中野三玖「なにがわかったの?」上杉風太郎「三玖のことが大事に思えてきた」 (10)

「見て、フータロー」
「ん? なんだ、三玖」
「じゃーん」

2人っきりになった時を見計らって仕掛けた。
とんとんと肩を叩き、振り返った彼に片足を上げて見せつける。しかし、彼は首を傾げて。

「どうした、足が痺れたのか?」
「むー違うよ」

見当違いなことを抜かした彼にヒントを出す。

「ヒントは色だよ」
「なるほど。タイツの色がいつもと違うな」
「ピンポーン」

ようやく気づいてくれた彼に正解を告げる。
何を隠そう今の私は白タイツを履いている。
いつもは黒タイツなので、新鮮に映る筈だ。

「で? その白いタイツはどうしたんだ?」
「二乃から盗……借りた」
「あとでちゃんと返すんだぞ?」
「飽きたら、そのうちね」

返すかどうかは彼の反応次第である。
彼が白タイツの方が好きならば返さない。
未来永劫、私は白タイツを履き続ける。

「ところで、タイツの色がどうかしたのか?」
「むー……フータロー、嫌い」

せっかくタイツの色を変えたのに、だからなんだとばかりに質問を重ねてくるような家庭教師に嫌いと告げたその瞬間、異変が生じた。

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「ま、待ってくれ、三玖」
「えっ?」
「頼むから……俺を嫌わないでくれ」

何やら切羽詰まった表情を浮かべて、無神経な家庭教師である上杉風太郎が頭を下げてきた。
これには流石にギョッとして、慌てて尋ねる。

「ちょ、ちょっとフータロー、どうしたの?」
「お前に嫌われたら俺はおしまいだ」
「な、なんで……?」
「俺がこの先、家庭教師としてやっていけるかどうかはひとえにお前にかかっている。四葉は協力的とはいえ、他の3人をどうにかするにはお前の存在が必要不可欠なんだ。だから、頼む」

ああ、なるほどね。そういうことか。
たしかに、私たち姉妹は皆、個性的だ。
そんな五つ子の家庭教師はさぞ大変だろう。
協力者が四葉だけでは心許ないのも頷ける。
つまり彼にとって私はそのくらい重要なのだ。

「ふーん」
「三玖! 頼む! 俺を嫌わないでくれ!」
「どーしよっかなぁ」

なんだろ、この状況は。めちゃくちゃ楽しい。
今まで私が一方的に彼に好意を寄せてたのに。
嫌いとひとこと口にした途端に逆転するとは。

「フータロー」
「な、なんだ?」
「私に嫌われたくない?」
「あ、ああ、もちろんだ」
「だったら、もっと私を大切に扱って」

あくまでも、彼を困らせるつもりはない。
好きな相手の困った顔を見て悦ぶ趣味はない。
だから無茶は言わない。でもこのくらいなら。
この程度のお願いならば、許される筈だ。

「そ、そう言えば、三玖」
「なに?」
「肩とか、こってないか?」

大切に扱えと言われ、肩のこり具合を確認してくる彼には、あまり高望みをしてはいけない。

「じゃあ、揉んで貰おうかな」
「よしきた! 任せてくれ!」

ちょうど、肩がこっていると言えばこっていたので、彼に揉んで貰うことにした。すると。

「お? 本当にこってやがるな」
「まあね。私、胸が大きいから」
「……反応に困るようなことを言うな」

そんなことを言われても事実なので補足する。

「けっこー重たいんだよ?」
「そ、そうか……」
「下から支えてみる?」
「け、結構です……」
「なんなら揉むのは肩じゃなくて……」
「三玖! もう意地悪はやめてくれ!?」

あー楽しい。もっともっと意地悪したくなる。

「ごめんね。変だよね、やっぱり」
「へ? 変って、なんのことだ?」
「私みたいなのが巨乳とかおかしいよね」
「だ、だから、反応に困るだろうが」
「やっぱり変なんだ……ふぇ~ん」
「な、泣くなよ、こんなことぐらいで……」

人の悩みに対して、こんなこととは、失礼な。
もちろん嘘泣きだが、気にしてるのは事実だ。
それなのに、そんな言い草はよくないと思う。

「もういい」
「えっ? あの、三玖さん……?」
「触らないで。フータロー、嫌い」
「俺が悪かった! 頼むから許してくれ!?」

床に額を擦り付けるフータロー。
そんな彼を見下して、ゾクリとする。
思わず、後頭部を踏んづけたくなった。
でも、それは流石に可哀想だから、代わりに。

「嗅いで」
「は?」
「私の足を、嗅いで」
「っ……」

白タイツを履いた爪先をついっと彼の顔に近づけると、フータローはゴクリの生唾を飲み込み、やや躊躇いつつも、クンクン嗅いでから。

「……ちょっとだけ、二乃の匂いがする」
「ッ!?」

瞬間、目の前が真っ赤に染まる。キレた。
怒髪天を衝くとは、まさにこのことである。
怒りの衝動に任せて、横っ面を蹴っ飛ばした。

「ぐっふぇっ!?」
「あ……やば」

盛大に吹っ飛んだ彼を見て、我に返る。
あわわ。とんでもないことをしてしまった。
大好きな相手の顔面を蹴っ飛ばすなんて。

「ご、ごめんね、フータロー。痛かったよね」
「い、いや、二乃の蹴りに比べたら全然……」
「そこに直れ」

なんだ、こいつは。あったまにきた。
口を開くたびに私を怒らせるなんて。
ふーん。いい度胸じゃん。やっちゃうよ。

「フータロー嫌いっ!」
「げっふぉっ!?」
「嫌いっ! 嫌いっ! 大嫌いっ!!」
「ぐっ!? がっ!? ぎぃっ!?」

あーあ。せっかくの白タイツが台無しだ。
フータローの鼻血で赤く染まってしまった。
よし。今日から私は"赫脚"の三玖と名乗ろう。

「はあースッキリした」
「き、気が済んだかよ」

さて、どうだろう。自問してみる。
たしかにスッキリしたのは事実だ。
溜め込んでいた鬱憤は晴れたけれど。
その代わりに生じた虚無感を埋めないと。

「フータロー、顔あげて」
「な、なんだよ、まだ蹴り足りないのか?」
「ちゅー」
「んぐっ!?」

蹴っ飛ばしたあとに接吻をする。長めに。
すると、虚無感が満たされるのを感じた。
これは素晴らしい。乱世の大発見である。

「ぷはっ」

たっぷりと舐ってから、濡れた唇を離して。
互いに荒い吐息を吐きながら、見つめ合う。
コツンと額をぶつけて、クスクス笑い合う。

「ふふっ。変だね、私たち」
「ああ、でもちょっとわかった気がする」
「なにがわかったの?」
「三玖のことが大事に思えてきた」
「今までは大事じゃなかったの?」
「今までよりもっと大事になった」

おや。それはそれは。なんとも喜ばしい。
願ってもない展開に、私は歓喜した。
愛想を尽かされても不思議じゃないのに。
やっぱりフータローは、特別な人だ。

「しかし、今の蹴りは流石にだいぶ効いたぞ」
「ご、ごめんね、やりすぎた」
「いや、謝るのはこっちのほうだ」
「えっ?」
「実は蹴りからのキスでびっくらこいて、思わず糞を漏らしちまった。すまん。申し訳ない」
「フハッ!」

びっくりした。よもや私が愉悦を漏らすとは。

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

お腹からこみ上げる愉悦を抑えきれない。
高らかに哄笑すると、強くなれた気がした。
そうだ、私は強い。今ならなんだって出来る。

「ねえ、フータロー」
「な、なんだよ」
「フータローはうんちを漏らしたんだよね?」
「そうだが、それがどうした?」
「じゃあ、お仕置きしないとね」

ゲシッ!

「ぐっふぇっ!?」

再び彼の横っ面を盛大に蹴っ飛ばしてやった。
床に転がる彼の顔面におもむろに腰を下ろす。
そのままの体勢で私は罪に対する罰を告げた。

「今から、おしっこをするから」
「もごっ!?」
「ふふっ。くすぐったい。もう、フータローったら悦びすぎだよ。少しだけじっとしてて?」

局部に口を付けた状態でモゴモゴされるとなんだかむずむずしてしまう。いけないことだ。
はしたなくてすごく恥ずい。でも気持ちいい。

「飲んじゃダメだよ?」
「っ……!」
「飲んだら、嫌いになるからね」
「んぐっ!」
「んっ……ひゃっ……だ、だめっ」

そう忠告すると、半開きだった彼の口が固く閉じられて、私の敏感な部分が擦れてしまった。
その刺激で、勢いよく尿が噴き出してしまう。

曰く疾きこと風の如く。
徐かなること林の如く。
侵掠すること火の如く。
動かざること山の如し。

「んっ……ふぁっ」

そんなおしっこを、彼の顔面にひっかけた。

ちょろろろろろろろろろろろろろろろろんっ!

「フハッ!」

今度は彼が愉悦を溢す。溺れても知らないよ。

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

彼の哄笑を聴きながら、身を悶えさせる。
これやばい。これ好き。フータロー大好き。
出し終えた後、顔面に擦り付けて、解放した。

「はあ……はあ……フータロー、生きてる?」
「ぜい……ぜい……な、なんとかな」
「私のおしっこ、飲んだでしょ?」
「の、飲んでない」
「嘘つき、嫌い」
「ちょ、ちょっとだけ……飲みました」
「ん。いい子」

正直者にはご褒美をあげよう。
よしよしと頭を撫でると、彼は嬉しそうだ。
すると、私まで嬉しくなる。心が満たされる。

「とっても、愉しかったね」
「ああ、三玖と居ると愉しいよ」
「いい子にしてたらまた飲ませてあげるね?」
「はっ……家庭教師をガキ扱いとはな」

今日、私は学んだ。とても賢くなった。
好きだからと言って、遠慮する必要はない。
自分の必要性を相手に認識させることが大事。
それこそが、恋愛の必勝法であると理解した。

「今日からフータローが私の教え子だからね」

私はフータローが好き。
彼にも私を好きになって欲しい。
そのためにどうすれば良いか、解を得た。

「先生の言うことは絶対だから。わかった?」
「ああ、わかったよ、三玖先生」
「よろしい。フータロー、好き」

骨の髄までおしっこを染み渡らせ、肉体の隅々にまで、私の必要性を身に染み渡らせよう。


【"赫脚"の三玖先生の恋愛講座】


FIN

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