【シャニマス】摩美々「ナッキンコールにありがとー」 (81)

投稿久々なんでミスったらごめんなさい

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 初秋の青空。
 そこに、紙のように薄っぺらな月が浮かんでいる。


 それをぼんやり眺めながら、私は缶ジュースを飲んでいた。
 公園をさらさらと抜ける風が気持ち良い。朝が早かったこともあって、だんだん眠くなり始めていた。


「おーい、摩美々!」


 見慣れた『大人』が駆け寄ってくるのに気付いたのは、そんな時。にやけそうになる口元を苦労して抑える。

 暇潰し相手……発見。




「あ、プロデューサー。どうですかー?」

「どうも機材の調子が悪いらしい。もうちょっと待っててくれ」


 頭を掻きながら彼は応える。自分のせいでもないのに、申し訳なさそうに言うのがおかしかった。


「えー。プロデューサー、カメラ壊しちゃったんじゃないですかぁ……ふふー」

「い、いやいやいや! 指一本触れてないからな、本当だぞ!?」


 慌てて弁解するのを見て笑いが堪えきれなくなる。
 全く、何でも真に受けるんだから。



「これは撮影、長引きそうですねー」

「そうなるかもなあ。寒くないか?」

「いや、別にぃ」

「そうか……何か食べたいものとかは?」

「……? お腹も空いてませんよー」

「そ、そうか──コンビニで雑誌とか買ってこようか!?」

「ちょっ……なんですかぁ、大丈夫ですってー」

「なんか、待たせて悪いと思ってさ」


 苦笑いする彼に溜め息を吐きそうになる。我慢しているのはこの人も一緒なのに。お人好しが過ぎるなぁ。


 手持ち無沙汰になったのか、彼は私と同じようにパイプ椅子に腰掛けて溢した。


「なんで俺達の撮影ってこんな頻繁に、機材トラブル起きるかなぁ……」

「パウリ効果ですかねー」

「なんだそれ、どんな効果?」

「教えてあげませーん。ふふー」


 きょとんとしているプロデューサーの顔を見て、にまにましているとふと気付く。
 眠気なんて何処かに飛んでしまっていた。

 どうしてこの人といると、こんなに楽しいんだろう。


「──やっぱりー、お腹空いてきましたぁ」

「おぉ! そしたら何か買ってくるよ」

「まだまだ時間掛かるなら、どこか食べに行きましょうよー」

「え……抜け出すのか?」

「そこはぁ、パウリさんが交渉してきて下さーい」

「それ俺のこと!? ねぇどういう効果なの!!」

「さぁさぁ、頑張ってきて下さいパウリさんー……ふふふふ」




「案外あっさりオッケー貰えたな……」


 コーヒーカップにブラウンシュガーを落としながら、彼が呟く。


「それどころじゃない位、バタバタしてましたもんねー」


 そう返して私はチーズケーキを口にした。その甘酸っぱさに、頬の奥の方がキュッとした。

 監督におすすめされたカフェは、撮影場所の近くにあった。平日昼前の店内は静かで、ほっと息が漏れるような安心感がある。


 苺のタルトが人気だと教えて貰っていたので、チーズケーキを頼んだ。そんな私を見てプロデューサーは「ひねくれ者め」と笑ったけれど、彼が頼んだのはザッハトルテだった。
 人のこと言えないんだけど。


「プロデューサー。はい、あーん」


 フォークに一口分のチーズケーキを乗せて、プロデューサーの顔の前に突き出してみる。私の突飛な行動に、彼は目を白黒させた。


「えっ、いや摩美々? そういうのはほら」

「ごー、よーん、さーん、にぃ、いーち……」


 何の説明もしないまま私が始めたカウントダウンに、案の定彼は焦った。そして観念したように口を開く。

 胸がぎゅっとなるような喜びを感じながら、手に持つフォークを寄せた。


 ……彼の鼻の頭に。



「ぬおっ!!」


 そんな呻き声を聞きつつ、私はケーキを口にした。さっきよりも甘く感じるのはどうしてだろう。


「ふふふふ」

「お前なぁ、本当なぁ……」


 プロデューサーは恨みがましい眼を向けてくる。その鼻にはちょんと、苺のソースとチーズが付いていて、まるで映画の一場面のようにコミカルだった。


「ダメですよー、アイドルのあーんは高いんですよぉ?」

「摩美々がくれるって言ったんじゃないか」

「残念でしたぁ、ふふー」


 溜め息を吐きながら鼻を拭って、プロデューサーは言う。


「絶対いつか、ぎゃふんと言わせてや──」

「ぎゃふーん」

「え。ノータイムで言ってくれるのかよ……」


 二人の忍び笑いが、緩やかなカフェの空気にほどけていった。



 プロデューサーが電話をするために席を立ったので、私はぼうっと窓の外を眺めていた。
 そんな時、流れていた音楽が軽やかなジャズに変わる。

 彼が戻ってきたのは、それを聞いている最中だった。


「……ねー、プロデューサー」

「ん? どした」

「この曲、知ってますー?」


 店内でゆったりと泳いでいる曲。その空気の振動を指し示すように、指を宙に向けながら訊ねてみる。



 プロデューサーは確かめるように少しの間耳を澄ませてから、答えてくれた。


「『It is only a paper moon』だな。歌ってるのはナッキンコール」

「……意外ですー。ジャズ詳しいんですかー?」

「凄く有名な曲だからさ、たまたま知ってただけだよ」

「ふぅん……それでこれー、どんな歌詞なんですか?」

「気に入ったのか? これはな──」





 撮影場所の公園へ戻ると、福の神のように丸々とした監督が待っていた。いつも通りのにこやかな顔だけれど、その眉が今はハの字を描いている。


「ごめんなぁ摩美々ちゃん、P君……。今日中に復旧するの、無理だこれ」

「えぇっ、そんなに深刻なんですか!?」


 私の隣でプロデューサーがすっ頓狂な声を上げる。苦笑いをしたままの監督と少し引きつった表情の彼は、顔を突き合わせてバタバタと予定を組み直していた。



 途中、監督がもう一度私に向き直ってくる。


「いや本当に悪いなぁ、摩美々ちゃん。今朝も早かったろう?」

「仕方のないことですしねー。今回は許してあげましょー」

「あっこら、摩美々! 目上の方だぞ!」


 慌ててプロデューサーが注意するのも意に介さず、監督は安心したように目を細めた。


「許してくれて良かったよぉ。次はちゃんとするからね」


 この人も、お人好しが過ぎる。まるでどこかの誰かさんのようだ。


 そんな誰かさんは監督の後ろで私をじっとりと見ながら、口をパクパク動かした。

『お・せっ・きょ・う・だ!』

 もう……ちょっとした冗談じゃないですかー。



「そうしたら撮影は改めて、再来週の木曜でよろしくね」


 パタパタと手帳を捲って確認しながら、監督が言う。それを聞いて私は一瞬戸惑った。


「あれ。まみみ達は来週とかも、空いてますよー?」


 顔を上げた監督は、にんまり意味深な笑みを向けてくる。


「なーに言ってるんだい。来週は摩美々ちゃんの大事な『決勝戦』があるじゃないか。そっちに集中してもらわないとね」



「……監督、よく知ってますねー」

「うちのスタッフは全員、摩美々ちゃんのファンだからねぇ! みんなで応援にも行くよぉ!」

「本当に、お気遣いありがとうございます」


 きっちりと頭を下げるプロデューサーに対し、監督は慌てたように両手を振った。


「これくらい何でもないさ! 君達が頑張ってるのはよく分かってるからね、応援したくなるんだよね。精一杯やりきっておいで」

「ありがとうございまーす」


 感謝の言葉は自分でも驚くくらい自然に、私の口からするりとこぼれ出た。




  それはただのハリボテの月
  厚紙の海に浮かんでる

  でも君が信じてくれるなら、
  それはきっと偽物ではなくなるんだ




「──田中摩美々さん、"第二位"ですっ!!!」


 目の眩むようなスポットライトの中、司会者のその叫び声を聞いた瞬間。


 手足の先がすーっと冷えた。

 心臓が一回り縮んだみたいに感じる。

 目の前に広がる景色がまるで、モニター越しに見ているもののように思えて。


『あー……絶望って、こんな感覚のことを言うのかも』

 心の隅に残った僅かな理性で、私はそんなことを考えた。


 何もかもがバツンと断ち切られたような感覚。そのあまりの衝撃に、つい呆然としてしまっていた。



 差し出されたマイクを丸々一拍遅れてから、慌てて手にして言う。


「……あ、ありがとうございましたー。次はもっと頑張るので、応援引き続きよろしくお願いしまぁす」


 自分でも全く分からなかった。

 ──私はこのとき、まともに笑えていたんだろうか。


「すいませーん、私ダメでしたー」


 わざわざ舞台袖まで迎えに来てくれていたプロデューサーに、そう言った。

 声が震えないように。
 表情が引きつらないように。
 プロデューサーの目を見ないように。

 全身全霊をもって虚勢を張っていた私に、彼は優しく言う。


「お疲れ様。良く頑張った」


 その声を聞いた途端。
 目の奥がつんとして、喉がぐっと締め付けられた。


 まずい、まずい、まずい。
 堪えろ……絶対、堪えなきゃ。


自分を抑えるために、私は息をゆっくり吐く。


「皆の期待を裏切る悪い子でー……ごめんなさい」

「摩美々。謝る必要なんてない」


 プロデューサーの顔が見れなかった。けれど顔を逸らすのも嫌だった。だから私は、彼の靴を見つめていた。

 その靴に向かって、呟く。


「……でも、結局負けちゃって」


 靴は優しい声のまま応えてくれる。


「これで全てが終わった訳じゃない。摩美々はもう、立派なアイドルだよ」

「でも……でも私…………勝ちたかったです」



 限界だった。
 靴もスーツも真っ暗な舞台袖も……何もかもが溶けて滲んで。私の目に映るものは全て、涙で溺れたみたいになった。


 必死に声を出さないように唇を噛み締め泣く私を、プロデューサーはしばらく黙って待っていてくれた。

 それからゆっくり、私の背中をさすりながら言う。


「──悔しいのは、摩美々が精一杯頑張った証だ。俺はそれが誇らしいよ」





  それはただのキャンバスに描いた空
  モスリンの木の上に広がってる

  でも君が信じてくれるなら、
  それはきっと偽物ではなくなるんだ




 俺達が決勝で負けた次の日は、空気が澄んでいた。
 秋晴れの遠くで、くっきりとした鰯雲が描かれている。

 そんな青空の下、摩美々とレッスン室へ向けて歩いていた。


「明日、レッスン入れてもらえますかー」


 摩美々がそう言ったのは、決勝が行われた会場からの帰り道のことだった。




「……大丈夫か? 疲れも残ってるだろうし、気持ちを切り替える必要もあるだろうから、数日は休みにするつもりだったんだけど」


 そう返すと彼女はいつもと同じように、にんまり笑って応えた。


「大丈夫ですよー。それに、良いんですかぁ?」

「ん……何がだよ」

「あのまみみが折角レッスンしたいって言ってるのに、休みにしちゃってー」


 その悪戯っぽい顔があまりに普段と同じだったから……俺は渋々了承したのだった。



 信号待ちになったので、隣に立つ摩美々の顔色を改めて窺う。彼女はやはり、いつも通りの平然とした表情だ。


「なんですかぁ、人の顔じろじろ眺めてー」

「……いやいや。昨日はあれだけ泣いたのに、目が腫れなくて良かったなと思ってさ」

「あー。そんな意地悪言うんならぁ、またコーヒーにお酢仕込んでおきますからねー」

「うわ、あれは流石に勘弁してくれよ!」


 二人して互いの軽口に笑う。
 本当に……いつもと変わらない、いつもの昼過ぎだった。



 違和感を覚えたのは、ダンスレッスンの最中だった。


「……あれ?」


 トレーナーの指示に従いステップを踏む摩美々。その動きがいつもよりぎこちなく、強張っているように見える……。


 昨日のことを考えれば、当たり前のことなのかも知れない。数分間のパフォーマンスに、気力と体力の全てを注ぎ込んだのだ。疲労が残っているのは間違いないだろう。


 しかし本当にそれだけだろうか。
 それだけではなく……何というか。


「──まるで、萎縮してるみたいだ……」


 俺の胸の内で、不安の風がさっと吹き抜けた。



 レッスンが終わって摩美々はそのまま帰る……と思っていたのだが。彼女は何故か事務所へ戻る俺について来た。


「用事がないのなら、帰ってゆっくりしても良いんだぞ?」


 デスクからソファへ向けて、俺はそう言葉を投げる。おそらく摩美々が横になっているはずだ。

 彼女はやはりそこに居た。
 ソファの陰からぴょこりと爪先だけが姿を見せ、ゆらゆら揺れながら声を返してくる。


「えー。まみみが居るとぉ、邪魔ですかぁー?」

「いや、そうは言ってないけどさ」

「じゃあ良いじゃないですかー」


 呆れながら、俺は冗談混じりに言う。


「物好きだな。そんなに事務所が好きか?」

「社長がたまに、美味しいお菓子差し入れてくれますからねー」

「あはははっ、確かにあれは役得だよな!」


 吹き出しながらそう返事をすると突然、摩美々が身体を起こし、こちらへ顔を覗かせた。


「ねー。プロデューサー」

「うん? なんだよ」

「その……明日も、レッスン入れられませんかー?」


 それを聞いて、俺は凍りついてしまった。
 摩美々がレッスンをしたがったから──ではない。

 レッスンを要求する彼女の顔が、まるで何かに焦っているかのように見えたからだった。


「おい、大丈夫か?」


 思わずそう訊ねると、摩美々は顔を微かに強張らせた。


「な、何がですかぁ」

「……負荷をかけ過ぎるのは良くない。出来れば明日は休んでほしいな」

「プロデューサー。どうしても……ダメですか?」


 不安げにこちらを見る摩美々を前にして、言葉が詰まった。


 あぁ……そうか。
 こいつは「これ」を言い出すタイミングを見計らうため、ずっと事務所に居たのか。

 摩美々、お前は一体何を怖れているんだ。


「……分かった。けれど無理し過ぎな様子なら、その時点で俺が止める。それでも良いか?」


 そう譲歩すると、彼女はほっとした表情になった。


「はぁい。よろしくお願いしまーす」


「1、2、3、4……。摩美々ちゃん、テンポ遅れてますよ~」


 はづきさんの声がレッスン室に響く。摩美々はそれに合わせて、真剣な表情で手足を動かしていた。


 うちは決して大規模な事務所ではない。急なレッスンなどを行う際は、トレーナーを用意出来ないこともある。

 そんな時にはこうして、はづきさんがトレーナー役を引き受けてくれていた。


 代理とはいえ、彼女のレッスンはトレーナーの行うそれと比べても、質も量も劣らないものだった。
 ……いや、時にはそれ以上に厳しいことさえある。


 そんなレッスンにも文句ひとつ言わず、摩美々は黙々と課題をこなしていた。
 彼女の姿を見ながら、俺は呟く。


「そもそもその時点で、普通じゃないんだよ……」


 普段なら摩美々は、文句を言ったり屁理屈を捏ねたりしながらも、なんだかんだでレッスンするという調子だった。

 俺とはづきさんはそれを見て苦笑いしながらも、あまのじゃくな努力家に協力していた。



 それが今日はどうだ。

 まるで何かに追われているような、今にも泣き出しそうな表情で、必死に身体を動かしている。

 こんな状態でレッスンをしていて、本当に良いのだろうか──。



 そう考えていた矢先、摩美々が大きくよろめいた。


「おっととー」


 わざとらしくおどけたリアクションをする摩美々。堪らず俺は、声を上げた。


「はづきさん。今日のレッスンはここまでにします」

「あ……はい、分かりました~。摩美々ちゃん、お疲れ様です」


 俺とはづきさんのやり取りを聞いていた彼女は、ぎょっとした。
 そしてその顔のまま、半笑いになって応える。


「ちょ、ちょっとバランス崩しただけじゃないですかぁ。まったくプロデューサーは過保護で──」

「摩美々。昨日約束しただろう?」

「……はぁい」



 伏し目がちにクールダウンを行う摩美々を視界の端に入れつつ、俺は離れた場所ではづきさんと話をした。


「今日の摩美々、どうでした?」


 はづきさんは少し言葉を探すようにしてから、返事をして来る。


「ん~……パフォーマンス自体は、良くなってきていると思います」

「本当ですか? 俺には調子が悪いように見えるんですが」

「あれは多分、技術や体調の問題ではありませんよ~」

「えっと……それはつまり」

「精神的な問題だと思います」


 予想通りとはいえ、思わず絶句してしまった。
 そんな俺に向かってはづきさんは続ける。


「プロデューサーさん。あれはきっと……そのままにしておくと、どんどん悪化しますよ」




「──プロデューサー。明日も……明日もレッスン、お願いしますー」

「……」

「プロデューサー……」

「……分かった。手配しておく」




  君の愛がなかったら、それは
  ボロ酒場の下らない乱痴気騒ぎだ

  君の愛がなかったら、それは
  安っぽいアーケードに流れるだけの歌なんだ



「まさかあの摩美々が、3日連続でレッスンしたがるとはなあ」


 からかうような口調で俺は言う。助手席では制服姿の摩美々が、窓の外を眺めていた。


「プロデューサーこそ珍しいじゃないですかー。わざわざ学校まで迎えに来てくれるなんてぇ」

「そうかな……そうかもな」

「これはきっと、雨が降りますねー」

「摩美々の珍しい行動と、俺の珍しい行動が重なったんだ。竜巻でも来るんじゃないか?」

「それは困りますねー。また髪がくしゃくしゃになっちゃいますぅ」

「のんきな奴だなあ」


 レッスンへ向かう道中だった。道は空いていて、車はすいすい進んだ。この様子だと予定より早く着くかもしれない。


「なあ、摩美々。どっか寄るか? お腹とか空いてない?」

「うーん。今はそうでもないですー」

「そっか」

「ありがとうございまーす」

「……」

「……」

「なあ、摩美々」

「はぁい」



「このままレッスン、サボっちゃおうか」

「えっ……」



 横目で助手席を見ると、摩美々は目を真ん丸に見開いていた。珍しい表情を見ることが出来て、俺はつい微笑んでしまう。


「……えー。どうしたんですか、プロデューサー」

「何か変か?」

「変ですよー。普段あれだけ暑苦しいプロデューサーが、サボりに誘うなんてぇ……」

「竜巻が来るらしいし、そんなこともあるだろ」

「プロデューサーのそれは、珍しすぎて空から秋刀魚が降ってくるレベルですー」

「そりゃ珍しい。七輪を用意しておかないと」


 軽口を叩き合う最中も、摩美々はこちらを探るような眼をやめなかった。
 そしてその表情のままポツリと呟く。


「何でそんなこと、言うんですかー」

「……摩美々がこれ以上無理するのは、見ていられないよ」


 俺の言葉に、彼女は唇をキュッと噛み締めた。


「別に無理なんか、してませんよぉ」

「嘘だ。顔中に『助けてくれ』って書いてある」

「プロデューサーの気のせいじゃないですかぁ。まみみは別に……」

「それならどうして今、俺と目を合わせようとしないんだ?」


 ビクリと肩に力を込めて、摩美々は黙り込んでしまった。そんな彼女に対して続ける。


「別に言いたくないことは、言わなくても良い。言う必要がないと思ったことなら、言わなくても良いさ──摩美々はしっかりしてるから、そこら辺の判断は出来ると思うんだ」

「……はい」

「けれどもし、言って良いのか迷うようなことがあるのなら。それは言って欲しい」


 ほら、俺はこれでもプロデューサーなんだからさ。
 そう苦笑しながら言葉を終える。


 摩美々は自分の髪に触れながら、何度も何かを言いかけるように、口を小さく動かしていた。


「……仕方、ないですねぇ」

「ん?」

「プロデューサーのサボり、付き合ってあげますー」


 わざわざ窓の外を向いてから、ぼそりと溢した彼女の一言。それに俺は笑顔で応えた。


「ありがとう、摩美々」



「……あの。それで、どこ行こうか」


 二人でサボると決めてから少しして、そう問いかけた。
 そんな俺に摩美々は呆れたような声を上げる。


「えー。何も決めてなかったんですかぁ」

「あんまりサボることとか、ないからさ……」

「もう。行き当たりばったり過ぎませんー?」


 溜め息を吐いて、摩美々はくすっと笑った。
 機嫌もいくらかは直してくれたらしい。


「どこか行きたい所とかある?」

「んー、そうですねぇ」


 ぼんやり視線を宙に向けてから摩美々は言う。


「それじゃあ買い物に、付き合って下さーい」



 車を止めて二人で入ったのは、駅前のCDショップだった。

 店内に置かれた派手なポスター。黄色地に赤い文字のその前を、摩美々は冷めた顔で通り過ぎていく。


「欲しいCDが、あるんですよねー」

「ふーん、何か意外だな。摩美々はそういうの、ダウンロードとかで済ませるタイプかと思ってた」

「普段はそうなんですけどねぇ。あの……」


 何か訊ねたそうにしている彼女の様子に気付いて、相槌を打つ。


「うん、どうした?」


「えっと、その……この前カフェで聞いたー……ナッキンコールのぉ……」

「あぁ、 it is only a paper moon か?」

「それですー」


 照れ臭いのか、ぶっきらぼうな口調になって摩美々は続ける。


「あの曲が入ってるCD、欲しいんですけどぉ。どれを買えば良いんですかねー?」

「……ふふっ。そんなにあの歌が気に入ったのか?」

「別に、そういうのじゃないですケドー」


 自分の髪をもそもそと触りながら彼女は応える。不機嫌だと俺に見せつけるかのように、わざとらしく眉をしかめていた。


「俺もそこまで詳しくないからなぁ。一緒に探してみるか」


 そう言って笑いかけると、摩美々は口の端を少しだけ緩めた。


「ですねー」


「──うん。これなら他に有名な曲もいくつか入ってるな。摩美々も聞き覚えがあるかもしれないぞ」


 しばらく二人でウロウロと商品棚を物色した後のこと。

 俺はそう呟きながら手に持つCDを摩美々に渡した。
 彼女はCDを受け取るとさらりと眺め、迷いもせずに言う。


「それじゃあ、これにしまぁす」


 彼女の反応はこちらが戸惑ってしまう程あっさりとしていた。勧めておきながら、つい口を挟んでしまう。


「い、いいのか? 摩美々が気に入ったものがあるなら、それでも良いと思うんだけど……」

「うーん、まだあんまり分からないですしー。それにまみみは、あの曲さえ入ってるなら、それで良いですしねー」


 彼女のそんな返事を、俺は意外に思いながら聞いていた。

 摩美々が何か一つの物にそこまで執着を見せるのは、初めてのことだったのだ。
 あの歌の何が、彼女の琴線に触れたのだろう。


 またそんな好奇心を覚えながら同時に、こうも思っていた。

 ともあれ摩美々にとっての好きな物が増えるなら、それはきっと良いことなのだろう、と。


 退屈そうに日々を過ごしていた彼女に、少しずつ少しずつ、人生を彩るものが増えていく。

 それはとても素敵なことであるように、俺には思えた。


「これ、俺が出すよ」


 そう言うと摩美々はきょとんとしていた。


「えー。別に自分で買えますよー?」

「なんとなくプレゼントしたくなったんだけど……ダメかな?」


 そう訊ねると、彼女は一瞬目を泳がせた。


「え、あ……それならー。その言葉に甘えちゃいまぁす」
 



「私ぃ、お店の外で待ってますねー」


 そう言って歩いていく摩美々に背を向け、レジへ向かった。


 会計を待つ間、俺は小さく息を吐く。
 二つの感情から出た溜め息だった。


 一つはほのかな寂しさ。

「やっぱり一緒に居るだけじゃあ、摩美々は悩みを話してくれないか……」

 そんな、淡い落胆だった。
 また、彼女にそうさせてしまう自分の不甲斐なさも、その感情の内に含まれていた。


 そしてもう一つはほのかな安心。

「けれどこのサボりも少しは、摩美々にとって気分転換になっているみたいだ」

 そんな、淡い嬉しさだった。
 ここ数日苦しそうな顔をしていた彼女が、幾らかは安らいだ表情をしている。それだけでも、こうして良かったのだと感じていた。


 落胆と安心。寂しさと嬉しさ。

 そんな相反する二つの感情をごちゃ混ぜにして出した吐息は、時期外れにかけられていた店内の冷房に撹拌され、やがて掻き消えていった。



「ありがとうございましたー」


 気怠げな店員の声を耳にしながら、出入口へと歩く。

 途中で事務所のアイドルのCDを眺めた。
 こうして売れ行きを確認するのは、習慣になりつつあった。


 崩れた商品陳列を正して、自慢のアイドル達の見映えを良くしたりして。
 そうして俺は、店外に向け再び足を進めた。


『いくら善意とはいえ、勝手に商品陳列を直したりするのは、お店の人からしたら迷惑かもしれないなあ……』

『でも皆が頑張って作ったCDが崩れているのは、見ていて可哀想になってしまうんだよなあ……』

 そんな反省と言い訳を頭の中で巡らせながら自動ドアを開いた。まだ明るい秋の夕陽に一瞬目が眩み、それに慣れてきた辺りでようやく気付く。



 摩美々が、いなくなっていた。



 いやいや。御手洗いにでも行っているだけかもしれない。

 ──そう思って、10分待った。

 近くに気になる店でも見掛けて、ふらっと寄っているだけかもしれない。

 ──そう思って、20分待った。


 30分経って俺はいよいよ、不安を押し隠すことが出来なくなっていた。

『何かあったのだろうか。トラブルに巻き込まれていたりしないと良いのだけれど。事故にでもあってないだろうか……』

 想像力豊かな心配はより一層自分を心細くさせ、どんどん落ち着かなくなる。


 辛抱を切らし、彼女にメッセージを送ってみた。

『摩美々、今どこら辺にいる?』

 返事のないまま、数分過ぎる。

『……何かあったか?』

 既読すら付かないまま、更に数分が過ぎる。


「──駄目だ。事務所に連絡を入れて探そう」


 そう決心してスマホを三度取り出した瞬間。
 それは俺の手の中で震え始めた。


 ギョッとしながら手元を凝視する。

『田中 摩美々』

 求めていた名前が、画面に映し出されていた。


「もしもし、摩美々かっ? 今どこだ」


 声を上ずらせながらそう訊ねる。スピーカーから返ってきたのは、彼女ののんびりとした声だった。


「……あー、プロデューサー。CDは買えましたかぁ?」

「とっくに買ってるよ。大丈夫か、何かあった?」

「いや。何かあったとかじゃー、ないんですケドぉ」


 その返事に安堵の余り、息が漏れた。


「そっか……! 良かったぁ……!」


「えー、どれだけ心配だったんですかー」

「そりゃ心配するだろう。勝手にいなくなっちゃ駄目だって……」

「すいませーん。ふふー」


 聞き慣れた摩美々の悪戯っぽい笑い声につられて、俺も笑みが溢れた。


「今どの辺だ? そっちまで迎えに行こうか」

「あー。まみみがお店まで行くんで、大丈夫でーす」

「ん、そっか」

「……あのぉ、それよりプロデューサー」

「うん?」

「──ちょっとだけ話、聞いてくれますかー?」


 "その話"をするのだと、直感で悟った。



「別に大した話では、ないんですケド」


 そんな切り出し方で、摩美々は話し始めた。


「決勝で負けてから。結構色々……考えたんですよねぇ」


 彼女の言葉を聞き漏らさないよう、意識を耳に集中した。


 そんな俺の、注意の逸れた網膜には駅前を過ぎ来、駅前を過ぎ行く人々が映っていて。

 姿を隠している摩美々もどこかで一人ぼっち、この風景を眺めているのかな。
 ぼんやりそう思うと、少し胸が苦しくなった。


「皆ガッカリしただろうな、とかー。何でもっと早くから頑張らなかったんだろう、とかー」


 言葉をポツポツと続ける彼女の声は、どこまでもフラットで。

 だからこそ余計に、彼女の抱える心細さや不安が、鮮やかに感じられるようだった。


「──あと少し、まみみが頑張っていたら。誰も失望させずに済んだかもしれないのに」

「──もう少し、私に何かがあったら。結果は違っていたかもしれないのに」


 少しずつ摩美々の言葉の合間合間に、ため息が出るようになってきて。

 もしかするとそれは、ため息ではなく、何かを堪えようとしている彼女の懸命な息継ぎだったのかもしれない。


「だったら、してれば、に意味がないことくらい……分かってはいるんですけど」

「けど、そういうこと……考え始めたら──」



「私に、才能なんてあるのかな」


「なんて……そんなこと、思い始めちゃって」


 摩美々の声は震えていた。
 彼女に向けて、言葉を返す。


「……それで、あんなに無理をしていたのか」


 俺の声に、摩美々は返事を寄越さなかった。
 けれどそれは無言の肯定であるように、俺には思えた。


 自分に才能があると認めたくて。
 人に期待されるに足る、何かがあると確信したくて。

 
 そうして摩美々は、無茶な方法で限界に挑もうとしていたのだろう。


 "才能"なんていう妖精の尻尾を追いかけるうち、気付けば彼女はそれに追いかけられていたのだ。

 この数日見せていた表情の数々は、摩美々の無意識なSOSだったのかもしれない。


 黙り込んだままの摩美々に言う。


「摩美々。そんなこと気にしなくて良いん──」

「そんなこと、じゃないんですよー」


 優しくすら聞こえる声で、摩美々は言葉を遮る。
 しかしその断ずるような口調に、思わず俺は口をつぐんでしまった。


「──私にとっては、"そんなこと"じゃないんです」


 ぽつりぽつりと彼女は話す。


「こんな悪い子のまみみに、優しくしてくれて、付き合ってくれて」

「そんな人達を失望させるのは、まみみにとって……"そんなこと"じゃ、ないんです」



 本当にこの子は……。
 飄々としているように見えて、とても不器用だ。


 摩美々の言葉を受けてふとそう思うと、何だか急に胸が熱くなった。

 声が震えるのを恐れ、喋れなくなった俺に彼女は話し続ける。


「ねぇ、プロデューサー」

「プロデューサーは今でもまだ、まみみに才能があるって……そう思ってますか?」



「プロデューサーは私に、輝くものがあるって言ってくれるけど」

「もし私の中にあるそれが、本当は偽物の、薄っぺらな紙の月だったら……どうしよう」


 息を鋭く吸い込んで、その勢いのまま摩美々は語る。


「プロデューサーは私に、才能があるって言ってくれるけど──!」



「もし、それがなかったら……どうしよう」




 彼女はきっと、その芯はとても優しい子なのだ。

 こんなに心細い立場に置かれてもなお、摩美々は周りのことを考えている。

 才能がなかったら、どうしよう。
 才能がなくて、『また皆をガッカリさせたら』どうしよう。

 そう、彼女は言っているのだった。



 この奇妙な隠れんぼだってそうだ。

 自分の苦しむ姿を見せて、相手を困らせたくなくて。
けれど誰かに助けて欲しい位、不安に押し潰されそうで。

 そんな葛藤の末にたどり着いたのが、姿をくらませた上での、この電話なのだろう。


 愛すべきあまのじゃくの、その不恰好な向き合い方を、俺は咎める気になれなかった。




「──大丈夫だよ。摩美々」


 思わず口にした返事は、それだった。


「だって俺は……摩美々に才能があったから、スカウトした訳じゃないんだから」


 スピーカーから、向こうで摩美々が小さく息を呑む音が聞こえた。
 誤解を与えないよう、俺は急いで言葉を継ぐ。


「摩美々に才能があったから、アイドルにしたいと思ったんじゃない。アイドルにしたいと思った摩美々に、たまたま光る何かがあったんだ」

「そんなの……そんなの、屁理屈じゃ──」

「いいや。例えあの時、摩美々に"才能"なんてものがなかったとしても。俺は間違いなく君をスカウトしていたよ」


 摩美々が退屈な毎日から、鬱屈とした自分から。
 はばたきたいと願っていたから──。


 最早動揺を隠すことさえ忘れて、摩美々は言う。


「でも、それじゃあ……またいつか、ガッカリさせるかも……」

「俺が摩美々に失望することはないよ」

「トップアイドルになんて成れなくて……いつか落ちぶれちゃうかも」

「その時はいくらでも、一緒に落ちぶれてやる」


 言い返す言葉も見つからないのか、彼女の荒れた息遣いだけが、スピーカーに乗っていた。

 苛立ちと疑問をないまぜにして、摩美々が溢す。


「何で……どうしてそんなこと、簡単に……」

「いいじゃないか。才能なんて、あってもなくても」


 だってそんなこと、重要ではないのだから。


「──俺は摩美々と一緒なら。輝く満月だって、ハリボテの三日月だって……いくらでも、眺めていられるんだ」


 しばらくお互いに言葉がなかった。

 俺の背後の、人々のざわめき。
 摩美々の後ろの、人々のざわめき。

 そんなノイズだけが電波に乗って、俺たちの間に流れていた。


 そして、それから。


「もう……本当に、変な人ですねー」


 深い溜め息と共に、そう摩美々は呟いた。


 心底呆れたと言う口調。
 それなのに何処か晴れ晴れとしたような声色。

 そんな摩美々の呟きにふと自分の発言を思い返すと、何だか急に顔が火照ってきた。

 気恥ずかしさの余り、へどもどしながら彼女に言う。


「……ゴ、ゴメンな。凄く臭いこと言っちゃった気がする」

「ほんとですよー。全く、プロデューサーは相変わらず暑苦しい……」

「ははは……やっぱり今日は秋刀魚、降らないみたいだな」

「ふふ。ですねぇ──でも」

「ん?」

「そう、だったんですねぇ」

「……うん。そうですとも」


 言葉や電波を介さずとも通じ合う何かが、そこにはあった。


「ねぇ、プロデューサー」

「どうした?」

「その……ありがとう、ございます」

「うん」

「私。もうちょっとだけ頑張ってみます」


 その声はもう。
 スピーカーからではなく、俺の背後から聞こえていた。


 ゆっくり振り返ると、少しだけばつの悪そうな顔をした少女が立っている。


「お帰り、摩美々」


 そう言って微笑むと彼女は目をしばたたかせ、鼻を啜ってから応えた。


「……ただいまでーす、プロデューサー」



──
────
──────

 藍色に染まり始めた空。
 徐々に灯りだした街灯。
 どこかでカラスの鳴き声。
 
 それから、予定より少しだけ高くなった駐車料金。


 車へ戻った俺達を待っていたのは、そんなものだった。


「なあ、摩美々ー」

「はぁい。何ですかぁ」

「……はづきさん。怒ってるかなあ」

「ふふ……そりゃそうですよー。二人して勝手にサボったんですからぁ」

「悪いことしたなあ──お詫びにケーキでも買って帰ろうか」

「そうですねー」

「一緒に謝ってくれよ?」

「えー。まみみはぁ、仕方なくプロデューサーに付き合っただけですしぃ」

「ず、ズルいぞ! 共犯だろっ!?」

「あー、まみみはモンブランがいいでーす」

「なんで摩美々まで、食べる気満々なんだよ……」


 何気ないいつもの会話。
 今はそれが、やたらと嬉しかった。

──────
────
──




  それはまるでバーナム&ベイリーの世界
  所詮は作り物の紛い物

  でも君が信じてくれるのなら。

  それもきっと、偽物ではなくなるんだ




 ──そんな、数ヵ月前の出来事を思い出したのは。
 今日の空があの日みたいに澄んでいたからだと思う。


 撮影所を一歩出た私の頭上には、真っ青な秋空が広がっていた。

 視線を下げていくと少し先に、彼の姿がある。
 パタパタと小走りで駐車場へ向かっていた。


「摩美々ーっ! 時間ヤバいぞ、急げ急げぇ!」


 そう大声を上げて、私を急き立てる。


 なんでも今日は、新しく始まるユニットのメンバーと顔合わせがあるらしい。

 そんな日に限って、撮影の後にそのまま受けた雑誌のインタビューが押しに押して。待ち合わせの時間が迫る今、彼は相当焦っているようだった。


「何してんの摩美々ー!? 早くーっ!」


 ふっ、と笑いが込み上げてくる。
 この人といると、どうしてこんなに楽しいんだろう。



 結局、あれから何かが大きく変わることはなかった。

 いつもみたいにレッスンをして。
 いつもみたいに仕事をこなして。

 いくつかのステップが出来るようになったけれど。
 また新しく、出来ないステップがいくつか増えて。


 トレーナーさんは
「田中が熱心に取り組むようになった」
 なんて褒めてくれたけれど。


 まみみとしては……そんなつもり、ないんだケドなぁ。


 そんな調子だから私に才能があるのかなんて、まだ分かっていない。

 このままアイドルとしてやっていけるのか、なんてことも分からない。

 それが分かる日なんてもしかすると……いつまで経っても来ないのかも。


 私の中にあるのは、綺麗な月なのかもしれないし。
 それともハリボテの月なのかもしれない。

 全くなーんにも、分からないことだらけのまま。


 ……でも。



「──でも、あなたが信じてくれるのなら。私もそれを、信じてみてもいいかな……なぁんて」

「摩美々ーっ! ほら走って走って、遅れちゃうぞぉ!!」


 遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。


「えー。どうしようかなぁ……ふふー」


 晩秋の青空。
 そこには、紙のように真っ白な月が浮かんでいた。



【終わり】

お願いします神様僕に限定摩美々を下さいお願いします本当にお願いしますよろしくお願いしますありがとうございました

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