高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「癒やされるカフェで」 (29)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「…………」フラフラ

北条加蓮「やっほー、藍子――暑さにでもやられた?」

藍子「ううん……。でも、つかれちゃいました……。ばたん」

加蓮「あーあー、座席に頭から突っ込んでいって。行儀がわるいんだー」

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レンアイカフェテラスシリーズ第128話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「時間がたくさんあるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「線香花火のカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 4回目」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「2人でお祝いするカフェテラスで」

藍子「……今、誰かこっちを見ていますか?」

加蓮「ううん、誰も。店員さんはたぶん厨房だし、いつもの2人組は欠席。夏休みだから、どこか遊びに行ってるのかな」

藍子「……」

加蓮「他のお客さんは、ちらっとこっちを見るくらいはあったかもね。大丈夫じゃない?」

藍子「……よかった」

加蓮「行儀の悪い藍子ちゃんは見せたくない」

藍子「それもありますけれど、いちおう、これでもアイドルですから……。はしたなかったり、情けないかっこうは、見せたくありません」

加蓮「そっか」

藍子「……ふうっ。よいしょ、っと」スワリナオス

藍子「ただいま戻りました、加蓮ちゃんっ」

加蓮「おかえり、藍子。……あははっ。ただいまって。今日初めて会ったのに」

藍子「……それもそうですよね。でも、なんだか……いつものカフェに来て、そこに加蓮ちゃんがいたら、戻ってきた、って感じがしちゃってっ」

加蓮「だから、ただいまなんだね。おかえりー、藍子」

藍子「高森藍子、ただいま戻りましたっ」

加蓮「それは艦長の時のでしょ。宇宙にまでお仕事に行ってきたの?」

藍子「宇宙飛行士には、さすがになりたいって思ったことはないなぁ……。でも、宇宙空間をお散歩するのも、楽しそうかも」

加蓮「宇宙遊泳を"お散歩"って言うのは、さすがに藍子だけだと思うよ……」

藍子「やっぱり、無理でしょうか?」

加蓮「さあね。いつかできるようになるかも」

藍子「じゃあ、私は地球で、その時が来るのを楽しみに待っていることにします」

藍子「はぁ~……。暑い……」

加蓮「夕方近くって言っても、外、だいぶ暑いもんね。それに藍子、さっきまで収録だったんでしょ? 確か、屋外の食レポの」

藍子「そうなんですよ~……。撮影の時はスタッフさんやお店の方も、だいぶ気をつかってくれて、影になるように大道具を置いてくれたり、休憩時間にはクーラーの効いた場所を使わせてもらえたりしましたけれど――」

加蓮「大切にされてるねぇ」

藍子「やっぱり、この炎天下を歩くのは、少しきついですね。……あっ、でも大丈夫! 熱中症の対策は、バッチリですから♪」

加蓮「えらいえらい」ナデナデ

藍子「……♪」

藍子「……って、違います! もう……加蓮ちゃんっ。1ヶ月半だけですけれど、今だけは、私は加蓮ちゃんより年上なんですっ」

加蓮「そうだねー」ナデナデ

藍子「~~~♪」

藍子「……違うのに~」

加蓮「ん? 炎天下を歩く? ……食レポでそんなに歩かせられたの? ついでにお散歩番組も収録したとか」

藍子「いいえ。撮影の時は、さっきも言った通り日陰を用意してもらったりしました」

藍子「ただ、お仕事が終わって、ここに来る途中が……。自然に囲まれた場所とはいえ、日差しが強いとやっぱり暑いですから」

加蓮「……アンタ、ここまで歩いて来たの?」

藍子「そうですよ?」

加蓮「え、なんで。モバP(以下「P」)さんに送ってもらったりは――」

藍子「事務所までは、送ってもらいました。それから簡単な打ち合わせをして、時計を見て……」

藍子「加蓮ちゃんとの約束の時間まで、まだけっこうあるみたいだったから、歩くことにしちゃいましたっ」

加蓮「…………」

藍子「Pさんは、送っていってあげるって言ってくれたんですけれど、Pさんも忙しいみたいだったので」

加蓮「そんなところで意地を張らなくてもいいでしょ、馬鹿……」

藍子「だって、歩きたかったんだもん。……む~」

加蓮「睨みたいのはこっちだって……。……いや、あのさ?」

藍子「はい、何ですか?」

加蓮「熱中症対策……」

藍子「大丈夫っ。濡れタオルは、事務所で濡らし直しました。あとはちいさなボトルのドリンクに、帽子と、日傘も。日傘は、今回は使いませんでしたけれど――」

加蓮「あのね? 対策ってそういう道具だけじゃなくて、メチャクチャ暑い時には歩かないようにするってことも含まれてるんだけど?」

加蓮「よくテレビでも言うでしょ、日差しの強い日には不要な外出は控えるようにって」

藍子「……? でも、外に出ないとここには来られませんよ?」

加蓮「…………Pさんに送ってもらいなさい。次から」

藍子「はぁい」

加蓮「ハァ……。暑さでボケてる訳じゃないことを祈ってるからね」

藍子「ふぅっ。暑い~……」パタパタ

藍子「クーラーが効いて涼しくなっていても、体の中に熱が溜まっています」

藍子「歩いた後に座って落ち着いた時には、なおさら。いっそ、シャワーを水で浴びたい気分……」

加蓮「さすがにカフェにシャワーは……あるところはあるけど、このカフェにはないよね。諦めなさい」

藍子「分かってますよ」

加蓮「とりあえず、水をしっかり飲んで」

藍子「ごく、ごく……ふうっ♪」

加蓮「……でも、今日はお疲れ様、藍子。お仕事、楽しかった?」

藍子「はいっ。今日は、前にも行ったことがある商店街の食レポでした」

藍子「最近は、私が前に見た時よりも、お客様がどうしても減ってしまっているみたいで……。また昔みたいに盛り上げたい、って。熱く語ってらっしゃったんですよ」

加蓮「昔みたいに、ねー」

藍子「昔みたいに」

加蓮「たはは。私には無縁な言葉だ」

藍子「……ひょっとしたらそうかもしれませんねっ」

加蓮「ね」

藍子「…………」ジトー

加蓮「まあまあ。藍子の撮影秘話っ。もっと聞きたいなー?」

藍子「うらばなしってほどでは、ありませんよ」

藍子「ええと……商店街の方々がすごく張り切ってらっしゃったので、私もできることがあればって思ったんです。つい、つられて熱中してしまいました」

藍子「それで、何度かNGにされてしまいました。藍っ――私らしくないとも、言われてしまって」

加蓮「パッション燃やしちゃったんだ」

藍子「燃やしちゃいましたっ」

藍子「でも、途中からはちょっとだけ方針を変えて、みんなで熱く盛り上げよう! ってなったんですよ♪」

藍子「見てくれたみんなに、来てほしいって気持ち、いっぱい伝わるといいなぁ」

加蓮「商店街の人もかもしれないけど、藍子の何かしてあげたいって気持ちも伝わったんだろうね。スタッフさんに」

藍子「そう……なのでしょうか。時には、燃えるような気持ちをそのまま見せるのがいいのかも?」

加蓮「そーいうことだよ、パッショングループのアイドルさん?」

藍子「今度、茜ちゃんにもっと燃え上がる方法を教えてもらおうっと」

加蓮「……アンタが「ボンバー!」とか言って突っ込んできたら1ヶ月は口効いてあげないから」

藍子「え~」

加蓮「で」

藍子「?」

加蓮「ここからはすごく大切な話なんだけど」

藍子「大切なお話……!」ゴクッ

加蓮「お土産は?」

藍子「……それが、大切なお話?」

加蓮「超重要」

藍子「あはは……」

加蓮「食レポでしょ。どーせ藍子のことだし最後にはいっぱいお土産もらったんでしょ。ほら、よこしなさいよ。持ってるのは分かってるのよ!」

藍子「……ふっふっふ~」

加蓮「……何、その不敵な笑みは」

藍子「加蓮ちゃんに、そう言われるのは想定済ですっ。ちゃんと、加蓮ちゃんへのお土産はちゃんとご用意しましたよ」

加蓮「やったっ」

藍子「でも、加蓮ちゃん。思い出してみてください。ここは、カフェですよ。お弁当やお土産といった、他から持ち込んだ食べ物を出すのはよくありません」

加蓮「あー……確かにそうだね」

藍子「なので私、カフェで待つ加蓮ちゃんの分は、今は持っていないんです。収録先から家へ郵送して、受け取ることにしました」

加蓮「……まさかアンタ」

藍子「そう……郵送先は、私の家です!」

藍子「加蓮ちゃんのお土産は、今ごろ私の家に届いているんです。……この意味が、分かりますか?」

加蓮「つまり家に泊まりにでも来いと」

藍子「はいっ♪」

加蓮「ずる賢いことをするんだから」

藍子「えへへ……。休憩時間中に、商店街の方にいろいろ教えてもらいましたから」

藍子「ご年配の方も多かったので……人生経験、と言うのでしょうか。私のぜんぜん知らないお話や、体験したことのない内容がいっぱい――」

藍子「あっ、でも、いくつかはどこかで聞いたことがあるなぁって思って、なんだかもっと距離を近くに感じたりもしたんです!」

藍子「どこで聞いたんだろう? って思い出してみたら、そういえば事務所で菜々さんがお話してい――」

加蓮「やめてあげてね?」

藍子「あっ……。あはは。今のは、うらばなしということで」

加蓮「藍子が頑張れば頑張る分、ウサミン星人がダメージを受ける仕組みにでもなってるのかな……」

藍子「ん……。ふわ……。すみません、ちょっと眠たく……」

加蓮「寝とく?」

藍子「ん~……。でも、今寝ると加蓮ちゃんがひとりぼっちに……」

加蓮「1人なんて慣れっこですよーだ」

藍子「だめだよ……。加蓮ちゃん、うさぎさんだから、1人になったら……」

加蓮「いつの話よそれ。私にウサミミは生えてないっての。眠い目をガッと開けて確かめてみなさいっ」

藍子「……」ボー

藍子「……どうして加蓮ちゃんの頭には、ウサミミが生えていないんですか?」

加蓮「地球人だからなんだけど!?」

藍子「はっ。私、今ちょっぴりねぼけてしまっていました。なんだか、夢を少しだけ見てしまったような……」

加蓮「そこまで眠いなら、ホント気遣わなくていいからね?」

藍子「夢の世界では、加蓮ちゃんがうさぎさんになって、人参をほしそうに私のところにやってきて」

加蓮「今すぐ起きろ」

藍子「ふわぁ……」

加蓮「思ってたより疲れてたか、身体に熱が溜まったから眠くなっちゃったんだろうね。膝、貸そっか?」

藍子「ううん、今日はいいです。それに、あんまり眠りたくないのも、本当のことなの」

加蓮「そこまでしてお喋りしたいんだ」

藍子「それもありますねっ。でも、それだけじゃなくて――」

藍子「……加蓮ちゃん。あの……もしも誰かがこっちを見ていたら、教えてくださいね。……気がついたら絶対言ってくださいね!」

加蓮「はいはい。ちょっとくらい行儀が悪くても見逃してあげるから」

藍子「じゃあ……。え、えい」ベチョリ

加蓮「テーブルの上に突っ伏せた。……え、それだけ?」

藍子「だって、カフェでこんなことするなんて、はしたないですよ。他のお客さんもいるのに」

加蓮「私、たまにするんだけど?」

藍子「……あはは」

加蓮「まぁいいや」

藍子「今は……こうして、癒やされていたいなぁって」

藍子「いつものカフェ、いつもの静かな場所……。でも、物音が聞こえたり、声がしたり。そういうのがぜんぶ、それだけであたたかいの……」

藍子「それに……向かいがわに、加蓮ちゃんがいてくれるの。いつもみたいに、ふふっ、って優しく微笑んでくれて。私のことを、見守ってくれて……」

加蓮「……ふふ。買いかぶりも甚だしいよ」

藍子「そうかな? もしかしたら、そうなのかもしれませんね~」

加蓮「改めて言われるとムカつくっ。優しく微笑む加蓮ちゃんってことに――うぇ。自分で言うとさすがにキモい……」

藍子「加蓮ちゃん、どうしたいんですか~」

加蓮「分かんなくなってきたから、いつも通りに藍子をつっつくね」ツンツン

藍子「きゃ~っ」

藍子「眠っちゃったら、そういうのも分からなくなっちゃうから……今日は起きたまま、こうして全身で、あったかいのを感じたいな……」

加蓮「そういうことなら、存分に癒やされていきなさい。……子守唄でも歌ってあげようか」

藍子「そんなことしたら、余計に眠ってしまいますよ~」

加蓮「確かに」

藍子「……加蓮ちゃん、子守唄を歌えるの?」

加蓮「歌じゃないんだけどね。適当にリズムを作って、すごーくゆっくり口ずさんだら、それで子守唄っぽくなるんだって」

藍子「へぇ~……」

加蓮「歌があまり上手じゃない人って、そうやって良い意味で誤魔化すことがあるみたいだから、真似してみたら意外とうまくいってさー」

藍子「あはっ。加蓮ちゃん、歌が上手なのに」

加蓮「ありがと。でも、あんまり歌が上手くない人の誤魔化し方って興味あったし?」

藍子「ふんふん……」

加蓮「試してみよっか」

藍子「そうですね、聴いてみた――」

藍子「って、違いますっ。加蓮ちゃんが歌っちゃったら、眠っちゃうじゃないですか!」バッ

加蓮「それもそっか」

藍子「……加蓮ちゃん。そうまでして、私を眠らせたいんですか?」

加蓮「違う違う、違うよー」

藍子「ひょっとして、眠った私になにかいたずらをしようって思っているんですか……!?」

加蓮「……えーっと、それはイタズラしてほしいですっていうヤツ?」

藍子「違いますっ!!」

加蓮「ものすごくそうに聞こえちゃったんだけど……」


□ ■ □ ■ □


加蓮「熱が逃げ切らないなら、靴と靴下も脱いで見る? クーラーはほどよく効いてるし、テーブルの下でも効果はあるかもよ」

藍子「うんしょ……」ガサゴソ

藍子「よいしょっ、っと……」ガサゴソ

藍子「本当っ。これだけでもスッキリします!」

加蓮「ついでに濡れタオルで拭いてみるのもいいかもね」

藍子「加蓮ちゃん、ナイスアイディアですっ。では早速……。ごしごし」

藍子「~~~♪ 少しだけ濡れた足に、クーラーの涼しい風があたって、気持ちいい……♪」

加蓮「あははっ。いけない遊びに目覚めちゃった顔してるー」

藍子「そ、そんな顔になってましたか?」

加蓮「雰囲気がね」

藍子「お恥ずかしい……。で、でも、やったのは素足になって、濡れたタオルで拭いただけなので、大丈夫ですっ」

加蓮「私ならまだしも、藍子がカフェで素足になるのって結構いやらしくない?」

藍子「……?」

加蓮「ごめん、なんでもない」

藍子「今日は……まだ注文していませんけれど、さすがに食べるのはいいかな」

加蓮「食レポだもんね。お腹いっぱいでしょ」

藍子「お腹がいっぱいというよりは、食べたいっていう気持ちが、ぜんぶ満たされた感じです」

加蓮「あー分かる。スイーツ巡りした日の晩ご飯みたいな感じだ」

藍子「そういうことですっ」

加蓮「私は途中から見る側なんだけどね。あんまり食べれないし」

藍子「残念」

加蓮「藍子みたいに、幸せな人を見ることにもうちょっと幸せを抱けるようになるといいんだけど……。ま、いっか。私は私らしくっ」

藍子「そうそう。加蓮ちゃんは、加蓮ちゃんらしく!」

加蓮「ってことで私も靴を脱ごーっと」

加蓮「靴ぽいー、靴下ぽいー。これで藍子とおそろいー♪」

藍子「お揃いですねっ」

加蓮「裸足じゃなくて、靴のお揃いってどうなんだろ。パッとは気付きにくそうだけど」

藍子「その分、気づいた時に印象に残りそうですね。もしも見つけたら、すごく仲良しなんだ、って思っちゃいそうです」

加蓮「分かる分かる。……あははっ。じゃあ、今度試してみる? とは気軽に言いにくいね」

藍子「言おうとしましたけれど、なんだか気恥ずかしくなっちゃいましたね」

加蓮「藍子が余計なことを言うからー」

藍子「加蓮ちゃんだって、知っていたことでしょ? 私が言わなかったら、きっと加蓮ちゃんが言っていましたよ~」

加蓮「そう? 私だったら、気付いた上で敢えて言わないで、実際にお揃いにした後でこそっと言うかな。その方が、藍子の顔がこう……ぷぷっ。真っ赤になるのが想像できるなー♪」

藍子「……それって、加蓮ちゃんも恥ずかしいんじゃないでしょうか」

加蓮「私はへーきへーき」

藍子「つよがり……」ボソ

加蓮「ほう」

藍子「なんでもありませんっ」プイ

加蓮「お土産のことといい今のといい、今日の藍子は手強いなぁ。ううん、いつもか」

加蓮「食べるのはやめとくなら、何か飲む?」

藍子「う~ん……。食べている間に、飲み物もいくつか頂いたんです。今日はお水だけでいいかも……。でも、何も注文しないのも店員さんに悪いですよね」

加蓮「今さら1回や2回気にしないと思うけど……。気になるなら、帰る時になんか買っていこっか」

藍子「そうしましょうっ。手軽に食べられるお菓子を買って、家に帰ってからはココアを淹れて。夜遅くまで、加蓮ちゃんとたくさんお話するんです♪」

加蓮「そっか。今日泊まるって話だっけ。お母さんに連絡しとこ……」ポチポチ

加蓮「ドヤ顔してるけど、藍子、今日の夜は絶対先に寝るでしょ。なんだか疲れも溜まってるみたいだし」

藍子「大丈夫ですよ。さっき少し眠ってしまいましたし、お泊り会をすると、いつも加蓮ちゃんが先に寝ちゃいますもんっ」

加蓮「誰が子供よっ」

藍子「まだ子どもですから。……それに、1ヶ月半の間だけですけれど、私の方が年上です♪」

加蓮「ぐ……。ちょっと早く生まれたからってドヤ顔を……!」

加蓮「あ、私はコーヒー注文するね。すみませーんっ。……やっほ、店員さん。コーヒーは私にだけ、お願いしますっ」

藍子「こんにちは♪ 今日は……ごめんなさい、私はお腹いっぱいなんです。帰る時に、何か頂きますね」

加蓮「そういうこと。藍子が美味しそうに食べてるシーンは、近日大公開だよー」

藍子「……店員さん、すごくテンションが上がっているみたいでした」

加蓮「大画面で藍子の食事シーンを見られるって想像したんじゃない?」

藍子「え、ええ~……。大画面……って、なんだか照れちゃいますね。せめて、スマートフォンの画面くらいで」

加蓮「そこを控えめにしてどうすんの。せっかくだし映画上映くらい目指そう! 劇場版、藍子の食事シーン」

藍子「変な計画を立てようとしないでください……。加蓮ちゃんが言ったら、本当のことになるかもしれないんですから」

加蓮「さすがにPさんもアホかって言って止めてくるでしょ。だから妄想しがいがあるんじゃんっ」

藍子「ふふ。もう……。そんなことを言うなら、私だって言っちゃいますよ~」

加蓮「妄想バトル? 言っとくけど、私日菜子相手で鍛えてるからね。そう簡単に崩せると思っちゃダメだよ?」

藍子「まずてはじめに、ネイルを楽しそうに塗っている加蓮ちゃんのアップ映像!」

加蓮「……い、意外とぐいっと来るねぇ??」

藍子「爪先をじ~っと見ても怒らないけれど、顔を見ていたら、見るなって怒りますよね」

加蓮「爪に集中してる分、表情までは把握しきれてないからね。っと、店員さん、コーヒーありがと」

藍子「いい香り……。カフェの癒やしが、また1つ増えました……。やっぱり、起きててよかったっ」

加蓮「寝てたら寝てたで、香りで夢が変化してたかもよ? 藍子の見る夢なら、きっといい感じに変わってたかも」

藍子「そ、そう言われると、夢を見ていた方がよかったかもって思ってしまいます……」

藍子「ううんっ。やっぱり、加蓮ちゃんを寂しがらせたくありませんから」

加蓮「人のことばっかり考えてないで自分のことを考えなさい」

藍子「次に、映画館で流す加蓮ちゃんの映像はっ」

藍子「……う~ん?」

藍子「……」

藍子「……カフェですぅすぅ眠っている加蓮ちゃんの寝顔!」

加蓮「やったら刺す」

藍子「急にぶっそうにならないでください」

加蓮「寝顔を撮るなって何度も言ってるよね?」

藍子「と、撮ってはいません。見るたびに、撮りたいっていう気持ちをぐぐっと我慢して、1枚だけシャッターを切って終わりにしていま――」

加蓮「撮ってるじゃん!」

藍子「あっ」

加蓮「……藍子の家に行ったらアルバム全部調べさせてもらうからね!」

藍子「いいですけれど、量がたくさんあるので、加蓮ちゃん、夜眠れなくなるかも……」

加蓮「あぁ……。もー」

藍子「考えたんですけれど、やっぱり映画館で流す加蓮ちゃんは、アイドルとして輝いている姿にしたいですね」

加蓮「映画かぁ……」

藍子「プライベートの加蓮ちゃんは、私たちだけが知っている秘密の姿ということで♪」

加蓮「アイドル仲間の特権だね――って、私たちだけって。そこは私だけってことにしときなさいよ」

藍子「まあまあっ」

加蓮「……寝顔の写真、アイドル仲間に見せてたりする?」

藍子「ま、まあまあっ」

加蓮「もーっ! ホントにアンタは……」

藍子「加蓮ちゃん。せっかく店員さんがコーヒーを淹れてくれたんです。冷めてしまわないうちに、飲んじゃいましょ?」

加蓮「……」ズズ

加蓮「……ふうっ」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「藍子、さっきから自分が年上って部分をやけに強調してくるけどさ」

藍子「はい、そうですよ。……今だけは、お姉ちゃんって呼んで、甘えてもいいんですよ~?」

加蓮「しない」

藍子「残念っ」

加蓮「急に猫なで声になって、べたべたひっついて甘え始めたら、それはそれでキモくない?」

藍子「う~ん……。……見てみたいかも?」

加蓮「……」チョップ

藍子「いたいっ」

加蓮「年上って、Pさんとかスタッフさんとか色んな年上の人を見たりするけど、すごいなって思う人は素直にすごいと思うんだよね。経験から来る威厳みたいなのが、オーラで出てる人」

藍子「たまにいますよね。ベテランです、って体から伝わってくる方が」

加蓮「1000年くらい生きてんじゃないのって人とかねー」

藍子「そ、それはさすがに見たことがないかな……?」

加蓮「藍子は――」

藍子「?」ホワー

加蓮「……年上なのに年下から守られるタイプにしか見えない」

藍子「……ち、ちょっとは、威厳とまでは言わなくても……その……なにかありませんか?」

加蓮「ないです」

藍子「え~っ……」

加蓮「でも100年くらい生きてる感じはする」

藍子「"千"ではなくて"百"なんですね。……それって、おばあちゃんってことなんじゃ? 撮影させてもらった商店街にも、ええと……102歳、って言ってたかな? そんなおばあちゃんがいましたし」

加蓮「藍子とタメじゃん。すぐ仲良くなれるよ」

藍子「違います……」

加蓮「私の見方のせいなのかな。私、どうしても同年代が子供に見えちゃうんだよね」

藍子「それは、仕方のないことかも……。それこそ、加蓮ちゃんの人生経験ですからっ」

加蓮「アイドルになる前の経験より、アイドルになってからの経験の方がよっぽど濃いけどね。……ま、それはいいや。イメージできないなら、実際にやってみよっか」

藍子「ずっと悩んでいるよりも、行動した方がうまくいくってこと?」

加蓮「そ。……何してみよう。んー……藍子さん?」

藍子「それは、大げんかした時を思い出すからちょっと……」

加蓮「あーうん。そうだね……。藍子様……は違う意味になるし」

藍子「呼び方はそのままで、何か行動で思い描いてみるというのはどうでしょう」

加蓮「それなら……っと。そろそろ暗くなってきてるみたいだから、話は帰りながらしよっか」

藍子「は~い」

加蓮「あ、そうだ。藍子……藍子先輩。お手を」スッ

藍子「わっ……。え~っと、こういう時はなんて言えばいいのでしょうか。……く、くるしゅうない?」

加蓮「アンタやっぱ私の5歳下くらいでいいわよ」

藍子「え~っ」

藍子「靴下を履いて……うう。汗で靴下がまるまってて履きにくい」ガサゴソ

加蓮「まだー? 店員さん、レジのとこで待ってるみたいだよ」

藍子「わ、すみません! 急ぎますね。靴、靴――」ガサゴソ

加蓮「ったく。はい、右足。履かせてあげるから」

藍子「ひゃっ……加蓮ちゃん、触るなら触るって言ってくださいよ」

加蓮「ごめんごめん。……これでよしっと。もう片方のは履けた?」

藍子「大丈夫っ」

加蓮「ん。鞄とお財布――」

藍子(あ、右足の踵のところ、踏んじゃってる……)

加蓮「店員さん、お待たせ。そうそう、お土産を買って帰るんだ。今日は深夜まで女子会ー♪ 何か食べやすいのってある?」

藍子(よい、しょっと。とんとんっ♪ これで大丈夫!)

加蓮「……藍子? 何してるのー。もう会計終わっちゃったよ。帰るよー?」

藍子「は~いっ。今行きますねっ」タタッ

<お持ち帰りのお菓子、何を買ったんですか?
<ん? それはついてからのお楽しみかな
<みせてっ
<あ、こら! ホントに子供みたいなんだから……。ただのクッキーだよ?
<なぁんだ。今日は夜遅くまで、作戦会議の続きです!
<相談の途中で寝落ちしないでよー?


【おしまい】

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