パラディン「世界樹の迷宮は」メディック「ポケモンと共に」ピカチュウ「ピッカァ!」 (62)

総てを沈めた深き樹海


大地に根差し、天を支える巨幹


人類と大自然との開くなき闘争



それが、この世界を構成する全てだと教わってきた


???「そうか 先発第一隊は、皆……」


???「第二隊も半壊して撤退との報告が…… 胸が痛みます……」


???「おいおい、止めろよ辛気臭え 新たな階層に挑むときは、いつだってこんなもんだろう?」


???「ああ 増して、今回は調査対象そのものが未知の塊だ」


???「とにかく、情報を待ちましょう そろそろ第三隊が帰ってくる頃よ」


伝使「はっ、はっ……!」ガラッ


伝使「ギルドマスター各位!情報が入って参りましたっ!」


伝使「突如飛来した謎の柱状物体、その正体は……」


僅か数日前のこと


空から舞い降りた一本の槍が、この世界を貫いた




(君たちは今「世界樹の迷宮」と「ポケモン」のクロスSSを読み始めようとしている。▼)


(世界樹本編に倣い、ボウケンシャーの実名、性別及び容姿は明記されないようだ。
君たちは好きなように想像していいし、ひむかい氏のイラストを舐めるように眺めてもいい。▼)


(読み進めていった先、君たちは大いなるネタバレに出会うかもしれない。
世界樹未プレイの君は、今すぐBOOKOFFに行きたまえ! ▼)


(糸 持った? ▼)

AM11:00
旅人の道「カナーン」 ▼
パラディン「うう……疲れた……」
パラディン「もう一歩も歩けない……っ」ガシャン
メディック「もう、ちゃんと歩いて下さいよ先輩。日が暮れちゃいますよ」
パラディン「……あのねぇ、シロちゃん……」
パラディン「歩き始めてから四日間!すでにもう四回も日が暮れてるんだよ!」
メディック「…………」
パラディン「エトリアギルドからの呼び出しがあった時には、そりゃあもう喜んだよ」
パラディン「出世!昇給!今までの貢献がむくわれる!ってね……」
パラディン「でも、わたし達に下されたのは、他のギルドへの異動命令……」
メディック「……先輩……」
パラディン「なんだよこの仕打ち!どうすればいいこの苛立ち!!」
パラディン「そして、どこまで続くの、このクソ山道ーー!!!」
ヤマミチーーー……
ミチー……
チー……
メディック(……確かに、先輩の疲労はピークだ。装備品を持って歩くのも限界かもしれない)
メディック(執政院の長……ヴィスルさんが「馬で向かわない方がいい」って言ってたけど、徒歩で行けって言う方が無理な気が……)
ガサガサッ……
???「ピカチュ?」
パラディン メディック「!!?」

メディック(怪物が茂みから飛び出してきた……)
???「ピッカァ!」
メディック(世界樹の怪物が地上に迷い出てくることは、そんなに珍しいことじゃない)
メディック(でも……)
メディック(黄色い……森ネズミ?そんなもの見た事も聞いた事も)
パラディン「メディックッ!!」
メディック「はっ!?」ビクッ
パラディン「ボヤボヤしない!早く後ろに着いて!!」
メディック「は、はいっ!」
パラディン「相手が分からない以上、速攻で決めるよ!」
パラディン「シールドスマイト!!」ブォン
???「ピカチュッ!!」スカッ
パラディン「くっ、速いっ!!」
???「ピィ……カァ……!」バチチチチ
メディック(怪物が何か身構えて……!)
メディック「っさせない!スタードロップ!!」ポコ
???「キャウン!」
パラディン「危なかった……ナイスだよシロちゃん」
メディック「先輩、今のは雷属性でしょうか?」
パラディン「そうらしいね。さしずめ電気ネズミってところかな」
パラディン「でも、これで終わりだよ!シールドスマ……」
少年「ちょっ!ちょっと待って下さーい!」
パラディン「……へ?」

>>2-3 また改行ミスってるで
もしやり直したいのなら、書き直せばええで

メディック(赤い帽子の男の子が割って入ってきた)


少年「ごめんなさい、冒険者さん!そのピカチュウ、僕のポケモンなんです!」


少年「目を離した隙に居なくなってしまって……」


ピカチュウ「ピカピィ……」ウルウル


少年「コイツも反省してるので、許してあげて下さい!」


パラディン「……ねぇキミ、それ……世界樹の怪物じゃあないの?」


少年「……へ?」


メディック「さっき、ポケモンって言ってたよね?どういう事なの?」


少年「あの……もしかして、ポケモンをご存知無いんですか?」


メディック(ご存知無いなぁ……)


メディック(こういう情報不足って、エトリアギルドの怠慢じゃないんですかね……)


パラディン「私たち、エトリアから来たんで、こっちの事はよくわからないんだ」


ピカチュウ「ピッカチュ……」ゴメンネ


パラディン「こっちこそごめんな、いきなり殴りかかったりして」ナデナデ


メディック「あの、もしかしてキミ、ポケラタリアから来たの?」


少年「はい、そうですけど……」


パラディン「!!じゃあ、もうすぐ近くって事じゃん!」


メディック「ごめんねボク、良かったら道案内を教えてくれると嬉しいんだけど……」


少年「……分かりました、付いてきて下さい!」


パラディン「やったぁっ!」


ピカチュウ「ピッピカチュ!」


先輩の、疲れを忘れたかのような嬌声がこだまする。
エトリアを立って丸5日。
私たちはとうとう、ポケラタリアの街に足を踏み入れることになるのだ。

>>4
ご指摘ありがとうございます


どうやら自分のiPadの不具合らしいです。また建て直すのもナンなので続行します


この先も度々あるかもしれません。ご了承下さい……

AM11:30
ポケラタリア南部
バッチチェックゲート▼



私たちを出迎えたのは、まず黒鉄の城壁。
街を覆い隠す高さで、見ていて圧倒される。
進んでいくと、兜を目深にかぶった門番の姿が見えてきた。


衛兵「おおキミ、戻ってきたね。ピカチュウは見つかったかい?」


少年「はい、この通り」


ピカチュウ「ピッカ!」ノシ


少年「それで、その……」


パラディン「ピッカ!(裏声)」


衛兵「」


メディック「ごめんなさい、先輩は疲れているんです……」


衛兵「……ゴホン」


衛兵「これはこれは冒険者殿、あちらのギルドから話は伺っていますぞ」


衛兵「なんでも、エトリアの迷宮の二割はあなた方が攻略されたとか」


パラディン「いやいやぁ、それほどでも……えへへ……」テレテレ


衛兵「我がギルドは今、深刻な冒険者不足でしてな。ありがたい限りです」ポチ


ゴゴゴゴゴゴ


パラディン「おおー!!」キラキラ


メディック(衛兵さんが手に持ったバッチをかざすと、鋼鉄の門がひとりでに開いた……)


メディック(一体どういう仕組みなんだろう)


衛兵「さ、どうぞお進み下さい。ギルドは街の中心部、セントラルパークにあります」


少年「お二人とも、付いてきて下さいね!」


パラディン「ありがとう衛兵殿!さ、行くよピッカちゃん!」


ピカチュウ「ピッカチュ!」トテテテテッ


メディック(もう馴染んでるよこの人)

AM11:30
狭間の街「ポケラタリア」 ▼



門をくぐると、眼前に白が広がった。
流れる雲の白。石畳の白。建物の壁の白。輝く陽光の白。
木組みと石造りの美しい街並みだ。
しかし、何故だろう??



少女「あははー!まてー!」トコトコトコトコ


アチャモ「チャムチャムー!」ペタペタペタペタ



旅人「ハイヨー、バンバドロ!」


バンバドロ「ブルルォッ」パカラッパカラッ



キャモメ「クワーッ」


キャモメ「キャッキャッ」バタタッ



職人「ゴルーグ、お願いね!」


ゴルーグ「ゴオオオオ……」ヨイショ



真新しいけど、どこか懐かしい白。
私の心には、そう映っていたのです。

パラディン「ふわぁ…………!」キラキラ


メディック「知らない生物が、こんなに……!?」


少年「あはは、なんだか新鮮な反応ですね」


ピカチュウ「ピーカチュチュ!」


メディック「あ、あの……これが、ポケモン?」


少年「ええ。このポケラタリアの周辺だけに生息する種類みたいです」


少年「この街の名前からとって、『ポケモン』と名付けたんだとか」


メディック「き、危険じゃないの?一応、世界樹の怪物なんだよね……?」


少年「あははは、大丈夫ですよ」


少年「ポケモンは頭もいいし、友好的なヤツが多いんです。ただ……」


メディック「……ただ?」


少年「……あれを見て下さい」

少年の指差す先。
街を覆う壁の、もっと奥。小高い丘の上。


何かが「刺さって」いた。
紅の滴る、蒼く鋭い塔の影。
垂直に立っていながら、こちらに伝わる不安定感。
根元になるほど細い輪郭はただただ歪で、周囲の緑景からは完全に拒絶されている。


大地に突き立てられた一本の槍。
それが、この街の「迷宮」だった。

AM11:30
執政議事堂「サルマン」
議長室 ▼



執政院の議長「それで……」


執政院の議長「冒険者である貴方が、どのような要件で?」


???「やだなぁ、スレイマンさん。もう分かっているんじゃないんですか?」


???「自分、寡聞ながら、少し耳に挟んだんですよ…………」


???「アンタの良からぬ噂をね」


???「何でも、迷宮に挑む冒険者たちが、不可解な現象に巻き込まれているとか……」


執政院の議長「………………」


???「いや、いいんですよ?止めろって言う資格は無いし、公にバラすつもりも無いし。ただ……」


???「自分を、雇っていただきたい」


執政院の議長「………………」


執政院の議長「……名前を聞いておきましょうか」


???「はは、そうこなくっちゃ」


???「自分の名前は…………」

AM14:00
冒険者ギルド
執務室 ▼



木造建築の、しっとりとした庁舎。
カーペットの敷かれた長い廊下を抜けて、私たちは執務室の扉を叩く。


メディック「…………」コンコン


???「入ってくれ」


メディック「失礼します」ガチャリ


???「おや、キミ達は……」


パラディン「うわぁ、執務室もすっごい綺麗!やっぱりエトリアのボロ屋とは全然違うなぁ」キラキラ


メディック「……」


ゴスッ


パラディン「ぎゃん!なっ、何で殴るの!」


メディック「謹んで下さい、先輩。ギルドマスターの御前ですよ」


メディック「……すみませんギルドマスター。躾がなってませんで……」


パラディン「なんだよそれ!わたしゃペットか!」プンスコ


???「はは……評判通り、とても仲がいいようだね」

メディック(見た所、二十代くらいの若い男性だ。白い肌に銀色の髪。深い藍色の甲冑を着けている)


メディック(この人がギルドマスター……)


エイリーク「僕の名前はエイリーク。一応、ここのギルドの『ギルドマスター筆頭』をさせてもらっている」


パラディン「筆頭……?ギルドマスターって1人だけじゃないの?」


エイリーク「ああ。ここポケラタリア・ギルドには、5人のギルドマスターがいる」


エイリーク「ポケモンには色々種類がいるからね。各種類の専門家が必要だったのさ」


メディック「あの、それなんですけど……」


パラディン「わたし達、そのポケモンっていうのを全く知らないの」


エイリーク「!そうか……!」


エイリーク「情報が回っていなかったようで済まない。驚いただろう、街の様子を見て」


メディック「ええ……。不思議な感覚でした」


メディック「馬に似た生き物が荷車を引いて、鳥に似た生き物が空を飛んで……」


メディック「でも、そのどれにも見覚えが無いんです」


パラディン「こぉーんなに大きな、魔導人形(ゴーレム)みたいなヤツもいたしね!」


メディック「それに……」


メディック「街外れにある、樹々に囲まれた巨大な塔。あれは一体何なのでしょうか……」


エイリーク「ふむ……」


エイリーク「そうだね。順を追って説明しようか」

ポケモンとは何なのか。
何故、「世界樹の迷宮」の代わりに、異様な存在感を放つ「塔」が存在しているのか。
エイリークさんは私たちに、できるだけ噛み砕いて説明してくれた。


エイリーク「かつてはポケラタリアは、ごく普通の宿場町だったんだ」


エイリーク「エトリア、ゴダム、ハイ・ラガード、アーモロード……」


エイリーク「4つの『迷宮』のある街を結ぶ、狭間の街」


エイリーク「ギルド公認の、冒険者のための宿場町だ……。ただ、それだけだった」


しかし、25年前のある日、大きな事件が起きた。
流星群が空から降り注ぎ、ポケラタリアの地を直撃したのだ。


エイリーク「幾つもの宿が下敷きになった。何百という人々が犠牲になった」


エイリーク「……彼らの遺体は、今も見つかっていない」


メディック「…………」

パラディン「…………」

そして、その翌日。
土煙の中から浮かび上がったのは、
地面に突き刺さる、一本の巨大な石柱だった。


エイリーク「『槍のはしら』……。僕たちはアレをそう呼んでいるよ」


エイリーク「ちょっとした宿場町だった場所が、1日にして滅び、樹海に沈んだ……。」


メディック「つまり、この場所は……」


エイリーク「ああ。正確にはこっちの方が『ポケラタリアのはずれ』なんだ。」


その後。
何日もしないうちに、4つの街のギルドが合同で調査隊を結成した。
当時に全体の指揮を取っていた5人のリーダーが、そのままポケラタリアのギルドマスターになったという。


エイリーク「そして、探索を進めるにつれて、次々に不思議な事が判明していったんだ」

ギルドマスターの話は続いた。
一通りの説明が終わってから、私たちの情報をギルドに登録。
全ての手続きが終わる頃には、窓から差し込む光は、すっかりオレンジ色に変わっていた。

PM23:30
狭間の街「ポケラタリア」
宿屋街 ▼



ホーホー「ホー……ホー……」


ヤミカラス「クワァ、クワァ」バサッバサッ


メディック「………………。」


メディック(「槍のはしら」か……。内部のみならず、外部一帯にも影響を与えているなんて……)


メディック(あの柱の内部にはなんと、エトリアのものと同じような「樹海の迷宮」が存在しているらしい。そして、ポケモンは樹海からやってくる)


メディック(この街では友好的なポケモンも、ひとたび迷宮の中に入れば、凶暴化して襲ってくるという……)


メディック「……いつもの事ながら、分からない事だらけだ……」プシュー


メディック「取り敢えず明日は、執政院に挨拶にいかないと」


パラディン「ただいま、シロちゃん!」


メディック「あ、お帰りなさい先輩。二人部屋は取れましたか?」


パラディン「おう!ちゃんとダブルで取ってきたよ!」


メディック「…………ダブル?」


パラディン「ん?ダブルだよ?」


メディック「私、ちゃんとお願いしましたよね?ツインの部屋にして下さい……って」


パラディン「…………あ、あの……」


パラディン「宿屋の人が、二人部屋はダブルしか空いてないって……」


メディック「……はぁ…………」


パラディン「あのねあのね、色々な宿に当たって聞いてみたんだよ?」


パラディン「でも、ダブルしか空いてないって……」


メディック「この……バカーッ!!」


パラディン「ひっ」ビクッ

メディック「ツインの部屋が空いてなかった?」


メディック「そんな事になったのもあなたが


『お腹すいたよシロちゃん、お腹と背中がくっつきそうなんだよぉ』


とか何とか食い下がって、宿を取る前に強引に夕食にしちゃったからじゃないですか!!」


メディック「しかも必要以上によく食べるし!何時間かかったと思ってるんですか!」


パラディン「うぅ……だって、5日ぶりのマトモなごはんだったから……」


メディック「5日ぶりのマトモな睡眠はどうするつもりですか!」


パラディン「い、いいじゃない!もうこの際ダブルベッドで」


メディック「分かってない!」


メディック「先輩は、自分の寝相の異次元さを分かってないっ!」


パラディン「そりゃ、確かにわたし寝相は悪いけど……」


メディック「悪いで済む問題ですか!!」


メディック「忘れませんよ!?一度あなたとダブルベットで寝た時……」


ピカチュウ「ピーカチュ?」トテテテテテッ


メディック「……あれ?これって……」


パラディン「ピッカちゃん!」パアッ


ピカチュウ「ピカチュン!」ニコォ


メディック「ってことは……」


少年「おーい、待ってくれピカチュウーっ!!」


少年「はぁ、はぁっ……」ゼェゼェ


メディック(赤い帽子の少年!)


少年「あ、あれ、お二人とも!どうなさったんですか、こんな所で……」

AM09:00
ポケラタリア
民宿「ヴェルメリオ」▼



オニスズメ「チュン!チュンチュン!」


オニドリル「グワーッ!!」バタバタバタッ


メディック「う………んっ……」


メディック「はぁ……よく寝た……」


メディック(まさかあの少年が宿屋の子だったとは……)


メディック(そして)


パラディン(全裸)「グゴゴ……ズゴゴ……ムニャ」


メディック(床だし……全裸だし……)


メディック(うわぁ……ベッドの周りに寝巻きが散乱してる……)


メディック(どんなに疲れていても、やっぱり異次元の寝相なんですね、先輩……)


コンコン


ガチャ


宿屋の子「おはようございます!朝ごはんの支度できて……」


宿屋の子「うわっ!?//////」


メディック「ああ、ごめんねレッドくん。今どけるから……」


宿屋の子「えっ、えっとええっと……///」アタフタ


宿屋の子「『昨日はお楽しみでしたね』…………?」


メディック「なぜそうなる」


パラディン「……モウ……タベラレナ……グゴゴ……」

パラディン「はむっ、はむっ、はむむ……!」


パラディン「おかわりっ!」


メディック「先輩、めっ!」ベシ


パラディン「なっ、なんでよ!何日かぶりのマトモな朝餉なのに……」ガーン


メディック「もうそれで四杯めなんですよ!?宿屋を潰す気ですか!?」


宿屋の子「あはは……大丈夫ですよ、シロさん。ご飯はまだまだありますから!」


パラディン「ありがとうっ!」


パラディン「レッドくんのお料理がおいしいから、ついつい匙が進んじゃうんだよね」


メディック「調子のいいことを……それで最後にして下さいよ」


メディック「……それにしても」


メディック「すごいよレッドくん。その年齢で、一人で宿屋を切り盛りしているなんて」


宿屋の子「大したこと無いですよ、こんなへんぴな民宿。泊まっているお客さんも、あなたがた以外には数人だけですし……」


パラディン「確かに、わたしも見つけられなかったくらいだからね」モグモグ


宿屋の子「それに、俺にはピカチュウがいますから。アイツ結構賢くて、今も買い出しとか手伝ってくれてるんです」


パラディン「あはは!じゃあ、もしかしたらわたし達、ピッカちゃんにまんまと誘われて来たのかもね!」


メディック「分かってるとは思うけど……私たち、あの迷宮の攻略に来たんだ」


メディック「結構長い間お世話になるから、よろしくね」スッ


宿屋の子「ええ、こちらこそ」アクシュ


メディック(…………。)


メディック(……まだ10歳くらいのはずなのに、ゴツゴツして乾いた手だ……)


パラディン「というわけで、おかわり宜しく!」


メディック「スタードロップ」ポコ


パラディン「ぎゃん!」

???



ナイトシーカー「…………!」


ゾディアック「おやおや、なにやら騒がしい気配」


ゾディアック「久方ぶりに、私たちの他に客が現れたらしいですね」


ナイトシーカー「…………」


ナイトシーカー「…………、………………」ヒソヒソ


ゾディアック「何?」


ゾディアック「二度寝する?」


ナイトシーカー「……」コクリ


ナイトシーカー「…………」zzz…


ゾディアック「そうですね……。昨日も遅かった事ですし……」


ゾディアック「どれ、私ももう一眠り…………すぅ……」

AM10:00
狭間の街「ポケラタリア」
セントラルパーク ▼



ポケラタリアの街並みの景観は、先述した通りだ。
白い壁や石畳、絡みつく緑のツタが、まるでお伽話の世界のような、暖かい雰囲気を作っている。
……しかし、その中で異彩を放つ、この荘厳な建物は……


パラディン「これが、執政議事堂……。ポケラタリアのもう一つの顔ってわけだね」


メディック「ええ。何しろ、元々が急ごしらえのベースキャンプですからね」


メディック「街として発展させるには、ギルドの他に政治の中心となる施設が必要だったのでしょう」


パラディン「なるほど。街の人たちが寄り合って建てたから『議事堂』なんだね」


メディック(木造のギルドの隣に鎮座する、灰色の石の城)


メディック(すごい威圧感を感じる……)


パラディン「でも、執政院かぁ……」


メディック(あれ、先輩が珍しくゲンナリしている)


パラディン「執政院にはいい思い出がないよ……。ヴィスルのじーさんには散々こき使われたから……」

パラディン「わたし達が迷宮の奥に進むほど、なぜか不機嫌になるし……」


メディック「……先輩、ダメですそんな調子じゃ。らしくないですよ」


メディック「何事もはじめが肝心です。せっかくの新天地なんですから、元気よくいきましょう」


パラディン「うーん……でも、お役所しごとは苦手なんだよぅ……」


行商人「ケンタロス!荷車を頼むぞ!」


ケンタロス「ブルモオッ!」ガラガラガラ…


行商人「搾りたて、モーモーミルクはいかがですかぁ……!」


パラディン「うわぁ、美味しそうな牛乳!買いまゴフゥ」


メディック「さっきたらふく食べたでしょうが」


ガシ


メディック「さ、現実逃避してないで行きますよ先輩」ズルズル


パラディン「あーん待ってぇ……わたしのモーモーミルク……」

AM10:00
執政議事堂「サルマン」
エントランス ▼



両開きの扉を開けるとすぐ、隙間から暖かい空気と人々の声が漏れ出してくる。
シャンデリアの下、腕を広げる余裕はない密度で、冒険者たちが集まっていた。
同じギルドの者同士、4、5人ほどで語らいながら、順番待ちの列に並んでいるようだ。


メディック「見た事のない格好の人がたくさん……!」


パラディン「ウォリアー、ファランクス、フォートレス……。みんな、エトリアとは別の街からやってきたんだろうね」


メディック「……何でそんなに他の地域の職のこと知ってるんですか?」


パラディン「ま、昔いろいろとねー」


メディック「まーたはぐらかしおって……」ジト


メディック「そろそろ教えてくれたっていいじゃないですか、昔の先輩のこと。もう長い付き合いなんですから……」


パラディン「何度も言ってるでしょ?それはシロちゃんが一人前の冒険者になってからだって」


メディック「…………けち」


パラディン「ケチでけっこう」

パラディン「さっさと並んでさっさと終わらせよ?」


メディック「はいはい……。言われなくてもそうします」


ガヤガヤ


受付「次のギルドの方、前へどうぞー」


メディック(うわぁ、結構な長蛇の列だ。どれくらい待つのかな……)


パラディン「ひまだね。しりとりでもしよっか」


メディック「そんなことをするなら、装備品の点検でもしてて下さいよ。依頼を貰ったらすぐ出発するんですから」


パラディン「スノードリフト!」


メディック「トライパンプキン」ピシャリ


パラディン「即答!?」


パラディン「って、それアーモロードに生息する怪物じゃ……」


メディック「私は本で勉強してるんです。先輩と違って、余裕のある立場じゃないので」


パラディン「むぅ……」


受付「次のギルドの方、前へどうぞー」

執政院受付の少女「ああ、エトリアからの『例のお二人』ですね!」


メディック「例の?」


執政院受付の少女「はい、上から伺っています!」


執政院受付の少女「エイパム、あれ持ってきて!」


エイパム「ウキャー」ペタペタペタペタ


ヒョイ


エイパム「ウイ」スッ


パラディン「ありがとう!」ヒョイ


メディック(尻尾で書類を……。なんて器用な猿)


執政院受付の少女「腕利きの冒険者とのことですので、この依頼を!」


パラディン「えーと、何々……」


パラディン「迷宮第一階層の隅々までの探索……?」

執政院受付の少女「はい、第一階層です」


執政院受付の少女「緑の樹々が茂る樹海の迷宮……。その正確な地図が今回の依頼の品です」


パラディン「エトリアの第一層とあんまり変わらなさそうだね」


メディック「一度浅い層で慣れておけ……ってことでしょうか」


執政院受付の少女「そうですね。そういう意図もあると思います」


パラディン「『も』……ってことは、別の意図もあるのかな?」


執政院受付の少女「はい。詳しくは存じ上げないのですが、この依頼は必ずあなた方に渡すようにと……」


パラディン「…………」


メディック(地図の作成は、比較的ベテランの冒険者に任せられることが多い案件のひとつだ。新米冒険者の憧れでもある)


メディック(でも……)


パラディン「ねぇ、攻略が始まってからもう20年は経ってるってきいたよ。まだ地図ができていないっていうのは、流石に遅すぎやしない?」


執政院受付の少女「ええっと……」


???「それは俺から説明するぜ」ジャラッ


メディック「!」

メディック(執政院のハズなのに、随分と派手な人が出てきた)


メディック(黒い装束に、金色でトゲトゲの防具……冒険者だろうか……)


???「よっ。例のコンビってお前らだよな?」


メディック「え、ええまあ……」


メディック(っていうか何なんですかその『例の』って……)


???「…………ふむふむ」ズイ


???「80点ってところかな」


メディック「……へ?」キョトン


???「いや、何でもない。今のは忘れてくれ」


執政院受付の少女「アドルフさん!ここは執政院です!」


執政院受付の少女「合コンじゃないんですからねっ!」


アドルフ「おう、悪い悪い」ポンポン


執政院受付の少女「っ……!///そういうところですよ!」


メディック(なんだこの人)

試射

執政院受付の少女「紹介します、ギルドマスターのアドルフさんです」


アドルフ「おう、よろしく冒険者!」


メディック(長い黒髪を束ねた大柄な人だ。装備品が詰まっているのか、動くたびにロングコートの下からジャラジャラと音がする)


アドルフ「ここって色々特殊な街だろ?もう慣れた?」


メディック「え、ええ」


アドルフ「そりゃよかった。人とポケモンが協力して、何年もかけて作り上げたんだ。気に入ってくれると嬉しいぜ」


パラディン「おう!とっても気に入ったよ!」


アドルフ「……94点だな、合格!」


パラディン「やったぁ!」


メディック(だから、何が?)


メディック(しかもちょっと負けてるし……)


執政院受付の少女「…………コホン」


ジト


アドルフ「おう、わかったわかった……」

パラディン「まぁ、確かに特殊な街ではあるよね。ギルドマスターが5人いたり、施薬院がなかったりとか」


メディック「世界樹の生物が……ポケモンがこうして街中にいるのも、なんだか変な感覚ですね」


エイパム「ウキ?」


アドルフ「ああ……そうだな、ソイツに関してだけは慣れない方がいいかもな」


アドルフ「この街は慢性的な冒険者不足なんだよ。この街で暮らすのが長くなると、ポケモンに情がうつっちまうからな」


アドルフ「それに、外から来たヤツらにも、勘違いしている連中はいる……。そういうヤツらから消えていっちまうのさ」


パラディン「勘違いって?」


アドルフ「ま、それは行けばわかることさ。それより本題だ」

試射

アドルフ「単刀直入に言うぜ」


アドルフ「第一階層に新種のFOEが出た」


パラディン「…………!」


メディック(FOE……。生態系の一部でありながら地図に脅威として記載される、特級の危険生物だ)


メディック(迷宮の地図が書き変わるのは、FOEによるところが大きい。新手が出れば、その都度、安全な経路を新しく確保する必要が出てくるからだ)


アドルフ「エトリアのギルド長……ガンリュウさんには、昔散々世話になった。その人が、2人を推薦したんだ」


アドルフ「その実力を勝って、ギルドから正式に依頼したい」


パラディン「……でも、『新手が出る』って相当なコトだよ。『増えた』とか『減った』なら分かるんだけど」


アドルフ「ああ。依頼には、その原因の調査も含まれている」


アドルフ「ポケモンの『進化』の話は、エイリークの野郎に聞いたろ?」

パラディン「しんか……深海の殺戮者……?」ウッアタマガ


メディック「先輩は話聞いてなかったでしょうが」


メディック「ええと……確か、戦いの経験を積んだポケモンが、突然変異的に姿を変えるとか……」


アドルフ「ああ。『槍のはしら』のFOEには、同じ階層のポケモンの『進化形』ってヤツが多い。今回もそのパターンだろうと踏んでいる」


メディック「踏んでいる?……確定ではない、ということですか?」


アドルフ「……実は、まだ姿が捕捉できてねぇんだ」


メディック「!?」


パラディン「ど、どういうこと?」


アドルフ「これは少し前からそうなんだが……第一階層に行った冒険者のパーティが、次々に姿を消している」


アドルフ「装備の細かい破片だけを遺して……な」

アドルフ「……」チラッ


アドルフ「」コクリ


パラディン メディック「」コクリ


執政院受付の少女「…………?」


アドルフ「……ま、そういうことだ。あくまでギルドが依頼するのは地図の作成まで」


アドルフ「慎重な探索を頼む。ヤバそうになったら帰還してくれよ」


メディック「ええ、分かっています」


アドルフ「ああ、それとお前さん」


パラディン「わたし?」


アドルフ「…………」ヒソヒソ


パラディン「……わかった。そうします」


アドルフ「……じゃ、俺はこれで!」


ジャラジャラ……


メディック「……行っちゃった」


アラ、アドルフサーン!


ヨカッタラ、ワタシタチトオチャデモ……


パラディン「あ、絡まれてる」


執政院受付の少女「はぁ……」

執政院受付の少女「……あの人、ギルドと執政院の橋渡しみたいな存在なんです。口が上手くて、耳が早いからだとか」


メディック「ああ、だからここにいたのか……」


パラディン「よく仕事で一緒になるの?」


執政院受付の少女「ええ。情報伝達が円滑なのは結構なことなんですけど……いつもあの調子で」


アドルフ「おいおい、困ったぜ。これからまた仕事なんだけどよ……」


アドルフ「カワイ子ちゃんのお誘いを無下にはできねぇからなぁ……?」


キャーーー!!


執政院受付の少女「無駄にコミュニケーションスキルが高いばっかりに……」グシャア


メディック(えっ、待ってそれ書類……)


執政院受付の少女「おまけに顔もいいし……『今日の君は100点満点の美しさ』とか……」イライラ


執政院受付の少女「パラディンさんも気をつけて下さいね!何を言われたんだか知りませんけど、どうせ下心あってのことでしょうから!」


パラディン「好きなの?」


執政院受付の少女「…………っ!!//////」ポン


執政院受付の少女「だっ誰があんなイイカゲンな男に!キライですあんな人っ!//////」


メディック(……自白した……)


パラディン(……うわぁ……w)

AM11:20
狭間の街「ポケラタリア」
セントラルパーク ▼


アドルフ(本当は、今日は議長……スレイマンの野郎に話があったんだがな……)


アドルフ(アイツ、やっぱり留守だった。俺が直々に伝令しに行ってやってるのに……)


アドルフ(最近は変な冒険者が執政院に出入りしてるって話も聞くしな。キナ臭い野郎だぜ)


アドルフ(まぁ、ヤツの不在のおかげで、あの娘との仕事が増えたりはしてるんだが……)


冒険者女子A「アドルフさん、はやくー!」


冒険者女子B「カフェ、満席になっちゃいますよー!」ノシ


アドルフ「ああ!すぐ行くぜ!」ジャラッ


アドルフ(……スレイマン……留守の時、ヤツは大抵『槍のはしら』の調査に行っている)


アドルフ(午後からは、俺も向かうとするか……。あの二人に会うこともあるかもな……)

試射

PM12:00
槍のはしら
入口 ▼


パラディン「リーフちゃんはああ言ってたけどさ」


メディック「え、誰ですかリーフちゃんって」


パラディン「ほら、執政院の受付の」


メディック「ああ、あのコか……」


メディック(名前なんていつの間に聞いたんだろ……)


パラディン「リーフちゃんはああ言ってたけど、アドルフさんはいい人だよね」


パラディン「樹海で死んだ人間は全身くまなく養分になり、あとに残るのは装備だけ……」


パラディン「なんて、ふつうの女の子の前で話せる内容じゃないもん。その辺りはちゃんと気遣える人なんだね」


メディック「そういえば先輩、アドルフさんは何を耳打ちされてたんですか?」


パラディン「ああ、それは……」

アドルフ『今回に限らず、こういうヤベぇ件は出来るだけ内密に頼む』


アドルフ『もう知ってるだろうが……世界樹の怪物とちがって、ポケモンは街の方にも出てくることがあるんだ』


アドルフ『一般人やルーキーには刺激が強すぎる情報だからな』

パラディン「樹海に遺された装備品はしばらく放置された後、生物に持っていかれたり、ほかの冒険者がネコババしたり……。それがふつう」


パラディン「破片がちらばってるならともかく、切れ端だけが残ってるなんて異常そのものだよ」


メディック「そうですね。気を引き締めて行きましょう」


パラディン「あ、あと、私たち以外にも任せてあるから気楽にやってくれってさ」


メディック「……アドルフさん、ああ見えて凄くしっかりした人なんですね」


メディック「少しでも『軽薄そう』なんて思ってた事、謝らないといけないですね……」


メディック「……それで先輩、そのメモは?」


午後9時
レストラン「りゅうのあぎと」ニテ、待ツ
アドルフ


パラディン「まぁ、助言ついでにお食事に誘われちゃったりもしたんだけどね」


メディック「ええ……」


衛兵「『槍のはしら』入口はこちらでーす!」

丘の上、露出した地面に立つ塔の迷宮。
反り立つ姿は見上げれば見上げるほど高く、今にも押しつぶされそうな錯覚を受ける。
青みがかった無機質な壁面には所々ヒビが入っており、
中でも一際大きな亀裂が、出入り口の代わりになっているようだ。


メディック「あれ、どうしてここに衛兵さんが?」


衛兵「外へ出ていくポケモンの記録をつけているのですよ」


衛兵「高い飛行能力を持つものや、ごく小さいものなどは、容易く街に入っていきますからね。街の人たちに危険が及ぶような事があったら大変ですから」


衛兵「まぁ、最近はめっきり見なくなりましたがね」


パラディン「なるほど。お勤めご苦労様です!」ビシ

衛兵「では、お決まりの確認をさせて頂きます」


衛兵「道具の準備は?」


パラディン「オイル、メディカ、手帳、糸!全部もったよ!」


衛兵「装備品の手入れは?」


メディック「ヒビ、キズ、汚れ、腐食なし!」


衛兵「依頼人の秘密は?」


パラディン「墓場まで持っていく!」


衛兵「OKです!さあ、行ってらっしゃい!」


衛兵が横に退くと、亀裂の奥に階段が目に入る。
私たちは一歩一歩、それを登ってゆく。
胸の鼓動が早くなるのは、新たな冒険への期待からか。それとも……

PM12:20
槍のはしら
第一階層
1F ▼


階段を上り、暗く長い空洞を抜けて。
その先に広がっていたのは、目が覚めるような深緑だった。
樹々の密集。所狭しと占領する草花。
そして、いきものの蠢く濃密な気配。
エトリアの一層にも近い雰囲気に、ここはまごう事なき「樹海」なのだと思い知らされる。


メディック(街を囲む鉄の城壁……あれを見た時から思っていた事だけど)


メディック(もしかしなくても、この先には危険な生物が……あそこまでの防衛設備を設けるほどの危険なポケモンがいるんだよね)


メディック「…………」


パラディン「シロちゃん」


メディック「……はい」


パラディン「大丈夫、わたしがついてるから。ね?」


メディック「…………はい」


パラディン「よし!じゃ、行こう!」


二人、離れないように。
手帳をペンを構えて、私たちは歩き出した。

試射

PM12:20
槍のはしら
第一階層
4F ▽



草の根を掻き分けて駆ける音がふたつ。
こちらに近づくそれを聴きながら、緑の中にじっと身を潜める。
引き付けて、ひきつけて……


ペルシアン「シャアーーッ!」ザシュッ


シノビ『また首をっ……かはぁっ!』


ドサッ


シュボッ


シノビ「ちっ、また分身が一体やられた……!」


シノビ「おい近視眼!瘴気の効果はまだか!」


ああもう煩いなぁ!位置がバレるじゃないスか!


ペルシアン「シャア!!」


スパッ


シノビ「う……くっ……!」ポタポタ


あーあー言わんこっちゃない。本体バレてんじゃないスか。
でも、もうちょっとだけ耐えてくださいっスよ。もうちょっとで……


ペルシアン「ニャァ……!」


シノビ「…………っ」


ペルシアン「…………」フラッ


ペルシアン「ッニャ……?」クラクラ


シノビ「……!」


よし!ようやく効果が出てきたらしいっスね!


リーパー「今っス!交代です、忍者さん!」


シノビ「あ、ああ!」


避けタンクが時間を稼ぎ、弱らせたところを……


リーパー「デスサイズカット!!」


ブォン


ズグシャァッ

試射

ポケラタリア生態図鑑 53/208


ペルシアン
白い体毛のヤマネコ。「ニャース」の進化系。
しなやかな四肢を持ち、地形に依らない高い俊敏性を持つ。
前足のツメは威力が高く、素早い動きで的確に首を狙ってくる。
耐久力はさほどでもないが、攻撃を当てるのは慣れない者には難しい。

リーパー「ふぃー……っ」


リーパー「へへっ!どんなもんスか……!」


シノビ「…………」


あ、ども! 新人のリーパーっス!
見ましたか!? 今! ボクがペルシアンをぶっ倒したところを!
ペルシアンと言えば、槍のはしら第一階層の関門! 幾多の冒険者を葬ってきた恐怖のヤマネコっスよ!


具体的にはアーモロードのオオヤマネコさんを想像して頂くと分かりやすいっス。


シノビ「信じられん。あんな化け物が本当に倒せたのか……。前回来た時には、半殺しの目に遭ったというのに……」


リーパー「いやー、長く苦しい戦いでしたねぇ」


シノビ「お前は殆ど隠れてただけだろうが」


リーパー「でも、倒せたのはボクの瘴気と鎌の一撃のおかげっスよね?」


シノビ「……まぁ、な。正直ここまでの戦果が挙げられるとは思っていなかった……」


このボロボロの忍者さんは、ボクの同郷っス。
『幼なじみと一緒のギルドとか恥ずかしい』って無駄な意地張って、一人で探索に行って……見事に返り討ちにされて。


リーパー「いわば落ち武者っスね」


シノビ「誰が落ち武者だ」

リーパー「でも、怪我が治って早々泣きついてきたのはそっちの方っスよね?」


シノビ「……泣きついたつもりはない。お前がヒト様のギルドでキチンとやっていけるのか不安になったから、組むことを持ちかけただけだ」


リーパー「はん!自分のジョブの特性も理解してないヒトに心配されたくないっスよ!」


リーパー「どうせ『後衛職最高火力!』とか『隠密スキルで攻撃を回避!』とか、安い売り文句に踊らされたんでしょ?」


グサッ


リーパー「遠距離でも火力が出せるのは、熟練の技巧があっての事っスよ。新人にはとても…………あ、『まさか痛いのが嫌だから回避に徹しよう』なんて考えじゃないっスよね?」


グサッ グサッ


リーパー「ま、しょーがないっスよね。根が泣き虫の臆病者だから。地元でも散々チキって馬鹿にされて」


リーパー「それがイキナリ『冒険者になる』なんて言い出して、髪型もトゲトゲに変えたりして……」


シノビ「う……煩い!うるさい!」ジワッ


あ、化けの皮が剥がれたっスね。
忍者さんは歳上のくせにヘタレで困るっス。そのくせ、『皆を見返してやるんだ』とかなんとか……


シノビ「影が薄いからいけると思ったんだよ!悪かったなヘタレで!」


シノビ「…………どうせ俺なんて、死体処理しか能がないんだ」ザシュザシュ


リーパー「あーあ。いじけちゃった」

シノビ「依頼の品、『赤眼の宝珠』……額のこれがそうか」ザシュザシュ


ペルシアン「」カクン


シノビ「ひえっ」


リーパー「さ、忍者さん。軽く手当てしたら次の依頼に行くっスよー」


リーパー「次は七色の花『月桂冠』の採集……簡単そうなヤツっスね」


シノビ「ええ……まだあるのか……」ヨロ……


シノビ「今日はもうこれで3つ目だぞ?戦闘無しとは言え……」


リーパー「疲れたとは言わせないっスよ。冒険者として稼ぐなら、依頼2、3個のかけもちくらいは当然っスからね!」


シノビ「うう……なんで俺はこんな羽目に……大人しく漁師を継いでいれば……っ」


リーパー「ああもう、グズるのは禁止っス!」


ガシッ


リーパー「往くぞ、南へ!」


シノビ「あーれー……」ズルズル


地図からして……花園まではそんなに距離は無さそうっスね。
狩り尽くされたのか、最近は第一階層のポケモンはめっきり減ってきましたし。すぐに着けそうっスよ。
……糸があればすぐ帰れるんスから、そんな飢えた子犬みたいな目で見ないで欲しいっス……。

試射

PM14:00
槍のはしら
第一階層
2F ▼


白いキャンバスの上というのは、全てを内包する抽象の海のようなもの。その上に線を乗せ、具体を削り出すのが人間の技。
これは古い画家の遺した言葉だが、冒険者の描く地図も同じようなものだろう。
未知という闇の蠢く白いキャンバスに、実際に得た知識で補完し、迷宮の形を照らし出してゆく。


メディック「……よし。これでおしまいっと」シュッ


パラディン「綺麗な地図だねぇ……。いよっ!地図マスタリー!」


メディック「ありがとうございます」


メディック「鍛えられましたからね。誰かさんのおかげで」


パラディン「次、私に描かせてよ!ね、いいでしょ?」


メディック「……ダメです」


パラディン「ええー!何で!?」


メディック(私の地図描きの腕を鍛えてくれた人……)


メディック(そう……あなたのことですよ先輩)

メディック(冒険者の地図が、夜に足元を照らすランタンであったとするならば……)


メディック(先輩の描く地図は、謂わばブラックホールです)


メディック(輪郭がぐちゃぐちゃな事、方角が統一されていない事などはまだまだ序の口)


メディック(足元に穴があろうと塗りつぶし、荊棘が群生していようと表記せず、一方通行の抜け穴でも、まるでそこに道が有るかのように……)


メディック(果てはFOEと磁軸と採集ポイントを同じ記号で記す始末……!何度死にかけても治らない悪癖……!)


メディック「……思い出したら頭痛くなってきました」


パラディン「大丈夫、シロちゃん?代わろうか?」


メディック「結構です」キッパリ


パラディン「けーちー……」シュン……

PM14:10
槍のはしら
第一階層
3F ▼



何故か存在している階段を登り、私たちは3階にたどり着く。
樹海はいよいよ鬱蒼として、植物たちもシダやらヤシやら、葉の鋭いものが増えてきた。
それも、2階まであったツタの垂れ下がる枝や、皮の分厚い広葉樹と混じって……。
種々が雑然と、混沌としていた。


メディック「……ほら、先輩は、ポケモンが現れた時に、真っ先に気付かないといけないですから……」


メディック「こう視界が悪いと、先輩の勘と嗅覚が頼りなわけですし」


パラディン「むぅ……まぁそうだけどさ……」


メディック(未知の場所、未知の敵からの奇襲はすなわち死を意味する)


メディック(そのリスクを避けるために、少人数で気配を消すか、大人数で固めるかはギルドによるけれど……私たちは前者だ)


メディック(戦闘そのものの回数を減らせるけど、もし奇襲されたら一瞬で終わり)


メディック「とにかく、ここも急いで済ませて……」


パラディン「…………!」


メディック「? 先輩?」


パラディン「シロちゃん、伏せて。一旦茂みに隠れるよ」ヒソヒソ


メディック「……はい」コクリ

パラディン「あれ、見て」


メディック(先輩が指差す先には……)


メディック「……!」


繚乱の角鹿「メブロロロ……」


メディック(鹿だ!鹿がいる……!!)


パラディン「『狂える角鹿』……ってわけじゃ無さそうだけど。ツノに花が咲いてる、大きな鹿……」


ギュッ……


パラディン「…………」


メディック「ベッ……ベツニコワクナンカ……ナイデス」ガチガチ


パラディン「訊いてないけど……」

パラディン「おお、よしよし……」ナデナデ


メディック「平気です……平気、デス……」


パラディン「それはちょっとムリがあるかなぁ」


メディック「…………」


メディック「………………ごめんなさい……」


パラディン「……大丈夫、気にすることないよ。見たところ、相手は充分にFOE級生物。怖いのは当たり前だし」


パラディン「それに……こういうトラウマって、なかなか消えないもんね」


メディック「…………はい」


パラディン「…………」


パラディン「よし。じゃ、行ってくる」スック


パラディン「ちょっと待っててね、シロちゃん。すぐに終わらせるから」

ポケラタリア生態図鑑 195/208
繚乱の角鹿
FOE級生物「メブキジカ」の別称であり、「シキジカ」の進化系。
植物に近い性質の巨大な角を持つ。角は常に開花時期。
突進や蹴りの威力もさることながら、ポケモンに特有の「変則的な性質を持つ」角により、奇襲性に富んだ攻撃を仕掛ける。
多くの場合、第一階層を攻略する冒険者に立ち塞がる、2体目のFOEである。

試射

パラディン『大丈夫?お嬢さん』


パラディン『ちょっと待っててね……すぐに終わらせるから』


今でも思い出すことがある。
私はまだほんの子供で、一人で歩くことすらままならなかった。
何もできず、腹を抑えて蹲る私。
見上げた甲冑の背中は、ただただ大きくて。


パラディン『……デスカウンター!!』


メキョォッ……!


繚乱の角鹿「メブキィィッ!?」


その盾が今、突き立てられた角を砕いた。


パラディン(鹿……鹿かあ……)


パラディン(フフッ……思い出すなぁ、シロちゃんとはじめて会った時のこと。あの頃はまだ素直で可愛かったのになー……)


繚乱の角鹿「メブロロロ……!?」


ザッ……ザッ……


パラディン(……さーて)


パラディン「折るよ、もう一本」ガシャッ

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