【アイマス ×鬼滅】雪歩「私のPは顔が怖い」 (30)

 男の人が苦手だった。男の人が相手になるとうまく喋れないし、緊張して目も合わせられない。そんな自分を変えたくてアイドルになろうと思った。だけど…

「おおォい!?さっさと降りて来やがれェ!」
「犬は無理ですぅ!?」

 それでも、このプロデューサー、不死川実弥さんは怖すぎる。目が血走っているし、顔にはたくさんの傷がある。うちのお弟子さんでももう少し少ない。

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性懲りもなく、このお話の続きです
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「はは、よもやよもやだ!」
「雪歩!僕がいるから大丈夫だよ!」

 真ちゃんと真ちゃんの担当Pさん、煉獄さんも励ましてくれている。だけど…
 動物と触れ合う番組だとは聞いていた。だけど、こんなに大型犬がたくさんいるだなんて知らなかった。

「無理です!無理です!できません!」
「萩原ァ!」
「ひぃ!?」

 プロデューサーさんに怒鳴られる。わかっている。やらないといけないのはわかっている。だけど、怖いものは怖いのだ…

「でも…でも…」
「…もういい」
「あっ…」

 それだけ言い残して、プロデューサーさんはどこかに行ってしまった。

「何もあんな言い方しなくても…」
「うぅ…」

 真ちゃんが庇ってくれる。守られてばかりいる自分が情けなくて言葉も出ない。

「いや、不死川は見た目はああだが無茶なことは決して言わない!」

 そうだ。自分を変えようと思ってアイドルになったんだ。男の人とは少しずつ話せるようになってきた。(プロデューサーさんはまだ怖いけれど)それなら、犬だって克服しないといけない。

「私…やります!」

「どうだい?もうそろそろ再開できそうかな?」
「…すいません。もう少しだけ待ってください」

 萩原雪歩の担当プロデューサー、不死川実弥は頭を下げる。彼には確信があった。彼女は時間さえあれば必ず仕事を全うできる。しかし、それには少しだけ、勇気を出すための時間が必要だ。実弥は雪歩を見捨てたわけではない。番組のディレクターに交渉しに来たのだ。

「はぁ…もういいよ、今回は別の子に行ってもらうから…」
「…おい、それはおかしいんじゃねェのか?」

 そもそも今回のロケで大型犬がいるなんて話は聞いていなかった。そんな話ならそもそも実弥は受けていない。当日になって、現場入りして初めてわかったことだ。

「うちの萩原が犬が苦手だっつーのは有名な話だよなァ?それがわかった上で、犬がいることを隠して仕事をよこすってなると…誰の差し金だァ?」
「ぐっ…」

 実弥の予想は当たっていた。無理難題な仕事をふっかけて、765プロの評判を落とす。961プロからの妨害は落ち着いたとはいえ、未だに十三人しか所属アイドルがおらず、資金力も弱い765プロはよく標的にされる。大方このディレクターも別事務所に金を積まれたのだろう。

「し、しかし、萩原雪歩が今回の仕事ができないことに代わりは…」
「うむ、なるほど、そういうことか…」
「な!?お前は…菊地真の…」

 実弥を心配してきたのか、煉獄もディレクターとの話に入ってきた。

「その点は心配する必要はない!カメラの先を見てみればいい!」
「カメラの先?」

 そう言われてディレクターが目を移すと、そこにいたのは何故か大量のビーフジャーキーを手にした雪歩が立っていた。

「きょ、今日は…『バンダイアニマルパーク』に来月オープン予定の新エリア…『ワンワンランド』に一足先にお邪魔していますぅ!」
「今日は目一杯楽しんじゃいますよ!」

 両手一杯にビーフジャーキーを持っている雪歩の横で、真が何も見えていないかのように進行する。はっきり言って異様な光景ではある。

「…あいつは何してんだァ?」
「それがな、『私が逃げても、ワンちゃんの好物を持っていたら寄ってきてはくれますよね?そうすれば、同じ画面には映るから…』と言って…」
「なるほどなァ、根性あるじゃねえかァ」
「いや、おかしいだろ!?」

 けれど、その無茶苦茶さは中々面白く、ディレクター以外の撮影スタッフからは好評のようだ。

「頑張れ!雪歩ちゃん!」
「いけるいける!」
「応援してるぞ!」

 雪歩の必死な姿に、誰もが彼女を応援せずにはいられない。

「うわぁ!?や、やっぱり…わ、ワンちゃん怖いですぅ!?」
「ゆ、雪歩ぉ!?」

 そうは言っても、彼女は決してビーフジャーキーを離さない。それが彼女なりの決意の証なのだ。

「あいつはなァ、自分を変えるためにアイドルになったんだよ。いつだって、自分の苦手なことにばっかり挑んでやがる。口では『無理だ』『ダメだ』って言いながら。誰に無理だって言われても、親に反対されても、続けてきたんだァ…そんな覚悟できたやつができねぇわけねェだろうがァ!」

 最初に担当だと告げられた時、実弥は高木社長に変更を申し出た。男性が苦手だと言っている雪歩に、血の気が多く喧嘩っ早くて口の悪い自分は相応しくないだろうと思ったからだ。
 けれど、高木社長は担当を変えなかった。

『キミぃ…うちのアイドルを舐めてもらっては困るよ。特に彼女はね、自分の苦手には決して負けない強さをもっているんだよ』
『だがよォ、社長さん。俺ァ、顔だってこんなだしよォ』
『そんな優しいキミだから頼んでいるんだよ』
『あァ?』

『さっきから、自分のやりやすさではなく、萩原くんのやりやすさを考えてくれているだろう?』

 だから君たちはいいコンビニなると思うんだ。と告げられた後は、有無を言わせずに話を切り上げられた。
 その選択が正しかったのかどうかはいまだにわからないが、実弥は彼女の強さを信じていた。

「くっ…これは…どうしたものか…」
「これだけいい画が撮れたのだから、演者を変える必要は無くなってしまったな?」
「ぐっ…」

 ディレクターは慌てた様子で電話をかける。大方、金をもらった相手に言い訳をしているのだろう。

「しかし、不死川、貴様はここまでわかっていたのか?」
「…どういうことだァ?」
「俺は付き合いが浅いからな。萩原がいい人間だとは知っていたつもりだが、今回は逃げてしまうかもしれないと思っていたぞ?」
「はっ…わかってねェなお前もよォ」
「うむ!恥ずかしいかぎりだ!」

「…笑顔だよ」
「む?」
「あいつの笑顔は、強いやつの笑顔だ。あんな笑顔ができる奴ァ、俺は他に一人しか知らねェ」
「…あぁ」

 煉獄の脳裏に、いつだって強い笑顔を称えていた女性の姿が映し出される。そういえば、彼女も今の雪歩くらいの年齢だったか。鬼とすら仲良くなろうとする理想論者かと思えば、それを実現できそうな強さをしっかりと併せ持っていた。彼女の目の奥には決して折れない強さがあった。実弥は、彼女と雪歩を重ねているのだ。

「なるほど…確かに…それは強いわけだな!」
「あァ…」

「うーん…」
「どうしたんですか?春香さん」
「あ、やよい。いや、雪歩、あの顔の怖いプロデューサーさんと仲良くできてるかな…」
「あぁ、あの知性も理性も無さそうな男?」
「いや、伊織、それは言い過ぎだから…」

「うーん…それは多分心配ないかなぁって」
「どうして?」
「私のプロデューサーが言ってましたから!あの人、弟さんにはとっても優しいんですよ!」
「へぇ、なんかそれは

「うーん…それは多分心配ないかなぁって」
「どうして?」
「私のプロデューサーが言ってましたから!あの人、弟さんにはとっても優しいんですよ!」
「へぇ、なんかそれは…」
「意外ね…」

「だから歳下の人にはうんと優しくしてくれるだろうって…」
「そうなんだ…」
「弟さんはずっと言ってるそうですよ…」

『自分の兄はこの世で一番優しい人だから』

終わり

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