魔法使い「それで?」
AI「それで、とは?」
魔法使い「わたしは名乗ったんだから」
魔法使い「あなたも名乗るのがスジでしょうよ」
AI「これは失礼しました」
AI「私は惑星『k-17r』の統合管理用AIです」
AI「識別名は設定されておりません」
魔法使い「ふーん、よくわかんないけど……」
魔法使い「えあいさん? で、いいの?」
AI「よくはないですが」
魔法使い「違うの? まあいいや、いいってことにするの」
AI「そうですか」
魔法使い「それでさ……一つ、聞きたいんだけど」
AI「何でしょう?」
魔法使い「この世界、滅んじゃったの?」
AI「いいえ?」
魔法使い「……あら、違うんだ」
AI「ええ。貴女の中における「滅ぶ」という言葉の定義や、この世界、という言葉が何を指すかにもよりますが」
AI「一般的には、滅んだ、という言葉は相応しくはないでしょうね」
魔法使い「ふうん?」
魔法使い「じゃあ、何で……見渡す限り、ここには何も残ってないわけ?」
AI「その質問に答えるには、いくつか順を追って回答しなければなりませんね」
魔法使い「言ってみなさいよ、手短に」
AI「この惑星はゴミ捨て場なので、最初から滅ぶほどのものがありません」
魔法使い「あら簡潔」
AI「ご理解いただけましたか?」
魔法使い「まぁ、なんとなくはね」
魔法使い「でも次の質問もできたわ。『惑星』ってのが何かと、なんでわたしはゴミ捨て場で寝てたのか」
魔法使い「あと、そこらへんに転がってる妙な形をしたゴミの山が何なのか」
魔法使い「それと、あんたが結局何なのか、とかね?」
AI「なるほど」
AI「それでは効率化のために、初等教育用の学習資料を使用してもよろしいでしょうか?」
魔法使い「よくわからないけどなんか今、バカにされた気がするわ」
――――
AI「……以上が、初等教育の範疇における歴史と現代文明の概要になります」
魔法使い「んー、なるほどなるほど……」
AI「ご理解いただけましたか?」
魔法使い「いやまぁ、そうね。わたしは天才だしね」
魔法使い「わかってやらなくもないのよ」
AI「それは何より」
魔法使い「ただまぁ、酷い話ね」
AI「そうですね」
魔法使い「あんたの話が本当なら……わたしは短くても、千年以上も寝てたことになるじゃない」
AI「睡眠とは何か? 哲学の一派が生まれそうな問いですね」
魔法使い「あんた、ホントに信じてる?」
AI「いえ、私は現実的に鑑みて、あなたは重度の精神混濁患者か」
AI「あるいはコールドスリープ後の一時的な失見当識にあるものと考えています」
AI「ですが、あなたの空想を否定することは、私に設定されたタスクには含まれておりませんので」
魔法使い「えーあいってのは、要するに意思のある道具なのよね」
魔法使い「あんたの仕事って何なの?」
AI「指定廃棄天体である惑星『k-17r』の管理。言い換えれば、ゴミ捨て場の管理です」
魔法使い「それには、寝起きのわたしと話すことも含まれるわけ?」
AI「はい。この惑星に廃棄されるゴミは、無機物や有機物、そして人間か否かを問いませんから」
AI「ゴミとの対話もまた、私のタスクの一環と言えます」
魔法使い「ふーん、わたしはゴミってわけだ」
AI「正確には、あなたは正体不明の構造体に封入された状態で他の投棄物に混じって輸送され」
AI「この惑星に廃棄された後に構造体が崩壊、内側から現れたと記録が残っています」
AI「よって、ゴミから現れたのがあなたですね」
AI「ですが罪人であれ何であれ、この惑星上に存在するすべてのものはゴミに分類されます」
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