邪神ちゃん「100日後に死ぬヘビ」 (190)

※注意 神保町哀歌ばりに長いです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1593865194

~1日目~



・花園家


邪神ちゃん「いやぁ~、今日と明日はゆりねが出掛けてるからゆっくり羽が伸ばせますの~♪」

メデューサ「邪神ちゃん、ダラけすぎ。お行儀悪いよ」

ミノス「別にゆりねちゃんが居る時だって好き放題やってるじゃんかよ」

邪神ちゃん「お前みたいな単細胞には分からんだろうがな、誰かと同居するってのは何かと気を遣うものなんだよ」

ミノス「なんだよぉ、同居ならあたしだってしてるぜ? ペルちゃんと」

邪神ちゃん「……二世、お前こいつと一緒に住んでて何も問題ねーんですの?」

ペルちゃん「えっ」

ペルちゃん「だ、大丈夫だよ? ミノスお姉ちゃん、私に体力が付くようにっていつも協力してくれるし……」

ミノス「だよなー♪」

ペルちゃん(時々その特訓がハード過ぎるのが難点だけど……)

邪神ちゃん「ふーん」

メデューサ「健康は大事だものね」


単眼ちゃん「ご歓談中にお邪魔いたします」ガチャ


邪神ちゃん「おお! 単眼ちゃんが来たという事は、また私のレベルが上がったんだな?」

単眼ちゃん「いえ。そうではなく、先日行われた魔界健康診断の結果をお持ちしたのです」

邪神ちゃん「魔界健康診断?」

ミノス「そういえば、このあいだ魔界の使者が来てあれこれ検査していったよな」

邪神ちゃん「ああ。そーいやそんな事ありましたの」

単眼ちゃん「はい。邪神ちゃん様、ミノス様、ペルセポネ二世様は人間界で活動しておられるので、検査係を派遣したのです」

単眼ちゃん「さて、それでは早速結果をお伝えします。まずは、ミノス様」

ミノス「おお」

単眼ちゃん「現状なんの問題もありません。きっちり健康管理されているようですし、理想的な状態といえます」

ミノス「はっはっは! それほどでも」

単眼ちゃん「ただし、己の体力を過信しすぎて思わぬケガなどしないよう、充分注意して生活してください」

ミノス「わかったよ。あんがとな」

単眼ちゃん「次に、ペルセポネ二世様」

ペルちゃん「う、うん……」

単眼ちゃん「やはり元々の体質がおありですので、内臓関係や骨密度などにいささかの問題はみられます」

ペルちゃん「そっかぁ。やっぱり……」シュン

単眼ちゃん「ですが、魔界におられた頃の健康状態と比較すれば、めざましい回復をとげています」

ペルちゃん「ほんと!?」パアアァァ

単眼ちゃん「きっと、こちらでの暮らしとミノス様とのトレーニングの成果でしょう」

単眼ちゃん「今の調子で規則正しい生活を続けていけば、完璧な健康体になるのも夢ではありません」

ペルちゃん「わーい♪ 陰で血ヘド吐きながら頑張った甲斐があったよ! ミノスお姉ちゃんありがとう!」

ミノス「いいっていいって」

ミノス「てか、血ヘド吐いてたんだ……知らなかったよ。ゴメン……」

邪神ちゃん「メデューサ、お前は受けてねーんですの? 健康診断」

メデューサ「私は魔界の方で受けてきたよ」

メデューサ「基本的に問題はないんだけど、健康の為にもう少し日光を浴びるようにしなさいって言われちゃった」

邪神ちゃん「お前もしょっちゅう人間界に来るけど、外歩くときは紙袋被らなきゃいけないもんなぁ」

メデューサ「うん。でも、なるべく邪神ちゃんと一緒に居たいから……///」

邪神ちゃん「おいおい、私たちの寿命はまだまだ長いんだぞ?」

邪神ちゃん「100年もして、ゆりねがくたばって魔界に帰った後でだって幾らでも一緒に居られるっしょ」

メデューサ「そうだけどぉ……」


単眼ちゃん「最後に、邪神ちゃん様」

邪神ちゃん「私は別にそんなもんの結果なんて興味ね~ですの」

単眼ちゃん「残り寿命100日です」

邪神ちゃん「は?」



死まであと99日

~2日目~



邪神ちゃん「───ぷはあっ!?」


メデューサ「あっ! 邪神ちゃん気が付いたの……? よかったぁ……」

邪神ちゃん「あ、あれ……? 私……なにして……?」キョロキョロ

メデューサ「びっくりしたよぉ。邪神ちゃん、健康診断の結果聞いた途端、また塩の柱になっちゃうんだもん……」

邪神ちゃん「健康診断の結果……」

メデューサ「それから丸一日固まったままだったんだよ?」

メデューサ「単眼ちゃんが不吉なこと言うものだから、私てっきり……うっ…ううっ……」ポロポロ

邪神ちゃん「………はっ!? そ、そうでしたの!」

邪神ちゃん「お、おい! 単眼ちゃんはどこに行ったんですの!?」

ミノス「とっくに爆発したよ」

邪神ちゃん「くっふぅ~…! 言うだけ言って勝手なヤツめぇ……!」

ペルちゃん「単眼ちゃん『は』爆死しても魔界でより上級な悪魔として再生できるんだよね──(遠い目)」

邪神ちゃん「な、なぁ……ちょっと意識が飛んでたから、前後の記憶が定かじゃないんだけどさ……」

邪神ちゃん「なんか……私の残り寿命が……その、100日とか、なんとか……聞いた気が……」

メデューサ「ええっと……」

邪神ちゃん「そ、そんなワケないよな! 私の聞き間違いか! あはははは……」

メデューサ&ミノス&ペル「……」

邪神ちゃん「嘘だろおい……マジ、なのかよ……?」

邪神ちゃん「ま、まぁアレだよな! きっと向こうの検査ミスとかそんなオチだよなっ!」

メデューサ「そ、そうだよ! きっと何かの間違いだよ!」

ミノス「邪神ちゃんが死んじまったら、この物語終わっちゃうって!」

ペルちゃん「邪神ちゃんは殺したって死にそうにないもんね!」

邪神ちゃん「こいつぅ~☆」

みんな「あはははは…… はは…… はははは……」

邪神ちゃん「──うっ!?」クラクラッ


…バタン!


メデューサ&ミノス&ペル「邪神ちゃん!?」

メデューサ「どうしたの邪神ちゃん! やっぱりどこか苦しいの!?」

邪神ちゃん「な、なんでもない……ちょっと眩暈がしただけですの……」ヨロヨロ

ミノス「おいおい、このタイミングで倒れたりしたらマジで心配するじゃんか」

邪神ちゃん「へへへ……悪ぃ悪ぃ……」

ペルちゃん「んもう! 驚かさないでよ。こっちの寿命が縮んじゃうってば!」

邪神ちゃん(寿命……)ドクン


邪神ちゃん「──うぷっ!?」


メデューサ「邪神ちゃん?」


邪神ちゃん「お……おげえええええええええええええっ……!!」ゲロロロロ


メデューサ「きゃあああああああああああっ!? 邪神ちゃあああああああああん!!」

邪神ちゃん「はぁ…はぁ……ぜぇ…はぁ……」

メデューサ「邪神ちゃん大丈夫!? 背中さすってあげるね……」サスサス

邪神ちゃん(な……なんだよこれ……!? かつてないほどに気分が悪い……)ゼーハー

ミノス「な、なぁペルちゃん……もしかしてこれ、相当ヤバイんじゃ……」

ペルちゃん「う、うん……私も身体弱いから分かるけど、かなりの重症だと思う……」

邪神ちゃん「──!?」

メデューサ「そんな! 縁起でもないこと言わないでよ二人とも!」

ミノス「いや、だってさ……」

邪神ちゃん「……い、いいんだメデューサ」ヨロヨロ

メデューサ「あっ! 無理に立ち上がっちゃダメだよ……」

邪神ちゃん「自分の身体のことは、自分が一番よく分かる……」

邪神ちゃん「こりゃあ、確かに100日後にポックリ逝っても不思議じゃねーですの」クラクラ

メデューサ「そ、そんな悲しいこと言わないで! お医者さんに診てもらおうよ!」

邪神ちゃん「ムダだ……こいつは現代の、それも人間界の医療じゃ手に負えるシロモノじゃなさそうですの……」

ペルちゃん「そ、それってつまり……」

ミノス「健康診断の結果が当たってるってことかよ……!」

邪神ちゃん「ま、そーいうこったな……」

メデューサ「そ、そんなワケないっ! 邪神ちゃんは絶対に死んだりなんかしないもんっ!」

邪神ちゃん「おいおい、私だって別に不死の存在ってワケじゃないんだ。いずれは死ぬ運命(さだめ)──」

邪神ちゃん「ただ、その時が皆よりちょっとばかし早く来たってだけの事ですの」ニコ

メデューサ「うっ…ううっ……ぐすっ……そんなのやだよぉ……! 邪神ちゃん……死なないでぇ……!」ポロポロ


邪神ちゃん「……おっと。それはそうと、もうこんな時間か」

邪神ちゃん「悪いけどお前ら、そろそろ帰ってくれ」


メデューサ「えっ?」

ミノス「お、おい! 友達が命の危機だってのにこのまま帰れるワケないだろ!?」

邪神ちゃん「いやぁ、明日にはゆりねが帰ってくるし、散らかした部屋を片付けとかないと殺されちまうからなぁ」

邪神ちゃん「──100日後を待たずに。なんつってww」ニヘラ

ペルちゃん「……やめてよ。全然笑えない」

メデューサ「お片付けなら私達も手伝うし、一緒に居ようよ」

邪神ちゃん「いいんだ……1人にしてくれ……」

メデューサ「そ、そんな事できないよ。ゆりねさんが戻ってくるまで皆で楽しく過ごそ。ねっ?」

ミノス「おっ、いいなそれ。あたし達も明日はちょうど配達のバイト休みだし」

ペルちゃん「徹夜でゲーム大会やろうよ♪」

邪神ちゃん「いいから! とっとと出てってくれ!!」

メデューサ「邪神ちゃん……」ウルウル

邪神ちゃん「あっ……」

邪神ちゃん「ど、怒鳴ったりして悪かったですの……」

メデューサ「ううん。私の方こそ勝手なこと言ってゴメン。それじゃ、帰るね」

メデューサ「でも私、今日はミノスの所に泊めてもらう事にするから。いいかな、ミノス?」

ミノス「ああ、構わないぜ。邪神ちゃんも何かあったらすぐ訪ねてこいよ。隣の部屋なんだからさ」

ペルちゃん「私も話し相手になるよ。年上だからって変な意地張らなくていいんだからね」

邪神ちゃん「……すまないな。なんか、色々と」

メデューサ「いいよ。お友達だもん。こういう時こそ頼って貰えたら嬉しいよ」

邪神ちゃん「ならさ、お前らに頼みたい事があるんですの」

メデューサ「なぁに? なんでも言って?」


邪神ちゃん「──このこと、ゆりねには絶対に言うなよ」

メデューサ&ミノス&ペル「えっ」



死まであと98日

~3日目~ 



悪魔A「アメリカの精神科医、キューブラ・ロスによれば、死の受容には五段階のプロセスがあるという」

悪魔A「第1段階《否認》 死にゆく事実を突きつけられた者は、まずその事実を否定しようとする」

悪魔A「第2段階《怒り》 自分の死に理不尽を感じ『なぜ自分が』『他に生きる価値のない者もいるのに』と激しい怒りを抱く」

悪魔A「第3段階《取引》 『善行を積むのでどうか延命させて欲しい』など、死を遠ざける為の取引として、神仏にすがりだす」

悪魔A「第4段階《抑うつ》 その取引も無駄と悟り、絶望と虚無感にとらわれる」

悪魔A「第5段階《受容》 死を拒絶したり回避する事を諦め、それが自然の摂理なのだと受け入れる心構えができる」


悪魔A「……ここに、死を宣告され、神保町をあてどもなく彷徨う哀れなヘビが一匹」

悪魔A「彼女の辿る死へのプロセスは、果たして──」

邪神ちゃん(家に居るのがなんとなく落ち着かなくて、神保町をブラタモリ中ですの)

邪神ちゃん(いったい何時間こうして徘徊してるんだっけ?)

邪神ちゃん(昨日、メデューサ達を帰してすぐ私もアパートを出たからな……)


・回想


メデューサ『ゆりねさんには言うなって……どうして……?』

邪神ちゃん『どうしてもこうしてもない。言うなったら言うな』

ミノス『なぁ、これってかなり深刻な問題なんだぜ?』

ミノス『ゆりねちゃんには散々世話になってるだろ。きちんと伝えなきゃダメだって』

邪神ちゃん『へ~ん! 世話になんかなってねーですのっ!』プイ

ペルちゃん『また意味不明な強がりして……さっき意地なんか張らなくていいって言ってあげたばかりなのに』

邪神ちゃん『うっせえ! お前はいちいち言うことが生意気なんだよっ!』

ペルちゃん『ひっど~い! 邪神ちゃんが心配だから言ってるのに!』

邪神ちゃん『だからそれが生意気なんだよっ! ガキの分際で人様の心配なんざ100年はえーんですの!』

メデューサ『け、喧嘩はやめてよぉ……こんな時に……』オロオロ

邪神ちゃん『……とにかく、ゆりねには絶対に知られたくねーんだ』

邪神ちゃん『強がりとかそんなんじゃない。なんか……よく分かんないけど、なんか無性にイヤなんだよっ……!』

メデューサ『邪神ちゃん……』

邪神ちゃん『特にメデューサ! お前が一番言いそうなんだからなっ! 絶対に言うなよ! 言ったら絶交だかんなっ!』



邪神ちゃん「……ゆりね、とっくに帰ってきてるだろうなぁ」

邪神ちゃん「書置きもせず出てきちゃった。おまけにスマホも忘れてるし……」

邪神ちゃん(んで、昨日から何百回も考えている事だが……)

邪神ちゃん(本当に私、100日後に死んじまうんですの……?)

邪神ちゃん(いや、正確にはもう残り97日しかない……)

邪神ちゃん(だいたい深夜アニメ1クール分の命……)ドクン


邪神ちゃん「──うぷっ!?」

邪神ちゃん「おげえええええええっ……!」ゲロロビチャビチャ


通行人A「うわあっ!?」

通行人B「きったねえ!!」


邪神ちゃん「う゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛…… まただ……またやっちまった……」ゼーハー

邪神ちゃん(この凄まじい動悸と吐き気が、単眼ちゃんの予告が嘘ではない事を否が応にも突きつけてくる……!)

邪神ちゃん「昨日はメデューサ達の前でカッコつけて余裕ぶっちゃったけど……」

邪神ちゃん「怖ええええええよおおおおおおおおおお!! まだ死にたくねえよおおおおおおおおおお!!」ジタバタ

邪神ちゃん「ううっ……不安で不安でたまらない……誰かにそばにいて欲しい……」

邪神ちゃん「パパぁ……ママぁ……先生ぇ……」シクシク

邪神ちゃん「会いたい……! 死ぬならせめて、魔界で待ってる皆に会ってから死にたいですの……」

邪神ちゃん「い、いやダメだ。弱気になるな……! まだ何かの手違いである可能性だってゼロじゃない!」

邪神ちゃん「そう! 魔界役所に電話で問い合わせてみれば分かることですの!」

邪神ちゃん(でも……もしそれで間違いないって確定しちゃったら……)

邪神ちゃん(でもでも! 真実を恐れていてはいつまで経っても前に進めませんの!)


邪神ちゃん「はぁ……! はぁ……! か、かけるぞ……!」ドクドク

邪神ちゃん「………」ドックンドックン!

邪神ちゃん「……」ドックンドックンドックン!


邪神ちゃん「って、スマホ忘れてきてるんでしたの♪」ホッ

邪神ちゃん「ああ、よかった♪」

邪神ちゃん「って、全然よくねーけどwwwwww んもう、私ったらうっかりさんですのぉwwwwww」

邪神ちゃん「スマホがないんじゃしょうがねーよなぁwwwwww 確認は帰ってからにしますの~wwwwww」

邪神ちゃん「てか、別に今日じゃなく明日でもいっか。連絡なんていつでもできるし」

邪神ちゃん「あ~、なんかすっげえ疲れましたの……緊張の糸が切れたのかな……」


邪神ちゃん「うぷっ!?」

邪神ちゃん「うおぼろええええええええぇぇぇぇぇ……」ゲロゲロゲロ


通行人A「うわあああっ!? またかよこのヘビっ!!」

通行人B「このご時世に何考えてんだ!!」


邪神ちゃん「はぁ…はぁ……ぜぇ…はぁ……」

邪神ちゃん(大丈夫だ大丈夫だダイジョウブだ……! この私が死ぬワケない……!)ガタガタ


邪神ちゃん「……帰ろ」

・再び花園家


邪神ちゃん「……ただいまですの」ガチャ

邪神ちゃん「──!?」


ボッゴォ!!


邪神ちゃん「ごっふうううぅぅぅ!?」

ゆりね「……おかえりなさい。邪神ちゃん」


邪神ちゃん「痛ってえなぁーっ! 何なんだよいきなりっ!?」

ゆりね「何なんだはこっちの台詞よ。用事から戻ったらあんた居ないし、いつまで待っても帰ってこないし」

ゆりね「なに? 二日も家を空けてた私への当てつけってワケ?」

邪神ちゃん「そ、そんなんじゃねーし!」

邪神ちゃん「ただちょっと……外の空気が吸いたくて……」ゴニョゴニョ

ゆりね「それにどれだけ時間かけてるのよお馬鹿。連絡も寄越さないで」

邪神ちゃん「スマホ持ってくの忘れてたんだよ! てか、そんな事でいちいち暴力振るうなよ! もっと私を労われ!」

ゆりね「はぁ……? なんで私があんたなんか労わらないといけないのよ」

邪神ちゃん「お、お前なぁ! 私はもうすぐ──」

~4日目~



邪神ちゃん「よ、よし……」ゴクリ

邪神ちゃん「今日こそ魔界役所に連絡してみますの……」


プルルル… プルルルル……


邪神ちゃん「はぁ…! はぁ……!」ドックンドックン


プルルル… プルルルル……


邪神ちゃん「はぁ…! はぁ…! はぁ……!」ドックンドックンドックン


プルルル… プルルルル…… ピッ


???『こちらは、魔界役所です』


邪神ちゃん「ひいっ!? あああああ……あのっ……」アタフタ

>>22 訂正



ゆりね「……もうすぐ、なによ?」

邪神ちゃん「な、なんでもねーですの……」

ゆりね「?」

邪神ちゃん(あっぶね……自分からバラすとこでしたの……)

ゆりね「……ま、これからは長時間留守にする時はちゃんと連絡してちょうだい」

ゆりね「黙って居なくなられると──」

邪神ちゃん「居なくなられると、どうなんですの?」

ゆりね「……別に。なんでもないわよ」プイ

邪神ちゃん(何なんだよ……いったい……)



死まであと97日

~4日目~



邪神ちゃん「よ、よし……」ゴクリ

邪神ちゃん「今日こそ魔界役所に連絡してみますの……」


プルルル… プルルルル……


邪神ちゃん「はぁ…! はぁ……!」ドックンドックン


プルルル… プルルルル……


邪神ちゃん「はぁ…! はぁ…! はぁ……!」ドックンドックンドックン


プルルル… プルルルル…… ピッ


???『こちらは、魔界役所です』


邪神ちゃん「ひいっ!? あああああ……あのっ……」アタフタ

音声ガイダンス『──申し訳ありませんが、現在たいへんお電話が込み合っています。後ほどおかけ直しください』


邪神ちゃん「はあーっ…! はあーっ……! ぜー…! はぁーっ……!」ドキドキ

邪神ちゃん「な、なぁんだ……おどかしやがって……」ホッ


邪神ちゃん「──うぷっ!?」

邪神ちゃん「うおぼろろろろろろろろ……!」ビチャビチャ


邪神ちゃん「ま、まただ……また謎の吐き気と眩暈……」クラクラ

邪神ちゃん「今日はもう電話はいいや……何もやる気が起きませんの……」

邪神ちゃん(てことは、明日もこの気が狂いそうな気分を味わうのか……)

邪神ちゃん(いや! 明日明後日は土日だから役所は休みでしたの! 電話しなくていい……しなくてもいいんだ……!)

邪神ちゃん「うわーい♪ ちょっとだけ元気が出ましたの!」

邪神ちゃん「………」

邪神ちゃん「……情けねえ」ボソッ



死まであと96日

~7日目~



邪神ちゃん「この二日間、せっかくの土日だってのに生きた心地がしなくて全く楽しめなかった……」

邪神ちゃん「私は毎日が日曜日だけど、それはさておきこんな気分をいつまでも引きずってるなんて御免ですの」

邪神ちゃん「今日こそは魔界役所にちゃんと確認してやるっ!」


プルルル… プルルルル…… ガチャ


下級悪魔A『お電話ありがとうございます。こちらは魔界役所健康推進課です』

邪神ちゃん(一発で繋がっちまった!)ドキン


邪神ちゃん「……あ、あのっ、私ですの。邪神ちゃんですの」

下級悪魔A『……』

下級悪魔A『……はい。お世話になっております、邪神ちゃん様。本日はどのようなご用件でしょう?』

邪神ちゃん(あ、あれ……? 私の名前を聞いた途端に声がトーンダウンしたような……)

邪神ちゃん「そ、その……ちょっとお尋ねしたい事があるんですの……」

下級悪魔A『はい。どういったお問い合わせでございますか?』

邪神ちゃん「この間受け取った魔界健康診断の結果なのだけど、ちょっとおかしな点があるので間違いがないか確認して貰えないかと……」

下級悪魔A『……はぁ』

邪神ちゃん(溜息?)

下級悪魔A『邪神ちゃん様、はっきり申し上げますが、それはありえません』

邪神ちゃん「だ、だけど……!」

下級悪魔A『いいですか? 我々の業務は常に万全を期しています。手違いなど起きようはずがありません』

邪神ちゃん「そんな取りつく島もない! 万にひとつという事もあるだろう? 調べてみてくれたって──」

下級悪魔A『必要ありません!』ガチャン

邪神ちゃん「お、おいっ!」


ツーツー…


邪神ちゃん「待ってくれよ……」

下級悪魔A「やれやれ……」

下級悪魔B「どちら様からだったのですか?」

下級悪魔A「……邪神ちゃん様ですよ」

下級悪魔B「うげっ! それは災難でしたねぇ」

下級悪魔A「魔界健康診断の結果に納得いかないとかイチャモンつけてきたんで、ビシっと言ってやりましたよ」

下級悪魔B「あの人、以前も生活保護貰おうとして魔界役所に難癖つけてきたらしいですね」

下級悪魔A「ええ。役所のブラックリストにも載っています。ほら、彼女の為の対応マニュアルまでありますよ」

下級悪魔B「なになに……『理不尽な要求には一切応じず、強い姿勢でつっぱねましょう』 はは、なるほど」

下級悪魔A「さ、気を取り直して善良な市民の皆様の為にお仕事お仕事!」


邪神ちゃん様(嗚呼……やっぱ間違いじゃなかった……)

邪神ちゃん様(私……本当にもうすぐ死ぬんだ……)チーン



死まであと93日

~10日目~



・花園家前


メデューサ「邪神ちゃーん! いい加減出てきてよぉ!」ピンポーン

メデューサ「今日は邪神ちゃんの好きなフレッシュムーン買ってきたんだよ。一緒に食べよう?」ピンポーン

メデューサ「せめてお顔だけでも見せて欲しいな……」ピンポンピンポーン

メデューサ(このところ毎日様子を見に来てるけど、邪神ちゃんは一度も顔を出してくれない……)ピンポーン

メデューサ(きっと塞ぎ込んでるんだろうな……あんな宣告受けたんだから無理もないけど……)ピンポンピンポンピンポーン


ゆりね「……鍵、開いてるんだけど」ガチャ

メデューサ「ゆ、ゆりねさんっ!? 居らしてたんですか……」


メデューサ「てっきり学校に行ってる時間かと……うるさくしてごめんなさい……」

ゆりね「かまわないわよ。邪神ちゃん、ちょっとここ数日体調悪いみたいで寝込んでて。それで私も今日は念のため大学を休んだの」

メデューサ(やっぱり。邪神ちゃん大丈夫なのかな……)

メデューサ「そ、そうですか。それなら私はこれで……」

ゆりね「悪魔特有の病気とかかしら……メデューサ、何か心当たりない?」

メデューサ「!?」ギクッ

メデューサ「い、いえっ……! そのぉ……」アタフタ

ゆりね「?」

メデューサ(邪神ちゃん……あれほどゆりねさんには伝えるなって……言ったら絶交だって……)

メデューサ(だ、だけど……)

ゆりね「──ああ、なるほど。そういう事か。察しがついたわ」

メデューサ「え、ええっ!?」

メデューサ(ゆりねさん鋭すぎ……! どうして分かっちゃったの……?)

ゆりね「気まずい思いさせちゃって悪かったわねメデューサ。私が無神経だったわ」

メデューサ「こ、こちらこそごめんなさい。私、なかなか言い出せなくて……」

ゆりね「無理もない事よ」

ゆりね「そっか……そうよね。邪神ちゃんも、一応あんなでも女の子ですものね……」

メデューサ「はい。きっと辛いと思います……」

ゆりね「いえね、私も前から気にはかけていたのよ?」

メデューサ「ま、前から……?」

ゆりね「だけど、あの子の方からは何も言ってこないし、今までそういう様子もなさそうだったし」

ゆりね「かといって、私の方から聞くのもどうかと思うじゃない?」

ゆりね「いくら遠慮なく拳を交わせる関係とはいえ、その点は私だってデリカシー持って接するわよ」

メデューサ「いえ、デリカシーとかそういう問題でもないかと……」

ゆりね「あの子、実は何千年も生きてるわけだし、もしかしたらとっくに上がっちゃってるのかとも思ったし……」

ゆりね「でも、考えてみればそうよね。何千年も生きるってことは、人間との周期も違って当然よね」

メデューサ「えっと、ゆりねさんは先程から何の話をしているのでしょう……?」オロオロ

ゆりね「何って……」

ゆりね「“あの日” なんでしょ、邪神ちゃん。わざわざ言わせないで欲しいわ……」

メデューサ「っ///」

ゆりね「ま、そういう事ならあまり心配はいらなそうね」

メデューサ(ど、どうしよう……ゆりねさんに変な勘違いさせちゃった……)



死まであと90日

・花園家 押入


邪神ちゃん「あー……」

邪神ちゃん「何日くらいこうやって寝込んでるんだっけ……」


邪神ちゃん(魔界役所に電話してから一週間……余命宣告されてからはもう二週間くらいか……?)

邪神ちゃん(押入の天井もいい加減見飽きましたの……)


邪神ちゃん(つーか、こんだけ何もしないでいるのに、ゆりねのヤツはどうして文句ひとつ言ってこないんですの?)

邪神ちゃん(食事も用意してくれるし、最近のあいつ、妙に私に優しいんだよなぁ……)

邪神ちゃん(なんだか知らんが、変な形の折り畳んだ紙も沢山くれたし。何なんですの、これ?)ツンツン

邪神ちゃん(確か、玄関でメデューサと何やら話してた日から態度が変わったような……)


邪神ちゃん「──まさか、メデューサの奴!?」ガバッ


邪神ちゃん(……い、いや。あそこまで釘を刺したんだ。メデューサが言うはずない)フルフル

邪神ちゃん(だって、私に絶交なんかされたらあいつの方こそ死んじまうだろ?)


邪神ちゃん「それにしても、反射的にとはいえ久し振りに身を起こしたな……」ムクリ

邪神ちゃん「貴重な残り寿命を寝たままで浪費するなんて私らしくないか。よっこらせっと……」モゾモゾ

邪神ちゃん「まぁ、起きたところで結局テレビ見て菓子食いながらゴロゴロするだけなんだけどな」ボリボリ

邪神ちゃん(……そーいや、寝込んでる間にちょっと思いついた考えがある)

邪神ちゃん(私の残り寿命があと100日……)

邪神ちゃん(じゃなくてもう80日ちょっとか。やべぇ、落ち込むのが長すぎた。もったいない……)

邪神ちゃん(ま、まぁ済んじまったことは仕方がありませんの。とにかく、死ぬ日が決まってるワケだよな?)

邪神ちゃん(と、いう事はだ……逆に言えばそれまでは何をしても死なないんじゃねーですの?)

邪神ちゃん(だって理屈だとそうだよな? 映画版デスノートのLとか、ジョジョ5部のミスタとかそんな感じだったし)

邪神ちゃん(つまり、私は残り80日ちょっとの間は無敵状態って事になるのでは……?)

邪神ちゃん「ああ! きっとそうだ! これは嬉しい発見ですの!」

邪神ちゃん「よぉーし! どうせ死ぬなら無敵のパワーでゆりねを倒し、故郷の魔界に錦を飾ってから死んでやるっ!」

ゆりね「ただいま。おかゆの材料買ってきたから支度するわ……あら?」

ゆりね「よかった。起き上がれるようになったのね」

邪神ちゃん「うむ。ご苦労であるぞ、ゆりね」

ゆりね「は?」ビキッ

邪神ちゃん「思えば、ここ数日のお前の献身的な態度は、無意識に私の無敵パワーを感じ取り、畏れていたが故だったんだな」

ゆりね「……あんた、まだ熱あるんじゃないの?」

ゆりね「ちょっとおでこ出しなさい」ツカツカツカ

邪神ちゃん「バカめっ! 無敵の人に不用意に近づきすぎだっ!」

邪神ちゃん「今の私に恐れるものなどない……だからこんなマネだって出来るのさっ!」

邪神ちゃん「くらえええええ! 新必殺! 小学生男子ばりのF・O・S・M(フルオープンスカートめくり)じゃあああああい!!」


バッサァァァ!!


ゆりね「んなっ…///」

邪神ちゃん「あひゃひゃひゃひゃwwwwww 柄にもなく赤くなってやんの~wwwwww」

邪神ちゃん「そんなもっさいかぼちゃパンツ、見えたところで別に構わないだろ~wwwwww」


ゆりね「………教えてあげるわ」

邪神ちゃん「──!?」ゾクッ


ゆりね「この下着はね……かぼちゃパンツじゃなく、ドロワースって……言うの、よっ!!」ボッゴォ!!

邪神ちゃん「どろわっ!?」


ゆりね「……あんた病み上がりだから、今回は特別にこれだけで許してあげる」

ゆりね「ま、しょーもない悪さが出来る程度には回復したみたいね。待ってなさい、今おかゆ作るから」

邪神ちゃん「う……うぐぇぇぇ……」ピクピク

邪神ちゃん(あ、危うく三途の川を渡るところでしたの……)

邪神ちゃん(くっふぅ~…! なんだよ! フツーに死にかけたじゃねーか! とんだ殴られ損だよ!)

邪神ちゃん「……まったく。こちとら死期が近いってのに、ゆりねと居るといつもの調子に戻っちまいますの」クス

邪神ちゃん「……」

邪神ちゃん「……なにちょっと和んでんだよ私。気持ち悪っ」



死まであと86日

~18日目~



・人生シアター


邪神ちゃん「あ~、やっぱ私にゃコレだよなぁ♪」

邪神ちゃん「打ってる間だけは全てを忘れてパチに没頭できるから、嫌なこと考えなくて済みますの」

邪神ちゃん「しかも今日はめちゃくちゃ調子いいし。んっふっふ♪」

邪神ちゃん「──って言ってる間にまた揃ったぁ! おいおい、連チャン止まんねーぞ!」

邪神ちゃん「いやぁ~、久し振りに大勝ちできそうだなぁ~wwwwww」

邪神ちゃん「そしたら欲しい物買ってぇ~、したいこと好きなだけしてぇ~♪」

邪神ちゃん「えっとえっとぉ、まず何から買っちゃおっかなぁ~♪」

邪神ちゃん「……えっと」

邪神ちゃん「……」

邪神ちゃん「し、してみたかった事といえばあれだよなぁ~!」

邪神ちゃん「ほら……あれ……」

邪神ちゃん「……」

隣のおっさん「くそっ! くそっ! 全然こねーぞこの台!」  

邪神ちゃん「おっさん、おっさん」チョイチョイ

隣のおっさん「あ゛あ゛ん゛!?」

邪神ちゃん「私もう帰るから、よかったらこの台打ちますの」

隣のおっさん「えっ! いいの!? さっきからめちゃくちゃ連チャンしてたじゃねえか!」パアアァァ

邪神ちゃん「いいんですの。店員呼ぶと色々めんどくせーから、今入ってる玉も全部あげますの」

隣のおっさん「あ、あんがとよ! ヘビの姉ちゃん!」

隣のおっさん「いやぁ、こういう人情ってすっかり失われちまったと思ってたけど、あんたみたいな奇特な人もまだ居たんだな!」

邪神ちゃん(奇特…… キトク…… 危篤……!?)ドクン

邪神ちゃん「……そ、そんじゃ、私はこれで」フラフラッ

隣のおっさん「おう! あんた、今に絶対いいことあるぜ!」ニカッ

邪神ちゃん「はは。だといいけどな……」

邪神ちゃん「はぁ……」トボトボ

邪神ちゃん「何やってんだろ私……」

邪神ちゃん「にしても、外明るっ!」

邪神ちゃん「ああ、なんだ。まだこんな時間なのか……」

邪神ちゃん「……早めに帰ってゆりねの好物でも作っといてやるかな」

邪神ちゃん「って、財布の中身こんだけかよ!?」

邪神ちゃん「あー、しくったぁ~……やっぱあん時の出玉だけでも交換しとくんだった……」

邪神ちゃん「ほんっと、何やってんだろ私……」



死まであと82日

~20日目~



邪神ちゃん「はぁ~……今までに輪をかけて何もする気が起きねえ……」ゴロゴロ


ピンポーン♪


邪神ちゃん「ったく。誰だよ……」

邪神ちゃん「はーい。今開けますの」ガチャ


遊佐「ごめんください」

氷ちゃん「」オッス


邪神ちゃん「お前らか。生憎だがゆりねは出かけてますの」

遊佐「いえ、今日はあなたに用がありまして……」

邪神ちゃん「おや、そりゃ珍しい。まぁ上がれよ」

邪神ちゃん「んで、私に用ってなんですの?」

遊佐「それなんですが……」

氷ちゃん「」ジーッ…

邪神ちゃん(──はっ!?)

邪神ちゃん(ま、まさか浩二のヤロウ……この間イジメたこと姉にチクリやがったな……!)

氷ちゃん「」ジーッ…

邪神ちゃん(くっふぅ~…! またしても命の危機ですの! なんだよ! お迎えがくるまで穏やかに過ごさせてくれよ!)

遊佐「その……あなたの寿命のこと、メデューサさんから聞きまして……」

邪神ちゃん「なっ……!?」

邪神ちゃん「メデューサが……お前らにバラしたのか……!?」

遊佐「バラしただなんて……そんな言い方は……」

邪神ちゃん「あいつめ~! 人のヒミツをペラペラとぉ~!」

遊佐「も、もちろんゆりねさんには伝えないようにとも言われています! その点はご安心ください」

邪神ちゃん「当たり前だ!」

遊佐「……メデューサさん、あなたの事を本当に心配なさっているのですよ」

遊佐「きっと一番の親友同士なのですね。見ていれば分かります……」

邪神ちゃん「ふん! あんなヤツたった今キライになりましたのっ!」プイ

遊佐「またそんな事を……」

邪神ちゃん「……んで、それを知った上で何の用があって来たんですの?」

遊佐「で、ですから……」

邪神ちゃん「ハッ! くたばる前に私の惨めなツラでも拝んどこうってか?」

邪神ちゃん「まぁそうだよな。お前ら姉妹にゃ今まで散々イジワルしてやったし」

邪神ちゃん「浩二ぃ~、おめーも内心ほくそ笑んでるんだろぉ~? いい気味だって思ってるよなぁ~?」ウリウリ

氷ちゃん「…っ! …っ!」フルフル

邪神ちゃん「嘘つくんじゃねえ!」

遊佐「やめてください! そんな理由でわざわざ訪ねてきたりしません!」

邪神ちゃん「じゃあなんだよっ!? まさか私が心配で来たとでも言うつもりかっ! この偽善者どもめ!!」

遊佐「どうか落ち着いてください……!」

邪神ちゃん「くっそぉ……! なんで上級悪魔である私がこんな無様に死に脅えなきゃいけないんだ……!」

邪神ちゃん「死ぬなら存在価値のないお前みたいな下級悪魔でいいだろうがっ!」グリグリ

氷ちゃん「…っ! …っ!」イヤイヤ

遊佐「妹をいじめないで!」

邪神ちゃん「そうだ。偽善者のお前らにぴったりな人間界でのシノギを教えてやるよ」

邪神ちゃん「まず、コイツに食事を与えず徐々に弱らせるんだ」ウリウリ

氷ちゃん「…っ! …っ!」ヤメテ

邪神ちゃん「そんで“100日後に死ぬモグラ”とかいって感動ポルノ路線でグッズ展開していけばガッポガッポですのwwwwww」

氷ちゃん「…っ! …っ!」シクシク

遊佐「言い過ぎです! それ以上妹を侮辱するなら、例え老い先短いあなたでも容赦は──」

邪神ちゃん「ほほぅ……面白れぇ。やってみろよ! こっちも暴れたくてウズウズしてきましたの!」

遊佐(可哀そうに……なんて荒んだ目をしているのでしょう……)

邪神ちゃん「どーした? いつもみたいに私を氷漬けにしないのか?」

遊佐「……よしましょう。今のあなた、とても見ていられません」

邪神ちゃん「ケッ! やっぱ偽善者じゃねーか」

邪神ちゃん「浩二、お前はどうなんだ?」

氷ちゃん「?」

邪神ちゃん「今の衰弱した私なら、下級悪魔のお前でもワンチャン倒せるかもしれねーぞ?」

氷ちゃん「」フルフル

邪神ちゃん「ふん! せっかくこれまでの雪辱を晴らせるというのに。姉妹揃って根性無しが!」

氷ちゃん「」ゴニョゴニョ

邪神ちゃん「……なに? 『そうじゃなくて、やつれたお前になんか勝っても嬉しくない』?」

邪神ちゃん「『ちゃんと医者に診て貰い、滋養をつけろ。万全な状態まで回復したら受けて立ってやる』 ……だとぉ!?」

邪神ちゃん「きっさま───っ!! 下級悪魔の分際でこの私に情けをかけるつもりかぁ───っ!?」

遊佐「くす。妹は本心ではそこまであなたの事を嫌ってはいませんよ」

邪神ちゃん「っぐ///」

邪神ちゃん「う……うっせえ! 不器用な優しさを垣間見せんなっ!!」

邪神ちゃん「お前……! ほんっと不愉快なガキだな! 二度と不器用な優しさを垣間見せんなっ!!」

氷ちゃん「」ゴニョゴニョ

遊佐「なぁに? ええ、ええ……」

遊佐「妹が『ついさっきと同じ事を言っている。記憶障害も併発しているのでは?』と心配していますが……」

邪神ちゃん「ナチュラルにディスってんじゃねえええぇぇぇ!!」

邪神ちゃん「帰れっ! 帰れえええええええ!!」 

遊佐「わかりました。少し元気になられたようでなによりです」

氷ちゃん「」ニヤリ

邪神ちゃん「くっふぅ~…! なんだ貴様! その意味ありげな微笑は!?」

遊佐「さ、もう行きましょう」

氷ちゃん「」コクコク

邪神ちゃん「いいかてめーら! これだけは言っておく!」

邪神ちゃん「あれ……? なんて言おうとしたんだっけ…… そ、そうだ!」

邪神ちゃん「不器用な優しさを垣間見せんなっ!!」

遊佐「ぶふっww」

邪神ちゃん「なにが可笑しい!?」

遊佐「す、すみません……三度目は……さすがに不覚だったもので……」プルプル

邪神ちゃん「帰れええええええええええええええええええっ!!!」

・数分後


ゆりね「──遊佐さんたち来てたの? さっきそこで見かけたけど」

邪神ちゃん「……ああ。たった今帰ったとこですの」

ゆりね「ふぅん。何の用だったの?」

邪神ちゃん「え、ええっと……それはぁ……特に何の用ってワケでもなさそうだったけどぉ……」シドロモドロ

ゆりね「?」

邪神ちゃん「ひ、冷やかし……じゃないカナ~……?」

ゆりね「冷やかし?」

邪神ちゃん「そ、そう……氷族だけに……冷やかし。なんつって……」

ゆりね「……」

ゆりね「……流石にそれはつまんないわ」

邪神ちゃん「あ、はい。精進しますの……」

邪神ちゃん(こいつの笑いのツボはいまだによく分からない……)



死まであと80日

~26日目~



・アパート前


邪神ちゃん「今日は皆さんに、糞ダルい朝のゴミ出しが一瞬で楽しくしなっちゃう裏ワザを紹介しますの♪」

邪神ちゃん「方法はいたって簡単」

邪神ちゃん「両手にゴミ袋持って、小走りで収集所に向かいながら、脳内では映画『コマンドー』の冒頭に出てくるおっさんになりきるんですの」

邪神ちゃん「できれば収集車が見えてから走り出すのが激アツなんだが、前にそれやったら間に合わなかったからな……」

邪神ちゃん「小心者の私は余裕を持って捨てるとしますの」ドサッ


メデューサ「あ……」

邪神ちゃん「あっ」


メデューサ「ひ、久し振りだね……身体はもう良くなったの?」

邪神ちゃん「そりゃ、もうすぐ死ぬ者に対してのイヤミか?」

メデューサ「あぅ……」シュン

邪神ちゃん「お前さ、私に言わなきゃならない事があるよな?」

メデューサ「う、うん……邪神ちゃんの寿命のこと、皆に話しちゃった……」

邪神ちゃん「皆に!? 遊佐達にだけじゃないのかよ!?」

メデューサ「ひゃうっ!」ビクッ

邪神ちゃん「いったい誰と誰に喋ったんですの!?」

メデューサ「えっとぉ……あとは……天使の皆と、キョンキョン達と、芽依さんと……」

邪神ちゃん「つまり、知り合い全員かよ」

メデューサ「で、でも……ゆりねさんにだけはくれぐれも言わないようにって、ちゃんと全員に念押ししてるよ?」

邪神ちゃん「なんかもう、それだとゆりねだけハブってるみたいでちょっと胸が痛いんだが」

メデューサ「や、やっぱりダメだったかな? ゴメンね……」

邪神ちゃん「いや、ダメっつーかなんつーか……う~ん……」

メデューサ「だって、何も知らされないままお別れになんてなったら、皆きっと悲しむと思ったから……」

邪神ちゃん「お別れ……」ズーン

メデューサ「はっ!?」

メデューサ「そ、そうじゃなくてね! 皆に相談できたら何か助かる方法が見つかるかもと思ったし……」アタフタ

邪神ちゃん「取り繕わなくていいっつーの」

メデューサ「ゴメンなさい邪神ちゃん……勝手なことして。怒ってるよね……?」

邪神ちゃん「──別に」

メデューサ「え……」

邪神ちゃん「言っちゃった事はどうしようもないし、ゆりね以外のヤツに話すなとも言ってなかったし」

邪神ちゃん「そもそも、最近なんかもう怒る気力も湧かないんですの……」

メデューサ「ホント? 本当に怒ってない?」

邪神ちゃん「私の為を思ってやってくれたんだろ? それくらい分かってますの」

メデューサ「邪神ちゃん……!」パアアァァ

邪神ちゃん「ただし! くれぐれも言うがゆりねにだけはっ!」クワッ!

メデューサ「うん。お口チャック、だね♪」

メデューサ「でも、どうしてゆりねさんの事となるとそこまで……?」

邪神ちゃん「お前には関係ねーことですの」

メデューサ「そうだ! はい、これ。仲直りのしるしにお金下ろしてきたんだよ♪」ニコッ

邪神ちゃん「おい! そんな名目で渡されたら気持ちよく使えないだろ。もっと言い方に気ぃ遣えや!」

メデューサ「あ……ゴメン」

邪神ちゃん「まぁいい。せっかくだから受け取っておく」ゴソゴソ

邪神ちゃん「………そんじゃ、この金でお前の好きな物でも食べにいきますの」

メデューサ「いいの!? 嬉しい……///」

邪神ちゃん「おう。私の奢りだから遠慮なく食え」

メデューサ「えへへ。でも、それって奢りって言うのかなぁ?」

邪神ちゃん「言うだろぉ~。だって、貰った時点で理屈では私の金だもん」

メデューサ「そっか。それじゃあご馳走になるね、邪神ちゃん♪」



死まであと74日

~29日目~



邪神ちゃん「どうですの? 今日の夕飯は」

ゆりね「うん。相変わらず美味しいわね。あんたの作る料理」モグモグ

邪神ちゃん「特に今日のは自信作だからな。百点満点の出来を自負している!」

ゆりね「うーん…… 惜しいわね。98点よ」

邪神ちゃん「なんだよその2点分。いったいどの辺が物足りないってんですの?」

ゆりね「いえ。具体的にどこが不満ってワケじゃないのよ。ただ……」

邪神ちゃん「ただ?」

ゆりね「あんたにはこれで慢心して欲しくないし、私もこれで満足したくない」

ゆりね「この料理、まだまだ改善の余地はある筈。その将来性に期待して、あえての2点減よ」

邪神ちゃん「将来性……?」

ゆりね「あんた、この先まだまだ何千年も生きる予定でしょ?」

ゆりね「せっかくの料理の才能なんだから、これからもコツコツ経験を積み重ねて精進なさい」


邪神ちゃん「……」ジワッ

ゆりね「……どうかした?」

邪神ちゃん「はっ!」


邪神ちゃん「……な、なんでもありませんの」

邪神ちゃん「まったく、ゆりねは私に家事やらせといてこの言い草だから参るよなーww」

ゆりね「……珍しく褒めてあげたんだから素直に受け取っておきなさい」

邪神ちゃん「へーへー」

邪神ちゃん「……いよぉーしっ! 私の将来は明るいぞおおぉぉーっ!!」

ゆりね「何よ。急に大きな声出して。へんな子ね」

邪神ちゃん「そうか? いやぁ、最近なんか感情のコントロールが難しくてさぁ~ww」

ゆりね「そんな情緒不安定なヤツとの同居はゴメンだわ。早く治してちょうだい」


邪神ちゃん(やっべ。なんか知らんが泣きそうになった……)ゴシゴシ



死まであと71日

~32日目~



ミノス「邪神ちゃん! メシまだだろ? 今からあたしと焼肉行こうぜ!」

邪神ちゃん「……お前はいつも唐突だよな」

邪神ちゃん「ひょっとしてアレか? スピンオフ漫画の為のネタづくり?」

ミノス「えへへ。当たり♪」

邪神ちゃん「ま、そーいう事なら付き合ってやりますの。ただし、全部お前の奢りな」

ミノス「へいへい。もちろん奢らせていただきますよ」

邪神ちゃん「うむ。それならよろしい」

邪神ちゃん「……ま、そーだよな」

邪神ちゃん「今のうちに私をゲストで登場させとかないと、しばらくしたら呼べなくなっちまうもんなww」

ミノス「またそういうこと言って……」

・焼肉店


ジュウゥゥゥ… ジュウウゥゥゥゥ……


ミノス「うんめぇ~っ! この店は当たりだなっ♪」ハフハフ

邪神ちゃん「……」ツンツン

ミノス「──どうしたんだよ? さっきから全然食ってねーじゃん」

邪神ちゃん「へっ……? い、いや。食べてるぞ?」

ミノス「嘘つけよ。ずっと箸止まってる」

邪神ちゃん「う゛」ギクッ

ミノス「ひょっとして、まだ調子悪いのか……?」

邪神ちゃん「い、いや……そういうワケじゃないんだが……」

邪神ちゃん「その……柄にもないとかって笑うなよ?」

ミノス「?」

邪神ちゃん「なんつーか、この牛たち、食用にされる為に殺されたワケだろ?」

ミノス「そりゃまぁ、だからこの場に並んでるんだろうけど……」

邪神ちゃん「だからその、コイツらも絶対死にたくなんてなかったろうし……」

邪神ちゃん「死ぬ瞬間は、すっげぇ怖かったかもしれないし……」

邪神ちゃん「そういうこと考えてたら、なんか……感情移入しちゃったっつーか……///」ゴニョゴニョ

ミノス「……」

邪神ちゃん「な、なんだよっ! 悪かったな! らしくないこと言って!」

ミノス「……いや。そうじゃねえよ」

ミノス「こっちこそ悪かった。邪神ちゃんの心境とか、全然考えてなかったな」

邪神ちゃん「謝るなよ……」

ミノス「どうする? もう店出ようか?」

邪神ちゃん「おいおい、私を誰だと思ってるんだ」

邪神ちゃん「命は粗末にしても、食べ物だけは粗末にしない邪神ちゃんですの!」

邪神ちゃん「頼んだ分はしっかり食べて、せめてもの牛への供養にしないとな」

ミノス「……ああ。あたしも付き合うぜ!」

ミノス「もっもっも……」パクパク

邪神ちゃん「もっもっも……」ムシャムシャ


ミノス「なんか、お通夜みたいな雰囲気になっちまったな……」

邪神ちゃん「そんじゃ、景気づけに私が一曲歌ってやりますの」

ミノス「おっ! いいな。テンション上がるやつ頼むぜ」

邪神ちゃん「おっほん。それでは……」


邪神ちゃん「ドナドナド~ナ~ド~ナ~♪」

ミノス「ぶほっwwwwww」

邪神ちゃん「子牛を乗~せ~て~♪」

ミノス「あはははっ! 曲のチョイスwwwwww」

邪神ちゃん「ドナドナド~ナ~ド~ナ~♪」

ミノス「わ、笑わすなよ……他のお客さん引いてるし、下手すりゃ営業妨害……くくっww」

邪神ちゃん「荷馬車がゆ~れ~るぅ~♪」


店員「お、お客様……もう少しお静かに……」

店員「せめて、歌われるにしても他の曲にしていただけないかと……」


ミノス「す、すみません!」

ミノス「邪神ちゃん、ストップ! お店の迷惑になってるよ!」

邪神ちゃん「も~し~もぉ~翼が~あ~ったな~ら~ばぁ~♪」

邪神ちゃん「楽し~ぃま~き~ば~に帰れるも~のぉ~を~♪」


ミノス「聞いちゃいねえ……」


邪神ちゃん「ドナドナド~ナ~……うっぷ!?」

邪神ちゃん(む、無理して食ったからまた吐き気が……)

ミノス「邪神ちゃん?」


邪神ちゃん「うぉぼろろろろろろろろろろろろ……!!」ゲロロビチャビチャ


ジュウウウゥゥゥゥゥ……!!!


ミノス「うわあああああああああっ!? ここの鉄板だけもんじゃ屋さんにっ!?」

店員「お、お客様あああああああああああああああっ!!」

・数分後 店外


ミノス「くっそぉ~! なにも出禁にする事ないじゃんかよっ!」プンスカ

邪神ちゃん「私はどのみち残り寿命的に来られそうにないからノーダメですのぉ~wwwwww」



死まであと68日

~36日目~



・通学路


小学生A「こ、こんにちわー……」

邪神ちゃん「オッス! 気を付けて帰るんだぞ人間の子供よ!」

小学生A「あ、ありがとうございまーす……」ソソクサ


ぽぽろん「……何やってんのよ、あんた」

邪神ちゃん「おお、のえるさんか」

邪神ちゃん「いやぁ~、最近の世の中もなかなかどうして捨てたもんじゃありませんなぁ~♪」

ぽぽろん「はぁ?」

邪神ちゃん「こんな風に下校時間に意味もなく通学路を徘徊しているとな、すれ違う小学生達が挨拶していってくれるんですのよ♪」

邪神ちゃん「こうした日常のささやかな触れ合いが、心のトゲトゲ引っこ抜く。ビバ! らぶあんどぴーすわーるどっ!」

ぽぽろん「……いや。それってさ、怪しいやつ見掛けたら先に挨拶して牽制するようにって、最近は学校で教えてるんだよ」

邪神ちゃん「んなっ!? なにぃぃぃ!?」

ぽぽろん「ぷっww あんた不審者に見られてるんだ」

邪神ちゃん「バカな……割とここいらの子供の間では町のオモシロお姉さんとして慕われてる自負があったのに……!」


小学生B「こ、こんにちわー……」

邪神ちゃん「うっせぇ! 人を不審者扱いしてんじゃねーですのっ!!」

小学生B「ひいっ!? ごごご……ごめんなさいっ!」

ぽぽろん「一瞬で世界が荒んだわね……」

ぽぽろん「……ところでさ、あんたの仲間から聞いたよ」

ぽぽろん「その、残り寿命のこと……」

邪神ちゃん「ああん? おめーには関係ないことですの」

ぽぽろん「関係ないって……それ本気で言ってんの!?」

邪神ちゃん「えっ……?」

邪神ちゃん「の、のえるさん……まさかお前……///」トクン

ぽぽろん「あんたに天使の輪っか食われたせいで、ぽぽろんちゃん天界に帰れないんだよ!?」

ぽぽろん「その責任も取らずに自分だけは早々と死ぬなんて勝手すぎ!」

邪神ちゃん「な、なんだ……そういう意味か……」ガッカリ

ぽぽろん「ねぇ、悪魔って死んだらどうなるの? 天国には行けるわけ?」

邪神ちゃん「行けるわけねーだろ。悪魔が行くとしたら地獄だと相場が決まってますの」

ぽぽろん「魔界と地獄って、どう違うのさ」

邪神ちゃん「よ、よく分かんねーですの……」

ぽぽろん「ふぅん……つまり、あんたはもう天国を見る機会が金輪際ないわけだ。哀れだね」

邪神ちゃん「なんだとぉ! さっきから妙なことばっか聞いてきやがって! 喧嘩売ってんのかっ!?」

ぽぽろん「──あんまり哀れだから、これあげる」スッ

邪神ちゃん「なんですの? この紙切れは……」

ぽぽろん「今度の週末に、天使のえるのライブをやるの」

邪神ちゃん「ライブ?」

ぽぽろん「しかも最前列だよ。ファンなら喉から手が出るほど欲しいチケットなんだから。ありがたく思いなさい」

ぽぽろん「楽しみにしておいて。生きてるうちに、あんたにも天国を見せてあげるから♪」

邪神ちゃん「の、のえるさん……! あんたって人は……!」ジーン



死まであと64日

~38日目~



・邪神ちゃん脳内会議 会議室


邪神ちゃんオリジン「急な呼び出しで申し訳ありませんの。この問題は私ひとりではどうにも決めかねたもので……」

邪神ちゃんコマンダー「水くさいですぞオリジン! 我々は元より一心同体!」

邪神ちゃんジーニアス「この頃のオリジンは、少々冷静な判断力を欠いている……」

邪神ちゃんジーニアス「脳内会議を開いたのは、むしろ賢明といえるでしょうな」

邪神ちゃんファイター「オリジンが弱気になりがちな今だからこそ、俺達がポジティブな意見を出してやるぜ!」

邪神ちゃんオリジン「皆……すまない。そんな風に気にかけてくれるなんて……」

邪神ちゃんSJ「ふわ~ぁ……ねっみ……」ZZZ…

邪神ちゃんコマンダー「SJ! 貴様は少し空気を読んだらどうなんだ!」

邪神ちゃんSJ「だって、このところオリジンがいつもくよくよしてるせいで寝不足なんだも~ん……」ZZZ…

邪神ちゃんオリジン「う゛」

邪神ちゃんジャスティス「やる気のない者は放っておけばいい! SJ抜きで会議を始めましょう!」

邪神ちゃんコマンダー「ふむ。それではジャスティス、まずは君の意見から聞かせて貰うとしようか」

邪神ちゃんジャスティス「はい! 私はやはり、残されるもの……ゆりねの事を第一に考えるべきだと思います!」

邪神ちゃんファイター「や~れやれ、またジャスティスのいい子ちゃんブリッコが出たよ」

邪神ちゃんジャスティス「むっ……! なにが言いたいのですかファイター!?」

邪神ちゃんファイター「お前の意見は教科書通りの優等生の回答でつまんねーって言ってるんだよ」

邪神ちゃんファイター「いいか? たった一度の人生がもうすぐ終わろうって時にだ、お利口さんしてて何になるんだ?」

邪神ちゃんファイター「思うまま行動し、心残りなくこの世を去っていく。それが悪魔に相応しい生き方だって、俺は思うぜ!」

邪神ちゃんジャスティス「ぐっ……!」

邪神ちゃんコマンダー「二人ともありがとう。では、ジーニアスはどう思うね?」

邪神ちゃんジーニアス「ふむ……ファイター、基本的には君の意見に賛成だが、仮に君の言う通り、思いのままに行動するとしよう」

邪神ちゃんジーニアス「だが、その事でゆりねの怒りを買ってしまい、悲惨な結果を招く可能性を失念してはいないかい?」

邪神ちゃんファイター「そ、それは……」

邪神ちゃんジーニアス「つまり……」


邪神ちゃんエスプ「──つまり、こういう事だろう?」

邪神ちゃんジーニアス「ぐふっ!? の、脳があ…っ……!?」


キィィィ──ン…… ボンッ!!


邪神ちゃんジーニアス「ぴえっ!」

邪神ちゃんコマンダー「ジーニアス!? ま、またしても……」

邪神ちゃんエスプ「……俺もファイターに賛成だ。悪魔なら悪魔らしく、最後の時まで我を貫き逝くべきだと思う」

邪神ちゃんエスプ「罪悪感に耐え、欲望に忠実に生きてこそ味わえる旨味だってあるはずだ……」

邪神ちゃんエスプ「この機を逃せば、オリジンはその味を知らぬまま生涯を終えることになるんだぞ?」

邪神ちゃんオリジン「そ、それは嫌ですの……」

邪神ちゃんエスプ「そもそも、ゆりねはこの生あるうちに必ず打ち倒さねばならぬ宿敵」

邪神ちゃんエスプ「衝突を恐れてどうする? 奴の怒りを買うことなど、むしろ望むところのはずだ」

邪神ちゃんオリジン「そうか……そうでしたの……!」

邪神ちゃんエスプ「そんな肝心な事さえ忘れるほど弱気になられては困るな、オリジン」

邪神ちゃんオリジン「すまない……そしてありがとう皆!」

邪神ちゃんオリジン「私やるよ……! 最後の瞬間まで、悪魔らしさを貫いてやりますの!」

邪神ちゃん「……いよぉーし! みんなの後押しのおかげで決心がついたぞ~♪」

邪神ちゃん「非常持出袋の中に眠ってる乾パンや缶詰……」

邪神ちゃん「ゆりねは『もしもの時の備蓄』って言ってたけど、実はずぅーっと気になっていた……」

邪神ちゃん「こういう物って、手の届く所にありながら完全にアンタッチャブルな存在だから余計に惹かれるんだよなぁ」

邪神ちゃん「今のうちに食っとかないと、もう味わう機会なさそうだし……」

邪神ちゃん「というワケで食~べちゃお♪」パク


邪神ちゃん「うんめぇ~! 乾パンうんめぇ~っ!」

邪神ちゃん「ぺこらが気に入りそう! 絶対やらねぇけど!」

邪神ちゃん「缶詰もうまぁ~っ♪」ムシャムシャ

邪神ちゃん「缶のままスプーン突っ込んで食ってると、海外ドラマのディストピアものっぽさも味わえちゃう~♪」


邪神ちゃん「ふぅ……夢中で食べ切っちまいましたの。ゆりねが知ったら怒るだろうなぁ……」

邪神ちゃん「ま、代わりに古新聞でも袋に詰めとけば私が死ぬまでにゃバレないだろぉ~wwwwww」



死まであと62日

~41日目~



・ライブ会場


ぽぽろん「みんなぁーっ☆ 今日は て・ん・ご・く 見せちゃうよぉーっ♪」


ドルオタ達「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


ぽぽろん「それじゃあ早速1曲目っ! “ミライドライブ”っ!!」


ドルオタ達「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


ぽぽろん「見上げた空はくもっりでぇ~♪」

ぽぽろん「今日くらいは晴れてほしいよぉ~♪」


ドルオタ達「のえるちゃあああああああああああああん!!!」


ぽぽろん「やる気スイッチを押すまでが面倒だけどぉ~♪」

ぽぽろん(ふふっ。肉じゃがのヤツ、きっと目を丸くしてるだろうな……)


ぽぽろん「やり~たい事ばっかりじゃないしぃ~♪ た~め息ついてる~ヒマなんてない~♪」

ぽぽろん「目まぐるしく~変わる世界でぇ~♪」


ぽぽろん(あんたの心の雨雲だって、ぽぽろんちゃんの輝きの前では吹き飛んじゃうって証明してあげる!)


ぽぽろん「さぁ! みんないっしょにっ☆」

ドルオタ達「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


ぽぽろん(この後のサビで、会場がいっきにライトアップされる……)

ぽぽろん(ふふっ。肉じゃがのアホ面でも拝んでやるかなっ♪)


パアアァァッ!


ぽぽろん「ギリギリぃ~♪ 笑ぁ~……」

ぽぽろん「──って!? いねえええええええええええええええっ!?」ガビーン


ドルオタ達「へ……?」


シーン…

ドルオタA「の、のえるちゃん……?」ザワザワ…

ドルオタB「急にどうしちゃったんだろ……?」ザワザワ…


ぽぽろん「あ…あうぅ……」パクパク

ぽぽろん「い……イエエエエエエエエエ────イッッッ♪」

ぽぽろん「なんだかサビで急激にテンション上がっちゃったぁ☆」テヘペロ


ドルオタC「なぁんだそうだったのかぁwwwwww」

ドルオタD「のえるちゃんは相変わらずお茶目だなぁwwwwww」


ぽぽろん(あ……あんにゃろおおおおおぉぉぉぉ……!!)ビキビキビキ

ぽぽろん(あの流れで来ないとかありえないでしょ……! なに考えてんのよ……!?)

・その頃 花園家


邪神ちゃん「──ハッ!?」

邪神ちゃん「うわっ! やっべ……!」ガタッ

邪神ちゃん「ベランダに来てるスズメ眺めてたらすっかり夕方になってる……」

邪神ちゃん「いやぁ、時間を忘れるくらい和んじゃいましたの。そろそろ夕飯の支度しないと……」ヨッコラセ



死まであと59日

~42日目~



・ミノス家


テレビ『なんでやねぇ~ん!』


邪神ちゃん「ははっ!!」

メデューサ&ミノス「!?」ビクッ


邪神ちゃん「……?」

邪神ちゃん「どうかしましたの?」


メデューサ「えっ……!? う、ううん……! どうもしないよ……?」

ミノス「き、気にせず続き見てろって」

邪神ちゃん「……おお」

テレビ『あんたとはもうやってられませんわぁ~!』


邪神ちゃん「ふふっ……」

邪神ちゃん「はははっ!!」

メデューサ&ミノス「!?」ギクッ


邪神ちゃん「なんだよお前らっ! さっきから私のリアクションにいちいち反応しやがって!」バンッ!

邪神ちゃん(てか、リアクションと反応って意味いっしょだなぁ……)


メデューサ「ご、ごめんね……」

ミノス「すまん。全然悪気とかないんだけど……なんつーか、さ……」ポリポリ


邪神ちゃん「まったく! 今日はもう帰りますのっ!」プリプリ

メデューサ「あ……邪神ちゃん……! 本当にゴメンねっ!」


邪神ちゃん(んだよ……! もうすぐ死ぬヤツがテレビ見て笑っちゃいけねーのかよ……)



死まであと58日

~45日目~



・公園


小学生「こ、こんにちはー……」ペコ

邪神ちゃん「おぅ。私みたいな不審者に気を付けて帰れよ」

小学生「は、はい……そうします……」

邪神ちゃん「キ──ッ! てんめぇーっ! そうしますたぁどういう意味だゴルァァァ!!」

小学生「ひいぃぃ!? ごごご……ごめんなさいっ!」


ぽぽろん「──ちょっと」


ぽぽろん「見苦しいからガキんちょイジメなんてやめてよね」

邪神ちゃん「止めてくれるな、のえるさん!」

邪神ちゃん「こういう糞ガキには礼儀ってもんを叩きこんでやるのが大人の役目なんですの!」

ぽぽろん「ふーん。人がわざわざチケットあげたライブに来なかったヤツが礼儀を語るんだ」

邪神ちゃん「ライブ……?」キョトン


小学生「さ、さようならー!」スタコラ

邪神ちゃん「あーっ! すっかり忘れてましたの!」

ぽぽろん「……本当に忘れてたの?」

ぽぽろん「あんたの事だから、オークションでチケット売っ払ったりしたんじゃないでしょうね?」ズイッ

邪神ちゃん「そ、そんなワケないだろう!?」

邪神ちゃん(てか、そうすればよかった……そんな事も思いつかないなんて、私もヤキが回ったもんですの……)

ぽぽろん「本当にぃ~? じゃあ、あげたチケットはどうしたのよっ!」

邪神ちゃん「え、ええっと……確か貰ってそのまま……」ゴソゴソ

ぽぽろん(蛇腹のその部分ポケットになってたんだ……)


邪神ちゃん「あ、ありましたの!」シワクチャ


ぽぽろん「……はぁ。もういいわ。ちょっと来て!」グイ

邪神ちゃん「ちょ! のえるさん?」

・カラオケボックス


邪神ちゃん「おめー、ヤバイ奴だな。いたいけな悪魔をこんな薄暗い個室に無理矢理連れ込むなんて……」

邪神ちゃん「なんだか身の危険を感じちゃいますの///」ポッ

ぽぽろん「気色悪いこと言ってんな!」

ぽぽろん「ライブでぽぽろんちゃんの歌声を聞かせてやるつもりだったのに、あんたにドタキャンされたからずっと消化不良なんだよ!」

ぽぽろん「責任取って今日こそ聞いて帰って貰うからね!」

邪神ちゃん「え~……ダルっ……」

ぽぽろん「贅沢いうな! アイドル独占カラオケライブなんて、ファンなら全財産積んでも実現したい夢のイベントなんだよ!?」

邪神ちゃん「私、別にお前のファンじゃねーし……」

ぽぽろん「ふふん。この新曲を聴いても同じことが言っていられるかなぁ~?」ピッピッ

邪神ちゃん「てか、のえるさんの曲カラオケで配信されてるんですの? なにげにスゲーな」

ぽぽろん「~♪」

邪神ちゃん(う、上手い……! たかだか駆け出しアイドルの歌唱力と侮っていましたの……)

ぽぽろん「ご清聴ありがとうございました~♪」ヒラヒラ

ぽぽろん「どうだった肉じゃが?」

ぽぽろん「これが、そう遠くない未来アイドル界にその名を轟かす、天使のえる様の歌声よっ!」

邪神ちゃん「ふ、ふふん……ま、まぁ……悪くないんじゃないか?」

ぽぽろん「なによ。素人が偉そうに」

邪神ちゃん「素人……? それは聞き捨てならんな」

邪神ちゃん「よし。なかなかの歌声を聞かせて貰ったお返しに、私も一曲披露しますの」ピッピッ

ぽぽろん「へぇ~え。爬虫類に歌なんて歌えたんだ」

ぽぽろん「いいよ。休憩がてら一曲ぐらい聞いてあげる」

邪神ちゃん「くくく……休憩になればよいがなぁ……」ニヤリ


邪神ちゃん「それではお聞きください。なまものがかりで── 『イキる』」

邪神ちゃん「~♪」

ぽぽろん(コブシの利かせ方……高音の伸び……こいつ、超上手いじゃん……!)

ぽぽろん(こんな身近に、しかも思いがけない所に、とんでもない実力者が居たってワケね……!)ウズウズ

邪神ちゃん「お粗末様でしたのぉ~♪」

邪神ちゃん「いやぁ、アイドル様に素人の歌声なんか聞かせてしまってお恥ずかしい限りですのww」ニヤリ

ぽぽろん「ぐっ……! 素人は撤回するわよ……少しはやるみたいだね」

邪神ちゃん「そんなぁ~、社交辞令なんてよしてくれよぉ~」

ぽぽろん「……肉じゃが、あんたも早く曲入れなさい! 次は全力で勝負するよっ!」ピッピッピッ

邪神ちゃん「おいおい、いつのまにカラオケ勝負になったんだっつーのww」

ぽぽろん「いいからっ! 天使と悪魔、どっちの歌声が魅力的か、今ここで白黒つけようじゃない!」

邪神ちゃん「くくく……いいだろう。随分とこぢんまりしたハルマゲドンだが、受けて立ってやるっ!」



死まであと55日

~47日目~



・交差点


幼女「ふんふふ~ん♪」

キョンキョン(おや、またあんな小さな子が一人で……お母さんとはぐれたか?)

幼女「~♪」テクテク

キョンキョン(ちょ……!? まだ赤信号だヨ!)


トラック「ブオオオオオオオ───ッッッ!!」


キョンキョン「危ないっ!!」ガバッ


トラック「ブロロロロロ………!」バッキャローッ


キョンキョン「無事でよかったぁ……」ホッ

幼女「」ポカーン

キョンキョン「気を付けないと死んじゃうヨ!!」


邪神ちゃん「……なーにどっかで見たようなやり取りしてんだよ」

キョンキョン「邪神ちゃん!」

・ドラゴン書房


キョンキョン「邪神ちゃん……その、大変なんだってメデューサから聞いた。大丈夫か……?」

邪神ちゃん「ん~、まぁときどき謎の吐き気と眩暈に襲われるけど、今のところはこうして外出もできてますの」

ランラン(パンダ)「う~ん……邪神ちゃんの肌の色ツヤとか見るに、もうすぐ死ぬ人のソレには見えないんだけどなぁ……」

邪神ちゃん「はは。嬉しいこと言ってくれますの」

ランラン「いや、別に気遣って言ってるとかじゃなくて、一度死んでる経験者として言わせて貰ってるんだけど……」

キョンキョン「お姉ちゃん! 邪神ちゃんはゆりねに心配かけないために無理して色々と繕ってるんだヨ! あまり変なこと言っちゃ駄目ネ!」

邪神ちゃん「べっ、別にゆりねの為なんかじゃねーしっ///」

キョンキョン「だけど……邪神ちゃん……」ホロリ

キョンキョン「せっかく友達になれたのに……もうすぐ死んじゃうなんてあんまりだヨぉぉぉ!」ガバッ

邪神ちゃん「お、おい……」

キョンキョン「そうだ! 邪神ちゃん、もう一回キョンキョンに噛まれてみるネ?」

邪神ちゃん「へ?」

キョンキョン「キョンシーに噛まれた者もまた、キョンシーになる……」

キョンキョン「不死身になるからずっとずっと生きられるヨ?」

邪神ちゃん「いや、この下半身で常時ジャンプ移動は流石にキツ過ぎるわ。床が抜けてゆりねにシバかれるっての」

キョンキョン「ぜ、贅沢言わないネ!」

邪神ちゃん「つーか、前におまえに噛まれた時もすぐ元に戻っちゃったじゃん。だから、たぶんムダだわ……」

キョンキョン「そんなぁ……」

キョンキョン「それならせめて、キョンキョンに出来ることはないか!?」

キョンキョン「分かった! お金か!? お金だなっ!?」

邪神ちゃん「お、おいおい……落ち着けって。そういうの、今ホント大丈夫だから……」

キョンキョン「邪神ちゃんがお金を欲しがらない!?」

ランラン「あー、前言撤回。もしかしたらホントに重症かもね、こりゃ」

邪神ちゃん「お前らなぁ……」

キョンキョン「な、何かやりたい事はないのか? 叶えたい夢とか……」

邪神ちゃん「夢なぁ……」

邪神ちゃん「そりゃ、せめて魔界に帰ってパパやママに見送られながらあの世に旅立ちたいとは毎日思ってますの……」

キョンキョン「邪神ちゃん……」

邪神ちゃん「でも、その為にはゆりねを倒さにゃならんし。でもそれだって、日ごと弱っていくこの身体ではとても……」

ランラン「ご両親のことは、友達に伝言頼んでこっち(人間界)に来て貰えばいいんじゃないの?」

邪神ちゃん「バカ言え! パパ達はとてつもなく忙しいんだ。私の事なんかでこれ以上心配も迷惑も掛けたくありませんの!」

ランラン「命の危機だって時にそんなこと言ってられないでしょー?」


キョンキョン「……よ、よろこべ邪神ちゃん!」

邪神ちゃん「なにを?」

キョンキョン「幸運なことに、ここは古本屋! つまり、古今東西の知識の宝庫!」

キョンキョン「店中の本をひっくり返して探せば、邪神ちゃんが魔界に帰れる方法もきっと見つかるはずだヨ!」

邪神ちゃん「お、おい……そんなのいいって……」

キョンキョン「よくない! 絶対助けてあげるから邪神ちゃんはここでゆっくりしてるネ!」

・5時間後


キョンキョン「はぁ…はぁ……」

キョンキョン「邪神ちゃん! やったヨ! ついに見つけたんだヨ! 魔界に帰る方法!」

邪神ちゃん「な、なにぃぃぃ!?」ガタッ

キョンキョン「この本、本棚の奥で埃かぶってて見つけるのに苦労したヨ……」

キョンキョン「ほら、帰還の呪文って項目があるんだヨ。この魔導書上巻──」

邪神ちゃん「あ、もういい。オチ読めた」

キョンキョン「え、ええっ……!? どういうことネ!?」

邪神ちゃん「その本ならゆりねも持ってる。それには『下巻に続く』としか書いてませんの」

キョンキョン「ああっ!? ホントだ!」パラパラ


ランラン「ふっふっふ。諦めるのはまだ早いんじゃない?」

キョンキョン「お姉ちゃん!」

ランラン「キョンキョンは詰めが甘いなぁ。本棚の更に奥、壁との隙間に挟まっていたんだよ……」

ランラン「この魔導書下巻がねっ!」ドヤッ

キョンキョン「ぜ、全然気づかなかったヨ! 流石はお姉ちゃん!」

ランラン「なになに……『帰還の呪文、それは──』」

邪神ちゃん「『たいへん複雑なので下巻に全てを書ききれず、残りは魔導書外典に記すとする』だろ?」

ランラン「なっ……! なんで分かったの!? 邪神ちゃんエスパー!?」

邪神ちゃん「はぁ……このくだりをもう一回やる羽目になるとはな……」

ランラン「てか、ダメじゃんこの本……」

キョンキョン「外典かぁ……もう少し探してみるネ?」

ランラン「う~ん……すでにあれだけ探したんだし、多分もう何処にも……」

邪神ちゃん「はぁ~っ……なんか今日はすっげぇ疲れましたの……」

キョンキョン「ご、ごめんネ邪神ちゃん! お役に立てなくて……」

キョンキョン「それどころか、貴重な時間をムダにさせちゃって……キョンキョンのせいだ……ううっ……」ウルウル

邪神ちゃん「……別に、ムダだなんて思ってませんの」

キョンキョン「ふぇ…?」

邪神ちゃん「お、お前らとゆっくり遊べたからなっ……///」

キョンキョン「邪神ちゃああぁぁん……」ジーン…

キョンキョン「邪神ちゃん! 絶対諦めちゃ駄目ネっ!」ガバッ

邪神ちゃん「うぐっ!?」

キョンキョン「キョンキョン達も諦めないヨ! 邪神ちゃんが魔界に帰れる方法……」

キョンキョン「ううん、死なずに済む方法だって絶対見つけてみせるからネ!」ギューッ!

邪神ちゃん「痛だだだだ…! 分かったから離れろっ! お前、自分が馬鹿みたいに力強いの忘れたのかよ!!」



死まであと53日

~50日目~



チュンチュン…


邪神ちゃん(単眼ちゃんが魔界健康診断の結果を伝えに来て、今日で50日目──)

邪神ちゃん(つまり、死への折返し地点……)

邪神ちゃん(残りはたった、50日の命……)


邪神ちゃん「──うぷっ」

邪神ちゃん「おげええええええええええええっ……!!」ゲロロロロ


邪神ちゃん「はぁ…はぁ……今日もやっちまった……」

邪神ちゃん「よぉ、さっき食った朝飯。こんな早くに再会できるとはな……」ゲッソリ

邪神ちゃん「うぅ……軽口叩いてもまったく心が晴れない……」

邪神ちゃん「不安だ……とても一人じゃ居られませんの……」

邪神ちゃん「ミノスたち、今日は居るかな……」

・ミノス家


邪神ちゃん「ごめんくださーい」ガチャ

メデューサ「あ、邪神ちゃん……おはよう」

邪神ちゃん「あれ? なんだメデューサ、もう来てたのか」

邪神ちゃん「てか、集まってたなら何で私に声をかけねーんですの!」プンスカ

メデューサ「それが……」チラッ

邪神ちゃん「……?」


ミノス「ペルちゃん、大丈夫か?」

ペルちゃん「う、うん……少しは楽になったみたい。ありがとう……」フラフラ

メデューサ「ペルちゃんね、今朝から少し熱が出ちゃったの。それで色々と立て込んでて……」

邪神ちゃん「そ、そうだったのか……」

邪神ちゃん「まぁでも、二世の体調不良なんてもはや恒例行事みたいなもんだし、別段騒ぎたてる事でもないだろ?」

ミノス「いや。今回のはちょっとタチが悪いかもしれない……」

ミノス「ごめんなペルちゃん。あたしが無理に特訓に付き合わせちゃったせいだよな……」

ペルちゃん「やめてよぉ。全然ミノスお姉ちゃんのせいじゃないから」

邪神ちゃん「そうだそうだ。お前はいつも生意気だから、きっとバチが当たったんですの」

ペルちゃん「……ムカッ」

ペルちゃん「うん。その通りだね。日頃の行いが悪いとバチが当たっちゃうんだよね」

ペルちゃん「その証拠に、邪神ちゃんも──」


邪神ちゃん「あ゛あ゛ん゛!?」


ペルちゃん「……ご、ごめん。今のは流石に言い過ぎたよ」

邪神ちゃん「ああ! その通りだ! おめー、ガキだからって言っていい事と悪い事の区別もつかねーのか!?」グイッ

ペルちゃん「うっ…!? ごほっ……! げほっ…! ごほっ……! く、苦しっ……!」

ミノス「おいっ!」

メデューサ「やめてよ邪神ちゃん! ペルちゃん熱があるって言ったでしょ!?」

邪神ちゃん「おーおー、なんだメデューサ。こいつの生意気が感染ったのか? 私のやる事に口出しするなんて」

ミノス「いい加減にしろよ邪神ちゃん! ペルちゃんすぐに謝っただろ!?」

ミノス「そもそも、先にイジワル言ったのお前の方じゃんか!」

邪神ちゃん「なんだよっ! お前ら二世の味方ばっかしやがって!」

メデューサ「そんな事ないってば……」

邪神ちゃん「いいや! そんな事ある!」

邪神ちゃん「なんだよ! 私だって今日は朝から調子悪いんだぞ!」

メデューサ「えっ、そうだったの? それは心配だね……」

邪神ちゃん「おお! 私の境遇の方が二世なんかよりよっぽど深刻なんだから、私の心配をするべきですの!」

ミノス「あのなぁ……」

ペルちゃん「はぁ…はぁ……」

ペルちゃん「邪神ちゃん……体調悪いんだったら……今日はもう、帰った方がいいよ……」

邪神ちゃん「か、帰れだとぉ!?」

ミノス「……ああ。そうした方がいいかもな」

邪神ちゃん「ミノスまで!」

邪神ちゃん「おい、メデューサ! こいつらに何とか言ってやれ!」

メデューサ「ええっ?」ビクッ

メデューサ「わ、私も……今日はここに居ない方がいいと思う……だって、邪神ちゃん……」

邪神ちゃん「お、お前らぁ……!」ワナワナ

邪神ちゃん「ああそーかい! 分かったよ! 今日だけどころか二度とお前らとは遊んでやらねーよっ!!」

メデューサ「待って邪神ちゃん! 勘違いしないで!」

邪神ちゃん「バーカバーカバーカ! 金づる! ホルスタイン! スペランカーの主人公!」


バタン!


ミノス「はぁ……やれやれ。なにスネてるんだか……」ポリポリ

ペルちゃん「うぅ……頭痛いから大声出さないで欲しい……」

メデューサ「邪神ちゃん……」



死まであと50日

~54日目~



・花園家


ゆりね「あんた、最近メデューサ達と遊んでなくない?」

邪神ちゃん「ぎくっ」

ゆりね「あの子達と喧嘩でもした?」

邪神ちゃん「……あいつらが悪いんですの」ボソッ

ゆりね「いや、話聞かなくても分かるけど、絶対あんたが悪いパターンでしょ」

邪神ちゃん「なんだよぉ! 頭ごなしに決めつけてかかんなよ! 将来悪い親になるぞ!」

ゆりね「親になんかならない」

ゆりね「……で、いつになったら仲直りするつもり?」

邪神ちゃん「仲直りなんてしませんの! ゼッコーだよゼッコー!」

ゆりね「いいの? 友達いないと寂しいわよ?」

邪神ちゃん「いいんだよっ! 私にはゆりねが居るんだからっ!」


シーン…


ゆりね「はぁ?」

邪神ちゃん「………あ///」

ゆりね「あんた……流石にそれは……」ドンビキ

邪神ちゃん「ちちち……ちげーよっ/// 今のはつい弾みで言っちゃっただけだっつーの!」

ゆりね「なんか、中学時代お母さんを友達にカウントしてた同級生思い出して悲しくなっちゃった……」

邪神ちゃん「話を聞け! てか、お前は私のお母さんのつもりでいるのかっ!?」

ゆりね「そこまで孤独に追い込まれていたのね……」

ゆりね「今夜は隣に布団敷いて寝たいとか言い出さないでよ?」

邪神ちゃん「言わねーよ! もういい! 出かけてくるっ!」ガチャ

ゆりね「ミノスの部屋?」

邪神ちゃん「散歩だよっ!」バタンッ!

邪神ちゃん「あークソっ! とんだ恥かいた…」

邪神ちゃん「くっふぅ~…! これも全部あいつらのせいだぁ~っ!」プンスカ


芽依「あ」

邪神ちゃん「げっ」


芽依「大蛇丸ぅ~~♡♡♡」ガバッ

邪神ちゃん「う……うわああああああああああっ!?」


芽依「大蛇丸……あんたのこと、仲間の紙袋ちゃんから聞いたわよ? 可哀そうに……」オヨヨ

邪神ちゃん「そう思うなら今すぐ開放してくれぇぇぇ……!!」

芽依「こぉ~んなに可愛い大蛇丸が、もうすぐ居なくなっちゃうなんてぇ♡♡♡」スリスリ

邪神ちゃん「ひぃぃぃ……! 気色悪いからやめろおおぉぉ!」

芽依「ぐすん。きっと毎日毎日、死への恐怖に脅えているんでしょうね……」

邪神ちゃん「今の方が1000倍怖いけどな」

芽依「水くさい……どうしてすぐに私のところに来てくれなかったの?」

邪神ちゃん「貴重な残り寿命をドブに捨てろってのか?」

芽依「そうよ! 今からでも遅くない。私のお家に行きましょ!」グイ

邪神ちゃん「よ、よせっ!」

芽依「嗚呼……/// これからは、毎日死の恐怖に脅える大蛇丸を観察できるのね……♡♡♡」ウットリ

芽依「ダメっ……/// 考えただけで鼻血吹き出しそう……///」ゾクゾクゾクッ

邪神ちゃん(やっぱコイツ真性のキ〇ガイですの……)

芽依「安心して! いつかこんな日が来ることに備えて、大蛇丸用の檻も首輪もとっくに用意済よ!」

邪神ちゃん(ああ……私の一生ってなんだったんだろ……)

邪神ちゃん(ある日とつぜん魔界から人間界に呼び出されて……)

邪神ちゃん(それでも、なんとか今まではそれなりに楽しくやってきたのに、今度は急に余命宣告されて……)

邪神ちゃん(結局宿敵のゆりねも倒せず、魔界にも帰れず、親友たちとも喧嘩別れ……)

邪神ちゃん(極めつけに、キ〇ガイ女に捕獲されて、僅かに残った残りの人生もたった今終了しましたの……)

邪神ちゃん(なぁーんかもう、どうでもよくなっちゃったなぁ……)

芽依「……大蛇丸?」

邪神ちゃん「──いいぞ、芽依。お前の部屋に連れてってくれ」

芽依「えっ」

邪神ちゃん「ほら。抵抗しないから、もうお前の好きなようにするがいいですの」

芽依「お、大蛇丸……あなた……」ワナワナ

邪神ちゃん(ふふ……妙な気分ですの。色々と諦めたら、心の負担がスッと軽くなって……)


芽依「こんのぉ……バカチンがあああああああああああっっっ!!!」


バチコーン!!!


邪神ちゃん「ぐっふぇぇぇええええええええええええっっっ!!?」

芽依「大蛇丸……あなた、自分の価値をまるで分かっちゃいないわ!」

芽依「あなたはね、しっかりと自分を持ってるところが魅力なのよ!」

芽依「だからこそ、私の愛情を嫌がったり、抵抗したりする姿が最高に可愛いんだわ!」

芽依「なのに、どうしてしまったっていうの? あなた、まるで魂の抜け殻みたいになっているじゃない!」

邪神ちゃん(た、魂の抜け殻……? 他人の目にはそんな風に映ってるのか……)

芽依「悪いけど、今のあなたに私の愛情を受ける資格はない……ガッカリだわ……」

芽依「……それじゃ、任務に戻るわね」スタスタスタ

邪神ちゃん「ええ……」

邪神ちゃん「なんか、すげぇ自分勝手な主張を振りまいて去っていったけど……」

邪神ちゃん「とりあえず、助かったって事でいいんですの……?」


芽依「──でも、せっかく無抵抗なんだし今のうちに私のフェロモンでマーキングしとこぉ~っと♪」ギュゥゥゥーッ!

邪神ちゃん「ぎんにゃあああああああああああああああああっ!?」


芽依「チャオ♪ 大蛇丸♡♡♡」

芽依「今度会う時までに元のあなたに戻ってなかったら逮捕しちゃうゾッ☆」パキューン


邪神ちゃん(こ、こいつだけは本当に理解できませんの……)



死まであと46日

~57日目~



邪神ちゃん「最近遊び相手がいなくて退屈ですの……」

邪神ちゃん「と、言いつつミノスがバイトに出かけた時間を見計らって外に出る私……」ガチャ

邪神ちゃん「だって、まだ顔合わせるのが気まずいんだもん」

邪神ちゃん「……って、うわっ!?」


ペルちゃん「う、う~~ん……」バタンキュー

邪神ちゃん「に、二世!?」


ペルちゃん「邪神ちゃんか……久し振りだね……」

邪神ちゃん「なんだって廊下なんかで倒れてるんですの!?」

ペルちゃん「ミノスお姉ちゃん、忘れ物したままバイトに行っちゃったから、追いかけようとしたら眩暈がして……」

邪神ちゃん「お前……! まだ身体が良くなってないのか!?」

ペルちゃん「へーきへーき。ちょっと……横になってれば……治る……か、ら……」パタン

邪神ちゃん「二世!?」

ペルちゃん「はぁ…! はぁ…! はあっ……! う、ううぅぅ……!」

邪神ちゃん「す、すごい熱……!」

邪神ちゃん「とにかく医者に診せないと……」

邪神ちゃん「二世! しっかりしろよ! 今すぐ病院に連れてってやるからな!」ヨッコラショ

ペルちゃん「う…うう~~ん……」

ペルちゃん「邪神ちゃん……お姉…ちゃん……」

邪神ちゃん「っ///」

邪神ちゃん「う……うおおおおおおっ!! 病院まで最短コースだああああああああっ!!」ダバダバダバ

・病院


ミノス「ペルちゃん! まだ生きてるかっ!?」バターン!

メデューサ「ミ、ミノス……病院では静かにしないと……」


邪神ちゃん「あ……」

ペルちゃん「すー…… すー……」

邪神ちゃん「い、いま落ち着いて眠ったところですの……」


ミノス「よかったぁ……! てか、看護師さんが言ってた付き添いの人って邪神ちゃんのことだったのか」

メデューサ「『とても妹さん想いのお姉さんですね』なんて聞いたから、てっきりゆりねさんの方かと……」

邪神ちゃん「ぐっ……///」

邪神ちゃん「べっ、別にこれでこの間のこと許して貰えるとか思ってねーから。そんじゃ……」

ミノス「待てって」ガシ

メデューサ「許すもなにもないよ……」

邪神ちゃん「お、怒ってねーんですの……?」

ミノス「よく言うよ。一方的に怒って出てったのはそっちの癖に」

メデューサ「うん。怒りはしないけど悲しかったな」

メデューサ「今はみんな、少しでも多く邪神ちゃんと長く居たいって思ってるのに、顔を見せてくれなくなっちゃうんだもん」

邪神ちゃん「そ、そっちこそよく言いますの!」

邪神ちゃん「この間は寄ってたかって私を追い出そうとしただろう! 忘れたとは言わせねーかんな!」

ミノス「はぁ……やっぱ勘違いしてたか……」

メデューサ「くす。邪神ちゃん、いつも最後まで話を聞かないから」

邪神ちゃん「な、なんだよぉ……」

メデューサ「ペルちゃんね、魔界風邪だったんだよ」

邪神ちゃん「魔界風邪……? そうだったのか。どうり治りが遅いはずですの」


※魔界風邪=人間界でいうインフルエンザみたいなもの

ミノス「魔界風邪ってさ、身体が弱ってるヤツだとそばにいるだけで簡単に感染っちゃうだろ?」

メデューサ「邪神ちゃん、あの日体調悪いって言ってたから、早く帰さなきゃと思って……」

邪神ちゃん「な、なぁ~んだぁ……そうだったのかぁ……」フニャフニャ

邪神ちゃん「んもぉ~、紛らわしいんだからぁ。てっきり嫌われたのかと思っちゃいましたの♪」

ミノス「あの程度の事でいちいち嫌いになってたら、邪神ちゃんの友達なんて勤まるかよ」

メデューサ「それに、ちゃんと優しい所もあるって知ってるから、みんな邪神ちゃんの事が好きなんだよ」

邪神ちゃん「よしてくれぇ~///」


ペルちゃん「……うん。今回は邪神ちゃんの優しさに助けて貰った」

邪神ちゃん「わっ!?」


メデューサ「ペルちゃん。もう起きちゃって大丈夫なの?」

ペルちゃん「うん。だいぶ楽になった。皆、心配かけてゴメンね」

ミノス「いいって。あたしの方こそ、病気のペルちゃん置いてバイト行っちゃってゴメンな。どうしても休めなくてさ……」

ペルちゃん「それは仕方ないよ。こうしてお仕事中に駆けつけてくれただけで嬉しい」

邪神ちゃん「二世ぇ~、意識が朦朧としてて覚えてないだろうがなぁ~ww」ニヤニヤ

邪神ちゃん「お前、私のことお姉ちゃんって呼んでたんですのよぉ~ww」ニヤニヤ

メデューサ「もう! 邪神ちゃん、からかわないのっ!」

ミノス「調子が戻った途端コレだもんなぁ……」

ペルちゃん「……うん。ちゃんと覚えてるよ」

邪神ちゃん「へ?」

ペルちゃん「だって私、邪神ちゃんの事だってお姉ちゃんだと思ってる。これ、前にも言ったよね?」

邪神ちゃん「い、言ってたけどさ……」

ペルちゃん「なんなら、もう一回呼んであげようか? 邪神ちゃんお・ね・え・ちゃ・ん♪」

邪神ちゃん「……っ///」プシューッ

メデューサ「くす。よかったね、邪神ちゃんお姉ちゃん♪」

ミノス「完全に一本取られてやんのww」

邪神ちゃん「や、やめろよお前そーいうのっ! 素直かっ!」

ペルちゃん「素直だよぉ~。誰かさんと違ってガキじゃないも~んww」ニヤニヤ

邪神ちゃん「くっふぅ~! 身長の高さから突き落とすぞ! このスペランカーの主人公!」

ミノス「その罵倒、絶対言いにくいよな」



死まであと43日

~59日目~



・管理人部屋


ぴの「どうぞ。金色の衣を纏いし紅顔の美少年ですわ」コトッ

メデューサ「ありがとうございます。わぁ! 美味しそうなアップルパイ!」

ぴの「金色の衣を纏いし紅顔の美少年ですわ」

メデューサ「えっと……とにかくとっても美味しいです」

ぴの「それはよかった。あなたとは是非お近づきになりたいと常々思っておりましたのよ」

メデューサ「そうなんですか? 嬉しい……」

メデューサ「でも、どうして地味な私なんかと……?」

ぴの「あなたの石化能力は、使い方次第で来るべき天界の使者との戦いに大いに役立つからですわ♪」

メデューサ「来るべき戦い……? あの、私ケンカはちょっと……」

邪神ちゃん「やい、ぴの。私の分はねーんですの? 金色のガッシュベル」

ぴの「あら、そういえば邪神ちゃんさんも付いてきていたのでしたね」

ぴの「生憎ですがあなた、もう余命いくばくも無いのでしょう?」

邪神ちゃん「う゛」

邪神ちゃん(のえるさんですら若干の気遣いを見せたのに、随分ストレートに言ってくれますの……)

メデューサ「あ、あのっ……! 今その話は……」アタフタ

ぴの「あら、話題を避けたところで着実に忍び寄る死まで遠ざけたりはできませんわ」

ぴの「とにかく、もうじき消えてなくなる役立たずのあなたを持てなす必要なんてどこにあるのです?」

邪神ちゃん「お前! ほんっと嫌なやつだな!」

ぴの「まぁ、貴重なポケモンが一匹減るのは悲しむべき事ですが、それがあなたで済んだのは不幸中の幸い……」

邪神ちゃん「どーいう意味だよ!」

ぴの「だって邪神ちゃんさん、見たところ仲間の悪魔の中で一番弱いでしょう?」

邪神ちゃん「な……なんだとコンニャロぉ──っ!! そんなワケあるかぁ──っ!!」

メデューサ(LV53)「そ、そうですよ。邪神ちゃん、私なんかよりずっとずっと強いもんね!」

邪神ちゃん(LV46)「お、おぅ……そうだとも……」

ぴの「ま、そういう事にしておいてあげましょう」

ぴの「……くす。メデューサさんもご友人に色々気を遣って大変ですわね」

メデューサ(LV53)「?」

邪神ちゃん(LV46)「てんめぇーっ! もう許さんっ! 勝負だ! 表へ出ろっ!!」

ぴの「勝負……?」ピク

ぴの「そういえば、あなたとの決着がまだついていませんでしたね……」

邪神ちゃん「あれ? 私ら前にも勝負なんかしてたっけ?」

ぴの「忘れたのですか!? この間の世紀のお菓子作り対決のことですよっ!」

邪神ちゃん「ああ。アレか」

邪神ちゃん「あんなの、ただそれぞれが作ったケーキを持ち寄っただけじゃねーですの」

ぴの「な、なんですかその余裕は……! 天界お菓子作りコンテスト・グランプリのわたくしにあんな屈辱を味あわせておいて!」

邪神ちゃん「ケーキしか味あわせてねーっつーの」

邪神ちゃん「でもまぁ、確かに美味かったな。金色のガッシュベル」

邪神ちゃん「今日はイジワルされて食わせて貰えねーけど……」チラッ

メデューサ「邪神ちゃん、よかったら私の食べて?」

邪神ちゃん「いいのか? やったぁーっ♪」ヒョイパク

邪神ちゃん「う~ん……やっぱ美味いぞぴの! 褒めてつかわすぅ~♪」

ぴの「と、当然です! 言ったでしょう? わたくしは天界お菓子作りコンテスト・グランプリに輝いたほどの実力者ですわよ?」エッヘン

ぴの「しかも、金色の衣を纏いし紅顔の美少年は、これが本来の姿ではありません」

ぴの「今は間に合わせで紅玉を使っていますが、本来はエデンの園から取り寄せたリンゴ、通称エデリンを使用するもの……」

ぴの「完成形となった金色の衣を纏いし紅顔の美少年の美味しさは、今のソレとは比較になりませんのよ!」

邪神ちゃん「おおっ! それは是非とも食べてみたい!」

邪神ちゃん「そうだメデューサ! お前この間お土産にエデリン持って来てくれたよな!? あれ、どうした?」

ぴの「ええっ!? あの超人気予約待ち商品が手に入ったのですか?」

メデューサ「はい。200年ほど前に頼んでいたものが忘れた頃に……」

メデューサ「でも、ゴメンね邪神ちゃん。流石にもう全部食べちゃったよ……」

邪神ちゃん「なんだとぉ!? なんでもしもの時の為に備蓄しておかないんですの!」

メデューサ「だ、だってナマモノだし……いくら冷蔵庫に入れておいても限度があるから……」

邪神ちゃん「はぁ……今から急いで注文しても、届くのは早くて200年後かぁ……」

メデューサ「最近どんどん人気が出てるらしいから、今はもっと掛かるだろうね」

邪神ちゃん「あーあ。死ぬまでに食ってみたかったなぁ。ぴのの自信作……」

ぴの「本当に、残念でなりませんわ……」

ぴの「このままでは、わたくしが負け惜しみしたままあなたに勝ち逃げされた形になってしまう……!」ギリリ

メデューサ「二人とも……」



死まであと41日

~60日目~



・エデンの園


メデューサ「そこをなんとかお願いしますっ!」ペコ

果樹園の悪魔(サイクロプス)「だから無理だって!」

メデューサ「無茶なお願いなのは分かっています! だけど、お友達の為にどうしても必要なんです!」ペコペコ

サイクロプス「あんたもしつこいな! 何度頭下げられたって無理なもんは無理だ。仕事の邪魔だから帰ってくれ!」

メデューサ「……お、お金ならいくらでもお支払いします!」

サイクロプス「なんだと……?」ピク

メデューサ「仰せなら全財産投げ出す覚悟です! 私、今日は本気で来ているんです!」

サイクロプス「ふざけんなっ! あんたが本気かどうかなんてこっちの知った事か!」

メデューサ「ひゃうっ!?」ビクッ

サイクロプス「本気ってなら、俺らだって消費者の皆さんに喜んで貰う為に本気でリンゴ作りやってんだ! 金の問題じゃねえ!」

メデューサ「ご、ごめんなさい……軽はずみな事を言ってしまいました……」

メデューサ「でも、それでも私は……邪神ちゃんのために……!」

サイクロプス「はぁ……お嬢さん。さっき俺、金の問題じゃないって言ったよな?」

メデューサ「はい……」

サイクロプス「よく見りゃあんた、まだずいぶん若いじゃねえか。よし、これならいけそうだ……」ジロジロ

メデューサ「あ、あの……?」

サイクロプス「お嬢さん、身体を使う覚悟はあるかい?」

メデューサ「えっ」

サイクロプス「──あんたの本気と覚悟、見せてくれよ」ニタリ



死まであと40日

~63日目~



・商店街


邪神ちゃん「よっ! メデューサ。浮かない顔してどうしたんですの?」

メデューサ「あ、邪神ちゃん……」

邪神ちゃん「暇なら一緒にさぼうる行かねー?」

邪神ちゃん「もちろんお前の奢りで、なーんてな。それは冗談ですのーwwwwww」バシバシッ

メデューサ「痛っ……!」

邪神ちゃん「ありゃ? そんなに強く叩いちゃった?」

メデューサ「う、ううん……違うの。ちょっと腰を痛めてて……」

邪神ちゃん「おいおい、女の子は腰を大事にしなきゃいけないって家のママも言ってたぞ」

メデューサ「そ、そうなんだ……」

メデューサ「ご、ごめん邪神ちゃん。私これから用事あるから……」

邪神ちゃん「えー? なんだよ、私の誘いを断るほどの用事って」

メデューサ「う、うん。ちょっとお仕事増やしたんだ……」

邪神ちゃん「ほほぅ。それは感心♪」

邪神ちゃん「んで、どんな仕事なんですの?」

メデューサ「ま、まだ内緒っ……」

邪神ちゃん「えー? なんだよそれ。ケチケチすんなよぉ~ 何処だかおせぇてよぉ~」スリスリ

邪神ちゃん「せめてヒントくれよぉ~ 頭文字だけでもぉ~」

メデューサ(頭文字くらいなら教えても大丈夫かな……)

メデューサ「えっと…… “エ”から始まる場所だよ」

邪神ちゃん「よっしゃ。考える楽しみが出来たぞ♪ 次に会った時は答え教えてくれよな」

メデューサ「う、うん……そろそろ時間だからもう行くね?」

邪神ちゃん「がんばれよぉー♪」


邪神ちゃん(途中からなんとなく察しがついたから、さりげなく探りを入れてみたが、やはりそうか……)

邪神ちゃん(メデューサのやつ…… “エッチなお店”で働いてんのか……)



死まであと37日

~64日目~



・エデンの園


サイクロプス「よぉーし! そっちの樹はもういい! 今度はこっちを頼む!」

メデューサ「は、はぁーい!」

サイクロプス「フハハハハハ! 働け働け!」

サイクロプス「繁忙期終了までに1000人は泣きながら辞めていく地獄のブラックバイトだ!」

サイクロプス「ちなみにたった1週間の期間を満了まで勤め上げた悪魔はまだ一人たりといない!」

サイクロプス「きっと、お前もすぐに根をあげることだろうよ!」

メデューサ「そ、そんな事ありません! 私……お仕事を途中で投げ出したりしない!」ヨロヨロ

サイクロプス「ほほぅ。よくぞ吠えた」

サイクロプス「だが、それは口先でなく行動で示せ!」

サイクロプス「もし期間満了まで無事生き残ることが出来たら、特別手当としてエデリンを一玉くれてやろう!」

メデューサ「ほ、ほんとうですか……!?」パアアァァ

サイクロプス「まぁ、万に一つもありえん事だがな。フハハ……フハハハハハ──ッ!!」

メデューサ(邪神ちゃん……待ってて……!)



死まであと36日

~68日目~



・花園家


邪神ちゃん「そろそろ3時のおやつにすっかなぁ……」ゴロゴロ

邪神ちゃん「戸棚になんかあったっけ……」


ピンポーン♪


邪神ちゃん「どなた?」ガチャ

メデューサ「はぁ……はぁ……邪神ちゃん、私……やったよ……!」ボロボロ

ぴの「お邪魔しますわ」

邪神ちゃん「ありゃ、メデューサとぴの? 最近ずいぶん仲がよろしいんだな」

邪神ちゃん「てか、メデューサはなんで満身創痍なんですの?」

メデューサ「えへへ……ちょっとね。そんな事より見てよこれ。ぴのさんに焼いてもらったんだ」

ぴの「ほら、これがあなたのプライドを完膚なきまでに叩き伏せる、わたくしの最高傑作──」

ぴの「金色の衣を纏いし紅顔の美少年・真実(トゥルー)ですわ!」


邪神ちゃん「こ、この神々しいまでの輝きは……!?」

邪神ちゃん「見える……見えるぞ……! 輝きの向こうに、金色の衣を纏いし紅顔の美少年の姿が……!」

邪神ちゃん「でも、つーことはエデリンが手に入ったのか……? いったいどうやって?」

メデューサ「どうだっていいじゃない、そんなこと。さっ、早速食べてみてよ」

邪神ちゃん「あ、ああ……」ゴクリ

邪神ちゃん「いただきまーす……」パク

邪神ちゃん「──ハッ!?」

メデューサ「あ、邪神ちゃん。気が付いた?」


邪神ちゃん(な、なんだかデジャヴな光景ですの……)キョロキョロ

邪神ちゃん(そうか私……あまりの美味さに気を失って──)


邪神ちゃん「お、おい……! 私、今度はいったいどれくらいの間……」

メデューサ「安心して。ほんの30分くらいだよ」

邪神ちゃん「それでも30分もかよ……」

ぴの「ふふん。感想は……聞くまでもありませんわね」

邪神ちゃん「……ぴの」

邪神ちゃん「……正直恐れ入った。口では言い表せないほど美味でしたの!」

ぴの「ええ。そうでしょうとも」

邪神ちゃん「世界は広いんだな……悔しいが、私の完敗だ」

ぴの「あら、あっさり負けを認めてしまっては面白くありませんわ」

邪神ちゃん「え……?」

ぴの「あなたのチーズケーキだって、たいへん素晴らしいものでしたわよ?」

ぴの「ただ、まだまだ改善の余地はあるはず。現状に満足してしまわない事が、お菓子作りには何より肝心ですのよ」

邪神ちゃん「はは……」

邪神ちゃん(そういや、前にもゆりねに同じようなこと言われたっけな……)

ぴの「ま、グランプリの義務として、挑戦はいつだって受け付けてあげますわ」

邪神ちゃん「あんがとよ、ぴの……!」

ぴの「よ、よしてください! 邪神ちゃんさんにお礼なんて言われたら、ロンギヌスの槍が降り注ぎますわっ///」

メデューサ(うんうん。よかったね、邪神ちゃん!)ホロリ

邪神ちゃん「それに、メデューサもな」

メデューサ「な、なんで私にまでお礼言うの? 私なにもしてないよっ?」アセアセ

邪神ちゃん「え~、そうかなぁ~ww」

メデューサ「そ、そうだよっ。ヘンな邪神ちゃん……」

邪神ちゃん「ま、いいや」

邪神ちゃん「そんじゃメデューサ、話は変わるんだけどさ」

メデューサ「なぁに?」

邪神ちゃん「──お前から借りまくってる金、いま合計で幾らくらいになってる?」



死まであと32日

~73日目~



・早朝のジョギングコース


邪神ちゃん「はぁ…! はぁ……! ぜぇ…! はあっ……!」タッタッタ…

邪神ちゃん「へあっ…! ひいっ…! はぁっ……!」タッタッタ…


ミノス「おーい! あんま離れすぎんなよぉーっ!」

ペルちゃん「んもう! 遅いと置いてっちゃうよ!」


邪神ちゃん「お、お前らこそ……どんなペースで飛ばしてんだよ……」ヨロヨロ

ミノス「こんなの飛ばしてるうちに入らねーっての」

ペルちゃん「邪神ちゃん体力無いなぁ。私のこと、散々もやしだのスペランカーの主人公だの馬鹿にしといて」

邪神ちゃん「う、うっせえ! 朝も早よから生意気ですの!」

ペルちゃん「へへーん! 捕まえてみなよー♪」タタタ…

邪神ちゃん「ま、待ちやがれですのぉ……!」ヨタヨタ

ミノス「うっし! その調子でゴールまで走っていけぇー!」

・見晴らしのよい公園


邪神ちゃん「ぜぇ…! ぜぇ……! 今朝で一生分は走りましたの……」グッタリ

ミノス「お前の一生分の走行距離は10キロにも満たないのかよ」

邪神ちゃん「こっちはなぁ、おめーみたいな体力馬鹿じゃねーんだよ!」

ミノス「へへっ♪ 体力こそ命、ってな」

邪神ちゃん「……ったく、そんなに鍛えまくっていったい何処を目指してるんですの?」

ミノス「おっ! それ聞いちゃう?」

ミノス「実はあたし、ずっと目標にしてる悪魔がいてさー」

邪神ちゃん「うっわ……メンドクセー話題振っちまったよ……」

ミノス「連れないこと言うなよ。邪神ちゃんも知ってるだろ? ジャッシー・チャンって」

邪神ちゃん「んあー。あの魔界最強候補には必ず名前が挙がる武闘家兼アクションスターだろ」

邪神ちゃん「そりゃ知ってますの。私らの世代にゃ共通のヒーローみたいなもんだからな」

ミノス「あのタフさにゃシビれるよなー。なんでも、彼のアクションはスタント一切無しのガチンコで撮ってるらしいぜ?」

邪神ちゃん「何を隠そう、私が酒の味を覚えたのってジャッシー主演の『魔界酔拳』に感銘を受けたからなんですの」

ミノス「あたしはやっぱ『捨てるパンX』かな。敵の魔ーシャルアーツ使いとの対決シーンは、何度観ても手に汗握るぜ!」

邪神ちゃん「私、なんとなく名前が似てるってだけで子供の頃ちょっと鼻が高かったもんなー」

ペルちゃん「お水買ってきたよー」

ミノス「おお、あたしはいいから早く邪神ちゃんに飲ませてやってよ」

邪神ちゃん「んぐ…んぐ……ごきゅ…ごきゅ……!」

ミノス「おいおい、いっきに飲むなって」

邪神ちゃん「ぷはあっ! 生き返ったぁ~!」

邪神ちゃん「いやぁ、寿命が尽きる前にくたばるかと思いましたの♪」

ミノス「へいへい」

ペルちゃん「最近この話題スルー出来るようになってきたよね」

ミノス「どうだ? たまには身体を動かすのもいいもんだろ」

ペルちゃん「でも、まさか邪神ちゃんの方からジョギングに付き合いたいなんて言ってくるとは思わなかったけどね」

ミノス「ホントにな。いったいどういう風の吹き回しだよ?」

邪神ちゃん「……別に。一回くらいお前らと走ってみるのも悪くないかと思ってな」

ミノス「そっか……」

ペルちゃん「……邪神ちゃん見て。もうじき夜明けだよ。あの辺りから朝日が昇るから」


邪神ちゃん「おお……!」


ミノス「綺麗なもんだろ?」

ペルちゃん「頑張って走ってきて良かったって思える瞬間だよね」


邪神ちゃん「はぇ~……」キラキラ

ミノス&ペル「……」

ミノス「……あのさ邪神ちゃん、一回だけとかいわず、明日からも一緒に走らないか?」

邪神ちゃん「えっ?」

ペルちゃん「そうだよ。今日みたいに毎日綺麗なもの見てたら、邪神ちゃんの汚れた心も洗われるって」

邪神ちゃん「お、お前はまた……!」

ペルちゃん「なにより……健康にもいいし……ううっ……ひっく……!」ポロポロ

邪神ちゃん「二世……」

ミノス「おい……ペルちゃん、泣くなって……!」

ペルちゃん「ぐすっ……だっでぇぇぇ……」ポロポロ

邪神ちゃん「……ったく。仕方ないな」

邪神ちゃん「あんまり乗り気はしねーけど、二世が泣くほど私と居たいなら明日からも来てやりますの」

ペルちゃん「ホント!? やったぁ♪」

ミノス「へへ。誘ってみてよかったな♪」

邪神ちゃん「言っとくが私は朝が弱いんだ。それでも付き合ってやるんだから有難く思えよ!」

ペルちゃん「なにそれ偉そうに! そんなこと言うなら明日はもう待ってあげないからねっ!」



死まであと27日

~74日目~



チュンチュン…


ミノス「──で」

ペルちゃん「昨日の今日で早速寝坊、と……」

ペルちゃん「まったく! 信じられないよ! 昨日の私の涙はいったいなんだったのっ!?」

ミノス「まぁ仕方ないよ。なんたって邪神ちゃんだし……」

ペルちゃん「どうする? 叩き起こしにいく?」

ミノス「いや。ゆりねちゃんまで起こしちゃうし、それはやめとこう」

ペルちゃん「もう! ホントにどうしようもないんだから!」

ミノス「覚えときなペルちゃん。これこそが邪神ちゃんだよ」

ペルちゃん「ミノスお姉ちゃん、なんだかちょっと嬉しそう」

ミノス「……そうか? いや、だってあいつ、昔から全然かわんねーんだもんww」

ミノス「ほんっと……どうしようもないヤツだよな……」ジワッ

ペルちゃん「ミノスお姉ちゃん……」

ミノス「ごめ……ちょ……たんま……!」ポロポロ

ペルちゃん「……私、先に行ってるよ」

ペルちゃん「ミノスお姉ちゃんなら10分くらいここに居たってすぐ追いついてこられるでしょ?」

ミノス「お、おお……! あんがとな、ペルちゃん……」ポロポロ



死まであと26日

~79日目~



・公園


邪神ちゃん(刻一刻と、死の足音が近づいて来ている……)


ぺこら「よっこらせ、と……」


邪神ちゃん(まだ日数に余裕があるうちは、こうして外にでも居れば気を紛らわせていた……)


ぺこら「よし、水汲み終わり。今日は天気もいいし、ついでに洗濯もやってしまいましょう!」


邪神ちゃん(だが、そんな小手先の誤魔化しはもはや通用しない……死が現実のものとなりつつあるのだ……)


ぺこら「次は野草摘みに行きましょうか。この後スーパーのタイムセールがあるから、あまり時間はかけられませんが……」


邪神ちゃん(怖い……ただただ不安だ……! 神でも仏でもいい……! なにか大きな存在にすがりたい……!)


ぺこら「おおっ! 50円玉が落ちている! ですが、ネコババはいけません。あとで交番に届けておきましょう」


邪神ちゃん(って、なんと恐れ多いことを考えるんだ私は……! そんな事したら魔界のパパ達に顔向けできませんの……!)


ぺこら「ふぅ……やっと一息つけそうです。駅前で配ってたティッシュに付いていた飴ちゃんをいただくとしましょう♪」アーン


邪神ちゃん「……おいっ! 知り合いがずっと頭抱えて悩んでんだから声くらいかけろや!」

ぺこら「うわっと!?」

ぺこら「な、なんですか……お前の悩みなんて、どうせ借金で首が回らなくなったとかそんなのでしょう?」

邪神ちゃん「んなワケあるかっ! お前だってメデューサから私の事情聞いてんだろっ!」

ぺこら「……ええ。確かに紙袋の悪魔から伺いました。さぞお辛い事でしょうね」

ぺこら「すみません。ぺこらも少し薄情でした。お前は面倒ばかり持ち込んでくるから、いつもの癖でつい……」

邪神ちゃん「まぁ、そこのところは私も否定しないけどさ……」

ぺこら「どうです? 今のお前には、ひょっとして神の教えが救いになるかもしれませんよ?」

邪神ちゃん「か、神の教えだぁ~!?」ギクッ

邪神ちゃん「ば……馬鹿言え! 見ての通り私は悪魔だぞ! そんなもん必要あるかっ!」

ぺこら「大丈夫。みなさん初めはそう仰います。しかし、神のありがたいお説教を聞き、少しずつ認識を改めるのです」

邪神ちゃん「そ、そういうものなのか……?」

ぺこら「さぁ、ここではなんですから、ぺこらの家へ」

ぺこら「まぁ家と呼ぶのも憚られるようなダンボールハウスですが……あ、狭いので注意してください」

・ぺこらハウス


邪神ちゃん「お前これ、狭いとかそーいう次元じゃ……明らかに定員オーバーだろ……」ギッチギチ

ぺこら「うっ……申し訳ない……ぺこらも誰かを招き入れるのは今日が初めてなもので……」

邪神ちゃん「なんで? のえるさんとかぴのは呼ばねーんですの?」

ぺこら「……あの二人がこんな場所に上がってくると思いますか?」

邪神ちゃん「そっか。お前もなかなか寂しいヤツなんだな……」

ぺこら「どうします? やっぱり一度外に出ましょうか?」

邪神ちゃん「いや……いま下手に動いたらここ、内側から崩壊するぞ?」

ぺこら「ううっ……それは困る……」

邪神ちゃん「それに、神の教えなんか聞いてるのを万一魔界の知り合いにでも見られたら生きていけねーから、このままでいいや」

邪神ちゃん「つっても、どのみち長くは生きられないんだから別にそれでもいいんだけどさ……」

ぺこら「……さて、それでは何からお話しましょう」

ぺこら「そうですね。最初は分かりやすく、創世記のお話から……」

邪神ちゃん「……のえるさんの店に救いがあるんですの?」

・5時間後


ぺこら「──つまりですね、死は決して終わりではないのです」

ぺこら「あくまで肉体を離れた魂が天に召され、最後の審判の時を待つ為の……」

邪神ちゃん「」ジィーッ

ぺこら「えっと……ずいぶんと熱心に耳を傾けてくれていますが、そんなに面白いですか?」

邪神ちゃん「んあ……? 悪ぃ。まったく聞いてなかったわ」

ぺこら「な、なんですかっ! 珍しくぺこらの顔をジッと見つめてくるから、てっきり話に聞き入ってくれているとばかり……」

邪神ちゃん「ああ……スマンな」

邪神ちゃん「いや、だってさ。お前会った時からすっげーアグレッシブな寝癖ついてるのに、超真剣な顔で語ってくるから面白くて……」

ぺこら「くっ……/// だったら早く教えてくださいよっ! もうっ!」ワシャワシャ

邪神ちゃん「おいおい、もっと酷くなってんぞー」

ぺこら「はぁ……やはり悪魔には神のありがたいお言葉など無意味だったのでしょうか……」

邪神ちゃん「……いや、少なくともこの時間はムダでもなかったぞ」

ぺこら「えっ?」

邪神ちゃん「なんだか、ちょっと心が軽くなりましたの♪」

ぺこら「な、なぜです?」

邪神ちゃん「さぁ? なんでだろう?」

邪神ちゃん「ひょっとして、子供の頃の秘密基地ごっこを思い出してちょっと楽しかったからかもな」

ぺこら「まったく……ワケのわからない事を」

ぺこら「まぁいいです。すっかり話し込んでしまいましたが、ここらでお開きにしましょう」

ぺこら「最後に、なにか質問はありますか?」

邪神ちゃん「ん~? ああ、もちろんあるぞ」

ぺこら「おおっ! やっぱり少しは興味を持ってくれたのですね!」

邪神ちゃん「お前さ、いっつも妙なバイトしてるけど、ああいうのってどこから見つけてくんの?」

ぺこら「──はい?」



死まであと21日

~82日目~



邪神ちゃん「」チーン


ゆりね「邪神ちゃん……あんた……どうして……!」


メデューサ「ごめんなさい、ゆりねさん……邪神ちゃん、ゆりねさんにだけは絶対に知られたくなかったんだって……」

ミノス「最初は何言ってんだと思ってたけど、今ならなんとなくその気持ちも分かるよ……」

ペルちゃん「いやあああっ! 邪神ちゃんお姉ちゃん! 私もう生意気言わないから……お願いだから目を覚まして!」ユッサユッサ


邪神ちゃん「」


ゆりね「あんた……最期の最期で一番とんでもない馬鹿やってくれたわね……」

ゆりね「だけど……私のお仕置きが恐いからって、なにもあの世まで逃げる事ないじゃない……!」

メデューサ「ゆりねさん……」ウルウル


邪神ちゃん「」


ゆりね「うっ…うわあああああああああ……! うわあああああああああああああん……!!」

邪神ちゃん「──はっ!?」

邪神ちゃん「なんだ夢か……」


邪神ちゃん「……ふふふ。なんてな。ホントは途中で夢オチだって気付いてましたの♪」

邪神ちゃん「せっかくだから最後まで見てやることにしたんですの。いやぁ~、夢から覚めると逆に生きてる実感を味わえる~♪」

邪神ちゃん「それにしても、ゆりねの奴ブッサイクな顔で泣いてたなぁwwwwww」

邪神ちゃん「あひゃひゃひゃwwwwww 目覚めの瞬間からいい気分ですのぉ~wwwwww」


ゆりね『誰がブサイクよっ!』ドンッ! ←押入キック 


邪神ちゃん「ひいぃぃぃ!? 独り言が大きすぎましたのっ!?」



死まであと18日

~86日目~



・駅前


メデューサ「邪神ちゃん、今日も留守にしてた……最近ずっとだよ……」

メデューサ「どこかに出かけてるって事は、前みたく塞ぎ込んでるワケじゃなさそうだけど……」

メデューサ「なるべく一緒に居たいのに、いったい何処へ……」


メデューサ「あ、居た」

邪神ちゃん「お、おお。なんだ、買い物か?」


メデューサ「う、ううん……そうじゃなくてね。邪神ちゃんと遊びに来たんだけど、アパートに居なかったから……」

邪神ちゃん「そ、そっか……悪いけど、今日は用事があるからさ」ソワソワ

メデューサ「うん。このところ毎日みたいだね?」

邪神ちゃん「ぐっ!」ギクッ

メデューサ「ねぇ、いったいどんな用事なの?」

邪神ちゃん「お、お前には関係ねーことですの……!」

メデューサ(邪神ちゃん、なにか隠し事してる。いつかとは逆の立場になっちゃった……)

ぺこら「す、すみませーん! 遅れてしまいましたぁー!」

メデューサ「ぺこらちゃん?」


ぺこら「おや、あなたは……」

メデューサ「こ、こんにちは……」

邪神ちゃん「おっせーよぺこら! 集合時間とっくに過ぎてんぞ!」

ぺこら「申し訳ない……タイムセール中のスーパーを見つけてしまったもので、つい……」

邪神ちゃん「ったく。さっさと行くぞ!」


メデューサ「あ、あの……用事って、ぺこらちゃんと一緒にってこと?」

邪神ちゃん「だから、お前には関係ねーことですの」ギロッ

メデューサ「そんな……」

邪神ちゃん「ぺこら! ぼけっとしてんな! ホントに間に合わなくなんぞ!」

ぺこら「ええっ? でも、彼女はよいのですか?」

邪神ちゃん「ほっとけ!」スタスタ

ぺこら「あぅ……そ、それでは失礼します……」ペコラ


メデューサ「邪神ちゃん……」

・数十分後


ミノス「よっ。何してんだ、こんなとこで突っ立って?」

メデューサ「あ、ミノス……」

メデューサ「ごめん……私ちょっと脳が破壊されたから、もう帰って休むね……」フラフラ

ミノス「脳が!? 大丈夫なのか!?」ガビーン



死まであと14日

~90日目~



メデューサ「この頃、邪神ちゃんが冷たい……ぺこらちゃんとは仲良くしてるのに……」

メデューサ「でも、そうだよね。ぺこらちゃん、天使さんだもん」

メデューサ「きっと、今の邪神ちゃんには彼女の救いが必要なんだよね……」

メデューサ「邪神ちゃんが心安らかでいられるなら……それでいいはずなのに……」ホロリ

メデューサ「でも……! それでも私はっ……!」ポロポロ


邪神ちゃん「おーい、なに泣きべそかいてんですの?」ヒョコ

メデューサ「きゃっ! 邪神ちゃん!? な……泣いてなんかないもんっ!」ゴシゴシ

邪神ちゃん「おいおい、あんま目ぇ擦んなって。大事なアイデンティティだろうが」

メデューサ「今日はぺこらちゃんは一緒じゃないの?」

邪神ちゃん「ん? ああ、あいつはもう用済みだからな」

メデューサ「そ、そうやって必要なくなったら女の子を平気でポイするんだ……ひどいよっ! 邪神ちゃんの鬼畜っ!」

邪神ちゃん「なーに言ってんだ、お前?」

邪神ちゃん「ほれ、ひどい奴がこんな事するか?」

メデューサ「……なぁに? この封筒」ピラッ

邪神ちゃん「いいから、開けてみますの」

メデューサ「えっ、お金……? これ、どうしたの……?」

邪神ちゃん「ふっふっふ」

メデューサ「まさか……! 今までずっとぺこらちゃんと行動してたのも……!」

邪神ちゃん「そのまさかですの」ドヤッ

メデューサ「見損なったよ邪神ちゃん! いくらお金に困ってるからって、ぺこらちゃんまで巻き込んで銀行強盗するなんて!」

邪神ちゃん「ズコ───ッ!!」

邪神ちゃん「ちっげーよ! ベタなボケかましやがって! なんでそんなに私のこと見損なってるんだっ!」

邪神ちゃん「その金はな! ぺこらに紹介してもらったバイトでコツコツ稼いだんだよっ!」

メデューサ「えっ……? アルバイトしてたんだ、邪神ちゃん……」

メデューサ「で、でもどうして……? お金なら、今まで通り私に言ってくれれば……」

邪神ちゃん「はぁ……ほんっとニブいヤツですの」

邪神ちゃん「それとも、額が少なすぎて気付かなかったか? 一応それ、今までお前から借りた金の返済のつもりなんだけど」

メデューサ「ええっ!?」

邪神ちゃん「そんな驚くなよ。まぁ、確かに借りた額の100分の1くらいにしかならねーけどさ……」

メデューサ「い、いいんだよそんな事! 邪神ちゃんが返すって約束覚えてくれてて私すごく嬉しい!」

メデューサ「でも私……こんなお金受け取れないよ……」

邪神ちゃん「なんだ。やっぱ耳を揃えてじゃなきゃ不満か?」

メデューサ「違うよ! だって、邪神ちゃんが大切な時間を削って手にしたお金だよ? 邪神ちゃんが使うべきだよ!」

邪神ちゃん「受け取ってくれよ。私、自分で働いてみて分かったんだ……」

邪神ちゃん「今までお前は、私の為にその大切な時間を割いてくれてたんだ、って」

メデューサ「邪神ちゃん……」ホロリ

邪神ちゃん「欲をいえば、後ぐされなく全額返済といきたかったんだけどさ……」

邪神ちゃん「雇い主に土下座までして数十年分の給料前借りできないか交渉したんだけど断られたわ」

メデューサ「さ、流石にそこまでダイナミックな前借りは難しいんじゃないかな……」

邪神ちゃん「ま、全然足りなくて恐縮だけど、そーいうワケだからそんだけで勘弁してくれや」

邪神ちゃん「盛大な借りパクになっちまって詫びの言葉もないが……」

メデューサ「いいよ……いいんだよ……! もう充分すぎるくらい、お返しもらったよ……!」ポロポロ

邪神ちゃん「その落とし前ってワケじゃないけど、私……もうすぐ死ぬからさ……」

メデューサ「そんな言い方しちゃダメだよ! 邪神ちゃんは絶対死んだりなんてしないもん!」

邪神ちゃん「慰めはよしてくれ!」

邪神ちゃん「分かるんだ……! 自分の身体が蝕まれていくのが……! 吐き気と眩暈も、日を追うごとに酷くなってるし……」

メデューサ「きっと大丈夫だから……いったん落ち着いて、ね?」


邪神ちゃん「うえっぐ……」ポロポロ

邪神ちゃん「ゆりねぇ……! 私まだ死にたくねぇ…… 死にたくねぇですのおおおおおおおおおおおおおおおっ……!!」ガバッ


メデューサ「邪神ちゃん……」

メデューサ(可哀そう……私をゆりねさんと間違えるほど取り乱して……)

邪神ちゃん「ひっぐ……うえっぐ……きっと、お前にイジワルばっかしてたからバチが当たったんだ……」ポロポロ

メデューサ「よしよし。そんな事ないから……」

邪神ちゃん「いいや、きっとそうですの……」

邪神ちゃん「借金を返そうとしたのだって……本当はお前に恨まれたまま死んでいくのが怖かったからで……」

メデューサ「心配性なんだから。私が邪神ちゃんのこと恨んだりするワケないでしょ?」

邪神ちゃん「お前が恨まなくても、神様は私のこと絶対怒ってますの……だからこんな残酷な罰を与えるんですの……」ポロポロ

メデューサ「ふふっ。ぺこらちゃんと遊んでるうちにすっかり宗旨替えしちゃったんだね」

メデューサ「いい? もしも、こんなよい子の邪神ちゃんに酷い罰を与える神様がいるなら、私が怒鳴り込んでビシっと言ってあげる」

メデューサ「『あなたは、その全てを見通せるとかいう目で、いったい何を見ていたんですか!?』ってね♪」

邪神ちゃん「メデューサぁ……!」

邪神ちゃん「……でも、メデューサじゃあ怒っても迫力不足ですの」ゴシゴシ

メデューサ「えー? そうかなぁ? 私、怒ったらけっこう怖い自信あるよ?」

邪神ちゃん「ふふ。そーいやそうでしたの」

メデューサ「あは。よかった。やっと笑顔が戻ったね♪」

邪神ちゃん「メデューサ……その、悪かった。みっともなく取り乱したりして……///」ゴニョゴニョ

メデューサ「気にしなくていいよ。私になら、いくらでも弱さを見せてくれていいんだからね」

邪神ちゃん「よ、弱いなんてことがあるか! 私はベリーストロングな悪魔なんですのっ!」

メデューサ「ほら、また強がりが始まった」

邪神ちゃん「うぅ……」

邪神ちゃん「と、とにかく今日のことは気にしなくていいからな。てか、こっぱずかしいから出来るだけ早く忘れてくれ」

メデューサ(忘れろと言われても……)

邪神ちゃん「んじゃ、私はこれで帰りますの」

メデューサ「うん。あまり弱気になっちゃダメだよ?」

邪神ちゃん「……またな」スタスタ


『ゆりねぇ……! 私まだ死にたくねぇ…… 死にたくねぇですのおおおおおおおおおおおおおおおっ……!!』


メデューサ「……」

メデューサ「……よし!」



死まであと10日

~93日目~



・花園家


ピポーン


ゆりね「はーい」

ゆりね「あら、メデューサ。なんだか久し振りね」

メデューサ「こんにちはゆりねさん。ご無沙汰しています」

ゆりね「生憎だけど、邪神ちゃんにはちょっとお遣いに行って貰ってるのよ」

メデューサ「ええ、知っています。だから来ました」

ゆりね「えっ……?」

メデューサ「ゆりねさん、大切なお話があります──」



死まであと7日

~94日目~



・アパート前


ぴの「ふぅ。満開の桜は美しいけれど、管理人としては舞い散る花びらの掃除が厄介ですわね……」サッサッ

ぴの「終わりのない単純作業の繰り返し……これではぺこら様を笑えませんわ」

ぴの「そうですわ! ここはひとつ、新たな試みを取り入れましょう♪」

ぴの「ふふふ。実はこれ、お掃除中にずっとやってみたいと思っていましたの」

ぴの「だ、誰も見ていませんわよね……?」キョロキョロ

ぴの「……すぅ」

ぴの「おっでか~けで~すかぁ~♪ レッレレ~の──」サッサッサッ

ゆりね「……いえ。いま帰ったところです」

ぴの「ひっ!?」ギクッ

ぴの「は、花園さん…! お帰りなさいまし……い、今のはですねぇ……///」アタフタ

ゆりね「はぁ……」

ぴの(あ、大丈夫そう。なんだかうわの空ですわ……)

ゆりね「それでは……」

ぴの「花園さん、なんだか足取りがおぼついていませんわ。階段、お気をつけて──」


ゆりね「……あ」ツルッ

ぴの「花園さんっ!?」


ドンガラガッシャーン!!


ぴの「あいたたた……」

ゆりね「か、管理人さん!? ごめんなさい! 私ったら考え事を……!」

ぴの「いえ……平気です。元天使とはいえ、人間より体は丈夫ですから……」

ぴの「それより、花園さんにお怪我がないか心配ですわ!」

ゆりね「いえ。私はどこも……」

ぴの「外傷だけでは分かりません! あなたはわたくしのかけがえないボディーガード! なにかあっては困ります!」

ぴの「さっ! 早くわたくしのお部屋へ!」グイッ

ゆりね「あ~れ~」

・管理人部屋


ぴの「そうですか……邪神ちゃんさんのこと、とうとうお知りになったのですね」

ぴの「ごめんなさい。実はわたくしも知っていたのに、お教えできなくて……」

ゆりね「いえ、そんな……むしろ、邪神ちゃんの希望に添ってあげて頂いてありがとうございます」

ぴの「……その、どうです? やはりショックでしたか?」

ゆりね「うーん……なんて言えばいいのかな……」

ゆりね「メデューサから話を聞いて最初に感じたのは、罪悪感でした」

ぴの「罪悪感、ですか……」

ゆりね「邪神ちゃんは、私が帰還の呪文の用意もせず興味本位だけで呼び寄せてしまった悪魔なんです」

ぴの「ええ。そのように聞いていますわ」

ゆりね「正直責任は感じてるけど、でも、魔界に帰す手段がないから何もしてあげられないし……」

ぴの「それにしても、彼女も難儀な運命ですわね。健康診断の結果で余命宣告を受けるとは……」

ぴの「寿命が減っていく恐怖をひしひし感じながら日々過ごすなんて、わたくしならきっと発狂してしまいますわ……」ガタガタ

ゆりね「邪神ちゃんも、あれでメンタルお豆腐なんですよ」

ゆりね「それがこんな事になってしまって……あの子、きっと今まで以上に魔界に帰りたがってる……」

ゆりね「もうすぐ寿命って……それもこんな一週間前になってから急に知らされて、どう接すればいいのよ……!」

ぴの「花園さん……」

ゆりね「あの子と私は、友達でもなんでもない。それどころか、邪神ちゃんに言わせれば宿敵同士なんです」

ゆりね「事情を知ったからって優しくなんて出来るワケない……そんなの、今更どの面下げて……」

ゆりね「ううん。それでも最期は精一杯優しく接することが、せめてもの償いになるのかしら……?」

ぴの「……」

ゆりね「ねぇ、管理人さんは元天使なんでしょう? 私……どうすればいいのかしら……?」

ぴの「……花園さんも、そんな目をすることがあるのですね」

ゆりね「えっ」

ぴの「わたくし達の業界では、そういう目をした方を“迷える子羊”と呼ぶのですわ」

ゆりね「そんな目、してるかしら……」

ぴの「さて、なんでしたっけ。花園さんがこれからどうすべきか、でしたか……」

ぴの「申し訳ありませんが、それはわたくしには分かりません」

ゆりね「元天使様でも分からないの……?」

ぴの「ええ。だって、邪神ちゃんさんとの付き合いは、わたくしなどより花園さんの方がずっと長いでしょう?」

ぴの「そのあなたが接し方を測りかねているのに、わたくしに答えが分かる筈ありません」

ゆりね「そう、よね……」

ぴの「ですが、及ばずながら、ごくありふれたアドバイスをひとつ」

ぴの「迷った時は、心の声に耳を傾けるのです」

ゆりね「心の声……」

ぴの「花園さんは、本当はどうしたいのですか?」

ゆりね「だから……それが分からないから……!」

ぴの「そうでしょうか? 本当はあなた、進むべき道が見えているのではありませんか?」

ゆりね「──!?」

ぴの「どうやら、当たりのようですわね」

ゆりね「だって……そんなの……」

ゆりね「そんな事……したところで……!」

ぴの「分かります。本心の叫びの他に、いくつもの葛藤の声も聞こえるのですよね」

ぴの「後悔……したくないですか?」

ゆりね「したくないわ……当然じゃない!」

ぴの「そうでしょうね。ですが、それは無理な相談なんです」

ぴの「もうじき、ひとつの命が失われようとしている」

ぴの「そして、あなたは少なからずその命に責任を持ってしまった……」

ゆりね「……」

ぴの「どんな道を選んだところで、必ず悔いは残ります」

ぴの「だからこそ、己の心の声に耳をすまし、そして決めるのです」

ぴの「残された悔いに、少しでも自分で納得できるように……」

ゆりね「……」

ぴの「さぁ、答えなくてもいい。よく考えてみてください」

ぴの「──花園さんは、本当はどうしたいのですか?」

ゆりね「わ、私は……」



死まであと6日

~95日目~



・花園家


邪神ちゃん(残り寿命……たったの5日か……はは。蝉以下とか……)

邪神ちゃん「──うぷっ!」

邪神ちゃん「お……おげえええぇぇぇ……!」

邪神ちゃん「はぁ…はぁ……もう吐瀉物さえ出りゃしねぇ……」


邪神ちゃん「あ~…… なーんもする気が起きませんの……」

邪神ちゃん「だけど、ジッとしてると死への恐怖で狂いそうになる……」


邪神ちゃん「よっこらせ……昨日もやったばっかだけど、表の掃除でもしてくるかな……」

邪神ちゃん「あっ」ガチャ

メデューサ「あ……」


邪神ちゃん「おう! メデューサよく来てくれたな! ささ、お茶淹れるから上がりますの♪」

メデューサ「ふえっ!? 邪神ちゃん、怒ってないの?」

邪神ちゃん「怒る? なんで?」キョトン

メデューサ「私、どうしても謝っておきたくて来たんだけど……えっ……?」

メデューサ「昨日、ゆりねさんと話し合ったりしなかったの……?」

邪神ちゃん「ゆりねと今更なんの話するってんだよ?」


メデューサ「えっ?」

邪神ちゃん「えっ?」


メデューサ「そ、そんな……もしかして、ゆりねさんまだ何も言ってこないの……!?」

邪神ちゃん「お、おい……まさかとは思うが……メデューサお前……!」

邪神ちゃん「ゆりねに全部喋ったんじゃないだろうなっ!?」

メデューサ「ふえええぇぇぇ……! ゴメンねゴメンねゴメンねっ!」ペコペコペコ

邪神ちゃん「お前! あれほど言っただろう! ゆりねにだけは言うなって!!」

メデューサ「ぐすん……本当にゴメン……」

邪神ちゃん「もし喋ったら絶交だとも言ったよなぁ!?」

メデューサ「うぅ……分かってるよ……でも、やっぱり良くないと思ったから……」

メデューサ「たとえ絶交されても、ゆりねさんには教えておくべきだと思ったの……」

メデューサ「邪神ちゃんには……ゆりねさんが必要だと思ったのぉ!!」

邪神ちゃん「な、なんだよそれ……」

邪神ちゃん「ゆりねなんかどうでもいいんだよ! 私にはお前やミノスが居てくれりゃいいんだ!」

メデューサ「そんな事ないもん!」

邪神ちゃん「そんな事あるって私自身が言ってんだろうがっ!」

メデューサ「そんな事ない! 邪神ちゃん、自分のこと分かってないよ!」

メデューサ「私の方が……邪神ちゃんより私の方が邪神ちゃんのこと理解してるもんっ!!」

邪神ちゃん「え……? え……? なんだって……?」

邪神ちゃん「私が……お前で……お前が俺で……?」

邪神ちゃん「いかん……頭こんがらがってきた……また眩暈がしますの……」クラクラッ

メデューサ「あぅ……大きな声出してごめんね……」

邪神ちゃん「てか、お前そんな強情なヤツじゃなかっただろ?」

メデューサ「こればっかりは、譲るわけにはいかないんだよ……」

邪神ちゃん「そーかい……」

メデューサ「うぅ……絶交……だよね……?」ウルウル

邪神ちゃん「あ?」

邪神ちゃん「……いーよいーよ、もう」

メデューサ「えっ……?」

メデューサ「いいって……まさか許してくれるのっ!? 絶交しない!?」パアアァァ

邪神ちゃん「ああ……なんかもう……なんつーかもう……いいわ……」

メデューサ「わぁーい♪ 邪神ちゃん大好き♡」

邪神ちゃん「はぁ~……調子のいい奴……」

邪神ちゃん「お前、怒ってないから今日はもう帰れ」

メデューサ「えっ……でも……」

邪神ちゃん「頼むからそうしてくれ。一人で考えたいことがあんだよ」

メデューサ「あ、そうか。私がゆりねさんに話しちゃったから……」シュン

邪神ちゃん「その通りだけど、もう気に病むな。とにかく今日のところは帰っとけ」

メデューサ「わ、分かったよ。またね、邪神ちゃん」


邪神ちゃん「あ~……もうっ……!」ワシャワシャ

邪神ちゃん「メデューサの奴……おとなしい顔してとんでもない事してくれるよなぁ……」



死まであと5日

~96日目~



・花園家 夕飯時


ゆりね「もっもっも……」モグモグ

邪神ちゃん「もっもっも……」モグモグ


ゆりね「──邪神ちゃん」

邪神ちゃん「な、なんですの?」ビクッ

ゆりね「……お醤油とって」

邪神ちゃん「お、おぅ……ほらよ」

ゆりね「ありがと」


邪神ちゃん「もっもっも……」モグモグ

ゆりね「もっもっも……」モグモグ


邪神ちゃん「──ゆりね」

ゆりね「ど、どうしたの?」ビクッ

邪神ちゃん「私も使うから醤油返して」

ゆりね「そ、そうね……ごめんなさい……」

邪神ちゃん「さんくす」


ゆりね「もっもっも……」モグモグ

邪神ちゃん「もっもっも……」モグモグ



死まであと4日

~97日目~



邪神ちゃん「花見だぁ~?」

メデューサ「うん。ちょうど満開の時期でしょ?」

邪神ちゃん「う~ん……正直、あんまり花見にいい思い出ないからなぁ~」

メデューサ「心配しないで。場所取りなら私がやるから」

邪神ちゃん「ま、それならいいか。で、いつやんの?」

メデューサ「ちょっと急なんだけど三日後に。どうかな?」

邪神ちゃん「三日後って……ああ」

メデューサ「み、皆も参加するからおいでよ。ね!」

邪神ちゃん「なるほど。私のお別れ会ってワケですの」

メデューサ「そ、そういうワケじゃないよ!」

邪神ちゃん「いやいや、そこは認めようぜ~ww」

邪神ちゃん「そうじゃなきゃ、お前ら全員、私の命日にただドンチャン騒ぎしてる薄情者集団になっちまうじゃねーか」

メデューサ「ええええっ……!? そ、それは困るよぉ……」

邪神ちゃん「ふふ。つくづくからかい甲斐のあるヤツですの」

メデューサ「だ、だけど……本当にそんな悲しい集まりにするつもりないから」

メデューサ「みんなでお花見て、美味しいもの持ち寄って、楽しくお喋りして……」

メデューサ「終わってからも、その次の日も、その先もずっと、みんな仲良しだよって……そういう……お花見に……」ポロポロ

邪神ちゃん「……今すぐ泣き止まないと花見なんて行ってやらねーぞ」

メデューサ「ううっ……! 泣き止むよ……泣き止むからぁ……!」ゴシゴシ

邪神ちゃん「冗談だよ。私が主役の集まりだってのに参加しねーワケないだろ」

メデューサ「邪神ちゃん……! ありがとぉ……!」

メデューサ「絶対だよ……絶対来てね……!」ポロポロ

邪神ちゃん「……まーた泣く」

メデューサ「えへ。そうだ! お花見のお弁当もいっぱい作って来てよ。久し振りに邪神ちゃんのお料理食べたいな」

邪神ちゃん「そーいや、この頃はお前らに料理してやれてなかったもんなぁ……」

邪神ちゃん「よっしゃ! 私の全身全霊込めた究極のお花見弁当持参で行ってやりますの!」

メデューサ「わぁーい! 楽しみにしてるね♪」

邪神ちゃん「……ああ。楽しみにしとけ」



死まであと3日

~98日目~



近所のオバちゃん「あら邪神ちゃん、お出かけ? あんまり無駄遣いするんじゃないよ」



近所の爺ちゃん「まぁ~たお前は締まりのない顔してからに。若いもんが昼間からフラフラしてるんじゃない!」



近所のコンビニ店員「邪神ちゃんさん、一回ハマった商品があると暫くそれしか買わなくなるから、レジ打ちが楽でいいっスわ」



近所のパチ屋の店員「最近全然来てくれないじゃないですか。ここだけの話、邪神ちゃんさんけっこう隠れファン多いんですよ?」



近所の小学生「ちぇ~! 今日は邪神ちゃんに先に挨拶されちゃったかぁ~」

芽依「こら~! 大蛇丸~! いたいけな小学生に声掛けする不審なヘビはお縄につきなさぁ~い!」



ぽぽろん「肉じゃが! お花見の日にカラオケ対決で決着つけるよ。ハルマゲドンの再来ってワケね!」



キョンキョン「邪神ちゃん、このあいだ魔導書の中巻なら見つけたヨ!」

ランラン「最期まで希望を捨てちゃダメだからね!」



ぺこら「あ、ちょうどいいところに。この近くでやってるバイトの人出が足りないのですか……」



遊佐「明後日ですね。私達はかき氷を出店予定なので、屋台との掛け持ち参加で恐縮ですが」

氷ちゃん「」サシイレスルカラ



ぴの「邪神ちゃんさん! お花見の日にお料理勝負ですわ! ハルマゲドンの再来── えっ? ぽぽろんと台詞が被っているですって?」

ペルちゃん「邪神ちゃん! 今日こそ徹夜でゲーム大会やろうよ!」



ミノス「いいね。おもしろそーじゃん。そんじゃさ、ゲームが終わったらそのままジョギング大会に移行しようよ」

ミノス「──そう言うなって。徹夜明けの変なテンションなら、どこまでも走っていけそうな気がするだろ?」



メデューサ「いいなぁ……私も参加したいけど、今からお花見の場所取りがあるから」

メデューサ「甘いよ邪神ちゃん! 本格的な人達は、もう1週間前から場所取りしてるんだよ?」

メデューサ「──それじゃ、明後日は絶対来てね。邪神ちゃん」




邪神ちゃん「……」

邪神ちゃん「……少なくとも、私がここで生きてたって事実は消えはしないんだよな」



死まであと2日

~99日目~



・花園家 夕飯時


ゆりね「楽しかった? ミノス達との徹夜ゲームお泊り会」

邪神ちゃん「ああ、もちろん楽しかった」

邪神ちゃん「けど、その後行われた『第一回ハイテンション・ジョギング大会』の方が忘れられませんの」

ゆりね「なにそれ」

邪神ちゃん「徹夜明けの変なテンションに任せて三人で全力疾走してたら、いつの間にか山手線一周してたんですの」

ゆりね「青春してるわね……」

邪神ちゃん「おかげで、全身クタクタで死にそうなんですの……」

ゆりね「あまり無理してると身体を壊すわよ」

邪神ちゃん「ま、別にもう……壊れたところで……」

ゆりね「……」

邪神ちゃん「あ、いや……なんでもありませんの」

ゆりね「……ごちそうさま。今日も美味しかったわよ」

邪神ちゃん「ん。お粗末さま」

邪神ちゃん「そんじゃ、片付けますの」

ゆりね「手伝うわ」

邪神ちゃん「お、おお……そうか。なら、私が皿洗ってくから横で拭いてくれ」


ジャブジャブ… カチャカチャ…


邪神ちゃん「……」

ゆりね「……」

邪神ちゃん「……あのさゆりね、ずっと言っときたかった事があるんだが、いま言うわ」

ゆりね「なにかしら」

邪神ちゃん「ジョギング中にさ、自転車が前走ってたり、追い抜いていく時があるんだけど」

邪神ちゃん「大抵は全然追いつけないんだが、たまにお婆ちゃんの自転車とかだと、一定の距離で付いていけたりするんだわ」

ゆりね「ああ。そういう時に限って行先もずっと一緒だったりするわよね」

邪神ちゃん「そう。下手に追い越すのも危なっかしいし、ひたすら後ろくっついていくだろ?」

ゆりね「ええ」

邪神ちゃん「そん時ってさ──」

邪神ちゃん「『ターミネーター2』でバイク追いかけてる液体ターミネーター(T-1000)の気分に浸れるんだよ」

ゆりね「……」

ゆりね「……なによそれ、すっごく面白そう」

邪神ちゃん「だろ? 不思議なことに、ターミネーターになりきってスタミナ切れも起こさなくなるんだ」

ゆりね「私も今度やってみなくちゃ」

ゆりね「……それはそうと、邪神ちゃん」

邪神ちゃん「なんですの?」

ゆりね「明日のお花見、来るのよね?」

邪神ちゃん「……」

邪神ちゃん「……そりゃ、行かなきゃだろ。私の為の集まりなんだし」

ゆりね「そう。ならいいわ」

ゆりね「私、もう休むから」

ゆりね「おやすみなさい。邪神ちゃん」

邪神ちゃん「ああ……おやすみ」

ゆりね「……眠れそう?」

邪神ちゃん「………眠れるよ。眠らなきゃだろ」

邪神ちゃん「明日は早起きして皆の分の弁当こさえないといけないからな」

ゆりね「そうよね。楽しみだわ」

邪神ちゃん「………もう電気消すぞ」



死まであと1日

~100日目~



・公園


花見客「わいわいがやがや」

いつものみんな「わいわいがやがや」


メデューサ(邪神ちゃん……早く来ないかな……)ウキウキ

メデューサ「あ、ゆりねさん! こっちでーす!」


ゆりね「こんにちはメデューサ。今日はお招きありがとう」

メデューサ「あれ? ゆりねさん一人? 邪神ちゃんは……」

ゆりね「それなんだけど……これ……」ヒョイ

メデューサ「お弁当箱……?」


メデューサ「ま、まさか……!」

ゆりね「残念ながら……」

メデューサ「とうとう邪神ちゃんをから揚げにしてしまったんですかっ!?」

ゆりね「えっ、いや……起きたらそのお弁当箱だけ残して居なくなってたって意味なんだけど……」

メデューサ「な、なぁんだ……よかった……」ホッ

メデューサ「って! おおごとじゃないですか!?」ガビーン

ゆりね「メデューサ、キャラ変わったわね」

メデューサ「そんな……居なくなったって……どうして……?」オロオロ

ゆりね「ごめんなさい……もしかしたらこんな事になるかもって予感はしてたのに」

ゆりね「死期を悟った猫みたいなマネして……こんな事なら首輪でも付けとくんだったわ」

ミノス「あはは。邪神ちゃんのやつ、最後までやってくれるな~」

メデューサ「ちょっとミノス! 最後だなんて言わないでっ!」

ミノス「おっと……そうだったな。悪ぃ」

ペルちゃん「でも、そんなに驚かないよね? 邪神ちゃんならやりかねないっていうか、正直フラグ立ってたし」

ぽぽろん「約束すっぽかすなんてお手のものなんだよ、あいつ!」プンスカ

ぺこら「おや、でもアルバイトには真面目に通っていましたよ?」

ぽぽろん「なによぺこら様、悪魔なんかの肩持つんだ?」

ぺこら「べ……別にぺこらは事実を言ったまでで……」

キョンキョン「邪神ちゃんはあれでなかなかいい奴ネ。けっこう涙もろいとこあるヨ」

ランラン「お金にはかなり意地汚いけどねー」

遊佐「弱いものイジメも大好きですし」

氷ちゃん「」フンスフンス

遊佐「え? 『これからたっぷり仕返ししてやるつもりだったのに』?」

遊佐「やめておきなさい。そんな考えだと彼女みたいなダメな大人になってしまうわよ」

ぴの「料理の腕前と、どこか憎めないところがある事だけは認めて差し上げてもいいですけどね」

ミノス「はっはっは。賛否両論だなぁ」

芽依「そこがいいのよ、大蛇丸は」

芽依「基本ダメダメなくせに、ほんのちょっぴりの良心を往生際悪く抱えてるところが最高に可愛いわ♡♡♡」

ペルちゃん「それって、小心者だから悪者にもなり切れないってだけだよね」

芽依「そうなのぉー♡♡♡」

ミノス「おいおい、だんだん唯の悪口大会になっていってるじゃねーかww」

ミノス「いやぁ~、笑った笑った……ほんとスベらないよなぁ。邪神ちゃん……」

ミノス「あいつが居なくなっちまうなんて……全然信じらんねーよ……」

ぺこら「同感です。ぺこらは明日以降だって、あいつへの警戒を解いたりしませんよ!」

ぺこら「どこからでもひょっこり出てきそうで油断できませんよ。あの顔は」

ペルちゃん「最初にも言ったけど、邪神ちゃんって殺しても死にそうにないよね」

キョンキョン「そういえばお姉ちゃんも言ってたヨ。もうすぐ死ぬようには見えないって」

ミノス「つーか、あたしらの中で一番長生きしそうだよなww」

ゆりね「……」

ゆりね「……ごめん、皆。私しばらく席を外すわ」スッ

メデューサ「えっ……何処へ行くんですか……?」

ゆりね「邪神ちゃんを探してくる」

メデューサ「そ、それなら私も!」

ゆりね「いえ。メデューサはここで待ってて。邪神ちゃん、もしかしたらこっちの方に現れるかもだし」

ゆりね「安心して。見つけたら息の根止めてでも引きずってくるから」

メデューサ「そ、それだと本末転倒になるので安心できません……」

メデューサ(ゆりねさん……邪神ちゃん……)

ぴの「さっ、メデューサさんどうぞ。邪神ちゃんさんのお弁当ですわ」

メデューサ「ありがとうございます……」パク

メデューサ「美味しい……」

ぴの「本当に。せっかく先日のお菓子作りでつけた差を、あっさり埋められてしまいました」

メデューサ「きっと、邪神ちゃんのすべてが籠ったお弁当だから、こんなに美味しいんですね……」ジワッ

ぴの「ええ。邪神ちゃんさんが戻ったら改めて勝負を挑まねばなりませんわ」

メデューサ「うっ…ううっ…… 美味しい…美味しいよぉ……!」ポロポロ

・???


邪神ちゃん(約束破って悪いなメデューサ……)

邪神ちゃん(でも……皆に見守られて安らかに、なんて私の柄じゃないんだ。背中が痒くなっちまう……)


邪神ちゃん「そーいや、死ぬのって今日の何時なんだろ……」

邪神ちゃん「日付が替わるギリギリまでは生きられんのかな……」

邪神ちゃん「足がつきそうでスマホは置いてきちゃったから時間も分かりゃしませんの」


ゆりね「──まったく。そのせいで散々探させてくれたわね」

邪神ちゃん「ゆ、ゆりねっ!?」ギョッ


ゆりね「邪神ちゃん……私前にも言ったわよね? 連絡もせず突然居なくなるなって……」

邪神ちゃん「い、いいだろ別に! 何処へ行こうがゆりねにいちいち断り入れる筋合いありませんの!」

ゆりね「よくないっ! 黙って居なくなられると……心配するじゃない!」

邪神ちゃん「っ///」

邪神ちゃん「そ、そんな事よりどうしてここが分かったんですの!?」

ゆりね「だから分かってないっての。町中探し回っただけよ」

ゆりね「そもそも何処よここ。昭和ライダーが戦う採石場みたいな……神保町にこんな場所ないはずでしょ?」

邪神ちゃん「な、何しに来たんですの!? 私をみんなの所に連れて行く気か!?」

ゆりね「そういう口実で来てるけど、本当は違うわ」

邪神ちゃん「なに?」

ゆりね「……決着を着けるわよ。邪神ちゃん」

邪神ちゃん「んなっ…!?」

ゆりね「あんた、今日が人生最後の日なんですってね」

邪神ちゃん「ぐっ……! ああ、そうだよ。悪魔だから人生じゃないけどな」

ゆりね「……魔界に帰りたいわよね」

邪神ちゃん「は?」

ゆりね「帰りたいわよね?」

邪神ちゃん「そ、そりゃ当然ですの。ずっと言ってたことだろう……」

ゆりね「だから、その為のチャンスを与えてやるって言ってんのよ」

邪神ちゃん「こ、この場でお前を倒して魔界に帰れってのか……」

ゆりね「ええ。その通りよ」


邪神ちゃん「ま、待ってくれ……! このごろ私……本当に身体が弱ってて……」

邪神ちゃん「それに、今更お前とやり合う気になんてなれませんの……」


ゆりね「はぁ? なにそれ? 寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ」

ゆりね「それとも、そうやって私に媚び売って同情引く作戦かしら?」

邪神ちゃん「そ、そんなんじゃねーよ!」

ゆりね「情けない……あんたプライドないわけ?」

ゆりね「ま、そうよね。あんた弱っちぃもの。そんな卑怯な手でも使わなきゃ、万に一つも勝ち目なんか無いわよね?」

邪神ちゃん「こ、こいつ……! 言わせておけば……!」ワナワナ

ゆりね「あら、怒ったの? それならさっさとかかって来なさい」

邪神ちゃん「で、でもよぉ……」

ゆりね「言っとくけど、あんたにその気がなくても、こっちは[ピーーー]気満々だから……」ゴゴゴゴ

邪神ちゃん「ひっ!?」

ゆりね「精々あと数時間の命でしょ? だったら少しくらい早く終わっても大差ないわよ。良心も痛まないわ」

邪神ちゃん「な、なぁ……やっぱ止めようぜ? いったん落ち着きますの……」


ゆりね「──お馬鹿っ! あんたは誇り高い悪魔でしょう!?」

邪神ちゃん「っ!?」


ゆりね「なによ! ビクビクしてみっともない!」

ゆりね「死ぬのが怖いの!? それとも私が怖いの!?」

ゆりね「そんなことで魔界のご両親に顔向けできるっていうのっ!?」

邪神ちゃん「おい! パパとママは今関係ねーだろっ!」

ゆりね「関係大ありよ! あんた、このまま私にも勝てず、人間界で野垂れ死んで本当に平気なの!?」

邪神ちゃん「そ……それは……!」

ゆりね「もう一度言うわ。決着をつけましょう」

ゆりね「死ぬ運命が避けられないのなら、せめて宿敵を倒した誇りを冥途の土産に、魔界でご両親に看取られて安らかに逝きなさい!!」

邪神ちゃん「ゆりね……」


邪神ちゃん「感謝するぞ、ゆりね……戦士としての心遣い、痛み入りますの……」

邪神ちゃん「だがしかぁし! 手負いの獣ほど恐ろしいものはないっ! 私に挑んだことをあの世で後悔するがいい!」

ゆりね「やれやれ……あんたのやる気スイッチを押すのは本当に面倒だわ……」


邪神ちゃん「俺とお前は……戦うことでしか分かり合えない!!」

ゆりね「なんでここに来てネタにはしるかな……」

邪神ちゃん「うりゃああああああああああっっっ!!」

ゆりね「はああああああああああああああっっっ!!」



ドッカ──────ン!!



邪神ちゃん(い……勢いで挑んじまったものの……)

ゆりね「ほあたっ!」


ボコォ!


邪神ちゃん(やっぱアカン……! ゆりねは正真正銘、マジもんの化物や……!)

ゆりね「ふんっ!」


バキッ!


邪神ちゃん(しかもこいつ、本当に手加減しねーし……こちとら二つの意味で死にかけてんだぞ……!?)

ゆりね「ていりゃあああっ!!」


ドッゴォ!


邪神ちゃん(も……もう……残りライフが……)


クラクラ… バタッ…

ゆりね「なによ、あっけないわね。もう終わり?」

邪神ちゃん「く、くそっ……もう指一本動かせませんの……」グッタリ

ゆりね「あんた、筋金入りの根性無しね」

ゆりね「もういい。苦しませるのは趣味じゃないし、トドメにしてあげるわ」

邪神ちゃん(嘘つけ……! いたぶるの大好きなドSのくせに……!)


ゆりね「はああああああああああああああああああああっ!!」

邪神ちゃん(くっ……! これまでか……!)


ドッゴォォォ…!!



邪神ちゃん「あ、あれ……?」


ゆりね「はぁ…! はぁ…! はぁ……!」ジンジン

邪神ちゃん「な、なに地面ぶん殴ってんだよ……?」


邪神ちゃん「まさかお前……ワザと外したのか……!?」

ゆりね「ち、違うっ……! ちょっと手元が狂って……」

邪神ちゃん「命をかけた戦いの最中で……情けをかけるなど……!」

邪神ちゃん「この私を……どこまで愚弄する気だああああああああああっ!!」


ボコォ!


ゆりね「ぐふっ!?」

ゆりね(い、怒りでパワーアップしている……!?)

邪神ちゃん「トドメだっ! タングルティーザァァァ──ッッ!!」


バキッ!


ゆりね「げっほぉ!?」

邪神ちゃん「トドメだっ! ロイヤルコペンハ──ゲンッッッ!!」


ドッゴォ!


ゆりね「ト、トドメは……どちらか一つにしておいてくれないかしら……」


クラクラ… バタッ…

邪神ちゃん「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」ピカーッ

ゆりね「光った……!」


※邪神ちゃんは怒ると512分の1の確率で発光する。


邪神ちゃん「さぁ、ゆりね……! これこそが本当のトドメですの……!」

邪神ちゃん「くらええええええええ!! 己が命の炎を燃やして完成する究極の真奥義!!」

邪神ちゃん「ファイナル邪神ちゃんドロップキック!! グッバイ・マイ・ラアアアァァァァァイフッッッ!!!」


ゆりね「これが……邪神ちゃんの本気……!」

ゆりね「おめでとう邪神ちゃん…… “ひと足先に行って”…… 待ってるわよ……」



チュド─────────────ンッッッッ!!!!!

ゆりね「…………」

ゆりね「……私、まだ生きてるわね」パチッ


ゆりね「あらあら、地面に大きな穴が……」


邪神ちゃん「うっ…ううっ……くっふぅ~……!」ポロポロ

ゆりね「開けたのは、穴の中心で泣いてるあの馬鹿か……」


ゆりね「ちょっと、なに泣いてるの。こんだけ派手にかましたから尻尾が痛かった?」

邪神ちゃん「そ、そんなんじゃねーですの!」ポロポロ

ゆりね「ああ。土地の管理者への莫大な弁償費が怖いのか……」

ゆりね「大丈夫よ。返済義務もあの世までは追いかけてこないわ」

邪神ちゃん「違う! そんな事どうだっていい!」

邪神ちゃん「私は……ゆりねと……ゆりねともっと一緒に居たいんですのっ!」

ゆりね「──!?」

邪神ちゃん「それなのに……もう少しでお前と……お別れしなきゃいけないってのに……!」

邪神ちゃん「トドメなんか……させるワケがないだろう!!」


ゆりね「邪神ちゃん……」

ゆりね「あんた……やっぱ大バカよ……!」ギュ


邪神ちゃん「私……最後までゆりねと一緒に居るうぅぅぅ……!」

邪神ちゃん「びえええええええええええええん!! びええええええええええええええええん!!!」オーイオイオイ

・そして……


ゆりね「……どうする? そろそろ皆のとこ行ってお花見する?」イチャイチャ

邪神ちゃん「ううん……桜の花より、もう少しここで百合の花咲かせてますの」イチャイチャ

ゆりね「ふふっ……なかなか上手いこと言うじゃない。98点」イチャイチャ

邪神ちゃん「だからなんで2点引くんですのぉ~ もうひと声ぇ~」イチャイチャ

ゆりね「ダメよ。まだまだ精進できるはずだわ」イチャイチャ

邪神ちゃん「もうゴールさせてくれぇ~!」イチャイチャ

ゆりね「……ダメよ」

・一方その頃 魔界区役所


下級悪魔A「あちゃー、やってしまいました」

下級悪魔B「どうしたのです?」

下級悪魔A「いえ、この間邪神ちゃんさんに渡した魔界健康診断の結果──」

下級悪魔B「ああ。彼女の残り寿命が100日という、たいへん喜ばしい結果の」

下級悪魔A「あれ、渡し間違いです」

下級悪魔B「ええっ!?」

下級悪魔A「確認したら、邪神ちゃん様のでなく、ジャッシー・チャン様のものでした」

下級悪魔B「ああ、あのアクションスターの。惜しい方を……確かにけっこうなご老体でしたものねぇ……」

下級悪魔A「若い頃の無理が祟ったのでしょうか……私も子供時代には彼に憧れたものです」

下級悪魔B「私もですよ。ジャッシー様のご冥福をお祈りしましょう」

下級悪魔A「それはそうと、邪神ちゃん様の方は思い込みが激しいから本当に体調が悪くなっていたりして……」

下級悪魔B「ありえますねぇ」

下級悪魔A「仕方ない……単眼ちゃん、恐縮ですが急ぎで人間界まで知らせに行ってあげてくれますか?」

単眼ちゃん「はっ! ちょっぱやで行ってまいります!」



(邪神ちゃん&ゆりねが)死ぬほど気まずくなるまであと100秒





おしまい


このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom