――おしゃれなカフェ――
高森藍子「~~~♪」
北条加蓮「……」
藍子「~~~~♪」
加蓮「…………」
藍子「~~~~~~♪♪♪」
加蓮「……事務所でやったら?」
藍子「~~~~、え?」チラ
藍子「わあっ!?」
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レンアイカフェテラスシリーズ第81話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「七夕のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「ひまわり畑のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「7月24日の23時にて」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で ろっかいめ」
藍子「か、加蓮ちゃん来てたんですか!?」
加蓮「うん。だいたい……5分くらい前からかなぁ」チラ
藍子「5分前!? え、じゃあ5分の間、何をして――」
加蓮「ファンレターを読むのに夢中で全然気付いてくれない藍子ちゃんをじーっと見てたよ?」
藍子「やっぱりっ!」
加蓮「いやぁ、一流のアイドルさんは今日もご機嫌だね?」
藍子「うぅ、そ、そんな言い方……」
加蓮「嬉しくないの? アイドルだからできることで、すごいアイドルだからファンレターが届くんだよ?」
藍子「……嬉しいかもしれませんけどっ。そんな言い方はその……。いじわる!」
加蓮「くくっ。鼻歌とか歌って、足とかぱたぱたさせちゃって?」
藍子「いじわる~っ!」
加蓮「向かい側に知り合いが座っても気づかないくらいに、ファンレター何回も読み直してたよね。全部読み直したら、また最初の人のから」
藍子「うううううっ……!」
加蓮「ふふっ。ちょっと言いすぎちゃったかな? 顔、真っ赤だよ」
藍子「……もうっ。あと、加蓮ちゃんは知り合いじゃないです」
加蓮「へ? え、記憶でもなくしたの?」
藍子「え?」
加蓮「……私のこと覚えてる? 生まれ変わる前、崩れ落ちるる建物の下で約束したよね。来世は幸せになろうって――」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「してないけど、っていうか知らないけど」
藍子「そうでしょうね……」
藍子「私が言いたかったのは、加蓮ちゃんはただの知り合いじゃなくて」
加蓮「知り合いじゃなくて」
藍子「加蓮ちゃんは――」
藍子「……」
藍子「…………加蓮ちゃんです」
加蓮「えー……。何を言ってくれるかなーって、ちょっぴり期待してたのに」
藍子「ごめんなさい。加蓮ちゃんの顔を見たら、他の言葉を思い浮かべようとしても、あ、加蓮ちゃんだ、ってなっちゃいましたっ」
加蓮「……ふふ。そっか」
藍子「加蓮ちゃんの紹介を他の人にすることなら、いっぱいできると思います。でも、加蓮ちゃんには難しいですね」
加蓮「気持ちは分かるけど、それでも何か言ってほしかったな? 藍子にとって今の私が何なのか、って」
藍子「では、次に会う時までに考えて来ますね♪」
加蓮「んー……。ん」
藍子「……照れくさいからって、逃げちゃダメですよ?」
加蓮「先回りするのやめよ?」
藍子「さっきのお返しですっ。えへへっ」
<カランコローン
<リィ-ン♪
藍子「あ、お客さんだ」
加蓮「風鈴の音……。鐘の音の後に響くようになってるんだよね。あれ、どうやってるんだろ」
藍子「う~ん。音がズレて鳴るように、工夫して置いてみた……とか?」
加蓮「やってできることなのかな……。遠目からじゃちょっとよく分かんないかも」
藍子「見に行ってみますか?」
加蓮「いいよー。あの辺すっごい暑いし。モワッとするし。涼しくなってからでいいよ」
藍子「それもそうですね。……でも、今日の気温で涼しくなるのって、だいぶん遅くなってからですよね?」
加蓮「最近は夜でも暑いもんね……。あぁ、もしかして藍子って何か予定でもある? 遅くなったらマズイとか?」
藍子「ううん、予定はありませんよ。ありませんけれど……」
加蓮「?」
藍子「……ええと。今日は歩いて帰りたい気分なので、あんまり遅くならないうちに帰りたいな~、なんて」
加蓮「??? 変なの。よりによって暑い日じゃなくてもいいでしょ」
藍子「あ、暑い日にこそ見つかる何かがあるかもしれないじゃないですか!」
加蓮「ふうん? じゃ教えてよ」
藍子「……」
藍子「…………」
藍子「………………」
加蓮「……」ヤレヤレ
加蓮「ちなみに私は垂れてきたソフトクリームを思いついたかな。この前やっちゃったんだけどさー。たまたまネイルしてない日で助かったよ」
藍子「ソフトクリームもアイスクリームも、すぐ溶けちゃいますよね。コンビニで買った時には、早歩きで事務所や家に帰らないと……」
加蓮「外で食べたらすぐ溶けちゃいそうだよね。藍子の場合は特に」
藍子「あはは……」
加蓮「食べさせてあげよっか?」
藍子「へ?」
加蓮「外で食べるアイスも美味しいよ。食べさせてあげよっか」
藍子「美味しいなら、食べてみたいですけれど……。食べさせてくれるって、どうやって?」
加蓮「どうやって……」
加蓮「……」
加蓮「どうやって?」
藍子「加蓮ちゃんだって、人のこと笑えないじゃないですか~っ」
加蓮「わ、笑ってないし。別に、今日も藍子はアホだなーとか、頭パッションだなーとか呆れただけだし!」
藍子「もっとひどくなってる!」
加蓮「そうやって脅すんだったら強硬手段に出るわよ。アイスいっぱいに頬張って藍子に迫るわよ。無理矢理食べさせるわよ。やっていいの!?」
藍子「ええっと……。それってひょっとして、……口移し、ってつもりで言っていますか?」
加蓮「そーだけど!?」
藍子「そうですよね……。それは……ち、ちょっと困っちゃうかも?」アハハ
加蓮「……」ジー
藍子「……えと」
加蓮「……」ジィー
藍子「そ、そうだ。暑いと言えば、動物さん達が水をほしがっていたり、日陰で丸まっていたりしますよね」
藍子「だけど、カメラを向けたらいつも逃げられちゃうんです。加蓮ちゃん、何かいい方法ってありませんか?」
加蓮「……。マタタビでも投げとけば?」ブスー
藍子「あぁ~……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「で、結局歩いて帰りたい理由って何? どうせお散歩じゃないんでしょ」
藍子「それは……。お母さんが」
加蓮「藍子のお母さんが」
藍子「怒られちゃいました」
加蓮「……藍子のお母さんが怒られて、藍子は歩いて帰ることにしたの??」
藍子「あっ、違います。言葉足らずでしたね」
藍子「この前お話しましたけれど、最近、私がお母さんに連絡して、車で迎えに来てもらってばかりでしたよね」
加蓮「したねー」
藍子「そのことで、お母さんに……」
加蓮「怒られたんだー?」
藍子「怒られちゃいました」シュン
加蓮「珍しいね。藍子が誰かに怒られるなんて」
藍子「そうかもしれませんね。いつも、加蓮ちゃんに怒られてばっかりですからっ」
加蓮「おっ?」
藍子「……怒られてばっかりです」
加蓮「そうだね?」
藍子「……怒られてばっかりなんですよ?」
加蓮「うんうん」
藍子「…………」プクー
加蓮「あははっ。もうちょっと拗ねたフリとかすればいいのに」
藍子「本当のことを言うと、お母さんにはよく怒られちゃいます。もっと早くしなさい、とか、もっと手際よくやりなさい、なんて」
加蓮「あー」
藍子「でも、その後にお母さん、いつも手伝ってくれるんですよ。しょうがないな~、って」
藍子「……ふふ。そういえば、しょうがないなって言う時のお母さんの顔、加蓮ちゃんがよく見せてくれる顔に似てたかも?」
加蓮「何それー。私は藍子のお母さん?」
藍子「加蓮ちゃんは、加蓮ちゃんです。ときどき、私のお姉ちゃんだけど、加蓮ちゃんは加蓮ちゃんっ」
加蓮「ったく。都合がいいんだからさぁ。この前、それは嫌だー、とか拗らせてなかった?」
藍子「……。加蓮お姉ちゃんっ♪」
加蓮「……」ペシ
藍子「あたっ」
藍子「お母さんから、罰として夏休みの間、家の手伝いをしなさいって言われてしまいました。いつもお母さんにお願いしていたから、今度は私が手伝う番だ、って」
加蓮「あはははっ! ま、夏休みの間だけでいいならいいんじゃない? 私達は年中だし」
加蓮「それに家の手伝いって、藍子、得意そうじゃん。掃除とか料理とかでしょ? 藍子なら楽勝だって。うんうん――」
藍子「それから、ときどき加蓮ちゃんも呼びなさいって」
加蓮「……うん?」
藍子「ということで加蓮ちゃん。今日、予定がなかったらうちに来てくださいっ」
加蓮「はい??」
藍子「私が来てほしいんじゃなくて、お母さんが言ったことなので、これは仕方がないことなんです」
藍子「あ、でも、私もお泊り会はしたいし……。加蓮ちゃんと一緒に、寝るまでお喋りしたいから、その……」
藍子「えへ♪」
加蓮「……まずそのやたらと可愛いツンデレはどうなのよ。ツンデレってもっとこう、ムキになったり、キレたりするものでしょ」
藍子「?」
加蓮「奈緒を見習いなさい奈緒を。私達が弄る。奈緒がムキになる。それを見て、私達が弄る」
加蓮「そのバランスがあって、私達はトライアドプリムスなんだから!」
藍子「加蓮ちゃん……」
藍子「……そのセリフは、もうちょっと格好いいお話をした時に使った方がいいと思いますよ?」
加蓮「だよねー」グデー
加蓮「前に同じこと凛に言ったら凛に怒られた。『加蓮。冗談で済ませていい事と、そうじゃない話ってあるよね?』って。マジ顔だった」
藍子「あ~……」
加蓮「さすがにちょっと反省した」
加蓮「……凛も真面目すぎー、って思ったけど、言われてみたら私だって、誰かからそういう風にからかわれたらキレちゃうかもなぁ」
藍子「凛ちゃんも、加蓮ちゃんも、誇りを持っているんですね」
加蓮「改めて言われるとそういうのちょっと照れちゃうね……。藍子はこういうプライドが高いバカになっちゃダメだよー?」
藍子「ふふっ。は~い♪」
加蓮「……」ゲシ
藍子「いたいっ」
加蓮「ま、トラプリはともかく、とりあえず藍子は今日からツンデレってことで――」
藍子「違います」
加蓮「奈緒と並べて、どっちが先にデレるかっていうバトルを――」
藍子「しませんっ」
加蓮「ふふっ。ま、さっきの藍子じゃないけど、藍子は藍子だもんね。奈緒は奈緒で、凛は凛で、それで、藍子は藍子っ」
加蓮「藍子の意外なツンデレは、私だけが知ってるってことで♪」
藍子「……、」
藍子「……へ、へえ~っ。加蓮ちゃんにとって、私、ってそういう感じだったんですねぇ~……」
加蓮「は?」
藍子「へ、へへえぇ~」
加蓮「……………………アンタ、それさっきの私の真似のつもり?」
藍子「い、一応……」
加蓮「口の端上がりまくってるけど? 声、ものすっごい裏返ってるし。なんか女王様に跪いてる情けない人みたいな声になってるし」
藍子「……やっぱり、こういう演技は私には難しいみたいですね」
加蓮「そもそもなんでやろうとしたの……」
藍子「お返しですもんっ」
加蓮「はいはい。大好きな人大好きな人。これでいい?」
藍子「!」パアァ
藍子「加蓮ちゃん。私もっ――」
藍子「……」
加蓮「……?」
藍子「……ちょっと前まで、加蓮ちゃん、好きって言うことに照れていましたよね」
加蓮「……だからどしたの」
藍子「あの加蓮ちゃんも、可愛かったのに。もう、あの頃の加蓮ちゃんはいないんですね……」
加蓮「…………」ゲシゲシゲシゲシ
藍子「いたいいたいいたいっ、連続で蹴らないでくださいっ」
……。
…………。
加蓮「言っとくけど、私家事とかできないから」
藍子「また堂々と……」
加蓮「料理したら台所が爆発するわよ。掃除したらする前より汚くなるよ」
藍子「それでもいい、って、お母さん言っていました」
加蓮「良くないでしょ。……って、私が家事まともにしないってことを藍子のお母さんは知ってるの?」
藍子「私が話しちゃいまし――待って加蓮ちゃん、蹴ろうとしないで! さっきつま先で蹴られた時の、今もけっこう痛いんですっ」
加蓮「ほーう。他に何を言ったか洗いざらい吐きなさい。今すぐ」(頬杖をつき軽く身を乗り出す)
藍子「ほ、他にっ。他に、って言われても……。ええと、あれと、あれと……」ユビオリカゾエ
加蓮「何個あるの……」
藍子「それではまず、加蓮ちゃんと初めて大げんかした日、帰った後でお話したことを――」
加蓮「誰が具体的に話せって言ったー!」
藍子「……それもそうですよね。お母さんにお話した加蓮ちゃんのことを、ぜんぶ挙げていったら、カフェの閉店時間になってしまいます」
加蓮「だからそれホントにどんだけあるの!?」
藍子「でも確かに、カフェの閉店時間になっても足りないくらいにいっぱい――」
藍子「待ってっ、チョップしようとしないで!」ガード!
加蓮「アンタね……。いや、もう今さらっていうか、モバP(以下「P」)さんにも話してるんだろうけどさぁ……」
藍子「Pさんからは、私の知らない加蓮ちゃんのことをお返しに教えてもらってます」
加蓮「知ってる……。明らかにそういうネタ混じってるし……」
藍子「お母さんも、私の知らない加蓮ちゃんのこととか何か知らないかなぁ……」
加蓮「……案外あるかも? アンタのとこに何回も泊まって、藍子のお母さんとも何回も話してるから」
藍子「帰ったら、いっぱい聞かなきゃっ」
藍子「でも……。もしお母さんがまだ怒っていたら、教えてくれないかな……?」
藍子「加蓮ちゃん。こういう時、上手く聞き出す方法って何かないんですか? 教えてくださ――」
加蓮「教えると思う?」ギロ
藍子「……あ、あは」
加蓮「ったく……」
加蓮「……まぁ、そこまで悪い気はしないんだけどね」
加蓮「私の知ってる世界の中に、私の知らないことがある。ホントならそれって、すぐ近くに歩けないくらいの霧があるみたいで、嫌なことなのに……」
加蓮「それが"私のことをどれくらい知ってくれているんだろう"なんて内容だなんて」
加蓮「なんだか、贅沢な悩み事。……ほんのちょっぴりモヤモヤはあるけど、でも嫌って程じゃないかな」
加蓮「逆に楽しみに思えちゃうかも。"あなたは私のことをどう思ってますか?"って……。つい、聞いてしまいそう」
加蓮「ふふっ。なんて、そんなこといきなり言い出したらただのウザいヤツだし、やらないけどさ――」
藍子「…………」
加蓮「……。何」
藍子「ううんっ。なんでもないです♪」
加蓮「なんか楽しそうじゃん、藍子。私1人だけシリアスモードにさせといて」
藍子「シリアスって言っても、加蓮ちゃんだってすっごく楽しそう! お話に惹き込まれていなかったら、思わず写真を撮っちゃうところでした」
加蓮「そっか。ってことは? それだけ加蓮ちゃんの話が面白かったってことー?」ニヤニヤ
藍子「そういうことですねっ」
加蓮「わーい」グデー
藍子「加蓮ちゃん。聞いてみても、いいと思いますよ」
加蓮「……あなたは私のことをー、なんて? ウザいでしょ」グデー
藍子「確かに、急に聞かれてしまったら困惑してしまうかもしれませんけれど、私のお母さんも、Pさんも、きっと嬉しそうに答えてくれると思います」
加蓮「そりゃまー……。その2人ならいい、のかなぁ……。でもウザいって思われるのも嫌だし」
藍子「もう。そこまで言うなら、代わりの楽しいことを見つけましょうね?」
加蓮「はいはい――って、え? 私、今藍子に誘導された?」
藍子「誘導?」
加蓮「しかもこの子無自覚かっ……!」
加蓮「はぁ……。もしかしたら気が変わるかもしれないから、その時は藍子、付き合ってよ?」
藍子「は~い。あっ、そうだ! あらかじめ、加蓮ちゃんが聞きたがっていたことを伝えておけば、いきなりって思われないかもしれません」
加蓮「あー。なんかズルっぽいけど、それもいっか」
藍子「では早速、お母さんに連絡を――」
加蓮「待てこら」ガシ
藍子「わ」
加蓮「あのね。もしかしたら気が変わるかもしれないからその時は……って言ったでしょ?」
藍子「え~。せっかく思いついたんですから、今からやりませんか?」
加蓮「やだ。藍子のそういうパッションなとこは……今だけ素直にすごいって思ってあげるから。でもやだ」
藍子「……、」
加蓮「ね?」
藍子「……しょうがないですね~。じゃあ、代わりの楽しいことを――」
加蓮「それはさっきも言ったでしょうが!」ベシ
藍子「いたいっ」
□ ■ □ ■ □
加蓮「注文すらしてなかったね」
藍子「そうでしたね……。すっかり、お話に夢中になっていました」
加蓮「気付いたらお水も飲みきっちゃったし。元はと言えば、藍子ちゃんがファンレターに夢中になってたところからなんだけどねー?」
藍子「ううっ。その……。待っている間に、読みたいな、って思っちゃったから――」
加蓮「鞄の中に入れてたの?」
藍子「はい。今日、事務所に行った時に、Pさんから受け取ったんです」
藍子「最近は、メールやネットでファンレターをいただくことも増えてきましたけれど……」
藍子「こうして紙で頂いたら、なんだかファンの皆さんのこと、より近くで感じられる気がして。なんだか嬉しいですっ」
加蓮「ちょっと分かるかも。なんていうんだろ、あったかいんだよね」
藍子「温かいですよねっ」
加蓮「ねー」
藍子「暑い夏でも、こういう暖かさなら大歓迎です!」
加蓮「そうそう。ついニヤニヤして――って、だから注文っ」
藍子「加蓮ちゃんも、そういう時はにやにやしてしまうんですね♪」
加蓮「ああもうっいちいち突っ込んで来なくていいから! 私アイスソーダ。藍子は?」
藍子「私も、今日はちょっぴり炭酸を飲んでみたい気分かも?」
加蓮「珍し。すみませー――って」
藍子「店員さん、他のお客さんの対応をされていますね……」
加蓮「今更だけどここって他の店員はいないの?」
藍子「いないみたいですよ。前に気になって聞いたことがあるんですけれど、いつもの店員さんと、店長さんだけだって」
藍子「店長さんは、厨房の方にいることが多いそうですから……」
加蓮「確かに店長の顔なんてほとんど見たことないかも。まぁ大きいカフェって訳でもないし、大丈夫なのかな」
藍子「今でも、穴場の場所のままですよね。ここ」
加蓮「そうだね。……人混みに疲れた時に、つい思い浮かべちゃうんだよね。ここ」
加蓮「事務所はいつも賑やかだけど、たまにそれが嫌になっちゃうことがあるし」
藍子「嫌になっちゃうんですか……? その――」
加蓮「あ、ごめんごめん。そこまで重い話じゃなくてさっ」
藍子「ほっ」
加蓮「ただ、ちょっと疲れちゃうことがあるんだよね。藍子はそーいう時ってない?」
藍子「う~ん……」
加蓮「……うん。だよね」
藍子「でも、ときどき1人で歩きたくなる時はありますよ。そういう時を思い浮かべれば……。加蓮ちゃんの気持ち、少しだけ分かります」
加蓮「ありがと。みんなの中に入ってワイワイ騒ぐのも、未央と一緒にパーティー計画を立ててる時も、楽しいことは楽しいけど――」
加蓮「……っと。藍子ちゃん的にはこの話はNGなんだったっけー?」
藍子「もうっ。からかわないでくださいよ……」
加蓮「くくくっ」
加蓮「でも輪の中から出たくなっても、1人になりたいって思うことはほとんどないかな」
加蓮「慣れちゃった。藍子と……ううん、藍子とだけ一緒にいる、ここでの時間」
加蓮「だからさ。静かな場所に行きたい時、ここを思い浮かべて……でも、1人で行こうって気には、もう全然ならなくて」
加蓮「藍子のいないこの場所なんて、音がするだけの場所だもん」
藍子「加蓮ちゃん……」
加蓮「でもさー? そーいう時に限って、藍子ちゃんってば未央や茜といちゃいちゃしてて? 転んでる歌鈴に手を差し伸べちゃったりして? Pさんと楽しそうにお喋りはするし?」
藍子「……ふふっ。加蓮ちゃん、私が誰とお話していても、平気じゃなかったんですか?」
加蓮「あーそうだった。うん。そういう設定だった」
藍子「設定?」
加蓮「じゃあ、そういう仮面」
藍子「強がりさんのかぶる、丈夫ではない仮面」
加蓮「かぶってると落ち着いちゃうのは、昔からの悪い癖」
藍子「でも大丈夫。加蓮ちゃんの素顔を知っている方は、この世界にいっぱいいますから――」
加蓮「……」
藍子「……ね♪」
加蓮「はいはい。ほら、店員さんが来てるよ」
藍子「あ、本当ですね。こんにちは、店員さん。はい、注文ですっ。私も加蓮ちゃんも、アイスソーダで!」
加蓮(……? 店員さん、やっぱり何か思い悩んでる……?)
藍子「小さいサイズのものもあるんですか? では、私はそれでお願いします」
加蓮「お願いねー。っと、またお客さんが入ってきた」
藍子「なんだか今日は大盛況のような……? 制服姿のお客さんが多いですね~」
加蓮「そっか。今って夏休みなんだよね」
藍子「加蓮ちゃん。私も加蓮ちゃんも、高校生じゃないですか」
加蓮「そうなんだけど……。最近、また忙しかったからかな。ピンと来なくて」
加蓮「あはは。おばちゃんみたいなこと言っちゃった?」
藍子「……ちょっぴりだけ?」
加蓮「うぇー」
藍子「アイスソーダだから、セーフですっ」
加蓮「?」
藍子「セーフですっ」
加蓮「う、うん……いや、どゆこと?」
……。
…………。
「「いただきます。」」
加蓮「……」ゴクゴク
藍子「……」ゴク...
藍子「すっぱいっ」
加蓮「ふうっ。んーーーっ! 夏! って感じっ」
藍子「加蓮ちゃん、加蓮ちゃん。夏休みですよ! ほらほら、夏休み」
加蓮「夏休みだねっ。そう言えば私、先週に宿題全部終わらせたんだったっけ」
藍子「先週に宿題を……え、ぜんぶ!?」
加蓮「うん全部。日記系のは裕子ちゃんに未来予知をしてもらってそれを参考に」
藍子「未来予知!?」
加蓮「藍子もしてもらったら? ほら……前の公演で一緒だった、占い好きの子にでも頼んで」
藍子「朋さんのことですか? でも、朋さんが好きなのは占いで、未来を視れる訳ではないと思いますよ」
加蓮「うちの事務所の子なら大丈夫!」
藍子「すごい信頼ですね……」
加蓮「あ、でも裕子ちゃん、私がステージで歌ってるとしか言ってくれなかったから、結局そんなに参考にならなかったけど」
藍子「あはは……。それなら、私でも予知できてしまいそうです」
加蓮「宿題終わらせて遊ぶぞー! とか決めてた筈なんだけどなぁ……。それからずっと事務所でレッスンばっかりしてたよ。なんでこうなってるんだろ?」
藍子「そういえばトレーナーさんが、加蓮ちゃんが頑張っているからレッスンを少し詰めようってお話していた気が――」
加蓮「やだ! 私今日から夏休みやるから!」
藍子「それなら、いっぱい遊びに行っちゃいましょうっ」
加蓮「どこ行こっかなー。やっぱり夏服はもっと探したいし、何なら秋服まで手を伸ばしてもいいよね。あと行ったことないネイルサロンと、そういえばいつものジャンクフードで新商品が――」
藍子「でも、今日は私の家に来て、私と一緒にお母さんを手伝ってあげる日ですからね?」
加蓮「…………そうでしたね」
藍子「ああっ。一瞬で加蓮ちゃんの目が濁って……」
加蓮「藍子」
藍子「は、はい」
加蓮「私にやらせたらキッチンが爆発するわよ。服が何着か駄目になるし、藍子が大切にしてる小物とか掃除機に吸われてゴミまみれになるのよ。それでも本当にいいの!?」
藍子「確かに、それはどれも嫌ですね……」
加蓮「でしょ!? だったら、」
藍子「ということで加蓮ちゃん。今日は、うちに来てくださいね」
加蓮「……………………」ヒクッ
藍子「ね?」
加蓮「……はぁい」
藍子「せっかくだから、夏休みの間に料理の練習をしてみますか?」
藍子「簡単な料理と言えば、お味噌汁と、カレーと、あと……」
藍子「あ、そうそうっ! サンドイッチ! 作ってもらうって約束なのに、まだ作ってもらっていませんよ?」
加蓮「はあ? あれは前にやったじゃん。カフェLIVEの時だっけ? あの後に」
藍子「あれは、私と加蓮ちゃんと、加蓮ちゃんのお母さんで作ったサンドイッチです。私がほしいのは、加蓮ちゃんのサンドイッチですっ」
加蓮「ぐぬぬ……。いや、藍子。こう考えてみなさい」
加蓮「今の私は独りじゃない。大切な人達がいて成り立ってるの」
加蓮「馬鹿で捻くれ者の私を育ててくれた親がいて、こうして私と向かい合ってくれる藍子がいて――」
加蓮「そういう周りの人がいて、私って存在がここにいる。ってことは、そんな人達と作ったサンドイッチは、実質"加蓮ちゃんのサンドイッチ"でしょ!」
藍子「加蓮ちゃん……!」
藍子「……だから、そういう格好いいことは、もっと別の時に言った方がいいと思います」
加蓮「やっぱりそうだよねー。途中で気付いてた」グデー
藍子「くすっ。加蓮ちゃん、途中で"あれっ?"って顔をしていましたよね」
加蓮「ホントすぐ見抜くね藍子は」
藍子「サンドイッチ、作ってくださいね? ちゃんと、ゆで卵を作ったり、きゅうりを切ったりするところから!」
加蓮「うえぇー……。藍子なんてもっとお母さんに怒られちゃえ……」
……。
…………。
藍子「お話していたら、もう5時になってしまいました」
加蓮「藍子から気づくなんて珍しいね」
藍子「当然です。今日は、加蓮ちゃんを家に連れて帰らないといけませんから!」
加蓮「……なんでこの子こんなことにパッション燃やしてんの」
加蓮「はぁ。ホントどうなっても知らないからね?」
藍子「お母さんには連絡しておきました。お母さんも、分からないことやできないことがあったら教えてあげる、って言っていますよ」
加蓮「こんなことになるならうちのお母さんに聞いとけばよかったなー……。しょうがない、行こっか」
藍子「は~い」スクッ
>>36 下から2行目の加蓮のセリフを一部修正させてください。
誤:「こんなことになるならうちのお母さんに聞いとけばよかったなー……
正:「こんなことになるなら、うちのお母さんに素直に教えてもらっておけばよかったなー……
加蓮「レジ……。いないね」
藍子「また、別のお客さんの対応をされているみたいですね。……わっ。この雑誌、私がこの前書かせてもらったコラムのだ」
加蓮「どれどれ?」パラパラ
藍子「探さないで~っ。か、帰ったら渡しますから。見本ありますからっ」
加蓮「ふふっ。お、店員さん。待ったよー」
藍子「加蓮ちゃんっ。……そんなに待っていないから、気にしないでくださいね?」
藍子「はい。お会計を――。……店員さん?」
加蓮「ぼーっとしてるけど。熱中症?」
……。
藍子「……え? 私に頼み事、ですか?」
加蓮「カフェの宣伝って……。……なんで今更?」
藍子「大々的にじゃなくて、ほんのちょっぴりだけ? ……探している人がいる、ですか?」
加蓮「ふうん……?」
【おしまい】
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