――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「それでその時にモバP(以下「P」)さんがさ――っと、ごめん。また電話みたい。いい?」
高森藍子「行ってらっしゃい、加蓮ちゃん。私は、店員さんとお話していますね」
加蓮「何それ気になる、後で何話したか教えてよ?」
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レンアイカフェテラスシリーズ第121話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「言葉を探すカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今日も、私とあなたとの時間を」
・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 3回目」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「南風のカフェテラスで」
<もしもし? Pさん。……うん、何? うんうん――
藍子「……」ズズ
藍子「……あっ、店員さん♪」
藍子「空のコップ……はい、ありがとうございます。ライチのブレンドジュース、とてもおいしかったですっ」
藍子「ライチのジュースって、あまり飲んだりすることはないんですけれど、すごくさっぱりとしているんですね。……梅雨が来るから? ふふ、それで限定メニューなんですか」
藍子「加蓮ちゃんは――はい、そうですね。加蓮ちゃん、また外に電話に行っちゃいました」
藍子「せっかく珍しいジュースを注文したのに。感想も言わないで、ひどいですよね。……なんてっ」
藍子「私はいいんですよ。のんびり待つのも、好きですから♪」
藍子「……ありがとうございますっ。加蓮ちゃんがなかなか戻って来なかったら、またその時は、お話に付き合ってもらえると嬉しいですっ」
藍子「~~♪」
加蓮「ただいまー」
藍子「おかえりなさい、加蓮ちゃん」
加蓮「バタバタしててごめんね? Pさんも、空気を読んでくれればいいのにー」
藍子「くすっ。今日はここに来ることを伝えていないのに、どうやって読み取るんですか?」
加蓮「そこはほら……藍子が私の顔を見て色々見抜くみたいに?」
藍子「いくらPさんでも難しいですよ~」
加蓮「あれ、藍子の分のコップは?」
藍子「もう店員さんに渡しちゃいました」
加蓮「ふーん……」ズズ
加蓮「ふうっ。これ、すごいすっきりした味だよねっ」
藍子「ねっ」
加蓮「さっき外に出た時すごくジメジメしててさー」
藍子「雨が降ってしまう前に、事務所に行きますか?」
加蓮「事務所? なんか用でもあるの?」
藍子「あれ? 私は、加蓮ちゃんこそ用があるのかなって思って言ったんですけれど……」
加蓮「……あははっ」
藍子「考えすぎでした」
加蓮「残念。ただのスケジュール変更でーす。しかも延長の」
藍子「延長の」
加蓮「だから加蓮ちゃんの勇姿はお預け」
藍子「それは残念。店員さんがグラスを持って行って、それから加蓮ちゃんが帰ってくるまでに、いろいろ考えていたのに」
加蓮「ほー?」
藍子「もしも、加蓮ちゃんのLIVEの予定の電話だったら……そうですね~。どうやって観客席に紛れ込んじゃおうかな、とかっ?」
加蓮「見つけたらステージに引きずりあげるけど、いい?」
藍子「……今のお話は、なかったことにしてください」
加蓮「はいはい」
藍子「む~」
加蓮「藍子ごときが私に仕掛けようなんて、やっぱりまだまだ早いよ。もう少し、加蓮ちゃんの下で修行していきなさい」
藍子「加蓮ちゃんをダマす為に、加蓮ちゃんに弟子入りをするんですか」
加蓮「いや未央と茜に矛先を向けるけど。奈緒……は、いいや」
藍子「え~。私は加蓮ちゃんをダマしたいのにっ」
加蓮「それ普通私がいるところで言う??」
加蓮「それに、藍子の口から騙したいって言葉が出るなんて。なんかあった?」
藍子「ううん、なにも。ただ、ちょっぴりそんな気分ってだけですっ」
加蓮「ふーん。電話から戻ってきた加蓮ちゃんにイタズラを仕掛けてこない辺り、やっぱりまだまだ甘いね?」
藍子「……あああっ」
加蓮「ざんねーん。あ、店員さん。はい、私のグラス。ごちそうさまー」
加蓮「……いや、今度は藍子に何を言ったんだって……何もしてないよ私。勝手にこの子が自爆しただけだし」
藍子「じ~……」
加蓮「えーと、今度は何?」
藍子「どうすれば加蓮ちゃんにいたずらをしかけられるかなって思って見ています。じ~」
加蓮「…………ワンテンポ遅いし、だから、それ私に直接言ってどうすんの??」
加蓮「…………ワンテンポ遅いし、だから、それ私に直接言ってどうすんの??」
藍子「あっ。今度は、私に電話みたい……。加蓮ちゃん、いいですか?」
加蓮「行ってらっしゃい」
藍子「ちょっと失礼しますね」
<もしもし。……茜ちゃん? うん、今は加蓮ちゃんと一緒だけれど……うんうん……未央ちゃんが?
加蓮「なんか巻き込まれそうな予感がするねー?」
加蓮「先手打っといた方がいいかな。最近未央とよく話してるのは……茜だなぁ」
加蓮「他に、誰か抱き込める子っているっけ……」
加蓮「やーめたっ。巻き込まれるなら巻き込まれちゃお。その方が楽しいかもしれないし」
加蓮「……、」チラ
加蓮「外、真っ暗……。夜みたいに……ううん、夜とはまた違う不気味さだね。ところどころの黒い雲に押しつぶされてるみたい……」
加蓮「なのに、楽しいかもしれない、って。今私、すっごく自然に言えてたんだね」
加蓮「窓ガラスに映ってる私――」
加蓮「ふふっ。今さらすぎるよ。藍子よりもずっとノロマだ」
藍子「誰がのろまですかっ」
加蓮「お帰りー。誰って、藍子がだけど」
藍子「むっ。確かに、加蓮ちゃんから見たら、のろまになっちゃうかもしれませんけれど……でも、これが私のペースですもんっ」
加蓮「知ってる知ってる」ナデナデ
藍子「む~……、……、……♪」
加蓮「ごめんね? 今ちょっと自虐……違うな。物思い? にふけってた感じ」
藍子「物思い……」
加蓮「雨の日ってやっぱり色々考えちゃうもんね。外に出れないだけ余計にかな?」
藍子「……?」
加蓮「あれ、そんなことない? あぁそっか、藍子は雨の日のお散歩でも色々きょろきょろして見てるもんね」
藍子「ううん、そうではなくて……確かに、雨の日の光景を探すのも面白くて、この前は私と同い年くらいの女の子が可愛い傘をさしていたから、ついどこに売っていたか聞きに行っちゃったりもしましたけれど――」
加蓮「いや何してんの。色々な意味で」
藍子「私も少し迷ったんですけれど、その時一緒に夕美さんと歩いていて、気になったら聞いた方がいいよ! って、背を押してくれたんです」
加蓮「あー……。なるほど? 唆されちゃったんだ」
藍子「そそのかされてしまいましたっ」
加蓮「藍子はすぐ騙されるんだから。私以外に騙されちゃダメだよ?」
藍子「は~いっ」
加蓮「その見つけた傘が、今日持ってきてるそれ?」
藍子「はいっ。これ、可愛いでしょ♪」
藍子「加蓮ちゃんにも広げて見せてあげたいんですけれど、カフェの中で開くわけにはいきませんし、おひろめは、帰る時にですねっ」
加蓮「ふふっ。帰り道にまで楽しみを用意してくれるなんて気が利くんだー。どうせなら、雨が降ってほしいかもね。それなら」
藍子「……雨が降らなかったら、次に雨が降る時まで、お預けにしちゃいますっ」
加蓮「……アンタ今"これは取引材料になるかも?"とか思った?」
藍子「ぎくっ」
加蓮「分っかりやす……」
加蓮「ところで、"そうではなくて"の続きは何だったの?」
藍子「そうでしたね。ええと……。そうそう。私は、雨の日にお出かけするのも好きですけれど、加蓮ちゃんは雨の日自体が……」
加蓮「うん? 嫌いだけど」
藍子「それにしては、さっき笑顔だったなって。いろいろ考えちゃう、って言っていたけれど……って」
藍子「だから、ちょっぴり不思議に思っちゃいました。……もしかして、考えちゃうって良い意味ででしたか?」
加蓮「うーん……。そういうの、改めて聞かれるとなんか分かんなくなっちゃうね」
藍子「確かに……」
加蓮「自分と向かい合わされるっていうの? そういうのって、人に言われてやることでもないし」
加蓮「ま、誰かさんは時々強引にやってくれるんだけどさ?」
藍子「迷っている加蓮ちゃんには、背中を押してあげるより、手を引っ張ってあげる方がいいんだって分かりましたから♪」
加蓮「崖に連れていくんじゃないわよー」
藍子「そんなところに連れて行ってませんっ」
加蓮「そのくせいざ落ちるってなったら私だけ蹴落とす癖に」
藍子「なんのお話ですか!?」
加蓮「お互い崖から落ちそうで手をかけていた時に、どっちから助かる? って話」
藍子「それなら――って待ってください加蓮ちゃん。それって、私も加蓮ちゃんも崖から落ちそうになっちゃっているってことですか?」
加蓮「そだね」
藍子「それ、どうやって相手を助けるんですか……」
加蓮「……さあ?」
藍子「えぇ……」
加蓮「別に、例えば私が助かるためには藍子を犠牲にしなくちゃいけなくて、藍子が助かるためには私を犠牲にしなくちゃいけない、じゃあどうしますか――なんてガチの話がしたい訳じゃないし」
加蓮「藍子はそういう話がしたいの? したいなら付き合ってあげるけど?」
藍子「したくありませんよ……」
加蓮「知ってる。じゃーこの話は終わりー」
藍子「……何のお話だったんですか、これ」
加蓮「雨が降りそうな時に考える他愛もないこと」
藍子「考えそうになって、考えるのをやめた……ってことですか?」
加蓮「へぇ。藍子の目にはそう見えるんだ」
加蓮「ところで未央……じゃなくて電話してたのは茜か。茜、なんか言ってた?」
藍子「急に話題が……。茜ちゃんですか? 今度、未央ちゃんが最近始めたレギュラー番組に加蓮ちゃんをサプライズで呼びたいから、それを内緒にしていてほしいってお話――」
加蓮「ふむふ……え? ちょっと、藍子?」
藍子「あっ」
加蓮「……………………」
藍子「……………………」
加蓮「……………………」
藍子「……………………」
加蓮「……わー、藍子の顔がみるみる赤くなっていくー。名前には藍って文字が入ってるのに。おもしろーい……」
藍子「…………」
加蓮「……分かった、むしろ私から未央達に謝っとく……。うちの藍子がごめんって……」
藍子「いえ……。悪いのは私ですから……」
加蓮「うちの藍子、なんて言うとまた未央に怒られちゃうかな。いつからかれんのものになったの! って」
藍子「あはは……。どうでしょうね」
加蓮「ねえ藍子。藍子は未央達のもの? それとも私のもの?」
藍子「んっ!? え、っと……わ、私は、ええと、その……だ、誰のものでもなくてっ」
藍子「ほら、私はアイドルですから、誰か1人のものじゃなくて、ファンのみなさんのものです」
加蓮「おー。やるねぇ」
藍子「急になんてこと聞くんですか~。びっくりしてしまいました」
加蓮「加蓮ちゃん的には、そこは加蓮ちゃんって即答してから顔を真っ赤にして怒鳴ってほしかったな?」
藍子「しかもダメ出しまでっ」
加蓮「いや、逆にここで全然違う名前が出てくるのも面白かったかも。ほら、歌鈴とか。最近一緒にLIVEしてたし?」
加蓮「そうしたらどうしてたかなー。宣戦布告してたかなぁ。こう、ガチのバトル! みたいな感じで盛り上げるのも面白そうだし、後は――」
藍子「……もし本当に、急に歌鈴ちゃんや違う方の名前を出したら、加蓮ちゃん、落ち込むくせに」ボソ
加蓮「あァ!?」
藍子「きゃ。じ、冗談ですよ~……」
加蓮「冗談、ねぇ……」ヒクヒク
藍子「あっ。サプライズのことは、ばれたらばれた時のことも考えてるって、茜ちゃんが未央ちゃんが言ってたって」
加蓮「? 茜が未央が言ってって――あ、又聞きってことか。つまり、藍子が私にバラすまで計算してたと」
藍子「もしかして、そういうことだったのでしょうか……?」
加蓮「いやそれだけアンタがほわっとしてるって思われてることだからね?」
藍子「そ、そんなことないです」
加蓮「でも、未央ならそうなんだろうね。本当にガチでサプライズ計画を進めてるなら、藍子にだって話す必要はない訳だし」
藍子「確かにそうですね。私は参加していませんし……。加蓮ちゃんの言う通り、私が加蓮ちゃんにお話するまで、未央ちゃんの計算だったのかもしれません」
加蓮「計算……計算かぁ。あの子は計算とかそーいうタイプじゃないけど、盛り上げる為には全力で頭を回すところがあるもんね」
藍子「ですよね。相手に楽しんでもらうために、ものすごく全力になっていて――」
加蓮「あと何気に未央って頭いいとこあるよね。テストの勉強会をする時も、なんか分からない分からないって言いながら結構すぱすぱ解いてたりするし」
藍子「あれでも……ううんっ、あれでもって言ったら失礼だから……ああ見えて、未央ちゃんってテストの上位常連みたいですよ」
加蓮「それ言い換えできてなくない? 学力勝負! みたいになったら苦戦しそうだねー」
藍子「でも未央ちゃん、そういう勝負をしようって言ったことはないような……?」
加蓮「学校のテストだと盛り上がらなさそうだから?」
藍子「自分の得意なことでは、あえて勝負をしないってことなのかも」
加蓮「んー」
藍子「いろいろ思い出してみたら、未央ちゃんから勝負をしかける時って、いつも対等だったり、私たちがちょっと有利なことなんですよね」
加蓮「んんー……確かに? LIVEバトルは対等な条件からだし他にも――いや、前に背後から藍子ちゃん大好き同盟を引き連れてソロの私に挑みかかってきた時とかあったけど?」
藍子「あっ……」
加蓮「まあ、それだけ未央なりに藍子のことが好きなんだろうけどさー」
加蓮「藍子の時だけはなりふり構わずになるとか……はー。そういうことなら、ちょっと燃えちゃうなぁ。私」
藍子「加蓮ちゃん、何のお話……?」
加蓮「ふふ、ごめんごめん。なんでもなーい。という訳で……藍子? 私と未央、藍子はどっちのもの?」
藍子「だから、どちらのものでもありませんってば~」
加蓮「ちっ。はっきり藍子の口から言わせておけば未央がちょっかい出してくることもなくなっ――」
加蓮「いや、待って。確かこの前の日記コラムで、藍子は"加蓮ちゃんと過ごす時間が一番印象に残っている"って書いてたよね?」
加蓮「これ未央に突きつけてやろー♪ そしたら私の絶対勝利じゃん。ふふっ」
藍子「……私が言うのもおかしいかもしれませんけれど、そうしたら未央ちゃん、今度は取り返したいって言って勝負してくるかもしれませんよ」
加蓮「確かに」
□ ■ □ ■ □
加蓮「っと、また電話だ……。ごめんね藍子、何回も」
藍子「ううん。あっ、加蓮ちゃん、何か注文しておきましょうか?」
加蓮「なんか軽く食べれそうなヤツお願いっ」
<もしもし? もー、またPさん? 今藍子と……あれ、さっき言ってなかったっけ
藍子「さっと食べられそうなの……」パラパラ
藍子「今の限定メニューは……さっき注文したライチのブレンドジュースと、もう1つ別のドリンクなんですね」
藍子「……ブレンド? そういえば、あのジュースからは何か別の味もしたような気が……」
藍子「あれって何の味だったのでしょう。……たぶん、果物系の何かで……いちごとも、ブルーベリーともちょっと違っていて」
藍子「オレンジとか、レモンなのかな? さわやかな味の中にすっぱさがちょっとだけ混じっていたから、もしかしたらそうかもしれません」
藍子「どうせなら、店員さんに聞いて……ううん。こういうのは、直接聞くのはマナー違反ですよね」
藍子「あとでもう1回注文しちゃいましょう。加蓮ちゃんと一緒に、何が入っているか考えてみようっと」
加蓮「ただいまー」
藍子「お帰りなさい、加蓮ちゃん。……何かあったんですか? ちょっぴり不機嫌なような……」
加蓮「別に。大したことじゃない。……注文、まだしてないんだ」
藍子「あっ……。ごめんなさい。さっき飲んだジュースのことをいろいろ考えちゃっていました」
加蓮「ふぅん……」
加蓮「……あははっ」
藍子「?」
加蓮「んーん。実はさっきちょっとムカつくことがあって、注文しないで別のこと考えてた藍子にもほんのちょっとだけムカついたんだけど、なんか、今の藍子を見てたらどうでもよくなっちゃったっ」
藍子「……??」
加蓮「ね、なんかテキトーに一品物でも頼もうよ。卵焼きとかミニサラダとか、その辺の」
藍子「じゃあ……すみませ~んっ。ミニサラダを2人分、お願いしますっ」
加蓮「お願いねー。……ふうっ」
加蓮「……、」ジー
藍子「???」
加蓮「……」ジー
藍子「……じ~?」
加蓮「あ、こらっ。真剣な顔で見つめ直してくんなっ。私がにらめっこ弱いって知ってるでしょ?」
藍子「知っていますけれど……じゃあ、私はどうしたらいいでしょうか?」
加蓮「どっか別の方向でも見てなさい。で、そのまま私に見つめられてなさい」
藍子「言っていることがめちゃくちゃです……」
加蓮「うん。自分でも今変なこと言ってるなって気付いた」
加蓮「はー……」ベチョ
藍子「……Pさんと、喧嘩でもしてしまったんですか?」
加蓮「聞く?」
藍子「加蓮ちゃんがお話したいのなら」
加蓮「んー」
藍子「……じゃあ、お話してくれないのなら、テーブルにべちょってなっちゃった加蓮ちゃんのことをじっくり見つめることにします。じ~」
加蓮「それ話せって言ってるようなものじゃんかー」
藍子「にらめっこが苦手なら、違う方向を見ていてもいいですよ?」
加蓮「それ私がさっき言ったことじゃんか!」
藍子「はい。加蓮ちゃんの言ったことです♪」
加蓮「何それー。めちゃくちゃなことを言うなー」
藍子「だから、加蓮ちゃんの言ったことなんですよ?」
加蓮「そだった」ベチョ
加蓮「ま、あれ。ただのお節介」
藍子「ただのおせっかい……」
加蓮「しかも面倒くさいヤツ」
藍子「あらら……」
加蓮「スケジュール埋まってるから余裕作った方がいいか、だって」
藍子「加蓮ちゃんのことが、心配だから?」
加蓮「それならここまで怒ってないわよ。オフの日に羽根を伸ばしたり、どこか出かけた時間を作った方がいいか? とか言われた」
藍子「あ~」
加蓮「まださ。アイドルのことばかりじゃなくてたまには休んだ方がいい、たまには外出して色んな物を見るのもいい……って、そーいうのは……いつ頃だろ、あれ。アイドルとして行き詰まってた時に言われたことがあって」
藍子「ふんふん」
加蓮「それなら……それも余計だけど、まだ言いたいことは分かるの」
加蓮「Pさん、私に確認するみたいに言うんだよ。時間を作った方がいいか? って」
藍子「それは、加蓮ちゃんが最近Pさんと一緒にスケジュールを作っているからなんじゃ……?」
加蓮「知ってる。知ってても、すっっっごいウザかった。そもそも、私はオフが欲しかったら欲しいって言うし、キツイかもって思ったら休むようにしてるわよ!」
藍子「…………」
加蓮「ほら! 藍子までそういう顔をするっ」
藍子「ご、ごめんなさい……。その……」
加蓮「……なんて。昔から無茶しっぱなしだったのは私なんだし、信じてもらえないのも分かるんだけどさー」
加蓮「分かってても、ああいうこと言われるのは……なんだろ。ウザいとかじゃなくて、なんか……」
加蓮「分かんないけど、やだ」
藍子「……」
加蓮「はぁ」ベチョ
藍子「……ごめんね、加蓮ちゃん」
加蓮「いーよいーよ。加蓮ちゃんを元気づけたいのなら別の言葉にしてー」
藍子「それなら――」
藍子「……、」
藍子「……も、もしかしたらPさんは、加蓮ちゃんとお出かけがしたいから、わざとそんな言い方をしたんじゃ、ないかなぁ~……?」
加蓮「…………は?」
藍子「な、ないかなぁ~……」
加蓮「…………………………………………」
藍子「……本当にごめんなさい……」
加蓮「ごめんって言うか……え? いや、……えぇ……?」
藍子「べ……別の言葉にしてって言ったの、加蓮ちゃんですもん!」
加蓮「いやなんで逆ギレしてんの!? 今のすんごく気持ち悪かったんだけど!? Pさんに何言われたか一瞬で全部吹っ飛んだよ!」
藍子「それならオッケーじゃないですかっ」
加蓮「どこがよ! イライラが消えたら今度は混乱がやってきたわよ! しかも今目の前にいる相手に!」
藍子「私の言っていることの、どこがおかしいんですか!」
加蓮「おかしいって、いや何がおかしいかすら分かってないのアンタ!?」
藍子「……た、大切なのは、おかしいかおかしくないかじゃないですから」
加蓮「どっちかって言うとアンタ自身がおかしくなってることを問題にしてるつもりなんだけどね!」
藍子「加蓮ちゃんが、雨も降っていないのに落ち込んでるからっ」
加蓮「ぐ……。だ、だからってさ!」
藍子「む~っ」
加蓮「むーっ」
……。
…………。
藍子「すみませんでした……」
加蓮「うん、ごめんね店員さん。うるさかったよね、私たち……。しかも意味不明なこと叫んでたしね……」
藍子「……サラダ、食べましょうか」
加蓮「いただきまーす」
藍子「いただきます……」
加蓮「……」モグモグ
藍子「……」モグ
藍子「Pさんとのことは……いいんですよね? 加蓮ちゃん、またPさんに厳しい言葉を言って、Pさんが膝から崩れ落ちたってことはありませんよね?」
加蓮「たぶん大丈夫……。Pさんには直接言ってないから」
藍子「う~ん……。それはそれでよくないような」
加蓮「何? 今度はPさんくさーいとか言えばいいの?」
藍子「そういうことではなくてっ。……あの、さすがにやめてあげてくださいね?」
加蓮「しないしない」
藍子「加蓮ちゃんが思ったこと、不満を抱いたことは、ちゃんと言った方がいいってことですよ」
加蓮「あぁ、そういうことか。……それもそうだよね。じゃないと――」
藍子「Pさんにとっては、きっと加蓮ちゃんを思っての言葉でしょうから……また、言われちゃうかも」
加蓮「うん。今度ちゃんと言う。私だって、私のことは大事にしてるよ、昔みたいに無茶ばっかりしてる訳じゃないよ……って」
藍子「私も、加蓮ちゃんの言う通りですって証人になりますね」
加蓮「お願いー」
藍子「~♪」モグ
加蓮「……って、何当たり前のように話に混ざる気になってんの」
藍子「ふぇ?」
加蓮「ああ、いいよ。食べ終わった後でいいよ。……っていうか食べ終わった後でも続けなくていいよ。私だけじゃまた喧嘩になるかもしれないし……」
藍子「……、」ゴクン
藍子「加蓮ちゃんっ」
加蓮「?」
藍子「はい。あ~んっ」
加蓮「……え、急に何?」
藍子「さっきから加蓮ちゃん、落ち込んだ顔しかしていないから。悪い気分の時って、何を考えても、後ろ向きの考えになりがちになっちゃうって……」
藍子「だから、加蓮ちゃん。これを食べて、元気になってくださいっ」
加蓮「今まさに食べてる最中なんだけどね……。まぁいっか。あーん」モグ
藍子「~~♪」
加蓮「……もうっ。食べさせてもらった私より、藍子の方が楽しそうにするのってどうなのよ」
藍子「くすっ♪」
加蓮「あははっ」
……。
…………。
「「ごちそうさまでした。」」
加蓮「雨、降ってきたみたい」
藍子「傘のおひろめは、今日になるみたいですね。ちょっぴり残念っ」
加蓮「お披露目できるのに残念なんて変なのー」
藍子「加蓮ちゃんによると、おひろめが次の機会になったら、それを理由にできるみたいですからっ」
加蓮「今さら理由も建前も作らないわよ、藍子の前で」
藍子「あれ? 雨が降っているのに、太陽の光が……」
加蓮「天気雨? わ、珍しー……」
藍子「ね、加蓮ちゃん。ちょっと、表に出て見てみませんか?」
加蓮「今動くのはちょっとダルいけど……ううん。そうしちゃおっか」
藍子「そうしちゃいましょう♪」
加蓮「店員さんにちょっと外に出るって言ってくる。藍子は先に行ってて?」
藍子「え~。私も一緒に、店員さんに行ってきますって言いたいです。あっ。天気雨が降っていますよって教えてあげるのもいいかも! 今はあまりお客さんもいないみたいですから、店員さんも少しだけお休みして外に――」
加蓮「伝え終わったよー。行ってらっしゃい、ってさ。ほら、行くよ?」
藍子「えっ、もう!? 加蓮ちゃん、待って……わ、靴ひもがほどけそうになってるっ」
――カフェの外――
加蓮「わぁ……!」
藍子「綺麗……!」
加蓮「小雨の向こうに太陽の光が見えて、雲がきらきら輝いていて……なんだか、幻想的」
藍子「あんなに黒い雲にも、あたたかく光がさしこむとちょっとだけ明るく見えるんですね……」
藍子「……そうだっ。加蓮ちゃん。写真、撮りましょう!」
加蓮「待ってましたっ」タタッ
藍子「え? 加蓮ちゃん、傘っ――」
加蓮「ちょっと濡れるくらい平気。それに、こっちの方が大人っぽく撮れるでしょ?」
藍子「……ふふ。なんだか今の加蓮ちゃん、子どもみたい♪」
加蓮「誰が子供よー!」
藍子「聞こえてたっ」
加蓮「この辺りがちょっとだけなだらかな傾斜になってるから、こっちからなら……うん。綺麗に撮ってくれそう。藍子ー! 撮ってー!」
藍子「私も、一緒に入っちゃ駄目ですか~!?」
加蓮「あとで一緒に撮ろうよー!」
藍子「分かりました~! 加蓮ちゃん、笑って!」
ぱしゃりっ。
加蓮「じゃ、次は藍子! 私が撮ってあげる」タタッ
藍子「一緒に撮るんじゃなかったんですか?」
加蓮「それは藍子の写真を撮った後で。ふふっ。藍子ちゃんだけが、加蓮ちゃんのワンショットを持ってるなんてズルいし?」
藍子「よくばりさんっ。分かりました、じゃあ――」テクテク
藍子「この辺りでいいですか~っ?」
加蓮「もうちょっと後ろー! ……そうそうその辺っ。その傘、ホントに可愛いねー!」
藍子「今度、加蓮ちゃんもおそろいにしますか? 色違いのものもありましたよ~」
加蓮「照れくさいしやめとく!」パシャ
藍子「もう撮ったの!? まだ、準備していなかったのにっ」
加蓮「ふふふー。ほら、一緒に撮ろ? 撮って……そうだね。店員さんにでも見せてあげよっか!」
藍子「わ、……もうっ。じゃあ、せ~のっ」
ぱしゃりっ。
【おしまい】
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