北条加蓮「Zzz...」高森藍子「加蓮ちゃんが寝ているカフェで」 (37)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「zzz...」

高森藍子「加蓮ちゃんが眠っちゃっています……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1581240935

レンアイカフェテラスシリーズ第106話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「新年の後のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「手を握りながらのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「雪の降らないカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「くもりのち晴れのカフェで」

加蓮「…………」zzz

藍子「テーブルに突っ伏せて……。大丈夫でしょうか。身体、痛くならないかな?」

藍子「……あっ、ブランケットをかけてもらってる。店員さんでしょうか」

藍子「そういえば、こころなしかカフェの中もいつもよりあたたかいような……? これなら、風邪を引くこともありませんね」

藍子「……」ジー

加蓮「……すー……」zzz

藍子「……♪」クスッ

藍子「不思議な気分です。今日は、このカフェに来ようってお話もしていないのに」

藍子「……約束しないでこのカフェに来たのって、いつぶりかなぁ」

藍子「……」ジー

加蓮「…………」zzz

藍子「加蓮ちゃんって、眠る時にあまり体が動かないんですよね。息づかいの音も、ぎりぎりまで集中して、ようやく微かに聞こえるくらい……」

藍子「でも、加蓮ちゃんはよく夢を見るって言うし……。夢を見る人って、それだけ深く眠っているって、何かで読んだことがあります」

藍子「……なんて。変なのっ」

藍子「あはは……。何が変なんだろう……?」

藍子「起きたら、加蓮ちゃんに聞いてみようかな? ……そうしたら、笑われちゃうかな?」

藍子「ううん。加蓮ちゃん、起きた時にまずびっくりしちゃうかも」

藍子「ごほんっ」

藍子「"約束もしてないのに、なんで藍子がいるのよっ"」

藍子「なぁ~んて――」

藍子「……、」

藍子「…………」カアァ

藍子「……い、今の、聞いていませんよね?」

藍子「……」

藍子「加蓮ちゃ~ん……。眠っているふりなら、もう見破っていますよ~。だから、起きていいんですよ~……」ソロソロ

加蓮「……すー……」zzz

藍子「よかった」ホッ

加蓮「…………」zzz

藍子「……♪」

藍子「あっ、モバP(以下「P」)さんからメッセージだ……」ポチポチ

藍子「……? ちょっと突っ走りすぎた……?」

藍子「ふんふん……」

藍子「……なるほど。加蓮ちゃんとPさん、けんかしてしまったのかな? それでPさんがヒートアップしてしまって、ちょっぴりきつい言葉を言ってしまったのかも……」

藍子「加蓮ちゃんなら、カフェにいますよ――」ポチポチ

藍子「……ううん。けんかをして、加蓮ちゃんがここにいるっていうことは……きっと、加蓮ちゃんが、Pさんの前から逃げてしまって……」

藍子「ふふ。加蓮ちゃんとPさんがけんかしてしまうのも、慣れてしまいました」

藍子「場所、今は教えない方がいいのかな……。でも、そうしたらPさんが心配しちゃう……?」

藍子「……、」ポチポチ

藍子「"加蓮ちゃんは見つけています。心配しないで大丈夫ですよ"」

藍子「こうしちゃいましょうっ」ソウシン!

藍子「……」

藍子「……よ、よかったのかな?」

加蓮「……すー……」zzz

藍子「……」ジー

藍子「……」

藍子「……♪」ナデナデ

加蓮「むにゃ……ふふ……くすぐった……」

藍子「なでなで~」

加蓮「んんっ……」

藍子「……振り払われてしまいました」シュン

藍子「そういえば最近、加蓮ちゃんの頭をあまりなでていない気がしますっ」

藍子「それに、この前茜ちゃんが、未央ちゃんにへんなことをふきこまれて、加蓮ちゃんの頭を……こう、わしゃわしゃ~っ、ってやっていて」

藍子「加蓮ちゃんも、抵抗していましたけれど、そんなに嫌そうではありませんでした」

藍子「……む~」

藍子「……」ナデナデ

加蓮「……んんっ」

藍子「ま、また振り払われたっ」

藍子「分かりました。いいですよ。分かりましたもんっ。加蓮ちゃんが、そういうつもりなら!」

藍子「……」

藍子「…………なにをしよう」

加蓮「すー……」zzz

藍子「……」ジー

藍子「思いつかない……」

藍子「誰かに、相談してみようかな?」

藍子「こういう時のアイディアといったら、やっぱり未央ちゃん――」

藍子「……は、今回はやめておきます」

藍子「なんとなく、なんとなくですっ」

藍子「そうですね~……」

藍子「……」

藍子「あ、そうだっ♪」ポチポチ

加蓮「…………」zzz

――10分ほど経ってから――

藍子「~~~♪ ――あっ、返信♪」

藍子「……」ポチポチ

藍子「……!?」

藍子「えっ。違いますっ、そういう訳ではありません!」ポチポチポチ!

加蓮「…………、」

藍子「あっ、すぐに返信が……」

藍子「よかった。誤解は解けたみたいですね――」

<ブブブッ

藍子「あ。加蓮ちゃんのスマートフォンに、着信……」

藍子「……………………」

藍子「……」キョロキョロ

藍子「…………」ヨシッ

藍子「………………」ソロォ...


加蓮「えい」ペシ


藍子「いたいっ」

加蓮「はい、そこまで」

藍子「か、加蓮ちゃん、起きてっ――」

加蓮「さーて藍子ちゃん? 人が寝てるのをいいことになぁにしようとしてたのかな? ん?」

藍子「……あ、あは」

加蓮「んー?」

藍子「お……おはようございます、加蓮ちゃんっ。Pさんが心配していたみたいですよ。返信をしてあげたらどうですか?」

加蓮「ん。おはよ、藍子。……あー、Pさん。Pさんねー……」

藍子「そういえば、加蓮ちゃんとPさんがまたけんかしちゃたって――」

加蓮「知ってたの?」

藍子「あ、ああえっと、風のうわさっ。風のうわさで!」

加蓮「……?」ジー

藍子「ええと、ええと……」

加蓮「……やましいこともなさそうなのに何で慌ててるんだか」

加蓮「喧嘩、っていうより……。なんていうんだろ……。喧嘩とはちょっと違うんだよね」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「うん。……えーっとさ。笑わないで聞いてもらっていい?」

藍子「もちろんっ」

加蓮「絶対だよ?」

藍子「絶対ですね」

加蓮「この前さ。私がオーディションに落ちたって話をしたじゃん」

藍子「はい。その後に、監督さんから別のお仕事を頂いたんですよね」

加蓮「そうそう。で……あー、ほら、あの後ここでミーティングして」

藍子「盛り上がりましたっ」

加蓮「迎えに来てもらった藍子のお母さんから、一緒に叱られちゃったよね」

藍子「あはは……。あっ、でも、お母さんがちょっぴり嬉しそうにしていましたよ」

加蓮「嬉しそうに?」

藍子「はい。なんだか、加蓮ちゃんの顔を見ると自然と怒れたみたいなんです」

加蓮「……私、藍子のお母さんになんか失礼なことした?」

藍子「あ、違いますっ。そうではなくて……。加蓮ちゃんの姿を見た時に、私を見た時と同じ気持ちになった、って♪」

加蓮「…………どゆこと?」

藍子「その時に、距離が近く感じた、って。嬉しそうに言っていましたよ」

加蓮「距離が近く……」

藍子「もう1人、娘ができた気分になっちゃった……って。ふふっ♪」

加蓮「こんな面倒くさいのはやめとけ、って言っておきなさい? 私のお母さんも、いっつも"もうちょっと素直になれ"って呆れて――」

藍子「えい」ペシ

加蓮「痛っ」

藍子「もう。加蓮ちゃん。またそういうことを……。自分のことを、そういう風に言っちゃ駄目ですよ?」

加蓮「……あはは。ごめんね?」

藍子「そういうことを言うなら、もう1回お母さんに叱ってもらっちゃいますっ」

加蓮「えー……。自分の親に叱られるのも嫌なのに。藍子のお母さんにとか、何の罰ゲームなのよ」

藍子「それなら……私が叱ります。こらっ、加蓮ちゃんっ」

加蓮「なんでそーなるの」

藍子「あっ。今は、加蓮ちゃんのお話でした」

藍子「オーディションは……残念で、でもその後に別のお仕事を頂いて――」

加蓮「あははっ。大した話じゃないよ」

藍子「そんなことありませんっ。加蓮ちゃんとPさんがけんかするなんて、大変な出来事です!」

加蓮「いや、結構あることだし……。藍子と話してた時にさ、私、ほら……自分で言うのもなんだけど、やる気になってたじゃん」

藍子「そうですねっ」

加蓮「で、いくつか案を出してPさんのところに持っていったんだよね」

藍子「うんうん」

加蓮「そしたら、Pさんがもっと燃えちゃっててさー」

藍子「燃えた……?」

加蓮「私が案出ししたことと……あー、まあ、藍子とミーティングしてた時並みのテンションで行っちゃったから、それで余計に」

藍子「……あ~。加蓮ちゃんのやる気に、Pさんもつられたってことですね」

加蓮「多分ね」

加蓮「で、打ち合わせしてて……」

加蓮「その……」

加蓮「……Pさんが、あまりに熱くなってたから」

加蓮「つい、そーいうのウザい、って言っちゃったの」

藍子「あ」

加蓮「Pさん、膝から崩れ落ちて」

藍子「あぁ~……」

加蓮「……一応、謝ったけど……」

加蓮「……」

加蓮「……いたたまれなくなって逃げ出しました」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……笑えば?」

藍子「笑わないでって言ったの、加蓮ちゃんの方……。笑ったら怒りますよね?」

加蓮「怒る」

藍子「え~……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……そ、それで、どうしてカフェに?」

加蓮「…………足が勝手に動いて、ここに来てた」

加蓮「でも藍子は当然いないし、店員さんは私の顔を見るなりちょっと気遣って優しいこと言ってくるしで」

加蓮「でも、悪いの私じゃん」

加蓮「……なんか、もう……はぁ……ってなって」

加蓮「色々もやもやして、突っ伏せてたら寝てた。……そんな感じかな」

藍子「それは……。お疲れ様です、加蓮ちゃん」

加蓮「ありがと……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……とりあえず、Pさんには連絡をしておきました。さっき、Pさんから私にメッセージが来たので……」

加蓮「藍子に?」

藍子「はい。加蓮ちゃんの行き先を知らないか、って」

加蓮「……あんにゃろ。藍子なら私のことを何でも喋るって察して――」

藍子「加蓮ちゃん」ジトー

加蓮「うぐ。……分かってるわよっ。今回は100%私が悪いって」

藍子「もう……。Pさんには、加蓮ちゃんは見つけています、とだけ返信しました。まだ、この場所のことは教えていません」

藍子「ひょっとしたら、Pさんには気づかれているかもしれませんけれど……。分かった、ってお返事が来た時に、なんだかほっとしていたように見えますから」

藍子「だからあとは、加蓮ちゃんが落ち着いて、それからPさんにごめんなさいって言うだけですっ」

加蓮「……い、意外とキツイことするねー」

藍子「へ?」

加蓮「それ、私がPさんに会いに行くまで話が何も進まないヤツじゃん」

藍子「はい、そうですよ」

加蓮「そうですよって」

藍子「Pさんに会いに行く時間は、加蓮ちゃんが決めていいんです」

藍子「……確かに、今回のことは加蓮ちゃんが全面的に悪いのかもしれません」

藍子「でも……だからこそ、加蓮ちゃんがしっかり落ち着いて……Pさんへの言葉を、考えてから」

藍子「それからPさんに会いに行っていいんですよ。その方が、お互い、言い争いになったり、相手にひどいことを言ったりしないで、解決できると思いますから」

加蓮「……今すぐ謝りに行けって言わないんだ」

藍子「言いません。だって、加蓮ちゃん、急いでPさんのところに行ったら、またひどいことを言っちゃうでしょっ?」

加蓮「言わないわよっ」

藍子「ううん。加蓮ちゃんは言うと思います。こういう時の加蓮ちゃんは……相手がPさんとか、アイドルのみなさんとか、関係なく……意地を張ってしまいますから」

加蓮「む……」

藍子「加蓮ちゃんが悪くても、それは今すぐ謝らないといけない理由にはなりません」

藍子「これ以上けんかにならないよう、仲直りのために……今は、少しだけ時間を使いましょ?」

加蓮「……早めに謝った方がPさんも楽だと思うけど。こーいうのって、独りでいる時間が長ければ長いほど辛いし」

藍子「それなら大丈夫っ。今、Pさんは事務所にいるみたいです。事務所なら、他の誰かもいますから……。きっと、独りということはないと思いますよ」

加蓮「んー……」

藍子「Pさんだって。今、加蓮ちゃんが時間をかけているのは、加蓮ちゃんが逃げているっていうだけではなくて……」

藍子「いろいろ考えたり、気持ちの整理をしたり。そういう――」

藍子「そうっ。仲直りのための準備時間!」

藍子「仲直りのための時間をすごしているんだなってことは、Pさんも、きっと分かっていますから」

藍子「……もし、それでも加蓮ちゃんが今すぐPさんに会いたいって言うのなら、無理に引き止めはしませんけれど……」

加蓮「んー……ううん。藍子の言う通りにする」

藍子「!」

加蓮「無意識のうちにここに来たのも、藍子の言う"時間"を作りたかったかもしれないし――」

加蓮「それに藍子がいれば、私だって独りってこともないもんねっ」

藍子「はいっ。あっ、それにほら、店員さんだっていますよ。あとは、他のお客さんと、店長さんもっ」

加蓮「……あのね、カフェに来てる他の客を"周りにいる優しい人"って見ることができるのは、藍子くらいだよ?」

藍子「?」

加蓮「あはは……。じゃ、焦らずゆっくりしてからPさんとこに行こっか」

藍子「そうしましょうっ」

加蓮「でも謝りに行く時は私1人で行くから」

藍子「え~」

加蓮「ふふっ。すみませーん!」

加蓮「私はコーヒーと……ホットケーキくらいにしとこっかな。ううん、コーヒーは食後にお願いね。……ふふっ。店員さん、なんで嬉しそうにしてるの。なんて、分かってるけどね」

藍子「む~。……私もホットケーキでっ。食べた後には……ココアでお願いしますっ」


□ ■ □ ■ □


加蓮「もぐもぐ……」

藍子「もぐ、もぐ……」

加蓮「……そういえば一応私からもPさんにメッセ送った方がいいかな」

藍子「メッセージ……」

藍子「……、」

藍子「!」アッ

藍子「か、加蓮ちゃん」

加蓮「ん?」

藍子「ええと……」

加蓮「……??」

藍子(そういえば、加蓮ちゃんのスマートフォンにはメッセージが……。あれって多分、Pさんではなくて――)

藍子「……あ、あはは」

加蓮「はぁ?」

藍子「ま、まあまあ。ホットケーキ、美味しいですよねっ」

加蓮「……美味しいけど、いつもの味だよ?」

藍子「いつもの味なのが、いいんです。いつもじゃない出来事があった時こそ、いつもあるものに触れて……。そうしたら、なんだかほっとしませんか?」

加蓮「それは分かるけどさー」

藍子「ねっ?」

加蓮「……?」

加蓮「……」ンー

加蓮「……、」

加蓮「……」ガサゴソ

藍子「いつもあるものと言えば、この前――」

加蓮「……? 何これ、どういうこと?」

藍子「?」

加蓮「えーっと、藍子? 藍子ちゃん?」

藍子「は、はい。何でしょうか」

加蓮「なんかさー、私のスマホに」

藍子「ぎくっ」

加蓮「……………………」ジトー

藍子「あ、え、ええとっ。加蓮ちゃんのスマートフォンに、何でしょう?」

加蓮「……。なんかね? 私のスマフォに奈緒から警告文が飛んできてんだけど」

藍子「けいこくぶん!?」

加蓮「"今度は何したんだ加蓮! 藍子ちゃんが狙ってるぞ、逃げろ!"って。何これ? 私、藍子に背中から刺されでもするの?」

藍子「そんな危ないことをしようとはしていません! 私はただ、ちょっと加蓮ちゃんにいたずらがしたくてそれで奈緒ちゃんに相談を――」

加蓮「イタズラ?」

藍子「……あっ」

加蓮「ふぅん」

藍子「……ええと、その」

加蓮「そういえばさっき、私が寝てた時になんかしようとしてたよねぇ? 何をしようとしてたのか、まだ聞いてないんだけど??」

藍子「それは……」

加蓮「しかも、何かイタズラしようとして奈緒に相談? 藍子ちゃんってば、いつの間にそんな悪知恵を身に着けたのかなー?」

藍子「えっとそれは――って、わっ!? 加蓮ちゃん、いつの間に隣にっ」

加蓮「じゃ、素直に話そっか♪ 藍子は私に何しようとしてたの? ん?」

藍子「~~~~っ、まって、わ、わかりましたっ、話しますけど本当にそういうつもりじゃなくて~~~~っ!」

……。

…………。


(加蓮は元の、藍子の向かい側に座りました)

加蓮「……はぁ。この前私のとこに茜が突撃してきたのを見て、なんか悔しくなったから反撃したくなって、だから未央じゃなくて奈緒に相談したと」

藍子「うぅ……。こわかった……」

加蓮「それで奈緒に勘違いされて、弁解を送った直後に私のスマフォが着信したから、私が起きる前にそれをどうにかしようと?」

藍子「…………」コクコク

加蓮「……………………馬鹿?」

藍子「なっ」

加蓮「心外って顔をされてもさー……。こういうこと面白がる未央ならともかく色々生真面目な奈緒に送ったら、そりゃ私に横流しされるでしょ。奈緒ってこういう時にすぐ行動するタイプなんだし」

加蓮「しかもさ。奈緒って藍子とそこまで話してないでしょ?」

加蓮「たぶん奈緒の中での藍子のイメージって、そういうことする子じゃないと思うんだよね」

加蓮「なのに藍子から、加蓮ちゃんにイタズラがしたい、って相談されたら……こういう反応になるよ。それくらいも分からないの?」

加蓮「……まあ、それで"今度は何をしたんだ"って聞かれるのも、私にとってそれこそ心外なんだけどさ」

藍子「……奈緒ちゃんの――ううん。周りの人のことをそこまで分かるのって、加蓮ちゃんがすごいからだと思います」

加蓮「いやいやいや。アイドルなんだから、自分がどう見られてるとか、誰が誰のことを見てるとか、きちんと把握しときなさい」

藍子「む~……。加蓮ちゃんがすごいからですっ」

加蓮「そこで意地張ってどうすんのよ……」

藍子「か、加蓮ちゃんだってっ。……ば、ばかなことを言って、Pさんを落ち込ませたりしてるじゃないですかっ」

加蓮「なっ」

藍子「私だけ一方的に、ばか、なんて言われるのは、納得いかないです!」

藍子「か、加蓮ちゃんの……」

藍子「……」

藍子「……む~~~~っ」

加蓮「人に酷いこと言えないのを私のせいにすんなっ」ペチペチ

藍子「いたい、いたいっ」

藍子「か、加蓮ちゃんこそ!」

加蓮「ほー?」

藍子「……」

藍子「……ぅ~」

加蓮「……。……よしよし。反撃が思いつかなかったんだねー。でも無理して何か言いたかったんだねー」ナデナデ

藍子「ぅ~!」

加蓮「あははっ」

加蓮「そっかそっか。藍子ちゃんは、最近周りに嫉妬してばっかりだねー?」

藍子「…………うぅ」

加蓮「ホント、考えれば考えるほどおかしな話だよね。昔は私がその役だったのに、いつの間にか逆になっちゃって――ふふっ。なんて言うのも、これで何回目なんだろ」

加蓮「いいよ。藍子」

藍子「……何がですか」

加蓮「藍子は何かしたいことある? 私とでもいいし、……私に、でもいいし」

加蓮「今なら何でも聞いてあげる。でも、1つだけだよ。何個もなんてワガママを言ったら、また小突いてやるっ」

藍子「……したいこと」

加蓮「ほらほらー。加蓮ちゃんがしていいって言ってるんだよ? したいこと、素直に言っちゃえっ」

藍子「やりたいこと……あっ。加蓮ちゃん」

加蓮「うんうん」

藍子「頭、なでさせてくださいっ」

加蓮「……うん?」

藍子「加蓮ちゃん。……ううん、加蓮ちゃんは知らないかもしれませんけれど、加蓮ちゃんは眠っている時に何回も私の手を振り払いました」

加蓮「え。……いや、知らないけど。寝てる時の話なんて」

藍子「加蓮ちゃんが知らなくても、加蓮ちゃんは私の手を振り払ったんですっ」

加蓮「そう……。もったいなー」

藍子「? もったいない?」

加蓮「なんでもない」

藍子「はあ。……ええと、とにかくっ。何かしていいって言うのなら、加蓮ちゃんの頭を撫でさせてください」

加蓮「そんなことでいいの? 頭なら、膝枕をしてくれてる時に撫でまくってるじゃん」

藍子「じ~」

加蓮「はいはい。どーぞ?」スッ

藍子「では、失礼しますね――」サワ

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……撫でたら?」

藍子「あ、あはは……。改めてやるってなったら、なんだか緊張しちゃってっ」

藍子「ええと……こう、かな……」スッスッ

加蓮「…………」

藍子「……すっ、すっ」

加蓮「…………」

藍子「すっ、すっ」

加蓮「……………………藍子がやりたいって言うなら続けていいけど、これってホントに藍子のやりたいこと?」

藍子「何かが微妙に違う気がしますっ……!」

加蓮「だよね……。いいよ……。また今度でいいから。雑巾がけみたいに頭を擦られるのもなんか嫌だし……」

藍子「なんだかごめんなさい……。思いついた時に、また加蓮ちゃんに言いますねっ」

加蓮「はいはい」

……。

…………。


加蓮「ごちそうさまでしたっ」パン

藍子「ごちそうさまでした!」パン

加蓮「あっ、店員さん。コーヒーありがとー。はい、お皿」

藍子「ありがとうございます」ペコッ

加蓮「ずず……」

藍子「……ふうっ」コトン

加蓮「はー……」

藍子「~♪」

加蓮「……こうして改めて落ち着くとさ」

藍子「?」

加蓮「さすがに"ウザい"は無かったんじゃないかなー、って思う」ズーン

藍子「あはは……」

加蓮「Pさんだって、熱が入るくらい私のことを考えてくれて……ってことくらい、分かるしさー……」

藍子「まあまあ。加蓮ちゃんだって、つい、言ってしまったんですよね? 心の底から、Pさんのことを嫌いなんて思っていませんよね?」

加蓮「たぶん……」

藍子「それなら、いいじゃないですか。ううん、言葉は悪かったかもしれませんけれど……」

加蓮「よくないよー……。Pさん、膝から崩れ落ちたもん」

加蓮「こう、表情が固まって、そのままずーんって」

藍子「……そ、想像してみると、Pさんには申し訳ないですけれどなんだかおかしくなってしまいますね。まるで、ドラマのワンシーンみたいで」

加蓮「そう?」

藍子「う、ううんっ。……今のは聞かなかったことにしてくださいっ。Pさんだって、ショックだったに違いありませんから」

加蓮「んー」

加蓮「ずず……」

藍子「ごくごく……」

加蓮「……、」コトン

藍子「……加蓮ちゃん」コトン

藍子「そろそろ、Pさんのところに行く心の準備、できましたか?」

加蓮「……そ、そーいうこと改めて言われると緊張しちゃうんだけど?」

藍子「ふふ。ごめんなさいっ」

加蓮「って言ってもさ。ただ謝りに行くだけなんだよね。ウザいって言ってごめん、って」

藍子「はい。そうですね」

加蓮「あ、でも何かお詫びじゃないけど、差し入れくらいは持っていこっか」

藍子「それなら、レジのところでひとくちで食べられるクッキーを売っているみたいですよ。あれなら、Pさんもお仕事しながら食べられるんじゃないかな」

加蓮「そうなんだ。……そっか、そういえばバレンタインだっけ」

藍子「忘れちゃっていたんですか?」

加蓮「バレンタインのCMのオーディションに落ちちゃった瞬間から私のバレンタインは終わりました」

藍子「あはは……。だから、この前一緒にチョコを作ろうって愛梨さんが誘った時も、断っちゃったんですね」

加蓮「いやあれは嫌だっただけ」

藍子「え~……。愛梨さん、すごく残念がっていましたよ」

加蓮「だってさー……」

藍子「……もうっ」

加蓮「Pさんに、なんて言って謝ろっか」

藍子「まずは、ごめんなさい、からですっ」

加蓮「だよね。……んー、でも今回はあんまり堅苦しく行きたくないかも」

藍子「ふんふん」

加蓮「……よしっ。ウザいって言ってごめん。これで終わらせる! それ以上余計なこと言うのはナシ!」

藍子「おぉ~」

加蓮「それでPさんが何か言ってきたら、もっかいウザいって言ってやるっ」

藍子「こらっ」

加蓮「あははっ。冗談冗談」

藍子「もう。……ううんっ。加蓮ちゃんなら本当に言ってしまうかもしれないので、加蓮ちゃんが余計なことを言わないように、私が見張っておきますっ」

加蓮「言わないわよ」

藍子「見張りたいですっ」

加蓮「……冗談だって知ってるくせに」

藍子「じ~」

加蓮「せめてちょっと離れたところからにしない?」

藍子「隣にいます」

加蓮「5mだけでいいから」

藍子「隣にいます」

加蓮「3m」

藍子「隣にいます」

加蓮「じゃあ私じゃなくてPさんの後ろ側から見張るとか」

藍子「隣にいます」

加蓮「…………」

藍子「隣にいます」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「もー……。分かったからっ……。もー!」

藍子「……えへ♪」

加蓮「一応Pさんに連絡しとこ。今からそっち行くね、っと」ポチポチ

藍子「では、行きましょうっ」

加蓮「行こっか。……あ、そうだ。そういえば聞きたかったことがあったんだけど」

藍子「? 何ですか?」

加蓮「藍子って今日どうしてここに来たの? 約束してた訳じゃないのに……」

藍子「う~ん……。なんとなく、ですっ」

加蓮「なんとなくねぇ……」

藍子「お散歩をしていたら、そうだ、いつもの場所に行ってみようっ、って閃いて――」

藍子「ひょっとしたら、神様が教えてくれたのかもしれませんね。加蓮ちゃんが待っているよ、って!」

加蓮「神様はそんな優しい奴じゃないから」

藍子「でも、ここに来たら本当に加蓮ちゃんがいましたよ?」

加蓮「それは神様なんかじゃなくて、藍子が私――」

藍子「……私が、加蓮ちゃんを?」

加蓮「なんでもなーい。ほら、遅くならないうちにさっさと出るよっ」

藍子「わ、待って~っ。お財布お財布……あっ、店員さん。はい、会計お願いしますっ。それと、クッキーも♪」


【おしまい】

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom