魔法使い「それはそれとして」猫娘「?」 (29)

魔法使い「今日をもってお前は卒業だ」

猫娘「えっ」

魔法使い「お前ももう自立できる年齢だ」

魔法使い「都市の大会でだって優勝できただろう」

魔法使い「こんな田舎でくすぶってないで、大きな世界で自立するときが来たんだ」

猫娘「しかし」

魔法使い「駄目だ」


彼女は涙ぐんでいるが、心を鬼にしなければならない
そう彼は考えたが、猫とは元来自由を求める生き物
何故悲しげな顔をするのだろうかとも思っていた


猫娘「...分かりました」

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魔法使い「それはそれとして」

猫娘「?」

魔法使い「これでもう師弟の縛りはないので、あくまで自由意思として聞くが」

猫娘「はい」

魔法使い「尻尾をもふらせてくれないか」

猫娘「...え?」


唐突な提案
冷静な質であるため、何を言われても平静でいようと思ったが
肩透かしであった


猫娘「お言葉ですが師匠」

魔法使い「もう師匠じゃないが」

猫娘「自由意思として師匠と呼ばせていただきます」

魔法使い「...何でしょう」

猫娘「あまりにも下らないです」


切り捨てるような物言い
彼の心は少々のダメージを受けた。が
その発言と彼を見つめる軽蔑するような視線は彼女が優秀な氷魔法の使い手となることを予見しているようだった

魔法使い「ご不満?」

猫娘「不満はございません」

魔法使い「では一体何故僕を侮蔑するような視線を浴びせた」

猫娘「昔から目線が冷たいとはよく言われるので」

魔法使い「そうか。確かにお前はそうだったかも知れ「それよりも」

猫娘「私の尻尾で師匠は悦ばれるのですか」

魔法使い「あ、ああ。そうだが?」


食いぎみな返答に戸惑いながらも会話を続ける
冷めきったように見える彼女の目にも少しばかりの火が灯ったように見えた

猫娘「...私は愚かでした」

魔法使い「愚か?」

猫娘「今まで私が師匠に行った献身は無駄だったのですね」

魔法使い「話が掴めないが、そこまで悲観するな。お前が炊事や洗濯ができるようになったおかげで僕は助かった」

猫娘「確かにそうかも知れないです。しかし私が真に求めていたもの、分かりますか」

魔法使い「魔法の知識」

猫娘「それは大前提ですよ」

魔法使い「...さっぱり分からないな」

猫娘「それは師匠の悦楽です」

魔法使い「聞けよ」

猫娘「そこまで人を理解できていない師匠に育てられたから私が冷たいのかも知れませんね」

魔法使い「泣くぞ」

猫娘「もふっていいので泣かないで下さい」

魔法使い「いいのか」

猫娘「なんなりと」

魔法使い「それでは失礼して...」


恐る恐るその白毛に触れる
そして優しく撫でる


猫娘「く、くすぐったいです」

魔法使い「すまない」


粗めに強く握ることにした
どこか弾力があり、その上で柔らかい
素晴らしい尻尾であることは疑う余地もなかった


猫娘「にゃひん!」

魔法使い「大丈夫か!?」

猫娘「強く握りすぎです」

魔法使い「ごめんよ」

魔法使い「満足」

猫娘「...その、やっぱり、旅立たないと駄目ですか」

魔法使い「ああ」

猫娘「私...私...」

魔法使い「?」

猫娘「師匠のことが好きなんです!」

魔法使い「そりゃ僕も好きだよ」

猫娘「愛情じゃなくて恋愛感情です!」

魔法使い「...まじ?」

猫娘「...やっぱり、冷たい女の子は嫌いですか」

魔法使い「好きだよ。恋愛感情だってあるさ」

猫娘「本当ですか。じゃあ」

魔法使い「だがそれ以上に師匠としての思い入れもある」

猫娘「...」

魔法使い「自分勝手だと分かってはいる。しかし...」

猫娘「つまり師匠に認められるような一人前の活躍をすれば良いわけですね?」

魔法使い「そうだ」

それから彼女が出発するまでは実に早かった
身支度を済ませ、都市に向かったことだろう


魔法使い「...」

魔法使い「あいつなら上手くやるだろう」

魔法使い「積ん読の消化でもしてじっくりと待とう」

~都市~


猫娘「都市はあまり好きじゃないんだけど」


そこは都市というからには立派で大きな都市である
ここの王は反獣人派であり、猫娘にとっても生きづらい場所であった
彼女が魔法大会に出場した際もその素性は隠しての参加だった


猫娘「一人前の活躍をする最も単純な方法といえば、ギルドに所属することだろう」

猫娘「だがギルドと言ってもピンキリだ」

猫娘「まずは酒場でくだを巻いている冒険者にでも聞いておくか」

~酒場~


猫娘「酒飲みというのは、結構多いのかもしれない」


それは大きな勘違いであった
そのような推測に至る理由はとても単純であり
『酒場がギルドの集会所を幾つか内包しているため異常に大きい』ためである


猫娘「酒はまだ飲むなと師匠に言われたな...」

猫娘「慢心は禁物だ。いつこの外套を脱いで姿を見られてしまうか分からない」

猫娘「私には酒なんかよりマタタビの方がよっぽど効くだろうが、ね」

酒場に一目見て冒険者と分かる者は三名
両目に包帯を巻いた男、ほろ酔いのオッサン、金色の甲冑に身を包んだ何者かだ

包帯男は陰湿な魔導士の雰囲気があり、実際そうではない可能性があっても問いかけの相手としては却下された
金色甲冑人間は微動だにしない。一瞬置物ではないかと疑ってしまう
それらの理由から彼女はとりわけ気前の良さそうなオッサンに話しかける運びとなった


猫娘「すみません」

オッサン「なんだね」

猫娘「実力派の権威あるギルドってありませんか」

オッサン「...そうだなぁ。国家御用達の『カノン』っていうギルドがある」

オッサン「実力派が揃ってると思うし、国家と癒着してるっていう噂もある」

オッサン「ってかほぼ確実にそうなんだが。だからそういう類の権威は最もあるギルドだ」

猫娘「なるほど。感謝する」

彼の言うには都市の西側にそのギルドはあるという
彼女の現在地は南側なので、北西を目指して移動しなければならない
その気になれば身軽に動ける彼女にとって交通ルールの遵守とは大変窮屈なことであった
だからと言って動かない彼女ではないが

彼女が信号で歩みを止めると、後ろから声をかけられる


警察「ようねーちゃん」

猫娘「何?」

警察「ねーちゃん、獣人だろう?任意同行頼むぜ」

猫娘「...手短によろしく」


何故バレたのだろう
目の前の男はそこまでの使い手には見えない
では外部からのタレコミがあったと見るべきだが、この広い都市では誰の仕業かなんて見当もつかない
とにかく、同行するしかない

~交番~


警察「それでねーちゃん」

猫娘「なんだ」

警察「この都市じゃあ獣人の扱いが悪いのは知っているだろ」

猫娘「...」

警察「通報があれば俺は動かなきゃならないし後は魔女裁判だ」

警察「だからせめて穏便に捕まってくれねぇか?」

流石の彼女もこれほど扱いが悪いとは思っていなかったようだ
どうすべきかと思索し、答えあぐねている


猫娘「...」

警察「逮捕状を取るのに時間はとらな...うっ!?」


煙幕が張られたが、彼女の手によるものではないため彼女も同様に困惑していた
すかさず手が差しのべられる


???「手を取って!逃げましょう!」

猫娘「...いいでしょう」


ここまでお膳立てするような奴の言うことを聞かぬ手はない
そう判断した彼女はその手に連れられていく

しばらく走り回り、そいつはマンホールの蓋を開け飛び込んだ
衛生もへったくれもない奴だと思いながら猫娘もまた飛び込んだ


???「怪我はないかな?」

猫娘「...ああ。助けてくれて感謝する」

???「...まぁ、これで君も追われる身というわけだね」

猫娘「仕方あるまい。ところでお前、名前は?」

???「マリリン・マンソンよ皆はマンソンと呼ぶわ」

猫娘 「えっマンソン!ちょっとまってあのマンソンさんなの!!顔がやけに白いとは思ってたけど」

>>16



???「申し遅れたね。ボクは『エリク』と呼ばれている」

猫娘「エリクさんでいいのね」

エリク「そうそう。君は?」

猫娘「猫娘よ」

エリク「......?それは名前なの?」

猫娘「言われて見れば確かに妙ね。でも師匠にはそう呼ばれていたわ」

エリクは猫娘と同様に外套を纏っていた
それは思い出したことであって、マンホール内が暗いため今は視認できない
マンホール内はそこそこ広く、しかし人の気配は感じられない


エリク「これも言い忘れたが、ボクはレジスタンスだ」

猫娘「レジスタンス?何が目的の集団なの?」

エリク「国家...というより、現政権の転覆だね」

???「エリク。お前すごい勢いで機密を喋っているがその女は信用に足りるのか」

エリク「レッドか......お前は本当に気配を隠すのがうまいな」

エリク「それで、猫娘のことだが彼女は信用できる。彼女は獣人だからな」

レッド「ふむ、まあいいだろう」

エリク「で、猫娘。レジスタンスに入る気はないかい」

猫娘「......」

レッド「迷っているようだな」

エリク「何か別の目的があるようだね?」

猫娘「私は、師匠に認められるような活躍をするためにここまで来た」

レッド「政権転覆はショボい誉れかね?」

エリク「おいおい、意地悪な言い種だな。加入する気があるならもう一度ボクの手を取るんだ」


エリクは右手を差し出した
彼女が手を取るべきか考えていると右手が動き出した
跳ねるように痙攣し、ぴょこぴょこという音が聞こえてきそうだ
彼女は猫の本能でその手を取った


猫娘「......はっ!」

レッド「決まりだな。それではエリクも人のことを言えんぞ」

エリク「はっはっは、それじゃあ作戦会議を始めるよ。ホワイトボードも用意できてないけどね」


レッドはやれやれとでも言いたげな様子で黙ってしまった
猫娘もひとまずエリクの作戦会議に混ざることとなった


エリク「今回は『邪眼』の暗殺計画について」

猫娘「邪眼?」

エリク「さっきの様子じゃ、君も邪眼に会ってるね」

猫娘「私は変な目をした奴には会っていないが」

エリク「ああいや、彼は両面を包帯で隠しているんだ」

猫娘「......あいつかぁ」

エリク「といっても君は人を殺したことがなさそうだ」

猫娘「ええ。ですので、邪眼を殺すメリットを教えて下さい」

エリク「彼は透視魔法の使い手だ。気が狂ったのか知らんがそれだけをひたすら修行した」

猫娘「話が見えてきました」

エリク「それが彼が邪眼と呼ばれる理由だ。そして彼に出くわした瞬間あらゆる隠密行動が無意味になる」

猫娘「少数で行動するなら隠密行動を心がけるべきだからこそ、彼は早めに殺した方が良いと?」

エリク「ご名答。なかなか冴えているね。ボクの目は間違っていなかった」

猫娘「どうやって彼に会うんですか?都市はあまりにも広い」

エリク「露骨に隠密行動を行えば良い」

猫娘「矛盾していませんか?」

エリク「いかにも今から騒ぎに乗じて何かしますよっていう状況を作ればいいんだよ」

猫娘「そのための作戦という訳ですね」

エリク「そうとも。ここは町の西側」

猫娘「はい」

エリク「そしてボクが北側、レッドが南側に爆弾を仕掛ける」

猫娘「もちろんここにもですね」

エリク「話の早い女だ。すると東側から何か来るんじゃないかと思う訳だ」

猫娘「そこに邪眼が来ると読んだ訳ですね」

エリク「ということで、暗殺は君に依頼したい」

猫娘「......え、私ですか?」

エリク「君は結構強そうだ」

猫娘「私なんてまだ駆け出しの魔導士ですよ」

エリク「なら腕試し......といきたい所だが、ボクの戦闘は指標にならない搦め手だからね」

猫娘「何にせよ、やらなければならないならやります」

エリク「頼もしいな」

猫娘「ただ、そうですね。ナイフを二本貸して下さい」

エリク「だそうだ。レッド持ってる?」

レッド「あるが」

猫娘「ありがとうございます」

エリク「決行は翌日だ。とりあえず今日は敵に見つからないことを祈って休むぞ」

猫娘「この薄暗いマンホールの中でですか?」

エリク「まさか。ボクだって願い下げだよ」

猫娘「ではどうやって?」

エリク「空いてる宿屋の部屋の鍵を盗む。一階が空いてればの話だけどね」

猫娘「そんな足の付くようなことするんですか?」

エリク「ボクは向いてるからね。ひとまずついておいでよ。レッドも」

エリク「この角を曲がれば宿屋だ。ついてきてくれ」

猫娘「ああ」

レッド「...」


角を曲がり、宿屋の前に立つ
あまり大きくはないが、小綺麗な宿屋である
しかしエリクの姿はそこには無かった


猫娘「あれ、エリクさんは」

レッド「待ってろ。じきに来る」

すると、入り口右の部屋の窓が開く


エリク「よし。じゃあ窓から上がって」

猫娘「...テレポーテーション?」

レッド「見られたら事だ。考えるのは中に入ってからにするんだな」


窓際に飾られた綺麗なポピーをどかして体をねじこむ
レッドはかなりガタイが良い為、偉そうなことを言っていた割に時間がかかった

エリク「もう日も落ちてきたし、寝るとしよう」

猫娘「ここに人が入ってくる可能性は?」

エリク「ありうる」

猫娘「どうするんですか?」

エリク「ボクが見張りをする。といっても深夜から利用する客なんていないだろうし深夜にはボクも寝る」

猫娘「ですが一人に見張りを押し付けるのはあまり気分がよくありません」

エリク「君は明日特に重要な役割を担う人材だ。その上初陣だから君は寝た方が良い」

猫娘「...分かりました」

都会に慣れておらず疲れたのだろう。明日は迅速にやって来た
夜行性からヒトの暮らしに調教されたその体は陽を浴びて目覚める


猫娘「...やりますか」

エリク「ok、じゃあレッド、行くぞ」

レッド「承知した」


二人は速やかに去っていった


猫娘「私も東に潜伏せねば」

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