麻子「……華、さん」 華「はい? (79)

ー大洗女子学園演習場ー

ドォォォン… ヒュパッ!

『――アンツィオ高校CV33、全車走行不能! 大洗女子の勝利!』



ペパロニ「んあー負けちったかぁ! すいませんドゥーチェ~」

アンチョビ「も~、ちゃんと色鉛筆作戦の説明しただろ~?」

ペパロニ「や~作戦は聞いてたんすけど戦車乗ったら内容忘れちゃって!」

アンチョビ「ぐぬぅ……お前いつもそう言ってないかぁ?」

カルパッチョ「まぁまぁ、今日は親善試合ですから」

みほ「お疲れ様でした、アンツィオ高校の皆さん」

優花里「相変わらず勢いのある素晴らしい戦いでしたね!」

麻子「まぁいつものアンツィオだったな」

ペパロニ「そうっすか? いやーそこまで褒められると嬉しいっすね!」

アンチョビ「負けたのに喜ぶなーっ!」

沙織「まーまー楽しい試合ができたのは事実だし!」

アンチョビ「そ、そうか? なははは! では負け試合……じゃなかった、良い試合のあとは宴だー!」

華「やりましたぁ♪」

沙織「華、試合の時より楽しそうだね」

華「アンツィオの方々が作るお料理はどれも美味しいですから。わたくしもう試合の前からお腹が鳴ってて……」グギュルルルル

ペパロニ「いいっすねぇ~姐さん! 窯一杯にパスタ作るから遠慮しないでくださいっすね!」

華「はい、全部いただきます♪」

ペパロニ「……やっぱりちょっとだけ遠慮してほしいかもっす」

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‐アンツィオ の屋台、物陰‐

ワイワイ ガヤガヤ

カルパッチョ「……」コソコソ

カルパッチョ「(ふふふ……いよいよこの時が来たわ!)」スッ

カルパッチョ「(スペインっぽい階段の横の路地裏で売っていた……このソースを使うときが!)」

カルパッチョ「(聞けばこのソースを口にした直後に見た相手を、誰であろうと好きで好きでたまらなくなってしまうといういわゆる『惚れ薬』……宴会の最中にこれをたかちゃんの料理に入れれば……)」

カルパッチョ「(『ひなちゃん、キミがそんなに素敵な女性だと気づかなかった。結婚しよう!』……なんてことに!)」ムフフフ

カルパッチョ「……あんまりこういうことしちゃいけないのはわかってるけど……こうでもしないとたかちゃん、私の気持ちに気付いてくれないし……」

アンツィオ生徒「――パッチョ姐さーん、何やってんすかそんなとこで?」

カルパッチョ「わひぃ!? な、なんでもないのよなんでも!」ササッ

アンツィオ生徒「あ、もしかしてつまみ食いっすか!? 宴前なのに姐さんも食い意地張ってんなぁ~!」

カルパッチョ「あはは、そ、そうなのお腹すいちゃってつい~。さ、私たちも宴の準備しに行きましょう!(ひとまずここに隠しておきましょう)」コトッ

アンツィオ生徒「えっ、でも私ペパロニ姐さんに……あれ、何言われたんだっけ? んーまぁいいや!」

スタスタ…



…スタスタ

ペパロニ「――おーい、トマトソースまだ見つかんないのか~? ……って誰もいねーじゃん。ったくもー、さてはつまみ食いしに行きやがったなぁ?」

ペパロニ「えーとソースソース……ん? 何だこのタバスコみてーなの?」ヒョイ

ペパロニ「真っ赤なソースみたいだな……クンクン。なんかいい匂いっすねぇ。もしかして新しく仕入れた調味料かな? ちょうどいいや使ってみっか!」

アンチョビ「さー諸君! 存分にアンツィオの料理を楽しんでくれたまえ!」

イッタダキマース!

左衛門佐「この美味さ……さながら四条畷の戦いか」

おりょう「シャクシャイン並みの食べごたえぜよ」

エルヴィン「プルホロフカ級の物量だな」

カエサル「第二次ポエニ戦争だ」

「「「それだ!!!」」」

ワハハハハ…

カルパッチョ「た~かちゃん♪」ポン

カエサル「あっ、ひなちゃん!」

おりょう「おっと、我々はお邪魔ぜよ?」

左衛門佐「席外そうかたかちゃん?」

カエサル「カ エ サ ルっ!!」///

カルパッチョ「今日はたくさん食べて行ってね。たかちゃんに食べてほしくて私が作ったラザニアもあるの!」

カエサル「そ、そうなの? じゃあ、せっかくだし頂こうかな」

カルパッチョ「今持ってくるからね♪」

エルヴィン「羨ましいぞたかちゃん」

左衛門佐「憎いぞたかちゃん」

カエサル「うるさい!」///

カルパッチョ「(ふふふ……あとはあのソースを上から振りかければ……)」コソコソ

カルパッチョ「…………」

カルパッチョ「あ、あれ?」

‐あんこうチームの宴会席‐

みほ「ふわ~、美味しい~」モグモグ

優花里「いつもながら量も味も申し分ないですねぇ」

沙織「ペパロニさんがどんどん作って持ってきてくれるからついつい食べちゃうよね~」

麻子「ほとんど五十鈴さんが食べているがな……ケーキとティラミスおかわり」

華「本当に、アンツィオの料理はいくらでも食べられます」モグモグ

ペパロニ「相変わらず五十鈴の姐さんは食べっぷりがパネェっす! そうだ、よかったら新作のパスタ食べてみます?」

華「まぁ、よろしいんですか?」

ペパロニ「新しく仕入れたソースで作ってみたんすよ! さ、味見してみてくださいっす!」コトン

麻子「む……なんだかやたらに赤いな。トマトソースなのか?」

ペパロニ「はい! 多分! さっき初めて作ってまだ食べてないんでわかんないっす!」

みほ「そ、それ変なもの入ったりしてないよね……?」

ペパロニ「大丈夫っすよ~。ちゃんと食糧庫に置いてあった奴っすから! ほらコレ」ヒョイ

沙織「……何にも書いてない普通の瓶だね」

華「大丈夫ですよ。なんだか刺激的な良い匂いがしますし……いただきます」モグ



カルパッチョ「おかしいわ、どこかに落としちゃったのかしら――あっ!!」

チャント ショクリョウコニ オイテアッタヤツッスカラ

カルパッチョ「あああああなんでペパロニさんがアレを!?」ダッ

華「――うん、美味しいです♪ なんというか、独特の甘みがあるというか……」

麻子「甘いのか? 私にも一口くれ」

華「ええ、どう……ぞ……」ジッ…

麻子「? どうした五十鈴さ」
カルパッチョ「そそそそれ返してくださーい!!」ダダダダ

ペパロニ「んお? なんだカルpうおおおおおおお!?」ドゴッ

華「きゃっ!?」

麻子「わぁっ!?」

ドンガラガシャーン!

ナンダナンダ?

ペパロニ「あったたた……もーいきなりなんだよカルパッチョー!」

カルパッチョ「あ、あの瓶は……ああぁっ! 割れちゃったぁ!」ビチャア…

沙織「きゃああああ血ィ! 血ィ~!!」

優花里「衛生兵! 衛生兵~!!」

みほ「落ち着いて! 赤いのはただのソースだから! みなさん大丈夫ですか?」

華「は、はい……」

麻子「なんなんだ突然……あぁすまない五十鈴さん、覆いかぶさってしまって」

華「……」

麻子「? 五十鈴さん? 大丈夫か?」

華「へ? あ、は、はい……」メソラシ

麻子「?」

アンチョビ「おいおい何の騒ぎだ? ってなんだカルパッチョ血まみれじゃないか!?」

ペパロニ「違うっすよ姐さん! これは新しいソースで――」

カルパッチョ「違うんですぅ! これは、これは~……!」

アンチョビ「?? な、なんでもいいが怪我はしてないんだな? なら早く着替えてこい! シミになっちゃうぞ!」

カルパッチョ「あぁドゥーチェ違うんです! これはたかちゃんに~!」

ペパロニ「いいから早くジャケット脱ぎなって!」

カルパッチョ「ちょ、こんなところで脱がさないで! たかちゃんが見てる!」///

アンチョビ「だったら向こうに行くぞ! いやすまないな諸君、こっちは面倒を見ておくから引き続き宴会を楽しんでくれ!」

カルパッチョ「あぁたかちゃん、たかちゃんのぉぉ……」ズルズル

みほ「……な、なんだったんだろうね」

沙織「さ、さぁ……あーもう、パスタも落ちちゃったよ」

優花里「仕方ありませんよ。お二人も大丈夫ですか?」

麻子「あぁ。しかし五十鈴さんが……」

華「だ、だいじょうぶです。わたくしはなんともありませんので……」チラ

麻子「?」


~~~~~~


カエサル「…………」

おりょう「ひなちゃん、料理持ってこないぜよ」

左衛門佐「明智光秀並みの短い天下だったな」

エルヴィン「元気出せたかちゃん」

カエサル「うるさぁ~い!!!」

ー放課後 帰路ー

みほ「今日もにぎやかだったね、アンツィオの人たち」

優花里「とても楽しかったです!」

沙織「流石に食べすぎちゃったかも……明日からまたダイエットしなきゃなぁ」

麻子「それを言うのは何回目だ?」

沙織「女の子はいつでもダイエットしてるの! そもそも華みたいに食べても太らないのが異常なんだよ!」

華「……」

みほ「華さん? どうかしたの?」

華「え? あ、いえ。わたくしも少々、食べ過ぎてしまったのかもしれませんね」

麻子「結局あの後も無心に食べ続けていたしな」

華「す、すみません……はしたないところを」

優花里「いやぁ、五十鈴殿の食べっぷりは見ていて気持ちのいいものですから」

沙織「麻子ももうちょっと華を見習いなよ。小食なくせにケーキとお菓子ばっかり食べてたら栄養偏るよ」

麻子「私は別に太らんからいい」

みほ「そういう問題じゃない気が……あ、私はこっちだから。みんなまた明日ね」

優花里「私もこれにて失礼します!」

沙織「バイバ~イ」

麻子「ん」フリフリ

華「……」

沙織「あれ? 華の家って反対側じゃなかった?」

華「え、ええその……少し夜風に当たってお腹を熟そうと思いまして」

麻子「まだ食べる気か?」

華「ち、違います!」

沙織「冗談に聞こえないのが怖い……んじゃ私も行くね。麻子も早めに寝なよ」

麻子「はいはい」

華「おやすみなさい」

麻子「……」スタスタ

華「……」スタスタ

麻子「……」スタスタ

華「……」スタスタ

麻子「……五十鈴さん」

華「は、はい?」

麻子「もうこっちは私の家の方向だぞ。帰らなくていいのか」

華「あ――そ、そうですね。帰らないといけませんね……」

麻子「……やっぱりあの料理を食べてから何か変だぞ。具合でも悪いのか?」

華「そういうわけでは……ないんですけど」

麻子「顔がずっと赤い気がするのは私だけか? 熱でもあるんじゃないか」

華「そ、そう見えますか……」

麻子「見える。いつもの五十鈴さんより……なんとなく弱々しいというか」

華「……すみません。なんだか自分でもよくわからなくて……」

麻子「もし具合が悪いのなら、ちゃんと言ってほしい。なんならこのまま家で休んでいくか?」

華「わ、わたくしが麻子さんの家に……ですか?」

麻子「嫌なら構わないが」

華「嫌なわけないです!!!」

麻子「わぁ! び、びっくりした。いきなり大声出さないでくれ」

華「す、すみません……」

ー麻子の部屋ー

ピピピピ…ピピピピ…

麻子「熱はどうだ?」

華「大丈夫です……少しいつもより高めでしたけれど」

麻子「そうか。明日も治らないようなら病院に行くんだぞ」

華「はい……すみません、妙なご心配をおかけしてしまって」

麻子「気にするな。仲間だからな」

華「……麻子さんってとても優しいですよね。一見すごく冷めてらっしゃるように見られがちですけど」

麻子「買い被りだ。私はただ……」

華「?」

麻子「……いや。まぁ、調子が戻るまで少し休んでいくといい。今お茶を出す」

華「あ、そんなお構いなく」

麻子「ほい、どうぞ」ドン

華「(『へ~いお茶』のペットボトル……)」

麻子「湯呑に入れた方がいいか?」

華「いえ……大丈夫です」コクコク

麻子「そうか」ングング

華「ま、麻子さん?」

麻子「なんだ」

華「……あ、あの。今宵は良い天気だと思いませんか?」

麻子「まぁそうだな。雲一つない試合日和だった」

華「本当に。特に夜になって……月が綺麗ですね」

麻子「確かに。満月が見えている」

華「……」

麻子「(……ん? 月が……?)」

華「……」ジッ…

麻子「……今のは何かの冗談だったのか?」

華「いえ……すみません、お忘れください。わたくしったら何をいきなり……」

麻子「いや、別に謝らなくていいが」

華「……本当に、すみません」スッ

麻子「お、おい……五十鈴さん?」

華「麻子さんのおっしゃる通り、なんだかわたくし、変なんです。先程から麻子さんを見ていると、体が熱を帯びてくるような感じがして……」

麻子「ちょっと待て。女同士で妙なことを―ー」

華「麻子さんはわたくしのこと、お嫌いですか?」

麻子「き、嫌いじゃないけど。どうしたんだ、やっぱりおかしいぞ五十鈴さん」

華「……」

麻子「……今日食べた料理……そうだ、あのパスタに何か変なものが入ってたんじゃないか。きっとそのせいでおかしくなってるんだ」

華「……そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれません」

麻子「え?」

華「すみません、女性の友人相手に、自分でもおかしいことだと思うのですけれど。こんなに……こんなに熱い気持ちになったのは本当に生まれて初めてで」

麻子「……おい、五十鈴さん」

華「昨日までなんともなかったのに、さきほど麻子さんの顔を間近で見てから、急に麻子さんのことしか考えられなくなってしまって――」

麻子「五十鈴さん!!」

華「あっ……」

麻子「今の五十鈴さんは明らかにおかしい。あまりにもその……なんだ。そういうことを言うにしても、急すぎるぞ」

華「……ごめんなさい」

麻子「普段の五十鈴さんはもっと思慮深く行動するだろう。大体、今まで何とも思わなかった同性の知り合いに突然そんな感情を抱くなんて、異常だ」

華「……異常……ですか」

麻子「あ……いやつまり、唐突すぎるんだ。今日の試合までは何事もなかったのに、そんないきなり。自分でも少し変だと思わないか?」

華「……そうですね。その通りです。申し訳ありません麻子さん」

麻子「……今日はゆっくり休むんだ。件の料理については後で何を使ったのか聞き出そう」

華「はい……」

麻子「……一人で帰れそうか?」

華「大丈夫です。このままだと、麻子さんにご迷惑をおかけしてしまうので」

麻子「いやそれは……と、とにかく気を付けて帰るんだぞ。事故に遭わないように」

華「はい。気を付けます」

――翌日

ー大洗女子学園格納庫ー

桃「それでは本日の練習を始めるぞ! 各員戦車に搭乗!」

オォーッ ドタドタ

優花里「さぁ今日も張り切ってまいりましょう~!」

麻子「……」

沙織「麻子、眠いの?」

麻子「い、いや……目は覚めてる」

華「……」チラ

みほ「華さんもなんだか調子悪そうだけど……大丈夫?」

華「は、はい……」チラ

麻子「(……なんだかやりづらいな)」ハァ…

沙織「もしかしてアレ来てるの?」

華「そうではなく……その……」モジモジ

優花里「なんとなく調子が悪い日もありますよ。お休みされた方がよいのでは?」

華「いえ、わたくしは大丈夫です」チラ

みほ「……?(華さん、さっきから麻子さんのこと見てる?)」

杏「おーいあんこうチームどした~? 早く戦車乗っちゃいなよ」

みほ「あ、はい! とりあえず、始めるよみんな?」

麻子「……あぁ」

オツカレサマデシター

杏「西住ちゃ~ん」

みほ「!」

杏「なんか今日のⅣ号いつもよりのんびりだったね~。もしかして誰かお月様だった?」

みほ「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」チラ

華「ふぅ……」

優花里「五十鈴殿ぉ、やっぱりどこか具合が悪いのでは? 三発連続で的を外すなんて……」

華「すみません、ご迷惑をおかけして……」シュン

沙織「まぁたまにはそういう時もあるよ。私たち複雑なお年頃の乙女だし」

麻子「……沙織」

沙織「ん、何?」

麻子「お前、アンツィオの人の連絡先知ってるだろう」

沙織「あぁうん。前に遊びに行った時に番号交換したけど」

麻子「あの料理が得意な人の番号を教えてくれ」

沙織「ペパロニさん? どうして?」

麻子「五十鈴さんが昨日から体調を崩した原因を調べるためだ」

沙織「原因……ってちょっと、まさか食中毒とか疑ってるの!? あの日私ら全員同じ物食べたんだよ!?」

優花里「あっ……違います! 確か五十鈴殿だけが食べた料理があります! 途中でごたごたになってしまいましたけど」

沙織「あ!」

麻子「別に向こうの責任を追及しようとしてるわけじゃない。あれが何の料理だったのか、どんな成分の材料を使っていたのか聞くだけだ。もしかしたら五十鈴さんの体質に合わないものがあったのかもしれない」

沙織「で、でも華ってアレルギーとかなかったはずじゃ」

麻子「成熟してから特定の食べ物に反応するようになる例もある。細かく聞きたいから直接連絡する」

沙織「そ、それじゃ私が聞いとくよ」

麻子「…………いや、私が直接聞く」

華「!」

沙織「でも私の方が向こうと面識あるし……」

麻子「いいから。私が原因を調べたいんだ」

沙織「ぅ、わ、わかったよ。でも一応、私の番号から連絡するよ?」ピッ

みほ「何のお話?」

優花里「冷泉殿が今からすこし……」

-アンツィオ高校-

ペパロニ「――昨日試作した料理っすか?」

麻子『疑うような真似をしてすまない。私たちは何ともないから、単なる可能性の調査だと思って教えてほしい』

ペパロニ「なんだかよくわかんないっすけど、材料を教えればいいんすよね?」

麻子『ああ、できれば同じ鍋で使った食品も全部教えてほしい』


・・・ペパロニ説明中・・・


ペパロニ「……ってとこっすね」

麻子『……あの時、何か新しいソースを使ったとか言ってなかったか?』

ペパロニ「あっ、そういえば! あれカルパッチョが仕入れてきたヤツらしかったんすよ」

麻子『何のソースだったんだ?』

ペパロニ「カルパッチョが言うには露店で売ってた特別なソースだったとか……瓶が割れちゃったんでもう残ってないっすねぇ。なんだったんだろアレ」

麻子『……それ、ちゃんと安全に食べられるものだって確認したのか?』

ペパロニ「いや、匂いが良かったんで、そのまま使ったんすけど」

麻子『……』

ペパロニ「? もしもし?」

麻子『……ペパロニさん、だったな。一つ言わせてくれ』

ペパロニ「?」

麻子『成分もわからない、得体のしれないモノを料理に使うな。ましてや、それを他人に、私の仲間に毒見させるな』

ペパロニ「っ…………」

麻子『料理人なら「食べさせる」ということがどれほど慎重さを必要とするかよくわかってるはずだ。二度とそんなわけのわからないものを料理に使おうとしないでくれ』

ペパロニ「…………はい。本当に申し訳ないっす。安全なものって確認ができるまで、絶対料理には入れないっす」

麻子『頼むぞ……そのカルパッチョさんと話はできるか?』

ペパロニ「それがさっき先に帰ったばっかで……うし、ちょっと追いかけてくるっす! すぐに連絡させますから待っててくださいっす!」プツッ

麻子「……切れた」ツーツー

優花里「な、なんか途中で冷泉殿が怖い顔になりましたけど……何かあったんですか?」

麻子「いや……後でカルパッチョさんから連絡させるそうだ」

沙織「一応あの人の番号も知ってるけど……」

麻子「向こうで事情が伝わってからの方が話が早い。少し待つ」

みほ「華さん、いま麻子さんが聞いた食べ物の中に思い当たるものとかあった?」

華「いえ……特には」

沙織「なんか話が大きくなってる気がするんだけど……華、いきなり倒れたりしないでよ?」

華「沙織さんにそんなことを言われるとなんだか不安になってきますね……」

沙織「ああごめんそんなつもりじゃ!」

麻子「大丈夫だ」

華「!」

麻子「今のところ五十鈴さんの体に大きな異変があるわけじゃない。万が一よほど毒性のあるものを食べていたなら……とっくに病院送りになってるだろうしな」

優花里「怖いこと言わないでくださいよぉ」

麻子「もしかしたら単に風邪をひいただけかもしれない……から。何にしても私が原因をはっきりさせてやる。心配するな」

華「……は、はい」ドキドキ

みほ「…………華さん、麻子さんと何かあったの?」ヒソ…

華「へ? い、いぇ、何もございません!」

みほ「そ、そう?」

桃「こらあんこうチーム! いつまでも駄弁ってないでさっさと下校しろ!」

優花里「はぁーい」

-帰路-

♪~♪~

沙織「あ――カルパッチョさんからだ!」

麻子「貸せ」パシッ ピッ

沙織「あっちょっ」

麻子「もしもし。そうだ、沙織の友人の冷泉だ。そうだ。…………は?」

『―――! ――!?』

みほ「?」

麻子「いや……体調には問題ないが……うん。しかし……いや、その、正直わけがわからんが……安全なのは安全なんだな? わかった」

優花里「今度はえらく狼狽えてますね」

麻子「……別にあなた達を責めてるわけじゃない。ただこっちは事故に遭ったようなものなんだ。謝罪はいいから、詳しい情報をきちんと調べてほしい……あぁ、私の連絡先も沙織から聞いてくれ。じゃあよろしく」ピッ

沙織「ど、どうだった?」

麻子「ん……とりあえず五十鈴さんが死ぬようなことはない。ただその……あー……」チラ

華「……?」

麻子「……試作に使ったソースが賞味期限切れだったかもしれないらしい。で、詳しく調べたらまた連絡をくれるそうだ」

優花里「やっぱり食当たりだったってことですか?」

麻子「まぁ……多分そんな感じだ。何にせよ深く心配する必要はないだろう」

沙織「そっか。よかった~」ホッ

みほ「でも、具合がよくないのは事実だし……華さん無理しないでね?」

華「は、はい」

麻子「……じゃ、私は帰る」クルッ

沙織「ん、じゃね~」

華「あっ……」

みほ「……?」

華「……わ、わたくしも今日はこれで」

優花里「お体気を付けて下さいね、五十鈴殿!」

-麻子の部屋-

麻子「…………」

ピンポーン ガチャ

華「……えっと……」メソラシ

麻子「……今から電話しようと思ってたんだが。まさかわざわざ来てくれるとはな」

華「……ダメ、でしたか?」チラ

麻子「い、いやダメとは……まぁ、上がってくれ」

華「失礼致します……」

麻子「今お茶を」

華「麻子さん」ギュッ

麻子「……なんだ」

華「アンツィオの方から何をお聞きしたんですか? 食当たりなんかじゃないのは自分で分かってます」

麻子「…………くだらん話だ」

華「え?」

麻子「ペパロニさんが出してくれたあの試作品のパスタ……新しいソースを使ったと言っていただろう」

華「そういえば……そんなことを仰っていたような」

麻子「詳細は省くが……そのソースというのがだな」

華「はい」ギュウ

麻子「……五十鈴さん、腕を離してくれないか」

華「あっ……す、すみません」パッ

麻子「ん……まぁ胡散臭いし本物かどうか知らんが。惚れ薬だったらしい」

華「……はい?」

麻子「どこかの露店で買ったものを食材と勘違いして使ってしまったそうだ。それが運悪く五十鈴さんの口に入った」

華「……えっと、その、惚れ薬? の効果というのは?」

麻子「単純なものだ。口にして、最初に目に入った人に夢中になってしまう。それも性別も関係なく……と、銘打っていたらしい」

華「それで、わたくしは……」

麻子「食べた直後に見たのがたまたま私だった。で、そのあと五十鈴さんは……ああなった。信じがたいが、事実そういう効果があったわけだな」

華「……そう、だったのですか……」


麻子「つまり、五十鈴さんは今おかしな薬のせいでおかしくなっているだけだ。昨日みたいな……体に熱がこもってしまうのも、薬の作用による錯覚だったんだ」

華「……それは、どれくらい効果が続くものなのですか?」

麻子「そこまでは知らないらしい。だがきちんと調べて報告するように頼んでおいてから安心してくれ」

華「……」

麻子「さっき電話でそれを伝えるつもりだった。その……問題の質が質だからな。みんなの前で言うと変な誤解を招きかねない」

華「誤解、とは?」

麻子「だから……同性の私をそういう目で見ている、とか。五十鈴さんも困るだろう、そんな風に思われるのは」

華「……麻子さんは」

麻子「え?」

華「麻子さんは……困りますよね。私がそういう風に見ていたら」

麻子「えっ……」

華「……」ジッ…

麻子「……いや、それは……困るというか……困惑するというか……」

華「……そうですね。きっとわたくしが逆の立場でもそう思いますから」

麻子「そ、そうか」

華「……。少し、お手洗いをお借りしてよろしいですか?」

麻子「あぁ」

パタン…

麻子「(……わからん。五十鈴さんは何を考えているんだ? まだ薬の効果は残っている……ということだろうが)」

麻子「(私はどうすればいいんだ。沙織にそれとなく聞くか? いや、あいつは男専門だし……いやそもそも時間が経てばもとに戻る……はずなんだから、どうもしなくていいのか)」

ジャゴォ~ パタン

華「申し訳ありません、わたくしの……こんな事故に巻き込んでしまって」

麻子「あ、いや。気にするな。事故って言っても、命にかかわることじゃないんだから……」

華「……」

麻子「……」

麻子「(……き、気まずい。なんだこのかつて体験したことのない妙な空気は)」

華「……あの」

麻子「ん?」

華「麻子さん、わたくしが変になってしまった原因を自分が調べる、って言ってくださいましたよね。何故ですか?」

麻子「何故って……仲間だからな」

華「沙織さんが電話してくれてもよかったのに?」

麻子「それは……何が聞きたいんだ?」

華「…………わかりません」

麻子「五十鈴さんは今、言ってみれば毒に侵されてるんだ。変なことを考えてしまうだろうし、おそらく感情と思考が一致しない状態なんだと思う。無理に何かしようとしなくていい」ポン

華「あっ……!」ビクン

麻子「あ……す、すまん。今は触れない方がいいか」

華「は、はい。その……ドキッとしました」

麻子「え……」

華「……すみません」

麻子「い、いや謝らないでいいから」

華「……」メソラシ

麻子「(くそ、誰でもいいからこの空気をどうにかしてくれ……)」

華「……そろそろ、お暇致しますね」

麻子「あ……気を付けてな。一人で帰れるか?」

華「ふふ、麻子さん昨日も同じこと言ってましたよ?」

麻子「……車に気を付けるんだぞ。信号よく見て、ボーっとしないように」

華「分かってます。では……」ペコ

麻子「ん」

ガチャ…

麻子「ふぅ……」ドキドキ

麻子「(いやなんで私が緊張してるんだ。……まぁ仕方ないか。こんなことで五十鈴さんに変に思われても嫌だし……)」

麻子「(……なんで? 西住さんや秋山さんと違って一応中学から面識はあるし、何をいまさら……)」

麻子「(……あぁそうか。怖いんだな。こういうデリケートな問題は苦手だから、それで友達を失うのが)」

麻子「(五十鈴さんも……きっと不安なんだろう。なら私はいつも一緒にいるように、普段通りしているべきだ)」


――二日後


-大洗女子学園格納庫-

沙織「おっつかれ~! ねー今日ちょっと寄り道してかない? 新しいデートスポット見つけちゃってさ~」

華「デートスポットに友達と行くんですか……?」

沙織「リサーチよリサーチ! 近くにおしゃれなブティックもあるらしいからそこでさらに女子力磨けるかも~♪」

優花里「女子力って女子校でもそんなに大事なんですかねぇ?」

みほ「さぁ……?」

華「……まぁ、たまにはそういうのもいいかもしれませんけれど」

沙織「あれ、華もやっとそういうの意識するようになってきた~?」

麻子「私はパス。今日はちょっと読みたい本がある」

華「ぇ……」

みほ「!」

沙織「も~たまには麻子も来ればいいのに! 付き合い悪いとモテないよ?」

麻子「モテなくていい。またな」スタスタ

優花里「ブレませんねぇ冷泉殿」

沙織「ホント、少しは恋愛に興味もてばいいのに」

華「……」

みほ「華さん? どうかしたの?」

華「いえ。ちょっとお腹が空いてしまって」

優花里「私もお腹すきましたぁ。先に軽く何か食べていきませんか?」

華「そうしましょう!」

みほ「(……う~ん)」

-夜 沙織の部屋-

沙織「――麻子と華?」

みほ『うん。なにかこう……ちょっといつもと違う気がするっていうか……』

沙織「うーん。麻子はいつもあんなんだし、華はこの前調子悪かっただけだし。私には変に見えないけどなぁ」

みほ『なんていうのかな……どうにもできない確執……みたいなのが、麻子さんを見てる華さんから感じられて……ホントになんとなくなんだけど』

沙織「……みほって結構観察力あるよね。流石は西住流」

みほ『それ関係ある?』

沙織「でも確かに、言われてみればこの前はやけに麻子が華のために頑張ってたような感じあったね。その恩返しがしたいとか? 華ってそういうとこ義理堅いじゃん」

みほ『うーんそうなのかなぁ……』

沙織「そもそも麻子があんな積極的に人のために動くのって珍しいけど……何かあったのかな?」

みほ『ケンカしてるとかじゃなさそうだし、わざわざ聞くことじゃないのかもしれないけど。ちょっと華さんの様子が気になって』

沙織「まぁ私も気がつくことあったら聞いてみるよ。意外と恋の悩みだったりするかもよ~?」

みほ『あはは。女の子同士なんだからそれはない……んじゃない?』


~~~~~~


-同時刻 麻子の部屋-

麻子「……」ペラ

麻子「……」ペラ

麻子「……」ペラ

ニャー ニャー ニャー

麻子「(誰だ……今いいとこなのに)」


   着信
〔五十鈴 華〕


麻子「!」ピッ

麻子「……もしもし」

華『あ……こんばんわ麻子さん』

麻子「どうしたこんな時間に」

華『すみません、もうお休みでしたか?』

麻子「むしろ今が私のピークタイムだ」

華『ふふ、そうでしたね』

麻子「で、何か用か?」

華『あ、いえ……特に御用があったわけではないのですけれど……』

麻子「……暇だったのか?」

華『いえ……その……お花を活けようとしていたんです』

麻子「? うん」

華『でも……いつものように集中できなくて』

麻子「華道のアドバイスはできんぞ」

華『それはよく存じております』

麻子「…………まだ薬の作用が残ってるのか」

華『……………』

麻子「あー……」パタン

麻子「私は何をすればいい?」

華『え?』

麻子「私も一応、五十鈴さんがそうなっている要因の一つだからな。協力はする。何をすればいい? 生憎と私は沙織ほど察しがいい人間じゃないから、教えてくれると助かる」

華『……麻子さん、責任を感じてらっしゃるんですか?』

麻子「責任というほど重いものじゃないが……仲間が大変な目に遭ってるんだ。助けはする」

華『わたくしが……そんなに大変な、苦しい状況に置かれているとお思いで?』

麻子「違うのか。自分の意志とは関係なく同性に……惚れてしまっているというのは」

華『……麻子さんは、意志とは関係ないとしても、同性に見初められるのは……気持ちが悪いと思われますか?』

麻子「……。……ん……人による、んじゃないか。経験がないからはっきりわからない」

華『そう、ですか……』

麻子「……さっきから私が質問されてばかりだ。私の質問にも答えてくれ。何かできることはあるか?」

華『……わたくしは』

麻子「うん」

華『………………………麻子さん』

麻子「うん?」

華『…………』

麻子「どうした?」

華『…………わたくし、自分がこんなに臆病になれるとは思いませんでした』

麻子「……?」

華『これがすべてお薬のせいなのだとしたら、すごい効き目ですよね』

麻子「そう……なのか?」

華『はい。申し訳ありません、よくわからないことばかり言ってしまって……』

麻子「……よくわからない状況なんだから、仕方ない」

華『お優しいですね』

麻子「五十鈴さんほどじゃない」

華『わたくし、そんなに優しいですか?』

麻子「私はそう思うが。……優しくて、力強くて、頼りになる。沙織たちとはまた違う意味でな」

華『そうですか……ふふっ。嬉しいです』

麻子「少しは気が晴れてきたか?」

華『はい、ありがとうございます。……なんだか、こんな風に麻子さんとお話しすることってあんまりなかった気がします』

麻子「まぁ、そうだな。五十鈴さんは話したかったのか」

華『……そうですね。以前はここまで強い気持ちではありませんでしたけど』

麻子「……そうか」

華『はい。……あの』

麻子「なんだ」

華『もし、差し支えなければでよろしいのですけど……わたくしのことも、名前で呼んでみてくださいませんか?』

麻子「え」

華『いつも沙織さんばっかりお名前で呼ばれて……ずるいです』

麻子「いや、ずるいとかいう問題じゃないだろ……」

華『無理にとは申しません。こうしてお話して下さる時に、ちょっとだけでもいいので……』

麻子「……ん、まぁ、考えてみる」

華『……なんだか面倒な女になってますわね、わたくし』

麻子「沙織よりマシだ」

華『まぁ。結構わたくしを良く思ってくださっているんですね』

麻子「……さぁな」

華『……夜更けにお付き合いくださってありがとうございました。では、また明日』

麻子「あ……あの」

華『はい?』

麻子「私はい…………は、なさんのことを気持ち悪いとか、思わないから」

華『…………ありがとうございます』

麻子「ん……それじゃ」ピッ

麻子「……」

麻子「(……つ、疲れた……)」ベタ…

麻子「(でも……なんだろうな。嫌な疲れじゃないな。達成感のような……)」ドキドキ

麻子「(……何を達成したんだ。アホか……寝よ)」


~~~~~~


――翌日

-大洗女子学園演習場-

ガィィン―― ヒュポ!

亜美「そこまで! 白チームM3中戦車リー、三式中戦車、ポルシェティーガー、Ⅲ号突撃砲、全車走行不能! 紅白戦は紅チームの勝利ね!」

桃「わははは! これが我々の力だ!」

柚子「桃ちゃん一発も当ててないよね……」

梓「ていうか、今日撃破したのって全部Ⅳ号なんじゃ……」

優季「五十鈴先輩すご~い!」

杏「なはは。やるじゃん」

華「今日はなんだか外れる気がしませんでした♪」ピカーッ

沙織「……なんか今日の華、光ってない?」

優花里「ほんの数日前とは真逆の状態でありますね……」

亜美「ベリベリナイスショットよ五十鈴さん! 貴女の腕なら将来プロリーグだって狙えるわ!」

華「まぁ、どうしましょう~♪」ピカーッ

ぴよたん「まぶしいぞな……」

ももがー「まぶしいナリ……」

ねこにゃー「あれがリア充のオーラですな……」

みほ「……華さん何かいいことあったのかな? 麻子さん知ってる?」

麻子「知らん。美味しいものでも食べたんじゃないか」

みほ「そ、そんなに単純なものかな。アンツィオじゃないんだから」

華「麻子さん!」ガバッ

麻子「みぎゃ!?」

優花里「オォ!?」

華「プロリーグですって! どうしましょう、わたくし家業も継がなくちゃいけませんのに~!」ギュム

麻子「ぐ、ぐるじい……離してくれ五十鈴ざん……!」

沙織「こ、こんなに舞い上がってる華を久しぶりに見たよ」

みほ「ちなみに前に見たのは……?」

沙織「中学の時に柏餅の詰め放題行事があったときかな」

みほ「あぁ……」

優花里「五十鈴殿って意外と単純というか、純粋なところがあるというか」

沙織「や、でもいきなり人に抱き着いたりするのは初めてかも……」

優花里「なんか幸せそうですねぇ」ニコニコ

アハハウフフ ハナセエエエ

-ファミレス-

華「気分がいいといつもより食欲も増してしまいますねぇ♪」

みほ「お皿が山に……」

麻子「ちょっと食べすぎなんじゃないか」

華「麻子さんは食べなさすぎです! ほら、たくさん食べて大きくなってください!」グイグイ

麻子「や、やめろ! 見てるだけで腹が膨れる!」

沙織「は、華が麻子に餌付けしてる……!」

優花里「西住殿、私のも食べてみませんかぁ? あーんしてくださいっ」

みほ「へ? あ、あーん」

華「ほらほら麻子さんも♪」

優花里「えへへ、西住殿にあーんしちゃいましたぁ」

沙織「……なんかいつの間にか私だけ孤立してるし。なによもーこの状況!」

麻子「た、助けてくれ沙織」

沙織「しらないもん!」



-夜 麻子の部屋-

華『――それでその時、新三郎が喉を詰まらせてしまって』

麻子「んー……五十鈴さん、もう日付が変わるぞ。もう寝た方がいいんじゃないか」

華『あら……もうそんなに経ってたんですね。すみません長々と』

麻子「私は構わんが。五十鈴さんが遅刻したらダメだからな」

華『麻子さんだって早起きしなきゃダメですよ?』

麻子「早く寝てもどうせ起きられないから一緒だ。努力はしてるが」

華『もう、困った人ですねぇ』

麻子「……今日はずいぶんと元気だったな。何かいいことあったのか?」

華『……ええ、昨日の夜に。とっても良いことが』

麻子「夜?…………あー、私が関係してるのか?」

華『ええ、とっても』

麻子「……そんなに特別なことを言った覚えはないが」

華『わたくしにとっては特別な言葉をもらえましたから』

麻子「そうか」

華『はい♪』

麻子「……………………」

麻子「……あの、な。五十鈴さん」

華『はい?』

麻子「その……偉そうな言い方になって悪いんだが。五十鈴さんは多分、私に特別な感情を持ってしまっている。だから私が名前で呼んだりしただけでそんなに喜んでいる」

華『…………』

麻子「だが、忘れないでほしいんだが、それは薬のせいなんだ。効き目が切れたら、その感情もなくなる。前みたいな普通の友人関係に戻るんだ。わかってるな?」

華『……そうでしたね』

麻子「だから、こう……難しいのかもしれないが。あまり今の状態をありのままに受け止めない方がいいと思うんだ。後になって変なことをしたと後悔したくないだろう」

華『…………』

麻子「……すまん。五十鈴さんの好意自体を否定してるわけじゃないんだ。ただ、それは疑似的に作り出されてる感情だってことを――」

華『わかってます』

麻子「!」

華『わかってます……けど』

麻子「うん……」

華『今、この瞬間、わたくしがあなたを想っているこの気持ちは忘れたくないです』

麻子「そ……ぇ?」ドクン…

華『後になってこの感情が全部ニセモノだったと思い直しても、きっと後悔はしないと思います』

麻子「なぜ、そう思う」

華『だって、こんなことがなくても麻子さんはわたくしの大切な人ですから。そんな人を、たとえ一時でも心からお慕いしていた気持ちは決して恥じるものではないと思うんです』

麻子「……それ、は、だからっ……」

華『もちろん、麻子さんがその記憶を不快だとお思いになるのでしたら、わたくしも――』

麻子「そんなことないっ!」

華『…………』

麻子「昨日っ……言っただろ。気持ち悪いだとか不快だとか私は思わない」

華『………』

麻子「そりゃ、戸惑ってはいるけど……私だって五十鈴さんに、そんな風に思ってもらえたことは後悔しない」

華『……』

麻子「……い、五十鈴さん?」

華『ふふっ……やっぱり麻子さんは素敵な人です』

麻子「な、なんだ急に」

華『だって、こんなに重い言葉を伝えても……それも同性からですよ? それでもあなたは、わたくしを受け入れてくださるんですもの』

麻子「だ、だって……五十鈴さんは」

華『はな』

麻子「えっ」

華『はな、って呼んでくださいませ』

麻子「……華、さんは、私なんかには勿体ないくらいよくできた人だから」

華『まぁ。それこそ勿体ないお言葉です』

麻子「……。だからその、女性として受け入れられるかはともかく、私が華さんっていう人間を拒絶することは、有りえない」

華『…………………』グスッ

麻子「は、華さん? 泣いてるのか?」

華『ん、はい。嬉しくて泣いてます』

麻子「へ?」

華『情けない話ですけど。わたくしとても怖かったんです。麻子さんにこんなことを言ったら、もうお友達の関係にも戻れなくなるかもしれないって』

麻子「それはないっ」

華『はい、そう言ってくださると信じていました。信じていましたけど……やっぱり怖くて』

麻子「……そんなにか」

華『そんなにです。そんなに臆病になってしまうくらい……今のわたくしは麻子さんに惹かれているんです』

麻子「でも……それは」

華『きっとお薬のせいかもしれません。でもいいんです。先ほども申し上げましたけれど、別に後悔は致しませんから。むしろ言えてすっきりしました』

麻子「薬のせいじゃなかったら、私なんかに夢中になる理由がないからな」

華『そんなことはありません。麻子さんはとても素敵な方です。きっと他の皆さんもそう思っています』

麻子「今の華さんのそれとは違うだろ」

華『うふふ、そうかもしれませんわね』

麻子「…………なんだか変な感じだな」

華『……ですね』

麻子「……その…………ぁりがと」

華『麻子さんに感謝されてしまいました♪』

麻子「愛想良くできなくてすまん」 

華『その方が麻子さんらしいです』

麻子「それは褒めてるのか?」

華『もちろん』

麻子「……そろそろ寝てくれ」

華『もう結構なお時間ですね』

麻子「目が覚めたら、全部元に戻ってるかもな。もう五日経つ」

華『その時は……その時です。ね?』

麻子「うん……」

華『おやすみなさい、麻子さん』

麻子「おやすみ……華さん」

ピッ


………


チュン… チュン…

麻子「ZZzz……」

チュン…

ニャー ニャー ニャー

麻子「ZZz……」

ニャー ニャー ニャー

麻子「ふゴ……んん~……」

麻子「(……電話? ……無理……)」

ニャー ニャー ニャー
ニャー ニャー ニャー
ニャー ニャー ニャー

麻子「むぐ……んあ……」ゴソゴソ

ニャー ニャー ピッ

麻子「……モシモシ……」

『――あっ! もしもし、冷泉さんですか?』

麻子「ハイ……」

カルパッチョ『私です! アンツィオのカルパッチョです!』

麻子「…………誰?」

カルパッチョ『えっ? あの、以前お話していた惚れ薬の件で……』

麻子「……ぁー……んー……」

カルパッチョ『あ、あのぅもしもし? 冷泉さん?』

麻子「!? カルパッチョさん!?」ガバッ

カルパッチョ『わぁびっくりした!』

麻子「なんだ、あれから何かわかったのか?」

カルパッチョ『はい、アレを売っていた古物商さんを見つけて、とりあえず聞き出せたことなんですけど……』

麻子「うん……あぁ。おう……」

麻子「……………へっ?」

-昼休み Ⅳ号の上-

沙織「そろそろ大洗に帰港だね。モールで冬物の新作探しにいきた~い」

優花里「あんこう鍋も美味しい季節ですねぇ。お祭りが楽しみですぅ」

華「この時期は特に食べ物が美味しくなりますよね。実家に帰省したらついお腹いっぱいになるまで食べてしまいます」

みほ「あ、それわかる。実家ってたまに帰るとなぜかたくさん料理が出てくるよね」

優花里「きっとご家族も嬉しいんですよ」

沙織「麻子もおばあのとこ帰ったら、もっと食べろー!とか言われるんじゃない?」

麻子「……」

優花里「冷泉殿?」

麻子「ぇ……なんだ?」

沙織「まだ寝ぼけてんの~? もう昼休みだよ?」

麻子「あぁ……」

みほ「麻子さん、具合悪いの? 眠そうっていうか、ぼんやりしてるけど」

麻子「いや、大丈夫だ」

華「寝不足とかではありませんか? もしかして昨日長電話してしまったから……」

沙織「麻子はいつも寝不足みたいなもんだし……っていうか華、麻子と電話してたの? 珍しいね」

華「え? あっ、えっと」

優花里「お二人とも確かに長電話するタイプじゃなさそうですよね。何をお話されてたんですか?」

麻子「……それは」

華「……」チラ

優花里「えっと……なんかまずいこと聞いちゃいましたか?」

みほ「何か言いにくいことだったら無理に言わなくていいよ?」

華「いえ……わたくしが麻子さんとお話したくて、お電話してたんです」

優花里「五十鈴殿が?」

麻子「おい五十鈴さん」

華「隠すようなことでもありませんわ。他愛もないお話をしてたら、いつの間にか夜中になってしまって」

沙織「それって麻子が中々寝なかったからじゃないの~?」

華「いえ。わたくしが麻子さんを付き合わせてしまっただけです」

麻子「……別に嫌々付き合ってたわけじゃないぞ」

華「もちろん。とっても楽しかったですから」ニコ

麻子「ぐぬ……」メソラシ

みほ「へぇ~。二人ってそんなに仲良かったんだ」

優花里「普段はお二人だけで話してるところあんまり見ないですもんね」

沙織「ふーん……」ジーッ…

華「……ちょっとお花を摘みに行ってまいりますね」スッ

麻子「わ、私も」

優花里「ちょっと意外な感じですね」

みほ「でも二人は中学から面識あったんだよね?」

沙織「まぁ私経由の知り合いみたいなもんだったけど…………怪しい」ピキーン

優花里・みほ「「へ?」」

沙織「匂うわ。あれは互いを想いあっているのに、わけあって秘めた気持ちを隠すことしかできない禁断の恋の匂い!」

優花里「いや、女の子同士ですよ?」

沙織「最近は女の子同士でもあるんだって! 大っぴらに言えないからこそ密かに燃え上がる恋愛っていうのが!」

優花里「ええ~……小説とかドラマの観すぎでは?」

みほ「……でもまぁ、有りえない話じゃないかな」

優花里「西住殿?」

みほ「黒森峰でも、実際そういうことがなかったわけじゃないから。ほら、戦車乗りって男らしい性格の人も多いじゃない? カッコイイ選手に憧れる女の子も割といたって聞くし」

沙織「あ、もしかしてみぽりんのお姉さんとかも!?」

みほ「うん。何回かそういうお話をされたことはあるって言ってた。全部断ったみたいだけど」

優花里「あ~……でも何となくわかります。私も西住殿にものすごく憧れてますし。ああその、女性としてお付き合いしたいとかではなく!」

みほ「あはは……ありがとう優花里さん」

沙織「男らしい性格かぁ……確かに麻子って女っ気ないどころか男っぽいとこあるし、もしかして華も……!?」

みほ「ま、まだ決まったわけじゃないから! あんまり変に詮索しない方がいいよ」

優花里「そうですね。私なんかは特にその辺り専門外なので……」

沙織「え~でも気になるぅ~♥」クネクネ

みほ「さ、沙織さん……」

-トイレ-

ジャゴォー パタン

華「……」フキフキ

麻子「……い、五十鈴さん」

華「はい?」

麻子「今もまだ、その……変な感じは残ってるのか?」

華「変な、と言いますと?」

麻子「だから。私に対して……その……」

華「……ふふっ、どうしたんですか赤くなって。麻子さん可愛いです」ナデナデ

麻子「っ……か、からかうな。ちゃんと答えてくれ」

華「そうですね……じゃあ」

麻子「?」

華「名前で呼んでくれたら、ちゃんと答えます」

麻子「こっ……学校だぞ。誰が聞いてるかわからん」

華「別に機密事項を口にするわけじゃないんですから……」

麻子「それは、そうだが……」

華「お嫌でしたら、それはそれで」フイ

麻子「ま、待った……華、さん」

華「!」

麻子「……華さんは……いま私のことがどう見える?」

華「……先日から申し上げてますように、麻子さんはとても素敵な方ですよ」

麻子「ん…………ぁ、ありがとう。そうだな。そう思ってくれてるだけなら、別に――」

華「それだけではありませんよ」スッ

麻子「(! 手を……握られた)」

華「夜更けにお話してる間……ずっとこうしてあなたの手を取りたかった。声だけでは物足りませんでした」

麻子「ぇ……」ドクン

華「人知れず孤独に咲いているか細い花のような……強がっているけど折れてしまいそうなあなたの小さな体を愛でたかった。鈴蘭のような正直で優しいあなたの匂いを感じたかった」

麻子「ぅ、うぁ……」カァァァ

華「伝えてしまうのが恐ろしくて張り裂けそうなこの気持ちを……あなたの眼を見てお伝えしたかった」ギュッ

麻子「わ、わ――わかった! わかったから! いったん離れてくれ!」

華「……はい」パッ

麻子「うっ……おばあが倒れるのとは別の意味で心臓に悪い……」ドクンドクン

華「大丈夫ですか?」

麻子「あまり大丈夫じゃない……よ、よくそんなことをスラスラと言えるな」

華「……流石に面と向かって言うのは恥ずかしかったです。いくらお薬のせいだとはいえ……」

麻子「……っ」

華「でも、これが今のわたくしの正直な気持ちです。いつか消えて無くなるものだとしても」

麻子「……は、華、さん」

華「何でしょう麻子さん?」

麻子「あ、あのな……」

華「?」

麻子「……。…………そ、そろそろ、戻らないと……変に思われる、ぞ」

華「……そうですね。お昼休みが終わってしまいますし」

麻子「…………」

麻子「……」

-夕方 大洗女子学園格納庫前-

オツカレサマデシター

桂利奈「なんか今日のⅣ号変だったねー」

あゆみ「なんかエンストしてたよね?」

あや「木に激突した時ヤバかったよね」

梓「冷泉先輩何かあったのかな……?」

優季「彼氏にフられたのかな~?」

紗希「……」

ヤイノヤイノ…

麻子「……」

沙織「……麻子、今日どうしたの?」

麻子「すまん……」

みほ「た、たまにはそういう日もあるよ。元気出して麻子さん?」

優花里「流石に砲塔が木に刺さったときは驚きました……」

華「優花里さん」

優花里「あ、す、すみません……」

麻子「悪い……帰って休む」フラ…

華「送っていきましょうか?」

麻子「……いや、一人で帰らせてくれ。今日は迷惑かけてすまなかった」

みほ「ううん、気にしないで。ゆっくり休んでね」

フラフラ…

華「……」

沙織「……ねぇ、華は麻子に何かあったのか知ってるの?」

華「……それは……」

みほ「さ、沙織さん」

沙織「だって華の次は麻子だよ? 親友が元気失くしてたら気になるじゃん! 二人の間で何かあったの!?」

華「…………」

優花里「や、やっぱり良くないですよ。あんまりプライベートな問題だとしたら、我々が口を挟むのは」

沙織「でもさぁ……」

華「……すみません。みなさんにここまでご心配をかけるなら、言っておいた方がいいですわね」

みほ「え?」

華「実は――」

-夜 麻子の部屋-

麻子「(……)」

麻子「(寝られん……)」

――ピンポーン

麻子「(! ……華さん……か)」

――ピンポーン

…マコサン? オキテラッシャイマスカ?

麻子「………………」ゴソゴソ

ガチャ

華「あっ……すみません、起こしてしまいましたか?」

麻子「いや……眠れなかった」

華「そうですか……」

麻子「……で、何か用か」

華「あのぅ……チームの方々に、わたくしのことをお話してきました」

麻子「えっ……」

華「みなさん、最近わたくしと麻子さんが少し変な様子だったのを気にしていたらしく……余計な心配をおかけするよりは、事実をお話した方が良いかと」

麻子「それで……変な薬のせいだって、話したのか……?」

華「はい。わたくしが一方的に麻子さんに……原因があって夢中になってしまっているだけで、麻子さんはわたくしを気遣ってくださっていると。時間が経てば治るので過剰に心配しないでいただくように、と」

麻子「…………」

華「……やはり話さない方が、よかったでしょうか……?」

麻子「いや……それは……別に、いいんだ」ヘタッ

華「ま、麻子さん? 大丈夫ですか!?」

麻子「待って!」ビシッ

華「!!」ビクッ

麻子「すまない……少しだけそっとしといてくれないか」

華「……わたくし、わるいこと、してしまいましたか……?」

麻子「そんなことない。華さんは何にも悪くない。ただ……すまん、ちょっと自分の中が混乱してるんだ」

華「麻子さん……」

麻子「ごめん……」

華「……わかりました。では、失礼いたします」

麻子「……車に気を付けて。絶対だぞ」

華「はい」

-夕方 大洗女子学園校門前-

ゴロゴロゴロ…

みほ「ちょっと天気悪くなってきたね」

優花里「この時間くらいから学園艦が低気圧の中に入っていくそうですよ。今日は早めに帰りましょう」

沙織「麻子……今日欠席だったね」

みほ「うん。昨日、華さんが事情を話してくれたし……私もこういうことはよくわからないけど、仕方ないよ」

華「……」

優花里「でも五十鈴殿まで元気がなくなってたのは一体……」

華「すみません……」

優花里「あああ責めてるわけではないですよ!」

沙織「ていうか、予想より斜め上の状態だったし……流石に惚れ薬がどうとかまでは想定してなかったよ~」

華「普通の恋愛なら想定していたんですか?」

沙織「だってありえない話じゃないし? 女の子同士でも恋愛は色々すれ違うものでしょ」

華「沙織さんは男の人とだって恋愛したことないでしょう」

沙織「経験論じゃなくて一般論の話!」

ブロロロロロ…… キイッ

みほ「? 校門前に誰か来てる」

優花里「あれ、あのトラックは確か……」

ペパロニ「――カルパッチョぉ、まだ冷泉さんと繋がらないのかぁ?」

カルパッチョ「朝から連絡してるんだけど、電源切ってるみたいで……」

沙織「あ! ペパロニさんとカルパッチョさん!?」

ペパロニ「あっ、沙織姐さん! お久しぶりっす!」

沙織「どうしたの急にこんなとこまで?」

カルパッチョ「はい、冷泉さんから連絡をいただいた件でお話したいことがあったのと……」

ペパロニ「五十鈴の姐さん!」バッ

華「!?」

沙織「土下座っ!?」

ペパロニ「この前はよくわからない料理を食べさせちまって、本当に申し訳なかったっす!! 直接謝らせてもらいに来たっす!」

華「お、お顔を上げてください! こんなところでそんな……」

カルパッチョ「元はといえば私が下心で変なものを持ち込んでしまったのが悪いんです。ご迷惑おかけして、本当に申し訳ありませんでした」フカブカ

華「あの、本当にわたくしは大丈夫ですから。ペパロニさん、どうかお顔を上げてくださいな」

ペパロニ「……っす」

みほ「えっと、つまり……話に出てた惚れ薬? は、カルパッチョさんが……?」

カルパッチョ「はい……恥ずかしながら、あの時たかちゃんに一服盛るつもりで……」

沙織「え゛っ」

カルパッチョ「まさかこんな形で五十鈴さんにご迷惑をかけてしまうとは思ってなくて……本当にごめんなさい。健康に害のあるものでないことは確かなので」

優花里「そ、それにしたって、相手がカエサル殿ならよかったのですか……?」

カルパッチョ「だってだって、たかちゃんったら私のこと全く意識してくれないんですもん! 一日だけでもその気にさせればノリと勢いでイケると思って!」

沙織「(この子、やっぱりアンツィオの子だわ……)」

優花里「(これはいずれまたカエサル殿になんらかの危機が及ぶのでは……?)」

みほ「あれ……今、一日だけでもって言いました?」

華「惚れ薬の効果って、どれくらい続くものなんですか?」

カルパッチョ「? 冷泉さんから、何も聞いていらっしゃいませんか?」

華「調べてもらっている最中だと……」

ペパロニ「ていうか、冷泉さんはどこっすか? あの人にもちゃんと謝りたいんすけど……」

優花里「冷泉殿は今日は学校お休みされてます」

カルパッチョ「そうですか……では、私から詳細をお伝えしますね」

沙織「ごくり……」

華「……」

カルパッチョ「あの薬……薬というか、本当は食用のソースなんですけど。成分に若干の興奮・発汗作用のある、少し甘くて刺激的なアルコールが入ってるんです」

みほ「アルコール……」

華「うーん……そう言われると、確かにあれはお酒の匂いだった気もします」

ペパロニ「そっかぁ、あれ最後に上から振りかけたからアルコールが飛ばなかったんすね」

カルパッチョ「厳密にはもっと色々な食物由来の成分が入ってるらしいんですけど……簡単に言ってしまえば、食べた人を一時的な酩酊、興奮状態にさせて、最初に目に入った人を魅力的に見せてしまう効果があるんだそうです」

沙織「で、華が最初に見たのが麻子の顔だったと」

優花里「なんだかお酒を飲んだときの効果に似てますね」

カルパッチョ「ええ、それと似たような作用をうまく調整した調味料みたいなものだそうで。ただ効果には個人差があるし、調理法や量によって効き目も変わるらしいです」

ペパロニ「あー……そういやあたし結構な分量入れたなぁ。良い匂いだったもんで……」

みほ「だから余計に効き目が強かったのかもしれないね」

華「……でも、そんな害のない調味料で、こんなに長く効き目が続くものなんでしょうか?」

カルパッチョ「え?」

華「あれからもう一週間になりますけど、わたくし今だに麻子さんのことばかり考えてしまって……」

カルパッチョ「……それ、本当ですか?」

ペパロニ「なんか聞いてた話と違うな」

みほ「? どういうこと?」

カルパッチョ「材料はあくまで食物由来なので……基本的には普通のアルコールなどと同じように吸収されるはずなんです」

優花里「と、いうことは……」

カルパッチョ「効き目は、大体摂取してから数時間。長くてもその日一日くらいしか惚れ薬的な効果は持続しない……と聞いてます」

華「」

みほ「えっ……?」

沙織「……ち、ちょっと待って。それじゃあ」

華「あ、あの、それは、本当に?」

華「(なのに、わ、わたくし昨日あんな……え? ええっ!?)」プルプル

カルパッチョ「もし翌日以降もそんな感じの状態が続いたってことは……つまり」

ペパロニ「自然にそうなったってことっすよね?」

優花里「お、おおお……マジでありますか」

華「わたくし、ま、まこ、さんに、ああぁっ……!」カーッ

ボンッ

みほ「きゃあ! 華さんが爆発しちゃった!?」

沙織「ちちちょっと華!? あんたよく気絶するね!?」

華「きゅう……///」

カルパッチョ「だ、大丈夫ですか!? そうだ、私たちのトラックに乗って!」

ペパロニ「わートマトみたいに真っ赤だな」

優花里「衛生兵ー! 衛生兵ー!」



――あぁそうでしたか。

  麻子さん、だから昨日あんな風になってしまったんですね。

  これは確かに、混乱します……――

-夜 麻子の部屋-

ザアアァァァ…

麻子「(……雨が強くなってきたな)」

麻子「(丸一日学校サボってしまった……明日そど子がうるさそうだ)」

麻子「(昨日の夜から……ずうっと五十鈴さん……華さんのことばかり考えて、結局今の今までほとんど眠れなかった。普段なら喜んで惰眠を貪るというのに)」

麻子「(……まぁ、おかげで少しは頭が冷えたが。それでもまだ……まだ私はどうするべきなのか)」

ニャー ニャー ニャー

麻子「!」ビクッ

  着信
〔五十鈴 華〕

麻子「……まぁ、そうなるよな……」ピッ

麻子「……もしもし」

華『……ぁ……こんばんは』

麻子「こんばんは……昨日はすまなかったな」

華『いいんです、そんなこと。それよりお加減はいかがですか?』

麻子「いや……別に体調が悪いとかじゃなったから。心配しなくていい」

華『そうですか……』

麻子「うん」

華『……』

麻子「どうした。他に何か用か」

麻子「(やけに雨音がうるさいな……)」

華『……はい。でも、これは、できれば……直接お会いしてお話したいと』

麻子「ぬ……ま、また明日でもいいんじゃないか。雨降ってるし……」

華『明日もお休みされたりしませんか?』

麻子「それは……わ、わからん」

華『でしたら今から、少しだけお時間を頂戴してもよろしいですか?』

麻子「だ、だから今日は」

華『わたくしもはっきりさせたいことがあるんです!』

麻子「!」

華『お願いします麻子さん……』ァァァ…

麻子「(……もしかして華さんの後ろから雨音が聞こえてるのか……?)」

麻子「華さん、今どこにいるんだ?」

華『……』サアァァ…

麻子「(間違いない、さっきから電話口で雨音がしてるんだ! まさか)」ダッ

ガチャッ――

華「……麻子さん」ビッショリ

麻子「(……ウチの前まで、来てたのか)」

麻子「か、傘はどうしたんだ」

華「その……出る前はまだそんなに降っていなくて」ビッショリ

麻子「馬鹿か! 風邪引くだろう! 早く中へ入れ!」グイッ

華「あっ……」

麻子「制服脱いで、シャワー浴びろ。服は……な、なにか探してくるから」

華「すみません、突然こんな……」

麻子「いいから早く。話はそのあとだ」

華「――シャワー、いただきました」パタン

麻子「すまんな、母親の古服しか大きいのがなくて……着れたか?」

華「はい。今度洗ってお返ししますね」

麻子「別にいいぞそんなの」

華「いいえ、麻子さんの大切なものですから」

麻子「……まぁ好きにしてくれ」

ザアアァァァ…

華「……」

麻子「……」

華・麻子「「あの」」

華「あぅ……」

麻子「……先にどうぞ」

華「す、すみません。えっとですね……よいしょ」

麻子「(なぜ正座し直す)」

華「んんっ……今日、カルパッチョさんとペパロニさんが学校までいらっしゃいまして」

麻子「えっ……じ、じゃあ」

華「はい、すべて伺いました」

麻子「そ……うか。すまない」

華「なぜ麻子さんが謝るんですか」

麻子「だって、言えなかったから……華さんが言ってたことは全部、薬のせいじゃなかったって……」

華「別にいいじゃないですか。他の誰かに迷惑をかけたわけではないんですから」

麻子「でもなんか……フェアじゃないだろう。私だけ本当のこと知っててあんな……」


――伝えてしまうのが恐ろしくて張り裂けそうなこの気持ちを……あなたの眼を見てお伝えしたかった――


麻子「あんな、こと、言わせてしまって」

麻子「(思い出したらまた顔が熱くなってきた……)」ドキドキ

華「ふふ、なんだかサンダースの隊長さんみたいなこと仰るんですね」

麻子「華さんだって恥ずかしいだろ。正気で私にあんな歯の浮くようなセリフを言ってたんだぞ」

華「ええ。わたくし、さっき事実を知ったときに気を失ってしまいましたから」

麻子「えぇ……」

華「恥ずかしいのはもちろんでしたけど……一瞬すごく恐ろしくなってしまって」

麻子「? 何がだ?」

華「お薬のせいで変になっているだけだから、麻子さんは変なことを言っても受け入れてくれていると思っていたんです。でも、それが全て素のわたくしから出ていた言葉だと知ったら、流石にショックだったのではないかと――」

麻子「それはないって言っただろ!」

華「!」

麻子「確かに驚きはしたが……別に華さんにああ言われて嫌だったわけじゃ……ないんだ。むしろ……」

華「むしろ……?」

麻子「……そんなに嫌じゃなかった自分に驚いて困惑した」

華「麻子さん……」

麻子「流石にこういうのは見聞きした知識だけで納得できるものじゃないからな。ましてや私たちは女同士だ。自分が華さんをどういう風に見るべきなのか、わからなくなった。それで今日は休んだ」

華「……わたくしも、今そんな感じです。自分で自分のことがよく分からなくなってしまっているといいますか……ごめんなさい、わたくしが勝手に麻子さんを振り回しているのに」

麻子「わからないのが普通だ。無理してすぐ結論を出さなくていいと思う。思春期は友情と恋愛の区別がつかなくなるとも言うしな」

華「……」

麻子「……次は私の番だ。……が」

華「?」

麻子「華さん、晩御飯は食べたのか」

華「いえ、まだですけれど」

麻子「一緒に食べるか。ついでに作るぞ」

華「よろしいのですか?」

麻子「流石にそんなに分量はないし沙織ほど大したものは作れんがな。饂飩とかそんなんだ」

華「ではわたくしもお手伝いします」

麻子「……前に包丁握って怪我してなかったか?」

華「そ、それは……」

麻子「ふっ」

華「もう、意地悪です!」


ザアアァァァ…

麻子「明日まで止みそうにないな。雨」ズルズル

華「だんだん強くなってますねぇ」チュルチュル

麻子「どうせなら暴風雨にでもなって学校ごと休みになればいいのに」モグモグ

華「今日お休みしたじゃありませんか」ズズズ…

麻子「華さんのこと考えてたから全然寝られなかった」

華「……そ、そうですか」カァァ…

麻子「……私なんかの何がいいんだ?」

華「なんか、なんて言い方は良くないですよ」

麻子「いや、自分だとそういうのはわからないものだろ。沙織ほど女子らしくもないし、秋山さんや西住さんみたいに得意なことがあるわけでもない」ズルル…

華「麻子さんは勉強が得意じゃありませんか」

麻子「そんなことが人間的な魅力につながるとは思わん。むしろそれしか取り柄のない根暗だと思われるんじゃないか」

華「わたくしがそんな風に感じているとお思いで?」

麻子「……思わない」モグ

華「わたくしは素敵だと思いますよ。勉強ができるのも甘味が好きなのも、寝るのが好きなのも」ゴクゴク

麻子「睡眠が好きというより眠いから寝てるんだ」

華「よく沙織さんが言ってるじゃないですか。『恋に理由なんか要らないのよ!』って。たぶん何かの受け売りでしょうけど」

麻子「要るだろう。私たちの場合は」

華「あら、私たち、ってことは麻子さんも?」

麻子「こ、言葉のあやだ。今まで普通の友人として付き合っていたんだぞ。いきなりそういう関係になったら……変だと思われるだろう」

華「……意識してしまうきっかけが事故だったのは間違いありません。もちろんそれまでも、麻子さんはとても良い友人だと思っていましたけれど」

麻子「ん……私もそう思ってる」

華「ふふ、ありがとうございます」

麻子「……で?」

華「今になって思えば、なんですけど。あの日の翌日はわたくし、どちらかというと冷静だったんです」

麻子「え?」

華「麻子さんとすごく近くで顔を向けあってしばらくは、薬の作用もあってとても緊張してました。けれどそのあと家に帰ってからは、落ち着いた気分で麻子さんとの思い出を振り返っていたんです」

麻子「……昔はそんなに関わりがなかったと思うが」

華「中学の時は沙織さん経由でたまに会うくらいでしたもんね。でもその時から麻子さんのとても家族想いな性格はなんとなく知ってました」

麻子「別に……」

華「優花里さんのお家にお邪魔した時、ご家族の写真を切なそうに見ておられる麻子さんを見て。倒れたおばあ様を本気で心配しているところを見て。辛辣な物言いながらいつも沙織さんを気にかけているのを見て……」

麻子「沙織に辛辣なのは華さんもだろう」

華「私のはからかいが半分ですけれど。麻子さんの場合は沙織さんの将来を心配しての皮肉が混じっているでしょう?」フフッ

麻子「むぐ……」

華「……そういう麻子さんを思い出しながら、ふと考えたんです。『もし麻子さんが家族だったら、きっとわたくしを死ぬほど大切にしてくれるだろうな』って」

麻子「……それはもし妹や姉だったら……という話か?」

華「そこまで具体的に考えていたわけじゃありませんけど……たぶん想像していたイメージは、その……」

麻子「?」

華「……旦那さま?」

麻子「え……いやそれはおかしいだろ」

華「麻子さんを殿方として想像したわけではないのですが……わたくしは将来、必ずお婿さんをとらなければなりませんから」

麻子「あぁ……家元の娘で、一人っ子だものな」

華「沙織さんじゃありませんけれど、この歳になると結婚相手との生活を意識してしまいます。自分で見つけるにしても、お見合いをするにしても、どのような相手とこの先の将来を生きていくのか……」

麻子「窮屈そうな話だな」

華「別にイヤではないんですよ? 昔から家業を継ぐことは受け入れてましたし、どんな男性をお迎えするにしても、五十鈴家は女のチカラが強い家系なので他の方が思うほど窮屈でもありません」

麻子「(華さんの胆力はそこが源流なのか……?)」

華「……ただ、それゆえにどこか孤独というか。家を守るために頑なにならざるをえなかったり、大切な人に厳しく当たって一人思い悩むこともあるでしょう。お母様のように……」

麻子「……」

華「そういう時に……きっと麻子さんならとても優しくしてくれるような気がして……」

麻子「買い被りだ。私には……立場のある人の苦悩は共有できないぞ」

華「そういうことではないんです」スッ…

麻子「!(頬に手が……)」

華「麻子さんは……全国大会の決勝で一騎打ちになった時、何を考えていましたか?」

麻子「な、なにって……」

華「廃校を阻止するためだったり、遅刻を取り消してもらうためだったり……色々理由はあったと思いますけど。あの時だけはわたくしたち四人、みほさんのために必死に協力してましたよね」

麻子「……あぁ。そうだな」

華「わたくしと沙織さんは大切な親友のため、優花里さんはあこがれの人を手助けするため……では普段からみほさんと個人的な交流はなかった麻子さんは、何のために?」

麻子「……何が言いたいんだ。私だって西住さんに借りがあったし……仲間のために協力しただけだろう」

華「放っておけなかったんじゃ、ないんですか?」

麻子「!!」

華「複雑な事情があったとはいえ、遠くの地からたった一人でやってきて学校の命運を背負わされたみほさんを……放っておけなかったんでしょう」

麻子「………………だったらなんなんだ」

華「そういうところが麻子さんの優しさなんです。一見すれば無愛想ですけど、家族から切り離された孤独な人を放っておけない……きっと麻子さん自身の経験がそうさせているんですよね」

麻子「……それは」

華「あぁごめんなさい、嫌なことを思い出させて。けれど……わたくし……」ギュ

麻子「! は、華さっ」

華「そういう麻子さんの姿を思い出して……いつか家元になった自分の隣にあなたがいてくれるのを想像したら」

麻子「(華さんが……花を優しく束ねるように私を抱きしめてる。あたたかくて、やわらかくて、優しいにおいがして……振りほどく気になんかならない)」

華「……とても、安心して……幸せだと思ったのです」

麻子「(……この感触をなぜか私は覚えてる。そうだ……前におばあの見舞いに行った帰り、華さんが私をおんぶしてくれてたんだ)」

華「……お嫌でしたら、おっしゃってくださいね。離れますから」

麻子「……嫌じゃない。華さんの匂いは好きだ」ギュ

華「麻子さんもいい香りですよ」

麻子「へ、変態みたいなこと言うな」

華「麻子さんが先におっしゃったのでは?」

麻子「ぬぅ……と、というかだな華さん」

華「?」

麻子「その……今の話をきいても……現実的に私たちが……そういう関係を続けるのは無理だとわかってるんだろう?」

華「……ええ、頭の中ではずっとわかっておりました」

麻子「だったら……」

華「いずれ離れ離れになって傷つくような関係なら、忘れた方が良い……と?」

麻子「……」コクン

華「別によろしいじゃありませんか」

麻子「は?」

華「前にも申し上げた通り、あとからこの気持ちが消えてしまっても後悔は致しません。いずれなくなるなら何もしないというのであれば、華道を継ぐ身のわたくしが戦車道をしているのも不必要ということになります」

麻子「……それは、そうだが」

華「この気持ちが作り物でないことが分かった今でも同じです。いえ、だからこそ……人を愛する気持ちは簡単に捨てたくはないのです」

麻子「あ、愛するって……」カアァ…

華「あ……す、すみません! ちょっとアグレッシブ過ぎたかしら……わたくしたちお付き合いしているわけでもないのに……」

麻子「い、いや……華さんの気持ちは……よくわかった」

華「……」

麻子「……華さんは」

華「はい?」

麻子「私と……つまり……恋人になりたいか? 先の決まった期間限定の関係だとしても」

華「うーん……そうですねぇ」

麻子「ここで悩むのか……」

華「あぁその! えっと、今まで自分の気持ちの整理が追い付かなくて、麻子さんと現実的な関係を結ぶことにはまだ想像が及ばなかったと言いますか……」

麻子「あぁ……まぁ、それは私もだが」

華「……というか、そういう質問をなさるということは、麻子さんは私と――」

麻子「か、可能性の話だ! もしそういう関係を望まないんなら、別に私は今まで通りでも……」

華「……麻子さんは今まで通りでも何とも思わないんですね……」シュン

麻子「え……」

華「つまり元よりわたくしとの関係に興味はなかったと……」

麻子「そ、そうじゃない! ただ華さんはこれから生徒会長になるわけだし、立場上色んなことを考えて動かないと問題があると思って……!」

華「………っくふ」

麻子「……あ?」

華「ふふふ……すみません、冗談です。麻子さんがわたくしのことを気遣って下さるのはよくわかってますから」

麻子「……華さんなんか嫌いだ」プイ

華「あぁっ、へそを曲げないでください」

麻子「うるさい。こっちは真面目に話してるのに茶化すような人は嫌いだ」

華「麻子さぁん……」

ゴロゴロ…

ピシャァァァン!!
バツンッ

麻子「うひゃあ!?」バッ

華「きゃっ……あらあら、停電してしまったみたいですね」パチパチ

麻子「び、びっくりした……そういえばどんどん雨脚が強くなってるな。低気圧の中に入ったのか」

華「どうしましょう……これでは帰るに帰れません」

麻子「仕方ない。今日は泊っていくか」

華「えっ……」

麻子「? ……あ、いや、変な意味じゃないから! わかるだろ!」

華「ええ……でも、確か麻子さん、お布団一つしか持ってらっしゃらないのでは……?」

麻子「…………」

-in 麻子布団-

ザァァァァァァ…

華「(――懐中電灯の灯りの中おうどんの食器を片付けて、わざわざ開封してくれた新しい歯ブラシで歯を磨いて。緊張しながら入ったひとつだけのお布団は、麻子さんの体が小さいせいかおさまり良く二人分の体を包んでくれました)」

麻子「……」

華「わたくしは毛布だけでもよかったのですけれど……」

麻子「さっきずぶぬれでここまで来ただろ。敷布団はこれだけだし、風邪をひかれても困る」

華「……ありがとうございます」

麻子「別にいい」

華「(……麻子さんのパジャマ姿……前にも見たことはありますがなんだかカワイイ……プライベート感があります)」

麻子「……さっきの話」モゾ

華「あっ、はい?」

麻子「ちゃんと質問に答えてもらおうか」

華「あぁ……そうですね。わたくしは……」モゾ

麻子「うん」

華「(少し首を横に向けるだけで、同じようにこちらに顔を向けている麻子さんの顔が見えます。昼間見るのは少し寝ぼけたお顔ばかりですが、今がピークタイムの彼女はとても鋭く真っすぐな目で私を見つめていました)」

麻子「まだよくわからないか」

華「……恋人同士という関係にあこがれているかは、まだよくわかりません。でも、自分がどうしたいかをお答えすることはできます」

麻子「……華さんはどうしたいんだ?」

華「わたくし、こうして麻子さんと一緒に床にはいるのは初めてです」

麻子「普通はそうだろ。友達と同じ布団で寝ることなんてまずない」

華「誰かと生活を共にする、ってなかなかないですよね。高校生ですし」

麻子「歴女の人たちはひとつ屋根の下で同居してるがな」

華「それにしたってプライベートな仕切りはあるでしょう」

麻子「それはまぁ……いや、何の話だ?」

華「わたくしは……麻子さんと一緒に色んなことを味わいたいのです。隣で誰かが起きる気配だったり、自宅で食べる作りたてのご飯の温もりだったり、自分以外のシャンプーの香りだったり……日々の些末な感動だったり」

麻子「……それは、他の誰かと一緒じゃダメなのか? チームのみんなとか……」

華「みんなとそういう体験をするのも好きですよ? 大学選抜戦の前にみんなで合宿したのはとっても楽しかったですし……でもそれとは少し違うんです」

麻子「?」

華「表現に困るのですが……麻子さんの一部になりたい、とでも言えばいいでしょうか。わたくしの帰る場所にはいつも麻子さんがいて、また麻子さんの帰りをわたくしがいつも待っていて。そういう風に一緒にいることが当たり前になるような、心の通い合った関係が幸せだと思います」

麻子「……まるで結婚生活じゃないか。沙織に影響されたのか?」

華「そ、そうなんでしょうか……恋人になるとしたらもっと他の段階から考えるのかもしれませんけど、わたくしたちは普段からお外で一緒に行動してますからね」

麻子「確かにそうだが……プライベートまで共有すると問題は多いぞ」

華「例えば?」

麻子「多少マシになったとはいえ朝は絶対迷惑をかける。その流れで互いの生活リズムも合わなくなる。そうなると日常会話も何もあったもんじゃない。ただの友達なら問題ないだろうが……」

華「もしそうなったら、わたくしが麻子さんの生活リズムを矯正して差し上げます」

麻子「……ほ、本気か?」

華「本気ですよ。大切な人のためなら鬼になる覚悟はありますもの」

麻子「お、おばあ二号になるのだけは勘弁してくれ……」

華「それは麻子さん次第としか……」

麻子「……急激に華さんとそういう関係になるのが恐ろしくなってきた」

華「家族のように近しい関係となるのは、必ずしも良いことばかりではありませんから……うふふ」

麻子「……家族、か」

華「……」

麻子「今の私の家族は、おばあだけだ。でも……おばあもいずれ死ぬ」

華「……。……」ナデ…

麻子「私が就職して自立できるまで死ぬに[ピーーー]ないとは言ってるが……正直あとどれくらいかわからない。前もそうだけど、倒れるときはいつも突然なんだ。普段あんな風だからいつ倒れるのか逆にわからん」

華「心配になりますよね」

麻子「5年後かもしれないし、来月かもしれない……いや明日になったら急にいなくなってるかもしれない。朝起きたら……一人ぼっちになってるかもしれない」

華「麻子さん……」

麻子「そう考えると起きるのが怖くなって余計に眠りから覚めたくなくなる……そんなこと考えても、意味ないのは、わかってる、っんだが」ブル…

華「いいんですよ……」ナデナデ

麻子「……さっき、いつかなくなる関係なら持たない方が良い、って話をしただろ」

華「ええ」

麻子「……ホントは……怖いのは私の方なんだ。おばあがいなくなったら私は天涯孤独だ。その上また、大事な人が自分の前からいなくなるってっ、考え、たら」ポタ…

華「!!」

麻子「……そんなのやだ……いやなんだ……」ポタ…

華「っ……麻子さん……!」ギュウ!

麻子「怖がってばっかりで……すまない……ぅぐ……だから華さんは、こんな女を好きになっちゃだめだ……」ブルブル

華「(わたくしは……大うつけ者でした。麻子さんの抱えているものを理解しようともせずに、自分の気持ちばかり身勝手にぶつけてしまって……)」



麻子「好きだよ……」

華「……えっ……」

麻子「華さんのこと……好きだよ。そんなに私のことを想ってもらって嬉しくないわけがない。私だって華さんのこともっと知りたい」

華「ま、こさ……」

麻子「でも……だめなんだ……私が耐えられないんだ」

華「ぁ……」

麻子「私は……華さんの気持ちを素直に受け止める勇気がないんだ……華さんがいなくなったさびしさに耐える自信がない……」

華「麻子さん……」

麻子「だから……私は華さんとは――」

華「麻子さんっ!!」ガッ

麻子「!……な、なんだ」

華「本当にごめんなさい麻子さん……あなたの気持ちをもっと考えるべきでした。でも『期間限定でいいので付き合ってください』なんて、わたくし言うつもりはありません」

麻子「で……でも現実的に」

華「……もし麻子さんとお付き合いすることになっても、いずれわたくしは、世継ぎを産むために麻子さんではない殿方と結婚します。それは変えられません。次期当主として生まれたわたくしの使命ですから」

麻子「じゃあ……」

華「ですが、もし麻子さんとそれまでずっと……つまり、順調な関係を育んで、離れがたい絆を得ていたなら。わたくしは麻子さんと離れることはありませんわ」

麻子「……? あ、え? それは……どういう」

華「言ったままの意味です。たとえ結婚しても、麻子さんとお別れしないって約束します」

麻子「………………は? いや、それは、ちょっと待て、おかしいだろ」

華「そうでしょうか」

麻子「おかしいって! だってそれ……ふ、不倫……!」

華「そうなります?」

麻子「当たり前だろ! 何考えてるんだ!」

華「でも、わたくしが麻子さんと将来的に結婚できないのは女同士だからです」

麻子「お……おう」

華「それって、女同士が世間的に交際相手として認められないからですよね」

麻子「……おう」

華「でしたら別に結婚してから麻子さんと何をしようが不倫とはならないのでは?」

麻子「お……いやその理屈はおかしい」

華「う~ん……でも意外と珍しくもないんですよ? 流派の家元が隠れて外の方と関係を持つのは……」

麻子「そんな闇をいま知りたくなかった……大体、子供ができたらどうする気だ。私なんかに構う暇はないだろ」

華「もちろん、わたくしの子供にはたくさん愛情を注ぎます。けど五十鈴流は二十歳を迎えるころには自立して家業を継ぐよう教育されますから……子離れはけっこう早いんですよ? 現にわたくしも中学から親元を離れてますし」

麻子「だから……そういう問題じゃ……!」

華「もしそういった関係をどうしても続けられないとおっしゃっても……例えば麻子さんが病気で倒れたら、毎日お花を生けにうかがいます」

麻子「へ……?」

華「お仕事が見つからないのであれば、ご紹介してさし上げます。麻子さんは優秀な方ですからいくらでも斡旋いたしますわ」

麻子「あ、あのな……そういうこと言ってるんじゃ」

華「麻子さんがひとりぼっちで寂しいとおっしゃるなら、夜中でもお傍に飛んでいきます。どうしても朝起きられないのなら毎日でも起こしにいってさしあげます」

麻子「……」

華「きっと同じことをほかの方々も思っていらっしゃるでしょうけど……大人になってみなさんが家庭をもてば、麻子さんは迷惑をかけまいとして誰にも頼らなくなるでしょう? 特に沙織さんには……幸せな家庭を持ってほしいって思ってらっしゃるみたいですから」

麻子「……なんで……そんなことまで」

華「麻子さんは優しくて……でもちょっと強がりなところがありますから。だから、わたくしだけは死ぬまで大好きな麻子さんを甘やかすんです」

麻子「っは、な、さん……」

華「もっとも……わたくしの方も辛いときは麻子さんに甘えてしまうでしょうけど。今日みたいに」

麻子「……バカっ、それだと結局不倫と変わらんじゃないか」

華「あら……でもわたくしが弱っていたらきっと甘やかしてくれるんでしょう? 今日みたいに」

麻子「別に甘やかしてるつもりはないっ」

華「優しくしてくれてるだけですもんね」

麻子「……私、かなり寂しがりだぞ」

華「知ってます」

麻子「理屈っぽいからいちいち面倒なこと言うぞ」

華「よく知ってます」

麻子「……甘えただし、多分、私も思ってる以上に、依存するぞ」

華「それは……さっきよくわかりました。もし度が過ぎていたら叱ってさし上げます」

麻子「うぐ……」

華「……麻子さんは、どうしたいですか……?」

麻子「…………」

華「……」

麻子「……わた、し……は……」


ザァァァァァァ…


麻子「華さんが……許してくれるなら……」ギュ…

華「はい」

麻子「華さんが一緒にいたいと思ってくれる限りずっと……そばにいてほしい……華さんのそばにいたい」

華「はい……そばにいますよ」

麻子「……不倫はダメだけど……」

華「……」

麻子「家族で……っい、いてくれるなら……ずっと……っ、ぅ」ポタポタ…

華「……麻子」ナデナデ

華「おいで、麻子」

麻子「っ……んぅっ……」ギュッ

華「本当にいい子ですね」ポンポン

麻子「……っ」グス

華「大好きですよ」

麻子「……わたしも……華さんが好きだ……」

華「……ふふっ」

麻子「…………」

華「……?」

麻子「……スー……スー……」

華「あらまぁ……」

華「(……わたくしも今夜は……とてもよく……眠れそうですね……)」スー…

-翌朝 麻子の部屋-

チュン チュン

華「…………」パチ

華「んっ~~……ふあぁ」ムニャ

華「(……あ、そうでしたわ。昨日は麻子さんのお部屋に泊まって……)」

麻子「――華さんの欠伸とは珍しいものを見たな」

華「ひゃあ! ま、麻子さん!?」

麻子「なんでそんなに驚く」

華「えっ……いま何時ですか!? まさか寝過ごし……あら?」

麻子「まだ六時半だ。昨晩中に低気圧も抜けたから残念ながら学校もある。十分間に合うから起きて着替えるんだ」

華「あっ……はい。あれ、わたくしの制服……」

麻子「そこに置いてある。もう乾いてるから大丈夫だ」

華「あ、ありがとうございます」

麻子「いま朝ごはん作ってるから……分量はまぁ、我慢してくれ」

華「はい……あ、あの」

麻子「どうした」

華「麻子さん……自力で起きられたんですか?」

麻子「……あぁ。なぜか今朝はすこぶる寝起きが良くてな」

華「なんと……」

麻子「……昨日は早めに寝たし、起きてすぐ隣に寝てる華さんがいたから」

華「?」

麻子「……ちょっといいカッコしようと思っただけだ」

-大洗女子学園 校門前-

みどり子「――あら、おはよう五十鈴さん……と……え? えぇ!?」

麻子「おーそど子」シャキーン

華「お、おはようございます」

みどり子「……五十鈴さんが起こしてあげたの? 朝から冷泉さんが元気なのってなんか不気味なんだけど」

華「いえ、そうではなくて……」

麻子「たまには私が優等生になる日もあるということだ。そど子が不良になる日があるようにな」

みどり子「ちょ……あの時のことは忘れなさいって言ったでしょ! あとそど子って呼ばないで!」

華「あはは……では失礼します」

麻子「じゃあなそど子」

みどり子「もうっ……ホントに不思議なこともあるもんだわ。何かあったのかしらあの二人……」



-普通一科 2年A組-

沙織「ねえねえ華と麻子昨日何かあったの!?」バンッ!

華「ええ……な、なぜいきなり?」

みほ「さっき珍しい組み合わせ……というか、早起きしてる麻子さんを見かけたって他の人たちが噂してて。一緒に登校してたんだよね?」

華「はい。昨日麻子さんのお宅に泊まらせていただいたので……」

沙織「えぇーーっ!! カルパッチョさんに自宅まで送ってもらった後に!? 雨の中わざわざ麻子の家まで行ったの!?」

華「ええまぁ……」

沙織「きゃあー!! これは弾けるロマンスの予感!! それでどったの!? はっきり告白したの!?」

華「ええ……………まぁ」テレ

沙織「FOOOOOOOOOO!! どうしよみぽりん! ついにチーム内でカップルがーー!?」

みほ「沙織さん……身近に恋愛事があってテンション上がるのはわかるけど、あんまり大事にしたくないかもしれないんだから。静かにね?」

沙織「はっ!! ごめん華、つい我を忘れて……」

華「いえ。チームの皆さんには話しておこうと思っていましたから」

沙織「それで、どうなったの? 麻子はOKしてくれたの!?」

華「それが……」

……三十分前 通学路……

麻子「――昨日はすまなかったな」

華「え?」

麻子「話の途中で感情が抑えられなくなって、結局はっきりした答えを出せずに寝てしまった」

華「あぁ……そういえばそうでしたね」

麻子「……私は理屈っぽくて、いちいち面倒な人間だと言っただろう」

華「えぇ」

麻子「感情ではな。このまま華さんの恋人になりたいと思う。だが頭のどこかでは、やはり別の付き合い方もあると考えている」

華「別の付き合い方……ですか?」

麻子「仮に私とは特別な関係にならず、華さんも私もそれぞれ別の道を歩んでいったとしよう。もしかしたら今のこの気持ちは一過性のもので、後になって青春のひとかけらだと思える過去のものになるかもしれない」

華「……未来のことは、わかりませんからね。時間と共に人の気持ちも移ろいますし」

麻子「……あるいは他の人たちと同じように、私も華さんも別の誰か……男性を好きになって、他の人と同じような家庭を持つのかもしれない。多分、その方が色んなことを気にせず生きられると思う」

華「……」

麻子「でも……そうして今の気持ちを忘れようとするのが正しいかどうかも、私にはわからない。だから、猶予期間を設けてみないか」

華「猶予期間?」

麻子「私たちが大洗を卒業して学園艦を降りることになって……おそらくは別々の大学へ行くことになって。その時になってもお互いに今の気持ちが残っていたら……私の恋人になってほしい」

華「……お互いに少し気持ちを落ち着けよう、というわけですね」

麻子「あぁ。なにせ私たちは二人とも恋愛初心者だ。しかも女同士……自分の気持ちが純粋に相手を想ってのものか、単に一時的な欲求に流されているだけなのかの判断もできない」

華「わたくし、いまは純粋に心から麻子さんが好きだと自信を持って言えますけれど……」

麻子「だ……だから、それを客観的にかんがみるためにも考える時間が欲しいんだ。中途半端な気持ちで返事をして、あとから華さんを裏切るようなことはしたくない」

華「麻子さん……」

麻子「……卑怯な逃げ方だと思うかもしれない。端から見たらいわゆる『キープ』状態だからな。でも、これだけは覚えておいてほしい」

華「?」

麻子「今言ってるのはあくまで付き合う付き合わないという、対外的な束縛関係をいつ始めるか、というだけの話だ。つまり……その……」

華「大丈夫ですよ。はっきりおっしゃって?」

麻子「……華さんがやりたいなら、別に何をしたってかまわないしどこへだって一緒に行ってやる。もし……いま『恋人らしいことをしたい』だけなら……断る理由はないってことだ」

…………

沙織「……それってつまり、『卒業まで付き合うことはできないけど、ヤることはヤろうぜ』ってこと?」

みほ「沙織さん、言い方……」

華「要約すればそうなりますね」

沙織「なにそれー!? それって華のこと都合よくキープしてるってことでしょ!? しかもお互いわかったうえで! 意味わかんない!」

みほ「まぁまぁ。どっちかというと、二人がそういう関係に慣れるまでの準備期間……ってことじゃない?」

沙織「そんなクーリングオフできそうな恋愛もアリなの!?」

みほ「だから言い方が……」

華「……麻子さんは、私の立場と将来のことまで考えたうえで逃げ道を用意してくださったんです。一般的な価値観で考えれば、上手くいくような恋愛ではありませんから……」

沙織「あ~……」

みほ「家業を継ぐ人って、そのあたりの自由があんまりないのは事実だもんね。私の場合はお姉ちゃんが背負ってくれてるけど……」

沙織「そっかぁ……女の子同士だと教科書通りのステキな恋愛とはいかないんだね」

華「男性相手で教科書通りにいったことあるんですか?」

沙織「うぐ」

みほ「でも……よかった。二人にわだかまりができたらどうしようかと思ってたけど、むしろ素敵な関係になれたみたいで」

華「そ……そう思われますか?」

みほ「だって、聞いた限りでは二人とも両想いなんでしょ? あんまりそういうのに詳しくない私でもわかるよ。麻子さんがすごく華さんのこと大切に考えてるって」

沙織「あの子、なんだかんだすごく優しいからね……とにかく、私たちは温かく見守ってるよ!」

華「ありがとうございます。その……正直なところ、少し不安もあったんです」

みほ「なにが心配なの?」

華「……やっぱり女同士ですから。わたくしは平気ですけれど、このことが周りに知れ渡ったら、麻子さんに悪い風当りがいくのではないかと……」

沙織「う~ん……いや、もしそんなことになっても、私たちがあの子を守るから大丈夫!」

華「沙織さん……」

みほ「戦車道のメンバーもみんな優しい人ばかりだから、きっと理解してくれるよ。心配しないで」

華「……そうですね」ニコ

-戦車倉庫-

麻子「――で、なんでこうなったんだ」

優季「冷泉センパイと五十鈴センパイがデート登校してたって本当ですかぁ~!?」

桂利奈「もうお二人は付き合ってるんですかっ!?」

あや「告白はどっちから!?」

あゆみ「紗希も気になるって言ってます!」

梓「女同士でも可能性はあるんですね!?」

華「あの、わたくしたち特にそういう関係では……」

ヤイノヤイノ

優花里「さすがはうさぎチーム、情報を掴むのが早いですねぇ……」

沙織「まだゆかりんにしかちゃんと話してないのに……」

みほ「いつの間にか戦車道履修生みんなに噂されてるね……」

エルヴィン「女同士の色恋沙汰は歴史上でも珍しいことではない。そう騒ぎ立てることもないだろうに」

おりょう「とはいえいまだに奥手な者もいるぜよ」

左衛門佐「ひなちゃんが天下を取るのはいつになるやら」

カエサル「お前ら勝手にはやし立てるな!! 私たちはそういうんじゃないから!!」///

桃「くぉら貴様らいつまでだべっとるつもりだ! もう授業は始まっとるんだぞ! さっさと戦車に乗り込め!!」ガミガミ

あゆみ「河嶋センパイって彼女とかできなさそうだよね」

あや「意外といるんじゃない? うるさい人が好みっていう変人」

優季「じゃあ変人キラーだ~」

桃「聞・こ・え・て・る・ぞ!!」

杏「なーんか噂になってんねお二人さん」

麻子「尾ひれがついてるだけだ。別に私たちは付き合ってるわけじゃない」

杏「ほんと~? 並んで登校はまだしも冷泉ちゃんが早起きしてくるってよっぽどだと思うんだけど」

華「すみません、変な騒ぎにしてしまって……本当にたまたまなので」

杏「ふ~ん……ま別にどっちでもいいけどね。次期生徒会長が生徒と付き合っちゃダメなんて規則ないし」

麻子「あらぬ噂を立てられるのは本意じゃないんだがな」

柚子「女子校全体として見ればよくあることだし、三日もすればみんな気にしなくなると思うよ」

杏「なんかするにしても付き合い方は学生らしく風紀は乱さないようにね~。おかっぱたちが見てっから」スタスタ…

みほ「あはは……なんとなく事情を悟られちゃってるかんじだね」

優花里「ま、まぁみなさんどちらかというと興味を持ってるだけで他に問題はなさそうですね」

沙織「……風紀の乱れる付き合い方ってなんだろう」ゴクリ

麻子「沙織。先に言っておくが私らに変な入れ知恵は要らんからな」

沙織「まだ何も言ってないじゃん!!」

麻子「身内でこういうことに一番首を突っ込みたがるのは誰だろうな」

優花里「武部殿ですね」

沙織「ぅぐぬ……」

華「沙織さんにはまず自分の恋愛について心配していただかないと」

沙織「みぽりん! みんなが私をいじめる!」

みほ「今回は大人しくしておこうね沙織さん……」

………
……


-数日後 定食屋-

イラッシャイマセ-

華「――最近みなさんに気を遣わせてしまっているでしょうか」

麻子「なにがだ?」

華「学校帰りにみんなでどこかに寄ろうとしたときなんかに、時折こう……二人きりにしようとしてくれるといいますか」

麻子「あぁ……まぁいいんじゃないか。私らが5人で何かしたい時は別にいつも通り一緒にいくだろう。みんなが気を遣うも遣わないも自由だ」

華「それはそうなんですけど……なんだか気恥ずかしいですね。外堀が埋められてる感じがして」

麻子「付き合ってもないし、なにか後ろめたいことをしてるわけでもないんだ。私らが変に気負うこともないだろう」

華「……」

店員「おまたせしました~。親子丼と、スペシャルミックスカツセットメガ盛りでございます」ゴトン

華「いただきます」

麻子「……いつ見ても見ただけで腹にくる量だな」

華「これでも加減してるんですよ? 麻子さんの前ではしたない姿は見せたくありませんから」

麻子「果てしなく今更だから好きなだけ食べてくれ」

華「あら、そうですか? じゃあ後ほど〆のカツカレーを頼みますね」

麻子「まだカツ食べるのか……」

華「もぐもぐ……ん~おいひいれふ♪」

麻子「やれやれ……華さんの恋人は食費を出すだけでも大変そうだな」

華「いえ、お財布はわたくしが管理しますから」

麻子「……遣いどころに厳しい懐になりそうだ」

アリガトゴザイヤシター

麻子「……ん? 小雨が降ってるな」

華「あら本当。麻子さん折りたたみ傘などお持ちですか?」

麻子「生憎だが」

華「わたくしも今日は教科書で鞄がいっぱいで……どうしましょう」

麻子「ここからだと私の家の方が近いな。傘を貸すからいったんウチまで走るか」

華「わかりました」


パチャパチャ…


麻子「前に華さんが雨の中に来た日もこんな感じだったかっ」タッタッ

華「えぇ、もうずいぶん前の事のような気がしますねっ」パシャッ

麻子「ほんの何週間か前だがなっ」

華「あんまり変わってませんねわたくしたち!」

麻子「違いない!」

ザァァァァ…

-夜、麻子の部屋前-

華「ふぅ……ギリギリで本降りになってきましたね」

麻子「……でも、少し濡れたな。ちょっと中で温まっていくか」

華「このくらいなら平気です。どのみち傘を差しても多少濡れて帰るでしょうし」

麻子「……そうか。じゃ、傘、もってくるから……」ガチャ

華「はい」

華「(……)」

華「(あの時は……麻子さんとこんな関係になるなんて思わなかった。自分の気持ちすらはっきりわからないままでとにかく動こうと思い立ってここまで走ってきたんだっけ。不思議なものね)」

華「……ふぅ~」

ガチャ

麻子「……ほい、傘」

華「ありがとうございます。明日学校でお返ししますね」

麻子「ん……」

華「? どうかなさいましたか?」

麻子「いや……なんでもない。見送る」

華「外まで来たら濡れちゃいますよ?」

麻子「……」

華「……?」


ザァァァァ……

麻子「……車に、気を付けてな」

華「もう……心配性ですね。わたくしを送るときいつもそう言ってますよ?」

麻子「……雨だったんだ」

華「え?」

麻子「小学生の時……親が交通事故で死んだ報せを聞いた日。あの日も雨だった」

華「…………」

麻子「きっと雨で視界が悪かったんだろう。私の親は一瞬でいなくなった。だから、車に気を付けて」

華「……はい。十分に気を付けて帰りますね」

パシャ…パシャ…

麻子「……」

麻子「……は、華さん」ダッ バシャッ

華「っ! ま、麻子さん? どうしたんですか、濡れてしまいますよ!」

麻子「い……」ポタ…

華「麻子さ……」



麻子「いかないで、くれ……」



――弱々しいわがままと強がりな理性がせめぎ合った証のようにキュッと私の裾をつまむ、びしょ濡れの麻子さんの表情があまりにも儚げで寂しそうで。

わたくしは気づけば土砂降りの中に借りた傘を放り出し、彼女の小さな体を強く抱きしめ、堪えきれずその薄朱色の唇に自身のそれを重ねていました。

麻子「んっ……! ふ、んむ……」

華「っ…………ふぁ……」

麻子「はぁ、はっ……はな、さん」

華「麻子さん……わたくしたちは恋人としてお付き合いはしていません。でも私と一緒にどこへでも行ってくれるとおっしゃいましたよね?」

麻子「あっ……あぁ。言った」

華「……わたくし、あなたと後ろめたいことをしたいです。風紀が乱れるようなことをしたいです。お墓まで持っていける二人だけの繋がりが欲しい」

麻子「……そ、それは……あのっ」

華「今日は麻子さんの部屋に泊まらせていただきます。早くお風呂に入りましょう。このままでは二人とも風邪をひいてしまいます」グイッ

麻子「へ? わっ、おい、華さっ、抱っこはよせ! 恥ずかしい!」

華「今からもっと恥ずかしいことをするんです。わたくしを引き留めたのはあなたなんですから、腹をくくってくださいまし!」

麻子「おいどういうことだ!? はなせ! 待ってってば!」///

-麻子の部屋、風呂-

ザバァ…

麻子(裸)「……ときどき華さんの行動力が恐ろしくなる……」

華(裸)「アクティブに動かないと新しい境地にはたどり着けませんからね」

麻子「だからってわざわざ一緒に家の狭い湯船に浸かることないだろう」

華「学校の浴場でよく一緒に入ってるじゃないですか」

麻子「こんなに密着することないだろ! こう狭いと当たるんだ、いろいろと……」

華「胸のお話ですか?」

麻子「何気に沙織よりデカいだろう。なんなんだそれは、何が詰まってるんだ」ムギュ

華「んっ! ちょっと麻子さんいきなり……!」

麻子「同じ女と思えん。見てみろこの大平原のような私の体を」

華「でも小さい方が敏感だと聞いたことはありますけど……」

麻子「……なんでそんなこと知ってる?」

華「わ、わたくしだって人並みの興味はありますから。インターネットで色々見ることもあります」

麻子「あまりそういう情報を鵜呑みにしないようにな。華さんは出所不明の世俗情報の真偽に疎そうだ」

華「まぁっ。わたくしだって分別を考えながら物事を見るくらいできますよ」

麻子「どうだか」ジー

華「なんだか沙織さんと扱い方が似てきましたね」ムー

麻子「それくらい気の置けない感覚になったってことだろ。あんな……」

華「?」

麻子「……キスしたのは初めてだ」

華「……わたくしもです。本当に……気づいたらしてしまっていたのですけど」

麻子「ずいぶん強引だったな」

華「お嫌でしたか?」

麻子「……嫌じゃ、なかった。大事にしてくれてるんだなって感じたから……って改めて言わせるな恥ずかしい」

華「言われるのも少し恥ずかしいですね」

麻子「あとカツの味がした」

華「そういうことは言わなくていいんです!!」

麻子「私だって親子丼の味がしただろう」

華「……しましたけど」

麻子「一緒に色んなことを味わいたいって言ってたからよかったじゃないか」

華「あれはそういう意味ではなくて……もう! せっかくわたくしが覚悟してこうしてるのに、変なことばっかり」

麻子「……まぁ、なんだ。不安の裏返しみたいなものだから許せ」

華「? 不安なんですか?」

麻子「女同士で人に言えないことしようとしてるんだ。ましてこんな貧相な体でな。不安にもなる……」

華「……」

麻子「……」

華「……ぷふっ」

麻子「!? な、なにがおかしい!?」

華「いえっ……麻子さんもそういうこと気にするんだなって……」

麻子「ぐぬぬ……自分が『力』を持ってるからってお前……!」

-オフトゥン-

パチッ バサッ

華(寝間着)「麻子さんそろそろ機嫌治してください~」

麻子(寝間着)「うるさい。こんな幼児体型いじくっても何も楽しくないだろう」

華「別に体型を揶揄したつもりは……」

麻子「そもそも華さんのがおかしいんだ。あんだけ食べて胸にしか栄養が行ってないのか。沙織の腹回りを見習え」

華「わたくしに沙織さんのようなワガママボディになれと?」

麻子「……………………なんかそれはそれで嫌だな」

華「でしょう。というか麻子さんは食べなさすぎです。食べるときはケーキばっかり。今のうちにちゃんと栄養付けないと体が育ちませんよ」

麻子「おばあみたいなこと言うんじゃない」

華「あなたが大事だから色々言うんです」

麻子「……」

華「……」

麻子「……なんでそんなに私が良いんだ」ゴソ

華「なぜといわれましても……そういう気持ちになってしまったから、としか」

麻子「……そういう愛情をもらうのは素直にうれしい。が、私から華さんに何をあげられるのかわからない。私はこういう時どうすればいいんだ?」

華「うーん……そうですねぇ……わたくしも経験がないのでよくわかりませんけれど……」

麻子「……」

華「もし麻子さんがわたくしに愛情をもってくださっているなら……どんな形でもいいのでわたくしにそれを伝えてくだされば、嬉しいです」

麻子「…………わかった」ゴソ

華「あっ……(麻子さんが、わたくしの上に……)」

麻子「……華さん」

華「は、はい」

麻子「私なんかと……一緒にいようとしてくれてありがとう。華さんがそばにいてくれる限り、私も華さんのこと大事にする」

華「……はい。わたくしも同じ気持ちですよ」

麻子「……」ギュ

華「麻子さん?」

麻子「……私より先に死なないで。私も絶対華さんより先に死んだりしない。付き合う付き合わないとか関係ない。私は華さんを――」

華「……」ギュウ

麻子「華さんを……離したくない」

華「……わたくしも麻子さんから離れません。この先どういう関係になろうと……あなたを独りにはしません。約束します」

麻子「ありがと……」

華「ふふ……なんだか婚姻の契りみたいになってしまいましたね」

麻子「……そういわれるとなんだか不安になるな。その手の宣誓は得てして最後まで守られない」

華「それはわたくしたち次第です……んっ」

麻子「ん……」

華「……なんにせよこれでわたくしの人生には麻子さんという解き難い結び目ができました。ありがとうございます」

麻子「まるで故郷を去る兵士みたいな言い方だな」

華「そうですね。避けられぬ家業継承と結婚生活がわたくしの戦争なのかも」

麻子「私から応援には行けないぞ」

華「わたくしの方から会いに行きます」

麻子「浮気する気満々だな」

華「女同士のは浮気に入りません。たぶん」

麻子「……もう少しこうしてていいか」

華「もちろん」

麻子「ホントはもっといろいろシたかったんじゃないのか。後ろめたいこと」

華「まぁ……今のやり取りも十分後ろめたい会話ですから」

麻子「やっぱり自覚あるだろ」

華「うふふ」

麻子「……あったかい」

華「麻子さんは少しひんやりしてますね」

麻子「私は脂肪が少ないからな」

華「さっきの仕返しですか?」

麻子「ふふっ」

華「もうっ……」

………
……

-某日、喫茶店-

沙織「う~ん……」

みほ「どうしたの沙織さん?」

優花里「また何か恋のお悩みですかぁ?」

沙織「まぁそうとも言えるんだけど……」

麻子「ケーキおかわり」モグモグ

華「わたくしもパフェを追加で……」

沙織「麻子と華がなんやかんやあってからもう結構経つじゃん?」

みほ「あぁ、そういえばそうだね」

優花里「それがどうかしましたか?」

沙織「いや、二人とも気にならないの? あれからどうなったとか……」

麻子「別にどうもない」

沙織「お互い好き同士なのに何ヶ月もなにもないことないでしょ!? あんたら見てても本当に今までとなんにも変わらないじゃん!」

華「と言われましても……」

みほ「二人ともまだ付き合ってるわけじゃないんだし、変わらなくても別にいいんじゃ……」

沙織「甘い! ケーキより甘いよみぽりん! 友達以上恋人未満の関係に甘んじて結局その先にいけないカップル候補がどれだけいると思ってるの!」

優花里「だからって無理して恋人みたいにする必要ないと思いますけど……」

麻子「というか当事者じゃないお前がなんでそんなに焦ってるんだ」

沙織「だってぇ……せっかく花の高校生活で好きな人と過ごせるんだよ? 私らのことは気にしないで二人きりでも……」

華「わたくしも麻子さんも、みなさんと一緒に過ごす時間がとても大切なのは同じですから。それは何があっても変わりませんわ」

みほ「そういってくれると嬉しいなぁ。私もみんなと過ごすのが大好きだから」

優花里「まぁ正直はじめは私たちもちょっとだけ気を遣ってましたけど、お二人がいつも通りだからこうして気兼ねなく遊びに出かけられますもんね」

麻子「いまさら気遣いが必要な仲でもないだろ、うちのチームは」

沙織「あんたがそれでいいならいいんだけどさぁ。もうちょっと二人のラブいところとかも見てみたかったなーって」ヌフフ

麻子「エロオヤジかお前は」

華「さすがに人の目がある場所でそんなことはしませんよ」

沙織「じゃあ人の目がなかったら?」

華「それは……」チラ

麻子「……お前には教えん」

沙織「なんでよもー!!」

みほ「沙織さん。どうどう」

優花里「自身に縁がないだけに恋愛沙汰に飢えてますね武部殿は……」

麻子「端迷惑なやつだ」

華「まぁまぁ。沙織さんも甘いもの食べましょう」

沙織「はぅ……私も当事者になってみたい……そいでみんなにステキなコイバナを披露したい……」

アリガトゴザイマシター

みほ「じゃあ明日……は、日曜だから戦車道もお休みかぁ。また月曜日にね」

麻子「ん」

華「ではわたくしたちはここで」

沙織「ばいばーい」

スタスタ…

優花里「……さっきはああ言ってましたけど、最近はもはや意思疎通無しで一緒に帰ってますよね、お二人」

沙織「けっこう素でやってるよね……私らといる時はホントにいつも通りなんだけど」

みほ「いいなぁ。阿吽の呼吸というか、通じ合ってるというか……ホントにお互い想いあってるんだろうね」

沙織「きっかけはひょんなことからだったけど、なんだかんだお似合いなのかしら。両方マイペースだし」

優花里「西住殿、黒森峰でもあんな感じの女性カップルはいたんですか?」

みほ「うーんそれっぽい人たちはいたけど、カップルだったかどうか……」

華「もうすっかり冷え込んできましたね」

麻子「学園艦の位置も北緯寄りになってきたからな。今日の夜辺りから氷点下になるらしいぞ」

華「ではそろそろお布団も厚めにしないと」ギュ

麻子「今日も泊まる気か?」ギュ

華「あら、ウチのお布団を替えようというお話ですよ?」

麻子「……じゃあ私がそっちに行く」

華「ふふ、いいですよ。晩御飯はどうしましょうか」

麻子「なんか適当に作ってくれ」

華「わたくしが?」

麻子「多少は自炊に慣れておいても損はなかろう」

華「実家ではお手伝いさんが食事の用意をしてくれるので……」

麻子「将来旦那さんに手料理を求められたらどうするんだ」

華「尊い犠牲になっていただくしか」

麻子「私は犠牲になるのはゴメンだ。一緒に作るか」

華「そうしましょう」

麻子「……将来か。どうなるんだろうな、私たちは」

華「前にも言いましたけど、わたくしたち次第です。今のこの時間ひとつひとつが未来になっていくんですから」

麻子「詩的な表現だな。学生の身分としてはとりあえず差し迫った問題があるだろう」

華「大学受験ですか?」

麻子「三年の人たちはもう模試の結果が出るころだろう。たぶん……河嶋先輩あたりはこれから大変なことになるんじゃないか」

華「想像に難くありませんね……」

麻子「華さんは進路考えてるのか?」

華「いずれ家業を継ぐのは間違いないですが……それまではまだ戦車道に触れていたい気持ちもありますから、戦車道のある大学を探そうかしら、とか」

麻子「なるほど。私は法学部に入るつもりだから戦車道については特にこだわりはないな」

華「なぜ法学部に?」

麻子「大学を出るころくらいにはたぶん……おばあとはお別れすることになる。そうなったら私には身寄りがないからな。法律を勉強して自分の身を守らなきゃならん」

華「……そうですか」ギュ

麻子「心配か?」

華「独りになった時、麻子さんがわたくしたちを頼って下さるかどうかが」

麻子「……ぼちぼち頼りにはするかもしれない」

華「わたくしには麻子さんのためにお部屋をご用意する算段もありますよ?」

麻子「逢引用の部屋にする気か!?」

華「それはそれで燃える関係じゃありませんか」

麻子「……今後の五十鈴流が心配になる発言はよせ」

華「こんな他愛のないおしゃべりができるのも今だけですから。ご容赦ください」

麻子「全く……」

ピュウウゥゥゥ…

麻子「……寒い。早く帰ろう」

華「ですね」

麻子「……華、さん」

華「はい?」

麻子「……なんでもない」ギュ

華「ふふ……変な麻子」

麻子「! お、おいいま……」

華「どうかしました麻子さん?」

麻子「むぅ……」



麻子「(くそ……この人にはなぜだか一生勝てそうにない……)」



おわり

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