勇者「パーティーに回復役を加えたい」僧侶(29)「うう…」 (83)

勇者「俺もある程度回復魔法は扱えるが、これからの戦いで攻撃と回復を同時にこなすのは難しい」

戦士「攻撃なら俺がいるから心配すんなって!」

勇者「戦士一人に任せるわけにはいかない」

戦士「なんだよ!頼りにならないって言いたいのか!?」

勇者「そうじゃない。俺も戦士と協力して攻撃に専念したいんだ」

戦士「な、なるほどな」

魔法使い「ええ。私も勇者の言う通りだと思うわ」

勇者「というわけで回復役の僧侶を仲間に加えたいと思う」

戦士「ちぇ…3人で居心地良かったのになぁ」

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勇者「――という話なんだが」

酒場店主「回復役ねぇ…僧侶の登録はいるっちゃいるが…」

魔法使い「何かワケがありそうな言い方ね」

勇者「戦力になるなら構わない」

酒場店主「冒険歴は長いから腕は確かだと思うんだが…まぁいいや。直接話をしてみてくれ」

勇者「わかった。その人を呼んでくれないか」

酒場店主「呼ぶも何も、さっきからそこでめそめそ泣きながら酔い潰れてる彼女がそうだよ」

勇者「え」

僧侶「うう…」グス

僧侶「必死に教会で修行を積んできただけの人生だった…」

僧侶「周りのみんなは旅のパーティー同士で結婚……どこぞの王子に見初められて結婚……」

僧侶「私だけ婚期を逃し続け…気が付けば三十路もすぐそこ……」

僧侶「なんで…?どうして……?」

僧侶「ねえ!なんでなの!!ちょっとキミ教えてよ!!!」ガシッ

戦士「知らねえよ!お、おい勇者助けてくれ酔っ払いが絡んでくる!」

勇者「えぇ…」

酒場店主「なぁ…アンタもう何時間飲んでるんだ?ちょうど勇者様が話があるって言うから今日はこの辺にしといたらどうだ」

僧侶「勇者様が私に用?ヒック」

勇者「ああ。でもその前に、まずは戦士を離してやってくれないか」

戦士「く、くるしっ…」

僧侶「ん?ははーん、さてはそうか!結局キミたちもパーティー内恋愛か!!」

僧侶「はいはいごめんね!勇者様の大事な戦士ちゃん返してあげないとね!!お幸せにね!!!」パッ

戦士「はあ!?別に俺たちはそういう遊びで旅を――」

僧侶「みんなそうやって結局…いいんだいいんだ、うう…」ポロポロ

勇者(これは面倒くさい)

魔法使い「昼間から飲みすぎよ。はいお水でも飲んで」

僧侶「えっ…?そんなに優しくされたら泣いちゃう……」ゴクゴク

戦士「もう泣いてるだろうが…」

勇者「話がしたいと思ったんだが、この様子じゃ無理そうだな」

僧侶「まあまあ座りなよ。せっかく来たんだから一杯くらいお姉さんの相手しようよ」

勇者「俺は未成年だが」

僧侶「み゛っ!?え、まってまってキミいくつなの?」

勇者「17だ」

僧侶「干支一周してる!!!私と干支一周してりゅううううう!!!!」

僧侶「もしかして他の二人も…」

戦士「俺も17だぜ」

魔法使い「私は18歳」

僧侶「いや誰も飲めないじゃん!!無理だよそんなパーティー!!」

勇者「ただ俺は回復役が必要という話がしたくて」

僧侶「無理だよ…私には若すぎるよ……うう……うわぁぁぁん」

戦士「…おい勇者、仲間にするのは諦めたほうが」

勇者「うーむ…」

僧侶「売れ残り……売れ残り……めそめそ」

魔法使い「でも貴女、ずっと僧侶を続けてるんだから腕は確かなんじゃないの?」

僧侶「腕?はいはい、どーせ18歳のピチピチなお肌に比べたら私なんか……」

勇者「頼むから真面目に答えてくれ。俺は冒険の助けになる仲間を探している」

僧侶「……まぁ、何回か旅に出た事はあるけど」

戦士「それでも魔王城までは辿り着けなかったのか」

僧侶「ううん、そうじゃないの。みんな途中でそれぞれの幸せを見つけて旅をやめていった」

勇者「それであんたが一人ここに残ってるわけか」

僧侶「そうだよ!!その通りだよ悪い!?そんなの自分が一番わかってるもん!!うわぁぁぁぁああ」

戦士「おい勇者」

勇者(面倒くさい)

僧侶「もういい……もう今日は帰って寝る……ぐすっ」

酒場店主「――な?ほぼ毎日のようにウチで飲んでてさ、たまに来る客に絡んではあんな感じだから誰からも相手にされないんだ」

勇者「なるほどな。よくわかった」

酒場店主「それで、彼女を仲間に連れてくのかどうするんだ」

戦士「まあ悪い人じゃないにしても…いや、悪い人なのか…?とりあえず聖職者ではないだろ」

魔法使い「私はどっちでも」

勇者「……ちょっと考えさせてくれ」

酒場店主「そうか。まあ彼女ならここに来りゃ毎日でも会えるからな…焦らずゆっくり考えるといい」

勇者「とは言ってもな…どうしたものか」

戦士「俺は今まで通り3人旅で問題ないと思うんだけどな」

魔法使い「ねえ勇者」

勇者「なんだ?」

魔法使い「あの僧侶の人、どうしてわざわざ冒険者酒場で飲んでるんだろう」

魔法使い「他にも酒場なんてたくさんあるのにね。それこそ出会いだって他に探せばいくらでも」

勇者「確かにな…もしかしたら旅をしたい気持ちがまだ残ってるのかもしれない」

戦士「おいおい嘘だろ?俺にはとてもそうは見えなかったけどな…」

魔法使い「それに回復役が必要なのは事実じゃない?」

勇者「…明日もう一度、会いに行ってみるか」

戦士「えー……」

次の日

僧侶「はあ……」

僧侶「確かになぁ…私なんてずっと僧侶としての修行しかしてこなかったし」

僧侶「がむしゃらに頑張ってさ、若かったねぇ……」

僧侶「でもこうして歳を重ねて若い子たちが活躍するようになっちゃえば、用済みの私は他に何をしたらいいのかもわからない」

僧侶「売れ残りは売れ残りらしく、売れ残りの酒を一人飲むしかないんだよ……」グビビ

酒場店主「黙って聞いてりゃ失礼な奴だな」

僧侶「うう……うう……」ポロポロ

酒場店主「昨日勇者様に連れてってもらえりゃな」

僧侶「うるさいな!いいから黙って酒だけ持ってくるんだよ!!」

酒場店主「へいへいお客様」

カランカラン

店主「おや、お前さんは昨日の」

勇者「ああ。話の続きをしに来た」

僧侶「わっ出たな!酒も飲めないような勇者様は帰った帰った!!冷やかしお断りー!!」

店主「アンタ本当に失礼な奴だな」

勇者「酒も飲めなくて悪かったな。話し相手にもなれないなら本当に帰るけど」

僧侶「……座りなよ。ジュースならいいでしょ」

魔法使い「私オレンジジュースがいい」

僧侶「魔法使いちゃん……」ホロリ

戦士(なんでもいいから一緒に飲んでほしいだけだなこの人)

勇者「単刀直入に聞く。また旅に出たいと思う気持ち、僧侶にはあるのか?」

僧侶「……」

魔法使い「わざわざ冒険者酒場で毎日飲んでるくらいだから、そうなのかなって」

僧侶「それは、他にすることもないしここは昔からの付き合いでなんだかんだ落ち着くから…」

戦士「俺からも聞きたいことがある」

僧侶「…うん」

戦士「聖職者が昼間っから飲んだくれてていいの?」

僧侶「僧侶だってお酒くらい飲むよ!飲まなきゃやってられないよ!!それに毎朝ちゃんと早起きして神様にお祈りだってしてるもん!!」

戦士「エエッ早起きできるのか!それは偉いな!」

僧侶「絶対バカにしてる!?キミ17のくせに生意気だなあ!」

戦士「お前に言われたくねーわ!これだからオバサンは――」

魔法使い(意外と仲が良いのかも)

勇者「昨日も言ったかもしれないが、俺たちは回復役を探してる」

勇者「僧侶のその力は俺たちにとって必要なんだ。旅の経験だって俺たちより豊富だと思う」

戦士「……」

僧侶「…で、でも私なんてどうせ余りものだし……それにキミたちまだ若いんだから、若い子と旅したほうがいいって!」

勇者「関係ない。俺は魔王討伐のために旅をしている」

勇者「そのための助けになってほしい。それだけだ」

僧侶「わ、私は……」

店主「アンタいつも言ってたよな。このままじゃいけないのは自分が一番わかってるって」

僧侶「………」

僧侶「……わかりました」

僧侶「よ、よろしくお願いします。勇者様」

勇者「ああ。よろしく頼む、僧侶」

魔法使い「よろしくね」

戦士「俺はまだ仲間だって認めてねーからな!勘違いするなよな!」

僧侶「戦士ちゃんには勇者様がいるから関係ないじゃん!あ~あ若いっていいねえ!!爆発しろー!!」

戦士「だから俺たちはそういう目的で旅をしてるんじゃないって何度言ったら――」

魔法使い「まあまあ。ジュースでもいいんだったら私が一緒に付き合ってあげるから」

僧侶「魔法使いちゃん…私魔法使いちゃんと結婚する……」

魔法使い(ドリンクバーGET…)ニヤリ

勇者「さて、そうと決まればすぐにでも出発の準備を――」

僧侶「ご、ごめ…それはちょっとだめ……」

戦士「なんでだよ」

僧侶「なんでって、見ればわかるでしょ…」

僧侶「飲みすぎて気持ち悪い……頭も痛い……」

勇者「……なら明日は」

僧侶「明日は二日酔いするから無理……あさって、あさってから本気出す」

勇者「……」

戦士「なあ勇者、自分の体調管理もできない人にパーティーの回復役が本当に務まるのか?」

勇者「俺も頭が痛くなってきた…」

とりあえずここまで

二日後

僧侶「お、お待たせしました…!勇者様」タッタッ

勇者「遅いぞ。こうしている間にも魔王は人類への侵略を――え、誰?」

僧侶「え、誰?って!私ですよ私、僧侶!旅に連れてってくれるって話だったじゃないですか!」

魔法使い「僧服だったから分からなかったわ。まるで本当に僧侶みたいね」

僧侶「いや本当に僧侶なんですけどぉ!?やー…昔はもっとゆったり着れたはずなんですけどね…。変な所がないか不安です」

戦士「それになんだよその喋り方」

僧侶「あ、あれ?僧侶ってこんな感じで話しませんでしたっけ?あまりにも久しぶりすぎて勝手を忘れちゃって…」

勇者「回復魔法まで忘れてないだろうな」

僧侶「さすがにそれは大丈夫です!」

僧侶「ともあれお待たせしてしまってすみませんでした。さあ、魔王討伐の旅に出発しましょう勇者様!」

勇者「……」

戦士「……」

僧侶「あ、あれ…?」

戦士「いやあのさ、無理しなくていいよ」

僧侶「なっ…む、無理って何がですか」

勇者「ああ。別に普段通り話してくれて構わない」

僧侶「勇者様まで!?だってこういうのは形から入らないと!ねえ、魔法使いちゃんもそう思うよね?」

魔法使い「そうね。年上がぶりっ子なのはちょっと痛いわ」

僧侶「ねえーー!!!」ブワッ

僧侶「ほらほら始まった始まった……だから若い子を連れてけばいいってあれほど――」ブツブツ

戦士「そういう問題か?お前の第一印象がただの酔っ払いだったからだろ」

僧侶「昨日はちゃんとお酒だって我慢してさ、旅立つ気満々で来たのにこの仕打ちでさ…」

僧侶「やっぱり私の仲間なんてお酒だけなんだ……」シクシク

勇者「とはいえ、普段の僧侶が人格者だってことは理解できた」

僧侶「ゆ、勇者様…」

勇者「それに身なりからも相応の実力を感じる。仲間に連れてきて良かったと俺は思ってる」

僧侶「トゥンク……」

魔法使い「ちょろすぎない?」

僧侶「婚期が迫ってるからね、焦りがちだよね」

魔法使い「そこまで聞いてないわ」

僧侶「それで、勇者様の旅はどれくらい進んでるの?」

勇者「そうだな。この前までは魔王の情報を集めに西の方面へ旅を続けてたんだが、結局居場所すら手掛かりは掴めなかった」

戦士「ふりだしに戻っちゃったんだよなぁ」

僧侶「え?魔王なら北の大地に根城を構えて――」

戦士「何ッ!?お前、魔王の居場所を知ってるのか!」

勇者「どういうことだ?」

僧侶「ああえーと、そういう噂を聞いたことがあるよって!ほら…酒場っていろいろな話が耳に入るでしょ?」

僧侶「と、とにかく北を目指してみない?途中に私の知り合いがいる村もあるからさ」

勇者「ちょうど行く当てを探してる段階だったしそうするか。情報ありがとう」

魔法使い「…貴女、何か知ってるわね?」

僧侶「い、いや~あはは…私はただの回復役ですから……」

僧侶「それで、勇者様の旅はどれくらい進んでるの?」

勇者「そうだな。この前までは魔王の情報を集めに西の方面へ旅を続けてたんだが、結局居場所すら手掛かりは掴めなかった」

戦士「ふりだしに戻っちゃったんだよなぁ」

僧侶「え?魔王なら北の大地に根城を構えて――」

戦士「何ッ!?お前、魔王の居場所を知ってるのか!」

勇者「どういうことだ?」

僧侶「ああえーと、そういう噂を聞いたことがあるよって!ほら…酒場っていろいろな話が耳に入るでしょ?」

僧侶「と、とにかく北を目指してみない?途中に私の知り合いがいる村もあるからさ」

勇者「ちょうど行く当てを探してる段階だったしそうするか。情報ありがとう」

魔法使い「…貴女、何か知ってるわね?」

僧侶「い、いや~あはは…私はただの回復役ですから……」

道中

僧侶「この洞窟を抜けた先が村だよ」

戦士「しかしあれだな、さすが冒険慣れしてるだけあって道もスラスラだったな。案内してくれて助かったぜ」

僧侶「ふふ、ちょっとは見直した?」

戦士「まあ…勇者もお前の戦力には期待してるって話だしなぁ…」

僧侶「戦士ちゃんは本当に勇者様にゾッコンだねえ。お姉さんが恋の道案内もしてあげようか?」

戦士「だからあのなぁ……そもそもお前、婚期がどうこう言って自分の恋の悩みも解決できてないじゃん」

僧侶「ぐはっ!!?」

魔法使い「勇者、大変!僧侶がやられたわ!」

勇者「ほっとけ」

洞窟内

勇者「あまり広くはなさそうに見えるが、俺たちにとっては初めて通る洞窟だ。油断するなよ」

戦士「わかってるって!勇者もああ見えて案外心配症だよな――」ズサ

僧侶「戦士ちゃん!そっちは落とし穴が」ガシッ

戦士「うわっと!?…わりい、助かった」

~~~~~

魔物「グギャアアアアア」

勇者「しまった、新種の魔物か!まずは俺が先に剣で――」

僧侶「あ、そいつは氷魔法が弱点!魔法使いちゃんお願い!」

魔法使い「うん、分かったわ」

勇者「……」

魔法使い「出口に着いたみたいね」

戦士「ま、俺たちにかかればこんな小っぽけな洞窟たいしたことなかったな!」

勇者「いや……」チラ

僧侶「?」

戦士「おかげで全然回復の必要もないくらいだしなあ!僧侶さんよォ!」

僧侶「ホントだよ…このまま出番がないとキミたちにただの酔っ払いだと思われたまんまだよ……」

魔法使い「私はそうでもないと思うけどなぁ。ね、勇者」コソコソ

勇者「…ああ。さて、この先には村があるって話だったな」

僧侶(あの二人、耳打ちしてる…?てっきり勇×戦だと思ってて勇×魔の可能性はあんまり考えてなかったけど普通にアリなのか……)

戦士「おい、聞いてるのか。この先には村があるんだよな?」

僧侶「へっ?ああうん!さっきも言ったけど私の知り合いもいるからさ、今日はそこで休もうよ」

ゆっくり続きます
途中連投スマン

僧侶「はい!というわけで村に到着だよ~お疲れさま」

勇者「まずは宿に向かおうか。悪いが僧侶、案内してくれ」

僧侶「うん、宿屋はこっちのほうに――わっ!?」ドンッ

村人青年「いてっ」ヨロ

戦士「おいおい僧侶、前見て歩けって!」

僧侶「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

村人青年「いやゴメン、オレもよく見てなかったから……僧侶?」

僧侶「…ん?キミは……」

村人青年「あ……!!ちょ、長老~~!!」ダッ

魔法使い「走って行っちゃったね」

戦士「なんだ、お前の知り合いか?」

僧侶「う~ん…知り合いって言ったけど、みんな家族に近いかな?」

僧侶「私、この村で長く暮らしてたんだ」

勇者「なら積もる話もあるんじゃないか。さっき彼が長老と言っていたな、俺たちも会っていいか?」

僧侶「もちろん。きっと長老も喜ぶと思うよ」

魔法使い「でもそれなら、貴女はわざわざ宿に泊まるより家に帰ったほうがいいんじゃない?」

僧侶「ううん。私も一緒に泊まるよ」

戦士「なんでだよ…親に年取った顔見せたくないってか?」ハハッ

僧侶「残念だけど、そうじゃないんだなぁ」

勇者「!おい戦士、早く宿を取って挨拶に行こう」

戦士「わ、ちょ…引っ張んなって!」

魔法使い「……変なこと言っちゃって、ごめんね」

僧侶「えっ?……ふふ、魔法使いちゃんは鋭いね。気にしないから大丈夫だよ」

長老「ふぉふぉふぉ、これはこれは勇者どの。ようこそ遠いところこの村へお越し下さった」

勇者「初めまして。僧侶には旅の仲間として世話になってるから挨拶だけでもと」

長老「そうかそうか…そして僧侶、久しぶりに戻ったのう。元気そうで何よりじゃ」

僧侶「はい。おかげさまで」

長老「しかしまぁ、最後に会うたのは15年…いや20年前じゃったか?ずいぶんと老けたのう!!ふぉふぉふぉ!!」

僧侶「老けっ!?いやいやそんなに経ってないですから!10年前くらいですから!長老のがボケちゃってますからー!!」

長老「ふぉっふぉっ、そうカリカリするでない。こやつが僧侶の帰りを嬉しそうに知らせてくれたぞい」

村人青年「ちょっと長老!オレは別に嬉しくなんか」

僧侶「あれ~?キミ、大きくなったらお姉ちゃんと結婚するって言ってなかった~?」

村人青年「そんなの昔の話だ!誰がこんなおばさんなんかと!」

僧侶「お、おばっ!?」グサッ

長老「めでたいことに、こやつも今年で成人じゃ。それに結婚も決まっておる」

僧侶「け、結婚っっ!?!?」グサグサッ

村人青年「いちいちそんなこと言わなくてもいいよ長老……まあ、そういうことだから」

魔法使い「ねえねえ、誰と結婚するの?」

村人青年「孤児院で一緒だった幼馴染と…この間、プロポーズしたばかりなんだ」

僧侶「プ、プロポーズ………」ズーン

勇者(孤児院?)

長老「その様子じゃと僧侶には耳の痛い話じゃったかの!?ふぉふぉふぉ!!」

魔法使い「長老、意外と鬼畜」

僧侶「おめでとう…おめでとう…」トボトボ

戦士「お、おいどこ行くんだ?挨拶はもういいのか?」

僧侶「酒……飲まずにはいられない……」

戦士「この感じだとまた明日は旅立てなくなるぞ、いいのか勇者?」

勇者「…俺には止められそうにない」

勇者「ところで長老、少し聞きたいことが」

長老「なんだね?わしが分かる話ならなんでもしてやるぞい」

勇者「彼はさっき孤児院と言っていたが、それは一体」

村人青年「なんだい勇者様、知らずにここまで来たのか。ここはみなしごで集まって暮らしてる村なんだ」

長老「いかにも。この村の教会は孤児院としての役割も担っていてな、両親を失った子らと共に一つ屋根の下暮らしておるのじゃ」

勇者「つまり、僧侶も」

長老「そうじゃ。そなたらの旅に同行しておる僧侶もこの村の孤児院で育った」

戦士「えっ……それじゃあ僧侶の親御さんは」

村人青年「ここにいるオレら孤児のほとんどは魔族の襲撃で両親を失った。それはあの人だって同じはずだよ」

戦士「……お、俺……」

魔法使い「気にしてないとは言ってたけれど」

勇者「……」

村人青年「……お姉ちゃんは強かった」

村人青年「いつも笑って話しかけてくれて、不安で不安で仕方なかったオレらもお姉ちゃんと一緒にいれば安心だって思ってた」

長老「しかし彼女は村を出て行くと言ったんじゃ。それこそ15年前じゃったかのう…」

長老「僧侶になって教会に恩返しがしたい、と彼女は話しておったがその実はわしにも分からん」

村人青年「それから僧侶の修行の合間にもちょくちょく顔を出してくれてたけど、魔王を倒す旅に出るって言ってからは今日まで帰ってこなかったんだ」

長老「そうじゃな。こやつの言う通り旅に出たのが、だいたい10年ほど前じゃった」

魔法使い「でも貴方、さっきこんなおばさんなんかって」

村人青年「……照れ隠しだよ。オレもみんなもお姉ちゃんのことが好きに決まってる」

村人青年「もう会えないと思って諦めてたけど、本当は結婚式にも来てほしいって幼馴染のあいつと話してたくらい」

魔法使い「それは難しいかもしれないわね…主にメンタル的な意味で」

勇者「とにかく、俺たちも魔王討伐の決意を更に固めないといけない」

魔法使い「ええ。僧侶も、心のどこかにきっと同じ思いがあるはず」

戦士「俺、酷いこと言っちまったかな……」

長老「ふぉっふぉっ!そう気に病むでない。彼女はそなたらが思う以上に強い娘じゃよ」

村人青年「オレらも勇者様の旅を応援してる。オレが言うのも変だけど、お姉ちゃんのことよろしく」

勇者「ありがとう。任せてくれ」

長老「ふぉっふぉっ。話の流れじゃと明日の朝にはもう旅立ってしまわれるのかの?」

戦士「いや、それは無理だな」

長老「なんと!そんなにこの村が気に入ったと申すか」

魔法使い「明日は僧侶が二日酔いで動けないからよ」

村人青年「えぇ……」

出発の朝

僧侶「み、みんなごめんねー…また飲みすぎて出発遅らせちゃって……」

勇者「…ああ。構わない」

戦士「……」

魔法使い「体調はよくなったかしら?」

僧侶「う、うん…?あれ怒られる覚悟だったんだけどどうしちゃったのかな?むしろ雰囲気重くなってません?」

勇者「……」

魔法使い「長老と青年さんから、貴女の話を少し聞いたわ」

戦士「…あの!お、俺……」

僧侶「あ~そういうこと!いいのいいの、過去の話なんだから気にしないでよ」

戦士「……ごめん」

僧侶「それにキミたちと違って私は年長者だから?精神年齢も高いっていうか?落ち着いた大人の女性っていうか?ん??」

戦士「……」

僧侶「いじってもらえないのもつらい」グスン

勇者「長老、この3日間世話になった。ありがとう」

長老「よいよい。旅に疲れたらまたいつでも帰ってくるとよいわ」

勇者「魔王を倒したら必ず戻ってくる」

魔法使い「ええ。青年さんが幸せになった姿を私も見たいわ」

僧侶「……」

長老「ほれ、そなたからも」

村人青年「勇者様と仲間の皆さん、どうかお気を付けて」

魔法使い「それだけ?」ニヤッ

村人青年「…もう分かったよ!お姉ちゃんも!魔王を倒した後でもいいからオレらに会いに来てくれよな!」

僧侶「お、お姉ちゃん!?」キュン

村人青年「孤児院のみんなは、今でもお姉ちゃんのこと好きだから」

僧侶「そ、そんなぁ……///でへへ……私やっぱりここで暮らそうかな」

魔法使い「ざんねん!僧侶の冒険はこれで終わってしまった!」

僧侶「魔法使いちゃんって時々ツッコミきついよね」

今度こそ一旦切り

やがて旅は進み

戦士「本当にここまで辿り着いちまうとはな…」

勇者「いかにも魔王が好きそうな風貌の城だ。酒場で聞いた噂とやらは本当だったんだな」

僧侶「え?ま、まあね…」

魔法使い「心なしか道中のモンスターも少なかった気がするわ」

戦士「よし、俺はもう心の準備も済ませたぜ。とっとと中に入って魔王の奴をぶちのめしてやろうぜ!!」

僧侶「……戦士ちゃん、正面の入口は行き止まりのダミーだよ。奥に繋がる裏門はこっち」

戦士「お、そうなのか…?というかお前、よくそんなとこまで知ってるな」

魔法使い「まるで、以前にも来た事があるみたいね」

僧侶「……」

城内部

戦士「おいおい、どうなってんだこりゃあ!?モンスターが一匹も出てきやしねえ!」

勇者「ああ…もぬけの殻、と言った状態に近いな」

魔法使い「もう誰かに攻略された後だったりして」

戦士「そんな感じだよなぁ。なあ僧侶、お前もそう思わないか?」

僧侶「へっ!?あ~……そう、かもね…」

戦士「?なんだよ、いつもはうるさいのに今日は煮え切らないな」

勇者「とにかく、ここまで来たからには俺たちが目指す場所は一つしかない。先を急ごう」

魔法使い「ええ、そうね」

勇者「…事情は聞かない。魔王の間まで案内できるな?僧侶」

僧侶「……うん」

勇者「…着いた」

戦士「この扉の向こうに魔王が……さすがに俺も、胸騒ぎがしてきたぜ」

魔法使い「本当にいるのかな?」

僧侶「……」

勇者「開ければ答えはすぐに分かる。いいか、くれぐれも準備だけは怠るなよ」

戦士「おう!」ドキドキ

魔法使い「いつでもいいわ」

僧侶「うん。大丈夫」

勇者「よし、行くぞ」

キィィィ‥‥

???「…おや、久々の来客ですか」

戦士「お、お前が魔王か!今日こそここで息の根を止めて、世界に平和を取り戻してやるからな!!」

???「ずいぶんと血の気の多い方ですねぇ…まぁまぁ、まずは初めましてのご挨拶でも――と思いましたが」

???「どうやら、その必要がない方もいるみたいで」

戦士「な、なに……?」

僧侶「……」

???「あなたもずいぶんと懲りないようですねぇ、とはいえ数年ぶりですか。僧侶の方」

魔法使い「やっぱりね…」

勇者「……」

???「おっと、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は魔王様の側近……いいえ、正確には側近だった者です」

側近「そしてここは魔王城"だった"場所。私が何を言いたいのか、もうお分かりですね?」

勇者「……魔王はここにはいないというわけか」

側近「その通り。話が早くて助かりますねぇ」

戦士「あーもうなんなんだよ!全然理解できねえよ!!」

魔法使い「戦士、落ち着いて」

戦士「これが落ち着いていられるかって!そもそもなんでこいつと僧侶は知り合いなんだよ!?」

側近「その様子だと、仲間には話せなかったんですか」

側近「歳だけは取ったように見えますが…そうやっていつまでも逃げ続けるのは変わらないんですねぇ……ククッ……」

僧侶「……」

側近「それで、どうするんですか?ここで私を倒そうと言うのですか?」

戦士「当たり前だ!!お前が魔王にとって最大の味方だった事実があるなら、俺たちにとっては最大の敵に決まってるだろ!!」

側近「それで世界に平和が戻るとでも?」

戦士「はぁ!?」

勇者「戦士、気持ちはよく分かる。俺も冷静でいられるのがやっとではあるが、もう少し話を聞こう」

戦士「チッ……勇者がそう言うなら」

側近「いやはや、命拾いしましたか……話の分かる勇者でホッとしましたよ」

魔法使い「……むかつく奴」

勇者「…今の状況を、説明してくれ」

側近「いいでしょう。分かりました」

側近「長話をすると血の気の多い方に斬られてしまいそうですから、簡単に」

側近「今から10年ほど前、魔王様はある勇者パーティーによって瀕死にまで追い込まれました」

側近「その時、魔王様は残された僅かな魔翌力を使って別世界へのゲートを開いたのです」

魔法使い「命からがら逃げたってわけね…」

側近「…まぁ、そうなりますね。そして私とこの場所だけが取り残された、ただそれだけの話です」

側近「私は魔王様の側近と言っても雑務を任されていただけの身ですから、戦闘能力もなければ軍の統率能力もありません」

側近「もちろん世界の征服になど興味はありませんし、王を失った魔物群はそれぞれの生活をしているに過ぎません。まぁ…中には人間を襲う者もいますが」

勇者「それで城の周りにはモンスターの気配が無かったのか…」

側近「賢い魔物ほど、人間を襲うリスクを理解していますからねぇ」

戦士「待ってくれよ、ならお前と僧侶の関係はどういうことなんだ?それだけじゃ何の説明にもなってないだろ」

側近「はぁ…あなたは頭が悪いですね。ここまで話してもまだ分かりませんか」

魔法使い「その勇者パーティーの一人が、僧侶だったのね」

側近「ほら、理解できていないのはあなただけみたいですが?」

戦士「なっ……じゃあその時の勇者は!?どうしてお前だけが一人残って!?」

僧侶「……」

戦士「おい、僧侶!!黙ってちゃ何も――」

勇者「…よせ。戦士」

側近「さて…話は終わりました。これ以上は無駄な時間だと思っていただければ幸いです」

勇者「……」

側近「旅の目的を失った勇者がこの城を後にする姿はこの目で何度も見てきました。なぁに、あなたもその内の一人になるだけですよ」

側近「これでも、あなたを悪く思うつもりはありませんよ?目的を失ったという点では、私も同じですから。ククッ……さあ、それが分かったら早く帰って下さい」

勇者「……退こう」

魔法使い「…そうね」

戦士「クソッ……何なんだよ…!どうすりゃいいんだよ…!!」

勇者「それと、僧侶」

僧侶「……」

勇者「…一度、話がしたい」

僧侶「……そうだね、わかった」

つづく

>>57
誤字ってた
×魔翌余力→○魔翌力

ポンコツかな?
×魔翌余力→○魔翌力

???
まあいいや、失礼しました

メール欄に「saga」を入れると「魔力」になるよ
入れないと「魔翌力」になる

とある町の酒場

勇者「今日は、魔王城で起きた出来事について状況の整理がしたい」

勇者「そして、心の整理もだ。それはきっと俺だけじゃないと思う」

戦士「そりゃそうだな」

魔法使い「ええ、流石に私も…」

勇者「そのためには僧侶。これまでの冒険で何があったのか…知っている事を俺たちにも教えてほしい」

僧侶「うん。今日はそのつもりで来たよ」

僧侶「で、でもどうして酒場なの?ちゃんと話し合わなきゃいけないと思うし、それなら静かな宿屋とかの方が――」

勇者「こっちの方が僧侶は話しやすいんじゃないか?それに話の中で思い出すのが辛い出来事もあるかもしれない。もし言葉に詰まったら、酒を飲めばいい」

僧侶「勇者様…そんな気遣いなんて…」

勇者「――って、戦士が言ったんだ」

戦士「ちょっ…おい勇者!!」

僧侶「せ、戦士ちゃん……」ウルッ

戦士「だぁ~もう話す前から泣くなって!ただ、なんだその…飲まなきゃやってられねえってのが、ちょっと分かったような気がしただけだよ」

魔法使い「……」ニヤニヤ

戦士「お前もニヤニヤするなっての!!さっさと本題に入ろうぜめんどくせえ!!」

僧侶「そ、それでまず何から話せばいいかな…」

勇者「そうだな。まずは、あの魔王城に行ったのは何回目だったんだ?」

戦士「俺もそれが真っ先に知りたいぜ。気になってメシも喉を通りゃしねえ」バクバク

僧侶「三回目だったよ。一回目は、あの側近が言っていた通り魔王と戦った時のパーティーの一人が私だった」

僧侶「あと一歩で倒せるって所まで追い詰めたんだけど、結果的には逃げられちゃった」

戦士「まあ正直、そんな実力者だったとは思わなかったぜ」

勇者「僧侶が仲間になってからの旅がいかに順調だったかを思い返せば、納得もいく」

魔法使い「となると次に気になるのは、その時の勇者、よね……」

僧侶「…その時の勇者様は、魔王を追って別世界に行った」

僧侶「私以外の、残りのパーティーの二人も一緒にね」

戦士「…ならどうして、お前は魔王を追わなかったんだ」

僧侶「……勇気が無かったから、かな」

勇者「……」

僧侶「もしかしたら孤児院の村で長老から聞いたかもしれないけど、私が旅を始めたのは元々教会に恩返しするためだったから。別世界に行ったら、もう教会には戻れないかもしれない」

僧侶「…まあ、それも言い訳なんだけどね。あの時の私はちょうど今のキミたちと同じくらいの年齢でさ、正直……怖かったんだ」

戦士「…なるほどな。おい、もう一杯飲めよ」

僧侶「えっ?ふふっ…どうしたの、今日は優しいね」

戦士「うるせえな!なんとなくそんな気がしたんだよ!!」

勇者「この前村に寄った時は、しばらくぶりと言っていたな。一回目の旅が終わっても村には戻らなかったのか」

僧侶「うん、だって魔王に逃げられちゃいました~!とは言えなかったから」

僧侶「同じ理由で、王様にも会いに行ってないんだ」

魔法使い「だから、王様も冒険者も皆、魔王がこの世界にいないという事実を知らない……そういう訳ね」

僧侶「…うん」

戦士「でもさ、それってちょっと無責任じゃないか?魔王がいない事を自分だけ知っててそれを黙って旅してるなんてよ」

戦士「そんな事されたら、俺じゃなくたって仲間は納得いかねえだろ」

僧侶「…戦士ちゃんの言う通りだよね、だから私は責められた。それが二回目の旅」

僧侶「二回目の旅は今のキミたちと同じで、魔王城で側近に会うまでこの事を話さなかった」

僧侶「みんなからすごく怒られたよ。どうして話してくれなかったんだ、自分だけ知ってて騙したのか、って」

僧侶「結局それが原因でパーティーも解散しちゃった。だからみんなは旅をやめて今もどこかで暮らしてるんだと思う」

戦士「…まあ、僧侶には悪いが無理もない話だな」

僧侶「…うん」

勇者「俺からも一つ、気になる点がある」

勇者「僧侶が村に戻りづらいという話は分かった。だが…旅を続けている以上、王様には報告すべき事なんじゃないか?」

勇者「確かに…魔王に逃げられた事、そして別世界に行く勇気が無かった事、それを敢えて自ら王様に報告するのは俺でも嫌だと思う」

勇者「ただ、それはこの世界に残った僧侶にしか出来ない役目でもある。二回目の旅のように、不幸な思いをする冒険者を出さないようにするためでもあると思うが」

僧侶「そうだよね…本当はそうしなきゃいけないんだよね」

僧侶「でもね、魔王がこの世界にいないことをみんなが知ったら…きっと旅に出る人はいなくなる」

僧侶「そうしたら、私には行く場所も帰る場所もなくなっちゃうかもしれないって。そう思ったら言えなくてさ」

勇者「……」

僧侶「だから、一回目の旅が終わってからはずっと冒険者酒場にいるんだ。ただ居場所がほしいだけなのかもしれないし、心のどこかで旅に出なきゃいけない、魔王を倒しに行かなきゃいけないって思ってるのかもしれない」

僧侶「魔王がいないって知ってるのにね。私に勇気が無かったせいで、一緒に旅してくれるパーティーまで巻き込んで……私の問題なのにさ、最低だよね」

僧侶「そして、今回はキミたちを巻き込んでしまった」

僧侶「……本当に、ごめんなさい」

戦士「今更謝られても事実は変わらないしな。事情が分からないと納得できるモンもできねーが、それが分かれば細かい事は気にしないぜ」

魔法使い「私は何か事情があるとは気付いてたけどね、話してくれてスッキリしたし元々怒ってもいないわ」

僧侶「みんな……」

勇者「だな。それに俺は目的を失ったつもりもないし、これからも目的を果たすため旅を続ける」

僧侶「え?それって……」

勇者「魔王を倒すという目的に何ら変わりはない。だから俺は魔王を追う」 

勇者「付いてきてくれるか?戦士、魔法使い」

戦士「勇者ならそう言うと思ってたぜ!当たり前だ!」

魔法使い「ええ、勿論よ」

僧侶「……」

勇者「そして、僧侶は――」

僧侶「…私も行くよ」

勇者「ああ。その答えが聞けて安心した」

勇者「というより、嫌だと言われても僧侶には付いてきてもらうつもりだった。僧侶の実力には今までの旅で何度も助けられているし、まして魔王を倒すためには俺たちのパーティーにとって絶対に必要な存在だからな」

戦士「それにこのままじゃいけないって自分でも思ってるんだろ?酒場のオッサンにも言われてたもんな!今度こそ魔王を倒して旅を終わらせようぜ、俺たち四人でさ」

僧侶「みんな……ありがとう……」

魔法使い「そもそも僧侶は最初からそのつもりだったんじゃない?だからケジメを付けるために長年帰ってなかった村にも寄ったの、違う?」

僧侶「…まいったなぁ、魔法使いちゃんは本当に鋭いね」

戦士「なんだよ、最初からそのつもりだったなら尚更話してくれてもよかったんじゃないか?」

僧侶「…本当にごめんね。三回目の旅に出た時にさ」

僧侶「その時は今までと違ってみんなに話したんだよ。そうしたらみんな途中で旅をやめちゃってさ」

僧侶「前みたいに仲違いにはならなかったし、みんなそれぞれ幸せに過ごしてるみたいなんだけどね」

戦士「あ~…最初に会った時、パーティー内恋愛だのどこぞの王子がどうのこうのグチグチ言ってたのはその話か……」

魔法使い「だから途中で話したらまたパーティーが解散して旅が終わってしまうんじゃないか、そう思ったのね」

僧侶「…うん、そういうこと。本当は私も誰かに付いてきてほしかったのかもしれない、ずっと勇気が出ないまま今まで過ごしてきちゃったから」

僧侶「それ以降は、私もお酒が飲めるようになってますます酒場に入り浸るようになった」

僧侶「たまに酔った勢いで魔王と戦って逃げられた話をしてみたりもしたけど、酔っ払いの妄言だと思って誰も信じてくれなかった」

戦士「まあ…飲んだくれに突然そんな話されたって普通は信じないわな」

魔法使い「よくいるわよね、飲みながら昔の武勇伝を語り出す人」

僧侶「ヴッ……ま、まあそんな感じだったからさ、やがて誰からも相手にされなくなっちゃったんだよね」

僧侶「でね、そんな中で声をかけてくれたのがキミたちだったんだよ」

僧侶「冒険に誘われるのなんて本当に久しぶりだったし、それにキミたちすごくやる気があるみたいだったから、きっとこれが最後のチャンスなんだなって…そう思って…」

戦士「んで怖くなって言い出せなかったって話か。まあ、それは仕方ないかもしれないな」

魔法使い「珍しく戦士が話をちゃんと理解できてる」

戦士「そうか!?いや~褒められるとテンション上がるな!ハハッ!」

魔法使い「やっぱりダメみたい」

僧侶「でもみんな、本当にいいの…?」

勇者「何の話だ」

僧侶「向こうの世界に行ったら、もうこっちには帰ってこれないかもしれないんだよ」

勇者「関係ない。魔王を倒す旅に出た時点で、生きて帰れる保証だって無いんだ。そんな覚悟はとうに出来ている」

魔法使い「それは勇者だけじゃなくて、私たち皆同じよ」

僧侶「それに、もしかしたら魔王を追った当時の勇者様がもう倒しちゃってるかも……」

戦士「手柄を取られてちゃ困るけど、んなもん行ってみなきゃ分からないんだろ?なら行くしかねえじゃねーか!」

勇者「ああ、その通りだ。魔王を倒すという目的が達成できていない以上、その目的に向かって進む他道はない」

僧侶「……心強い仲間に出会えて、お姉さん嬉しいよ」

勇者「さて…話はまとまったな」

勇者「いよいよ俺たちの旅も大詰めだ。来るべき戦いに備えて、残された時間はしっかりと準備を整えよう。それでいいな?」

魔法使い「ええ、分かったわ」

戦士「賛成だぜ!」

勇者「今日は話してくれてありがとう。僧侶」

僧侶「い、いやそんな…むしろ私が謝らなきゃいけない方で……」

魔法使い「いいえ。こちらこそ、貴女の事が知れて嬉しかったわ」

戦士「もうそういう堅苦しいのはやめようぜ!なんか昔は色々あったかもしれないけど、今は俺たちで旅を続ける!そのためにまずは魔王を追う!はい終わり!」

勇者「そうだ。その話なんだが、魔王のいる別世界に行く方法を教えてくれないか?それによって出発の日取りを決めたい」

僧侶「え?知らないよ」

勇者「……は?」

僧侶「あの時は魔王が開いたゲートにみんな飛び込んでいったけど、もうとっくに閉じちゃってるし」

勇者「………」

つづく

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