【安価】悪の魔法少女を打ち倒せ! (48)
……以前、この街には化け物が跋扈していた。
常人には視認できないそれは、毎夜人を喰らい戯に殺し回っていた。
だが……それらに対抗する様に魔法少女と呼ばれる少女達が現れそれを倒して回っていた。
だが、時が経ち無垢だった少女達は自分の能力の強大さに気付く。
大の大人を数秒で肉塊にできる膂力、豹よりも軽やかに跳び隼よりも早く飛ぶ脚、放たれる魔法は対物ライフルに匹敵し飛行能力は戦闘機並み。
人間大の兵器の力がどれほど危険か、幼く無垢な彼女達も理解できた。
そう言った悪心に染まった彼女達は、自堕落に力をふるい化け物を倒す頻度は減った。
そればかりか、彼女達を諫める新米達を煩わしく思ったのか何人かの魔法少女は新米狩りをし始めた。
……そんな様子を認識した、魔法少女を作った存在は現状をゆゆしく思い『安価』に接触を試みた。
1『彼』
2『彼女』
下
通常、彼等は決まった姿を持たない。
ただ声だけで、適性のある少女に呼びかけ力を与えた。
だが……彼女に抑止の役割を持たせるのならば、固有の姿を持ち監視を行わなければならない。
使い魔「こんにちは……急で悪いんだけど、この街を守ってくれないかな?」
白い猫とリスの中間の様な曖昧な姿は、人語を喋らせればすぐに尋常ではないと伝わる。
使い魔「君の先達が悪の道に堕ちてね……おかげで化け物も減らない……厳しいことを頼むけれど、お願いだ」
話しかけられた『安価』はただただ戸惑う。
彼女はただの少女で、まだそんな化け物すら見たこともない。
『名前、外見、性格』
下
彼女……谷本 彩花は小動物を睨みつける。
彩花「お、お前なぁっ! 信じられるかっ、そんなこと」
使い魔「……仕方ない……見せてあげるよ、最新映像だよ」
そう言い、目が光り壁を照らす。
まるで映画のように、彼女の住む街で化け物や魔法少女が自由に跋扈していた。
使い魔「信じるも信じないも君次第さ……だけれど、一応力の一端を見せよう」
先の映像に呆気にとられていた彼女は、白い獣の出した光弾を避けられなかった。
光は身体中に広がり、そうして魔法少女を示す『安価』衣装がその身体を包んでいた。
『衣装のデザイン』
下
彩花「なんだ、こりゃぁ!?」
黒いスパッツに黒いサラシ。
そして学生帽に金色の龍が刺繍された真紅の特攻服。
彩花「ち、力が、漲るっ!」
使い魔「うん、やっぱり直接授けたほうが早いね」
全てを事実だと突き付けた使い魔は、軽やかに肩に乗り尻尾を揺らす。
使い魔「さぁ……不可知の側に君は立った……まずは化け物退治からいこうか、『安価』に化け物がいるよ」
『化け物のいる場所、化け物の外見』
下
彩花「っ、うわぁっ!?」
旧校舎にたどり着いた彼女は、初めてみる化け物に寒気がする。
始めは肉のボールにしか見えなかった、ミンチ肉を彼女の身長ほどの高さにした異形だと。
だが……それらはミンチなどではなく、まだ原型を残していた……。
布の切れ端が肉の間に見え隠れする……この学校の制服だ。
使い魔「建物は気にしないで、僕らは直せるし……君も化け物も常人には不可知だ」
……不可知……その意味をやっと理解する。
肉の球体の表面にいくつか貼りつく顔面の皮……二ヶ月前からいなくなった同級生のものだ。
そして……いなくなっていたことに、彼女は対面してようやく気づく。
彩花「胸糞悪いッ!」
彼女はサラシ同様の黒い包帯でバンテージされた拳を振るう。
電光石火、彼女に伸ばしてきていた継ぎ接ぎだらけの腕が叩き折られ本体に衝撃が走る。
使い魔「ステッキを出すんだ!」
彩花「あ゛ぁっ!? 杖なんて……」
使い魔「そうじゃないっ、魔法少女の武器だよ! 今頭に思い浮かんだものが君の武器だ!」
そう言われ、彼女は『安価』を振るう自分が頭に浮かび上がる。
『魔法のステッキの外見』
下
彩花「……へっ!」
彼女は肩を回し、掌に集まり始める光の粒子を掴む。
それは形を作り始め、明らかに間違った用途に使い古された金属バットを形作る。
彩花「しゃぁっ!」
バンテージは驚くほどバットの持ち手にフィットし、圧倒的に戦闘力が上がった感覚に変わる。
彩花「らぁっ!」
骨でできた槍を何本も叩き折り、本体の肉塊に殴打を叩き込む。
ゴキッ、ゴキッと確実に内部の何かしらを砕く。
しかし化け物の方も好きにさせる気はないらしく、継ぎ接ぎだらけの脚で彼女の腹部を蹴り飛ばす。
彩花「……へへっ」
とっさに腕とバットでの防御に間に合った彼女は、廊下の反対側まで飛ばされるだけで止まる。
彩花「このままブチコロス!」
そうして、彼女は化け物に向かい『安価』
1『勝利を収める』
2『敗北してしまった』
3『その時、新たな魔法少女が現れた』
下
バットを振れば振るほど、その勢いは増し銀色の軌跡に肉が抉れていく。
一振りごとに肉をちぎり飛ばし、触手や骨の槍も関係なく振り千切る。
……1分後には、僅かに残った肉塊とちぎり飛ばされた肉片だけが残っていた。
彩花「ふぅーっ……スッキリ爽快だな!」
返り血に塗れた彼女は、顔を拭いながら笑う。
彩花「こりゃ、私利私欲で使うのも納得だ」
使い魔「こら」
どこに消えていたのか、いつの間にか現れた使い魔が諫めるように声をかける。
彩花「わーってるよ、ジョーダンだって」
彼女もそこまで本気ではない、といった様子ですステッキを消す。
使い魔(……さて、僕はどこまで有効かな)
今までは力を与えた後は放任していた、魔法少女たちへ出来ることは少ないからだ。
だが、彼女達が力に溺れぬように声をかける、これが有効であるならばこれからの魔法少女も彼がそばにいることになる。
彩花「っし、帰るか!」
肉塊や返り血が消滅したのを確認し、彼女は後ろを振り返る。
すると、ずっと観察していたのか『安価』がいた。
『後ろにいた魔法少女の外見と衣装』
下
???「………………」
彩花「んだぁ……?」
背丈は彼女より低い、ともすれば中学生というほど。
ゴスロリに彩花よりも大きな胸、どこかチグハグにも感じる。
彩花「……魔法少女か」
なんとなくだが、相手の正体はわかった……シンパシーなのだろうか。
使い魔「あの子は『安価』」
肩で座っていた使い魔が、そっと囁く。
『名前、悪の魔法少女かどうか、ステッキの形状』
下
有栖「こんにちは、私は佐奈川 有栖……新人さん?」
彩花「ん、まぁな……」
化け物の気配が消えたことを確認した彼女は、ステッキを消失させる。
有栖「……? その、肩に乗っているのは……?」
使い魔「そうだね、僕とははじめましてかな? 僕は君たちに魔法少女の力を渡した存在、使い魔さ」
その言葉に、今度は彩花の方を見る。
有栖「ど、どういう……?」
使い魔「悪の道に落ちた魔法少女を増やさないためにね、こうやって物理的な肉体をそばにおけば抑止になるかなって」
彩花「あぁ? それ、あたしがアクになるってこと?」
使い魔「そう思ってないよ、そんなことが分かってたなら魔法少女の力は渡さない……出来ることを探したいんだ」
……どこか不服そうだが、彩花はそれ以上の追求はやめた。
有栖「それじゃあ……最近この辺りに出る悪の魔法少女の情報を共有したほうがいいわね?」
そう言い、彼女は彩花を見つめる。
有栖「最近『安価』っていう魔法少女が出てきてるの、気をつけて……」
『悪の魔法少女の名前、外見、衣装』
下
『悪の魔法少女の名前、外見、衣装』
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