃんと言えてますっ! キャルちゃんっ! コッコロちゃんっ!」

キャル「よくわかんないけど、とにかく元に戻ったってことよね? あ~疲れた……」

ペコリーヌ「けど、またしばらく『大好き』って言ってもらえないんですね……。そう思うと、すっごく寂しいです……」

キャル「元に戻っただけじゃない。ふふっ、もう二度とあんなこと言わなくて済むわね!」

コッコロ「……ふむ?」

ペコリーヌ「コッコロちゃん? 何か気になることでもありました?」

コッコロ「い、いえ、なんでもありません。少し考え事をしていただけですので……」

キャル「はぁ~、肩の荷が下りたって感じ♪ 気分がいいわ~♪」

コッコロ「……いつ元に戻ったか、など。探るのは野暮というものでしょう」

キャル「ほら、ボケっとしてないで出かけるわよ! みんなで食事をするって約束でわざわざ集まったんだから!」



おしまい

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