美少女「万有引力のスケッチ」 (40)


俺(夏休みの宿題はリンゴの木のスケッチをすることに決めた)

俺(早速リンゴの木がある公園にやってくると、木の前に1人の美少女が座っていた)

美少女「……」

俺「こんにちは」

美少女「え、あっ。こんにちは」

俺「その制服、○○中学校のだよね。俺もそこの生徒なんだ」

美少女「そうなの。奇遇ね」

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俺「君も夏休みの自由研究に、リンゴの木のスケッチを?」

美少女「んー。少し違うわ」

美少女「私は『万有引力』のスケッチをしにきたの」

俺「……」

美少女「……」

俺「……君も夏休みの自由研究に、リンゴの木のスケッチを?」

美少女「いや何度聞かれても答えは一緒だから。ゲームのNPCかよ」


俺「えっと、万有引力が何なのかは知ってる?」

美少女「知ってるわ。もの同士が引き合う力のことでしょ」

俺「じゃあ引力が目に見えないことは知ってる?」

美少女「もちろん知ってるわ」

俺「……目って何か知ってる?」

美少女「知ってるに決まってるでしょ!?」


美少女「あなた多分勘違いしてるわ。私が描きたいのは『リンゴが落ちる瞬間の絵』なのよ」

俺「落ちる瞬間?」

美少女「ええ。万有引力をリンゴが落ちた瞬間の絵で表現することで、目に見えないものでもちゃんと存在しているのだというメッセージを伝えたいの」

俺「あー、そういうことか……ごめん、俺の早とちりだったよ」

美少女「そしてその絵をTwitterに投稿し、母を偽って『娘の着眼点が凄すぎる件…!』とか呟いて自己承認欲求を満たすの!」グッ

俺「前言撤回! みみっちい人間だな!」


俺「……まぁ、お前がTwitterでバズろうが嘘松となじられようが俺には関係のないことだからな。お前の隣で、俺は俺のスケッチをさせてもらうよ」

美少女「いいわ。交代で寝ましょうね」

俺「嫌だよ! なんで俺までリンゴが落ちるまで待つことになってんだ。誰もそんな長期戦覚悟してないから」

美少女「一緒に待ってくれないならこの場所貸してあげない。別の公園行ってスケッチすることね」

俺「えぇ……そもそも公園は皆のものってルールだろ?」

美少女「そんなの関係ないわ。ここでは私がルールよ」

俺「暴君か!」


俺(これ以上言い争っても泥沼にしかならなそうだったので、俺は仕方なく美少女のみみっちい野望を叶える手助けをすることにした)

俺「言っておくけど、俺は夜になる前に帰るからな。門限破ると母さんに怒られるから」

美少女「私も夜には帰るわよ? さっきのは勢いで言っただけよ。そういうその場のノリってあるじゃない。あ、もしかしてあなたって、そういう空気を読むの苦手な人だったりするのかしら……?」

俺「は、はは……」ビキッ

美少女「心配しないで。どんな人だろうと私は差別したりしないわ。お互いを尊重しあう気持ちを忘れなければ、きっと友達になれるわよ」

俺「そうだな、きっと親友になれるな……」

美少女「ごめん。そこまでの距離感は求めてないわ」

俺「今すぐ帰ってやろうか?」


カキカキ

俺「……よし。終わった」

美少女「なにが? 人生?」

俺「だんだんボケが雑になってきたな。そうじゃなくて、俺の分のスケッチが終わったって言ったの」

美少女「早いね~。最近の中学生ってそんなに早いんだ?」

俺「誤解を招くような言い方をするな。まったく……後はお前の分だけなんだから、ちゃちゃと終わらせろよな」

美少女「そう言われても、落ちるか落ちないかはリンゴの木の気分次第だからねぇ」

俺「……まさか、自然に落ちるまで待つ気なのか?」

美少女「当然でしょ」

俺「……はぁ。気が遠くなってきた」


ミーンミンミン…

俺「蝉の鳴き声もだんだん小さくなってきたぜ。そろそろ帰らないか?」

美少女「帰るか帰らないか、それはリンゴの木が決める」フッ

俺「いやフッじゃなくて。帰ろうっつってんだよ。お前が決めるんだよ」

美少女「私が決めるかどうか、それはリンゴの木が決める」フッ

俺「先帰りまーす」

美少女「じょ、冗談だからっ。置いてかないで、1人にしないで!」ギュッ

俺「ちょ、ちょっと。抱きつくなよ暑苦しい!」

美少女「ウザかったなら謝るから! 1人やだ、暗いの怖い!」

俺「はいはいわかったよ、置いてかないから。もう少し待っててやるから手を離せ」

美少女(うんっ。ありがとう、優しいね!)

美少女「こいつ結構チョロいな……」

俺「セリフ逆になってんぞ」


カー カー

俺「蝉が鳴き止んでカラスの声がし始めた。そろそろ本当に帰るぞ。カラスが鳴くから帰りましょ~ってね」

美少女「ふ、古……。あなたってもしかして昭和からタイムスリップしてきた人……?」

俺「か、母さんが言ってたのを真似ただけだっ。どうでもいいだろそんなこと。ほら早く帰るぞ!」

美少女「えー? もう少しだけ、もう少しだけここに居ようよ。帰った1分後に落ちてくるかもしれないじゃん!」

俺「そんなこと言ったらいつまでも帰れないだろ」

美少女「でもこの後落ちてきたら今まで待った分が無駄になっちゃう! 無駄にしないためにももうちょっとだけ居よう、もうちょっとだけさ!」

俺「考え方がゲームガチャ課金者のそれなんだよなぁ……」


俺「よし。じゃあ次にカラスが鳴いたら帰ろう。これ以上は譲らないからな」

美少女「オッケー♪ やったー!」

カー

俺「さ、帰るぞ」

美少女「えー!? 待ってよ、1秒と経ってないじゃん。こんなのズルだよ!」

俺「ズルじゃない。カラスがそう決めたんだからしょうがない」

美少女「だいたいカラスが鳴いたら帰るなんてそっち側の都合でしょ。こんなの不平等よ!」

俺「あーぐだぐだうるさい! ここでは俺がルールって言っただろ!」

美少女「言ってないわよ! 私が言ったのよ! なにいつの間にかに下克上起こしてんのよ!?」


美少女「はぁ……言い争うだけ無駄ね。そこまで帰りたいって言うなら、今日のところは帰ってあげるわよ」

俺「なんでお前が偉そうなんだ。言っておくけど、俺は完全なるボランティアなんだからな」

美少女「そうね。だけどボランティアにだって背負うべき責任はあるはずよ」

俺「ないから。なにちょっとそれっぽいこと言って丸め込もうとしてんだ。……はぁ、付き合ってらんねー」スタスタ

美少女「あ、ちょっと。明日も絶対に来てよねー!」

俺「はいはい。気が向いたらな」

美少女「約束だよー! 来なかったらあなたの嘘の悪口ばらまいて学校で居場所無くすからねー!」

俺「脅し方が生々しすぎる!」


──翌日──

美少女「おはよう!」

俺「おはよう……」

美少女「うふふ、良かった来てくれて」

俺「あんな脅され方をして約束を破れる中学生はいない」

美少女「あはは、冗談で言ったに決まってるじゃない。……あ、そっか。あなたって場の空気を読むのが致命的に……」

俺「それはもういいから! ほら、リンゴはまだ落ちてないみたいだし、観察の続きをやるんだろ」

美少女「そうだったわね。さあリンゴちゃん、私のこの大きな瞳が見守ってるうちに落ちてきてくれ~」

俺「……」

美少女「ちょっと、なにサボってるの。一緒にリンゴ見ててよ」

俺「いや、昨日も言おうと思ったんだけどさ……これ、揺さぶって落とした方が早くない?」


美少女「……」

俺「もちろんそういうズルが嫌で今までしてこなかったんだと思うけど。お前にだってプライドはあるんだろうし」

美少女「……逆転の発想」

俺「え?」

美少女「い、今まで全く思いつかなかったわ。そっか、その手があったわね。ぐへへ……」

俺「プライドのプの字も無かった」

美少女「これからあなたのこと令和のニュートンと呼ぶことにするわ」

俺「恥ずかしいから絶対にやめて」


美少女「じゃあ見てるから……お願い」

俺「おう、行くぞ。……3、2、1」

ドンッ

俺「……どう? 1個ぐらい落ちてきた?」

美少女「ダメ。枝が少し揺れたぐらいで全然落ちてくる気配ない」

俺「そうか……次、お前が体当たりしてみるか?」

美少女「無駄よ。あなたの体当たりで無理だったんだから、私の軽い体重じゃ尚更不可能よ。私の”軽い”体重じゃ!」

俺「そのアピールいらないから」


俺「他の方法としては、リンゴの付け根の部分を少し捻るとかかな。だいぶ乱暴な手段になっちゃうけど」

美少女「うーん。そうねぇ」

…ラアアアアアアアア

俺「? 何か声が聞こえてこないか?」

美少女「声……? ……え、嘘。あれって」

職員「ごらあああああああああああああああああああああああ!!」ダダダダ

美少女「鬼の形相をしたおっさんがこっちに走ってきてるー!?」


美少女「な、なんで!? 明らかにこっちに向かってきてるんですけど!」

俺「あー……もしかしてこれ、揺らしたりしちゃいけない系のやつだったのかな……」

美少女「はぁー!?」

俺「よく見たら柵についてる注意書きにそう書いてあったわ」

美少女「ちょ、ちょっとー! どうするのよ、あなたが揺らせばいいって言い出したんだからね!」

俺「でもボランティアに責任能力はないし……管理責任者(美少女)への許可は口頭で取っていたし……」

美少女「ぶっとばすわよあんた!? 今は責任転嫁してる場合じゃないでしょ!」

俺「じゃあどんな場合だよ! あんな奇声発してるおっさんに叱られるなんて絶対に嫌だぜ俺」

美少女「私だって嫌よ! だから、私たちが今するべきは……」

俺「するべきは……?」

美少女「逃げることに決まってるでしょ!!」

ダダダッ


──

俺「はぁ。はぁ……」

美少女「ふぅ……ここまでくれば平気でしょ」

俺「だけど……もうあの公園には行けないな。次出て行けば確実に捕まる」

美少女「そうね。仕方ない、ネットで他にリンゴの木がある公園がないか手分けして調べてみましょ」

俺「うん……って、え?」

美少女「ここのリンゴの木が使えないなら別のリンゴの木を探すのは当然でしょ」

俺「そうじゃなくて……なんで俺まで手伝うことになってんの?」

美少女「は? スケッチの場所を貸してあげたんだから、最後まで私に協力するのは当たり前のことでしょ」

俺「その程度の恩でしつこい奴め……なあ、万有引力のスケッチなんてもう諦めろよ」

美少女「簡単に言ってくれるわね!」


美少女「他人がこんなに一生懸命に夢を追ってるというのに……あなたには人の心ってものがないの?」

俺「お前の動機聞いたら100人中100人が諦めを提言するわ」

美少女「ほら、今スマホで調べたわ。ここなんて良いんじゃない?」

美少女「http://www.warabi.ne.jp/~kankoukyoukai/nishiki.html

俺「セリフにURLを組み込むな」

美少女「今は夏休みだし、ちょうど良い小旅行になるわね。明日にでも行ってみましょう」

俺「俺も行かなきゃダメ?」

美少女「旅は道連れ世は情けって言うでしょ。先人の言葉にはならうべきよ」

俺「カラスのときは古いだの散々なじったくせに……ほんと調子いいなお前って」


──

美少女「ついたー! ここが埼玉県ね、初めてきたわ!」

俺「はぁ……」

美少女「なにため息ついてんのよ、旅はまだ始まったばかりよ」

俺「電車賃だけでいくら小遣い飛んだと思ってんだよ! 付き合ってやってる俺の身にもなれ!」

美少女「はー、電車賃ぐらいでぐだぐだと小さい男だこと。どうせなら私の分まで出すぐらいの男気を見せてほしいものだわ」

俺「お前、本当マジでいつか1回ぶっとばすからな」


──公園──

美少女「ビニールシートを敷いてっと。よし、これで準備万端ね」

俺「日帰りなんだから、夕方前には切り上げるぞ」

美少女「わかってるわ。それで……ちゃんとうちわは用意してきたわね?」

俺「してきたよ。お前が持ってこいってしつこく言うからな。なにに使うかは知らんけど」

美少女「ふっふっふ。これで計画が始められるわ」

俺「計画?」


美少女「2人でリンゴの木を仰ぐことで、リンゴの落下を早めるという計画よ!」ビシッ

美少女「直接触るわけじゃないからおっさんにも怒られない! どーよこの隙のない最強の作戦は!」

俺「……」ポカーン

美少女「うふふ。あまりの天才的発想に開いた口がふさがらないようね」

俺「……いや、まさかここまでアホだなんて思ってなかったから」

美少女「はぁ!?」

俺「びっくりした。一瞬お前のことが猿のカンジくんに見えた」

美少女「失礼なやつね!」

俺「そうだな、カンジくんに失礼だな」

美少女「こ、こいつ……」


俺「俺はうちわで自分を仰ぐよ。せいぜい1人で頑張ってくれ」パタパタ

美少女「薄情者が……後で吠え面かくといいわ。おりゃ~」ブンブンッ

シーン

俺「……」

美少女「そ、その顔やめなさい!」

俺「顔? 俺は終始真面目な顔をしていたけど?」

美少女「なっ……これがSSだから顔がわからないことを良いことに……」

俺「SSとか言うな」


──

俺「一向に落ちる気配ないな」

美少女「きっともう少しの辛抱よ」

俺「いや、まだまだ当分はダメそうだぜ。ちょうどお昼だし、ご飯食べにいかないか?」

美少女「その間にリンゴが落ちてきたらどうするの? 私は行かないわ」

俺「えー、昼抜きかよ」

美少女「私はお弁当を作って持ってきたから、ここで食べるの」

俺「そうなの? じゃあ俺にも半分くれ」

美少女「は? あんたは自分で買いに行けばいいじゃない」

俺「お小遣いピンチだって言っただろ。手伝ってあげてるんだからさ、頼むよ」

美少女「え~……まあ良いか。午後からは積極的に手伝いなさいよね」スッ

俺「うっす。善処しまーす」モグモグ

美少女「絶対に手伝わないヤツの言い方ねこれ……」


──

俺「……暇だなぁ」

美少女「暇じゃないわ。リンゴをじっと見てる以外やることがないだけよ」

俺「それを暇と言うんだよ……なぁ、そういえばお前って何組なの?」

美少女「ん? 1年1組だけど?」

俺「そうか、俺は1年2組だ。隣のクラスだったんだな、知らなかった」

美少女「私、学校で何度かあなたの姿見たことあるわよ」

俺「あ、そうなの?」

美少女「そりゃそうよ。見たことなかったら公園で話しかけられても無視してたわ。怖いもの」

俺「そうか。俺はお前のこと知らなかったけど、知ってたら絶対に話しかけたりしなかっただろうな」

美少女「な、なんて失礼なやつ……!」


美少女「ほら、無駄口叩いてる暇があるなら手を動かす!」

俺「手って言われてもな。うちわ作戦は完全に失敗だったろ?」

美少女「ぐっ……じゃあスマホでリンゴの特徴なりなんなり調べて、新しく作戦立ててよ」

俺「特徴ねぇ。調べるだけ無駄だと思うけどなぁ」

美少女「……お昼ご飯。ウインナー全部食べたわよね」

俺「あ……わ、わかったよ。今調べるから」

美少女「はぁ……せっかく朝早く起きて作ったのに。全部食べちゃうなんて本当最低……」

俺「わ、悪かったって。ちょっと待ってろ。えーと、リンゴの特徴だろ」ポチポチ

俺「料理のページばっかり出てくるな……えーと、リンゴの旬は……ん?」

美少女「何? 役立ちそうな情報見つけた?」

俺「いや、役立ちそうっていうか……」


俺「リンゴの旬って、9月や10月らしいぞ?」

美少女「? それが何よ。取って食べることが目的じゃないでしょ。あなたの頭の中には食べることしかないの?」

俺「違くて、旬が9月ってことは熟して落ちてくるのはそれ以降ってことだろ」

美少女「……え?」

俺「つまり、秋になるまでリンゴは落ちてこないんだよ。夏休みの間中ずっとここで待ってたとしてもな」


ガタンゴトン…

美少女「……」

俺「……」

美少女「……」

俺「……なあ、あんまり落ち込むなよ」

美少女「うん……」

俺「ていうか、普通調べてから行動に移すだろ。お前やっぱアホだな、あはは……」

美少女「そうね……」

俺「え? ……」


俺「……夏休みの自由研究なら、俺と一緒にリンゴの木のスケッチをしたってことにすればいい」

俺「有名になる手段なら他にもたくさんあるだろうよ。いつまでもウジウジしてんな」

美少女「……」

俺「……それに俺は、ネットだかでチヤホヤされるよりも」

俺「こうして友達と遊べるほうが、ずっと有意義なことだと思うぜ?」

美少女「……え?」


美少女「友達……?」

俺「そ、そうだよ。俺たち、もう友達だろ?」

美少女「……ふふっ」

俺「……なんだよ、笑うことないだろ。嫌ななら嫌だとはっきり言え」

美少女「嫌じゃないわ。ただ、少し驚いただけ……うふふっ」

俺「……どうしてもリンゴが落ちるところが描きたいって言うなら、また秋にでも一緒にいてやるからさ」

美少女「ううん……いいのよ、リンゴはもう」

美少女「私はそれ以上に、大切なことに気づけたんだから──」


──教室──

美少女『……そうして、私の万有引力をスケッチするという当初の計画は失敗に終わりました』

美少女『しかしその代わりに、私はもっとかけがえのないものを手に入れることができたのです』

美少女『それは……友情です』

美少女『今の私は、1人でリンゴの木を見つめていた孤独な私とは違う』

美少女『口は悪いけど、いつも隣にいてくれる大切な友人がいる』

美少女『人と人の間には確かに、お互いに惹かれ合う力があるのだと思います』

美少女『私はこれを「万友引力の法則」と名付けることにしました』


美少女『万友引力は目に見えません。でも、とても大切な力です』

美少女『皆さんには大切な人がいますか?』

美少女『一緒にいたい人はいますか? 好きな人はいますか?』

美少女『彼ら彼女らとの間に、確かに万友引力は存在しているのです』

美少女『人を愛する気持ちがある限り、いつだって、どこだって……』

美少女『……発表を終わります。ご静聴ありがとうございました』

パチパチパチ!

先生『す、素晴らしい発表だったわ!』ウルウル

美少女『えへへ……』


──

美少女「って感じで教室はスタンディングオベーション。拍手喝采で先生は涙目……」

俺「……」

美少女「そして一部始終を見たクラスメイトの誰かが、このことをSNSにアップし私は一躍時の人となる」

美少女「どうよこの完璧な計画は!」キラキラ

俺「お前はアホなのか!?」

美少女「何よ。私の天才的発想に文句があるってわけ?」

俺「浅はかすぎてかける言葉が見つからない。なんだよ、結局ネットでチヤホヤされたいだけなのかお前は」

美少女「そうよ!」

俺「そうなのかよ! いろいろ台無しだよ!」


美少女「よーし自由研究はこれで決まりね! 9月が今から楽しみだわ!」

俺「……そうだな。俺は隣の教室でせいぜい聞き耳でも立ててるよ」

美少女「何言ってんの? あなたも一緒に壇上に立つのよ」

俺「はぁ?」

美少女「万友引力の共同発見者として、一緒に有名になってあげるわ。光栄に思いなさい」

俺「そんな公開処刑誰が受けるか!」

美少女「今からおめかしの準備をしなくちゃ! スカートの丈も思い切って5センチくらいあげちゃおうかしら。きゃ~」

俺「勝手にやってろ……」

俺(しかしまあ、自由研究はもう終わったんだ。俺がこいつに付き合わされることはもうない)

俺(明日からやっと、俺の自由な夏休みが始まる……)


──自宅──

美少女「遊びに来たわ!」

俺「……」

美少女「遊びに来たわ!」

俺「わかってるわ! ゲームのNPCかお前は!」

美少女「わかってるなら何かしら反応しなさいよ」

ガチャ

母「どうしたの? お友達?」


美少女「こんにちは」ニコッ

母「あらまぁ、こんな可愛い子がうちに遊びに来てくれるなんて……」

俺「か、母さん。出てこないでよ」

美少女「お母様、初めまして。いつもお世話になっております」ペコリ

母「可愛い上に礼儀正しい……! す、すぐお茶を準備するからリビングに上がっててね!」

美少女「ありがとうございますっ!」

俺「母さん、こんなやつ家にあげる必要なんて──」

ベシッ

母「アホなこと言ってるんじゃないの! こんな良い子探したってどこにもいないわよ!」

俺「えー!?」


母「ごゆっくり~」

バタン

美少女「とっても優しいお母様ね。あなたと違って」クス

俺「母さんにばかり良い顔しやがって……今にその正体バラしてやるからな」

美少女「はいはい。話を本題に移すわ。私が今日遊びに来たのは、とあるお誘いをするためなのよ」

俺「お誘い?」

美少女「ええ。私と一緒に『ユーチューバー』になりましょう!」ドンッ

俺「は、はぁー!?」


美少女「私気づいたの。SNSで一時期流行った程度じゃすぐに忘れられておしまいだって。そんなのつまらないわ!」

美少女「ならいっそのことユーチューバーにでもなって、人々の記憶に私を永遠に残したいのよ!」

俺「お、お前の妄想には付き合いきれん。ユーチューバー? そんな夢見事が叶うわけがない!」

美少女「でも可能性が無いとは言い切れないでしょ?」

俺「そ、そもそも、俺がそんな馬鹿げたことに付き合う義理はない!」

美少女「あるわよ。私のウインナー食べたじゃない」

俺「ウインナー程度で恩着せがまし過ぎない!?」

美少女「ウインナー3つ食べたんだから、最低でも3年間は付き合いなさいよね」

俺「1個につき1年間拘束されんの!?」


美少女「そうと決まれば計画を練らないと!」

俺「まて、何も決まってないぞ!」

美少女「撮影はスマホで十分だと思うのよ。最近のスマホカメラってって高性能だから」

美少女「パソコンはパパのを使えば良いし……編集もまぁなんとかなるでしょ!」

美少女「よし、外に出ましょう。まずは題材探しからスタートよ!」グイッ

俺「ちょ、引っ張るな!」

美少女「うふふ。思い出に残る楽しい夏休みになりそうね!」


俺(楽しいかどうかはさておき、思い出に残る夏になるであろうことは確かだった)

俺(リンゴが落ちないことから始まったこの夏休みを、9月の俺はどう思うのだろうか)

俺(「そんなの知るかバカ」と言わんばかりに、電柱のセミが大きな声で鳴いていた)



おわり

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