キョン「俺だって嫌われたくないさ」佐々木「へ? じゃあ、キミは僕のことが……」 (9)

約9年半ぶりの新刊、『涼宮ハルヒの直感』の発売決定、誠におめでとうございます!

本作品はその嬉しいニュースとは全く関連性がなく、主に平成ガメラ・シリーズの3作品ついての考察がメインであり、落語家の林家しん平が自主制作した『ガメラ 4 真実』並びに、角川が2015年に制作した全編フルCGで構成された『GAMERA』の内容は含まれておりませんので、その点をどうかご理解頂ければ有り難いです。

それでは以下、本編です。

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「要するに"レギオン"とは黒歴史なのさ」

その日の放課後、佐々木に捕まった俺は、特撮映画である平成ガメラ3部作について、熱く語られるという憂き目に遭っていた。

「四神をモチーフに構成されていた平成ガメラシリーズの異端児、いや異物と言っても過言ではないくらい、不必要な存在と言える」

どうやら佐々木は『ガメラ 2 レギオン襲来』における敵役である"レギオン"のことが嫌いらしい。

「もしもあれが四神の"白虎"に相当する怪獣であれば、物語の完成度は完璧なものに仕上がっていたのに、やってくれたものだよ」
「まあ、そう怒るなよ」

よくわからないがひとまず宥めると、佐々木はくつくつと喉の奥を鳴らして上機嫌に笑いながら、怒るという離れ業を披露した。

「別に怒ってなどいないさ。しかし、同じ特撮映画の『ゴジラ・シリーズ』が度々復刻しているというのに、双璧を成す『ガメラ・シリーズ』にその兆しが見えないのはどう考えてもシリーズ第2作である『レギオン襲来』のせいであると僕には思えてならないし、キミだって内心はそう考えているのだろう?」

そんなことはこれまで一切考えたことはないし、そもそも『ガメラ・シリーズ』が潰えたのはライバルである"ゴジラ"よりも単純に人気がなかっただけだろうと推察している。

「キョン、キミは間違っている。ゴジラの背中に甲羅があるかい? ガメラにはある。その点だけでも、ガメラがゴジラよりも優れた怪獣であることは誰の目から見ても明らかだ」

甲羅。亀の甲羅ねえ。そんな良いものかね。
特撮映画を撮る際に、あんなデカくて重そうな甲羅を背負っていたらさぞかし動きを制限されて演技の幅は狭まるだろうし、そして何より着ぐるみのコストが嵩むことは間違いなく、むしろその甲羅こそがガメラ・シリーズを破綻させた要因であると思えてならない。

「やれやれ。呆れてものも言えないよ。キョン、キミは何にもわかっていないようだ」

まるでお手上げとばかりに手のひらを上に向けて、心底呆れたと言わんばかりに首を振る佐々木の仕草にカチンときた俺は反論した。

「だったら具体的に、あの甲羅が作中で一体何の役に立ったと言うんだ? 言ってみろよ」
「何の役に立つか、だって? おいおい勘弁してくれ。キミの目には可愛いヒロインしか映っていないのか? これだから煩悩しか取り柄がない男子中学生という生物は嫌になるよ」
「帰る。じゃあな」
「ま、待って!?」

いくら温厚な俺にだって限度がある。
席を立って帰ろうとすると、佐々木は慌てて手を伸ばし、ワイシャツの裾を摘んだ。

「なんだよ?」
「ぼ、僕としたことがついつい言葉が過ぎてしまったようだ。あの、その……ごめんね」

うんざりしながら振り返ると、バツが悪そうに謝罪した佐々木を見て溜飲を下げ、再び席に着いて話の続きを促してやる。やれやれ。

「で? 甲羅がどんな役に立ったって?」
「え? あ、ああ……なんだ興味津々じゃないか。ふぅ……まったく、焦って損をしたよ」
「本当に帰っていいか?」
「ま、待ってよ! 話す! 話すからぁ!?」

再び席を立つと、またもや大慌てで今度は背中にしがみついてきた佐々木はなかなかのポンコツぷりで、見ていてとても面白かった。

「ふぅ……キョンは本当に僕をいじめるのが好きなんだから。小学生じゃあるまいし、仲の良い相手に意地悪するのはやめたまえよ」
「お前にだけは断じて言われたくないな」
「ぼ、僕はキミに意地悪などしないとも。だって、その……キミに、嫌われたくないし」

どうやら無自覚だったらしい。小学生かよ。

「俺だって嫌われたくないさ」
「へ? じゃあ、キミは僕のことが……」
「ん? 何が言いたいんだ? ハッキリ言え」
「な、なんでもない! とにかく、安心したよ。どうやらキミはガメラにつ対して偏見があるようだが、これからも仲良く出来そうだ」

おもむろに手を差し出す佐々木。握手した。

「うんうん。やはり、持つべきものは友だね。キミが特撮映画好きと知ってガメラ・シリーズを観たことを後悔しそうになったが、どうやら功を奏したらしい。僕は嬉しいよ」

たしかに俺は特撮映画をそれなりに好んで観るが、あくまでいち観客目線であり、あれこれ考察だの講評をするほどにマニアというわけではない。映画とは気軽に楽しむものだ。

「キミの言い分にも一理ある。しかし、僕はどうしても"レギオン"だけは許せなかった」
「それは個人の価値観だから良いとして、結局ガメラの甲羅は何の役に立つんだ?」

閑話休題。話を本筋に戻すと、佐々木はさも得意げに薄い胸を張って答えた。

「ガメラは甲羅の中に手足と頭を収納して空を飛べる。それこそが最大の利点さ」
「後ろ足だけを収納して飛んでいたこともあっただろう? 別に甲羅は要らなくないか?」
「キョン!? なんてことを!? 甲羅を失ったガメラの姿を想像してみたまえ! それはさながら、宿を失ったヤドカリ……蓑を失ったミノムシのように情けない存在へと成り下がってしまうではないか!? カッコ悪いよ!!」

なるほど。詰まるところ佐々木は、ガメラの甲羅にカッコ良さを感じているらしい。
その感情論を理論武装しようとするからこうも話は拗れてしまった。面倒臭い親友だぜ。

「佐々木、落ち着け。単純に見た目のカッコ良さならば、俺だって甲羅に惹かれるさ」
「ほ、本当かい? 僕、おかしくない?」
「おかしくない。ちょっと変わっているが」
「ど、どっちなのさ!?」

おかしいかおかしくないかと言えばおかしいだろうけれど、俺はそんな一風変わったこの親友のことをそれなりに好ましく思ってる。

「ちなみに三部作の第3作は観たのか?」
「もちろん観たとも! 第3作の『ガメラ 3 イリス覚醒』は主人公が女の子で僕みたいな髪型をしていたから感情移入がし易かったよ」

たしかに『ガメラ 3』は佐々木みたいな女の子がヒロイン兼主人公で、俺としてもガメラ・シリーズの中で特にお気に入りの作品だ。

「俺としてはあの第3作でガメラ・シリーズは有終の美を飾ったと思っている。特にお前の大好きな甲羅の造型が秀逸で、東京に飛来したガメラから頭と手足が生えて、渋谷に降り立つシーンには感動すら覚えた」
「キョン、キミは……」

饒舌にガメラ・シリーズ最高の名シーンについて語ってやると、佐々木は目を丸くして驚いた様子。俺だってこの程度の知識はある。

「"レギオン"に対するお前の言い分も理解出来る。仮にあれが"白虎"に相当する怪獣であれば、第3作のイリスは"青龍"として扱われて、"朱雀"のギャオス、そして"玄武"のガメラが揃い、物語の完成度は完璧になっていた」
「キョン……キミはやはり、僕の理解者だ」

この程度は一般教養だ。一風変わった奴と親友をやっていくには、必須な知識である。

「だけどな、佐々木」

全てを理解した上で、俺は佐々木に諭した。

「未だガメラ・シリーズで"白虎"に相当する怪獣が出ていないことこそが、希望なんだ」
「希望……? それは、どういう意味だい?」
「まだシリーズは完結していないのさ」

『ガメラ 3 邪神(イリス)覚醒』はたしかに平成ガメラ・シリーズの集大成として、有終の美を飾るに相応しい大作だった。けれども。

「厳密に言えば、イリスは第3作において"朱雀"に相当するギャオスの変異体とされているから、"青龍"にあたる怪獣だって登場していない。"白虎"と"青龍"。こいつらは果たしてガメラにとって敵か味方か。人類に破滅を与えるのか、もしくは救済を与えるのか……」
「キョン……キミは、そこまで考えて……」

おっと。口が過ぎた。俺はマニアじゃない。

「佐々木は第3作のラストをどう見る?」
「たしかイリスを倒したと思った矢先、ギャオスが群れをなして現れて、満身創痍のガメラがそれに立ち向かうシーンで終わっていたね。僕としては攻撃目標をガメラからギャオスに切り替えた自衛隊とガメラが共闘して切り抜け、互いの絆が深まればいいなと……」
「希望的観測はいらん。現実的に考えろ」
「……ギャオスの撃退は困難だよ。自衛隊は役に立たないし、イリスとの戦闘で受けたガメラの傷は深い……そうか、だからキミは!」
「そう。間違いなく、他の四神が参戦する」
「たしかに……その可能性は高い」

佐々木は頭が良い。すぐに察して俺の考察に同意してくれた。興奮した面持ちで親友は続ける。

「ガメラとギャオスは敵対関係。ガメラは満身創痍で絶体絶命。空から群れをなして飛来するギャオス。それを打ち破るには強力な航空戦力が必要不可欠。しかし自衛隊の戦闘機は役に立たない。ならば、天空を支配する新たな怪獣……つまり、"青龍"が必要不可欠というわけだね?」

流石は佐々木だ。概ねその見解に同意する。

「対ギャオス戦では空中戦が主となる。だから"青龍"という切り札をシリーズに残しておく必要があった。それが、イリスをあくまでもギャオスの変異体と位置付けた狙いだ」
「そこまで考えて『ガメラ 2 レギオン襲来』を制作していたとは。しかし空中戦では役に立たない"白虎"なら第2作で登場させてくれても良いようなものを……焦らしていたわけか」

さてな。そこまでは俺にもわからん。
単に第2作の時点で製作陣の頭の中身が空っぽだっただけかも知れん。内容も薄いしな。

「恐らく、状況的にギャオスが飛来して現れるであろう"青龍"に相当する怪獣はガメラの味方をしてくれる筈だ。じゃないと詰む」
「だろうね。しかし、とはいえ人類の味方とは限らない。単純に自らが支配する天空をギャオスに侵略されるのが嫌だったのかもね」
「ま、そんなところだろう」

敵ではないが、味方ではない。
単なる縄張り争いの結果、"青龍"は"朱雀"の群れを蹴散らす。結果的に人類は助かる。
そこでふと、佐々木が矛盾点に気付いた。

「でもキョン。『ガメラ 3』の作中内で"青龍"は"海蛇"と表現している部分はどう説明するのさ? "海蛇"が空を飛べるのかい?」
「亀のガメラだって飛んでるんだから、飛べるんじゃないか? きっと"白虎"も飛べるぞ」
「そんなの滅茶苦茶じゃないか! まさかキミ、適当なことを言っているのではないだろうね? こんなに僕が必死に考えてるのに!」

まさかも何も初めから適当だ。当然だろう。

「だ、騙したのか……? そうやっていつもキミは僕に気を持たせてその気にさせて……」
「別に騙したつもりはないぜ。お前がひとの言うことをホイホイ信じるのが悪いんだ」
「くっ……信じていたのに、ひどいよ」

じわりと涙目になる佐々木。最高に可愛い。

「泣くなよ。話に付き合ってやっただろ?」
「そんな子供をあやすみたいに言わないでよ! キミは仕方なく僕の話に付き合ってくれたの!? 内心くだらないと鼻で笑っていたのではあるまいね!? そうだったら絶交だ!」
「落ち着け佐々木。そんなわけないだろう」

たしかに最初はうんざりしていたさ。
けれど、途中からは心から楽しんでいた。
そもそも、だ。俺は涙目の佐々木に尋ねた。

「お前は俺のために、今時誰も観ないような特撮映画をわざわざ観てくれたんだろう?」
「べ、別にキミのためというわけでは……」
「ありがとよ佐々木。その気持ちが嬉しい」
「あ……はい。どういたし……まして」

なんだか気恥ずかしくなって目を逸らす。
教室の窓から差し込む西陽が眩しかった。
真っ赤な太陽が俺と佐々木の顔を真っ赤に染めていて、火照った頬が、熱かった。

「そろそろ帰るか」
「あ、うん……先、帰っていいよ」
「なんだ、どうかしたのか?」

こそばゆい空気を振り切って、下校しようとするも、佐々木は席を立たず座ったまま。

「僕、ちょっと着替えてから帰るから……」
「お前……まさか、また……?」
「キョンの話が長すぎるのが悪いんだもん」

直感で全てを察した。時既に遅かったのだ。

「漏らしたのか?」
「……うん。今日も気持ち良かったよ」
「フハッ!」

やれやれ。もしも俺の首の骨がギャオスと同じく音叉の役割を果たす構造をしていたならば、愉悦の代わりに300万サイクルの衝撃波である『超音波メス』が放たれていたことだろう。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「んくっ……ああっ……まだ、出るっ……!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

佐々木の足下に広がる水溜りが夕陽に赤く染まり、まるで京都の町を燃やし尽くしたガメラの如く、俺は口から"プラズマ火球"の代わりに高らかに哄笑して、満悦に浸った。

「キョン、いくらなんでも嗤いすぎだよ」

"超烈火球(ハイ・プラズマ)"どころか、"究極超烈火球(ウルティメイト・プラズマ)に匹敵するほどにやかましい俺の哄笑に、佐々木はうんざりしたらしく、こう釘を刺してきた。

「今すぐ嗤うのをやめないと、ガメラがイリスを倒した時みたく、僕の"爆熱拳(バニシング・フィスト)"でキミのお尻を攻撃するよ」
「すまん。それだけは勘弁してください」

あれだけは困る。使い物にならなくなる。
すぐさま土下座して謝罪すると、佐々木はおもむろに立ち上がり俺の背に腰をかけた。

「土下座するキミはまるで亀みたいだね」
「残念ながらいかつい甲羅はないけどな」
「うん。それでもね……亀は大好きだよ」

亀も悪くない。格好良いかは別として。
甲羅がなくてつくづく良かった。染みる。
佐々木の尿が、ワイシャツに染み渡る。

「なあ、佐々木」
「なんだい、キョン?」
「俺もガメラに出てくるヒロインが好きだ」
「……ばかだね、キミは」

背中の上で、くつくつと、佐々木が嗤う。

今ならば、俺は甲羅はなくともガメラのように、頭部と四肢を収納して、佐々木を乗せてどこまでもどこまでも飛んでいけるのではないかと、そんな馬鹿なことを思った。


【キョンと佐々木の考察】


FIN

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