電走部 (18)






「あそぼ!」





その一言には。
明るさ、優しさ、強さ、欲。
すべてが満たされていた。




「いっしょにあそぼう」




子供たちは小さな社会で育ち、
はっきりとした意思を伝え合うようになる。



「あれで遊ぼうぜ」



かつて湛えていた純朴さは薄れてゆく。
それぞれの求める体験のために。







「なあ、日曜空いてる?」

子供達は。

忘れながら。
見失いながら。
変わりながら。
初心を確かに持ちながら。

いつの時代も、肩を並べる。


activate... C:\Program Files\VR\Virtual Run.exe

Play with me.





木田「日曜。おう」




4限終わった昼休み。
そいつは開口一番のお誘いを、慣れた調子で快諾した。



話しかけたのは木田 郁人。(きだいくと)
毎週遊ぶくらい、俺の一番の友達。



須磨「10時でいいか?」

木田「いいぞ」


どこで遊ぶかなんて、いつも通りだから言わない。
俺んち自室のテレビ前。


「おい楽満! もうカード配んぞ!」

「雑魚!」


須磨「行くから待ってろい! ……んじゃ、またな」

木田「おう」


須磨「おい雑魚ハラ、テメェさっき何言いよった」

「雑魚ミツはよ、机寄せろ」


木田は食堂へ、俺は弁当開けに机へ。

俺は須磨 楽満。(すまもとみつ)
三度の飯より、クラスメイトとの大富豪が好き。
遊ぶ事だったら人に負けない、なんて粋がってる……ただの遊び好きな高校生だ。



……



「んん?? んっ! いええええええハッッッピャクエエエエエンン!!!」

須磨「あああああああああ!!!??」


俺は手元に4と2のカードを残し、無残に崩れ落ちた。
まだ上がらないと思ってたのに。
嘘やん? 残り7枚に階段2対も残すかフツー?

「芸人」

「芸人」

「クソ雑魚!」

「ゲイミツ」


須磨「いやっ、いやゲイミツはやめろ意味が変わる」

「800円を献上したまえノホホホホホ!」

須磨「うわああああ痛え、両替行っていい?」

「あ、俺メロンソーダがいい」

須磨「おめえのジュースねえよボケ! [ピーーー]ボケ!!」


「男子うっさい!!」「廊下まで聞こえんだけど!!」


須磨「ァーイ!さーせん!!」


箸を左に、手札を右手に。

昼休み恒例の賭け大富豪は、新学期の新しいクラスでどこからともなく流行りだし、今や馴染みの奴らが6人も固まって毎日バトりあってる。
メシで膨らんだ頰に脂汗をかきながら、時に吹き出しかねない勢いで絶叫するのが習わしだ。



断末魔も勝ち名乗りも、派手な方が断然楽しい。



がららっ!


教室の戸を開け、千円を崩しに自販機のある1階へ早足で降りていく。


……


結局、あいつらのジュースも買ってく。
小銭がない事はなかったから、その分ブッパしてやった。


両腕に缶とペットボトルを抱え、走れない身体で階段を一段ずつ登る。










ふと、踊り場の掲示板……ある掲示物に吸い寄せられる。



“「電走部」新入部員 募集中 ”
部室棟 2F 最奥

須磨「……電走部って、確か」




この腕の……クソみたいなジュース祭りがなければ、俺はこの掲示板の前を駆け抜けていただろう。



それは、未来の始まりでもあり。

『――あそぼ!』

回帰への旅路でもあった。

SSらしくないけど この媒体で出来る事がしたい

例えば
>>1 https://youtu.be/IkOK8tdEsFY
>>2-4 https://youtu.be/ljKLdsoCa8o
こんな紹介とかね。知ってるよボケというものも多いだろう
雑なイメージでいいんだわ
自分で読むのにしっくりくるだけの自己満だから

続きは気の向く頃




……
キーンコーンカーンコーン……





「おーい楽満ー。今日オケ」


須磨「わり! 用事! じゃあな!」

しっかし。

木田「どうした急に。部活なんて」

須磨「まあな、見学だけでも」


入学当初、遊ぶ時間が減るからと楽満は部活動をしないつもりのようだった。
進級して2年生となった今に、どうしてまた。
しかもどうして俺まで付き合わされているのだろう。



木田「何部だ」

須磨「でんそーぶ!」

木田「デンソーブ……?」



こいつの奇行、凶行、思い付きからなる蛮行の数々……枚挙に暇がない。
それなりの付き合いになるが、この程度の事であれば軽いものだ。

ところで「デンソーブ」とは聞いた事がないが……いや。


木田「電脳部の間違いか?」

須磨「あー、それよ。それ。その電脳部が、今年度からリニューアルしたっぽいのよね」
須磨「電気が走るって書いて電走部。察したろ?」

木田「電走部……ああ。専門の部活なんか、学校が認可できるものなのか」




今、日本で大流行りのネットゲームがある。
VR社から突如として発信された処女作で、社会現象。
世論・医療機関・教育機関の如何なる反対も、その熱と勢いでねじ伏せた一大ムーブメント。

Virtual Run。

限りなく精巧な電脳空間を、自由に身体を動かし走る。
たったそれだけの内容を、クオリティと販売戦略のみで叩き出し、多くの人を夢中にさせた。


目の前を歩く楽満も、最近始めたらしいプレイヤーのひとりなのである。





ノックをし、引き戸に手をかける。
開いているようだ。

がららら……





?「――」

ヘッドホンを付けたまま、驚いた様子で俺を見る女子。
髪は黒く長く、隙間からぎょろりと覗く瞳。
薄暗い部室に煌々と輝くモニター。

いや、あんまり失礼なことを言うもんじゃないが、ホラーなヤツかと思った。
女子は画面にポーズらしいものをかけて、ヘッドホンを外した。

?「な、何……?」

須磨「ああ喋れたんだ。いや、電走部ってここで合ってる?」

?「廃部の話ならこないだ話したんだけど。帰って」

須磨「廃部? いや、見学したいんだけど」

?「見学って……」

木田「コイツが入部希望だ。急ですまないな」








?「ふーん」

パソコン室に置いてあるような椅子から身体を回し、そいつはようやくこっちに正対した。




?「あんた、レートは」

須磨「レート?」

?「VRのレート。入部したいってなら、やってるんでしょ」



女子の口から出てきた言葉に驚く。
レートっていうのはこう、Virtual Runがどれだけ上手いか、早いかっていう数字のこと。


須磨「まあ、そりゃVirtual Runは早さを競うスポーツの側面もあるけどさ。自分はも少し、こう、ゆるーくやりたかったんだけど」

?「そ。じゃあ不合格。帰って」

日頃から木田にこぼしているような話をすると、女子は途端に高圧的になる。
部としての方針は分かった。が……
親切心ならまだしも、ずいぶん不躾なもんである。


須磨「おぉいおい。そんじゃ初心者ちゃんがやりたいって来た時どうすんだい」

?「馬鹿? 入れるわけないじゃん」

須磨「なるほど、顧問の方針?」

?「は? それは常識でしょ」


後ろで木田が狼狽えているような気はするが、俺はスタンスを崩さないし、女は見下した態度を強めていく。
女ってこういうところあるよなあ。悪かったってば。


須磨「あー。独断ね……部長さんです?」

?「だから何。部員あたし1人なんだけど」


須磨「えっ」
木田「な」


wow……
大丈夫だろうか……色々……

木田に目配せするが、小さくかぶりを振るばかりであった。



須磨「出直しますわ、なんかすんませんね」

?「もう来なくていいから。じゃ」



がららら。……ぴしゃ。



須磨「意外と丁寧に閉めんのな」

木田「聞こえてるぞ。引こう」

とはいえ閉め出されてしまった。取り付く島もない。
彼女に直接入部希望するのは下策だろうし、顧問の先生を探してみるか。

木田「まさか、本当に入る気か」

須磨「おう。良さげじゃん?」

木田「良さげ要素どこだ。嘘だろ」



須磨「室外機近いしエアコン効いてた。モニター2つ、デスクトップ2つ、ラップトップ2つ、椅子も何脚かあったし、インプットも揃ってる。ソファまで入ってた」



木田「あの短時間で抜け目のない……いや、待て。まさかとは思うが」

須磨「隅っこに追いやればたむろれるんじゃね?」

木田「あーあーあー! この馬鹿!」

木田は余計なことに首を突っ込みたくないらしい。知ってる。
大方、あの娘っこが元の部員を追い出したか、3年が卒業して消えたのだろう。
それを機に「電脳部」から「電走部」に申請し直したというところか。



須磨「センコーは話が分かりそうだし、凸ってみっか」

木田「……」

須磨「ほーいほいほい。付き合え」

木田「相手は女子だ。やめといた方がいいんじゃ」

須磨「殴り合うわけじゃねえんだ、ヘーキヘーキ」


同じゲーマーはゲーマーでも、ある事については俺の専売特許なんだ。
今の気分は「何とかなるさ」と「上手くやるさ」が合わさって最強に見える。

やると決めたらやってみる。それが人生楽しむコツ。



がららら。

須磨「失礼します。大和田先生いらっしゃいますか」

木田「失礼しゃっす。」

「大和田先生はあっちの席よ」

須磨「お、美羽セン。ありがとうございます」

「あんた何しに来たの……」

須磨「あ、担任。ちっすちっす」

「悪さすんじゃないわよ」

須磨「あれ? ここ?」

「大和田さんはお手洗いだ。少し待ってろ戻ってくっから」

須磨「舘岡T! うっす、2年から絡みなくてつまんないスよ」

「Tシャツみたいに呼ぶな」



頻繁に出入りするわけでもないのに、我が物顔で職員室を闊歩する親友。流石と言ったところか。

須磨はああ見えて素行は悪くない。
誰にでも親切だし、物事の一線はちゃんと引いている。
とてつもなくうるさいが、巻き込まれた人間にはそれすら楽しいと思わせる何かがある。



大和田「およ……どうしました、おそろいで」

俺たちに教えている2年、現代文・古文の先生。大和田 仁(おおわだひとし)
フッサフサの白髪と、短い背丈を更に丸めた小ささがトレードマーク。
校内最高齢にして授業の評判も良く、人徳を兼ね備えた重鎮……というのが俺の印象。


須磨「あ、来た来た。ひとしセンセ、電走部の顧問ってホントっすか? さっき……」

出先から手打ちが多い
まあ溜まったら思い出したかのように斜め読みする方が健康
>>6-10
https://youtu.be/wHZp1v5uApw
ゲーム音楽はいいねえ

その通り。ごめんね
→須田Mとみつ
→木田Iくと

うっとうしい時は「蛇足」をNGnameに突っ込んでくれ、そのようにする



須磨「……って事でですね」

大和田「ふむ」


須磨の話を聞き終え、大和田先生は柔和な表情を崩さないまま顎に手を添えた。

大和田「須磨くんは、その……げえむをやったことがありますかな?」

須磨「ええ。ぼちぼちっす」

大和田「少し待ちなさい」

大和田先生は机からメモを千切り、立ったままほとんど屈まずに万年筆を走らせていく。


……


大和田「これは、須磨くんのものです」

須磨「うっす。見ていいすか?」

大和田「構いませんよ。その為のものです」

程なくして渡されたメモ。肩から覗き込む。

木田「どれ……」


須磨『校内に須磨楽満が部活動用の道具を持ち込む事を認める。
なお、電走部 望月静流との遊戯目的に限る。大和田仁』


つまり。パソコンとかパッドとか、あの中で遊ぶ目的なら学校にそれを持ち込んでも良いって言質を取れた事になるのか。



須磨「お、おお? つまり、入部しても……?」

大和田「あなたと、彼女が関わる事です。当人たちが納得せずに、わたしから入部を許可することは本意ではありません」

大和田先生は万年筆を止めないまま、ゆっくりと諭すように続ける。

大和田「入部審査があるとすれば……そうですなぁ。あの娘っ子と、満足するまで遊んでみなさい。自己申告で構いませんが、得るものは快適な部屋ではなく良き縁である事を願います」

何故やら部屋や機材目当てであったのはバレていたらしい。立ち入るならあの1人の部員と上手くやれというのは……まあ教師として真っ当な話だ。




須磨「えぇ~、センセ話聞いてましたかぁ? 取り付く島ないんすよ、マジ」

大和田「ええ。これをお渡しします」

大和田先生はもう一枚のメモを千切ると、そちらには丁寧に判子を押す。

大和田「今日は出直すと良いでしょう。あなたの準備を整えた上で、彼女にこのメモを見て貰いなさい」


こちら方の面倒がる気持ちに反するように、大和田先生は嬉しくて仕方のないような顔で話を終えた。



その日の帰り道。
帰宅部と部活勢のラッシュ、その間の時間は閑散としている。


ケタケタと笑いながら並び立つ影が大小ふたつ。

須磨「いやでさ? その新作が前作と比べるとシステムが増えてさ」

木田「ああ」

須磨「例えばアイツの214B崩しからバー対しながら4000減らすような」

木田「ん」

気の無いような相槌だが、これでもこいつの話には聞き入っている。
傾いた陽を横目に、須磨は好きな格闘ゲームの変遷を憂う。

須磨「なーんか違うんだよなー。手軽すぎるっていうか、前の方がよかった」

木田「そうだな……」




木田「まあ、コマンドを楽にしてくれ」

須磨「せやな」

俺は格闘ゲームは目まぐるしい入力と安定しないコマンドが理由で苦手だ。
俺も須磨もその辺りの練習を苦としないが、俺はいっこうに身につかない。

手先の動作を要求されるものについては、例外なく不器用である。

須磨「まあ、気が向いたらやろうぜ」

木田「ああ」

いつ気が向くか、というのは日曜日のことである。
俺はたぶん大敗するだろう。が、特に気にしていない。
楽しみですらある。

それが俺たちの関係。


――




――

――――

――――――



須磨「ぶっぱァ!!!」

木田「拳で……!」

簡易的な日本語を用いた独自の文化圏が須磨の家では発達している。

須磨「亜゛! ん亜゛ッ!!!」

木田「ああ。」

須磨「ぶっぱ(裏声)」

木田「拳だ。拳が勝つ」


第三者を置き去りにしないように説明すると、現在格闘ゲームで木田と対戦している。

俺の使うキャラは……ある簡単な技がひたすらに強いキャラだ。不器用な俺が勝負に集中できる唯一の選択とも言える。
須磨の使うキャラは、特殊で高度な操作をもって真価を発揮する玄人向けのキャラ。


須磨「ここで拳読み…

木田「拳だ。」

須磨「亜゛!! リバサは遅らせ…

木田「拳だ。」

須磨「亜゛ッ!! ちんちん亜゛ッ!!」

木田「……」
須磨「……………………」

須磨「  、っと」
木田「拳」


KO!


須磨「んんあああああああ!!!!! あああ゛気持ちィ!!! イグゥ!!! イキそイグッ!!!!!」
木田「おう。悪いな」


今日は調子がとても良い。
言語野を犠牲に頑張ってる須磨には悪いが、互いに笑顔なので許せ。


……




「あんまりうるさくするんじゃないわよー!!!」



須磨「ほーい!!!」

階下から須磨の母が注意する。毎度のことだ。

須磨「ンァーッ!!!!」


「うるさぁい!!!」


木田「……。この拳修正しなくていいのか」

須磨「うーん。チンポパンチ(裏声)」



このように。
須磨は争い事の勝ち負け、能力の優劣、物事の成否にこだわらない。
俺にも元来そのきらいはあるが、須磨ほどに結果を度外視する人間を知らない。


須磨「はっはっはっは!!!」

木田「ふふ……」

須磨「よし、満足した。木田上手くなったなー」

木田「拳だけ、な」


それどころか遊びも争いも、関わる相手に対して敬意を失したところを見たことがない。

おそらく意識的に培われてきたその習慣は、俺を含めた周りの人間を少なからず惹きつけていた。

須磨「んじゃ、次あれやっか」



activate...
C:\Program Files\VR\Virtual Run.exe



だから、あの……電走部に所属していた女子ともすぐ打ち解けられると思った。











……


ポチポチと。


『セレスのRun高すぎて無理。修正はよ』

『ランクマでセレス引いたら悪いけど切るわ。チート使って勝つの楽しい?』

『セレスちゃんライブ衣装かわいいね♥修正して?』


脳の休憩がてらにスマホを流す。
怨嗟の声が気持ちいい。


望月「雑魚乙……」




ふと、こないだの会話を思い出す。


『廃部? いや、見学したいんだけど』


人と話したのは久しぶりだから、あんな内容でもすぐに思い出せる。


望月『もう来なくていいから。じゃ』


ああ言ったし、もう来ないんだろうけど。




望月「……」

モニターに目を戻すと、VRのマッチングが済んでいた。
対戦相手は格下。

ヘッドセットをはめ直すのが、集中力を高める必勝のルーチン。

望月「さ、狩るか」

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