ナイツ土屋「……塙さん、さっきからハルヒが多くありません?」塙「は?」 (11)

塙「はぁ……」

土屋「どうしたんですか、出だしから溜息なんかついて」

塙「はぁ……」

土屋「うん」

塙「最近ね気分がずーっと憂鬱なんですよ。私生活でちょっと嫌なことがありましてね」

塙「退屈しのぎでいいんで聞いてもらっていいですか」

土屋「はい。まあ漫才中ですけどね」

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塙「もう何やっても憂鬱で憂鬱で心身ともにすぐれなくて、これ何かしらの病じゃないかと思って1人で病院に行ってみたんですよ」

塙「最初はただの山勘だったんですけど、実際に受診してみたらまさかの即入院」

土屋「え、塙さん入院してたの?」

塙「で入院してても嫌なことが多いんで、よけい憂鬱に拍車がかかっちゃうんです」

土屋「あ、ここいるってことはもう退院できたんだ、よかった」

塙「入院中の嫌なことと言えば何といっても退屈なこと。あと尿瓶ね」

塙「恥ずかしいんですよ。看護師さんに回収してもらう時に動揺しちゃうんです。あとほら、僕って包茎でしょ?」

土屋「たぶんみんな包茎と入院を今知ったと思います」

塙「ほら、僕って包茎でしょでしょ?」

土屋「そんなこと2回も言わないでください」

塙「8回は言ってやりますよ」

土屋「お願いだからやめてください」

塙「まあでも退屈だから色んな人がお見舞いに来てくれるのは嬉しかったですね、こっちは憂鬱なんで溜息まじりに応えちゃうんですけど」

塙「中でも来てくれて嬉しかったのが、にゃん子・金魚・たにしの3人。ただの人間じゃないですよ」

土屋「動物みたいになってますけど全員漫才協会の師匠です」

塙「でちょっと不思議なことがありましてね。師匠たちが来ると必ずと言っていいほどお見舞いでもらったものが気づいたら消失していってるんです」

土屋「……うん、あんまりそういうことは言わない方がいいんじゃないですか。よくわかりませんけどね」

塙「あと内海桂子師匠も来てくださって、元気の秘訣は適度な運動だってアドバイスまでいただきました。なんでも細胞分裂を繰り返すことによって体が元気になるんですって」

塙「でもルーティンも大事だっておもむろに三味線取り出してミンミンミンミンミンって僕の病室で三味線の稽古始めちゃったんですよ」

土屋「まあ桂子師匠はいつも三味線を大切にしてますからね」

塙「そしたらブンブンブンブンブンって音も聞こえて来て、なんと暴走族が病院近くをずーっとループで走ってるの」

塙「閉鎖された空間でミンミンミンミン、ブンブンブンブン、ミンミンミンミン、ブンブンブンブン」

塙「桂子師匠には悪いですけどもう頭おかしくなりそうでね。この状況を病院側に訴えてどうにかしてもらうしかないですよ。であのSOSを伝えるボタンがあるじゃないですか」

土屋「ナースコール?」

塙「そうそれ。あれ押しても押しても誰も来てくれないんですよ。押すこと押すこと一万数千回」

土屋「そんなに?」

塙「これもう証拠残すしかないと思って動画撮り始めたら途端に静かになって、暴走族も三味線の音もなくなったと思ったら病室から桂子師匠も消失してたんですよ」

土屋「たぶん帰宅したんじゃないですか」

塙「いやもうどうすりゃいいんだと。流石に僕も動揺が隠せなくなりましたよ」

塙「こんなにおかしなことが続くわけないじゃないですか。で色々考えた結果これ他所の芸人をぶっ潰す吉本の陰謀じゃないかと思いましてね」

土屋「吉本さんはそんなことしませんよ」

塙「あんなもんヤクザだろヤクザ。まあ我々漫才協会もおぼん派とこぼん派に分裂して抗争の真っ最中ですけど」

土屋「山口組みたいに言わないで」

塙「これが陰謀論だってことは僕も重々承知ですよ。でももし本当だとしたら憤慨ものじゃないですか!」

塙「芸人ならお前も一緒に憤慨しろよ!」

土屋「……」

土屋「……塙さん、さっきからハルヒが多くありません?」

土屋「憂鬱とか溜息とか退屈とか」

塙「は?」

土屋「消失、暴走、動揺、陰謀、憤慨、分裂」

土屋「これ全部涼宮ハルヒの何々シリーズ。ラノベのタイトルでしょ」

土屋「最初の方にあった包茎でしょでしょもそうだ。冒険でしょでしょ。アニメの主題歌」

塙「え、何?遼河のこと?」

土屋「元宝塚の遼河はるひさんね。違いますけど」

塙「何のこと言ってるかわかんないなあ……偶然じゃないですか」

土屋「いや、本当にこれが偶然だとしたらビックリですよ」

塙「え、驚愕した?驚愕した?」

土屋「それだよそれ!」

塙「すみません、この人が訳わかんないこと言ってるんで僕が話戻します」

塙「吉本のせいであんなことになっちゃいましたけど病院って言っても悪い事ばかりじゃないんですよ。人が集まるから出会いがあったりするんです」

塙「これは僕が入院中の、ある晴れた日のこと、なんですけどね」

土屋「ハレ晴レユカイのサビね」

塙「病院の中をふらーっと歩き回ってみたんです」

塙「で喫煙所にいたのが80年代アイドルの小泉今日子さん。これ羨ましいでしょ」

塙「ごめんなさい、愛称があるですけどね、ちょっと今それド忘れしちゃいました」

土屋「うん、ハルヒのだとしたらキョン。で小泉今日子さんはキョンキョンね。あ、あと古泉も入ってる」

塙「なんてったってアイドルですからね、僕と違って普通1人じゃ病院なんか来ないですよ」

塙「妹さんと一緒に来てました」

土屋「キョンの妹。キョンの本名が出てこないせいであの子の名前もキョンの妹」

土屋「塙さんの場合、逆にあだ名の方が出て来なかったみたいです」

塙「あと他にも珍しい人が通院してました」

塙「なんと俳優の津川雅彦さん」

土屋「え……津川……?? そんなキャラ……」

土屋「え……マサヒコの方……??」

塙「で一緒に来てたのが津川さんのお兄さんね」

土屋「うん、長門でした。長門裕之」

塙「これ珍しいでしょ!」

土屋「確かに」

塙「滅多に見られないですよ!あの兄弟が揃ってるとこなんて!」

土屋「あと付け加えるとしたら、もう津川さんも長門さんもお亡くなりになってます」

土屋「幽霊だったのかな、病院だから」

塙「あっ、幽霊と兄弟で思い出した」

塙「入院中は暇だったんで『四谷怪談』の本を兄貴に買ってきてもらったんですよ」

土屋「あ、歌舞伎なんかでやるお岩さんの戯曲だ。やっとハルヒ関係なくなりました」

塙「けどあまりにも暇で暇で、すぐに読破しちゃいましてね」

塙「お前こういうのも読めって兄貴が次に持って来たのが『武蔵野』」

土屋「あ~、武蔵野。良い小説ですよ」

塙「あと最後に差し入れしてもらった本が『綾本』ね」

土屋「うん」

塙「綾本、あれが一番役に立ったな~」

土屋「綾本??え、何それ」

塙「……皆さん知らないんですか?」

塙「あー、たぶんこれ聞いたらわかるかな」

塙「順に作者が鶴屋南北、国木田独歩、平野綾」

土屋「ツッコミが追いつかない」

土屋「ハルヒはもういいよ塙さん。さっきから聞いてたら、本読めて、病院の中を自由に歩き回れて、即入院で」

土屋「尿瓶使わなきゃいけない病気って、だいたい何で入院したんだよ」

塙「あっ……ちょ……ごめん」

塙「それは、禁則事項です」

土屋「あ、みくるだ」

塙「え?」

土屋「朝比奈みくる」

塙「え?何?」

土屋「それ朝比奈みくるでしょ?」

塙「禁則事項です」

土屋「もう白状してるだろ」

塙「昔のアイドルに会えたのも津川雅彦の亡霊に会えたのも勿論うれしいですよ」

塙「けど一番お会いできてうれしかったのが同じ病室に入院してた有名人」

土屋「あー、相部屋だったんだ」

塙「その人ちょっと炎上しちゃって火傷で入院してたみたいなんですけどね」

土屋「……火傷。入院するほどだからちょっとじゃ済まないよもう大怪我だ」

塙「知りたい?」

土屋「……まあうん」

塙「驚かないでくださいよ?」

塙「あっ、驚愕しないでくださいよ?」

土屋「言い直さなくていいから」

土屋「で誰?」

塙「なんと!あのアニメスタジオ!」

塙「京都アニメーションと関わりの深い!」

塙「声 優 の 白 石 稔 さ ん だ っ た ん で す よ !」

土屋「そいつよくわかったな。もういいよ」


塙「で隣の病室で青葉って男を朝倉って女がナイフでめった刺しにしてましてね」

土屋「もういいって」

塙・土屋「どうもありがとうございましたー」




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